グラファイトフィルムおよびグラファイトフィルムの製造方法
【課題】本願発明は、電子機器、精密機器などで放熱部材として使用されるグラファイトフィルムに関し、特に薄くて柔軟性を有し、熱拡散性に優れたグラファイトフィルムを提供することを課題としている。厚みの薄いグラファイトフィルムは発泡させることが難しく、これまで達成できていなかった。
【解決手段】本願発明で筆者らは、1)黒鉛化の最終段階で発泡を引き起こすアウトガスをフィルム中に留めこと、2)発泡を阻害する金属不純物の作用を抑制すること、が重要であることを突き止め、原料フィルムを2枚以上直接積層して、2600℃以上の温度で熱処理することで、厚み21μm以下で柔軟な薄膜グラファイトを得ることができた。
【解決手段】本願発明で筆者らは、1)黒鉛化の最終段階で発泡を引き起こすアウトガスをフィルム中に留めこと、2)発泡を阻害する金属不純物の作用を抑制すること、が重要であることを突き止め、原料フィルムを2枚以上直接積層して、2600℃以上の温度で熱処理することで、厚み21μm以下で柔軟な薄膜グラファイトを得ることができた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、電子機器、精密機器などの放熱フィルムおよびヒートスプレッダ材料として使用されるグラファイトフィルムとその製造方法に関し、特に厚みが薄く、柔軟性を有し、熱拡散性の優れたグラファイトフィルムとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピューターなどの各種の電子・電気機器に搭載されている半導体素子や、その他の発熱部品などの冷却問題が注目されている。このような発熱部品の冷却方法としては、それが搭載される機器筐体にファンを取り付け、その機器筐体を冷却する方法や、その発熱部品にヒートパイプやヒートスプレッダ、ヒートシンクやフィンなどの熱伝導体を取り付け、その素子からの熱を外部に運ぶことで冷却する方法等が一般的である。発熱部品に取り付ける熱伝導材料としては、アルミニウム板や銅板などが挙げられる。この場合、アルミニウムや銅板の一部、またはヒートパイプに発熱部品を取り付け、更に、その板の他の部分をフィンやファンを用いて外部に放熱する。
【0003】
ところで、近年は半導体素子等の発熱部品が搭載される各機器が小型化され、また、その部材の発熱量が大きくなる傾向がある。また、筐体が小型化するため、フィンやヒートシンク及びファンなどの部品を挿入するスペースが制限されてきている。そのような中、近年は、熱伝導体(ヒートコンダクタ)として、熱拡散性に優れるグラファイトフィルムの使用が急増している。グラファイトフィルムはカーボンが層状構造をとっており、グラファイトフィルムの面内の熱伝導率が非常に高く、かつ密度が1〜2g/cm3程度と軽いうえ、シートの厚さを薄くでき、フレキシブル性を有する。そのため、狭い場所や、隙間をぬって取り回す必要のある場所のヒートコンダクタ材やヒートスプレッダ材として使用される場合が多い。
【0004】
一般に入手できるグラファイトフィルムとして、高分子熱分解法またはエキスパンド法により製造されたグラファイトフィルムがある。粉末より製造されるエキスパンド法では実用上0.1mmより薄いフィルムを製造する事は困難であり、さらにフィルムの強度にも限界があった。一方、高分子熱分解法は特許文献1、2のように、ポリオキサジアゾール、ポリイミド、ポリフェニレンビニレン、ポリベンゾイミダゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリチアゾール、またはポリアミド等の高分子フィルムをアルゴン、ヘリウム等の不活性雰囲気下や減圧下で熱処理する方法であり、比較的薄くて強度が強く柔軟性を示すグラファイトフィルムを得ることができる。
【0005】
特許文献1、2によると、高分子分解法による柔軟なグラファイトフィルムの作製は、3つの主となる工程を含んでいる。第1工程は、高分子フィルムを不活性ガス流中で熱処理し、炭素主成分へのフィルムへ転換する炭素化工程である。通常1000℃までおこなわれ、炭酸ガスや水素、窒素などのガス発生を伴う。また第2工程として、炭素化された高分子フィルム(炭素化フィルム)を2400℃以上まで熱処理する黒鉛化工程がある。第2工程では、グラフェン層が面方向に配向して、黒鉛化が進行する。この黒鉛化工程の際、フィルム中に僅かに残っていてグラフェン骨格を形成しない窒素やその他成分が、黒鉛化の最終段階(2400℃以上の温度域)でアウトガス(発泡ガス)としてフィルムから抜ける。このアウトガスによりグラファイト層が持ち上げられ、フィルムが発泡する。第3工程として、発泡したグラファイトフィルムを圧延することでフィルムに柔軟性を寄与することができる。
【0006】
また、芳香族ポリイミドを、熱処理して得られる複数枚の炭素化フィルムを、1600℃以上の温度領域で、4kg/cm2以上の圧力を加えながら炭素質フィルム同士を圧着することを特徴とするグラファイトの製造方法、(特許文献3)も知られている。本手法では、特許文献1、2と異なり、グラファイトフィルムの製造を目的としておらず、フィルム同士を圧着し、厚みの非常に厚いグラファイトブロックを製造することを目的としている。
【0007】
さらに特許文献4には、原料フィルムを積層してグラファイトフィルムを得ることが開示されているが、原料フィルムとしては厚いものだけが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭61−275116号公報、
【特許文献2】特許公報 第2976481号
【特許文献3】特開昭64−56364号公報
【特許文献4】特開2008−285362号公報
【0009】
現在、開発されている柔軟性を有するグラファイトフィルムは最薄で厚み25μm(松下電器産業株式会社製、商品名:PGS)のものが知られている。このグラファイトフィルムも高分子分解法にてポリイミドフィルムを熱分解して製造されている。
【0010】
しかしながら、携帯電話を始めとする現在の電子機器は、複雑化が進む一方で、さらに小型化・薄型化が進んでおり、これまで開発された薄型のグラファイトフィルムでも、搭載できる十分なスペースを確保できなくなっている。そこで、更に厚みの薄く柔軟なグラファイトフィルムの開発が急務となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献2のように、厚みの薄い原料(ポリイミドフィルム)を使用することで、厚みの薄いグラファイトフィルムを作製することができる。しかしながら、厚みの薄い原料を使用した場合、柔軟性を有するグラファイトフィルムを作製することは難しく、これまで25μm未満で十分な柔軟性を示すフィルムは作製できていなかった。例えば、特許文献2に示されるように、厚み25μmのポリイミドフィルム(KAPTON)を炭化速度10℃/min、黒鉛化速度20℃/minで熱処理して作製されたグラファイトフィルムも、東洋精機(株)製のMIT耐揉疲労試験機型式Dを用いたMIT試験(折り曲げクランプの曲率半径Rが2mm、左右の折り曲げ角度90度、折り曲げ速度90回/min、荷重0.98N)における折り曲げ回数は10回未満と、電子機器などに搭載するためには十分な柔軟性(耐屈曲性)を持ち合わせていなかった。
【0012】
柔軟性のない硬質なグラファイトフィルムでは、取り付け時や複合フィルムの作製時などに割れ、折れ、粉落ちなど様々な不具合が発生してしまう。また、湾曲部分への取り付けも困難であるため、小スペース化が進んだ現在の小型電子機器での使用できない場合が多い。このような観点から、柔軟性が十分で、更に薄型(21μm以下)のグラファイトフィルムの開発が求められていた。
【0013】
原料フィルムの厚みが薄くなると柔軟なフィルムが作製しにくい理由を以下に簡単に解説する。
【0014】
前述のように、柔軟性を寄与するためには、熱処理(黒鉛化)の過程で、内部から発生するグラファイト層を形成しない成分からなるアウトガスによって、フィルムを発泡させる必要がある(図1、図2)。図2のように、発泡させたグラファイトフィルムは層間にわずかな空間が存在するために、折り曲げ時にかかる歪を逃がすことができるため、図3のように柔軟性を有する。しかしながら、フィルムが薄いと、発生するアウトガスの量が少ない上に、内部から表面までの距離が近いために、フィルムからスムーズにガスが抜けてしまい、発泡し難くなる。そのため、図4、5のような硬質化したグラファイトフィルムが得られる。
【0015】
また、フィルムの発泡を阻害するもう一つの要因として金属不純物の作用を、筆者らは本発明の検討の中で発見した。金属不純物のフィルムへの作用は以下の通りである。黒鉛化炉を構成する断熱材、容器、ヒーターなどは黒鉛材で作られている。黒鉛材の原料である天然黒鉛には多くの金属不純物(鉄やニッケルなど)が含まれていることから、これらの物質は炉内に大量に存在する。金属成分は、高分子フィルムの黒鉛化触媒として働き、通常なら面方向へ進むはずのグラファイト層の発達を阻害するように、黒鉛化を進行させてしまう(図6、7)。そのため、面方向へ発達できなかった小さなグラファイト結晶子の隙間からアウトガスが抜けやくなり、フィルムが発泡し難くなるのである。特に、大型の炉(有効処理体積が20000cm3以上)にて熱処理を実施する際は、金属不純物濃度が高いために、硬質なフィルムが得られやすい。
【0016】
以上のような要因で、これまで、厚みの薄く柔軟性を持ち合わせたグラファイトフィルムの大型炉での量産は非常に困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0017】
一般的に、枚葉でグラファイトフィルムを作製する方法として、特許文献1、2のように、1枚の原料フィルムを黒鉛板で挟んで熱処理する方法が開示されている。また、特許文献3のように、薄い原料フィルムを複数枚積層し、フィルムの厚み方向へ大きな圧力(4kg/cm2以上)を加えながら熱処理する、グラファイトブロックの製造方法が知られている。しかしながらこれらの手法では、薄い原料フィルムを発泡させることができなかったので、薄くて柔軟性を有するグラファイトフィルムを作製することができなかった。
【0018】
本願発明のポイントは、薄物フィルムをいかに発泡させるかである。そのためには、筆者らは、1)黒鉛化の最終段階で発泡を引き起こすアウトガスをフィルム中に留めること、2)発泡を阻害する金属不純物の作用を抑制すること、が重要であることを突き止め、本発明の開発に至った。
【0019】
すなわち、本発明は、以下のものである。
(1)厚みが5μm以上45μm以下の高分子フィルム、または厚みが5μm以上45μm以下の炭素化した該高分子フィルムからなる原料フィルムを2枚以上直接積層して、2600℃以上の温度で熱処理する工程を含むことを特徴とするグラファイトフィルムの製造方法。
【0020】
(2)1000℃以上2400℃以下の温度領域の少なくとも一部において、−0.08MPa以下の減圧で熱処理されることを特徴とする(1)に記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【0021】
(3)前記高分子フィルムの複屈折が0.12以上であることを特徴とする(1)〜(2)のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【0022】
(4)前記高分子フィルムがポリイミドフィルムであることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【0023】
(5)前記直接積層した原料フィルムの厚み方向に圧力を加え、該圧力が1.0g/cm2以上200g/cm2以下であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【0024】
(6)前記原料フィルムの面積が100cm2以上であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【0025】
(7)前記炭素化において、前記2枚以上直接積層した高分子フィルムと熱伝導性シートを交互に積層して炭素化することを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【0026】
(8)(1)〜(7)のいずれかに記載の製造方法で製造されたグラファイトフィルムを面状に圧力4MPa以上20MPa以下で加圧する後面状加圧工程を施すことを特徴とするグラファイトフィルムの製造方法。
【0027】
(9)内容積125〜17000Lである黒鉛化炉中でおこなうことを特徴とする(1)〜(8)のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【0028】
(10)(1)〜(9)のいずれかに記載の製造方法で製造されたことを特徴とするグラファイトフィルム。
【0029】
なお、複数の原料フィルムの間に他の部材を挟み込んだとしても、その部材が単に形式的に挟み込まれたにすぎず、その製造法が本発明の効果を十分奏する場合は、本発明の「原料フィルムを2枚以上直接積層」をおこなっているものとする。
【発明の効果】
【0030】
薄くて柔軟性を有し、熱拡散性に優れたグラファイトフィルムを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】発泡させたグラファイトフィルム(表面)。
【図2】発泡させたグラファイトフィルムの断面SEM写真。
【図3】柔軟性を付与できたグラファイトフィルムの折り曲げ。
【図4】硬質化したグラファイトフィルム(表面)。
【図5】硬質化したグラファイトフィルムの折り曲げ。
【図6】金属不純物が作用したグラファイトフィルムの断面SEM写真。
【図7】金属不純物が作用したグラファイトフィルムの断面の模式図。
【図8】1枚の原料フィルムと炭素質シートを交互に積層
【図9】複数枚の原料フィルムと炭素質シートを交互に積層
【図10】ポリイミドフィルム及びくさび形シート。
【図11】くさび形シートの斜視図。
【図12】グラファイトフィルムに発生するシワ
【発明を実施するための形態】
【0032】
本願発明の第1は、厚みが5μm以上45μm以下の高分子フィルム、または厚みが5μm以上45μm以下の炭素化した該高分子フィルムからなる原料フィルムを、2枚以上直接積層して、2600℃以上の温度で熱処理する工程を含むことを特徴とするグラファイトフィルムの製造方法、である。
【0033】
<グラファイトフィルム>
近年の電子機器の発熱密度増加に対する対策として熱拡散性の非常に優れたグラファイトフィルムが注目を集めている。現在、一般に入手できるグラファイトフィルムとして、高分子熱分解法またはエキスパンド法により製造されたグラファイトフィルムがある。
【0034】
一般的に、原料フィルムをアルゴン、ヘリウム等の不活性雰囲気下や減圧下で熱処理する高分子熱分解法で得られるグラファイトフィルムは柔軟性、熱拡散性に優れている。
【0035】
一方、エキスパンド法により得られたグラファイトフィルムは、粉状、燐片状の天然黒鉛を押し固めて作製されるために、柔軟性は有するものの、グラファイト結晶子が小さく結晶性が劣るために、高分子熱分解法により得られたグラファイトに比べ熱拡散性に劣り、またフィルムの強度も弱く脆いものが多い。
【0036】
<高分子フィルム>
本願発明で用いることができる高分子フィルムは、特に限定はされないが、ポリイミド(PI)、ポリアミド(PA)、ポリオキサジアゾール(POD)、ポリベンゾオキサゾール(PBO)、ポリベンゾビスオキサザール(PBBO)、ポリチアゾール(PT)、ポリベンゾチアゾール(PBT)、ポリベンゾビスチアゾール(PBBT)、ポリパラフェニレンビニレン(PPV)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、ポリベンゾビスイミダゾール(PBBI)が挙げられ、これらのうちから選ばれる少なくとも1種を含む耐熱芳香族性高分子フィルムであることが、最終的に得られるグラファイトの柔軟性、熱拡散性が大きくなることから好ましい。これらのフィルムは、公知の製造方法で製造すればよい。この中でもポリイミドは、原料モノマーを種々選択することによって様々な構造および特性を有するものを得ることができるために好ましい。また、ポリイミドフィルムは、他の有機材料を原料とする高分子フィルムよりもフィルムの炭化、黒鉛化が進行しやすいため、柔軟性、熱拡散性に優れたグラファイトフィルムとなりやすい。
【0037】
<高分子フィルムの厚み>
本願発明で用いることができる高分子フィルムの厚みは、5μm以上45μm以下、好ましくは7μm以上40μm以下、さらに好ましくは10μm以上30μm以下である。
【0038】
原料である高分子フィルムの厚みが5μm以上45μm以下であれば、厚みが十分に薄く柔軟性を示すグラファイトフィルムが得られる。しかしながら、厚み5μm未満の高分子フィルムの柔軟なグラファイトフィルムの作製は、本手法では困難である。一方、45μmより厚い場合は、厚みの厚いグラファイトフィルムしか作製できないため、小型電子機器に搭載できない場合がある。
【0039】
<炭素化した高分子フィルム(炭素化フィルム)>
本発明で用いられる炭素化した高分子フィルムは、出発物質である高分子フィルムを減圧下もしくは不活性ガス中で予備加熱処理して得ることができる。この予備加熱は通常1000℃程度の温度で行い、例えば2℃/分の速度で昇温した場合には1000℃の温度領域で60分程度の温度保持を行うことが望ましい。
【0040】
<原料フィルム>
本発明で用いることができる原料フィルムは、高分子フィルムまたは炭素化した高分子フィルムである。
【0041】
高分子フィルムを原料として用いる場合は、高分子フィルムを減圧下もしくは不活性ガス中で予備加熱処理する炭素化工程を実施することが好ましい。予備加熱処理を施した炭素化フィルム(炭素化した高分子フィルム)を原料フィルムとして用い、2枚以上を積層して2600℃以上の温度で熱処理する黒鉛化工程(黒鉛化)を実施すると特に柔軟性、熱拡散性に優れたグラファイトフィルムが得られる。炭素化と黒鉛化は、別々に行っても良いし、連続的に行っても良い。つまり、炭素化フィルムを一度炉内から取り出して、再び、黒鉛化工程に適した形でセットし直して、黒鉛化処理を実施してもよいし、取り出さずに、炭素化工程と黒鉛化工程を連続して実施してもよい。
【0042】
<炭素化(炭化)工程>
炭素化は、出発物質である高分子フィルムを減圧下もしくは窒素ガス中で予備加熱処理して炭素化を行う。この予備加熱は通常室温〜1500℃の温度で行われる。炭化の熱処理温度としては、最低でも800℃以上が必要で、好ましくは900℃以上、より好ましくは1000℃以上で熱処理することが、柔軟性、熱拡散性に優れたグラファイトを得るためにはよい。
【0043】
昇温の段階では、出発高分子フィルムにシワが発生しないように、フィルムの破損が起きない程度にフィルムの厚み方向に圧力を加えてもよい。
【0044】
<炭素化(炭化)工程のフィルムセット方法>
本発明の炭素化工程のフィルムセット方法として、1枚以上(すなわち複数枚)の高分子フィルムと、熱伝導性シートとを交互に積層する方法が挙げられる。ここで、「交互に積層」とは、熱伝導性シートの間に複数枚の高分子フィルムが挟まれて積層されていることをいう。
【0045】
ここで、本発明において用いられる熱伝導性シートは、面積の大きい主面を有する形状のものであれば厚さに特に限定はなく、フィルムや板などが含まれる。
【0046】
このような熱伝導性シートとしては、特に制限はないが、銅、鉄、ステンレスなどの金属フィルム(金属シート、金属板を含む。以下同じ。)、アルミナなどのセラミック板、炭素質シート(炭素質板を含む。以下同じ。)などが挙げられる。ここで、炭素質シートは、金属フィルムに比べて、高い耐熱性を有し、製造されるグラファイトフィルムへの金属不純物の混入が少ないという利点を有する。また、炭素質シートは、セラミックス板に比べて、強靭であり、高い耐熱性を有するという利点を有する。かかる観点から、上記の耐熱性フィルム中において用いる熱伝導性シートとしては、炭素質シートが好ましい。また、炭素質シートにおいては、グラファイトシート(グラファイトフィルム、グラファイト板を含む。以下同じ。)がより好ましい。グラファイトシートは、高い耐熱性に加えて、高い熱伝導性を有する。このため、積層体中の高分子フィルムを均一に熱処理でき、フィルムにおける皺およびひずみの発生を抑制できる。また、グラファイトシートは、柔らかく、かつ、高い摺動性を有するため、高分子フィルムの熱処理による炭素化工程において、フィルムの収縮による割れを防止できる。
