説明

グリース組成物

【課題】低い摩擦係数により、転がり軸受系を極めて高い効率で潤滑することができ、かつ、安価・簡単に製造可能なグリース組成物、その製造方法、およびその使用を提供する。
【解決手段】本発明のグリース組成物は、少なくとも1種のアルキル芳香族化合物(A1)によって大部分が構成された合成基油(A)と、少なくとも1種の脂肪酸金属セッケンによって大部分が構成された増ちょう剤(B)と、少なくとも85%の粒子の粒径が1ミクロン未満であるポリテトラフルオロエチレンのナノ粒子によって大部分が構成された固体潤滑剤(C)とを含む。任意で、他種の添加剤が配合されてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリース組成物、特に、転がり軸受(rolling bearing)のグリース潤滑に使用可能なグリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
潤滑用途のなかには、潤滑部位から「外れる」という理由で液体潤滑剤が好適とされない、数多くの用途が存在する。これらの用途として、特に、転がり軸受、滑り軸受、オープンギア、金属ケーブル、チェーンドライブなどが挙げられ、概して言えば、密封系(sealing system)を伴わないあらゆる用途がそれに当てはまる。
【0003】
上記のような用途には、固体物質または半流動性物質である潤滑グリースが使用される。潤滑グリースは、液体潤滑剤にそれ特有の特性を付与する添加物を組み込み、かつ、増ちょう剤を分散させたものである。
【0004】
大半の潤滑グリースは、脂肪酸金属塩系の増ちょう剤を用いて調製される。そのような増ちょう剤は、基油に脂肪酸を比較的高温で溶解させたものに、適切な金属水酸化物を添加し、反応で生じた水分を加熱によって蒸発させてから、セッケン格子構造体が生じるように所定時間のあいだ冷却させることによって得られる。
【0005】
グリースを製造するにあたり、水酸化リチウム塩、水酸化ナトリウム塩、水酸化カルシウム塩、水酸化バリウム塩、水酸化チタン塩、水酸化アルミニウム塩などが金属化合物として好適とされる。一般的には、植物油(例えば、ヒマシ油など)や動物油(例えば、獣脂など)から、C14〜C28程度の長鎖、主に、C18の長鎖を有する脂肪酸を誘導する。これらの脂肪酸は水添処理されてもよい。最もよく知られた誘導体は、リシノール酸から誘導された12−ヒドロキシステアリン酸である。
【0006】
長鎖を有する脂肪酸と、一般的に炭素数6〜12の短鎖を有する脂肪酸(例えば、アゼライン酸など)とを組み合わせることにより、いわゆるコンプレックスグリースを調製することもできる。
【0007】
金属セッケンは繊維状構造を形成し、この繊維状構造によって潤滑油を保持する。またアルミニウムセッケンは球状のゲル構造を形成する。
【0008】
他の種類の無機系増ちょう剤、例えば、ベントナイト、シリカゲルなども使用可能である。増ちょう剤の種類には、ポリカルバミド(ポリウレア)系も見受けられる。
【0009】
一般的に、これらの増ちょう剤は、高温用グリースなどの特殊な用途に使用される。
【0010】
一部の用途、例えば、潤滑転がり軸受、機械工具のスライドレール、自動車の集中グリース潤滑システム、伝動機構(トランスミッションも含む)などについては、システムの効率を向上させると共に燃料の節約(いわゆる「エコ燃料」特性、または「省燃費」特性)を達成するために、低い摩擦係数のグリースが望ましいとされる。また、これらのグリースとしては、潤滑部位から外れることなく、摩耗の軽減および焼付きの防止の役割を果たすのに十分なちょう度を維持できるものが望ましい。
【0011】
特許文献1には、摩擦係数の改善および系の焼付きの防止のために、粒子形態の固体潤滑剤を添加剤として含んだ特定のグリース組成物が開示されている。
顕著な効果を得るには、固体潤滑剤、特に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を、グリース中に高配合量、例えば5質量%以上、さらには10質量%以上、場合によっては最大40質量%含有させるのが望ましいことは知られている。
また、そのような粒子形態の固体潤滑剤は、粒子をナノメータサイズにすると耐摩擦特性および耐摩耗特性が向上することも知られている。特許文献2には、液体潤滑剤またはグリース中の固体潤滑剤を500nm未満の粒径のナノ粒子とすることにより、耐摩耗特性および潤滑特性を向上させることが開示されている。この場合でも、顕著な効果を得るのに必要な固体潤滑剤の量は、約20質量%程度または15質量%超と極めて多い。
このように高い含有量は、処方コストの問題につながるだけでなく、潤滑剤およびグリースの他の特性、特に、粘度やグリースのちょう度に、望ましくない影響を与える可能性がある。
【0012】
また、特許文献3には、このようなナノ粒子の固体潤滑剤、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などを、例えば、モータオイル中に0.01〜10質量%の配合量で、有機モリブデン化合物類、ジチオリン酸亜鉛化合物類、ホウ素化合物類などと組み合わせることにより、当該モータオイルの潤滑能力を向上させる構成が記載されている。
【0013】
しかし、従来技術には、潤滑剤またはグリース中の固体ナノ粒子の耐摩擦効果を最大限に引き出すような全てのパラメータ調節、特に、潤滑剤またはグリース中の当該固体ナノ粒子の実質上の適度な分散を決定するようなパラメータ調節が開示されていない。また、これらのパラメータは、媒体によって大きく異なるものと考えられ、例えば、グリースと液体潤滑剤とでは異なるものと想定される。さらに、これらのパラメータは、使用される粒子、基剤、および増ちょう剤の性質によって変化すると思われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開昭55−82196号公報
