説明

クリーンルーム内の養生装置

【課題】施工に手間と時間が掛からず、作業効率を向上し得、且つ再使用ができて作業全体のコスト削減を図り得るクリーンルーム内の養生装置を提供する。
【解決手段】クリーンルーム1の天井部2に格子状に配設され且つフィルタユニット3を受けるフィルタ受枠4に対しその両幅端部4aに引っ掛けるよう掛止可能な掛止金具5と、該掛止金具5を締結部材6により着脱自在に装着するための取付孔が上縁部に沿って所要間隔をあけて穿設された気密幕材8とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリーンルーム内の養生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体工場等の清浄な作業環境を必要とする空間においては、クリーンルームが形成され、該クリーンルームの天井は、建物梁から吊り用鋼材を介して天井パネルとHEPAフィルタ等のフィルタユニットとが吊られる二重天井となっており、該二重天井内はチャンバとして作用するようになっている。
【0003】
前記クリーンルーム内において、例えば、前記フィルタユニットの交換作業を行う際には、フィルタユニットを外すと、前記二重天井内の塵埃が直接クリーンルーム内に吹き込まれて飛散してしまうため、前記作業を行う前に予め、クリーンルーム内の交換の対象となるフィルタユニットが配設された部分に、間仕切りを設けて、いわゆる養生を行い、塵埃がクリーンルーム全体に飛散することを防止する必要がある。尚、生産装置の搬入作業等を行う際に、塵埃がクリーンルーム全体に飛散する可能性があるような場合には、該生産装置の搬入経路等に、前述と同様、部分的に間仕切りを設けて養生を行うこともある。
【0004】
従来、前記養生を行うための間仕切りとしては、帯電防止機能を有する気密幕材としてのビニールシートを用い、該ビニールシートを天井から吊り下げるように養生テープで貼り合わせるようにしていた。
【0005】
尚、前記クリーンルーム内の養生と関連する一般的技術水準を示すものとしては、例えば、特許文献1、2がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−245919号公報
【特許文献2】特開2004−107986号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前述の如く、ビニールシートを天井から吊り下げるように養生テープで貼り合わせて養生を行うのでは、施工に手間と時間が非常に掛かってしまうという欠点を有していた。
【0008】
又、天井から吊り下げるように養生テープで貼り合わせたビニールシートは、作業を終えて撤去した後、該ビニールシートから養生テープをきれいに剥がすことが困難となり、該養生テープは勿論のこと、ビニールシートの再使用がほとんど無理な状況となるため、不経済で作業全体のコストアップにつながるという不具合をも有していた。
【0009】
本発明は、斯かる実情に鑑み、施工に手間と時間が掛からず、作業効率を向上し得、且つ再使用ができて作業全体のコスト削減を図り得るクリーンルーム内の養生装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、天井部に、フィルタユニットを受けるフィルタ受枠が格子状に配設されたクリーンルーム内の養生装置において、
前記フィルタ受枠に対しその両幅端部に引っ掛けるよう掛止可能な掛止金具と、
該掛止金具を締結部材により着脱自在に装着するための取付孔が上縁部に沿って所要間隔をあけて穿設された気密幕材と
を備えたことを特徴とするクリーンルーム内の養生装置にかかるものである。
【0011】
上記手段によれば、以下のような作用が得られる。
【0012】
クリーンルーム内において、フィルタユニットの交換作業や生産装置の搬入作業等を行う際には、気密幕材の所要箇所における取付孔に対し掛止金具を締結部材により装着しつつ、該掛止金具をフィルタ受枠に対しその両幅端部に引っ掛けるよう掛止させると、前記気密幕材が天井部から吊り下げられ、これにより、クリーンルーム内の交換の対象となるフィルタユニットが配設された部分や生産装置の搬入経路等に養生を行うことが可能となり、塵埃がクリーンルーム全体に飛散することを防止可能となる。
【0013】