【0047】
これらのグラファイトシートとしては、等方性グラファイトシート(等方性グラファイトフィルム、等方性グラファイト板を含む。)、押し出し成型グラファイトシート(押し出し成型グラファイトフィルム、押し出し成型グラファイト板を含む。)、C/Cコンポジットシート(C/Cコンポジットフィルム、C/Cコンポジット板を含む。)、膨張グラファイトシート(膨張グラファイトフィルム、膨張グラファイト板を含む。)などが挙げられる。ここで、C/Cコンポジットとは、グラファイトを炭素繊維で補強した炭素繊維強化炭素複合材料をいう。これらのグラファイトシートは、市販品として入手が可能である。たとえば、東洋炭素(株)社製等方性グラファイトシート(商品名:IG−11、ISEM−3など)、東洋炭素(株)社製C/Cコンポジット板(商品名:CX−26、CX−27など)、SECカーボン(株)社製押し出しグラファイト板(商品名:PSG−12、PSG−332など)、東洋炭素(株)社製膨張グラファイトシート(商品名:PERMA−FOIL(グレード名:PF、PF−R2、PF−UHPL))などが挙げられる。
【0048】
<黒鉛化工程>
次に、黒鉛化は、炭素化した高分子フィルムを一度取り出した後、黒鉛化用の炉に移し変えてからおこなっても良いし、炭素化から黒鉛化を連続的におこなっても良い。黒鉛化は、減圧下もしくは不活性ガス中でおこなわれるが、不活性ガスとしてはアルゴン、ヘリウムが適当である。熱処理温度としては最低でも2000℃以上が必要で、最終的には2600℃以上、好ましくは2800℃以上、更に好ましくは2900℃以上まで処理するとよい。最高温度が高いほど、柔軟性、熱拡散性に優れたグラファイトフィルムが得られる。
【0049】
<黒鉛化工程のフィルムセット方法>
特許文献3のように、複数枚の炭素化フィルムを、1600℃以上の温度領域で、4kg/cm2以上の圧力を加えながら炭素質フィルム同士を圧着することを特徴とするグラファイトブロックの製造方法が知られていが、前述のように本手法ではグラファイトフィルムを得ることができない。
【0050】
通常、枚葉の形状で黒鉛化する場合の原料フィルムのセット方法としては、特許文献1、2に記載のように、1枚の原料フィルムを、炭素質シート(炭素質フィルム、炭素質板を含む)で挟む。つまり、図8のように、1枚の原料フィルムと1枚の炭素質シートが交互に積層された状態で熱処理される。原料フィルムを複数枚直接積層して、その積層体を炭素質シートで挟むと、得られるグラファイトフィルムに皺またはひずみが発生しやすくなる。また、原料フィルム同士が圧着されて黒鉛化される場合もあり、炭素質シートの間に挟まれる原料フィルムの枚数は、1枚が定石であった。しかしながら、この手法では、45μm以下(特に30μm以下)の高分子フィルムを原料にした場合、発泡させることが難しく、柔軟なグラファイトフィルムを得ることができなかった。
【0051】
そこで、本発明では、黒鉛化工程における原料フィルムのセット方法として、図9のように、2枚以上の原料フィルムを直接積層することを提案した。さらに具体的には、2枚以上の原料フィルムを直接積層し、この2枚以上の原料フィルム積層体を炭素質シートで挟んで保持し、2600℃以上の温度で熱処理することで、薄型で柔軟性、熱拡散性に優れたグラファイトフィルムを得ることに成功した。2枚以上の原料フィルムを積層することで硬質化を抑制し、柔軟性を付与できたことは、予期しがたい効果であった。
【0052】
そのメカニズムについて、以下に記載する。グラファイトフィルムの原料である、炭素化した高分子フィルム(炭素化フィルム)は、非常にガス透過率の低い材料である。そのため、原料フィルムを直接2枚以上積層し、表面を密着させることで、1)発泡を引き起こすアウトガスをフィルム内に留めることができ、また、2)硬質化の一要因である外部からの金属不純物の進入も防ぐことができたため、硬質化を抑制できたものと推定している。
【0053】
また、これまでに直接積層で問題となった、皺またはひずみが発生についても、用いる原料が薄物の高分子フィルム(45μm以下)であるために、特に問題にならなかった。なお、原料フィルム積層体を挟みこむ炭素質シートは、高分子フィルムの炭素化工程の項目で列挙したグラファイトシートなどを用いることができる。
【0054】
本発明で直接積層する原料フィルムの枚数は、2枚以上、好ましくは5枚以上、さらに好ましくは10枚以上である。また、熱処理中にフィルムの厚み方向に圧力をかけながら処理することで、直接積層による皺やひずみを抑制することができる。圧力は重石などを載せて荷重をかけるなどして、熱処理中、常に一定にかけることができる。圧力を加えることで、更に積層枚数を増やすことができ、圧力荷重の存在下では、積層枚数は20枚以上、好ましくは50枚以上さらに好ましくは100枚以上である。1枚であると、硬質化してしまう。
【0055】
また、原料フィルムの直接積層方法としては、特に限定されないが、複数枚の原料フィルムの端を揃えて積層した方が好ましい。フィルム同士がずれていると、荷重が均一に加わらずに、皺やひずみの多いグラファイトフィルムが得られる。また、用いる原料フィルムの平坦性は高い方が好ましい。原料フィルムの平坦性が悪いと、フィルム同士が密着できないために、アウトガスを閉じ込める効果および金属不純物進入の抑制が不十分となる。したがって、原料フィルムに、炭素化した高分子フィルムを用いる場合は、炭素化時に皺やひずみを発生させないかがポイントである。よって、上述した、炭素化工程のセット方法など、皺やひずみの抑制を十分考慮した、炭素化工程が望まれる。
【0056】
<原料フィルムの厚み方向に加える圧力>
本発明は、原料フィルムの厚み方向に圧力を加えた状態で熱処理することが好ましい。原料フィルムの厚み方向に圧力を加えた状態で熱処理することは、柔軟性、熱拡散性に優れたグラファイトフィルムを得ることができるために好ましい。これは、フィルムの厚み方向に圧力を加えることで、皺およびひずみを抑制でき、原料フィルム同士の隙間から逃げる、発泡を引き起こすアウトガスをフィルム内に留めることができ、また、硬質化の一要因である外部からの金属不純物の進入も防ぐことができる。本発明における、原料フィルムの厚み方向への圧力は1.0g/cm2以上200g/cm2以下であることが好ましい。原料フィルムが黒鉛化する際には、原料フィルムのサイズが膨張および/または収縮する過程を経る。該圧力が1.0g/cm2未満の状態で熱処理すると、原料フィルムの黒鉛化に伴う不均一なフィルムの膨張および/または収縮が生じ、フィルム平面性が損なわれ、原料フィルムの隙間から不純物が進入し、硬質化してしまう。また、該圧力が200g/cm2より高くなると、原料フィルム同士が圧着してしまうためよくない。また、厚み方向への物理的な圧力により発泡が抑制され、硬質なフィルムが得られる場合もある。本発明により、原料フィルムの厚み方向への圧力は、好ましくは1.0g/cm2以上200/cm2以下、さらに好ましくは5.0g/cm2以上100/cm2以下、さらに好ましくは7.0g/cm2以上80/cm2以下である。
原料フィルムのフィルム厚み方向への圧力の加え方としては、フィルムを保持するために用いた冶具による自重、フィルムを保持する容器に蓋を用いた場合には該蓋から受ける圧力、また加熱によるフィルム周囲の容器の膨張、およびフィルムを保持するために用いた冶具の膨張による圧力によって達成されるが、これらに限定されるものではない。なお、前記圧力は、熱処理する原料フィルムの面積に対して算出している。
【0057】
<高分子フィルムと複屈折>
本願発明で用いることができる高分子フィルムは、分子の面内配向性に関連する複屈折Δnが、フィルム面内のどの方向に関しても0.12以上、好ましくは0.13以上、さらに好ましくは0.14以上である高分子フィルムである。
【0058】
筆者らは、複屈折が高くなるほど、高分子フィルムそのものの分子面内配向性がよいため、この高分子フィルムを炭素化した場合、炭素化後のフィルムの結晶配向度も高くなり、より緻密な構造の炭素化フィルムとなることを解明した。また、このような緻密な構造を持つ炭素化フィルムを黒鉛化すると、発泡しやすく、柔軟性を有する薄型のグラファイトフィルムの製造に、複屈折の高い高分子フィルムが適していることを発見した。これは、黒鉛化中に発生するアウトガスが緻密な構造のため抜け難く、グラファイト層を持ち上げながら抜けるためである。
【0059】
複屈折Δnが、フィルム面内のどの方向に関しても0.12以上であれば、柔軟なグラファイトフィルムが得られる。一方、0.12未満であると炭化速度を極端に遅くしないと緻密な構造を持つ炭化フィルムが得られないため、柔軟なグラファイトフィルムを得ることが難しい。
【0060】
<複屈折>
ここでいう複屈折とは、フィルム面内の任意方向の屈折率と厚み方向の屈折率との差を意味し、フィルム面内の任意方向Xの複屈折Δnxは次式(数式1)で与えられる。
【0061】
【数1】
【0062】
図10と図11において、複屈折の具体的な測定方法が図解されている。図10の平面図において、フィルム1から細いくさび形シート2が測定試料として切り出される。このくさび形シート2は一つの斜辺を有する細長い台形の形状を有しており、その一底角が直角である。このとき、その台形の底辺はX方向と平行な方向に切り出される。図11は、このようにして切り出された測定試料2を斜視図で示している。台形試料2の底辺に対応する切り出し断面に直角にナトリウム光4を照射し、台形試料2の斜辺に対応する切り出し断面側から偏光顕微鏡で観察すれば、干渉縞5が観察される。この干渉縞の数をnとすれば、フィルム面内X方向の複屈折Δnxは、次式(数式2)で表される。
【0063】
【数2】
【0064】
ここで、λはナトリウムD線の波長589nmであり、dは試料2の台形の高さに相当する試料の幅3である。
【0065】
なお、前述の「フィルム面内の任意方向X」とは、例えばフィルム形成時における材料流れの方向を基準として、X方向が面内の0゜方向、45゜方向、90゜方向、135゜方向のどの方向においても、の意味である。サンプル測定個所・測定回数は、好ましくは、下記の通りである。例えば、ロール状の原料フィルム(幅514mm、)からサンプルを切り出す際には、幅方向で10cm間隔に6カ所サンプリングして、各部位で複屈折を測定する。その平均を複屈折とする。
【0066】
<ポリイミドフィルムの作製方法>
本願発明で用いられるポリイミドフィルムは、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸の有機溶液をイミド化促進剤と混合した後、エンドレスベルトまたはステンレスドラムなどの支持体上に流延し、それを乾燥および焼成してイミド化させることにより製造され得る。
【0067】
本願発明に用いられるポリアミド酸の製造方法としては公知の方法を用いることができ、通常は、芳香族酸二無水物の少なくとも1種とジアミンの少なくとも1種が実質的に等モル量で有機溶媒中に溶解させられる。そして、得られた有機溶液は酸二無水物とジアミンの重合が完了するまで制御された温度条件下で攪拌され、これによってポリアミド酸が製造され得る。このようなポリアミド酸溶液は、通常は5〜35wt%、好ましくは10〜30wt%の濃度で得られる。この範囲の濃度である場合に、適当な分子量と溶液粘度を得ることができる。
【0068】
重合方法としてはあらゆる公知の方法を用いることができるが、例えば次のような重合方法(1)−(5)が好ましい。
【0069】
(1) 芳香族ジアミンを有機極性溶媒中に溶解し、これと実質的に等モルの芳香族テトラカルボン酸二無水物を反応させて重合する方法。
【0070】
(2) 芳香族テトラカルボン酸二無水物とこれに対して過小モル量の芳香族ジアミン化合物とを有機極性溶媒中で反応させ、両末端に酸無水物基を有するプレポリマを得る。続いて、芳香族テトラカルボン酸二無水物に対して実質的に等モルになるように芳香族ジアミン化合物を用いて重合させる方法。
【0071】
ジアミンと酸二無水物を用いて前記酸二無水物を両末端に有するプレポリマを合成し、前記プレポリマに前記とは異なるジアミンを反応させてポリアミド酸を合成する方法と同様である。
【0072】
(3) 芳香族テトラカルボン酸二無水物とこれに対し過剰モル量の芳香族ジアミン化合物とを有機極性溶媒中で反応させ、両末端にアミノ基を有するプレポリマを得る。続いて、このプレポリマに芳香族ジアミン化合物を追加添加後に、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン化合物が実質的に等モルとなるように芳香族テトラカルボン酸二無水物を用いて重合する方法。
【0073】
(4) 芳香族テトラカルボン酸二無水物を有機極性溶媒中に溶解および/または分散させた後に、その酸二無水物に対して実質的に等モルになるように芳香族ジアミン化合物を用いて重合させる方法。
【0074】
(5) 実質的に等モルの芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンの混合物を有機極性溶媒中で反応させて重合する方法。
【0075】
これらの中でも(2)、(3)に示すプレポリマを経由するシーケンシャル制御(シーケンスコントロール)(ブロックポリマー同士の組み合わせ・ブロックポリマー分子同士の繋がりの制御)をして重合する方法が好ましい。というのは、この方法を用いることで、複屈折が大きく、線膨張係数が小さいポリイミドフィルムが得られやすく、このポリイミドフィルムを熱処理することにより、結晶性が高く、密度および熱伝導性が優れたグラファイトを得やすくなるからである。また、規則正しく、制御されることで、芳香環の重なりが多くなり、低温の熱処理でもグラファイト化が進行しやすくなると推定される。また複屈折を高めるために、イミド基含有量を増やすと、樹脂中の炭素比率が減り、黒鉛処理後の炭素化収率が減るが、シーケンシャル制御をして合成されるポリイミドフィルムは、樹脂中の炭素比率を落とすことなく、複屈折を高めることが出来るために好ましい。炭素比率が高まるために、分解ガスの発生を抑えることができ、外観上優れたグラファイトフィルムが得られやすくなる。また芳香環の再配列を抑えることができ、熱伝導性に優れたグラファイトフィルムを得ることができる。
【0076】
本願発明においてポリイミドの合成に用いられ得る酸二無水物は、ピロメリット酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、オキシジフタル酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、ビスフェノールAビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、およびそれらの類似物を含み、それらを単独でまたは任意の割合の混合物で用いることができる。
【0077】
本願発明においてポリイミドの合成に用いられ得るジアミンとしては、4,4’−オキシジアニリン、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ベンジジン、3,3’−ジクロロベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(4,4’−オキシジアニリン)、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル(3,3’−オキシジアニリン)、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル(3,4’−オキシジアニリン)、1,5−ジアミノナフタレン、4,4’−ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、4,4’−ジアミノジフェニルN−メチルアミン、4,4’−ジアミノジフェニル N−フェニルアミン、1,4−ジアミノベンゼン(p−フェニレンジアミン)、1,3−ジアミノベンゼン、1,2−ジアミノベンゼンおよびそれらの類似物を含み、それらを単独でまたは任意の割合の混合物で用いることができる。
【0078】
特に、線膨張係数を小さくして弾性率を高くかつ複屈折を大きくし得るという観点から、本願発明におけるポリイミドフィルムの製造では、下記式(1)で表される酸二無水物を原料に用いることが好ましい。
【0079】
【化1】
【0080】
ここで、R1は、下記の式(2)〜式(14)に含まれる2価の有機基の群から選択されるいずれかであって、
【0081】
【化2】
【0082】
ここで、R2、R3、R4、およびR5の各々は−CH3、−Cl、−Br、−F、または−OCH3の群から選択されるいずれかであり得る。
【0083】
上述の酸二無水物を用いることによって比較的低吸水率のポリイミドフィルムが得られ、このことはグラファイト化過程において水分による発泡を防止し得るという観点からも好ましい。
【0084】
特に、酸二無水物におけるR1として式(2)〜式(14)に示されているようなベンゼン核を含む有機基を使用すれば、得られるポリイミドフィルムの分子配向性が高くなり、線膨張係数が小さく、弾性率が大きく、複屈折が高く、さらには吸水率が低くなるという観点から好ましい。
【0085】
さらに線膨張係数を小さく、弾性率を高く、複屈折を大きく、吸水率を小さくするためには、本願発明におけるポリイミドの合成に下記式(15)で表される酸二無水物を原料に用いればよい。
【0086】
【化3】
【0087】
特に、2つ以上のエステル結合でベンゼン環が直線状に結合された構造を有する酸二無水物を原料に用いて得られるポリイミドフィルムは、屈曲鎖を含むけれども全体として非常に直線的なコンフォメーションをとりやすく、比較的剛直な性質を有する。その結果、この原料を用いることによってポリイミドフィルムの線膨張係数を小さくすることができ、例えば1.5×10-5/℃以下にすることができる。また、弾性率は500kgf/mm2以上に大きくすることができ、吸水率は1.5%以下に小さくすることができる。
【0088】
さらに線膨張係数を小さく、弾性率を高く、複屈折を大きくするためには、本願発明におけるポリイミドは、p−フェニレンジアミンを原料に用いて合成されることが好ましい。
【0089】
また、本願発明においてポリイミドの合成に用いられる最も適当なジアミンは4,4’−オキシジアニリンとp−フェニレンジアミンであり、これらの単独または2者の合計モルが全ジアミンに対して40モル%以上、さらには50モル%以上、さらには70モル%以上、またさらには80モル%以上であることが好ましい。さらに、p−フェニレンジアミンが10モル%以上、さらには20モル%以上、さらには30モル%以上、またさらには40モル%以上を含むことが好ましい。これらのジアミンの含有量がこれらのモル%範囲の下限値未満になれば、得られるポリイミドフィルムの線膨張係数が大きく、弾性率が小さく、複屈折が小さくなる傾向になる。但し、ジアミンの全量をp−フェニレンジアミンにすると、発泡の少ない厚みの厚いポリイミドフィルムを得るのが難しくなるため、4,4’−オキシジアニリンを使用するのが良い。また炭素比率が減り、分解ガスの発生量を減らすことができ、芳香環の再配列の必要が減り、外観、熱伝導性に優れたグラファイトを得ることができる。
【0090】
本願発明においてポリイミドフィルムの合成に用いられる最も適当な酸二無水物はピロメリット酸二無水物および/または式(15)で表されるp−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸二無水物)であり、これらの単独または2者の合計モルが全酸二無水物に対して40モル%以上、さらには50モル%以上、さらには70モル%以上、またさらには80モル%以上であることが好ましい。これら酸二無水物の使用量が40モル%未満であれば、得られるポリイミドフィルムの線膨張係数が大きく、弾性率が小さく、複屈折が小さくなる傾向になる。
