説明

グルコースセンサ

【課題】GDHを用いた電極法によるグルコースセンサであって、グルコースを含む試料中へのマルトース、ガラクトース、キシロースの混在がグルコースの定量に実質的に影響しないセンサを提供すること。
【解決手段】絶縁性基板上に少なくとも作用極と対極からなる電極を形成し、該電極に少なくとも電子伝達物質、グルコースデヒドロゲナーゼおよび該デヒドロゲナーゼの補酵素を含む組成物を接触させてなるグルコースセンサであって、グルコースを含む試料中に混在するマルトース、ガラクトース、及びキシロースがグルコースの定量に影響しないことを特徴とするグルコースセンサ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グルコースデヒドロゲナーゼを利用し、電圧印加状態で電気化学的シグナルを検出することによりグルコースを定量するグルコースセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
各種グルコース酸化酵素を用いてグルコースを定量する方法は従来より種々検討がなされ、市販されている。グルコース酸化酵素を用いたグルコース定量法の原理は、グルコースが酵素によって酸化されたときに同時に該酸化酵素の補酵素が還元されることを利用したものであり、具体的には還元された補酵素もしくは電子伝達物質の吸光度を測定する方法(比色法)と酸化還元反応によって生じた電流を測定する方法(電極法)に大別される。特に近年においては、糖尿病患者が日常的に自己の血糖値を把握するための簡易型血糖センサとして電極法が主に使用されている。一方の比色法において精度よく定量するためには液状で吸光度を測定する必要がある。これに必要な液状試薬は乾燥状態に比して保存安定性に乏しく、また乾燥試薬として保管するとしても使用の際に溶解せねばならず操作が煩雑である。また吸光度の測定には専用の吸光光度計が必要であるため、簡易的な血糖モニタリング法としては適していない。
【0003】
グルコース酸化酵素としては、古くからグルコースオキシダーゼ(GOD)が用いられてきた。しかしGODを電極法に適用した場合、GODは分子状酸素を電子受容体とすることが可能であるため、試料中の溶存酸素濃度が定量値に影響し、結果として定量値の正確性に欠けるという問題があった。これを解消する方法として、分子状酸素を電子受容体としえないグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)が多用されるようになった。
【0004】
GDHとしては、ピロロキノリンキノン(PQQ)を補酵素とするもの(PQQ−GDH)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)を補酵素とするもの(FAD−GDH)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)あるいはニコチンアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)を補酵素とするもの(NAD(P)−GDH)の3種類に大きく大別される。このうちアシネトバクター属に代表されるPQQ−GDHは、溶存酸素の影響を受けない一方で、グルコース以外の糖類、例えばマルトース・ガラクトース・キシロースなどに対しても作用するため、このような物質を含む試料では高い定量値を示すという問題があった。
【0005】
基質特異性の良好なGDHとして、たとえばアスペルギルス属由来FAD−GDH(特許文献1、特許文献2)、バチルス属NAD(P)−GDH(特許文献3)が挙げられる。これらはマルトース、ガラクトースに対する作用性がなく、PQQ−GDHよりもグルコース以外の糖による影響は少ない。しかしながらこれらGDHもキシロースに対する作用性は有しており、アスペルギルス属由来FAD−GDHは対グルコース比10%以上、バチルス属由来NAD(P)−GDHも対グルコース比数%〜20%程度である。しかし、これらは水溶液中で比色法により測定した値であり、電極法ではキシロースに対する作用性が増大し、結果としてキシロースが混入したサンプルではグルコース定量値への影響が顕著であるという問題があった。よって、これら酵素を用いたグルコース定量法であっても、依然キシロースに対する影響が大きく、その影響は電極法においてより顕著であった。
【0006】
