説明

グリセロールの塩素化によるジクロロプロパノールの製造方法

グリセロールの塩素化によるジクロロプロパノールの製造方法。グリセロールと塩化水素酸を含む塩素化剤とを、蒸気相と平衡にある液体媒体中で反応させ、蒸気相の組成を示す留分の凝縮を防止するジクロロプロパノールの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、その内容が参照により本明細書に組み込まれている、2005年11月8日に出願した米国仮特許出願第60/734637号の利益を主張するものである。
【0002】
本発明は、ジクロロプロパノールを含む反応生成物を得るために、任意選択で有機酸の存在下でグリセロールと塩素化剤を反応させるジクロロプロパノールの製造方法に関する。エピクロロヒドリンを製造するために、ジクロロプロパノールを他の反応生成物から分離し、脱塩化水素反応させることができる。そのような方法は、その内容が参照により本出願に組み込まれているSOLVAY SAの国際出願第2005/054167号に開示されている。好ましい塩素化剤は、塩化水素である。
【背景技術】
【0003】
この方法において、グリセロールと塩素化剤の反応は、好ましくは、反応条件下で塩素化剤、特に塩化水素に対して抵抗性を有する材料から作られた、または当該材料が塗布された反応器および関連補助装置にて実施される。エナメル(ガラス内張)鋼は、好ましい容器材料である。しかし、そのような材料はなお満足できるものではなく、すなわちそれらは、塩化水素含有量の高い蒸気が反応器および関連補助装置の内壁で凝集することによって生じる、水、ジクロロプロパノールおよび塩化水素を含む液体混合物によって腐食されることを本出願人は見いだした。
【特許文献1】米国仮特許出願第60/734637号
【特許文献2】国際出願第2005/054167号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、そのような問題を示さないジクロロプロパノールの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
したがって、本発明は、グリセロールと、塩化水素を含む塩素化剤とを反応させるジクロロプロパノールの製造方法であって、容器内で、液体媒体は蒸気相と平衡にあり、容器内の液体媒体の液面より上の容器の内壁の少なくとも一部を、120℃未満の温度または蒸気相の露点より少なくとも1℃高い温度に維持しかつ/またはそこに液体を滴らせる方法に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
容器内の液体媒体の液面より上の容器の内壁の部分は、連続的または断続的に必要な温度に維持される。
【0007】
120℃の温度は、少なくとも4重量%の塩化水素を含む塩化水素/水-液体混合物の存在下で、少なくとも0.01mm/年の速度のエナメル鋼の腐食が観察される温度である。
【0008】
容器は、例えば、反応器、蒸留塔、ストリップ塔、またはデカンタのように、液相の温度が120℃を超えるジクロロプロパノールの製造方法の任意の容器でありうる。
【0009】
ここで、上記温度条件および/または湿潤条件下で処理することによって、液体媒体の液面より上の容器内壁の腐食を低減することができることが見いだされた。理論に縛られることは望まないが、容器内の液体媒体の液面より上の容器の内壁の温度が120℃より低いときは、水、塩化水素およびジクロロプロパノールを含む非常に腐食性の強い凝縮混合物に接触しても腐食速度が低減されることが考えられる。また、容器内の液体媒体の液面より上の容器の内壁の温度が液体媒体より上の蒸気相の露点より少なくとも1℃高い温度のときは、水、塩化水素およびジクロロプロパノールを含む蒸気の凝縮が低減されるため、腐食速度が小さくなることが考えられる。最後に、また、容器内の液体媒体の液面より上の容器の内壁に液体を少しずつ流す(trickle)ときは、水、塩化水素およびジクロロプロパノールを含む凝縮混合物の腐食性は、希釈により低減されることが考えられる。容器の構成材料の腐食の低減により、後者の交換に伴うコストをさらに抑えることが可能になる。
【0010】
水、塩化水素およびジクロロプロパノールを含む蒸気の凝縮によって得られる液体腐食性混合物において、塩化水素含有量は、一般には混合物の1重量%以上であり、往々にして3重量%以上であり、しばしば5重量%以上である。塩化水素含有量は、一般には混合物の80重量%以下であり、往々にして60重量%以下であり、しばしば50重量%以下である。
【0011】
水、塩化水素およびジクロロプロパノールを含む蒸気の凝縮によって得られる液体腐食性混合物において、水含有量は、一般には混合物の4重量%以上であり、往々にして5重量%以上であり、しばしば10重量%以上である。水含有量は、一般には混合物の80重量%以下であり、往々にして70重量%以下であり、しばしば60重量%以下である。
【0012】
水、塩化水素およびジクロロプロパノールを含む蒸気の凝縮によって得られる液体腐食性混合物において、ジクロロプロパノール含有量は、一般には混合物の4重量%以上であり、往々にして5重量%以上であり、しばしば10重量%以上である。ジクロロプロパノール含有量は、一般には混合物の80重量%以下であり、往々にして70重量%以下であり、しばしば60重量%以下である。
