クリープ損傷を受ける金属の余寿命診断方法及び診断装置
【課題】クリープ損傷を受ける金属の余寿命を診断するに際して作業効率を高める。
【解決手段】
金属のレプリカを、撮影対象位置を変えながら複数回顕微鏡撮影することで、複数の画像を取得する画像取得ステップ(S3)と、画像のそれぞれに参照線を描く参照線描画ステップ(S5)と、参照線と交差する粒界の数、及び、参照線と交差するとともにボイドが形成されている粒界の数を取得する粒界数取得ステップ(S6)と、参照線と交差する粒界の数、及び、参照線と交差するとともにボイドが形成されている粒界の数に基づき、Aパラメータ法を用いて金属の余寿命を診断する余寿命診断ステップ(S7,S8)とを有する。
【解決手段】
金属のレプリカを、撮影対象位置を変えながら複数回顕微鏡撮影することで、複数の画像を取得する画像取得ステップ(S3)と、画像のそれぞれに参照線を描く参照線描画ステップ(S5)と、参照線と交差する粒界の数、及び、参照線と交差するとともにボイドが形成されている粒界の数を取得する粒界数取得ステップ(S6)と、参照線と交差する粒界の数、及び、参照線と交差するとともにボイドが形成されている粒界の数に基づき、Aパラメータ法を用いて金属の余寿命を診断する余寿命診断ステップ(S7,S8)とを有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリープ損傷を受ける金属の余寿命診断方法及び診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発電施設が有するボイラーやタービンといったプラント機器では、動力用蒸気などの高温高圧流体が扱われている。年単位の長時間に亘って使用されると、ボイラーやタービンを構成する金属(例えばクロムモリブデン鋼やステンレス鋼)には、クリープ損傷などの経年劣化損傷が生じる。過度な損傷は機器の破損につながるため、プラント機器を長期間に亘って安全に使用するには、金属の余寿命を診断して適切な時期にメンテナンスを行うことが求められる。
【0003】
ここで、メンテナンスサイクルを短く設定すると安全率が高まるものの、メンテナンス回数が増えるのでコストが嵩んでしまう。反対に、メンテナンスサイクルを長く設定すると、メンテナンス回数が減ってコストを抑制できるものの、安全率が低くなってしまう。このため、余寿命の診断精度を向上させ、メンテナンスサイクルを適切に定めることが重要になっている。
【0004】
診断精度を向上させるため、種々の余寿命診断方法が開発されている。その診断手法の一つにAパラメータ法がある。Aパラメータ法は非破壊診断方法の一種であり、クリープボイドが生じた粒界(クリープボイド発生粒界)の数と観察粒界の総数との比率を指標として余寿命を求める方法である。以下に示す特許文献には、Aパラメータ法を用いた診断方法が開示されている。
【0005】
例えば、特許文献1,2には、クリープ損傷の進行度合いをAパラメータによって評価する技術が開示されている。また、特許文献3には、犠牲型センサのクリープ損傷の進行度合いをAパラメータによって評価する技術が開示されている。
【0006】
Aパラメータ法では、クリープボイド発生粒界数と観察粒界総数との比率を指標にしているので、クリープボイド発生粒界を識別する必要がある。このクリープボイド発生粒界を識別するため、参照線が広く用いられている。ここで、参照線とは、診断対象となる金属に作用する応力方向に描かれた直線であり、顕微鏡で撮影された画像から観察粒界を抽出するために用いられる。すなわち、画像に参照線を描き、参照線と交差した粒界を観察粒界としている。
【0007】
ここで、画像の撮影倍率は、粒界が識別できる程度まで拡大する必要がある。このため、1枚の画像に映し出される粒界の数は、Aパラメータ法による評価で必要とされる粒界総数よりもかなり少ない。そこで、Aパラメータ法を行うに際しては、顕微鏡で撮影された画像を敷き詰めてつなぎ合わせ(タイリング)、必要とされる観察範囲を1枚の画像にすることが行われている。なお、前述の特許文献1,3でも参照線が用いられているが、必要な観察粒界数が1枚の画像から得られていることからすれば、タイリングが行われた後の画像に参照線を描いていると解される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−14600号公報
【特許文献2】特開2008−209344号公報
【特許文献3】特開2003−106947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述した画像のタイリングは、多くの画像を位置精度良くつなぎ合わせる必要があり、作業に手間と熟練を要する。このため、多大な時間を必要とし、作業効率が損なわれてしまうといった問題点がある。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、画像のタイリング作業をなくして作業効率を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するため、本発明は、クリープ損傷を受ける金属の余寿命を診断する方法であって、前記金属のレプリカを、撮影対象位置を変えながら複数回顕微鏡撮影することで、複数の画像を取得する画像取得ステップと、前記画像のそれぞれに参照線を描く参照線描画ステップと、前記参照線と交差する粒界の数、及び、前記参照線と交差するとともにボイドが形成されている粒界の数を取得する粒界数取得ステップと、前記参照線と交差する粒界の数、及び、前記参照線と交差するとともにボイドが形成されている粒界の数に基づき、Aパラメータ法を用いて前記金属の余寿命を診断する余寿命診断ステップとを有することを特徴とする。この発明によれば、参照線描画ステップにおいて画像のそれぞれに参照線を描いているので、タイリングを行わずに済み、作業効率を高めることができる。
【0012】
前述の余寿命診断方法において、前記参照線描画ステップでは、応力方向と推定される方向に前記参照線を描くことが好ましい。これにより、余寿命の推定精度を高めることができる。
【0013】
前述の余寿命診断方法において、前記画像取得ステップでは、隣接する画像と縁の部分を重複させた状態で、平面方向へマトリクス状に拡がった矩形状の画像を取得し、前記粒界数取得ステップでは、互いに重複した部分を有する複数の画像の1つについて、粒界の数を取得することが好ましい。これにより、重複した部分のそれぞれに属する同一粒界について、別の粒界と判定される不具合を抑制でき、余寿命の推定精度を高めることができる。
【0014】
前述の余寿命診断方法において、前記画像取得ステップでは、隣接する画像と縁の部分を重複させない状態で、矩形状の画像を取得し、前記粒界数取得ステップでは、それぞれの画像について粒界の数を取得することが好ましい。これにより、各画像について診断対象とする範囲と診断対象としない範囲を切り分けずに粒界数の取得を行えば済むので、処理の一層の簡素化が図れる。
【0015】
前述の余寿命診断方法において、前記余寿命診断ステップでは、Aパラメータと金属の余寿命との相関関係を示すマスターカーブを予め取得しておき、前記粒界数取得ステップで得られた粒界数に基づくAパラメータを前記マスターカーブにあてはめることで、前記金属の余寿命を診断することが好ましい。これにより、余寿命を容易に診断することができる。
【0016】
また、本発明は、クリープ損傷を受ける金属の余寿命をコンピュータによって診断する余寿命診断装置であって、前記コンピュータに、前記金属のレプリカを、撮影対象位置を変えながら複数回顕微鏡撮影することで得られた、複数の画像データを取得させる画像取得ステップと、前記画像データのそれぞれに参照線データを描かせる参照線描画ステップと、前記参照線データと交差する粒界画像データの数、及び、前記参照線データと交差するとともにボイド画像データが形成されている粒界画像データの数を取得させる粒界数取得ステップと、前記参照線データと交差する前記粒界画像データの数、及び、前記参照線データと交差するとともに前記ボイド画像データが形成されている前記粒界画像データの数に基づき、Aパラメータ法を用いて前記金属の余寿命を診断させる余寿命診断ステップとを行わせることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、クリープ損傷を受ける金属の余寿命を診断するに際し、顕微鏡で撮影された複数の画像についてタイリングを行わずに済み、作業効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】余寿命診断システムの構成を示す外観図である。
