説明

クレープ紙の製造方法及びクレープ紙製造用コーティング剤。

【課題】、生産性に優れ、高品質のクレープ紙を安定して製造可能なクレープ紙の製造方法及びそれに用いることのできるクレープ助剤を提供する。
【解決手段】本発明のクレープ紙製造方法は、回転する円筒状のヤンキードライヤ10の表面に高分子からなる接着成分を含んだコーティング剤を付着させることにより紙匹15を該ヤンキードライヤに付着させた後、ドクターブレード93を該ヤンキードライヤ10に当接させて該紙匹15を剥がすことによりクレープを形成するクレープ紙製造方法において、前記コーティング剤には水溶性ポリアミド樹脂とリン酸塩とが含まれていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定したクレーピングを行うことができるクレープ紙の製造方法及びそれに用いるクレープ紙製造用コーティング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トイレットペーパーやティッシュペーパーは、吸水性、吸油性、肌触り、柔らかさを出すためにちりめん状に加工するクレープ加工が施されている。このクレープ加工は、図2に示すようなクレープ紙製造装置100によって製造されている。このクレープ紙製造装置100には、回転する円筒状のヤンキードライヤ90と、ヤンキードライヤ90の表面にコーティング剤を噴霧するためのコーティング剤噴霧ノズル91とを備えている。抄造ライン101から供給される湿った紙匹92は、ヤンキードライヤ90の表面に付着したコーティング剤によって付着し、ヤンキードライヤ90からの伝熱によって乾燥しながら回転する。そして、付着した紙匹92はヤンキードライヤ90に当接させたドクターブレード93によって引き剥がされる際、瞬時にクレーピング(すなわちちりめん状にシワがよること)が行われる。こうしてクレーピングされた紙匹92は巻き取られてクレープ紙94となる。
【0003】
クレープ加工は紙を縦方向に機械的に圧縮し、坪量(単位面積当りの質量)を増加させて縦方向の物理的特性を劇的に変化させる。クレープ加工は、一般的に紙とヤンキードライヤ表面の接着性を向上させるコーティング剤(あるいはクレープ加工用接着剤)と、紙のヤンキードライヤ表面からの剥離を行う可撓性ブレードのドクターブレード(場合によっては剥離剤も使用して)を用いて、ヤンキードライヤの最終段階で行われる。クレープ加工性は、紙のヤンキードライヤ表面との接着性とドクターブレードによる剥離性のバランスによって左右され、過度の強い接着性は剥離を妨げて断紙を招き、弱い接着性は十分なクレープ加工性が得られない。そこで、その両立を考慮した種々の方法が提案されてきた。例えば、ウエットパートのプレスロール上にドクターを当て、シート水分が60〜75重量%でクレープを形成させた後のフリーランの距離を5〜60cmで湿潤伸びを10〜35%としてクレープ紙を製造する方法(例えば特許文献1参照)、ジカルボン酸または脂肪族ジカルボン酸のエステルとメチルビス(3−アミノプロピルアミン)とのポリアミドと、エピクロロヒドリンとの反応生成物を含むクレーピング助剤の使用(例えば特許文献2参照)、クレープ加工用接着剤にポリビニルアルコールを含むクレープ加工用接着剤と水溶性熱硬化性カチオンポリアミド樹脂を含むクレープ加工用接着剤の2段階被着によるクレープ加工方法(例えば特許文献3参照)、クレープ紙製造装置の生産性及び品質を高めるために、ヤンキードライヤの表面に固体潤滑剤を付着させることも提案されている(特許文献4)。固体潤滑剤はヤンキードライヤの表面に生じた凹凸を埋めて平滑化する。また、固体潤滑剤はドクターブレードとヤンキードライヤとの摩擦力を低減し、すべりを良くする。このため、クレープ紙の状態がたえず一定となり、皺が細かい高品質のクレープ紙を安定に供給することができる。また、クレープ加工用接着剤にカチオン澱粉、ポリビニルアルコールと水溶性熱硬化性のカチオン性ポリアミドエピハロヒドリン樹脂を使用する方法(例えば特許文献5、6参照)等がある。
【特許文献1】特開平5−239789号公報
【特許文献2】特開平6−49796号公報
【特許文献3】特表平11−514049号公報
