説明

クーラント回収装置

【課題】安価でありながら故障が少なく信頼性に富むクーラント回収装置を提供する。
【解決手段】工作機2の間に配設され、ワークWから落下するクーラントを受けるクーラント受け11と、このクーラント受け11に貯留されたクーラントをクーラントタンク13に移送する移送管12とを備えるクーラント回収装置10である。移送管12の流路上に、エアーが供給されることによって移送管12内に負圧を発生させる負圧発生手段20を設ける。そして、負圧発生手段20で移送管12内に発生させた負圧を利用して、クーラント受け11に貯留された切屑を含むクーラントがクーラントタンク13に移送される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はクーラント回収装置に関し、詳細には、複数設置された工作機の間をワークが搬送されるのに伴ってワークから落下するクーラントを回収し、回収したクーラントを再利用に供するためのクーラント回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、各種工作機が複数設置された自動加工ラインにおいては、ワークを各工作機に順次搬送・投入することにより、ワークに対して所定の加工が順次施されるようになっている。各工作機による加工中には、工具およびワークの損傷防止や加工精度の向上等を目的として、加工点に切削液等のクーラントが多量に供給される。加工完了後、ワークに付着したクーラントを完全に除去することは困難であることから、ワークは、その表面にクーラントが付着した状態のままで工作機間を搬送されるが、このとき、クーラントが工作機の間に落下する。落下するクーラントは、加工に伴って生成された切屑を含むものの、切屑を除去すれば再利用に供することが、すなわち再度工作機に供給することができる。そのため、この種の加工ラインには、落下するクーラントを回収するためのクーラント回収手段が設けられるのが通例となっている。
【0003】
例えば、特開平7−251346号公報(特許文献1)には、工作機が複数設置された加工ラインに沿ってワークを搬送する搬送装置が開示されている。この搬送装置は、クーラント回収手段としてのオイルパンを一体に有するものであり、工作機のレイアウト変更等に影響されることなく、搬送中にワーク等から落下するクーラントを効率良く回収することができるというメリットがある。しかしながら、かかる構成は、工作機の上方に設けられた搬送経路に沿って移動する、いわゆるガントリローダ型の搬送装置には採用可能であるものの、例えば地上に搬送経路が配設されるような場合には採用することができない。
【0004】
そこで、地上に搬送経路が配設される加工ラインにおいては、工作機間にクーラント受けを配設し、このクーラント受けでワーク搬送中に落下するクーラントを回収・貯留するようにしている。クーラント受けに所定量貯留されたクーラントは別途設けたクーラントタンクに集められた後、切屑の除去処理等が施される。但し、クーラント受けに貯留されたクーラントを手作業で回収するのは非効率を極める。そのため、通常は、クーラント受けとクーラントタンクとの間に移送管、および機械駆動式のポンプを設け、該ポンプの吸引・送出動作によりクーラントの回収作業を自動的に行うようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−251346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のとおり、落下するクーラントは、加工に伴って生成された切屑を含むものである。そのため、上記のように、機械駆動式のポンプを用いてクーラント受けに貯留されたクーラントをクーラントタンクに移送するように構成されたクーラント回収装置では、ポンプ内に切屑が堆積し易いために装置故障が頻発し、多大なメンテナンスコストを要するという問題が指摘されている。また、特に、クーラントタンクから離隔した位置に設けられたクーラント受けからもクーラントタンクにクーラントを移送するには、吸引・送出能力の高い大型のポンプを設置する必要がある。そのため、設備投資費用が嵩むばかりでなく、加工ラインの省スペース化の妨げにもなっているのが実情である。
【0007】
本発明の目的は、安価でありながら、故障が少なく信頼性に富むクーラント回収装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成すべく、本発明では、所定間隔で複数設置された工作機の間をワークが搬送されるのに伴ってワークから落下するクーラントを回収し、回収したクーラントを再利用に供するためのクーラント回収装置であって、工作機の間に配設され、ワークから落下するクーラントを受けるクーラント受けと、クーラント受けに貯留されたクーラントをクーラントタンクに移送する移送管とを備えるものにおいて、移送管の流路上に、エアーが供給されることによって移送管内に負圧を発生させる負圧発生手段を設け、この負圧発生手段で移送管内に発生させた負圧を利用してクーラント受けに貯留されたクーラントをクーラントタンクに移送することを特徴とするクーラント回収装置を提供する。
