説明

クロロシランの製造方法

【課題】塩素化されたシランであって、SiH3Cl、SiH2Cl2及びそれらの組み合わせを含む少なくとも1つの最終生成物をフィード流中のシランに関して50%以上のモル収率で調製するための方法を提供する。
【解決手段】シランと塩化水素を含む反応混合物を最終生成物を提供するのに十分な温度及び時間で触媒と接触させることにより1つ又は複数の塩素化されたシランを含む最終生成物が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
塩素化シラン又はクロロシラン、例えば、モノクロロシラン又はジクロロシラン等の製造方法が本明細書で記載される。
【背景技術】
【0002】
低塩素含有量のシランは、−SiH3又は−SiH2部分を含有する官能基化されたシランを製造するための望ましい前駆体である。官能基化されたシランの特性は、それらの置換基を変えることで高度に調整可能であることがわかっており、例えば、マイクロ電子デバイスの製造で使用できる二酸化ケイ素又は窒化ケイ素薄膜の堆積における応用が増大している。
【0003】
塩素化シランのモノクロロシランはトリクロロシランの不均化(式1、2)によりシランの工業的な合成における中間体として大規模に製造されるが、それはシラン製造の高度に統合された特徴及びモノクロロシランと比較したシランの高い商業的な需要からほとんど分離されない。
2SiCl3H ←→ SiH2Cl2 + SiCl4 (式1)
2SiH2Cl2 ←→ SiH3Cl + SiCl3H (式2)
モノクロロシランは、ジクロロシランの不均化又はシランとより高級のクロロシラン(例えば、SiCl4、SiHCl3、SiH2Cl2)のコンプロポーショネーション(conproportionation)によって調製することができるが、これらの反応に関する平衡定数はモノクロロシランに有利ではなく、シランの製造に用いられるものと類似の大規模な副生成物の再生利用がこの方法でモノクロロシランを効率よく製造するには必要であることがよく確立されている。モノクロロシランの合成のためのより直接的な経路が文献で報告されているが、それらは、有害な反応条件、より高度に塩素化されたシランの共形成、及び/又は望ましくない触媒特性を含む種々の因子のために大規模な合成には適していない。例えば、塩素によるシランの直接的な塩素化は、触媒がない場合でさえ激しく進行し、クロロシランの混合物が生成する。同様に、モノクロロシランを形成するためのHClとシランの三塩化アルミニウム触媒反応は、AlCl3の揮発性及び(バッチ又は連続プロセスにおいて)不均化触媒として作用するAlCl3の能力のために連続プロセスでは複雑である。AlCl3の揮発性に関連する課題は、LiAl2Cl7等の溶融塩触媒をそれらの共晶融点以上で使用することにより部分的に取り組まれている。しかしながら、これらの塩は、非常に腐食性であり、AlCl3の揮発性を幾らか保持し、結果として、特に説明のない限り、連続的な融点の上昇をもたらす。より高温での合成は、溶融塩の腐食性を悪化させ、AlCl3の損失速度を増加させ、そして最終生成物の選択性を低下させる。
【発明の概要】
【0004】
1つ又は複数の触媒の存在下でシラン(SiH4)と塩化水素(HCl)を含む反応混合物から式SiH3Cl(モノクロロシラン)又はSiH2Cl2(ジクロロシラン)を有する塩素化シランを調製するための方法が本明細書で記載される。1つの実施態様では、モノクロロシラン、ジクロロシラン及びそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つを含む最終生成物を調製するための方法であって、シランと塩化水素の反応混合物を用意する工程、及び該反応混合物を前記最終生成物を提供するための温度及び時間において触媒と接触させる工程を含み、前記触媒が、モレキュラーシーブ、AlCl3を含むシリカ担体、AlnCl(3n+1)-(式中、n≧1)を含むイオン性液体、及びそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つを含む方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【図1】例1のNa−ZSM−5(12.5)を含むモレキュラーシーブ触媒の存在下におけるシランとHClの反応からの最終生成物流のFTIR及びGC−TCDプロットを与える。