【特許文献4】特開2001−64897号公報
【特許文献5】特表2001−511224号公報
【特許文献6】特表2002−506937号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図2に示されるような、上記従来のクレープ紙製造装置によって製造されるクレープ紙のクレープの状態は、コーティング剤による紙匹92とヤンキードライヤ90との接着力や、紙匹92の水分率等、多くの要因によって影響される。例えば、紙匹92がヤンキードライヤ90に強く接着している場合には、ドクターブレード93による引き剥がしによって生じるクレープが細かくなったり、引き剥がしに失敗して紙匹92がドクターブレード93の下に潜り込んで断紙となり、操業に支障を来す。また、それとは逆に、紙匹92とヤンキードライヤ90との接着力が弱い場合には、粗いクレープが形成される。
【0005】
このため、最適な粗さのシワを有するクレープ紙を安定して製造するためには、紙匹92のヤンキードライヤ90に対する接着力をたえず一定の強度としておくことが必要である。ところが、紙匹92とヤンキードライヤ90との接着力は、コーティング剤の組成のみならず、紙匹92の水分率やヤンキードライヤ90の表面の汚れや腐食の状態によっても変化するため、紙匹92のヤンキードライヤ90に対する接着力をたえず一定の強度としておくことは困難となっており、品質が安定せず、不良率も高いという問題があった。ヤンキードライヤ90の回転速度を遅くすれば、不良率が小さくなるが、生産性の低下を招来することとなる。
【0006】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであり、生産性に優れ、高品質のクレープ紙を安定して製造可能なクレープ紙の製造方法及びそれに用いることのできるコーティング剤を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、上記従来の課題を解決するために、鋭意研究を行った結果、高分子からなる接着成分を含むコーティング剤に、さらにリン酸塩を含有させれば、常に一定のクレープの状態が維持され、高品質のクレープ紙を安定して製造できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0008】
すなわち、本発明のクレープ紙の製造方法は、回転する円筒状のヤンキードライヤの表面に高分子からなる接着成分を含んだコーティング剤を付着させることにより紙匹を該ヤンキードライヤに付着させた後、ドクターブレードを該ヤンキードライヤに当接させて該紙匹を剥がすことによりクレープを形成するクレープ紙製造方法において、前記コーティング剤には水溶性ポリアミド樹脂とリン酸塩とが含まれていることを特徴とする。
【0009】
本発明におけるリン酸塩の役割については、必ずしも明確ではないが、次のように考えられる。すなわち、(1)リン酸塩の有するpH緩衝作用によって、コーティング剤に含まれている高分子からなる接着成分の分散状態が安定する。特に、接着成分がアミノ基を有する場合には、不安定な遊離アミンの生成が抑制されるため、効果的である。(2)鋳鉄等の鉄からなるヤンキードライヤの表面にリン酸塩が作用してリン酸鉄皮膜が形成され、そのリン酸鉄皮膜による防食効果によって、ヤンキードライヤの表面への腐食物の生成が抑制され、異物が付着し難くなる。(3)リン酸塩によって水中のカルシウムイオンがキレート化され、ヤンキードライヤへのスケールの付着が防止される。
【0010】
また、発明者らの試験結果によれば、コーティング剤に含まれている接着成分とリン酸塩との割合を調整することによって、クレープ紙のクレープの状態を容易に調整することができる。リン酸塩の含有比率は、接着成分100重量部に対して1重量部〜20重量部とされていることが好ましい。リン酸塩の含有量がこの範囲であれば、高品質のクレープ紙を安定して製造することができる。
【0011】
上述したように、本発明のクレープ紙の製造方法において、水溶性ポリアミド樹脂とリン酸塩とを含有する水溶液をクレープ紙製造用コーティング剤として用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