この結果、従来の如く、ビニールシートを天井から吊り下げるように養生テープで貼り合わせて養生を行うのとは異なり、施工に要していた手間と時間が大幅に削減され、作業を効率良く進めることが可能となる。
【0014】
又、前記掛止金具をフィルタ受枠に対しその両幅端部に引っ掛けるよう掛止させた気密幕材は、作業終了後、締結部材を緩めるだけで、フィルタ受枠から簡単に取り外すことができ、繰り返し使用することが行えるため、経済的で作業全体のコストアップを抑えることが可能となる。
【0015】
前記クリーンルーム内の養生装置においては、前記気密幕材の上縁部表面に密着され且つ前記締結部材の貫通孔が穿設された挟持部と、
該挟持部の上端から屈曲形成され且つ前記フィルタ受枠の下面に沿うように延びる水平部と、
該水平部の先端から屈曲形成され且つ前記フィルタ受枠の側面に沿うように延びる立上部と、
該立上部の上端から屈曲形成され且つ前記フィルタ受枠の幅端部に引っ掛けられる爪部とを有する折り曲げ部材を二個用い、
該二個の折り曲げ部材を、前記挟持部にて気密幕材の上縁部が挟持され且つ前記爪部が互いに向い合うよう対向配置することにより、前記掛止金具を構成することができる。
【0016】
この場合、前記締結部材を、前記折り曲げ部材の貫通孔及び気密幕材の取付孔に挿通されるボルトと、該ボルトに螺合される蝶ナットとから構成することができ、このようにすると、前記気密幕材の取付孔に対する掛止金具の着脱、並びに該掛止金具のフィルタ受枠に対する掛止・離脱を、特別な工具を使わずに行えるようになり、好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明のクリーンルーム内の養生装置によれば、施工に手間と時間が掛からず、作業効率を向上し得、且つ再使用ができて作業全体のコスト削減を図り得るという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のクリーンルーム内の養生装置の実施例を示す全体概要平面図である。
【図2】本発明のクリーンルーム内の養生装置の実施例を示す側面図である。
【図3】本発明のクリーンルーム内の養生装置の実施例を示す要部拡大断面図である。
【図4】本発明のクリーンルーム内の養生装置の実施例における掛止金具を示す分解斜視図である。
【図5】本発明のクリーンルーム内の養生装置の実施例を、図3に示すフィルタ受枠とは異なる形式のフィルタ受枠に適用した状態を示す要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0020】
図1〜図4は本発明のクリーンルーム内の養生装置の実施例であって、図1に示す如く、クリーンルーム1の天井部2には、HEPAフィルタ等のフィルタユニット3を受けるフィルタ受枠4が格子状に配設されており、図2〜図4に示す如く、前記フィルタ受枠4に対しその両幅端部4aに引っ掛けるよう掛止可能な掛止金具5と、該掛止金具5を締結部材6により着脱自在に装着するための取付孔7が上縁部に沿って所要間隔をあけて穿設された気密幕材8とからクリーンルーム1内の養生装置を構成したものである。
【0021】
因みに、前記フィルタ受枠4は、図3に示す如く、溝形鋼の開放端を上向きにした形と類似した断面形状を有し、その中心部に十字状の補強部4bを一体に形成し、該補強部4bから吊下部4cを上方へ立ち上げてなる構成を有し、該吊下部4cが図示していない構造材から吊り下げられるようになっており、前記フィルタユニット3の端部から下方へ突設された脚片部3aを前記補強部4bで支持すると共に、該脚片部3aを埋没させるようにフィルタ受枠4内部にシール材9を充填することにより、外部からクリーンルーム1内に塵埃が侵入しないようにしてある。
【0022】
本実施例の場合、前記掛止金具5は、図3及び図4に示す如く、前記気密幕材8の上縁部表面に密着され且つ前記締結部材6の貫通孔5aが穿設された挟持部5bと、該挟持部5bの上端から屈曲形成され且つ前記フィルタ受枠4の下面に沿うように延びる水平部5cと、該水平部5cの先端から屈曲形成され且つ前記フィルタ受枠4の側面に沿うように延びる立上部5dと、該立上部5dの上端から屈曲形成され且つ前記フィルタ受枠4の幅端部4aに引っ掛けられる爪部5eとを有する折り曲げ部材5Aを二個用い、該二個の折り曲げ部材5Aを、前記挟持部5bにて気密幕材8の上縁部が挟持され且つ前記爪部5eが互いに向い合うよう対向配置してなる構成を有している。
【0023】