【特許文献2】国際公報第2008/069936号パンフレット
【特許文献3】米国特許出願公開第2005/0124504号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって、固体ナノ粒子の耐摩擦効果を向上したグリース組成物が、強く求められている。さらに、耐摩耗効果を向上したグリースも求められている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
驚くべきことに、出願人により、合成基油、脂肪酸金属セッケン、およびナノ粒子の形態の固体潤滑剤添加物の特定の組合せにより、極めて低い摩擦係数を有し、転がり軸受系を極めて高い効率で潤滑可能なグリースを調製できることが判明した。
【0017】
本発明はグリース組成物に関するものであり、このグリース組成物は:
−少なくとも1種のアルキル芳香族化合物の合成基油と、
−少なくとも1種の脂肪酸金属セッケンと、
−少なくとも80%の粒子の粒径が1ミクロン(マイクロメートル)未満であるポリテトラフルオロエチレンのナノ粒子によって構成された固体潤滑剤と、
を含む。
【0018】
本発明の利点のひとつは、少ない量の固体ナノ粒子で顕著な耐摩擦効果が得られる点であり、典型的には、前記組成物の総重量に対して、固体ナノ粒子が10質量%以下の量、あるいは、5質量%以下の量でそのような効果が得られる。このような少ない量により、低い摩擦係数のグリース組成物を経済的に製造することができ、かつ、転がり系を高い効率で動作したり、様々な系、例えば、伝動機構(特には、自動車のトランスミッション)、等速自在継手などの系において、エネルギーを節約したりすることができる。
【0019】
本発明の他の利点は、上記の効果が、安価に入手可能な従来からの増ちょう剤である、脂肪酸金属セッケンで得られる点である。一部の増ちょう剤、例えば、ポリウレアなどは、高価なだけでなく製造も困難なので、大量に入手することができない。
【0020】
有利なことに、上記のような脂肪酸金属セッケンは、他種の増ちょう剤、例えば、ポリウレアなどに匹敵する極めて良好な機械的強度を備えている。したがって、本発明にかかるグリースは、機械的応力に曝されてもその構造を損なうことがなく、また、非密封系においてグリース潤滑部位から外れる恐れなく使用することができる。
【0021】
本発明はグリース組成物に関するものであり、このグリース組成物は:
−少なくとも1種のアルキル芳香族化合物(A1)によって大部分が構成された合成基油(A)と、
−少なくとも1種の脂肪酸金属セッケンによって大部分が構成された増ちょう剤(B)と、
−少なくとも85%の粒子の粒径が1ミクロン未満であるポリテトラフルオロエチレンのナノ粒子によって大部分が構成された固体潤滑剤(C)と、
を含む。
【0022】
好ましくは、アルキル芳香族化合物(A1)で構成された油は、前記組成物中の基油(A)の少なくとも80重量%を構成している。
【0023】
好ましくは、金属セッケン(B)は、前記組成物中の増ちょう剤(B)の少なくとも80重量%を構成している。
【0024】
好ましくは、固体潤滑剤(C)の少なくとも80重量%、特には、少なくとも90重量%が、ポリテトラフルオロエチレンのナノ粒子で構成されている。
【0025】
一実施形態において、固体潤滑剤(C)は、ポリテトラフルオロエチレンのナノ粒子のみで構成されている。
【0026】
好ましくは、増ちょう剤(B)には、ウレア化合物が含まれていない。
【0027】
好ましくは、前記組成物中に炭酸カルシウムは含まれていない。
【0028】
好ましくは、前記組成物中には、ポリテトラフルオロエチレンのナノ粒子である固体潤滑剤が、0.1〜10重量%、特には、2〜7重量%含まれている。
【0029】
好ましくは、ポリテトラフルオロエチレンの粒子の平均粒径は、150〜800nmである。
【0030】
前記合成基油は、アルキルベンゼン系およびアルキルナフタレン系の油から選択されてもよい。
【0031】
一実施形態において、前記合成基油(A)は、さらに、少なくとも1種の他の鉱物性基油、合成基油または天然基油(A2)、好ましくはポリαオレフィン類から選択される合成基油を含む。
【0032】
好ましくは、前記セッケンは、ヒドロキシル化または非ヒドロキシル化の、炭素数14〜28の飽和脂肪酸または不飽和脂肪酸の単一型の金属セッケンであるか、あるいは、ヒドロキシル化または非ヒドロキシル化の、炭素数14〜28の少なくとも1種の飽和脂肪酸もしくは不飽和脂肪酸と、炭素数6〜12の短い炭化水素鎖を有する少なくとも1種のカルボン酸との組合せによるコンプレックス型の金属セッケンである。
【0033】
前記脂肪酸金属セッケンは、チタンセッケンおよびアルミニウムセッケンから選択されてもよいし、また、アルカリ金属セッケンおよびアルカリ土類金属セッケンから選択されてもよく、好ましくは、リチウムセッケン、カルシウムセッケン、ナトリウムセッケン、およびバリウムセッケンから選択される。
【0034】
本発明にかかる組成物中には、少なくとも1種の耐摩耗剤および/または極圧剤が含まれていてもよい。
【0035】
また、本発明は、以下に示すグリース組成物に関する。このグリース組成物は、当該組成物の総重量に対して、
−合成基油(A)50〜90重量%と、