【発明を実施するための形態】
【0006】
1つ又は複数の触媒、例えば、固体酸触媒又はイオン性液体触媒等、しかしそれらに限定されない触媒の存在下でシラン(SiH4)と塩化水素(HCl)を含む反応混合物から式SiH3Cl(モノクロロシラン)又はSiH2Cl2(ジクロロシラン)を有する塩素化シランを調製するための方法が本明細書で開示される。本明細書で記載される方法により、選択触媒上でシランと塩化水素を反応させることで、塩素化シラン、例えば、モノクロロシラン、ジクロロシラン、又はモノクロロシランとジクロロシランの組み合わせを(シランの使用量に基づいて)50mol%以上、55mol%以上、60mol%以上、65mol%以上、70mol%以上、75mol%以上、80mol%以上の収率で選択的に調製するための大規模に実現可能な方法がないという問題が解消される。1つの実施態様では、触媒は、モレキュラーシーブ、例えば、特に限定されないが、構造触媒;シリカ担持AlCl3;アニオン形態のAlnCl(3n+1)-を含むイオン性液体;及びそれらの組み合わせから構成される。一方のクロロシランをもう一方のクロロシランよりも選択的に形成し、そして有利には副生成物の濃縮物を下流の処理操作(すなわち精製)に適合させるために、触媒の選択、前駆体組成物、触媒の接触時間、温度、圧力及びそれらの組み合わせが本明細書で記載される方法において用いられる。それゆえ、本明細書で記載される方法により、シランの工業的な製造のために現在用いられている方法で生じる複雑さや不利な点なしで、工業に適した規模で汎用化学製品からのモノクロロシラン、ジクロロシラン、又はそれらの組み合わせの直接的な合成が可能となる。
【0007】
本明細書で記載される方法では、触媒、例えば、特に限定されないが、モレキュラーシーブ、例えば、構造化されたゼオライト等;AlCl3を含むシリカ担体;AlnCl(3n+1)-を含むイオン性液体;及びそれらの組み合わせが使用される。モノクロロシラン及びジクロロシランを調製するための先の方法、例えば、不均化、コンプロポーショネーション(conproportionation)、シラン塩素化反応等と比べて、本明細書で記載される方法は、所望の最終生成物の改善された収率、選択率、及び/又は拡張可能性を提供する。また、本明細書で記載される方法では、シランの工業的な製造のために現在用いられている方法で生じる複雑さや不利な点なしで、部分的に塩素化されたシランを高収率で調製するための大規模に実現可能な方法がないという問題が解消される。それゆえ、本明細書で記載される方法により、工業に適した規模で汎用化学製品からの所望の前駆体の直接的な製造が可能となる。
【0008】
1つの実施態様では、最終生成物のモノクロロシラン又はジクロロシランは、式3及び4に従って、シランと無水水素を含む反応混合物を酸触媒と接触させることにより製造することができる。
SiH4 + HCl + --{触媒} → SiH3Cl + H2 (式3)
SiH4 + 2HCl + --{触媒} → SiH2Cl2 +2H2 (式4)
この又は他の実施態様では、本明細書で記載される方法は、前駆体の消費を最大にするフローシステムにおいて反応体のガス混合物と触媒の接触時間を最適化することにより高い選択率及び収率で連続的に操作することができ、一方で副生成物の形成を最小限に抑えることができる。最終生成物の組成及び収率は、以下の条件、すなわち、HCl:シランの供給比、ガスと触媒の接触時間、触媒組成(サイズ、多孔性、担体及び前処理の手順を含む)、温度及び圧力のうち1つ又は複数を変化させることにより、使用者のニーズを満足させるよう最適化することができる。
【0009】