【0009】
機械駆動式のポンプは、内部に設けられた羽根車が回転することによって生じる吸引力および推進力を利用して流体の吸引・送出動作を行うものである。そのため、切屑を含むクーラントを吸引すると、特に羽根上に切屑が堆積して羽根車の回転力が低下する結果、移送不具合や装置故障が頻発する要因になっているものと考えられる。この点、上記本発明の構成を採用すれば、移送管内(流路内)に形成される負圧部分に対してクーラント受けに貯留されたクーラントが移送管内で生じる圧力差によって引き込まれ、この引き込みに伴って生じる流動力によってクーラントを下流側(クーラントタンク)に移送することができる。従い、流路上から羽根車等の切屑堆積要因を排除することが可能となり、装置故障の可能性を効果的に減じて信頼性に富む回収装置を提供することができる。また、羽根車、すなわち機械駆動式ポンプを排除することができる分、安価な装置構成とすることができると共にメンテナンス性も向上する。
【0010】
また、上記構成の回収装置においては、移送管内に生じる負圧の大きさによってクーラント受けに貯留されたクーラントに作用させるべき吸引力(クーラントに付与すべき下流側への流動力)が左右されるが、負圧の大きさは、移送管内に供給するエアーの流速を変化させることによって調整することができる。従い、クーラントタンクとの離間距離が大きいクーラント受けからクーラントを回収するような場合でも、エアーの流速を速めれば足り、負圧発生手段自体を大型化する必要はない。さらに言えば、エアーの流速を適当に設定しておけば、クーラントの回収作業を適切に行うことができる。なお、上記の機能を奏する負圧発生手段の具体例としては、エアーエゼクタを挙げることができる。
【0011】
ところで、自動加工ラインに設置される工作機では、例えば、クーラントをミスト状にして加工点に噴射するために、また、ワークが所定箇所に位置しているか否かを検知するためにエアーを用いるのが通例となっている。そのため、上記本発明の構成において、負圧発生手段に対するエアー供給を、工作機に対してエアーを供給するエアー源を用いて行うように、すなわち、工作機と負圧発生手段とでエアー源を共用するようにすれば、別途のエアー源を設ける必要がなくなる分、クーラント回収装置の低コスト化を図ることが、ひいては加工ラインの省スペース化を図ることが可能となり、望ましい。
【発明の効果】
【0012】
以上に示すように、本発明によれば、安価でありながら故障が少なく信頼性に富むクーラント回収装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係るクーラント回収装置が設置される自動加工ラインの一部を概念的に示す斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るクーラント回収装置を模式的に示す図である。
【図3】図2の要部拡大図である。
【図4】本発明の他の実施形態に係るクーラント回収装置を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図1〜4に基づいて説明する。
【0015】
図1は、本発明に係るクーラント回収装置10が設けられる自動加工ライン1の一部を概念的に示す斜視図である。同図に示す自動加工ライン1は、主要な構成として、所定間隔で複数設置されたNC旋盤等の工作機2,2・・・と、プログラムに基づいてワークWを各工作機2に順次搬送・投入する自動搬送手段3と、コンプレッサー6およびエアータンク7を主要部とし(図2を参照)、エアー配管5を介して各工作機2にエアー(圧縮空気)を供給するエアー源4とを備える。エアー源4から各工作機2に供給されるエアーは、例えば、ワークWと加工工具との間に切削油等のクーラントをミスト状にして供給するために、また、工作機2の所定箇所にワークWが載置されているか否かを検知するために用いられる。なお、図示は省略しているが、工作機2の列は自動搬送手段3を介して反対側にも設置されており、自動搬送手段3は平行移動と旋回移動(垂直軸回りの旋回移動)とを併用してワークWを各工作機2に順次搬送・投入する。同様に図示は省略しているが、エアー配管5上には、流量制御弁や逆止弁等の各種バルブや、レギュレータ等が設けられる。
【0016】
工作機2による加工時には、加工精度の向上や加工工具の損傷防止を目的として、上記のとおりワークWと加工工具との間にクーラントが供給されるが、クーラントは、加工に伴って生成される切屑と共にワークWに付着する。ワークWに付着した切屑およびクーラントは、加工完了後にエアーブロー等を施すことによってある程度は除去されるものの、これを完全に除去することは困難である。従い、ワークWが工作機2間を搬送されるのに伴って切屑を含むクーラントが落下するが、この落下するクーラントを受けるためのクーラント受け11が工作機2の間、本実施形態では工作機2の列と自動搬送手段3との間に設けられている。このクーラント受け11は、クーラント回収装置10の一部を構成し、落下するクーラント(切屑を含むクーラント)を所定量貯留する。
