説明

グラファイトフィルムの製造方法

【課題】厚み5μm以上45μm以下の高分子フィルムを用いて、有効加熱体積が2L以上の加熱炉を使用した場合でも柔軟性を有するグラファイトフィルムを提供する。
【解決手段】複屈折が0.12以上、厚み5μm以上45μm以下の高分子フィルム、または原料炭化フィルムを、1600℃以上2000℃以下の温度領域の少なくとも一部を5000Pa以下の減圧状態で熱処理する工程と、2600℃以上の温度で熱処理する工程を含み、熱処理を行うための加熱炉は2L以上の有効加熱体積を有するグラファイトフィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔軟性を有するグラファイトフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラファイトフィルムは、コンピュータなどの各種電子・電気機器に搭載されている半導体素子や他の発熱部品などに放熱部品として用いられる。
例えば、厚さ75μmの高分子フィルムを窒素ガス中で1000℃まで昇温し、得られた炭素化フィルムをアルゴン雰囲気で3000℃まで加熱し、さらに得られたグラファイト化フィルムに圧延処理を施すことにより、機械的強度に優れ、図1のように柔軟性を有するグラファイトフィルムが得られることが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平3−75211号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
柔軟性を有するグラファイトフィルムは、図2のように層間にわずかな空間が存在するために、折り曲げ時にかかる歪を逃がすことができる。グラファイトフィルムに柔軟性を付与する方法として、熱処理中(黒鉛化工程)に内部から発生するグラファイト層を形成しない成分からなるアウトガスによってフィルムを発泡させる方法が知られている。
しかし、ある特定の条件では、驚くべきことに柔軟性のあるグラファイトフィルムが得られないことがわかってきた。本発明は、この課題を解決するためのものである。具体的には、50μm以上の高分子フィルムを用いたグラファイトフィルムの製造方法では柔軟性があるグラファイトフィルムを得られる条件でも、45μm以下の高分子フィルムを用いて有効加熱体積2L以上の加熱炉を使用した場合には、柔軟性を有するグラファイトフィルムが得られないという課題を見つけた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち本発明は、原料炭化フィルム、又は複屈折が0.12以上で厚み5μm以上45μm以下の高分子フィルムを、1600℃以上2000℃以下の温度領域の少なくとも一部を5000Pa以下の減圧状態で熱処理する工程と、2600℃以上の温度で熱処理する工程を含み、熱処理を行うための加熱炉は2L以上の有効加熱体積を有する、ことを特徴とするグラファイトフィルムの製造方法に関する(請求項1)、
前記原料フィルムを2層以上積層した状態で熱処理することを特徴とする請求項1に記載のグラファイトフィルムの製造方法に関する(請求項2)、
前記高分子フィルムがポリイミドフィルムであって、酸無水物は、PMDA、BPDAのいずれかを含み、ジアミンは、ODA、PDAのいずれかを含むことを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法に関する(請求項3)、
前記ポリイミドフィルムが、酸二無水物を基準にPMDAが、50〜100モル%、BPDAが、0〜50モル% 、ジアミンを基準にODAが30〜95モル%、PDAが5〜70モル%含むことを特徴とする請求項3のグラファイトフィルムの製造方法に関する(請求項4)、
前記ポリイミドフィルムが、酸二無水物を基準にBPDAが、20〜50モル%含むことを特徴とする請求項3〜4のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法に関する(請求項5)、
前記ポリイミドフィルムが、ジアミンを基準に、ODAが、70〜95モル%含むことを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法に関する(請求項6)、
ものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の製造方法によれば、2L以上の有効加熱体積を有する加熱炉において、柔軟性を有するグラファイトフィルムを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】柔軟性を付与できたグラファイトフィルムの折り曲げ。
【図2】発泡させたグラファイトフィルムの断面SEM写真。
【図3】1層の原料フィルムと炭素質シートを交互に積層。
【図4】複数層の原料フィルムと炭素質シートを交互に積層。
【図5】ロール状での黒鉛化工程。
【図6】有効加熱体積の説明。
【図7】グラファイトフィルムの物性測定のサンプル採取場所。
【図8】複屈折測定のサンプルの角度。
【図9】グラファイトフィルムに発生するシワ。
【図10】本発明の炭化処理に使用した冶具。
【図11】ロール状で黒鉛化工程を行うための容器。
【図12】硬質化したグラファイトフィルムの折り曲げ。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、原料炭化フィルム、又は複屈折が0.12以上で厚み5μm以上45μm以下の高分子フィルムを、1600℃以上2000℃以下の温度領域の少なくとも一部を5000Pa以下の減圧状態で熱処理する工程と、2600℃以上の温度で熱処理する工程を含み、熱処理を行うための加熱炉は2L以上の有効加熱体積を有する、ことを特徴とするグラファイトフィルムの製造方法である。この要件を満たすことによって、厚みが5μm以上45μm以下という本発明の課題が発現する条件であっても、柔軟性を有するグラファイトフィルムを作製することができる。
【0009】
<高分子フィルム>
本発明で用いることができる高分子フィルムは特に限定されないが、例えばポリイミド(PI)、ポリアミド(PA)、ポリオキサジアゾール(POD)、ポリベンゾオキサゾール(PBO)、ポリベンゾビスオキサザール(PBBO)、ポリチアゾール(PT)、ポリベンゾチアゾール(PBT)、ポリベンゾビスチアゾール(PBBT)、ポリパラフェニレンビニレン(PPV)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、ポリベンゾビスイミダゾール(PBBI)などを挙げることができる。熱伝導性、柔軟性を有する良質のグラファイトフィルムを得るための原料としては、好ましくはイミド系高分子フィルム、特に好ましくはポリイミドフィルムを用いるとよい。