このような基質特異性の問題を解消する方法として、ヘキソキナーゼ(HK)とグルコース−6−リン酸デヒドロンゲナーゼ(G6PDH)を併用する方法が考えられる。これは、まず試料中のグルコースをHKによりグルコース−6−リン酸に変換し、さらにG6PDHによってグルコノラクトン−6リン酸に変換する際の酸化還元反応を利用してグルコースを定量するという方法である。しかし、この系では最低でも2種類の酵素が必要であり、加えて反応にATPが必須であり、コストがかかる上に保存安定性を管理すべき物質が多岐にわたるため実用上有利な方法とはいえなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO2004/058958公報
【特許文献2】特許第4292486号公報
【特許文献3】特開平4−258289号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って本発明の目的は、GDHを用いた電極法によるグルコースセンサであって、グルコースを含む試料中へのマルトース、ガラクトース、キシロースの混在がグルコースの定量に実質的に影響しないセンサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた。結果、グルコースを含む試料中へマルトース、ガラクトース、キシロースが混在した場合であってもグルコースの定量に影響しない電極上の組成を見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は以下の構成からなる。
項1
絶縁性基板上に少なくとも作用極と対極からなる電極を形成し、該電極に少なくとも電子伝達物質、グルコースデヒドロゲナーゼおよび該デヒドロゲナーゼの補酵素を含む組成物を接触させてなるグルコースセンサであって、グルコースを含む試料中に混在するマルトース、ガラクトース、及びキシロースがグルコースの定量に影響しないことを特徴とするグルコースセンサ。
項2
補酵素がニコチンアミドアデニンジヌクレオチドまたはニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸である、項1に記載のグルコースセンサ。
項3
グルコースデヒドロゲナーゼが、サーモプロテウス属微生物由来である、項2に記載のグルコースセンサ。
項4
グルコースデヒドロゲナーゼが、配列番号2に記載のアミノ酸配列に1ないし数個のアミノ酸を欠失・置換・挿入または付加してなり、かつグルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質である、項2に記載のグルコースセンサ。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、GDHを用いた電極法によるグルコースセンサであって、グルコース以外の糖、具体的にはマルトース、ガラクトース、キシロースの混在の影響を実質的に受けないグルコースセンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のグルコースセンサに用いる電極の一例を示す。
【図2】実施例3によるキシロース交差試験の結果を示す。
【図3】実施例3によるマルトース交差試験の結果を示す。
【図4】実施例3によるガラクトース交差試験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明について以下に詳細に説明する。
本発明グルコースセンサは、絶縁性基盤上に形成される電極と、該電極上に接触される、少なくともGDH、該GDHの補酵素並びに1種類以上の電子伝達物質とを含んでなる組成物とを少なくとも包含して提供される。本発明のグルコースセンサの機能的特徴としては、グルコースを含む試料中のグルコースを定量するに際し、マルトース、ガラクトースおよびキシロースからなる群より選ばれる1種類以上の糖の混在がグルコースの定量に実質的に影響しない点が挙げられる。
実質的に影響しないとはすなわち、同じグルコース濃度の試料であってグルコース以外の糖の混在がある場合とない場合とで定量値を比較した際に、他の糖の混在によるグルコース定量値の変化が測定誤差の範囲を超えないことを意味する。本明細書においては、グルコース濃度が3〜25mMの試料において他の糖を20mM共存させたときのグルコース定量値の変化分が、他の糖の混在のない試料を定量した値と比して5%未満である場合、「実質的に影響しない」と判断する。
具体的には、他の糖を存在させないときのグルコース定量値をA、他の糖を20mM共存させたときのグルコース定量値をBとしたとき、「(B−A)の絶対値」をAで割った値が0.05未満であれば「実質的に影響しない」となる。
【0014】
続いて本発明に述べるグルコースセンサの構成の具体例について、まずは電極から述べる。