【0091】
また、ポリイミドフィルム、ポリアミド酸、ポリイミド樹脂に対して、カーボンブラック、グラファイト等の添加剤を添加しても良い。
【0092】
ポリアミド酸を合成するための好ましい溶媒は、アミド系溶媒であるN,N−ジメチルフォルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどであり、N,N−ジメチルフォルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドが特に好ましく用いられ得る。
【0093】
次に、ポリイミドの製造方法には、前駆体であるポリアミド酸を加熱でイミド転化する熱キュア法、またはポリアミド酸に無水酢酸等の酸無水物に代表される脱水剤やピコリン、キノリン、イソキノリン、ピリジン等の第3級アミン類をイミド化促進剤として用いてイミド転化するケミカルキュア法のいずれを用いてもよい。中でも、イソキノリンのように沸点の高いものほど好ましい。というのは、フィルム作製中の初期段階では蒸発せず、乾燥の最後の過程まで、触媒効果が発揮されやすいため好ましい。特に、得られるフィルムの線膨張係数が小さく、弾性率が高く、複屈折が大きくなりやすく、また比較的低温で迅速なグラファイト化が可能で、品質のよいグラファイトを得ることができるという観点からケミカルキュアの方が好ましい。特に、脱水剤とイミド化促進剤を併用することは、得られるフィルムの線膨張係数が小さく、弾性率が大きく、複屈折が大きくなり得るので好ましい。また、ケミカルキュア法は、イミド化反応がより速く進行するので加熱処理においてイミド化反応を短時間で完結させることができ、生産性に優れた工業的に有利な方法である。
【0094】
具体的なケミカルキュアによるフィルムの製造においては、まずポリアミド酸溶液に化学量論以上の脱水剤と触媒からなるイミド化促進剤を加えて、支持板、PET等の有機フィルム、ドラム、またはエンドレスベルト等の支持体上に流延または塗布して膜状にし、有機溶媒を蒸発させることによって自己支持性を有する膜を得る。次いで、この自己支持性膜をさらに加熱して乾燥させつつイミド化させてポリイミド膜を得る。この加熱の際の温度は、150℃から550℃の範囲内にあることが好ましい。加熱の際の昇温速度には特に制限はないが、連続的もしくは段階的に、徐々に加熱して最高温度がその所定温度範囲内になるようにするのが好ましい。加熱時間はフィルム厚みや最高温度によって異なるが、一般的には最高温度に達してから10秒から10分の範囲が好ましい。さらに、ポリイミドフィルムの製造工程中に、収縮を防止するためにフィルムを固定したり延伸したりする工程を含めば、得られるフィルムの線膨張係数が小さく、弾性率が高く、複屈折が大きくなりやすい傾向にあるので好ましい。
【0095】
<1000℃以上2400℃以下の雰囲気>
本願発明のポイントとして、金属不純物の原料フィルムへ作用をいかに抑えるかが重要である。前述のように、金属不純物の作用により、フィルムの発泡が阻害され、硬質なフィルムとなる。特に本発明のように、薄物の高分子フィルム(45μm以下)を原料として用いる場合は顕著である。筆者らは、これまでの検討から、この金属不純物のフィルムへの作用が、金属物質が気化する1000℃以上2400℃以下の温度領域で、起こっていることを解明した。そこで、この温度領域にて、炉内に気体として充満している金属成分を取り除くため、1000℃以上2400℃以下の温度領域の少なくとも一部を減圧にした。その結果、フィルムの発泡は劇的に増加し、柔軟なフィルムを得ることができることを発見した。減圧での処理により金属不純物の作用を抑制し、発泡できたことは予期し難い効果であった。
【0096】
本発明の熱処理において、1000℃以上2400℃以下の温度領域、好ましくは1200℃以上2300℃以下、更に好ましくは1400℃以上2200℃以下の少なくとも一部が−0.08MPa以下の減圧で処理されることが望ましい。また、最も好ましくは上記温度領域のすべての領域を−0.08MPa以下の減圧で処理するとよい。
【0097】
なお、1000℃未満の雰囲気については特に限定されない。また、2400℃より高温での減圧は、炉内の劣化に繋がるため危険である。
【0098】
<減圧の程度>
また、減圧の程度としても、−0.08MPa以下、好ましくは−0.09MPa以下、更に好ましくは、−0.099MPa以下がよい。減圧の程度についても−0.08MPaより高い圧力であると、金属不純物の作用抑制の効果が得られにくい。
【0099】
<原料フィルムのサイズ>
本発明で使用される原料フィルムのサイズは100cm2以上、好ましくは200cm2以上、更に好ましくは400cm2以上である。
【0100】
原料フィルムのサイズが大きければ、出来上がりのグラファイトフィルムも大面積となる。大面積のグラファイトフィルムを得ることが出来れば、使用用途が広がる、量産性が高くなるなどの観点から、大面積での処理が望まれている。
【0101】
しかしながら、枚葉で処理する場合、大面積の原料フィルムを処理するためには、大型の炉が必要となる。冒頭で記載したように、大型の炉では、金属不純物濃度が高くなるために、フィルムが硬質化しやすい。筆者らも、ラボ検討での小スケールの検討では、特に問題とならなかった硬質化の課題に、大型の炉を使用して初めて直面した。この課題に対して種々検討の結果、本発明のような改善策を開発することができた。
【0102】
したがって、本発明は、原料フィルムサイズが100cm2以上の場合に特に有効であると言える。
【0103】
なお黒鉛化炉としては、内容積125〜17000L(リットル)のものを用いることが好ましい。
【0104】
<後面状加圧工程>
本発明に係るグラファイトフィルムの製造方法においては、前記黒鉛化工程を経て黒鉛化した原料フィルム、つまりグラファイトフィルムを、さらに、面状に加圧する「後面状加圧工程」を含むことが好ましく、耐屈曲性、熱拡散率に優れ、表面に傷、凹みがなく、皺のない、平坦性に優れたグラファイトフィルムが得られ、特に耐屈曲性を向上させるためには重要な工程である。このような「後面状加圧工程」は室温でも行うことができる。このような「後面状加圧工程」においては、前記グラファイトフィルム以外のフィルム状媒質とともに、面状に加圧することが好ましい。
【0105】
また、前記グラファイトフィルムが複数枚積層され配置された状態で面状に加圧することが好ましく、グラファイトフィルム自体が緩衝材の役割を果たすので、表面に傷が入ることなく、平坦性に優れたグラファイトフィルムを得ることができる。
【0106】
このような「後面状加圧」は、単板プレス、真空プレス等で実施され得るが、面状に一様に加圧可能であることに加え、真空引きを行うため、グラファイトフィルムに含まれる空気層が圧縮され得る点から真空プレスが特に好ましい。
【0107】
より具体的には、グラファイトフィルムをプレス機、ホットプレス機、単板プレス機といった面状に加圧できる装置を用いて加圧する方法やプラスチック板、セラミック板、金属板にグラファイトフィルムを挟みボルトで締め付ける方法が挙げられる。これらの方法を用いることにより、面状に一様に加圧することが可能となり、グラファイト層が破損することなく圧縮され、熱拡散率の低下を引き起こさず、熱拡散率の高い、密度が高く、表面に傷がなく、皺のないグラファイトフィルムを得ることができる。また、より均一に行うため、加圧中に加熱するとよい。
【0108】
また、真空プレスする方法としては、プレス機、ホットプレス機、単板プレス機といったプレス機に真空引き機能が付与された真空プレス機を用いて加圧する方法やプラスック板、セラミック板、金属板にグラファイトフィルムを挟みボルトで締め付けた後全体を真空引きする方法や真空ラバープレスのようにグラファイトフィルムをラバーに挟み、内部を真空引きし内部が減圧されることでフィルムを均一に加圧する方法が挙げられる。これらの方法では、面状に一様に加圧可能であることに加え、真空引きを行うため、グラファイトフィルムに含まれる空気層が圧縮され、グラファイト層が破損することなく圧縮され、熱拡散率の低下を引き起こさず、より熱拡散率の高い、密度が高く、表面に傷がなく、皺のないグラファイトフィルムを得ることができる。また、真空プレスを行う場合、加圧する前に、真空引きをすることが好ましい。加圧処理をはじめに施すと、皺が入る場合があるが、減圧処理を先に施すと、グラファイトフィルム全体が均一に加圧され、皺無く、品質に優れたグラファイトフィルムを得ることができる。また、本方法においても、より均一に行うため、加圧中に加熱するとよい。グラファイトフィルムは熱拡散性に優れるため、均一に熱が伝わり、面内で均一な平滑なグラファイトフィルムが得られるため好ましい。
【0109】
面方向への均一な加圧は、圧延処理と比較して、均一に強い加圧が実施できるため、圧延処理と比較して非常に耐屈曲性の優れたグラファイトフィルムとなる。特に厚みの薄いグラファイトフィルムの場合、押しムラが発生しやすいため、強い加圧が実施できるプレス処理などの面状加圧工程がよい。
【0110】
<後面状加圧工程の圧力>
本発明の後面状加圧工程のグラファイトフィルムを面状に加圧する圧力は、2MPa以上40MPa以下、好ましくは4MPa以上20MPa以下、更に好ましく8MPa以上15MPa以下である。グラファイトフィルムを面状に加圧する圧力が2MPaより小さい場合は、圧力が小さすぎて十分に圧縮処理できず、耐屈曲性の悪いグラファイトフィルムとなる。一方、グラファイトフィルムを面状に加圧する圧力が40MPaより大きいと、圧力が大きすぎて圧縮処理時にグラファイトフィルムが破壊されてしまい、耐屈曲性、熱拡散性、外観の悪いグラファイトフィルムとなる。
【0111】
<フィルム状媒体>
前記グラファイトフィルム以外のフィルム状媒体としては、天然黒鉛から得られたグラファイトフィルムや、樹脂フィルムや、金属板、金属箔等が例示される。具体的には、天然黒鉛から得られたグラファイトフィルム、緩衝ゴム材、鉄板、テフロン(登録商標)フィルム、ポリイミドフィルム、PETフィルム等が挙げられる。電子の移動を可能にする化学構造を持った、いわゆる導電性ポリマーと、界面活性剤、電解質などの化合物や金属粉、カーボンブラックなどの導電性フィラーを練り込んだ、導電性樹脂組成物などの導電性高分子材料は、静電気除去の観点から特に適している。
【0112】
<グラファイトフィルムの耐屈曲性>
本願発明のグラファイトフィルムのMIT耐屈曲試験おける折り曲げ回数(Rが2mm、左右の折り曲げ角度90°)は、500回以上、好ましくは1000回以上、更に好ましくは10000回以上がよい。500回以上になると、耐屈曲性に優れているため屈曲部分に使用しても破壊されにくくなる。具体的には、携帯電話のヒンジや小型電子機器の折り曲げ部分で使用する場合でも、機能を落とすことなく使用することが可能となる。また、耐屈曲性に優れているため、電子機器への取り付け時などのハンドリング性も向上する。また、粘着材や保護フィルムなどの複合材と複合する場合も割れ、折れ、粉落ちなどが発生し難いためによい。一方、100回未満になると、耐屈曲性が劣るために、屈曲部分での使用中にフィルムが破壊されやすい。また取り扱い時のハンドリング性も悪くなる。また、複合材と貼り合わせるためにラミネーターを通す際など、割れや折れが発生しやすい。特に折り曲げ角度が大きい場合、折り曲げ半径が小さい場合フィルムが劣化しやすい。
【0113】
<MIT耐屈曲試験の曲げ半径、曲げ角度>
グラファイトフィルムのMIT耐屈曲試験は、東洋精機(株)製のMIT耐揉疲労試験機型式Dなどを用いて測定することができる。測定では、折り曲げ半径R、折り曲げ角度、荷重などを選択することが可能であり、Rが2mm、1mm等が選択することができる。通常、折り曲げ半径Rが小さいほど、折り曲げ角度が大きいほど、荷重が重いほど厳しい試験となる。特に、携帯電話、ゲーム機、液晶テレビ、PDP等のスペース小さい電子機器においては、小さな折り曲げ半径と大きな折り曲げ角度での折り曲げ性が優れることは、機器の省スペース設計が可能となり、非常に重要である。なお、MIT試験方法の詳細は実施例の欄に記載した。
【0114】
<グラファイトフィルムの厚み>
本願発明のグラファイトフィルムの厚みは、1μm以上21m以下、好ましくは3μm以上15μm以下、さらに好ましくは5μm以上12μm以下である。
【0115】
厚みが1μm未満のグラファイトフィルムは強度が弱いために、ハンドリング性が悪く複合シートの作製や電子機器への取り付けが困難である。また厚みが薄すぎて熱輸送能力が小さいために、放熱シートとしての使用が難しい。また、1μm未満の柔軟なグラファイトフィルムの作製は本願発明の手法ではそもそも困難である。
【0116】
また、21μmより厚いグラファイトフィルムでは厚みが厚いために、小型化された電子機器の小スペースに搭載できない場合がある(搭載するためにはグラファイトフィルムを搭載するスペースを予め設計しなければならない)。また、21μmより厚いグラファイトフィルムを作製するためには厚みの厚い原料フィルムが必要となり、単位面積あたりの原料コストの割合が大きくなるためによくない。
【0117】
グラファイトフィルムの厚みの測定方法としては、50mm×50mmのフィルムを厚みゲージ(ハイデンハイン(株)社製、HEIDENHAIN−CERTO)を用い、室温25℃の恒温室にて、任意の10点を測定し、平均して測定値とした。
【0118】
<グラファイトフィルムの面積>
本願発明のグラファイトフィルムの面積は、25cm2以上、好ましくは50cm2以上、さらに好ましくは100cm2以上であると良い。
【0119】
グラファイトフィルムを放熱シートとして使用するためには、面積が25cm2以上ある方が大面積に熱を拡散できるのでよい。また、50cm2以上、さらに好ましくは100cm2以上の大面積のシートが作製できれば、1枚のシートから30mm角程度の放熱シートとして適したサイズのグラファイトフィルムが複数枚抜き取れるために、量産性が高くなるので特によい。
【0120】
しかしながら、厚みが薄いグラファイトフィルムを大面積で作製することは非常に難しい。なぜなら、厚みが薄く大面積になるとフィルムのこしが非常に弱いため、第1工程である炭化処理でフィルムに皺が発生しやすい。第2工程の黒鉛化で、この皺が原因の割れ、厚みムラなどが発生するので均一なグラファイトフィルムの作製が難しくなる。また、炭化で均一なフィルムが処理できたとしても、黒鉛化の過程で皺や厚みムラが発生する場合もある。
【0121】
昇温速度が速い場合、フィルムは急激に収縮、膨張するため皺や割れが発生しやすい。したがって大面積のグラファイトフィルムを作製するためには、なるべく遅い昇温速度で処理する必要がある。
【0122】
<グラファイトフィルムの熱拡散率>
本願発明で使用するグラファイトフィルムの面方向の熱拡散率は、3.0×10-4m2/s以上、好ましくは5.0×10-4m2/s以上、さらに好ましくは8.0×10-4m2/s以上であると良い。3.0×10-4m2/s以上になると、グラファイトフィルムの熱伝導率が向上するため、厚みが薄くても十分な熱輸送能力を示す。
【0123】
このような熱拡散率は、グラファイト化の進行状況の指標となり、例えば、フィルム面方向の熱拡散率が高いほど、グラファイト化が顕著であることを意味している。そして、熱拡散率は、光交流法による熱拡散率測定装置(アルバック理工(株)社から入手可能な(商品名)「LaserPit」)を用いて、20℃の雰囲気下、10Hzにおいて測定できる。
【0124】
<用途など>
本願発明に係るグラファイトフィルムは、熱伝導性に優れるため、あらゆる熱に関わる用途に使用することが可能である。また、厚みが薄く柔軟性にも優れるため、この特徴を活かした用途、例えば、小型電子機器など小スペース部分での使用や、折り曲げ部分などの用途に適している。グラファイトフィルムの熱伝導に優れるという特徴は、熱を移動させる、熱を逃がす、熱を広げる、熱を均一にする、熱応答を早くする、早く暖める、早く冷ますといった効果が必要な用途には適している。熱を瞬時に広げることで急激な温度変化を防止緩和したり、局所的な熱の集中を回避したりすることが可能である。またその逆で、急激な変化を起こさせたり、わずかな熱の変化を検知したりする用途に使用することが可能である。熱が緩和されることで高温環境化においても強度、接着性を確保できる。また、均一かつ正確に熱を伝えることにより、高精度、高品位、高画質といった特性改善も可能になる。製造装置に用いた場合には、熱を早く、大量に輸送できる特長を活かし、タクトタイム短縮、加熱・冷却効率改善、乾燥効率改善、高速化、待ち時間短縮といった生産性の向上が可能になる。また、熱の均一化や素早い輸送により、不良低減、保温機能も高めることが可能となる。また、様々な機器に採用することで、省スペース化、薄膜化、軽量化、機構の単純化、設置の自由度改善を可能とし、余計な部品を無くすことで、省電力化、静音化も可能となる。また、熱を逃がすことが可能なため、ヒートサイクル環境試験やアニ−ル処理でも特性劣化なく、半田耐熱、接着層の密着性、耐熱性、信頼性、耐久性が改善でき、また断熱性を高めたり、熱に弱い部品から守ったりすることも可能となる。その結果、メンテナンスレス、コストダウンにつながり、安全性も改善することが可能となる。
【0125】
