説明

クロマトグラフィーカラム用多孔質粒子およびその製造方法、ならびにプロテインA結合粒子

【課題】大きな表面積を有し、高流速での移動が可能であるカラム用担体として使用されるクロマトグラフィーカラム用多孔質粒子およびその製造方法、ならびにプロテインA結合粒子を提供する。
【解決手段】クロマトグラフィーカラム用多孔質粒子の製造方法は、水系媒体中、多孔化剤の存在下でエチレン性不飽和基含有モノマーを重合して多孔質粒子を得る工程と、前記多孔質粒子に対して超音波処理を行って、該粒子の表面に存在する皮膜を除去する工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロマトグラフィーカラム用担体として使用される多孔質粒子およびその製造方法、ならびにプロテインA結合粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
血清、血漿、尿などの生体試料や果汁などの食品試料から、生理活性物質、医薬品、栄養成分およびそれらの代謝物質或いは農薬成分などを分離することには困難が伴い、それらを効率的に分離する技術が常に求められている。
【0003】
この分離に用いられるクロマトグラフィーカラム用担体としては、例えば、GEヘルスケア社のMabselect(商品名)のようにアガロース樹脂などの多糖類や、ミリポア(Millipore)社のPreSep(商品名)などのガラスをベースとした多孔質などが用いられる。
【0004】
多糖類を用いたクロマトグラフィーカラム用担体は一般に、粒子の表面積を大きくできる反面、親水性が高く、ゲル状の粒子であるため、粒子および目的とする生体高分子を含む液体を高流速で移動させる際に、かかる液体の流速が低くなる傾向にある。一方、ガラスをベースとしたカラム用担体は、流速への影響を受けにくいものの、粒子の表面積を大きくすることが一般に難しい。
【0005】
例えば、米国特許第5228989号明細書では、ポリマーを用いた多孔質粒子が提案されているが、粒子の表面積の向上と高流速での液体の移動との両立には至っていない。
【0006】
また、例えば、特許第3029640号明細書では、架橋ポリマーの重合時に用いる希釈剤の種類や量を調整することが試みられているが、この方法においては、皮膜が粒子表面に残る場合がある。また、特開平5−156068号公報では、水性分散媒中での懸濁重合の際に、重合禁止剤または重合抑制剤を水性分散媒中に添加することが試みられている。しかしこの方法は適応出来る範囲が狭く、粒子の表面積を十分高くすることができない場合がある。
【特許文献1】米国特許第5228989号明細書
【特許文献2】特許第3029640号明細書
【特許文献3】特開平5−156068号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、粒子の表面積の向上と、高流速での液体の移動との両立が可能なクロマトグラフィーカラム用担体に使用される多孔質粒子およびその製造方法、ならびにプロテインA結合粒子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様にかかるクロマトグラフィーカラム用多孔質粒子の製造方法は、
水系媒体中、多孔化剤の存在下でエチレン性不飽和基含有モノマーを重合して多孔質粒子を得る工程と、
前記多孔質粒子に対して超音波処理を行って、該粒子の表面に存在する皮膜を除去する工程と、
を含む。
【0009】
本発明の一態様にかかるクロマトグラフィーカラム用多孔質粒子は、
上記多孔質粒子の製造方法によって得られ、プロテインAを結合させるために用いられる。
【0010】
本発明の一態様にかかるプロテインA結合粒子は、上記多孔質粒子にプロテインAが結合されている。
【発明の効果】
【0011】
上記クロマトグラフィーカラム用多孔質粒子の製造方法によれば、水系媒体中、多孔化剤の存在下でエチレン性不飽和基含有モノマーを重合して多孔質粒子を得た後、この多孔質粒子に対して超音波処理を行って、該粒子の表面に存在する皮膜を除去することにより、表面積が大きな多孔質粒子を簡便に得ることができる。また、上記多孔質粒子は主に有機ポリマーから構成されるため、例えばカラムクロマトグラフィーによる生体高分子の分離に使用する際に、上記多孔質粒子および上記生体高分子を含む流体の移動を高流速で行うことができる。
【0012】
