説明

グリセリン誘導体の製造方法

【課題】微生物反応プロセスによるグリセリンを原料としたグリセリン酸あるいはジヒドロキシアセトンの生産において、グリセリン酸あるいはジヒドロキシアセトンの生産を選択的に切り替えることが可能で、かつこれらの生産量を飛躍的に増大させることができ、しかも、廃棄物として扱われるような安価な原料である粗グリセリンを煩雑な前処理なしで利用可能にする手段を新たに提供する。
【解決手段】グリセリン含有培地に、メタノールを含まないグリセリン含有アルカリ溶液、及びメタノール含有グリセリン溶液のいずれかを選択して培地にフィードしながら、グリセリンからグリセリン酸変換能を有する微生物を培養して、グリセリン酸またはジヒドロキシアセトンのいずれかを選択的に製造する。上記メタノールを含まないグリセリン含有アルカリ溶液、及びメタノール含有グリセリン溶液として、例えば、油脂のエステル交換の際副生する粗グリセリン酸溶液を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物反応プロセスによるグリセリン誘導体の製造法において、培養液のpHをグリセリン含有アルカリ溶液で一定に制御しながら培養する工程に特徴を有する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年高騰する石油資源だけに依存しない原料転換政策として、あるいは二酸化炭素削減といった地球温暖化問題に対応する技術的概念としてバイオリファイナリーが注目されている。バイオマスは再生可能なエネルギーの中でもカーボンニュートラルであることから、バイオエタノールやバイオディーゼルといったバイオ燃料の導入が世界的規模で進行している。バイオディーゼル燃料(BDF)は油脂類の主成分であるトリグリセリドをエステル交換反応により脂肪酸メチルエステルにして燃料とするが、本反応に伴って副生するグリセリンの有効利用法の開発がプロセス開発の鍵となっている。近年のBDF使用量の急速な増加を考えると、グリセリン問題の解決は急務といえる。またオレオケミカル産業においても、石油代替・再生産可能資源である植物油脂を原料としたプロセスが導入されていることから、同様にグリセリンの有効活用が大きな問題となっている。
【0003】
油脂類のエステル交換反応は、工業レベルではNaOHやKOHといったアルカリ触媒とメタノールにより行われるため、本反応に伴って排出される副生グリセリン(粗グリセリン)は、メタノールや石鹸分、植物由来のリグニンやポリフェノール類などの不純物を含み、アルカリ性であることが多い。従って、粗グリセリンを原料として利用するには、コストをかけて前処理を行う必要があった。
【0004】
これまでに、化学触媒プロセスを用いてグリセリンから有用物質を生産する試みが数多くなされており(例えば非特許文献1、2)、エピクロロヒドリンやプロピレングリコール(1,2-プロパンジオール)といったグリセリン誘導体が工業レベルで生産されつつある。これら化学品は、もともと化石燃料由来のプロピレンを原料として製造されており、グリセリン余剰に伴う価格低下により、グリセリンを原料とした技術開発が進められてきた。これらは主に樹脂やポリマー原料など汎用化学品として利用されている。
しかしながら、化学触媒によるグリセリン利用プロセスにおいては、比較的精製度(純度)の高いグリセリンを原料として用いる必要があり、実際にBDF製造等から排出される粗グリセリンを利用するには、やはりコストをかけて前処理を行うが必要があった。
また、例えば、2007年末から2008年にかけてみられたような油脂価格上昇に伴うグリセリン価格の急騰がおこると、これら価格設定の低い汎用化学品の生産プロセスはコスト的に大きな打撃をうける。従って、微生物反応プロセス(バイオプロセス)によって高機能性かつ高付加価値の化学物質を製造することが期待されている。
【0005】