具体的な用途として、以下のものがあげられる。例えば、サーバー、サーバー用パソコン、デスクトップパソコン、ワードプロセッサ、キーボード、ゲーム等の電子機器、ノートパソコン、電子辞書、PDA、携帯電話、携帯ゲーム機器、ポータブル音楽プレイヤー等の携帯電子機器。液晶ディスプレイ、透過型液晶表示装置、反射型LCDパネル、プラズマディスプレイ、SED、LED、有機EL、無機EL、液晶プロジェクター、リアプロジェクター、液晶パネル、バックライト装置(ばらつき防止、温度ムラ改善)、TFT基板、電子放出素子、電子源基板とフェースプレート(軽量化)、表示パネルフレームとの複合、発光素子、電荷注入型発光素子、時計等の光学・表示機器及びその部品。レーザー、半導体レーザー、発光ダイオード、蛍光灯、白熱電球、発光ドット、発行素子アレー、照明ユニット、平面発光装置、原稿照明装置等の発光・照明装置。インクジェット(熱エネルギーを利用してインクを途出する)用の単体もしくは複数からなる記録ヘッド(ヒーター、断熱材、蓄熱層等)、ラインヘッド、長尺インクヘッド、固体インクジェット装置、インクジェットヘッド用放熱板、インクカートリッジ、インクジェットヘッド用シリコン基板、インクジェット駆動ドライバ、インクジェット記録紙を加熱するための加熱源(ハロゲンランプヒータ)等のインクジェットプリンタ(インクヘッド)装置及びその部品。トナーカートリッジ、レーザー光源を有する装置、走査光学装置(光線出射ユニット、偏向走査ポリゴンミラー、ポリゴンミラー回転駆動モーター、感光体ドラムへ導く光学部品)、露光装置、現像装置(感光ドラム、光受容部材、現像ローラ、現像スリーブ、クリーニング装置)、転写装置(転写ロール、転写ベルト、中間転写ベルト等)、定着装置(定着ロール(芯、外周部材、ハロゲンヒーター等)、サーフヒーター、電磁誘導加熱ヒーター、セラミックヒーター、定着フィルム、フィルム加熱装置、加熱ローラ、加圧ローラ・加熱体、加圧部材、ベルトニップ)、シート冷却装置、シート載置装置、シート排出装置、シート処理装置等からなる電子写真装置・画像形成装置及びその部品。定着装置ではグラファイトフィルムの使用による熱特性の改善効果は顕著であり、幅方向の画質ムラ、画質欠陥、連続通紙における画質バラツキ、立ち上がり・下がり時間、リアルタイム対応、温度の高追従性、通紙部と非通紙部の温度差、皺、強度、省電力、オンデマンド加熱、高温オフセット及び低温オフセット、ヒーター周辺部材の過昇温、ヒーター割れが大幅に改善できる。熱転写式記録装置(リボン)、ドットプリンタ、昇華プリンタ等のその他記録装置。半導体素子、半導体パッケージ、半導体封止ケース、半導体ダイボンディング、液晶表示素子駆動用半導体チップ、CPU、MPU、メモリ、パワートランジスタ、パワートランジスタケース等の半導体関連部品。プリント基板、リジッド配線板、フレキシブル配線板、セラミック配線板、ビルドアップ配線板、実装基板、高密度実装プリント基板、(テープキャリアパッケージ)、TAB、ヒンジ機構、摺動機構、スルーホール、樹脂パッケージング、封止材、多層樹脂成形体、多層基板等の配線基板。CD、DVD(光ピックアップ、レーザー発生装置、レーザー受光装置)、ブルーレイディスク、DRAM、フラッシュメモリ、ハードディスクドライブ、光記録再生装置、磁気記録再生装置、光磁気記録再生装置、情報記録媒体、光記録ディスク、光磁気記録媒体(透光性基板、光干渉層、磁壁移動層、中間層、記録層、保護フィルム層、放熱層、情報トラック)、受光素子、光検出素子、光ピックアップ装置、磁気ヘッド、光磁気記録用磁気ヘッド、半導体レーザチップ、レーザダイオード、レーザー駆動IC等の記録装置、記録再生装置及びその部品。デジタルカメラ、アナログカメラ、デジタル一眼レフカメラ、アナログ一眼レフカメラ、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、カメラ一体型VTR用、カメラ一体型VTR用IC、ビデオカメラ用ライト、電子閃光装置、撮像装置、撮像管冷却装置、撮像装置、撮像素子、CCD素子、レンズ鏡筒、イメージセンサ及びそれを用いた情報処理装置、X線吸収体パターン、X線マスク構造体、X線撮影装置、X線露光装置、X線平面検出器、X線デジタル撮影装置、X線エリアセンサー基板、電子顕微鏡用試料冷却ホルダ、電子ビーム描画装置(電子銃、電子銃、電子ビーム描画装置)、放射線検出装置及び放射線撮像システム、スキャナー、画像読取装置、動画用撮像素子と静止画用撮像素子、顕微鏡等の画像記録装置及びその部品。アルカリ電池、マンガン電池等の一次電池、リチウムイオン電池、ニッケル水素、鉛蓄電池等の二次電池、電気二重層キャパシタ、電解コンデンサ、組電池、太陽電池、太陽電池モジュール設置構造体、光電変換基板、光起電力素子アレー、発電素子、燃料電池(発電セル、筐体外部、燃料タンク内部)等のバッテリー機器等の放熱材料。電源(整流ダイオード、トランス)、DC/DCコンバータ、スイッチング電源装置(フォワード型)、電流リ−ド、超電導装置システム等の電源及びその部品。モーター、リニアモーター、平面モーター、振動波モーター、モーターコイル、回転制御駆動用の回路ユニット、モータドライバ、インナーロータモーター、振動波アクチュエーター等のモーター及びその部品。真空処理装置、半導体製造装置、蒸着装置、薄膜単結晶半導体層製造装置、プラズマCVD、マイクロ波プラズマCVD、スパッタリング装置、減圧チャンバー、真空ポンプ、クライオトラップ・クライオポンプ等の真空排気装置、静電チャック、真空バキュームチャック、ピンチャック型ウエハチャック、スパッタリング用ターゲット、半導体露光装置、レンズ保持装置及び投影露光装置、フォトマスク、等の堆積膜製造装置(温度一定、品質安定)及びその部品。抵抗加熱・誘導加熱・赤外線加熱による熱処理装置、乾燥機、アニール装置、ラミネート装置、リフロー装置、加熱接着(圧着)装置、射出成型装置(ノズル・加熱部)、樹脂成形金型、LIM成型、ローラ成型装置改質ガス製造(改質部、触媒部、加熱部等)スタンパ、(フィルム状、ロール状、記録媒体用)、ボンディングツール、触媒反応器、チラー、カラーフィルタ基板の着色装置、レジストの加熱冷却装置、溶接機器、磁気誘導加熱用フィルム、結露防止ガラス、液体残量検知装置、熱交換装置等の種々製造装置及びその部品。断熱材、真空断熱材、輻射断熱材等の断熱装置。各種電子・電気機器、製造装置のシャーシ、筐体、外装カバー。放熱器、開口部、ヒートパイプ、ヒートシンク、フィン、ファン、放熱用コネクタ等の放熱部品。ペルチェ素子、電気熱変換素子、水冷部品等の冷却部品。温度調節装置、温度制御装置、温度検出装置及び部品。サーミスタ、サーモスイッチ、サーモスタット、温度ヒューズ、過電圧防止素子、サーモプロテクタ、セラミックヒーター、フレキシブルヒーター、ヒーターと熱伝導板と断熱材の複合品、ヒーターコネクタ・電極端子部品等の発熱体関連部品。高放射率を有する放射部品、電磁波遮蔽、電磁波吸収体等の電磁シールド部品、アルミ、銅、シリコン等の金属との複合品、窒化ケイ素、窒化ホウ素、アルミナ等のセラミックとの複合品として好適である。
【実施例】
【0126】
以下に実施例により発明の実施態様、効果を示すが、本願発明はこれに限られるものではない。
【0127】
<ポリイミドフィルムA、B、C>
[ポリイミドフィルムAの作製方法]
4,4’−オキシジアニリンの3当量を溶解したDMF溶液にピロメリット酸二無水物の4当量を溶解して、両末端に酸無水物を有するプレポリマを合成した後、そのプレポリマを含む溶液にp−フェニレンジアミンの1当量を溶解して得られたポリアミド酸を18.5wt%含む溶液を得た。
【0128】
この溶液を冷却しながら、ポリアミド酸に含まれるカルボン酸基に対して、1当量の無水酢酸、1当量のイソキノリン、およびDMFを含むイミド化触媒を添加し脱泡した。次にこの混合溶液が、乾燥後に所定の厚さになるようにアルミ箔上に塗布した。アルミ箔上の混合溶液層は、熱風オーブン、遠赤外線ヒーターを用いて乾燥した。
【0129】
出来上がり厚みが75μmの場合の乾燥条件を示す。アルミ箔上の混合溶液層は、熱風オーブンで120℃において240秒乾燥して、自己支持性を有するゲルフィルムにした。そのゲルフィルムをアルミ箔から引き剥がし、フレームに固定した。さらに、ゲルフィルムを、熱風オーブンにて120℃で30秒、275℃で40秒、400℃で43秒、450℃で50秒、および遠赤外線ヒータ−にて460℃で23秒と段階的に加熱して乾燥した。その他の厚みに対しては、厚みに比例して焼成時間が調整した。例えば厚さ25μmのフィルムの場合には、75μmの場合よりも焼成時間を1/3に短く設定した。
【0130】
以上のようにして、厚さ12.5μm、25μm、45μmの3種類のポリイミドフィルムA(弾性率4.4GPa、吸水率2.2%、複屈折0.14、線膨張係数21.8×10-6/℃)を作製した。
【0131】
[ポリイミドフィルムBの作製方法]
4,4’−オキシジアニリンの3当量、p−フェニレンジアミンの1当量を溶解したDMF(ジメチルフォルムアミド)溶液に、ピロメリット酸二無水物の4当量を溶解して得られたポリアミド酸を用いた以外はポリイミドフィルムAと同様にして厚さ25μmのポリイミドフィルムC(弾性率3.9GPa、吸水率3.0%、複屈折0.12、線膨張係数23.7×10-6/℃)を作製した。
【0132】
[ポリイミドフィルムC]
ポリイミドフィルムDは、東レ・デュポン(株)から入手できる厚み25μmの「KAPTON H」である。(弾性率3.4GPa、吸水率3.0%、複屈折0.10、27.9×10-6/℃)
文献によるとKAPTON Hは、4,4’−オキシジアニリンの1当量を溶解したDMF(ジメチルフォルムアミド)溶液に、ピロメリット酸二無水物の1当量を溶解して得られたポリアミド酸を用いて製造されていると推定される。
【0133】
以下得られたポリイミドフィルムの作製方法と各種物性を表1にまとめた。
【0134】
【表1】
【0135】
(実施例1)
サイズ200mm×200mm、厚み25μmのポリイミドフィルムAを、サイズ220mm×220mmのグラファイトシートで挟み、電気炉を用いて窒素雰囲気下で、2℃/minの昇温速度で1000℃まで昇温した後、1000℃で1時間熱処理して炭素化した。
【0136】
得られたサイズ160mm×160mmの炭素化フィルムを、直接2枚端を揃えて積層し、この積層体をサイズ220mm×220mmのグラファイトシートで挟み、厚み方向の圧力が20g/cm2となるように、サイズ220mm×220mm、重量5.12Kgの黒鉛板を上に置いた。黒鉛化炉を用いて、室温から2200℃以下は、−0.0999Mpa以下の減圧下(実際にはピラニー真空計にて、100Pa以下)、2200℃より高い温度領域はアルゴン雰囲気下で、黒鉛化昇温速度2.5℃/minで2900℃(黒鉛化最高温度)まで昇温した後、2900℃で30分保持してグラファイトフィルムを作製した。ここで用いた黒鉛化炉の内容積は1800Lであった。
得られた180mm×180mmのフィルム1枚を、サイズ200mm×200mm×厚み400μmの高分子フィルムで挟み、圧縮成型機を用いて後面状加圧工程を実施した。加えた圧力は10MPaとした。
(実施例2)
炭素化フィルムを、直接5枚端を揃えて積層したこと以外は、実施例1と同様にしてグラファイトフィルムを作製した。
(実施例3)
炭素化フィルムを、直接10枚端を揃えて積層したこと以外は、実施例1と同様にしてグラファイトフィルムを作製した。
(実施例4)
炭素化フィルムを、直接30枚端を揃えて積層したこと以外は、実施例1と同様にしてグラファイトフィルムを作製した。
(実施例5)
炭素化フィルムを、直接100枚端を揃えて積層したこと以外は、実施例1と同様にしてグラファイトフィルムを作製した。
(実施例6)
炭素化フィルムを、直接500枚端を揃えて積層したこと以外は、実施例1と同様にしてグラファイトフィルムを作製した。
(実施例7)
厚み45μmのポリイミドフィルムAを原料として用いたこと以外は、実施例4と同様にしてグラファイトフィルムを作製した。
(実施例8)
厚み12.5μmのポリイミドフィルムAを原料として用いたこと以外は、実施例4と同様にしてグラファイトフィルムを作製した。
(実施例9)
厚み25μmのポリイミドフィルムBを原料として用いたこと以外は、実施例4と同様にしてグラファイトフィルムを作製した。
(実施例10)
厚み25μmのポリイミドフィルムCを原料として用いたこと以外は、実施例4と同様にしてグラファイトフィルムを作製した。
(実施例11)
黒鉛化炉を用いて、室温から1600℃以下は、−0.0999Mpa以下の減圧下(実際にはピラニー真空計にて、100Pa以下)、1600℃より高い温度領域はアルゴン雰囲気下で黒鉛化したこと以外は、実施例4と同様にしてグラファイトフィルムを作製した。
(実施例12)
黒鉛化炉を用いて、室温から2900℃までアルゴン雰囲気下(大気圧程度)で黒鉛化したこと以外は、実施例4と同様にしてグラファイトフィルムを作製した。
(実施例13)
厚み25μmのポリイミドフィルムAを、端を揃えて直接30枚積層し、炭素化したこと以外は、実施例4と同様にしてグラファイトフィルムを作製した。
(実施例14)
予備加熱(炭素化)を実施せず、高分子フィルムを黒鉛化炉にて処理した。具体的には、サイズ200mm×200mm、厚み25μmのポリイミドフィルムAを、端を揃えて直接30枚積層し、この積層体をサイズ220mm×220mmのグラファイトシートで挟み、厚み方向の圧力が20g/cm2となるように、サイズ220mm×220mm、重量5.12Kgの黒鉛板を上に置いた。黒鉛化炉を用いて、室温から2200℃以下は、−0.0999Mpa以下の減圧下(実際にはピラニー真空計にて、100Pa以下)、2200℃より高い温度領域はアルゴン雰囲気下で、黒鉛化昇温速度2.5℃/minで2900℃まで昇温した後、2900℃で30分保持してグラファイトフィルムを作製した。
【0137】
得られたフィルムを10MPaの圧力で後面上加圧処理を施した。
(実施例15)
後面上加圧処理を施していないこと以外は、実施例4と同様にしてグラファイトフィルムを作製した。
(実施例16)
黒鉛化最高温度が2700℃であること以外は、実施例4と同様にしてグラファイトフィルムを作製した。
(実施例17)
厚み方向の圧力が1000g/cm2となるように、重量256Kgの黒鉛板を上に置いたこと以外は、実施例4と同様にしてグラファイトフィルムを作製した。
(比較例1)
ポリイミドフィルムAを原料として得られた炭素化フィルム1枚を、サイズ220mm×220mmのグラファイトシートで挟み黒鉛化したこと以外は、実施例1と同様にしてグラファイトフィルムを作製した。
(比較例2)
ポリイミドフィルムBを原料として得られた炭素化フィルム1枚を、サイズ220mm×220mmのグラファイトシートで挟み黒鉛化したこと以外は、実施例1と同様にしてグラファイトフィルムを作製した。
(比較例3)
ポリイミドフィルムCを原料として得られた炭素化フィルム1枚を、サイズ220mm×220mmのグラファイトシートで挟み黒鉛化したこと以外は、実施例1と同様にしてグラファイトフィルムを作製した。
(比較例4)
黒鉛化最高温度を2400℃と変更したこと以外は、実施例4と同様にしてグラファイトフィルムを作製した。
【0138】
<グラファイトフィルムの厚み測定>
グラファイトフィルムの厚みの測定方法としては、得られたグラファイトフィルムを厚みゲージ(ハイデンハイン(株)社製、HEIDENHAIN−CERTO)を用い、室温25℃の恒温室にて、任意の10点を測定し、平均して測定値とした。
【0139】
<グラファイトフィルムの耐屈曲特性評価 MIT試験>
グラファイトフィルムのMIT耐屈曲試験を行った。グラファイトフィルムを15×100mmにカットし、東洋精機(株)製のMIT耐揉疲労試験機型式Dを用いて、試験荷重100gf(0.98N)、速度90回/分、折り曲げクランプの曲率半径Rは2mmでおこなった。折り曲げ角度は左右へ90°について測定した。
【0140】
<グラファイトフィルムのシワの最大長さ>
図12のような、黒鉛化処理後に発生するグラファイトフィルムのシワの最大長さを測定した。目視にて観察可能なシワの最大長さが、0〜5mmは◎、5〜10mmは○、10〜20mmは△、20mm以上は×と記載した。
【0141】
<グラファイトフィルムの圧着の程度>
直接積層し黒鉛化したグラファイトフィルム同士の圧着の程度を測定した。破れることなく剥がせる場合を◎、破れの最大長さが0〜10mmで剥がせるものを○、破れの最大長さが10〜20mmで剥がせるものを△、剥がせないものを×と記載した。
【0142】
<光交流法によるフィルム面方向の熱拡散率測定>
グラファイトフィルムの熱拡散率は、光交流法による熱拡散率測定装置(アルバック理工(株)社から入手可能な「LaserPit」)を用いて、グラファイトフィルムを4×40mmのサンプル形状に切り取り、20℃の雰囲気下、10Hzにおいて測定した。グラファイト化の進行状況を、フィルム面方向の熱拡散率を測定することによって判定した。熱拡散率が高いほど、グラファイト化が顕著であることを意味している。
【0143】
以下実施例、比較例のグラファイトフィルムの製造条件、各種物性などを表2、表3にまとめた。
【0144】
【表2】
【0145】
【表3】
【0146】
<黒鉛化工程のフィルムセット方法>
実施例1〜6、比較例1を比較すると、積層枚数が1枚の場合は図5のような硬質なグラファイトフィルムが得られたのに対し、2枚以上の積層することで、図3のような柔軟なグラファイトフィルムが得られた。MIT試験においても、比較例1では、100回未満であるのに対し、実施例1〜6では、1000回以上と、本発明により柔軟性を付与できたことがわかる。また、積層枚数を増やすと得られるグラファイトフィルムの柔軟性は大きくなり、10枚以上の積層では、MIT試験100000回以上と非常に優れた柔軟性を示すことがわかった。
【0147】
<高分子フィルムの厚み>
原料として使用する高分子フィルムの厚みについて、実施例4、7、8を比較すると、高分子フィルムの厚みが薄いほど、厚みの薄いグラファイトフィルムが得られる。
【0148】
<複屈折>
原料として使用する高分子フィルムの複屈折について、実施例4、9、10を比較すると、複屈折が高い方が、柔軟なグラファイトフィルムが得られた。特に複屈折が0.14のポリイミドAを原料として用いると、MIT試験が100000回以上と非常に柔軟性に優れたグラファイトフィルムが作製できた。一方、複屈折0.10の原料フィルムを同様の方法で黒鉛化してもMIT試験が500回以上と柔軟性は劣化した。
【0149】
また、比較例1〜3を比較すると積層する原料フィルムが1枚であった場合でも、複屈折が高いほうが、得られるグラファイトフィルムの柔軟性は優れていた。
【0150】
<1000℃以上2400℃以下の雰囲気>
黒鉛化処理における1000℃以上2400℃以下の雰囲気について、実施例4、11、12を比較すると、1000〜2400℃の領域のできるだけ広い温度領域を減圧で処理するほど、柔軟なグラファイトフィルムが得られることがわかった。
【0151】
<炭素化工程の有無とセット方法について>
炭素化工程の有無とセット方法について、実施例4、13、14を比較する。実施例14のように炭素化工程を省略すると、柔軟性が劣化することもさることながら、シワが発生し収率が低下した。また、実施例13のように、炭素化を直接積層で実施した場合も、柔軟性の劣化し、シワが発生した。以上のことから、柔軟性、収率を高めるためには、実施例4のように、高分子フィルムをグラファイトシートと交互に積層した状態で炭素化し、シワのない炭素化フィルムを得た後で、改めて黒鉛化処理のために直接積層し直して、黒鉛化を実施するほうがよいことがわかった。
【0152】
<後面状加圧工程の有無>
後面状加圧工程の有無について、実施例4、15を比較すると、後面状加圧工程を施した方が優れた柔軟性を示すことがわかった。
【0153】
<黒鉛化最高温度>
実施例4、16、比較例4を比較すると、最高温度が高いほど、優れた柔軟性を示すことがわかった。
【0154】
<黒鉛化時に原料フィルムの厚み方向に加える圧力>
実施例4、17を比較すると、黒鉛化時に原料フィルムの厚み方向に加える圧力が高すぎると、フィルム同士が圧着してグラファイトフィルムが得られにくいことがわかった。また、圧力が大きいと、発泡しにくく柔軟なグラファイトフィルムが得られにくいことがわかった。
【符号の説明】
【0155】
11 グラファイトフィルム
21 グラファイト層の空間
31 柔軟
41 硬質化したグラファイトフィルム
51 割れ
61 密に詰まった層間
62 金属不純物の作用により、面方向の発達を阻害するように発達した炭素質塊
71 グラファイト層
72 アウトガス
73 面方向へ発達できなかった小さなグラファイト結晶子の隙間
81 炭素質シート
82 原料フィルム
1 ポリイミドフィルム
2 くさび形シート
3 くさび形シートの幅
4 ナトリウム光
5 干渉縞
121 シワ
【技術分野】
【0001】
本願発明は、電子機器、精密機器などの放熱フィルムおよびヒートスプレッダ材料として使用されるグラファイトフィルムとその製造方法に関し、特に厚みが薄く、柔軟性を有し、熱拡散性の優れたグラファイトフィルムとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピューターなどの各種の電子・電気機器に搭載されている半導体素子や、その他の発熱部品などの冷却問題が注目されている。このような発熱部品の冷却方法としては、それが搭載される機器筐体にファンを取り付け、その機器筐体を冷却する方法や、その発熱部品にヒートパイプやヒートスプレッダ、ヒートシンクやフィンなどの熱伝導体を取り付け、その素子からの熱を外部に運ぶことで冷却する方法等が一般的である。発熱部品に取り付ける熱伝導材料としては、アルミニウム板や銅板などが挙げられる。この場合、アルミニウムや銅板の一部、またはヒートパイプに発熱部品を取り付け、更に、その板の他の部分をフィンやファンを用いて外部に放熱する。
【0003】
ところで、近年は半導体素子等の発熱部品が搭載される各機器が小型化され、また、その部材の発熱量が大きくなる傾向がある。また、筐体が小型化するため、フィンやヒートシンク及びファンなどの部品を挿入するスペースが制限されてきている。そのような中、近年は、熱伝導体(ヒートコンダクタ)として、熱拡散性に優れるグラファイトフィルムの使用が急増している。グラファイトフィルムはカーボンが層状構造をとっており、グラファイトフィルムの面内の熱伝導率が非常に高く、かつ密度が1〜2g/cm3程度と軽いうえ、シートの厚さを薄くでき、フレキシブル性を有する。そのため、狭い場所や、隙間をぬって取り回す必要のある場所のヒートコンダクタ材やヒートスプレッダ材として使用される場合が多い。
【0004】