【0010】
<高分子フィルムの厚み>
本発明で用いることができる高分子フィルムの厚みは、5μm以上45μm以下、好ましくは7μm以上40μm以下、さらに好ましくは10μm以上30μm以下である。
原料である高分子フィルムの厚みが5μm以上であれば、強度が十分であるために割れずに柔軟性を有するグラファイトフィルムを製造できる。有効加熱体積が2L以上の加熱炉を用いたグラファイトフィルムの製造においては、高分子フィルムの厚みが45μm以下であれば柔軟性に課題を有するのであるが、本願の構成を満たすことによって、有効加熱体積が2L以上の加熱炉を用いても柔軟性を有するグラファイトフィルムを得ることができる。
【0011】
<原料炭化フィルム>
原料炭化フィルムは、出発物質である複屈折0.12以上、厚み5μm以上45μm以下の高分子フィルムを減圧下もしくは窒素ガス中で予備加熱処理して炭化工程をおこなったものである。この予備加熱は室温〜1600℃の温度でおこなわれる。炭化の熱処理最高温度は、最低でも800℃以上が必要で、好ましくは900℃以上、より好ましくは1000℃以上でおこなう。
【0012】
<原料フィルム>
本発明の原料フィルムは、高分子フィルムまたは原料炭化フィルムである。
【0013】
<黒鉛化工程>
黒鉛化工程は、高分子フィルムの状態から連続しておこなってもかまわないし、原料炭化フィルムの状態で一度取り出してから、再度黒鉛化工程のみをおこなってもかまわない。黒鉛化工程は、減圧下もしくは不活性ガス中でおこなわれるが、不活性ガスとしてはアルゴン、ヘリウムが適当である。熱処理最高温度としては2600℃以上、好ましくは2800℃以上、更に好ましくは2900℃以上である。熱処理最高温度が2600℃以上であれば、柔軟性を有するグラファイトフィルムが得られる。
【0014】
<高分子フィルムと複屈折>
複屈折が大きい高分子フィルムはフィルム面内の分子配向性がよいため、炭化すると面方向に分子配向がよく緻密な構造の原料炭化フィルムを作製できる。緻密な構造を持つ原料炭化フィルムは、黒鉛化工程中に発生するアウトガスがグラファイト結晶子を持ち上げながら抜けていくために、フィルムが発泡しやすい。
したがって、本発明で用いる高分子フィルムは、複屈折がフィルム面内のどの方向に関しても0.12以上、好ましくは0.13以上、さらに好ましくは0.14以上である。複屈折がフィルム面内のどの方向に関しても0.12以上であれば黒鉛化工程中にフィルムが発泡しやすいため、より柔軟なグラファイトフィルムが得られる。
【0015】
<複屈折>
本発明において、複屈折とはフィルム面内の任意方向の屈折率と厚み方向の屈折率との差を意味する。複屈折の測定方法は実施例の項に記載する。
【0016】
<ポリイミドフィルム>
本発明で用いるポリイミドフィルムは特に限定されない。ポリイミドフィルムは、原料モノマーを種々選択することによって様々な構造や特性を有するものを得ることができる。
【0017】
<ポリイミドフィルムの作製方法>
本発明に用いられるポリアミド酸の製造方法としては特に制限されないが、例えば、芳香族酸二無水物とジアミンを実質的に等モル量で有機溶媒中に溶解し、この有機溶液を酸二無水物とジアミンとの重合が完了するまで制御された温度条件下で攪拌することによってポリアミド酸が製造され得る。
重合方法としては特に制限されないが、例えば次のような重合方法(1)−(5)が好ましい。
【0018】
(1) 芳香族ジアミンを有機極性溶媒中に溶解し、これと実質的に等モルの芳香族テトラカルボン酸二無水物を反応させて重合する方法。
【0019】
(2) 芳香族テトラカルボン酸二無水物とこれに対して過小モル量の芳香族ジアミン化合物とを有機極性溶媒中で反応させ、両末端に酸無水物基を有するプレポリマを得る。続いて、芳香族テトラカルボン酸二無水物に対して実質的に等モルになるように芳香族ジアミン化合物を用いて重合させる方法。
【0020】
ジアミンと酸二無水物を用いて前記酸二無水物を両末端に有するプレポリマを合成し、前記プレポリマに前記とは異なるジアミンを反応させてポリアミド酸を合成する方法と同様である。
【0021】
(3) 芳香族テトラカルボン酸二無水物とこれに対し過剰モル量の芳香族ジアミン化合物とを有機極性溶媒中で反応させ、両末端にアミノ基を有するプレポリマを得る。続いて、このプレポリマに芳香族ジアミン化合物を追加添加後に、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン化合物が実質的に等モルとなるように芳香族テトラカルボン酸二無水物を用いて重合する方法。
【0022】
(4) 芳香族テトラカルボン酸二無水物を有機極性溶媒中に溶解および/または分散させた後に、その酸二無水物に対して実質的に等モルになるように芳香族ジアミン化合物を用いて重合させる方法。
【0023】
(5) 実質的に等モルの芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンの混合物を有機極性溶媒中で反応させて重合する方法。
【0024】
これらの中でも(2)、(3)に示すプレポリマを経由するシーケンシャル制御(シーケンスコントロール)(ブロックポリマー同士の組み合わせ・ブロックポリマー分子同士の繋がりの制御)をして重合する方法が好ましい。この方法を用いることで、複屈折が大きく、線膨張係数が小さいポリイミドフィルムが得られやすく、このポリイミドフィルムを熱処理することにより、柔軟性に優れるだけでなく、熱伝導性にも優れたグラファイトを得やすくなるからである。
【0025】
<ポリイミドフィルムの原料である酸二無水物>
本発明においてポリイミドの合成に用いられ得る酸二無水物は、例えばピロメリット酸二無水物(以下、PMDAと記載)、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下、BPDAと記載)、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、オキシジフタル酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、ビスフェノールAビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、およびそれらの類似物を挙げることができる。これらを単独でまたは任意の割合の混合物で用いることができる。
【0026】
<ポリイミドフィルムの原料であるジアミン>
