説明

グランドピアノのアクション

【課題】グランドピアノの鍵の静荷重とハンマーヘッドの質量を容易かつ正確に調節可能であり、グランドピアノ内の限られたスペースに無理なく容易に設置可能なグランドピアノのアクションを提供すること。
【解決手段】ウィッペン20と、レペティションレバー23と、ハンマー32とを有するグランドピアノのアクション1において、レペティションレバー23を第1の部材40とし、ハンマー32のハンマーシャンク33を第2の部材41として、第1の部材40と第2の部材41との間に第1のスプリング46を装着し、第1のスプリング46により第1の部材40を鍵10の方向に押圧するとともに、第2の部材41を弦80の方向に押圧する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グランドピアノのアクションに関する。
【背景技術】
【0002】
従来ある典型的なグランドピアノのアクションについて述べる(非特許文献1を参照)。尚、以下の説明において、特に断らない限り、演奏者から見て、手前のことを「前」、奥のことを「後」、左のことを「左」、右のことを「右」ということとする。
グランドピアノのアクションは、鍵、ウィッペン、レペティションレバー、ハンマー、ハンマーストップレールを有する。ハンマーストップレールの代わりにハンマーレストを有するグランドピアノのアクションもある。ウィッペンにはレペティションレバーフレンジとレペティションレバーとジャックが形成されている。ハンマーはハンマーシャンク、ハンマーヘッド、ハンマーシャンクローラを有する。
【0003】
グランドピアノのアクションが作動しておらず、鍵が静止位置にあるとき、鍵の後端が最も下降した位置にあり、ハンマーが静止している。
演奏者が静止位置にある鍵を押すと、鍵の後端部が上昇し、ウィッペンが回動しつつ上昇し、レペティションレバーがハンマーローラを押し上げ、ジャックがハンマーローラを突き上げ、ハンマーが回動しつつ上昇し、ハンマーヘッドが弦を打つ。その後、ハンマーは反転して回動しつつ下降する。そして、演奏者が鍵を離すと鍵が静止位置に戻る。
【0004】
演奏者が静止位置にある鍵を押す際、ハンマー、ウィッペン、ジャック、レペティションレバー及びハンマー等の荷重がいわゆる鍵の静荷重として演奏者の指に伝わる。演奏者は鍵の静荷重を超える大きさの力で鍵を押してグランドピアノを弾く。
鍵の静荷重はグランドピアノのタッチ感を左右する重要なパラメータであり、グランドピアノの良否に大きく影響する。従って、グランドピアノにおいて鍵の静荷重の調整は非常に重要である。現在、一般的な鍵の静荷重は凡そ47〜55gに調整されている。鍵の静荷重の調整のために、多くのグランドピアノでは鉛の錘が鍵の前端側部分に埋められている。
【0005】
尚、慣例に従って鍵の静荷重の単位を「g」として記載したが、これをSI単位で記載すれば、47〜55gの静荷重は0.46〜0.54Nである。鍵の静荷重の単位を「g」から「N」に直すときは、9.80665×10-3の値を乗じれば良い。
一時期、日本で製造されたグランドピアノの鍵の静荷重は凡そ62〜67gであった。現在の演奏者はこのような鍵の静荷重を重すぎると感じる。そこで、鍵の静荷重を軽く調整する必要が生じる。又、鍵の静荷重は経年変化により変動するので、やはり、鍵の静荷重の調整が必要である。鍵の静荷重を調整する際は、鍵に埋めた錘の質量を変えれば良い。しかし、鍵に埋めた錘の質量を変える場合、錘をいちいち交換する必要があり、作業が煩雑である。
【0006】
そこで、鍵の静荷重を調整するために、以下に述べる技術が提唱されている(以下、この技術を「先行技術1」という)(特許文献1を参照)。先行技術1は、ハンマーシャンクの上方にある引っ張りバネと、この引っ張りバネを吊り下げる取り付け具と、を有する。引っ張りバネの先端がハンマーシャンクの上側面に固定されている。引っ張りバネがハンマーシャンクに上向きの力を与え、ハンマーシャンクの回動方向にトルクが作用する。
【0007】
又、別の形態の技術が提唱されている(以下、この技術を「先行技術2」という)(特許文献1を参照)。先行技術2は、ハンマーシャンクの上方にある取り付け棒と錘とを有する。錘が取り付け棒の前端部に螺合し、取り付け棒の後端部がハンマーシャンクの上側面に固定されている。取り付け棒の前端部がハンマーシャンクフレンジよりも前方に向かって大きく延出している。そして、錘によりトルクがハンマーシャンクの回動方向に作用する。取り付け棒上において錘の位置が移動すると鍵の静荷重が変化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−41028号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】西口磯春、森太郎、「もっと知りたいピアノのしくみ」、第1版、株式会社音楽之友社、2005年4月30日、p.48〜49、58〜70
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
先行技術1では、前記取り付け具をハンマーシャンクの上方に設置しなければならない。かかる取り付け具を設置する場合、グランドピアノ内部のスペースが限られているという問題がある。又、既存のグランドピアノに取り付け具を設置する場合、大掛かりな改造が必要となる。
先行技術2では、取り付け棒がハンマーシャンクフレンジから前方に向かって大きく延出している。先行技術1と同様、取り付け棒を設置する場合、グランドピアノ内部のスペースが限られているという問題がある。又、取り付け棒の後端部がハンマーシャンクの上側面に固定されているので、取り付け棒と錘の荷重がハンマーシャンクに働く。この結果、取り付け棒と錘の荷重がウィッペンを介して鍵に伝わり、鍵の静荷重が重くなる。
【0011】
又、ハンマーヘッドを重くすれば、ハンマーヘッドと弦との当たり具合を強くでき、ハンマーヘッドを軽くすれば、ハンマーヘッドと弦との当たり具合を柔らかくできる。そこで、ハンマーヘッドの質量の変更を求められる場合がある。しかし、ハンマーヘッドの重さは鍵にそのまま伝わり、鍵の静荷重に影響する。又、タッチ感のバランスが崩れることを防ぐ観点から、ハンマーヘッドの質量を無闇に変えるわけにいかない。
本発明は、上記問題を解決するものであり、その目的とするところは、グランドピアノの鍵の静荷重やハンマーヘッドの質量を容易かつ正確に調節可能であり、グランドピアノ内の限られたスペースに無理なく容易に設置可能なグランドピアノのアクションを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、その課題を解決するために以下のような構成をとる。請求項1の発明に係るグランドピアノのアクションは、ウィッペンレールに固定されたウィッペンフレンジに回動可能に軸止されたウィッペンと、当該ウィッペン上に形成されたレペティションレバーフレンジに回動可能に軸止されたレペティションレバーと、ハンマーシャンクレールに固定されたハンマーシャンクフレンジに回動可能に軸止されたハンマーと、当該ハンマーのハンマーシャンクの下方に形成されたハンマーストップレールと、を備えており、演奏者が鍵を押すと、当該ハンマーが弦に向かって回動するグランドピアノのアクションであって、前記ウィッペンレールと、前記ウィッペンフレンジと、前記ウィッペンと、前記レペティションレバーフレンジと、前記レペティションレバーと、前記ハンマーシャンクレールと、前記ハンマーシャンクフレンジと、前記ハンマーストップレールと、のうちのいずれかひとつが、第1の部材をなし、前記ハンマーシャンクが、第2の部材をなし、第1のスプリングが、前記第1の部材と前記第2の部材とのうちのいずれか一方により、又は、両方により支承されて、前記第1の部材と前記第2の部材との間に装着されており、前記鍵が静止位置にあるときに、前記第1のスプリングが、前記第1の部材と前記第2の部材との間に挟まれて撓み、前記第1の部材を前記鍵がある方向に押圧し、前記第2の部材を前記弦がある方向に押圧する。
【0013】