バイオプロセスを用いてグリセリンから有用物質を生産する試みも数多くなされており(例えば非特許文献3、4)、ジヒドロキシアセトンは既に工業化、1,3-プロパンジオールも工業レベルで生産されつつある。中でも、ジヒドロキシアセトンは、化粧品・医薬品などの用途に利用され、機能性を有するグリセリン誘導体として知られている。このようにバイオプロセスを利用することで、グリセリンから高付加価値を有し、かつある程度価格設定の高い化学品を製造することも可能である。
しかし化学触媒の場合と同様、実際にBDF製造等から排出される粗グリセリンを原料として利用すると、その中の不純物が多くの微生物の生育に阻害的な作用を及ぼし、反応がうまく進行しないことが多いため、やはり粗グリセリンの前処理を行うが必要であった(例えば非特許文献5)。一方、グリセリンからグルコノバクター属に属する微生物を用いて、グリセリンからD-グリセリン酸の製造する方法も知られているが(特許文献1参照)、この方法によるD-グリセリン酸の生産量は、12〜57g/L程度であり、満足のいくものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平7−51069号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】M. Pagliaro, R. Ciriminna, H. Kimura, M. Rossi, C. Della Pina: Angew. Chem. Int. Ed., 46, 2-20 (2007).
【非特許文献2】C. - H. Zhou, J. N. Beltramini, Y. - X. Fan, G. Q. Lu: Chem. Soc. Rev., 37, 527-549 (2008).
【非特許文献3】G. P. da Silva, M. Mack, J. Contiero: Biotechnol. Adv., 27, 30-39 (2009)
【非特許文献4】T. Willke, K. Vorlop: Eur. J. Lipid Sci. Technol., 110, 831-840 (2008).
【非特許文献5】A. ur-Rehman, R. G. S. Wijesekara, N. Nomura, S. Sato, M. Matsumura: J. Chem. Technol.Biotechnol., 83, 1072-1080 (2008).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、上記従来技術の問題を解消する点にあり、具体的には、バイオプロセスにより、グリセリン酸やジヒドロキシアセトンといった有用なグリセリン誘導体を安価かつ効率的に生産する技術を新たに構築することにあり、特に、粗グリセリンを原料としてグリセリン誘導体を製造する手段を新たに提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的を達成するため、本発明者等は、鋭意研究した結果、バイオプロセスによりグリセリン誘導体を製造する工程において、培地にフィードするグリセリン溶液の組成により、グリセリン酸とジヒドロキシアセトンの生成割合が大幅に変化し、フィード溶液を選択するのみで、グリセリン酸とジヒドロキシアセトンを選択して製造できることを見いだした。また、特に、フィードするグリセリン溶液として、グリセリン含有アルカリ溶液を使用した場合、グリセリン酸生産量が飛躍的に増大し、かつこのグリセリン含有アルカリ溶液として、油脂のエステル交換反応等の際、複製する粗グリセリンを煩雑な前処理なしで利用可能であることを見いだし、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち本発明は、以上の知見を得て完成することができたものであり、具体的には以下のとおりのものである。
(1)グリセリン含有培地に、グリセリンからグリセリン酸を生産する能力を有する微生物を培養して、グリセリン酸またはジヒドロキシアセトンを選択的に製造する方法であって、メタノールを含まないグリセリン含有アルカリ溶液、及びメタノール含有グリセリン溶液のいずれかを選択して培地にフィードしながら、上記微生物を培養することを特徴とする、グリセリン酸またはジヒドロキシアセトンの選択的製造方法。

