説明

グラファイトシートの表面コーティング方法

【課題】 熱伝導性、柔軟性を維持しながら、表面からのグラファイト粉末の脱離を防止し、絶縁性に優れかつ化学的に安定で、熱抵抗の少なくなるような表面を持つグラファイトシートを提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明は、電着法によりグラファイトシートの表面に有機高分子薄膜を設けることにより、厚さが均一であり、電気的絶縁性、柔軟性に優れ、グラファイト粉末が脱離しにくく、熱抵抗が小さいといった特性を持つ良品質のグラファイトシ−トを提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電着法によるグラファイトシートの表面のコーティング方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】グラファイトシートとして、黒鉛粉末をバインダー樹脂と混合してシート状に、あるいは膨張黒鉛を圧延してシート状にするものが知られている。また、ポリイミドフィルムを原料として熱処理及び圧延処理によって柔軟性のあるグラファイトシートを直接的に得る方法がすでに特公平1−49642号公報で開示されている。このシートの特性としては電気伝導性、熱伝導性に優れている。特にポリイミドフィルムを原料としたものは、高品質で折れ曲げに強く柔軟性に富む熱伝導性に優れた、グラファイトシートが得られる。
【0003】一方、近年、電子機器の小型化、高性能化が進むにつれて、高密度に集積されたCPUなどから発生する熱問題、微細な制御を必要とする半導体製造装置においても熱問題が重要な検討項目になってきている。熱については放熱性のみならず、いかに場所による温度ばらつきを低減するかという均熱性が重要である。
【0004】これまでは、熱伝導性に優れたアルミ板や銅板などの金属板が適当に加工されたり、冷却ファンと組み合わせたりして放熱対策がなされているのが現状である。
【0005】かかる状況下で、グラファイトシートは、金属板と比較すると熱伝導性がよく、軽く柔軟性があるなどの特長を有するために、電子機器や装置、設備の熱伝導材として期待され始めてきている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、グラファイトシートをそのまま電子機器の内部で熱伝導材として使用する際には、グラファイトシートが電気伝導性を有するために、電子部品間の電気的ショートを発生する可能性、また摩耗により表面から炭素粉が分散し、その炭素粉が同様に電気的に悪影響する場合がある。
【0007】さらに、機械的強度の点においても、使用方法によっては、破断強度、引っ張り強度などが十分でない場合がある。
【0008】これらの不都合を防ぐために、グラファイトシートの表面を高分子フィルムで覆うことが提案されている。しかしながら、グラファイトシート表面を発熱源や冷却部と接触させて使用する場合には、表面の高分子フィルムの熱伝導度が低いため、高分子フィルムの厚さが大きくなるに従って熱抵抗が大きくなる。このため、できるだけ薄い高分子フィルムを使用することが望ましいが、20μm以下の高分子フィルムは取り扱いが困難である。
【0009】また、グラファイトシート表面に高分子フィルムを貼って一体化する場合には、接着層や粘着層が必要となり、これらの層も熱伝導度が低いため、熱抵抗の原因となる。
【0010】従って、絶縁性に優れかつ化学的に安定で、熱抵抗の少なくなるような表面を持つグラファイトシートの実現が待望されている状況にある。
【0011】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために、本発明は、電着法によりグラファイトシートの表面に有機高分子薄膜を設けることを特徴とするグラファイトシートの表面コーティング方法である。
【0012】有機高分子薄膜はその厚さを均一にするために、電着法により形成することが望ましく、電着材料としては、アニオン系電着樹脂、カチオン系電着樹脂、熱硬化型電着樹脂またはUV硬化型電着樹脂のいずれであってもよい。また、有機高分子薄膜としてポリイミドを電着により形成することもできる。
【0013】グラファイトシートとしてはポリイミドフィルムを原料としたものが熱伝導性、柔軟性に優れており、高性能化に向いている。このような構成により、絶縁性に優れ、グラファイト粉末の脱離がない、化学的に安定なグラファイトシートが実現される。
