クレープ加工ブレード
ここには、クレープ加工のブレードが記載してある。本発明によるブレードは、その作業刃先を覆うと共に、クレープ加工中にウェブが衝突する表面を覆っているセラミック最上層を有する。このセラミック最上層は、クロミア・チタニアからなるセラミック組成物であり、チタニア含量は25重量%までであり、最も好ましくは10%〜15%のチタニアを含有している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はクレープ加工ブレードに関する。より詳しくは、本発明は、セラミック・コーティングを備えるクレープ加工ブレードおよびこのようなブレードを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クレープ加工ドクター・ブレードが、普通、薄葉紙の製造で使用されている。このブレードは、剛性の高温ドライヤ・シリンダ(しばしば、ヤンキー・ドライヤと呼ばれる)から紙ウェブを分離する機能を持つと共に、ウェブに圧縮作用を加えて薄葉紙製品の代表的なクレープ構造を創り出す。
【0003】
今日では、クレープ加工ブレードは、以下のような多くの要件を満たさなければならない。
−ブレードは、ドライヤ表面に紙ウェブを張り付ける付着力に打ち勝たなければならない。この付着現象は、(ウェブを乾燥させるために)噴霧ブームによってドライヤに塗布した化学的コーティングによって促進される。
−ブレードは、ウェブに所望のクレープ構造を創り出し、薄葉紙に適切なかさ高性、柔らかさおよび機械的強さを与えなければならない。この局面では、ブレード先端の幾何学的形態が重要である。所与のクレープ加工状況における直角刃先ブレード(90度)は、同じクレープ加工状況において、例えば75度の鋭い刃先を有するブレードの場合とは異なった薄葉紙を創り出すことになる。前者の状況では、後者の場合よりも高いかさ高性でよりきめの粗いクレープ構造を与える。
−ブレードは、可能な限り長い期間にわたって薄葉紙パラメータをできる限り一定に保たなければならない。換言すれば、ブレード先端の摩耗およびウェブ上のコーティング化学物質層との相互作用が重要なファクタとなる。
−ブレードは、ドライヤ表面とできる限り相性が良くなければならない。このことは、
いかなる摩耗もドライヤ表面ではなくてブレードに主として、または、もっぱら生じ なければならないことを意味する。ドライヤの表面は、鋳鉄(シリンダの大部分と同じ材料、すなわち、いかなる表面付着物もないシリンダ)か、または、たとえば、溶射によって得られた金属化のいずれかであり得る。一例として、国際公開公報97/22729が、ヤンキー・ドライヤをコーティングする方法を記載している。
【0004】
クレープ加工ブレードは種々の理由で摩耗を受ける。まず、ドライヤの滑り摩耗があり、次に、クレープ加工中にウェブがブレードに衝突することによる衝撃摩耗がある。クレープ加工ブレードの進行する摩耗が薄葉紙特性の望ましくない漸進的変化、たとえば、かさ高性および柔らかさの変化に直接関連することはわかっている。実際的な経験では、多くの薄葉紙工場を調査した結果、薄葉紙の最良の特性は新しいブレードでしか得られないことを示している。鋼製ブレードの場合、この良好特性期間はほんの1リール分ほどの短さであった。
【0005】
このような作用(すなわち、ブレード摩耗)に適応するために、薄葉紙メーカーは、受け入れ可能であると思われる特性限度を特定している。それにもかかわらず、ブレード交換後の最初のリールのごく初期の部分で達成する薄葉紙品質についての産業上の高需要があるはずである。目標とする薄葉紙特性範囲をもはや達成できなくなったときに、クレープ加工ブレードを新しいものと交換し、所望の特性をふたたび獲得するが、これは急速に低下する。一般的に、AISI1074のような等級タイプの鋼製ブレードが焼入れ焼戻し状態で使用される。このようなブレードは、一般的に急激に摩耗し、その結果、薄葉紙品質に急激な変化を生じさせると共に、薄葉紙をドライヤ表面と微細溶着させる可能性があり、いわゆるホット・ウェービング現象を招く。
【0006】
上記の理由のために、ブレード先端のところに硬質で耐摩耗性のある材料を加えることによってブレードのこのような作用を改善するいくつかの試みがなされてきた。
【0007】
米国特許第3,688,336号が、溶射タイプの適切な方法によってブレード先端に耐磨耗性材料を加える可能性を説明している。耐磨耗性材料の切粉発生を回避したいという要望が認識された。この米国特許は、ブレード先端に溝を設けると共に、この溝内の耐磨耗性材料とブレードの前縁との間に侵入スペースを設けるという解決策を提案している。
【0008】
英国特許第2,128,551号が、多数回のパスで溶射によってコーティングした刃先を有し、セラミックまたは金属炭化物族から選んだ耐磨耗性材料で作ったクレープ加工ブレードとして使用することのできる多目的スクレーパを開示している。より詳しくは、アルミナ・チタニアが提示されている。さらに、可撓性について焦点が当てられており、ここでも、脆性を最小限に抑える必要性が強調されている。
【0009】
米国特許第6,207,021号および米国特許第6,074,526号のような他の文献が、ドライヤに対するほぼ一定の接触面を得るためにブレード先端に凹所を創り出し、これによって、一定の掻き取り効率を得る可能性を教示している。このような解決策が入念で精密な研磨によってブレードについての製造コストをかなり高めるという事実は別として、実際には、このような解決策では、熱間摩擦摩耗によるブレード先端欠損が生じ、滑り摩耗のための配置で残っている、ブレードの減少部分に塑性流動が生じる可能性がある。
【0010】
今日、薄葉紙産業界では溶射セラミック先端付きのブレードが使用されている。アルミナ、アルミナ・チタニアおよびアルミナ・ジルコニアを含むセラミック組成物がこの分野では周知である。60%/40%のアルミナ・ジルコニアは、鋳鉄に対する良好な滑り摩耗、非常に高い破壊靭性、および同時に比較的低い硬度という基本的な要件を満たす。上述の特徴を有するクレープ加工ブレードは寿命に関しては利点をもたらすが、まだ多数の欠点を持っている。
【0011】
まず、セラミック刃先の切粉発生問題のためにブレード寿命に大きな変動がある。ざっと5分〜12時間あたりになる寿命後にブレードを取り外し、交換しなければならない。セラミック先端のブレードを使用するときに観察された欠損の大部分が、ブレード交換後のごく初期に生じることが実際に観察されている。比較的小さいならば、このような切粉は、巻き取り時にマザー・リール上のしばしば「トラムライン」と呼ばれるものの発生原因となる。ブレードにおけるこのような切粉のサイズが増大するにつれて、または、薄葉紙の等級がより低い坪量へ低下するにつれて、切粉が薄葉紙ウェブの破断および穴を生じさせる可能性がある。これは生産性および品質を損なう。この点に関連して、薄葉紙生産でますます多くの再生繊維を使用する傾向がはっきりしてきており、これがますます多くの高灰分含量の原因となり、薄葉紙製造プロセスで外部粒子が混入することになり、それによって、最新技術のセラミック先端付きのクレープ加工ブレードの前縁におけるより多くの切粉発生さえ促進する。
【0012】
次に、最新技術による溶射セラミック先端付きのブレードについての別の限界は、化粧タオルのような高品質薄葉紙の場合、普通のセラミック・ブレードが長期間にわたって非常に厳しい薄葉紙特性を保つことができないということにある。摩耗したセラミック・ブレードを点検すると、品質についてあまり厳しくない薄葉紙の場合に比べて、このような場合には薄葉紙の衝突が前縁にかなり近いところで生じていることがわかる。このことは、ドライヤ表面への非常に高い付着性を持たせることによって高い柔らかさを獲得しており、それによってウェブ分離およびその衝突がクレープ加工ブレードの前縁に近いところで生じるという事実を考えれば理解できる。その結果、セラミック・ブレードの先端のところで、再度、切粉発生があり、この場合、微小なミクロ切粉が発生し、刃先が「丸くなる」原因となる。したがって、薄葉紙特性は、セラミック先端付きのブレードを使用する場合でも急速に低下する。この点で、衝突が保護されていない「侵入スペース」で生じるため、上記の米国特許第3,688,336号と同様の解決策は役に立たないことになる。
【0013】
溶射した金属炭化物、たとえば、WC−CoまたはWC−Co−Crで先端を作ったクレープ加工ブレードの使用は知られている。このような材料は、溶射セラミックよりは脆性が低く、従って刃先切粉発生現象は少ない。それにもかかわらず、他の欠陥の故にこのような材料の使用は避けなければならない。すなわち、
−ドライヤ表面の摩耗率が潜在的に高くなるし、薄葉紙製造機内で振動が生じ、それがクレープ加工ブレードに伝わった場合にはびびりマークによる損傷が潜在的に高い。
−金属炭化物は、炭化物を埋め込んだ金属マトリクスにより構成される。このような状況では、滑り接触の際に生じる高温において、ブレード、ドライヤ表面間の微細溶着事象を促進させる可能性がある。これは、ドライヤからブレードへの材料の転移の原因となり、高価なドライヤ・シリンダの表面またはその高価な金属化表面の早期摩耗または早期損傷を招くことになる可能性がある。