電極は絶縁性基盤上に形成され、少なくとも作用極と対極とからなり、必要に応じてさらに参照極を有してもよい。作用電極および対極にはカーボン電極を用いてもよいし、白金、金、銀、ニッケル、パラジウムなどの金属電極を用いてもよい。金属電極の場合、金が特に好ましい。参照電極としては、特に限定されるものではなく、電気化学実験において一般的なものを適用することができるが、例えば飽和カロメル電極、銀−塩化銀などが挙げられる。絶縁性基板上に電極を形成する方法としては、具体的にはフォトリゾグラフィ技術や、スクリーン印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷などの印刷技術により、電極を基板上に形成することが望ましい。また、絶縁基板の素材としては、シリコン、ガラス、ガラスエポキシ、セラミック、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリイミドなどが挙げられるが、各種の溶媒や薬品に対する耐性の強いものを用いるのがより好ましい。
【0015】
次に電極上に接触される組成物について述べる。
該組成物は、GDH、該GDHの補酵素および電子伝達物質を少なくとも含んでなる。補酵素としてはNAD、NADP、FAD、PQQが例示されるが、NADもしくはNADPが好適であり、中でもNADが最も好適である。補酵素としてNADもしくはNADPが選択される場合、これらを補酵素とするGDHを用いる必要がある。選択されるGDHの由来は、本発明に述べる機能的特徴を満足しうるものであればよく、好適には超好熱性始原菌由来GDHが例示され、さらに好適にはサーモプロテウス(Thermoproteus)属微生物由来GDHが例示され、よりさらに好適には配列番号2に記載されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり(特許庁の審査基準に例示されている書式に修正しました。)、かつグルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質である。このようなタンパク質の最も好適な例としては、配列番号4、6、8のいずれかに記載されるアミノ酸配列からなるポリペプチドからなるGDHまたはそれを含んでなるGDHである。このようなアミノ酸配列を有する酵素の作製は当業者が通常行う方法により可能である。その方法としては、例えば所望のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを、その全長を化学合成するかもしくはポリヌクレオチド断片をPCR法により接続することにより作製し、該ポリヌクレオチド鎖を宿主生物において作動可能なプロモーター下に接続してなる発現プラスミドを作製し、該プラスミドを各種宿主細胞にトランスフェクションして得られる組換え細胞を培養してGDHを産生させ、これを抽出・精製することにより得られる。
【0016】
本発明の機能的特徴を満足させるための重要な要件の一つとしてこの好適なGDHの選択が挙げられる。
一般的に、比色法において全く反応を示さない基質に対しては、電極法においても比色法と同様の挙動を示す(作用しない)と考えられ、本発明の実施例の結果もそれを支持する。
他方、比色法において反応する基質に対しても、同様に、電極法においても比色法と同様の挙動を示す(作用する)のが通常である。ただし、反応の程度は必ずしも比色法と電極法とで同等であるとは限らず、例えば比色法で反応する基質に対して、電極法では作用性が増大する場合が少なからずある。
しかしながら、上記に例示される本願発明のGDHは、比色法においてキシロースに対する作用性を示しながら、意外にも、電極法においては実質的に作用せず、その作用性は十分無視できる程度に微弱である。
【0017】
組成物中の補酵素は、遊離された状態であってもよく、また酵素に共有結合された状態であってもよい。
遊離状態である場合、添加量としては電気化学シグナルが定量を行うに必要十分な強度得られる程度の量以上あればよく、例示される指標としては、好ましくはGDHとグルコースの反応時点における濃度がGDHの補酵素に対するミカエリス定数(Km)以上であり、より好ましくはGDHとグルコースの反応時点における濃度がGDHの補酵素に対するミカエリス定数(Km)の5倍以上であり、最も好ましくはGDHとグルコースの反応時点における濃度がGDHの補酵素に対するミカエリス定数(Km)の10倍以上である。また別の観点からの例示される指標としては、GDHとグルコースの反応時点の濃度が好ましくは0.5mM以上であり、さらに好ましくはGDHとグルコースの反応時点の濃度が2.5mM以上であり、最も好ましくはGDHとグルコースの反応時点の濃度が5mM以上である。
【0018】