請求項2の発明に係るグランドピアノのアクションは、ウィッペンレールに固定されたウィッペンフレンジに回動可能に軸止されたウィッペンと、当該ウィッペン上に形成されたレペティションレバーフレンジに回動可能に軸止されたレペティションレバーと、当該ウィッペンに形成されたハンマーレストと、ハンマーシャンクレールに固定されたハンマーシャンクフレンジに回動可能に軸止されたハンマーと、を備えており、演奏者が鍵を押すと、当該ハンマーが弦に向かって回動するグランドピアノのアクションであって、前記ウィッペンレールと、前記ウィッペンフレンジと、前記ウィッペンと、前記レペティションレバーフレンジと、前記レペティションレバーと、前記ハンマーレストと、前記ハンマーシャンクレールと、前記ハンマーシャンクフレンジと、のうちのいずれかひとつが、第1の部材をなし、前記ハンマーのハンマーシャンクが、第2の部材をなし、第1のスプリングが、前記第1の部材と前記第2の部材とのうちのいずれか一方により、又は、両方により支承されて、前記第1の部材と前記第2の部材との間に装着されており、前記鍵が静止位置にあるときに、前記第1のスプリングが、前記第1の部材と前記第2の部材との間に挟まれて撓み、前記第1の部材を前記鍵がある方向に押圧し、前記第2の部材を前記弦がある方向に押圧する。
【0014】
請求項3の発明に係るグランドピアノのアクションは、請求項1又は請求項2に記載のグランドピアノのアクションであって、演奏者が静止位置にある前記鍵を押してから前記鍵が静止位置に戻るまでの間は常に、前記第1のスプリングが、前記第1の部材及び前記第2の部材から離れずに当たっている。
請求項4の発明に係るグランドピアノのアクションは、請求項1から請求項3のうちのいずれかの請求項に記載のグランドピアノのアクションであって、第2のスプリングが、前記ハンマーシャンクフレンジと前記ハンマーシャンクレールと前記ハンマーシャンクとのうちのいずれかひとつにより支承されており、前記ハンマーが前記弦を打つときに、前記第2のスプリングが、前記ハンマーシャンクフレンジ又は前記ハンマーシャンクレールと、前記ハンマーシャンクと、の間で撓み、前記ハンマーシャンクを前記鍵がある方向に押圧する。
【0015】
請求項5の発明に係るグランドピアノのアクションは、請求項4に記載のグランドピアノのアクションであって、前記第2のスプリングが、前記ハンマーシャンクフレンジと前記ハンマーシャンクレールとのうちのいずれかにより支承されている場合、前記ハンマーが前記弦を打つときにだけ、前記第2のスプリングが前記ハンマーシャンクに当たって撓み、この撓んだ前記第2のスプリングが前記ハンマーシャンクを前記鍵がある方向に押圧し、前記第2のスプリングが、前記ハンマーシャンクにより支承されている場合、前記ハンマーが前記弦を打つときにだけ、前記第2のスプリングが前記ハンマーシャンクフレンジ又は前記ハンマーシャンクレールに当たって撓み、この撓んだ前記第2のスプリングが前記ハンマーシャンクを前記鍵がある方向に押圧する。
【0016】
本願発明者は、試行錯誤の末、第1の部材と第2の部材の間に第1のスプリングを装着し、第1のスプリングで第1の部材を鍵がある方向(即ち、下方向)に押圧し、第1のスプリングで第2の部材を弦がある方向(即ち、上方向)に押圧すれば、鍵の静荷重が変化するという知見を得た。
第1の部材が、ウィッペンとレペティションレバーフレンジとレペティションレバーとハンマーレストとのうちのいずれかである場合、第1のスプリングが第1の部材を鍵がある方向に押圧する力は、ウィッペンを介して鍵に伝わる。第1のスプリングが第1の部材を押圧するこの力は、鍵の静荷重とウィッペンの回転モーメントに影響する。
【0017】
第1の部材が、ウィッペンレールとウィッペンフレンジとハンマーシャンクレールとハンマーシャンクフレンジとハンマーストップレールとのうちのいずれかである場合、第1のスプリングが第1の部材を鍵がある方向に押圧する力は、第1の部材を固定するブラケットに伝わるが、鍵には伝わらない。第1のスプリングが第1の部材を押圧するこの力は、鍵の静荷重とウィッペンの回転モーメントに影響しない。
【0018】
第1のスプリングが第2の部材を弦がある方向に押圧する力は、ハンマーの回転モーメントに影響する。
第1のスプリングが第2の部材を押圧する位置が、前側から後側に移動すると、鍵の静荷重が軽くなる。又、第1の部材がウィッペンとレペティションレバーフレンジとレペティションレバーとハンマーレストとのうちのいずれかである場合、第1のスプリングが第1の部材を押圧する位置が、前側から後側に移動すると、鍵の静荷重が軽くなる。
【0019】
第1のスプリングが第1の部材を押圧する力の大きさ及び押圧する位置と、第1のスプリングが第2の部材を押圧する力の大きさ及び押圧する位置と、第1のスプリングの質量と、ハンマーヘッドの質量と、鍵の静荷重とは、互いに影響する。第1のスプリングの弾性係数、形状、装着位置を調整して、鍵の静荷重やハンマーヘッドの質量を調整できる。
本発明者は、前記知見に基づき、第1のスプリングが第1の部材を押圧する力の大きさ及び押圧する位置と、第1のスプリングが第2の部材を押圧する力の大きさ及び押圧する位置と、第1のスプリングの質量と、ハンマーヘッドの質量と、鍵の静荷重と、の間に成立する関係式を得た。この関係式を用いれば、所望の鍵の静荷重やハンマーヘッドの質量を得るために必要な第1のスプリングの詳細(即ち、弾性係数、形状、装着位置)が定まる。
【0020】
第1のスプリングとして板バネや捻りコイルバネが例示される。第1のスプリングは、第1の部材と第2の部材とのうちのいずれか一方により支承されていても良いし、両方により支承されていても良い。但し、第1のスプリングは、少なくとも鍵が静止位置にあるときに、第1の部材と第2の部材の両方に当たっていなければならない。尚、第1のスプリングがある部材に支承されている場合、その支承された位置において、第1のスプリングはその部材に当たっている。
【0021】
第1のスプリングが第1の部材又は第2の部材に当たったり離れたりする場合、第1のスプリングが当たったり離れたりする場所を、柔軟性を有する素材により被覆できる。かかる被覆により、第1のスプリングが第1の部材又は第2の部材に当たったり離れたりする際に雑音が発生することが防止される。柔軟性を有する素材としてフェルト等の各種布、樹脂、ゴムが例示される。
【0022】
演奏者が静止位置にある鍵を押してから、その鍵が静止位置に戻るまでの間、常に、第1のスプリングが第1の部材及び第2の部材から離れずに当たっているという構成が可能である。かかる構成により、第1のスプリングが第1の部材又は第2の部材に当たったり離れたりすることがなくなり、雑音の発生が防止される。
第1のスプリングと別の部材との干渉は、第1のスプリングの形状を調整することで回避される。又、第1のスプリングの形状の調整により、第1のスプリングが第1の部材と第2の部材を押圧する力の大きさと、押圧する位置と、が調整される。
【0023】
第1のスプリングを使って鍵の静荷重を調整できるので、鍵の前端側部分に鉛の錘を埋める必要がなくなり、従来あるグランドピアノよりも鍵の前端側部分の質量が軽くなる。鍵を押し下げた演奏者が指をその鍵から離すと、鍵の後端側部分がウィッペン等から受ける力によって下降し、鍵の前端側部分が上昇し、鍵が静止位置に戻る。鍵の前端側部分の質量が軽くなれば、鍵はウィッペン等から働く力により鋭敏に反応し、演奏者によって押し下げられた鍵が静止位置に戻るまでに要する時間が短縮される。従って、演奏者は一定時間内に同じ鍵をより多くの回数押して同じ弦を鳴らすことができ、グランドピアノにおける同じ鍵の連打性が向上する。
【0024】
ハンマーが弦を打つときに、第2のスプリングがハンマーシャンクを鍵がある方向に押圧すれば、弦を打って静止位置に戻るハンマーの復帰速度が加速される。又、第1のスプリングがハンマーシャンクを弦がある方向に押圧するが、この押圧によりハンマーの静止位置への復帰が遅れることを第2のスプリングが防止する。
ハンマーが弦を打つときに、第2のスプリングの撓み量が最大になり、ハンマーが弦から遠ざかるにつれ、第2のスプリングの撓み量が減少するという構成が可能である。かかる構成により、第2のスプリングから働く力により鍵の静荷重が重くなることが軽減され、あるいは、防止される。
【0025】
第2のスプリングがハンマーシャンクを押圧するのは、ハンマーが弦を打つときだけであるという構成が可能である。かかる構成では、鍵が静止位置にあるとき、第2のスプリングはハンマーシャンクを押圧しない。第2のスプリングから働く力により鍵の静荷重が重くなることが防止される。