(2)グリセリンからグリセリン酸を生産する能力を有する微生物を、グリセリン含有培地に、メタノールを含まないグリセリン酸含有アルカリ溶液をフィードしながら培養し、培地からグリセリン酸を採取することを特徴とする、上記(1)に記載の方法。

(3)メタノールを含まないグリセリン酸含有アルカリ溶液のフィードにより培地pHを5〜7に維持して培養することを特徴とする、上記(2)に記載の方法。

(4)メタノールを含まないグリセリン含有アルカリ溶液が油脂のエステル交換反応の際、複製される粗グリセリンに由来することを特徴とする、上記(3)に記載の方法。

(5)グリセリンからグリセリン酸を生産する能力を有する微生物を、グリセリン含有培地にメタノール含有グリセリン溶液をフィードしながら培養し、培地からジヒドロキシアセトンを採取することを特徴とする上記(1)に記載の製造方法。

(6)メタノール含有グリセリン溶液がアルカリ性であることを特徴とする、請求項5に記載の方法。

(7)メタノール含有グリセリン溶液が、油脂のエステル交換反応の際、複製される粗グリセリンに由来することを特徴とする、上記(6)に記載の方法。

(8)グリセリンからグリセリン酸を生産する能力を有する微生物が、グルコノバクター(Gluconobacter)属の細菌から選ばれた微生物であることを特徴とする、上記(1)〜(7)のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、医薬品、化粧品、化学品製造の中間原料等として工業的利用価値の高いグリセリン酸及びジヒドロキシアセトンを、培地に対するフィード成分の変更のみで、簡単にそのいずれかを選択して製造できるほか、これら生産物、特にグリセリン酸の生産量は、飛躍的に増大する。また、本発明によれば、例えば、油脂のエステル交換の際、副生され、廃棄物として扱われるような安価な原料である粗グリセリンを煩雑な前処理なしで利用することが可能となり、製造コストの削減が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1におけるグリセロール、グリセリン酸、ジヒドロキシアセトンの各量を経時的に表した図面である。
【図2】実施例2におけるグリセロール、グリセリン酸、ジヒドロキシアセトンの各量を経時的に表した図面である。
【図3】実施例3におけるグリセロール、グリセリン酸、ジヒドロキシアセトンの各量を経時的に表した図面である。
【図4】実施例4におけるグリセロール、グリセリン酸、ジヒドロキシアセトンの各量を経時的に表した図面である。
【図5】実施例5におけるグリセロール、グリセリン酸、ジヒドロキシアセトンの各量を経時的に表した図面である。
【図6】実施例6におけるグリセロール、グリセリン酸、ジヒドロキシアセトンの各量を経時的に表した図面である。
【図7】比較例1におけるグリセロール、グリセリン酸、ジヒドロキシアセトンの各量を経時的に表した図面である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に用いる微生物としては、グリセリン酸やジヒドロキシアセトンなどのグリセリン誘導体を生産可能な微生物であればどのような微生物であっても用いることができる。
典型的には、アセトバクター属、グルコンアセトバクター属、グルコノバクター属に属し、グリセリンをグリセリン酸へと変換する能力を有している酢酸菌を用いることができる。特に、グリセリン酸に加えジヒドロキシアセトンの生産量が高いグルコノバクター属細菌が望ましく、具体的な例としては、グルコノバクター・ルビダス(Gluconobacter albidus)、グルコノバクター・セリナス(Gluconobacter cerinus)、グルコノバクター・フラテウリ(Gluconobacter frateurii)、グルコノバクター・コンドニ(Gluconobacter kondonii)、グルコノバクター・オキシダンス(Gluconobacter oxydans)、グルコノバクター・タイランディカス(Gluconobacter thailandicus)、その他グルコノバクター属細菌(Gluconobacter sp.)NBRC3259株等が挙げられる。
さらに、本発明に用いる微生物としては、グリセリンをグリセリン酸に変換する能力を有している限り、上記微生物の同じ属に属する程度の変異株であれば包含される。これは、自然突然変異によるものであってもよいし、紫外線照射や化学的変異原処理等、何らかの物理的または化学的処理を施すことによって遺伝子における塩基の付加、欠失、置換等を人工的に誘発したものであってもよい。
【0014】
グリセリン誘導体生産のための微生物の培養は、炭素源、窒素源および無機塩等を含む通常の液体栄養培地を用いて行うことができる。炭素源として、例えばグリセリンやグルコース等を、窒素源としては、例えば硝酸ナトリウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、尿素等をそれぞれ単独もしくは混合して用いることができる。また、無機塩として、リン酸一水素カリウム、リン酸ニ水素カリウム、硫酸マグネシウム等を使用することができる。この他にも必要に応じて、酵母エキス、ペプトン、ポリペプトン、肉エキス、コーンスティープリカー等の栄養素を培地に適宜添加でき、これら含窒素有機物を窒素源の代替にすることもできる。
