説明

グリーン成形体、および、チタン酸アルミニウム焼成体の製造方法

【課題】その形状を保ち得る、グリーン成形体およびそれを用いるチタン酸アルミニウム焼成体の製造方法を提供する。
【解決手段】無機化合物源粉末と、有機バインダと、可塑剤と、を含み、前記無機化合物源粉末は、アルミニウム源粉末およびチタニウム源粉末を含み、前記可塑剤の20℃における粘度は1000mPa・s以上である、グリーン成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリーン成形体、チタン酸アルミニウム焼成体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン酸アルミニウムセラミックスは、構成元素としてチタンおよびアルミニウムを含み、X線回折スペクトルにおいて、チタン酸アルミニウムの結晶パターンを有するセラミックスであって、耐熱性に優れたセラミックスとして知られている。チタン酸アルミニウムセラミックスは、従来からルツボのような焼結用の冶具等として用いられてきたが、近年では、ディーゼルエンジン等の内燃機関から排出される排ガスに含まれる微細なカーボン粒子を捕集するためのセラミックスフィルターを構成する材料として、産業上の利用価値が高まっている。
【0003】
チタン酸アルミニウムセラミックスの製造方法としては、アルミニウム源粉末およびチタニウム源粉末を含む原料混合物を成形し、焼成する方法が知られている(特許文献1)。また、原料混合物として更に有機バインダ、造孔材等の有機添加物を含むものを用い、この原料混合物のグリーン成形体を酸素含有雰囲気下に150〜900℃に加熱することにより有機添加物を除去した後、1300℃以上で焼成する方法も知られている(特許文献1の段落0031〜0032)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第05/105704号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の方法では、グリーン成形体の強度(保形性)が十分ではなく、焼成炉への投入時等においてグリーン成形体がその形状を保てないことがあった。その結果、得られるチタン酸アルミニウム焼成体の寸法精度が十分ではなかった。
【0006】
本発明は、その形状を保ち得るグリーン成形体、およびそれを用いるチタン酸アルミニウム焼成体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した結果、以下の発明を完成するに至った。
【0008】
(1)無機化合物源粉末と、有機バインダと、可塑剤と、を含み、
無機化合物源粉末は、アルミニウム源粉末およびチタニウム源粉末を含み、
可塑剤の20℃における粘度は1000mPa・s以上である、グリーン成形体。
【0009】
(2)無機化合物源粉末と、有機バインダと、可塑剤と、を含む原料混合物を成形してグリーン成形体を得る工程と、
グリーン成形体を150〜900℃に加熱してグリーン成形体から有機バインダおよび可塑剤を除去する工程と、
有機バインダおよび可塑剤が除去されたグリーン成形体を1300℃以上で焼成する工程とを備え、
無機化合物源粉末は、アルミニウム源粉末およびチタニウム源粉末を含み、
可塑剤の20℃における粘度が1000mPa・s以上である、チタン酸アルミニウム焼成体の製造方法。
【0010】
ここで、可塑剤の量は、グリーン成形体100重量部に対し0.1〜20重量部であることが好ましい。
【0011】
また、無機化合物源粉末は、さらにケイ素源粉末を含むことが好ましい。
【0012】
また、無機化合物源粉末は、さらにマグネシウム源粉末を含むことが好ましい。
【0013】
また、原料混合物中における、Al換算でのアルミニウム源粉末とTiO換算でのチタニウム源粉末とのモル比は、35:65〜45:55であることが好ましい。
【0014】
さらに、グリーン成形体は、ハニカム形状を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のグリーン成形体は、20℃における粘度が1000mPa・s以上である可塑剤を含むことにより保形性に優れる。
また、本発明のチタン酸アルミニウム焼成体の製造方法によれば、原料として20℃における粘度が1000mPa・s以上である可塑剤を使用することにより保形性に優れるグリーン成形体が得られ、また寸法精度の高いチタン酸アルミニウム焼成体を効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1の(a)および図1の(b)は、実施形態において保形性の調べ方を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<グリーン成形体>
