説明

クロムめっき用塗料組成物およびこれからなる塗膜を有する物品

【課題】付着性の低下したクロムめっき素材に対しても長期間にわたってクロムめっき面への高い付着性を維持し、かつ耐薬品性に優れる塗膜を形成できるクロムめっき用塗料組成物、およびこれからなる塗膜を有する物品を提供する。
【解決手段】アミノ基を有するビニル系単量体を含むビニル系単量体混合物を重合してなるビニル系重合体(A)と、一分子中にエポキシ基および加水分解性シリル基を有する化合物(B)とを含有し、前記ビニル系重合体(A)のガラス転移温度が、30℃未満であり、前記アミノ基を有するビニル系単量体の含有量が、前記ビニル系単量体混合物(100質量%)中、5質量%以上20質量%未満であるクロムめっき用塗料組成物を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロムめっき用塗料組成物およびこれからなる塗膜を有する物品に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のラジエターグリル、ライセンスガーニッシュ等の部品には、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン樹脂(以下、ABSと記す。)からなる基材に、クロムめっきを施した部品が用いられている。該部品には、意匠性付与の目的から、一部のクロムめっき面を残して他の部分にクリア塗装等の塗装が施される。該塗装に用いられる塗料には、得られる塗膜がクロムめっき面への高い付着性を有すること、得られる塗膜が酸、ガソリン等への耐性(耐薬品性)を有すること等が求められる。
【0003】
金属等への付着性に優れた塗膜を形成できる塗料組成物としては、塩基性窒素を有するアクリル樹脂と、一分子中にエポキシ基および加水分解性シリル基を有する化合物とを含有する塗料組成物が知られている(特許文献1参照)。
該塗料組成物からなる塗膜は、クロムめっき面への塗装直後においては、高い付着性を有しているものの、クロムめっき工程における付着残存物または塗装に至るまで保管環境によって付着性の低下したクロムめっき素材に対しては付着性が低下し、塗膜剥離が生ずるという問題を有している。
【特許文献1】特開平5−255636号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
よって、本発明の目的は、付着性の低下したクロムめっき素材に対しても長期間にわたってクロムめっき面への高い付着性を維持し、かつ耐薬品性に優れる塗膜を形成できるクロムめっき用塗料組成物、およびこれからなる塗膜を有する物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のクロムめっき用塗料組成物は、アミノ基を有するビニル系単量体を含むビニル系単量体混合物を重合してなるビニル系重合体(A)と、一分子中にエポキシ基および加水分解性シリル基を有する化合物(B)とを含有するクロムめっき用塗料組成物において、前記ビニル系重合体(A)のガラス転移温度が、30℃未満であり、前記アミノ基を有するビニル系単量体の含有量が、前記ビニル系単量体混合物(100質量%)中、5質量%以上20質量%未満であることを特徴とする。
【0006】
また、本発明のクロムめっき用塗料組成物は、さらに、前記(B)以外の加水分解性シリル基を有する化合物(C)を含有することが好ましい。
前記加水分解性シリル基を有する化合物(C)は、テトラメトキシシランの部分加水分解縮合体(C1)およびテトラエトキシシランの部分加水分解縮合体(C2)の混合物であり、(C1)と(C2)との質量比(C1/C2)が、1/2〜1/4であることが好ましい。
【0007】
また、本発明の物品は、クロムめっきが施された基材のクロムめっき面に、本発明のクロムめっき用塗料組成物からなる塗膜を有することを特徴とする。
前記基材のクロムめっき面は、有機ケイ素化合物で前処理されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明のクロムめっき用塗料組成物は、付着性の低下したクロムめっき素材に対しても長期間にわたってクロムめっき面への高い付着性を維持し、かつ耐薬品性に優れる塗膜を形成できる。
本発明の物品は、長期間にわたってクロムめっき面からの塗膜の剥離が抑えられ、かつ表面の耐薬品性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(ビニル系重合体(A))
ビニル系重合体(A)は、アミノ基を有するビニル系単量体と他のビニル系単量体とを含むビニル系単量体混合物を重合開始剤を用いて重合して得られる重合体である。
【0010】