1つの実施態様では、反応は充填床反応器において実施され、触媒は固体酸である。1つの特定の実施態様では、固体酸触媒は、モレキュラーシーブ、又はシリカ担体上のAlCl3から構成することができる。好適なモレキュラーシーブに基づく触媒の例としては、特に限定されないが、構造化されたゼオライト、例えば、Y型(FAU)、モルデナイト(MOR)、ZSM−5(MFI)、ZSM−11(MEL)、ZSM−12(MTW、MCM−22(MWW)など)、所定のSi/Al比を有するもの(例えば、非晶質でないアルミナケイ酸塩)、及びそれらの組み合わせが挙げられる。別の骨格組成物、例えば、適度なブレンステッド酸性度を有するものを含む他のモレキュラーシーブを使用してもよい。これらの別の骨格組成物の例としては、特に限定されないが、適度な酸触媒、例えば、特に限定されないが、SAPO−37(FAU)、SAPO−40(AFR)が挙げられる。括弧内に与えられる構造コードは、構造中の骨格原子の特有の配列を規定するのに用いられる広く受け入れられている記号表示である(例えば、C.Baerlocher、W.M.Meier及びD.H.Olson編、Atlas of Zeolite Framework Types−改訂第5版を参照されたい)。モレキュラーシーブ触媒と関連するカチオンとしては、特に限定されないが、プロトン、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、三価金属カチオン及び錯カチオン(例えば、NH4+)が挙げられる。また、活性、選択性及び/又は寿命の観点における触媒性能の強化は、幾つかの実施態様において、触媒中に1つ又は複数の追加の触媒中心を含めることにより行うことができる。これらの又は他の実施態様では、白金、パラジウム又は鉄などしかしそれらに限定されない金属の含有物を使用することができる。
【0010】
この又は他の実施態様では、反応は、約20℃〜約200℃の1つ又は複数の温度で行われる。反応のための例示的な温度は、以下の終点、すなわち、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190又は200℃のうち任意の1つ又は複数の終点を有する範囲を包含する。特定の反応器の温度範囲の例としては、特に限定されないが、20℃〜200℃又は70℃〜160℃が挙げられる。
【0011】
本明細書で記載される方法の幾つかの実施態様では、反応の圧力は、約0.1〜約115psia又は約10〜約45psiaであることができる。1つの特定の実施態様では、反応は約10〜約45psiaの圧力で行われる。
【0012】
幾つかの好ましい実施態様では、反応混合物中の試薬はガス状である。これらの実施態様では、触媒と反応混合物の接触は、触媒によって置換される反応器のかさ容積を試薬(例えば、シランとHCl)のガス流量で割り算することによって規定することができる。ガスと触媒の接触時間は約5〜約200秒であることができる。反応混合物と触媒の例示的な接触時間は、以下の終点、すなわち、5、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190又は200秒のうち任意の1つ又は複数の終点を有する範囲を包含する。特定の接触時間の範囲の例としては、特に限定されないが、20〜100秒又は10〜40秒が挙げられる。
【0013】
反応混合物中のHCl/シランの供給比は、0.5〜3.5の範囲から選択することができ、一般的により低い値がモノクロロシラン生成物に有利であり、より高い値がジクロロシラン生成物に有利である。
【0014】
触媒があるSi/Al比を有するゼオライトを含む実施態様では、触媒のゼオライト成分中のSi/Al比は好ましくは12.5〜100である。しかしながら、本明細書で記載される方法の他の実施態様では、この範囲外のSi/Al比を使用することもできる。
【0015】
1つの特定の実施態様では、触媒は、5.3〜7.5Åの細孔サイズを有する非晶質ではないアルミナケイ酸塩に基づくゼオライトを含む。これらの実施態様では、塩素化されたシランの特定の最終生成物がより高級の塩素化生成物に比べて有利な場合があることが見出された。特許請求の範囲を限定するものではないが、これは、サイズ選択性の原理及びSiH4(5.3Å)、SiH3Cl(5.3Å)、SiH2Cl2(5.4Å)、SiHCl3(7.6Å)、SiCl4(7.7Å)の計算直径(細孔に入るのに必要な断面直径を最小にする空間に配向される)と一致している。しかしながら、本実施態様は、5.3〜7.5Åの細孔サイズの範囲外の細孔サイズを有する非晶質ではないアルミナケイ酸塩に基づくゼオライト触媒又は他の触媒を除外するものではない。
【0016】