本発明のグリーン成形体は、無機化合物源粉末、有機バインダ、および、可塑剤を含む。
無機化合物源粉末は、アルミニウム源粉末、および、チタニウム源粉末を含む。無機化合物源粉末は、さらに、マグネシウム源粉末および/またはケイ素源粉末を含むことができる。
【0018】
(アルミニウム源粉末)
アルミニウム源は、チタン酸アルミニウム焼成体を構成するアルミニウム成分となる化合物である。アルミニウム源としては、例えば、アルミナ(酸化アルミニウム)が挙げられる。アルミナの結晶型としては、γ型、δ型、θ型、α型等が挙げられ、不定形(アモルファス)であってもよい。なかでも、α型のアルミナが好ましく用いられる。
【0019】
アルミニウム源は、単独で空気中で焼成することによりアルミナとなる化合物であってもよい。かかる化合物としては、例えばアルミニウム塩、アルミニウムアルコキシド、水酸化アルミニウム、金属アルミニウム等が挙げられる。
【0020】
アルミニウム塩は、無機酸との無機塩であってもよいし、有機酸との有機塩であってもよい。アルミニウム無機塩として具体的には、例えば、硝酸アルミニウム、硝酸アンモニウムアルミニウム等のアルミニウム硝酸塩;炭酸アンモニウムアルミニウム等のアルミニウム炭酸塩等が挙げられる。アルミニウム有機塩としては、例えば、シュウ酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、ラウリン酸アルミニウム等が挙げられる。
【0021】
アルミニウムアルコキシドとして具体的には、例えば、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムエトキシド、アルミニウムsec−ブトキシド、アルミニウムtert−ブトキシド等が挙げられる。
【0022】
水酸化アルミニウムの結晶型としては、例えば、ギブサイト型、バイヤライト型、ノロソトランダイト型、ベーマイト型、擬ベーマイト型等が挙げられ、不定形(アモルファス)であってもよい。アモルファスの水酸化アルミニウムとしては、例えば、アルミニウム塩、アルミニウムアルコキシド等のような水溶性アルミニウム化合物の水溶液を加水分解して得られるアルミニウム加水分解物が挙げられる。
【0023】
アルミニウム源としては、1種のみが用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0024】
上記のなかでも、アルミニウム源としては、アルミナが好ましく用いられ、より好ましくは、α型のアルミナである。なお、アルミニウム源は、その原料由来あるいは製造工程において不可避的に含まれる微量成分を含有し得る。
【0025】
アルミニウム源粉末の粒径は、特に限定されないが、レーザ回折法により測定される、体積基準の累積百分率50%相当粒子径(D50または平均粒子径ということがある)が20〜60μmの範囲内であることが好ましい。焼成時の収縮率低減の観点からは、D50が30〜60μmの範囲内であるアルミニウム源粉末を用いることがより好ましい。
【0026】
(チタニウム源粉末)
チタニウム源は、チタン酸アルミニウム焼成体を構成するチタン成分となる化合物であり、かかる化合物としては、例えば酸化チタンが挙げられる。酸化チタンとしては、例えば、酸化チタン(IV)、酸化チタン(III)、酸化チタン(II)等が挙げられ、なかでも酸化チタン(IV)が好ましく用いられる。酸化チタン(IV)の結晶型としては、アナターゼ型、ルチル型、ブルッカイト型等が挙げられ、不定形(アモルファス)であってもよい。より好ましくは、アナターゼ型、ルチル型の酸化チタン(IV)である。
【0027】
チタニウム源は、単独で空気中で焼成することによりチタニア(酸化チタン)となる化合物であってもよい。かかる化合物としては、例えば、チタニウム塩、チタニウムアルコキシド、水酸化チタニウム、窒化チタン、硫化チタン、チタン金属等が挙げられる。
【0028】
チタニウム塩として具体的には、三塩化チタン、四塩化チタン、硫酸チタン(IV)等が挙げられる。チタニウムアルコキシドとして具体的には、チタン(IV)エトキシド、チタン(IV)メトキシド、チタン(IV)tert−ブトキシド、チタン(IV)n−ブトキシド、チタン(IV)イソブトキシド、チタン(IV)n−プロポキシド、チタン(IV)テトライソプロポキシド、および、これらのキレート化物等が挙げられる。硫化チタンとして具体的には、硫化チタン(IV)、硫化チタン(VI)等が挙げられる。