−金属炭化物の別の限界は、その高い熱伝導率に原因する。摩擦摩耗は、大量の熱を発生させ、これが既に高温のホット・ドライヤ表面の温度に加わる。金属または金属炭化物の刃先コーティングを行った鋼製クレープ加工ブレードまたは鋼製基材で作ったクレープ加工ブレードは、先端から約10mmのところで青色となることがある。これは300℃を超える温度のためと考えられる。長いブレード(幅広機械)では、鋼がかなり膨張して、ブレードにウェービングを生じさせ、ブレード・ホルダを不安定にし、特にこのような高温のブレードを取り外すときにそれを困難にし、おそらくはヤンキー・ドラムに損害を与える。これがいわゆるホット・ウェービング現象である。
【0014】
したがって、薄葉紙産業界には、摩擦の観点からセラミック材料の有利な特徴を含むが、材料脆性から生じる切粉発生欠陥を持たない改良特性を持つクレープ加工ブレードについての要望がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって、本発明の一目的は、溶射セラミック先端を有するクレープ加工ブレードであって、上記のマクロ切粉制限を持たず、ブレード寿命における大きな変動を回避するクレープ加工ブレードを提供することにある。
【0016】
本発明の第2の目的は、化粧紙のような高品質の薄葉紙に使用したときにミクロ切粉に対してより大きい耐性を有し、薄葉紙特性をより長い期間にわたって所望の範囲内に保つことができる、すなわち、ブレード寿命を延ばすことができるブレードを提供することにある。
【0017】
本発明の別の目的は、ドライヤ表面の早期摩耗または微細溶着によるドライヤ表面からブレードの滑り接触面への材料転移のない、種々タイプのヤンキー・ドライヤ表面、たとえば、鋳鉄、金属化の両方に適合するブレードを提供することにある。
【0018】
また別の目的は、ブレードの掻き取り効率を長期間にわたってできるだけ一定に保つようにクレープ加工ブレードの超低滑り摩耗率を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明が基礎とする驚くべき所見は、アルミナ・ベースの製品よりも大きい脆性を有する或る種の溶射セラミック化合物を使用することで、クレープ加工ブレード用途での切粉発生問題を解決できると共に、前述の他の目的も果すことができるということである。熟練した技術者も驚いたことには、溶射で塗布したクロミア・チタニア(Cr2O3/TiO2)のセラミックで先端を作ったクレープ加工ブレードがその前縁のところに何ら切粉、小さいエッジ・ミクロ切粉もいかなるマクロ切粉をも示さないということがわかった。
【0020】
代表的には、セラミック材料は、少なくともドライヤ・シリンダと接触するようになっている部分(作業刃先または前縁)にわたって、ならびに、クレープ加工中にウェブが衝突する部分にわたってブレード基体を覆う。換言すれば、セラミック最上層が、ドライヤ・シリンダの表面と接触するようになっている作業刃先と、クレープ加工中にウェブが衝突するウェブ衝突領域との両方を形成する。それ故、本発明のセラミック組成物は、ドライヤ・シリンダによるブレードの滑り摩耗およびウェブが衝突するブレード領域における衝撃摩耗の両方を改善する。
【0021】
チタニア含量が25質量%以下である溶射クロミア・チタニアで先端を作ったブレードは、本明細書の発明の開示の欄および以下に示す種々の実施例で説明するように、上記のクレープ加工要件すべてに適していることがわかった。
【0022】
ブレード先端におけるセラミック・コーティングは、好ましくは5質量%〜25質量%のチタニア(TiO2)、好ましくは5質量%〜15質量%チタニア(TiO2)、最も好ましくは10%〜15%のチタニアを含むクロミア・チタニア(Cr2O3/TiO2)である。
【0023】
また、セラミック組成物にチタニアを添加すると、靭性が向上し、それによって製造中または製造後のブレードのコイリングを容易にする。セラミック溶着物の靭性が低すぎる場合にはブレードをコイリングするときにセラミック溶着物とブレード基体との間に層間剥離が発生する可能性があることがわかっている。
【0024】
本発明によるクロミア・チタニア・セラミック溶着物は、好ましくは、コーティング微細構造になんらチタニア薄層のない単相コーティングである。この事実がコーティングの耐摩耗性を向上させると考えられる。多相材料においては、一般的に、各相が摩耗に対して異なった様相で反応する。これがクレープ加工面を粗面化すると共にウェブ破断のリスクを高める。このことは、低坪量薄葉紙にとって特に重要になる。本発明による単相セラミック最上層の使用で、摩耗が均一になり、クレープ加工ブレードの寿命を通じて滑らかな表面を与える。特に、ブレードのウェブ衝突領域に生じるいかなる摩耗も均一になる。その結果、滑らかな磨耗面がもたらされ、したがって、クレープ加工特性を維持し、長期間にわたってクレープ加工製品の品質をほぼ一定に維持する。セラミック・コーティングを単相にするために、ほぼ単相の粒子からなる溶射用粉末で溶射を行うことによってコーティングを施す。換言すれば、溶射プロセスのための原料は、クロミア粒子とチタニア粒子からなる単純な混合物ではなく、むしろ、各粒子が所望含量のクロミアおよびチタニアをすでに持っている粉末である。クロミア粒子およびチタニア粒子の単純な機械ブレンドを行うだけでは、代表的な二重相特性を有するコーティングとなり、上記の滑らかな摩耗作用という利点を得ることはできない。単相コーティング組成物の特性は、以下の説明でより詳しく示す。
【0025】
以下、好ましい実施形態および実際的な実施例によって本発明の詳細な説明を行う。この説明は添付図面と関連して行う。
図1は、ドライヤ・シリンダの表面と、従来技術による新しく据え付けたクレープ加工ブレード(鋼製ブレード)の作業刃先との係合領域を示している。
図2は、或る作業時間後の、ドライヤの表面と、従来技術による摩耗したクレープ加工ブレード(鋼製ブレード)の作業刃先との係合領域を示している。
図3は、ドライヤの表面と、本発明による新しく据え付けたクレープ加工ブレードの作業刃先との係合領域を示している。
図4は、従来技術によるブレードについての図2の場合と同様の作業時間後の、ドライヤの表面と、本発明によるクレープ加工ブレードの作業刃先との係合領域を示している。
図5〜7は、ブレード滑り斜角についてのEDXスペクトルを示しており、これについては以下の実施例1で述べる。
図8は、マクロ切粉事象のSEM図であり、これについては下記の実施例1で言及する。
図9、10は、クレープ加工ブレードの作業刃先のSEM図であり、これについては下記の実施例2において言及する。
図11は、3種類のブレードについて得た柔らかさを表すグラフであり、これについては下記の実施例3において言及する。
図12、13は、従来技術ブレードについての2つの異なった稼働時間後の摩耗パターンを示しているSEM図である。
図14は、本発明によるクレープ加工ブレードについての摩耗パターンを示しているSEM図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明によるクレープ加工ブレードの実施形態は以下のものを含み得る。
−0.635〜1.250mmの厚さ、50〜150mm、好ましくは75〜120mの幅を有する鋼製基体。
−0度(プレ斜角(prebevel)なし)〜10度、好ましくは4〜8度の角度を持つ鋼製基体のプレ斜角。
−たとえば、大気圧プラズマ溶射(APS)によって10〜50ミクロンの厚さにNi−Cr(80/20)の溶射を行うことで適切に塗布したボンドコート。
−ブレードの作業刃先でのセラミック最上層。このセラミックは、ブレードの前部で150〜300ミクロン、好ましくは200〜300ミクロンの厚さを有する、たとえば、APSによって適切に塗布した溶射クロミア・チタニア組成物である。
−意図した用途に従って約−15度(75度ブレード)〜約+15度(105度ブレード)の所望の前部斜角までブレードに行う最終研磨。
−0mm(面取り部なし)〜0.5mmの長さを有し、3〜15度、好ましくは6〜12度の、滑り斜角より低い斜角を有する、ブレード先端でドライヤに面する表面における面取り斜角。
【0027】
クロミア−チタニアのトップコーティングを有し、チタニア含量が、5%〜25%、最も好ましくは10%〜15%の範囲にあることが好ましい。
【0028】
前置きとして、本発明によるクレープ加工ブレードの性能を、従来技術ブレードを本発明のブレードと比較している図1〜4を参照しながら簡単に説明する。
【0029】