−少なくとも1種の脂肪酸金属セッケンによって大部分が構成された増ちょう剤(B)1〜15重量%と、
−少なくとも85%の粒子の粒径が1ミクロン未満であるポリテトラフルオロエチレンのナノ粒子粉末の形態の固体潤滑剤(C)0.1〜10重量%と、
−少なくとも1種の耐摩耗剤および/または極圧剤0〜10%と、
を含む。
【0036】
好ましくは、前記組成物中には、その総重量に対して、ポリαオレフィン系の合成基油(A2)が5〜15重量%含まれている。
【0037】
好ましくは、前記組成物は、ASTM D445規格に準拠して測定される40℃での動粘度が10〜120mm/sである基油(A)を含む。
【0038】
好ましくは、前記組成物の、ASTM D217規格によるちょう度(1/10mm)は、265超、好ましくは、265〜475、265〜295、310〜340、または335〜385、あるいは、400超、好ましくは、400〜475、または445〜475である。
【0039】
さらに、本発明は、前述したようなグリースを製造する方法に関する。この製造方法は:
−基油または基油混合物の一部に対して少なくとも1種の脂肪酸を溶解する工程と、
−金属化合物(好ましくは、金属酸化物、金属水酸化物、炭酸金属塩、または石灰)を添加する工程と、
−前記脂肪酸を前記金属化合物でケン化する工程と、
−少なくとも85%の粒子の粒径が1ミクロン未満であるポリテトラフルオロエチレンのナノ粒子を加える工程と、
を含む。
【0040】
さらに、本発明は、前述したようなグリース組成物の、伝動機構用のグリース、特には、自動車のトランスミッション用のグリースとしての使用に関する。
【0041】
さらに、本発明は、前述したようなグリース組成物の、潤滑転がり軸受用のグリース、機械工具のスライドレール用のグリース、または自動車の集中グリース潤滑システム用のグリースとしての使用に関する。
本明細書において「〜によって大部分が構成される」という表現は、その少なくとも50重量%以上が、対象の化合物で構成されていることを指す。
【0042】
また、「〜によって大部分が構成される」という表現には、その少なくとも80重量%、好ましくは少なくとも85重量%、90重量%、または95重量%、さらには、その100重量%が、対象の化合物で構成されている場合も包含される。
【発明を実施するための形態】
【0043】
(基油)
本発明にかかるグリース組成物は、少なくとも1種のアルキル芳香族化合物系の合成基油(基剤)を含む。この基油は、オレフィン類、モノハロゲン化パラフィン、モノヒドロキシル化パラフィンなどの化合物、あるいは、その他の種類のアルキル化剤により、芳香族化合物を、例えばフリーデル−クラフツ系やゼオライトなどの酸性触媒の存在下でアルキル化することによって得られる。
【0044】
上記の芳香族化合物は、例えば、任意で置換基を有する、ベンゼン、ナフタレン、アントラセンなどであってもよい。アルキルベンゼン系またはアルキルナフタレン系の基剤が好ましい。
【0045】
このようにして得られるアルキル芳香族化合物系の合成基剤は、モノアルキル芳香族化合物、またはポリアルキル芳香族化合物(例えば、ジアルキル芳香族化合物、トリアルキル芳香族化合物など)であってもよく、例えば、モノ−、ジ−、トリ−、またはポリ−アルキル基を有する、ベンゼン、ナフタレン、アントラセンなどであってもよい。そのアルキル置換基は、直鎖または分岐鎖であってもよく、好ましくは炭素数が9〜24、より好ましくは炭素数が12〜24であってもよい。
【0046】
炭素数が9未満、あるいは、炭素数が12未満の置換基を有する化合物(特に、アルキルベンゼン系の基剤)では、揮発性が過剰になってしまう。他方、炭素数が24を超える置換基を有する化合物では、目的の用途に対して粘度が過剰になってしまう。
【0047】
本発明にかかるグリースには、これらの種々の化合物が、単独または混合物のいずれの形態で含まれていてもよい。それらの化合物は、強力な溶解力を有するので、本発明にかかる組成物中の添加剤を最適に分散させることができる。
【0048】
好ましくは、アルキル芳香族化合物系の合成基油は、ASTM D445規格に準拠して測定される40℃での動粘度が10〜120cStである。
潤滑軸受、自動車の集中グリース潤滑などが目的の用途である場合、基剤の、ASTM D445規格に準拠して測定される40℃での動粘度は、好ましくは10〜80cSt、より好ましくは10〜50cSt、さらに好ましくは20〜40cStである。これにより、良好な作業性およびポンプ圧送性が保証されるだけでなく、優れた低温特性も得られ、最低−20℃、あるいは、最低−40℃での使用が可能となる。
【0049】
伝動機構(トランスミッションも含む)などが目的の用途である場合、基剤の、ASTM D445規格に準拠して測定される40℃での動粘度は、好ましくは70〜110cSt、より好ましくは30〜40cSt、さらに好ましくは35〜37cStである。これにより、高負荷下でも十分な油膜を確実に得ることができる。
【0050】
本発明にかかるグリース組成物には、アルキル芳香族化合物系の基剤が、好ましくは50〜90重量%、より好ましくは65〜85重量%、あるいは、70〜80重量%含まれる。
【0051】
(他の種類の基油)
本発明にかかるグリース組成物には、前述のアルキル芳香族化合物系の基剤に加えて、他種の基油がそれよりも少ない量で含まれていてもよい。
【0052】
本発明にかかるグリース組成物中に任意で配合される他種の基油は、API(米国石油協会)分類に規定されたグループIからVIの、鉱物性または合成由来の油であってもよい。
【0053】
