説明

クーラント供給システムおよび研削装置

【課題】低コストで簡易な構成でありながら高い熱除去性能をもつクーラント供給システムを提供する。
【解決手段】砥石Gと、工作物Wとを相対移動させて工作物Wを砥石Gにより研削点Pにクーラントを供給しながら研削加工する研削装置1におけるクーラント供給システムにおいて、クーラント供給システム5を構成する第1クーラント供給装置37が研削点Pに供給するクーラントは飽和水蒸気を所定温度まで加熱した過熱水蒸気とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、砥石により工作物を研削する研削装置において、砥石と工作物との接触箇所へのクーラントの供給に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、砥石により工作物を研削加工する研削装置において、工作物、砥石及び研削点(接触箇所)の冷却及び潤滑はクーラント液を噴き付けることによって行っている。しかし高速で回転する工作物や砥石、また工作物と砥石が接触する研削点にクーラント液を十分行渡らせるのは容易ではなく、様々な方法が採られており、例えば特許文献1に示すものが知られている。特許文献1によれば、クーラント液を研削点に供給するために、微細乱流塊発生装置3を備え、クーラント液を微細塊化し、乱流に乗せて工作物、砥石及び研削点へノズル6によって噴き付け供給する。微細塊化されたクーラント液は微細乱流の働きにより工作物、砥石及び研削点に薄い膜状になって張り付くため、一度張り付けば砥石や工作物の回転による遠心力及び風圧でも吹き飛ばされることなく安定して冷却及び潤滑効果を発揮する。
【特許文献1】WO2003/076129
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に示すクーラントの供給方法においては、液相状態のクーラントを微粒化するため、その粒子の最小サイズには限界がありクーラント液が研削点の深部に入り込むことは困難である。よって研削点の研削熱の除去が十分行なえず研削焼けの問題が発生する恐れがある。また研削熱の除去が十分行えないため研削速度を現状より上げることは困難であり、生産性の向上を見込むことが難しい。さらに、クーラント液を再利用するためクーラント液に混在する砥粒や切粉が研削点に入り込み加工精度を低下させる恐れがあるとともに、多量のクーラント液の使用が不可欠であるためクーラントタンクの容量が過大となり設備のスペースが大となり、コストも高くなるという課題もある。
【0004】
本発明は、かかる従来の不具合を解消するためになされたもので、低コストで簡易な構成でありながら高い熱除去性能をもつクーラント供給システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明の構成上の特徴は、砥石と、工作物とを相対移動させて前記工作物を前記砥石により研削点にクーラントを供給しながら研削加工する研削装置におけるクーラント供給システムにおいて、前記クーラント供給システムを構成する第1クーラント供給装置が前記研削点に供給する前記クーラントが飽和水蒸気を所定温度まで加熱した過熱水蒸気であることである。
【0006】
請求項2に係る発明の構成上の特徴は、請求項1において、前記クーラント供給システムは前記研削加工中に前記工作物から発生する切粉を除去するため及び前記工作物を冷却するための液状の研削液を供給する第2クーラント供給装置をさらに備えたことである。
【0007】
請求項3に係る発明の構成上の特徴は、請求項2において、前記研削装置における前記砥石は砥石台に回転駆動可能に支承され、前記工作物は工作物支持装置に回転駆動可能に支持され、前記第1クーラント供給装置のクーラントノズルは前記研削点の上方に配置され、前記クーラントが砥石回転方向上流側から下方の前記研削点に吹き付けられ、前記第2クーラント供給装置のクーラントノズルは前記工作物及び前記砥石の下方に配置され前記研削液が砥石回転方向下流側から上方の前記工作物及び前記砥石に噴き付けられることである。
【0008】
請求項4に係る発明の構成上の特徴は、砥石と工作物とを相対移動させて前記工作物を前記砥石により研削加工する研削装置において、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のクーラント供給システムが設けられたことである。
【発明の効果】
【0009】