【0017】
本実施形態のクーラント回収装置10は、図2に模式的に示すように、複数設置されたクーラント受け11,11・・・と、各クーラント受け11に貯留されたクーラントが集約されるクーラントタンク13と、各クーラント受け11に貯留されたクーラントをクーラントタンク13に移送する移送管12とを備え、移送管12の流路上には、移送管12内に負圧を発生させる負圧発生手段20が設けられる。負圧発生手段20は、エアーが供給されることによって移送管12内に負圧を発生させるものであり、従い、負圧発生手段20にはエアー配管5の一端が接続されている。なお図2からも明らかなように、本実施形態では工作機2と負圧発生手段20とでエアー源4を共用している。そのため、エアー配管5は、工作機2にエアーを供給する系統と、負圧発生手段20にエアーを供給する系統とに分岐されており、負圧発生手段20には分岐された系統の一方が接続される。
【0018】
移送管12は、負圧発生手段20の流入口20aに接続され、クーラント受け11に貯留されたクーラントを負圧発生手段20に至って移送する第1の移送管12aと、負圧発生手段20の吐出口20bに接続され、負圧発生手段20の吐出口20bから吐出されたクーラントをメインタンク13に移送する第2の移送管12bとを備え、第1の移送管12aは、各クーラント受け11に挿入された支管12a1を有する。なお、移送管12上には、種々のバルブ等が設けられるが、図示を省略している。
【0019】
クーラントタンク13は、クーラント受け11から移送管12を介して移送されてくるクーラント中に含まれる切屑を分離・回収等するための浄化手段(図示省略)を有する。浄化手段としては、フィルター、磁石、遠心分離機等を採用することができ、これらは一種類のみ用いても良いし、複数種組み合わせて用いても良い。
【0020】
負圧発生手段20は、図3に示すように、第1の移送管12aと第2の移送管12bとの間に配設され、移送管12の一部を構成する管状部材22と、エアー配管5に接続され、エアー源4から供給されるエアーを移送管12内に噴射する噴射ノズル21とで主要部が構成されたいわゆるエアーエゼクタである。噴射ノズル21の先端部内径は、先端側に向かってテーパ状に漸次縮径しており、従い、エアー源4から供給されたエアーAは噴射ノズル21の先端部を通過することによってその流速がさらに速められる。管状部材22のうち、噴射ノズル21の先端部が位置する領域よりも下流側の領域には、管状部材22内の流路寸法を狭小化させる絞り部23が設けられる。絞り部23の形態は任意であるが、ここでは、これがクーラントに含まれる切屑の停滞要因となる可能性を減じるべく、その管軸方向の両端が上流側および下流側に向かって漸次拡径したテーパ状に形成される。
【0021】
本発明に係るクーラント回収装置10は主に以上の構成からなり、以下示すようにして各クーラント受け11からクーラントタンク13に切屑を含むクーラントが移送される。
【0022】
まず、エアー源4から供給されたエアーAが、エアー配管5および負圧発生手段20の噴射ノズル21を介して移送管12(管状部材22)内に噴射されると、管状部材22の内部領域のうち、ノズル噴射口の下流側領域が負圧となる。これに伴い、クーラント受け11に貯留された切屑を含むクーラントCに対して吸引力が作用し、切屑を含むクーラントCが第1の移送管12aを介して管状部材22内に流れ込む。そして、切屑を含むクーラントCはノズル噴射口の下流側の領域で管状部材22内に噴射されたエアーAと混合され、混合流体C’となって下流側に移送される。混合流体C’は、絞り部23を通過することによって流速が減じられると共に昇圧され、昇圧された混合流体C’は負圧発生手段20(管状部材22)の吐出口20bに接続された第2の移送管12b内を流動してクーラントタンク13に到達する。このように、混合流体C’が昇圧されることにより、混合流体C’に含まれる切屑が移送管12内で停滞することなく、適切に下流側に移送される。エアーAが管状部材22内に噴射されている間は、以上で示したクーラントCの吸引およびクーラントC(混合流体C’)の吐出動作が連続的に行われ、これによりクーラント受け11に貯留されたクーラントCが、移送管12を介してクーラントタンク13に順次移送される。
【0023】
クーラントタンク13に移送された切屑を含むクーラントC(混合流体C’)は、クーラントタンク13に設けられた浄化手段によって切屑と清浄なクーラントとに分離され、分離された清浄なクーラントは、再度工作機2に供給される。
【0024】
