説明

グランド型ピアノの消音装置

【課題】 ハンマーの回動の阻止位置の調整を容易に行えるとともに、ストップレールの長さの短縮によって、ハンマーの回動を所定のタイミングで安定的に阻止することができるグランド型ピアノの消音装置を提供する。
【解決手段】 ハンマー6の後方において左右方向に延びる回動自在の駆動ロッド17と、駆動ロッド17に設けられた押圧部18と、アクション7に回動自在に設けられ、ハンマー6を越えて延びる支持部材20と、支持部材20に支持され、ハンマーシャンク6aの後端部付近に対向するように延びるストップレール19と、駆動ロッド17を駆動することにより、押圧部18を介して、ストップレール19をハンマーシャンク6aの回動範囲内に回動させる駆動機構21と、ストップレール19を、ハンマーシャンク6aの回動範囲外に付勢するばね34と、を備えていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、消音ピアノあるいは自動演奏ピアノなどの複合型ピアノに適用され、ハンマーによる弦の打弦を、通常演奏モード時に許容するとともに、消音演奏モード時に阻止するためのグランド型ピアノの消音装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種のグランド型ピアノの消音装置として、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。この消音装置50は、消音ピアノ51に適用されたものである。図4に示すように、この消音ピアノ51は、複数の鍵52aと、弦53を打弦するハンマー54と、鍵盤52の後部上方に設けられ、鍵52aの回動に伴って作動し、ハンマー54を回動させるアクション55などを備えている。
【0003】
消音装置50は、弦53とハンマー54のハンマーシャンク54aとの間に設けられた駆動ロッド56と、この駆動ロッド56に固定されたストッパ57などを備えている。駆動ロッド56は、1本の丸棒で構成され、ハンマーシャンク54aの後部上方に、複数の鍵52aの並び方向(以下「左右方向」という)にそれらの全体にわたって延びており、その両端部においてピアノ本体(図示せず)に回動自在に支持されている。また、特許文献2に開示されるように、フレーム(図示せず)には通常、駆動ロッド56の途中の位置に、フレームと支柱(図示せず)を連結するための顎部(図示せず)が配置されているので、駆動ロッド56は、この顎部に形成した孔(図示せず)に通された状態で設けられている。駆動ロッド56は、ワイヤやモータ(ともに図示せず)などを有する駆動機構(図示せず)に連結されている。
【0004】
ストッパ57は、消音演奏モード時に、ハンマー54による弦53の打弦を阻止するためのものであり、駆動ロッド56に固定された本体部57aと、本体部57aに取り付けられたクッション材57bで構成されている。本体部57aは、駆動ロッド56に沿い、そのほぼ全体にわたって連続的に延びる断面矩形状のものであり、駆動ロッド56と反対側の面にクッション材57bが取り付けられている。以上の構成により、ストッパ57は、駆動機構によって駆動ロッド56が駆動されることにより、ハンマー54のハンマーシャンク54aの回動範囲から退避した退避位置(図4の実線位置)と、ハンマーシャンク54aの回動範囲内に進入した進入位置(図4の点線位置)との間で回動する。
【0005】
通常演奏モード時には、ストッパ57が退避位置に駆動されるとともに、この状態で、鍵52aが押鍵されると、鍵52aの回動に伴ってアクション55が作動し、そのジャック58がハンマー54を突き上げ、上方に回動させることによって、ハンマーヘッド54bが弦53を打弦する。一方、消音演奏モード時には、ストッパ57が時計方向に回動し、進入位置まで駆動される。そして、鍵52aが押鍵されると、ハンマー54の回動の途中、ハンマーヘッド54bが弦53を打弦する直前で、ハンマーシャンク54aの後端部が進入位置に位置するストッパ57に当接することによって、ハンマー54のそれ以上の回動が阻止され、弦53の打弦が阻止される。
【0006】