本発明においてポリイミドの合成に用いられ得るジアミンとしては、例えば4,4’−オキシジアニリン、p−フェニレンジアミン(以下、PDAと記載)、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ベンジジン、3,3’−ジクロロベンジジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(以下、ODAと記載)(4,4’−オキシジアニリン)、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル(3,3’−オキシジアニリン)、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル(3,4’−オキシジアニリン)、1,5−ジアミノナフタレン、4,4’−ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、4,4’−ジアミノジフェニルN−メチルアミン、4,4’−ジアミノジフェニル N−フェニルアミン、1,4−ジアミノベンゼン(p−フェニレンジアミン)、1,3−ジアミノベンゼン、1,2−ジアミノベンゼンおよびそれらの類似物を挙げることができる。これらを単独でまたは任意の割合の混合物で用いることができる。
【0027】
<酸二無水物とジアミンの好ましい態様>
本発明のポリイミドフィルムの合成に用いられる最も適当な酸二無水物は、PMDAとBPDAである。PMDAとBPDAの混合比率を変更することで、ポリイミドフィルムの分子配向を調節できる。ベンゼン環比率の高いBPDAの配合量を増やすとフィルム面方向(本願明細書中では、「面方向」ともいう。)の分子配向性を高めることができる。
また、本発明のポリイミドフィルムの合成に用いられる最も適当なジアミンはODAとPDAである。ODAとPDAの混合比率を変更することで、ポリイミドフィルムの分子配向を調節できる。エーテル結合がなく自由度の高いPDAの配合量を増やすと面方向の分子配向性を高めることができる。
【0028】
本発明では、酸二無水物は、PMDA、BPDAのいずれかを含み、ジアミンは、ODA、PDAのいずれかを含むと、ポリイミド分子配向の制御が実施しやすく、高熱伝導性、柔軟性を示すグラファイトフィルムの原料として適したポリイミドフィルムを調整することができる。
【0029】
本発明のポリイミドフィルムのモノマーの混合比は、酸二無水物としてPMDAが50〜100モル%、BPDAが0〜50モル%(酸二無水物全体に対するモル%)、ジアミンとしてODAが30〜95モル%、PDAが5〜70モル%(ジアミン全体に対するモル%)含むとよい。以上のように配合されたポリイミドフィルムは、複屈折が高く線膨張が小さく面方向に分子配向しているために発泡しやすく、柔軟性を有するグラファイトフィルムの原料として適している。
【0030】
次に示す2つの態様であれば、特に好ましい柔軟性を有するグラファイトフィルムを得ることができる。
【0031】
1つ目は、酸二無水物としてベンゼン環比率の高いBPDAが20〜50モル%(酸二無水物全体に対するモル%)含むと、面方向の分子配向性が高めることができるため、薄物のグラファイトフィルムの原料として適している。また、BPDAを添加して分子配向を高めたポリイミドフィルムは、黒鉛化時にフィルムが破損しにくく、黒鉛粉落ちの少ないグラファイトフィルムが得られる。
【0032】
2つ目は、ジアミンとしてODAを70〜95モル%(ジアミン全体に対するモル%)含むことで、黒鉛化中の急激なグラファイト化進行を抑制しフィルムの破損を防ぐことができる。
【0033】
<黒鉛化工程での減圧>
本発明の製造方法では、有効加熱体積が2L以上で、5μm以上45μm以下の高分子フィルムを原料に用いた場合であっても、特定の減圧条件を用いることによって柔軟性を有するグラファイトフィルムを得ることができる。
【0034】
1)黒鉛化工程で減圧する温度領域
本発明の減圧条件は、1600℃以上2000℃以下の温度領域の少なくとも一部を減圧で処理するものである。1600℃以上2000℃以下の温度領域のすべての領域を減圧で処理することが好ましい。1600℃以上2000℃以下の温度領域の少なくとも一部を減圧で処理することで、柔軟なグラファイトフィルムを得ることができる。特に、1600℃以上2000℃以下の領域すべてを減圧で処理すると、柔軟性が非常に優れたグラファイトフィルムが得られる。
減圧を開始する好ましい温度としては1600℃以上、より好ましくは1500℃以上、更に好ましくは、1400℃以上とするとよい。また、減圧を終了する好ましい温度は2000℃以下、より好ましくは2100℃以下、更に好ましくは2200℃以下とするとよい。1600℃以下の温度から減圧を開始すること、および2000℃以上の温度まで減圧を実施することで更に柔軟性を有するグラファイトフィルムが得られる。理由は定かではないが、加熱炉中の黒鉛材料に起因しているものと思われる。
【0035】
<減圧の程度>
本発明の減圧の程度は5000Pa以下、好ましくは1000Pa以下、更に好ましくは、50Pa以下がよい。減圧の程度が5000Pa以下であると柔軟性のあるグラファイトフィルムが得られる。減圧の程度は、ピラニー真空計で測定可能である。ピラニー真空系は大気圧にて1.0×10Paを示す。
【0036】
<本発明の加熱炉>
本発明における加熱炉は特に制限されないが、被加熱体を電磁波で誘導加熱する誘導加熱炉、被加熱体を電磁波で誘電加熱する誘電加熱炉、被加熱体に直接電流を流して発熱させる直接通電加熱炉、抵抗体を通電発熱させ間接的に被加熱体を加熱する抵抗加熱炉などが挙げられ、本発明の炭化工程及び黒鉛化工程の熱処理に使用する。なお、炭化工程と黒鉛化工程は同じ加熱炉を用いてもよいし、異なる加熱炉を用いても構わない。
グラファイトフィルムを製造するための黒鉛化炉としては、3000℃近くまでの昇温が可能な直接通電加熱炉、抵抗加熱炉が適している。中でも、抵抗加熱炉は、温度制御、雰囲気制御が実施し易く、高品質のグラファイトフィルムの製造に適している。抵抗加熱炉は、主にヒーター(抵抗体)、断熱材、真空引きのためのタンクから構成されている。図6のように、断熱材の内部に配置されたヒーターの発熱により3000℃近くまで昇温されるため、耐熱の観点から、ヒーター材、断熱材、被加熱体を投入する容器などはすべて黒鉛材を使用することが好ましい。
【0037】
<本発明の熱処理中の温度>
本発明の熱処理中(炭化工程、黒鉛化工程)の温度は、ヒーター中央の実温度とする。ヒーター温度は、1200℃以下であれば熱電対を使用して、1200℃を超えると放射温度計を使用して測定できる。
【0038】
<黒鉛化工程のフィルムセット方法>