アミノ基を有するビニル系単量体としては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等のジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート類;N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等のN−ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド類;t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、t−ブチルアミノプロピル((メタ)アクリレート等が挙げられる。これらのうち、塗膜硬度の点から、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート類、N−ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド類が好ましい。本発明において「(メタ)アクリレート」は、アクリレートおよび/またはメタクリレートを意味し、「(メタ)アクリルアミド」は、アクリルアミドおよび/またはメタクリルアミドを意味する。
【0011】
アミノ基を有するビニル系単量体の含有量は、ビニル系単量体混合物(100質量%)中、5質量%以上20質量%未満であり、5〜15質量%が好ましい。アミノ基を有するビニル系単量体の含有量を5質量%以上とすることにより、得られる塗膜の耐ガソリン性が良好となる。アミノ基を有するビニル系単量体の含有量を20質量%未満とすることにより、得られる塗膜のクロムめっき面への付着性および耐酸性が良好となる。
【0012】
他のビニル系単量体としては、(メタ)アクリル酸エステル類、カルボキシル基含有ビニル系単量体、不飽和二塩基酸のジアルキルエステル類、酸無水基含有ビニル系単量体、カルボン酸アミド基含有ビニル系単量体、スルホンアミド基含有ビニル系単量体、(パー)フルオロアルキル基含有ビニル系単量体、芳香族ビニル系単量体等が挙げられる。本発明において「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸および/またはメタクリル酸を意味する。
【0013】
(メタ)アクリル酸エステル類としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、iso−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、iso−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0014】
カルボキシル基含有ビニル系単量体としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等が挙げられる。
不飽和二塩基酸のジアルキルエステル類としては、ジメチルマレート、ジメチルフマレート等が挙げられる。
酸無水基含有ビニル系単量体としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸等が挙げられる。
【0015】
カルボン酸アミド基含有ビニル系単量体としては、(メタ)アクリルアミド、N−アルコキシ(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
スルホンアミド基含有ビニル系単量体としては、p−スチレンスルホンアミド等が挙げられる。
(パー)フルオロアルキル基含有ビニル系単量体としては、パーフルオロシクロヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
芳香族ビニル系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン等が挙げられる。
【0016】
重合開始剤としては、例えば、過酸化ベンゾイル、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート等の過酸化物:アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリル等のアゾ化合物等が挙げられる。
【0017】
ビニル系重合体(A)のガラス転移温度は、30℃未満であり、10〜25℃が特に好ましい。ビニル系重合体(A)のガラス転移温度を30℃未満とすることにより、長期間にわたって高い付着性を維持することができる。また、ビニル系重合体(A)のガラス転移温度を10℃以上とすることにより、充分な塗膜硬度が得られる。
【0018】
ビニル系重合体(A)のガラス転移温度(Tg)は、単量体a,b,c・・・からなる共重合体の場合は、以下の式(FOXの式)で求められる。
1/Tg=ma/Tga+mb/Tgb+mc/Tgc+・・・
ma :単量体aの質量分率、Tga :単量体aから得られる単独重合体のTg[K]、
mb :単量体bの質量分率、Tgb :単量体bから得られる単独重合体のTg[K]、
mc :単量体cの質量分率、Tgc :単量体cから得られる単独重合体のTg[K]。
【0019】