第2のスプリングとして板バネや捻りコイルバネが例示される。
第2のスプリングと別の部材との干渉は、第2のスプリング形状を調整することで回避される。又、第2のスプリングの形状の調整により、第2のスプリングがハンマーシャンクを押圧する力の大きさと押圧する位置が調整される。
【0026】
第2のスプリングがハンマーシャンクに支承されている場合、第2のスプリングの質量が鍵の静荷重に影響する。この場合、第2のスプリングの質量を調整して、鍵の静荷重やハンマーヘッドの質量を調整できる。
第2のスプリングが、ハンマーシャンクとハンマーシャンクフレンジとハンマーシャンクレールとのうちのいずれかと当たったり離れたりする場合、第2のスプリングが当たったり離れたりする位置を、柔軟性を有する素材により被覆可能である。かかる被覆により、第2のスプリングが当たったり離れたりする際に雑音が発生することを防止できる。
【発明の効果】
【0027】
上記のようなグランドピアノのアクションであるので、グランドピアノの鍵の静荷重やハンマーヘッドの質量を容易かつ正確に調節可能であり、グランドピアノ内の中の限られたスペースに無理なく容易に設置可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】鍵が静止位置にあるときに左側から見た実施例1に係るアクションの構成図である。
【図2】第1のスプリング及び第2のスプリングの側面図である。
【図3】ハンマーヘッドが弦を打つ瞬間における左側から見た実施例1に係るアクションの構成図である。
【図4】鍵が静止位置にあるときの比較例に係るアクションの構成図である。
【図5】鍵が静止位置にあるときの実施例3に係るアクションの構成図である。
【図6】鍵が静止位置にあるときの実施例6に係るアクションの構成図である。
【図7】鍵が静止位置にあるときの実施例8に係るアクションの構成図である。
【図8】鍵が静止位置にあるときの実施例13に係るアクションの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明を実施した形態である実施例1を図1〜図3を参照しつつ説明する。
実施例1に係るグランドピアノのアクション1は、後述する第1のスプリング46及び第2のスプリング54を有する点を除き、従来あるものと同様の構成を有する。
アクション1は、鍵10、ウィッペン20、レペティションレバー23、ハンマー32を有する。
多数の鍵10(ひとつだけ図示)が筬11の上に左右方向に並んでいる。鍵10の中央部にはバランスピン12が入っている穴13が形成されている。鍵10はバランスピン12を支点として揺動可能に支持されている。キャップスタンスクリュー14が鍵10の中央部と後端部との間に形成されている。バックチェック15が鍵10の後端部に形成されている。尚、鍵10の長手方向の軸線を軸線X1という。
【0030】
ウィッペン20の下端部にあるヒール21がキャップスタンスクリュー14の上に当たっている。ウィッペン20の後端部がピン72によりウィッペンフレンジ63に回動可能に軸止されている。ウィッペンフレンジ63はウィッペンレール64に固定されている。ウィッペンレール64は左右のブラケット62(ひとつだけ図示)の間に架け渡されて固定されている。
支柱がレペティションレバーフレンジ22としてウィッペン20の中央部の上側面に形成されている。レペティションレバー23の中間部がピン73によりレペティションレバーフレンジ22の上端部に回動可能に軸止されている。
【0031】
L字型のジャック24がピン74によりウィッペン20の前端部に回動可能に軸止されている。ジャック24は突き上げ部25とジャックテール26を有する。突き上げ部25の先端部が、レペティションレバー23の前端部に形成された上下に貫通する穴(図示略)の中に差し込まれている。
ウィッペン20、レペティションレバーフレンジ22、レペティションレバー23及びジャック24が、ウィッペンフレンジ63を中心として一体になって回動する部品を形成している。
【0032】
ハンマー32はハンマーシャンク33、ハンマーヘッド34及びハンマーシャンクローラ35を有する。ハンマーシャンク33の前端部がピン75によりハンマーシャンクフレンジ65に回動可能に軸止されている。ハンマーシャンクフレンジ65はハンマーシャンクレール66に固定されている。ハンマーシャンクレール66は左右のブラケット62の間に架け渡されて固定されている。ハンマーヘッド34がハンマーシャンク33の後端に取り付けられており、ハンマーシャンクローラ35がハンマーシャンク33の前端部近傍の下側面に取り付けられている。尚、ハンマーシャンク33の長手方向の軸線を軸線X2という。
【0033】
ハンマーシャンク33、ハンマーヘッド34及びハンマーシャンクローラ35が、ハンマーシャンクフレンジ65を中心として一体になって回動する部品を形成している。
レペティションレバー23がハンマーシャンク33の下方に位置する。鍵10が静止位置にあるとき、ハンマーシャンクローラ35がレペティションレバー23の上に当たっている。ハンマーシャンクローラ35がレペティションレバー23に当たる位置P3は、レペティションレバー23の前端部の前記穴がある位置である。
【0034】
ハンマーシャンク33の後端部の下方であって、且つ、ウィッペン20の後端部の上方には、ハンマーストップレール67が形成されている。ハンマーストップレール67は左右のブラケット62の間に架け渡されて固定されている。
弦80がハンマーヘッド34の上方に張られている。
レペティションレバー23が第1の部材40をなし、ハンマーシャンク33が第2の部材41をなしている。
【0035】
第1のスプリング46が第1の部材40と第2の部材41との間に装着されている。図2に示すように、第1のスプリング46は捻りコイルバネであり、コイル部47と2本の足48、49を有する。足48がコイル部47の一端から伸びており、足49がコイル部47の他端から伸びている。足48が第1の部材40の上側面に植設されている。足48が植設された位置が、第1のスプリング46が第1の部材40に当たる位置P1である。
位置P1は位置P3及びピン73よりも後方にある。足49は前方斜め上方に向かって伸びている。鍵10が静止位置にあるとき、足49の先端部が位置P2において第2の部材41に下側から当たっている。位置P2はハンマーシャンクローラ35よりもハンマーヘッド34側にある。
【0036】
第1のスプリング46は、ハンマー32が最も下降した位置にあるときに第1のスプリング46の撓み量が最大となる形状を有する。又、第1のスプリング46は、ハンマーヘッド34が弦80を打つときに第1のスプリング46の撓み量が零になり、且つ、足49の先端部が第2の部材41に下側から当たる形状を有する。即ち、第1のスプリング46は、常に第1のスプリング46が第1の部材40と第2の部材41に当たっている形状を有する。かかる形状を作るには、足48、49の長さや曲がり具合を適宜選べばよい。
【0037】
第2のスプリング54がハンマーシャンクフレンジ65とハンマーシャンク33との間に装着されている。図2に示すように、第2のスプリング54は捻りコイルバネであり、コイル部55と2本の足56、57を有する。足56がコイル部55の一端から伸びており、足57がコイル部55の他端から伸びている。足56はハンマーシャンクフレンジ65の上側面に植設されている。足56を植設する位置はピン75よりも前方にある。足57が後方に向かって伸びており、足57の先端部がハンマーシャンク33に上方に位置する。第2のスプリング54は、山形に湾曲しており、ハンマーヘッド34が弦80を打つときにだけ足57の先端部がハンマーシャンク33に上側から当たる形状を有する。かかる形状を作るには、足56、57の長さや曲がり具合を適宜選べばよい。
【0038】
次に、作用について説明する。尚、以下の説明において、鍵10の静荷重のことを単に「静荷重」という。
先ず、鍵10が静止位置にある場合を説明する(図1を参照)。
鍵10の後端、ウィッペン20、及び、レペティションレバー23の後端は、それぞれ最も下降した位置にある。ハンマーシャンクローラ35が位置P3においてレペティションレバー23の前記穴の上に当たっている。
