説明

グルココルチコイドを使った哺乳動物細胞培養における糖タンパク質の生産方法

本発明は、動物細胞培養または哺乳動物細胞培養、好ましくはフェドバッチ細胞培養(ただしこれに限るわけではない)によって、タンパク質、特に糖タンパク質を生産するための方法およびプロセスを記述する。ある態様において、本方法は、培養期間中にグルココルチコイド化合物を添加することを含む。グルココルチコイド化合物の添加は、培養細胞の高い生存率を持続させ、増加したタンパク質産物の終末力価と、例えば生産されたタンパク質のシアル酸含有量などによって決定される高品質なタンパク質とをもたらすことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[発明の分野]
本発明は、タンパク質産物(好ましくはグリコシル化タンパク質産物)を生産する哺乳動物細胞を培養するための新しいプロセスに関する。本細胞培養プロセスの遂行は高い細胞生存率をもたらし、高い製品品質および生産性、増殖相の延長、ならびに死滅相における死滅速度の低下をもたらすこともできる。
【背景技術】
【0002】
[発明の背景]
動物細胞培養、特に哺乳動物細胞培養は、治療的および/または予防的応用のための組換え生産グリコシル化タンパク質の発現に、好ましく使用される。組換え糖タンパク質のグリコシル化パターンは重要である。なぜなら、糖タンパク質のオリゴ糖側鎖はタンパク質機能に影響を及ぼすと共に、タンパク質の異なる領域間の分子内相互作用にも影響を及ぼすからである。そのような分子内相互作用は、糖タンパク質のタンパク質コンフォメーションおよび三次構造に関与する(例えばA. Wittwerら, 1990, Biochemistry, 29:4175-4180;Hart, 1992, Curr. Op. Cell Biol., 4:1017-1023;Goocheeら, 1991, Bio/Technol., 9:1347-1355;およびR.B. Parekh, 1991, Curr. Op. Struct. Biol., 1:750-754を参照のこと)。またオリゴ糖は、特異的な細胞性糖質受容体に基づいて、ある特定ポリペプチドを一定の構造へとターゲティングする機能も果たしうる(M.P. Bevilacquaら, 1993, J. Clin. Invest., 91:379-387;R.M. Nelsonら, 1993, J. Clin. Invest., 91:1157-1166;K.E. Norgardら, 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:1068-1072;およびY. Imaiら, 1993, Nature, 361-555-557)。
【0003】
糖タンパク質オリゴ糖側鎖の末端シアル酸構成要素は、その物理的および化学的構造/挙動ならびにその免疫原性だけでなく、吸収、溶解度、熱安定性、血清中半減期、血清からのクリアランスを含む糖タンパク質の数多くの側面および性質に影響を及ぼすことが知られている(A. Varki, 1993, Glycobiology, 3:97-100;R.B. Parekh, 同文献(Id.);Goocheeら, 同文献;J. Paulsonら, 1989, TIBS, 14:272-276;およびA. Kobata, 1992, Eur. J. Biochem., 209:483-501;E.Q. Lawsonら, 1983, Arch. Biochem. Biophys., 220:572-575;およびE. Tsudaら, 1990, Eur. J. Biochem., 188:405-411)。
【0004】
糖タンパク質中のシアル酸の量は2つの相反するプロセス、すなわちシアリルトランスフェラーゼ活性による細胞内でのシアル酸の付加と、シアリダーゼ切断による細胞外でのシアル酸の除去による影響を受ける。
【0005】
シアル酸の細胞内付加は、トランスゴルジにおいて起こるグリコシル化プロセスの最後の段階である。これは、ヌクレオチド糖前駆体CMP-シアル酸から、新しく合成されたタンパク質に結合している生成途上のアルグリカン構造上の利用可能なガラクトースへの、シアル酸の酵素的転移を伴う。不完全なシアリル化の原因になるかもしれない、このプロセスの考えうる制約には、CMP-シアル酸の利用可能性、シアリルトランスフェラーゼ酵素の活性、生成途上のグリカン構造上のガラクトースの量、およびガラクトシルトランスフェラーゼ酵素の活性が含まれる。かなりの量の研究が、シアリルトランスフェラーゼおよびグリコシルトランスフェラーゼの過剰発現および酵素活性の増進によってシアリル化を最大化することに、焦点を当ててきた。Zhangら(Biochim Biophys Acta 1425(3):1998, 441-52)は、組織プラスミノゲン活性化因子(tPA)の生産を伴うCHO細胞におけるヒトα2,6-シアリルトランスフェラーゼの発現が、tPAのα2,6-シアリル化を増進すると報告した。Weikertら(Nat Biotechnol 17(11):1999, 1116-21)は、α2,3-シアリルトランスフェラーゼとβ1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼの共発現が、TNK-tPAおよびTNFR-IgGのシアリル化を90%以上にすると報告した。さらにまた、β1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼの補因子であるマンガン(Mn2+)を適正な量で補充(supplementation)すると、低シアリル化画分中のrHuEPOの量の著しい減少、これら低シアリル化種における糖質部位占有率の増加およびバイアンテナ型構造への糖質分岐の狭小化(Zhangら, 1998)が起こった(Crowellら, Biotechnol Bioeng 96(3):538-49, 2007)。
【0006】
糖タンパク質中のシアル酸の量は、シアリダーゼ切断によるシアル酸の細胞外除去の影響も受ける。GramerおよびGoochee(Biotechnol Prog 9(4):366-73, 1993)は、CHO灌流培養において、細胞外シアリダーゼ活性の増加と相関する乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)の増加(これは細胞溶解の増加を意味する)を証明した。Guら(Biotechnol Bioeng 55(2):390-8, 1997)は、長期バッチ(batch)培養の全体を通してCHO細胞生存率の減少およびそれに付随する死細胞の増加に伴うインターフェロン-γ(IFN-γ)の末端シアル酸の顕著な喪失も例示している。
【0007】
したがって、この分解効果を低減または回避するには、細胞死の発生を遅らせ、細胞生存率を改善することが不可欠である。
【0008】
一般に、哺乳動物細胞培養に基づく系におけるタンパク質発現レベルは、微生物発現系、例えば細菌または酵母発現系におけるレベルよりも、かなり低い。しかし、細菌細胞および酵母細胞は、高分子量タンパク質産物を最適に発現させる能力、複雑な立体構造を有するタンパク質を適正に折りたたむ能力、および/または必要な翻訳後修飾を施して、発現された糖タンパク質を成熟させ、それによって産物の免疫原性およびクリアランス率に影響を及ぼす能力に制約がある。
【0009】
動物細胞または哺乳動物細胞、特に組換え産物を生産する動物細胞または哺乳動物細胞の培養には制約があるため、例えば、大規模培養容器の使用;インキュベーション温度、溶存酸素濃度、pHなどといった基本培養条件の変更;異なるタイプの培地および培地への添加剤の使用;ならびに培養細胞の密度を増加させることなど、さまざまなパラメータの操作が研究されてきた。また、高い製品品質を維持しながら、実行時間(run time)を延ばして最終産物濃度を増加させる能力を進歩させることも、哺乳動物細胞培養のためのプロセス開発にとって有益であるだろう。重要な製品品質パラメータは、ポリペプチド産物のグリコシル化構造の度合および完全性であり、シアル酸含有量が糖タンパク質品質の尺度としてよく使用される。
【0010】
細胞培養プロセス、特に非連続プロセスの実行時間は、通常、典型的には実行(run)の過程で低下していく細胞の残存生存率によって制限される。したがって高い細胞生存率の最大限可能な延長が望まれる。製品品質への関心も、生細胞密度の低下を最小限に抑え、高い細胞生存率を維持しようとする動機になる。というのも、細胞死は培養上清にシアリダーゼを放出することになり、それが発現したタンパク質のシアル酸含有量を低下させうるからである。タンパク質精製への関心は、生細胞密度の低下を最小限に抑え、高い細胞生存率を維持しようとする、さらにもう一つの動機になる。培養における細胞片および死細胞の内容物の存在は、培養実行(culturing run)の終了時にタンパク質産物を単離および/または精製する能力に、負の影響を及ぼしうる。したがって、培養中で、より長期間にわたって細胞を生存可能な状態に保つことにより、それに付随して、細胞性タンパク質および細胞性酵素、例えば細胞によって生産される所望の糖タンパク質の分解とその品質の最終的な低下とを引き起こしうる細胞性プロテアーゼおよび細胞性シアリダーゼによる培養培地の汚染が低減される。
【0011】
細胞培養において高い細胞生存率を達成するために、さまざまなパラメータが研究されてきた。あるパラメータでは、37℃における初期培養の後、培養温度を1回低下させることが行われた(例えばRoesslerら, 1996, Enzyme and Microbial Technology, 18:423-427;T. Etcheverryらの米国特許第5,705,364号および同第5,721,121号(1998);K. Furukawaらの米国特許第5,976,833号(1999);L. Adamsonらの米国特許第5,851,800号;Genentech, Inc.のWO 99/61650およびWO 00/65070;Biogen, Inc.のWO 00/36092;およびGirardらの米国特許第4,357,422号)。
【0012】
研究された別のパラメータでは、培養への構成要素の追加が行われた。増殖因子阻害剤スラミンは、CHO K1:CycE細胞の対数増殖時のアポトーシスを防止することが示された(Zhangiら, Biotechnol. Prog. 2000, 16, 319-325)。しかしスラミンは死滅相におけるアポトーシスを防がなかった。結果として、スラミンは、増殖相において高い生存率を維持する能力は有していたが、培養寿命の延長を可能にするわけではなかった。同じ著者らは、CHO 111-10PF細胞株に関して、デキストラン硫酸およびポリビニル硫酸は、スラミンと同様に、対照培養と比較して3日目の生細胞密度および生存率を増加させることができたと報告している。しかし、死滅相におけるデキストラン硫酸またはポリビニル硫酸の効果は報告されていない。スラミン、デキストラン硫酸およびポリビニル硫酸は、細胞凝集を防止するのにも有効であると報告された。
【0013】
昆虫細胞培養培地へのデキサメタゾンまたはN-アセチルマンノサミン(N-acetylmannosarnine)の補充が、バキュロウイルス発現ベクター系(BEVS)によって製造されるタンパク質の複合グリコシル化(complex glycosylation)(N結合型オリゴ糖への末端シアル酸残基の付加を含む)に及ぼす効果は、Boyce Thompson Institute For Plant Research, Inc.(ニューヨーク州イサカ)の米国特許第6,472,175号(2002)に開示されている。
【0014】
タンパク質治療薬は、そのサイズ、構造の複雑さ、および生物学的生産の性質ゆえに、本質的に不均一である(ChirinoおよびMire-Sluis, Nat Biotechnol. 2004;22:1383-1391)。「純粋な」タンパク質溶液でさえ、多少のパーセンテージの低分子量フラグメント、高分子量種、およびさまざまな度合の化学修飾が存在するであろう。高分子量種の形成は、通常、タンパク質凝集によるものであり、これは生物製剤の製造時によく直面する問題である。凝集体は免疫原性反応につながったり、投与時に有害事象を引き起こしたりする懸念があるため、通例、凝集体の存在は望ましくないとみなされる(Cromwellら, AAPS J. 2006;8:E572-579)。生物製剤の凝集体のいくつかのタイプは正常に機能しうるが、それでもなお、製品品質の一貫性を維持することは重要である。というのも、製品の一貫性は規制当局による承認にとって必要条件だからである。
【0015】
タンパク質の凝集体は、いくつかの機序から生じ、製造プロセス中の各段階において発生しうる。細胞培養においては、分泌タンパク質がタンパク質の安定性にとって好ましくない条件にばく露されることもありうるが、それ以上に、多量のタンパク質の蓄積が、折りたたまれていないタンパク質分子の相互作用ゆえに起こる細胞内凝集、または適正な折りたたみを担う分子シャペロンによる新生ペプチド鎖の認識が不十分であるために起こる細胞内凝集につながりうることが多い(Cromwellら, AAPS J. 2006;8:E572-579)。細胞の小胞体(ER)では、新しく合成されたタンパク質のジスルフィド結合が酸化的環境下で形成される。正常な条件下では、タンパク質スルフヒドリルはタンパク質ジスルフィドおよびスルフェン酸へと可逆的に酸化されるが、スルフィン酸型およびスルホン酸型のタンパク質システインなどといった、より高度に酸化された状態は不可逆的である(ThomasおよびMallis, Exp Gerontol. 2001;36:1519-1526)。超酸化型(hyper-oxidized)タンパク質は、正しくないジスルフィド結合を含有したり、他の内腔ERタンパク質との混合ジスルフィド結合を有したりする場合があり、いずれの場合も、それが、タンパク質の不適正な折りたたみおよび凝集につながる。したがって、ERにおいて適正に制御された酸化的環境を維持することは、極めて重要である。これに関連して、まず最初にCuozzoおよびKaiser(Nat Cell Biol. 1999;1:130-135)が、酵母において、グルタチオンはER超酸化に対する緩衝剤になることを証明し、後に、Chakravarthiおよび Bulleid(J Biol Chem. 2004;279:39872-39879)が、哺乳動物細胞において、分泌経路に入るタンパク質内のネイティブジスルフィド結合の形成を調節するためにもグルタチオンが必要であることを確認した。
【0016】
細胞培養プロセスにおいては、培養中の産物濃度が増加するにつれて、オリゴ糖糖構造のシアル酸含有量測定値によって決定される製品品質が低下することを、観察することができる。通常、薬物クリアランス試験によって決定される、許容できるシアル酸含有量の下限が存在する。培養中の細胞によって生産される多量のタンパク質が、意図する用途のために最終的に回収される品質の高いタンパク質を伴うことが最適である。
【0017】
適正にグリコシル化された組換え生産タンパク質産物は、治療薬、処置薬および予防薬として使用するために、医学的および臨床的重要性がますます増加しつつある。したがって、増加した最終タンパク質産物濃度を、例えばシアル酸含有量によって決定される高レベルの製品品質と合わせて、経済的かつ効率的に達成する、信頼できる細胞培養プロセスの開発は、当技術分野において所望され必要とされる目標を同時に満たすことになる。
【発明の概要】
【0018】
[発明の概要]
本発明は、タンパク質、好ましくは組換えタンパク質産物、より好ましくは糖タンパク質産物を動物細胞培養または哺乳動物細胞培養によって生産するための新しいプロセスを提供する。これらの新しいプロセスでは、後期相における生細胞密度、細胞生存率、生産性およびシアル酸含有量の増加と、タンパク質凝集の減少が達成される。
【0019】
本発明の一態様は、培地へのグルココルチコイドの添加に関する。この態様において、本発明の細胞培養プロセスは、比生産性(specific productivity)の増進、例えば糖タンパク質、ならびに培養細胞によって生産される糖タンパク質のシアル酸含有量の増進を、有利に達成することができる。より具体的には、本発明によれば、細胞培養期間中にグルココルチコイドを添加することにより、培養中の細胞の高い細胞生存率が持続し、培養実行(culture run)全体を通して大量かつ高品質な生産物を得ることができる。また、本発明の一態様によれば、培養プロセスにグルココルチコイドを添加することにより、有利なことに、培養の生産相の延長が可能になる。延長された生産相中、所望の産物の力価(titer)は増加し、シアル酸含有量によって特徴づけられる製品品質は高レベルに維持され;タンパク質凝集レベルは低レベルに維持され、細胞生存率も高レベルに維持される。また、本発明の培養プロセスに伴う延長された生産相は、標準的な生産相中に生産される量を上回る産物の生産を可能にする。
【0020】
特定の一態様において、本発明は、グルココルチコイドの添加により、比生産性が増進し、タンパク質凝集レベルが低下し、生産される糖タンパク質のシアル酸含有量が高くなるプロセス(または方法)を提供する。グルココルチコイド化合物は、好ましくは、デキサメタゾンである。この特定態様によれば、グルココルチコイドの添加は、培養の高い細胞生存率を維持し、それによって延長された生産相を可能にし、その間に、産物、好ましくは組換え産物の力価が増加し、シアル酸含有量によって特徴づけられる製品品質は高レベルに維持される。グルココルチコイドの添加は、細胞培養プロセス中の産物の生産におけるタンパク質力価とシアル酸含有量の間によく見られるトレードオフを最小限に抑えることができる。したがってグルココルチコイドの添加は、培養プロセスの重要な性能パラメータ、すなわち"終末(すなわち最終)力価"x"終末(すなわち最終)シアル酸"X"モノマー含有量"("終末力価x終末シアル酸"x"終末モノマー含有量)の数学的積を増進させる上で、正の効果を与える。
【0021】
本発明の一態様では、グルココルチコイド化合物が、接種の時点において、または接種後、初期死滅相が始まる前、初期増殖相中、初期増殖相の後半中、または初期増殖相の終了時もしくはその前後である時点において、培養に添加される。本発明のこの態様によれば、増殖相が延長され、かつ/または死滅相の発生が、ある期間、例えば数日間、遅延される。
【0022】
本発明のもう一つの好ましい態様において、本明細書においてさらに説明するとおり、グルココルチコイド化合物の添加を伴う新しく開発された細胞培養プロセスは、可溶性CTLA4分子および可溶性CTLA4突然変異体(mutant)分子、例えばCTLA4IgおよびL104EA29YIgなどを、これらのタンパク質を発現し生産するように遺伝子操作された宿主細胞によって生産するのに、とりわけ適している。本発明の好ましい実施形態は、最終産物のシアル酸測定および/または低いタンパク質凝集によって決定される高品質なCTLA4IgおよびL104EA29YIg産物を大量に得るために、培養実行中にグルココルチコイド化合物を添加することを伴う、CTLA4IgおよびL104EA29YIgを生産する細胞の培養を包含する。
【0023】
本発明のさらなる態様、特徴および利点は、発明の詳細な説明を読み、図面を考慮すれば、理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施例1において説明するDEX処理CHO細胞において、β1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼ(1A)およびα2,3-シアリルトランスフェラーゼ(1B)の発現が、おおむね、デキサメタゾン(DEX)濃度と共に増加することを示す。DEXを接種第2日に0.1〜10 10μMの濃度で培養に添加した。接種後第5日に、細胞試料を集め、全細胞溶解物を調製し、4−15%勾配ゲルで分離し、各グリコトランスフェラーゼの抗体でプローブした。次に、等価なローディング量を評価するために、ブロットをβ-アクチン抗体で再プローブした。
【図2】実施例1において説明する培養上清中のシアリダーゼ活性の低下をもたらすDEXの細胞保護効果を示す。DEX処理培養と無処理培養との培養期間に沿った細胞生存率(2A)および上清シアリダーゼ活性アッセイの吸光度(2B)のプロファイル。濃度1μMでのDEX処理を2日目に開始した。値は、5つの実験から得たデータの平均および標準偏差を反映している。