【図2】余寿命診断システムの構成を示すブロック図である。
【図3】余寿命診断手順を説明するフローチャートである。
【図4】マトリクス状に撮影された複数のSEM画像を説明する概念図である。
【図5】重ね合わせた一部のSEM画像を説明する概念図である。
【図6】各SEM画像の重複部分を説明する図である。
【図7】各SEM画像に対して粒界補間やゴミ除去を行った参照線を描いた状態を説明する概念図である。
【図8】参照線付SEM画像を説明する概念図である。
【図9】参照線と粒界の位置関係を説明する概念図である。
【図10】ボイド発生粒界と観察粒界を説明する概念図である。
【図11】マスターカーブの一例を説明する図である。
【図12】複数のSEM画像の他の例を説明する概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について説明する。まず、余寿命診断システムについて説明する。図1に示すように、本実施形態の余寿命診断システム1は、走査型電子顕微鏡2(以下単にSEM2という)と診断用コンピュータ3とを有する。
【0020】
SEM2は、電子線を絞って電子ビームとして測定対象(後述するレプリカ)に照射し、この測定対象から放出される二次電子を検出することで測定対象の画像データを得る装置である。SEM2は、例えば図2に示すように、電子銃21と、磁界レンズ22と、試料ステージ23と、二次電子検出器24とを備えている。
【0021】
電子銃21は電子線を放出する部分であり、例えば熱電子を電位差によって加速させて放出する。磁界レンズ22は電子線を集束させる部分であり、例えば磁界を発生させるコイルを備えている。このコイルに流す電流を調整することで発生される磁界の強さを変えることができ、電子銃21から放出された電子線の集束度合いを調整できる。試料ステージ23は測定対象となる試料(レプリカ)が載置される部分であり、測定対象の向きや高さを調整することができる。これにより、測定対象における所望の位置に電子線を照射することができる。二次電子検出器24は、電子線の照射によって測定対象から放出された二次電子を検出する部分である。検出された二次電子の量に応じた画像信号が診断用コンピュータ3に送信される。
【0022】
診断用コンピュータ3は、SEM2と通信してSEM2の動作制御を行うとともに、SEM2から受信した画像信号からSEM画像を得る装置である。そして、得られたSEM画像に基づいて余寿命診断を行う。診断用コンピュータ3は、例えば図2に示すように、コンピュータ本体31と、表示部32と、入力部33とを有する。
【0023】
コンピュータ本体31は、診断用コンピュータ3による各種制御を行う部分であり、CPU34と、メモリ35と、データ記憶部36とを有している。CPU34は、制御の中心となる部分であり、メモリ35に記憶された動作プログラムに従って動作する。メモリ35は、SRAMやハードディスクといった各種の記憶デバイスによって構成され、動作プログラムを記憶する他、ワークエリアを確保する。データ記憶部36もまた、SRAMやハードディスクといった各種の記憶デバイスによって構成され、各種の画像データや診断用のマスターカーブ(図11を参照)の基となるデータなどが記憶される。表示部32は、SEM画像やSEM2に対する操作画像といった各種の画像を表示する部分であり、例えば液晶ディスプレイによって構成される。入力部33は作業者の各種操作を受け付ける部分であり、例えばキーボード33aやマウス33bによって構成される。
【0024】
この余寿命診断システム1では、SEM2の動作が診断用コンピュータ3を通じて制御される。そして、診断用コンピュータ3では、SEM2から送信された画像信号に基づいてサンプルのSEM画像を取得し、余寿命を診断する。以下、余寿命の診断処理について説明する。
【0025】
図3は、余寿命の診断処理を説明するフローチャートである。この診断処理では、レプリカ採取処理(S1)、SEM観察処理(S2)、観察画像取得処理(S3)、画像調整処理(S4)、参照線描画処理(S5)、粒界・ボイド認識処理(S6)、Aパラメータ算出処理(S7)、及び、余寿命診断評価(S8)を順に行う。以下、各処理について説明する。
【0026】
なお、本実施形態では、ボイラー機器に広く使用されている2.25%Cr−1%Mo鋼といった低合金鋼配管の溶接熱影響部(HAZ部)の余寿命を診断する場合について説明する。
【0027】
レプリカ採取処理(S1)は、測定対象物(本実施形態では鋼管)における損傷が予測される対象部位について、組織をプラスチックフィルムに転写し、測定対象としてのレプリカを採取する処理である。このレプリカ採取処理では、鋼管の診断対象部位をグラインダー等で鏡面に研磨した後にエッチングを行う。次に、プラスチックフィルムを対象部位に張り付けて組織を転写することで、レプリカ(組織が転写されたプラスチックフィルム)を採取する。
【0028】
SEM観察処理(S2)では、採取されたレプリカをSEM2で観察する処理である。このSEM観察処理では、前処理として金などの蒸着処理を行い、レプリカの表面に金などの蒸着膜を形成する。蒸着膜を形成したならば、SEM2による観察を行う。例えば、試料ステージ23の上に蒸着膜が形成されたレプリカを載置し、診断用コンピュータ3を操作してレプリカの表面形状を観察する。
【0029】
この場合において、診断用コンピュータ3は、SEM2から送信された画像信号に基づいてレプリカのSEM画像データを生成し、表示部32に表示させる。作業者は、入力部33を操作することで、粒界が表示部32で視認できるように表示倍率を定める。また、作業者は、入力部33を操作することで試料ステージ23を動作させ、レプリカの観察方向を定める。具体的には、測定対象物としての鋼管に作用する応力方向(具体的には応力方向と推定される方向)が所定方向になるように、レプリカの観察方向を定める。本実施形態では、応力推定方向が表示部32の表示画面において横方向(矩形状画面の下縁と平行な方向)となるように観察方向を定める。
【0030】
観察画像取得処理(S3)では、診断用コンピュータ3が、SEM2で撮影された観察画像に対応する画像データを取得する。例えば、作業者からの入力部33への操作によって撮影が指示されると、診断用コンピュータ3は、生成したSEM画像データをデータ処理部に記憶させる。このとき、診断用コンピュータ3は、SEM2に対して平面方向に対してマトリクス状(行列状)に複数のSEM画像データを撮影させる。これにより、Aパラメータの算出に必要な平面範囲に亘って、複数のSEM画像データが取得される。このSEM画像データは、表示部32での表示画面に対応した横長矩形状範囲の画像データである。このため、表示画像と同様に、横方向が応力推定方向に相当する。
【0031】
なお、本実施形態では、図4に示すように、A列〜G列、及び、第1行〜第6行からなる42枚の画像データGRを取得した場合を例に挙げて説明する。便宜上、以下の説明では、A列第1行のSEM画像データを画像データGR(A1)と、B列第1行のSEM画像データを画像データGR(B1)と表し、以下同様に、G列第6行のSEM画像データを画像データGR(G6)と表す。
【0032】