1つの特定の実施態様では、酸触媒の充填床反応器が、シランと塩化水素から高収率でそしてジクロロシラン副生成物に関して高い選択性でモノクロロシランを調製するのに使用される。この実施態様では、好ましい触媒は、元となるNa−ZSM−5(12.5)触媒を無水塩化水素で前処理することによりその場(in situ)で調製される12.5のSi/Al比を有するH−ZSM−5・NaClである。関連する実施態様では、充填床反応器は、天然のH−ZSM−5(12.5)、すなわち、Na+の形態からその場(in situ)で調製されたものではないH−ZSM−5(12.5)を使用することで、他のクロロシランに関して予想外に高い収率及び選択率においてジクロロシランを調製するのに使用される。この実施態様と先の実施態様の間の最終生成物の組成における相違は、好ましい生成物がゼオライトの内部多孔度、酸強度又はそれらの組み合わせにおける小さな変化によって影響を受けることを示唆するものである。触媒中にNa+が存在することで細孔サイズが小さくなり、生成物中のモノクロロシランとジクロロシランの選択性に影響を及ぼしうるゼオライトの有効な酸強度が低下することが知られている。
【0017】
モノクロロシランの形成を達成するための適切な酸強度は、ゼオライト細孔内のブレンステッド酸性度に由来しうるか、又は触媒粒子中の非ゼオライト成分と関連しうる。これまでに評価された触媒では、粘土又はシリカのバインダーを含有する触媒粒子が形成された。低い反応温度におけるモノクロロシランへの中程度から高い転化率(60〜90%)は、粘土バインダーを含有する触媒組成物上で生じる。シリカバインダーを含むより高いSi/Al比を有する様々なZSM−5触媒は反応性が低く、同様の条件では40%未満の転化率を示す。シランの塩素化の重要な特徴は、弱いブレンステッド酸の存在と活性なゼオライト又は生成物の分布を制御するのに好適な細孔形状を有する他のモレキュラーシーブ成分である。
【0018】
本明細書で記載される方法の別の実施態様では、塩素化されたシランは、反応混合物をAlCl3触媒を含むシリカ担体と接触させることにより調製することができる。本明細書で記載される方法におけるAlCl3触媒を含むシリカ担体の使用は、幾つかの実施態様では、AlCl3触媒系、例えば、無希釈のAlCl3及び高温の溶融塩よりも有利な場合がある。なぜなら、三塩化アルミニウムはシリカ担体に化学的に結合しており、それゆえ昇華によって失われないからである。活性な触媒サイトを保持することは、これらのクロロシランのバルク合成に必要とされる長期の及び繰り返しの反応期間にとって有利である。
【0019】
別の実施態様では、モノクロロシラン又はジクロロシランは、イオン性液体の形態の酸触媒の存在下で塩化水素とシラン前駆体を反応させることにより高収率で調製することができる。この又は他の実施態様では、反応は攪拌槽又は気泡塔において行われる。AlnCl(3n+1)-(式中、n≧1)のアニオン形態を含むイオン性液体がそれらの強いルイス酸性度及び利用可能性のために好ましいが、シラン又はH2の存在下で還元されない別の酸性クロロメタレートアニオン、例えば、特に限定されないが三価のランタニド(例えば、LnnCl(3n+1)-);Ln=ランタニド(III))を使用してもよい。好ましい対イオンはアルキルイミダゾリウムカチオン(例えば、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム)であるが、複合反応混合物の存在下で安定でありかつ選択されたアニオンと組み合わせた場合に低融点(すなわち、約100℃未満の融点)の塩を形成する任意のカチオンを代わりに使用してもよい。触媒組成物の精製は、イオン性液体の物理的性質、例えば、特に限定されないが、粘度及び相挙動、並びに所望のクロロシランの安定な連続的製造を促進させるための材料の適合性を改良するのに用いることができる。1つの実施態様では、反応は、連続的に操作される攪拌槽反応器において表面下のシランと塩化水素の前駆体ガスフィードとともに行うことができる。別の実施態様では、反応は、適切なガスと触媒の接触を可能にすることができる気泡塔において行うことができる。ガスと触媒の滞留時間は約5〜約100秒であることができるが、この範囲外の接触時間についても、触媒、他の反応条件、及び所望の生成物組成に応じて受け入れることができる。この実施態様では、反応温度は約20〜約100℃であることができるが、より高い温度も高い触媒活性を達成するのに使用できる。この実施態様における塩化水素/シランの比は0.8〜2.0であることができるが、この範囲外の比も、所望の生成物の組成に応じては有利な場合がある。反応混合物のガス供給圧力は約10〜約45psiaであることができるが、この範囲外の圧力も使用することができる。