【図3】実施例1において説明するようにグルココルチコイド類似体ヒドロコルチゾン(HYC)およびプレドニゾロン(PRD)で処理した培養における糖タンパク質シアリル化の改善を示す。それぞれDEX、HYCおよびPRDで処理した培養の規格化総シアル酸含有量(3A)および規格化N結合型シアリル化種分率(3B)。処理は、接種後第2日に、各化合物について、培地中、0.1、1および10μMの濃度で開始した。各パラメータの値を平均値±差(difference)/2として報告する。
【図4】実施例1において説明するように、DEXによるシアリル化の増進が、グルココルチコイドアンタゴニストRU-486によってブロックされることを示す。RU-486の存在下および非存在下における規格化総シアル酸含有量(4A)および規格化N結合型シアリル化種分率(4B)。接種の48時間後に0または1μMのRU-486を細胞培養懸濁液中に導入した。次に、その24時間後に、0.1、1および10μMのDEXを培養に添加した。各パラメータの値を平均値±差/2(n=2)として報告する。
【図5】実施例1において説明するように、5LバイオリアクターにおけるDEX処理CHO細胞のフェドバッチ(fed-batch)培養が、増加したシアル酸含有量およびシアリル化種分率をもたらしたことを示す。培養全体にわたる無処理培養および処理培養の規格化総シアル酸含有量(5A)および規格化N結合型シアリル化種分率(5B)。各パラメータの値を平均値±標準偏差(n=3)として報告する。規格化値は実際の値を任意値で割ったものである。
【図6】実施例1において説明するように、7、10、および20Lスケールのバイオリアクターにおいて糖タンパク質シアリル化を改善するDEXの能力を示す。異なる実行から得られた、DEX処理培養および無処理培養の規格化最終総シアル酸モル比と規格化シアリル化分率とを要約している。規格化値は、実際の値を任意値で割ったものである。
【図7】実施例2において説明するように、デキサメタゾン(DEX)で処理したCHO細胞によって生産されるIgG融合タンパク質における高分子量(HMW)種のパーセンテージの低下を示す。7A、全ての細胞をまず同じ振とうフラスコ中で2日間一緒に培養してから、2つの群に分割し、その半分にDEXを基礎培地中に1μMの濃度で単回投与した。10日目に上清を集め、精製してから、HMW種のパーセンテージを決定するためのSEC-HPLC分析を行った。データポイントは、1回の実験において5本の振とうフラスコから得た結果の平均(±S.D.)である。** 対照(「CON」)と比較してP<0.01。7B、DEXをさまざまな濃度で2日目のCHO細胞培養に添加し、上清を10日目に集めた。データポイントは二本一組のフラスコから得られた結果の平均である。7C、全ての培養を同時に開始したが、1μM DEXを異なる日に添加することにより、10日目に細胞を同時に収集する時点において、表示のとおりインキュベーション時間が異なるようにした。データポイントは二本一組のフラスコからの結果の平均である。
【図8】実施例2において説明するように、デキサメタゾン(DEX)で処理したCHO細胞におけるグルタチオンレダクターゼの発現の増加を示す。接種日にさまざまな濃度のDEXを細胞培養に添加し、5日目に細胞試料を集めた。全細胞溶解物を4−15%勾配ゲルで分離した。グルタチオンレダクターゼの検出後に、試料ローディング量を比較するために、同じブロットを使ってβ-アクチンを検出した。
【図9】実施例2において説明するようにインビトロでGSHと共にインキュベートしたIgG融合タンパク質におけるHMW種のパーセンテージの低下を示す。還元型グルタチオン(GSH)を、0、1および3mMの最終濃度で、精製IgG融合タンパク質のトリス酢酸緩衝(pH7.5)溶液に添加し、そのGSHとタンパク質の混合物を、37℃で1時間インキュベートしてから、SEC-HPLC分析を行った。データポイントは2回の実験からの4回の決定の平均(±S.D.)である。* 対照(0mM GSH)と比較してP<0.05。
【図10】実施例2において説明するように、グルココルチコイド受容体アンタゴニストRU-486の存在下におけるデキサメタゾン(DEX)の効果の減弱を示す。10A、無処理HepG-2およびCHO細胞から全細胞溶解物を調製し、4−15%勾配ゲルで分離した。HepG-2試料を一次抗体検証用のヒト由来対照として使用した。10B、接種の1日後(1日目)に1μMのRU-486を培養中に導入し、RU-486前処理CHO細胞を2日目に分割して、その半分にDEXを、基礎培地中、0.1μMの濃度で単回投与した。10日目に細胞試料を集めた。他の手順は全て図2における手順と同じにした。10C、1日目に1μMのRU-486を培養中に導入した後、2日目にDEXを0.1μMまたは1μMの最終濃度でRU-486前処理培養に添加した。上清を10日目に集めた。データポイントは二本一組のフラスコからの結果の平均である。
【図11】実施例3において説明するように、無血清培地中のCHO細胞の培養において、細胞死がDEXによって阻害されることを示す。2日目に処置を開始した場合にDEXが生細胞密度(11A)および生存率(11B)に及ぼす効果の用量応答曲線。処理濃度が1μMである場合にDEXが生細胞密度(11C)および生存率(11D)に及ぼす効果の経時変化曲線。各値は、二つ一組にして行った実験から得られたデータの平均である。
【図12】実施例3において説明するように、DEXによって、CHO細胞比増殖速度は低下する一方、細胞比生産性は増加することを示す。CHO細胞比増殖速度(12A)、規格化容積生産性(volmetric productivity)(12B)および規格化細胞比生産性(12B)に対するDEXの効果。DEX処理を2日目に開始した。値は、5回の実験からのデータの平均および標準偏差を反映している。規格化値は、実際の値を任意値で割ったものである。
【図13】実施例3において説明するように、DEX処理CHO細胞における抗アポトーシス遺伝子GILZのアップレギュレーションが、qRT-PCRおよびウェスタンブロット分析によって確認されたことを示す。(13A)接種後第2日に、DEXを、それぞれ0および1μMの最終濃度で、三つ一組の培養中に添加した。接種後第5日および第8日に、mRNA試料を抽出した。各パラメータの値を平均値±標準偏差(n=3)として報告する。(13B)接種後第2日に、DEXを、それぞれ0および1μMの最終濃度で、三つ一組の培養中に添加した。接種後第5日および第8日に、細胞試料を集め、全細胞溶解物を調製した。
【図14】実施例3において説明するように、デキサメタゾンの死抑制作用にGILZおよびグルココルチコイド受容体が関与することを示す。最終生存率の増加率(DEX処理なしとの比較)(14A)、RU-486の存在下および非存在下においてDEXによって誘導されるGILZ遺伝子発現の倍率変化(14B)およびGILZタンパク質発現(14C)。0または1μMのRU-486を、接種の48時間後に、細胞培養懸濁液中に導入し、次に、その24時間後に、0、0.1および1μMのDEXを培養中に添加した。生存率、qRT-PCRおよびウェスタンブロッティング分析のために、細胞を集めた。A図に報告する各値は、二つ一組の実験から得たデータの平均である。B図に報告する各値は、三つ一組の実験から得たデータの平均および標準偏差である。
【図15】実施例3において説明するように、10LバイオリアクターにおけるDEX処理CHO細胞のフェドバッチ培養が、VCD、生存率、力価およびシアル酸モル比の改善をもたらすことを示す。無処理培養ならびにDEX処理を2日目および7日目に開始した処理培養の生細胞密度(15A)、生存率(15B)および規格化力価(15C)プロファイル。規格化値は実際の値を任意値で割ったものである。
【図16】CTLA4Igを分泌するCHO細胞培養の細胞増殖に対するDEXの効果を示す。それぞれ最終濃度0、0.001、0.01、0.1、1および10μMのDEXで処理した、生細胞密度(16A)および生存率(16B)に対するDEXの効果の用量応答曲線。処理は接種後第2日に開始した。各値は、二つ一組にして行った実験から得たデータの平均である。
【図17】CTLA4Igのシアル酸モル比およびHMWレベルに対するDEXの効果を示す。図は、それぞれ最終濃度0、0.001、0.01、0.1、1および10μMのDEXで処理した培養の最終総シアル酸モル比(17A)およびHMW種(17B)を示している。処理は接種後第2日に開始した。各値は二つ一組で行った実験から得たデータの平均である。A図に報告する値は、実際の値を任意値で割った規格化値である。
【図18】実施例5において説明するように、大規模組換え糖タンパク質生産にDEXを含めることの実行可能性を示す。図は、それぞれ7L(n=16)および500L(n=6)および5000L(n=3)規模で生産した組換え糖タンパク質の生細胞密度(18A)、生存率(18B)、規格化力価(18C)および規格化シアル酸含有量(18D)を示す。値は、各規模における複数の実験からのデータの平均および標準偏差を反映している。規格化値は実際の値を任意値で割ったものである。どの規模においても規格化には同じ除数を使用した。
【図19】シグナルペプチド、位置+1のメチオニンで始まり位置+124のアスパラギン酸に至るまたは位置−1のアラニンで始まり位置+124のアスパラギン酸に至るCTLA4の細胞外ドメインの野生型アミノ酸配列、およびIg領域を有する、CTLA4Igのヌクレオチド配列(配列番号1)およびコードされているアミノ酸配列(配列番号2)を表す。
【図20】シグナルペプチド、位置+1のメチオニンで始まり位置+124のアスパラギン酸で終わるまたは位置−1のアラニンで始まり位置+124のアスパラギン酸で終わるCTLA4の突然変異型細胞外ドメイン、およびIg領域を有するCTLA4突然変異体分子(L104EA29YIg)のヌクレオチド配列(配列番号3)およびコードされているアミノ酸配列(配列番号4)を表す。
【図21】オンコスタチンMシグナルペプチド(位置−26〜−2)に融合されたヒトCTLA4受容体(本明細書では「野生型」CTLA4という)の核酸配列(配列番号5)およびコードされている完全アミノ酸配列(配列番号6)を表す(米国特許第5,434,131号および同第5,844,095号)。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[発明の詳細な説明]
本発明は、タンパク質、好ましくは組換えタンパク質産物、より好ましくは糖タンパク質産物を、哺乳動物細胞培養または動物細胞培養中で生産するための新しいプロセスを記述する。これらのプロセスにより、生細胞密度、細胞生存率、生産性およびシアル酸含有量の増加と、タンパク質凝集の減少が達成される。
【0026】
ある実施形態において、本発明は、目的のタンパク質を発現する宿主細胞を培養すること、および細胞培養にグルココルチコイド化合物を添加することを含む、細胞培養プロセスに向けられる。
【0027】
グルココルチコイド化合物には、例えばヒドロコルチゾン(Sigma-Aldrich(ミズーリ州セントルイス)から入手可能)、プレドニゾン(Sigma-Aldrichから入手可能)、プレドニゾロン(Sigma-Aldrichから入手可能)、メチルプレドニゾロン(Sigma-Aldrichから入手可能)、デキサメタゾン(Sigma-Aldrichから入手可能)、ベタメタゾン(Sigma-Aldrichから入手可能)、トリアムシノロン(Sigma-Aldrichから入手可能)、酢酸フルドロコルチゾン(Sigma-Aldrichから入手可能)などがあるが、これらに限定されるわけではない。これらの化合物は、リストに挙げた供給者から容易に入手することができるか、または当業者に知られている手段によって容易に得ることができる。
【0028】
好ましいグルココルチコイド化合物には、ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、ベタメタゾンおよびデキサメタゾンなどがあるが、これらに限定されるわけではない。最も好ましいのはデキサメタゾンである。
【0029】
本発明の一実施形態において、グルココルチコイド化合物は、接種時に添加されるか、基礎培地の一構成要素であることができる。接種は0日目に行われる。
【0030】
本発明の一実施形態において、グルココルチコイド化合物は、接種後のある時点において添加される。すなわち、グルココルチコイド化合物は基礎培地中に存在せず、接種時には存在しない。好ましくは、グルココルチコイド化合物は、培養の1日目またはそれ以降に添加される。
【0031】
本発明によれば、グルココルチコイド化合物は、指定された期間中に1回、2回、3回、または何回でも、細胞培養に添加することができる。1つ以上のグルココルチコイド化合物を一緒に使用することができる。すなわち、グルココルチコイド化合物の任意の所与の単回の添加は、1つ以上の他のグルココルチコイド化合物の添加を含むことができる。同様に、グルココルチコイド化合物の添加が2回以上行われる場合は、異なる添加において異なるグルココルチコイド化合物を添加してもよい。追加の化合物および物質(グルココルチコイド化合物を含む)を、グルココルチコイド化合物の添加前に、グルココルチコイド化合物の添加と共に、またはグルココルチコイド化合物の添加後に、指定された期間中に、もしくは指定された期間外に、培養に添加してもよい。好ましい一実施形態では、グルココルチコイド化合物の添加が単回、すなわち1回行われる。好ましい一実施形態では、1つのグルココルチコイド化合物が添加される。
【0032】
本発明によれば、グルココルチコイド化合物は、任意の手段によって、細胞培養に添加することができる。グルココルチコイド化合物を添加する手段には、例えば、DMSOへの溶解、有機溶媒への溶解、水への溶解、培養培地への溶解、フィード培地(feed medium)への溶解、適切な培地への溶解、それを入手した時の形態、またはそれらの任意の組合せが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0033】
好ましくは、DEXがエタノールに溶解していて、さらなる使用(すなわちフィード培地へのDEXの添加など)のために水で希釈される溶液として、DEXを添加する。
【0034】
本発明によれば、グルココルチコイド化合物は、培養中の濃度が適当なレベルになるように添加される。限定でない例として、グルココルチコイド化合物は1nM〜1mMの濃度になるように添加される。好ましいグルココルチコイド化合物は、濃度1nM〜0.1μMまたは0.1μM〜10μM、より好ましくは約5nM〜15nMまたは0.5μM〜5μM、より好ましくは約10nMまたは1μMのターゲット量になるように添加される。
【0035】
本発明によれば、培養は、グルココルチコイド化合物の添加後、任意の時間、実行することができる。培養実行時間は、当業者が、回収可能なタンパク質の量および品質、ならびに目的のタンパク質の回収を難しくするであろう細胞溶解に起因する上清中の夾雑細胞性種(例えばタンパク質およびDNA)のレベルなどといった、関連要因に基づいて決定することができる。
【0036】
本発明の細胞培養プロセスおよび細胞生存率を増加させる方法の特定の実施形態では、グルココルチコイド化合物が、接種後、初期死滅相が始まる前の時点において添加される。好ましくは、グルココルチコイド化合物が、接種後、初期増殖相中の時点において添加される。より好ましくは、グルココルチコイド化合物が、初期増殖相の後半中に添加される。より好ましくは、グルココルチコイド化合物が、初期増殖相の終了時またはその前後において添加される。
【0037】
初期増殖相とは、グルココルチコイド化合物の指定された添加がない場合に観察される増殖相を指す。初期死滅相とは、グルココルチコイド化合物の指定された添加がない場合に観察される死滅相を指す。
【0038】
初期増殖相は、初期死滅相が始まる時に終了する場合もありうるし、初期増殖相と初期死滅層の間に、任意の長さの定常相が存在する場合もありうる。
【0039】
例えば、初期増殖相が0日目から6日目までであり、初期死滅相が7日目に始まる細胞培養において、ある特定の実施形態では、グルココルチコイド化合物が、接種後、7日目より前の時点において添加される。具体的一実施形態では、グルココルチコイド化合物が、接種後、6日目までに添加される。具体的一実施形態では、グルココルチコイド化合物が、1日目と6日目の間に添加される。もう一つの具体的実施形態では、グルココルチコイド化合物が、3〜6日目に、フィード培地と共に添加される。別の具体的実施形態では、グルココルチコイド化合物が2日目前後、または2日目に添加される。
【0040】
本発明を実施すると細胞培養の生存能が延長されることがわかった(実施例3参照)。グルココルチコイド化合物の添加などの条件は、その条件の存在下において、その条件の非存在下と比較して、培養における細胞生存率がある期間にわたって高いのであれば、細胞生存能の延長を引き起こす。
【0041】
したがって、別の実施形態において、本発明は、目的のタンパク質を発現する宿主細胞を培養すること、および細胞培養にグルココルチコイド化合物を添加することを含み、細胞培養の細胞生存能が延長される、(1)細胞培養プロセス、および(2)培養における細胞生存能を延長させる方法に向けられる。
【0042】
接種後、初期死滅相が始まる前の時点においてグルココルチコイド化合物を添加すると、死滅相の死滅速度が、グルココルチコイド化合物の添加がない場合に観察される死滅相のそれよりも、低下しうることがわかった(実施例3参照)。
【0043】
したがって別の実施形態において、本発明は、目的のタンパク質を発現する宿主細胞を培養すること、および接種後、初期死滅相が始まる前の時点において、グルココルチコイド化合物を細胞培養に添加することを含み、死滅相の死滅速度が低下する、(1)細胞培養プロセス、および(2)細胞培養の死滅相の死滅速度を低下させるためのプロセスに向けられる。さらなる特定実施形態において、本発明は、目的のタンパク質を発現する宿主細胞を培養すること、および接種後、初期増殖相中の時点において、グルココルチコイド化合物を細胞培養に添加することを含み、死滅相の死滅速度が遅れる、(1)細胞培養プロセス、および(2)細胞培養の死滅層の死滅速度を低下させるためのプロセスに向けられる。さらなる特定実施形態において、本発明は、目的のタンパク質を発現する宿主細胞を培養すること、および接種後、初期増殖相の後半中にグルココルチコイド化合物を細胞培養に添加することを含み、死滅相の死滅速度が低下する、(1)細胞培養プロセス、および(2)細胞培養の死滅層の死滅速度を低下させるためのプロセスに向けられる。別の特定実施形態において、本発明は、目的のタンパク質を発現する宿主細胞を培養すること、および初期増殖相の終了時またはその前後に、グルココルチコイド化合物を細胞培養に添加することを含み、死滅相の死滅速度が遅れる、細胞培養の死滅相の死滅速度を低下させるためのプロセスに向けられる。
【0044】
実施例3は、ヒドロコルチゾン(HYC)、プレドニゾロン(PRD)およびデキサメタゾン(DEX)が、全て、無処理細胞培養と比較した場合に処理細胞培養において、用量依存的な細胞保護効果を示すことも証明している。しかし、同じレベルの細胞保護効果を達成するには、HYCおよびPRDの方が、高い濃度を必要とした。これは、それらの効力差と合致している(すなわちHYCおよびPRDにはDEXの5%および20%の効力しかない)。
【0045】
細胞培養プロセス、特に非連続プロセスの実行時間は、通常、死滅相中に低下する残存生細胞密度によって制限される。実行時間が長いほど、高い産物力価を達成することが可能になりうる。製品品質への関心も、死滅速度を低下させようとする動機になる。というのも、細胞死は培養上清にシアリダーゼを放出することになり、それが発現したタンパク質のシアル酸含有量を低下させうるからである。タンパク質精製への関心は、死滅相を遅延または制止しようとするさらにもう一つの動機になる。培養における細胞片および死細胞の内容物の存在は、培養実行の終了時にタンパク質産物を単離および/または精製する能力に、負の影響を及ぼしうる。
【0046】
細胞培養へのグルココルチコイド化合物の添加は、目的のタンパク質の凝集を減少させることがわかった(実施例2参照)。
【0047】
したがって、別の実施形態において、本発明は、目的のタンパク質を発現する宿主細胞を培養すること、およびグルココルチコイド化合物を細胞培養に添加することを含み、高分子量種のパーセンテージが減少する、(1)細胞培養プロセス、および(2)タンパク質凝集のパーセンテージを低下させるためのプロセスに向けられる。
【0048】
細胞培養へのグルココルチコイド化合物の添加は、総シアル酸含有量を増進させ、シアリル化種のパーセンテージを増加させることにより、目的のタンパク質のシアリル化を改善することがわかった(実施例1参照)。