一般に、クロマトグラフィーカラム用多孔質粒子を作製する際には、有機溶媒を用いて多孔質粒子のポアを形成することにより、ポアのコントロールを行う。これに対して、上記クロマトグラフィーカラム用多孔質粒子の製造方法によれば、皮膜を一度作製することにより、多孔質形成の為の有機溶剤の選択性が高く、使用する溶媒の制限を小さくすることができる。また、上記クロマトグラフィーカラム用多孔質粒子の製造方法によって、粒子の表面に皮膜を形成した後、形成した皮膜を除去して得られた粒子は、表面の皮膜の凹凸が大きいため、表面積が大きいという効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態にかかるクロマトグラフィーカラム用多孔質粒子およびその製造方法、ならびにプロテインA結合粒子についてさらに詳細に説明する。
【0014】
1.クロマトグラフィーカラム用多孔質粒子の製造方法
本発明の一実施形態にかかるクロマトグラフィーカラム用多孔質粒子およびその製造方法は、水系媒体中、多孔化剤の存在下でエチレン性不飽和基含有モノマーを重合して多孔質粒子を得る工程と、多孔質粒子に対して超音波処理を行って、該粒子の表面に存在する皮膜を除去する工程と、を含む。
【0015】
多孔質粒子は主に、エチレン性不飽和基含有モノマーを重合して得られた有機ポリマーからなることが好ましく、後述するように、プロテインAを結合する際に容易に官能基を導入しやすく、粒子として非特異的な吸着がより少ない点で、表面に2,3−ジヒドロキシプロピル基を有することがより好ましい。
【0016】
1.1.モノマーの重合
懸濁重合または乳化重合など、水溶液中に油溶性の液滴を分散させた状態でエチレン性不飽和基含有モノマーを重合することによって、有機ポリマーからなる多孔質粒子を形成することが好ましい。
【0017】
重合の方法としては、例えば、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合、重縮合などの方法を用いることができ、中でも、重合速度が大きく、水溶液や油溶性の液滴の影響を受けにくい点から、ビニルモノマーを用いたラジカル重合がより好ましい。
【0018】
エチレン性不飽和基含有モノマーとしては、架橋性ビニルモノマーおよび非架橋性ビニルモノマーの両方、もしくはそれぞれを単独で用いることができる。架橋性ビニルモノマーと非架橋性ビニルモノマーとの混合比は特に限定されず、モノマーの種類および得られる重合体粒子の用途等により、任意とすることができるが、架橋性ビニルモノマーの使用量がモノマー含有反応液に対して1〜80重量%であることが好ましく、粒子の強度とタンパクの付着を防止する性能を鑑みて、10〜60重量%であることがより好ましい。
【0019】
1.1.1.非架橋性ビニルモノマー
非架橋性ビニルモノマーとしては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ハロゲン化スチレンなどの芳香族ビニル単量体;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸などのカルボキシル基を有するモノマー、2,3−ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、メトキシエチルアクリレート、メトキシエチルメタクリレートなどの親水性官能基を有する(メタ)アクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミドなどの親水性モノマー、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類、アクリロニトリルなどの不飽和ニトリル、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ラウリルアクリレート、ラウリルメタクリレート、ステアリルアクリレート、ステアリルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、イソボニルアクリレート、イソボニルメタクリレートなどのエチレン性不飽和カルボン酸アルキルエステルが挙げられる。
【0020】
また、非架橋性ビニルモノマーとして、アリルグリセロールエーテル、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテルなどの2,3−エポキシプロピル基を有するモノマー;1,3−ジオキソラン−2−オン−4−イルメチル(メタ)アクリレート、1,3−ジオキソラン−2,2−ジメチル−4−イルメチル(メタ)アクリレートなどの2,3−ジヒドロキシプロピル基をアセタール化したモノマー;2,3−ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートのジ(tert−ブチル)シリル化物、2,3−ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートのジ(トリメチルシリル)化物などの2,3−ジヒドロキシプロピル基をシリル化したモノマーなど、加水分解等により2,3−ジヒドロキシプロピル基を形成できるモノマーなども例示できる。