グランド型ピアノでは一般に、鍵盤52およびアクション55を載置した筬(図示せず)全体が棚板(図示せず)に対して移動自在に構成されており、ハンマー54の打弦点の調整やアクション55のメンテナンスを、筬全体をピアノ本体から前方に引き出した状態で行う。これに対し、従来の消音装置50では、駆動ロッド56およびストッパ57が、ピアノ本体に支持されるとともに、ハンマーシャンク54aの後部上方に配置されているので、駆動ロッド56およびストッパ57を、筬の引き出しの際にハンマー54のハンマーヘッド54bに接触しないよう、ハンマーヘッド54bよりも上方に配置しなければならない。このため、ストッパ57が進入位置において、ハンマーシャンク54aの回動を阻止するためには、ストッパ57を長くせざるを得ない。ストッパ57が長くなると、進入位置における下端位置がずれやすいとともに、ハンマーシャンク54aが当接したときのストッパ57の圧縮量や撓みが大きくなるため、ハンマー54の回動を所定のタイミングで安定的に阻止することが困難になる。
【0007】
また、駆動ロッド56およびストッパ57が、ピアノ本体に支持されているので、ストッパ57とハンマーシャンク54aとの位置関係の調整を、筬を引き出した状態で行うことができないため、その調整に非常に手間がかかる。
【0008】
さらに、駆動ロッド56がフレームの顎部に貫通した状態で配置されているので、顎部への孔の加工や、この孔に駆動ロッド56を通すという煩雑な組立作業などが必要になり、それにより、製造コストが増大してしまう。
【0009】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、ハンマーの回動の阻止位置の調整を容易に行えるとともに、ストップレールの長さの短縮によって、ハンマーの回動を所定のタイミングで安定的に阻止することができるグランド型ピアノの消音装置を提供することを目的とする。
【0010】
【特許文献1】特開2001−331172号公報(図1)
【特許文献2】特開2003−177737号公報(図14)
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的を達成するために、請求項1に係る発明は、ピアノ本体を有するとともに、鍵の回動に伴い、前後方向に延びるハンマーシャンクを有するハンマーをアクションによって回動させるグランド型ピアノにおいて、ハンマーによる弦の打弦を、通常演奏モード時に許容するとともに、消音演奏モード時に阻止するためのグランド型ピアノの消音装置であって、ピアノ本体に設けられ、ハンマーの後方において左右方向に延びるとともに、軸線を中心として回動自在の駆動ロッドと、駆動ロッドに、ハンマー側に向かって突出するように設けられた押圧部と、アクションに回動自在に設けられ、ハンマーを越えて駆動ロッドに向かって後方に延びる支持部材と、支持部材に支持され、弦とハンマーの間に位置し、ハンマーシャンクの後端部付近に対向するように左右方向に延びるストップレールと、駆動ロッドを駆動することにより、押圧部を介して支持部材を押圧することによって、ストップレールをハンマーシャンクの回動範囲内の進入位置に回動させる駆動機構と、ストップレールを、ハンマーシャンクの回動範囲外の退避位置側に付勢するばねと、を備えていることを特徴とする。
【0012】
このグランド型ピアノの消音装置によれば、駆動ロッドは、ピアノ本体に設けられ、ハンマーよりも後方に左右方向に延びるように配置されている。一方、ストップレールは、これを支持する支持部材を介して、アクションに回動自在に取り付けられている。この支持部材は、ハンマーを越えて駆動ロッドに向かって後方に延びている。
【0013】
この構成によれば、通常演奏モード時には、ばねの付勢力により、ストップレールがハンマーシャンクの回動範囲外の退避位置側に保持されることにより、鍵の回動に伴うハンマーによる弦の打弦が許容され、それにより通常演奏が行われる。一方、消音演奏モード時には、駆動機構により駆動ロッドを駆動することによって、押圧部を介して支持部材を押圧する。これにより、支持部材およびこれに支持されたストップレールが回動し、ストップレールはハンマーシャンクの回動範囲内の進入位置に保持される。そして、進入位置に進入したストップレールにハンマーシャンクの後端部が当接することによって、ハンマーシャンクの回動が阻止され、それにより、打弦が阻止される。
【0014】