【0029】
チタニウム源としては、1種のみが用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0030】
上記のなかでも、チタニウム源としては、酸化チタンが好ましく用いられ、より好ましくは、酸化チタン(IV)である。なお、チタニウム源は、その原料由来あるいは製造工程において不可避的に含まれる微量成分を含有し得る。
【0031】
チタニウム源粉末の粒径は、特に限定されないが、レーザ回折法により測定される、体積基準の累積百分率50%相当粒子径(D50または平均粒子径ということがある)が0.1〜25μmの範囲内であるものを用いることが好ましく、焼成時の収縮率を十分に低くするためには、D50が0.5〜20μmの範囲内であるチタニウム源粉末を用いることがより好ましい。なお、チタニウム源粉末は、バイモーダルな粒径分布を示すことがあるが、このようなバイモーダルな粒径分布を示すチタニウム源粉末を用いる場合においては、レーザ回折法により測定される粒径分布における、粒径が大きい方のピークの粒径が、好ましくは20〜50μmの範囲内である。
【0032】
レーザ回折法により測定されるチタニウム源粉末のモード径は、特に限定されないが、0.3〜60μmの範囲内であるチタニウム源粉末を用いることができる。
【0033】
グリーン成形体中におけるAl(アルミナ)換算でのアルミニウム源粉末とTiO(チタニア)換算でのチタニウム源粉末とのモル比は、35:65〜45:55とすることが好ましく、より好ましくは40:60〜45:55である。このような範囲内で、チタニウム源をアルミニウム源に対して過剰に用いることにより、焼成時の収縮率を低減させることが可能となる。
【0034】
(マグネシウム源粉末)
グリーン成形体は、マグネシウム源粉末を含有していてもよい。グリーン成形体がマグネシウム源粉末を含む場合、得られるチタン酸アルミニウム焼成体は、チタン酸アルミニウムマグネシウム結晶を含む焼成体である。
【0035】
マグネシウム源としては、マグネシア(酸化マグネシウム)のほか、単独で空気中で焼成することによりマグネシアとなる化合物が挙げられる。後者の例としては、例えば、マグネシウム塩、マグネシウムアルコキシド、水酸化マグネシウム、窒化マグネシウム、金属マグネシウム等が挙げられる。
【0036】
マグネシウム塩として具体的には、塩化マグネシウム、過塩素酸マグネシウム、リン酸マグネシウム、ピロリン酸マグネシウム、シュウ酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、クエン酸マグネシウム、乳酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、サリチル酸マグネシウム、ミリスチン酸マグネシウム、グルコン酸マグネシウム、ジメタクリル酸マグネシウム、安息香酸マグネシウム等が挙げられる。
【0037】
マグネシウムアルコキシドとして具体的には、マグネシウムメトキシド、マグネシウムエトキシド等が挙げられる。なお、マグネシウム源は、その原料由来あるいは製造工程において不可避的に含まれる微量成分を含有し得る。
【0038】
マグネシウム源として、マグネシウム源とアルミニウム源とを兼ねた化合物を用いることもできる。このような化合物としては、例えば、マグネシアスピネル(MgAl)が挙げられる。なお、マグネシウム源として、マグネシウム源とアルミニウム源とを兼ねた化合物を用いる場合、アルミニウム源のAl(アルミナ)換算量、および、マグネシウム源とアルミニウム源とを兼ねた化合物に含まれるAl成分のAl(アルミナ)換算量の合計量と、チタニウム源のTiO(チタニア)換算量とのモル比が、原料混合物中において上記範囲内となるように調整される。
【0039】
マグネシウム源としては、1種のみが用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0040】
マグネシウム源粉末の粒径は、特に限定されないが、レーザ回折法により測定される、体積基準の累積百分率50%相当粒子径(D50または平均粒子径ということがある)が0.5〜30μmの範囲内であるものを用いることが好ましく、焼成時の収縮率低減の観点からは、D50が3〜20μmの範囲内であるマグネシウム源を用いることが好ましい。
【0041】