ビニル系重合体(A)の質量平均分子量は、10,000〜50,000が好ましく、15,000〜30,000が特に好ましい。ビニル系重合体(A)の質量平均分子量が10,000以上であれば、得られる塗膜の耐ガソリン性が充分となる。ビニル系重合体(A)の質量平均分子量が50,000以下であれば、塗装の際に糸引き等が発生することなく、塗工性がよくなる。ビニル系重合体(A)の質量平均分子量は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるスチレン換算の値である。
【0020】
(化合物(B))
化合物(B)は、一分子中にエポキシ基および加水分解性シリル基を有する化合物である。化合物(B)としては、エポキシ基を有するシランカップリング剤(B1)、エポキシ基および加水分解性シリル基を有するビニル系重合体(B2)が挙げられる。
エポキシ基を有するシランカップリング剤(B1)としては、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。
【0021】
ビニル系重合体(B2)は、エポキシ基を有するビニル系単量体および加水分解性シリル基を有するビニル系単量体、さらに必要に応じて他のビニル系単量体を重合して得られる重合体である。エポキシ基を有するビニル系単量体としては、(β−メチル)グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等が挙げられる。加水分解性シリル基を有するビニル系単量体としては、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、ビニルトリトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等が挙げられる。他のビニル系単量体としては、上述の他のビニル系単量体等が挙げられる。
【0022】
(化合物(C))
化合物(C)は、前記化合物(B)以外の加水分解性シリル基を有する化合物である。
化合物(C)としては、アルコキシシラン類、アルケニルオキシシランル類、アシロキシシラン類、ハロシラン類、アルコキシシラン類の部分加水分解縮合体、アルケニルオキシシランル類の部分加水分解縮合体等が挙げられる。
【0023】
アルコキシシラン類としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、 テトラブトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン等が挙げられる。
アルケニルオキシシラン類としては、テトライソプロペニルオキシシラン、フェニルトリイソプロペニルオキシシラン等が挙げられる。
アシロキシシラン類としては、テトラアセトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリアセトキシシラン等が挙げられる。
ハロシラン類としては、テトラクロルシラン、フェニルトリクロロシラン等が挙げられる。
【0024】
これらのうち、塗膜の硬度、耐ガソリン性、耐Wax除去剤性の点から、アルコキシシラン類の部分加水分解縮合体が好ましく、テトラメトキシシランの部分加水分解縮合体(C1)およびテトラエトキシシランの部分加水分解縮合体(C2)の混合物が特に好ましい。また、(C1)としては、テトラメトキシシランの3〜5量体が好ましく、(C2)としては、テトラエトキシシランの4〜6量体が好ましい。
該混合物において(C1)と(C2)との質量比(C1/C2)は、1/2〜1/4が好ましい。(C1)と(C2)との質量比がこの範囲にあれば、塗料の可使時間と塗膜強度等とのバランスが良好となる。
【0025】
(クロムめっき用塗料組成物)
本発明のクロムめっき用塗料組成物は、ビニル系重合体(A)と、化合物(B)と、必要に応じて化合物(C)とを含有する塗料組成物である。
化合物(C)を添加しない場合、ビニル系重合体(A)の含有量は、(A)+(B)の合計100質量%中、60〜98質量%が好ましく、80〜98質量%が特に好ましい。ビニル系重合体の含有量がこの範囲にあれば、長期間にわたってクロムめっき面への高い付着性を維持し、かつ耐薬品性に優れる塗膜を形成できる。
化合物(C)を添加しない場合、化合物(B)の含有量は、(A)+(B)の合計100質量%中、2〜40質量%が好ましく、2〜20質量%が特に好ましい。化合物(B)の含有量がこの範囲にあれば、長期間にわたってクロムめっき面への高い付着性を維持し、かつ耐薬品性に優れる塗膜を形成できる。
【0026】
化合物(C)を添加する場合、化合物(C)の含有量は、(A)+(B)+(C)の合計100質量%中、2〜40質量%が好ましく、12〜20質量%が特に好ましい。化合物(C)の含有量がこの範囲にあれば、塗膜の硬度、耐ガソリン性、耐Wax除去剤性が向上する。化合物(C)を添加する場合、(A)+(B)+(C)の合計100質量%中、ビニル系重合体(A)の含有量は、60〜90質量%が好ましく、70〜80質量%が特に好ましく、化合物(B)の含有量は、5〜20質量%が好ましく、10〜15質量%が特に好ましい。
本発明のクロムめっき用塗料組成物は、必要に応じて、加水分解−縮合用触媒、着色顔料、染料、体質顔料、紫外線吸収剤、酸化防止剤、金属粉末、マイカ粉末等の添加剤を含有していてもよい。