水溶性ポリアミド樹脂としては、ポリアミド−エピハロヒドリン樹脂、グリオキサル化(gloxalated)ポリアクリルアミド樹脂等が挙げられ、特に好ましいのはポリアミド−エピハロヒドリン樹脂である。ポリアミド−エピハロヒドリン樹脂は、ジカルボン酸とポリアルキレンポリアミンの縮合物であるポリアミド重縮合物をエピハロヒドリン(エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン等)と反応させて、部分的に架橋した水溶性ポリアミド−エピハロヒドリン樹脂である。ポリアミド重縮合物におけるジカルボン酸とポリアルキレンポリアミンの組成比は、ポリアルキレンポリアミンの1級アミノ基(末端アミノ基)1当量に対してジカルボン酸0.7〜1.5当量、好ましくは0.8〜1.3当量である。ジカルボン酸としては、脂肪族ジカルボン酸のマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸;芳香族ジカルボン酸のフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸;これらの脂肪族ジカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸のナトリウム塩、カリウム塩;ジカルボン酸エステルのマロン酸ジエチル、アジピン酸ジメチル、テレフタル酸ジメチル;ジカルボン酸無水物の無水コハク酸、無水グルタル酸、無水フタル酸;ジカルボン酸ハロゲン化物のアジピン酸クロライドなどが挙げられる。異なる2種以上のジカルボン酸を混合して使用しても良い。中でも炭素数3〜10の脂肪族ジカルボン酸が好ましく、アジピン酸が好適である。また、ポリアルキレンポリアミンとしては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、イミノビスプロピルアミン、3−アザヘキサン−1,6−ジアミン、4,7−ジアザデカン−1,10−ジアミン等が挙げられる。ポリアルキレンポリアミンとして、異なる2種以上のポリアルキレンポリアミンを混合して使用しても良い。ポリアルキレンポリアミンの中でもジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミンが好適である。
【0013】
ポリアミド重縮合物とエピハロヒドリンの部分的な架橋反応により、水溶性のポリアミド−エピハロヒドリン樹脂を得ることができる。エピハロヒドリンの架橋剤によってポリアミド−エピクロロヒドリン樹脂の特性を容易に制御することができるため、目的とした品質のクレープ紙を製造することができる。エピハロヒドリンとしては、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリンがあり、好ましくはエピクロロヒドリンである。エピクロロヒドリンの使用量は、通常、ポリアミド重縮合物中の第2級アミノ基(分子内アミノ基)1当量に対して0.7〜1.5当量、好ましくは0.8〜1.3当量である。エピクロロヒドリンが0.7当量未満では、ポリアミド重縮合物の接着力が低下する場合がある。また、1.5当量を超えると、ポリアミド−エピクロロヒドリン樹脂の水溶性の低下と低分子有機ハロゲン化合物の含有量が増加する場合がある。
【0014】
ポリアミド−エピクロロヒドリン樹脂の特性として好ましいのは、25重量%水溶液における20℃での粘度が50〜300mPa・sの範囲であり、さらに好ましくは70〜250mPa・sである。粘度が50mPa・s未満ではヤンキードライヤ表面への紙匹の接着力が低くなる。また、300mPa・sを超えると該樹脂使用時の作業性や発泡性が高くなる。
【0015】
グロキサル化ポリアクリルアミド樹脂は、ポリアクリルアミドをグリオキサールと反応させてポリアクリルアミドの部分架橋物とする、あるいはポリアクリルアミドをグリシジルジメチルアンモニウムクロリドと反応させてポリアクリルアミドの部分架橋物として得ることができる。ポリアクリルアミドの分子量は1、000〜3,000,000である。ポリアクリルアミドの分子量が1,000未満では、本発明の接着力が十分に発揮されない場合があり、ポリアクリルアミドの分子量が3,000、000を超えると粘度が高く取り扱い性が低下し、さらに凝集性も強くなる。ポリアクリルアミドをグリオキサールあるいはグリシジルジメチルアンモニウムクロリドと反応させるときの両者の比は、目的とする水溶性の程度を考慮して適宜決定すればよいが、通常、単位アクリルアミドに対して0.7〜1.5である。グロキサル化ポリアクリルアミド樹脂としては、例えば市販品の「Hercobond(商品名)」がある。