【0049】
実施例1は、ヒドロコルチゾン(HYC)、プレドニゾロン(PRD)およびデキサメタゾン(DEX)が、無処理細胞培養と比較した場合に処理細胞培養において、用量依存的なシアリル化改善を示すことも証明している。しかし、同じレベルの改善を達成するには、HYCおよびPRDの方が、高い濃度を必要とした。これは、それらの効力差と合致している。
【0050】
したがって、別の実施形態において、本発明は、目的のタンパク質を発現する宿主細胞を培養すること、およびグルココルチコイド化合物を細胞培養に添加することを含み、シアリル化種のパーセンテージが増加する、(1)細胞培養プロセス、および(2)シアリル化種のパーセンテージを増加させるためのプロセスに向けられる。
【0051】
したがって、別の実施形態において、本発明は、目的の糖タンパク質を発現する宿主細胞を培養すること、およびグルココルチコイド化合物を細胞培養に添加することを含み、総シアル酸含有量が増加する、(1)細胞培養プロセス、および(2)総シアル酸含有量を増加させるためのプロセスに向けられる。
【0052】
したがって、別の実施形態において、本発明は、目的の糖タンパク質を発現する宿主細胞を培養すること、およびグルココルチコイド化合物を細胞培養に添加することを含み、脱シアリル化速度が減少する、(1)細胞培養プロセス、および(2)細胞培養における糖タンパク質の脱シアリル化を減少させるためのプロセスに向けられる。
【0053】
糖タンパク質の精製および分析に関する技法および手法
本発明が包含する培養方法においては、典型的には、細胞が生産するタンパク質を、全細胞培養期間の終了時に、当技術分野において知られ実践されている単離および精製方法を使って、所望に応じて、収集し、回収し、単離し、かつ/または精製もしくは実質的に精製する。好ましくは、培養細胞から分泌されるタンパク質を培養培地または培養上清から単離するが、以下に詳述するように、当技術分野において知られ実践されている方法を使って、タンパク質を宿主細胞から、例えば細胞溶解物から、回収することもできる。
【0054】
本発明のプロセスによって生産される糖タンパク質を含む複合糖質(complex carbohydrate)は、所望であれば、従来の糖質分析技法によって、ルーチンに分析することができる。例えば、当技術分野においてよく知られるレクチンブロッティングなどの技法では、末端マンノースまたはガラクトースなどの他の糖類の比率が明らかになる。モノアンテナ型、バイアンテナ型、トリアンテナ型、またはテトラアンテナ型オリゴ糖がシアル酸を末端に有することは、無水ヒドラジン法または酵素法を使ったタンパク質からの糖類の遊離と、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、または当技術分野において周知の他の方法によるオリゴ糖の分画とを使って、確認することができる。
【0055】
シアル酸を除去するためのノイラミニダーゼによる処理の前および後に、糖タンパク質のpIを測定することもできる。ノイラミダーゼ処理後に起こるpIの増加は、糖タンパク質上にシアル酸が存在することを示す。糖質構造は、典型的には、発現されたタンパク質上に、N結合型またはO結合型糖質として存在する。N結合型およびO結合型糖質は主としてそのコア構造が異なる。N結合型グリコシル化とは、ペプチド鎖中のアスパラギン残基へのGlcNAcを介した糖質部分の結合を指す。N結合型糖質は全て、共通するMan1-6(Man1-3)Manβ1-4GlcNAcβ1-4GlcNAcβ-Rコア構造を含有し、ここで、このコア構造中のRはアスパラギン残基を表す。生産されるタンパク質のペプチド配列は、アスパラギン-X-セリン、アスパラギン-X-スレオニン、およびアスパラギン-X-システイン(ここで、Xはプロリンを除く任意のアミノ酸である)を含有するであろう。
【0056】
対照的に、O結合型糖質は、スレオニンまたはセリンのヒドロキシル基に結合したGalNAcである共通コア構造を特徴とする。N結合型およびO結合型糖質のうち、最も重要なのは、複合(complex)NおよびO結合型糖質である。そのような複合糖質はいくつかのアンテナ構造を含有する。モノ-、バイ-、トリ-、およびテトラ外鎖(outer)構造は、末端シアル酸の付加にとって重要である。そのような糖外鎖(outer chain)構造は、タンパク質産物の糖質を構成する特異的糖類および結合のための追加部位を提供する。
【0057】
結果として生じる糖質は、当技術分野において知られる任意の方法によって分析することができる。グリコシル化分析のための方法は当技術分野においていくつか知られており、それらは本発明においても有用である。これらの方法は、生産されたペプチドに結合しているオリゴ糖の実体および組成に関する情報を提供する。本発明に関連して有用な糖質分析の方法には、例えばレクチンクロマトグラフィー;電荷に基づいてオリゴ糖を分離するために高pHアニオン交換クロマトグラフィーを使用するHPAEC-PAD;NMR;質量分析;HPLC;GPC;単糖組成分析;および逐次酵素消化などがあるが、これらに限定されるわけではない。
【0058】
また、オリゴ糖を遊離させるための方法も、当技術分野において知られ、実践されている。これらの方法には、1)一般的にはペプチド-N-グリコシダーゼF/エンド-β-ガラクトシダーゼを使って行われる酵素法;2)過酷なアルカリ環境を使って主にO結合型構造を遊離させるβ解離法;および3)無水ヒドラジンを使ってN結合型オリゴ糖とO結合型オリゴ糖の両方を遊離させる化学法などがある。分析は以下のステップを使って行うことができる。1.脱イオン水に対する試料の透析によって全ての緩衝塩を除去した後、凍結乾燥。2.無水ヒドラジンによるインタクトなオリゴ糖鎖の遊離。3.個々の単糖をO-メチル誘導体として遊離させるためのHCl無水メタノール溶液によるインタクトなオリゴ糖鎖の処理。4.あらゆる1級アミノ基のN-アセチル化。5.パー-O-トリメチルシリルメチルグリコシドを得るための誘導体化。6.CP-SIL8カラムでのキャピラリー気液クロマトグラフィー(GLC)によるこれらの誘導体の分離。7.既知標準物質と比較したGLCでの保持時間および質量分析による個々のグリコシド誘導体の同定。8.内部標準物質(13-O-メチル-D-グルコース)を使ったFIDによる個々の誘導体の定量。
【0059】
中性糖およびアミノ糖は、パルスドアンペロメトリ検出法と組み合わされた高速アニオン交換クロマトグラフィー(HPAE-PAD Carbohydrate System;Dionex Corp.)で決定することができる。例えば、糖類は、20%(v/v)トリフルオロ酢酸中、100℃で6時間の加水分解によって遊離させることができる。次に、加水分解物を凍結乾燥またはSpeed-Vac(Savant Instruments)によって乾燥させる。次に、残渣を1%酢酸ナトリウム三水和物に溶解し、HPLC-AS6カラムで分析する(Anumulaら, 1991, Anal. Biochem., 195:269-280に記載がある)。
【0060】
あるいは、イムノブロット糖質分析を行うこともできる。この手法では、Haselbeckらによって記載された酸化的イムノブロット法(1993, Glycoconjugate J., 7:63)に基づく市販のグリカン検出システム(Boehringer)を使って、タンパク質に結合している糖質を検出する。タンパク質をニトロセルロース膜ではなくポリビニリデンジフルオリド膜に転写する点、およびブロッキング緩衝液が、0.9%塩化ナトリウムを含む10mMトリス緩衝液pH7.4中の5%ウシ血清アルブミンを含有する点以外は、製造者が推奨している染色プロトコールに従う。検出は、アルカリホスファターゼ(alkaline phosphate)コンジュゲートと連結された抗ジゴキシゲニン抗体(Boehringer)、トリス緩衝食塩水中の1:1000希釈液により、100mM塩化ナトリウムおよび50mM塩化マグネシウムを含有する100mMトリス緩衝液pH9.5中のホスファターゼ基質4-ニトロブルーテトラゾリウムクロリド0.03%(w/v)および5-ブロモ-4 クロロ-3-インドリル-ホスフェート0.03%(w/v)を使って行われる。糖質を含有するタンパク質バンドは、通常、約10〜15分で可視化される。
【0061】
タンパク質に付随する糖質は、ペプチド-N-グリコシダーゼFによる消化によって分析することもできる。この手法によれば、0.18%SDS、18mMβ-メルカプトエタノール、90mMリン酸塩、3.6mM EDTAを含有するpH8.6の緩衝液14μLに、残渣を懸濁し、100℃で3分間加熱する。室温まで冷却した後、試料を二等分する。一方は、さらなる処理を加えずに対照とする。他方を約1%NP-40界面活性剤に調節した後、0.2単位のペプチド-N-グリコシダーゼF(Boehringer)を添加する。両方の試料を37℃で2時間温めた後、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって分析する。
【0062】
加えて、糖タンパク質産物のシアル酸含有量を、従来の方法によって評価する。例えばシアル酸は、直接比色法(Yaoら, 1989, Anal. Biochem., 179:332-335)により、好ましくは三つ一組の試料を使って、別々に決定することができる。もう一つのシアル酸決定法では、Warrenらが記述しているように(1959, J. Biol. Chem., 234:1971-1975)、チオバルビツール酸(thiobarbaturic acid)(TBA)を使用する。さらにもう一つの方法では、例えばH.K. Ogawaらが記述しているように(1993, J. Chromatography, 612:145-149)、高速クロマトグラフィーを使用する。
【0063】
例えば、糖タンパク質の回収、単離および/または精製のために、細胞培養培地または細胞溶解物を遠心分離して、粒状の細胞および細胞片を除去する。所望のポリペプチド産物を、適切な精製技法によって夾雑可溶性タンパク質およびポリペプチドから単離または精製する。以下の手法は、例示的なタンパク質精製方法であるが、これらに限定されるわけではない:イムノアフィニティーカラムまたはイオン交換カラムでの分離または分画;エタノール沈殿;逆相HPLC;シリカなどの樹脂またはカチオン交換樹脂、例えばDEAEでのクロマトグラフィー;クロマトフォーカシング;SDS-PAGE;硫酸アンモニウム沈殿;例えばセファデックス(Sephadex)G-75、セファロース(Sepharose)などを使ったゲル濾過;免疫グロブリン夾雑物を除去するためのプロテインAセファロースクロマトグラフィーなど。精製中のタンパク質分解を阻害するために、他の添加剤、例えばプロテアーゼ阻害剤(例えばPMSFまたはプロテイナーゼK)を使用することもできる。所与の目的ポリペプチドの精製方法が、細胞培養において組換え発現されたポリペプチドにおける変化に対応するために変更を必要としうることは、当業者には理解されるであろう。例えばイオン交換ソフトゲルクロマトグラフィー、またはカチオンもしくはアニオン交換樹脂を用いるHPLC(この場合は、より酸性な画分が集められる)などといった、糖質を選択しシアル酸を濃縮することができる精製手法は、とりわけ好ましい。
【0064】
細胞、タンパク質および細胞培養
本発明の細胞培養プロセスまたは細胞培養方法においては、当技術分野において従来から知られているさまざまな細胞培養培地、すなわち基礎培養培地中で、細胞を維持することができる。例えば、本方法は、栄養素などを補充することができる細胞培養培地中で維持された大体積の細胞での使用に応用できる。典型的には、「細胞培養培地」(「培養培地」ともいう)は、当業者に理解されている用語であり、栄養素溶液であって、その中で細胞、好ましくは動物細胞または哺乳動物細胞が増殖し、一般的には、次に挙げるものから選ばれる少なくとも一つまたはそれ以上の構成要素を与えるものを指すことが知られている:エネルギー源(通常はグルコースなどの糖質の形態をとる);全ての必須アミノ酸、一般的には20の基本アミノ酸、およびシステイン;ビタミンおよび/または典型的には低濃度で要求される他の有機化合物;脂質または遊離脂肪酸、例えばリノール酸;および微量元素、例えば無機化合物または極めて低濃度で(通常はマイクロモル濃度域で)要求される天然元素。細胞培養培地は、さまざまな構成要素、例えばホルモンおよび他の増殖因子、例えばインスリン、トランスフェリン、上皮増殖因子、血清など;塩類、例えばカルシウム、マグネシウムおよびリン酸塩、ならびに緩衝液、例えばHEPES;ヌクレオシドおよび塩基、例えばアデノシン、チミジン、ヒポキサンチン;ならびにタンパク質および組織加水分解物、例えば加水分解動物タンパク質(動物副産物、精製ゼラチンまたは植物材料から得ることができるペプトンまたはペプトン混合物);抗生物質、例えばゲンタマイシン;および細胞保護剤、例えばプルロニック(Pluronic)ポリオール(プルロニックF68)を含有するように補充することもできる。好ましいのは、無血清であり、動物由来の製品または成分を含まない細胞栄養培地である。
【0065】
当業者には理解されるように、動物細胞または哺乳動物細胞は、培養されるその特定細胞に適した培地中で培養され、当業者は甚だしい実験を行わずにその培地を決定することができる。市販の培地を利用することができ、それらには、例えば最小必須培地(Minimal Essential Medium)(MEM、Sigma、ミズーリ州セントルイス);ハム(Ham)F10 培地(Sigma);ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM、Sigma);RPMI-1640培地(Sigma);ハイクローン(HyClone)細胞培養培地(HyClone、ユタ州ローガン);および特定細胞タイプ用に処方された合成(chemically-defined)(CD)培地、例えばCD-CHO培地(Invitrogen、カリフォルニア州カールズバッド)などがある。当業者には知られ実践されているであろうように、上記の例示的培地には、随意の構成要素を含む上述の補充構成要素または補充成分を、必要または所望に応じて適当な濃度または量で添加することができる。
【0066】
また、本発明の方法に適した細胞培養条件は、温度の他、pH、例えば約6.5〜約7.5;溶存酸素(O2)、例えば約5〜90%の空気飽和および二酸化炭素(CO2)、撹拌および湿度に注意を払って、細胞のバッチ培養、フェドバッチ培養、または連続培養に典型的に使用され、知られているものである。限定するわけではないが、一例として、本発明のフェドバッチプロセス用の適切な細胞培養培地は、変法(modified)CD-CHO培地(Invitrogen、カリフォルニア州カールズバッド)を含む。変法eRDF培地(Invitrogen、カリフォルニア州カールズバッド)などのフィーディング培地(feeding medium)も使用することができる。好ましいのは、グルココルチコイド(例えばデキサメタゾン)も含有するフィーディング培地である。
【0067】
動物細胞、哺乳動物細胞、培養細胞、動物宿主細胞または哺乳動物宿主細胞、宿主細胞、組換え細胞、組換え宿主細胞などは全て、本発明のプロセスに従って培養することができる細胞に関する用語である。そのような細胞は、典型的には、哺乳動物から得られたまたは哺乳動物に由来する細胞株であり、適当な栄養素および/または増殖因子を含有する培地における単層培養または懸濁培養状態に置いた時に、増殖し生残することができる。例えばBarnesおよびSato(1980, Cell, 22:649);Mammalian Cell Culture, J.P. Mather編, Plenum Press, ニューヨーク, 1984;および米国特許第5,721,121号に記述されているように、当業者は、特定細胞培養の増殖と維持に必要な増殖因子および栄養素を、経験的に容易に決定することができる。
【0068】
数多くのタイプの細胞を本発明の方法に従って培養することができる。これらの細胞は、典型的には、大量の特定タンパク質を、より具体的には目的の糖タンパク質が、培養培地中に、発現および分泌することができるか、発現および分泌するように分子操作することができる、動物細胞または哺乳動物細胞である。宿主細胞によって生産される糖タンパク質は、宿主細胞にとって内在性または相同(homologous)でありうることは、理解されるであろう。あるいは、好ましくは、糖タンパク質は、宿主細胞にとって異種、すなわち外来であり、例えばチャイニーズハムスター卵巣(CHO)宿主細胞によって生産され分泌されるヒト糖タンパク質である。また好ましくは、哺乳動物糖タンパク質、すなわち元々は哺乳動物生物から得られたまたは哺乳動物生物に由来するものが、本発明の方法によって得られ、好ましくは細胞によって培養培地中に分泌される。
【0069】
本発明の方法によって有利に生産することができる哺乳動物糖タンパク質の例には、サイトカイン、サイトカイン受容体、増殖因子(例えばEGF、HER-2、FGF-α、FGF-β、TGF-α、TGF-β、PDGF、IGF-1、IGF-2、NGF、NGF-β);増殖因子受容体などがあり、融合タンパク質またはキメラタンパク質を含むが、これらに限定されるわけではない。他の限定でない例には、成長ホルモン(例えばヒト成長ホルモン、ウシ成長ホルモン);インスリン(例えばインスリンA鎖およびインスリンB鎖)、プロインスリン;エリスロポエチン(EPO);コロニー刺激因子(例えばG-CSF、GM-CSF、M-CSF);インターロイキン(例えばIL-1〜IL-12);血管内皮増殖因子(VEGF)およびその受容体(VEGF-R);インターフェロン(例えばIFN-α、β、またはγ);腫瘍壊死因子(例えばTNF-αおよびTNF-β)およびその受容体、TNFR-1およびTNFR-2;トロンボポエチン(TPO);トロンビン;脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP);凝固因子(例えば第VIII因子、第IX因子、フォン・ヴィレブランド因子など);抗凝固因子;組織プラスミノゲン活性化因子(TPA)、例えばウロキナーゼまたはヒト尿もしくは組織型TPA;卵胞刺激ホルモン(FSH);黄体形成ホルモン(LH);カルシトニン;CDタンパク質(例えばCD3、CD4、CD8、CD28、CD19など);CTLAタンパク質(例えばCTLA4);T細胞およびB細胞受容体タンパク質;骨形態形成タンパク質(BNP、例えばBMP-1、BMP-2、BMP-3など);神経栄養因子、例えば骨由来神経栄養因子(BDNF);ニューロトロフィン、例えば3-6;レニン;リューマトイド因子;RANTES;アルブミン;リラキシン;マクロファージ阻害タンパク質(例えばMIP-1、MIP-2);ウイルスタンパク質またはウイルス抗原;表面膜タンパク質;イオンチャネルタンパク質;酵素;調節タンパク質;抗体;免疫調節タンパク質(例えばHLA、MHC、B7ファミリー);ホーミング受容体;輸送タンパク質;スーパーオキシドジスムターゼ(SOD);Gタンパク質共役受容体タンパク質(GPCR);神経調節タンパク質;アルツハイマー病関連タンパク質およびアルツハイマー病関連ペプチド(例えばAβ)、その他、当技術分野において知られるものが含まれるが、これらに限定されるわけではない。任意の上記タンパク質およびポリペプチドの融合タンパク質および融合ポリペプチド、キメラタンパク質およびキメラポリペプチド、ならびにフラグメントもしくは部分、または突然変異体、変異体(variant)、もしくは類似体も、本発明の方法によって生産することができる適切なタンパク質、ポリペプチドおよびペプチドに含まれる。
【0070】