各画像データGR(A1)〜GR(G6)には、粒界の画像データL、ボイドの画像データV、及び、ゴミの画像データNが含まれている。これらの画像データのうち、粒界の画像データLは、例えば、始点座標と終点座標とを有する直線の画像データとして取得される。また、ボイドの画像データVやゴミの画像データNは、例えば、ボイドやゴミの外周に添った多角形の画像データとして取得される。すなわち、多角形の頂点座標と短い直線の画像データとして取得される。また、図5に一部を示すように、各画像データGR(A1)〜GR(G6)は、隣接する他の画像データGRとの間で、ハッチングで示す縁部分EDのデータを共有している。これにより、Aパラメータの算出に必要とされる平面範囲を隈無く網羅している。
【0033】
そして、この観察画像取得処理は、撮影対象位置を変えながら、レプリカを複数回顕微鏡撮影することで、複数の画像を取得する画像取得ステップに相当する。
【0034】
画像調整処理(S4)では、診断用コンピュータ3が、取得した各画像データGR(A1)〜GR(G6)に対して各種の調整を行う。例えば、図5に示すように、SEM2から得られた画像データGRには、ゴミ画像N1や余分な粒界画像L1が存在する。また、粒界画像L2や粒界画像L3のように、粒界画像同士の間が欠けていたりする。このような画像データGRをそのまま用いて処理を進めると、求められたAパラメータの精度が損なわれ、ひいては余寿命の診断結果にまで影響が及んでしまう。そこで、画像調整処理では、ゴミ画像Nの除去、余分な粒界画像Lの除去、欠けている粒界画像L同士の補間などが行われる。
【0035】
図5の例では、ゴミ画像N1が存在している。このゴミ画像N1は、粒界画像Lの上に位置していないことから、ボイド画像V1,V2とは異なるものとして区別できる。なお、ゴミ画像N1については、形状が細長い場合やボイド画像V1,V2よりも有意に大きい場合にも、ボイド画像V1,V2とは異なるものとして区別できる。また、図5の例では、余分な粒界画像L1が存在する。この粒界画像L1は、その延長線上に対応する粒界画像が存在しない。このため、余分な粒界画像であると判断できる。一方、粒界画像L2については、その延長線上に粒界画像L3が存在するため、粒界画像L2と粒界画像L3とは同じ粒界であるとして、画像を補間することにより1つの粒界として扱うことができる。
【0036】
これらのゴミ除去処理、余分な粒界画像Lの除去処理、及び、粒界画像Lの補間処理を、各画像データGR(A1)〜GR(G6)に対して行うと、図7に示すように、各画像データGRにおいてゴミ画像Nや余分な粒界画像Lが除去され、かつ、欠けた粒界画像L同士が補間される。これにより、診断に適したクリアな画像になる。
【0037】
また、図5に示すように、各画像データGR(A1)〜GR(G6)は、隣接する画像データGRとの間で、ハッチングで示す縁部分EDのデータを共有している。この縁部分ED(重複部分)のデータを複数の画像データGRに割り当ててしまうと、同一の粒界画像Lやボイド画像Vであるにも拘わらず、別の粒界画像Lやボイド画像Vとしてカウントされてしまう虞がある。そこで、画像調整処理では、各画像データGRの縁部分EDについて1つの画像データGRに割り振るようにし、他の画像データGRについては対象外領域として設定している。
【0038】
例えば、図6に示すように、各画像データGRにおける右端部から下端部に亘って倒L状の対象外領域EXを設定する。これにより、画像データGR(A1)、画像データGR(B1)、画像データGR(A2)及び画像データGR(B2)の4つが重なっている重複部分ED1については画像データGR(B2)に割り振られる。また、重複部分ED1から横方向(長辺方向)に延びる重複部分ED2については画像データGR(A2)に割り振られ、重複部分X5から縦方向(短辺方向)に延びる重複部分X7については画像データGR(B1)に割り振られる。その結果、異なる画像データGRに存在する同一の粒界画像Lやボイド画像Vを、重複してカウントしてしまう不具合を防止できる。
【0039】
以上の画像調整処理が終了したならば、参照線描画処理(S5)が行われる。この参照線描画処理において、診断用コンピュータ3は、各画像データGR(A1)〜GR(G6)の所定位置に参照線RLを1本ずつ描画する。具体的には、図8に示すように、各画像データGR(A1)〜GR(G6)における縦方向の中央位置に、横方向の直線RLを描画する。前述したように各画像データGRは横長矩形状であるため、参照線RL(A1)〜RL(G6)は、短辺の中央の位置に長辺と平行に描かれる。そして、各画像データGRの長辺方向は、SEM観察処理(S2)でも説明したように、応力推定方向に相当する。このため、参照線RLは応力推定方向に描かれた直線といえる。
【0040】
なお、各参照線RL(A1)〜RL(G6)の太さは、撮影倍率に応じて定められる。そして、診断用コンピュータ3は、参照線RLに関しても粒界画像L等と同様に、それぞれの画像データGRでの座標値を取得する。本実施形態の参照線RLは粒界画像Lよりも太い直線であるため、四隅の座標と対応する隅同士を結ぶ直線として認識される。
【0041】
各画像データGRに参照線RLが描画されたならば、ボイド・粒界認識処理(S6)が行われる。このボイド・粒界認識処理において、診断用コンピュータ3は、粒界画像Lの情報(始点座標、終点座標、及びこれらの座標を結ぶ直線の情報)と、ボイド画像Vの情報(多角形の頂点座標群、及び隣り合う頂点同士を結ぶ短い直線の情報)と、参照線RLの情報(四隅の座標、及び対応する隅同士を結ぶ直線の情報)とから、粒界画像Lと参照線RLとが交差するか否かを判断する。また、粒界画像Lに関し、ボイド画像Vが重なっているか否かで、ボイド発生粒界の画像か、単なる粒界の画像かを判断する。さらに、参照線RLと交差する粒界画像の数と、ボイド発生粒界画像の数とを、全ての画像データGR(A1)〜GR(G6)について個別に計測する。
【0042】
そして、このボイド・粒界認識処理では、画像調整処理(S4)で設定された対象外領域EXにより、重複部分を1つの画像データGRに担当させている。これにより、異なる画像データGRに存在する同一の粒界画像Lやボイド画像Vを、重複してカウントしてしまう不具合を防止できる。
【0043】
このボイド・粒界認識処理を、図9及び図10に示す4つの画像データGR(A1),GR(A2),GR(B1),GR(B2)で説明する。
【0044】
この場合、画像データGR(A1)については、参照線RL(A1)と交差する粒界画像として粒界画像L11と粒界画像L12が選択され、交差粒界の数は2本と判断される。また、粒界画像L12については、ボイドV1が発生しているボイド発生粒界の画像として認識される。このため、ボイド発生粒界の数は1本と判断される。同様に、画像データGR(A2)については、参照線RL(A2)と交差する粒界画像として粒界画像L13と粒界画像L14と粒界画像L15が選択され、交差粒界の数は3本と判断される。また、粒界画像L14及び粒界画像L15については、ボイドV2が発生しているボイド発生粒界の画像として認識される。このため、ボイド発生粒界の数は2本と判断される。
【0045】
また、画像データGR(B1)については、参照線RL(B1)と交差する粒界画像として粒界画像L16と粒界画像L17と粒界画像L18が選択され、交差粒界の数は3本と判断される。これらの粒界においてボイドが発生しているものはないため、ボイド発生粒界の数は0本と判断される。同様に、画像データGR(B2)については、参照線RL(B2)と交差する粒界画像として粒界画像L19から粒界画像L22が選択され、交差粒界の数は4本と判断される。そして、ボイド発生粒界の数は0本と判断される。
【0046】
このように、各画像データGR(A1)〜GR(G6)について交差粒界の数とボイド発生粒界の数を取得したならば、診断用コンピュータ3は、これらの情報をデータ記憶部36に記憶させる。
【0047】
続くAパラメータ算出処理(S7)において、診断用コンピュータ3は、交差粒界の数とボイド発生粒界の数に基づいてAパラメータを算出する。ここで、Aパラメータは、次式(1)に基づいて算出される。すなわち、ボイド発生粒界数を観察粒界数で除することにより、算出される。
【数1】
【0048】
