説明

グリッドを用いた試料ホルダ

【課題】本発明はグリッドを用いた試料ホルダに関し、隔膜型ガス雰囲気試料ホルダの試料の上下に配置する隔膜を貼り付けたグリッドのアライメント調整を容易に行なうことができるグリッドを用いた試料ホルダを提供することを目的としている。
【解決手段】隔膜型ガス雰囲気試料室を有する試料ホルダにおいて、試料36を挟む形で形成された試料の上側及び下側に取り付けられた、その中央部に電子線透過用の複数の孔37が穿たれ、その任意の領域にその回転を規制するための規制手段が設けられたグリッド31と、該グリッド31が試料ホルダ30に位置決めされるために、試料ホルダ30に設けられたくぼみ32と、前記規制手段に嵌り込む位置決め用ガイドピン33と、試料室を周囲の高真空環境からシールするためのOリング35とを有して構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はグリッドを用いた試料ホルダに関し、更に詳しくは上下のグリッドの位置決めを正確に行なうことができるようにしたグリッドを用いた試料ホルダに関する。
【背景技術】
【0002】
電子顕微鏡の観察方法において、試料近傍を真空以外の雰囲気下で観察する手法が再注目されている。その目的は気体と固体、液体と固体の反応過程を電子顕微鏡により原子レベルで観察し解析することにより、反応のメカニズムを明らかにすることにある。特に最近では触媒分野での発展が著しく、ガス(気体)と粒子(固体)の反応過程が明らかにされ、例えばその成果は自動車のエンジンの低燃費化に寄与し、環境への貢献につながっている。
【0003】
試料近傍を真空以外の雰囲気下で観察する方法については、すでに多数の技術が公開されている。その方法は解放型と隔膜型の2種類に大別することができる。例えば特開2003−187735号公報(特許文献1)にあるように、電子顕微鏡試料ホルダに外部からガスを組み込む機構と試料近傍まで延びたガス管を組み込み、このガス管に任意のガスを流して試料近傍の雰囲気を制御する技術が公開されている。試料近傍に流したガスは、電子顕微鏡の内部に拡散し、電子顕微鏡の真空排気ポンプで排気する。
【0004】
即ち、試料近傍のガスと真空を遮断しないタイプが解放型に属する。一方、特開平9−129168号公報(特許文献2)にあるように、試料近傍には真空と遮断するための隔膜を配置し、電子顕微鏡試料ホルダに外部からガスを組み込む機構と試料近傍まで伸びたガス管を組み込み、このガス管に任意のガスを流して試料近傍をガス雰囲気とする。試料近傍には隔膜が配置されているので、ガスは隔膜により真空側(電子顕微鏡内)に漏れることはなく、このタイプを隔膜型とする。
【0005】
開放型、隔膜型ともにメリットとデメリットがあり、状況に応じて選択される。開放型のメリットは、隔膜がないので電子線の透過能力は隔膜型と比較して良好であり、像の解像度が良いことである。一方、デメリットとしては、ガスが電子顕微鏡内に拡散するので、電子顕微鏡の排気系は積極的に拡散したガスを排気したり差動排気する仕組みである必要があり、電子顕微鏡の改良が必要となる。また、電子顕微鏡光路上の各種絞りは汚れやすくなり、交換頻度が上がることである。
【0006】
隔膜型のメリットは、隔膜により真空とガスを遮断できるので、電子顕微鏡本体の改造は必要なく試料ホルダを準備すれば汎用顕微鏡で観察できることと、液体を流すこともできるので、液体と固体の反応過程も観察できることである。デメリットは、隔膜により電子線の透過性能が低下するので像の解像度が開放型と比較してよくないことである。
【0007】
但し、電子線の透過能力は電子線のエネルギーが高くなると改善されるので、1000kV級の電子顕微鏡で観察する場合は、上記の隔膜型のデメリットは当てはまらなくなる。従って、1000kV級の電子顕微鏡に限っていえば、開放型と隔膜型の優位性にほとんど差がなくなり、むしろ流体も流せる隔膜型の方が応用性が高い。
【0008】