【0039】
第1のスプリング46は第1の部材40と第2の部材41との間に挟まれて撓んでいる。撓んだ第1のスプリング46から発生する力は、位置P1において第1の部材40を鍵10がある方向に押圧する。又、撓んだ第1のスプリング46から発生する力は、位置P2において第2の部材41を弦80がある方向に押圧する。第2のスプリング54の足57はハンマーシャンク33から離れており、第2のスプリング54からハンマーシャンク33には力が働いていない。従って、第2のスプリング54は静荷重に影響せず、ハンマー32の上昇を妨げない。
【0040】
ヒール21がキャップスタンスクリュー14を下向きに押圧している。この下向きの力に所定の比例定数kを乗じたものが静荷重である。比例定数kは「穴13の中央とキャップスタンスクリュー14との間の軸線X1方向の距離」を「鍵10の前端と穴13の中央との間の軸線X1方向の距離」で割った値である。典型的な寸法の白鍵においてk=0.50であり、典型的な寸法の黒鍵においてk=13/21である。
【0041】
次に、演奏者が静止位置にある鍵10を押す場合を説明する。
演奏者が静荷重を超える大きさの力で静止位置にある鍵10を押すと、キャップスタンスクリュー14がヒール21を下から押し上げる。ウィッペン20がウィッペンフレンジ63を中心として回動しつつ上昇する。レペティションレバーフレンジ22、レペティションレバー23及びジャック24は、ウィッペン20と一体になってウィッペンフレンジ63を中心として回動しつつ上昇する。
そして、レペティションレバー23がハンマーシャンクローラ35を押し上げ、ジャック24の突き上げ部25がハンマーシャンクローラ35を突き上げる。この突き上げにより、ハンマー32がハンマーシャンクフレンジ65を中心として回動しつつ上昇する。演奏者が引き続き鍵10を押し続けると、突き上げ部25が前方に回動してハンマーシャンクローラ35の下から外れる。
【0042】
その後もハンマー32は惰性で上方の弦80に向かって回動し、ハンマーシャンクローラ35がレペティションレバー23から離れて、ハンマー32の動きが鍵10の動きから切り離される。そして、ハンマーヘッド34が弦80を打つ(図3を参照)。
ハンマーヘッド34が弦80を打った後、ハンマー32は直ちに反転し、回動しつつ下降する。そして、ハンマーシャンクローラ35がレペティションレバー23の上に当たり、ハンマーシャンクローラ35がレペティションレバー23を押し下げる。その後、ハンマーヘッド34はバックチェック15につかまって止まる。
【0043】
図3に示すように、ハンマーヘッド34が弦80を打つとき、第2のスプリング54の足57の先端部がハンマーシャンク33に上側から当たり、第2のスプリング54が撓む。撓んだ第2のスプリング54がハンマーシャンク33を鍵10がある方向に押圧する。第2のスプリング54からの押圧によりハンマー32の下降速度が加速され、ハンマーヘッド34と弦80との接触時間が短縮される。ハンマーヘッド34と弦80との接触時間が短縮されることにより、弦80が発する音はよりはっきりしたものになる。
【0044】
ハンマー32が下降すると、第2のスプリング54の足57は直ちにハンマーシャンク33から離れる。従って、第2のスプリング54がハンマーシャンク33を押圧するのはハンマー32が弦80を打つときのみである。
演奏者が指を鍵10から離すと、ウィッペン20、レペティションレバー23及びハンマー32等の荷重が、ヒール21からキャップスタンスクリュー14に働き、鍵10の後端部が下降する。バックチェック15は鍵10の後端部と一緒に下降し、ハンマーヘッド34がバックチェック15から離れ、ハンマー32がさらに下降する。そして、ハンマーシャンク33がハンマーストップレール67に瞬間的に当たった後、ハンマー32が数mm上昇して止まり、鍵10が静止位置に戻る。ハンマーシャンク33がハンマーストップレール67に瞬間的に当たるとき、ハンマー32は最も下降した位置にある。
【0045】
次に、第1のスプリング46が静荷重に及ぼす作用について説明する。
先ず、比較例として、第1のスプリング46及び第2のスプリング54を有していないアクション8を説明する(図4を参照)。アクション8は従来ある典型的なグランドピアノのアクションと同じ構成を有する。
図4中では、アクション1と同じ構成のものについては同じ符号を付し、ウィッペン20やハンマー32等に働く力をベクトルで表示する。これらのベクトルは力の向きのみを表し、ベクトルの長さは実際の力の大きさを表さない。尚、このことは、図1や後に参照する図5〜8においても同様である、
鍵10が静止位置にあるアクション8において、ウィッペン20及びハンマー32の回転モーメントを考えると式(A1)、(A2)が成立し、力の釣り合いを考えると式(A3)、(A4)が成立する。
【0046】
【数1】

【0047】
式(A1)〜(A4)において用いた符号は以下の通りである。
1は、ハンマーシャンクフレンジ65を中心として一体になって回動する部品の質量の合計であり、ハンマーシャンク33、ハンマーヘッド34及びハンマーシャンクローラ35の質量の合計である。m2は、ウィッペンフレンジ63を中心として一体になって回動する部品の質量の合計である。
1Rは、位置P3においてレペティションレバー23がハンマーシャンクローラ35を押し上げる力である。f2Rは、位置P3においてハンマーシャンクローラ35がレペティションレバー23を押し下げる力である。力f1R、f2Rは、ともに軸線X2と直交する方向の力である。fKは、キャップスタンスクリュー14がヒール21を押し上げる力の鉛直方向成分である。
【0048】
1Wは、ハンマーシャンクフレンジ65を中心として一体になって回動する部品の重心とピン75との間の軸線X2方向の距離である。d1Rは、位置P3とピン75との間の軸線X2方向の距離である。d2Wは、ウィッペンフレンジ63を中心として一体になって回動する部品の重心とピン72との間の水平方向の距離である。dKは、キャップスタンスクリュー14の先端とピン72との間の水平方向の距離である。d2Rは、位置P3とピン72との間の水平方向の距離である。
kは前述した比例定数である。θは、鍵10が静止位置にあるときに軸線X2が水平方向に対してなす角度であり、0°<θ<90°である。Fは静荷重であり、gは重力加速度である。
式(A1)〜(A4)を連立し変形すると式(A5)が得られる。
【0049】
【数2】

【0050】
アクション8を有するグランドピアノを弾くとき、演奏者は静荷重Fを超える大きさの力で鍵10を押す。この結果、力fKを超える大きさの力がキャップスタンスクリュー14からヒール21に働き、アクション8が作動する。
次に、図1を参照しつつ、アクション1の静荷重について述べる。
アクション1のハンマーヘッド34の質量は、アクション8のハンマーヘッド34の質量よりもΔm1だけ重い。
鍵10が静止位置にあるアクション1において、ウィッペン20及びハンマー32の回転モーメントを考えると式(B1)、(B2)が成立し、力の釣り合いを考えると式(B3)〜(B5)が成立する。
【0051】
【数3】

【0052】
式(B1)〜(B5)において、式(A1)〜(A5)と同じものについては同じ符号を使用する。式(B1)〜(B5)において新たに用いた符号は以下の通りである。
Δm1は、アクション8に対するハンマーヘッド34の質量の変化分である。mS1は、第1のスプリング46の質量である。
1R´は、位置P3においてレペティションレバー23がハンマーシャンクローラ35を押し上げる力である。f2R´は、位置P3においてハンマーシャンクローラ35がレペティションレバー23を押し下げる力である。f1Sは、位置P2において第1のスプリング46が第2の部材41を弦80がある方向に押圧する力である。f2Sは、位置P1において第1のスプリング46が第1の部材40を鍵10がある方向に押圧する力である。力f1R´、f2R´、f1S、f2Sは、すべて軸線X2と直交する方向の力である。ΔfKは、アクション8に対する力fKの変化分である。アクション8に対し、キャップスタンスクリュー14がヒール21を押し上げる力が小さい場合、ΔfKは負となり、キャップスタンスクリュー14がヒール21を押し上げる力が大きい場合、ΔfKは正となる。