便宜上、図9及び図10に示す4つの画像データGRで説明すると、画像データGR(A1)において交差粒界の数は2本、ボイド発生粒界の数は1本であり、画像データGR(A2)において交差粒界の数は3本、ボイド発生粒界の数は2本である。また、画像データGR(B1)において交差粒界の数は3本、ボイド発生粒界の数は0本であり、画像データGR(B2)において交差粒界の数は4本、ボイド発生粒界の数は0本である。そうすると、交差粒界の総数は12本、ボイド発生粒界の総数は3本となり、Aパラメータとして0.25が得られる。診断用コンピュータ3は、算出したAパラメータの値をデータ記憶部36に記憶させ、Aパラメータ算出処理を終了する。
【0049】
余寿命診断評価(S8)において、診断用コンピュータ3は、マスターカーブをデータ記憶部36から読み出し、算出したAパラメータの値をあてはめることで、鋼管(金属)のクリープ損傷率(すなわち余寿命)を取得する。ここで、マスターカーブは、例えば図11に示すように、横軸をクリープ損傷率とし、縦軸をAパラメータとした場合の相関関係を示すグラフであり、鋼管のクリープ促進試験によって予め取得されたものである。そして、クリープ損傷率は、鋼管の余寿命を表す指標でもあるので、このマスターカーブは、Aパラメータと鋼管の余寿命との相関関係を示しているといえる。
【0050】
従って、診断用コンピュータ3は、算出したAパラメータの値をマスターカーブにあてはめることで鋼管の余寿命を診断する。そして、余寿命に基づいて交換時期と判断された場合には、その旨を表示部32で表示することで作業者に報知する。また、十分に余寿命がある場合にも、その余寿命を表示部32で表示することで作業者に報知する。
【0051】
この余寿命診断評価が終了すると一連の診断処理が終了し、次のレプリカに対する診断が前述した手順に則って繰り返し行われる。
【0052】
以上説明したように、本実施形態によれば、参照線描画処理(S5)において画像データGRのそれぞれに参照線RLを描画しているので、従来行われていたタイリング(複数画像の結合)を行わずに済む。これにより、短時間で診断結果を得ることができ、診断の作業効率を高めることができる。また、参照線RLの描画や参照線RLに交差する粒界のカウント等が自動化されているので、熟練した作業者でなくとも診断が可能になるし、作業者毎の診断ばらつきを少なくすることもできる。
【0053】
また、観察画像取得処理(S3)では、隣接する画像データGRと縁の部分を重複させた状態で、矩形状の画像データGRを取得し、ボイド・粒界認識処理(S6)では、互いに重複した部分を有する複数の画像の1つについて、粒界の数やボイドの数を取得しているので、重複した部分のそれぞれに属する同一粒界について、別の粒界やボイドと判定される不具合を抑制でき、余寿命の推定精度を高めることができる。
【0054】
また、余寿命診断評価(S8)では、Aパラメータと鋼管のクリープ損傷率(余寿命)との相関関係を示すマスターカーブを予め取得しておき、ボイド・粒界認識処理(S6)で得られた粒界数に基づくAパラメータをこのマスターカーブにあてはめることで、鋼管の余寿命を診断しているので、鋼管の余寿命を容易に診断することができる。
【0055】
以上の実施形態の説明は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に本発明にはその等価物が含まれる。例えば、次のように構成してもよい。
【0056】
前述の第1実施形態における観察画像取得処理(S3)では、隣接する画像データGRの縁部分同士を重複させていたが、この方法に限定されない。例えば、図12に示すように、画像データGRの縁部分を重複させない状態で矩形状の画像を取得するようにしてもよい。このようにすることで、各画像データGRについて診断対象とする範囲と診断対象としない範囲を切り分けずに粒界数の取得を行えば済むので、処理の一層の簡素化が図れる。
【0057】
また、画像データGRの縁部分を重複させずに、複数の画像を撮影する場合、各画像はマトリクス状に拡がっていなくてもよい。例えば、千鳥状に拡がっていてもよい。さらに、画像上で応力推定方向が判るならば、各画像は矩形状でなくてもよい。そして、各画像を矩形状に定めてマトリクス状に位置を異ならせて撮影すると、応力推定方向の揃った必要な範囲の画像を容易に得ることができる。
【0058】
また、前述の第1実施形態では、SEM2による観察画像を画像データGRとして取得する場合について説明したが、本発明は、観察画像をプリンタ用紙や印画紙等の紙媒体に印刷等した場合についても同様に適用できる。この場合、紙媒体に直接参照線RLを引いて粒界数を数えればよい。
【0059】
また、撮影に用いる顕微鏡に関し、前述の第1実施形態ではSEM2を例示したが、他の型式の電子顕微鏡(例えば透過型電子顕微鏡)であってもよいし、光学顕微鏡であってもよい。要するに、レプリカに転写された組織(粒界やボイド)を確認できる性能を有するものであれば用いることができる。
【0060】
診断対象に関し、前述の第1実施形態では、動力用配管に用いられる鋼管を例示したが、これに限定されない。例えば、ボイラーやタービンの隔壁であってもよい。要するに、高温高圧環境下に曝され、その余寿命をAパラメータによって診断できる金属であれば、本発明を適用できる。
【符号の説明】
【0061】
1…余寿命診断システム
2…走査型電子顕微鏡(SEM)
21…電子銃
22…磁界レンズ
23…試料ステージ
24…二次電子検出器
3…診断用コンピュータ
31…コンピュータ本体
32…表示部
33…入力部
34…CPU
35…メモリ
36…データ記憶部
GR…1枚の画像データ
L…粒界の画像データ(粒界画像)
V…ボイドの画像データ(ボイド画像)
N…ゴミの画像データ(ゴミ画像)
ED…画像データの縁部分
EX…画像データの対象外領域
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリープ損傷を受ける金属の余寿命診断方法及び診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発電施設が有するボイラーやタービンといったプラント機器では、動力用蒸気などの高温高圧流体が扱われている。年単位の長時間に亘って使用されると、ボイラーやタービンを構成する金属(例えばクロムモリブデン鋼やステンレス鋼)には、クリープ損傷などの経年劣化損傷が生じる。過度な損傷は機器の破損につながるため、プラント機器を長期間に亘って安全に使用するには、金属の余寿命を診断して適切な時期にメンテナンスを行うことが求められる。
【0003】
ここで、メンテナンスサイクルを短く設定すると安全率が高まるものの、メンテナンス回数が増えるのでコストが嵩んでしまう。反対に、メンテナンスサイクルを長く設定すると、メンテナンス回数が減ってコストを抑制できるものの、安全率が低くなってしまう。このため、余寿命の診断精度を向上させ、メンテナンスサイクルを適切に定めることが重要になっている。
【0004】
診断精度を向上させるため、種々の余寿命診断方法が開発されている。その診断手法の一つにAパラメータ法がある。Aパラメータ法は非破壊診断方法の一種であり、クリープボイドが生じた粒界(クリープボイド発生粒界)の数と観察粒界の総数との比率を指標として余寿命を求める方法である。以下に示す特許文献には、Aパラメータ法を用いた診断方法が開示されている。
【0005】
例えば、特許文献1,2には、クリープ損傷の進行度合いをAパラメータによって評価する技術が開示されている。また、特許文献3には、犠牲型センサのクリープ損傷の進行度合いをAパラメータによって評価する技術が開示されている。
【0006】
Aパラメータ法では、クリープボイド発生粒界数と観察粒界総数との比率を指標にしているので、クリープボイド発生粒界を識別する必要がある。このクリープボイド発生粒界を識別するため、参照線が広く用いられている。ここで、参照線とは、診断対象となる金属に作用する応力方向に描かれた直線であり、顕微鏡で撮影された画像から観察粒界を抽出するために用いられる。すなわち、画像に参照線を描き、参照線と交差した粒界を観察粒界としている。
【0007】