上記のように構成した請求項1による発明によれば、研削点を冷却するため供給される第1クーラント供給装置のクーラントは所定温度まで過熱された過熱水蒸気である。これにより過熱水蒸気はノズルから噴き付けられ空気中で冷やされて水滴化されるも、液相状態の水から微粒化したものより小さな粒径の水滴が得られ、よって研削点の奥深くまで到達でき、確実に研削点の冷却が行なえる。また冷却はクーラントを液相状態のままで使用する顕熱冷却ではなく、気化するときの潜熱を研削点から奪う潜熱冷却で行うため、冷却効果は非常に大きく少量のクーラント(水蒸気)で対応できる。さらに冷却効果が大きいため加工速度を上げることができ生産性が向上する。
【0010】
上記のように構成した請求項2による発明によれば、液状の研削液を供給する第2クーラント供給装置が設けられ、研削液は主に切粉および脱落した砥粒の除去(洗浄)に利用される。よって従来に比べ研削点の冷却を行わない分、大幅に研削液の使用量が低減され、研削液を貯留するためのクーラントタンクを小さくすることができ設備スペースが縮小されるのでコスト低減を図ることができる。
【0011】
上記のように構成した請求項3による発明によれば、第1クーラント供給装置のクーラントノズルは研削点の上方に配置され過熱水蒸気であるクーラントが砥石回転方向上流側から研削点に向かって噴き付けられ、第2クーラント供給装置のクーラントノズルは工作物及び砥石の下方に配置され液状の研削液が砥石回転方向下流側から工作物及び砥石に噴き付けられる。これにより、第1クーラント供給装置から噴き付けられるクーラントは研削点に到達し易く研削点の冷却効果が高まる。また第2クーラント供給装置から噴き付けられる研削液は切粉および脱落した砥粒を除去するが、研削点には到達困難であるため研削液に混入する切粉等の異物が研削点で工作物表面に傷を付けることを防止できる。
【0012】
上記のように構成した請求項4による発明によれば、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のクーラント供給システムが研削装置に設けられる。これにより簡易な構成でありながら高い熱除去性能をもち、低コストおよび高品質で工作物を研削可能であり、生産性の向上が図られる研削装置が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係る研削装置1について
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に基づいて説明する。図1に示すように研削装置1はベッド10と、ベッド10上に摺動可能に載置されサーボモータ12によりボールネジ機構を介してX軸方向に進退移動される砥石台11と、ベッド10上に摺動可能に装架されサーボモータ14によりボールネジ機構18を介してX軸と直角なY軸方向に移動されるテーブル17と、テーブル17上に取り付けられ工作物Wを挟持し回転駆動させるための工作物支持装置19を構成する主軸台20及び心押台と、砥石Gが高速回転したときに砥石Gの外表面に発生する各連れ周り空気層30、33をエアの噴射により遮断しクーラントがスムースに研削点Pに到達できるようにするための流体ジェット吐出装置24と、研削点Pの冷却、切粉の除去及び工作物等の冷却を行なうクーラント供給システム5とによって構成されている。
【0014】
砥石台11には、先端に砥石Gが取り付けられた砥石軸13が回転駆動可能に支承されている。砥石Gは鉄又はアルミニウム等の金属で成形された円盤状の基体15の外周面に複数の砥石チップ16が接着されて構成されモータにより回転駆動される。砥石台11には図1、図2に示すように砥石Gを覆う砥石カバー22が固定されている。砥石カバー22には遮風板31が取り付けられ、この遮風板31に砥石Gの両側面23a,23bの前端部分に向かって斜め下方に開口する流体ジェット吐出装置24の側面用エアカットノズル25a,25bが取り付けられている。砥石Gの小円弧部分27の垂直な弦28より僅かに砥石Gの回転中心側には、遮風板31が研削点Pより砥石回転方向の上流側から弦28と平行に配置され、砥石台11に固定された砥石カバー22に取り付けられている。遮風板31には開口溝32が形成され、開口溝32の両側面32a,32bは砥石Gの両側面23a,23bと僅かな隙間を持って夫々対向し研削点Pを含む砥石半径を横切った位置まで延在している。開口溝32の溝端面32cは、砥石外周面23cに連れ回りする空気層33が研削点Pに到達するのを遮断するために、研削点Pより砥石回転方向の上流側で砥石Gの外周面と僅かな隙間を持って対向されている。