図10はガス雰囲気試料ホルダを用いた透過型電子顕微鏡の構成を示す図である。図において、1は電子顕微鏡、2は内部が真空に保持される鏡筒、3は電子線を放出する電子銃、5は照射系レンズ、6は照射系の絞り、7は観察しようとする試料、8は試料を保持する試料ホルダ、9は試料ホルダの一部で試料を収容するブロック、10は試料ホルダ8を介して試料7の位置を調整するためのゴニオメータ、11はガス環境調節装置、12は対物レンズ、13は結像系絞り、14は結像系レンズ、15は蛍光面、16は観察窓である。
【0009】
このような電子顕微鏡1においては、電子銃3から放出された電子線4は、照射系レンズ5と照射系絞り6によって集束され試料7に当てられる。試料7に当たった電子線4は試料7を透過し、また散乱するが、これらの電子線が対物レンズ12及び結像系絞り13を透過し、更に結像系レンズ14によって蛍光面15に拡大された像として結ばれる。この蛍光面15上の結像を観察窓16を通して観察する。
【0010】
この電子顕微鏡1により、含水試料を観察したり、試料とガスとを反応させた状態で試料7を観察したりする場合、従来はブロック9の試料7を収容セットする室を隔膜により鏡筒2内の真空から遮断すると共にガスを充満させた隔膜型ガス雰囲気試料室として形成し、この隔膜型ガス雰囲気試料室に導入されたウエットガスにより試料7の乾燥を防止し、或いは隔膜型ガス雰囲気試料室に導入されたガスと試料7とを反応させるようにしている。
【0011】
図11に示すようにブロック9内には隔膜型ガス雰囲気試料室20が形成されていると共に、ブロック9の上下板の中央には上下に貫通し電子線4が透過する窓21,22が形成されている。また、これらの窓21,22を内側から覆うようにしてフィルム状の隔膜23,24が設けられている。そして、下側の隔膜24の上に試料7がセットされている。更に、ガス供給側管18とガス排出側管19とが隔膜型ガス雰囲気試料室20内に連通しており、従ってガス供給側管18から供給されたガスGが隔膜型ガス雰囲気試料室20内を充満した後、ガス排出側管19から排出される。
【0012】
これにより、隔膜型ガス雰囲気試料室20の試料7は、充満したガスGに曝されるようになる。含水状態にある試料7を観察する場合には、ガス環境調整装置11を操作することによりガス供給側管18を通してウエットガスGを隔膜型ガス雰囲気試料室20内に導入してこのウエットガスGに試料7を曝して含水試料7の乾燥を防止する。また、試料7を反応ガスGと反応させた状態で観察する場合には、反応ガスGを隔膜型ガス雰囲気試料室20内に導入してこの反応ガスGと試料7とを反応させる。以上説明した図10,図11で示すガス雰囲気試料ホルダも従来の技術である(特許文献3)。
【0013】
ここで、図11に示す装置で、グリッドは消耗品であり、厚さ数百μmの円盤に複数個の小孔が穿たれており、小孔を塞ぐように隔膜が張られている。隔膜は電子線を透過するが同時にガスもわずかに透過してしまうので、電子顕微鏡本体へのガスの影響や試料周辺のガス雰囲気の保持を考えると、小孔は小さくかつ少ない方がよい。通常、数百μm程度の孔を複数個設ける。小孔はそのまま電子顕微鏡における視野となってしまうので、グリッドを2枚電子線上に配置することより更に視野を狭めてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2003−187735号公報(段落0015〜0021、図1)
【特許文献2】特開平9−129168号公報(段落0014〜0018、図1,図2)
【特許文献3】特開2000−133186号公報(段落0011〜0023、図1,図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
隔膜型は、隔膜でガスと雰囲気を遮断する必要性から、薄膜を貼り付けるグリッドを試料の上下部分に配置する必要があり、この上下のグリッドのアライメントがずれていると、観察できる視野が狭くなったり、試料傾斜すると視野がグリッドと重なり、観察できないことが従来から問題となっている。