本発明の黒鉛化工程のフィルムセット方法は特に限定されないが、例えば図3、4のように1層または複数層の原料フィルムを炭素質シートで挟んで保持して2600℃以上の温度で熱処理する方法を挙げることができる。
【0039】
本発明の柔軟性を有するグラファイトフィルムの製造方法のより好ましい態様としては、黒鉛化工程でセットする原料フィルムを2層以上積層する方法が好ましい。
また、図5のように円筒状に原料フィルムを巻いた状態で熱処理しても、原料フィルムを2層以上積層した状態にあたる。
【0040】
なお、原料フィルムのセット方法は、高分子フィルムから連続して黒鉛化工程にいたる場合には、高分子フィルムのセット方法になり、原料炭化フィルムを一旦取り出して黒鉛化工程を実施する場合には、黒鉛化工程における原料炭化フィルムのセット方法になる。
ここで炭素質シートとは、東洋炭素(株)社製等方性黒鉛シート(商品名:IG−11、ISEM−3など)、東洋炭素(株)社製C/Cコンポジット板(商品名:CX−26、CX−27など)、SECカーボン(株)社製押し出しグラファイト板(商品名:PSG−12、PSG−332など)、東洋炭素(株)社製膨張黒鉛シート(商品名:PERMA−FOIL(グレード名:PF、PF−R2、PF−UHPL))などが挙げられる。
本発明において、原料フィルム同士を複数枚重ねてセットする場合(以下、「直接積層」という)には、直接積層する原料フィルムの枚数は、好ましくは2層以上、より好ましくは5層以上、さらに好ましくは10層以上である。また、熱処理中に原料フィルムの厚み方向に圧力をかけながら処理することで、直接積層による皺やひずみを抑制することができる。例えば、原料フィルムは熱処理中、重石などを載せて一定の圧力をかけることができる。圧力荷重の存在下では、積層数は20層以上、好ましくは50層以上さらに好ましくは100層以上である。
【0041】
円筒状に原料フィルムを巻いて熱処理する場合の積層数は、20層以上、好ましくは50層以上、さらに好ましくは100層以上である。原料フィルムの積層数が2層以上であれば、1層の場合に比べて、より柔軟なグラファイトフィルムが得られる。
【0042】
原料フィルムは、端部を揃えて直接積層した方が好ましい。原料フィルム同士がずれていると、荷重が均一に加わらずに、皺やひずみの多いグラファイトフィルムが得られる。原料フィルムは平坦であることが好ましい。原料フィルムが平坦でないならば、原料フィルム同士が密着できないために、グラファイトフィルムの柔軟性を発現するために必要なアウトガスを閉じ込める効果が不十分となる。したがって、原料フィルムに、原料炭化フィルムを用いる場合は、炭化時に皺やひずみを発生させないかがポイントである。
【0043】
<原料フィルムの厚み方向に加える圧力>
本発明は、原料フィルムの厚み方向に圧力を加えた状態で熱処理することが好ましい。原料フィルムの厚み方向に圧力を加えた状態で熱処理することは、柔軟性、熱拡散性に優れたグラファイトフィルムを得ることができるために好ましい。これは、原料フィルムの厚み方向に圧力を加えることで、皺およびひずみを抑制でき、原料フィルム同士を密着させ、隙間から逃げる発泡を引き起こすアウトガスをフィルム内に留めることができる。本発明における、原料フィルムの厚み方向への圧力は1.0g/cm以上200g/cm以下、好ましくは5.0g/cm以上100g/cm以下、更に好ましくは、7.0g/cm以上50g/cm以下である。圧力が1.0g/cm以上であれば、原料フィルムの黒鉛化に伴う不均一なフィルムの膨張および/または収縮を抑制できるために、シワのない柔軟なグラファイトフィルムが得られる。
【0044】
原料フィルムのフィルム厚み方向への圧力の加え方としては、原料フィルムを保持するために用いた冶具による自重、原料フィルムを保持する容器に蓋を用いた場合には該蓋から受ける圧力、また加熱による原料フィルム周囲の容器の膨張、および原料フィルムを保持するために用いた冶具の膨張による圧力によって達成されるが、これらに限定されるものではない。なお、前記圧力は、熱処理する原料フィルムの面積に対して算出している。
【0045】
<炭化工程の高分子フィルムセット方法>
炭化工程の高分子フィルムのセット方法は特に制限は無いが、平坦な原料炭化フィルムを作製するためには、1層以上の高分子フィルムと、熱伝導性シートとを交互に積層する方法が好ましい。ここで、「交互に積層」とは、熱伝導性シートの間に1層あるいは複層の高分子フィルムが挟まれて積層されていることをいう。特に、原料フィルム1層と熱伝導性シートを交互に積層する方法は、平坦な原料炭化フィルムを作製できる。
【0046】
一例の工程として、炭化工程においては高分子フィルム1層と熱伝導シートを交互に積層して熱処理し、得られた平坦な原料炭化フィルムを2層以上積層して、黒鉛化を実施するとシワの少ないグラファイトフィルムが得られる。ここで、本発明において用いられる熱伝導性シートは特に制限はないが、銅、鉄、ステンレスなどの金属フィルム(金属シート、金属板を含む。)、アルミナなどのセラミック板、炭素質シート(炭素質板を含む。)などが挙げられる。
【0047】
<原料フィルムのサイズ>
本発明の原料フィルムのサイズは特に制限されない。生産性の観点からは、原料フィルムのサイズは150cm以上が好ましく、より好ましくは200cm以上、更に好ましくは400cm以上である。なお、本発明で得られるグラファイトフィルムのサイズは、用いた原料フィルムのサイズによって影響される。
【0048】
<圧縮工程>
黒鉛化後の発泡したグラファイトフィルムに圧縮工程を施すことによって、グラファイトフィルムに柔軟性を付与することもできる。圧縮工程は、面状に圧縮する方法や、金属ロールなどを用いて圧延する方法などを用いることができる。圧縮工程は室温でおこなっても、黒鉛化工程中におこなってもかまわない。
【0049】
<グラファイトフィルムの耐屈曲性>
本発明のグラファイトフィルムのMIT耐屈曲試験おける折り曲げ回数(Rが2mm、左右の折り曲げ角度90°)は、3000回以上、好ましくは10000回以上、更に好ましくは100000回以上がよい。3000回以上になると、耐屈曲性に優れているために折り曲げに対して破壊されにくくなる。グラファイトフィルムのMIT耐屈曲試験の方法は実施例の項に記載する。
【0050】
<グラファイトフィルムの厚み>
本発明のグラファイトフィルムの厚みは、5μm以上45μm以下の高分子フィルムを原料に用いられて作製されるものであれば特に制限されないが、小型化部品に搭載できる薄物グラファイトフィルムでかつ自己支持性を有するという観点からは、2μm以上21m以下、好ましくは5μm以上18μm以下、さらに好ましくは7μm以上12μm以下である。
【0051】
<加熱炉の有効加熱体積>