タンパク質を内包(harbor)し、発現し、生産し、続いてそれを単離および/または精製するのに適した動物宿主細胞または哺乳動物宿主細胞の限定でない例には、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)、例えばCHO-K1(ATCC CCL-61)、DG44(Chasinら, 1986, Som. Cell Molec. Genet., 12:555-556;およびKolkekarら, 1997, Biochemistry, 36:10901-10909)、CHO-K1 Tet-On細胞株(Clontech)、ECACC 85050302と呼ばれるCHO(CAMR、英国ウィルトシャー州ソールズベリー)、CHOクローン13(GEIMG、イタリア・ジェノバ)、CHOクローンB(GEIMG、イタリア・ジェノバ)、ECACC 93061607と呼ばれるCHO-K1/SF(CAMR、英国ウィルトシャー州ソールズベリー)、ECACC 92052129と呼ばれるRR-CHOK1(CAMR、英国ウィルトシャー州ソールズベリー)、ジヒドロ葉酸レダクターゼ陰性CHO細胞(CHO/-DHFR、UrlaubおよびChasin, 1980, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 77:4216)、ならびにdp12.CHO細胞(米国特許第5,721,121号);SV40で形質転換されたサル腎臓CV1細胞(COS細胞、COS-7、ATCC CRL-1651);ヒト胎児腎臓細胞(例えば293細胞、または懸濁培養中で増殖するようにサブクローニングされた293細胞、Grahamら, 1977, J. Gen. Virol., 36:59);ベビーハムスター腎臓細胞(BHK、ATCC CCL-10);サル腎臓細胞(CV1、ATCC CCL-70);アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO-76、ATCC CRL-1587;VERO、ATCC CCL-81);マウスセルトリ細胞(TM4、Mather, 1980, Biol. Reprod., 23:243-251);ヒト子宮頸癌細胞(HELA、ATCC CCL-2);イヌ腎臓細胞(MDCK、ATCC CCL-34);ヒト肺細胞(W138、ATCC CCL-75);ヒトヘパトーマ細胞(HEP-G2、HB 8065);マウス乳房腫瘍細胞(MMT 060562、ATCC CCL-51);バッファローラット肝臓細胞(BRL 3A、ATCC CRL-1442);TRI細胞(Mather, 1982, Annals NY Acad. Sci., 383:44-68);MCR5細胞;FS4細胞などがある。好ましいのはCHO細胞、特にCHO/-DHFR細胞である。
【0071】
本発明の方法およびプロセスにおける培養に適した細胞は、例えば形質転換、トランスフェクション、または注入などによって導入されたプラスミドなどの発現ベクター(コンストラクト)であって、培養プロセスにおいて発現させ生産するためのタンパク質をコードするコーディング配列またはその一部を内包するものを含有することができる。そのような発現ベクターは、挿入されたコーティング配列の転写および翻訳に必要な要素を含有する。生産されるタンパク質およびポリペプチドをコードする配列と適当な転写および翻訳制御要素とを含有する発現ベクターを構築するには、当業者によく知られ実践されている方法を使用することができる。これらの方法には、インビトロ組換えDNA技法、合成技法、およびインビボ遺伝子組換えなどがある。そのような技法は、J. Sambrookら, 1989, Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Press(ニューヨーク州プレインビュー)およびF.M. Ausubelら, 1989, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons(ニューヨーク州ニューヨーク)に記述されている。
【0072】
制御要素または調節配列は、宿主細胞のタンパク質と相互作用して転写および翻訳を行うベクターの非翻訳領域、例えばエンハンサー、プロモーター、5'および3'非翻訳領域である。そのような要素は、その強さおよび特異性がさまざまでありうる。利用するベクター系および宿主細胞に応じて、構成的プロモーターおよび誘導性プロモーターを含む多くの適切な転写および翻訳要素を使用することができる。哺乳動物細胞系では、哺乳動物遺伝子由来のプロモーター、または哺乳動物ウイルス由来のプロモーターが好ましい。タンパク質発現系において使用するためのコンストラクトは、少なくとも一つのプロモーター、エンハンサー配列(随意、哺乳動物発現系の場合)、および適正な転写および遺伝子発現の調節に必要または要求される他の配列(例えば転写開始および終結配列、複製起点部位、ポリアデニル化配列、例えばウシ成長ホルモン(BGH)ポリA配列)を含有するように設計される。
【0073】
当業者には理解されるであろうように、真核生物(例えば哺乳動物)発現系において生産されたタンパク質の適正な転写、発現、および単離のための適当なベクター(例えばプラスミド)構成要素の選択は、当業者には知られており、常法によって決定され、実践される。本発明に従って培養された細胞によるタンパク質の発現は、ウイルスプロモーターなどのプロモーター、例えばサイトメガロウイルス(CMV)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)、ホスホグリセロールキナーゼ(PGK)、チミジンキナーゼ(TK)、またはα-アクチンプロモーターなどの制御下に置くことができる。さらにまた、調節プロモーター(regulated promoter)は、特定化合物または特定分子による誘導性を付与し、例えばマウス乳房腫瘍ウイルス(MMTV)のグルココルチコイド応答エレメント(GRE)はグルココルチコイドによって誘導される(V. Chandlerら, 1983, Cell, 33:489-499)。必要であれば、または所望であれば、組織特異的なプロモーターまたは調節要素を使用することもできる(G. Swiftら, 1984, Cell, 38:639-646)。
【0074】
発現コンストラクトは、当業者に知られているさまざまな遺伝子導入方法、例えば、リン酸カルシウム共沈法、リポソームトランスフェクション、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、および感染またはウイルス形質導入などといった従来の遺伝子トランスフェクション方法によって、細胞中に導入することができる。方法の選択は当業者の能力の範囲内で可能である。細胞中で発現させるためのDNA配列を保持する1つ以上のコンストラクトを、後に発現産物が細胞中で生産されかつ/または細胞から得られるような形で、細胞中にトランスフェクトできることは、当業者には明白であるだろう。
【0075】
特定の一態様において、本発明のタンパク質発現哺乳動物細胞における使用には、適当な制御および調節配列を含有する哺乳動物発現系が好ましい。よく使用される哺乳動物発現ベクター用の真核生物制御配列には、哺乳動物細胞と適合するプロモーターおよび制御配列、例えばサイトメガロウイルス(CMV)プロモーター(CDM8ベクター)およびトリ肉腫ウイルス(ASV)などがある(πLN)。他のよく使用されるプロモーターには、シミアンウイルス40(SV40)由来の初期および後期プロモーター(Fiersら, 1973, Nature, 273:113)や、他のウイルスプロモーター、例えばポリオーマ、アデノウイルス2、およびウシパピローマウイルスに由来するものなどがある。hMTII(Karinら, 1982, Nature, 299:797-802)などの誘導性プロモーターも使用することができる。
【0076】
真核生物宿主細胞に適した発現ベクターの例には、哺乳動物宿主細胞用のベクター(例えばBPV-1、pHyg、pRSV、pSV2、pTK2(Maniatis);pIRES(Clontech);pRc/CMV2、pRc/RSV、pSFV1(Life Technologies);pVPakcベクター、pCMVベクター、pSG5ベクター(Stratagene)、レトロウイルスベクター(例えばpFBベクター(Stratagene))、pcDNA-3(Invitrogen)、アデノウイルスベクター;アデノ随伴ウイルスベクター、バキュロウイルスベクター、酵母ベクター(例えばpESCベクター(Stratagene))、または上記いずれかの修飾型などがあるが、これらに限定されるわけではない。ベクターは、遺伝子発現を最適化するために、プロモーター領域配列の上流または下流にエンハンサー配列を含有することもできる。
【0077】
ベクターを内包する(好ましくは安定に組み込んでいる)細胞に耐性を付与して、適当な選択培地においてそれらを選択することが可能になるように、組換えベクター(例えばプラスミド)に選択可能マーカーも使用することができる。例えば限定するわけではないが、ウイルスチミジンキナーゼ(HSV TK)遺伝子(Wiglerら, 1977, Cell, 11:223)、ヒポキサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRT)遺伝子(SzybalskaおよびSzybalski, 1992, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 48:202)、およびアデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(APRT)遺伝子(Lowyら, 1980, Cell, 22:817)など(これらは、それぞれtk-、hgprt-、またはaprt-細胞において使用することができる)、多くの選択系を使用することができる。
【0078】
次に挙げる限定でないマーカー遺伝子の例については、代謝拮抗物質耐性を選択の根拠として使用することもできる:メトトレキサートに対する耐性を付与するdhfr(Wiglerら, 1980, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 77:357;およびO'Hareら, 1981, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 78:1527);ミコフェノール酸に対する耐性を付与するgpt(MulliganおよびBerg, 1981, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 78:2072);アミノグリコシドG418に対する耐性を付与するneo(Clinical Pharmacy, 12:488-505;WuおよびWu, 1991, Biotherapy, 3:87-95;Tolstoshev, 1993, Ann. Rev. Pharmacol. Toxicol., 32:573-596;Mulligan, 1993, Science, 260:926-932;Anderson, 1993, Ann. Rev. Biochem., 62:191-21;May, 1993, TIB TECH, 11(5):155-215;およびハイグロマイシンに対する耐性を付与するhygro(Santerreら, 1984, Gene, 30:147)。当技術分野で一般に知られている組換えDNA技術の方法をルーチンに適用して所望の組換え細胞クローンを選択することができ、そのような方法は、例えばAusubelら編, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, ニューヨーク(1993);Kriegler, 1990, Gene Transfer and Expression, A Laboratory Manual, Stockton Press(ニューヨーク)の第12および13章、Dracopoliら編, Current Protocols in Human Genetics, John Wiley & Sons, ニューヨーク(1994);Colberre-Garapinら, 1981. J. Mol. Biol., 150:1に記述されており、これらの文献は引用により本明細書にそのまま組み込まれる。
【0079】
また、発現されるタンパク質分子の発現レベルを、ベクター増幅によって増加させることもできる(概観するには「DNA cloning」Vol.3(Academic Press、ニューヨーク、1987)のBebbingtonおよびHentschel著「The use of vectors based on gene amplification for the expression of cloned genes in mammalian cells」を参照されたい)。タンパク質を発現するベクター系中のマーカーが増幅可能である場合、宿主細胞培養中に存在する阻害剤のレベルを増加させることで、マーカー遺伝子のコピー数が増加するであろう。増幅される領域はタンパク質をコードする遺伝子と関連しているので、タンパク質の生産量も、付随して増加するであろう(Crouseら, 1983, Mol. Cell. Biol., 3:257)。
【0080】
グルタミンシンターゼ(GS)またはジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)をコードする核酸を選択可能マーカーとして内包するベクターは、それぞれ、薬物メチオニンスルホキシミンまたはメトトレキサートの存在下で、増幅することができる。グルタミンシンターゼに基づくベクターの利点は、グルタミンシンターゼ陰性の細胞株(例えばマウス骨髄腫細胞株、NSO)を利用できることである。グルタミンシンターゼ発現系は、内在性遺伝子の機能を防ぐために追加の阻害剤を与えることにより、グルタミンシンターゼを発現させる細胞(例えばCHO細胞)でも機能することもできる。
【0081】
選択可能マーカーとしてDHFRを発現するベクターには、pSV2-dhfrプラスミド(Subramaniら, Mol. Cell. Biol. 1:854 (1981)があるが、これに限定されるわけではない。選択可能マーカーとしてグルタミンシンターゼを発現するベクターには、StephensおよびCockett, 1989, Nucl. Acids. Res., 17:7110に記述されているpEE6発現ベクターがあるが、これに限定されるわけではない。グルタミンシンターゼ発現系およびその構成要素は、PCT公開公報W087/04462;W086/05807;W089/01036;W089/10404;およびW091/06657に詳述されており、これらの公報は引用により本明細書にそのまま組み込まれる。また、本発明に従って使用することができるグルタミンシンターゼ発現ベクターは、例えばLonza Biologics, Inc.(ニューハンプシャー州ポーツマス)などを含む供給業者から市販されている。
【0082】
ある特定実施形態では、可溶性CTLA4分子または可溶性CTLA4突然変異体分子をコードする核酸配列を、真核生物宿主中で外来配列を発現させるために設計されたベクターに挿入することができる。ベクターの調節要素は、その特定真核生物宿主によって異なりうる。真核生物宿主細胞において可溶性CTLA4または可溶性CTLA4突然変異体を発現するベクターは、タンパク質発現を最適化するためのエンハンサー配列を含むことができる。
【0083】
細胞培養のタイプ
限定するわけではないが、理解しやすいように説明すると、タンパク質生産のための細胞培養および培養実行に3つの一般タイプが含まれることは、当業者には理解されるであろう。すなわち、連続培養、バッチ培養およびフェドバッチ培養である。連続培養では、例えば新鮮な培養培地補充物(すなわちフィーディング培地)を、培養期間中に細胞に提供すると同時に、古い培養培地を毎日除去し、産物を例えば毎日または連続的に収穫する。連続培養では、フィーディング培地を毎日添加することができ、連続的に、すなわち点滴または注入物として、添加することができる。連続培養の場合、細胞が生きていて、環境条件および培養条件が維持される限り、細胞は望みどおりに長く培養中に留まることができる。
【0084】
バッチ培養では、まず最初に細胞を培地中で培養するが、その培地を除去することも、置き換えることも、補充することもしない。すなわち、培養実行中または培養実行終了前に、細胞に新しい培地を「補給(feed)」しない。所望の産物は、培養実行の終了時に収穫される。
【0085】
フェドバッチ培養の場合は、実行中に1日1回以上(または連続的に)新鮮な培地を培養培地に補充することによって、培養実行時間を増加させる。すなわち、培養期間中に、細胞には新しい培地(「フィーディング培地」)が「補給」される。フェドバッチ培養は、例えば、毎日、1日おき、2日に1回、1日2回以上、または1日1回未満など、さまざまな補給方式(feeding regimen)および補給回数を含むことができる。さらに、フェドバッチ培養には、フィーディング培地を連続的に補給することもできる。
【0086】
次に、所望の産物を、培養/生産実行の終了時に収穫する。本発明は、好ましくは、接種後のある時点においてグルココルチコイド化合物が添加される、フェドバッチ細胞培養を包含する。
【0087】
本発明によれば、動物細胞または哺乳動物細胞培養に従来から使用されている培養容器および/または培養装置を使って、タンパク質の大規模または小規模生産のための条件下で、細胞培養を行うことができ、糖タンパク質を細胞に生産させることができる。当業者には理解されるように、実験室規模では、組織培養皿、Tフラスコおよびスピナーフラスコが典型的に使用される。大規模での培養(例えば、引用により本明細書にそのまま組み込まれる同一譲受人による米国特許第7,541,164号、米国特許第7,332,303号および米国特許出願第12/086786号(2006年12月19日出願)に記述されている、500L、5000Lなど)には、流動床バイオリアクター、中空糸バイオリアクター、ローラーボトル培養、または撹拌タンクバイオリアクターシステムなどを含む(ただしこれらに限定されるわけではない)手法を使用することができる。ローラーボトルまたは撹拌タンクバイオリアクター系ではマイクロキャリアを使用しても使用しなくてもよい。これらのシステムは、バッチモード、連続モード、またはフェドバッチモードで稼働することができる。また、培養装置または培養システムには、フィルター、重力、遠心力などを用いる細胞分離装置を装備しても装備しなくてもよい。
【0088】
細胞培養の相と関連パラメータ
用語「接種」は、培養を始めるための出発培地への細胞の添加を指す。
【0089】
培養の「増殖相」は、その相においては、任意の時点における生細胞密度が任意の先の時点における生細胞密度よりも高い相である。
【0090】
培養の「定常相」は、その相においては、ある任意の長さの期間にわたって生細胞密度がほぼ一定である(すなわち測定誤差内にある)相である。
【0091】
培養の「死滅相」は、増殖相の後または定常相の後に来る相であって、その相においては、任意の時点における生細胞密度が、その相中の任意の先の時点における生細胞密度よりも低い相である。
【0092】
「増殖関連(growth-associated)」培養プロセス、例えばグルココルチコイド化合物が増殖相の延長を引き起こす場合などにおいて、生産相は、その延長された増殖相中に始まりうる。
【0093】
「非増殖」関連培養プロセスにおいて、生産相は定常相でありうる。
【0094】
好ましくは、(とりわけ延長された生産相における)継続的なタンパク質生産を支え、十分な量の(タンパク質回収時の高レベルな終末シアル酸含有量によって例示されかつ/または決定される)高品質な糖タンパク質産物を得るために、生産相中に培養培地を補充(「補給」)する。補給は、細胞生存およびタンパク質生産を支えるために、毎日行うか、他のスケジュールに従って行うことができる。
【0095】
本発明の培養プロセスでは、培養期間の終了時まで、より多くの生細胞が生き残ることになりうる。したがって一部の実施形態では、生き残る細胞が多いほど、所望の産物を生産している細胞が多いことになる。これは、結果として、個々の細胞によるタンパク質生産の速度、すなわち細胞比生産性を同じに保ったまま、培養プロセスの終了時における産物の蓄積量の増加をもたらす。細胞比生産性または細胞比速度(cell specific rate)は、当技術分野において知られているとおり、典型的には、1細胞あたり、または細胞質量もしくは細胞体積の単位尺度あたりの、生産される産物の比発現速度を指す。細胞比生産性は、例えば1日あたり1細胞あたりに生産されるタンパク質のグラム数で測定され、次式を含む積分法に従って測定することができる:
dP/dt=qpX、または
P=qp0tXdt
[式中、qpは細胞比生産性定数であり;Xは細胞数または細胞体積または細胞質量等価値であり;dP/dtはタンパク質生産の速度である]。したがってqpは、(生成物濃度)対(生細胞数の時間積分)(∫0tXdt「生細胞日数(viable cell days)」)のプロットから得ることができる。この式によれば、生産された糖タンパク質産物の量を生細胞日数に対してプロットした場合、その傾きは細胞比速度に等しい。生細胞は、さまざまな尺度で、例えばバイオマス、O2取り込み速度、ラクターゼ(lactase)デヒドロゲナーゼ(LDH)、血中血球容積、または濁度などによって決定することができる(例えばT. Etcheverryらの米国特許第5,705,364号)。