ここで、画像の撮影倍率は、粒界が識別できる程度まで拡大する必要がある。このため、1枚の画像に映し出される粒界の数は、Aパラメータ法による評価で必要とされる粒界総数よりもかなり少ない。そこで、Aパラメータ法を行うに際しては、顕微鏡で撮影された画像を敷き詰めてつなぎ合わせ(タイリング)、必要とされる観察範囲を1枚の画像にすることが行われている。なお、前述の特許文献1,3でも参照線が用いられているが、必要な観察粒界数が1枚の画像から得られていることからすれば、タイリングが行われた後の画像に参照線を描いていると解される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−14600号公報
【特許文献2】特開2008−209344号公報
【特許文献3】特開2003−106947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述した画像のタイリングは、多くの画像を位置精度良くつなぎ合わせる必要があり、作業に手間と熟練を要する。このため、多大な時間を必要とし、作業効率が損なわれてしまうといった問題点がある。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、画像のタイリング作業をなくして作業効率を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するため、本発明は、クリープ損傷を受ける金属の余寿命を診断する方法であって、前記金属のレプリカを、撮影対象位置を変えながら複数回顕微鏡撮影することで、複数の画像を取得する画像取得ステップと、前記画像のそれぞれに参照線を描く参照線描画ステップと、前記参照線と交差する粒界の数、及び、前記参照線と交差するとともにボイドが形成されている粒界の数を取得する粒界数取得ステップと、前記参照線と交差する粒界の数、及び、前記参照線と交差するとともにボイドが形成されている粒界の数に基づき、Aパラメータ法を用いて前記金属の余寿命を診断する余寿命診断ステップとを有することを特徴とする。この発明によれば、参照線描画ステップにおいて画像のそれぞれに参照線を描いているので、タイリングを行わずに済み、作業効率を高めることができる。
【0012】
前述の余寿命診断方法において、前記参照線描画ステップでは、応力方向と推定される方向に前記参照線を描くことが好ましい。これにより、余寿命の推定精度を高めることができる。
【0013】
前述の余寿命診断方法において、前記画像取得ステップでは、隣接する画像と縁の部分を重複させた状態で、平面方向へマトリクス状に拡がった矩形状の画像を取得し、前記粒界数取得ステップでは、互いに重複した部分を有する複数の画像の1つについて、粒界の数を取得することが好ましい。これにより、重複した部分のそれぞれに属する同一粒界について、別の粒界と判定される不具合を抑制でき、余寿命の推定精度を高めることができる。
【0014】
前述の余寿命診断方法において、前記画像取得ステップでは、隣接する画像と縁の部分を重複させない状態で、矩形状の画像を取得し、前記粒界数取得ステップでは、それぞれの画像について粒界の数を取得することが好ましい。これにより、各画像について診断対象とする範囲と診断対象としない範囲を切り分けずに粒界数の取得を行えば済むので、処理の一層の簡素化が図れる。
【0015】
前述の余寿命診断方法において、前記余寿命診断ステップでは、Aパラメータと金属の余寿命との相関関係を示すマスターカーブを予め取得しておき、前記粒界数取得ステップで得られた粒界数に基づくAパラメータを前記マスターカーブにあてはめることで、前記金属の余寿命を診断することが好ましい。これにより、余寿命を容易に診断することができる。
【0016】
また、本発明は、クリープ損傷を受ける金属の余寿命をコンピュータによって診断する余寿命診断装置であって、前記コンピュータに、前記金属のレプリカを、撮影対象位置を変えながら複数回顕微鏡撮影することで得られた、複数の画像データを取得させる画像取得ステップと、前記画像データのそれぞれに参照線データを描かせる参照線描画ステップと、前記参照線データと交差する粒界画像データの数、及び、前記参照線データと交差するとともにボイド画像データが形成されている粒界画像データの数を取得させる粒界数取得ステップと、前記参照線データと交差する前記粒界画像データの数、及び、前記参照線データと交差するとともに前記ボイド画像データが形成されている前記粒界画像データの数に基づき、Aパラメータ法を用いて前記金属の余寿命を診断させる余寿命診断ステップとを行わせることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、クリープ損傷を受ける金属の余寿命を診断するに際し、顕微鏡で撮影された複数の画像についてタイリングを行わずに済み、作業効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】余寿命診断システムの構成を示す外観図である。
【図2】余寿命診断システムの構成を示すブロック図である。
【図3】余寿命診断手順を説明するフローチャートである。
【図4】マトリクス状に撮影された複数のSEM画像を説明する概念図である。
【図5】重ね合わせた一部のSEM画像を説明する概念図である。
【図6】各SEM画像の重複部分を説明する図である。
【図7】各SEM画像に対して粒界補間やゴミ除去を行った参照線を描いた状態を説明する概念図である。
【図8】参照線付SEM画像を説明する概念図である。
【図9】参照線と粒界の位置関係を説明する概念図である。
【図10】ボイド発生粒界と観察粒界を説明する概念図である。
【図11】マスターカーブの一例を説明する図である。
【図12】複数のSEM画像の他の例を説明する概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について説明する。まず、余寿命診断システムについて説明する。図1に示すように、本実施形態の余寿命診断システム1は、走査型電子顕微鏡2(以下単にSEM2という)と診断用コンピュータ3とを有する。
【0020】
SEM2は、電子線を絞って電子ビームとして測定対象(後述するレプリカ)に照射し、この測定対象から放出される二次電子を検出することで測定対象の画像データを得る装置である。SEM2は、例えば図2に示すように、電子銃21と、磁界レンズ22と、試料ステージ23と、二次電子検出器24とを備えている。
【0021】
電子銃21は電子線を放出する部分であり、例えば熱電子を電位差によって加速させて放出する。磁界レンズ22は電子線を集束させる部分であり、例えば磁界を発生させるコイルを備えている。このコイルに流す電流を調整することで発生される磁界の強さを変えることができ、電子銃21から放出された電子線の集束度合いを調整できる。試料ステージ23は測定対象となる試料(レプリカ)が載置される部分であり、測定対象の向きや高さを調整することができる。これにより、測定対象における所望の位置に電子線を照射することができる。二次電子検出器24は、電子線の照射によって測定対象から放出された二次電子を検出する部分である。検出された二次電子の量に応じた画像信号が診断用コンピュータ3に送信される。
【0022】
診断用コンピュータ3は、SEM2と通信してSEM2の動作制御を行うとともに、SEM2から受信した画像信号からSEM画像を得る装置である。そして、得られたSEM画像に基づいて余寿命診断を行う。診断用コンピュータ3は、例えば図2に示すように、コンピュータ本体31と、表示部32と、入力部33とを有する。
【0023】
コンピュータ本体31は、診断用コンピュータ3による各種制御を行う部分であり、CPU34と、メモリ35と、データ記憶部36とを有している。CPU34は、制御の中心となる部分であり、メモリ35に記憶された動作プログラムに従って動作する。メモリ35は、SRAMやハードディスクといった各種の記憶デバイスによって構成され、動作プログラムを記憶する他、ワークエリアを確保する。データ記憶部36もまた、SRAMやハードディスクといった各種の記憶デバイスによって構成され、各種の画像データや診断用のマスターカーブ(図11を参照)の基となるデータなどが記憶される。表示部32は、SEM画像やSEM2に対する操作画像といった各種の画像を表示する部分であり、例えば液晶ディスプレイによって構成される。入力部33は作業者の各種操作を受け付ける部分であり、例えばキーボード33aやマウス33bによって構成される。