一般に入手できるグラファイトフィルムとして、高分子熱分解法またはエキスパンド法により製造されたグラファイトフィルムがある。粉末より製造されるエキスパンド法では実用上0.1mmより薄いフィルムを製造する事は困難であり、さらにフィルムの強度にも限界があった。一方、高分子熱分解法は特許文献1、2のように、ポリオキサジアゾール、ポリイミド、ポリフェニレンビニレン、ポリベンゾイミダゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリチアゾール、またはポリアミド等の高分子フィルムをアルゴン、ヘリウム等の不活性雰囲気下や減圧下で熱処理する方法であり、比較的薄くて強度が強く柔軟性を示すグラファイトフィルムを得ることができる。
【0005】
特許文献1、2によると、高分子分解法による柔軟なグラファイトフィルムの作製は、3つの主となる工程を含んでいる。第1工程は、高分子フィルムを不活性ガス流中で熱処理し、炭素主成分へのフィルムへ転換する炭素化工程である。通常1000℃までおこなわれ、炭酸ガスや水素、窒素などのガス発生を伴う。また第2工程として、炭素化された高分子フィルム(炭素化フィルム)を2400℃以上まで熱処理する黒鉛化工程がある。第2工程では、グラフェン層が面方向に配向して、黒鉛化が進行する。この黒鉛化工程の際、フィルム中に僅かに残っていてグラフェン骨格を形成しない窒素やその他成分が、黒鉛化の最終段階(2400℃以上の温度域)でアウトガス(発泡ガス)としてフィルムから抜ける。このアウトガスによりグラファイト層が持ち上げられ、フィルムが発泡する。第3工程として、発泡したグラファイトフィルムを圧延することでフィルムに柔軟性を寄与することができる。
【0006】
また、芳香族ポリイミドを、熱処理して得られる複数枚の炭素化フィルムを、1600℃以上の温度領域で、4kg/cm2以上の圧力を加えながら炭素質フィルム同士を圧着することを特徴とするグラファイトの製造方法、(特許文献3)も知られている。本手法では、特許文献1、2と異なり、グラファイトフィルムの製造を目的としておらず、フィルム同士を圧着し、厚みの非常に厚いグラファイトブロックを製造することを目的としている。
【0007】
さらに特許文献4には、原料フィルムを積層してグラファイトフィルムを得ることが開示されているが、原料フィルムとしては厚いものだけが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭61−275116号公報、
【特許文献2】特許公報 第2976481号
【特許文献3】特開昭64−56364号公報
【特許文献4】特開2008−285362号公報
【0009】
現在、開発されている柔軟性を有するグラファイトフィルムは最薄で厚み25μm(松下電器産業株式会社製、商品名:PGS)のものが知られている。このグラファイトフィルムも高分子分解法にてポリイミドフィルムを熱分解して製造されている。
【0010】
しかしながら、携帯電話を始めとする現在の電子機器は、複雑化が進む一方で、さらに小型化・薄型化が進んでおり、これまで開発された薄型のグラファイトフィルムでも、搭載できる十分なスペースを確保できなくなっている。そこで、更に厚みの薄く柔軟なグラファイトフィルムの開発が急務となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献2のように、厚みの薄い原料(ポリイミドフィルム)を使用することで、厚みの薄いグラファイトフィルムを作製することができる。しかしながら、厚みの薄い原料を使用した場合、柔軟性を有するグラファイトフィルムを作製することは難しく、これまで25μm未満で十分な柔軟性を示すフィルムは作製できていなかった。例えば、特許文献2に示されるように、厚み25μmのポリイミドフィルム(KAPTON)を炭化速度10℃/min、黒鉛化速度20℃/minで熱処理して作製されたグラファイトフィルムも、東洋精機(株)製のMIT耐揉疲労試験機型式Dを用いたMIT試験(折り曲げクランプの曲率半径Rが2mm、左右の折り曲げ角度90度、折り曲げ速度90回/min、荷重0.98N)における折り曲げ回数は10回未満と、電子機器などに搭載するためには十分な柔軟性(耐屈曲性)を持ち合わせていなかった。
【0012】
柔軟性のない硬質なグラファイトフィルムでは、取り付け時や複合フィルムの作製時などに割れ、折れ、粉落ちなど様々な不具合が発生してしまう。また、湾曲部分への取り付けも困難であるため、小スペース化が進んだ現在の小型電子機器での使用できない場合が多い。このような観点から、柔軟性が十分で、更に薄型(21μm以下)のグラファイトフィルムの開発が求められていた。
【0013】
原料フィルムの厚みが薄くなると柔軟なフィルムが作製しにくい理由を以下に簡単に解説する。
【0014】
前述のように、柔軟性を寄与するためには、熱処理(黒鉛化)の過程で、内部から発生するグラファイト層を形成しない成分からなるアウトガスによって、フィルムを発泡させる必要がある(図1、図2)。図2のように、発泡させたグラファイトフィルムは層間にわずかな空間が存在するために、折り曲げ時にかかる歪を逃がすことができるため、図3のように柔軟性を有する。しかしながら、フィルムが薄いと、発生するアウトガスの量が少ない上に、内部から表面までの距離が近いために、フィルムからスムーズにガスが抜けてしまい、発泡し難くなる。そのため、図4、5のような硬質化したグラファイトフィルムが得られる。
【0015】
また、フィルムの発泡を阻害するもう一つの要因として金属不純物の作用を、筆者らは本発明の検討の中で発見した。金属不純物のフィルムへの作用は以下の通りである。黒鉛化炉を構成する断熱材、容器、ヒーターなどは黒鉛材で作られている。黒鉛材の原料である天然黒鉛には多くの金属不純物(鉄やニッケルなど)が含まれていることから、これらの物質は炉内に大量に存在する。金属成分は、高分子フィルムの黒鉛化触媒として働き、通常なら面方向へ進むはずのグラファイト層の発達を阻害するように、黒鉛化を進行させてしまう(図6、7)。そのため、面方向へ発達できなかった小さなグラファイト結晶子の隙間からアウトガスが抜けやくなり、フィルムが発泡し難くなるのである。特に、大型の炉(有効処理体積が20000cm3以上)にて熱処理を実施する際は、金属不純物濃度が高いために、硬質なフィルムが得られやすい。
【0016】
以上のような要因で、これまで、厚みの薄く柔軟性を持ち合わせたグラファイトフィルムの大型炉での量産は非常に困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0017】
一般的に、枚葉でグラファイトフィルムを作製する方法として、特許文献1、2のように、1枚の原料フィルムを黒鉛板で挟んで熱処理する方法が開示されている。また、特許文献3のように、薄い原料フィルムを複数枚積層し、フィルムの厚み方向へ大きな圧力(4kg/cm2以上)を加えながら熱処理する、グラファイトブロックの製造方法が知られている。しかしながらこれらの手法では、薄い原料フィルムを発泡させることができなかったので、薄くて柔軟性を有するグラファイトフィルムを作製することができなかった。
【0018】
本願発明のポイントは、薄物フィルムをいかに発泡させるかである。そのためには、筆者らは、1)黒鉛化の最終段階で発泡を引き起こすアウトガスをフィルム中に留めること、2)発泡を阻害する金属不純物の作用を抑制すること、が重要であることを突き止め、本発明の開発に至った。
【0019】
すなわち、本発明は、以下のものである。
(1)厚みが5μm以上45μm以下の高分子フィルム、または厚みが5μm以上45μm以下の炭素化した該高分子フィルムからなる原料フィルムを2枚以上直接積層して、2600℃以上の温度で熱処理する工程を含むことを特徴とするグラファイトフィルムの製造方法。
【0020】
(2)1000℃以上2400℃以下の温度領域の少なくとも一部において、−0.08MPa以下の減圧で熱処理されることを特徴とする(1)に記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【0021】
(3)前記高分子フィルムの複屈折が0.12以上であることを特徴とする(1)〜(2)のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【0022】
(4)前記高分子フィルムがポリイミドフィルムであることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【0023】
(5)前記直接積層した原料フィルムの厚み方向に圧力を加え、該圧力が1.0g/cm2以上200g/cm2以下であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【0024】
(6)前記原料フィルムの面積が100cm2以上であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【0025】
(7)前記炭素化において、前記2枚以上直接積層した高分子フィルムと熱伝導性シートを交互に積層して炭素化することを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【0026】
(8)(1)〜(7)のいずれかに記載の製造方法で製造されたグラファイトフィルムを面状に圧力4MPa以上20MPa以下で加圧する後面状加圧工程を施すことを特徴とするグラファイトフィルムの製造方法。
【0027】
(9)内容積125〜17000Lである黒鉛化炉中でおこなうことを特徴とする(1)〜(8)のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【0028】
(10)(1)〜(9)のいずれかに記載の製造方法で製造されたことを特徴とするグラファイトフィルム。
【0029】
なお、複数の原料フィルムの間に他の部材を挟み込んだとしても、その部材が単に形式的に挟み込まれたにすぎず、その製造法が本発明の効果を十分奏する場合は、本発明の「原料フィルムを2枚以上直接積層」をおこなっているものとする。
【発明の効果】
【0030】
薄くて柔軟性を有し、熱拡散性に優れたグラファイトフィルムを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】発泡させたグラファイトフィルム(表面)。
【図2】発泡させたグラファイトフィルムの断面SEM写真。
【図3】柔軟性を付与できたグラファイトフィルムの折り曲げ。
【図4】硬質化したグラファイトフィルム(表面)。
【図5】硬質化したグラファイトフィルムの折り曲げ。
【図6】金属不純物が作用したグラファイトフィルムの断面SEM写真。
【図7】金属不純物が作用したグラファイトフィルムの断面の模式図。
【図8】1枚の原料フィルムと炭素質シートを交互に積層
【図9】複数枚の原料フィルムと炭素質シートを交互に積層
【図10】ポリイミドフィルム及びくさび形シート。
【図11】くさび形シートの斜視図。
【図12】グラファイトフィルムに発生するシワ
【発明を実施するための形態】
【0032】
本願発明の第1は、厚みが5μm以上45μm以下の高分子フィルム、または厚みが5μm以上45μm以下の炭素化した該高分子フィルムからなる原料フィルムを、2枚以上直接積層して、2600℃以上の温度で熱処理する工程を含むことを特徴とするグラファイトフィルムの製造方法、である。
【0033】
<グラファイトフィルム>
近年の電子機器の発熱密度増加に対する対策として熱拡散性の非常に優れたグラファイトフィルムが注目を集めている。現在、一般に入手できるグラファイトフィルムとして、高分子熱分解法またはエキスパンド法により製造されたグラファイトフィルムがある。
【0034】
一般的に、原料フィルムをアルゴン、ヘリウム等の不活性雰囲気下や減圧下で熱処理する高分子熱分解法で得られるグラファイトフィルムは柔軟性、熱拡散性に優れている。
【0035】
一方、エキスパンド法により得られたグラファイトフィルムは、粉状、燐片状の天然黒鉛を押し固めて作製されるために、柔軟性は有するものの、グラファイト結晶子が小さく結晶性が劣るために、高分子熱分解法により得られたグラファイトに比べ熱拡散性に劣り、またフィルムの強度も弱く脆いものが多い。
【0036】
<高分子フィルム>
本願発明で用いることができる高分子フィルムは、特に限定はされないが、ポリイミド(PI)、ポリアミド(PA)、ポリオキサジアゾール(POD)、ポリベンゾオキサゾール(PBO)、ポリベンゾビスオキサザール(PBBO)、ポリチアゾール(PT)、ポリベンゾチアゾール(PBT)、ポリベンゾビスチアゾール(PBBT)、ポリパラフェニレンビニレン(PPV)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、ポリベンゾビスイミダゾール(PBBI)が挙げられ、これらのうちから選ばれる少なくとも1種を含む耐熱芳香族性高分子フィルムであることが、最終的に得られるグラファイトの柔軟性、熱拡散性が大きくなることから好ましい。これらのフィルムは、公知の製造方法で製造すればよい。この中でもポリイミドは、原料モノマーを種々選択することによって様々な構造および特性を有するものを得ることができるために好ましい。また、ポリイミドフィルムは、他の有機材料を原料とする高分子フィルムよりもフィルムの炭化、黒鉛化が進行しやすいため、柔軟性、熱拡散性に優れたグラファイトフィルムとなりやすい。
【0037】
<高分子フィルムの厚み>
本願発明で用いることができる高分子フィルムの厚みは、5μm以上45μm以下、好ましくは7μm以上40μm以下、さらに好ましくは10μm以上30μm以下である。
【0038】
原料である高分子フィルムの厚みが5μm以上45μm以下であれば、厚みが十分に薄く柔軟性を示すグラファイトフィルムが得られる。しかしながら、厚み5μm未満の高分子フィルムの柔軟なグラファイトフィルムの作製は、本手法では困難である。一方、45μmより厚い場合は、厚みの厚いグラファイトフィルムしか作製できないため、小型電子機器に搭載できない場合がある。
【0039】
<炭素化した高分子フィルム(炭素化フィルム)>
本発明で用いられる炭素化した高分子フィルムは、出発物質である高分子フィルムを減圧下もしくは不活性ガス中で予備加熱処理して得ることができる。この予備加熱は通常1000℃程度の温度で行い、例えば2℃/分の速度で昇温した場合には1000℃の温度領域で60分程度の温度保持を行うことが望ましい。
【0040】
<原料フィルム>
本発明で用いることができる原料フィルムは、高分子フィルムまたは炭素化した高分子フィルムである。
【0041】
高分子フィルムを原料として用いる場合は、高分子フィルムを減圧下もしくは不活性ガス中で予備加熱処理する炭素化工程を実施することが好ましい。予備加熱処理を施した炭素化フィルム(炭素化した高分子フィルム)を原料フィルムとして用い、2枚以上を積層して2600℃以上の温度で熱処理する黒鉛化工程(黒鉛化)を実施すると特に柔軟性、熱拡散性に優れたグラファイトフィルムが得られる。炭素化と黒鉛化は、別々に行っても良いし、連続的に行っても良い。つまり、炭素化フィルムを一度炉内から取り出して、再び、黒鉛化工程に適した形でセットし直して、黒鉛化処理を実施してもよいし、取り出さずに、炭素化工程と黒鉛化工程を連続して実施してもよい。
【0042】
<炭素化(炭化)工程>
炭素化は、出発物質である高分子フィルムを減圧下もしくは窒素ガス中で予備加熱処理して炭素化を行う。この予備加熱は通常室温〜1500℃の温度で行われる。炭化の熱処理温度としては、最低でも800℃以上が必要で、好ましくは900℃以上、より好ましくは1000℃以上で熱処理することが、柔軟性、熱拡散性に優れたグラファイトを得るためにはよい。
【0043】
昇温の段階では、出発高分子フィルムにシワが発生しないように、フィルムの破損が起きない程度にフィルムの厚み方向に圧力を加えてもよい。
【0044】
<炭素化(炭化)工程のフィルムセット方法>
本発明の炭素化工程のフィルムセット方法として、1枚以上(すなわち複数枚)の高分子フィルムと、熱伝導性シートとを交互に積層する方法が挙げられる。ここで、「交互に積層」とは、熱伝導性シートの間に複数枚の高分子フィルムが挟まれて積層されていることをいう。
【0045】
ここで、本発明において用いられる熱伝導性シートは、面積の大きい主面を有する形状のものであれば厚さに特に限定はなく、フィルムや板などが含まれる。
【0046】
このような熱伝導性シートとしては、特に制限はないが、銅、鉄、ステンレスなどの金属フィルム(金属シート、金属板を含む。以下同じ。)、アルミナなどのセラミック板、炭素質シート(炭素質板を含む。以下同じ。)などが挙げられる。ここで、炭素質シートは、金属フィルムに比べて、高い耐熱性を有し、製造されるグラファイトフィルムへの金属不純物の混入が少ないという利点を有する。また、炭素質シートは、セラミックス板に比べて、強靭であり、高い耐熱性を有するという利点を有する。かかる観点から、上記の耐熱性フィルム中において用いる熱伝導性シートとしては、炭素質シートが好ましい。また、炭素質シートにおいては、グラファイトシート(グラファイトフィルム、グラファイト板を含む。以下同じ。)がより好ましい。グラファイトシートは、高い耐熱性に加えて、高い熱伝導性を有する。このため、積層体中の高分子フィルムを均一に熱処理でき、フィルムにおける皺およびひずみの発生を抑制できる。また、グラファイトシートは、柔らかく、かつ、高い摺動性を有するため、高分子フィルムの熱処理による炭素化工程において、フィルムの収縮による割れを防止できる。
【0047】
これらのグラファイトシートとしては、等方性グラファイトシート(等方性グラファイトフィルム、等方性グラファイト板を含む。)、押し出し成型グラファイトシート(押し出し成型グラファイトフィルム、押し出し成型グラファイト板を含む。)、C/Cコンポジットシート(C/Cコンポジットフィルム、C/Cコンポジット板を含む。)、膨張グラファイトシート(膨張グラファイトフィルム、膨張グラファイト板を含む。)などが挙げられる。ここで、C/Cコンポジットとは、グラファイトを炭素繊維で補強した炭素繊維強化炭素複合材料をいう。これらのグラファイトシートは、市販品として入手が可能である。たとえば、東洋炭素(株)社製等方性グラファイトシート(商品名:IG−11、ISEM−3など)、東洋炭素(株)社製C/Cコンポジット板(商品名:CX−26、CX−27など)、SECカーボン(株)社製押し出しグラファイト板(商品名:PSG−12、PSG−332など)、東洋炭素(株)社製膨張グラファイトシート(商品名:PERMA−FOIL(グレード名:PF、PF−R2、PF−UHPL))などが挙げられる。
【0048】
<黒鉛化工程>
次に、黒鉛化は、炭素化した高分子フィルムを一度取り出した後、黒鉛化用の炉に移し変えてからおこなっても良いし、炭素化から黒鉛化を連続的におこなっても良い。黒鉛化は、減圧下もしくは不活性ガス中でおこなわれるが、不活性ガスとしてはアルゴン、ヘリウムが適当である。熱処理温度としては最低でも2000℃以上が必要で、最終的には2600℃以上、好ましくは2800℃以上、更に好ましくは2900℃以上まで処理するとよい。最高温度が高いほど、柔軟性、熱拡散性に優れたグラファイトフィルムが得られる。
【0049】
<黒鉛化工程のフィルムセット方法>
特許文献3のように、複数枚の炭素化フィルムを、1600℃以上の温度領域で、4kg/cm2以上の圧力を加えながら炭素質フィルム同士を圧着することを特徴とするグラファイトブロックの製造方法が知られていが、前述のように本手法ではグラファイトフィルムを得ることができない。
【0050】
通常、枚葉の形状で黒鉛化する場合の原料フィルムのセット方法としては、特許文献1、2に記載のように、1枚の原料フィルムを、炭素質シート(炭素質フィルム、炭素質板を含む)で挟む。つまり、図8のように、1枚の原料フィルムと1枚の炭素質シートが交互に積層された状態で熱処理される。原料フィルムを複数枚直接積層して、その積層体を炭素質シートで挟むと、得られるグラファイトフィルムに皺またはひずみが発生しやすくなる。また、原料フィルム同士が圧着されて黒鉛化される場合もあり、炭素質シートの間に挟まれる原料フィルムの枚数は、1枚が定石であった。しかしながら、この手法では、45μm以下(特に30μm以下)の高分子フィルムを原料にした場合、発泡させることが難しく、柔軟なグラファイトフィルムを得ることができなかった。