本発明で使用する加熱炉の有効加熱体積は、2L以上、更には30L以上、特には50L以上である。50μm以上の高分子フィルムを用いたグラファイトフィルムの製造方法では柔軟性を有するグラファイトフィルムを得られる条件でも、45μm以下の高分子フィルムを用いて、有効加熱体積が2L以上の加熱炉を使用した場合には、柔軟性を有するグラファイトフィルムが得られないという課題との関係で、有効加熱体積が2L以上の加熱炉という要件は重要である。
【0052】
なお、加熱炉の有効加熱体積とは、断熱材に囲まれた実質的に均熱化される空間の体積である。図6の斜線65の領域は有効加熱体積である。
【実施例】
【0053】
以下において、本発明の種々の実施例をいくつかの比較例と共に説明する。
【0054】
<各種物性測定条件>
<グラファイトフィルムの面方向の熱拡散率測定>
グラファイトフィルムの面方向の熱拡散率は、光交流法による熱拡散率測定装置(アルバック理工(株)社製「LaserPit」)を用いて、グラファイトフィルムを4×40mmの形状に切り取ったサンプルを、23℃の雰囲気下、10Hzにて測定した。3枚の試験片を、シートサンプルの中央付近から抜き出した。複数枚積層して熱処理したサンプルは、真ん中のフィルムの物性を測定した。ロールサンプルについては、図7の1、2、3点から抜き出した。1はグラファイトフィルムの巻きの内側から10mmの中央付近、3は外側から10mmの中央付近、2は1と3の中間である。中央付近とは、TD幅200mm巻きのロールであれば、幅100mm付近を指す。3枚の試験片を用いて測定した熱拡散率の平均値を表2に記載した。
【0055】
<グラファイトフィルムのMIT耐屈曲試験>
グラファイトフィルムのMIT耐屈曲試験を行った。1.5×6cmの試験片3枚をシートサンプルの中央付近から抜き出した。複数枚積層して熱処理したサンプルは、真ん中のフィルムの物性を測定した。ロールサンプルについては、図7の1、2、3点から抜き出した。東洋精機(株)製のMIT耐揉疲労試験機型式Dを用いて、試験荷重100gf(0.98N)、速度90回/分、折り曲げクランプの曲率半径Rは2mmでおこなった。23℃の雰囲気下、折り曲げ角度は左右へ90度で切断するまでの折り曲げ回数を測定した。3枚の試験片を用いて測定し、平均値を表2に記載した。
<ポリイミドフィルム及びグラファイトフィルムの面積の測定方法>
ポリイミドフィルム及びグラファイトフィルムの面積の測定方法としては、フィルムの幅と、長さを測定した値の積で見積もった。ただし、ロール状サンプルについては、ポリイミドフィルム及びグラファイトフィルムの全重量を測定し、一部(100mm×100mm)を切り出した重量との比で、面積を算出した。
【0056】
<ポリイミドフィルム及びグラファイトフィルムの厚みの測定方法>
ポリイミドフィルム及びグラファイトフィルムの厚みの測定方法としては、23℃の雰囲気下、厚みゲージ(ハイデンハイン(株)社製、HEIDENHAIN−CERTO)を用いて測定した。
<ポリイミドフィルムの複屈折の測定方法>
ポリイミドフィルムの複屈折は、メトリコン社製の屈折率・膜厚測定システム(型番:2010 プリズムカプラ)を使用して測定した。測定は、23℃の雰囲気下、波長594nmの光源を用い、TEモードとTMモードでそれぞれ屈折率を測定し、TE−TMの値を複屈折として測定した。なお、前述の「フィルム面内の任意方向X」とは、例えばフィルム形成時における材料流れの方向を基準として、図8のように、X方向が面内の0゜方向、45゜方向、90゜方向、135゜方向のどの方向においても、の意味である。したがって測定は、好ましくは、サンプルを装置に、0゜方向、45゜方向、90゜方向、135゜方向でセットし、各角度で複屈折を測定し、その平均を複屈折として表2に記載した。
【0057】
<グラファイトフィルムのシワ>
図9のような、黒鉛化処理後に発生するグラファイトフィルムのシワの最大長さを測定した。目視にて観察可能なシワの最大長さが、0mm以上5mm未満はA、5mm以上〜10mm未満はB、10mm以上20mm未満はC、20mm以上はDと記載した。
【0058】
<グラファイトフィルムの黒鉛粉落ち>
黒鉛化処理後のグラファイトフィルムから発生する黒鉛粉の数を測定した。30mm角にカットしたグラファイトフィルムと50mm角のポリイミドフィルム(カネカ製ポリイミドフィルムアピカルAH:50μm)を積層し、平らな台の上で2kgのゴムコーラーを通した。ポリイミドフィルムからグラファイトフィルムを剥した後に、ポリイミドフィルムに付着した長径0.01mm以上の黒鉛粉の個数を評価した。黒鉛粉の個数が2個未満はA、2個以上5個未満はB、5個以上10個未満はC、10個以上はDと判定した。
【0059】
<ポリイミドフィルムA、B、C、D、E、F>
[ポリイミドフィルムAの作製方法]
ODA75モル%、PDA25モル%からなるジアミンを溶解したDMF(ジメチルフォルムアミド)溶液に、100モル%のPMDAからなる酸二無水物をジアミンと当モル量となるように溶解して、ポリアミド酸を18.5wt%含む溶液を得た。この溶液を冷却しながら、ポリアミド酸に含まれるカルボン酸基に対して、1当量の無水酢酸、1当量のイソキノリン、およびDMFを含むイミド化触媒を添加し脱泡した。次にこの混合溶液が、乾燥後に所定の厚さになるようにアルミ箔上に塗布した。アルミ箔上の混合溶液層は、熱風オーブン、遠赤外線ヒーターを用いて乾燥した。
【0060】
出来上がり厚みが75μmの場合の乾燥条件を示す。アルミ箔上の混合溶液層は、熱風オーブンで120℃において240秒乾燥して、自己支持性を有するゲルフィルムにした。そのゲルフィルムをアルミ箔から引き剥がし、フレームに固定した。さらに、ゲルフィルムを、熱風オーブンにて120℃で30秒、275℃で40秒、400℃で43秒、450℃で50秒、および遠赤外線ヒータ−にて460℃で23秒と段階的に加熱して乾燥した。その他の厚みに対しては、厚みに比例して焼成時間が調整した。例えば厚さ25μmのフィルムの場合には、75μmの場合よりも焼成時間を1/3に短く設定した。
【0061】
以上のようにして、厚さ12.5μm、25μm、45μmの3種類のポリイミドフィルムA(複屈折0.143、線膨張係数21.8×10−6/℃)を作製した。
【0062】
[ポリイミドフィルムBの作製方法]
ODA90モル%、PDA10モル%からなるジアミンを溶解したDMF(ジメチルフォルムアミド)溶液に、100モル%のPMDAからなる酸二無水物をジアミンと当モル量となるように溶解してポリアミド酸を作製した以外はポリイミドフィルムAと同様にして厚さ25μmのポリイミドフィルムB(複屈折0.122、線膨張係数23.7×10−6/℃)を作製した。
[ポリイミドフィルムCの作製方法]