本発明によれば、駆動ロッドは、ハンマーの後方に配置されるとともに、ピアノ本体に設けられており、支持部材およびストップレールは、アクションに設けられている。このため、筬全体を引き出す際、駆動ロッドは、ピアノ本体に残されるとともに、支持部材およびストップレールは、アクションなどと一緒に引き出されるので、駆動ロッド、支持部材やストップレールが引き出しの邪魔にならなくなる。したがって、従来と比較して、ストップレールの長さを短縮することが可能になり、それにより、ハンマーの回動を、ストップレールによって所定のタイミングで安定的に阻止することができる。また、ストップレールがアクションと一緒に引き出されるので、ストップレールとハンマーシャンクとの位置関係の調整を、筬全体を引き出した状態で行うことが可能になり、それにより、この調整を容易に行うことができる。
【0015】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のグランド型ピアノの消音装置において、ストップレールは、左右方向に並んだ複数のストップレールで構成され、支持部材は、複数のストップレールをそれぞれ支持する複数の支持部材で構成されていることを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、ストップレールは、左右方向に並んだ複数のストップレールで構成されているので、ストップレールをフレームの顎部を避けて配置することが可能になる。その結果、従来と異なり、顎部への孔の加工や、顎部に駆動ロッドを通すという煩雑な組立作業などを省略できるので、その分、製造コストを削減することができる。
【0017】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載のグランド型ピアノの消音装置において、ストップレールおよび支持部材は、固定用の孔をそれぞれ有し、これらの孔の一方は、上下方向に延びる長孔で構成され、これらの孔に通され、ストップレールを支持部材に固定する固定ねじをさらに備えていることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、ストップレールおよび支持部材は、その一方に形成した上下方向に延びる長孔を介して、固定ねじによって固定されている。したがって、この長孔によってハンマーシャンクに対するストップレールの上下方向の位置(高さ)を、きめ細かく調整することができ、ハンマーの回動の阻止位置を、容易かつ最適に調整することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態による消音装置1を適用したグランド型の消音ピアノ2の鍵盤装置を、離鍵状態において示している。なお、以下の説明では、消音ピアノ2を演奏者から見た場合の手前側(同図の右側)を「前」、奥側(同図の左側)を「後」とし、さらに左側および右側をそれぞれ「左」および「右」として、説明を行うものとする。同図に示すように、この消音ピアノ2は、棚板3と、棚板3に移動自在に載置された筬4と、筬4に載置された複数の鍵5(1つのみ図示)と、鍵5ごとに設けられ、弦Sを打弦するハンマー6と、鍵5の後部上方に設けられたアクション7と、本発明に係る消音装置1などを備えている。この消音ピアノ2では、演奏モードが、ハンマー6による弦Sの打弦を許容することによってアコースティックな演奏音を発生させる通常演奏モードと、ハンマー6による打弦を阻止するとともに、鍵5の押鍵情報に応じて楽音発生装置(図示せず)によって電子的な演奏音を発生させる消音演奏モードに、切り替えられる。
【0020】
鍵5は、その中央に形成されたバランスピン孔(図示せず)を介して、筬4に立設されたバランスピン8に回動自在に支持されている。
【0021】
弦Sは、フレーム(図示せず)の前端部に打ち込まれた複数のチューニングピン(図示せず)と、これらのチューニングピンよりも後方に埋め込まれた複数のヒッチピン(図示せず)との間に張られ、前後方向に延びている。フレームは、支柱(図示せず)との協働によって弦Sの張力を支持するためのものであり、その前端部の中音域と低音域の境界付近に、下方に突出する顎部(図示せず)を有し、この顎部および連結部材(図示せず)を介して、支柱に連結されている。
【0022】