本発明にかかる鉱物性基油には、原油を常圧蒸留および真空蒸留したものを溶剤抽出、脱アスファルト、溶剤脱ろう、水素化処理、水素化分解、水素異性化、水素化仕上などの精製工程にかけることで得られる、あらゆる種類の基剤が含まれる。
【0054】
本発明にかかるグリース組成物の基油は、エステル類、シリコーン系化合物、グリコール類、ポリブテン類、ポリαオレフィン(PAO)などの合成油を含んでいてもよい。
【0055】
基油は、天然由来の油であってもよく、例えば、ひまわり油、なたね油、パーム油などの天然資源から得られるカルボン酸と、アルコールとのエステルであってもよい。
【0056】
好ましくは、本発明にかかる組成物には、既述のアルキル芳香族化合物系の合成基油と、ポリαオレフィン(PAO)系の合成基油とが含まれてもよい。ポリαオレフィンは、例えば、炭素数4〜32のモノマー(例えば、オクテン、デセンなど)から得られたものである。その典型的な重量平均分子量は、250〜3,000である。
【0057】
合成油と鉱物油との混合物を配合してもよい。好ましくは、本発明にかかる組成物には、既述のアルキル芳香族化合物系の合成基剤以外の基油が、5〜15%含まれている。
【0058】
好ましくは、本発明にかかる組成物に配合される基油または基油混合物の、ASTM D445規格に準拠して測定される40℃の動粘度は、10〜120cStである。
【0059】
潤滑軸受、自動車の集中グリース潤滑などが目的の用途である場合、基油または基油混合物の、ASTM D445規格に準拠して測定される40℃での動粘度は、好ましくは10〜80cSt、より好ましくは10〜50cSt、さらに好ましくは20〜40cStである。これにより、良好な作業性およびポンプ圧送性が保証されるだけでなく、優れた低温特性が得られ、最低−20℃、あるいは、最低−40℃での使用が可能となる。
【0060】
伝動機構(トランスミッションも含む)などが目的の用途である場合、基油または基油混合物の、ASTM D445規格に準拠して測定される40℃での動粘度は、好ましくは70〜110cSt、より好ましくは30〜40cSt、さらに好ましくは35〜37cStである。これにより、高負荷下でも十分な油膜を確実に得ることができる。
【0061】
(増ちょう剤)
本発明にかかるグリースは、脂肪酸金属セッケンによってちょう度が増している。この金属セッケンは、グリースの調製とは別に、あるいは、グリースの調製と一緒に(in situで)調製してもよい(後者の場合、基油に脂肪酸を溶解したものに、適切な金属水酸化物を添加する)。
【0062】
このような増ちょう剤は、グリース分野で現在使用されている、簡単に入手可能かつ安価な製品である。さらに、このような増ちょう剤を含むグリースは、極めて優れた機械的安定性を有しており、例えば、ポリウレア系のグリースに匹敵する機械的安定性を有するので、非密封空間(開放空間)でのグリースの使用に、容易に応用することができる。
好ましくは長鎖脂肪酸、典型的には炭素数10〜28の飽和脂肪酸または不飽和脂肪酸が使用される。この長鎖脂肪酸は、任意でヒドロキシル化されていてもよい。
この長鎖脂肪酸(典型的には炭素数10〜28の脂肪酸)は、例えば、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、オレイン酸、リノール酸、エルカ酸、これらのヒドロキシル化誘導体などである。ヒドロキシル化誘導体のなかでも、12−ヒドロキシステアリン酸が最もよく知られており、かつ、好ましい。
【0063】
一般的に、上記の長鎖脂肪酸は、パーム油、ヒマシ油、なたね油、ひまわり油などの植物、または動物油脂(獣脂、鯨油など)の動物油に由来する。
【0064】
少なくとも1種の長鎖脂肪酸を用いて、いわゆる単一型のセッケンを調製してもよい。
【0065】
また、少なくとも1種の長鎖脂肪酸と、炭素数が最大8の短い炭化水素鎖を有する少なくとも1種のカルボン酸との組合せにより、いわゆるコンプレックス型のセッケンを調製してもよい。
セッケンを調製するのに使用されるケン化剤は、リチウム、ナトリウム、カルシウム、バリウム、チタン、アルミニウムなどの金属化合物、好ましくはリチウム、カルシウムなどの金属化合物、および好ましくはこれらの金属の水酸化物、酸化物、または炭酸塩である。
【0066】
本発明にかかるグリースには、同一または異なる金属カチオンの少なくとも1種の金属化合物が配合されてもよい。つまり、リチウムセッケンを、これよりも少ない量のカルシウムセッケンと組み合わせてもよい。
【0067】
本発明にかかるグリースには、金属セッケンが、約1〜約15重量%、好ましくは2〜10重量%、より好ましくは4〜10重量%または4.5〜6重量%配合される。
【0068】
潤滑軸受、自動車の集中グリース潤滑などが目的の用途である場合、金属セッケンは、好ましくは1〜6%、より好ましくは2〜5%配合される。これにより、NLGI(米国グリース協会)分類の000号または00号の流動性グリースまたは半流動性グリースが得られる。
【0069】
伝動機構(トランスミッションも含む)などが目的の用途である場合、金属セッケンは、好ましくは6.5%〜15%、より好ましくは7〜13%または8〜12%配合される。これにより、NLGI分類の0号、1号、または2号のグリースが得られる。
【0070】
いずれにせよ、本発明にかかるグリース中の増ちょう剤の配合量は比較的少ない。これにより、NLGI分類の000号、00号、0号、1号、または2号に相当するちょう度のグリースを得ることができ、例えば、潤滑転がり軸受、車両用の集中グリース潤滑システム、伝動機構(トランスミッションを含む)などのシステムに、効率向上、エネルギー節約、またはエコ燃料効果をもたらすことができる。