【0016】
本発明の効果を妨げない範囲で、水溶性ポリアミド樹脂の他に、従来から用いられてきた高分子系接着性成分であるポリビニルアルコール、酢酸ポリビニル、カチオン化カルボキシメチルセルロース樹脂、カチオン化デンプン、ポリエチレンイミン樹脂、尿素ホルムアルデヒド樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂を併用して用いることもできる。
【0017】
コーティング剤に含まれるリン酸塩としては、リン酸一アンモニウム及びリン酸二アンモニウムを単独あるいは組み合わせて用いることが好ましい。リン酸一アンモニウムの水溶液は酸性〜弱酸性となり、リン酸二アンモニウムの水溶液は弱アルカリ性となる。これらを単独あるいは組み合わせて用いることにより、水溶性ポリアミド樹脂に存在するアミノ基がアンモニウム塩として安定に存在するpH域とすることができるからである。
【0018】
コーティング剤の調整方法は特に限定されるものではなく、一般的な水溶性樹脂及びリン酸塩の水への溶解方法に従って行えばよい。具体的には、室温下で撹拌しながら水溶性ポリアミド樹脂を水に溶解させて水溶液とし、さらにリン酸一アンモニウム、リン酸二アンモニウムをそれぞれ単独あるいは組み合わせて添加して、pHを3〜7、好ましくはpHを3.5〜6.5として均一溶液とする。水溶性ポリアミド樹脂の濃度は、適用する紙料の紙質およびヤンキードライヤの状況、要求されるクレーピング性能を考慮して適宜決定すれば良く、通常、10〜50重量%濃度である。また、リン酸塩の配合量は、使用する水溶性ポリアミド樹脂の種類、適用する紙料の紙質およびヤンキードライヤの状況、要求されるクレーピング性能を考慮して適宜決定すれば良く、通常、水溶性ポリアミド樹脂100重量部に対して0.1〜50重量部、好ましくは1〜20重量部の範囲で配合される。リン酸塩が0.1重量部未満では、本発明の剥離効果が発揮されない場合がある。また、リン酸塩が50重量部を超えると、リン酸塩の配合増加に見合うだけの効果の向上が得られないために経済的なメリットがない。コーティング剤中のリン酸塩の濃度は、特に限定されるものではないが、通常、1〜30重量%で配合される。
【0019】
コーティング剤は、通常、ヤンキードライヤ表面に噴霧して使用される。噴霧量は適用する紙料の紙質およびヤンキードライヤの状況、使用する水溶性ポリアミド樹脂の種類、要求されるクレーピング性能及び剥離剤の併用等の諸条件を考慮して適宜決定すれば良く、通常、コーティング剤の有効成分の水溶性ポリアミド樹脂として、ヤンキードライヤ表面1m面積当たり0.01mg〜20mgである。
コーティング剤のヤンキードライヤ表面への噴霧は、通常の薬注ポンプと噴霧用ノズルを用いて行われる。
【0020】
以下、本発明を具体化した実施例について比較例と比較しつつ詳細に説明する。
【0021】
<コーティング剤の調製>
(実施例1)
実施例1では、エピクロロヒドリン架橋ポリアミド系樹脂(ジエチレントリアミン:アジピン酸:エピクロロヒドリン=1:1:1(モル比)、25重量%水溶液の粘度が120mPa・s)10重量%水溶液100重量部に対してリン酸一アンモニウム0.5重量%水溶液を100重量部加えて混合してコーティング剤原液とし、さらにこのコーティング剤原液を1000倍に希釈してコーティング剤とした。エピクロロヒドリン架橋ポリアミド系樹脂が水溶性ポリアミド樹脂である。
【0022】
(実施例2)
実施例2では、エピクロロヒドリン架橋ポリアミド系樹脂(ジエチレントリアミン:アジピン酸:エピクロロヒドリン=1:1:1(モル比)、25重量%水溶液の粘度が120mPa・s)10重量%水溶液100重量部に対してリン酸一アンモニウム0.5重量%水溶液を50重量部を加えて混合してコーティング剤原液とした。他の条件は実施例1と同様であり、説明を省略する。