そして、前記締結部材6は、前記折り曲げ部材5Aの貫通孔5a及び気密幕材8の取付孔7に挿通されるボルト6aと、該ボルト6aに螺合される蝶ナット6bとから構成してある。
【0024】
尚、前記気密幕材8には、厚さ約0.1[mm]程度の薄いビニールシートを用いているため、前記気密幕材8の上縁部には、図2及び図4に示す如く、ビニール製の帯材8aを一体に溶着すると共に、前記取付孔7には鳩目8bを取り付けることにより、前記気密幕材8の上縁部並びに取付孔7の補強を行う一方、前記気密幕材8の両側端縁部並びに底縁部には、折り返し部8cを形成することにより、作業者が該気密幕材8の近くを通過した際に風が巻き起こされたり、或いは作業時にクリーンルーム1内に気圧の変化が生じたりしたとしても、両側端縁部並びに底縁部が風になびいたり、めくれたりしにくくなるようにしてある。
【0025】
又、前記一方の折り曲げ部材5Aの挟持部5bにおける貫通孔5aに挿通されるボルト6aには、図4に示す如く、内周面に前記ボルト6aのネジの谷部に係合する舌片10aが突設された樹脂製の脱落防止リング10を嵌合させることにより、前記一方の折り曲げ部材5Aの挟持部5bからボルト6aが脱落しないようにしてある。
【0026】
次に、上記実施例の作用を説明する。
【0027】
クリーンルーム1内において、フィルタユニット3の交換作業や生産装置の搬入作業等を行う際には、先ず、気密幕材8の所要箇所における取付孔7に対し掛止金具5を締結部材6により装着する。
【0028】
ここで、前記気密幕材8の所要箇所における取付孔7に対し掛止金具5を装着する前の段階では、一方の折り曲げ部材5Aの挟持部5bにおける貫通孔5aに挿通される締結部材6のボルト6aには、図4に示す如く、内周面に前記ボルト6aのネジの谷部に係合する舌片10aが突設された樹脂製の脱落防止リング10を嵌合させてあるため、前記一方の折り曲げ部材5Aの挟持部5bからボルト6aが脱落する心配はなく、該ボルト6aと前記一方の折り曲げ部材5Aとは常に一体となっており、ボルト6aの紛失を予防する上で有効となっている。
【0029】
続いて、前記一方の折り曲げ部材5Aの挟持部5bにおける貫通孔5aに挿通されているボルト6aを、気密幕材8の所要箇所における取付孔7に通しつつ、もう一つの折り曲げ部材5Aの挟持部5bにおける貫通孔5aに挿通させることにより、二個の折り曲げ部材5Aを、前記挟持部5bにて気密幕材8の上縁部が挟持され且つ前記爪部5eが互いに向い合うよう対向配置させた状態で、前記ボルト6aに蝶ナット6bを螺合させる。
【0030】
前記蝶ナット6bを締め付けずに、前記二個の折り曲げ部材5Aの爪部5eがある程度開閉できるようにした状態で、前記挟持部5bの上端から屈曲形成された水平部5cを前記フィルタ受枠4の下面に沿わせつつ、該水平部5cの先端から屈曲形成された立上部5dを前記フィルタ受枠4の側面に沿わせ、該立上部5dの上端から屈曲形成された爪部5eを前記フィルタ受枠4の幅端部4aに引っ掛け、図3に示す如く、前記蝶ナット6bを締め付ける。
【0031】
この場合、前記締結部材6を、前記折り曲げ部材5Aの貫通孔5a及び気密幕材8の取付孔7に挿通されるボルト6aと、該ボルト6aに螺合される蝶ナット6bとから構成してあるため、前記気密幕材8の取付孔7に対する掛止金具5の装着、並びに該掛止金具5のフィルタ受枠4に対する掛止は、特別な工具を使わずに行えることとなる。
【0032】
そして、例えば、図1において、ハッチングを付したフィルタユニット3がクリーンルーム1内の交換の対象となる場合、図1中、破線で示す如く、気密幕材8をある程度広い範囲で天井部2から吊り下げることが可能となる。但し、前記気密幕材8を天井部2から吊り下げる範囲は、図1中、仮想線で示す如く、前記フィルタ受枠4に対して掛止金具5を掛止させる位置の制約から気密幕材8が若干ねじれるような形にはなるものの、必要に応じて狭められることは言うまでもない。又、図1中、破線で示す範囲より更に広く気密幕材8を天井部2から吊り下げても良いことは勿論である。
【0033】
このようにして、前記掛止金具5をフィルタ受枠4に対しその両幅端部4aに引っ掛けるよう掛止させると、前記気密幕材8が天井部2から吊り下げられ、これにより、クリーンルーム1内の交換の対象となるフィルタユニット3が配設された部分や生産装置の搬入経路等に養生を行うことが可能となり、塵埃がクリーンルーム1全体に飛散することを防止可能となる。
【0034】