図1は、従来技術クレープ加工ブレードの使用状態を図解しており、新しく据え付けた鋼製ブレードについての状況を示している。クレープ加工ブレード2が、ドライヤ・シリンダ1の表面に係合した状態で示してある。ドライヤは、矢印aの方向に移動し、ブレード2の作業刃先5へ紙ウェブ3およびコーティング化学物質層4を運ぶ。紙ウェブ3は、ブレードの刃先5付近のポイント6でブレードの表面11に衝突し、それにより圧縮され、クレープ加工された薄葉紙7の形で方向を変える。この図に示すように、コーティング化学物質層4は、クレープ加工ブレードの作業刃先5によって部分的にはぎ取られるが、この化学物質層8の若干の材料がドライヤ1の表面に残る。ウェブとシリンダ表面の付着度が非常に高い場合、クレープ加工ブレードのウェブ衝突領域に対応するポイント6は、作業刃先5に非常に近いか、重なることさえある。
【0030】
図2も従来技術によるクレープ加工ブレードの使用状態を図解しているが、ここでは、作業時間t1が経過している。それ故、図2は、ドライヤ表面に対する滑りにより摩耗した従来技術クレープ加工ブレード2についての状況を示す。ここでは、図1に示す作業刃先5が滑り面5’に代わっている。領域6に位置する衝撃摩耗がブレードの表面11に溝を創り出している。ブレード先端に加えられる通常の一定の線形負荷により、滑り面5'の発生がブレード2の掻き取り効率を直ちに低下させることになる。それによって、残留化学物質層8の量が経時的に増大することになる。
【0031】
図3は、本発明によるクレープ加工ブレード2の使用状態を図解しており、新しく据え付けたブレードについての状況を示している。ブレードは、刃先5でドライヤ表面と接触している。耐磨耗性クロミア−チタニア層が図のより暗色の領域9に示してある。この例においては、鋼製基体に設けたプレ斜角により、図のより暗色の領域9で示すようにセラミック・コーティングがくさび形状となる。
【0032】
図4も本発明によるクレープ加工ブレード2の使用状態を図解しているが、ここでは、作業時間t1(従来技術による鋼製ブレードについて図2に示したのと同様の作業時間)が経過している。それ故、図4は、本発明による摩耗したクレープ加工ブレードについての状況を示している。滑り摩耗率は、図2に示す従来技術ブレードについての状況と比較してかなり低く、滑り斜角5'がかなり小さくて、事実上、刃先と変わらない。結果として、ブレード先端に加えられる所与の線形負荷について、本発明のブレードの掻き取り効率は、新しく据え付けたブレードと比較してほんのわずか低いだけであり、コーティング化学物質層4の残留量8はほんの少し増大するだけである。
【実施例】
【0033】
本発明によるクレープ加工ブレードの性能を決定するために多数の比較試験を実施した。
【0034】
実施例1
薄葉紙工場において、3種類のクレープ加工ブレードで試験を実施した。Aというラベルを付けた第1のタイプは、本発明によるブレードであり、15%のチタニア含量を有するクロミア・チタニアのセラミックトップコーティングを持っていた。Bというラベルを付けた第2のタイプは、セラミック・コーティングのためのアルミナ・ベースの材料を有する従来技術によるセラミック先端付きブレードであった。Cというラベルを第3のタイプは、従来技術による金属炭化物ブレードであった。
【0035】
クレープ加工プロセスについての稼働条件は次の通りであった。
−100%再生繊維から作った紙ウェブ。
−産業タオル・タイプの薄葉紙。
−湿潤強度で19、22、28g/m2の坪量。
−1050メートル/分のヤンキー速度。
−15%のクレープ率。
−Metso Curemate-78、HVOF WC-Co-Crコーティングからなるヤンキー表面。
−3.5〜4%のウェブ湿度。
−1.2×100×2980mm(厚さ×幅×長さ)のクレープ加工ブレード寸法。
−85度(直角刃先から−5度)のブレード斜角。
−2.5バール(読み取りスケールで280kgf/m)のブレード負荷。
−37ml/分または2.3mg/m2のCyltac (Key Chemicals) 133を含むベース接着組成物。
−16ml/分または4.6mg/m2のCylube (Key Chemicals) 112を含む剥離組成物。
−17ml/分または1.8mg/m2のCyltac 420 (Key Chemicals) (DiAmmoniumPhosphate)を含むモディファイア組成物。
【0036】
ブレードA(本発明によるブレード)を19時間稼働させたが、その寿命に限界はなかった。ブレードBを11時間稼働させたが、2つの切粉が発生したため取り外した。ブレードCを20時間稼働させたが、その寿命に限界があった。
【0037】
図5は、19時間の稼働後にブレードAの滑り斜角上で測定したEDX(エネルギ分散型X線)スペクトルを示している。Curemate-78表面(W−Co−Cr)の材料に関連したピークは見いだせない。Cr、TiおよびOからのピークは、クレープ加工ブレード・コーティングのセラミック組成に関連しており、Auからのピークはサンプルのゴールド・スパッタリングに起因する。
【0038】
図6は、11時間の稼働時間後にブレードBの滑り斜角上で測定したEDXスペクトルを示している。ここでも、Curemate-78表面の材料に関連したピークは見いだせない。Al、ZrおよびOからのピークは、クレープ加工ブレード・コーティングのセラミック組成に関連しており、Auからのピークはサンプルのゴールド・スパッタリングに起因する。
【0039】
図7は、20時間の稼働時間後にブレードCの滑り斜角上で測定したEDXスペクトルを示している。ブレード材料は、なんらCrを含まないWC−Coである。このスペクトルにおいて、小さいが、明らかに目に見えるCrピークは、ヤンキーのCuremate-78表面の材料(W−Co−Cr)に関連している。定量的ではないが、これは、ブレードの材料とヤンキー・ドライヤ表面の材料との摩擦/微細溶着相互作用のしるしである。
【0040】
さらに、図8は、ブレードB上で発生したマクロ切粉のSEM図である。セラミックの破損が薄葉紙ウェブ上に線状欠陥を創り出した。これは、許容できるものではなく、したがって、ブレード交換の原因となる。この実施例の結論として、最新技術のセラミック先端付きブレード(ブレードB)はマクロ切粉を生じやすい。最新式の金属炭化物先端付きブレード(ブレードC)は、特にマクロ切粉を生じやすいわけではないが、ドライヤCuremate-78表面との望ましくない相互作用のしるしを示している。本発明によるブレード(ブレードA)は、2つの最新式のブレードの利点を兼備している。
【0041】
実施例2
現在アルミナ・ベースのクレープ加工ブレードを使用している別の薄葉紙製造機械で、本発明による10個のブレードについて試験を実施した。クレープ加工プロセスについての稼働条件は次の通りであった。
−100%脱インク繊維(再生)から作った紙ウェブ。
−トイレットペーパー薄葉紙タイプ。
−16g/m2の坪量。
−770メートル/分のヤンキー速度。
−鋳鉄からなるヤンキー表面。
−560メートル/分のリール速度(クレープ率27%)。
−3%のウェブ湿度。
−1.2×120×3420mm(厚さ×幅×長さ)のクレープ加工ブレード寸法。
−85度(直角刃先から−5度)のブレード斜角。
−2.5kN/mのブレード負荷。
−60mmのスティック・アウト
【0042】
この機械で現在使用されているセラミック・ブレードは、1時間から100時間越までに及ぶ、ブレード寿命における非常に大きな変動を示している。現在使用されているアルミナ・ベースのセラミック先端付きブレードの寿命は、主として切粉発生問題で制限されており、平均寿命は約50時間である。この機械で試験した本発明による10個のブレードの寿命は、77−116−60−142−76−50−65−109−44−124時間であった。平均86時間であり、最短寿命は44時間であった。この場合、ブレードの交換は、紙等級の変化によって必然的に決まり、切粉発生問題によるものではなかった。
【0043】
アルミナ・ベースのセラミック先端付きブレードをこの機械で131時間稼働させた後、走査型電子顕微鏡(SEM)で点検した。図9は、そのブレードの刃先のSEM図を示している。滑り摩耗経路(図の矢印で示す)は550μmの幅を有することがわかった。
【0044】
図10は、同様のSEM図であるが、この機械で142時間の稼働時間後の本発明によるクレープ加工ブレードを示している。滑り摩耗経路(図の矢印で示す)は150μmの幅を有することがわかった。これは、同じ機械での同様の稼働時間についての最新式のブレードに対して図9に明示した結果と比較されるべきである。
【0045】
この実施例の結論として、この低い薄葉紙坪量についての鋳鉄での切粉に対する耐性が本発明によるブレードを用いて大きく改善されると言える。このような非常に軽い薄葉紙と関連したブレード切粉がウェブ破断、したがって、生産性の損失の原因となり得ることは指摘したい。
【0046】
さらに、最新式のブレードと比べて本発明のブレードについて得られたより低い滑り摩耗経路(550μmと比べて150μm)は、経時的なコーティング化学製品のより均一な掻き取り効率、したがって、また、より一定のクレープ加工プロセスを保証することになる。
【0047】
実施例3
現在アルミナ・ベースのセラミック先端付きのクレープ加工ブレードを使用しているさらにまた別の薄葉紙製造機械で、最新式のブレードと本発明によるブレードとの比較試験を行った。