【0051】
そこで、本発明では、黒鉛化工程における原料フィルムのセット方法として、図9のように、2枚以上の原料フィルムを直接積層することを提案した。さらに具体的には、2枚以上の原料フィルムを直接積層し、この2枚以上の原料フィルム積層体を炭素質シートで挟んで保持し、2600℃以上の温度で熱処理することで、薄型で柔軟性、熱拡散性に優れたグラファイトフィルムを得ることに成功した。2枚以上の原料フィルムを積層することで硬質化を抑制し、柔軟性を付与できたことは、予期しがたい効果であった。
【0052】
そのメカニズムについて、以下に記載する。グラファイトフィルムの原料である、炭素化した高分子フィルム(炭素化フィルム)は、非常にガス透過率の低い材料である。そのため、原料フィルムを直接2枚以上積層し、表面を密着させることで、1)発泡を引き起こすアウトガスをフィルム内に留めることができ、また、2)硬質化の一要因である外部からの金属不純物の進入も防ぐことができたため、硬質化を抑制できたものと推定している。
【0053】
また、これまでに直接積層で問題となった、皺またはひずみが発生についても、用いる原料が薄物の高分子フィルム(45μm以下)であるために、特に問題にならなかった。なお、原料フィルム積層体を挟みこむ炭素質シートは、高分子フィルムの炭素化工程の項目で列挙したグラファイトシートなどを用いることができる。
【0054】
本発明で直接積層する原料フィルムの枚数は、2枚以上、好ましくは5枚以上、さらに好ましくは10枚以上である。また、熱処理中にフィルムの厚み方向に圧力をかけながら処理することで、直接積層による皺やひずみを抑制することができる。圧力は重石などを載せて荷重をかけるなどして、熱処理中、常に一定にかけることができる。圧力を加えることで、更に積層枚数を増やすことができ、圧力荷重の存在下では、積層枚数は20枚以上、好ましくは50枚以上さらに好ましくは100枚以上である。1枚であると、硬質化してしまう。
【0055】
また、原料フィルムの直接積層方法としては、特に限定されないが、複数枚の原料フィルムの端を揃えて積層した方が好ましい。フィルム同士がずれていると、荷重が均一に加わらずに、皺やひずみの多いグラファイトフィルムが得られる。また、用いる原料フィルムの平坦性は高い方が好ましい。原料フィルムの平坦性が悪いと、フィルム同士が密着できないために、アウトガスを閉じ込める効果および金属不純物進入の抑制が不十分となる。したがって、原料フィルムに、炭素化した高分子フィルムを用いる場合は、炭素化時に皺やひずみを発生させないかがポイントである。よって、上述した、炭素化工程のセット方法など、皺やひずみの抑制を十分考慮した、炭素化工程が望まれる。
【0056】
<原料フィルムの厚み方向に加える圧力>
本発明は、原料フィルムの厚み方向に圧力を加えた状態で熱処理することが好ましい。原料フィルムの厚み方向に圧力を加えた状態で熱処理することは、柔軟性、熱拡散性に優れたグラファイトフィルムを得ることができるために好ましい。これは、フィルムの厚み方向に圧力を加えることで、皺およびひずみを抑制でき、原料フィルム同士の隙間から逃げる、発泡を引き起こすアウトガスをフィルム内に留めることができ、また、硬質化の一要因である外部からの金属不純物の進入も防ぐことができる。本発明における、原料フィルムの厚み方向への圧力は1.0g/cm2以上200g/cm2以下であることが好ましい。原料フィルムが黒鉛化する際には、原料フィルムのサイズが膨張および/または収縮する過程を経る。該圧力が1.0g/cm2未満の状態で熱処理すると、原料フィルムの黒鉛化に伴う不均一なフィルムの膨張および/または収縮が生じ、フィルム平面性が損なわれ、原料フィルムの隙間から不純物が進入し、硬質化してしまう。また、該圧力が200g/cm2より高くなると、原料フィルム同士が圧着してしまうためよくない。また、厚み方向への物理的な圧力により発泡が抑制され、硬質なフィルムが得られる場合もある。本発明により、原料フィルムの厚み方向への圧力は、好ましくは1.0g/cm2以上200/cm2以下、さらに好ましくは5.0g/cm2以上100/cm2以下、さらに好ましくは7.0g/cm2以上80/cm2以下である。
原料フィルムのフィルム厚み方向への圧力の加え方としては、フィルムを保持するために用いた冶具による自重、フィルムを保持する容器に蓋を用いた場合には該蓋から受ける圧力、また加熱によるフィルム周囲の容器の膨張、およびフィルムを保持するために用いた冶具の膨張による圧力によって達成されるが、これらに限定されるものではない。なお、前記圧力は、熱処理する原料フィルムの面積に対して算出している。
【0057】
<高分子フィルムと複屈折>
本願発明で用いることができる高分子フィルムは、分子の面内配向性に関連する複屈折Δnが、フィルム面内のどの方向に関しても0.12以上、好ましくは0.13以上、さらに好ましくは0.14以上である高分子フィルムである。
【0058】
筆者らは、複屈折が高くなるほど、高分子フィルムそのものの分子面内配向性がよいため、この高分子フィルムを炭素化した場合、炭素化後のフィルムの結晶配向度も高くなり、より緻密な構造の炭素化フィルムとなることを解明した。また、このような緻密な構造を持つ炭素化フィルムを黒鉛化すると、発泡しやすく、柔軟性を有する薄型のグラファイトフィルムの製造に、複屈折の高い高分子フィルムが適していることを発見した。これは、黒鉛化中に発生するアウトガスが緻密な構造のため抜け難く、グラファイト層を持ち上げながら抜けるためである。
【0059】
複屈折Δnが、フィルム面内のどの方向に関しても0.12以上であれば、柔軟なグラファイトフィルムが得られる。一方、0.12未満であると炭化速度を極端に遅くしないと緻密な構造を持つ炭化フィルムが得られないため、柔軟なグラファイトフィルムを得ることが難しい。
【0060】
<複屈折>
ここでいう複屈折とは、フィルム面内の任意方向の屈折率と厚み方向の屈折率との差を意味し、フィルム面内の任意方向Xの複屈折Δnxは次式(数式1)で与えられる。
【0061】
【数1】
【0062】
図10と図11において、複屈折の具体的な測定方法が図解されている。図10の平面図において、フィルム1から細いくさび形シート2が測定試料として切り出される。このくさび形シート2は一つの斜辺を有する細長い台形の形状を有しており、その一底角が直角である。このとき、その台形の底辺はX方向と平行な方向に切り出される。図11は、このようにして切り出された測定試料2を斜視図で示している。台形試料2の底辺に対応する切り出し断面に直角にナトリウム光4を照射し、台形試料2の斜辺に対応する切り出し断面側から偏光顕微鏡で観察すれば、干渉縞5が観察される。この干渉縞の数をnとすれば、フィルム面内X方向の複屈折Δnxは、次式(数式2)で表される。
【0063】
【数2】
【0064】
ここで、λはナトリウムD線の波長589nmであり、dは試料2の台形の高さに相当する試料の幅3である。
【0065】
なお、前述の「フィルム面内の任意方向X」とは、例えばフィルム形成時における材料流れの方向を基準として、X方向が面内の0゜方向、45゜方向、90゜方向、135゜方向のどの方向においても、の意味である。サンプル測定個所・測定回数は、好ましくは、下記の通りである。例えば、ロール状の原料フィルム(幅514mm、)からサンプルを切り出す際には、幅方向で10cm間隔に6カ所サンプリングして、各部位で複屈折を測定する。その平均を複屈折とする。
【0066】
<ポリイミドフィルムの作製方法>
本願発明で用いられるポリイミドフィルムは、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸の有機溶液をイミド化促進剤と混合した後、エンドレスベルトまたはステンレスドラムなどの支持体上に流延し、それを乾燥および焼成してイミド化させることにより製造され得る。
【0067】
本願発明に用いられるポリアミド酸の製造方法としては公知の方法を用いることができ、通常は、芳香族酸二無水物の少なくとも1種とジアミンの少なくとも1種が実質的に等モル量で有機溶媒中に溶解させられる。そして、得られた有機溶液は酸二無水物とジアミンの重合が完了するまで制御された温度条件下で攪拌され、これによってポリアミド酸が製造され得る。このようなポリアミド酸溶液は、通常は5〜35wt%、好ましくは10〜30wt%の濃度で得られる。この範囲の濃度である場合に、適当な分子量と溶液粘度を得ることができる。
【0068】
重合方法としてはあらゆる公知の方法を用いることができるが、例えば次のような重合方法(1)−(5)が好ましい。
【0069】
(1) 芳香族ジアミンを有機極性溶媒中に溶解し、これと実質的に等モルの芳香族テトラカルボン酸二無水物を反応させて重合する方法。
【0070】
(2) 芳香族テトラカルボン酸二無水物とこれに対して過小モル量の芳香族ジアミン化合物とを有機極性溶媒中で反応させ、両末端に酸無水物基を有するプレポリマを得る。続いて、芳香族テトラカルボン酸二無水物に対して実質的に等モルになるように芳香族ジアミン化合物を用いて重合させる方法。
【0071】
ジアミンと酸二無水物を用いて前記酸二無水物を両末端に有するプレポリマを合成し、前記プレポリマに前記とは異なるジアミンを反応させてポリアミド酸を合成する方法と同様である。
【0072】
(3) 芳香族テトラカルボン酸二無水物とこれに対し過剰モル量の芳香族ジアミン化合物とを有機極性溶媒中で反応させ、両末端にアミノ基を有するプレポリマを得る。続いて、このプレポリマに芳香族ジアミン化合物を追加添加後に、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン化合物が実質的に等モルとなるように芳香族テトラカルボン酸二無水物を用いて重合する方法。
【0073】
(4) 芳香族テトラカルボン酸二無水物を有機極性溶媒中に溶解および/または分散させた後に、その酸二無水物に対して実質的に等モルになるように芳香族ジアミン化合物を用いて重合させる方法。
【0074】
(5) 実質的に等モルの芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンの混合物を有機極性溶媒中で反応させて重合する方法。
【0075】
これらの中でも(2)、(3)に示すプレポリマを経由するシーケンシャル制御(シーケンスコントロール)(ブロックポリマー同士の組み合わせ・ブロックポリマー分子同士の繋がりの制御)をして重合する方法が好ましい。というのは、この方法を用いることで、複屈折が大きく、線膨張係数が小さいポリイミドフィルムが得られやすく、このポリイミドフィルムを熱処理することにより、結晶性が高く、密度および熱伝導性が優れたグラファイトを得やすくなるからである。また、規則正しく、制御されることで、芳香環の重なりが多くなり、低温の熱処理でもグラファイト化が進行しやすくなると推定される。また複屈折を高めるために、イミド基含有量を増やすと、樹脂中の炭素比率が減り、黒鉛処理後の炭素化収率が減るが、シーケンシャル制御をして合成されるポリイミドフィルムは、樹脂中の炭素比率を落とすことなく、複屈折を高めることが出来るために好ましい。炭素比率が高まるために、分解ガスの発生を抑えることができ、外観上優れたグラファイトフィルムが得られやすくなる。また芳香環の再配列を抑えることができ、熱伝導性に優れたグラファイトフィルムを得ることができる。
【0076】
本願発明においてポリイミドの合成に用いられ得る酸二無水物は、ピロメリット酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、オキシジフタル酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、ビスフェノールAビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、およびそれらの類似物を含み、それらを単独でまたは任意の割合の混合物で用いることができる。
【0077】
本願発明においてポリイミドの合成に用いられ得るジアミンとしては、4,4’−オキシジアニリン、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ベンジジン、3,3’−ジクロロベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(4,4’−オキシジアニリン)、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル(3,3’−オキシジアニリン)、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル(3,4’−オキシジアニリン)、1,5−ジアミノナフタレン、4,4’−ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、4,4’−ジアミノジフェニルN−メチルアミン、4,4’−ジアミノジフェニル N−フェニルアミン、1,4−ジアミノベンゼン(p−フェニレンジアミン)、1,3−ジアミノベンゼン、1,2−ジアミノベンゼンおよびそれらの類似物を含み、それらを単独でまたは任意の割合の混合物で用いることができる。
【0078】
特に、線膨張係数を小さくして弾性率を高くかつ複屈折を大きくし得るという観点から、本願発明におけるポリイミドフィルムの製造では、下記式(1)で表される酸二無水物を原料に用いることが好ましい。
【0079】
【化1】
【0080】
ここで、R1は、下記の式(2)〜式(14)に含まれる2価の有機基の群から選択されるいずれかであって、
【0081】
【化2】
【0082】
ここで、R2、R3、R4、およびR5の各々は−CH3、−Cl、−Br、−F、または−OCH3の群から選択されるいずれかであり得る。
【0083】
上述の酸二無水物を用いることによって比較的低吸水率のポリイミドフィルムが得られ、このことはグラファイト化過程において水分による発泡を防止し得るという観点からも好ましい。
【0084】
特に、酸二無水物におけるR1として式(2)〜式(14)に示されているようなベンゼン核を含む有機基を使用すれば、得られるポリイミドフィルムの分子配向性が高くなり、線膨張係数が小さく、弾性率が大きく、複屈折が高く、さらには吸水率が低くなるという観点から好ましい。
【0085】
さらに線膨張係数を小さく、弾性率を高く、複屈折を大きく、吸水率を小さくするためには、本願発明におけるポリイミドの合成に下記式(15)で表される酸二無水物を原料に用いればよい。
【0086】
【化3】
【0087】
特に、2つ以上のエステル結合でベンゼン環が直線状に結合された構造を有する酸二無水物を原料に用いて得られるポリイミドフィルムは、屈曲鎖を含むけれども全体として非常に直線的なコンフォメーションをとりやすく、比較的剛直な性質を有する。その結果、この原料を用いることによってポリイミドフィルムの線膨張係数を小さくすることができ、例えば1.5×10-5/℃以下にすることができる。また、弾性率は500kgf/mm2以上に大きくすることができ、吸水率は1.5%以下に小さくすることができる。
【0088】
さらに線膨張係数を小さく、弾性率を高く、複屈折を大きくするためには、本願発明におけるポリイミドは、p−フェニレンジアミンを原料に用いて合成されることが好ましい。
【0089】
また、本願発明においてポリイミドの合成に用いられる最も適当なジアミンは4,4’−オキシジアニリンとp−フェニレンジアミンであり、これらの単独または2者の合計モルが全ジアミンに対して40モル%以上、さらには50モル%以上、さらには70モル%以上、またさらには80モル%以上であることが好ましい。さらに、p−フェニレンジアミンが10モル%以上、さらには20モル%以上、さらには30モル%以上、またさらには40モル%以上を含むことが好ましい。これらのジアミンの含有量がこれらのモル%範囲の下限値未満になれば、得られるポリイミドフィルムの線膨張係数が大きく、弾性率が小さく、複屈折が小さくなる傾向になる。但し、ジアミンの全量をp−フェニレンジアミンにすると、発泡の少ない厚みの厚いポリイミドフィルムを得るのが難しくなるため、4,4’−オキシジアニリンを使用するのが良い。また炭素比率が減り、分解ガスの発生量を減らすことができ、芳香環の再配列の必要が減り、外観、熱伝導性に優れたグラファイトを得ることができる。
【0090】
本願発明においてポリイミドフィルムの合成に用いられる最も適当な酸二無水物はピロメリット酸二無水物および/または式(15)で表されるp−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸二無水物)であり、これらの単独または2者の合計モルが全酸二無水物に対して40モル%以上、さらには50モル%以上、さらには70モル%以上、またさらには80モル%以上であることが好ましい。これら酸二無水物の使用量が40モル%未満であれば、得られるポリイミドフィルムの線膨張係数が大きく、弾性率が小さく、複屈折が小さくなる傾向になる。
【0091】
また、ポリイミドフィルム、ポリアミド酸、ポリイミド樹脂に対して、カーボンブラック、グラファイト等の添加剤を添加しても良い。
【0092】
ポリアミド酸を合成するための好ましい溶媒は、アミド系溶媒であるN,N−ジメチルフォルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどであり、N,N−ジメチルフォルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドが特に好ましく用いられ得る。
【0093】
次に、ポリイミドの製造方法には、前駆体であるポリアミド酸を加熱でイミド転化する熱キュア法、またはポリアミド酸に無水酢酸等の酸無水物に代表される脱水剤やピコリン、キノリン、イソキノリン、ピリジン等の第3級アミン類をイミド化促進剤として用いてイミド転化するケミカルキュア法のいずれを用いてもよい。中でも、イソキノリンのように沸点の高いものほど好ましい。というのは、フィルム作製中の初期段階では蒸発せず、乾燥の最後の過程まで、触媒効果が発揮されやすいため好ましい。特に、得られるフィルムの線膨張係数が小さく、弾性率が高く、複屈折が大きくなりやすく、また比較的低温で迅速なグラファイト化が可能で、品質のよいグラファイトを得ることができるという観点からケミカルキュアの方が好ましい。特に、脱水剤とイミド化促進剤を併用することは、得られるフィルムの線膨張係数が小さく、弾性率が大きく、複屈折が大きくなり得るので好ましい。また、ケミカルキュア法は、イミド化反応がより速く進行するので加熱処理においてイミド化反応を短時間で完結させることができ、生産性に優れた工業的に有利な方法である。
【0094】
具体的なケミカルキュアによるフィルムの製造においては、まずポリアミド酸溶液に化学量論以上の脱水剤と触媒からなるイミド化促進剤を加えて、支持板、PET等の有機フィルム、ドラム、またはエンドレスベルト等の支持体上に流延または塗布して膜状にし、有機溶媒を蒸発させることによって自己支持性を有する膜を得る。次いで、この自己支持性膜をさらに加熱して乾燥させつつイミド化させてポリイミド膜を得る。この加熱の際の温度は、150℃から550℃の範囲内にあることが好ましい。加熱の際の昇温速度には特に制限はないが、連続的もしくは段階的に、徐々に加熱して最高温度がその所定温度範囲内になるようにするのが好ましい。加熱時間はフィルム厚みや最高温度によって異なるが、一般的には最高温度に達してから10秒から10分の範囲が好ましい。さらに、ポリイミドフィルムの製造工程中に、収縮を防止するためにフィルムを固定したり延伸したりする工程を含めば、得られるフィルムの線膨張係数が小さく、弾性率が高く、複屈折が大きくなりやすい傾向にあるので好ましい。
【0095】
<1000℃以上2400℃以下の雰囲気>