この結果、従来の如く、ビニールシートを天井から吊り下げるように養生テープで貼り合わせて養生を行うのとは異なり、施工に要していた手間と時間が大幅に削減され、作業を効率良く進めることが可能となる。
【0035】
又、前記掛止金具5をフィルタ受枠4に対しその両幅端部4aに引っ掛けるよう掛止させた気密幕材8は、作業終了後、締結部材6の蝶ナット6bを緩めるだけで、特別な工具を使わずにフィルタ受枠4から簡単に取り外すことができ、繰り返し使用することが行えるため、経済的で作業全体のコストアップを抑えることが可能となる。尚、前記締結部材6の蝶ナット6bを緩めてボルト6aから外せば、前記気密幕材8の取付孔7からの掛止金具5の取り外しに関しても、特別な工具を使わずに行えることとなる。
【0036】
しかも、前記フィルタ受枠4の位置に合わせて掛止金具5の位置を自在に調整できるため、床上の障害物(生産装置等)を避けて所望の形状で養生エリアを形成することが可能となる。
【0037】
更に、前記気密幕材8には、厚さ約0.1[mm]程度の薄いビニールシートを用いているため、養生装置を軽量化することが可能となり、取り扱いが容易になって、作業効率を向上させる上で有効となる。
【0038】
こうして、施工に手間と時間が掛からず、作業効率を向上し得、且つ再使用ができて作業全体のコスト削減を図り得る。
【0039】
因みに、前記フィルタ受枠4としては、図3に示すような形状のものに限らず、例えば、図5に示す如く、矩形に近い閉断面形状を有し、その上面から吊下部4cを上方へ立ち上げてなる構成を有し、該吊下部4cが図示していない構造材から吊り下げられ、前記フィルタユニット3の端部をガスケット等のシール板9´を介してフィルタ受枠4上に載置することにより、外部からクリーンルーム1内に塵埃が侵入しないようにした形式のものも存在するが、図5に示すフィルタ受枠4にも本実施例のクリーンルーム1内の養生装置は適用可能となる。
【0040】
図5に示すフィルタ受枠4の場合、該フィルタ受枠4を互いに直角に交差させる地点で図示していない継手部材により連結するようになっており、該継手部材の係止突起(図示せず)を引っ掛けるための係止溝4dがフィルタ受枠4の両側面上部に凹設されているため、該係止溝4dに前記折り曲げ部材5Aの爪部5eを引っ掛けるようにすれば良い。
【0041】
尚、本発明のクリーンルーム内の養生装置は、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0042】
1 クリーンルーム
2 天井部
3 フィルタユニット
4 フィルタ受枠
4a 幅端部
4d 係止溝
5 掛止金具
5A 折り曲げ部材
5a 貫通孔
5b 挟持部
5c 水平部
5d 立上部
5e 爪部
6 締結部材
6a ボルト
6b 蝶ナット
7 取付孔
8 気密幕材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天井部に、フィルタユニットを受けるフィルタ受枠が格子状に配設されたクリーンルーム内の養生装置において、
前記フィルタ受枠に対しその両幅端部に引っ掛けるよう掛止可能な掛止金具と、
該掛止金具を締結部材により着脱自在に装着するための取付孔が上縁部に沿って所要間隔をあけて穿設された気密幕材と
を備えたことを特徴とするクリーンルーム内の養生装置。
【請求項2】
前記気密幕材の上縁部表面に密着され且つ前記締結部材の貫通孔が穿設された挟持部と、
該挟持部の上端から屈曲形成され且つ前記フィルタ受枠の下面に沿うように延びる水平部と、
該水平部の先端から屈曲形成され且つ前記フィルタ受枠の側面に沿うように延びる立上部と、
該立上部の上端から屈曲形成され且つ前記フィルタ受枠の幅端部に引っ掛けられる爪部とを有する折り曲げ部材を二個用い、
該二個の折り曲げ部材を、前記挟持部にて気密幕材の上縁部が挟持され且つ前記爪部が互いに向い合うよう対向配置することにより、前記掛止金具を構成した請求項1記載のクリーンルーム内の養生装置。
【請求項3】
前記締結部材を、前記折り曲げ部材の貫通孔及び気密幕材の取付孔に挿通されるボルトと、該ボルトに螺合される蝶ナットとから構成した請求項2記載のクリーンルーム内の養生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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