【0015】
クーラント供給システム5は、研削点Pの冷却を行なうための過熱水蒸気状態のクーラントを研削点Pに供給する第1クーラント供給装置37と、切粉、砥粒の除去及び工作物の冷却を行なうための液状の研削液を供給する第2クーラント供給装置6とによって構成されている。
【0016】
第1クーラント供給装置37は、水を貯水する水タンク43と、一端が水タンク43に連結され水が流通する配管41と、配管41の他端と連結され流通された水を利用し所定の温度の過熱水蒸気を生成し送出するヒータ部40と、ヒータ部40で生成された過熱水蒸気の出口部に連結され下方にある工作物Wの研削点Pに向けて過熱水蒸気を噴き付けるクーラントノズル38と、配管41上に設けられ水タンク43内に貯水された水を配管41を通してヒータ部40に圧送する送水ポンプ42とから構成されている。なお、ここで過熱水蒸気とは、100℃を超える温度に加熱され微粒化された水蒸気のことをいう。
【0017】
水タンク43は、例えば耐水性のある樹脂(ポリアミド等)又は金属(防錆処理された鉄等)によって形成され、研削装置1の下方に鉄製の板が屈曲され形成されたラック34に収容されている。水タンク43には水道水が外部から補充できるように図略の給水口が設けられている。
【0018】
ヒータ部40は、配管41を通って流通された水をヒータ52によって沸騰させ100℃の飽和水蒸気を生成する蒸発部40aと、生成された飽和水蒸気を例えば700℃に加熱されたヒータ51に接触させ瞬間的に加熱し水蒸気爆発させて水蒸気の粒径を例えば2nm以下に微粒化する過熱水蒸気生成部40bと、生成された過熱水蒸気を送出するための送風用ファン50とから構成される。
【0019】
蒸発部40aは気密および水密に形成された例えば金属製のケース45によって構成される。ケース45内は下方の所定の高さhまでが水タンク43から供給された水が貯留される水貯留部45aを形成し、水貯留部45aより上方には生成された100℃の飽和水蒸気が溜められる飽和水蒸気貯留部45bが形成される。水貯留部45aには、水を沸騰させるためのヒータ52が設けられている。ヒータ52は供給され貯留された水中に埋没され、水と直接接触し熱交換して水を加熱する。蒸発部40aは過熱水蒸気生成部40bと上方の連結部46にて連結され連通されている。連結部46は蒸発部40aのケース45の飽和水蒸気貯留部45b内にあり、飽和水蒸気貯留部45b内が所定の圧力まで上昇されたときに飽和水蒸気が過熱水蒸気生成部40bに流入するよう例えば所定の開弁圧に設定されたリリーフ弁によって構成されている。
【0020】
過熱水蒸気生成部40bは、気密に形成されたケース47によって構成される。ケース47内には蒸発部40aとの連結部46より上方に、生成された過熱水蒸気を送出するための送風用ファン50が配置される。また蒸発部40aとの連結部46より下方に蒸発部40aから供給された飽和水蒸気を高温(例えば700℃)の表面で瞬間的に加熱し、例えば200℃の過熱水蒸気を生成するためのヒータ51が設けられている。ヒータ51の下方であってケース47の下部には生成された過熱水蒸気の出口部47aが形成され、クーラントノズル38と連結され連通されている。なお、ヒータ部40には市販の過熱水蒸気発生装置を使用してもよく、所望の温度の過熱水蒸気が得られればどのような装置を利用してもよい。
【0021】
クーラントノズル38は管形状で内部を例えば200℃を越える過熱水蒸気が通過するため耐熱性があり、かつ過熱水蒸気の温度を低下させないために断熱性の高い例えばポリイミド樹脂等で形成されている。クーラントノズル38は研削点Pの上方に配置される。クーラントノズル38は砥石台11に固定される砥石カバー22に固定され噴射口38aが下方に開口されて、クーラントである過熱水蒸気が研削点Pに噴き付けられ供給されるようになっている。クーラントノズル38の噴出口38aと研削点Pとの間は所定の距離だけ離間して配置される。ここで所定の距離とは、研削点Pを効率的に冷却するための最適な距離を言い、具体的には図2に示すようにクーラントノズル38の噴出口38aから噴き付けられた過熱水蒸気が空気中で冷却され研削点Pに到達する直前で水滴化する距離とするのがもっともよい。
【0022】