【0016】
図12を用いて上記課題を説明する。グリッド41には、電子線が通るための孔が1個以上空いている。図では3孔のグリッドを用いる。孔の大きさは、隔膜を張ったとき、隔膜の強度が十分たもて、かつしわがないように貼り付けるために、経験的に直径100μm前後としている。隔膜はグリッド41に取り付けられており、カーボン膜やシリコンナイトライド膜が一般的に用いられている。図12は上記を模式的に示しており、寸法は前述の値とは合っていない。
【0017】
(a)はグリッド41と試料42の配置断面図で、試料42の上下に隔膜43を張ったグリッド41が配置される。(b)はグリッド41と試料42の配置断面図であり、試料42の下に隔膜43を張ったグリッド41が配置される。(b)はグリッド41と試料42の平面図で、試料上下のグリッド41の位置が一致している理想的な状態を示している。なお、隔膜は図示していない。
【0018】
グリッド41の孔44の領域は、試料42が見えているので観察可能になる。それに対して、(c)はグリッド41と試料42の平面図であり、試料上下のグリッド41の位置が少しずれた場合を示している。この場合は、(b)と比較して孔44が狭くなり、試料42の観察領域が狭まっている。観察領域が狭まると、観察対象がその孔の位置にくる確率が下がるので、実験効率が低下することが問題となる。
【0019】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであって、隔膜型ガス雰囲気試料ホルダの試料の上下に配置する隔膜を貼り付けたグリッドのアライメント調整を容易に行なうことができるグリッドを用いた試料ホルダを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記した課題を解決するために、本発明は以下のような構成をとっている。
(1)請求項1記載の発明は、隔膜型ガス雰囲気試料室を有する試料ホルダにおいて、試料を挟む形で形成された試料の上側及び下側に取り付けられた、その中央部に電子線透過用の複数の孔が穿たれ、その任意の領域にグリッドの回転を規制するための規制手段が設けられたグリッドと、該グリッドが試料ホルダに位置決めされるために、試料ホルダに設けられたくぼみと、前記規制手段に嵌り込む位置決め用ガイドピンと、試料室を周囲の高真空環境からシールするためのOリングと、を有して構成されることを特徴とする。
【0021】
(2)請求項2記載の発明は、前記規制手段は、グリッドの円周外縁に設けられた半円形の溝であることを特徴とする。
(3)請求項3記載の発明は、前記規制手段は、グリッドの円周外縁の付近に設けられた円形の孔に前記ガイドピンが貫通する構成であることを特徴とする。
【0022】
(4)請求項4記載の発明は、隔膜型ガス雰囲気試料室を有する試料ホルダにおいて、試料を挟む形で形成された試料の上側及び下側に取り付けられた、その中央部に電子線透過用の複数の孔が穿たれ、その任意の領域にグリッドの回転を規制するための規制手段が設けられたグリッドと、該グリッドが試料ホルダに位置決めされるために、試料ホルダに設けられたくぼみと、試料室を周囲の高真空環境からシールするためのOリングと、を有し、前記規制手段は、前記くぼみに設けられたガイド壁と、グリッドの円周外縁の一部をカットして前記ガイド壁に当接するためのガイドエッジとを設けて構成されることを特徴とする。
【0023】
(5)請求項5記載の発明は、隔膜型ガス雰囲気試料室を有する試料ホルダにおいて、試料を挟む形で形成された試料の上側及び下側に取り付けられた、その中央部に電子線透過用の複数の孔が穿たれ、その任意の領域に電子線透過用孔のアライメント用の位置決め手段が設けられた隔膜を貼り付けるためのグリッドと、前記グリッドの位置決め手段内を貫通するポストと、試料室を周囲の高真空環境からシールするためのOリングと、を有して構成されることを特徴とする。
【0024】
(6)請求項6記載の発明は、前記位置決め手段は丸い孔であることを特徴とする。