【0020】
以下の例は、本明細書で記載される塩素化シランを調製するための方法を例示するものであるが、本方法を何ら限定するものではない。
【実施例】
【0021】
以下の例については、ガスクロマトグラフィー(GC−TCD)、FT−IR分光分析を用いて気相生成物を分析し、HCl及びシランの転化、生成物の選択率及び収率を測定した。ガスクロマトグラフィー分析は、HP−5890シリーズ II GC及び3μm厚さのSPB−5媒体を含む直径0.53mm×30mのSuplecoカラムを備えたTCDを用いて生成物の流出物に関して実施した。生成物の組成を定性的に評価するのに必要な場合には、長さ1cmのKBrガスのセルを備えたNicolet Avatar 360 FT−IR分光計を用いて反応器の流出ガス中の生成物を明確に同定した。
【0022】
[例1:Na−ZSM−5(Si/Al=12.5)充填カラムにおけるHClとシランの反応によるモノクロロシランの連続的な合成]
粘土担体上のNa−ZSM−5(Si/Al=12.5)から構成される触媒27gを3/4インチ直径のステンレス鋼の管型反応器に充填した。触媒は、N2パージとともに300℃で4時間乾燥することにより前処理した。次いで、塩化水素で触媒の状態を整えた後、シラン(23mL/分)とHCl(26mL/分)の共フィードを確立し、一方で反応器を110℃に維持した。生成物流をガスクロマトグラフィー及び赤外線分光法で分析した後、−78℃のステンレス鋼の極低温受器において捕集した。モノクロロシランの選択率及び収率が増加する8〜16時間の誘導期の後、供給量及び反応器流出物の分析から以下の粗生成物の組成、すなわち、5mol%のSiH4、4mol%のHCl、49mol%のH2、35mol%のSiH3Cl及び7mol%のSiH2Cl2を得た。最終生成物の混合物は、高効率のシラン塩素化(91mol%)、及び76mol%のモノクロロシラン収率に相当するジクロロシランに対するモノクロロシランの選択率(84mol%)を示す。
【0023】
充填床反応器における長期使用後のNa−ZSM−5(12.5)触媒のX線蛍光分光法及びX線回折分析では、触媒が1.00のNa+カチオンごとに0.97の塩素アニオンを保持し、結晶性NaClが触媒の使用の間に形成されたことが示された。理論に束縛されることを意図するものではないが、これらの観測結果は、観測される誘導期が元のZSM−5触媒のナトリウム形態とHClのプロトンとの間のカチオン交換に関連していることを示唆するものである。この結果は、堆積されそして不動のNaCl副生成物が活性触媒中に保持されているH−ZSM−5(12.5)のその場(in situ)生成された形態であると仮定される。その場(in situ)生成されたH[NaCl]−ZSM−5(12.5)は高いモノクロロシラン選択性を示し、一方で、未処理のH−ZSM−5(12.5)は高いジクロロシラン選択性を示すので(例2及び3を参照)、伴出された塩はZSM−5(12.5)の生成物選択性を決定する際の1つの因子になると考えられる。
【0024】
[例2:H−ZSM−5(Si/Al=12.5)とNa−ZSM−5(Si/Al=12.5)を用いたモノクロロシランの連続的な合成の比較]
粘土担体上のH−ZSM−5(Si/Al=12.5)から構成される触媒28gを1/2インチ直径のステンレス鋼の管型反応器に充填した。触媒は、N2パージとともに300℃で4時間乾燥することにより前処理した。次いで、塩化水素で触媒の状態を整えた後、シラン(26mL/分)とHCl(29mL/分)の共フィードを確立し、一方で反応器を80℃に維持した。生成物流をガスクロマトグラフィー及び赤外線分光法で分析した後、−78℃のステンレス鋼の極低温受器において捕集した。供給量及び反応器流出物の分析から以下の粗生成物の組成、すなわち、16mol%のSiH4、0mol%のHCl、53mol%のH2、8mol%のSiH3Cl及び23mol%のSiH2Cl2を得た。
【0025】