【0021】
さらに、tert−ブチル(メタ)アクリレート、1−メチルシクロペンチル(メタ)アクリレート、1−エチルシクロペンチル(メタ)アクリレート、1−メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、1−エチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−メチルアダマンタン−2−イル(メタ)アクリレート、2−エチルアダマンタン−2−イル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフラニル(メタ)アクリレート、テトラヒドロピラニル(メタ)アクリレート等、カルボキシル基をアルコールで保護したエステルモノマー;α−アクリロイロキシ−γ−ブチロラクトン、α−メタクリロイロキシ−γ−ブチロラクトン、α−アクリロイロキシ−β,β−ジメチル−γ−ブチロラクトン、α−メタクリロイロキシ−β,β−ジメチル−γ−ブチロラクトン、α−アクリロイロキシ−α−メチル−γ−ブチロラクトン、α−メタクリロイロキシ−α−メチル−γ−ブチロラクトンなどの環状エステルモノマー;無水マレイン酸、無水イタコン酸などの酸無水物などを共重合し、その後、加水分解によりカルボン酸を導入してもよい。このうち、親水性と架橋性との両方の性能を有することから、2,3−ジヒドロキシプロピル基を導入できるモノマーが好ましく、グリシジル(メタ)アクリレートがさらに好ましい。
【0022】
1.1.2.架橋性モノマー
架橋性モノマーとしては、例えば、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレートなどの多官能性(メタ)アクリレート、ブタジエン、イソプレンなどの共役ジオレフィン、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、アリルアクリレート、アリルメタクリレートなどが挙げられる。さらに、架橋性モノマーとして、例えば、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリビニルアルコールのポリ(メタ)アクリルエステルなどの親水性のモノマーが挙げられる。このうち、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼンなどが好ましい。
【0023】
1.1.3.多孔化剤
本実施形態にかかるクロマトグラフィーカラム用多孔質粒子の製造方法においては、多孔化剤を用いて重合を油滴中で行うことにより、有機ポリマーからなる多孔質を形成することができる。多孔化剤は、油滴内の重合において、モノマーと共に存在し、非重合成分として孔を形成する役割を有する。
【0024】
多孔化剤は、多孔質表面において容易に除去可能な皮膜を形成するものであれば、特に限定されるものではない。多孔化剤は例えば、各種の有機溶剤および混合モノマーに可溶の線状重合物等もしくはその両方であることができる。
【0025】
多孔化剤としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、シクロヘキサン、シクロペンタンまたはデカヒドロナフタレンなどの脂肪族炭化水素または脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、トルイジン、ナフタレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素;四塩化炭素、テトラクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素;ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、ドデカノール、乳酸エチル、ヘキサノールまたはシクロヘキサノールなどのアルコール;ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、メチルノルマルペンチルケトンなどのケトン類;非架橋性ビニルモノマーのホモポリマーなどの線状重合物が挙げられる。多孔化剤は単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0026】