ODA100モル%からなるジアミンを溶解したDMF(ジメチルフォルムアミド)溶液に、100モル%のPMDAからなる酸二無水物をジアミンと当モル量となるように溶解してポリアミド酸を作製した以外はポリイミドフィルムAと同様にして厚さ25μmのポリイミドフィルムC(複屈折0.115、線膨張係数27.9×10−6/℃)を作製した。
【0063】
[ポリイミドフィルムDの作製方法]
ODA40モル%、PDA60モル%からなるジアミンを溶解したDMF(ジメチルフォルムアミド)溶液に、PMDA65モル%、BPDA35モル%からなる酸二無水物をジアミンと当モル量となるように溶解してポリアミド酸を作製した以外はポリイミドフィルムAと同様にして厚さ17μmのポリイミドフィルムD(複屈折0.148、線膨張係数16.8×10−6/℃)を作製した。
【0064】
[ポリイミドフィルムEの作製方法]
ODA85モル%、PDA15モル%からなるジアミンを溶解したDMF(ジメチルフォルムアミド)溶液に、PMDA65モル%、BPDA35モル%からなる酸二無水物をジアミンと当モル量になるように溶解してポリアミド酸を作製した以外はポリイミドフィルムAと同様にして厚さ17μmのポリイミドフィルムD(複屈折0.149、線膨張係数16.2×10−6/℃)を作製した。
【0065】
[ポリイミドフィルムFの作製方法]
ODA25モル%、PDA75モル%からなるジアミンを溶解したDMF(ジメチルフォルムアミド)溶液に、100モル%のPMDAからなる酸二無水物をジアミンと当モル量となるように溶解してポリアミド酸を作製した以外はポリイミドフィルムAと同様にして厚さ25μmのポリイミドフィルムF(複屈折0.148、線膨張係数16.9×10−6/℃)を作製した。
以下得られたポリイミドフィルムの作製方法と各種物性を表1にまとめた。
【0066】
【表1】

【0067】
(実施例1)
サイズ200mm×200mm、厚み25μmのポリイミドフィルムA(PI(A))を、サイズ220mm×220mmの黒鉛シートで挟み(ポリイミドフィルム1枚と黒鉛シートを交互に積層)、有効加熱体積が70Lの電気炉を用いて窒素雰囲気下で、2℃/minの昇温速度で1000℃まで昇温した後、1000℃で1時間熱処理して炭化した。
【0068】
その後、厚み方向の圧力が20g/cmとなるように、サイズ220mm×220mm、重量5.12Kgの黒鉛板を上に置いて、黒鉛化炉を用いて、1400℃〜2200℃の温度領域が、50Pa以下の減圧下(ピラニー真空計にて測定)、2200℃より高い温度領域はアルゴン雰囲気下で、黒鉛化昇温速度2.5℃/minで2900℃(黒鉛化最高温度)まで昇温した後、2900℃で30分保持してグラファイトフィルムを作製した。ここで用いた黒鉛化炉の有効加熱体積は70Lであった。
得られた180mm×180mmのフィルム1枚を、サイズ200mm×200mm×厚み400μmのPETフィルムで挟み、圧縮成型機を用いて圧縮処理を実施した。加えた圧力は10MPaとした。
【0069】
(実施例2)
ポリイミドフィルムを、直接2枚端を揃えて積層して、サイズ220mm×220mmの黒鉛シートで挟んで炭化・黒鉛化したこと以外は、実施例1と同様にしてグラファイトフィルムを作製した。
【0070】
(実施例3)
ポリイミドフィルムを、直接5枚端を揃えて積層して、サイズ220mm×220mmの黒鉛シートで挟んで炭化・黒鉛化したこと以外は、実施例1と同様にしてグラファイトフィルムを作製した。
【0071】
(実施例4)
ポリイミドフィルムを、直接10枚端を揃えて積層して、サイズ220mm×220mmの黒鉛シートで挟んで炭化・黒鉛化したこと以外は、実施例1と同様にしてグラファイトフィルムを作製した。
【0072】
(実施例5)
ポリイミドフィルムを、直接30枚端を揃えて積層して、サイズ220mm×220mmの黒鉛シートで挟んで炭化・黒鉛化したこと以外は、実施例1と同様にしてグラファイトフィルムを作製した。
【0073】
(実施例6)
ポリイミドフィルムを、直接100枚端を揃えて積層して、サイズ220mm×220mmの黒鉛シートで挟んで炭化・黒鉛化したこと以外は、実施例1と同様にしてグラファイトフィルムを作製した。
【0074】
(実施例7)
サイズ200mm×200mm、厚み25μmのポリイミドフィルムA(PI(A))を、サイズ220mm×220mmの黒鉛シートで挟み(ポリイミドフィルム1枚と黒鉛シートを交互に積層)、有効加熱体積が70Lの電気炉を用いて窒素雰囲気下で、2℃/minの昇温速度で1000℃まで昇温した後、1000℃で1時間熱処理して炭化した。
【0075】
得られた原料炭化フィルムを直接30枚、端を揃えて積層し、この積層体をサイズ220mm×220mmの黒鉛シートで挟んだ(原料炭化フィルム30枚と黒鉛シートを交互に積層)こと以外は、実施例1と同様にしてグラファイトフィルムを作製した。
【0076】
(実施例8)
1600℃〜2000℃までの温度領域が、50Pa以下の減圧下、で黒鉛化したこと以外は、実施例3と同様にしてグラファイトフィルムを作製した。
【0077】
(実施例9)
1800℃〜2000℃までの温度領域が、50Pa以下の減圧下、で黒鉛化したこと以外は、実施例3と同様にしてグラファイトフィルムを作製した。
【0078】
(実施例10)
1600℃〜1800℃までの温度領域が、50Pa以下の減圧下、で黒鉛化したこと以外は、実施例3と同様にしてグラファイトフィルムを作製した。
【0079】
(実施例11)
1400℃〜2200℃の温度領域が、1000Paの減圧下で黒鉛化したこと以外は、実施例3と同様にしてグラファイトフィルムを作製した。
【0080】
(実施例12)
1400℃〜2200℃の温度領域が5000Paの減圧下で黒鉛化したこと以外は、実施例3と同様にしてグラファイトフィルムを作製した。
【0081】
(実施例13)
厚み12.5μmのポリイミドフィルムA(PI(A))を原料に用いたこと以外は、実施例3と同様にしてグラファイトフィルムを作製した。
【0082】
(実施例14)
厚み37μmのポリイミドフィルムD(PI(D))を原料に用いたこと以外は、実施例3と同様にしてグラファイトフィルムを作製した。
【0083】
(実施例15)
厚み37μmのポリイミドフィルムE(PI(E))を原料に用いたこと以外は、実施例3と同様にしてグラファイトフィルムを作製した。
【0084】
(実施例16)
幅250mm、長さ50mの厚み25μmのポリイミドフィルムA(PI(A))を、図10のように、外径100mm、長さ300mmの円筒状の黒鉛製内芯に巻き付け、内径130mmの外筒を被せた。容器には144のように通気性を持たせるための穴が数箇所開いている。この容器を電気炉内に横向きにセットし、実施例1と同様に炭化した。次に、得られたロール状の原料炭化フィルムを外径100mmの内芯に、図11のようにセットして、この容器を、縦向きに黒鉛化炉内の架台に置いてセットし、実施例1と同様に黒鉛化した。