グリーン成形体中におけるMgO(マグネシア)換算でのマグネシウム源の含有量は、Al(アルミナ)換算でのアルミニウム源とTiO(チタニア)換算でのチタニウム源との合計量を1としたときに、モル比で、0.03〜0.15とすることが好ましく、より好ましくは0.03〜0.12である。マグネシウム源の含有量をこの範囲内に調整することにより、耐熱性がより向上された、大きい細孔径および開気孔率を有するチタン酸アルミニウム焼成体を比較的容易に得ることができる。
【0042】
(ケイ素源粉末)
グリーン成形体は、ケイ素源粉末をさらに含有していてもよい。ケイ素源は、シリコン成分となってチタン酸アルミニウム焼成体に含まれる化合物であり、ケイ素源の併用により、耐熱性がより向上されたチタン酸アルミニウム焼成体を得ることが可能となる。ケイ素源としては、例えば、二酸化ケイ素、一酸化ケイ素等の酸化ケイ素(シリカ)が挙げられる。
【0043】
ケイ素源は、単独で空気中で焼成することによりシリカとなる化合物であってもよい。かかる化合物としては、例えば、ケイ酸、炭化ケイ素、窒化ケイ素、硫化ケイ素、四塩化ケイ素、酢酸ケイ素、ケイ酸ナトリウム、オルトケイ酸ナトリウム、長石、ガラスフリット等が挙げられる。なかでも、長石、ガラスフリット等が好ましく用いられ、工業的に入手が容易であり、組成が安定している点で、ガラスフリット等がより好ましく用いられる。なお、ガラスフリットとは、ガラスを粉砕して得られるフレークまたは粉末状のガラスをいう。ケイ素源として、長石とガラスフリットとの混合物を含む粉末を用いることもできる。
【0044】
ケイ素源がガラスフリットである場合、得られるチタン酸アルミニウム焼成体の耐熱分解性をより向上させるという観点から、屈伏点が700℃以上のものを用いることが好ましい。ガラスフリットの屈伏点は、熱機械分析装置(TMA:Thermo Mechanical Analyisis)を用いて測定される、ガラスフリットを低温から昇温した際の、膨張が止まり、収縮が始まる温度(℃)と定義される。
【0045】
ガラスフリットを構成するガラスには、ケイ酸〔SiO〕を主成分(全成分中50重量%以上)とする一般的なケイ酸ガラスを用いることができる。ガラスフリットを構成するガラスは、その他の含有成分として、一般的なケイ酸ガラスと同様、アルミナ〔Al〕、酸化ナトリウム〔NaO〕、酸化カリウム〔KO〕、酸化カルシウム〔CaO〕、マグネシア〔MgO〕等を含んでいてもよい。また、ガラスフリットを構成するガラスは、ガラス自体の耐熱水性を向上させるために、ZrOを含有していてもよい。ガラスフリットがアルミナを含有する場合、アルミニウム源のAl(アルミナ)換算量、および、ガラスフリット中のアルミナの合計量と、チタニウム源のTiO(チタニア)換算量とのモル比が、原料混合物中において上記範囲内となるように調整される。
【0046】
ケイ素源としては、1種のみが用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0047】
ケイ素源の粒径は、特に限定されないが、レーザ回折法により測定される、体積基準の累積百分率50%相当粒子径(D50または平均粒子径ということがある)が0.5〜30μmの範囲内であるものを用いることが好ましく、原料混合物のグリーン成形体への充填率をより向上させ、機械的強度のより高い焼成体を得るためには、D50が1〜20μmの範囲内であるケイ素源を用いることが好ましい。
【0048】
グリーン成形体がケイ素源を含む場合、グリーン成形体中におけるケイ素源の含有量は、Al(アルミナ)換算でのアルミニウム源とTiO(チタニア)換算でのチタニウム源との合計量100重量部に対して、SiO(シリカ)換算で、0.1重量部〜10重量部であることが好ましく、より好ましくは5重量部以下である。また、グリーン成形体中におけるケイ素源の含有量は、グリーン成形体中に含まれる無機化合物源中、2重量%以上5重量%以下とすることがより好ましい。ケイ素源は、その原料由来あるいは製造工程において不可避的に含まれる微量成分を含有し得る。
【0049】
マグネシアスピネル(MgAl)等の複合酸化物のように、チタニウム、アルミニウム、ケイ素およびマグネシウムのうち、2つ以上の金属元素を成分とする化合物を原料として用いることができる。この場合、そのような化合物は、それぞれの金属源化合物を混合したものと同じであると考えることができ、このような考えに基づき、グリーン成形体中におけるアルミニウム源、チタニウム源、マグネシウム源およびケイ素源の量が上記範囲内に調整される。
【0050】
グリーン成形体は、チタン酸アルミニウムやチタン酸アルミニウムマグネシウムを含むことができ、例えば、グリーン成形体の構成成分としてチタン酸アルミニウムマグネシウムを使用する場合、チタン酸アルミニウムマグネシウムは、チタニウム源、アルミニウム源およびマグネシウム源を兼ね備えた原料に相当する。