組成物中のメディエータの種類は特に限定されるものではないが、キノン類、シトクロム類、ビオロゲン類、フェナジン類、フェノキサジン類、フェノチアジン類、フェリシアン化物、フェレドキシン類、フェロセンおよびその誘導体等が例示される。より具体的には、ベンゾキノン/ハイドロキノン、フェリシアン/フェロシアン化物(カリウムもしくはナトリウム塩)、フェリシニウム/フェロセンなどが挙げられる。フェナジンメトサルフェート、1−メトキシ−5−メチルフェナジウムメチルサルフェイト、2,6−ジクロロフェノールインドフェノールなどを用いてもよい。その他にも、オスミウム、コバルト、ルテニウムなどの金属錯体を用いることも可能である。さらには、フェレドキシン、チトクロム、チオレドキシン等の生体物質を用いることも可能である。
水溶性の低い化合物をメディエータとして用いる場合、有機溶媒を用いると、酵素自体の安定性を損なったり、酵素活性を失活させたりする可能性がある。そこで、水溶性を高めるために、ポリエチレングリコール(PEG)のような親水性高分子により修飾されたものを用いてもよい。反応系におけるメディエータ濃度は、1mM〜1M程度の範囲が好ましく、5〜500mMがより好ましく、10〜300mMが更に好ましい。またメディエ−ターについても種々の官能基による修飾体を用いるなどして、酵素とともに電極上に固定化させて用いてもよい。
【0019】
酵素等を含む組成物を電極に接触する方法としては、組成物の水溶液を電極上に滴下する方法、また滴下後に風乾する方法、また電極上に組成物を固定化する方法が挙げられる。
固定化方法としては、架橋試薬を用いる方法、高分子マトリックス中に封入する方法、透析膜で被覆する方法、光架橋性ポリマーを利用する方法などが挙げられる。典型的には、グルタルアルデヒドを用いて、酵素等を含む組成物をカーボン電極上に固定化した後、アミン基を有する試薬で処理してグルタルアルデヒドをブロッキングする方法が例示される。
【0020】
電極上の組成物中には、さらにpHの変動を緩和するための各種緩衝剤を含んでいてもよい。
緩衝剤としては好ましくはpH5.0〜9.0の範囲で設定される好適なpH条件において緩衝能を有する物質であればよく、リン酸塩の他、フマル酸・マレイン酸・グルタル酸・フタル酸・クエン酸等の各種有機酸、MOPS、PIPES、HEPES、MES、TESなどのGOODの緩衝剤が例示されうるが、これらに限定されない。
さらに、デヒドロゲナーゼの保存安定性を高める目的でウシ血清アルブミン、卵白アルブミン、セリシン等のタンパク質、該GDHの基質となりえない糖類やアミノ酸、またカルシウム・マグネシウム・亜鉛・マンガン等の金属塩、あるいはEDTAに代表されるキレート剤、さらにはTritonX−100・デオキシコール酸・コール酸・Tween20・Brij35・エマルゲン等の各種界面活性剤等を適宜含んでもよい。
【0021】
電極の形状は特に限定されるものではなく、円形、楕円形、四角形などの形状が挙げられる。
例えば、円形の形状である場合、その半径は3mm以下であることが好ましく、2.5mm以下がより好ましく、2mm以下が更に好ましい。
【0022】
本発明に示すグルコースセンサを用いてグルコースを定量する方法は、以下のように行う。
少なくとも作用極と対極からなる電極系はポテンショスタット/ガルバノスタットに例示される装置に接続し、GDH、GDHの補酵素およびメディエータを少なくとも含む組成物に、測定対象となる試料を添加する。測定対象となる基質溶液の添加方法は、電極上の組成物にマイクロピペット等を用いて滴下してもよく、あるいは開口部から電極系にいたる液体流路を具備し該流路を通して試料を電極上に送液してもよい。電極上の組成物と試料とを接触させた状態で電圧を印加して得られる電気化学的シグナルとしての電流値を計測する。この電流値は試料中に含まれる基質濃度に依存しており、あらかじめ該基質の標準液を用いて作成した検量線を基に電流値から基質濃度を算出することができる。印加する電圧の強度は好ましくは50〜1000mVであり、より好ましくは100〜500mVである。測定に供する試料の種類は特に制約されるものではなく、グルコースを成分として含有する可能性のある水溶液はもとより、血液、体液、尿などの生体試料であってもよい。また、測定に際しては、可能な範囲で反応温度を一定にして行ってもよく、また測定環境温度を計測し、あらかじめ作成した温度と電気化学的シグナルとの相関式から温度依存的な反応速度の変化分を補正することも可能である。
【0023】
なお、本発明は上記の各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0024】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。以下に述べる実施例はいうまでもなく本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0025】