多孔化剤は、超音波処理によって容易に皮膜を除去できる点で、メチルイソブチルケトンとジイソブチルケトンがより好ましい。
【0027】
例えば有機溶媒を多孔化剤として用いる場合、モノマー含有反応液が50〜500容量%の有機溶媒を含むことが好ましく、200〜350容量%の有機溶媒を含むことがさらに好ましい。また、例えば有機溶媒および線状高分子の両方を多孔化剤に用いる場合、多孔化剤はモノマー100重量部に対して100〜700重量部が好ましく、200〜600重量部がより好ましく、300〜500重量部であるのがさらに好ましい。
【0028】
1.1.4.その他の成分
本実施形態にかかるクロマトグラフィーカラム用多孔質粒子の製造方法では、モノマーの重合に重合開始剤を使用することができる。重合開始剤は一般的な重合に用いられるものであれば特に限定されない。
【0029】
重合開始剤としてラジカル重合開始剤を用いる場合、ラジカル重合開始剤としては、例えば、アゾ系開始剤、過酸化物系開始剤、レドックス系開始剤等が挙げられ、具体例としては、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル、アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、酸化ベンゾイル、過酸化ジ−tert−ブチルまたは過酸化ベンゾイル−ジメチルアニリン等が例示できる。重合開始剤の使用量は、モノマー含有反応液の総量に対して0.5〜3重量%であるのが好ましい。
【0030】
また、本実施形態にかかるクロマトグラフィーカラム用多孔質粒子の製造方法では、水系媒体を使用することができる。水系媒体としては、例えば水溶性高分子水溶液などが挙げられ、水溶性高分子としては、例えばヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、デンプン、ゼラチンなどが挙げられる。
【0031】
さらに、本実施形態にかかるクロマトグラフィーカラム用多孔質粒子の製造方法では、水系媒体の分散媒としてとして水を用いる場合、例えば、炭酸カルシウム、硫酸ナトリウム、燐酸カルシウムまたは塩化ナトリウムなどを分散安定剤として使用してもよい。分散安定剤の用いられる範囲は、使用する水の量に対して0.05〜5重量%であるのが好ましく、0.1〜1重量%であるのがさらに好ましい。
【0032】
加えて、本実施形態にかかるクロマトグラフィーカラム用多孔質粒子の製造方法では、tert−ブチルピロカテコール、ベンゾキノン、ピクリン酸、ハイドロキノン、塩化銅または塩化第二鉄などの重合禁止剤、ドデシルメルカプタンなどの連鎖移動剤等を重合補助剤として使用してもよい。
【0033】
本実施形態にかかるクロマトグラフィーカラム用多孔質粒子の製造方法において、重合温度は、皮膜の形成しやすさや皮膜の除去しやすさに依存する。また、重合温度は、重合開始剤に応じて決定するのが好ましい。好ましい重合温度は、10時間半減期温度+20℃を中心に、上下20℃以内が好ましく、さらに好ましくは上下10℃以内である。例えば、アゾイソブチロニトリルを重合開始剤として用いた場合には、10時間半減期が約60℃であるため、80℃を中心とし上下20℃以内の60〜100℃が好ましく、70〜90℃がさらに好ましい。また、重合時間は通常2〜20時間、好ましくは4〜10時間である。
【0034】
本実施形態にかかるクロマトグラフィーカラム用多孔質粒子の製造方法は、通常の懸濁重合法で行うことができる。例えば、まず、イオン交換水に分散安定剤を溶解して水系媒体を調製し、この水系媒体中に、モノマー(例えば非架橋性ビニルモノマーおよび架橋性ビニルモノマー)、多孔化剤および重合開始剤の混合溶液を懸濁させて所定温度まで加熱して重合させることにより、多孔化剤を含む多孔質粒子を得、次いで、多孔化剤(および必要に応じて未反応モノマー)を例えば蒸留、抽出、洗浄などにより除去して、多孔質粒子を得ることができる。
【0035】
1.2.皮膜の除去
本実施形態にかかるクロマトグラフィーカラム用多孔質粒子の製造方法においては、上記重合により得られた多孔質粒子に対して超音波処理を行って、該粒子の表面に存在する皮膜を除去する工程を含む。ここで、超音波処理は、反応液内に含まれる多孔化剤(および必要に応じて未反応モノマー)の除去の前後のどちらでもよい。
【0036】
超音波処理では、多孔質粒子の分散液に超音波を直接もしくは間接的に与えることにより、該粒子の表面に存在する皮膜を除去する。超音波処理に用いる超音波の周波数は10kHz〜1MHzであるのが好ましい。多孔質粒子の表面から除去された皮膜は例えば、濾過や粒子を選択的に沈降させることにより系中より除去することができる。
【0037】