【0096】
本発明の培養方法による可溶性CTLA4分子および可溶性CTLA4突然変異体分子の生産
本発明に包含される他の実施形態では、本発明の細胞培養方法を利用して、以下に述べるように、可溶性CTLA4分子または可溶性CTLA4突然変異体分子が生産される。可溶性CTLA4分子は、好ましくは、CTLA4融合タンパク質、好ましくはCTLA4Igである。さらに好ましいのは、図19に示すアミノ酸−1〜357または+1〜357を含むCTLA4Igである。可溶性CTLA4突然変異体分子は、好ましくは、図20に示すアミノ酸−1〜357または+1〜357を含むL104EA29YIgである。タンパク質産物のための延長された生産相を伴う細胞培養方法は、高品質かつ大量の可溶性CTLA4分子および可溶性CTLA4突然変異体分子を、それらの培養宿主細胞によって生成させるのに、とりわけ適している。
【0097】
好ましい一実施形態では、CTLA4Igが、組換え操作された宿主細胞によって生産される。CTLA4Ig融合タンパク質は、CTLA4IgをコードするDNA配列を含有するベクターでトランスフェクトされたCHO細胞によって、組換え生産することができる(P. S. Linsleyらの米国特許第5,844,095号を参照されたい)。本発明のプロセスに従って培養すれば、CTLA4Ig融合タンパク質は大量に生産され、適当にシアリル化される。本発明は、高レベルの回収可能なタンパク質産物、例えばシアリル化されたCTLA4Igタンパク質産物の生産をもたらす。もう一つの好ましい実施形態では、図20に示すアミノ酸−1〜357または+1〜357を含む可溶性CTLA4突然変異体分子L104EA29YIgが、本発明の細胞培養方法によって生産される。
【0098】
CTLA4のリガンドはB7分子である。本明細書にいう「リガンド」は、別の分子を特異的に認識し、それに結合する分子を指す。分子とそのリガンドの相互作用は、本発明の培養プロセスの産物によって調節することができる。例えばCTLA4とそのリガンドB7との相互作用は、CTLA4Ig分子の投与によってブロックすることができる。他の例として、腫瘍壊死因子(TNF)とそのリガンドTNF受容体(TNFR)との相互作用は、エタネルセプトまたは他のTNF/TNFRブロッキング分子の投与によってブロックすることができる。
【0099】
野生型CTLA4または「非突然変異型CTLA4」は、図20に示す天然完全長CTLA4のアミノ酸配列(引用により本明細書に組み込まれる米国特許第5,434,131号、同第5,844,095号、および同第5,851,795号にも記載されている)を有するか、またはその任意の一部分であって、B7分子を認識してB7分子に結合するか、CD28および/またはCTLA4(例えば内在性CD28および/またはCTLA4)への結合がブロックされるような形でB7分子に干渉する部分を有する。野生型CTLA4は、例えば、図21に示す位置+1のメチオニンで始まり、位置+124のアスパラギン酸で終わる野生型CTLA4の細胞外ドメイン、または位置−1のアラニンで始まり、位置+124のアスパラギン酸で終わる野生型CTLA4の細胞外ドメインなどといった特定部分を含む。
【0100】
天然野生型CTLA4は、N末端細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、およびC末端細胞質ドメインを有する細胞表面タンパク質である。細胞外ドメインはB7分子などのターゲット分子に結合する。細胞において、天然野生型CTLA4タンパク質は、アミノ末端またはN末端にシグナルペプチドを含む未成熟ポリペプチドとして翻訳される。未成熟ポリペプチドは、該シグナルペプチドの切断および除去を含む翻訳後プロセシングを受けて、未成熟形のN末端とは異なる新たに生成したN末端を有するCTLA4切断産物を生じる。CTLA4切断産物の新たに生成したN末端から1つ以上のアミノ酸を除去する追加の翻訳後プロセシングが起こりうることは、当業者には理解されるであろう。成熟CTLA4タンパク質は位置+1のメチオニンまたは位置−1のアラニンから始まりうる。成熟型のCTLA4分子は細胞外ドメインまたはB7に結合するその任意の部分を含む。
【0101】
本明細書にいうCTLA4突然変異体分子は、図21に示す野生型CTLA4を含む分子、またはその任意の部分または誘導体であって、野生型CTLA4配列中、好ましくは野生型CTLA4の細胞外ドメイン中に、1つまたは複数の突然変異を有し、B7に結合するものを指す。CTLA4突然変異体分子は、野生型CTLA4分子の配列と類似しているが同一ではない配列を有し、それでもなおB7には結合する。突然変異には、1つ以上のアミノ酸残基の保存的(例えばイソロイシンをロイシンで置換)または非保存的(例えばグリシンをトリプトファンで置換)な構造または化学特性を有するアミノ酸による置換、アミノ酸の欠失、付加、フレームシフト、またはトランケーションが含まれうる。
【0102】
CTLA4突然変異体分子は、非CTLA4分子をその中に含むか、それに結合した非CTLA4分子を含むこと、すなわちCTLA4突然変異体融合タンパク質であることができる。突然変異体分子は可溶性(すなわち循環型(circulating))であってもよいし、細胞表面に結合していてもよい(膜結合型)。CTLA4突然変異体分子には、L104EA29YIg、米国特許出願第60/214,065号および同第60/287,576号;WO 01/92337 A2;米国特許第6,090,914号、同第5,844,095号、同第7,094,874号、および同第5,773,253号に記載されているもの、ならびにR. J. Peachら, 1994, J Exp Med, 180:2049-2058に記載されているものなどがある。CTLA4突然変異体分子は、合成的または組換え的に生産することができる。
【0103】
CTLA4Igは、免疫グロブリン(Ig)分子またはその一部に接合された野生型CTLA4の細胞外ドメインまたはB7に結合するその一部を含む可溶性融合タンパク質である。CTLA4の細胞外ドメインまたはその一部を、免疫グロブリン分子の全部または一部、好ましくは免疫グロブリン定常領域の全部または一部を含むIg部分、例えばIgCγ1(IgCガンマ1)、IgCγ2(IgCガンマ2)、IgCγ3(IgCガンマ3)、IgCγ4(IgCガンマ4)、IgCμ(IgCミュー)、IgCα1(IgCアルファ1)、IgCα2(IgCアルファ2)、IgCδ(IgCデルタ)またはIgCε(IgCイプシロン)の全部または一部に接合して、融合分子を可溶性にする。Ig部分は、前記定常領域または他の定常領域のヒンジ、CH2およびCH3ドメイン、またはCH1、ヒンジ、CH2およびCH3ドメインを含むことができる。好ましくは、Ig部分はヒトまたはサルであり、ヒンジ、CH2およびCH3ドメインを含む。最も好ましくは、Ig部分は、ヒトIgCγ1のヒンジ、CH2およびCH3ドメインを含むか、またはヒトIgCγ1のヒンジ、CH2およびCH3ドメインからなる。CTLA4IgのIg部分では、Ig定常領域またはその一部を突然変異させて、そのエフェクター機能を低下させることができる(例えば米国特許第5,637,481号、同第5,844,095号、および同第5,434,131号を参照されたい)。本明細書において使用する用語、Ig部分、Ig定常領域、IgC(定常)ドメイン、IgCγ1(IgCガンマ1)、IgCγ2(IgCガンマ2)、IgCγ3(IgCガンマ3)、IgCγ4(IgCガンマ4)、IgCμ(IgCミュー)、IgCα1(IgCアルファ1)、IgCα2(IgCアルファ2)、IgCδ(IgCデルタ)またはIgCε(IgCイプシロン)は、天然配列と、突然変異した配列、例えば定常領域中にエフェクター機能を低下させる突然変異を有する配列とを、どちらも包含する。
【0104】
CTLA4に関係する特定の一実施形態は、図19に示す位置+1のメチオニンで始まり、位置+124のアスパラギン酸で終わるか、位置−1のアラニンで始まり、位置+124のアスパラギン酸までの、野生型CTLA4の細胞外ドメイン;位置+125の接合部アミノ酸残基グルタミン;および位置+126のグルタミン酸から位置+357のリジンまでを包含する免疫グロブリン部分を含む。このCTLA4IgをコードするDNAはブダペスト条約の規定に基づいて1991年5月31日にAmerican Type Culture Collection(ATCC)(20110-2209バージニア州マナッサス、ユニーバーシティ・ブールバード10801)に寄託され、受託番号ATCC 68629が付与されている;P. Linsleyら, 1994, Immunity 1:793-80。CTLA4Igを発現するCHO細胞株は、識別番号CRL-10762として、1991年5月31日にATCCに寄託された。本明細書に記載する方法に従って生産された可溶性CTLA4Ig分子は、シグナル(リーダー)ペプチド配列を含んでいても含んでいなくてもよい。図19および20は、シグナル(リーダー)ペプチド配列の実例を含む。典型的には、分子はシグナルペプチド配列を含まない。
【0105】
L104EA29YIgは、Igテールに接合された、アミノ酸変異A29Y(位置29のアラニンがチロシンアミノ酸残基に置換されている)およびL104E(位置+104位のロイシンがグルタミン酸アミノ酸残基に置換されている)を有する、野生型CTLA4の細胞外ドメインを含む可溶性CTLA4突然変異体分子である融合タンパク質である。図20にL104EA29YIgを示す。L104EA29YIgのアミノ酸配列は、図20に示すアミノ酸位置−1からアミノ酸位置+357までを含む。あるいは、L104EA29YIgのアミノ酸配列は、図20に示すアミノ酸位置+1のメチオニンからアミノ酸位置+357のリジンまでを含む。L104EA29YIgは、位置+125の接合部アミノ酸残基グルタミンと、位置+126のグルタミン酸から位置+357のリジンまでを包含するIg部分とを含む。L104EA29YIgをコードするDNAは、ブダペスト条約の規定に基づいて、2000年6月20日にAmerican Type Culture Collection(ATCC)に寄託され、ATCC受託番号PTA-2104が付与されている。104EA29Y-Igは、同時係属中の米国特許出願第09/579,927号、同第60/287,576号および同第60/214,065号、ならびにWO/01/923337 A2に記載されており、これらの文献は引用により本明細書にそのまま組み込まれる。本発明の培養方法によって生産される可溶性L104EA29YIg分子はシグナル(リーダー)ペプチド配列を含んでいても含んでいなくてもよい。典型的には、本発明に従って生産される分子はシグナルペプチド配列を含まない。
【0106】
本明細書において使用する用語「可溶性」は、細胞に結合も付着もしていない、すなわち循環型の、任意の分子またはそのフラグメントを指す。例えばCTLA4は、CTLA4の細胞外ドメインにIg部分を取り付けることによって可溶性にすることができる。あるいは、CTLA4などの分子は、その膜貫通ドメインを除去することによって、可溶性にすることができる。典型的には、本発明に従って生産された可溶性分子は、シグナル(またはリーダー)配列を含まない。
【0107】
可溶性CTLA4分子は、野生型CTLA4、またはB7に結合する任意の一部もしくは誘導体を含む、非細胞表面結合型(すなわち循環型)分子、例えば限定するわけではないが、可溶性CTLA4融合タンパク質;CTLA4の細胞外ドメインがIg分子の全部または一部、好ましくはIg定常領域の全部または一部、例えばIgCγ1(IgCガンマ1)、IgCγ2(IgCガンマ2)、IgCγ3(IgCガンマ3)、IgCγ4(IgCガンマ4)、IgCμ(IgCミュー)、IgCα1(IgCアルファ1)、IgCα2(IgCアルファ2)、IgCδ(IgCデルタ)またはIgCε(IgCイプシロン)の全部または一部であるIg部分に融合されて、融合分子を可溶性にしているCTLA4Ig融合タンパク質(例えばATCC 68629)などの可溶性CTLA4融合タンパク質;細胞外ドメインが、引用により本明細書にそのまま組み込まれる米国特許第5,844,095号に記載されているように、パピローマウイルスE7遺伝子産物(CTLA4-E7)、メラノーマ関連抗原p97(CTLA4-p97)またはHIV envタンパク質(CTLA4-env gp120)などの生物学的に活性なまたは化学的に活性なタンパク質の一部と融合または接合されている、可溶性CTLA4融合タンパク質;引用により本明細書にそのまま組み込まれる米国特許第5,434,131号に記載されているCD28/CTLA4Igなどのハイブリッド(キメラ)融合タンパク質;タンパク質を可溶性にするために膜貫通ドメインが除去されているCTLA4分子(例えば引用により本明細書にそのまま組み込まれるM.K. Oaksら, 2000, Cellular Immunology, 201:144-153を参照されたい);可溶性CTLA4突然変異体分子L104EA29YIgなどを指す。
【0108】
可溶性CTLA4分子は可溶性CTLA4突然変異体分子であることもできる。本発明に従って生産される可溶性CTLA4分子はシグナル(リーダー)ペプチド配列を含んでいても含んでいなくてもよい。シグナルペプチドは、オンコスタチンM(Malikら, 1989, Molec. Cell. Biol., 9:2847-2853)もしくはCD5(N.H. Jonesら, 1986, Nature, 323:346-349)由来のシグナルペプチド、または任意の細胞外タンパク質由来のシグナルペプチドなど、分子の分泌を可能にするであろう任意の配列であることができる。本発明の培養プロセスによって生産される可溶性CTLA4分子は、CTLA4の細胞外ドメインのN末端に連結されたオンコスタチンMシグナルペプチドを含むことができる。典型的には、本発明において、分子はシグナルペプチド配列を含まない。
【0109】
本明細書にいう「CTLA4融合タンパク質」は、CTLA4分子を可溶性にする非CTLA4部分、例えばIg部分に融合された、野生型CTLA4の細胞外ドメイン、またはB7に結合するその一部を含む分子を指す。例えば、CTLA4融合タンパク質は、Ig定常領域の全部または一部に融合されたCTLA4の細胞外ドメインを含むことができる。CTLA4に融合することができるIg定常ドメイン(またはその一部)の例には、上に挙げたものが全て包含されるが、これらに限定されるわけではない。CTLA4融合タンパク質はCTLA4突然変異体分子であることもできる。
【0110】
本明細書にいう「非CTLA4部分」は、CD80および/またはCD86に結合せず、CTLA4とそのリガンドとの結合に干渉しない分子またはその一部を指す。その例には、Ig分子の全部または一部であるIg部分、パピローマウイルスE7遺伝子産物(CTLA4-E7)、メラノーマ関連抗原p97(CTLA4-p97)またはHIV envタンパク質(CTLA4-env gp120)などの生物学的に活性なまたは化学的に活性なタンパク質の一部(引用により本明細書にそのまま組み込まれる米国特許第5,844,095号に開示されているもの)などがあるが、これらに限定されるわけではない。Ig部分の例として、IgCγ1(IgCガンマ1)、IgCγ2(IgCガンマ2)、IgCγ3(IgCガンマ3)、IgCγ4(IgCガンマ4)、IgCμ(IgCミュー)、IgCα1(IgCアルファ1)、IgCα2(IgCアルファ2)、IgCδ(IgCデルタ)またはIgCε(IgCイプシロン)などの免疫グロブリン定常ドメインの全部または一部が挙げられる。Ig部分は、前記定常領域または他の定常領域のヒンジ、CH2およびCH3ドメイン、またはCH1、ヒンジ、CH2およびCH3ドメインを含むことができる。好ましくは、Ig部分はヒトまたはサルであり、ヒンジ、CH2およびCH3ドメインを含む。最も好ましくは、Ig部分はヒトIgCγ1のヒンジ、CH2およびCH3ドメインを含むか、ヒトIgCγ1のヒンジ、CH2およびCH3ドメインである。Ig部分では、Ig定常領域またはその一部を、そのエフェクター機能が低下するように突然変異させることができる(例えば米国特許第5,637,481号、同第5,844,095号および同第5,434,131号を参照されたい)。
【0111】
CTLA4の細胞外ドメインは、B7を認識してB7に結合する野生型CTLA4の任意の部分を指す。例えば、CTLA4の細胞外ドメインは、位置+1のメチオニンから位置+124のアスパラギン酸までを含む(図21)。例えば、CTLA4の細胞外ドメインは、位置−1のアラニンから位置+124のアスパラギン酸までを含む(図21)。
【0112】
本明細書において使用する用語「突然変異」は、野生型分子のヌクレオチド配列またはアミノ酸配列中の変化、例えば野生型CTLA4細胞外ドメインのDNA配列および/またはアミノ酸配列中の変化を指す。DNA中の突然変異はコドンを変化させて、コードされているアミノ酸配列中の変化につながりうる。DNA変化には、置換、欠失、挿入、選択的スプライシング、またはトランケーションが含まれうる。アミノ酸変化には、置換、欠失、挿入、付加、トランケーション、またはタンパク質のプロセシングもしくは切断エラーが含まれうる。あるいは、ヌクレオチド配列中の突然変異は、当技術分野においてよく理解されているように、アミノ酸配列ではサイレント突然変異をもたらすこともある。また同じく理解されているように、一定のヌクレオチドコドンは同じアミノ酸をコードする。その例には、アミノ酸アルギニン(R)をコードするヌクレオチドコドンCGU、CGG、CGC、およびCGA、またはアミノ酸アスパラギン酸(D)をコードするコドンGAUおよびGACなどがある。
【0113】
したがってタンパク質は、具体的ヌクレオチド配列は異なるものの、それでもなお同一配列を有するタンパク質をコードする、1つ以上の核酸分子によってコードされうる。突然変異体分子は、1つまたは2つ以上の突然変異を有することができる。指針として、アミノ酸コード配列は次の通りである。
【表1−1】

【0114】
本明細書にいう「フラグメントまたは一部」は、ある分子の任意の部分またはセグメントである。CTLA4またはCD28の場合、フラグメントまたは一部は、好ましくは、CTLA4またはCD28の細胞外ドメイン、またはその一部もしくはセグメントであって、B7を認識してB7に結合するか、CD28および/またはCTLA4への結合をブロックするような形でB7に干渉するものである。また、本明細書にいう「対応する(corresponding)」は、配列同一性を共有することを意味する。
【0115】
本明細書にいう「誘導体」は、その親分子との配列類似性および活性を共有する分子である。例えば、CTLA4の誘導体には、野生型CTLA4の細胞外ドメインと少なくとも70%類似するアミノ酸配列を有し、かつB7を認識してB7に結合する、可溶性CTLA4分子、例えばCTLA4Igまたは可溶性CTLA4突然変異体分子L104EA29YIgが含まれる。誘導体とは、アミノ酸配列および/またはアミノ酸の化学的性質に加えられた任意の変化、例えばアミノ酸類似体を意味する。
【0116】
本明細書にいう「免疫応答を調節する」とは、免疫応答を活性化し、刺激し、アップレギュレートし、阻害し、ブロックし、低減し、減弱し、ダウンレギュレートし、または修飾することである。免疫応答を調節することによって、例えば機能的CTLA4および/またはCD28陽性細胞とB7陽性細胞との相互作用を調節することによって、さまざまな疾患、例えば自己免疫疾患を処置することができる。例えば、免疫応答を調節する一方法は、B7陽性細胞を可溶性CTLA4分子(例えば本発明に従って生産されたもの)と接触させて、可溶性CTLA4/B7複合体を形成させることを含み、ここでは、可溶性CTLA4分子が内在性CTLA4および/またはCD28分子とB7分子との反応に干渉する。本明細書にいう受容体、シグナルまたは分子を「ブロックする」または「阻害する」とは、当技術分野において認められている試験によって検出される受容体、シグナルまたは分子の活性化に干渉することを意味する。ブロックまたは阻害は部分的または完全であることができる。
【0117】