第2クーラント供給装置6は液状の研削液によって主に工作物Wから排出される切粉や砥石Gから脱落される砥粒を洗浄するとともに、工作物W及び砥石Gを冷却するためのものである。第2クーラント供給装置6は研削液を回収し貯蔵するクーラントタンク49と、一端がクーラントタンク49に連結され研削液が流通する配管44と、配管44の他端に連結され砥石G、工作物Wに向けて研削液を噴き付け供給するためのクーラントノズル39と、配管44上に設けられクーラントタンク49内に貯められた研削液を配管44を介してクーラントノズル39に圧送する送液ポンプ48とから構成されている。
【0023】
クーラントタンク49は、耐油性のある樹脂(例えばポリアミド等)又は金属(例えば防錆処理された鉄等)によって形成されて、研削装置1が設置される床面上に配置される。
【0024】
クーラントノズル39は管形状であり、耐油性のある樹脂(例えばポリアミド)または金属(例えば防錆処理が施された鉄)で形成され内部を若干高圧の研削液が流通する。クーラントノズル39は図略のブラケットを介してベッド10に固定される。クーラントノズル39は工作物W及び砥石Gの下方に配置され噴射口39aが上方に開口されて、研削液が砥石G、工作物Wに噴き付けられ供給されるよう配置されている。
【0025】
次に上記のように構成した本実施形態の作動について説明する。まず研削装置1の図略の電源をONし加工を開始すると、主軸台20と心押台との両センタ間に挟持された工作物Wが回転駆動される。次に砥石台11がサーボモータ12の所定方向への回転により前進され、高速回転される砥石Gと、工作物支持装置19に支持された工作物Wとを相対移動させて工作物Wが砥石Gにより研削加工される。
【0026】
このとき、工作物Wの研削点Pにおいては、砥石Gと工作物Wとの摩擦により発熱するとともに、工作物Wからは切粉が発生し、砥石Gからは砥粒が脱落する。摩擦により発生した熱を除去せず放置しておくと工作物Wの研削点Pは温度上昇し、大気中の酸素と反応して酸化膜が形成され、いわゆる研削焼けが発生する。研削焼けは、見た目の劣化だけでなく工作物Wの母材の性質を変質させ、母材強度にも低下等の影響を及ぼす。また工作物Wから発生する切粉や砥石Gから脱落する砥粒は、工作物Wの加工精度に影響を及ぼしたり、砥石Gの目詰まりを引き起こす原因となる。さらに砥石Gの目詰まりは工作物Wとの研削抵抗の増加を引き起こし、ひいては摩擦熱による研削点Pの温度をさらに上昇させる原因となる。
【0027】
そこで工作物Wから発生する切粉や砥石Gから脱落する砥粒の除去(洗浄)及び工作物Wや砥石Gの冷却に対しては研削点Pの下方(砥石回転方向下流側)から一般的な研削液を第2クーラント供給装置6によって工作物W、及び砥石Gに供給しながら加工を行なう。即ちクーラントタンク49に貯められた研削液が送液ポンプ48の作動により汲み上げられ、配管44を介してクーラントノズル39に圧送される。クーラントノズル39に供給された研削液は上方に向かって開口されたクーラントノズル39の噴出口39aから上方の工作物Wや砥石Gに向かって噴き付けられ供給される。これにより、工作物Wから発生した切粉及び砥石Gから脱落した砥粒は洗浄され除去されるとともに、工作物W及び砥石Gは冷却されるので工作物Wの加工面は高精度を維持できるとともに、砥石Gは目詰まりを防止され、砥石Gの目詰まりによる研削抵抗の増加の恐れがない。その後、切粉や砥粒を洗浄した研削液が切粉や砥粒とともに重力により自然落下する位置に刻設されたベッド10上の図略の回収用溝を経て、さらに不純物をトラップするフィルタを経て切粉と砥粒などが除去されクーラントタンク49に回収される。そしてクーラントタンク49に回収された研削液は再び送液ポンプ48の作動により汲み上げられ第2クーラント供給装置6によって研削液として再利用される。
【0028】
第2クーラント供給装置6は発生した切粉や脱落砥粒の洗浄を主な目的とするため、研削点Pの冷却も兼ねている従来技術と比べ研削液を大量に必要としない。よってクーラントタンク49も小型化でき、設置スペースの縮小化も図られる。また研削点Pの下方(砥石回転方向下流側)から工作物W及び砥石Gに向かって研削液を噴き付けるため、砥石Gの回転方向に対し対向する方向からの噴き付けとなり、これによって、研削液内に切粉等の異物が混入されていても研削点Pに噛みこむ恐れは低い。
【0029】