(7)請求項7記載の発明は、隔膜型ガス雰囲気試料室を有する試料ホルダにおいて、試料を挟む形で形成された試料の上側及び下側に取り付けられた、その中央部に電子線透過用の複数の孔が穿たれ、その任意の領域に電子線透過用孔のアライメント用の位置決め手段が設けられた隔膜を貼り付けるためのグリッドと、試料室を周囲の高真空環境からシールするためのOリングと、を有し、前記位置決め手段は、前記グリッドの円周外縁部に設けられたガイドと、該ガイドと当接するガイドピンから構成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明は以下に示すような効果を有する。
(1)請求項1記載の発明によれば、試料ホルダに設けられたくぼみによりグリッドを試料ホルダに位置決めすることができ、更に溝に嵌り込む位置決め用ガイドピンによグリッドの回転を抑制すると共に、試料の上下に設けられたグリッドに形成された電子透過用孔の位置を合わせることができ、試料の上下に配置する隔膜を貼り付けたグリッドのアライメント調整を容易に行なうことができる。
【0026】
(2)請求項2記載の発明によれば、グリッドの円周外縁に設けられた半円形の溝により、グリッドを試料ホルダに正確に位置決めすることができる。
(3)請求項3記載の発明によれば、グリッドの円周外縁の付近に設けられた円形の孔にガイドピンを取り付けることで、グリッドの位置決めを正確に行なうことができる。
【0027】
(4)請求項4記載の発明によれば、グリッドの円周外縁の付近にガイドエッジを設けることにより、グリッドの回転を抑制することができ、グリッド中央に設けられた上下のグリッドの電子線透過用孔の位置を容易に合わせることができる。
【0028】
(5)請求項5記載の発明によれば、グリッドに前記アライメント用孔を貫通するためのアライメント用の位置決め手段と、ガイドピンと、試料室を周囲の高真空環境からシールするためのOリングとを設けることにより、グリッドの孔位置が精度よく合うので、より広い観察領域を確保することができる。
【0029】
(6)請求項6記載の発明によれば、前記位置決め手段として丸い孔を設けることで、グリッドの回転を規制できると共に、グリッドの電子線入射用孔の位置決めを容易に行なうことができる。
【0030】
(7)請求項7記載の発明によれば、前記位置決め手段としてグリッドの円周外縁部に設けられたガイドを用いることで、グリッドの回転を規制できると共に、グリッドの電子線入射孔の位置決めを容易に行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施例1の構成例を示す段面図である。
【図2】本発明の実施例1の上面図である。
【図3】上下グリッドのズレの説明図である。
【図4】本発明の実施例2の上面図である。
【図5】本発明の実施例3の上面図である。
【図6】本発明の実施例4の上面図である。
【図7】試料ホルダにグリップを取り付けた図である。
【図8】本発明の実施例5の上面図である。
【図9】試料ホルダにグリップを取り付けた図である。
【図10】ガス雰囲気試料ホルダを用いた透過型電子顕微鏡の構成を示す図である。
【図11】試料ホルダの構成断面を示す図である。
【図12】隔膜型の問題点の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
(実施例1)
以下、図面を参照して本発明の実施例を詳細に説明する。図1は本発明の実施例1の構成例を示す段面図、図2はその上面図である。図において、30は試料ホルダ、31aは上側に設けたグリッド、31bは下側に設けたグリッド、32aはグリッド31aの位置決めをするためのくぼみ、32bはグリッド31bの位置決めをするためのくぼみである。
【0033】
34はグリッド31a,31bを半円状に削って構成される溝、33は該溝34に嵌め込まれるガイドピンである。35aと35bはそれぞれ試料室内部と外側とをシールするためのOリングである。36は上側グリッド31a及び下側グリッド31bの内部に置かれる試料である。図では、隔膜は図示していない。このように構成された装置の動作を説明すれば、以下の通りである。