【0013】
水、塩化水素およびジクロロプロパノールを含む液体腐食性混合物には、例えば、グリセロール、モノクロロプロパンジオール、およびそれらのエステルなどの他の化合物も存在しうる。
【0014】
容器内の液体媒体の液面は、容器が静的状態で運転されているときの液体の液面と定義される。
【0015】
容器内の液体媒体の液面より上の容器の内壁は、全体的に、容器内の液体媒体の液面より上から容器の最上部までである。
【0016】
本発明の方法の第1の実施形態によれば、容器内の液体媒体の液面より上の容器の内壁の温度は、120℃未満、好ましくは110℃以下、より好ましくは100℃以下、最も好ましくは90℃以下の温度である。
【0017】
第1の実施形態の第1の変形形態によれば、容器内の液体媒体の液面より上の容器の内壁を外部冷却システムによって冷却する。そのシステムは、例えば、容器内の液体媒体の液面より上の容器の部分の内壁と外壁の間(従来の二重壁ジャケット)を循環する冷却流体、あるいは容器壁に溶接されたサーペンタイン(serpentine)、もしくは熱伝導セメントによって接続されたサーペンタイン、もしくは保護層内にあるサーペンタイン(例えば、保護層に注入されたサーペンタインまたは保護層の大部分に穿孔された流路)、または容器内の液体媒体の液面より上の容器の外壁に接触する半殻状管(半管ジャケット)を循環する冷却流体であるか、あるいは容器内の液体媒体の液面より上の容器の外壁に冷却流体を流すことによるものでありうる。冷却流体は、気体または液体でありうる。外壁に流す場合は気体の流体を使用するのが好ましい。気体は、例えば、乾燥空気または窒素でありうる。二重壁外被およびサーペンタインを循環する場合は液体の流体を使用するのが好ましい。液体は、有機液体、無機液体、またはそれらの混合物でありうる。無機液体、より好ましくは水を使用するのが好ましい。
【0018】
第1の実施形態の第2の変形形態によれば、冷却流体を内壁上に流すことによって、容器内の液体媒体の液面より上の容器の内壁を冷却する。流体は、気体または液体でありうる。気体は、例えば、塩化水素または水蒸気でありうる。気体の温度は、液体媒体の温度より低い。流体は、好ましくは液体である。流体は、蒸留、蒸発またはストリップ塔において液体媒体と平衡する蒸気相の処理により生じる低温凝縮物から選択されるか、あるいはグリセロール、水、塩化水素の水溶液、ジクロロプロパノール、モノクロロプロパンジオールおよびそれらの混合物から選択されうる。低温凝縮物とは、その温度が液体媒体と平衡にある蒸気相の温度より低い凝縮物を指すことを意図する。
【0019】
冷却流体の温度は、上述した内壁温度を得るように調整される。
【0020】
本発明の方法の第2の実施形態によれば、容器内の液体媒体の液面より上の容器の内壁の温度が、液体媒体の上の蒸気の露点より少なくとも1℃、好ましくは少なくとも3℃、より好ましくは少なくとも5℃、最も好ましくは少なくとも10℃高い温度である。
【0021】
第2の実施形態の第1の変形形態によれば、容器内の液体媒体の液面より上の容器の内壁を外部加熱システムによって加熱する。そのシステムは、例えば、容器内の液体媒体の液面より上の容器の部分の内壁と外壁の間(従来の二重壁ジャケット)を循環する加熱流体、あるいは容器壁に溶接されたサーペンタイン、もしくは熱伝導セメントによって接続されたサーペンタイン、または容器内の液体媒体の液面より上の容器の外壁に接触する半殻状管(半管ジャケット)を循環する加熱流体であるか、あるいは容器内の液体媒体の液面より上の容器の外壁上に加熱流体を流すことによるものでありうる。電気トレース(electric tracing)を用いることによって、または例えば赤外線のような電磁放射線の如き放射線によって、容器内の液体媒体の液面より上の容器の部分の加熱を行うこともできる。加熱流体を使用するときは、それは、気体または液体でありうる。外部加熱に二重壁外被またはサーペンタインまたは半殻システムが使用されるときは、液体を使用するのが好ましい。液体は、有機液体、無機液体またはそれらの混合物でありうる。無機液体が好ましく、加圧水が最も好ましい。加熱流体を流すことによって加熱が行われるときは、流体は、好ましくは高温ガスである。高温ガスとは、温度が液体媒体の温度より高い気体を指すことを意図する。気体は、窒素、空気、または水蒸気でありうる。水蒸気がより好ましい。10絶対バールより低い圧力の水蒸気が最も好ましい。
【0022】
第2の実施形態の第2の変形形態によれば、容器内の液体媒体の液面より上の容器の内壁を内部加熱システムによって加熱し、液体媒体の液面より上の容器の外壁に断熱デバイスを任意選択で配置することができる。内部加熱は、加熱流体を内壁上に流すことによって行われる。加熱流体とは、温度が液体媒体の温度より高い流体を指すことを意図する。流体は、例えば、窒素、水蒸気、塩化水素、または例えばジクロロプロパノールなどのようにグリセロールと塩化水素の反応によって生成される低沸点化合物、あるいはそれらの混合物でありうる。例えば、容器内の液体媒体の液面の上で、螺旋状気体流をその液面の上で生成するような、任意の好適な方法で気体を容器に導入することができる。