クレープ加工プロセスについての稼働条件は次の通りであった。
−100%バージン繊維から作った紙ウェブ。
−柔らかいトイレットペーパー薄葉紙タイプ。
−21g/m2の坪量。
−1100メートル/分のヤンキー速度。
−鋳鉄を含むヤンキー表面。
−1.2×120×2790mm(厚さ×幅×長さ)のクレープ加工ブレード寸法、
−75度(直角刃先から−15度)のブレード斜角。
【0048】
最新式のセラミック先端付きブレードおよび金属炭化物先端付きのブレードを本発明によるブレードと比較した。本発明によるブレードは、90%クロミア・10%チタニア組成であった。この場合、柔らかさの特性値がこの薄葉紙工場の重要な基準である。3種類のブレードを、同じ等級品の3日連続生産中に約8時間稼働させた。所望の柔らかさ値は、3.0であり、最低の受け入れ可能な値は2.6であった。図11は、3種類のブレードで得た結果を表すグラフを示している。
【0049】
明らかに、この試験は、高品質薄葉紙等級の場合、最新式のセラミック・ブレードが金属炭化物ブレードと同じ結果を達成することができないこと、すなわち、柔らかさをできる限り一定かつ高く保つことができないことを示している。しかしながら、本発明によるブレード(この場合、90%クロミアおよび10%チタニアを有するセラミック)は、金属炭化物先端付きのブレードの柔らかさに匹敵する柔らかさを与えるが、摩擦適合性に関して潜在的欠点を持っていない。
【0050】
実施例4
上の実施例2の薄葉紙機械において、検査を実施した(上記実施例2で概説したと同じ稼働条件下)。それにより、摩耗したブレードの摩耗パターンを点検した。従来技術によるアルミナ・ジルコニア・セラミック先端付きのブレードと本発明によるクロミア・チタニア・セラミック先端付きのブレードとを比較した。摩耗したブレードの点検は、走査電子顕微鏡観察(SEM)で行った。
【0051】
図12は、28時間の稼働時間後に、最新式のアルミナ・ジルコニア・セラミック先端付きのブレード上でウェブを走行させることによって生じた摩耗パターンのSEM図を示している。
図13は、図12と同様の図を示しているが、ここでは、131時間の稼働時間後である。
図14は、図12、13と同様の図を示しているが、これは本発明によるブレードの図である。図14に示すブレードは、15質量%チタニアを有するクロミアのセラミック・コーティングを有する。図14に示す摩耗パターンは、116時間の稼働時間後に生じたものである。
【0052】
図12〜14(すべて同じ倍率である)は、明らかに、40質量%ジルコニアを有するアルミナのような多相材料の摩耗が非常に粗い摩耗パターンの原因となるが、本発明による単相材料(15質量%チタニアを有するクロミア)がブレードに非常に滑らかな衝撃摩耗パターンを与えることを示している。衝撃摩耗パターンにおけるこの差は、本発明によるセラミック先端付きのブレードを使用したことでなぜ従来技術多相セラミック材料と比較してウェブ破断の頻度を減らすのかを説明できる。
【0053】
結論
クレープ加工のためのブレードを説明してきた。本発明によるブレードは、ブレードの作業刃先を覆うと共に、クレープ加工中にウェブが衝突する表面を覆っているセラミック最上層を有する。セラミック最上層は、クロミア・チタニアからなるセラミック組成物である。好ましくは、最上層のセラミック組成物は、チタニア含量が5質量%〜25質量%、最も好ましくは、10%〜15%のチタニアを含むクロミア・チタニアを含む。
【0054】
本発明によるブレードは、ブレードの作業刃先のところで滑り摩耗を低減することになり、これがより均一な掻き取り効率を与える。さらに、本発明によるブレードのセラミック最上層は単相組成物からなり、これがクレープ加工ブレードと衝突する領域での比較的均一な衝撃摩耗に通じる。また、これは、クレープ加工プロセスが経時的により一定となり、ウェブ破断の発生を大幅に減らすという利点を与える。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】ドライヤ・シリンダの表面と、従来技術による新しく据え付けたクレープ加工ブレード(鋼製ブレード)の作業刃先との係合領域を示している。
【図2】或る作業時間後の、ドライヤの表面と、従来技術による摩耗したクレープ加工ブレード(鋼製ブレード)の作業刃先との係合領域を示している。
【図3】ドライヤの表面と、本発明による新しく据え付けたクレープ加工ブレードの作業刃先との係合領域を示している。
【図4】従来技術によるブレードについての図2の場合と同様の作業時間後の、ドライヤの表面と、本発明によるクレープ加工ブレードの作業刃先との係合領域を示している。
【図5】ブレード滑り斜角についてのEDXスペクトルを示しており、これについては実施例1で述べる。
【図6】ブレード滑り斜角についてのEDXスペクトルを示しており、これについては実施例1で述べる。
【図7】ブレード滑り斜角についてのEDXスペクトルを示しており、これについては実施例1で述べる。
【図8】マクロ切粉事象のSEM図であり、これについては実施例1で言及する。
【図9】クレープ加工ブレードの作業刃先のSEM図であり、これについては実施例2において言及する。
【図10】クレープ加工ブレードの作業刃先のSEM図であり、これについては実施例2において言及する。
【図11】3種類のブレードについて得た柔らかさを表すグラフであり、これについては実施例3において言及する。
【図12】従来技術ブレードについての2つの異なった稼働時間後の摩耗パターンを示しているSEM図である。
【図13】従来技術ブレードについての2つの異なった稼働時間後の摩耗パターンを示しているSEM図である。
【図14】本発明によるクレープ加工ブレードについての摩耗パターンを示しているSEM図である。
【技術分野】
【0001】
本発明はクレープ加工ブレードに関する。より詳しくは、本発明は、セラミック・コーティングを備えるクレープ加工ブレードおよびこのようなブレードを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クレープ加工ドクター・ブレードが、普通、薄葉紙の製造で使用されている。このブレードは、剛性の高温ドライヤ・シリンダ(しばしば、ヤンキー・ドライヤと呼ばれる)から紙ウェブを分離する機能を持つと共に、ウェブに圧縮作用を加えて薄葉紙製品の代表的なクレープ構造を創り出す。
【0003】
今日では、クレープ加工ブレードは、以下のような多くの要件を満たさなければならない。
−ブレードは、ドライヤ表面に紙ウェブを張り付ける付着力に打ち勝たなければならない。この付着現象は、(ウェブを乾燥させるために)噴霧ブームによってドライヤに塗布した化学的コーティングによって促進される。
−ブレードは、ウェブに所望のクレープ構造を創り出し、薄葉紙に適切なかさ高性、柔らかさおよび機械的強さを与えなければならない。この局面では、ブレード先端の幾何学的形態が重要である。所与のクレープ加工状況における直角刃先ブレード(90度)は、同じクレープ加工状況において、例えば75度の鋭い刃先を有するブレードの場合とは異なった薄葉紙を創り出すことになる。前者の状況では、後者の場合よりも高いかさ高性でよりきめの粗いクレープ構造を与える。
−ブレードは、可能な限り長い期間にわたって薄葉紙パラメータをできる限り一定に保たなければならない。換言すれば、ブレード先端の摩耗およびウェブ上のコーティング化学物質層との相互作用が重要なファクタとなる。
−ブレードは、ドライヤ表面とできる限り相性が良くなければならない。このことは、
いかなる摩耗もドライヤ表面ではなくてブレードに主として、または、もっぱら生じ なければならないことを意味する。ドライヤの表面は、鋳鉄(シリンダの大部分と同じ材料、すなわち、いかなる表面付着物もないシリンダ)か、または、たとえば、溶射によって得られた金属化のいずれかであり得る。一例として、国際公開公報97/22729が、ヤンキー・ドライヤをコーティングする方法を記載している。
【0004】
クレープ加工ブレードは種々の理由で摩耗を受ける。まず、ドライヤの滑り摩耗があり、次に、クレープ加工中にウェブがブレードに衝突することによる衝撃摩耗がある。クレープ加工ブレードの進行する摩耗が薄葉紙特性の望ましくない漸進的変化、たとえば、かさ高性および柔らかさの変化に直接関連することはわかっている。実際的な経験では、多くの薄葉紙工場を調査した結果、薄葉紙の最良の特性は新しいブレードでしか得られないことを示している。鋼製ブレードの場合、この良好特性期間はほんの1リール分ほどの短さであった。
【0005】
このような作用(すなわち、ブレード摩耗)に適応するために、薄葉紙メーカーは、受け入れ可能であると思われる特性限度を特定している。それにもかかわらず、ブレード交換後の最初のリールのごく初期の部分で達成する薄葉紙品質についての産業上の高需要があるはずである。目標とする薄葉紙特性範囲をもはや達成できなくなったときに、クレープ加工ブレードを新しいものと交換し、所望の特性をふたたび獲得するが、これは急速に低下する。一般的に、AISI1074のような等級タイプの鋼製ブレードが焼入れ焼戻し状態で使用される。このようなブレードは、一般的に急激に摩耗し、その結果、薄葉紙品質に急激な変化を生じさせると共に、薄葉紙をドライヤ表面と微細溶着させる可能性があり、いわゆるホット・ウェービング現象を招く。