【0034】
試料ホルダ30には、グリッド31a,31bを嵌め込むためのくぼみ32a,32bが形成されている。くぼみ32a,32bにはガイドピン33を設ける。グリッド31a,31bの外周にはガイドピン33が当接するための溝34を設け、回転方向の規制を加える。この場合において、グリッド31a,31bがガスをシールするための部材を兼ねていることがあるので、溝34がOリング35a,35bのシール面に干渉してはならない。
【0035】
グリッド31a,31bの2枚の間には試料36が配置される。実施例では、ガイドピ33は円形、溝34は半円形であるが、形状は特に問わない。例えば、溝34は矩形でもよいし、グリッド31a,31bにDカットを施すだけでも同様の役割を持たせることができる。
【0036】
くぼみ32bにグリッド31bを嵌め込む。その時にガイドピン33が溝34に当接するように組み込む。下側はそれ以外に特に位置に関して意識することは不要である。続いて試料36を入れ、くぼみ32aにグリッド31aを組み込む。この時にも、ガイドピン33が溝34に当接するようにする。
【0037】
続いて光学顕微鏡下などで上下のグリッド31a,31bの位置合わせを行なう。グリッド31a,31bの外径と、くぼみ32a,32bの内径、ガイドピン33の外径と溝34には加工上やむを得ない間隙があるが、微調整する移動方向と移動量が制約されているので、簡単に位置合わせが可能である。
【0038】
図3は上下グリッドのズレの説明図である。この図では、上下グリッドのズレが分かりやすいように実際よりもガタを大きく描いている。電子線透過用孔37が上側のグリッド31aと下側のグリッド31bとで一致すれば、上下グリッドのズレの調整が終わったことになる。
【0039】
以上詳細に説明したように、本発明の実施例1によれば、試料ホルダ30に設けられたくぼみ32によりグリッド31を試料ホルダ30に位置決めすることができ、更に溝34に嵌め込む位置決め用ガイドピン33によグリッド31の回転を抑制すると共に、試料36の上下に設けられたグリッド31a,31bに形成された電子線透過用孔37a,37bの位置を合わせることができ、試料36の上下に配置する隔膜を貼り付けたグリッド31a,31bのアライメント調整を容易に行なうことができる。また、グリッド31の円周外縁に設けられた半円形の溝34により、グリッド31を試料ホルダ30に正確に位置決めすることができる。
(実施例2)
図4は本発明の実施例2の上面図である。図2と同一のものは、同一の符号を付して示す。試料ホルダ30には、グリッド31a,31bを嵌め込むためのくぼみ32a,32bがある。くぼみ32a,32bにはガイドピン33を設ける。グリッド31a,31bにはガイドピン33が貫通するためのガイド孔34aを設け、回転方向の規制を加える。
【0040】
グリッド31a,31bに対するガイド孔34aの位置は、グリッド31の外周近辺に配置した方が回転位置規制が厳しくなるので望ましい。但し、その時にグリッド31a,31bがガスをシールするための部材を兼ねていることがあるので、ガイド孔34aはOリング35a,35bのシール面に干渉してはならない。グリッド31a,31bの間には試料36が配置されている。この実施例では、ガイド孔34aは円形であるが、形状は問わない。このように構成された装置の動作を説明すれば、以下の通りである。
【0041】
くぼみ32bに下のグリッド31bを嵌め込む。その時にガイドピン33がガイド孔34aを貫通するように組み込む。下側はそれ以外に特に位置に関して意識することは不要である。続いて試料36を入れ、くぼみ32aに上のグリッド31aを組み込む。この時にもガイドピン33がガイド孔34aを貫通するようにする。続いて光学顕微鏡下などで上下のグリッド31a,31bの位置合わせを行なう。グリッド31の外径とくぼみ32の内径、ガイドピン33の外径とガイド孔34a内径には加工上やむを得ない間隙があるが、微調整する移動方向と移動量が制約されているので、簡単に位置合わせが可能である。ここで、位置合わせとは、グリッド31aに穿たれた電子線透過用孔37aと、グリッド31bに穿たれた電子線透過用孔37bとが一致するように合わせることをいう。