【0014】
【発明の実施の形態】請求項1記載の本発明は、電着法によりグラファイトシートの表面に有機高分子薄膜を設けることを特徴とするグラファイトシートの表面コーティング方法である。
【0015】このような構成により、グラファイトシートの表面の絶縁化、機械的強度の向上、及びグラファイト粉末の脱離防止の作用を呈する。
【0016】請求項2に記載のように、アニオン系電着樹脂を使用して、電着法によりグラファイトシートの表面に有機高分子薄膜を設けることができる。
【0017】また、請求項3に記載のように、カチオン系電着樹脂を使用して、電着法によりグラファイトシートの表面に有機高分子薄膜を設けてもよい。
【0018】請求項4に記載のように、アニオン系またはカチオン系電着樹脂として、熱硬化型電着樹脂を使用することができる。
【0019】また、請求項5に記載のように、アニオン系またはカチオン系電着樹脂として、UV硬化型電着樹脂を使用することも可能である。
【0020】請求項6に記載のように、有機高分子薄膜としてポリイミドを電着により形成することもできる。ポリイミドは絶縁性、耐熱性に優れているため、このような構成により、優れた表面コーティングを行うことができる。
【0021】請求項7記載のように、電着法による有機高分子薄膜の厚さが10μm以下であることが望ましい。というのは、グラファイトシートの基本特性を発現させるためには、有機高分子薄膜は薄いものが好ましいからである。有機高分子薄膜の厚さが10μmを越えると、有機高分子薄膜による熱抵抗が大きくなり、グラファイトシートの熱伝導特性の良さが損なわれてしまうとともに、可撓性及び柔軟性が低下するためである。
【0022】請求項8に記載のように、グラファイトシートがポリイミドフィルムを原料として不活性ガス中で室温から昇温して1000℃から1600℃の温度範囲までで焼成する予備処理工程と、前記予備処理工程後室温から昇温して温度2500℃以上の温度まで焼成してつくられるグラファイトシートを用いることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の電着法によるグラファイトシートの表面コーティング方法である。
【0023】このようにして作成したグラファイトシートを使用することにより、可撓性、柔軟性に優れた熱伝導材料として、絶縁性に優れかつ化学的に安定で、熱抵抗の少なくなるような表面を持つグラファイトシートの実現が可能となる。
【0024】このような構成により、高分子フィルムの張り合わせによりコーティングした場合に比較して、グラファイトに比べて熱伝導率の小さなコーティング膜の厚さが薄いため、熱抵抗を小さくすることができ、グラファイトシートの優れた熱伝導性への影響を小さくできる。さらにこのような構成では、コーティング膜とグラファイトシートとの間の密着性が良いため、粘着材や接着材を使用することが必要なく、作業性が良好である。以下、本発明の各実施の形態に即して、より詳細に説明をしていく。
【0025】(実施の形態1)本発明第1の実施の形態では、グラファイトシートの出発原料のポリイミドフィルムとして、東レ・デュポン社製(商品名カプトン)の厚さ75μmのものを用いて実験を行った。予備熱処理として、窒素雰囲気中で最高処理温度を1200℃まで上げた後、室温まで温度を下げて取り出した。さらに高温熱処理として、Arガス雰囲気下で、最高処理温度2700℃まで上昇させた後に、室温まで温度を下げて焼成を行った。この後に圧延を行い作成したグラファイトシートは、繰り返し折り曲げが可能な可撓性及び柔軟性があり、厚さは約100μmであった。
【0026】以上に示したグラファイトシートの作成条件は、代表例であり、確実にグラファイト化され繰り返し折り曲げが可能な可撓性及び柔軟性があるのであれば、かかる条件に限定されるものでないことはもちろんである。
【0027】こうして得られたグラファイトシートを20×50mmの大きさに切り、アセトンで超音波洗浄した。カチオン系UV硬化型系電着樹脂(シミズ製UC−2000)を使用して、炭素板を対極として、電極間距離30mmで、30Vで2分間の電着を2回繰り返して行った。電着後のグラファイトシートの表面は肉眼での観察では均質であり、膜厚は6μmであった。電着膜表面に銅を蒸着して対極として絶縁性を評価したところ、60Vまで絶縁性が保たれていた。