2.クロマトグラフィーカラム用多孔質粒子およびプロテインA結合粒子
本発明の一実施形態に係る多孔質粒子は、上記多孔質粒子の製造方法によって得られ、プロテインAを結合させるために用いられる。
【0038】
本実施形態に係るクロマトグラフィーカラム用多孔質粒子は、例えば、クロマトグラフィーによる生体高分子の分離に好適に用いられ、より具体的には、生体高分子を工業的に製造するための吸着剤として用いられる。本実施形態に係る多孔質粒子をクロマトグラフィーによる生体高分子の分離に用いる場合、多孔質粒子および生体高分子を含む流体の移動を高流速で行うことができ、非特異吸着が少ないため生体高分子を選択的に捕捉することができ、かつ、表面が多孔質であるので表面積が大きいため生体高分子の捕捉量が多い。
【0039】
また、本発明の一実施形態に係るプロテインA結合粒子は、上記多孔質粒子にプロテインAが結合されている。この場合、非特異吸着が少ないうえに、目的生体高分子であるIgGの結合量がより多い点で、多孔質粒子の表面にプロテインAが直接結合していること、すなわち、多孔質粒子の表面に皮膜を介さずにプロテインAが結合していることが好ましい。
【0040】
3.実施例
以下、本実施形態にかかるクロマトグラフィーカラム用多孔質粒子およびその製造方法、ならびにプロテインA結合粒子を、実施例を挙げてさらに具体的に説明する。なお、実施例および比較例中の部および%は、特記しない限りそれぞれ重量部および重量%であることを示す。また、以下の記載は本発明の態様を概括的に示すものであり、特に理由なく、かかる記載により本発明は限定されるものではない。
【0041】
3.1.評価方法
3.1.1.ヒトIgG結合量
プロテインA結合粒子1mgのPBS100μl分散液に、1mg/mlのヒトIgG(シグマ(Sigma)社製)PBS溶液を200ul添加し、室温で振とう撹拌を行った。次に、この混合液をミリポア(Millipore)社製フィルター付きチューブに移し替え、遠心分離により、余分なタンパク質を除去した。次いで、PBSを100μl添加し、振とう撹拌したのち、遠心分離を2回繰り返した。続いて、粒子入りフィルターをエッベンチューブに移し、0.1Mグリシン塩酸(pH3)を200μlフィルター上に添加して、2分間振とう撹拌したのち、遠心分離により、ヒトIgG(hIgG)の回収を行った。この溶液中のhIgG量(ヒトIgG結合量)をBCAアッセイ法により測定した。
【0042】
3.1.2.多孔質粒子の表面積およびポア分布
水銀ポロシメーター(島津製作所社製 オートポアIV9520)にて多孔質粒子の平均ポア分布および表面積を求めた。測定範囲は10nm−5000nmであった。
【0043】
3.1.3.SEMによる多孔質粒子の表面観察
日立製走査型電子顕微鏡(型番S−4300)(10,000倍)により、多孔質粒子の表面を観察した。なお、後述する合成例1および2で得られた粒子はいずれも多孔質の表面を有することがSEMにより確認された。表1において、表面に皮膜が全く観察されなかったものを「A」、皮膜が観察されたものを「B」とした。
【0044】
3.2.実験例
3.2.1.合成例1(多孔質粒子の合成)
グリシジルメタクリレート(アルドリッチ社製)7.76gおよび2−エチル−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオールトリメタクリレート(和光純薬製)5.173gを4−メチル−2−ペンタノン(和光純薬製)4.8gおよび2,6−ジメチル−4−ヘプタノン(和光純薬製)14.6gに溶解させ、2、2’−アゾイソブチロニトリル(和光純薬製)0.13gを添加し、有機モノマー溶液を調製した。
【0045】
次に、300mlの蒸留水にポリビニルアルコール(アルドリッチ社製、分子量85000−124000、鹸化度87−89%)1.2gおよび塩化ナトリウム15gを添加し、一晩撹拌して水溶液を調製した。
【0046】
次いで、得られた水溶液を500mlセパラブルフラスコ内に投入し、温度計、プロペラ型撹拌棒、および冷却管をセットし、撹拌翼の回転数を800rpmに設定し、窒素雰囲気下で撹拌を開始した。
【0047】
続いて、セパラブルフラスコを温水バスに設置して、水溶液の温度を75℃に設定した。この水溶液に滴下ロートを用いて上記有機モノマー溶液を添加し、4時間攪拌を行った後、バスの温度を85℃に上げて、さらに2時間攪拌した。
【0048】
次いで、反応液を冷却したのち、かかる反応液を500mlのポリビンに移してしばらく静置すると粒子が浮遊してくるため、下方から余分な水を吸い出して廃棄した。さらに、この反応液にアセトン300mlを加えて粒子を沈降させた。