本願発明のポイントとして、金属不純物の原料フィルムへ作用をいかに抑えるかが重要である。前述のように、金属不純物の作用により、フィルムの発泡が阻害され、硬質なフィルムとなる。特に本発明のように、薄物の高分子フィルム(45μm以下)を原料として用いる場合は顕著である。筆者らは、これまでの検討から、この金属不純物のフィルムへの作用が、金属物質が気化する1000℃以上2400℃以下の温度領域で、起こっていることを解明した。そこで、この温度領域にて、炉内に気体として充満している金属成分を取り除くため、1000℃以上2400℃以下の温度領域の少なくとも一部を減圧にした。その結果、フィルムの発泡は劇的に増加し、柔軟なフィルムを得ることができることを発見した。減圧での処理により金属不純物の作用を抑制し、発泡できたことは予期し難い効果であった。
【0096】
本発明の熱処理において、1000℃以上2400℃以下の温度領域、好ましくは1200℃以上2300℃以下、更に好ましくは1400℃以上2200℃以下の少なくとも一部が−0.08MPa以下の減圧で処理されることが望ましい。また、最も好ましくは上記温度領域のすべての領域を−0.08MPa以下の減圧で処理するとよい。
【0097】
なお、1000℃未満の雰囲気については特に限定されない。また、2400℃より高温での減圧は、炉内の劣化に繋がるため危険である。
【0098】
<減圧の程度>
また、減圧の程度としても、−0.08MPa以下、好ましくは−0.09MPa以下、更に好ましくは、−0.099MPa以下がよい。減圧の程度についても−0.08MPaより高い圧力であると、金属不純物の作用抑制の効果が得られにくい。
【0099】
<原料フィルムのサイズ>
本発明で使用される原料フィルムのサイズは100cm2以上、好ましくは200cm2以上、更に好ましくは400cm2以上である。
【0100】
原料フィルムのサイズが大きければ、出来上がりのグラファイトフィルムも大面積となる。大面積のグラファイトフィルムを得ることが出来れば、使用用途が広がる、量産性が高くなるなどの観点から、大面積での処理が望まれている。
【0101】
しかしながら、枚葉で処理する場合、大面積の原料フィルムを処理するためには、大型の炉が必要となる。冒頭で記載したように、大型の炉では、金属不純物濃度が高くなるために、フィルムが硬質化しやすい。筆者らも、ラボ検討での小スケールの検討では、特に問題とならなかった硬質化の課題に、大型の炉を使用して初めて直面した。この課題に対して種々検討の結果、本発明のような改善策を開発することができた。
【0102】
したがって、本発明は、原料フィルムサイズが100cm2以上の場合に特に有効であると言える。
【0103】
なお黒鉛化炉としては、内容積125〜17000L(リットル)のものを用いることが好ましい。
【0104】
<後面状加圧工程>
本発明に係るグラファイトフィルムの製造方法においては、前記黒鉛化工程を経て黒鉛化した原料フィルム、つまりグラファイトフィルムを、さらに、面状に加圧する「後面状加圧工程」を含むことが好ましく、耐屈曲性、熱拡散率に優れ、表面に傷、凹みがなく、皺のない、平坦性に優れたグラファイトフィルムが得られ、特に耐屈曲性を向上させるためには重要な工程である。このような「後面状加圧工程」は室温でも行うことができる。このような「後面状加圧工程」においては、前記グラファイトフィルム以外のフィルム状媒質とともに、面状に加圧することが好ましい。
【0105】
また、前記グラファイトフィルムが複数枚積層され配置された状態で面状に加圧することが好ましく、グラファイトフィルム自体が緩衝材の役割を果たすので、表面に傷が入ることなく、平坦性に優れたグラファイトフィルムを得ることができる。
【0106】
このような「後面状加圧」は、単板プレス、真空プレス等で実施され得るが、面状に一様に加圧可能であることに加え、真空引きを行うため、グラファイトフィルムに含まれる空気層が圧縮され得る点から真空プレスが特に好ましい。
【0107】
より具体的には、グラファイトフィルムをプレス機、ホットプレス機、単板プレス機といった面状に加圧できる装置を用いて加圧する方法やプラスチック板、セラミック板、金属板にグラファイトフィルムを挟みボルトで締め付ける方法が挙げられる。これらの方法を用いることにより、面状に一様に加圧することが可能となり、グラファイト層が破損することなく圧縮され、熱拡散率の低下を引き起こさず、熱拡散率の高い、密度が高く、表面に傷がなく、皺のないグラファイトフィルムを得ることができる。また、より均一に行うため、加圧中に加熱するとよい。
【0108】
また、真空プレスする方法としては、プレス機、ホットプレス機、単板プレス機といったプレス機に真空引き機能が付与された真空プレス機を用いて加圧する方法やプラスック板、セラミック板、金属板にグラファイトフィルムを挟みボルトで締め付けた後全体を真空引きする方法や真空ラバープレスのようにグラファイトフィルムをラバーに挟み、内部を真空引きし内部が減圧されることでフィルムを均一に加圧する方法が挙げられる。これらの方法では、面状に一様に加圧可能であることに加え、真空引きを行うため、グラファイトフィルムに含まれる空気層が圧縮され、グラファイト層が破損することなく圧縮され、熱拡散率の低下を引き起こさず、より熱拡散率の高い、密度が高く、表面に傷がなく、皺のないグラファイトフィルムを得ることができる。また、真空プレスを行う場合、加圧する前に、真空引きをすることが好ましい。加圧処理をはじめに施すと、皺が入る場合があるが、減圧処理を先に施すと、グラファイトフィルム全体が均一に加圧され、皺無く、品質に優れたグラファイトフィルムを得ることができる。また、本方法においても、より均一に行うため、加圧中に加熱するとよい。グラファイトフィルムは熱拡散性に優れるため、均一に熱が伝わり、面内で均一な平滑なグラファイトフィルムが得られるため好ましい。
【0109】
面方向への均一な加圧は、圧延処理と比較して、均一に強い加圧が実施できるため、圧延処理と比較して非常に耐屈曲性の優れたグラファイトフィルムとなる。特に厚みの薄いグラファイトフィルムの場合、押しムラが発生しやすいため、強い加圧が実施できるプレス処理などの面状加圧工程がよい。
【0110】
<後面状加圧工程の圧力>
本発明の後面状加圧工程のグラファイトフィルムを面状に加圧する圧力は、2MPa以上40MPa以下、好ましくは4MPa以上20MPa以下、更に好ましく8MPa以上15MPa以下である。グラファイトフィルムを面状に加圧する圧力が2MPaより小さい場合は、圧力が小さすぎて十分に圧縮処理できず、耐屈曲性の悪いグラファイトフィルムとなる。一方、グラファイトフィルムを面状に加圧する圧力が40MPaより大きいと、圧力が大きすぎて圧縮処理時にグラファイトフィルムが破壊されてしまい、耐屈曲性、熱拡散性、外観の悪いグラファイトフィルムとなる。
【0111】
<フィルム状媒体>
前記グラファイトフィルム以外のフィルム状媒体としては、天然黒鉛から得られたグラファイトフィルムや、樹脂フィルムや、金属板、金属箔等が例示される。具体的には、天然黒鉛から得られたグラファイトフィルム、緩衝ゴム材、鉄板、テフロン(登録商標)フィルム、ポリイミドフィルム、PETフィルム等が挙げられる。電子の移動を可能にする化学構造を持った、いわゆる導電性ポリマーと、界面活性剤、電解質などの化合物や金属粉、カーボンブラックなどの導電性フィラーを練り込んだ、導電性樹脂組成物などの導電性高分子材料は、静電気除去の観点から特に適している。
【0112】
<グラファイトフィルムの耐屈曲性>
本願発明のグラファイトフィルムのMIT耐屈曲試験おける折り曲げ回数(Rが2mm、左右の折り曲げ角度90°)は、500回以上、好ましくは1000回以上、更に好ましくは10000回以上がよい。500回以上になると、耐屈曲性に優れているため屈曲部分に使用しても破壊されにくくなる。具体的には、携帯電話のヒンジや小型電子機器の折り曲げ部分で使用する場合でも、機能を落とすことなく使用することが可能となる。また、耐屈曲性に優れているため、電子機器への取り付け時などのハンドリング性も向上する。また、粘着材や保護フィルムなどの複合材と複合する場合も割れ、折れ、粉落ちなどが発生し難いためによい。一方、100回未満になると、耐屈曲性が劣るために、屈曲部分での使用中にフィルムが破壊されやすい。また取り扱い時のハンドリング性も悪くなる。また、複合材と貼り合わせるためにラミネーターを通す際など、割れや折れが発生しやすい。特に折り曲げ角度が大きい場合、折り曲げ半径が小さい場合フィルムが劣化しやすい。
【0113】
<MIT耐屈曲試験の曲げ半径、曲げ角度>
グラファイトフィルムのMIT耐屈曲試験は、東洋精機(株)製のMIT耐揉疲労試験機型式Dなどを用いて測定することができる。測定では、折り曲げ半径R、折り曲げ角度、荷重などを選択することが可能であり、Rが2mm、1mm等が選択することができる。通常、折り曲げ半径Rが小さいほど、折り曲げ角度が大きいほど、荷重が重いほど厳しい試験となる。特に、携帯電話、ゲーム機、液晶テレビ、PDP等のスペース小さい電子機器においては、小さな折り曲げ半径と大きな折り曲げ角度での折り曲げ性が優れることは、機器の省スペース設計が可能となり、非常に重要である。なお、MIT試験方法の詳細は実施例の欄に記載した。
【0114】
<グラファイトフィルムの厚み>
本願発明のグラファイトフィルムの厚みは、1μm以上21m以下、好ましくは3μm以上15μm以下、さらに好ましくは5μm以上12μm以下である。
【0115】
厚みが1μm未満のグラファイトフィルムは強度が弱いために、ハンドリング性が悪く複合シートの作製や電子機器への取り付けが困難である。また厚みが薄すぎて熱輸送能力が小さいために、放熱シートとしての使用が難しい。また、1μm未満の柔軟なグラファイトフィルムの作製は本願発明の手法ではそもそも困難である。
【0116】
また、21μmより厚いグラファイトフィルムでは厚みが厚いために、小型化された電子機器の小スペースに搭載できない場合がある(搭載するためにはグラファイトフィルムを搭載するスペースを予め設計しなければならない)。また、21μmより厚いグラファイトフィルムを作製するためには厚みの厚い原料フィルムが必要となり、単位面積あたりの原料コストの割合が大きくなるためによくない。
【0117】
グラファイトフィルムの厚みの測定方法としては、50mm×50mmのフィルムを厚みゲージ(ハイデンハイン(株)社製、HEIDENHAIN−CERTO)を用い、室温25℃の恒温室にて、任意の10点を測定し、平均して測定値とした。
【0118】
<グラファイトフィルムの面積>
本願発明のグラファイトフィルムの面積は、25cm2以上、好ましくは50cm2以上、さらに好ましくは100cm2以上であると良い。
【0119】
グラファイトフィルムを放熱シートとして使用するためには、面積が25cm2以上ある方が大面積に熱を拡散できるのでよい。また、50cm2以上、さらに好ましくは100cm2以上の大面積のシートが作製できれば、1枚のシートから30mm角程度の放熱シートとして適したサイズのグラファイトフィルムが複数枚抜き取れるために、量産性が高くなるので特によい。
【0120】
しかしながら、厚みが薄いグラファイトフィルムを大面積で作製することは非常に難しい。なぜなら、厚みが薄く大面積になるとフィルムのこしが非常に弱いため、第1工程である炭化処理でフィルムに皺が発生しやすい。第2工程の黒鉛化で、この皺が原因の割れ、厚みムラなどが発生するので均一なグラファイトフィルムの作製が難しくなる。また、炭化で均一なフィルムが処理できたとしても、黒鉛化の過程で皺や厚みムラが発生する場合もある。
【0121】
昇温速度が速い場合、フィルムは急激に収縮、膨張するため皺や割れが発生しやすい。したがって大面積のグラファイトフィルムを作製するためには、なるべく遅い昇温速度で処理する必要がある。
【0122】
<グラファイトフィルムの熱拡散率>
本願発明で使用するグラファイトフィルムの面方向の熱拡散率は、3.0×10-4m2/s以上、好ましくは5.0×10-4m2/s以上、さらに好ましくは8.0×10-4m2/s以上であると良い。3.0×10-4m2/s以上になると、グラファイトフィルムの熱伝導率が向上するため、厚みが薄くても十分な熱輸送能力を示す。
【0123】
このような熱拡散率は、グラファイト化の進行状況の指標となり、例えば、フィルム面方向の熱拡散率が高いほど、グラファイト化が顕著であることを意味している。そして、熱拡散率は、光交流法による熱拡散率測定装置(アルバック理工(株)社から入手可能な(商品名)「LaserPit」)を用いて、20℃の雰囲気下、10Hzにおいて測定できる。
【0124】
<用途など>
本願発明に係るグラファイトフィルムは、熱伝導性に優れるため、あらゆる熱に関わる用途に使用することが可能である。また、厚みが薄く柔軟性にも優れるため、この特徴を活かした用途、例えば、小型電子機器など小スペース部分での使用や、折り曲げ部分などの用途に適している。グラファイトフィルムの熱伝導に優れるという特徴は、熱を移動させる、熱を逃がす、熱を広げる、熱を均一にする、熱応答を早くする、早く暖める、早く冷ますといった効果が必要な用途には適している。熱を瞬時に広げることで急激な温度変化を防止緩和したり、局所的な熱の集中を回避したりすることが可能である。またその逆で、急激な変化を起こさせたり、わずかな熱の変化を検知したりする用途に使用することが可能である。熱が緩和されることで高温環境化においても強度、接着性を確保できる。また、均一かつ正確に熱を伝えることにより、高精度、高品位、高画質といった特性改善も可能になる。製造装置に用いた場合には、熱を早く、大量に輸送できる特長を活かし、タクトタイム短縮、加熱・冷却効率改善、乾燥効率改善、高速化、待ち時間短縮といった生産性の向上が可能になる。また、熱の均一化や素早い輸送により、不良低減、保温機能も高めることが可能となる。また、様々な機器に採用することで、省スペース化、薄膜化、軽量化、機構の単純化、設置の自由度改善を可能とし、余計な部品を無くすことで、省電力化、静音化も可能となる。また、熱を逃がすことが可能なため、ヒートサイクル環境試験やアニ−ル処理でも特性劣化なく、半田耐熱、接着層の密着性、耐熱性、信頼性、耐久性が改善でき、また断熱性を高めたり、熱に弱い部品から守ったりすることも可能となる。その結果、メンテナンスレス、コストダウンにつながり、安全性も改善することが可能となる。
【0125】
具体的な用途として、以下のものがあげられる。例えば、サーバー、サーバー用パソコン、デスクトップパソコン、ワードプロセッサ、キーボード、ゲーム等の電子機器、ノートパソコン、電子辞書、PDA、携帯電話、携帯ゲーム機器、ポータブル音楽プレイヤー等の携帯電子機器。液晶ディスプレイ、透過型液晶表示装置、反射型LCDパネル、プラズマディスプレイ、SED、LED、有機EL、無機EL、液晶プロジェクター、リアプロジェクター、液晶パネル、バックライト装置(ばらつき防止、温度ムラ改善)、TFT基板、電子放出素子、電子源基板とフェースプレート(軽量化)、表示パネルフレームとの複合、発光素子、電荷注入型発光素子、時計等の光学・表示機器及びその部品。レーザー、半導体レーザー、発光ダイオード、蛍光灯、白熱電球、発光ドット、発行素子アレー、照明ユニット、平面発光装置、原稿照明装置等の発光・照明装置。インクジェット(熱エネルギーを利用してインクを途出する)用の単体もしくは複数からなる記録ヘッド(ヒーター、断熱材、蓄熱層等)、ラインヘッド、長尺インクヘッド、固体インクジェット装置、インクジェットヘッド用放熱板、インクカートリッジ、インクジェットヘッド用シリコン基板、インクジェット駆動ドライバ、インクジェット記録紙を加熱するための加熱源(ハロゲンランプヒータ)等のインクジェットプリンタ(インクヘッド)装置及びその部品。トナーカートリッジ、レーザー光源を有する装置、走査光学装置(光線出射ユニット、偏向走査ポリゴンミラー、ポリゴンミラー回転駆動モーター、感光体ドラムへ導く光学部品)、露光装置、現像装置(感光ドラム、光受容部材、現像ローラ、現像スリーブ、クリーニング装置)、転写装置(転写ロール、転写ベルト、中間転写ベルト等)、定着装置(定着ロール(芯、外周部材、ハロゲンヒーター等)、サーフヒーター、電磁誘導加熱ヒーター、セラミックヒーター、定着フィルム、フィルム加熱装置、加熱ローラ、加圧ローラ・加熱体、加圧部材、ベルトニップ)、シート冷却装置、シート載置装置、シート排出装置、シート処理装置等からなる電子写真装置・画像形成装置及びその部品。定着装置ではグラファイトフィルムの使用による熱特性の改善効果は顕著であり、幅方向の画質ムラ、画質欠陥、連続通紙における画質バラツキ、立ち上がり・下がり時間、リアルタイム対応、温度の高追従性、通紙部と非通紙部の温度差、皺、強度、省電力、オンデマンド加熱、高温オフセット及び低温オフセット、ヒーター周辺部材の過昇温、ヒーター割れが大幅に改善できる。熱転写式記録装置(リボン)、ドットプリンタ、昇華プリンタ等のその他記録装置。半導体素子、半導体パッケージ、半導体封止ケース、半導体ダイボンディング、液晶表示素子駆動用半導体チップ、CPU、MPU、メモリ、パワートランジスタ、パワートランジスタケース等の半導体関連部品。プリント基板、リジッド配線板、フレキシブル配線板、セラミック配線板、ビルドアップ配線板、実装基板、高密度実装プリント基板、(テープキャリアパッケージ)、TAB、ヒンジ機構、摺動機構、スルーホール、樹脂パッケージング、封止材、多層樹脂成形体、多層基板等の配線基板。CD、DVD(光ピックアップ、レーザー発生装置、レーザー受光装置)、ブルーレイディスク、DRAM、フラッシュメモリ、ハードディスクドライブ、光記録再生装置、磁気記録再生装置、光磁気記録再生装置、情報記録媒体、光記録ディスク、光磁気記録媒体(透光性基板、光干渉層、磁壁移動層、中間層、記録層、保護フィルム層、放熱層、情報トラック)、受光素子、光検出素子、光ピックアップ装置、磁気ヘッド、光磁気記録用磁気ヘッド、半導体レーザチップ、レーザダイオード、レーザー駆動IC等の記録装置、記録再生装置及びその部品。デジタルカメラ、アナログカメラ、デジタル一眼レフカメラ、アナログ一眼レフカメラ、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、カメラ一体型VTR用、カメラ一体型VTR用IC、ビデオカメラ用ライト、電子閃光装置、撮像装置、撮像管冷却装置、撮像装置、撮像素子、CCD素子、レンズ鏡筒、イメージセンサ及びそれを用いた情報処理装置、X線吸収体パターン、X線マスク構造体、X線撮影装置、X線露光装置、X線平面検出器、X線デジタル撮影装置、X線エリアセンサー基板、電子顕微鏡用試料冷却ホルダ、電子ビーム描画装置(電子銃、電子銃、電子ビーム描画装置)、放射線検出装置及び放射線撮像システム、スキャナー、画像読取装置、動画用撮像素子と静止画用撮像素子、顕微鏡等の画像記録装置及びその部品。アルカリ電池、マンガン電池等の一次電池、リチウムイオン電池、ニッケル水素、鉛蓄電池等の二次電池、電気二重層キャパシタ、電解コンデンサ、組電池、太陽電池、太陽電池モジュール設置構造体、光電変換基板、光起電力素子アレー、発電素子、燃料電池(発電セル、筐体外部、燃料タンク内部)等のバッテリー機器等の放熱材料。電源(整流ダイオード、トランス)、DC/DCコンバータ、スイッチング電源装置(フォワード型)、電流リ−ド、超電導装置システム等の電源及びその部品。モーター、リニアモーター、平面モーター、振動波モーター、モーターコイル、回転制御駆動用の回路ユニット、モータドライバ、インナーロータモーター、振動波アクチュエーター等のモーター及びその部品。真空処理装置、半導体製造装置、蒸着装置、薄膜単結晶半導体層製造装置、プラズマCVD、マイクロ波プラズマCVD、スパッタリング装置、減圧チャンバー、真空ポンプ、クライオトラップ・クライオポンプ等の真空排気装置、静電チャック、真空バキュームチャック、ピンチャック型ウエハチャック、スパッタリング用ターゲット、半導体露光装置、レンズ保持装置及び投影露光装置、フォトマスク、等の堆積膜製造装置(温度一定、品質安定)及びその部品。抵抗加熱・誘導加熱・赤外線加熱による熱処理装置、乾燥機、アニール装置、ラミネート装置、リフロー装置、加熱接着(圧着)装置、射出成型装置(ノズル・加熱部)、樹脂成形金型、LIM成型、ローラ成型装置改質ガス製造(改質部、触媒部、加熱部等)スタンパ、(フィルム状、ロール状、記録媒体用)、ボンディングツール、触媒反応器、チラー、カラーフィルタ基板の着色装置、レジストの加熱冷却装置、溶接機器、磁気誘導加熱用フィルム、結露防止ガラス、液体残量検知装置、熱交換装置等の種々製造装置及びその部品。断熱材、真空断熱材、輻射断熱材等の断熱装置。各種電子・電気機器、製造装置のシャーシ、筐体、外装カバー。放熱器、開口部、ヒートパイプ、ヒートシンク、フィン、ファン、放熱用コネクタ等の放熱部品。ペルチェ素子、電気熱変換素子、水冷部品等の冷却部品。温度調節装置、温度制御装置、温度検出装置及び部品。サーミスタ、サーモスイッチ、サーモスタット、温度ヒューズ、過電圧防止素子、サーモプロテクタ、セラミックヒーター、フレキシブルヒーター、ヒーターと熱伝導板と断熱材の複合品、ヒーターコネクタ・電極端子部品等の発熱体関連部品。高放射率を有する放射部品、電磁波遮蔽、電磁波吸収体等の電磁シールド部品、アルミ、銅、シリコン等の金属との複合品、窒化ケイ素、窒化ホウ素、アルミナ等のセラミックとの複合品として好適である。