【0028】また、電着膜により表面をコーティングしたグラファイトシートは、単独のグラファイトシートと同様な可撓性及び柔軟性を保っており、グラファイト粉末の脱離もみられなかった。
【0029】さらに、電着膜により表面をコーティングしたグラファイトシートは、表及び裏方向に各々100回湾曲させた場合でも剥離や亀裂などの破損は全く発生しなかった。
【0030】電着膜により表面をコーティングしたグラファイトシートの熱伝導特性を評価するために、発熱源とヒートシンクとの間にグラファイトシートを挟み、発熱源とヒートシンクとの温度差を測定した。
【0031】本実施の形態では、2×1.5cmの大きさの発熱源とヒートシンクとの間に、2×1.5cmの大きさのグラファイトシート、およびグラファイトシートの両面を上記したように、6μmの厚さに電着膜により表面をコーティングしたものを各々挟んで固定した。固定はM3ビスにより、締め付けトルクを1MPaとして固定した。発熱源に4Wの電力を投入して発熱させ、定常状態になった時点での発熱源とヒートシンクとの温度差を測定した。
【0032】その結果は、グラファイトシートのみの場合には発熱源とヒートシンクとの温度差は4.8℃であり、電着膜により表面をコーティングしたグラファイトシートを用いた場合は5.8℃と、温度差の増大は1.0℃であった。
【0033】従って、本実施の形態による電着膜により表面をコーティングしたグラファイトシートは、グラファイトシート本来の熱伝導性、可撓性及び柔軟性を保ったまま、機械的強度の向上、グラファイト粉末の脱離の防止、表面の絶縁化を実現したものであるといえる。
【0034】なお、本実施の形態のグラファイトシートを電子機器装置内に取り付けるために、切断、トリミング、取り付け穴あけ等の加工をする場合には、グラファイトシートに加工すると同じ扱いですむことはもちろんである。
【0035】(実施の形態2)本発明第2の実施の形態では、第1の実施の形態と同様にして得られたグラファイトシートについて、アニオン系熱硬化型系電着樹脂(シミズ製AE−4X)を使用して、炭素板を対極として、電極間距離30mmで、60Vで1.5分間の電着を2回繰り返して行った。電着終了後、洗浄してから100℃に予備加熱を行い、さらに180℃で熱硬化させた。このようにしたグラファイトシートの表面は肉眼での観察では均質であり、膜厚は8μmであった。電着膜表面に銅を蒸着して対極として絶縁性を評価したところ、30Vまで絶縁性が保たれていた。
【0036】また、電着膜により表面をコーティングしたグラファイトシートは、単独のグラファイトシートと同様な可撓性及び柔軟性を保っており、グラファイト粉末の脱離もみられなかった。
【0037】さらに、電着膜により表面をコーティングしたグラファイトシートは、表及び裏方向に各々100回湾曲させた場合でも剥離や亀裂などの破損は全く発生しなかった。
【0038】電着膜により表面をコーティングしたグラファイトシートの熱伝導特性を評価するために、第1の実施の形態と同様にして、発熱源とヒートシンクとの間にグラファイトシートを挟み、発熱源とヒートシンクとの温度差を測定した。
【0039】その結果は、グラファイトシートのみの場合には発熱源とヒートシンクとの温度差は4.8℃であり、電着膜により表面をコーティングしたグラファイトシートを用いた場合は6.2℃と、温度差の増大は1.4℃であった。
【0040】(実施の形態3)本発明第3の実施の形態では、第1の実施の形態と同様にして得られたグラファイトシートについて、ポリイミド電着膜の形成を行った。ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とp−フェニレンジアミンを、N−メチルピロリドン中で窒素還流下で反応させて得たポリアミック酸を、N,N−ジメチルアミドに希釈し、トリエチルアミンを加えてポリアミック酸塩溶液を得た。上記溶液にメタノールを添加して、最終的にポアミック酸を0.15%含むように調整して電着液とした。
【0041】この溶液にグラファイトシートを浸し、炭素板を対極として、電極間距離30mmで、30Vで3分間の電着を行った。電着終了後、250℃で1時間加熱して、ポリアミック酸をポリイミド化した。この電着及び加熱を3回繰り返して、ポリイミド電着膜を形成した。