【0049】
次に、反応液を3分間静置して、デカンテーションによりアセトンを除去した。この操作を2回繰り返したのち水300mlを加えて、粒子を沈降させた。さらに、3分間静置してデカンテーションを行った。この操作を2回繰り返して粒子を洗浄した。さらに、粒子の分散液をアセトンで再び置換して、一晩風乾したのち、真空乾燥機にて乾燥を行い、皮膜を有する多孔質粒子1(3.3g)を得た。
【0050】
3.2.2.合成例2(多孔質粒子の合成)
グリシジルメタクリレート(アルドリッチ社製)5.82gおよび2−エチル−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオールトリメタクリレート(和光純薬製)3.88gを2−ヘプタノン(和光純薬製)6.5gおよび2,6−ジメチル−4−ヘプタノン(和光純薬製)16.8gに溶解させ、2、2’−アゾイソブチロニトリル(和光純薬製)0.069gを添加し、有機モノマー溶液を調製したほかは、合成例1と同様な操作を行うことにより、皮膜を有する多孔質粒子2(4.0g)を得た。
【0051】
3.2.3.合成例3(多孔質粒子の合成)
グリシジルメタクリレート(アルドリッチ社製)5.82gおよび2−エチル−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオールトリメタクリレート(和光純薬製)3.88gを2−ヘプタノン(和光純薬製)20.0gに溶解させ、2、2’−アゾイソブチロニトリル(和光純薬製)0.069gを添加し、有機モノマー溶液を調製したほかは、合成例1と同様な操作を行うことにより、皮膜が形成されていない多孔質粒子3(3.8g)を得た。
【0052】
3.2.4.合成例4(多孔質粒子表面への官能基付与)
1gの多孔質粒子1を250mlポリ瓶にいれて、純水100gに分散させ、間接超音波(AZ one社製US−1R 55w 40KHz)を15分間照射した。この液を1分間静置したのち、浮遊物とともに水をデカンテーションした。この操作を4回繰り返したのち、アセトン100gを添加して軽く振とうし、1分間静置したのち、アセトンを除去した。次に、純水を100g添加してデカンテーションする操作を3回繰り返したのち、粒子に0.1M硫酸を100cc添加することにより、グリシジル基を加水分解して2,3−ジヒドロキシプロピル基を生成させた。この液を60℃で5時間転倒混和した。次いで、5cの桐山濾紙で濾過した後、純水100mlに展開して再度濾過した。5mlのアセトンに添加し濾過した。これを繰り返した後、5mlの1,3−ジオキソランに添加し濾過した。この操作を繰り返し、1,3−ジオキソラン溶液と粒子との合計が6.35gになるようにスクリュー管の中で調整し、間接超音波(AZ one社製US−1R 55w 40kHz)を5分間照射した。ここに無水コハク酸(和光純薬製)0.16g、1,3−ジオキソラン4.9ml、およびトリエチルアミン(和光純薬製)0.4mlを加え、インキュベーター(Az One社製SI−300)130rpm 23℃で4時間振とうした。6mlの1,3−ジオキソラン、6mlのアセトン、および6mlの蒸留水で洗浄した後、乾燥させて、2,3−ジヒドロキシプロピル基と無水コハク酸との反応によって生じた、カルボキシル基を有する官能基付き粒子1を0.8g(収率80%)得た。この官能基付き粒子1の表面荷電量を測定したところ、435μmol/gであった。
【0053】
3.2.5.合成例5(多孔質粒子表面への官能基付与)
多孔質粒子1の代わりに多孔質粒子2を用いた他は合成例4と同様に実験を行い、官能基付き粒子2を0.7g得た。収率は70%であった。この粒子の表面荷電量を測定したところ、380μmol/gであった。
【0054】
3.2.6.合成例6(多孔質粒子表面への官能基付与)
超音波処理を行わなかった他は合成例5と同様に実験を行い、官能基付き粒子3を0.9g得た。収率は90%であった。この粒子の表面荷電量を測定したところ、160μmol/gであった。
【0055】
3.2.7.合成例7
多孔質粒子2の代わりに多孔質粒子3を用いた他は、合成例6と同様に実験を行い、官能基付き粒子4を0.9g得た。収率は90%であった。この粒子の表面荷電量を測定したところ、250μmol/gであった。
【0056】
3.2.8.合成例8(プロテインA結合粒子の作製)