【0053】
Δd1Wは、アクション8に対する距離d1Wの変化分である。アクション8に対し、ハンマーシャンクフレンジ56を中心として一体となって回動する部品の重心がハンマーヘッド34側に移動する場合、距離Δd1Wは正となり、重心がハンマーシャンクフレンジ65側に移動する場合、距離Δd1Wは負となる。Δd2Wは、アクション8に対する距離d2Wの変化分である。アクション8に対し、ウィッペンフレンジ63を中心として一体となって回動する部品の重心が前方に移動する場合、距離Δd2Wは正となり、重心が後方に移動する場合、距離Δd2Wは負となる。
【0054】
1Sは、位置P2とピン75との間の軸線X2方向の距離である。d2Sは、位置P1とピン72との間の水平方向の距離である。アクション1を上方から見て位置P1がピン72よりも前方にある場合、距離d2Sは正となり、位置P1がピン72よりも後方にある場合、距離d2Sは負となる。
ΔFは、アクション8に対する荷重Fの変化分である。アクション8に対し、静荷重が重い場合、ΔFは正となり、静荷重が軽い場合、ΔFは負となる。
式(A5)、(B1)〜(B5)を連立し変形すると式(B6)〜(B9)が得られる。
【0055】
【数4】

【0056】
アクション1を有するグランドピアノを弾くとき、演奏者は静荷重F+ΔFを超える大きさの力で鍵10を押す。この結果、力fK+ΔfKを超える大きさの力がキャップスタンスクリュー14からヒール21に働き、アクション1が作動する。
式(B6)、(B7)におけるα1(f1S、d1S、d2S)は力f1S、距離d1S、d2Sの関数であり、静荷重に対する第1のスプリング46の強さと装着位置の寄与を表す。式(B6)、(B8)におけるβ1(Δm1、Δd1W)は質量Δm1、距離Δd1Wの関数であり、静荷重に対するハンマーヘッド34の質量の変化の寄与を表す。式(B6)、(B9)におけるγ1(mS1、Δd2W)は質量mS1、距離Δd2Wの関数であり、静荷重に対する第1のスプリング46の質量の寄与を表す。
【0057】
式(B6)〜(B9)から以下のことがわかる。
質量mS1が零に近似される場合、距離Δd2Wは零に近似され、関数γ1(mS1、Δd2W)も零に近似される。質量Δm1が零に近似される場合、距離Δd1Wが零に近似され、関数β1(Δm1、Δd1W)も零に近似される。質量Δm1が零ならば、距離Δd1Wが零になり、関数β1(Δm1、Δd1W)も零になる。
位置P2がハンマーシャンクフレンジ65側からハンマーヘッド34側に移動すると、距離d1Sが増大し、関数α1(f1S、d1S、d2S)が減少する。位置P1が前方から後方へ移動すると、距離d2Sが減少し、関数α1(f1S、d1S、d2S)も減少する。(d2S/d2R)−(d!S/d!R)が負になれば、関数α1(f1S、d1S、d2S)も負になる。
【0058】
式(B6)〜(B9)は、第1のスプリング46の有無と、ハンマーヘッド34の質量の変化と、静荷重の変化との間に成立する関係を表す。式(B6)〜(B9)を用いれば、アクション1において所望の静荷重とハンマーヘッド34の質量を得るために必要な第1のスプリング46の弾性係数、形状、質量、装着位置が定まる。
第1のスプリング46の弾性係数と形状は、ハンマー32が最も下降した位置にあるときに第1のスプリング46の撓み量が最大になることと、ハンマーヘッド34が弦80を打つときに第1のスプリング46の撓み量が零になるとともに第1のスプリング46が第2の部材41に当たっていることと、力f1Sの大きさと、位置P1及びP2と、から、定まる。又、位置P1及びP2から、第1のスプリング46の装着位置が定まる。
【0059】
式(B6)〜(B9)からわかるように、力f1S、距離d1S、d2S、Δd1W、Δd2W、質量Δm1、mS1のうちの少なくともひとつが変化すれば、荷重ΔFが変化する。力f1S、距離d1S、d2S、Δd1W、Δd2W、質量Δm1、mS1のうちの少なくともひとつを変えれば、アクション1の静荷重やハンマーヘッド34の質量を調整できる。
アクション8に第1のスプリング46と第2のスプリング54を装着してアクション1を形成する場合を説明する。例えば、アクション1の静荷重をアクション8の静荷重よりΔFだけ軽くし、アクション1のハンマーヘッド34の質量をアクション8のハンマーヘッド34の質量よりΔm1だけ重くする場合を考える。
【0060】
先ず、所望の荷重ΔFと質量Δm1の値を式(B6)〜(B9)に代入し、これらの式を満足する力f1S、距離d1S、d2S、Δd1W、Δd2W、質量mS1の値を任意の順番で定める。力f1S、距離d1S、d2S、質量mS1の値が定まれば、第1のスプリング46の弾性係数と形状が定まる。
定めた距離d1S、d2Sに従って、第1のスプリング46の足48を第1の部材40に植設し、足49の先端部を第2の部材41に当てる。第1のスプリング46を装着した後、第1のスプリング46の曲がり具合や撓み具合を調整し、静荷重F+ΔFを定めた値に合わせ、併せて、第1のスプリング46と他の部品の干渉を防止する。
【0061】
第1のスプリング46の形状は、ハンマーヘッド34が弦80を打つ際に、その撓み量が零となる形状である。これにより、ハンマーヘッド34が弦80を打つ際、第1のスプリング46からハンマーシャンクに働く力が零となり、アクション1は静止位置の位置にすばやく復帰する。
第1のスプリング46を装着したら、第2のスプリング54の足56をハンマーシャンクフレンジ65に植設する。そして、第2のスプリング54の曲がり具合や撓み具合を調整し、ハンマーヘッド34が弦80を打つときにだけ、足57の先端部をハンマーシャンク33の上側に当て、併せて、第2のスプリング54と他の部品の干渉を防止する。
【0062】
次に、既存のアクション1において、静荷重やハンマーヘッド34の質量を調整する場合を説明する。
先ず、アクション1から第1のスプリング46と第2のスプリング54とを取り外したアクション8を想定し、このアクション8における質量m1と距離d1Wを算出する。後は、アクション8からアクション1を新たに形成すると仮定し、以上に述べた手順を行う。
【0063】
実施例2として、アクション1において、第1の部材40が、ウィッペン20又はレペティションレバーフレンジ22であり、第1のスプリング46が第1の部材40にのみ植設されていても良い。又、第2のスプリング54がハンマーシャンクレール66に植設されていても良い。この場合も、上記と同様、式(B6)〜(B9)が成立する。
図5に実施例3に係るアクション2を示す。アクション2では第1の部材40がレペティションレバー23である。第1のスプリング46の足48が第2の部材41の下側面に植設されている。足48を植設する位置が、第1のスプリング46が第2の部材41に当たる位置P2である。鍵10が静止位置にあるとき、第1のスプリング46の足49の先端部が第1の部材40に位置P1において上側から当たっている。
【0064】
第1のスプリング46の形状は、ハンマー32が最も下降した位置にあるとき、第1のスプリング46の撓み量が最大となる形状であり、ハンマーヘッド34が弦80を打つときに第1のスプリング46の撓み量が零になるとともに足49が第1の部材40に当たっている形状である。足49は、途中で大きく屈曲しているので、足48を位置P2に植設でき、足49を位置P1に当てることができる。
【0065】
第2のスプリング54の足56がハンマーシャンク33の上側に植設されている。第2のスプリング54の足57は前方に向かって伸びており、足57の先端部がハンマーシャンクフレンジ65の上方に位置している。第2のスプリング54の形状は、山形に湾曲しており、ハンマーヘッド34が弦80を打つときにだけ、足57がハンマーシャンクフレンジ65に上側から当たる形状である。
アクション2の他の構成は実施例1のアクション1の構成と同じである。
アクション2の鍵10が静止位置にあるとき、ウィッペン20及びハンマー32の回転モーメントを考えると式(C1)、(C2)が成立し、力の釣り合いを考えると式(C3)〜(C5)が成立する。
【0066】
【数5】

【0067】