本明細書にいう「B7相互作用をブロックする」は、B7とそのリガンド、例えばCD28および/またはCTLA4との結合に干渉し、それによって、T細胞とB7陽性細胞の相互作用を妨害することを指す。B7相互作用をブロックする薬剤の例には、CTLA4、CD28またはB7分子(例えばB7-1、B7-2)のいずれかを認識し、それに結合する抗体(またはその一部)などの分子;それら分子の可溶型(またはその一部)、例えば可溶性CTLA4;CTLA4/CD28/B7が媒介する相互作用による細胞シグナルに干渉するように設計されたペプチドフラグメントまたは他の小分子などがあるが、これらに限定されるわけではない。好ましい一実施形態では、ブロッキング剤が、可溶性CTLA4分子、例えばCTLA4Ig(ATCC 68629)またはL104EA29YIg(ATCC PTA-2104);可溶性CD28分子、例えばCD28Ig(ATCC 68628);可溶性B7分子、例えばB7-Ig(ATCC 68627);抗B7モノクローナル抗体(例えばATCC HB-253、ATCC CRL-2223、ATCC CRL-2226、ATCC HB-301、ATCC HB-11341、および米国特許第6,113,898号またはYokochiら, 1982, J. Immunol., 128(2):823-827に記載のモノクローナル抗体);抗CTLA4モノクローナル抗体(例えばATCC HB-304、および参考文献82〜83に記載のモノクローナル抗体);および/または抗CD28モノクローナル抗体(例えばHansenら, 1980, Immunogenetics, 10:247-260またはMartinら, 1984, J. Clin. Immunol., 4 (1):18-22に記載のATCC HB 11944およびMAb 9.3)である。B7相互作用のブロッキングは、当技術分野において認められている試験によって、例えば免疫疾患(例:リウマチ性疾患)関連症状の軽減を決定することによって、またはT細胞/B7細胞相互作用の減少を決定することによって、またはB7とCTLA4/CD28との相互作用の減少を決定することによって、検出することができる。ブロックは部分的または完全であることができる。
【0118】
本明細書にいう分子の有効量とは、分子とそのリガンドとの相互作用をブロックする量を指す。例えば、B7とCTLA4および/またはCD28との相互作用をブロックする分子の有効量は、B7陽性細胞上のB7分子に結合した時に、B7分子がCTLA4およびCD28などの内在性リガンドに結合するのを阻害するような、その分子の量である。あるいは、B7とCTLA4および/またはCD28との相互作用をブロックする分子の有効量は、T細胞上のCTLA4および/またはCD28分子に結合した時に、B7分子がCTLA4およびCD28などの内在性リガンドに結合するのを阻害するような、その分子の量である。阻害またはブロックは部分的または完全であることができる。
【0119】
臨床的プロトコールの場合、CTLA4Igまたは突然変異体CTLA4Igなどの融合タンパク質のIg部分は、対象において、有害な免疫応答を誘発しないことが好ましい。好ましい部分はヒトまたは非ヒト霊長類Ig定常領域を含むIg定常領域の全部または一部である。適切なIg領域の例として、Fc受容体への結合、補体依存性細胞傷害(CDC)、または抗体依存性細胞性細胞傷害(ADCC)などといったエフェクター機能に関与する、ヒンジ、CH2およびCH3ドメイン、またはCH1、ヒンジ、CH2およびCH3ドメインを含む、IgCγ1(IgCガンマ1)、IgCγ2(IgCガンマ2)、IgCγ3(IgCガンマ3)、IgCγ4(IgCガンマ4)、IgCμ(IgCミュー)、IgCα1(IgCアルファ1)、IgCα2(IgCアルファ2)、IgCδ(IgCデルタ)またはIgCε(IgCイプシロン)が挙げられる。Ig部分は、その中に(例えばCDCまたはADCCなどのエフェクター機能を減少させるためにCH2ドメイン中に)、IgのFc受容体結合能を増減することによってIgのリガンド結合能を調整する突然変異を、1つ以上有することができる。例えば、Ig部分中の突然変異には、ヒンジドメイン内のそのシステイン残基のいずれかまたは全ての変異が含まれうる。例えば位置+130、+136、および+139のシステインをセリンで置換する。Ig部分は、セリンによる位置+148のプロリンの置換も含むことができる。さらに、Ig部分中の突然変異は、フェニルアラニンによる位置+144のロイシンの置換、グルタミン酸による位置+145のロイシンの置換、またはアラニンによる位置+147のグリシンの置換を含むこともできる。
【実施例】
【0120】
本発明を例示し、当業者に本方法を説明するために、以下の実施例に本発明の具体的態様を示す。実施例は、本発明およびそのさまざまな態様の理解と実施に役立つ具体的な方法論および実例を提供するものであるに過ぎないので、これらの実施例を、本発明を限定するものと解釈してはならない。
【0121】
以下に示す実施例1〜5では、培養実行中のグルココルチコイドの添加を伴う細胞培養プロセスに関する実験を説明する。
【0122】
[実施例1]
この研究では、CHO細胞グリコシル化プロセスに対するデキサメタゾン(DEX)の細胞内効果と、シアリダーゼ活性による細胞外効果を調べた。ここでは、CHOによって生産される組換え融合糖タンパク質のシアリル化を改善する能力がDEXにあったことを、初めて証明する。次に、振とうフラスコ培養において試験されたシアリル化の増加を促進するDEXの正味の効果を、制御されたバイオリアクターにおいて確認することにも成功し、フェドバッチ培養において、シアル酸含有量の増進が、脱シアリル化速度の低下と共にもたらされた。
【0123】
細胞株および培地
この研究において使用したCHO細胞株は、元はDG44親細胞からサブクローニングされたものであり、自社製(proprietary)タンパク質フリー増殖培地中で培養した。
【0124】
振とうフラスコ実験
実験は、100mLの出発体積および6×105細胞/mLの初期細胞密度を使って、250mL振とうフラスコ(VWR international)中で行った。培養を150rpmの振とう台(shaker platform)(VWR international)上に置き、10日間、37℃および6%CO2に維持した。培養の試料を毎日採取し、必要に応じて1M炭酸ナトリウムを使ってpHを調節し、2日ごとにグルコースおよびグルタミンを補給して、それらを十分なレベルに維持した。細胞密度および生存率は、Cedex自動細胞カウンター(Innovatis AG、ドイツ・ビーレフェルト)を使ってオフラインで測定した。培養pHならびにグルコースおよびグルタミンの濃度は、Bioprofile Analyzer 400(Nova Biomedical Corporation、マサチューセッツ州ウォルサム)を使ってオフラインで測定した。
【0125】
バイオリアクター操作
バイオリアクター実験は、1.5Lの初期作業体積を使って、5Lバイオリアクター(Sartorius AG、ドイツ・ゲッチンゲン)中で行った。撹拌、pH、および溶存酸素は、それぞれ150rpm、7.05、および50%空気飽和に制御した。温度を、まず最初は37℃に制御したが、培養生存能を延長させるために、培養中に、より低い温度へとシフトさせた。バイオリアクターはフェドバッチモードで稼働させ、グルコースおよび他の栄養素について十分な濃度を維持するために、3日目から、自社製フィード培地を毎日補給した。細胞培養プロセス中に試料を採取し、細胞密度、細胞生存率、基質および代謝産物について分析した。
【0126】
α2,3-シアリルトランスフェラーゼ(sialytransferase)(α2,3-ST)およびβ1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼ(β1,4-GT)のウェスタンブロット分析
約107個のCHO細胞を1×リン酸緩衝食塩水(PBS)で洗浄し、1mLのレムリ(Laemmli)試料緩衝液(Bio-Rad Laboratories、カリフォルニア州ハーキュリーズ)で溶解した後、90℃で5分間変性した。全細胞溶解物を4−15%SDS-ポリアクリルアミドゲルで分離し、0.45μmニトロセルロース膜(Bio-Rad Laboratories、カリフォルニア州ハーキュリーズ)にブロットし、一次抗体と二次抗体でプローブした。一次抗体は抗ヒトα2,3-STウサギポリクローナル抗体および抗ヒトβ1,4-GTウサギポリクローナル抗体(Santa Cruz Biotechnology、カリフォルニア州サンタクルーズ)とした。二次抗体はセイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲート抗ウサギ抗体(Santa Cruz Biotechnology、カリフォルニア州サンタクルーズ)とした。膜をストリッピングし、β-アクチン抗体(Santa Cruz Biotechnology、カリフォルニア州サンタクルーズ)およびHRPコンジュゲート抗マウス二次抗体で再プローブした。免疫検出は、増感化学発光ウェスタンブロッティング検出システム(GE Healthcare)を使って行い、VersaDocイメージングシステム(Bio-Rad Laboratories、カリフォルニア州ハーキュリーズ)で視覚化した。
【0127】
上清中のシアリダーゼ活性の測定
シアリダーゼ活性は、アンプレックスレッド(Amplex Red)ノイラミニダーゼ(シアリダーゼ)アッセイキット(Invitrogen、カリフォルニア州カールズバッド)を使って分析した。簡単に述べると、試料中のノイラミニダーゼを使ってフェチュインを脱シアリル化する。このアッセイでは、アンプレックスレッドを利用して、フェチュイン上の脱シアリル化ガラクトース残基をガラクトースオキシダーゼが酸化することによって生成するH2O2を検出する。HRPの存在下でH2O2はアンプレックスレッドと化学量論的に反応して、赤色蛍光酸化生成物レゾルフィン5を生成し、次にそれが、蛍光測光法または分光光度法で分析される。各アッセイでは、50μLの作業溶液(100μMアンプレックスレッド、0.2U/mL HRP、4U/mLガラクトースオキシダーゼおよび500μg/mLフェチュイン)を、50μLの希釈細胞培養上清が入っている各マイクロプレートウェルに加えた。37℃で30分間のインキュベーション後に、マイクロプレートリーダーを使って試料を560nmにおける吸光度について分析した。
【0128】
シアル酸アッセイ
シアル酸濃度および組換えタンパク質濃度を決定することによってシアル酸対組換えタンパク質のモル比を算出した。N-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)およびN-グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)を含むシアル酸(SA)を部分的酸加水分解によって遊離させた。次に、逆相HPLCによって誘導体を分離して、シアル酸含有量を決定した。タンパク質濃度は280nmにおけるUV吸光度によって決定した。シアル酸含有量を、組換え糖タンパク質1モルあたりのNeu5AcおよびNeu5Gcの総モル数であるモル比として報告する。シアル酸含有量は、実際の値を任意値で割った規格化値として報告する。ここに報告する研究におけるシアル酸含有量データは全て、同じ除数を使って規格化した。
【0129】
N結合型オリゴ糖測定
部位特異的N結合型グリコシル化に関する情報を得るために、パルスドアンペロメトリ検出法による高pHアニオン交換クロマトグラフィー(HPAEC-PAD)を使って、N結合型オリゴ糖のプロファイリングを行った(BasaおよびSpellman 1990;TownsendおよびHardy 1991)。N結合型オリゴ糖をタンパク質から切り離し、存在するシアル酸の量に基づいてHPAEC-PAD上で4つのドメインに分離した。ドメインIはアシアロ種を表す。ドメインII、III、およびIVはシアリル化種であり、それぞれモノシアリル化種、ジシアリル化種、ならびにトリおよびテトラシアリル化種を表す。N結合型シアリル化種分率を、アシアロ種とシアリル化種の両方を含む総N結合型オリゴ糖種内でのN結合型シアリル化種のパーセンテージとして報告する。N結合型シアリル化種分率は、実際の値を任意値で割った規格化値として報告する。ここに報告する研究におけるN結合型シアリル化種分率データは全て、同じ除数を使って規格化した。
【0130】
O結合型オリゴ糖測定
O結合型グリコシル化は、標準品と融合タンパク質のプロテインA精製試料のインタクト質量分析(intact mass analysis)によって特徴づけた(参考文献(Reference))。試料を100mMトリス、25mM NaCl、pH 7.6で希釈し、N結合型オリゴ糖をすべて酵素的に除去するためにPNGase Fと共に一晩インキュベートした。次に試料を、インスリンの内部標準と混合してから、インタクト質量分析のために注入した。O結合型シアル酸含有量は、組換え糖タンパク質1モルあたりのO結合型シアル酸のモル数であるモル比として報告する。
【0131】
結果
デキサメタゾンはシアル酸含有量およびN結合型オリゴ糖におけるシアリル化種のパーセンテージを増進させる
融合糖タンパク質を発現するCHO DG44細胞株を、さまざまなレベルのDEXで処理して、DEXがシアル酸含有量および異なるシアリル化種のパーセンテージに影響を及ぼすかどうかを評価した。この研究は、2本一組の250mL振とうフラスコ中で、上述した培養条件を使って行った。接種後第2日に、DEXを、0.01〜10μM DEXの範囲の最終濃度で、CHO細胞培養に添加した。培養を10日目に収穫し、プロテインAカラムを使って融合タンパク質を精製し、総シアル酸含有量、O結合型シアル酸含有量およびN結合型プロファイルについて分析した。DEX処理培養において、シアリル化は濃度依存的に増加した(表1)。
[表1]
【表1−2】

【0132】
0.01μM〜10μMのDEX濃度は、シアル酸含有量の9.3%〜20.4%の増加をもたらし、最大効果は10μMで得られた。対照と比較して、DEX処理した培養のN結合型オリゴ糖クロマトグラフは、それぞれ4.3%〜7.3%、13.9%〜24.3%および4.5%〜20.5%の、増進されたモノシアリル化、ジシアリル化およびトリ+テトラシアリル化分率を示した。逆に、DEX補充培養の場合、オリゴ糖分布におけるアシアロ画分には、対照と比較して、8.5%〜15.6%の減少があった。また、N結合型クロマトグラムは10μM DEXにおいて最大効果を示した。これらの結果は、DEX処理培養における改善されたシアリル化を示している。しかし、DEX処理試料からのO結合型シアル酸モル比には、有意な変化は観察されなかった。
【0133】
DEXはβ1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼ(β1,4-GT)およびα2,3-シアリルトランスフェラーゼ(α2,3-ST)発現を促進する
シアル酸付加経路に関与する2つの酵素β1,4-GTおよびα2,3-STの発現を調べることによってシアリル化に対するDEXの潜在的機序を解明するために、ウェスタンブロッティングを使用した。この実験では、接種後第2日に、DEXを0.1μM〜10μMの濃度で培養に添加し、3日後に、ウェスタンブロット分析のために細胞を収穫した。ハウスキーパータンパク質β-アクチンを使って、試料ローディング量を比較した。図1Aおよび1Bに示すように、DEX処理培養では、DEX処理を行わなかった培養と比較して、β1,4-GTおよびα2,3-STの発現レベルが実質的に増加した。どちらの酵素についても発現強度は、おおむねDEX濃度と共に増加した。これらの結果から、DEXは、CHO細胞におけるシアリルトランスフェラーゼβ1,4-GTおよびα2,3-STの発現を刺激する能力を有することが証明された。
【0134】
DEXの細胞保護効果は培養上清中のシアリダーゼ活性の低下をもたらす
実施例3では、DEX処理が、抗アポトーシスタンパク質GILZの発現を増加させて、CHO細胞培養の生存率の増進をもたらすことが示された。DEXによる細胞生存率の改善が組換え融合タンパク質に対するシアリダーゼの分解効果を減少させうるかどうかを決定するために、1μM DEXを含む培養および1μM DEXを含まない培養から得られる細胞生存率および上清シアリダーゼ活性プロファイルを比較するための振とうフラスコ研究を開始した。図2Aおよび図2Bに示すように、シアリダーゼ活性の増加は、DEX処理培養でも無処理培養でも、細胞生存率の減少と関連した。対照では10日目生存率が70.2±4.6%であるのと比較して、DEX処理培養では、細胞生存率が4日目の98.0±0.1%から10日目の85.0±2.7%まで低下した。シアリダーゼ活性の吸光度測定値は、対照における10日目値が0.047±0.004であったのと比較して、DEX処理培養では、4日目の0.006±0.002から10日目の0.024±0.003 まで増加した。このように、培養の細胞生存率が低下する速度とシアリダーゼ活性が増加する速度は、どちらも、DEX処理培養の方が有意に低かった。これらの結果は、DEXが、その細胞保護効果によってシアリダーゼ放出を阻害する能力を有したことを示唆している。
【0135】
デキサメタゾンと、他の2つのグルココルチコイド、ヒドロコルチゾンおよびプレドニゾロンとの比較
CHO細胞におけるシアリル化の増加に対するDEXの効果を他のグルココルチコイド化合物にも拡張することができるかどうかを決定するために、追加のグルココルチコイド化合物、ヒドロコルチゾン(HYC)およびプレドニゾロン(PRD)も評価した。DEX、HYCおよびPRDを接種後第2日に細胞培養培地に0、0.1、1および10μMの最終濃度で添加した。図3Aおよび図3Bに、異なるグルココルチコイド条件について、10日間培養後の規格化総シアル酸含有量および規格化N結合型シアリル化種分率を示す。0.1〜10 Mのグルココルチコイド濃度における総シアル酸含有量は、対照の10.2±0.2と比較して、DEXの場合は12.4±0.4〜14.0±0.5、HYCの場合は11.2±0.1〜13.0±0.2、PRDの場合は11.8±0.2〜13.4±0.8だった。0.1〜10 Mのグルココルチコイド濃度におけるN結合型シアリル化種分率は、対照の77.1±0.7と比較して、DEXの場合は85.6±1.6〜88.8±0.9、HYCの場合は79.8±1.6〜89.6±0.1、PRDの場合は83.7±0.1〜89.0±0.2だった。したがってDEXと同様、HYCとPRDもまた、どちらもシアリル化の増加を示し、調べた濃度範囲内では、3つのグルココルチコイド化合物の全てで、最大効果は10μMにおいて観察された。しかし、DEXと同じレベルのシアリル化増進を達成するには、より高い濃度のHYCおよびPRDが必要だった。
【0136】
デキサメタゾンによるシアリル化増進の機序にはグルココルチコイド受容体が関係する
DEX添加によるシアリル化の改善がグルココルチコイド受容体(GR)によって媒介されるかどうかを決定するために、GRアンタゴニストであるミフェプリストン(RU-486)をDEX処理前に細胞培養培地に添加した。具体的には、1μMのRU-486を接種の48時間後に添加し、次いで24時間後に、DEXを0.1、1および10μMの濃度で添加した。対照として、RU-486を含まない培養にもDEXを添加した。RU-486ありおよびRU-486なしの条件について、DEXによって誘導される規格化総シアル酸含有量および規格化N結合型シアリル化種分率を、図4Aおよび図4Bにそれぞれ示す。産物のシアリル化を増進するDEXの能力は、1μMのRU-486の存在下では実質的に低下し、0.1μM DEX条件の場合に最も顕著だった。0.1μM DEX条件の場合、総シアル酸含有量およびN結合型シアリル化種分率は、それぞれ15.1±0.1および92.2±2.0(RU-486なし)から12.7±0.1および81.5±0.8(1μM RU-486あり)に減少した。RU-486はGRのリガンド結合ドメインに関してDEXと競合するので(Raux-Demayら, 1990)これらの結果は、DEXがシアリル化を増加させる機序は、GR依存的であることを示している。
【0137】
フェドバッチバイオリアクター培養におけるDEXの適用