以上に示すように、本発明に係るクーラント回収装置10は、エアーAが供給されることによって移送管12内に負圧を発生させる負圧発生手段20を有し、この負圧発生手段20で移送管12内に発生させた負圧を利用してクーラント(切屑を含むクーラント)Cを移送するものである。このような構成とすれば、移送管12(厳密には、移送管12の一部を構成する管状部材22)内に形成される負圧部分に対してクーラント受け11に貯留された切屑を含むクーラントCが引き込まれ、この引き込みに伴ってクーラントCに生じる流動力によって切屑を含むクーラントCをクーラントタンク13に移送することができる。そのため、移送管12内(流路上)から切屑の堆積要因である機械駆動式ポンプ(羽根車)を排除することが可能となり、装置故障の可能性を効果的に減じて、所望の移送能力を長期間維持可能な信頼性に富む装置構成とすることができる。
【0025】
また、ポンプを排除するかわりに、いわゆるエアーエゼクタからなる負圧発生手段20で回収装置10の主要部を構成したことから、安価な装置構成とすることができると共に、メンテナンス性も向上する。さらに、負圧発生手段20に対するエアーAの供給が、工作機2に対してエアーを供給するエアー源4を用いて行われることから、当該クーラント回収装置10用に別途のエアー源を設ける必要がない。そのため、クーラント回収装置10の低コスト化を図ることが、また、加工ライン1の省スペース化を図ることが可能となる。
【0026】
また、本発明に係るクーラント回収装置10の構成上、クーラント受け11に貯留されたクーラントに作用させるべき吸引力、並びにクーラントに付与すべき下流側への流動力(吸引・送出力)は、移送管12(厳密には、管状部材22)内に生じる負圧の大きさによって左右されるが、負圧の大きさは、管状部材22内に供給されるエアーAの流速(噴射速度)を変化させることによって調整することができる。従い、クーラントタンク13との離間距離が大きいクーラント受け11からクーラントCを回収するような場合でも、エアーAの噴射速度を速めれば足り、負圧発生手段20自体を大型化する必要はない。さらに言えば、エアーAの供給速度等を適当に調整するだけで移送管12内に発生させるべき負圧の大きさ、すなわちクーラントに対する吸引・送出力を調整することができるので、クーラントCの回収作業を適切に行うことができる。
【0027】
なお、上述した噴射ノズル21の形態はあくまでも一例であり、例えば、ノズル径を可変とする可変絞りを有するものとしても良い。このような可変絞りを設けておけば、移送管12内に供給されるエアーAの流速を簡便に調整することが、すなわち発生させるべき負圧の大きさを簡便に調整することができる。
【0028】
以上で説明したクーラント回収装置10は、移送管12の流路上の一箇所に負圧発生手段20を設けてなるものであるが、負圧発生手段20は、図4に示すように、流路上の複数箇所(図示例は二箇所)に設けることもできる。かかる構成は、一の負圧発生手段20のみでは、全てのクーラント受け11から効率的にクーラントCを効率的に回収するのが難しい場合に有効である。この場合であっても、クーラント回収装置10が大型化するような事態、すなわち加工ライン1の省スペース化が妨げられるような事態は生じない。
【符号の説明】
【0029】
1 自動加工ライン
2 工作機
3 自動搬送装置
4 エアー源
5 エアー配管
10 クーラント回収装置
11 クーラント受け
12 移送管
13 クーラントタンク
20 負圧発生手段(エアーエゼクタ)
21 噴射ノズル
22 管状部材
23 絞り部
A エアー
C クーラント(切屑を含むクーラント)
C’ 混合流体
W ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数設置された工作機の間をワークが搬送されるのに伴ってワークから落下するクーラントを回収し、回収したクーラントを再利用に供するためのクーラント回収装置であって、工作機の間に配設され、ワークから落下するクーラントを受けるクーラント受けと、該クーラント受けに貯留されたクーラントをクーラントタンクに移送する移送管とを備えるものにおいて、
前記移送管の流路上に、エアーが供給されることによって前記移送管内に負圧を発生させる負圧発生手段を設け、該負圧発生手段で前記移送管内に発生させた負圧を利用して前記クーラント受けに貯留されたクーラントを前記クーラントタンクに移送することを特徴とするクーラント回収装置。
【請求項2】
前記負圧発生手段に対するエアーの供給が、前記工作機に対してエアーを供給するエアー源を用いて行われる請求項1に記載のクーラント回収装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−240783(P2010−240783A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−92884(P2009−92884)
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】