【0023】
(実施例3)
実施例3では、エピクロロヒドリン架橋ポリアミド系樹脂(ジエチレントリアミン:アジピン酸:エピクロロヒドリン=1:1:1(モル比)、25重量%水溶液の粘度が120mPa・s)10重量%水溶液100重量部に対してリン酸一アンモニウム0.5重量%水溶液を10重量部を加えて混合してコーティング剤原液とした。他の条件は実施例1と同様であり、説明を省略する。
【0024】
(比較例1)
比較例1では、エピクロロヒドリン架橋ポリアミド系樹脂(ジエチレントリアミン:アジピン酸:エピクロロヒドリン=1:1:1(モル比)、25重量%水溶液の粘度が120mPa・s)10重量%水溶液にリン酸一アンモニウムを加えることなく1000倍に希釈したものをコーティング剤とした。
【0025】
以上のようにして調製した実施例1〜3及び比較例1のクレープ紙製造用コーティング剤を用い、図1に示すクレープ紙製造装置1を用いてクレープ紙の製造を行った。このクレープ紙製造装置1は、回転する円筒状の鋳鉄製ヤンキードライヤ10(幅6m)と、ヤンキードライヤ10の表面にコーティング剤を噴霧するためのコーティング剤噴霧ノズル11と、剥離剤を噴霧するための剥離剤噴霧ノズル12とを備えている。コーティング剤噴霧ノズル11及び剥離剤噴霧ノズル12の、ヤンキードライヤ10の回転方向の上流側には、紙匹13を剥離させるためのドクターブレード14がヤンキードライヤ10の表面に当接するように固定されている。
【0026】
以上のように構成されたこのクレープ紙製造装置1では、コーティング剤噴霧ノズル11からコーティング剤が噴霧されてヤンキードライヤ10に付着する。また、剥離剤噴霧ノズル12からは剥離剤が噴霧されてヤンキードライヤ10に付着する。こうしてコーティング剤と剥離剤とがヤンキードライヤ10に付着された後、抄造ライン15から湿った紙匹13が供給され、ヤンキードライヤ10の表面に巻き取られる。紙匹13はコーティング剤によってヤンキードライヤ10に付着し、ヤンキードライヤ10からの伝熱によって乾燥しながら回転する。そして、付着した紙匹13はヤンキードライヤ10に当接したドクターブレード14によって引き剥がされる際、瞬時にクレーピングが行われる。こうして紙匹13はクレーピングされてクレープ紙17となり、ドラム16に巻き取られる。
【0027】
<トイレットペーパー製造試験>
上記のクレープ紙製造装置1を用いて以下の製造条件でトイレットペーパー製造試験を行った。
・トイレットペーパーの坪量:19.6g/m、紙幅:6m、抄速:1,000m/分
・ヤンキードライヤ入り口湿紙水分:50%
・コーティング剤:エピクロロヒドリン架橋ポリアミドポリアミン(商品名:ポリフィックス301A 昭和高分子)10重量濃度及びリン酸一アンモニウム混合水溶液
・コーティング剤噴霧量:(有効固形分として)2mg/ヤンキードライヤ単位表面積(m
・剥離剤(パラフィン系鉱油の10重量%乳化分散液):噴霧量:0.5mg/ヤンキードライヤ単位表面積(m
【0028】
コーティング剤を図示しない薬注ポンプを用いてコーティング剤噴霧ノズル11を用いてヤンキードライヤ10の表面に連続噴霧し、24時間後のヤンキードライヤ10の表面状態、紙粉の発生状態及びクレープの状態を以下のように目視評価した。
(ヤンキードライヤの表面状態の評価)
・○:金属面のつやが有り、汚れがない。
・×:金属面のつやがなく、金属面に汚れが付着している。
(紙粉の発生状況の評価)
・○:紙粉が少ない。
・×:紙粉が多い。
(クレープの状態の評価)
・○:十分なクレープ加工が得られている。
・×:クレープが不良。
コーティング剤の連続噴霧を継続し、ブレードの交換時間を測定した。ブレードの交換時間が長いほど好ましい。また、ヤンキードライヤ10の回転速度を徐々に上げ、正常なクレープ紙が製造できる最大抄速も測定した。結果を表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
<結 果>