【0024】
この余寿命診断システム1では、SEM2の動作が診断用コンピュータ3を通じて制御される。そして、診断用コンピュータ3では、SEM2から送信された画像信号に基づいてサンプルのSEM画像を取得し、余寿命を診断する。以下、余寿命の診断処理について説明する。
【0025】
図3は、余寿命の診断処理を説明するフローチャートである。この診断処理では、レプリカ採取処理(S1)、SEM観察処理(S2)、観察画像取得処理(S3)、画像調整処理(S4)、参照線描画処理(S5)、粒界・ボイド認識処理(S6)、Aパラメータ算出処理(S7)、及び、余寿命診断評価(S8)を順に行う。以下、各処理について説明する。
【0026】
なお、本実施形態では、ボイラー機器に広く使用されている2.25%Cr−1%Mo鋼といった低合金鋼配管の溶接熱影響部(HAZ部)の余寿命を診断する場合について説明する。
【0027】
レプリカ採取処理(S1)は、測定対象物(本実施形態では鋼管)における損傷が予測される対象部位について、組織をプラスチックフィルムに転写し、測定対象としてのレプリカを採取する処理である。このレプリカ採取処理では、鋼管の診断対象部位をグラインダー等で鏡面に研磨した後にエッチングを行う。次に、プラスチックフィルムを対象部位に張り付けて組織を転写することで、レプリカ(組織が転写されたプラスチックフィルム)を採取する。
【0028】
SEM観察処理(S2)では、採取されたレプリカをSEM2で観察する処理である。このSEM観察処理では、前処理として金などの蒸着処理を行い、レプリカの表面に金などの蒸着膜を形成する。蒸着膜を形成したならば、SEM2による観察を行う。例えば、試料ステージ23の上に蒸着膜が形成されたレプリカを載置し、診断用コンピュータ3を操作してレプリカの表面形状を観察する。
【0029】
この場合において、診断用コンピュータ3は、SEM2から送信された画像信号に基づいてレプリカのSEM画像データを生成し、表示部32に表示させる。作業者は、入力部33を操作することで、粒界が表示部32で視認できるように表示倍率を定める。また、作業者は、入力部33を操作することで試料ステージ23を動作させ、レプリカの観察方向を定める。具体的には、測定対象物としての鋼管に作用する応力方向(具体的には応力方向と推定される方向)が所定方向になるように、レプリカの観察方向を定める。本実施形態では、応力推定方向が表示部32の表示画面において横方向(矩形状画面の下縁と平行な方向)となるように観察方向を定める。
【0030】
観察画像取得処理(S3)では、診断用コンピュータ3が、SEM2で撮影された観察画像に対応する画像データを取得する。例えば、作業者からの入力部33への操作によって撮影が指示されると、診断用コンピュータ3は、生成したSEM画像データをデータ処理部に記憶させる。このとき、診断用コンピュータ3は、SEM2に対して平面方向に対してマトリクス状(行列状)に複数のSEM画像データを撮影させる。これにより、Aパラメータの算出に必要な平面範囲に亘って、複数のSEM画像データが取得される。このSEM画像データは、表示部32での表示画面に対応した横長矩形状範囲の画像データである。このため、表示画像と同様に、横方向が応力推定方向に相当する。
【0031】
なお、本実施形態では、図4に示すように、A列〜G列、及び、第1行〜第6行からなる42枚の画像データGRを取得した場合を例に挙げて説明する。便宜上、以下の説明では、A列第1行のSEM画像データを画像データGR(A1)と、B列第1行のSEM画像データを画像データGR(B1)と表し、以下同様に、G列第6行のSEM画像データを画像データGR(G6)と表す。
【0032】
各画像データGR(A1)〜GR(G6)には、粒界の画像データL、ボイドの画像データV、及び、ゴミの画像データNが含まれている。これらの画像データのうち、粒界の画像データLは、例えば、始点座標と終点座標とを有する直線の画像データとして取得される。また、ボイドの画像データVやゴミの画像データNは、例えば、ボイドやゴミの外周に添った多角形の画像データとして取得される。すなわち、多角形の頂点座標と短い直線の画像データとして取得される。また、図5に一部を示すように、各画像データGR(A1)〜GR(G6)は、隣接する他の画像データGRとの間で、ハッチングで示す縁部分EDのデータを共有している。これにより、Aパラメータの算出に必要とされる平面範囲を隈無く網羅している。
【0033】
そして、この観察画像取得処理は、撮影対象位置を変えながら、レプリカを複数回顕微鏡撮影することで、複数の画像を取得する画像取得ステップに相当する。
【0034】
画像調整処理(S4)では、診断用コンピュータ3が、取得した各画像データGR(A1)〜GR(G6)に対して各種の調整を行う。例えば、図5に示すように、SEM2から得られた画像データGRには、ゴミ画像N1や余分な粒界画像L1が存在する。また、粒界画像L2や粒界画像L3のように、粒界画像同士の間が欠けていたりする。このような画像データGRをそのまま用いて処理を進めると、求められたAパラメータの精度が損なわれ、ひいては余寿命の診断結果にまで影響が及んでしまう。そこで、画像調整処理では、ゴミ画像Nの除去、余分な粒界画像Lの除去、欠けている粒界画像L同士の補間などが行われる。
【0035】
図5の例では、ゴミ画像N1が存在している。このゴミ画像N1は、粒界画像Lの上に位置していないことから、ボイド画像V1,V2とは異なるものとして区別できる。なお、ゴミ画像N1については、形状が細長い場合やボイド画像V1,V2よりも有意に大きい場合にも、ボイド画像V1,V2とは異なるものとして区別できる。また、図5の例では、余分な粒界画像L1が存在する。この粒界画像L1は、その延長線上に対応する粒界画像が存在しない。このため、余分な粒界画像であると判断できる。一方、粒界画像L2については、その延長線上に粒界画像L3が存在するため、粒界画像L2と粒界画像L3とは同じ粒界であるとして、画像を補間することにより1つの粒界として扱うことができる。
【0036】
これらのゴミ除去処理、余分な粒界画像Lの除去処理、及び、粒界画像Lの補間処理を、各画像データGR(A1)〜GR(G6)に対して行うと、図7に示すように、各画像データGRにおいてゴミ画像Nや余分な粒界画像Lが除去され、かつ、欠けた粒界画像L同士が補間される。これにより、診断に適したクリアな画像になる。
【0037】
また、図5に示すように、各画像データGR(A1)〜GR(G6)は、隣接する画像データGRとの間で、ハッチングで示す縁部分EDのデータを共有している。この縁部分ED(重複部分)のデータを複数の画像データGRに割り当ててしまうと、同一の粒界画像Lやボイド画像Vであるにも拘わらず、別の粒界画像Lやボイド画像Vとしてカウントされてしまう虞がある。そこで、画像調整処理では、各画像データGRの縁部分EDについて1つの画像データGRに割り振るようにし、他の画像データGRについては対象外領域として設定している。
【0038】
例えば、図6に示すように、各画像データGRにおける右端部から下端部に亘って倒L状の対象外領域EXを設定する。これにより、画像データGR(A1)、画像データGR(B1)、画像データGR(A2)及び画像データGR(B2)の4つが重なっている重複部分ED1については画像データGR(B2)に割り振られる。また、重複部分ED1から横方向(長辺方向)に延びる重複部分ED2については画像データGR(A2)に割り振られ、重複部分X5から縦方向(短辺方向)に延びる重複部分X7については画像データGR(B1)に割り振られる。その結果、異なる画像データGRに存在する同一の粒界画像Lやボイド画像Vを、重複してカウントしてしまう不具合を防止できる。
【0039】