【0006】
上記の理由のために、ブレード先端のところに硬質で耐摩耗性のある材料を加えることによってブレードのこのような作用を改善するいくつかの試みがなされてきた。
【0007】
米国特許第3,688,336号が、溶射タイプの適切な方法によってブレード先端に耐磨耗性材料を加える可能性を説明している。耐磨耗性材料の切粉発生を回避したいという要望が認識された。この米国特許は、ブレード先端に溝を設けると共に、この溝内の耐磨耗性材料とブレードの前縁との間に侵入スペースを設けるという解決策を提案している。
【0008】
英国特許第2,128,551号が、多数回のパスで溶射によってコーティングした刃先を有し、セラミックまたは金属炭化物族から選んだ耐磨耗性材料で作ったクレープ加工ブレードとして使用することのできる多目的スクレーパを開示している。より詳しくは、アルミナ・チタニアが提示されている。さらに、可撓性について焦点が当てられており、ここでも、脆性を最小限に抑える必要性が強調されている。
【0009】
米国特許第6,207,021号および米国特許第6,074,526号のような他の文献が、ドライヤに対するほぼ一定の接触面を得るためにブレード先端に凹所を創り出し、これによって、一定の掻き取り効率を得る可能性を教示している。このような解決策が入念で精密な研磨によってブレードについての製造コストをかなり高めるという事実は別として、実際には、このような解決策では、熱間摩擦摩耗によるブレード先端欠損が生じ、滑り摩耗のための配置で残っている、ブレードの減少部分に塑性流動が生じる可能性がある。
【0010】
今日、薄葉紙産業界では溶射セラミック先端付きのブレードが使用されている。アルミナ、アルミナ・チタニアおよびアルミナ・ジルコニアを含むセラミック組成物がこの分野では周知である。60%/40%のアルミナ・ジルコニアは、鋳鉄に対する良好な滑り摩耗、非常に高い破壊靭性、および同時に比較的低い硬度という基本的な要件を満たす。上述の特徴を有するクレープ加工ブレードは寿命に関しては利点をもたらすが、まだ多数の欠点を持っている。
【0011】
まず、セラミック刃先の切粉発生問題のためにブレード寿命に大きな変動がある。ざっと5分〜12時間あたりになる寿命後にブレードを取り外し、交換しなければならない。セラミック先端のブレードを使用するときに観察された欠損の大部分が、ブレード交換後のごく初期に生じることが実際に観察されている。比較的小さいならば、このような切粉は、巻き取り時にマザー・リール上のしばしば「トラムライン」と呼ばれるものの発生原因となる。ブレードにおけるこのような切粉のサイズが増大するにつれて、または、薄葉紙の等級がより低い坪量へ低下するにつれて、切粉が薄葉紙ウェブの破断および穴を生じさせる可能性がある。これは生産性および品質を損なう。この点に関連して、薄葉紙生産でますます多くの再生繊維を使用する傾向がはっきりしてきており、これがますます多くの高灰分含量の原因となり、薄葉紙製造プロセスで外部粒子が混入することになり、それによって、最新技術のセラミック先端付きのクレープ加工ブレードの前縁におけるより多くの切粉発生さえ促進する。
【0012】
次に、最新技術による溶射セラミック先端付きのブレードについての別の限界は、化粧タオルのような高品質薄葉紙の場合、普通のセラミック・ブレードが長期間にわたって非常に厳しい薄葉紙特性を保つことができないということにある。摩耗したセラミック・ブレードを点検すると、品質についてあまり厳しくない薄葉紙の場合に比べて、このような場合には薄葉紙の衝突が前縁にかなり近いところで生じていることがわかる。このことは、ドライヤ表面への非常に高い付着性を持たせることによって高い柔らかさを獲得しており、それによってウェブ分離およびその衝突がクレープ加工ブレードの前縁に近いところで生じるという事実を考えれば理解できる。その結果、セラミック・ブレードの先端のところで、再度、切粉発生があり、この場合、微小なミクロ切粉が発生し、刃先が「丸くなる」原因となる。したがって、薄葉紙特性は、セラミック先端付きのブレードを使用する場合でも急速に低下する。この点で、衝突が保護されていない「侵入スペース」で生じるため、上記の米国特許第3,688,336号と同様の解決策は役に立たないことになる。
【0013】
溶射した金属炭化物、たとえば、WC−CoまたはWC−Co−Crで先端を作ったクレープ加工ブレードの使用は知られている。このような材料は、溶射セラミックよりは脆性が低く、従って刃先切粉発生現象は少ない。それにもかかわらず、他の欠陥の故にこのような材料の使用は避けなければならない。すなわち、
−ドライヤ表面の摩耗率が潜在的に高くなるし、薄葉紙製造機内で振動が生じ、それがクレープ加工ブレードに伝わった場合にはびびりマークによる損傷が潜在的に高い。
−金属炭化物は、炭化物を埋め込んだ金属マトリクスにより構成される。このような状況では、滑り接触の際に生じる高温において、ブレード、ドライヤ表面間の微細溶着事象を促進させる可能性がある。これは、ドライヤからブレードへの材料の転移の原因となり、高価なドライヤ・シリンダの表面またはその高価な金属化表面の早期摩耗または早期損傷を招くことになる可能性がある。
−金属炭化物の別の限界は、その高い熱伝導率に原因する。摩擦摩耗は、大量の熱を発生させ、これが既に高温のホット・ドライヤ表面の温度に加わる。金属または金属炭化物の刃先コーティングを行った鋼製クレープ加工ブレードまたは鋼製基材で作ったクレープ加工ブレードは、先端から約10mmのところで青色となることがある。これは300℃を超える温度のためと考えられる。長いブレード(幅広機械)では、鋼がかなり膨張して、ブレードにウェービングを生じさせ、ブレード・ホルダを不安定にし、特にこのような高温のブレードを取り外すときにそれを困難にし、おそらくはヤンキー・ドラムに損害を与える。これがいわゆるホット・ウェービング現象である。
【0014】
したがって、薄葉紙産業界には、摩擦の観点からセラミック材料の有利な特徴を含むが、材料脆性から生じる切粉発生欠陥を持たない改良特性を持つクレープ加工ブレードについての要望がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって、本発明の一目的は、溶射セラミック先端を有するクレープ加工ブレードであって、上記のマクロ切粉制限を持たず、ブレード寿命における大きな変動を回避するクレープ加工ブレードを提供することにある。
【0016】
本発明の第2の目的は、化粧紙のような高品質の薄葉紙に使用したときにミクロ切粉に対してより大きい耐性を有し、薄葉紙特性をより長い期間にわたって所望の範囲内に保つことができる、すなわち、ブレード寿命を延ばすことができるブレードを提供することにある。
【0017】
本発明の別の目的は、ドライヤ表面の早期摩耗または微細溶着によるドライヤ表面からブレードの滑り接触面への材料転移のない、種々タイプのヤンキー・ドライヤ表面、たとえば、鋳鉄、金属化の両方に適合するブレードを提供することにある。
【0018】
また別の目的は、ブレードの掻き取り効率を長期間にわたってできるだけ一定に保つようにクレープ加工ブレードの超低滑り摩耗率を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明が基礎とする驚くべき所見は、アルミナ・ベースの製品よりも大きい脆性を有する或る種の溶射セラミック化合物を使用することで、クレープ加工ブレード用途での切粉発生問題を解決できると共に、前述の他の目的も果すことができるということである。熟練した技術者も驚いたことには、溶射で塗布したクロミア・チタニア(Cr2O3/TiO2)のセラミックで先端を作ったクレープ加工ブレードがその前縁のところに何ら切粉、小さいエッジ・ミクロ切粉もいかなるマクロ切粉をも示さないということがわかった。
【0020】
代表的には、セラミック材料は、少なくともドライヤ・シリンダと接触するようになっている部分(作業刃先または前縁)にわたって、ならびに、クレープ加工中にウェブが衝突する部分にわたってブレード基体を覆う。換言すれば、セラミック最上層が、ドライヤ・シリンダの表面と接触するようになっている作業刃先と、クレープ加工中にウェブが衝突するウェブ衝突領域との両方を形成する。それ故、本発明のセラミック組成物は、ドライヤ・シリンダによるブレードの滑り摩耗およびウェブが衝突するブレード領域における衝撃摩耗の両方を改善する。
【0021】
チタニア含量が25質量%以下である溶射クロミア・チタニアで先端を作ったブレードは、本明細書の発明の開示の欄および以下に示す種々の実施例で説明するように、上記のクレープ加工要件すべてに適していることがわかった。
【0022】