【0051】
(可塑剤)
グリーン成形体は、可塑剤を含む。この可塑剤は、通常液体であり、20℃における粘度が1000mPa・s以上であり、好ましくは2000mPa・s以上であり、好ましくは4000mPa・s以下である。4000mPa・sを超えると、計量等が困難となることがある。
【0052】
このような可塑剤としては、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルが挙げられる。市販品としては、例えば、日油株式会社製「ユニルーブ50MB−72」(ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブチルエーテル、20℃における粘度が1020mPa・s)、日油株式会社製「ユニルーブ50MB−168」(ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブチルエーテル、20℃における粘度が2880mPa・s)が挙げられる。
【0053】
可塑剤の量は、アルミニウム源、チタニウム源、マグネシウム源およびケイ素源の合計量、すなわち、無機化合物源粉末の100重量部に対して、0.1〜20重量部であることが好ましく、0.1〜10重量部であることがより好ましく、さらに好ましくは0.1〜6重量部である。
【0054】
(有機バインダ)
グリーン成形体は有機バインダを含む。この有機バインダは水溶性であることが好ましい。また、この有機バインダの2重量%水溶液の粘度が5000mPa・s以上であることが好ましく、10000mPa・s以上であることがより好ましい。好ましくは、上記粘度は、上記水溶液が20℃のときの粘度である。
【0055】
有機バインダとしては、メチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、ナトリウムカルボキシルメチルセルロース等のセルロース類;ポリビニルアルコール等のアルコール類;リグニンスルホン酸塩等の塩等が挙げられる。有機バインダの量は、アルミニウム源、チタニウム源、マグネシウム源およびケイ素源の合計量、すなわち、無機化合物源粉末の100重量部に対して、20重量部以下であることが好ましく、より好ましくは15重量部以下、さらに好ましくは6重量部である。また、有機バインダは、0.1重量部以上であることが好ましく、より好ましくは3重量部以上である。
【0056】
(その他の添加物)
グリーン成形体は、その他の添加物を含むことができる。その他の添加物は、例えば、造孔剤、潤滑剤、分散剤、溶媒である。
【0057】
造孔剤としては、グラファイト等の炭素材;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメタクリル酸メチル等の樹脂類;でんぷん、ナッツ殻、クルミ殻、コーン等の植物材料;氷;およびドライアイス等が挙げられる。造孔剤の添加量は、アルミニウム源、チタニウム源、マグネシウム源およびケイ素源の合計量、すなわち、無機化合物源粉末の100重量部に対して、0〜40重量部であることが好ましく、より好ましくは0〜25重量部である。
【0058】
潤滑剤としては、グリセリン等のアルコール類;カプリル酸、ラウリン酸、パルミチン酸、アラギン酸、オレイン酸、ステアリン酸等の高級脂肪酸;ステアリン酸アルミニウム等のステアリン酸金属塩等が挙げられる。潤滑剤の添加量は、アルミニウム源、チタニウム源、マグネシウム源およびケイ素源の合計量、すなわち、無機化合物源粉末の100重量部に対して、0〜10重量部であることが好ましく、より好ましくは0.1〜5重量部である。
【0059】
分散剤としては、例えば、硝酸、塩酸、硫酸等の無機酸;シュウ酸、クエン酸、酢酸、リンゴ酸、乳酸等の有機酸;メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類;ポリカルボン酸アンモニウム、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル等の界面活性剤等が挙げられる。分散剤の添加量は、アルミニウム源、チタニウム源、マグネシウム源およびケイ素源の合計量、すなわち、無機化合物源粉末の100重量部に対して、0〜20重量部であることが好ましく、より好ましくは2〜8重量部である。
【0060】
溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、ブタノール、プロパノール等のアルコール類;プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール等のグリコール類;および水等を用いることができる。なかでも、水が好ましく、不純物が少ない点で、より好ましくはイオン交換水が用いられる。溶媒の使用量は、アルミニウム源、チタニウム源、マグネシウム源およびケイ素源の合計量、すなわち、無機化合物源粉末の100重量部に対して、10重量部〜100重量部であることが好ましく、より好ましくは20重量部〜80重量部である。
【0061】
(グリーン成形体の形状)
グリーン成形体の形状は特に限定されず、用途に応じて任意の形状を取ることができ、棒状、チューブ状、板状、るつぼ形状等が挙げられる。例えば、DPFフィルター用のグリーン成形体の場合、いわゆるハニカム形状、すなわち、同一方向に延びる多数の貫通孔を有し、多数の貫通孔により形成される多数の流路が隔壁によって分離された形状であることが好ましい。
【0062】
(グリーン成形体の製造方法)
グリーン成形体は例えば以下のようにして製造することができる。
まず、無機化合物源粉末と、有機バインダと、可塑剤と、必要に応じて添加される溶媒等の添加物と、を用意する。無機化合物源粉末は、アルミニウム源粉末、チタニウム源粉末、および、必要に応じて配合されるマグネシウム源粉末およびケイ素源粉末を含む。
そして、これらを上述の比率で混練機等により混合して原料混合物を得、得られた原料混合物を成形することにより、所望の形状のグリーン成形体を得ることができる。ここで、成形法は特に限定されず、例えば、一軸プレス機、押出成形機、打錠機、造粒機等を使用する方法が挙げられる。
【0063】
(チタン酸アルミニウム焼成体の製造方法)
上述のグリーン成形体を仮焼(脱脂)および焼成することにより、チタン酸アルミニウム焼成体を得ることができる。得られるチタン酸アルミニウム焼成体は、チタン酸アルミニウム結晶を含む焼成体である。成形してから、仮焼を行い、焼成を行なうことにより、原料混合物を直接焼成する場合と比較して、焼成中の収縮を抑えることができ、得られるチタン酸アルミニウム焼成体の割れを効果的に抑制できる。また、焼成により生成した、多孔質性のチタン酸アルミニウム結晶の細孔形状を維持することができる。
【0064】
仮焼(脱脂)は、グリーン成形体中の有機バインダや、必要に応じて配合される添加物を、焼失、分解等により除去するための工程であり、典型的には、焼成温度に至るまでの昇温段階(例えば、150〜900℃の温度範囲)になされる。仮焼(脱脂)工程おいては、昇温速度を極力おさえることが好ましい。
【0065】
グリーン成形体の焼成における焼成温度は、通常、1300℃以上、好ましくは1400℃以上である。また、焼成温度は、1650℃以下であることが好ましく、より好ましくは1550℃以下である。焼成温度までの昇温速度は特に限定されるものではないが、通常、1℃/時間〜500℃/時間である。グリーン成形体がケイ素源粉末を含む場合には、焼成工程の前に、1100〜1300℃の温度範囲で3時間以上保持する工程を設けることが好ましい。これにより、ケイ素源粉末の融解、拡散を促進させることができる。
【0066】
焼成は通常、大気中で行なわれるが、用いる原料粉末、すなわちアルミニウム源粉末、チタニウム源粉末、マグネシウム源粉末およびケイ素源粉末の種類や使用量比によっては、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス中で焼成してもよいし、一酸化炭素ガス、水素ガス等のような還元性ガス中で焼成してもよい。また、水蒸気分圧を低くした雰囲気中で焼成を行なってもよい。
【0067】
焼成は、通常、管状電気炉、箱型電気炉、トンネル炉、遠赤外線炉、マイクロ波加熱炉、シャフト炉、反射炉、ローラーハース炉等の通常の焼成炉を用いて行なわれる。焼成は回分式で行なってもよいし、連続式で行なってもよい。
【0068】
焼成に要する時間は、グリーン成形体がチタン酸アルミニウム結晶に遷移するのに十分な時間であればよく、グリーン成形体の量、焼成炉の形式、焼成温度、焼成雰囲気等により異なるが、10分〜24時間であることが好ましい。
【0069】
以上のようにして、目的のチタン酸アルミニウム焼成体を得ることができる。このようなチタン酸アルミニウム焼成体は、成形直後のグリーン成形体の形状をほぼ維持した形状を有する。得られたチタン酸アルミニウム焼成体は、研削加工等により、所望の形状に加工することもできる。
【0070】