式(C1)〜(C5)において、式(B1)〜(B5)と同じものについては同じ符号を使用する。式(C1)〜(C5)において新たに用いた符号mS2は、第2のスプリング54の質量である。式(A5)、(C1)〜(C5)を連立し変形すると式(C6)〜(C9)が得られる。
【0068】
【数6】

【0069】
式(C6)、(C7)におけるα2(f1S、d1S、d2S)は力f1S、距離d1S、d2Sの関数であり、静荷重に対する第1のスプリング46の強さと装着位置の寄与を表す。式(C6)、(C8)におけるβ2(Δm1、Δd1W)は質量Δm1、距離Δd1Wの関数であり、静荷重に対するハンマーヘッド34の質量の変化の寄与を表す。式(C6)、(C9)におけるγ2(mS1、mS2、Δd1W)は質量mS1、mS2、距離Δd1Wの関数であり、静荷重に対するハンマーヘッド34の質量の変化と第1のスプリング46の質量と第2のスプリング54の質量との寄与を表す。
【0070】
式(C6)〜(C9)から以下のことがわかる。
質量mS1、mS2がともに零に近似される場合、関数γ2(mS1、mS2、Δd1W)も零に近似される。このときの式(C6)〜(C9)は、アクション1において質量mS1を零にしたときの式(B6)〜(B9)と同じ形である。
質量mS1と質量mS2の合計が零に近似される場合、距離Δd1Wも零に近似され、関数β2(Δm1、Δd1W)と関数γ2(mS1、mS2、Δd1W)も零に近似される。このときの式(C6)〜(C9)は、アクション1において質量Δm1、mS1、距離d1W、d2Wを零にしたときの式(B6)〜(B9)と同じ形である。
【0071】
位置P2がハンマーシャンクフレンジ65側からハンマーヘッド34側に移動すると、距離d1Sが増大し、関数α2(f1S、d1S、d2S)が減少する。位置P1が前方から後方へ移動すると、距離d2Sが減少し、関数α2(f1S、d1S、d2S)が減少する。(d2S/d2R)−(d!S/d!R)が負であれば、関数α2(f1S、d1S、d2S)も負になる。
式(C6)〜(C9)は、第1のスプリング46の有無と、第2のスプリング54の有無と、ハンマーヘッド34の質量の変化と、静荷重の変化との間に成立する関係を表す。式(C6)〜(C9)を用いれば、アクション2において所望の静荷重とハンマーヘッド34の質量を得るために必要な第1のスプリング46の弾性係数、形状、質量、装着位置と、第2のスプリング54の質量とが定まる。
【0072】
第1のスプリング46の弾性係数と形状は、ハンマー32が最も下降した位置にあるときに第1のスプリング46の撓み量が最大になることと、ハンマーヘッド34が弦80を打つときに第1のスプリング46の撓み量が零になるとともに第1のスプリング46が第1の部材40に当たっていることと、力f1Sの大きさと、位置P1及びP2と、から、定まる。位置P1及びP2から、第1のスプリング46の装着位置が定まる。
【0073】
式(C6)〜(C9)からわかるように、力f1S、距離d1S、d2S、Δd1W、質量Δm1、mS1、mS2のうちの少なくともいずれかひとつが変化すれば、荷重ΔFが変化する。力f1S、距離d1S、d2S、Δd1W、質量Δm1、mS1、mS2のうちの少なくともひとつの値を変えれば、アクション2の静荷重やハンマーヘッド34の質量を調整できる。
アクション8に第1のスプリング46と第2のスプリング54を装着してアクション2を形成する場合を説明する。例えば、アクション2の静荷重をアクション8の静荷重よりもΔFだけ軽くし、アクション2のハンマーヘッド34の質量をアクション8のハンマーヘッド34の質量よりもΔm1だけ重くする場合を考える。
【0074】
先ず、所望の荷重ΔFと質量Δm1の値を式(C6)〜(C9)に代入し、これらの式を満足する力f1S、距離d1S、d2S、Δd1W、質量mS1、mS2の値を任意の順番で選定する。力f1S、距離d1S、d2S、質量mS1の値が定まれば、第1のスプリング46の弾性係数と形状が定まる。
定めた値に従って第1のスプリング46と第2のスプリング54をアクション8に装着する。そして、第1のスプリング46と第2のスプリング54の曲がり具合や撓み具合を調整し、静荷重F+ΔFを定めた値に合わせ、第1のスプリング46や第2のスプリング54と他の部品の干渉を防止する。
【0075】
既存のアクション2において、静荷重やハンマーヘッド34の質量を調整する場合を説明する。
先ず、アクション2から第1のスプリング46と第2のスプリング54とを取り外したアクション8を想定し、このアクション8における質量m1と距離d1Wを算出する。後は、アクション8からアクション2を新たに形成すると仮定し、以上に述べた手順を行う。
【0076】
実施例4として、アクション2において、第1の部材40がウィッペン20又はレペティションレバーフレンジ22であっても良いし、第2のスプリング54の足57の先端部がハンマーシャンクレール66に当たるとしても良い。上記と同様、式(C6)〜(C9)が成立する。
実施例5として、アクション2において、第2のスプリング54がハンマーシャンクフレンジ65又はハンマーシャンクレール66に植設されていても良い。この場合、質量mS2は、静荷重に影響しない。質量mS2を零とした式(C6)〜(C9)が成立する。
【0077】
図6に実施例6に係るアクション3を示す。アクション3の構成は、第2のスプリング54の足56が第2の部材41に植設されている点を除き、実施例1のアクション1の構成と同じである。そして、第2のスプリング54の構成は、実施例3のアクション2における第2のスプリング54の構成と同じである。
アクション3の鍵10が静止位置にあるとき、ウィッペン20及びハンマー32の回転モーメントを考えると式(D1)、(D2)が成立し、力の釣り合いを考えると式(D3)〜(D5)が成立する。
【0078】
【数7】

【0079】
式(D1)〜(D5)において、式(B1)〜(B5)、(C1)〜(C5)と同じものについては同じ符号を使用する。式(A5)、(D1)〜(D5)を連立し変形すると式(D6)〜(D9)が得られる。
【0080】
【数8】

【0081】
式(D6)、(D7)におけるα3(f1S、d1S、d2S)は力f1S、距離d1S、d2Sの関数であり、静荷重に対する第1のスプリング46の強さと装着位置の寄与を表す。式(D6)、(D8)におけるβ3(Δm1、mS2、Δd1W)は質量Δm1、mS2、距離Δd1Wの関数であり、静荷重に対するハンマーヘッド34の質量の変化と第2のスプリング54の質量の寄与を表す。式(D6)、(D9)におけるγ3(mS1、Δd2W)は質量mS1、距離Δd2Wの関数であり、静荷重に対する第1のスプリング46の質量の寄与を表す。
【0082】
式(D6)〜(D9)から以下のことがわかる。
質量mS1が零に近似される場合、距離Δd2Wは零に近似され、関数γ3(mS1、Δd2W)も零に近似される。質量Δm1と質量mS2の合計が零に近似される場合、距離Δd1Wは零に近似され、β3(Δm1、mS2、Δd1W)も零に近似される。
位置P2がハンマーシャンクフレンジ65側からハンマーヘッド34側に移動すると、距離d1Sが増大し、関数α3(f1S、d1S、d2S)が減少する。位置P1が前方から後方へ移動すると、距離d2Sが減少し、関数α3(f1S、d1S、d2S)も減少する。(d2S/d2R)−(d!S/d!R)が負になれば、関数α3(f1S、d1S、d2S)も負になる。
【0083】
式(D6)〜(D9)は、第1のスプリング46の有無と、第2のスプリング54の有無と、ハンマーヘッド34の質量の変化と、静荷重の変化との間に成立する関係を表す。式(D6)〜(D9)を用いれば、アクション3において所望の静荷重とハンマーヘッド34の質量を得るために必要な第1のスプリング46の弾性係数、形状、質量、装着位置、第2のスプリング54の質量が定まる。
【0084】
第1のスプリング46の弾性係数と形状は、ハンマー32が最も下降した位置にあるときに第1のスプリング46の撓み量が最大になることと、ハンマーヘッド34が弦80を打つときに第1のスプリング46の撓み量が零になるとともに第1のスプリング46が第2の部材41に当たっていることと、力f1Sの大きさと、位置P1及びP2と、から、定まる。位置P1及びP2から、第1のスプリング46の装着位置が定まる。
【0085】