【0071】
(グリースの調製(製造)方法)
好ましくは、本発明にかかるグリースは、金属セッケンと一緒に(in situで)調製される。
【0072】
まず、基油または基油混合物の一部に対し、少なくとも1種の脂肪酸を室温で溶解させる。この一部とは、通常、最終的なグリースに含まれる油の総量の約40%である。脂肪酸は、単一型のセッケンを調製するための炭素数14〜28の長鎖脂肪酸であってもよい。任意で、このような長鎖脂肪酸は、コンプレックス型のセッケンを調製するために、炭素数6〜12の短鎖脂肪酸と組み合わされてもよい。
【0073】
金属化合物、好ましくは、金属酸化物、金属水酸化物、炭酸金属塩などを、約60℃の温度で添加する。
【0074】
なお、単一種類の金属を添加してもよいし、数種類の金属を組み合わせて添加してもよい。本発明にかかる組成物に配合される金属は、好ましくは、リチウムである。任意で、リチウムと、リチウムよりも少ない量のカルシウムとを組み合わせて使用してもよい。
【0075】
約80℃の温度で、上記の金属化合物による脂肪酸のケン化反応をさせる。
【0076】
上記の混合物を約100〜約200℃で加熱することにより、ケン化反応で生成された水を蒸発させる。
【0077】
このようにして得られたグリースを、残りの量の基油で冷却する。
次に、ポリテトラフルオロエチレンのナノ粒子と、任意で、他の種類の添加剤とを、約80℃で導入する。
その後、混練を十分な時間行うことにより、均質なグリース組成物が得られる。
【0078】
(グリースのちょう度番号)
グリースのちょう度とは、グリースの、静置時に測定される硬さまた流動性のことであり、所与の寸法および質量の円錐の侵入深さによって評価される。グリースは予め混練しておく。グリースのちょう度の測定条件は、ASTM D217規格に規定されている。
グリースには、そのちょう度に応じて、グリース分野で頻繁に使用される9つのNLGI(米国グリース協会)分類、すなわち、9種類のNLGIのちょう度番号が付される。それらのちょう度番号を、以下の表に示す。
【0079】
【表1】

【0080】
本発明にかかるグリースの、ASTM D217規格によるちょう度(1/10mm)は、265超、好ましくは275〜475である。好ましくは、ちょう度は、NLGIの000号、00号、0号、1号、または2号、すなわち、それぞれ、ASTM D217規格による445〜475、400〜300、335〜385、310〜340、265〜295に相当する。
【0081】
潤滑軸受、自動車の集中グリース潤滑などが目的の用途である場合、好ましくは、本発明にかかるグリースは、流動性または半流動性のグリースであり、ASTM D217規格によるちょう度(1/10mm)は、好ましくは400超、より好ましくは400〜475である。好ましくは、本発明にかかるグリースのちょう度は、NLGIの00号または000号であり、すなわち、それぞれ、ASTM D217規格による400〜430、445〜475に相当する。
【0082】
伝動機構(トランスミッションも含む)、等速自在継手などが目的の用途である場合、好ましくは、本発明にかかるグリースは、流動性または半流動性のグリースであり、ASTM D217規格によるちょう度(1/10mm)は、好ましくは265超、より好ましくは265〜335である。好ましくは、本発明にかかるグリースのちょう度(1/10mm)は、NLGIの0号、1号、または2号であり、すなわち、それぞれ、ASTM D217規格による335〜385、310〜340、265〜295に相当する。
【0083】
概して述べると、本発明にかかるグリースの流動性は、関連用途に使用される平均的なグリースの流動性よりも高い傾向にある。これにより、例えば、潤滑転がり軸受、車両用の集中グリース潤滑システム、伝動機構(トランスミッションも含む)などのシステムに、効率向上、エネルギー節約、または《エコ燃料》効果をもたらすことができる。
【0084】
(PTFEナノ粒子)
本発明にかかるグリースは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のナノ粒子を含む。
【0085】
このPTFEナノ粒子は、乾燥粉末の状態で添加してもよいし、あるいは、潤滑油(例えば、既述のポリアルキル芳香族化合物系の合成基油またはPAO系の合成基油など)に粉末を分散・予備希釈させた濃縮分散液の形態で添加してもよい。
【0086】
ナノ粒子のPTFEとは、全粒子(数)のうちの少なくとも85%の粒子、好ましくは少なくとも90%の粒子、より好ましくは少なくとも95%の粒子の粒径が1ミクロン(マイクロメートル)未満であるPTFEの粉末または油中分散液を指す。さらに好ましくは、粒子数のうちの100%の粒子の粒径が1ミクロン未満である。
【0087】
本明細書をとおして、PTFEナノ粒子の粒径は、国際公報第2004/067608号(欧州特許出願公開第1594682号のファミリー)の教示内容に準拠して測定されるものとする。詳細には、国際公報第2004/067608号パンフレットの以下の箇所に記載された測定条件を参照されたい:
−乾燥状態での測定について;第16頁第15行〜第17頁第13行
−イソプロピルアルコール(IPA)中での測定について;第17頁第14行〜第20頁第4行
−油性媒体中での測定について(本発明の範囲内において好適な測定方法);第20頁第5行〜第22頁第4行
−水中での測定について;第22頁第5行〜第24頁第4行
【0088】