上述の方法により得られるチタン酸アルミニウム焼成体は、例えば、ルツボ、セッター、コウ鉢、炉材等の焼成炉用冶具;触媒担体;ディーゼルエンジン、ガソリンエンジン等の内燃機関の排気ガス浄化に用いられる排ガスフィルター、ビール等の飲食物の濾過に用いる濾過フィルター、石油精製時に生じるガス成分、例えば一酸化炭素、二酸化炭素、窒素、酸素等を選択的に透過させるための選択透過フィルター、等のセラミックスフィルター;基板、コンデンサー等の電子部品等に好適に適用することができる。なかでも、セラミックスフィルターとして用いる場合、チタン酸アルミニウム焼成体は、高い細孔容積および開気孔率を有することから、良好なフィルター性能を長期にわたって維持することができる。
【0071】
チタン酸アルミニウム焼成体は、X線回折スペクトルにおいて、チタン酸アルミニウムまたはチタン酸アルミニウムマグネシウムの結晶パターンのほか、アルミナ、チタニアなどの結晶パターンを含んでいてもよい。なお、チタン酸アルミニウム焼成体は、チタン酸アルミニウムマグネシウム結晶を含む場合、組成式:Al2(1−x)MgTi(1+x)で表すことができ、xの値は0.03以上であり、好ましくは0.03以上0.15以下、より好ましくは0.03以上0.12以下である。また、本発明により得られるチタン酸アルミニウム焼成体は、原料由来あるいは製造工程において不可避的に含まれる微量成分を含有し得る。
【実施例】
【0072】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。保形性、および粘度は下記方法により測定した。
【0073】
(1)グリーン成形体の保形性
1.図1の(a)に示すように、グリーン成形体から、水平長さ100mm×幅20mm×高さ20mmの大きさの試験片10を切り出した。
2.試験片10の長手方向の一端(左端)から0〜40mmの部分10aを台座5の水平面5a上に固定した。固定操作の間に試験片10の他端(右端)側(40〜100mm)の部分10bが変形しないように、試験片10の他端側の部分10bの下面を図示しない支持台により保持した。
3.支持台を外し、図1の(b)に示すように試験片10の他端側の部分10bの変形を観察した。支持台を外してから60秒後の試験片10の他端側の部分10bの下面の鉛直方向の変位Xを測定した。ここで、鉛直方向の変位Xは、台座5の端面5bから25mm水平方向にはなれた位置で測定した。合計3つの試験片について変位を測定し、その平均値を求めた。
【0074】
(2)可塑剤の20℃における粘度
混合前の可塑剤の粘度を、B型粘度計を用い、20℃の条件下で測定した。
【0075】
<実施例1>
無機化合物源粉末として以下のものを用いて、グリーン成形体を得た。無機化合物源粉末の仕込み組成は、アルミナ〔Al〕、チタニア〔TiO〕、マグネシア〔MgO〕およびシリカ〔SiO〕換算のモル百分率で、〔Al〕/〔TiO〕/〔MgO〕/〔SiO〕=35.1%/51.3%/9.6%/4.0%であった。アルミニウム源粉末、チタニウム源粉末、マグネシウム源粉末およびケイ素源粉末の合計量中のケイ素源粉末の含有率は、4.0重量%であった。
(1)アルミニウム源粉末
表1に示される平均粒子径を有するα−アルミナ粉末 24.6重量部
(2)チタニウム源粉末
表1に示される平均粒子径を有するルチル型チタニア粉末 42.0重量部
(3)マグネシウム源粉末
表1に示される平均粒子径を有するマグネシアスピネル粉末 15.7重量部
(4)ケイ素源粉末
表1に示される平均粒子径を有するガラスフリット(タカラスタンダード社製「CK0832」) 3.4重量部
【0076】
アルミニウム源粉末、チタニウム源粉末、マグネシウム源粉末およびケイ素源粉末を含む混合物に、造孔剤として表1に示される平均粒子径を有するコーンスターチを14.3重量部、有機バインダとしてメチルセルロース(商品名:メトローズ 90SH−30000)5.5重量部、可塑剤としてポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブチルエーテル(商品名:ユニルーブ50MB−72、20℃における粘度が1020mPa・s)4.6重量部、ならびに、潤滑剤としてグリセリン0.3重量部を加え、さらに、分散媒(溶媒)として水27重量部を加えた後、混練機を用いて25℃で混練することにより、坏土(成形用原料混合物)を調製した。ついで、この坏土を押出成形することにより、グリーン成形体を作製した。グリーン成形体は、保形性(変位X)が6.0mmであった。
【0077】
グリーン成形体をマイクロ波乾燥機にて速やかに加熱させた後、100℃で5時間保持して乾燥し、次いで、大気雰囲気下でバインダを除去する仮焼(脱脂)を行い、焼成を行ってチタン酸アルミニウムマグネシウム多孔質焼成体を得た。焼成時の最高温度は、1450℃とし、最高温度での保持時間は5時間とした。