次に、振とうフラスコにおいて見いだされた、融合タンパク質のシアリル化を増加させるというDEXの効果を、制御された5Lバイオリアクターを用いるフェドバッチ培養において調べた。バイオリアクターは方法の項で述べたように稼働させた。1μM DEXをボーラス添加した培養では、より高い総シアル酸含有量(図5A)およびN結合型シアリル化種分率(図5B)が観察された。DEXを使用した場合の総シアル酸含有量は、対照の14.2±0.1と比較して、16.5±0.1だった(16.2%増加)。同様に、DEXを使用した場合のN結合型シアリル化種分率は、対照の77.9±1.6と比較して、90.2±1.3だった。振とうフラスコシアリダーゼ活性研究での知見(図3Aおよび3B)と一致して、総シアル酸含有量は、8日目から14日目までの間に、対照が16.3±0.1から14.2±0.1に減少(−12.9%)したのに対し、DEXを使用した場合は、17.9±0.1から16.5±0.1に減少(−7.8%)した。同様に、シアリル化分率のパーセンテージは、8日目から14日目までの間に、対照が91.3±0.9から77.9±1.6に減少(−14.7%)したのに対し、DEXを使用した場合は、97.7±0.9から90.2±1.3に減少(−7.7%)した。
【0138】
DEXによる糖タンパク質シアリル化の増加を、さまざまなバイオリアクター規模において、さらに確認した。異なる実行で得られた規格化最終シアル酸含有量およびシアリル化分率の規格化パーセンテージを図6に要約する。これらの実行では、DEX条件に、DEXをボーラスとして添加した実行またはフィード培地に入れて添加した実行を含めた。図6に示すように、DEXは、最終シアル酸含有量(t検定でp値<0.001)および最終シアリル化種分率(t検定でp値<0.001)を増進して、有意なシアリル化(sialyaltion)の改善を示した。
【0139】
結論
組換え融合糖タンパク質を生産するCHO培養へのデキサメタゾンの添加は、改善されたシアリル化をもたらした。この研究は、デキサメタゾンがグリコシルトランスフェラーゼα2,3-STおよびβ1,4-GTの発現を増加させる能力を有すること、およびデキサメタゾンの効果がグルココルチコイド受容体によって媒介されることを、初めて証明したものである。全体として、シアリル化を改善するデキサメタゾンの効果には、グリコシルトランスフェラーゼ(glycosylatransferase)による細胞内効果と、細胞溶解によって培養上清中に放出されるシアリダーゼの存在を減少させる培養生存能の延長による細胞外効果とが関与した。デキサメタゾンは、シアリル化を改善するための便利な方法であることが見いだされた。
【0140】
[実施例2]
細胞株および培地
この研究において使用したCHO細胞株は、元はDG44親細胞からサブクローニングされたものであり、タンパク質フリー自社製増殖培地中で培養した。宿主細胞は、CMVプロモーターの制御下にあるIgG融合タンパク質を分泌するように、遺伝子操作された。
【0141】
振とうフラスコ実験
実験は、100mLの出発体積および6×105細胞/mLの初期細胞密度を使って、250mL振とうフラスコ(VWR international)中で行った。振とうフラスコを、回転速度150rpmの振とう台(VWR international)上に置いた。細胞を、37℃および6%CO2の標準的湿潤条件下で10日間にわたって培養し、その間、毎日、1M炭酸ナトリウムを使ってpHを調節すると共に、2日ごとにグルコースおよびグルタミンを補給して、それらを一定のレベルに維持した。自動細胞計数システムCedex(Innovatis AG、ドイツ・ビーレフェルト)およびBioprofile Analyzer 400(Nova Biomedical Corporation、マサチューセッツ州ウォルサム)を使って、細胞密度、細胞生存率および基質/代謝産物をオフライン分析した。各培養収穫物から得られる上清をSEC分析のために集めた。
【0142】
サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)
SEC分析は、以前公表した方法(Pericoら, 2008)に従い、いくつかの変更を加えて行った。簡単に述べると、プロテインA精製試料を、Agilent 1100 HPLCシステム(Agilent Technologies, Inc.、カリフォルニア州パロアルト)で、Tosoh Bioscience TSK-Gel G3000 SWxlカラム(7.8ID×30cm、5μm粒子)にかけた。移動相は、pH7.4の1×リン酸緩衝食塩水(PBS)を含有した。流速は0.5mL/分とし、カラム温度は25℃に制御した。波長280nmにおける吸光度でシグナルをモニターした。
【0143】
グルタチオンレダクターゼおよびグルココルチコイド受容体のウェスタンブロット分析
約107個のCHO細胞を、1×PBSで洗浄した後に、1mLのレムリ試料緩衝液(Bio-Rad Laboratories)で溶解し、90℃で5分間変性した。全細胞溶解物を4−15%SDS-ポリアクリルアミドゲルで分離し、0.45μmニトロセルロース膜(Bio-Rad Laboratories)にブロットし、一次抗体と二次抗体でプローブした。グルタチオンレダクターゼを検出するための一次抗体は、ヒト由来のグルタチオンレダクターゼのC末端近くにマッピングされるアミノ酸391〜510に対して生じさせたモノクローナル抗体(Santa Cruz Biotechnology、カリフォルニア州サンタクルーズ)とした。この抗体を使ったグルタチオンレダクターゼの検出に関して製造者はチャイニーズハムスター由来をリストに挙げていなかったが、予備実験により、CHO細胞からの溶解物でも、ヒト由来HL60細胞からの溶解物でも、検出されるバンドが1本だけあり、それらは、ブロット上で同じ見掛けの分子サイズを有することが示された。グルココルチコイド受容体の検出に使用した一時抗体は、抗ヒトモノクローナル抗体(Santa Cruz Biotechnology、カリフォルニア州サンタクルーズ)である。二次抗体はセイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲート抗マウス抗体(Santa Cruz Biotechnology、カリフォルニア州サンタクルーズ)とした。膜をストリッピングし、β-アクチン抗体(Santa Cruz Biotechnology)およびHRPコンジュゲート二次抗体で再プローブした。免疫検出は、増感化学発光ウェスタンブロッティング検出システム(GE Healthcare)を使って行い、VersaDocイメージングシステム(Bio-Rad Laboratories)で視覚化した。
【0144】
結果
デキサメタゾン(DEX)はCHOが生産したIgG融合タンパク質の凝集を幅広い濃度範囲で減少させる
図7Aは、培養培地中の最終濃度1μMのDEXでCHO細胞を処理した後に、IgG融合プロテインにおける高分子量(HMW)種のパーセンテージが有意に低下したことを示している。HMW種の主要構成要素は共有結合または非共有結合で形成された二量体および三量体であり、分類上、タンパク質凝集体と見なされた。既に最適化されていた培養条件下でタンパク質凝集体の15%の減少が達成されたことを考えると、この改善は製造プロセスにおいて実用上有意義である。タンパク質凝集に対するDEXの効果に関して用量応答曲線および経時変化曲線を確立するために、本発明者らは、細胞を異なるDEX濃度において培養するか、同じ濃度(1μM)において、ただしインキュベーション時間を変えて培養した。図7Cに示すように、DEXはタンパク質凝集の速度を時間依存的に減少させ、それは、細胞生存率およびタンパク質グリコシル化プロファイルの改善に関して先に観察されたDEXの時間依存性と合致した(表1および図11)。しかし、タンパク質凝集レベルの減少に関するDEXの濃度依存性は明白でなかった(図7B)。本発明者らの以前の結果から、CHO細胞の生存率は、培養培地中0.01μMから10μMまでのDEX濃度と共に増加することが証明されているので、これは、抗凝集効果が改善された細胞生存率だけによるものではないことを示唆している。
【0145】
デキサメタゾンはCHO細胞におけるグルタチオンレダクターゼ発現をアップレギュレートする
さまざまな濃度のDEXで処理されたCHO細胞から調製した全細胞溶解物におけるグルタチオンレダクターゼ発現を検出するために、ウェスタンブロットを行った。図8に示すように、DEXは、グルタチオンレダクターゼの発現を増加させ、それは薬物が1nMの場合でさえ認めることができた。β-アクチンの検出を試料ローディング量比較に使用して、グルタチオンレダクターゼバンドの増強が、同時に起きた試料ローディング量の増加によるものである可能性を排除した。
【0146】
GSHはインビトロで精製IgG融合タンパク質凝集を減少させる
GSHそのものがタンパク質と直接相互作用することによってタンパク質凝集に影響を及ぼしうるかどうかを決定するために、本発明者らは、トリス酢酸緩衝液中に再構成したプロテインA精製IgG融合タンパク質にGSHを添加することによるインビトロ研究を行い、SECプロファイルを分析した。図9に示すように、高分子量種のパーセンテージは有意に低下し、低下率は1mMおよび3mM GSHの存在下で、それぞれ15.3%および27.3%であった。このデータにより、GSHはIgG融合タンパク質凝集を直接阻害しうることが、明確に証明された。
【0147】
デキサメタゾンの効果はグルココルチコイド受容体によって媒介される
DEXは幅広い薬理作用を有する強力なグルココルチコイドである。IgG融合タンパク質凝集に対するDEXの阻害効果がグルココルチコイド受容体の活性化によって特異的に媒介されるかどうかを決定するために、まず最初に、利用する細胞株においてグルココルチコイド受容体(GR)の内在性発現が存在することを確認した。これを図10Aに示す。ウェスタンブロッティングにおいて使用した抗体は、ヒトGRの保存された領域に対して生じさせたものなので、抗体を検証するためのヒト由来試料として、HepG-2細胞の全細胞溶解物試料もローディングした。抗体はGRαとGRβをどちらも検出することができたが、この分析は単一のバンドしか示さなかった。これは、これら2つのアイソフォームの分子量(95kDaと90kDa)が近すぎて5−15%勾配ゲルでは分離できなかったからか、より可能性が高いのは、試料中に1つのアイソフォームしか存在しなかったからであるだろう。
【0148】
DEXはCHO細胞におけるグルタチオンレダクターゼ発現をアップレギュレートすることがわかったので(図8参照)、この効果がGR受容体の活性化によって誘導されるかどうかを決定するために、さらなる評価を行った。RU-486はGRアンタゴニストであり、多くのGR関連研究においてツール薬物(tool drug)として、よく使用される。本発明者らの予備実験により、RU-486は濃度が1μMより高くない場合にはCHO細胞の生存率および代謝パラメータに影響を及ぼさず、10μMでは、細胞生存率および細胞増殖速度の有意な低下が観察されることが示された。そこで、これ以降の実験では、RU-486を1μM以下の濃度で使用し、それをDEX添加の1日前に培養中に導入してCHO細胞を前処理した。図10Bは、1μM RU-486の存在下では、グルタチオンレダクターゼ(reducatase)発現に対するDEXのアップレギュレーション効果が減弱されたことを示しており、GRの関与が確認された。
【0149】
最後に、0.1μM DEXで処理したCHO細胞および0.1μM DEXと異なる濃度のRU-486との組合せで処理したCHO細胞によって生産されるIgG融合タンパク質におけるHMW種のパーセンテージを評価した。図7Bにおける結果と合致して、HMW種のパーセンテージは、培養を0.1μM DEXのみで処理した場合には約17%減少し、この効果はRU-486の濃度を増加させるにつれて徐々に減少した(図10C)。等濃度のDEXとRU-486を使用した条件下では、HMW種の阻害率がDEXのみで得られる率の約半分になり、アゴニストとしてのDEXとアンタゴニストとしてのRU-486とが、CHO細胞におけるGRに関して、互いに類似するアフィニティーで競合することが示された。したがって、図9に示すこれら3つのデータを総合すると、これらの結果により、IgG融合タンパク質凝集の阻害はGRによって媒介されることが明確に証明された。
【0150】
結論
デキサメタゾンは、安価であるが強力なグルココルチコイドとして、そしてまた、実施例3において説明する細胞生存率および実施例1において説明するグリコシル化の改善、ならびにここで説明したタンパク質凝集の阻害という、三つ組の利点を有することから、細胞培養プロセスを全体として増進する簡単で費用対効果の高い効率的な方法になりうる。
【0151】
[実施例3]
この研究により、デキサメタゾンは、無血清条件下でのCHO細胞アポトーシスを濃度依存的および時間存的に防止する能力を有することが、初めて証明された。DEXは、CHO細胞GILZ(グルココルチコイド誘導性ロイシンジッパー)遺伝子発現を誘導する。DEXを10LバイオリアクターCHO培養に使用して、細胞生存率ならびにFc融合タンパク質の生産性およびシアル酸含有量を改善することに成功した。この研究により、工業的細胞培養におけるDEXの適用は、組換えタンパク質の生産性およびグリコシル化を改善することが証明された。
【0152】
細胞株および培地
この研究において使用したCHO細胞株はDG44親細胞からサブクローニングされたものであり、自社製合成増殖培地中で培養した。
【0153】
振とうフラスコ実験
実験は、100mLの出発体積および6×105細胞/mLの初期細胞密度を使って、250mL振とうフラスコ(VWR international)中で行った。培養を150rpmの振とう台(VWR international)上に置き、10日間、37℃および6%CO2に維持した。培養の試料を毎日採取し、1M炭酸ナトリウムを使ってpHを調節し、2日ごとにグルコースおよびグルタミンを補給して、それらを一定のレベルに維持した。細胞密度および生存率は、Bioprofile Analyzer 400(Nova Biomedical Corporation、マサチューセッツ州ウォルサム)を使ってオフラインで測定した。
【0154】
バイオリアクター操作
バイオリアクター実験は、5Lの出発作業体積を使って、10Lバイオリアクター(Sartorius Stedim Biotech、フランス)中で行った。撹拌、pH、および溶存酸素は、それぞれ150rpm、7.05、および50%空気飽和に制御した。温度を、最初は37℃に制御し、培養生存能を延長させるために、培養中に、より低い温度へとシフトさせた。バイオリアクターは流加(bach fed)モードで稼働させ、グルコースおよび他の栄養素について十分な濃度を維持するために、3日目から、自社製フィード培地を毎日補給した。細胞培養プロセス中に試料を採取し、細胞密度、細胞生存率、基質および代謝産物について分析した。
【0155】
qRT-PCR分析
DEXによるGILZのアップレギュレーションを立証するために、TaqMan(登録商標)5'-ヌクレアーゼ・リアルタイム定量RT-PCR アッセイを行った。上述のように、1μM DEXを含むおよび1μM DEXを含まない、それぞれ三つ一組の培養から、RNeasy(登録商標)ミディ(midi)キットを使って、全RNAを精製した。精製RNAをRNaseフリーDNaseI(Qiagen)で処理した後、それをテンプレートとして使用することにより、RT First Strand Kit(SA Biosciences、メリーランド州フレデリック)を使って第1鎖cDNAを合成した。GILZ特異的TaqMan MGBプローブ(6-FAM-AGAGGACTTCACGTGT)およびプライマー(フォワード:5-CCTCCCTCATCTGTCCACTGA-3およびリバース:5-TGGTGGGTTTGGCATTCAA-3)を使って、GLIZの発現を定量的に決定した。1×TaqMan Fast Universal PCR Master Mix(Applied Biosystems、カリフォルニア州カールズバッド)中で、900nMのプライマーと250nMのプローブとを使って、20ngのcDNAを増幅した。反応は、汎用サイクリングパラメータ(95℃20秒、95℃3秒、60℃30秒を40サイクル)を使って、Applied Biosystems 7500 Fast Real-Time PCR Systemで、三つ一組にして行った。同じプレート上に、内在性の対照として各試料中のβ-アクチンを分析する並行反応を設定した。各遺伝子の閾サイクル数を「ハウスキーピング遺伝子」β-アクチンの閾サイクル数に対して規格化した。対照と比較した遺伝子発現量の規格化変化は、デルタ-デルタ閾サイクル数(delta-delta threshold cycle)法(LivakおよびSchmittgen, 2001)を使って算出した。
【0156】
GILZのウェスタンブロット分析
およそ107個のCHO細胞を1×リン酸緩衝食塩水(PBS)溶液で洗浄し、1mLのレムリ試料緩衝液(Bio-Rad Laboratories、カリフォルニア州ハーキュリーズ)で溶解した後、90℃で5分間変性した。全細胞溶解物を4−15%SDS-ポリアクリルアミドゲルで分離し、0.45μmニトロセルロース膜(Bio-Rad Laboratories)にブロットし、GILZに対する一次マウスモノクローナル(monocolonal)抗体(Santa Cruz Biotechnology、カリフォルニア州サンタクルーズ)でプローブした後、セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲート抗マウス二次抗体(Santa Cruz Biotechnology)でプローブした。膜をストリッピングし、β-アクチン抗体(Santa Cruz Biotechnology)およびHRPコンジュゲート抗マウス二次抗体で再プローブした。免疫検出は、増感化学発光ウェスタンブロッティング検出システム(GE Healthcare UK Limited、英国バッキンガムシャー州リトルチャルフォント)を使って行い、VersaDocイメージングシステム(Bio-Rad Laboratories、カリフォルニア州ハーキュリーズ)で視覚化した。
【0157】
力価アッセイ
HPLCポンプおよびUV検出(Agilent Technologies、カリフォルニア州サンタクララ)ならびにApplied Biosystems Poros A/20プロテインAカラム(100×4.6mm)を用いるアフィニティークロマトグラフィーによって、力価を決定した。10レベル標準曲線(10-level standard curve)を使って溶出したタンパク質を定量した。
【0158】
結果
CHO細胞増殖に対するデキサメタゾンの効果
CH細胞生存率に対するグルココルチコイドの効果および細胞培養期間を延長する潜在能力を評価するために、グルココルチコイド・デキサメタゾン(DEX)を、接種の2日後に、0.01〜10μMの最終濃度で、振とうフラスコ培養に添加した。用量応答研究における生細胞密度(VCD)プロファイル(図11A)は、DEX処理の1日後に用量依存的に起こる細胞増殖の阻害の増加を示している。無処理対照培養ではピークVCDが8.5×106細胞/mlに達したのに対し、10μM DEXで処理した培養では、ピークVCDが6.5×106細胞/mLだった。細胞生存率は6日目以後、急速に低下し(図11B)、10日目の生存率は42.1%しかなかった。対照的に、0.01μMおよび10μM DEXで処理した場合の最終細胞生存率は、それぞれ53.1%および64.0%だった。6日目に始まる生存率の減少はDEX処理培養では濃度依存的に改善され、最大効果は10μMで見られた(図11Aおよび11B)。
【0159】
次に、DEXの添加について経時変化曲線研究を振とうフラスコ培養で行い、ここでは、DEXを最終濃度が1μMになるように、接種日から接種後第6日までの間に添加した。図11Cおよび11Dに示すように、最終VCDおよび細胞生存率は、全てのDEX処理培養で増加し、VCDと細胞生存率はどちらも、DEX添加の時期が早いほど、時間依存的に改善された。無処理CHO細胞培養の生存率は、10日目に50%まで低下したが、0、2、4および6日目にDEXを添加した培養では、それぞれ63、68、72および74%だった。
【0160】
DEXは細胞比増殖速度を低下させるが細胞比生産性を増加させる
比増殖速度、規格化容積生産性、および規格化細胞比生産性を定量し、DEX処理細胞と無処理細胞の間で比較した。1μM DEXありおよび1μM DEXなしでの比細胞増殖速度および規格化生産性プロファイルを比較するデータを、図12Aおよび12Bに示す(n=5)。DEXを2日目に添加したところ、DEXありでは対照と比較して、DEX添加の翌日に、細胞増殖速度が30%低下した。しかし、この増殖阻害効果は培養時間と共に減少した。培養期間の終了時には、DEX処理細胞を含む培養の方が、細胞死速度は遅かった。さらにまた、DEXによって誘導される早期の細胞増殖阻害は容積生産性(全ての培養で6.5)には影響を及ぼさなかったが、DEX処理を行った培養は、無処理細胞より有意に高い比生産性を有し、最大比生産性は(7.0±0.6)×10-9だった。