以上の画像調整処理が終了したならば、参照線描画処理(S5)が行われる。この参照線描画処理において、診断用コンピュータ3は、各画像データGR(A1)〜GR(G6)の所定位置に参照線RLを1本ずつ描画する。具体的には、図8に示すように、各画像データGR(A1)〜GR(G6)における縦方向の中央位置に、横方向の直線RLを描画する。前述したように各画像データGRは横長矩形状であるため、参照線RL(A1)〜RL(G6)は、短辺の中央の位置に長辺と平行に描かれる。そして、各画像データGRの長辺方向は、SEM観察処理(S2)でも説明したように、応力推定方向に相当する。このため、参照線RLは応力推定方向に描かれた直線といえる。
【0040】
なお、各参照線RL(A1)〜RL(G6)の太さは、撮影倍率に応じて定められる。そして、診断用コンピュータ3は、参照線RLに関しても粒界画像L等と同様に、それぞれの画像データGRでの座標値を取得する。本実施形態の参照線RLは粒界画像Lよりも太い直線であるため、四隅の座標と対応する隅同士を結ぶ直線として認識される。
【0041】
各画像データGRに参照線RLが描画されたならば、ボイド・粒界認識処理(S6)が行われる。このボイド・粒界認識処理において、診断用コンピュータ3は、粒界画像Lの情報(始点座標、終点座標、及びこれらの座標を結ぶ直線の情報)と、ボイド画像Vの情報(多角形の頂点座標群、及び隣り合う頂点同士を結ぶ短い直線の情報)と、参照線RLの情報(四隅の座標、及び対応する隅同士を結ぶ直線の情報)とから、粒界画像Lと参照線RLとが交差するか否かを判断する。また、粒界画像Lに関し、ボイド画像Vが重なっているか否かで、ボイド発生粒界の画像か、単なる粒界の画像かを判断する。さらに、参照線RLと交差する粒界画像の数と、ボイド発生粒界画像の数とを、全ての画像データGR(A1)〜GR(G6)について個別に計測する。
【0042】
そして、このボイド・粒界認識処理では、画像調整処理(S4)で設定された対象外領域EXにより、重複部分を1つの画像データGRに担当させている。これにより、異なる画像データGRに存在する同一の粒界画像Lやボイド画像Vを、重複してカウントしてしまう不具合を防止できる。
【0043】
このボイド・粒界認識処理を、図9及び図10に示す4つの画像データGR(A1),GR(A2),GR(B1),GR(B2)で説明する。
【0044】
この場合、画像データGR(A1)については、参照線RL(A1)と交差する粒界画像として粒界画像L11と粒界画像L12が選択され、交差粒界の数は2本と判断される。また、粒界画像L12については、ボイドV1が発生しているボイド発生粒界の画像として認識される。このため、ボイド発生粒界の数は1本と判断される。同様に、画像データGR(A2)については、参照線RL(A2)と交差する粒界画像として粒界画像L13と粒界画像L14と粒界画像L15が選択され、交差粒界の数は3本と判断される。また、粒界画像L14及び粒界画像L15については、ボイドV2が発生しているボイド発生粒界の画像として認識される。このため、ボイド発生粒界の数は2本と判断される。
【0045】
また、画像データGR(B1)については、参照線RL(B1)と交差する粒界画像として粒界画像L16と粒界画像L17と粒界画像L18が選択され、交差粒界の数は3本と判断される。これらの粒界においてボイドが発生しているものはないため、ボイド発生粒界の数は0本と判断される。同様に、画像データGR(B2)については、参照線RL(B2)と交差する粒界画像として粒界画像L19から粒界画像L22が選択され、交差粒界の数は4本と判断される。そして、ボイド発生粒界の数は0本と判断される。
【0046】
このように、各画像データGR(A1)〜GR(G6)について交差粒界の数とボイド発生粒界の数を取得したならば、診断用コンピュータ3は、これらの情報をデータ記憶部36に記憶させる。
【0047】
続くAパラメータ算出処理(S7)において、診断用コンピュータ3は、交差粒界の数とボイド発生粒界の数に基づいてAパラメータを算出する。ここで、Aパラメータは、次式(1)に基づいて算出される。すなわち、ボイド発生粒界数を観察粒界数で除することにより、算出される。
【数1】
【0048】
便宜上、図9及び図10に示す4つの画像データGRで説明すると、画像データGR(A1)において交差粒界の数は2本、ボイド発生粒界の数は1本であり、画像データGR(A2)において交差粒界の数は3本、ボイド発生粒界の数は2本である。また、画像データGR(B1)において交差粒界の数は3本、ボイド発生粒界の数は0本であり、画像データGR(B2)において交差粒界の数は4本、ボイド発生粒界の数は0本である。そうすると、交差粒界の総数は12本、ボイド発生粒界の総数は3本となり、Aパラメータとして0.25が得られる。診断用コンピュータ3は、算出したAパラメータの値をデータ記憶部36に記憶させ、Aパラメータ算出処理を終了する。
【0049】
余寿命診断評価(S8)において、診断用コンピュータ3は、マスターカーブをデータ記憶部36から読み出し、算出したAパラメータの値をあてはめることで、鋼管(金属)のクリープ損傷率(すなわち余寿命)を取得する。ここで、マスターカーブは、例えば図11に示すように、横軸をクリープ損傷率とし、縦軸をAパラメータとした場合の相関関係を示すグラフであり、鋼管のクリープ促進試験によって予め取得されたものである。そして、クリープ損傷率は、鋼管の余寿命を表す指標でもあるので、このマスターカーブは、Aパラメータと鋼管の余寿命との相関関係を示しているといえる。
【0050】
従って、診断用コンピュータ3は、算出したAパラメータの値をマスターカーブにあてはめることで鋼管の余寿命を診断する。そして、余寿命に基づいて交換時期と判断された場合には、その旨を表示部32で表示することで作業者に報知する。また、十分に余寿命がある場合にも、その余寿命を表示部32で表示することで作業者に報知する。
【0051】
この余寿命診断評価が終了すると一連の診断処理が終了し、次のレプリカに対する診断が前述した手順に則って繰り返し行われる。
【0052】
以上説明したように、本実施形態によれば、参照線描画処理(S5)において画像データGRのそれぞれに参照線RLを描画しているので、従来行われていたタイリング(複数画像の結合)を行わずに済む。これにより、短時間で診断結果を得ることができ、診断の作業効率を高めることができる。また、参照線RLの描画や参照線RLに交差する粒界のカウント等が自動化されているので、熟練した作業者でなくとも診断が可能になるし、作業者毎の診断ばらつきを少なくすることもできる。
【0053】
また、観察画像取得処理(S3)では、隣接する画像データGRと縁の部分を重複させた状態で、矩形状の画像データGRを取得し、ボイド・粒界認識処理(S6)では、互いに重複した部分を有する複数の画像の1つについて、粒界の数やボイドの数を取得しているので、重複した部分のそれぞれに属する同一粒界について、別の粒界やボイドと判定される不具合を抑制でき、余寿命の推定精度を高めることができる。
【0054】
また、余寿命診断評価(S8)では、Aパラメータと鋼管のクリープ損傷率(余寿命)との相関関係を示すマスターカーブを予め取得しておき、ボイド・粒界認識処理(S6)で得られた粒界数に基づくAパラメータをこのマスターカーブにあてはめることで、鋼管の余寿命を診断しているので、鋼管の余寿命を容易に診断することができる。
【0055】
以上の実施形態の説明は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に本発明にはその等価物が含まれる。例えば、次のように構成してもよい。
【0056】
前述の第1実施形態における観察画像取得処理(S3)では、隣接する画像データGRの縁部分同士を重複させていたが、この方法に限定されない。例えば、図12に示すように、画像データGRの縁部分を重複させない状態で矩形状の画像を取得するようにしてもよい。このようにすることで、各画像データGRについて診断対象とする範囲と診断対象としない範囲を切り分けずに粒界数の取得を行えば済むので、処理の一層の簡素化が図れる。