【0085】
(実施例17)
厚み25μmのポリイミドフィルムB(PI(B))を原料に用いたこと以外は、実施例3と同様にしてグラファイトフィルムを作製した。
【0086】
(実施例18)
厚み25μmのポリイミドフィルムF(PI(F))を原料に用いたこと以外は、実施例3と同様にしてグラファイトフィルムを作製した。
【0087】
(比較例1)
室温からずっとアルゴン雰囲気下で黒鉛化したこと以外は、実施例1と同様にしてグラファイトフィルムを作製した。
【0088】
(比較例2)
厚み25μmのポリイミドフィルムC(PI(C))を原料に用いたこと以外は、実施例3と同様にしてグラファイトフィルムを作製した。
【0089】
(比較例3)
室温からずっとアルゴン雰囲気下で黒鉛化したこと以外は、実施例3と同様にしてグラファイトフィルムを作製した。
【0090】
(比較例4)
室温から1400℃までの温度領域が、50Pa以下の減圧下、1400℃より高い温度領域はアルゴン雰囲気下で黒鉛化したこと以外は、実施例3と同様にしてグラファイトフィルムを作製した。
【0091】
(比較例5)
1400℃〜2200℃の温度領域が、10000Paの減圧下で黒鉛化したこと以外は、実施例3と同様にしてグラファイトフィルムを作製した。
【0092】
(参考例1)
厚み50μmのポリイミドフィルムA(PI(A))を原料に用いたこと以外は、比較例1と同様にしてグラファイトフィルムを作製した。
【0093】
(参考例2)
厚み75μmのポリイミドフィルムA(PI(A))を原料に用いたこと以外は、比較例1と同様にしてグラファイトフィルムを作製した。
【0094】
(参考例3)
サイズ70mm×70mm、厚み25μmのポリイミドフィルムA(PI(A))をサイズ90mm×90mmの黒鉛シートで挟んだこと、有効加熱体積が1.7Lである小型の黒鉛化炉を使用したこと以外は、比較例1と同様にしてグラファイトフィルムを作製した。
【0095】
【表2】

【0096】

【0097】

【0098】
<減圧処理>
実施例3、実施例8〜実施例10、比較例3、比較例4を比較する。1400℃〜2200℃を減圧で処理した実施例3は、MIT試験で100000回以上と非常に柔軟なグラファイトフィルムであった。1400℃〜2200℃の温度領域で、減圧処理したために柔軟なグラファイトフィルムが得られた。
【0099】
一方、比較例3は室温からAr雰囲気で熱処理しており、1600℃〜2000℃のいずれの温度領域も減圧処理をしていないため、MIT試験で500回未満と硬いグラファイトフィルムが得られた。また、比較例4は、室温から1400℃までは、減圧処理したものの、1400℃からは、減圧処理を実施していないためMIT試験で500回未満と硬いグラファイトフィルムが得られた。
【0100】
実施例8、実施例9、実施例10の結果から、特に1600℃〜2000℃の温度領域の少なくとも一部を減圧処理することで、柔軟なグラファイトフィルムが製造でき、1600℃〜2000℃のすべて温度範囲を減圧処理で実施することでより柔軟なグラファイトフィルムが得られることがわかった。
【0101】
実施例1、比較例1を比較する。比較例1は、減圧処理を実施しておらず積層数1層であるため、図12のような硬質なグラファイトフィルムが得られたが、実施例1は、積層処理はしていないものの、1400℃〜2200℃の温度領域を減圧処理しているために、MITが3000回程度のグラファイトフィルムが得られた。積層処理をしていなくても、減圧の効果が得られることがわかった。
【0102】
<減圧の程度>
実施例3、実施例11、実施例12、比較例5を比較する。50Pa以下で減圧処理をした実施例3は、MIT試験で100000回以上と非常に柔軟なグラファイトフィルムであった。
【0103】
実施例11の1000Paでも、MIT試験で100000回以上であったため、この程度の減圧でも柔軟性を有するグラファイトフィルムが得られることがわかった。比較例5の10000Paでは、MITが500回未満と硬質なグラファイトフィルムが得られた。
【0104】
<黒鉛化時の積層数>
実施例1〜実施例6、比較例1、比較例3、比較例4を比較する。実施例1、のように積層数が1層でも、減圧処理を実施することで柔軟性が向上したが、実施例2〜実施例6のように積層数を増やすことで、より柔軟性が向上することがわかった。特に、積層数が5層以上になると、MIT屈曲試験が100000回以上と、柔軟性が非常によいグラファイトフィルムが得られた。比較例1は、1600〜2000℃の温度領域にて減圧処理を実施しておらず積層数1層であるため、図12のような硬質なグラファイトフィルムが得られた。比較例3は、1600〜2000℃の温度領域にて減圧処理を実施していないが、積層枚数が30枚であったために、比較例1よりも柔軟なグラファイトフィルムが得られた。比較例4も同様である。積層数が30層、100層と多くなると、シワが発生しやすくなり、熱物性も若干低下する。このシワは主に炭化時に発生している。
【0105】
<黒鉛シートと交互に積層して炭化したポリイミドフィルムを積層して黒鉛化>
実施例5と実施例7を比較する。実施例5は高分子フィルムを30層積層した状態で炭化工程、黒鉛化工程実施しているため、炭化時に発生したシワがグラファイトフィルムに残っている。一方、実施例7は、シワを劇的に抑制できた。これは、炭化工程時に高分子フィルム1層と黒鉛シートとを交互に積層して処理したために、炭化工程時のシワを劇的に抑制できたからである。1400℃未満の温度領域、つまり炭化処理時は従来の方法のように黒鉛シートと高分子フィルムを交互に積層して、シワを抑制し、得られた原料炭化フィルムを直接積層して黒鉛化する方法は、シワ不良抑制に非常に効果的である。
【0106】
<積層と減圧の組み合わせの効果>
実施例1、実施例3、比較例1、比較例3を比較する。減圧処理、原料フィルムの積層ともに実施した実施例3は、MIT試験が100000回以上と非常に柔軟なグラファイトフィルムが得られた。減圧処理のみを実施した実施例1は、3000回程度であった。原料フィルムの積層のみを実施した比較例3は、500回未満であった。減圧処理、原料フィルムの積層ともに実施しなかった比較例1は、100回未満と非常に硬質なグラファイトフィルムが得たれた。以上の結果より、減圧処理と原料フィルムの積層にはそれぞれ個別に実施しても、柔軟性を向上することができるが、これらを組み合わせることで、非常に柔軟性のあるグラファイトフィルムが得られることがわかった。