【0042】
実施例2によれば、グリッドの円周外縁の付近に設けられた円形の孔にガイドピンを取り付けることで、グリッドの位置決めを正確に行なうことができる。
(実施例3)
図5は本発明の実施例3の上面図である。図2と同一のものは、同一の符号を付して示す。試料ホルダ30には、グリッド31aを嵌め込むためのくぼみ32aがある。このくぼみ32aにはガイド壁38を設ける。グリッド31aにはガイド壁38に当接するガイドエッジ39を設け、回転方向の規制を加える。このガイドエッジ39は、グリッド31a,31bの円周外縁の一部をカットしたものであり、Dカットと称される。
【0043】
ガイド壁38とガイドエッジ39は、長いほど回転の位置規制が厳しくなるので望ましい。ただし、その時にグリッド31aがガスをシールするための部材を兼ねていることがあるので、ガイドエッジ39はOリング35のシール面に干渉してはならない。グリッド31a,31b(図示せず)の間には試料36(図示せず)が存在する。この実施例では、ガイド壁38とガイドエッジ39は1辺であるが、数は問わない。このように構成された装置の動作を説明すれば、以下の通りである。
【0044】
くぼみ32b(下)にグリッド31b(下)を嵌め込む。その時にガイド壁38がガイドエッジ39に当接するように組み込む。下側はそれ以外に特に位置に関して意識することは不要である。続いて試料36を入れ、くぼみ32aにグリッド31a(上)を組み込む。この時もガイド壁38がガイドエッジ39と当接するようにする。続いて光学顕微鏡下などで上下のグリッド31a,31bの位置合わせを行なう。具体的には電子線透過用孔37a(上側)と電子線透過用孔37b(下側)が一致するように合わせる。
【0045】
ガイド壁38とガイドエッジ39とを合わせても、グリッド31の外径とくぼみ32の内径には、加工上やむを得ない間隙があるが、微調整する移動方向と移動量が制約されているので、簡単に位置合わせが可能である。
【0046】
この実施例によれば、グリッドの円周外縁の付近にガイドエッジを設けることにより、グリッドの回転を抑制することができ、グリッド中央に設けられた上下のグリッドの電子線透過用孔の位置を容易に合わせることができる。
(実施例4)
図6は本発明の実施例4の上面図、図7は試料ホルダにグリッドを取り付けた図である。グリッド41aと41bは試料ホルダ50に固定されている。また、グリッド41aと41bにはポスト45が入るアライメント用の孔46が空いている。このアライメント用孔46の加工精度はポスト45の加工公差に基づいて決めることができる。ポスト45の加工精度をφ0.5mm(−0.005mm,0)とした場合、アライメント用孔46の加工精度をφ0.3mm(0,0.005)程度とし、アライメント用孔46に確実にポスト45が入るように加工する。102と103は部材のビス止め、101はガスを流すガス配管である。
【0047】
図7に示すように、試料ホルダ50にグリッド41a,41bを取り付け、ポスト45は図示したように試料42の上下に取り付ける。グリッド41a,41bを同一のポスト45で調整できるようにし、グリッド41a,41bの調整精度を改善している。以下に、具体的な取り付け方法について説明する。
【0048】
試料ホルダ50に試料42からみて下側のグリッド41bを装着する。この時、装着するグリッド41bには隔膜43bが取り付けられている必要がある。グリッド41bを装着する際、ポスト45を目印にしてアライメント(調整)用の孔46にポスト45を合わせて装着する。
【0049】