アクション7は、鍵5の押鍵に伴ってハンマー6を回動させるためのものであり、筬4の左右端部とその中間の2〜3個所にそれぞれ設けられたブラケット10(図1に1つのみ図示)に渡されたウイッペンレール11およびハンマーシャンクレール12に取り付けられている。ウイッペンレール11には、各鍵5に対応する複数のウイッペン13が左右方向に並ぶように取り付けられている。各ウイッペン13は、前後方向に延び、その後端部において、ウイッペンフレンジ13aを介してウイッペンレール11に回動自在に取り付けられるとともに、鍵5の後部にキャプスタンスクリュー14を介して載置されている。ウイッペン13には、レペティションレバー15およびジャック16などが取り付けられている。
【0023】
レペティションレバー15は、斜め前上がりに前後方向に延びており、その中央部においてウイッペン13に回動自在に取り付けられている。レペティションレバー15の前部の所定の位置には、上下方向に貫通するジャック案内孔15aが形成されている。
【0024】
ジャック16は、上下方向に延びる突き上げ部16aと、その下端部から前方にほぼ直角に延びる係合部16bとから、L字状に形成されており、その角部においてウイッペン13に回動自在に取り付けられている。ジャック16の上端部は、レペティションレバー15のジャック案内孔15aに、前後方向に移動自在に係合している。
【0025】
一方、ハンマー6は、前後方向に延びるハンマーシャンク6aと、ハンマーシャンク6aの後端部に取り付けられたハンマーヘッド6bなどで構成されており、ハンマーシャンク6aの前端部において、シャンクフレンジ6cを介してハンマーシャンクレール12に回動自在に支持されている。ハンマーシャンク6aの前端部の所定の位置には、円柱状のシャンクローラ6dが取り付けられている。図1に示す離鍵状態では、ハンマー6が、レペティションレバー15のジャック案内孔15a付近にシャンクローラ6dを介して載置されるとともに、ジャック16の突き上げ部16aがシャンクローラ6dと微小な間隔を存して対向している。
【0026】
図1〜図3に示すように、本発明に係る消音装置1は、駆動ロッド17と、駆動ロッド17に設けられた4つの押圧部18と、ハンマー6の回動を阻止するためのストップレール19と、ストップレール19を支持する5つの支持部材20と、駆動ロッド17を駆動する駆動機構21などを備えている。
【0027】
駆動ロッド17は、1本の丸棒で構成されており、高音域を除く部分に左右方向に延びている。また、駆動ロッド17は、ハンマー6のハンマーヘッド6bよりも後方に配置され、打ち廻し22(ピアノ本体)の高音域を除く部位の前面に、4つの支持金具23および取付金具24を介して回動自在に支持されている。このように、駆動ロッド17を、打ち廻し22の高音域以外の部位に取り付けるのは、打ち廻し22の上面に載置される響板25(図1参照)が、高音域では、他の音域よりも前方に突出しており、それに応じて、打ち廻し22もまた、高音域において前方に突出しているためである。以上の構成により、駆動ロッド17を、打ち廻し22の高音域以外の奥まった部位を利用しながら、限られたスペース内にコンパクトに配置することができる。
【0028】
図3に示すように、各支持金具23は、側面形状が半円形状の本体部23aと、本体部23aの後端から上下に延びる2つの取付部23b,23bで構成されており、各取付部23bには孔23cが形成されている。一方、各取付金具24は、前側の第1取付部24aと、後側の第2取付部24bと、第1および第2取付部24a,24bを互いに連結する連結部24cで構成されている。第1取付部24aには、支持金具23の孔23c,23cに対応する2つの孔24d,24dが形成されている。支持金具23と取付金具24は、駆動ロッド17を支持金具23の本体部23aに通した状態で、上記の孔23c,24dに通したねじ(図示せず)によって互いに固定されている。取付金具24の第2取付部24bには、上下2つの孔24e,24eが形成されており、これらの孔24e,24eを介して打ち廻し22にねじ(図示せず)をねじ込むことによって、取付金具24が打ち廻し22に固定されている。以上の構成により、駆動ロッド17は、支持金具23に回動自在に支持されている。
【0029】
4つの押圧部18は、左右方向に間隔を隔てた所定の位置に配置されており、具体的には、駆動ロッド17の左右の端部、中音域の中間位置、およびフレームの顎部が位置する中音域と低音域との境界付近に、それぞれ設けられている。各押圧部18は、駆動ロッド17に固定され、ハンマー6側に向かって突出する本体部18aと、本体部18aの前端から左方または右方に屈曲する屈曲部18bとから、L字状に形成されている。屈曲部18bには、例えばゴムなどの弾性材料で構成されたクッション材18cがかぶさるように取り付けられている。また、中低音域の境界付近の屈曲部18bの長さは、他の屈曲部18bよりも長い。