例1と例2の間の最終生成物の組成における相違は、好ましい生成物がゼオライトの内部多孔度、酸強度、又はそれらの組み合わせにおける小さな変化によって影響を受けうることを示唆するものである。触媒中にNa+が存在することで細孔サイズが小さくなり、生成物中のモノクロロシランとジクロロシランの選択性に影響を及ぼしうるゼオライトの有効な酸強度が低下することが知られている。酸強度の重要性に関する更なる証拠が、100のSi/Al比を有するNa−ZSM−5を評価することで見出された。より高いSi/Al比は触媒の酸強度を増加させることがよく知られている。この触媒は、モノクロロシランに関してはるかにより低い転化率及び選択率を示し、それは酸強度の増加がモノクロロシランの収率を低下させることを示すものである。類似の実験を、ZSM−5触媒と同じ細孔構造を有するが、触媒中の極少数の酸性サイトを可能にするアルミニウムがほとんどないケイ酸塩触媒を用いて実施した。予想どおり、この触媒は、低い転化率を示したが、モノクロロシランに対して90%を超える選択率を示し、ZSM−5構造がモノクロロシランを選択的に製造するのに効果的であり、そして酸性度の適度な強度が変更可能な温度範囲で許容レベルの転化を達成するのに必要であることを確認した。多くの炭化水素の転化において有効な選択触媒であることが知られている100のSi/Al比を有する強酸性のH−ZSM−5は、シランが熱的に安定である条件下でのシランのモノクロロシランへの転化に対しては高い活性を有していない。モノクロロシランの製造に利用できる好ましい触媒は、モノクロロシランが触媒の細孔構造を出ることができる細孔サイズと、シランが安定である穏やかな温度条件下でシランフィードの高い転化を可能にする適切な酸強度を有する活性な触媒相を含む。
【0026】
[例3:H−ZSM−5(Si/Al=12.5)充填カラムにおけるHCl塩素源とシランの反応によるジクロロシランの連続的な合成]
粘土担体上にH−ZSM−5(Si/Al=12.5)を含む触媒28gを1/2インチ直径のステンレス鋼の管型反応器に充填した。触媒は、N2パージとともに300℃で4時間乾燥することにより前処理した。次いで、塩化水素で触媒の状態を整えた後、シラン(36mL/分)とHCl(71mL/分)の共フィードを確立し、一方で反応器の温度を130℃に維持した。生成物流をガスクロマトグラフィー及び赤外線分光法で分析した後、ステンレス鋼の極低温受器において捕集した。供給量及び反応器流出物の分析から以下の粗生成物の組成、すなわち、2mol%のSiH4、65mol%のH2、2mol%のSiH3Cl及び31mol%のSiH2Cl2を得た。最終生成物の混合物は、高いシラン塩素化効率(95%)及びモノクロロシラン又はトリクロロシランに対するジクロロシランの選択率(93%)を示す。
【0027】
[例4:AlCl3担持シリカ触媒を用いた低度の塩素化による塩素化シランの連続的な合成]
シリカ上に担持した三塩化アルミニウム(9g)を1/2インチのステンレス鋼の管型反応器に充填した。更なる前処理なしで、等モルのHCl−シランの共フィード(29mL/分)を50℃で充填触媒床に通して確立した。生成物流をガスクロマトグラフィー及び赤外線分光法で分析した。供給量及び反応器流出物の分析から以下の粗生成物の組成、すなわち、24mol%のSiH4、23mol%のHCl、27mol%のH2、25mol%のSiH3Cl及び1mol%のSiH2Cl2を得た。
【0028】
[例5:イオン性液体BMIM−Al2Cl7を触媒として用いた低度の塩素化による塩素化シランの連続的な合成]
ブチルメチルイミダゾリウム・ジアルミニウムヘプタクロリド(BMIM−Al2Cl7)のイオン性液体触媒306gをステンレス鋼の攪拌槽反応器に充填した。HClとシラン(1.15:1)の共フィードを70℃で約54mL/分の速度で以ってイオン性液体触媒に通してバブリングした。生成物流をガスクロマトグラフィー及び赤外線分光法で分析した。供給量及び反応器流出物の分析から以下の粗生成物の組成、すなわち、18mol%のSiH4、23mol%のHCl、31mol%のH2、24mol%のSiH3Cl及び4mol%のSiH2Cl2を得た。
【0029】
[例6:イオン性液体の[BMIM][AlCl4]と[BMIM][Al2Cl7]を触媒として用いたモノクロロシラン合成の比較]