【0107】
<ポリイミドフィルムの複屈折>
実施例3、実施例14、実施例15、実施例17、実施例18、比較例2を比較した。実施例3、実施例14、実施例15、実施例18のように複屈折0.14以上と複屈折の大きい原料ポリイミドフィルムを使用すると、黒鉛化時に発泡状態を呈し、柔軟で高熱伝導性のグラファイトフィルムとなった。
【0108】
複屈折が高いポリイミドフィルムは、面内の分子配向性がよいため、炭化すると、面方向に分子配向がよく緻密な構造の原料炭化フィルムを作製できる。緻密な構造を持つ原料炭化フィルムは、黒鉛化中に発生するアウトガスがスムーズに抜けず、グラファイト結晶子を持ち上げながら抜けるために、フィルムが発泡しやすい。一方、実施例17は、複屈折0.122であるため、同様の条件でも柔軟性が悪くなった。更に比較例2は、ほとんど発泡せず、非常に硬質なグラファイトフィルムとなった。以上の結果より、薄物原料を使用する場合には、複屈折が0.12以上のものを選択しなければならないことがわかった。
【0109】
<原料ポリイミドフィルムのモノマー配合>
比較例2、実施例17、実施例3、実施例18の原料ポリイミドフィルムは、ジアミンにおいて、ODAとPDAの比率を変更した。剛直モノマーであるPDAの配合量を増加させた実施例3のポリイミドフィルムは、柔軟性のあるグラファイトフィルムを得ることができた。さらにPDAの配合量を増加させた実施例18は、柔軟性は十分なグラファイトフィルムが得られたものの、表面から黒鉛粉が発生した。これは、PDAの含有量を増やして分子配向を高めすぎると、ポリイミドフィルムの構造上、急激な黒鉛化にフィルムが対応できずに、フィルムが破壊されたためと考えられる。
【0110】
そこで、実施例14、実施例15のように、酸二無水物にベンゼン環比率の高いBPDAを増加させることで、分子配向を高めた。その結果、柔軟性、熱伝導性の優れた薄物のグラファイトフィルムが得られた。複屈折はポリイミドフィルムFと同様に、非常に面配向が高いものの、実施例18のように黒鉛粉の発生はなかった。特に実施例15は、熱拡散率も非常に高いものが得られた。以上の結果より、BPDAを増加させて分子配向を高めたポリイミドフィルムは、薄物グラファイトフィルムの原料として非常に適していることがわかった。
【0111】
<円筒状での処理>
実施例16では、円筒状に原料フィルムを巻きつけて黒鉛化処理を実施したが、このように、円筒形状にて原料フィルムを積層状態にしても、シート状を直接積層したときと同様の効果が得られることがわかった。
【0112】
<ポリイミドフィルムの厚み>
比較例1、参考例1、参考例2を比較する。この結果から、ポリイミドフィルムの厚みが50μm、75μmと厚い場合は、本発明の減圧処理、原料フィルムの積層を実施しなくても、柔軟なフィルムが得られる。以上のように、厚みが薄い原料フィルムを使用する場合には、柔軟性を有するグラファイトフィルムが得られないという課題がある。本発明の要件を満たすことによって、厚みが5μm以上45μm以下という本発明の課題が発現する条件であっても、柔軟性を有するグラファイトフィルムを作製することができる。
【0113】
<加熱炉の有効加熱体積>
比較例1、参考例3を比較する。加熱炉の有効加熱体積が2L未満の参考例1では、本発明の減圧処理、原料フィルムの積層を実施しなくても、柔軟なグラファイトフィルムが得られた。以上のように、有効加熱体積2L以上の加熱炉を使用した場合には、柔軟性を有するグラファイトフィルムが得られないという課題があり、本発明の要件を満たすことによって、本発明の課題が発現する条件であっても、柔軟性を有するグラファイトフィルムを作製することができる。
【符号の説明】
【0114】
11 柔軟
21 グラファイト層の空間
31 炭素質シート
32 原料フィルム
61 断熱材
62 ヒーター電極
63 原料フィルムを投入した容器
64 ヒーター
65 有効加熱体積の領域
71 巻きの内側
72 巻きの外側
81 0度
82 45度
83 90度
84 135度
101 円筒状の黒鉛製円筒内芯
102 外筒
103 円筒内芯に巻かれた高分子フィルム
104 通気性を持たせるための開口部
111 原料炭化フィルム
112 土台
121 硬質化したグラファイトフィルム
122 割れ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料炭化フィルム、又は複屈折が0.12以上で厚み5μm以上45μm以下の高分子フィルムを、1600℃以上2000℃以下の温度領域の少なくとも一部を5000Pa以下の減圧状態で熱処理する工程と、2600℃以上の温度で熱処理する工程を含み、熱処理を行うための加熱炉は2L以上の有効加熱体積を有する、ことを特徴とするグラファイトフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記原料フィルムを2層以上積層した状態で熱処理することを特徴とする請求項1に記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記高分子フィルムがポリイミドフィルムであって、酸無水物は、PMDA、BPDAのいずれかを含み、ジアミンは、ODA、PDAのいずれかを含むことを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記ポリイミドフィルムが、酸二無水物を基準にPMDAが、50〜100モル%、BPDAが、0〜50モル% 、ジアミンを基準にODAが30〜95モル%、PDAが5〜70モル%含むことを特徴とする請求項3のグラファイトフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記ポリイミドフィルムが、酸二無水物を基準にBPDAが、20〜50モル%含むことを特徴とする請求項3〜4のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記ポリイミドフィルムが、ジアミンを基準に、ODAが、70〜95モル%含むことを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載のグラファイトフィルムの製造方法。

【図10】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−46368(P2012−46368A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−188607(P2010−188607)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】