【0057】
また、画像データGRの縁部分を重複させずに、複数の画像を撮影する場合、各画像はマトリクス状に拡がっていなくてもよい。例えば、千鳥状に拡がっていてもよい。さらに、画像上で応力推定方向が判るならば、各画像は矩形状でなくてもよい。そして、各画像を矩形状に定めてマトリクス状に位置を異ならせて撮影すると、応力推定方向の揃った必要な範囲の画像を容易に得ることができる。
【0058】
また、前述の第1実施形態では、SEM2による観察画像を画像データGRとして取得する場合について説明したが、本発明は、観察画像をプリンタ用紙や印画紙等の紙媒体に印刷等した場合についても同様に適用できる。この場合、紙媒体に直接参照線RLを引いて粒界数を数えればよい。
【0059】
また、撮影に用いる顕微鏡に関し、前述の第1実施形態ではSEM2を例示したが、他の型式の電子顕微鏡(例えば透過型電子顕微鏡)であってもよいし、光学顕微鏡であってもよい。要するに、レプリカに転写された組織(粒界やボイド)を確認できる性能を有するものであれば用いることができる。
【0060】
診断対象に関し、前述の第1実施形態では、動力用配管に用いられる鋼管を例示したが、これに限定されない。例えば、ボイラーやタービンの隔壁であってもよい。要するに、高温高圧環境下に曝され、その余寿命をAパラメータによって診断できる金属であれば、本発明を適用できる。
【符号の説明】
【0061】
1…余寿命診断システム
2…走査型電子顕微鏡(SEM)
21…電子銃
22…磁界レンズ
23…試料ステージ
24…二次電子検出器
3…診断用コンピュータ
31…コンピュータ本体
32…表示部
33…入力部
34…CPU
35…メモリ
36…データ記憶部
GR…1枚の画像データ
L…粒界の画像データ(粒界画像)
V…ボイドの画像データ(ボイド画像)
N…ゴミの画像データ(ゴミ画像)
ED…画像データの縁部分
EX…画像データの対象外領域
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クリープ損傷を受ける金属の余寿命を診断する方法であって、
前記金属のレプリカを、撮影対象位置を変えながら複数回顕微鏡撮影することで、複数の画像を取得する画像取得ステップと、
前記画像のそれぞれに参照線を描く参照線描画ステップと、
前記参照線と交差する粒界の数、及び、前記参照線と交差するとともにボイドが形成されている粒界の数を取得する粒界数取得ステップと、
前記参照線と交差する粒界の数、及び、前記参照線と交差するとともにボイドが形成されている粒界の数に基づき、Aパラメータ法を用いて前記金属の余寿命を診断する余寿命診断ステップと
を有することを特徴とする余寿命診断方法。
【請求項2】
前記参照線描画ステップでは、応力方向と推定される方向に前記参照線を描くことを特徴とする請求項1に記載の余寿命診断方法。
【請求項3】
前記画像取得ステップでは、隣接する画像と縁の部分を重複させた状態で、平面方向へマトリクス状に拡がった矩形状の画像を取得し、
前記粒界数取得ステップでは、互いに重複した部分を有する複数の画像の1つについて、粒界の数を取得することを特徴とする請求項1又は2に記載の余寿命診断方法。
【請求項4】
前記画像取得ステップでは、隣接する画像と縁の部分を重複させない状態で、矩形状の画像を取得し、
前記粒界数取得ステップでは、それぞれの画像について粒界の数を取得することを特徴とする請求項1又は2に記載の余寿命診断方法。
【請求項5】
前記余寿命診断ステップでは、Aパラメータと金属の余寿命との相関関係を示すマスターカーブを予め取得しておき、前記粒界数取得ステップで得られた粒界数に基づくAパラメータを前記マスターカーブにあてはめることで、前記金属の余寿命を診断することを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の余寿命診断方法。
【請求項6】
クリープ損傷を受ける金属の余寿命をコンピュータによって診断する余寿命診断装置であって、
前記コンピュータに、
前記金属のレプリカを、撮影対象位置を変えながら複数回顕微鏡撮影することで得られた、複数の画像データを取得させる画像取得ステップと、
前記画像データのそれぞれに参照線データを描かせる参照線描画ステップと、
前記参照線データと交差する粒界画像データの数、及び、前記参照線データと交差するとともにボイド画像データが形成されている粒界画像データの数を取得させる粒界数取得ステップと、
前記参照線データと交差する前記粒界画像データの数、及び、前記参照線データと交差するとともに前記ボイド画像データが形成されている前記粒界画像データの数に基づき、Aパラメータ法を用いて前記金属の余寿命を診断させる余寿命診断ステップと
を行わせることを特徴とする余寿命診断装置。
【請求項1】
クリープ損傷を受ける金属の余寿命を診断する方法であって、
前記金属のレプリカを、撮影対象位置を変えながら複数回顕微鏡撮影することで、複数の画像を取得する画像取得ステップと、
前記画像のそれぞれに参照線を描く参照線描画ステップと、
前記参照線と交差する粒界の数、及び、前記参照線と交差するとともにボイドが形成されている粒界の数を取得する粒界数取得ステップと、
前記参照線と交差する粒界の数、及び、前記参照線と交差するとともにボイドが形成されている粒界の数に基づき、Aパラメータ法を用いて前記金属の余寿命を診断する余寿命診断ステップと
を有することを特徴とする余寿命診断方法。
【請求項2】
前記参照線描画ステップでは、応力方向と推定される方向に前記参照線を描くことを特徴とする請求項1に記載の余寿命診断方法。
【請求項3】
前記画像取得ステップでは、隣接する画像と縁の部分を重複させた状態で、平面方向へマトリクス状に拡がった矩形状の画像を取得し、
前記粒界数取得ステップでは、互いに重複した部分を有する複数の画像の1つについて、粒界の数を取得することを特徴とする請求項1又は2に記載の余寿命診断方法。
【請求項4】
前記画像取得ステップでは、隣接する画像と縁の部分を重複させない状態で、矩形状の画像を取得し、
前記粒界数取得ステップでは、それぞれの画像について粒界の数を取得することを特徴とする請求項1又は2に記載の余寿命診断方法。
【請求項5】
前記余寿命診断ステップでは、Aパラメータと金属の余寿命との相関関係を示すマスターカーブを予め取得しておき、前記粒界数取得ステップで得られた粒界数に基づくAパラメータを前記マスターカーブにあてはめることで、前記金属の余寿命を診断することを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の余寿命診断方法。
【請求項6】
クリープ損傷を受ける金属の余寿命をコンピュータによって診断する余寿命診断装置であって、
前記コンピュータに、
前記金属のレプリカを、撮影対象位置を変えながら複数回顕微鏡撮影することで得られた、複数の画像データを取得させる画像取得ステップと、
前記画像データのそれぞれに参照線データを描かせる参照線描画ステップと、
前記参照線データと交差する粒界画像データの数、及び、前記参照線データと交差するとともにボイド画像データが形成されている粒界画像データの数を取得させる粒界数取得ステップと、
前記参照線データと交差する前記粒界画像データの数、及び、前記参照線データと交差するとともに前記ボイド画像データが形成されている前記粒界画像データの数に基づき、Aパラメータ法を用いて前記金属の余寿命を診断させる余寿命診断ステップと
を行わせることを特徴とする余寿命診断装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−79916(P2013−79916A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221227(P2011−221227)
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】
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