ブチルメチルイミダゾリウム・アルミニウムテトラクロリド(BMIM−AlCl4)のイオン性液体触媒28gをガラスの3/4インチ直径×7インチ深さの気泡塔に充填した。シラン(20mL/分)と塩化水素(38mL/分)の共フィードを22、50、80及び100℃の温度でHastalloyのディップチューブを介して気泡塔の底部に導入した。ガスクロマトグラフィーによる分析は行わなかったが、FT−IR分光法による流出ガスの定性分析は、わずかの量のモノクロロシランの形成を示し、流出物の大部分がシランと塩化水素の供給ガスであると同定した。HClによるシランの塩素化を容易に触媒するBMIM−Al2Cl7とは対照的に、BMIM−AlCl4がこのような反応を促進できないことは、より低いAlCl3含有量及び共役ルイス酸性度と関連していると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノクロロシラン、ジクロロシラン及びそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つを含む最終生成物を調製するための方法であって、
シランと塩化水素の反応混合物を用意する工程、及び
該反応混合物を前記最終生成物を提供するための温度及び時間において触媒と接触させる工程を含み、前記触媒が、モレキュラーシーブ、AlCl3を含むシリカ担体、AlnCl(3n+1)(式中、n≧1)を含むイオン性液体、及びそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つを含む、方法。
【請求項2】
前記触媒がモレキュラーシーブを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記触媒がゼオライトを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記モレキュラーシーブがブレンステッド酸をさらに含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記モレキュラーシーブがナトリウムカチオンをさらに含む、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記触媒が10〜400のシリカ/アルミナ比を有する、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記触媒がその場(in situ)で形成される、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記触媒がAlCl3を含むシリカ担体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記反応混合物中の塩化水素/シランの比が0.5〜3.0である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記温度が20〜200℃である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
反応体ガスと触媒の接触時間が5〜200秒である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記反応混合物の圧力が0.1〜115psiaである、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記最終生成物がモノクロロシランを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記最終生成物がジクロロシランを含む、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−248067(P2010−248067A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−93275(P2010−93275)
【出願日】平成22年4月14日(2010.4.14)
【出願人】(591035368)エア プロダクツ アンド ケミカルズ インコーポレイテッド (452)
【氏名又は名称原語表記】AIR PRODUCTS AND CHEMICALS INCORPORATED
【住所又は居所原語表記】7201 Hamilton Boulevard, Allentown, Pennsylvania 18195−1501, USA
【Fターム(参考)】