【0030】
ストップレール19は、例えば金属製の角材で構成されており、図1に示すように、弦Sとハンマー6の間に配置され、ハンマーシャンク6aの後端部付近に対向するように設けられている。図3に示すように、このストップレール19は、高中音域レール19aと、低音域レール19bで構成されており、これらはフレームの顎部の右側および左側にそれぞれ設けられている。高中音域レール19aは、高音域および中音域の全域にわたって延びている。高中音域レール19aには、その右端部と、押圧部18に対応する3つの位置に、孔19c(1つのみ図示)が形成されている。また、高中音域レール19aの下面には、その全体にわたって、例えばゴムまたは発泡ウレタンなどの弾性材料で構成されたクッション材26が取り付けられている。
【0031】
低音域レール19bは、低音域の全体にわたって延びている。低音域レール19bの左右端部には、高中音域レール19aと同様、孔19c,19cが形成され、また、低音域レール19bの下面には、高中音域レール19aと同様のクッション材26が取り付けられている。
【0032】
ストップレール19を支持する5つの支持部材20は、例えば曲げ加工された金属板で構成されており、後述する連結部材30に回動自在に取り付けられている。図3に示すように、支持部材20は、駆動ロッド17の4つの押圧部18に対応する位置と、高中音域レール19aの右端部に相当する位置に設けられており、中低音域の境界付近の境界用の支持部材28と、それ以外の通常用の4つの支持部材27で構成されている。
【0033】
各支持部材27は、前後方向に延びる本体部27aと、本体部27aの前端部に設けられた回動部27bと、本体部27aから後方に突出するレール支持部27cで構成されている。回動部27bは、左右の端部から下方に延びる軸取付部27d,27dを有しており、これらの軸取付部27d,27d間に軸27fが固定されていて、支持部材27は、この軸27fを介して連結部材30に回動自在に支持されている。
【0034】
本体部27aの後端部には、取付部27gが設けられており、この取付部27gは、本体部27aの上半部から左方または右方に直角に屈曲している。また、取付部27gには、上下方向に延びる長孔27hが形成されている。支持部材27のレール支持部27cの後端部は、左方または右方に直角に屈曲しており、被押圧部27iになっており、これらの被押圧部27iに、駆動ロッド17の対応する押圧部18がそれぞれ上方から対向している。
【0035】
一方、境界用の支持部材28は、前後方向に延びる、互いに平行な2つの本体部28a,28aと、本体部28a,28aの前端部間に設けられた回動部28bなどを備えている。本体部28a,28aの互いの間隔は、フレームの顎部の幅よりも若干大きく、それにより、顎部が本体部28a,28a間に収容されるようになっている。本体部27aと同様、各本体部28aの後端には、その上半部から左右方向の外方に直角に屈曲する取付部28gが設けられ、各取付部28gには、上下方向に延びる長孔28hが形成されている。また、各本体部28aには、本体部28aから後方に突出するレール支持部28cが設けられており、その後端部は、左右方向の内方に屈曲した被押圧部28iになっており、これらの被押圧部28iに、駆動ロッド17の対応する押圧部18が上方から対向している。
【0036】
回動部28bは、互いに間隔を存する左右2つの軸取付部28d,28dを有し、これらの軸取付部28d,28dに軸28fが固定されている。支持部材28は、この軸28fを介して連結部材30に回動自在に支持されている。
【0037】