次に、試料42を装着する。試料42は粉末である場合や、バルクである場合と様々なケースがある。可能であれば、グリッド41bの電子線透過用孔44aに検鏡したい場所がくるように予め試料42を工夫することが望ましい。試料42を装着後、試料42の上側にポスト45を目印にしてアライメント用の孔46をポスト45に合わせてグリッド41aを入れる。このグリッド41aにも隔膜43aが貼り付けられている必要がある。
【0050】
グリッド41aの形状は円形なので、ポスト45を基準にして回転することができる。そこで、下側に取り付けたグリッド41bの孔位置を見ながら、ピンセットを用いて上側に付けたグリッド41aをポスト45を基準にして回転させ、下側のグリッド41bの孔44bに上側のグリッド41aの孔位置を合わせ固定する。このように試料42の上下にグリッド41a,41bを装着すると、本発明以前のアライメント機構がない場合と比較して、試料42の上下に取り付けたグリッド41a,41bの孔44a,44bの位置が精度よく合うので、より広い観察領域を確保することができる。
【0051】
このように、この実施例によれば、グリッドに前記アライメント用孔を貫通するためのアライメント用の位置決め手段と、ガイドピンと、試料室を周囲の高真空環境からシールするためのOリングとを設けることにより、グリッドの孔位置が精度よく合うので、より広い観察領域を確保することができる。
(実施例5)
前述した実施例4では、グリッド41内にアライメント用の孔46を組み込む必要があり、かつ試料ホルダ50にもポスト45を立てる必要があることから、アライメントは非常に簡単にできるものの、形状が複雑になる。そこで、実施例4におけるアライメント用孔46の代わりに、アライメント用のガイド48を、試料ホルダ50側にはポスト45の代わりにガイドピン49で対応する発明も実現した。
【0052】
図8と図9は本発明の実施例5の説明図であり、図8は上面図、図9は試料ホルダにグリッドを取り付けた図である。グリッド41a,41bには、前述した実施例4と同様に観察用の孔44a,44bがあいており、アライメント用の孔46(図6参照)の代わりにアライメント用のガイド48を組み込んだ。図8のグリッド41a,41bを試料ホルダ50に組み込んだ場合、図9に示すようになる。
【0053】
グリッド41a,41b用のアライメント用ガイド48を試料ホルダ50のガイドピン49a,49bに合わせてグリッド41a,41bを組み込む。この場合、アライメント用のガイド48とガイドピン49a,49bの接点が支点となってグリッド41a,41bは回転することができる。
【0054】
この場合も、試料下側に隔膜43bを貼り付けたグリッド41bを装着し、試料42をセットする。試料42の上部に同じく隔膜43aを張ったグリッド41aを装着する。その際、アライメント用のガイド48とガイドピン49a,49bの接点が支点となってグリッドを回転することができるので、下側のグリッドの孔と合わせるようにピンセットでグリッド41a,41bを適切に回転し、上下の孔位置を合わせることができる。
【0055】
この実施例によれば、前記位置決め手段としてグリッドの円周外縁部に設けられたガイドを用いることで、グリッドの回転を規制できると共に、グリッドの電子線入射孔の位置決めを容易に行なうことができる。
【0056】
以上、説明した本発明の効果を列挙すれば、以下の通りである。
1)グリッドにガイドを形成することにより、上下のグリッド孔の微調整が簡単になり、グリッド組み込み・交換が容易になった。
【0057】
2)グリッドにガイドを形成することにより、上下のグリッド孔の微調整の位置精度があがり、顕微鏡での像観察時に視野が確実に確保できるようになった。
3)隔膜型ガス雰囲気試料ホルダは、隔膜でガスと雰囲気を遮断する必要性から、隔膜を貼り付けるグリッドを試料の上下部分に配置する必要があり、この上下のグリッドのアライメントがずれていると、観察できる視野が狭くなったり、試料傾斜すると視野がグリッドと重なり観察できないことが課題であった。
【0058】