【実施例】
【0126】
以下に実施例により発明の実施態様、効果を示すが、本願発明はこれに限られるものではない。
【0127】
<ポリイミドフィルムA、B、C>
[ポリイミドフィルムAの作製方法]
4,4’−オキシジアニリンの3当量を溶解したDMF溶液にピロメリット酸二無水物の4当量を溶解して、両末端に酸無水物を有するプレポリマを合成した後、そのプレポリマを含む溶液にp−フェニレンジアミンの1当量を溶解して得られたポリアミド酸を18.5wt%含む溶液を得た。
【0128】
この溶液を冷却しながら、ポリアミド酸に含まれるカルボン酸基に対して、1当量の無水酢酸、1当量のイソキノリン、およびDMFを含むイミド化触媒を添加し脱泡した。次にこの混合溶液が、乾燥後に所定の厚さになるようにアルミ箔上に塗布した。アルミ箔上の混合溶液層は、熱風オーブン、遠赤外線ヒーターを用いて乾燥した。
【0129】
出来上がり厚みが75μmの場合の乾燥条件を示す。アルミ箔上の混合溶液層は、熱風オーブンで120℃において240秒乾燥して、自己支持性を有するゲルフィルムにした。そのゲルフィルムをアルミ箔から引き剥がし、フレームに固定した。さらに、ゲルフィルムを、熱風オーブンにて120℃で30秒、275℃で40秒、400℃で43秒、450℃で50秒、および遠赤外線ヒータ−にて460℃で23秒と段階的に加熱して乾燥した。その他の厚みに対しては、厚みに比例して焼成時間が調整した。例えば厚さ25μmのフィルムの場合には、75μmの場合よりも焼成時間を1/3に短く設定した。
【0130】
以上のようにして、厚さ12.5μm、25μm、45μmの3種類のポリイミドフィルムA(弾性率4.4GPa、吸水率2.2%、複屈折0.14、線膨張係数21.8×10-6/℃)を作製した。
【0131】
[ポリイミドフィルムBの作製方法]
4,4’−オキシジアニリンの3当量、p−フェニレンジアミンの1当量を溶解したDMF(ジメチルフォルムアミド)溶液に、ピロメリット酸二無水物の4当量を溶解して得られたポリアミド酸を用いた以外はポリイミドフィルムAと同様にして厚さ25μmのポリイミドフィルムC(弾性率3.9GPa、吸水率3.0%、複屈折0.12、線膨張係数23.7×10-6/℃)を作製した。
【0132】
[ポリイミドフィルムC]
ポリイミドフィルムDは、東レ・デュポン(株)から入手できる厚み25μmの「KAPTON H」である。(弾性率3.4GPa、吸水率3.0%、複屈折0.10、27.9×10-6/℃)
文献によるとKAPTON Hは、4,4’−オキシジアニリンの1当量を溶解したDMF(ジメチルフォルムアミド)溶液に、ピロメリット酸二無水物の1当量を溶解して得られたポリアミド酸を用いて製造されていると推定される。
【0133】
以下得られたポリイミドフィルムの作製方法と各種物性を表1にまとめた。
【0134】
【表1】
【0135】
(実施例1)
サイズ200mm×200mm、厚み25μmのポリイミドフィルムAを、サイズ220mm×220mmのグラファイトシートで挟み、電気炉を用いて窒素雰囲気下で、2℃/minの昇温速度で1000℃まで昇温した後、1000℃で1時間熱処理して炭素化した。
【0136】
得られたサイズ160mm×160mmの炭素化フィルムを、直接2枚端を揃えて積層し、この積層体をサイズ220mm×220mmのグラファイトシートで挟み、厚み方向の圧力が20g/cm2となるように、サイズ220mm×220mm、重量5.12Kgの黒鉛板を上に置いた。黒鉛化炉を用いて、室温から2200℃以下は、−0.0999Mpa以下の減圧下(実際にはピラニー真空計にて、100Pa以下)、2200℃より高い温度領域はアルゴン雰囲気下で、黒鉛化昇温速度2.5℃/minで2900℃(黒鉛化最高温度)まで昇温した後、2900℃で30分保持してグラファイトフィルムを作製した。ここで用いた黒鉛化炉の内容積は1800Lであった。
得られた180mm×180mmのフィルム1枚を、サイズ200mm×200mm×厚み400μmの高分子フィルムで挟み、圧縮成型機を用いて後面状加圧工程を実施した。加えた圧力は10MPaとした。
(実施例2)
炭素化フィルムを、直接5枚端を揃えて積層したこと以外は、実施例1と同様にしてグラファイトフィルムを作製した。
(実施例3)
炭素化フィルムを、直接10枚端を揃えて積層したこと以外は、実施例1と同様にしてグラファイトフィルムを作製した。
(実施例4)
炭素化フィルムを、直接30枚端を揃えて積層したこと以外は、実施例1と同様にしてグラファイトフィルムを作製した。
(実施例5)
炭素化フィルムを、直接100枚端を揃えて積層したこと以外は、実施例1と同様にしてグラファイトフィルムを作製した。
(実施例6)
炭素化フィルムを、直接500枚端を揃えて積層したこと以外は、実施例1と同様にしてグラファイトフィルムを作製した。
(実施例7)
厚み45μmのポリイミドフィルムAを原料として用いたこと以外は、実施例4と同様にしてグラファイトフィルムを作製した。
(実施例8)
厚み12.5μmのポリイミドフィルムAを原料として用いたこと以外は、実施例4と同様にしてグラファイトフィルムを作製した。
(実施例9)
厚み25μmのポリイミドフィルムBを原料として用いたこと以外は、実施例4と同様にしてグラファイトフィルムを作製した。
(実施例10)
厚み25μmのポリイミドフィルムCを原料として用いたこと以外は、実施例4と同様にしてグラファイトフィルムを作製した。
(実施例11)
黒鉛化炉を用いて、室温から1600℃以下は、−0.0999Mpa以下の減圧下(実際にはピラニー真空計にて、100Pa以下)、1600℃より高い温度領域はアルゴン雰囲気下で黒鉛化したこと以外は、実施例4と同様にしてグラファイトフィルムを作製した。
(実施例12)
黒鉛化炉を用いて、室温から2900℃までアルゴン雰囲気下(大気圧程度)で黒鉛化したこと以外は、実施例4と同様にしてグラファイトフィルムを作製した。
(実施例13)
厚み25μmのポリイミドフィルムAを、端を揃えて直接30枚積層し、炭素化したこと以外は、実施例4と同様にしてグラファイトフィルムを作製した。
(実施例14)
予備加熱(炭素化)を実施せず、高分子フィルムを黒鉛化炉にて処理した。具体的には、サイズ200mm×200mm、厚み25μmのポリイミドフィルムAを、端を揃えて直接30枚積層し、この積層体をサイズ220mm×220mmのグラファイトシートで挟み、厚み方向の圧力が20g/cm2となるように、サイズ220mm×220mm、重量5.12Kgの黒鉛板を上に置いた。黒鉛化炉を用いて、室温から2200℃以下は、−0.0999Mpa以下の減圧下(実際にはピラニー真空計にて、100Pa以下)、2200℃より高い温度領域はアルゴン雰囲気下で、黒鉛化昇温速度2.5℃/minで2900℃まで昇温した後、2900℃で30分保持してグラファイトフィルムを作製した。
【0137】
得られたフィルムを10MPaの圧力で後面上加圧処理を施した。
(実施例15)
後面上加圧処理を施していないこと以外は、実施例4と同様にしてグラファイトフィルムを作製した。
(実施例16)
黒鉛化最高温度が2700℃であること以外は、実施例4と同様にしてグラファイトフィルムを作製した。
(実施例17)
厚み方向の圧力が1000g/cm2となるように、重量256Kgの黒鉛板を上に置いたこと以外は、実施例4と同様にしてグラファイトフィルムを作製した。
(比較例1)
ポリイミドフィルムAを原料として得られた炭素化フィルム1枚を、サイズ220mm×220mmのグラファイトシートで挟み黒鉛化したこと以外は、実施例1と同様にしてグラファイトフィルムを作製した。
(比較例2)
ポリイミドフィルムBを原料として得られた炭素化フィルム1枚を、サイズ220mm×220mmのグラファイトシートで挟み黒鉛化したこと以外は、実施例1と同様にしてグラファイトフィルムを作製した。
(比較例3)
ポリイミドフィルムCを原料として得られた炭素化フィルム1枚を、サイズ220mm×220mmのグラファイトシートで挟み黒鉛化したこと以外は、実施例1と同様にしてグラファイトフィルムを作製した。
(比較例4)
黒鉛化最高温度を2400℃と変更したこと以外は、実施例4と同様にしてグラファイトフィルムを作製した。
【0138】
<グラファイトフィルムの厚み測定>
グラファイトフィルムの厚みの測定方法としては、得られたグラファイトフィルムを厚みゲージ(ハイデンハイン(株)社製、HEIDENHAIN−CERTO)を用い、室温25℃の恒温室にて、任意の10点を測定し、平均して測定値とした。
【0139】
<グラファイトフィルムの耐屈曲特性評価 MIT試験>
グラファイトフィルムのMIT耐屈曲試験を行った。グラファイトフィルムを15×100mmにカットし、東洋精機(株)製のMIT耐揉疲労試験機型式Dを用いて、試験荷重100gf(0.98N)、速度90回/分、折り曲げクランプの曲率半径Rは2mmでおこなった。折り曲げ角度は左右へ90°について測定した。
【0140】
<グラファイトフィルムのシワの最大長さ>
図12のような、黒鉛化処理後に発生するグラファイトフィルムのシワの最大長さを測定した。目視にて観察可能なシワの最大長さが、0〜5mmは◎、5〜10mmは○、10〜20mmは△、20mm以上は×と記載した。
【0141】
<グラファイトフィルムの圧着の程度>
直接積層し黒鉛化したグラファイトフィルム同士の圧着の程度を測定した。破れることなく剥がせる場合を◎、破れの最大長さが0〜10mmで剥がせるものを○、破れの最大長さが10〜20mmで剥がせるものを△、剥がせないものを×と記載した。
【0142】
<光交流法によるフィルム面方向の熱拡散率測定>
グラファイトフィルムの熱拡散率は、光交流法による熱拡散率測定装置(アルバック理工(株)社から入手可能な「LaserPit」)を用いて、グラファイトフィルムを4×40mmのサンプル形状に切り取り、20℃の雰囲気下、10Hzにおいて測定した。グラファイト化の進行状況を、フィルム面方向の熱拡散率を測定することによって判定した。熱拡散率が高いほど、グラファイト化が顕著であることを意味している。
【0143】
以下実施例、比較例のグラファイトフィルムの製造条件、各種物性などを表2、表3にまとめた。
【0144】
【表2】
【0145】
【表3】
【0146】
<黒鉛化工程のフィルムセット方法>
実施例1〜6、比較例1を比較すると、積層枚数が1枚の場合は図5のような硬質なグラファイトフィルムが得られたのに対し、2枚以上の積層することで、図3のような柔軟なグラファイトフィルムが得られた。MIT試験においても、比較例1では、100回未満であるのに対し、実施例1〜6では、1000回以上と、本発明により柔軟性を付与できたことがわかる。また、積層枚数を増やすと得られるグラファイトフィルムの柔軟性は大きくなり、10枚以上の積層では、MIT試験100000回以上と非常に優れた柔軟性を示すことがわかった。
【0147】
<高分子フィルムの厚み>
原料として使用する高分子フィルムの厚みについて、実施例4、7、8を比較すると、高分子フィルムの厚みが薄いほど、厚みの薄いグラファイトフィルムが得られる。
【0148】
<複屈折>
原料として使用する高分子フィルムの複屈折について、実施例4、9、10を比較すると、複屈折が高い方が、柔軟なグラファイトフィルムが得られた。特に複屈折が0.14のポリイミドAを原料として用いると、MIT試験が100000回以上と非常に柔軟性に優れたグラファイトフィルムが作製できた。一方、複屈折0.10の原料フィルムを同様の方法で黒鉛化してもMIT試験が500回以上と柔軟性は劣化した。
【0149】
また、比較例1〜3を比較すると積層する原料フィルムが1枚であった場合でも、複屈折が高いほうが、得られるグラファイトフィルムの柔軟性は優れていた。
【0150】
<1000℃以上2400℃以下の雰囲気>
黒鉛化処理における1000℃以上2400℃以下の雰囲気について、実施例4、11、12を比較すると、1000〜2400℃の領域のできるだけ広い温度領域を減圧で処理するほど、柔軟なグラファイトフィルムが得られることがわかった。
【0151】
<炭素化工程の有無とセット方法について>
炭素化工程の有無とセット方法について、実施例4、13、14を比較する。実施例14のように炭素化工程を省略すると、柔軟性が劣化することもさることながら、シワが発生し収率が低下した。また、実施例13のように、炭素化を直接積層で実施した場合も、柔軟性の劣化し、シワが発生した。以上のことから、柔軟性、収率を高めるためには、実施例4のように、高分子フィルムをグラファイトシートと交互に積層した状態で炭素化し、シワのない炭素化フィルムを得た後で、改めて黒鉛化処理のために直接積層し直して、黒鉛化を実施するほうがよいことがわかった。
【0152】
<後面状加圧工程の有無>
後面状加圧工程の有無について、実施例4、15を比較すると、後面状加圧工程を施した方が優れた柔軟性を示すことがわかった。
【0153】
<黒鉛化最高温度>
実施例4、16、比較例4を比較すると、最高温度が高いほど、優れた柔軟性を示すことがわかった。
【0154】
<黒鉛化時に原料フィルムの厚み方向に加える圧力>
実施例4、17を比較すると、黒鉛化時に原料フィルムの厚み方向に加える圧力が高すぎると、フィルム同士が圧着してグラファイトフィルムが得られにくいことがわかった。また、圧力が大きいと、発泡しにくく柔軟なグラファイトフィルムが得られにくいことがわかった。
【符号の説明】
【0155】
11 グラファイトフィルム
21 グラファイト層の空間
31 柔軟
41 硬質化したグラファイトフィルム
51 割れ
61 密に詰まった層間
62 金属不純物の作用により、面方向の発達を阻害するように発達した炭素質塊
71 グラファイト層
72 アウトガス
73 面方向へ発達できなかった小さなグラファイト結晶子の隙間
81 炭素質シート
82 原料フィルム
1 ポリイミドフィルム
2 くさび形シート
3 くさび形シートの幅
4 ナトリウム光
5 干渉縞
121 シワ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚みが5μm以上45μm以下の高分子フィルム、または厚みが5μm以上45μm以下の炭素化した該高分子フィルムからなる原料フィルムを2枚以上直接積層して、2600℃以上の温度で熱処理する工程を含むことを特徴とするグラファイトフィルムの製造方法。
【請求項2】
1000℃以上2400℃以下の温度領域の少なくとも一部において、−0.08MPa以下の減圧で熱処理されることを特徴とする請求項1に記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記高分子フィルムの複屈折が0.12以上であることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記高分子フィルムがポリイミドフィルムであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記直接積層した原料フィルムの厚み方向に圧力を加え、該圧力が1.0g/cm2以上200g/cm2以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記原料フィルムの面積が100cm2以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【請求項7】
前記炭素化において、前記2枚以上直接積層した高分子フィルムと熱伝導性シートを交互に積層して炭素化することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法で製造されたグラファイトフィルムを面状に圧力4MPa以上20MPa以下で加圧する後面状加圧工程を施すことを特徴とするグラファイトフィルムの製造方法。
【請求項9】
内容積125〜17000Lである黒鉛化炉中でおこなうことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の製造方法で製造されたことを特徴とするグラファイトフィルム。
【請求項1】
厚みが5μm以上45μm以下の高分子フィルム、または厚みが5μm以上45μm以下の炭素化した該高分子フィルムからなる原料フィルムを2枚以上直接積層して、2600℃以上の温度で熱処理する工程を含むことを特徴とするグラファイトフィルムの製造方法。
【請求項2】
1000℃以上2400℃以下の温度領域の少なくとも一部において、−0.08MPa以下の減圧で熱処理されることを特徴とする請求項1に記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記高分子フィルムの複屈折が0.12以上であることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記高分子フィルムがポリイミドフィルムであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記直接積層した原料フィルムの厚み方向に圧力を加え、該圧力が1.0g/cm2以上200g/cm2以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記原料フィルムの面積が100cm2以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【請求項7】
前記炭素化において、前記2枚以上直接積層した高分子フィルムと熱伝導性シートを交互に積層して炭素化することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法で製造されたグラファイトフィルムを面状に圧力4MPa以上20MPa以下で加圧する後面状加圧工程を施すことを特徴とするグラファイトフィルムの製造方法。
【請求項9】
内容積125〜17000Lである黒鉛化炉中でおこなうことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の製造方法で製造されたことを特徴とするグラファイトフィルム。
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図12】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図12】
【公開番号】特開2010−195609(P2010−195609A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−39558(P2009−39558)
【出願日】平成21年2月23日(2009.2.23)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月23日(2009.2.23)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】
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