式(D6)〜(D9)からわかるように、力f1S、距離d1S、d2S、Δd1W、Δd2W、質量Δm1、mS1、mS2のうちの少なくともいずれかひとつが変化すれば、荷重ΔFが変化する。力f1S、距離d1S、d2S、Δd1W、Δd2W、質量Δm1、mS1、mS2のうちの少なくともひとつの値を変えれば、アクション3の静荷重やハンマーヘッド34の質量を調整できる。
【0086】
アクション8に第1のスプリング46と第2のスプリング54を装着してアクション3を形成する場合を説明する。例えば、アクション3の静荷重をアクション8の静荷重よりもΔFだけ軽くし、アクション3のハンマーヘッド34の質量をアクション8のハンマーヘッド34の質量よりもΔm1だけ重くする場合を考える。
先ず、所望の荷重ΔFと質量Δm1の値を式(D6)〜(D9)に代入し、これらの式を満足する力f1S、距離d1S、d2S、Δd1W、Δd2W、質量mS1、mS2の値を任意の順番で選定する。力f1S、距離d1S、d2S、質量mS1の値が定まれば、第1のスプリング46の弾性係数と形状が定まる。
【0087】
定めた値に従って第1のスプリング46と第2のスプリング54をアクション8に装着する。そして、第1のスプリング46と第2のスプリング54の曲がり具合や撓み具合を調整し、静荷重F+ΔFを定めた値に合わせ、第1のスプリング46や第2のスプリング54と他の部品の干渉を防止する。
既存のアクション3において、静荷重やハンマーヘッド34の質量を調整する場合を説明する。
【0088】
先ず、アクション3から第1のスプリング46と第2のスプリング54とを取り外したアクション8を想定し、このアクション8における質量m1と距離d1Wを算出する。後は、アクション8からアクション3を新たに形成すると仮定し、以上に述べた手順を行う。
実施例7として、アクション3において、第1の部材40がウィッペン20又はレペティションレバーフレンジ22であっても良いし、第2のスプリング54の足57の先端部がハンマーシャンクレール66に当たるとしても良い。上記と同様、式(D6)〜(D9)が成立する。
【0089】
図7に実施例8に係るアクション4を示す。アクション4では、第1の部材40がウィッペンレール64である。第1のスプリング46の足48が第1の部材40に植設されている。足48を植設する位置が、第1のスプリング46が第1の部材40に当たる位置P1である。第1のスプリング46の足49は湾曲又は屈曲し、第1のスプリング46と他の部品の干渉が防止されている。鍵10が静止位置にあるとき、足49の先端部が位置P2において第2の部材に下側から当たっている。アクション4の他の構成は実施例1のアクション1の構成と同じである。
アクション4の鍵10が静止位置にあるとき、ウィッペン20及びハンマー32の回転モーメントを考えると式(E1)、(E2)が成立し、力の釣り合いを考えると式(E3)、(E4)が成立する。
【0090】
【数9】

【0091】
式(E1)〜(E4)において、式(B1)〜(B5)と同じものについては同じ符号を使用する。式(A5)、(E1)〜(E4)を連立し変形すると式(E5)〜(E7)が得られる。
【0092】
【数10】

【0093】
式(E5)、(E6)におけるα4(f1S、d1S)は力f1S、距離d1Sの関数であり、静荷重に対する第1のスプリング46の強さと装着位置の寄与を表す。式(E5)、(E7)におけるβ4(Δm1、Δd1W)は質量Δm1、距離Δd1Wの関数であり、静荷重に対するハンマーヘッド34の質量の変化の寄与を表す。
式(E5)〜(E7)から以下のことがわかる。
距離d2S、Δd2W、質量mS1を零としたときの式(B6)〜(B9)の形は、式(E5)〜(E7)と同じである。
【0094】
質量Δm1が零であれば、距離Δd1Wが零になり、関数β4(Δm1、Δd1W)も零になる。このときの式(E5)〜(E7)は、距離d2S、Δd1W、Δd2W、質量Δm1、mS1をすべて零としたときの式(B6)〜(B9)と同じ形である。
関数α4(f1S、d1S)は常に負である。位置P2がハンマーシャンク65側からハンマーヘッド34側に移動すると、距離d1Sが増大し、関数α4(f1S、d1S)の絶対値が減少する。
【0095】
式(E5)〜(E7)は、第1のスプリング46の有無と、ハンマーヘッド34の質量の変化と、静荷重の変化との間に成立する関係を表す。式(E5)〜(E7)を用いれば、アクション4において所望の静荷重とハンマーヘッド34の質量を得るために必要な第1のスプリング46の弾性係数、形状、装着位置が定まる。尚、アクション4において、質量mS1、距離d2Sは静荷重に影響しない。
【0096】
第1のスプリング46の弾性係数と形状は、ハンマー32が最も下降した位置にあるときに第1のスプリング46の撓み量が最大になることと、ハンマーヘッド34が弦80を打つときに第1のスプリング46の撓み量が零になるとともに第1のスプリング46が第2の部材41に当たっていることと、力f1Sの大きさと、位置P1及びP2とから、定まる。又、位置P1及びP2から第1のスプリング46の装着位置が定まる。
【0097】
式(E5)〜(E7)からわかるように、力f1S、距離d1S、Δd1W、質量Δm1のうちの少なくともいずれかひとつが変化すれば、荷重ΔFが変化する。力f1S、距離d1S、Δd1W、質量Δm1のうちの少なくともひとつの値を変えれば、アクション4の静荷重やハンマーヘッド34の質量を調整できる。
アクション8に第1のスプリング46と第2のスプリング54を装着してアクション4を形成する場合を説明する。例えば、アクション4の静荷重をアクション8の静荷重よりΔFだけ軽くし、アクション4のハンマーヘッド34の質量をアクション8のハンマーヘッド34の質量よりΔm1だけ重くする場合を考える。
【0098】
先ず、所望の荷重ΔFと質量Δm1の値を式(E5)〜(E7)に代入し、これらの式を満足する力f1S、距離d1Sの値を選定する。距離Δd1Wと質量Δm1は、一方が定まれば他方も定まる。力f1Sと距離d1Sの値が定まれば、第1のスプリング46の弾性係数と形状が定まる。
定めた値に従って第1のスプリング46と第2のスプリング54をアクション8に装着する。そして、第1のスプリング46と第2のスプリング54の曲がり具合や撓み具合を調整し、静荷重F+ΔFを定めた値に合わせ、第1のスプリング46や第2のスプリング54と他の部品の干渉を防止する。
【0099】
既存のアクション4の静荷重やハンマーヘッド34の質量を調整する場合を説明する。
先ず、アクション4から第1のスプリング46と第2のスプリング54を取り外したアクション8を想定し、このアクション8における質量m1と距離d1Wを算出する。後は、アクション8からアクション4を新たに形成すると仮定し、以上に述べた手順を行う。
実施例9として、アクション4において、第1の部材40がウィッペンフレンジ63、ハンマーシャンクレール66又はハンマーシャンクフレンジ65であっても良いし、第2のスプリング54がハンマーシャンクレール66に植設されていても良い。上記と同様、式(E5)〜(E7)が成立する。
【0100】
実施例10として、アクション4において、第1の部材40がウィッペンレール64、ウィッペンフレンジ63、ハンマーシャンクレール66又はハンマーシャンクフレンジ65であり、第1のスプリング46が第2の部材41に植設されており、第2のスプリング54がハンマーシャンクフレンジ65又はハンマーシャンクレール66に植設されていても良い。この場合、質量mS1が静荷重に影響し、質量mS2は静荷重に影響しない。距離d2S、質量mS2を零とした式(C6)〜(C9)が成立する。
【0101】
実施例11として、アクション4において、第1の部材40がウィッペンレール64、ウィッペンフレンジ63、ハンマーシャンクレール66又はハンマーシャンクフレンジ65であり、第2の部材41に植設された第2のスプリング54がハンマーシャンクレール66又はハンマーシャンクフレンジ65に当たっても良い。この場合、質量mS2が静荷重に影響し、質量mS1は静荷重に影響しない。距離d2S、質量mS1を零とした式(C6)〜(C9)が成立する。
【0102】