ブレード先端におけるセラミック・コーティングは、好ましくは5質量%〜25質量%のチタニア(TiO2)、好ましくは5質量%〜15質量%チタニア(TiO2)、最も好ましくは10%〜15%のチタニアを含むクロミア・チタニア(Cr2O3/TiO2)である。
【0023】
また、セラミック組成物にチタニアを添加すると、靭性が向上し、それによって製造中または製造後のブレードのコイリングを容易にする。セラミック溶着物の靭性が低すぎる場合にはブレードをコイリングするときにセラミック溶着物とブレード基体との間に層間剥離が発生する可能性があることがわかっている。
【0024】
本発明によるクロミア・チタニア・セラミック溶着物は、好ましくは、コーティング微細構造になんらチタニア薄層のない単相コーティングである。この事実がコーティングの耐摩耗性を向上させると考えられる。多相材料においては、一般的に、各相が摩耗に対して異なった様相で反応する。これがクレープ加工面を粗面化すると共にウェブ破断のリスクを高める。このことは、低坪量薄葉紙にとって特に重要になる。本発明による単相セラミック最上層の使用で、摩耗が均一になり、クレープ加工ブレードの寿命を通じて滑らかな表面を与える。特に、ブレードのウェブ衝突領域に生じるいかなる摩耗も均一になる。その結果、滑らかな磨耗面がもたらされ、したがって、クレープ加工特性を維持し、長期間にわたってクレープ加工製品の品質をほぼ一定に維持する。セラミック・コーティングを単相にするために、ほぼ単相の粒子からなる溶射用粉末で溶射を行うことによってコーティングを施す。換言すれば、溶射プロセスのための原料は、クロミア粒子とチタニア粒子からなる単純な混合物ではなく、むしろ、各粒子が所望含量のクロミアおよびチタニアをすでに持っている粉末である。クロミア粒子およびチタニア粒子の単純な機械ブレンドを行うだけでは、代表的な二重相特性を有するコーティングとなり、上記の滑らかな摩耗作用という利点を得ることはできない。単相コーティング組成物の特性は、以下の説明でより詳しく示す。
【0025】
以下、好ましい実施形態および実際的な実施例によって本発明の詳細な説明を行う。この説明は添付図面と関連して行う。
図1は、ドライヤ・シリンダの表面と、従来技術による新しく据え付けたクレープ加工ブレード(鋼製ブレード)の作業刃先との係合領域を示している。
図2は、或る作業時間後の、ドライヤの表面と、従来技術による摩耗したクレープ加工ブレード(鋼製ブレード)の作業刃先との係合領域を示している。
図3は、ドライヤの表面と、本発明による新しく据え付けたクレープ加工ブレードの作業刃先との係合領域を示している。
図4は、従来技術によるブレードについての図2の場合と同様の作業時間後の、ドライヤの表面と、本発明によるクレープ加工ブレードの作業刃先との係合領域を示している。
図5〜7は、ブレード滑り斜角についてのEDXスペクトルを示しており、これについては以下の実施例1で述べる。
図8は、マクロ切粉事象のSEM図であり、これについては下記の実施例1で言及する。
図9、10は、クレープ加工ブレードの作業刃先のSEM図であり、これについては下記の実施例2において言及する。
図11は、3種類のブレードについて得た柔らかさを表すグラフであり、これについては下記の実施例3において言及する。
図12、13は、従来技術ブレードについての2つの異なった稼働時間後の摩耗パターンを示しているSEM図である。
図14は、本発明によるクレープ加工ブレードについての摩耗パターンを示しているSEM図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明によるクレープ加工ブレードの実施形態は以下のものを含み得る。
−0.635〜1.250mmの厚さ、50〜150mm、好ましくは75〜120mの幅を有する鋼製基体。
−0度(プレ斜角(prebevel)なし)〜10度、好ましくは4〜8度の角度を持つ鋼製基体のプレ斜角。
−たとえば、大気圧プラズマ溶射(APS)によって10〜50ミクロンの厚さにNi−Cr(80/20)の溶射を行うことで適切に塗布したボンドコート。
−ブレードの作業刃先でのセラミック最上層。このセラミックは、ブレードの前部で150〜300ミクロン、好ましくは200〜300ミクロンの厚さを有する、たとえば、APSによって適切に塗布した溶射クロミア・チタニア組成物である。
−意図した用途に従って約−15度(75度ブレード)〜約+15度(105度ブレード)の所望の前部斜角までブレードに行う最終研磨。
−0mm(面取り部なし)〜0.5mmの長さを有し、3〜15度、好ましくは6〜12度の、滑り斜角より低い斜角を有する、ブレード先端でドライヤに面する表面における面取り斜角。
【0027】
クロミア−チタニアのトップコーティングを有し、チタニア含量が、5%〜25%、最も好ましくは10%〜15%の範囲にあることが好ましい。
【0028】
前置きとして、本発明によるクレープ加工ブレードの性能を、従来技術ブレードを本発明のブレードと比較している図1〜4を参照しながら簡単に説明する。
【0029】
図1は、従来技術クレープ加工ブレードの使用状態を図解しており、新しく据え付けた鋼製ブレードについての状況を示している。クレープ加工ブレード2が、ドライヤ・シリンダ1の表面に係合した状態で示してある。ドライヤは、矢印aの方向に移動し、ブレード2の作業刃先5へ紙ウェブ3およびコーティング化学物質層4を運ぶ。紙ウェブ3は、ブレードの刃先5付近のポイント6でブレードの表面11に衝突し、それにより圧縮され、クレープ加工された薄葉紙7の形で方向を変える。この図に示すように、コーティング化学物質層4は、クレープ加工ブレードの作業刃先5によって部分的にはぎ取られるが、この化学物質層8の若干の材料がドライヤ1の表面に残る。ウェブとシリンダ表面の付着度が非常に高い場合、クレープ加工ブレードのウェブ衝突領域に対応するポイント6は、作業刃先5に非常に近いか、重なることさえある。
【0030】
図2も従来技術によるクレープ加工ブレードの使用状態を図解しているが、ここでは、作業時間t1が経過している。それ故、図2は、ドライヤ表面に対する滑りにより摩耗した従来技術クレープ加工ブレード2についての状況を示す。ここでは、図1に示す作業刃先5が滑り面5’に代わっている。領域6に位置する衝撃摩耗がブレードの表面11に溝を創り出している。ブレード先端に加えられる通常の一定の線形負荷により、滑り面5'の発生がブレード2の掻き取り効率を直ちに低下させることになる。それによって、残留化学物質層8の量が経時的に増大することになる。
【0031】
図3は、本発明によるクレープ加工ブレード2の使用状態を図解しており、新しく据え付けたブレードについての状況を示している。ブレードは、刃先5でドライヤ表面と接触している。耐磨耗性クロミア−チタニア層が図のより暗色の領域9に示してある。この例においては、鋼製基体に設けたプレ斜角により、図のより暗色の領域9で示すようにセラミック・コーティングがくさび形状となる。
【0032】
図4も本発明によるクレープ加工ブレード2の使用状態を図解しているが、ここでは、作業時間t1(従来技術による鋼製ブレードについて図2に示したのと同様の作業時間)が経過している。それ故、図4は、本発明による摩耗したクレープ加工ブレードについての状況を示している。滑り摩耗率は、図2に示す従来技術ブレードについての状況と比較してかなり低く、滑り斜角5'がかなり小さくて、事実上、刃先と変わらない。結果として、ブレード先端に加えられる所与の線形負荷について、本発明のブレードの掻き取り効率は、新しく据え付けたブレードと比較してほんのわずか低いだけであり、コーティング化学物質層4の残留量8はほんの少し増大するだけである。
【実施例】
【0033】
本発明によるクレープ加工ブレードの性能を決定するために多数の比較試験を実施した。
【0034】
実施例1
薄葉紙工場において、3種類のクレープ加工ブレードで試験を実施した。Aというラベルを付けた第1のタイプは、本発明によるブレードであり、15%のチタニア含量を有するクロミア・チタニアのセラミックトップコーティングを持っていた。Bというラベルを付けた第2のタイプは、セラミック・コーティングのためのアルミナ・ベースの材料を有する従来技術によるセラミック先端付きブレードであった。Cというラベルを第3のタイプは、従来技術による金属炭化物ブレードであった。
【0035】
クレープ加工プロセスについての稼働条件は次の通りであった。
−100%再生繊維から作った紙ウェブ。
−産業タオル・タイプの薄葉紙。
−湿潤強度で19、22、28g/m2の坪量。
−1050メートル/分のヤンキー速度。
−15%のクレープ率。
−Metso Curemate-78、HVOF WC-Co-Crコーティングからなるヤンキー表面。
−3.5〜4%のウェブ湿度。
−1.2×100×2980mm(厚さ×幅×長さ)のクレープ加工ブレード寸法。
−85度(直角刃先から−5度)のブレード斜角。
−2.5バール(読み取りスケールで280kgf/m)のブレード負荷。
−37ml/分または2.3mg/m2のCyltac (Key Chemicals) 133を含むベース接着組成物。