上記粉末中または分散液中のPTFE粒子数のうちの少なくとも80%の粒径または少なくとも80%の粒径、より好ましくはそれらのうちの100%の粒径が、好ましくは50nm超であり、より好ましくは100nm超である。粒子の粒径が小さすぎると、粒子が互いに再凝集してしまう可能性があり、グリース中の粒子を分散させるには不利となる。
【0089】
好ましくは、本発明にかかるグリースに配合されるナノ粒子PTFEの平均粒径は、150〜800nm、200〜700nm、あるいは、400〜600nmである。平均粒径とは、粒径分布の平均値を意味する。
【0090】
ナノメートルオーダーのPTFEは、前述の欧州特許出願公開第1594682号明細書に記載された調製方法を用いて調製可能である。また、そのような粉末または分散液は、Shamrock社のNanoflon(登録商標)シリーズの名目で上市されている。
本発明にかかるグリース組成物に配合されるPTFEの粉末または分散液の粒径分布は、前述の国際公報第2004/067608号パンフレット(欧州特許出願公開第1594682号明細書)に記載された適切な方法にしたがい、Malvern社製のタイプのアナライザによって測定されるものとする。
【0091】
混合し易いように、PTFEナノ粒子の導入は、当該PTFEナノ粒子の分散液で実行するのが好ましく、既述のアルキル芳香族化合物系の合成基油またはPAO系の合成基油の形態で実行するのがより好ましい。分散液を使用する場合、当該分散液中に含まれるナノ粒子のPTFEの量は、好ましくは20〜50重量%程度、より好ましくは25〜35重量%、さらに好ましくは30重量%である。
【0092】
ナノメートルオーダーのPTFEは、本発明にかかるグリース組成物に、好ましくは0.1〜10%、より好ましくは2〜7%、さらに好ましくは3〜4.5%、あるいは、3〜5%含まれる。
本発明の利点のひとつは、少ない量のナノ粒子で大きな耐摩擦効果が得られる点である。
【0093】
PTFEの耐摩擦特性は周知の事項である。また、この種のナノ粒子からなる固体潤滑剤を含む粉末または分散液では、耐摩擦特性が上昇することも知られている。しかし、重要なのは、ナノ粒子を適切に分散させた場合に、そのような固体潤滑剤を配合した潤滑剤およびグリースの耐摩擦特性を上昇することが可能となることである。
【0094】
本発明では、アルキル芳香族化合物系の基油、脂肪酸金属セッケン、およびPTFEナノ粒子との組合せとすることにより、良好な分散能を有するグリースが得られる。また、このようなグリースを転がり系に用いた実験では、優れた効率がもたらされた。
【0095】
(他の種類の性能向上添加剤)
[耐摩耗剤および/または極圧剤]
本発明にかかるグリース組成物には、硫黄系、リン系、またはリン−硫黄系の、少なくとも1種の耐摩耗剤および/または極圧剤が含まれていてもよく、好ましくは、当該組成物の総重量に対して、0.5〜5重量%含まれる。
【0096】
硫黄含有の耐摩耗剤および極圧剤の例として、ジチオカルバミン酸化合物、チアジアゾール化合物、ベンゾチアゾール化合物、硫黄含有オレフィン類などが挙げられる。
リン−硫黄系の耐摩耗剤および極圧剤の例として、チオリン酸、チオ亜リン酸、これらの酸エステル、これらの塩、ジチオリン酸塩などが挙げられるが、必ずしもこれらに限定されない。
【0097】
本発明にかかる潤滑剤組成物には、リン含有の耐摩耗剤および極圧剤が含まれていてもよい。そのようなリン含有の耐摩耗剤および極圧剤として、例えば、アルキルリン酸化合物、アルキルホスホン酸化合物、リン酸、亜リン酸、亜リン酸およびリン酸のモノ−、ジ−、トリ−エステルおよび塩などが挙げられる。
【0098】
[その他の種類の添加剤]
ほかにも、本発明にかかるグリース組成物には:スルホン酸化合物(例えば、スルホン酸カルシウム、スルホン酸ナトリウム、スルホン酸バリウムなど)、ナフテン酸化合物(典型的には、ナフテン酸亜鉛)、サリチル酸化合物(典型的には、サリチル酸カルシウム)、酸化ワックスなどのさび止め剤;酸化防止剤;腐食防止剤などが含まれていてもよい。
【0099】
これらの添加剤は、当該組成物の総重量に対して、典型的には0〜10重量%、好ましくは0.5〜2重量%含まれる。
【0100】
最後に、本発明にかかる組成物には、その時々の用途に適した任意の種類の添加剤、例えば、着色剤などが、約0.05〜約0.5%含まれていてもよい。
【実施例】
【0101】
(実施例1)
自転車用車輪ハブの性能を、それに設けられた軸受を潤滑するグリースを様々な種類に変更したうえで、ハブ分野でハイエンド製品と見なされているMavic社製の玉軸受付きハブ(例えば、Mavic Cosmicタイプの自転車用車輪に装着されるハブ)の性能と比較した。本実施例で使用する潤滑軸受型ハブは、欧州特許出願公開第1719641号明細書に記載されたハブと同種類のものである。
【0102】
Mavic社製の転がり軸受系の効率、および本実施例の潤滑軸受系の効率を、以下のようなベンチテストで測定した:
−試験対象のハブ(Mavic社製の玉軸受付きハブ、あるいは、本実施例の様々な種類のグリースで潤滑した軸受付きハブ)を設けた自転車用車輪を、初期速度70km/時でモータ駆動した後、5分間の加熱時間(50km/時)を設ける。
−試験全体をとおして、50kgの負荷を加える。
−モータ電源のスイッチをオフにした後、停止する(あるいは、焼付きが生じる)までの距離を測定する。
【0103】
この停止するまでの距離は、本実施例の様々な種類の転がり軸受系の効率の、相対的尺度となる。また、この距離は、ハブ軸受の潤滑に使用される本実施例の様々な種類のグリースの、耐摩擦特性の相対的尺度にもなる。
【0104】