【0027】
(物品)
本発明の物品は、クロムめっきが施された基材のクロムめっき面に、本発明のクロムめっき用塗料組成物からなる塗膜を有するものである。
【0028】
基材としては、ABS樹脂、ポリカーボネート等のプラスチック基材、鋼鉄等の金属基材等が挙げられる。
クロムめっき処理の方法としては、公知のめっき処理の方法が挙げられる。
【0029】
基材のクロムめっき面は、クロムめっき面への塗膜の付着性の向上の点から、有機ケイ素化合物で前処理されていることが好ましい。前処理の方法としては、有機ケイ素化合物を基材のクロムめっき面に塗布する方法が挙げられる。有機ケイ素化合物としては、上述の化合物(B)、化合物(C)等が挙げられる。これらのうち、クロムめっき面への塗膜の付着性の向上効果が高い点で、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、テトラエトキシシランが特に好ましい。
【0030】
塗膜は、本発明のクロムめっき用塗料組成物、溶剤、レベリング剤等を混合して調製された塗料を、基材のクロムめっき面に塗装し、乾燥させることによって形成される。
溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤;トルエン、キシレン、ナフサ等の炭化水素系溶剤;2−ブトキシエタノール等のアルコール系溶剤;エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等が挙げられる。
塗装方法としては、例えば、スプレー塗装、フローコート、デイッピング、刷毛塗り、ロールコート等が用いられる。
塗膜の膜厚は、10〜100μmが好ましい。
【実施例】
【0031】
以下、実施例を示して本発明を詳しく説明する。
合成例1〜18における各測定は以下のように行った。
(不揮発分(NV))
ビニル系重合体(A)溶液のNVは、簡易キャップに秤取した塗料2gを105℃の恒温槽中で3時間乾燥させ、乾燥後のキャップの質量からキャップの風袋を差し引き、これと、始めに採取した塗料質量との質量比をNVとした。
(質量平均分子量(Mw))
ビニル系重合体(A)のMwは、日本分光(株)製のGPC装置を用い、スチレン換算で求めた。
(ガラス転移温度(Tg))
ビニル系重合体(A)のTgは、上述のFOXの式を用いて算出した。
【0032】
[合成例1]
撹拌装置、温度計、窒素導入管および還流冷却器を備えた反応器に、トルエン50質量部、iso−ブタノール50質量部を仕込み、窒素雰囲気下で100℃に昇温した。反応器内の温度を100℃に保持しながら、これに、メチルメタクリレート(MMA)10質量部、n−ブチルメタクリレート(BMA)64質量部、n−ブチルアクリレート(BA)16質量部、ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMMA)10質量部、アゾビスイソブチルニトリル(AIBN)1質量部からなる混合物を90分かけて滴下した。滴下終了後、100℃で1時間保持し、さらにAIBN0.2質量部を追加した。その後、100℃で30分保持し、さらにAIBN0.5質量部を追加した。その後、100℃で3.5時間保持し、ビニル系重合体(A1)溶液を得た。NV、Mw、Tgを表1に示す。
【0033】
[合成例2〜11]
MMA、BMA、BAの仕込量を表1に示す量に変更した以外は、合成例1と同条件で重合を行い、Tgが異なるビニル系重合体(A2)〜(A11)を得た。NV、Mw、Tgを表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
[合成例12〜16]
MMA、BMA、DMMAの仕込量を表2に示す量に変更した以外は、合成例1と同条件で重合を行い、DMMA量が異なるビニル系重合体(A12)〜(A16)を得た。NV、Mw、Tgを表2に示す。
【0036】
[合成例17]
1回目に添加するAIBNの量を3質量部とした以外は、合成例4と同条件で重合を行い、低Mwのビニル系重合体(A17)を得た。NV、Mw、Tgを表2に示す。
【0037】
[合成例18]
撹拌装置、温度計、窒素導入管および還流冷却器を備えた反応器に、トルエン50質量部、iso−ブタノール20質量部を仕込み、窒素雰囲気下で100℃に昇温した。反応器内の温度を100℃に保持しながら、これに、MMA32質量部、BMA42質量部、BA16質量部、DMMA10質量部、AIBN0.2質量部からなる混合物を90分かけて滴下した。滴下終了後、100℃で1時間保持し、さらにAIBN0.2質量部およびiso−ブタノール30質量部を追加した。その後、100℃で30分保持し、さらにAIBN1.3質量部を追加した。その後、100℃で3.5時間保持し、高Mwのビニル系重合体(A18)を得た。NV、Mw、Tgを表2に示す。
【0038】
【表2】

【0039】
[実施例1]