上記微生物により生産されるグリセリン酸は、D-グリセリン酸とL-グリセリン酸との混合物であるが、等量混合物であるラセミ体ではない。D-体とL-体の割合は、微生物の種類により異なるが、D-体の割合が高く、例えば、後記実施例の微生物使用の場合、D-体95%に対してL-体5%である。
【0015】
本願発明においては、グリセリンからグリセリン酸を生産する能力を有する微生物を培養する際、メタノールを含まないグリセリン含有アルカリ溶液あるいはメタノール含有グリセリン溶液を培地に間欠的あるいは連続的にフィードしながら培養を行うが、メタノールを含まないグリセリン含有アルカリ溶液を使用すれば、グリセリン酸が、メタノール含有グリセリン溶液を使用すれば、ジヒドロキシアセトンがそれぞれより多く生成される。ジヒドロキシアセトン製造の際に使用するメタノール含有グリセリン溶液は、グリセリンにメタノールを添加した溶液のほか、グリセリン含有アルカリ溶液にさらにメタノールを含有する溶液であってもよく、このグリセリン含有アルカリ溶液を使用する場合、グリセリン酸とジヒドロキシアセトンの生成割合は、含有されるメタノールの割合に依存する。したがって、メタノール使用の有無あるいはその濃度調節により、グリセリン、ジヒドロキシアセトンあるいはさらにこの両者を、選択的に効率良く生産することができる。
【0016】
このグリセリン含有アルカリ溶液としては、グリセリンに水酸化ナトリウムあるいは水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化カルシウムあるいは水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属水酸化物を添加した溶液であってもよいが、本発明においては、グリセリン含有溶液として、より有用な脂肪酸エステルの製造のため油脂類をアルカリ触媒を使用してエステル交換を行った際に副生する粗グリセリン溶液を使用できる。この粗グリセリン溶液は、上記触媒に由来してアルカリ性である。
【0017】
このような粗グリセリン溶液としては、バイオディーゼル燃料(BDF)の製造の際に副生する粗グリセリン溶液が挙げられるが、例えば、バイオディーゼル燃料(BDF)として脂肪酸メチルを生産する場合には、原料として酸とメタノールのエステルを使用しており、副生する粗グリセリン溶液中にメタノールが混入しているが、ジヒドロキシアセトンを選択的に製造する場合には、このようなメタノールを含有する粗グリセリン溶液を使用できる。また、グリセリン酸を製造する際には、このようなメタノールを含有する粗グリセリン溶液からメタノールを除去して用いるが、メタノールは加熱により簡単に留去できる。
微生物の培養条件は、微生物が活動できる温度条件下で行われればよく、一方、培養液のpHは、反応開始時のpHは3〜10付近、好ましくはpH4〜8付近の範囲がよい。
【0018】
微生物が生育すると代謝反応の進行に伴い、例えばグリセリン酸などの有機酸を培地中に蓄積する。そのため培地のpHは徐々に低下していくが、微生物には最適生育pHが存在するため、培養槽内のpHを最適生育pH付近で一定に制御することが望ましい。上記メタノール含有あるいは不含のグリセリン含有アルカリ溶液は、上記エステル交換の際に副生する粗グリセリン溶液を含め、培地のpHを一定に保つためのpH調節剤として、間欠的あるいは連続的に培地にフィードされる。培地のpHは微生物の最適生育pHにもよるが、好ましくはpH4〜8付近の範囲がよく、より好ましくはpH5〜7である。
このような培地のpH制御において、単なるアルカリ水溶液を使用し、グリセリンを使用しない場合、グリセリン酸及びジヒドロキシアセトンの生成量はともに減少する(図2、図7)。
【0019】
上記のようにして得られた培養物から微生物の培養菌体を分離・回収する。培養菌体の分離・回収方法としては、特に限定されることなく、例えば遠心分離や膜分離等の公知の方法を用いることができる。回収された培養菌体は、通常そのまま、次のグリセリン酸あるいはジヒドロキシアセトンの生産のための微生物源として用いられる。
【0020】
培養液中に生成蓄積されたグリセリン酸あるいはジヒドロキシアセトンの単離、精製は任意の方法により行うことができるが、遠心分離等の方法により菌体を除去したあとの反応液を、例えば、各種クロマトグラフィーによる分離方法、晶析による分離方法、膜を利用した分離方法等により単離、精製することができる。
【実施例】
【0021】
以下に、本発明について実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
なお下記実施例におけるグリセリンおよびジヒドロキシアセトンの定量は糖アルコールを分析するカラム(Shodex社製 SC1011)、グリセリン酸の定量は糖と有機酸を同時に分析するカラム(Shodex社製 SH1011)を用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて行った。
【0022】
(実施例1)
微生物保存機関より入手したGluconobacter frateurii NBRC103465を、グルコース0.5%、酵母エキス0.5%、ポリペプトン0.5%、MgSO4・7H2O 0.5%の組成を有する前培養培地5 mL入りの試験管5本に植菌し、30℃で48時間往復振とう培養を行った。続いて表1に示す組成を有する本培養培地500 mLが入った1リットル容ミニジャーに、上記前培養液を全量(25 mL)植菌した。培養は、温度30℃、通気量0.5 vvm、攪拌500 rpmで行った。
【表1】