【0023】
加熱流体の温度は、上述した内壁温度を得るように調整される。
【0024】
任意の種類の断熱デバイスを使用することができる。断熱材は、パーライトのような無機材料、有機材料、またはそれらの混合物から作ることができる。
【0025】
本発明の方法の第3の実施形態によれば、容器内の液体媒体の液面より上の容器の内壁に液体を少しずつ流す(trickle)。この液体は、蒸留、蒸発またはストリップ塔において液体媒体と平衡にある蒸気相の処理により生じる低温凝縮物から選択されるか、あるいはグリセロール、水、塩化水素の水溶液、ジクロロプロパノール、およびモノクロロプロパンジオール、並びにそれらの混合物から選択されうる。低温凝縮物とは、その温度が液体媒体と平衡にある蒸気相の温度より低い凝縮物を指すことを意図する。この液体は、塩化水素が低濃度の、本方法の別の部分から選択することができる。
【0026】
上述した様々な実施形態を組み合わせることができる。
【0027】
本発明の方法の第4の実施形態によれば、容器内の液体媒体の液面より上の容器の内壁を加熱し、それに液体を少しずつ流す(trickle)ことができる。その実施形態において、内壁の上部を加熱すること、および容器内の液体媒体の液面より上の内壁の下部に少しずつ流すことが好ましい。この下部は、全体的に、容器内の液体媒体の液面からその液面の0.1m上方まで伸びる。上部は、全体的に、液体媒体の液面より0.5m上方から容器の最上部までである。
【0028】
本発明の方法の第5の実施形態によれば、容器内の液体媒体の液面より上の容器の内壁を冷却し、液体を少しずつ流すことができる。
【0029】
以下の例は、本発明を例示することを意図しており、それを一切限定するものではない。
【0030】
[例1](本発明に従わない)
20重量%の塩化水素を含む水-塩化水素液体混合物と120℃で接触させると、エナメル内張鋼サンプルは、0.035mm/年の腐食速度を示す。
【0031】
[例2](本発明に従う)
20重量%の塩化水素を含む水-塩化水素液体混合物と50℃で接触させると、エナメル内張鋼サンプルは、0.010mm/年未満の腐食速度を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリセロールと、塩化水素酸を含む塩素化剤とを、蒸気相と平衡にある液体媒体中で反応させ、蒸気相の組成を示す留分の凝縮を防止するジクロロプロパノールの製造方法。
【請求項2】
グリセロールと、塩化水素を含む塩素化剤とを反応させるジクロロプロパノールの製造方法であって、容器内で、液体媒体は蒸気相と平衡にあり、容器内の液体媒体の液面より上の容器の内壁の少なくとも一部を、120℃未満の温度または蒸気相の露点より少なくとも1℃高い温度に維持しかつ/またはそこに液体を少しずつ流す方法。
【請求項3】
(a) 容器の外壁と接触するサーペンタインまたは半殻状管を循環する冷却流体、あるいは容器内の液体媒体の液面より上の容器の外壁に冷却流体を流すことから選択される外部冷却システム、または、
(b) 容器内の液体媒体の液面より上の容器の内壁に冷却流体を流すことからなる内部冷却システム、または
(c) (a)および(b)の両方
によって冷却することにより、容器内の液体媒体の液面より上の容器の内壁を120℃未満の温度に維持する請求項2に記載の方法。
【請求項4】
(A) 容器の外壁と接触するサーペンタインまたは半殻状管を循環する加熱流体、あるいは容器内の液体媒体の液面より上の容器の外壁に加熱流体を流すことから選択される外部加熱システム、または、
(B) 容器内の液体媒体の液面より上の容器の内壁に加熱流体を流すことからなる内部加熱システム、または、
(C) (A)および(B)の両方
によって加熱することにより、容器内の液体媒体の液面より上の容器の内壁を蒸気相の露点より少なくとも1℃高い温度に維持する請求項2に記載の方法。
【請求項5】
内部加熱システムを使用し、液体媒体の液面より上の容器の外壁に断熱デバイスを配置する請求項4に記載の方法。
【請求項6】
容器内の液体媒体の液面より上の容器の内壁に、蒸留、蒸発またはストリップ塔において液体媒体と平衡にある蒸気相の処理により生じる低温凝縮物から選択される液体、またはグリセロール、水、塩化水素の水溶液、ジクロロプロパノール、モノクロロプロパンジオールおよびそれらの混合物から選択される液体を少しずつ流す、請求項2から5のいずれか一項に記載の方法。

【公表番号】特表2009−514934(P2009−514934A)
【公表日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−539426(P2008−539426)
【出願日】平成18年11月8日(2006.11.8)
【国際出願番号】PCT/EP2006/068208
【国際公開番号】WO2007/054505
【国際公開日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【出願人】(591001248)ソルヴェイ(ソシエテ アノニム) (252)
【Fターム(参考)】