ビニル系重合体(A1)溶液200質量部(NV:100質量部、(A)+(B)の合計100質量%中90質量%)、化合物(B)として、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン17質量部((A)+(B)の合計100質量%中10質量%)、紫外線吸収剤(チバガイギー社製、チヌビン384)2.8質量部、光安定剤(チバガイギー社製、LS292)1.2質量部、レベリング剤(共栄社化学(株)製、グラノール200)1.2質量部および混合溶剤274.8質量部を混合し、塗料を調製した。混合溶剤としては、酢酸エチル8.7質量%、トルエン72.3質量%、キシレン19質量%からなるものを用いた。
クロムめっきを施したABS樹脂板(日本テストパネル(株)製)のクロムめっき面に、塗料を乾燥膜厚が25±2μmとなるようにスプレー塗装し、70℃で30分間乾燥させ、25℃、55%RHの環境下で7日間放置して塗膜を形成し、試験片を得た。該試験片について、以下の評価を行った。結果を表3に示す。
【0040】
(1)初期付着性:
JIS K 5400に準拠した碁盤目法にて付着性を評価した。具体的には、試験片の塗膜にカッターで碁盤目状に切り込み(1mm間隔、100マス)を入れ、セロハンテープを密着させたのち、これを引きはがし、クロムめっき面からはがれた塗膜のマスを数えた。
【0041】
(2)耐水性試験後の付着性:
試験片を40℃の温水中に240時間浸漬し、これを温水中から取り出し、塗膜表面の水分を除去し、表面温度が室温になるまで放置したものについて、JIS K 5400に準拠した碁盤目法にて付着性を評価した。
【0042】
(3)耐候劣化試験後の付着性:
スガ試験機(株)製、サンシャインウエザオメータで400時間、促進耐候試験を行った後、試験片を40℃の温水中に48時間浸漬し、これを温水中から取り出し、塗膜表面の水分を除去し、表面温度が室温になるまで放置した。この操作をさらに2回繰り返した後の試験片について、JIS K 5400に準拠した碁盤目法にて付着性を評価した。
【0043】
(4)耐酸性:
塗膜上に3質量%硫酸水溶液を約0.2ml滴下し、22℃で4時間放置した後、外観を観察した。
耐酸性の評価基準は以下の通りである。
○:塗膜変色なし。
△:塗膜変色なし。光沢低下あり。
×:塗膜変色あり。
【0044】
(5)耐ガソリン性:
試験片を無鉛レギュラーガソリン中に30分浸漬した後、ガソリンを拭き取り、塗膜の外観を観察した。
耐ガソリン性の評価基準は以下の通りである。
○:塗膜膨潤なし。ガソリン跡なし。
△:塗膜膨潤なし。ガソリン跡あり。
×:塗膜膨潤あり。ガソリン跡あり。
【0045】
(6)湿潤環境放置後の評価:
50℃、95%RHの環境下で、96時間放置した試験片について、上記(1)〜(5)の評価を行った。
【0046】
(1)〜(3)および(6)における付着性の評価基準は、以下の通りである。
6:クロムめっき面からはがれた塗膜のマスの数が0で、剥離部分が全くない。
5:クロムめっき面からはがれた塗膜のマスの数が0で、碁盤目カット部分にわずかな欠けがある。
4:クロムめっき面からはがれた塗膜のマスの数が0で、わずかな点剥離がある。
3:クロムめっき面からはがれた塗膜のマスの数が1〜10で、中程度の点剥離がある。
2:クロムめっき面からはがれた塗膜のマスの数が11〜50で、相当数の点剥離がある。
1:クロムめっき面からはがれた塗膜のマスの数が51以上で、面剥離が発生。
【0047】
[実施例2〜4、比較例1〜7]
ビニル系重合体(A2)〜(A11)について、実施例1と同様にして、塗料を調製し、試験片を作製し、該試験片について(1)〜(6)の評価を行った。結果を表3に示す。また、湿潤環境放置後の各付着性(初期付着性、耐水性試験後の付着性、耐候劣化試験後の付着性)の結果を図1のグラフに示す。
【0048】
【表3】

【0049】
ビニル系重合体(A)のTgが高すぎると、初期付着性および耐水性試験後の付着性が若干低下する。また、ビニル系重合体(A)のTgが30℃以上になると、耐候劣化試験後の付着性が急激に低下する。以上の結果から、ビニル系重合体(A)のTgを30℃未満とすることで、長期間にわたってクロムめっき面への塗膜の付着性を高いレベルで維持できることがわかる。
【0050】
[実施例5、6、比較例8〜10]
ビニル系重合体(A12)〜(A16)について、実施例1と同様にして、塗料を調製し、試験片を作製し、該試験片について(1)〜(5)の評価を行った。結果を表4に示す。
【0051】
【表4】

【0052】
ビニル系重合体(A)のDMMA量が多いと、クロムめっき面への塗膜の付着性および塗膜の耐酸性が低下する傾向にある。また、ビニル系重合体(A)のDMMA量が少ないと、塗膜の耐ガソリン性が低下する傾向にある。以上の結果から、ビニル系重合体(A)の原料となるアミノ基を有するビニル系単量体の量を5質量%以上20質量%未満とすることで、塗膜の付着性、耐酸性、耐ガソリン性のバランスが良好になることがわかる。
【0053】
[実施例7、8]
ビニル系重合体(A17)、(A18)について、実施例1と同様にして、塗料を調製し、試験片を作製し、該試験片について(6)の評価を行った。結果を表5に示す。