次に研削点Pに発生する研削熱の冷却について説明する。本発明においては、例えば200℃の過熱水蒸気をクーラント供給システム5を構成する第1クーラント供給装置37によって研削点Pに供給し冷却するよう構成されている。しかし高速回転される砥石Gのまわりには連れ回り空気層30、33なるものが発生し、研削点Pにクーラントが供給されるのを阻害するという問題がある。そこで各連れ回り空気層30、33を遮断するために本実施形態が備える方策について簡単に説明する。
【0030】
まず砥石Gの外周部23cに発生する連れ回り空気層33については、遮風板31の開口溝32の両側面32a、32bおよび溝端面32cによって遮断する。これにより研削点Pには連れ回り空気層33は到達できず、クーラントが研削点Pに供給されるのを妨げることがない。次に砥石Gの両側面23a、23bに発生する砥石Gの中心部から外周部に向かって流れる連れ回り空気層30については、流体ジェット吐出装置24のエアーカットノズル25a、25bを両側面23a,23bに向かって設け、エアーカットノズル25a、25bからエアを噴射することによって遮断する。図1、図2に示すようにエアーカットノズル25a、25bからは、エアジェット29が砥石Gの両側面23a,23bに傾斜して夫々噴き付けられ、該エアジェット29は、研削点Pより砥石回転方向上流側の砥石外周縁の点26から研削点Pを含む砥石前方の小円弧部分27の弦28に沿って流れる。また、側面用ノズル25a,25bから側面23a,23bに噴き付けられるエアジェット29が側面23a,23bに沿って研削点Pに向かって流れるのを防止するために、側面用ノズル25a,25bは開口部が砥石Gの後方を向くように若干後方に傾斜して取り付けられている。これにより、砥石Gの回転に連れて流れる砥石連れ回り空気層30は小円弧部分27に流入するのを遮断され、よって研削点Pに回り込むことがなく、クーラントが研削点Pに供給されるのを妨げることがない。
【0031】
次に第1クーラント供給装置37の作動について説明する。はじめに水タンク43に貯水された水が送水ポンプ42の作動により汲み上げられ、配管41を通ってヒータ部40に供給される。ヒータ部40の蒸発部40aに供給された水は、蒸発部40aの水貯留部45aに溜められる。そして水貯留部45aに配置されるヒータ52の作動によって溜められた水が沸騰し飽和水蒸気が生成され、水貯留部45aの上方の飽和水蒸気貯留部45bに溜められる。飽和水蒸気貯留部45bに溜められた飽和水蒸気量が増えてくると飽和水蒸気貯留部45b内の圧力が所定値以上に上昇し、所定圧で開弁するよう設定されたリリーフ弁を備える連結部46を介して過熱水蒸気生成部40bに送出される。送出された飽和水蒸気は過熱水蒸気生成部40b内の連結部46より上方に配置された送風用ファンの作動によって過熱水蒸気生成部40b内の下方に送られる。下方に送られた飽和水蒸気は連結部46より下方に配置された例えば700℃に加熱されたヒータ51部を通過し瞬間的に高温で加熱されて水蒸気爆発を起し体積が約1000倍以上に膨張する。そして膨張によって粒径が例えば2nm以下に微粒化された過熱水蒸気が生成される。このときの過熱水蒸気の温度は蒸発部40aの圧力を所定の方法で制御することによって所望の温度が設定でき例えば200℃以上とする。このように微粒化された過熱水蒸気は送風用ファン50の作動によってヒータ部40の出口部47aに連結されたクーラントノズル38に送られクーラントノズル38の噴出口38aから研削点Pに向かって噴き付けられ供給される。
【0032】
クーラントノズル38の噴出口38aから噴出された過熱水蒸気は大気と触れ温度が所定量低下する。しかし図2に示すように、この状態においても過熱水蒸気は100℃を超える温度であるため100℃の飽和水蒸気の状態と比べ微粒化されている(過熱水蒸気領域)。そして過熱水蒸気はさらに研削点Pに接近し大気と熱交換されて、水滴ではあるが液相状態の水から微粒化された水滴よりは粒径が小さい微粒化水滴となり工作物Wの研削点Pの奥深くに到達する(微粒化水滴領域)。このとき研削点Pは温度が例えば900℃〜1000℃であり、微粒化水滴は研削点Pの深部に到達した瞬間に再び気化し、研削点から2257kJ/kgの潜熱を奪い冷却する。液相状態による顕熱冷却の場合は20℃において4.18kJ/kgの熱を奪い冷却するのみであるため、潜熱冷却は顕熱冷却の約540倍の冷却性能となり少量のクーラントで確実で迅速かつ高効率に冷却を行ない研削焼けの発生を防止することができる。
【0033】