そこで、本発明では、より広い観察領域を確保するため、隔膜型ガス雰囲気試料ホルダにおいて、試料の上下に配置する隔膜を貼り付けたグリッドのアライメントを容易にできる機構を実現することができた。この発明により、広い視野が確保できるようになったので、試料内の観察対象が孔位置にくる確率が高くなり、実験効率の低下を抑制することができるようになり、研究スピードの向上という観点から技術発展に寄与することができた。
【符号の説明】
【0059】
30 試料ホルダ
31a グリッド
31b グリッド
32a くぼみ
32b くぼみ
33 ガイドピン
34 溝
35a Oリング
35b Oリング
36 試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
隔膜型ガス雰囲気試料室を有する試料ホルダにおいて、
試料を挟む形で形成された試料の上側及び下側に取り付けられた、その中央部に電子線透過用の複数の孔が穿たれ、その任意の領域にグリッドの回転を規制するための規制手段が設けられたグリッドと、
該グリッドが試料ホルダに位置決めされるために、試料ホルダに設けられたくぼみと、
前記規制手段に嵌り込む位置決め用ガイドピンと、
試料室を周囲の高真空環境からシールするためのOリングと、
を有して構成されることを特徴とするグリッドを用いた試料ホルダ。
【請求項2】
前記規制手段は、グリッドの円周外縁に設けられた半円形の溝であることを特徴とする請求項1記載のグリッドを用いた試料ホルダ。
【請求項3】
前記規制手段は、グリッドの円周外縁の付近に設けられた円形の孔に前記ガイドピンが貫通する構成であることを特徴とする請求項1記載のグリッドを用いた試料ホルダ。
【請求項4】
隔膜型ガス雰囲気試料室を有する試料ホルダにおいて、
試料を挟む形で形成された試料の上側及び下側に取り付けられた、その中央部に電子線透過用の複数の孔が穿たれ、その任意の領域にグリッドの回転を規制するための規制手段が設けられたグリッドと、
該グリッドが試料ホルダに位置決めされるために、試料ホルダに設けられたくぼみと、
試料室を周囲の高真空環境からシールするためのOリングと、
を有し、
前記規制手段は、前記くぼみに設けられたガイド壁と、グリッドの円周外縁の一部をカットして前記ガイド壁に当接するためのガイドエッジとを設けて構成されることを特徴とするグリッドを用いた試料ホルダ。
【請求項5】
隔膜型ガス雰囲気試料室を有する試料ホルダにおいて、
試料を挟む形で形成された試料の上側及び下側に取り付けられた、その中央部に電子線透過用の複数の孔が穿たれ、その任意の領域に電子線透過用孔のアライメント用の位置決め手段が設けられた隔膜を貼り付けるためのグリッドと、
前記グリッドの位置決め手段内を貫通するポストと、
試料室を周囲の高真空環境からシールするためのOリングと、
を有して構成されることを特徴とするグリッドを用いた試料ホルダ。
【請求項6】
前記位置決め手段は丸い孔であることを特徴とする請求項5記載のグリッドを用いた試料ホルダ。
【請求項7】
隔膜型ガス雰囲気試料室を有する試料ホルダにおいて、
試料を挟む形で形成された試料の上側及び下側に取り付けられた、その中央部に電子線透過用の複数の孔が穿たれ、その任意の領域に電子線透過用孔のアライメント用の位置決め手段が設けられた隔膜を貼り付けるためのグリッドと、
試料室を周囲の高真空環境からシールするためのOリングと、
を有し、
前記位置決め手段は、前記グリッドの円周外縁部に設けられたガイドと、該ガイドと当接するガイドピンから構成されることを特徴とするグリッドを用いた試料ホルダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−129443(P2011−129443A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−288677(P2009−288677)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】