【0054】
【表5】

【0055】
ビニル系重合体(A)のMwが低いと、耐ガソリン性が若干劣っていたが、問題となるレベルではない。また、ビニル系重合体(A)のMwが高いと、スプレー塗装時に糸引きが発生し、塗装性がやや悪かった。ただし、塗膜の密着性は、ビニル系重合体(A)のMwに依存しない。
【0056】
[実施例9]
ビニル系重合体(A4)溶液200質量部(NV:100質量部、(A)+(B)+(C)の合計100質量%中77質量%)、化合物(B)として、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン20質量部((A)+(B)+(C)の合計100質量%中10.2質量%)、化合物(C)として、テトラメトキシシランの部分加水分解縮合体(C1)(日本ユニカー(株)製、AZ6202)およびテトラエトキシシランの部分加水分解縮合体(C2)(多摩化学(株)製、シリケート40)の混合物(C1/C2=1/3質量比)20質量部((A)+(B)+(C)の合計100質量%中12.8質量%)、紫外線吸収剤(チバガイギー社製、チヌビン384)2.8質量部、光安定剤(チバガイギー社製、LS292)1.2質量部、レベリング剤(共栄社化学(株)製、グラノール200)1.2質量部および上記混合溶剤238.8質量部を混合し、塗料を調製した。実施例1と同様にして試験片を作製し、該試験片について上記(1)〜(6)の評価を行った。また、下記(7)〜(9)の評価を行った。また、実施例4の試験片についても下記(7)〜(9)の評価を行った。結果を表6に示す。
【0057】
(7)鉛筆硬度:
三菱鉛筆(株)製、ハイユニを塗膜面にあて、針が折れない程度の力で押し進め、引っ掻き試験を行った。判定は塗膜の破れで行った。
【0058】
(8)耐Wax除去剤性:
Wax除去液(ユシロ化学工業(株)製、ST−7)に45℃で10分間浸漬した後、24時間室温で放置し、外観を観察した。
耐Wax除去剤性の評価基準は以下の通りである。
○:塗膜膨潤なし。Wax除去液跡なし。
×:塗膜膨潤あり。Wax除去液跡あり。
【0059】
(9)耐摩耗性:
摺動摩耗試験機を用い、一定荷重(500g/cm2 )にてガーゼを付けた摩耗子を塗膜面に押し付け、往復摩耗させ、塗膜面の外観に傷が確認できた回数を示した。
【0060】
【表6】

【0061】
テトラメトキシシランの部分加水分解縮合体(C1)およびテトラエトキシシランの部分加水分解縮合体(C2)の混合物を所定の比率で添加することにより、塗膜の硬度、耐Wax除去剤性、耐摩耗性が向上することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明のクロムめっき用塗料組成物は、自動車のラジエターグリル、ライセンスガーニッシュ等の、クロムめっきが施された部品の塗料として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】ビニル系重合体(A)のガラス転移温度(Tg)と、クロムめっき面への塗膜の付着性との相関関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ基を有するビニル系単量体を含むビニル系単量体混合物を重合してなるビニル系重合体(A)と、一分子中にエポキシ基および加水分解性シリル基を有する化合物(B)とを含有するクロムめっき用塗料組成物において、
前記ビニル系重合体(A)のガラス転移温度が、30℃未満であり、
前記アミノ基を有するビニル系単量体の含有量が、前記ビニル系単量体混合物(100質量%)中、5質量%以上20質量%未満であることを特徴とするクロムめっき用塗料組成物。
【請求項2】
さらに、前記(B)以外の加水分解性シリル基を有する化合物(C)を含有することを特徴とする請求項1に記載のクロムめっき用塗料組成物。
【請求項3】
前記加水分解性シリル基を有する化合物(C)が、テトラメトキシシランの部分加水分解縮合体(C1)およびテトラエトキシシランの部分加水分解縮合体(C2)の混合物であり、
(C1)と(C2)との質量比(C1/C2)が、1/2〜1/4であることを特徴とする請求項2に記載のクロムめっき用塗料組成物。
【請求項4】
クロムめっきが施された基材のクロムめっき面に、請求項1ないし3のいずれか一項に記載のクロムめっき用塗料組成物からなる塗膜を有する物品。
【請求項5】
前記基材のクロムめっき面が、有機ケイ素化合物で前処理されていることを特徴とする請求項4記載の物品。

【図1】
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【公開番号】特開2007−119517(P2007−119517A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−309537(P2005−309537)
【出願日】平成17年10月25日(2005.10.25)
【出願人】(000103976)オリジン電気株式会社 (223)
【Fターム(参考)】