反応液中のpHは6に制御し、pH調整剤として、グリセリン50容量%を含む5M NaOHを使用した。前述した方法による本培養開始から、6日目までに生成したグリセリン酸およびジヒドロキシアセトンを経時的に定量したところ、下記の図1の通りであり、6日間の反応でグリセリン酸量は144 g/lであった。この反応の間、pH調整剤として反応液中に供給されたグリセリンは286 gであった。反応期間中に消費されたグリセリン1モルに対する、生成グリセリン酸は0.82モルであった。
【0023】
(実施例2)
Gluconobacter frateurii NBRC103465を、グルコース0.5%、酵母エキス0.5%、ポリペプトン0.5%、MgSO4・7H2O 0.5%の組成を有する前培養培地5 mL入りの試験管1本に植菌し、30℃で24時間往復振とう培養を行った。次いで、同前培養培地30 mL入りの三角フラスコ3本に、培養液をそれぞれ1.5 mLずつ植菌し、30℃で24時間往復振とう培養を行った。続いて表1に示す組成を有する本培養培地2.5 Lが入った5リットル容ジャーに、上記前培養液を全量(90 mL)植菌した。培養は、温度30℃、通気量0.5 vvm、攪拌500 rpmで行った。
反応液中のpHは6に制御し、pH調整剤として、最初にグリセリン50容量%を含む5M NaOH 200 mLを、このアルカリ溶液が全て使用された後、グリセリン25容量%を含む7.5M NaOH 200 mLを、さらにこのアルカリ溶液が全て使用された後、10M NaOHを100 mLといった順番で使用した。生成したグリセリン酸およびジヒドロキシアセトンを定量したところ、下記の図2の通りであり、7日間の反応でグリセリン酸量は137 g/Lであった。この反応の間、pH調整剤として反応液中に供給されたグリセリンは200 gであった。反応期間中に消費されたグリセリン1モルに対する、生成グリセリン酸は0.66モルであった。
【0024】
(実施例3)
さらに、Gluconobacter frateurii NBRC103465に関して、実施例2と同様にジャー培養を行った。ただし、表1に示す組成を有する本培養培地2 Lが入った5リットル容ジャーで培養を開始した。加えて、反応液中のpHは6に制御し、pH調整剤として、BDF製造プロセスから排出されるメタノールを含まない粗グリセリン(グリセリン40wt%)500 mlを前処理なしで使用し、このアルカリ溶液が全て使用された後、10M NaOH 150 mLを使用した。生成したグリセリン酸およびジヒドロキシアセトンを定量したところ、下記の図3の通りであり、6日間の反応でグリセリン酸量は81 g/Lであった。この反応の間、pH調整剤として反応液中に供給されたグリセリンは200 gであった。反応期間中に消費されたグリセリン1モルに対する、生成グリセリン酸は0.46モルであった。
【0025】
(実施例4)
Gluconobacter frateurii NBRC103465に関して、実施例1と同様にジャー培養を行った。反応液中のpHは6に制御し、pH調整剤として、BDF製造プロセスから排出されるメタノールを含む粗グリセリン(グリセリン66wt%、メタノール30wt%)を前処理なしで使用した。生成したグリセリン酸およびジヒドロキシアセトンを定量したところ、実施例1の図1と比較して、グリセリン酸はほとんど生産していないが、かわりにジヒドロキシアセトンの生産量が増加した(図4)。2日間の反応でジヒドロキシアセトン量は54 g/Lであった。この反応の間、pH調整剤として反応液中に供給されたグリセリンは74 gであった。反応期間中に消費されたグリセリン1モルに対する、生成グリセリン酸は0.68モルであった。
【0026】
(実施例5)
Gluconobacter frateurii NBRC103465に関して、実施例4と同様にジャー培養を行った。ただし、培養時の通気量は1vvmで行った。生成したグリセリン酸およびジヒドロキシアセトンを定量したところ、実施例4の図4と同様、ジヒドロキシアセトンの生産が認められた(図5)。4日間の反応でジヒドロキシアセトン量は55 g/Lであった。この反応の間、pH調整剤として反応液中に供給されたグリセリンは120 g反応期間中に消費されたグリセリン1モルに対する、生成グリセリン酸は0.94モルであった。
【0027】
(実施例6)
次にGluconobacter frateurii NBRC103465に関して、実施例2と同様にジャー培養を行った。反応液中のpHは6に制御し、pH調整剤として、BDF製造プロセスから排出されるメタノールを含む粗グリセリン(グリセリン66wt%、メタノール30wt%)を前処理なしで使用した。生成したグリセリン酸およびジヒドロキシアセトンを定量したところ、実施例2の図2と比較して、グリセリン酸はほとんど生産していないが、かわりにジヒドロキシアセトンの生産量が増加した(図6)。3日間の反応でジヒドロキシアセトン量は60 g/Lであった。この反応の間、pH調整剤として反応液中に供給されたグリセリンは296 gであった。反応期間中に消費されたグリセリン1モルに対する、生成グリセリン酸は0.74モルであった。
【0028】
(比較例1)
実施例2の比較例として、Gluconobacter frateurii NBRC103465に関して、表2に示す培地組成の本培養液を用いて実施例2と同様にジャー培養を行った。反応液中のpHは6に制御し、pH調整剤として、グリセリンを含まない単なる10M NaOHを使用した。生成したグリセリン酸およびジヒドロキシアセトンを定量したところ、実施例2の図2と比較して、グリセリン酸生産量は低下した(図7)。6日間の反応でグリセリン酸量は92 g/Lまでしか上がらず、グリセリン含有アルカリ溶液をpH調整剤として添加する方法が有用であることが示された。反応期間中に消費されたグリセリン1モルに対する、生成グリセリン酸は0.57モルであった。
【表2】