【0042】このようにして表面コーティングを行ったグラファイトシートの表面は、肉眼での観察では均質であり、膜厚は10μmであった。
【0043】また、電着膜により表面をコーティングしたグラファイトシートは、単独のグラファイトシートと同様な可撓性及び柔軟性を保っており、表面は絶縁性があり、グラファイト粉末の脱離もみられなかった。さらに、電着膜により表面をコーティングしたグラファイトシートは、表及び裏方向に各々100回湾曲させた場合でも剥離や亀裂などの破損は全く発生しなかった。
【0044】ポリイミド電着膜により表面をコーティングしたグラファイトシートの熱伝導特性を評価するために、第1の実施の形態と同様にして、発熱源とヒートシンクとの間にグラファイトシートを挟み、発熱源とヒートシンクとの温度差を測定した。
【0045】その結果は、グラファイトシートのみの場合には発熱源とヒートシンクとの温度差は4.8℃であり、ポリイミド電着膜により表面をコーティングしたグラファイトシートを用いた場合は6.5℃と、温度差の増大は1.7℃であった。
【0046】(実施の形態4)本発明第4の実施の形態では、グラファイトシートの作製方法として、ポリイミドフィルムを用いた予備焼成を、窒素中で、昇温速度5℃/minで昇温し、最高処理温度を1600℃として行った以外は第1の実施の形態と同様にして熱処理を行った。
【0047】本焼成後のフィルムは、グラファイトシートとなっており、発泡状態にあり、膜厚は200μmで、柔軟性はなく、固くてもろいものであった。この後に圧延を行い作成したグラファイトシートは、繰り返し折り曲げが可能な可撓性及び柔軟性があり、厚さは約100μmであった。
【0048】この様にして作製したグラファイトシートについて、第1、2及び3の実施の形態の方法と同様にして電着膜により表面をコーティングしたところ、いずれも良好な特性を示した。
【0049】また、予備焼成の最高処理温度を1400℃として、上記と同様な実験を行った時も、上記と同様な結果が得られた。
【0050】なお、本実施の形態では電着材料として、カチオン系UV硬化型系電着樹脂、アニオン系熱硬化型系電着樹脂及びポリアミック酸塩についてのみ述べたが、電着により有機高分子薄膜の形成が可能なものならば、もちろん他の電着材料を用いることも可能である。
【0051】
【発明の効果】以上のように本発明によれば、電着法によりグラファイトシートの表面に有機高分子薄膜を設けることにより、電気的絶縁性、柔軟性に優れ、グラファイト粉末が脱離しにくく、熱抵抗が小さいといった特性を持つ良品質のグラファイトシ−トが得られるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 電着法によりグラファイトシートの表面に有機高分子薄膜を設けることを特徴とするグラファイトシートの表面コーティング方法。
【請求項2】 アニオン系電着樹脂を使用した電着法により有機高分子薄膜を形成する請求項1記載のグラファイトシートの表面コーティング方法。
【請求項3】 カチオン系電着樹脂を使用した電着法により有機高分子薄膜を形成する請求項1記載のグラファイトシートの表面コーティング方法。
【請求項4】 熱硬化型電着樹脂を使用した電着法により有機高分子薄膜を形成する請求項1、2又は3記載のグラファイトシートの表面コーティング方法。
【請求項5】 UV硬化型電着樹脂を使用した電着法により有機高分子薄膜を形成する請求項1、2又は3記載のグラファイトシートの表面コーティング方法。
【請求項6】 有機高分子薄膜としてポリイミドを電着により形成することを特徴とする請求項1記載のグラファイトシートの表面コーティング方法。
【請求項7】 有機高分子薄膜の厚さが10μm以下であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか記載のグラファイトシートの表面コーティング方法。
【請求項8】 グラファイトシートがポリイミドフィルムを原料として不活性ガス中で室温から昇温して1000℃以上1600℃以下の温度範囲で焼成する予備処理工程と、前記予備処理工程後室温から昇温して温度2500℃以上の温度で焼成してつくられるグラファイトシートを用いることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか記載のグラファイトシートの表面コーティング方法。