【0161】
DEXによるGILZのアップレギュレーションがqRT-PCRおよびウェスタンブロット分析によって確認された
マイクロアレイ分析によって得られる遺伝子発現プロファイルを検証するために、qRT-PCRを使ってGILZを分析した。三つ一組のDEX処理培養および無処理培養について、5日目および8日目から得られるRNA試料を、TaqMan(登録商標)qPCR定量に適用した。同じプレート上に、内在性の対照として各試料中のβ-アクチンを分析する並行反応を設定した。図13Aに示すように、5日目試料および8日目試料でのqRT-PCRによって得られたGILZの規格化発現プロファイル変化は、それぞれ7.66±1.08および10.48±2.16である。
【0162】
GILZがDEX処理培養において過剰発現するかどうかを調べるために、1μM DEX処理ありおよび1μM DEX処理なしの5日目培養から得られる細胞溶解物を、ウェスタンブロッティングで分析した。また、等価なゲルローディング量を評価するために、対照として、ブロットをβ-アクチン抗体で再プローブした。図13Bに示すように、GILZタンパク質の発現は、DEX処理試料では、無処理試料と比較して有意に増加した。また、DEXが引き起こすGILZ倍率変化は、5日目試料より8日目試料の方がわずかに高く、このことは、qRT-PCR結果と合致している。
【0163】
デキサメタゾンと、他の2つのグルココルチコイド、ヒドロコルチゾンおよびプレドニゾロンとの比較
次に、振とうフラスコでの実験により、CHO細胞生存率に対するDEXの保護効果がDEXに限定されるものか、それとも他のグルココルチコイド化合物、例えばヒドロコルチゾン(HYC)およびプレドニゾロン(PRD)にも拡張することができるのかを調べた。DEX、HYCおよびPRD(Sigma-Aldrich、ミズーリ州セントルイス)を、接種の2日後に、これら3つの化合物のそれぞれについて、0、0.1、1および10μMの最終濃度で添加した。培養細胞のピークVCD、最終VCDおよび最終生存率を表2に示す。
[表2]
【表2】

【0164】
DEXと同様に、HYC(最終生存率60.1〜75.5%)およびPRD(最終生存率69.4〜75.5%)も、用量依存的な細胞保護効果を示した。10日目の生存率が対照の場合は56.6%であったのに対し、0.1および10μM濃度での10日目生存率は、それぞれ、DEXの場合は72.3%および82.3%;HYCの場合は60.1%および75.5%;PRDの場合は69.4%および77.5%だった。このように3つのグルココルチコイド化合物の全てが培養生存率を改善し、3つのグルココルチコイド化合物の全てについて、最大効果は10μMにおいて認められた。
【0165】
デキサメタゾンの死抑制作用にはGILZおよびグルココルチコイド受容体が関与する
DEX添加による生存率の改善がGILZおよびグルココルチコイド受容体(GR)によって媒介されるかどうかを決定するために、GRアンタゴニストであるミフェプリストン(RU-486)を、DEX処理の前に、細胞培養培地に添加した。RU-486ありおよびRU-486なしの条件について、DEXによって誘導される最終細胞生存率の増加率を、図14Aに示す。細胞生存率を改善するDEXの能力は、1μMのRU-486の存在下では、有意に低下した。0.1および1μM DEXによって誘導される細胞生存率の増加率は、それぞれ30.5%および32.6%(RU-486なし)から4.7%および5.7%(1μM RU-486あり)に低下した。一方、qRT-PCR分析(図14B)は、1μM RU-486の存在下では、GILZ発現に対するDEXのアップレギュレーション効果が、有意に減弱されたことを示している。0.1および1μM DEXによって誘導される倍率変化は、それぞれ9.0±1.9および11.3±3.0(RU-486なし)から1.8±0.9および2.3±1.0(1μM RU-486あり)へと減少した。ウェスタンブロッティング分析(図14C)により、1μM RU-486の存在下ではGILZタンパク質の過剰発現が有意に減少することが、さらに確認された。RU-486はGRのリガンド結合ドメインに関してDEXと競合するので、これらの結果は、DEXが生存率を増加させる機序にはGILZが関与し、この機序がGR依存的であることを示している。
【0166】
10Lフェドバッチバイオリアクター培養におけるデキサメタゾンの適用
振とうフラスコにおいて認められたDEXの効果がバイオリアクターにも拡張しうるかどうかを決定するために、10Lバイオリアクターにおけるフェドバッチ培養を行った。DEXの総合的な目標は、バイオリアクターにおけるプロセスについて、細胞死を抑制し、培養寿命を延長し、その結果として、糖タンパク質生産を増加させることであった。この研究では、上述の同じ条件を使って3つのバイオリアクターを稼働させ、2つのバイオリアクターには、それぞれ2日目または7日目に、1μMのDEXを添加した。振とうフラスコ実行とは異なり、バイオリアクター実行は14日まで延長し、培養温度は培養の後期対数期中に低い温度へとシフトさせ、グルコースおよびグルタミンのみを補給する代わりに自社製フィーディング培地を使用した。
【0167】
2日目または7日目にDEXが添加されたバイオリアクターは、DEXなしの7.8×106細胞/mLと比較して、8日目に約8.3×106細胞/mLの最大細胞密度に達した(図15A)。DEX添加は、バイオリアクターにおける細胞死速度を減少させた。細胞生存率は、全ての条件で、6日目に94%の生存率だった(図15B)。14日目までに、生存率はDEXなしでは29%まで低下したのに対し、2日目または7日目にDEXを添加した場合は、それぞれ55%および39%だった。2日目または7日目にDEXを添加した場合、14日目における最終VCDは、DEX添加がない場合の2.8×106細胞/mLと比較して、それぞれ4.1および3.5×106細胞/mLだった。規格化タンパク質力価は、最大VCD前の7日目に約5.5だった(図15C)。その後、培養の定常相および死滅相中のタンパク質生産は、DEXを添加したバイオリアクターの方が高かった。14日目の収穫時規格化力価は、DEXを添加したバイオリアクターでは、DEX添加なしの場合の10.5と比較して、どちらも12.5で、20%の増加だった。
【0168】
結論
培地最適化に関する本発明者らの努力により、本発明者らは、グルココルチコイドがCHO細胞のフェドバッチ培養における細胞生存率の低下を有意に減弱できることを、予想外に発見することになった。この減少の機序研究において、抗アポトーシス遺伝子GILZのアップレギュレーションの関与が、qRT-PCRおよびウェスタンブロット分析によって同定された。DEXの類似体およびアンタゴニストがCHO細胞増殖に及ぼす効果を調べることにより、DEXの作用の媒介におけるGILZおよびグルココルチコイド受容体の役割を決定した。フェドバッチバイオリアクター実験は、このグルココルチコイド類似体が、細胞培養における生存率の低下を減弱するための、有効で、実行可能で、費用効率の高い化学薬品であることを証明している。
【0169】
[実施例4]
この研究では、CHO細胞増殖、タンパク質のシアリル化および凝集に対するデキサメタゾン(DEX)の効果を、異なる糖タンパク質(CTLA4Ig)を分泌するもう一つのCHO細胞株で調べた。
【0170】
細胞株および培地
この研究において使用したCHO細胞株は、元はDG44親細胞からサブクローニングされたものであり、自社製合成増殖培地中で培養した。
【0171】
振とうフラスコ実験
実験は、100mLの出発体積および6×105細胞/mLの初期細胞密度を使って、250mL振とうフラスコ(VWR international)中で行った。培養を150rpmの振とう台(VWR international)上に置き、10日間、37℃および6%CO2に維持した。培養の試料を毎日採取し、必要に応じて1M炭酸ナトリウムを使ってpHを調節し、2日ごとにグルコースおよびグルタミンを補給して、それらを十分なレベルに維持した。グルココルチコイドであるデキサメタゾン(DEX)を2日目に0.001〜10 Mの最終濃度で添加した。細胞密度および生存率は、Cedex自動細胞カウンター(Innovatis AG、ドイツ・ビーレフェルト)を使ってオフラインで測定した。培養pHならびにグルコースおよびグルタミンの濃度は、Bioprofile Analyzer 400(Nova Biomedical Corporation、マサチューセッツ州ウォルサム)を使ってオフラインで測定した。培養収穫物から得られる上清をシアル酸含有量およびHMWレベルの分析のために集めた。
【0172】
シアル酸およびHMW含有量アッセイ
シアル酸およびHMW含有量アッセイは、先の実施例で述べたように行った。
【0173】
結果
CHO細胞増殖に対するデキサメタゾンの効果
CHO細胞生存率に対するグルココルチコイドの効果および細胞培養期間を延長する潜在能力を評価するために、グルココルチコイドであるデキサメタゾン(DEX)を、接種の2日後に、0.001〜10μMの最終濃度で振とうフラスコ培養に添加した。用量応答研究における生細胞密度(VCD)プロファイル(図16A)は、DEX処理後に起こる細胞増殖の阻害の増加を示しているが、調べた範囲において濃度依存性は明白でない。無処理対照培養ではピークVCDが13.9×106細胞/mLに達したのに対し、0.001〜10μMのDEXで処理した培養では、ピークVCDが10.6×106〜12.7×106細胞/mLの範囲にあった。無処理培養では6日目以後、細胞生存率が急速に低下し(図16B)、10日目の生存率は64.5%しかなかった。対照的に、0.001μMおよび10μM DEXで処理した場合の最終細胞生存率は、それぞれ75.5%および82.3%だった。
【0174】
デキサメタゾン(DEX)は糖タンパク質CTLA4Igのシアリル化を増加させHMWレベルを減少させる
細胞増殖の他に、シアル酸含有量およびHMWレベルに対するDEXの効果も評価した。無処理培養との比較により、さまざまな濃度のDEXによって誘導されるシアル酸含有量の増加率(図17A)およびHMW種の減少率(図17B)を、図17に示す。DEXが、0.001μMでさえ、糖タンパク質のシアリル化を増加させHMW種を減少させて、改善されたタンパク質品質を示す能力を有することは、明白である。シアル酸含有量およびHMW種に対するDEXの濃度依存性は、DEXの濃度が0.01μMを上回ると明白でない。
【0175】
これらの結果により、細胞生存率の改善、糖タンパク質シアリル化の改善および凝集の減少に対するDEXの作用は、単一の細胞クライン(cell cline)または培地処方に限定されないことが証明された。
【0176】
[実施例5]
この研究では、大規模組換え糖タンパク質生産のために細胞培養培地においてDEXを利用することの実行可能性を、500Lおよび5000L規模のバイオリアクターで証明する。
【0177】
細胞株および培地
この研究において使用したCHO細胞株は、DG44親細胞からサブクローニングされたものであり、自社製増殖培地中で培養した。
【0178】
バイオリアクター操作
バイオリアクター実験は、それぞれ3L、300Lおよび3000L前後の出発作業体積を使って、7L、500Lおよび5000Lバイオリアクター中で行った。バイオリアクター実行は全て37℃で開始し、細胞培養期間を延長させるために、細胞が生産相に入ったら、より低い温度へとシフトさせた。pHおよび溶存酸素は7.05および50%空気飽和に維持した。7L、500Lおよび5000L規模では撹拌速度を、それぞれ180、75および60rpmにする。全てのバイオリアクター実験は、フェドバッチモードで行い、グルコースおよび他の栄養素を一定のレベルに維持するために、タンパク質フリー培地を毎日補給した。全ての生産規模において、細胞生存率およびタンパク質シアリル化を増加させる目的で、デキサメタゾンをフィード培地中に含めた。細胞培養プロセス中に試料を採取し、細胞密度、細胞生存率、基質および代謝産物について分析した。
【0179】
力価、シアル酸およびHMW含有量アッセイは先の実施例で説明したように行った。
【0180】
結果
図18Aおよび18Bは、細胞増殖および生存率に関するバイオリアクター性能を表す。7Lから5000Lまでのスケールアップの間、細胞増殖は、12〜13×106細胞/mLの類似するピーク生細胞密度を有することが観察され、ある特定規模での実行の標準偏差を表すエラーバーは全ての時点においてオーバーラップしている。細胞密度は5000L規模では7日目に、また7Lおよび500L規模では8日目に、ピークに達した。培養の14日目平均生存率は、7L、500L、および5000Lバイオリアクター規模において、それぞれ、88%、84%、および91%だった。図18Cおよび18Dは、7L、500Lおよび5000Lバイオリアクター規模からの生産性およびシアル酸プロファイルを表す。14日目力価(規格化値として報告)は、7、500、および5000L規模において、それぞれ13.2、11.6、および13.6であった。ピークシアル酸レベル(規格化値として報告)は、規模が増加する順に、16.0、18.0および19.0だった。シアル酸は、全ての規模で、実行の終了時までに約2.6単位低下した。
【0181】
結論
全体として、フィード培地に含まれるデキサメタゾンは、全ての規模においてうまく機能し、工業的規模での生産に培地添加剤としてデキサメタゾンを利用することの実行可能性を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)細胞培養において糖タンパク質を生産する宿主細胞を、タンパク質生産を可能にする条件下で培養すること;およびb)無毒性レベルのグルココルチコイドを添加することを含む、糖タンパク質を生産するための細胞培養プロセス。
【請求項2】
糖タンパク質のシアリル化が、グルココルチコイド添加のない培養におけるシアリル化と比較して増加する、請求項1に記載の細胞培養プロセス。
【請求項3】
細胞死が、グルココルチコイド添加のない培養における細胞アポトーシスと比較して抑制される、請求項1に記載の細胞培養プロセス。
【請求項4】
細胞生存率が、グルココルチコイド添加のない培養における細胞生存率と比較して増加する、請求項1に記載の細胞培養プロセス。
【請求項5】
糖タンパク質力価が、グルココルチコイド添加のない培養における糖タンパク質力価と比較して増加する、請求項1に記載の細胞培養プロセス。
【請求項6】
糖タンパク質凝集が、グルココルチコイド添加のない培養における糖タンパク質凝集と比較して減少する、請求項1に記載の細胞培養プロセス。
【請求項7】
グルココルチコイドが、デキサメタゾン、ベタメタゾン、酢酸フルドロコルチゾン、ヒドロコルチゾン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾロン、プレドニゾンおよびトリアムシノロンからなる群より選択される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の細胞培養プロセス。
【請求項8】
宿主細胞が哺乳動物細胞である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の細胞培養プロセス。
【請求項9】
哺乳動物細胞が、CHO、骨髄腫、およびCOS細胞からなる群より選択される、請求項8に記載の細胞培養プロセス。
【請求項10】
グルココルチコイドレベルが細胞培養中で1nM〜1mMの濃度に維持される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の細胞培養プロセス。
【請求項11】
グルココルチコイドが、基礎培地に添加されるか、フィード培地に添加されるか、または培養プロセス中に随時ボーラスとして添加される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の細胞培養プロセス。
【請求項12】
グルココルチコイドが、接種後、初期死滅相が始まる前の時点において添加される、請求項1〜6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項13】
グルココルチコイドが、接種後、初期増殖相中の時点において添加される、請求項12に記載のプロセス。
【請求項14】
グルココルチコイドが、初期増殖相の終了時もしくはその前後である時点において添加される、請求項13に記載のプロセス。
【請求項15】
a)細胞培養において可溶性CTLA4分子を生産するCHO細胞を、タンパク質生産を可能にする条件下で培養すること;およびb)デキサメタゾンを含有するフィーディング培地を細胞に補給することを含む、可溶性CTLA4分子を生産するための細胞培養プロセス。
【請求項16】
可溶性CTLA4分子のシアリル化が、デキサメタゾンを含有するフィーディング培地の細胞への補給がない培養におけるシアリル化と比較して増加する、請求項15に記載の細胞培養プロセス。
【請求項17】
可溶性CTLA4分子が、ヒンジ、CH2およびCH3ドメインを含む免疫グロブリン部分に接合された、配列番号3に示す位置+1のメチオニンまたは位置−1のアラニンで始まり位置124のアスパラギン酸で終わるアミノ酸配列を含む可溶性CTLA4突然変異体分子であり、デキサメタゾンが、細胞培養中で、0.1μM〜10μMの濃度に持続または維持され、細胞培養体積が少なくとも500リットルである、請求項15に記載の細胞培養プロセス。
【請求項18】
可溶性CTLA4分子が、ヒンジ、CH2およびCH3ドメインを含む免疫グロブリン部分に接合された、配列番号3に示す位置+1のメチオニンまたは位置−1のアラニンで始まり位置124のアスパラギン酸で終わるアミノ酸配列を含む可溶性CTLA4突然変異体分子であり、細胞に、デキサメタゾンを含有するフィード培地が補給され、細胞培養体積が少なくとも500リットルである、請求項15に記載の細胞培養プロセス。
【請求項19】
可溶性CTLA4分子が、ヒンジ、CH2およびCH3ドメインを含む免疫グロブリン部分に接合された、配列番号1に示す位置+1のメチオニンまたは位置−1のアラニンで始まり位置124のアスパラギン酸で終わるアミノ酸配列を含み、デキサメタゾンが、細胞培養中で、1nM〜0.1μMの濃度に持続または維持され、細胞培養体積が少なくとも500リットルである、請求項15に記載の細胞培養プロセス。
【請求項20】
可溶性CTLA4分子が、ヒンジ、CH2およびCH3ドメインを含む免疫グロブリン部分に接合された、配列番号1に示す位置+1のメチオニンまたは位置−1のアラニンで始まり位置124のアスパラギン酸で終わるアミノ酸配列を含み、細胞に、デキサメタゾンを含有するフィード培地が補給され、細胞培養体積が少なくとも500リットルである、請求項15に記載の細胞培養プロセス。
【請求項21】
可溶性CTLA4分子が、配列番号1に示す位置+1のメチオニンまたは位置−1のアラニンで始まり位置+357のリジンで終わるアミノ酸配列を含む、請求項15、19および20のいずれか一項に記載の細胞培養プロセス。
【請求項22】
可溶性CTLA4突然変異体分子が、配列番号3に示す位置+1のメチオニンまたは位置−1のアラニンで始まり位置+357のリジンで終わるアミノ酸配列を含む、請求項17および18のいずれか一項に記載の細胞培養プロセス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18−1】
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【図18−2】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公表番号】特表2013−506436(P2013−506436A)
【公表日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−533259(P2012−533259)
【出願日】平成22年10月6日(2010.10.6)
【国際出願番号】PCT/US2010/051552
【国際公開番号】WO2011/044180
【国際公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(391015708)ブリストル−マイヤーズ スクイブ カンパニー (494)
【氏名又は名称原語表記】BRISTOL−MYERS SQUIBB COMPANY
【Fターム(参考)】