前述した高中音域レール19aおよび低音域レール19bは、支持部材27,28に次のようにして、取り付けられている。すなわち、高中音域レール19aは、右側の3つの通常用の支持部材27と境界用の支持部材28の右側の本体部28aによって支持されるようになっており、それらのレール支持部27c,28cに載せた状態で、長孔27h,28hおよび高中音域レール19aの孔19cを介して固定ねじ29を高中音域レール19aにねじ込むことによって、高中音域レール19aが支持部材27,28に固定されている。一方、低音域レール19bは、境界用の支持部材28の左側の本体部28aと左側の支持部材27によって支持されるようになっており、それらのレール支持部27c,28cに載せた状態で、長孔27h,28hおよび低音域レール19bの孔19dにを介して固定ねじ29を低音域レール19bにねじ込むことによって、低音域レール19bが、支持部材27,28に固定されている。
【0038】
連結部材30は、例えば曲げ加工された金属板で構成されており、図3に示すように、上側の水平なシャンクレール取付部30aと、下側の水平なウイッペンレール取付部30bと、シャンクレール取付部30aとウイッペンレール取付部30bをつなぐ鉛直部30cで構成されている。シャンクレール取付部30aは、前後方向に延びる長方形状のものであり、中低音域の境界付近の連結部材30のシャンクレール取付部30aは、他のシャンクレール取付部30aよりも大きな幅(左右方向の長さ)を有している。シャンクレール取付部30aの前端部には孔30dが、ウイッペンレール取付部30bの後端部には孔30eが、それぞれ形成されており、シャンクレール取付部30aは、孔30dを介してハンマーシャンクレール12に、ウイッペンレール取付部30bは、孔30eを介してウイッペンレール11に、それぞれねじ止めされ、固定されている。
【0039】
また、シャンクレール取付部30aの上面には、金具31が取り付けられている。金具31は、側面形状が半円形状の本体部31aと、本体部31aの前端から前方に延びる取付部31bで構成されている。この金具31の本体部31aに支持部材27,28の軸27f,28fを通した状態で、取付部31bをシャンクレール取付部30aにねじ止めすることによって、支持部材27,28は、軸27f,28fを介して、連結部材30に回動自在に支持されている。
【0040】
最低音側の支持部材27には、プレート33が取り付けられている。このプレート33は、プレス加工された金属板で構成されており、図3に示すように、その後端部において、支持部材27の軸27fよりも後ろ側の位置に孔33a,33aを介して、ねじ止めされている。プレート33は、軸27fよりも前方に延びてている。
【0041】
ばね34は、コイルバネで構成されており、その一端部がプレート33の前端部に掛け止めされ、他端部が取付板35に掛け止めされている。取付板35は、アクション横木(図示せず)に固定されている。以上の構成により、ばね34は、プレート33を介して、支持部材27,28およびこれに支持された高中音域レール19aおよび低音域レール19bを常に上方に付勢している。
【0042】
駆動ロッド17を駆動する駆動機構21は、駆動レバー37と、棚板3の下面に配置され、駆動レバー37を操作するための操作レバー(図示せず)と、駆動レバー37と操作レバーを接続するワイヤ38と、駆動レバー37を上方に付勢するばね39などで構成されている。
【0043】
駆動レバー37は、例えば曲げ加工された金属板で構成されており、駆動ロッド17の左端部に設けられている。図3に示すように、駆動レバー37は、前後方向に延びる本体部37aと、本体部37aの後端部に設けられた固定部37bなどで構成されている。固定部37bは、互いに間隔を存する左右2つのロッド取付部37d,37dと、これらのロッド取付部37d,37dの上端間を連結する連結部37eで構成されている。各ロッド取付部37dにはロッド挿入孔37fが、連結部37eには孔37gが、それぞれ形成されている。このような構成により、ロッド挿入孔37fに駆動ロッド17を挿入し、孔37gを介して駆動ロッド17にねじ(図示せず)をねじ込むことによって、駆動レバー37が駆動ロッド17に固定されている。
【0044】
本体部37aの中央には、左方に突出する突起40が設けられており、この突起40は金具41に挿入されている。金具41は、左右2つの壁部と、これらを連結する連結部とから側面形状がコ字状に形成されており、左右の壁部に形成された孔41a,41aに突起40がはめ込まれている。また、金具41の連結部には、ワイヤ38の一端部が接続されている。
【0045】
ばね39は、コイルバネで構成され、その一端部が駆動レバー37の前端部に掛け止めされ、他端部がプレート42に掛け止めされており、駆動レバー37を常に上方に付勢している。プレート42は、ピアノ本体に固定されている。