【0029】
(比較例2)
実施例2のさらなる比較例として、Gluconobacter frateurii NBRC103465に関して、表1に示す培地組成の本培養液を用いて実施例2と同様にジャー培養を行った。反応液中のpHは6に制御し、pH調整剤として、グリセリンを含まない単なる10M NaOHを使用した。生成したグリセリン酸およびジヒドロキシアセトンを定量したところ、実施例2と比較して、グリセリン酸生産量は低下した。6日間の反応でグリセリン酸量は51 g/Lまでしか上がらず、グリセリン含有アルカリ溶液をpH調整剤として添加する方法が有用であることが示された。反応期間中に消費されたグリセリン1モルに対する、生成グリセリン酸は0.35モルであった。
【符号の説明】
【0030】
●・・・グリセリン濃度(g/L)、○・・・グリセリン酸濃度(g/L)、□・・・ジヒドロキシアセトン濃度(g/L)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリセリン含有培地に、グリセリンからグリセリン酸を生産する能力を有する微生物を培養して、グリセリン酸またはジヒドロキシアセトンを選択的に製造する方法であって、メタノールを含まないグリセリン含有アルカリ溶液、及びメタノール含有グリセリン溶液のいずれかを選択して培地にフィードしながら、上記微生物を培養することを特徴とする、グリセリン酸またはジヒドロキシアセトンの選択的製造方法。
【請求項2】
グリセリンからグリセリン酸を生産する能力を有する微生物を、グリセリン含有培地に、メタノールを含まないグリセリン酸含有アルカリ溶液をフィードしながら培養し、培地からグリセリン酸を採取することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
メタノールを含まないグリセリン酸含有アルカリ溶液のフィードにより培地pHを5〜7に維持して培養することを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
メタノールを含まないグリセリン含有アルカリ溶液が油脂のエステル交換反応の際、複製される粗グリセリンに由来することを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
グリセリンからグリセリン酸を生産する能力を有する微生物を、グリセリン含有培地にメタノール含有グリセリン溶液をフィードしながら培養し、培地からジヒドロキシアセトンを採取することを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
メタノール含有グリセリン溶液がアルカリ性であることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
メタノール含有グリセリン溶液が、油脂のエステル交換反応の際、複製される粗グリセリンに由来することを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
グリセリンからグリセリン酸を生産する能力を有する微生物が、グルコノバクター(Gluconobacter)属の細菌から選ばれた微生物であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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