全ての試験タイヤには、初期膨張圧(初期インフレーション圧)10barのHutchinson社製の可撓性チューブラーを設け、これを自転車用車輪に装着して使用する。
全ての試験グリースは、NGLI分類000号のグリースとする。
・グリースAは、NS−150のグループIの鉱物性基油を含み、12−ヒドロキシステアリン酸リチウムの金属セッケンで増ちょうされた、NLGIちょう度番号:000号のグリースである。
・グリースBは、ポリグリコール系の基油を含み、同じく12−ヒドロキシステアリン酸リチウムで増ちょうされた、NLGIちょう度番号:000号のグリースである。
・グリースCは、アルキルベンゼン系の基油を含み、12−ヒドロキシステアリン酸リチウムで増ちょうされた、NLGIちょう度番号:000号のグリースである。
・グリースDは、グリースCにポリテトラフルオロエチレンナノ粒子を加えて調製される、NLGIちょう度番号:000号のグリースである。
・グリースD’は、グリースCに二硫化タングステンWSナノ粒子を導入して調製される、NLGIちょう度番号:000号のグリースである。
【0105】
以下の表1に、グリースC、グリースD、およびグリースD’の質量組成を示す。
【0106】
【表2】

【0107】
以下の表2に、試験対象の様々なハブの転がり距離d(m)を示す。
表中の距離dは、前述の停止するまでの距離を指す。
【0108】
【表3】

【0109】
グリースAで潤滑した軸受付きハブの効率(停止するまでの転がり距離)は、他のものよりも著しく低い。
【0110】
グリースBで潤滑した軸受付きハブの効率、およびグリースCで潤滑した軸受付きハブの効率は、対照のMavic社製の効率と同等のレベルである。
グリースD’の結果からみて、WSナノ粒子の導入は、グリースCに何の向上をもたらさない:グリースCの性能レベルとグリースD’の性能レベルは極めて似ている。
【0111】
本発明にかかるグリースDで潤滑した軸受付きハブでは、自転車業界のハイエンド製品である対照のMavic社製品の効率、およびグリースCの効率のいずれも超える、優れた効率がもたらされる。
すなわち、グリースCにPTFEナノ粒子を導入することは、その性能を顕著に向上させる。
【0112】
(実施例2:基剤による影響)
本発明にかかるグリースDに配合されるものと同一のテフロン(登録商標)系ナノ粒子を、グリースEに対して添加した。ここで、グリースEとは、PAO系の合成基油を基剤とし、グリースDと同じ種類のリチウム金属セッケン(12−ヒドロキシステアリン酸リチウム)で増ちょうされたグリースである。
【0113】
ASTM D2266規格に規定の四球試験に基づき、PTFE導入前のPAO+リチウムのグリース(グリースE)の耐摩耗性能と、グリースEにナノメータオーダーのPTFEを3%配合したもの(グリースF)、グリースEにナノメータオーダーのPTFEを5%配合したもの(グリースG)、およびグリースEに平均粒径5μmのマイクロメータオーダーのPTFEを3%配合したもの(グリースH)の耐摩耗性能とを比較した。
【0114】
以下の表3に、結果を示す:
【0115】
【表4】

【0116】
グリースEの性能、グリースFの性能、およびグリースGの性能は、どれも同等の性能レベルである:PAOを基剤とするグリースにナノメータオーダーPTFEを添加しても、耐摩耗特性に何ら顕著な向上は見られない。しかしながら、それと同量のマイクロメータオーダーPTFEを添加した場合には、摩耗に関して大きな利点がもたらされる。
【0117】
特定の理論に拘束される意図はないが、リチウムセッケンで増ちょうされたグリース中の基油−ナノ粒子の相互作用によるナノ粒子の分散は、アルキルベンゼン系基剤−PTFEナノ粒子を組み合わせた場合ほど好適ではないと予想される。これが、PTFE粒子が耐摩耗性能または耐摩擦性能に何の向上ももたらさない理由かもしれない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリース組成物であって、
−少なくとも1種のアルキル芳香族化合物(A1)によって大部分が構成された合成基油(A)と、
−少なくとも1種の脂肪酸金属セッケンによって大部分が構成された増ちょう剤(B)と、
−少なくとも85%の粒子の粒径が1ミクロン未満であるポリテトラフルオロエチレンのナノ粒子によって大部分が構成された固体潤滑剤(C)と、
を含む、グリース組成物。
【請求項2】
請求項1において、アルキル芳香族化合物(A1)で構成された油が、当該組成物中の基油(A)の少なくとも80重量%を構成していることを特徴とする、グリース組成物。
【請求項3】
請求項1または2において、金属セッケン(B)が、当該組成物中の増ちょう剤(B)の少なくとも80重量%を構成していることを特徴とする、グリース組成物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項において、固体潤滑剤(C)の少なくとも80重量%、特には、少なくとも90重量%が、ポリテトラフルオロエチレンのナノ粒子で構成されていることを特徴とする、グリース組成物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項において、固体潤滑剤(C)が、ポリテトラフルオロエチレンのナノ粒子のみで構成されていることを特徴とする、グリース組成物。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項において、増ちょう剤(B)には、ウレア化合物が含まれていないことを特徴とする、グリース組成物。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項において、当該組成物中に炭酸カルシウムが含まれていないことを特徴とする、グリース組成物。