【0046】
以上の構成によれば、操作レバーが操作されていない状態では、駆動レバー37は、ばね39の付勢力により図3の反時計方向に回動しており、それに伴い、駆動レバー37と一体の駆動ロッド17も反時計方向に回動している。これに伴い、駆動ロッド17の押圧部18は、斜め上方に退避した状態に保持されており、支持部材20とは非接触の状態になっている(図1参照)。また、プレート33は、ばね34の付勢力により図3の時計方向に回動しており、それに伴い、プレート33に支持部材27を介して連結された高中音域レール19aおよび低音域レール19bは、時計方向に回動していて、それにより、図1に示すように、ハンマーシャンク6aの回動範囲から退避した退避位置に保持されている。
【0047】
この状態から操作レバーを操作すると、ワイヤ38が引き下げられ、これに伴い、駆動レバー37がばね39の付勢力に抗して下方に回動し、これと一体の駆動ロッド17が図1の時計方向に回動する。この回動の途中、駆動ロッド17の押圧部18が被押圧部27i,28iを介して支持部材27,28を押圧することによって、支持部材27,28がばね34の付勢力に抗して反時計方向に回動し、これと一体の高中音域レール19aおよび低音域レール19bがハンマーシャンク6aの回動範囲内に進入した進入位置に保持される(図2参照)。
【0048】
次に、以上の構成の消音装置1の動作を説明する。通常演奏モードで演奏を行う場合には、駆動機構21によって、ストップレール19が退避位置に駆動される。この状態で、鍵5が押鍵されると、鍵5はバランスピン8を中心として図1の時計方向に回動するのに伴い、ウイッペン13がキャプスタンスクリュー14を介して突き上げられ、上方に回動する。このウイッペン13の回動に伴い、レペティションレバー15およびジャック16がウイッペン13と一緒に上方に移動し、ジャック16の突き上げ部16aがシャンクローラ6dを介してハンマー6を突き上げることによって、ハンマー6が時計方向に回動する。そして、この回動の途中で、ジャック16がシャンクローラ6dから抜け、その直後においてハンマーヘッド6bが弦Sを打弦する。
【0049】
一方、消音演奏モードで演奏を行う場合には、駆動機構21によって、ストップレール19が進入位置に駆動される。鍵5が押鍵されると、通常演奏モード時と同様にしてハンマー6が時計方向に回動する。この回動の途中、ハンマーヘッド6bが弦Sを打弦する直前で、ハンマーシャンク6aの後端部が、進入位置に位置するストップレール19にクッション材26を介して当接することによって、ハンマー6のそれ以上の回動が阻止され、それにより、打弦が阻止される。
【0050】
以上のように、本実施形態によれば、駆動ロッド17は、打ち廻し22に設けられており、支持部材20およびストップレール19は、連結部材30を介してアクション7のウイッペンレール11およびハンマーシャンクレール12に設けられている。このため、筬4全体を引き出す際、駆動ロッド17は、ピアノ本体に残されるとともに、支持部材20およびストップレール19は、アクション7などと一緒に引き出されるので、駆動ロッド17、ストップレール19および支持部材20が引き出しの邪魔にならなくなる。したがって、ピアノ本体にストップレール19を取り付けていた従来の消音装置と比較して、ストップレール19の長さを短縮することができ、それにより、ハンマー6の回動を、ストップレール19によって所定のタイミングで安定的に阻止することができる。また、ストップレール19とハンマーシャンク6aとの位置関係の調整を、筬4全体を引き出した状態で行うことができ、それにより、その調整を容易に行うことができる。
【0051】
また、高中音域レール19aはフレームの顎部よりも右側に、低音域レール19bが顎部よりも左側に、それぞれ設けられ、顎部を避けて配置されているので、従来と異なり、顎部への孔の加工や、顎部に駆動ロッドを通すという煩雑な組立作業などを省略できるので、その分、製造コストを削減することができる。
【0052】
さらに、ストップレール19および支持部材20は、支持部材20に形成した上下方向に延びる長孔27h,28hを介して、固定ねじ29によって固定されている。したがって、これらの長孔27h,28hによってハンマーシャンク6aに対するストップレール19の高さをきめ細かく調整することができ、ハンマー6の回動の阻止位置を、容易かつ最適に調整することができる。