−16ml/分または4.6mg/m2のCylube (Key Chemicals) 112を含む剥離組成物。
−17ml/分または1.8mg/m2のCyltac 420 (Key Chemicals) (DiAmmoniumPhosphate)を含むモディファイア組成物。
【0036】
ブレードA(本発明によるブレード)を19時間稼働させたが、その寿命に限界はなかった。ブレードBを11時間稼働させたが、2つの切粉が発生したため取り外した。ブレードCを20時間稼働させたが、その寿命に限界があった。
【0037】
図5は、19時間の稼働後にブレードAの滑り斜角上で測定したEDX(エネルギ分散型X線)スペクトルを示している。Curemate-78表面(W−Co−Cr)の材料に関連したピークは見いだせない。Cr、TiおよびOからのピークは、クレープ加工ブレード・コーティングのセラミック組成に関連しており、Auからのピークはサンプルのゴールド・スパッタリングに起因する。
【0038】
図6は、11時間の稼働時間後にブレードBの滑り斜角上で測定したEDXスペクトルを示している。ここでも、Curemate-78表面の材料に関連したピークは見いだせない。Al、ZrおよびOからのピークは、クレープ加工ブレード・コーティングのセラミック組成に関連しており、Auからのピークはサンプルのゴールド・スパッタリングに起因する。
【0039】
図7は、20時間の稼働時間後にブレードCの滑り斜角上で測定したEDXスペクトルを示している。ブレード材料は、なんらCrを含まないWC−Coである。このスペクトルにおいて、小さいが、明らかに目に見えるCrピークは、ヤンキーのCuremate-78表面の材料(W−Co−Cr)に関連している。定量的ではないが、これは、ブレードの材料とヤンキー・ドライヤ表面の材料との摩擦/微細溶着相互作用のしるしである。
【0040】
さらに、図8は、ブレードB上で発生したマクロ切粉のSEM図である。セラミックの破損が薄葉紙ウェブ上に線状欠陥を創り出した。これは、許容できるものではなく、したがって、ブレード交換の原因となる。この実施例の結論として、最新技術のセラミック先端付きブレード(ブレードB)はマクロ切粉を生じやすい。最新式の金属炭化物先端付きブレード(ブレードC)は、特にマクロ切粉を生じやすいわけではないが、ドライヤCuremate-78表面との望ましくない相互作用のしるしを示している。本発明によるブレード(ブレードA)は、2つの最新式のブレードの利点を兼備している。
【0041】
実施例2
現在アルミナ・ベースのクレープ加工ブレードを使用している別の薄葉紙製造機械で、本発明による10個のブレードについて試験を実施した。クレープ加工プロセスについての稼働条件は次の通りであった。
−100%脱インク繊維(再生)から作った紙ウェブ。
−トイレットペーパー薄葉紙タイプ。
−16g/m2の坪量。
−770メートル/分のヤンキー速度。
−鋳鉄からなるヤンキー表面。
−560メートル/分のリール速度(クレープ率27%)。
−3%のウェブ湿度。
−1.2×120×3420mm(厚さ×幅×長さ)のクレープ加工ブレード寸法。
−85度(直角刃先から−5度)のブレード斜角。
−2.5kN/mのブレード負荷。
−60mmのスティック・アウト
【0042】
この機械で現在使用されているセラミック・ブレードは、1時間から100時間越までに及ぶ、ブレード寿命における非常に大きな変動を示している。現在使用されているアルミナ・ベースのセラミック先端付きブレードの寿命は、主として切粉発生問題で制限されており、平均寿命は約50時間である。この機械で試験した本発明による10個のブレードの寿命は、77−116−60−142−76−50−65−109−44−124時間であった。平均86時間であり、最短寿命は44時間であった。この場合、ブレードの交換は、紙等級の変化によって必然的に決まり、切粉発生問題によるものではなかった。
【0043】
アルミナ・ベースのセラミック先端付きブレードをこの機械で131時間稼働させた後、走査型電子顕微鏡(SEM)で点検した。図9は、そのブレードの刃先のSEM図を示している。滑り摩耗経路(図の矢印で示す)は550μmの幅を有することがわかった。
【0044】
図10は、同様のSEM図であるが、この機械で142時間の稼働時間後の本発明によるクレープ加工ブレードを示している。滑り摩耗経路(図の矢印で示す)は150μmの幅を有することがわかった。これは、同じ機械での同様の稼働時間についての最新式のブレードに対して図9に明示した結果と比較されるべきである。
【0045】
この実施例の結論として、この低い薄葉紙坪量についての鋳鉄での切粉に対する耐性が本発明によるブレードを用いて大きく改善されると言える。このような非常に軽い薄葉紙と関連したブレード切粉がウェブ破断、したがって、生産性の損失の原因となり得ることは指摘したい。
【0046】
さらに、最新式のブレードと比べて本発明のブレードについて得られたより低い滑り摩耗経路(550μmと比べて150μm)は、経時的なコーティング化学製品のより均一な掻き取り効率、したがって、また、より一定のクレープ加工プロセスを保証することになる。
【0047】
実施例3
現在アルミナ・ベースのセラミック先端付きのクレープ加工ブレードを使用しているさらにまた別の薄葉紙製造機械で、最新式のブレードと本発明によるブレードとの比較試験を行った。
クレープ加工プロセスについての稼働条件は次の通りであった。
−100%バージン繊維から作った紙ウェブ。
−柔らかいトイレットペーパー薄葉紙タイプ。
−21g/m2の坪量。
−1100メートル/分のヤンキー速度。
−鋳鉄を含むヤンキー表面。
−1.2×120×2790mm(厚さ×幅×長さ)のクレープ加工ブレード寸法、
−75度(直角刃先から−15度)のブレード斜角。
【0048】
最新式のセラミック先端付きブレードおよび金属炭化物先端付きのブレードを本発明によるブレードと比較した。本発明によるブレードは、90%クロミア・10%チタニア組成であった。この場合、柔らかさの特性値がこの薄葉紙工場の重要な基準である。3種類のブレードを、同じ等級品の3日連続生産中に約8時間稼働させた。所望の柔らかさ値は、3.0であり、最低の受け入れ可能な値は2.6であった。図11は、3種類のブレードで得た結果を表すグラフを示している。
【0049】
明らかに、この試験は、高品質薄葉紙等級の場合、最新式のセラミック・ブレードが金属炭化物ブレードと同じ結果を達成することができないこと、すなわち、柔らかさをできる限り一定かつ高く保つことができないことを示している。しかしながら、本発明によるブレード(この場合、90%クロミアおよび10%チタニアを有するセラミック)は、金属炭化物先端付きのブレードの柔らかさに匹敵する柔らかさを与えるが、摩擦適合性に関して潜在的欠点を持っていない。
【0050】
実施例4
上の実施例2の薄葉紙機械において、検査を実施した(上記実施例2で概説したと同じ稼働条件下)。それにより、摩耗したブレードの摩耗パターンを点検した。従来技術によるアルミナ・ジルコニア・セラミック先端付きのブレードと本発明によるクロミア・チタニア・セラミック先端付きのブレードとを比較した。摩耗したブレードの点検は、走査電子顕微鏡観察(SEM)で行った。
【0051】
図12は、28時間の稼働時間後に、最新式のアルミナ・ジルコニア・セラミック先端付きのブレード上でウェブを走行させることによって生じた摩耗パターンのSEM図を示している。
図13は、図12と同様の図を示しているが、ここでは、131時間の稼働時間後である。
図14は、図12、13と同様の図を示しているが、これは本発明によるブレードの図である。図14に示すブレードは、15質量%チタニアを有するクロミアのセラミック・コーティングを有する。図14に示す摩耗パターンは、116時間の稼働時間後に生じたものである。
【0052】
図12〜14(すべて同じ倍率である)は、明らかに、40質量%ジルコニアを有するアルミナのような多相材料の摩耗が非常に粗い摩耗パターンの原因となるが、本発明による単相材料(15質量%チタニアを有するクロミア)がブレードに非常に滑らかな衝撃摩耗パターンを与えることを示している。衝撃摩耗パターンにおけるこの差は、本発明によるセラミック先端付きのブレードを使用したことでなぜ従来技術多相セラミック材料と比較してウェブ破断の頻度を減らすのかを説明できる。
【0053】
結論
クレープ加工のためのブレードを説明してきた。本発明によるブレードは、ブレードの作業刃先を覆うと共に、クレープ加工中にウェブが衝突する表面を覆っているセラミック最上層を有する。セラミック最上層は、クロミア・チタニアからなるセラミック組成物である。好ましくは、最上層のセラミック組成物は、チタニア含量が5質量%〜25質量%、最も好ましくは、10%〜15%のチタニアを含むクロミア・チタニアを含む。
【0054】