上述した内容から明らかなように、本実施形態においては、第1クーラント供給装置37によって、例えば200℃以上に加熱され微粒化された過熱水蒸気が工作物Wの研削点Pの深部まで確実に噴き付けられ供給されて研削点Pが冷却され研削焼けの発生が防止される。また、潜熱冷却によって冷却性能が向上するため加工スピードを上げることができ生産性の向上を図ることができる。さらに第2クーラント供給装置6は研削点Pの冷却を行なう必要がないため使用する研削液量の低減が図られるとともに、クーラントタンクの小型化および研削液に対するマグネットセパーレータ等の処理装置の小型化が図れ、大幅なコスト低減ができる。また、第2クーラント供給装置6による使用研削液量が低減されるため研削液の濃度管理が容易になり工作物の品質の向上が図られる。
【0034】
また、本実施形態においては、第2クーラント供給装置6によって研削点Pの下方(砥石回転方向下流側)から工作物Wおよび砥石Gに向かって研削液が噴き付けられるため、研削液内に切粉等の異物が混入されていても研削点Pに到達し工作物の表面を傷つける恐れは低く、品質の向上が図られる。
【0035】
なお、本実施形態においては円筒研削盤について説明したが、これに限らず平面研削盤等、他の研削盤についても適用可能であり本実施形態と同様の効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本実施形態に係るクーラント供給システムを備えた研削装置の一部を断面にした側面図である。
【図2】図1の正面図の一部であり、第1クーラント供給装置から噴射された過熱水蒸気の状態を示した図である。
【符号の説明】
【0037】
1…研削装置、5…クーラント供給システム、6…第2クーラント供給装置、10…ベッド、11…砥石台、12,14…サーボモータ、13…砥石軸、17…テーブル、20…主軸台、22…砥石カバー、23a,23b…砥石の両側面、24…流体ジェット吐出装置、25a,25b…側面用ノズル、30、33…砥石連れ回り空気層、31…遮風板、32…開口溝、37…第1クーラント供給装置、38…第1クーラントノズル、39…第2クーラントノズル、40…ヒータ部、40a…蒸発部、40b…過熱水蒸気生成部、41、44…配管、42…送水ポンプ、43…水タンク、48…送液ポンプ、49…クーラントタンク、50…送風用ファン、51、52…ヒータ、G…砥石、P…研削点、W…工作物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥石と、工作物とを相対移動させて前記工作物を前記砥石により研削点にクーラントを供給しながら研削加工する研削装置におけるクーラント供給システムにおいて、
前記クーラント供給システムを構成する第1クーラント供給装置が前記研削点に供給する前記クーラントが飽和水蒸気を所定温度まで加熱した過熱水蒸気であることを特徴とするクーラント供給システム。
【請求項2】
請求項1において、前記クーラント供給システムは前記研削加工中に前記工作物から発生する切粉を除去するため及び前記工作物を冷却するための液状の研削液を供給する第2クーラント供給装置をさらに備えることを特徴とするクーラント供給システム。
【請求項3】
請求項2において、前記研削装置における前記砥石は砥石台に回転駆動可能に支承され、前記工作物は工作物支持装置に回転駆動可能に支持され、前記第1クーラント供給装置のクーラントノズルは前記研削点の上方に配置され、前記クーラントが砥石回転方向上流側から前記研削点に噴き付けられ、前記第2クーラント供給装置のクーラントノズルは前記工作物及び前記砥石の下方に配置され前記研削液が砥石回転方向下流側から前記工作物及び前記砥石に噴き付けられることを特徴とするクーラント供給システム。
【請求項4】
砥石と工作物とを相対移動させて前記工作物を前記砥石により研削加工する研削装置において、
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のクーラント供給システムが設けられたことを特徴とする研削装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−99819(P2010−99819A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−276168(P2008−276168)
【出願日】平成20年10月27日(2008.10.27)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】