【0053】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、駆動ロッド17を、打ち廻し22に設けているが、これに限らず、ピアノ本体を構成する他の適当な部位、例えば側板や中框などに設けてもよい。また、実施形態では、長孔27h,28hを、支持部材20に形成しているが、これに限らず、ストップレール19に形成してもよい。さらに、ストップレール19を、角材で構成しているが、これに限らず、例えば金属板で構成してもよい。さらには、本実施形態は、本発明を消音ピアノに適用した例であるが、これに限らず、自動演奏ピアノなどの他のタイプのグランド型ピアノに適用することが可能である。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部を適宜、変更することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施形態による消音装置およびこれを適用したグランド型の消音ピアノの鍵盤装置を、通常演奏モードの離鍵状態において示す側断面図である。
【図2】図1の鍵盤装置を、消音演奏モードの押鍵状態において示す側断面図である。
【図3】図1の消音装置の分解斜視図である。
【図4】従来の消音装置を適用した消音ピアノの側断面図である。
【符号の説明】
【0055】
1 消音装置
2 消音ピアノ
5 鍵
6 ハンマー
6a ハンマーシャンク
7 アクション
17 駆動ロッド
18 押圧部
19 ストップレール
19a 高中音域レール
19b 低音域レール
19c 孔
19d 孔
20 支持部材
21 駆動機構
22 打ち廻し(ピアノ本体)
27 通常用の支持部材
27h 長孔
28 境界用の支持部材
28h 長孔
29 固定ねじ
34 ばね
S 弦


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピアノ本体を有するとともに、鍵の回動に伴い、前後方向に延びるハンマーシャンクを有するハンマーをアクションによって回動させるグランド型ピアノにおいて、前記ハンマーによる弦の打弦を、通常演奏モード時に許容するとともに、消音演奏モード時に阻止するためのグランド型ピアノの消音装置であって、
前記ピアノ本体に設けられ、前記ハンマーの後方において左右方向に延びるとともに、軸線を中心として回動自在の駆動ロッドと、
当該駆動ロッドに、前記ハンマー側に向かって突出するように設けられた押圧部と、
前記アクションに回動自在に設けられ、前記ハンマーを越えて前記駆動ロッドに向かって後方に延びる支持部材と、
当該支持部材に支持され、前記弦と前記ハンマーの間に位置し、前記ハンマーシャンクの後端部付近に対向するように左右方向に延びるストップレールと、
前記駆動ロッドを駆動することにより、前記押圧部を介して前記支持部材を押圧することによって、前記ストップレールを前記ハンマーシャンクの回動範囲内の進入位置に回動させる駆動機構と、
前記ストップレールを、前記ハンマーシャンクの回動範囲外の退避位置側に付勢するばねと、
を備えていることを特徴とするグランド型ピアノの消音装置。
【請求項2】
前記ストップレールは、左右方向に並んだ複数のストップレールで構成され、
前記支持部材は、前記複数のストップレールをそれぞれ支持する複数の支持部材で構成されていることを特徴とする、請求項1に記載のグランド型ピアノの消音装置。
【請求項3】
前記ストップレールおよび前記支持部材は、固定用の孔をそれぞれ有し、
これらの孔の一方は、上下方向に延びる長孔で構成され、
これらの孔に通され、前記ストップレールを前記支持部材に固定する固定ねじをさらに備えていることを特徴とする、請求項1または2に記載のグランド型ピアノの消音装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−227542(P2006−227542A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−44811(P2005−44811)
【出願日】平成17年2月21日(2005.2.21)
【出願人】(000001410)株式会社河合楽器製作所 (563)