本発明によるブレードは、ブレードの作業刃先のところで滑り摩耗を低減することになり、これがより均一な掻き取り効率を与える。さらに、本発明によるブレードのセラミック最上層は単相組成物からなり、これがクレープ加工ブレードと衝突する領域での比較的均一な衝撃摩耗に通じる。また、これは、クレープ加工プロセスが経時的により一定となり、ウェブ破断の発生を大幅に減らすという利点を与える。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】ドライヤ・シリンダの表面と、従来技術による新しく据え付けたクレープ加工ブレード(鋼製ブレード)の作業刃先との係合領域を示している。
【図2】或る作業時間後の、ドライヤの表面と、従来技術による摩耗したクレープ加工ブレード(鋼製ブレード)の作業刃先との係合領域を示している。
【図3】ドライヤの表面と、本発明による新しく据え付けたクレープ加工ブレードの作業刃先との係合領域を示している。
【図4】従来技術によるブレードについての図2の場合と同様の作業時間後の、ドライヤの表面と、本発明によるクレープ加工ブレードの作業刃先との係合領域を示している。
【図5】ブレード滑り斜角についてのEDXスペクトルを示しており、これについては実施例1で述べる。
【図6】ブレード滑り斜角についてのEDXスペクトルを示しており、これについては実施例1で述べる。
【図7】ブレード滑り斜角についてのEDXスペクトルを示しており、これについては実施例1で述べる。
【図8】マクロ切粉事象のSEM図であり、これについては実施例1で言及する。
【図9】クレープ加工ブレードの作業刃先のSEM図であり、これについては実施例2において言及する。
【図10】クレープ加工ブレードの作業刃先のSEM図であり、これについては実施例2において言及する。
【図11】3種類のブレードについて得た柔らかさを表すグラフであり、これについては実施例3において言及する。
【図12】従来技術ブレードについての2つの異なった稼働時間後の摩耗パターンを示しているSEM図である。
【図13】従来技術ブレードについての2つの異なった稼働時間後の摩耗パターンを示しているSEM図である。
【図14】本発明によるクレープ加工ブレードについての摩耗パターンを示しているSEM図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面と接触するようになっている作業刃先と、クレープ加工中にウェブが衝突するウェブ衝突領域の両方を形成する溶射セラミック最上層で覆った鋼製基体を含み、該セラミック最上層のセラミック組成物が、クロミア(Cr2O3)とチタニア(TiO2)の両方を含み、チタニアの含量が25質量%までである、紙ウェブを表面からクレープ加工するためのブレード。
【請求項2】
セラミック最上層の組成におけるチタニア含量が5〜25質量%である、請求項1に記載のブレード。
【請求項3】
セラミック最上層が、5%〜15質量%の範囲、好ましくは10%〜15%の範囲にあるチタニア含量を有する、請求項1または2に記載のブレード。
【請求項4】
ブレードの刃先部分でのセラミック最上層の厚さが150〜300ミクロン、好ましくは200〜300ミクロンの範囲にある、請求項1〜3のいずれか1項に記載のブレード。
【請求項5】
さらに、鋼製基体とセラミック最上層との間にボンドコートと含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載のブレード。
【請求項6】
ボンドコートがNi−Crを含む、請求項5に記載のブレード。
【請求項7】
ボンドコートが10〜50μmの厚さを有する、請求項5または6に記載のブレード。
【請求項8】
鋼製基体が、10度までの角度を有するプレ斜角を有し、ここにセラミック最上層が溶着する、請求項1〜7のいずれか1項に記載のブレード。
【請求項9】
プレ斜角が4〜8度の角度を有する、請求項8に記載のブレード。
【請求項10】
鋼製基体が0.635〜1.250mmの範囲の厚さを有する、請求項1〜9のいずれか1項に記載のブレード。
【請求項11】
鋼製基体が50〜150mmの範囲、好ましくは75〜120mmの範囲の幅を有する、請求項1〜10のいずれか1項に記載のブレード。
【請求項12】
セラミック最上層が単相セラミック材料である、請求項1〜11のいずれか1項に記載のブレード。
【請求項13】
溶射によって鋼製基体上にセラミック最上層を塗布し、その結果このセラミック最上層が、表面と接触するようになっている作業刃先と、クレープ加工中にウェブが衝突するウェブ衝突領域の両方を形成する工程を含み、セラミック最上層がクロミアおよびチタニアを含むように作ってあり、チタニアの含量が25質量%までである、紙ウェブを表面からクレープ加工するためのブレードを製造する方法。
【請求項14】
さらに、鋼製基体にボンドコートを塗布してからセラミック最上層を塗布する工程を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
単相トップコーティングを得るようにセラミック最上層を単相粒子を含む溶射粉末から溶射によって塗布する、請求項13または14に記載の方法。
【請求項1】
表面と接触するようになっている作業刃先と、クレープ加工中にウェブが衝突するウェブ衝突領域の両方を形成する溶射セラミック最上層で覆った鋼製基体を含み、該セラミック最上層のセラミック組成物が、クロミア(Cr2O3)とチタニア(TiO2)の両方を含み、チタニアの含量が25質量%までである、紙ウェブを表面からクレープ加工するためのブレード。
【請求項2】
セラミック最上層の組成におけるチタニア含量が5〜25質量%である、請求項1に記載のブレード。
【請求項3】
セラミック最上層が、5%〜15質量%の範囲、好ましくは10%〜15%の範囲にあるチタニア含量を有する、請求項1または2に記載のブレード。
【請求項4】
ブレードの刃先部分でのセラミック最上層の厚さが150〜300ミクロン、好ましくは200〜300ミクロンの範囲にある、請求項1〜3のいずれか1項に記載のブレード。
【請求項5】
さらに、鋼製基体とセラミック最上層との間にボンドコートと含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載のブレード。
【請求項6】
ボンドコートがNi−Crを含む、請求項5に記載のブレード。
【請求項7】
ボンドコートが10〜50μmの厚さを有する、請求項5または6に記載のブレード。
【請求項8】
鋼製基体が、10度までの角度を有するプレ斜角を有し、ここにセラミック最上層が溶着する、請求項1〜7のいずれか1項に記載のブレード。
【請求項9】
プレ斜角が4〜8度の角度を有する、請求項8に記載のブレード。
【請求項10】
鋼製基体が0.635〜1.250mmの範囲の厚さを有する、請求項1〜9のいずれか1項に記載のブレード。
【請求項11】
鋼製基体が50〜150mmの範囲、好ましくは75〜120mmの範囲の幅を有する、請求項1〜10のいずれか1項に記載のブレード。
【請求項12】
セラミック最上層が単相セラミック材料である、請求項1〜11のいずれか1項に記載のブレード。
【請求項13】
溶射によって鋼製基体上にセラミック最上層を塗布し、その結果このセラミック最上層が、表面と接触するようになっている作業刃先と、クレープ加工中にウェブが衝突するウェブ衝突領域の両方を形成する工程を含み、セラミック最上層がクロミアおよびチタニアを含むように作ってあり、チタニアの含量が25質量%までである、紙ウェブを表面からクレープ加工するためのブレードを製造する方法。
【請求項14】
さらに、鋼製基体にボンドコートを塗布してからセラミック最上層を塗布する工程を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
単相トップコーティングを得るようにセラミック最上層を単相粒子を含む溶射粉末から溶射によって塗布する、請求項13または14に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公表番号】特表2007−505229(P2007−505229A)
【公表日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−525736(P2006−525736)
【出願日】平成16年9月7日(2004.9.7)
【国際出願番号】PCT/EP2004/009954
【国際公開番号】WO2005/023533
【国際公開日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(501001430)ベーテージェー・エクレパン・ソシエテ・アノニム (4)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年9月7日(2004.9.7)
【国際出願番号】PCT/EP2004/009954
【国際公開番号】WO2005/023533
【国際公開日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(501001430)ベーテージェー・エクレパン・ソシエテ・アノニム (4)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]