上記のクレープ紙製造試験の結果、表1に示すようにリン酸一アンモニウムを添加したコーティング剤を用いた実施例1〜3では、リン酸一アンモニウムを添加しないコーティング剤を用いた比較例1に比べ、ヤンキードライヤの表面状態が良好であり、付着物や紙粉の発生も少なく、ドクターブレードの交換が必要となるまでの時間も長くなった。また、最大抄速については、比較例1は一番遅く、リン酸一アンモニウムの添加量が多いほど、ドクターブレードの交換するまでの時間が長くなり、コーティング剤へのリン酸一アンモニウムの添加によって、ドクターブレードの寿命も長くなった。
【0031】
−コーティング剤の硬化試験−
コーティング剤の硬化性能を調べるため、次の試験を行った。すなわち、エピクロロヒドリン架橋ポリアミド系樹脂(ジエチレントリアミン:アジピン酸:エピクロロヒドリン=1:1:1(モル比)、25重量%水溶液の粘度が120mPa・s)10重量%水溶液100重量部に対してリン酸一アンモニウム15重量%水溶液を所定の重量部加えて混合してコーティング剤原液とし、さらにこのコーティング剤原液を1000倍に希釈してコーティング剤とする。そして、このコーティング剤1mlを110°Cに加熱したステンレス板上に約10cmとなるように塗布し、硬化10分間後に鉛筆硬度試験を行った。また、加熱途中でコーティング剤をガラス棒ですくい取り、糸引き状態とならなくなるまでの時間を硬化時間として求めた。
【0032】
その結果、表2に示すように、リン酸一アンモニウムの添加量を増加させるとともに、硬化時間が長くなり、硬度も小さくなることが分かった。この結果から、コーティング剤に添加するリン酸一アンモニウムの添加量を増減させることで、コーティング剤の硬化時間やその硬さを調整できることとなり、ひいてはクレープ紙のクレープの状態を容易に制御できることが分かった。
【0033】
【表2】

【0034】
この発明は、上記発明の実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明はトイレットペーパーやティッシュペーパー等のクレープ紙の製造に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】実施例及び比較例において用いたクレープ紙製造装置の模式図である。
【図2】クレープ紙製造装置の模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転する円筒状のヤンキードライヤの表面に高分子からなる接着成分を含んだコーティング剤を付着させることにより紙匹を該ヤンキードライヤに付着させた後、ドクターブレードを該ヤンキードライヤに当接させて該紙匹を剥がすことによりクレープを形成するクレープ紙製造方法において、
前記コーティング剤には水溶性ポリアミド樹脂とリン酸塩とが含まれていることを特徴とするクレープ紙の製造方法。
【請求項2】
リン酸塩の含有比率は、接着成分100重量部に対して1重量部〜20重量部とされていることを特徴とする請求項1記載のクレープ紙の製造方法。
【請求項3】
水溶性ポリアミド樹脂はポリアミド−エピハロヒドリン樹脂であることを特徴とする請求項1又は2記載のクレープ紙の製造方法。
【請求項4】
コーティング剤にはリン酸塩としてリン酸一アンモニウム及び/又はリン酸二アンモニウムが含まれていることを特徴とする請求項3記載のクレープ紙の製造方法。
【請求項5】
水溶性ポリアミド樹脂とリン酸塩とを有効成分として含むことを特徴とするクレープ紙製造用コーティング剤。
【請求項6】
水溶性ポリアミド樹脂はポリアミド−エピハロヒドリン樹脂であることを特徴とする請求項5記載のクレープ紙製造用コーティング剤。
【請求項7】
リン酸塩の含有比率は、ポリアミド−エピハロヒドリン樹脂100重量部に対して1重量部〜20重量部とされていることを特徴とする請求項6記載のクレープ紙製造用コーティング剤。
【請求項8】
リン酸塩がリン酸一アンモニウム及び/又はリン酸二アンモニウムであることを特徴とする請求項5乃至7のいずれか1項記載のクレープ紙製造用コーティング剤。

【図1】
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【図2】
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