実施例12として、アクション4において、第1の部材40がウィッペンレール64、ウィッペンフレンジ63、ハンマーシャンクレール66又はハンマーシャンクフレンジ65であり、第1のスプリング46と第2のスプリング54が第2の部材41に植設されており、第2のスプリング54がハンマーシャンクフレンジ65又はハンマーシャンクレール66に当たっても良い。この場合、質量mS1、mS2が静荷重に影響する。距離d2Sを零とした式(C6)〜(C9)が成立する。
実施例2、4、5、7、9〜12の各場合、それぞれで成立する関係式を用い、アクション8から各アクションを形成でき、既存の各アクションの静荷重やハンマーヘッド34の質量を調整できる。
【0103】
図8に実施例13に係るアクション5を示す。アクション5はハンマーストップレールの代わりにハンマーレスト27を有する。ハンマーレスト27はウィッペン20の後端部に形成されており、ウィッペン20と一体になってウィッペンフレンジ63を中心に回動する部品の一部をなす。ハンマーレスト27はピン72の後方に位置する。アクション5は、第1のスプリング46と第2のスプリング54を有する点を除き、ハンマーレストを有する従来のアクションと同様の構成を有する。
【0104】
ハンマーレスト27が第1の部材40をなす。第1のスプリング46の足48が第1の部材40に植設されている。足48を植設する位置が、第1のスプリング46が第1の部材40に当たる位置P1である。アクション5の他の構成は実施例1のアクション1の構成と同じである。
アクション5において式(B6)〜(B9)が成立する。アクション1と同様、式(B6)〜(B9)を用いてハンマーレストがある従来のアクションからアクション5を形成でき、既存のアクション5の静荷重やハンマーヘッド34の質量を調整できる。
【0105】
実施例14として、アクション5において、第1の部材40、第1のスプリング46及び第2のスプリング54が、実施例1〜12と同様に構成されていても良い。但し、この場合、第1の部材40がハンマーストップレールとなることはない。第1の部材40、第1のスプリング46及び第2のスプリング54の構成に応じて、実施例1〜12と同様の式が成立する。各場合において、それぞれ成立する関係式を用い、ハンマーレストがある従来のアクションからアクション5を形成でき、既存のアクション5の静荷重やハンマーヘッド34の質量を調整できる。
【0106】
実施例1〜14の各アクションでは、第1のスプリング46が第1の部材40と第2の部材41とのうちの一方にのみ植設されている。この代わりに、これらの各アクションにおいて、第1のスプリング46の足48、49の一方が第1の部材40に植設されるとともに、他方が第2の部材41に植設されていても良い。
尚、以上の説明で、第1のスプリング46あるいは第2のスプリング54がある部材に植設されているということは、第1のスプリング46あるいは第2のスプリング54がその部材に支承されているとともに当たっているということである。
【符号の説明】
【0107】
1、2、3、4、5、8 グランドピアノのアクション
10 鍵
20 ウィッペン
22 レペティションレバーフレンジ
23 レペティションレバー
27 ハンマーレスト
32 ハンマー
33 ハンマーシャンク
34 ハンマーヘッド
40 第1の部材
41 第2の部材
46 第1のスプリング
54 第2のスプリング
63 ウィッペンフレンジ
64 ウィッペンレール
65 ハンマーシャンクフレンジ
66 ハンマーシャンクレール
67 ハンマーストップレール
80 弦

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウィッペンレールに固定されたウィッペンフレンジに回動可能に軸止されたウィッペンと、当該ウィッペン上に形成されたレペティションレバーフレンジに回動可能に軸止されたレペティションレバーと、ハンマーシャンクレールに固定されたハンマーシャンクフレンジに回動可能に軸止されたハンマーと、当該ハンマーのハンマーシャンクの下方に形成されたハンマーストップレールと、を備えており、演奏者が鍵を押すと、当該ハンマーが弦に向かって回動するグランドピアノのアクションであって、
前記ウィッペンレールと、前記ウィッペンフレンジと、前記ウィッペンと、前記レペティションレバーフレンジと、前記レペティションレバーと、前記ハンマーシャンクレールと、前記ハンマーシャンクフレンジと、前記ハンマーストップレールと、のうちのいずれかひとつが、第1の部材をなし、
前記ハンマーシャンクが、第2の部材をなし、
第1のスプリングが、前記第1の部材と前記第2の部材とのうちのいずれか一方により、又は、両方により支承されて、前記第1の部材と前記第2の部材との間に装着されており、
前記鍵が静止位置にあるときに、前記第1のスプリングが、前記第1の部材と前記第2の部材との間に挟まれて撓み、前記第1の部材を前記鍵がある方向に押圧し、前記第2の部材を前記弦がある方向に押圧することを特徴とするグランドピアノのアクション。
【請求項2】
ウィッペンレールに固定されたウィッペンフレンジに回動可能に軸止されたウィッペンと、当該ウィッペン上に形成されたレペティションレバーフレンジに回動可能に軸止されたレペティションレバーと、当該ウィッペンに形成されたハンマーレストと、ハンマーシャンクレールに固定されたハンマーシャンクフレンジに回動可能に軸止されたハンマーと、を備えており、演奏者が鍵を押すと、当該ハンマーが弦に向かって回動するグランドピアノのアクションであって、
前記ウィッペンレールと、前記ウィッペンフレンジと、前記ウィッペンと、前記レペティションレバーフレンジと、前記レペティションレバーと、前記ハンマーレストと、前記ハンマーシャンクレールと、前記ハンマーシャンクフレンジと、のうちのいずれかひとつが、第1の部材をなし、
前記ハンマーのハンマーシャンクが、第2の部材をなし、
第1のスプリングが、前記第1の部材と前記第2の部材とのうちのいずれか一方により、又は、両方により支承されて、前記第1の部材と前記第2の部材との間に装着されており、
前記鍵が静止位置にあるときに、前記第1のスプリングが、前記第1の部材と前記第2の部材との間に挟まれて撓み、前記第1の部材を前記鍵がある方向に押圧し、前記第2の部材を前記弦がある方向に押圧することを特徴とするグランドピアノのアクション。
【請求項3】
演奏者が静止位置にある前記鍵を押してから前記鍵が静止位置に戻るまでの間は常に、前記第1のスプリングが、前記第1の部材及び前記第2の部材から離れずに当たっていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のグランドピアノのアクション。
【請求項4】
第2のスプリングが、前記ハンマーシャンクフレンジと前記ハンマーシャンクレールと前記ハンマーシャンクとのうちのいずれかひとつにより支承されており、
前記ハンマーが前記弦を打つときに、前記第2のスプリングが、前記ハンマーシャンクフレンジ又は前記ハンマーシャンクレールと、前記ハンマーシャンクと、の間で撓み、前記ハンマーシャンクを前記鍵がある方向に押圧することを特徴とする請求項1から請求項3のうちのいずれかの請求項に記載のグランドピアノのアクション。
【請求項5】
前記第2のスプリングが、前記ハンマーシャンクフレンジと前記ハンマーシャンクレールとのうちのいずれかにより支承されている場合、前記ハンマーが前記弦を打つときにだけ、前記第2のスプリングが前記ハンマーシャンクに当たって撓み、この撓んだ前記第2のスプリングが前記ハンマーシャンクを前記鍵がある方向に押圧し、
前記第2のスプリングが、前記ハンマーシャンクにより支承されている場合、前記ハンマーが前記弦を打つときにだけ、前記第2のスプリングが前記ハンマーシャンクフレンジ又は前記ハンマーシャンクレールに当たって撓み、この撓んだ前記第2のスプリングが前記ハンマーシャンクを前記鍵がある方向に押圧することを特徴とする請求項4に記載のグランドピアノのアクション。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−158757(P2011−158757A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−21120(P2010−21120)
【出願日】平成22年2月2日(2010.2.2)
【出願人】(509214469)有限会社藤井ピアノサービス (2)