【0078】
【表1】

【0079】
<実施例2>
可塑剤として、20℃における粘度が1020mPa・sのポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブチルエーテル(商品名:ユニルーブ50MB−72)4.6重量部に代えて、20℃における粘度が2880mPa・sのポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブチルエーテル(商品名:ユニルーブ50MB−168)4.6重量部を使用した以外は、実施例1と同様な操作を行って、グリーン成形体およびチタン酸アルミニウムマグネシウム多孔質焼成体を得た。グリーン成形体は、保形性(変位X)が5.0mmであった。
【0080】
<比較例1>
可塑剤として、20℃における粘度が1020mPa・sのポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブチルエーテル(商品名:ユニルーブ50MB−72)4.6重量部に代えて、20℃における粘度が326mPa・sのポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブチルエーテル(商品名:ユニルーブ50MB−26)4.6重量部を使用した以外は、実施例1と同様な操作を行って、グリーン成形体およびチタン酸アルミニウムマグネシウム多孔質焼成体を得た。グリーン成形体は、保形性(変位X)が10.5mmであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機化合物源粉末と、有機バインダと、可塑剤と、を含み、
前記無機化合物源粉末は、アルミニウム源粉末およびチタニウム源粉末を含み、
前記可塑剤の20℃における粘度は1000mPa・s以上である、グリーン成形体。
【請求項2】
前記可塑剤の量は、前記無機化合物源粉末100重量部に対し0.1〜20重量部である、請求項1記載のグリーン成形体。
【請求項3】
前記無機化合物源粉末は、さらにケイ素源粉末を含む、請求項1または2記載のグリーン成形体。
【請求項4】
前記無機化合物源粉末は、さらにマグネシウム源粉末を含む、請求項1〜3のいずれか一項記載のグリーン成形体。
【請求項5】
Al換算での前記アルミニウム源粉末とTiO換算での前記チタニウム源粉末とのモル比は、35:65〜45:55である、請求項1〜4のいずれか一項記載のグリーン成形体。
【請求項6】
ハニカム形状を有する、請求項1〜5のいずれか一項記載のグリーン成形体。
【請求項7】
無機化合物源粉末と、有機バインダと、可塑剤と、を含む原料混合物を成形してグリーン成形体を得る工程と、
前記グリーン成形体を150〜900℃に加熱して前記グリーン成形体から前記有機バインダおよび前記可塑剤を除去する工程と、
前記有機バインダおよび前記可塑剤が除去された前記グリーン成形体を1300℃以上で焼成する工程とを備え、
前記無機化合物源粉末は、アルミニウム源粉末およびチタニウム源粉末を含み、
前記可塑剤の20℃における粘度が1000mPa・s以上である、チタン酸アルミニウム焼成体の製造方法。
【請求項8】
前記可塑剤の量は、前記無機化合物源粉末100重量部に対し0.1〜20重量部である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記無機化合物源粉末は、さらにケイ素源粉末を含む、請求項7または8記載の方法。
【請求項10】
前記無機化合物源粉末は、さらにマグネシウム源粉末を含む、請求項7〜9のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
前記原料混合物中における、Al換算でのアルミニウム源粉末とTiO換算でのチタニウム源粉末とのモル比は、35:65〜45:55である、請求項7〜10のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
前記グリーン成形体は、ハニカム形状を有する請求項7〜11いずれか一項記載の方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−36079(P2012−36079A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154073(P2011−154073)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】