官能基付き粒子1を500mg秤量し、100mM MES(pH5)(和光純薬製)を23.6g添加した。ここに10mg/mlのNHS(和光純薬製)水溶液を500μl添加して、つづいて、10mg/mlのWSC(同仁化学製)900μlを添加した。4℃にて転倒混和を3時間行った。遠心分離(ミリポア社製チビタン)により10秒間行い、溶液除去したのち、100mM MES(pH5)を25ml添加した。ここにプロテインA(Repligen社 rPA)を15mg添加し4℃で30分転倒混和した。反応終了後、50ccの0.5Mモノエタノールアミンおよび0.5M塩化ナトリウム水溶液で2回洗浄したのち、50ccの0.5Mモノエタノールアミンおよび0.5M塩化ナトリウム水溶液中で室温にて転倒混和した。さらに、0.5Mモノエタノールアミンおよび0.5M塩化ナトリウム水溶液で2回洗浄したのち、50ccのTween20(アルドリッチ社製)0.05%のPBS(PIERCE社製)溶液で2回洗浄した後、50ccのTween20(アルドリッチ社製)0.05%のPBS(PIERCE社製)溶液を添加し20分転倒混和した。Tween20(アルドリッチ社製)0.05%のPBS(PIERCE社製)溶液で再度洗浄したのち、溶媒をPBS(PIERCE社製)に置換して、プロテインA結合粒子1を得た。BCAアッセイ法により、プロテインAの結合量を求めたところ、(27.8μg/g)であった。
【0057】
3.2.9.合成例9(プロテインA結合粒子の作製)
官能基付き粒子1の代わりに官能基付き粒子2を用いた他は、合成例8と同様に実験を行い、プロテインA結合粒子2を得た。ブラッドフォード法により、プロテインA結合粒子2におけるプロテインAの結合量を求めたところ、(20.6μg/g)であった。
【0058】
3.2.10.比較例1(プロテインA結合粒子の作製)
官能基付き粒子1の代わりに官能基付き粒子3を用いた他は、合成例8と同様に実験を行い、プロテインA結合粒子3を得た。ブラッドフォード法により、プロテインA結合粒子3におけるプロテインAの結合量を求めたところ、(11.8μg/g)であった。
【0059】
3.2.11.比較例2
官能基付き粒子1の代わりに官能基付き粒子4を用いた他は、合成例8と同様に実験を行い、プロテインA結合粒子4を得た。ブラッドフォード法により、プロテインA結合粒子3におけるプロテインAの結合量を求めたところ、(10.6μg/g)であった。
【0060】
それぞれの官能基つき粒子の表面積、皮膜の有無、ポアサイズ、表面荷電量の結果を表1に記し、それぞれのタンパク結合粒子のタンパク結合量とIgG捕捉量とを表2に記した。
【0061】
表1および表2に記した結果から、本発明に係るクロマトグラフィーカラム用多孔質粒子の製造方法を経て作製された、皮膜が除去された粒子は、皮膜を有する粒子(比較例1)と比較して、官能基、タンパク(プロテインA)結合量、およびIgG捕捉量がともに良好な結果であった。また、多孔化剤を変更して作製された、皮膜が形成されていない粒子(比較例2)と比較しても、本発明に係るクロマトグラフィーカラム用多孔質粒子の製造方法によって作製された粒子は、一旦形成された被膜を超音波処理で除去して得られたものであるため、タンパク(プロテインA)結合量およびIgG捕捉量がともに良好な結果であった。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】図1は、本発明の実施例に係る官能基付き粒子1の表面(超音波処理による皮膜の除去を行った多孔質粒子の表面)を撮影したTEM写真である。
【図2】図2は、本発明の実施例に係る官能基付き粒子3の表面(超音波処理による皮膜の除去を行わなかった多孔質粒子の表面)を撮影したTEM写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系媒体中、多孔化剤の存在下でエチレン性不飽和基含有モノマーを重合して多孔質粒子を得る工程と、
前記多孔質粒子に対して超音波処理を行って、該粒子の表面に存在する皮膜を除去する工程と、を含む、クロマトグラフィーカラム用多孔質粒子の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の多孔質粒子の製造方法によって得られ、プロテインAを結合させるために用いられる、クロマトグラフィーカラム用多孔質粒子。
【請求項3】
請求項2に記載の多孔質粒子にプロテインAを結合させた、プロテインA結合粒子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−244067(P2009−244067A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−90483(P2008−90483)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】