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項において、当該組成物中に、ポリテトラフルオロエチレンのナノ粒子である固体潤滑剤が、0.1〜10重量%、特には、2〜7重量%含まれていることを特徴とする、グリース組成物。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項において、ポリテトラフルオロエチレンの粒子の平均粒径が、150〜800nmであることを特徴とする、グリース組成物。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項において、合成基油が、アルキルベンゼン系およびアルキルナフタレン系の油から選択されることを特徴とする、グリース組成物。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項において、合成基油(A)が、さらに、少なくとも1種の他の鉱物性基油、合成基油または天然基油(A2)、好ましくはポリαオレフィン類から選択される合成基油を含んでいることを特徴とする、グリース組成物。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項において、セッケンが、ヒドロキシル化または非ヒドロキシル化の、炭素数14〜28の飽和脂肪酸または不飽和脂肪酸の単一型の金属セッケンであるか、あるいは、ヒドロキシル化または非ヒドロキシル化の、炭素数14〜28の少なくとも1種の飽和脂肪酸もしくは不飽和脂肪酸と、炭素数6〜12の短い炭化水素鎖を有する少なくとも1種のカルボン酸との組合せによるコンプレックス型の金属セッケンであることを特徴とする、グリース組成物。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一項において、脂肪酸金属セッケンが、チタンセッケン、アルミニウムセッケン、アルカリ金属セッケン、およびアルカリ土類金属セッケンから選択され、好ましくは、リチウムセッケン、カルシウムセッケン、ナトリウムセッケン、およびバリウムセッケンから選択されることを特徴とする、グリース組成物。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか一項において、当該組成物中に、少なくとも1種の耐摩耗剤および/または極圧剤が含まれていることを特徴とする、グリース組成物。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか一項において、当該組成物の総重量に対して、
−合成基油(A)50〜90重量%と、
−少なくとも1種の脂肪酸金属セッケンによって大部分が構成された増ちょう剤(B)1〜15重量%と、
−少なくとも85%の粒子の粒径が1ミクロン未満であるポリテトラフルオロエチレンのナノ粒子粉末の形態の固体潤滑剤(C)0.1〜10重量%と、
−少なくとも1種の耐摩耗剤および/または極圧剤0〜10%と、
が含まれていることを特徴とする、グリース組成物。
【請求項16】
請求項1から15のいずれか一項において、当該組成物の総重量に対して、ポリαオレフィン系の合成基油(A2)が5〜15重量%含まれていることを特徴とする、グリース組成物。
【請求項17】
請求項1から16のいずれか一項において、ASTM D445規格に準拠して測定される40℃での動粘度が10〜120mm/sである基油(A)を含むことを特徴とする、グリース組成物。
【請求項18】
請求項1から17のいずれか一項において、当該組成物の、ASTM D217規格によるちょう度(1/10mm)が、265超、好ましくは、265〜475、265〜295、310〜340、または335〜385、あるいは、400超、好ましくは、400〜475、または445〜475であることを特徴とする、グリース組成物。
【請求項19】
請求項1から18のいずれか一項に記載のグリースを製造する方法において、
−基油または基油混合物の一部に対して少なくとも1種の脂肪酸を溶解する工程と、
−金属化合物、好ましくは、金属酸化物、金属水酸化物、炭酸金属塩、または石灰を添加する工程と、
−前記脂肪酸を前記金属化合物でケン化する工程と、
−少なくとも85%の粒子の粒径が1ミクロン未満であるポリテトラフルオロエチレンのナノ粒子を加える工程と、
を含む、グリースの製造方法。
【請求項20】
請求項1から18のいずれか一項に記載のグリース組成物の、伝動機構用のグリース、特には、自動車のトランスミッション用のグリースとしての使用。
【請求項21】
請求項1から18のいずれか一項に記載のグリース組成物の、潤滑転がり軸受用のグリース、機械工具のスライドレール用のグリース、または自動車の集中グリース潤滑システム用のグリースとしての使用。

【公表番号】特表2012−519218(P2012−519218A)
【公表日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−551562(P2011−551562)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【国際出願番号】PCT/IB2010/050851
【国際公開番号】WO2010/097778
【国際公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(505036674)トータル・ラフィナージュ・マーケティング (39)
【Fターム(参考)】