サーモプロテウス属微生物由来改変型GDHを以下の要領で得た。
配列番号1に示すGDH遺伝子が大腸菌用プラスミドpBluescriptKSN(+)のNdeI−BamHIサイトに挿入された発現プラスミドpBSGDH−2を鋳型に、Quick Change Multi Site Mutagenesis Kit (ストラタジーン製)を用いてGDH遺伝子内の特定部位に変異を導入することにより、発現プラスミドpBSTGDH−3、pBSTGDH−4、pBSTGDH−5を得た。pBSTGDH−3、pBSTGDH−4、pBSTGDH−5はそれぞれ配列番号3、5、7に相当するDNA分子をlacプロモーター下に接続してなるプラスミドである。これらプラスミドを大腸菌JM109株コンピテントセルに形質転換し、生産菌株とした。これら形質転換株は、500ml容坂口フラスコに入った200ml前培養培地(0.5%酵母エキス、0.25%ペプトン、0.5%塩化ナトリウム、0.5%グルコース、100μg/mlアンピシリンナトリウム、pH7.4)に植菌し、30℃180rpmで16時間振とう培養した。得られた前培養液を、10L容ジャーファーメンター中の6LのGDH生産培地(2.4%コウボエキス、2.4%ペプトン、1.25%リン酸1水素2カリウム、0.23%リン酸2水素1カリウム、0.4%グリセロール、0.1%消泡剤、100μg/mlアンピシリンナトリウム、pH7.0)に全量投入し、通気量2L/分、攪拌速度310rpm、槽内圧0.02MPa、温度37℃で24時間通気攪拌培養を行った。得られた培養液を遠心分離することにより菌体を得、これを1Lの20mMリン酸カリウムバッファー(pH8.0)に懸濁してフレンチプレス菌体破砕装置を用いて平均圧力80MPaで菌体を破砕した。さらにこの破砕液に1Lあたり152gの硫酸アンモニウムを加えて溶解し、60℃1時間の加温を行い、さらに遠心分離によって沈殿を除いた。この溶液を、15.2%硫酸アンモニウムを含む20mMリン酸カリウムバッファー(pH8.0)で緩衝化させたOctyl−Sepharose樹脂(GEヘルスケア社製)にアプライしてGDHを樹脂に吸着させ、さらに7.6%硫酸アンモニウムを含む20mMリン酸カリウムバッファー(pH8.0)で樹脂を洗浄した。そして硫酸アンモニウム濃度を7.6%から0%へ、同時にエチレングリコール濃度を0%から0.2%へ、それぞれグラジエントをかけながらバッファーを通液することでGDHを溶出させた。次に、50mMリン酸カリウムバッファー(pH7.0)により緩衝化したG−25 Sepharose樹脂を用いて脱塩・バッファー置換を行った。最後に、50mMリン酸カリウムバッファー(pH7.0)で緩衝化したDEAE−SepharoseにGDH溶液を通液することで夾雑タンパク質を樹脂に吸着させ、透過液を精製GDHとした。このように作製したサーモプロテウス属微生物由来変異型GDHは配列番号4、6、8に示すアミノ酸配列を有しており、それぞれGDH−A、GDH−B、GDH−Cと以下称する。これらは、変異導入前の野生型GDHと比して37℃以下の温度における比活性、補酵素であるNADに対する親和性、基質に対する親和性が向上した改変型GDHであるが、改変前の酵素がグルコースに対して極めて厳密な基質特異性を有していたのに対し、これら酵素では上記特性が改変された一方で比色法においてキシロースに作用するという問題を抱えていた。表1に、各GDHの比色法での基質特異性を示す。表1には、上記3種類の他、実施例2で使用した各種GDHの比色法における基質特異性も同時に掲載する。なお、表1中の数値は、グルコースに対する活性を100とした場合の相対値として示す。
【0026】
【表1】

【実施例2】
【0027】
絶縁性基板に作用電極、対向電極、および参照電極を配した電極センサを、有限会社バイオデバイステクノロジー社(石川県能美市)より入手した。本電極センサは、4.0mm×17mmの基板に電極が印刷されている。このセンサの構造を模式的に示した図が図1である。このセンサの作用電極(面積約1.3mm2)上に試薬層となる水溶液を3μL分注した。試薬層となる水溶液には、下記の組成が含まれる。
・50mM 酸化型NAD
・NAD(P)依存型グルコースデヒドロゲナーゼ
・200mM フェリシアン化カリウム
・0.5mM 1−メトキシ−5−フェナジンメトサルフェート
・50mM リン酸カリウムバッファー (pH7.0)
ここで、NAD(P)−GDHとしては、実施例1で作製したGDH−A、GDH−B、GDH−C並びにバチルス属細菌由来GDH(東洋紡製GLD−311、以下GDH−Dと称する)を用いた。これを35℃で15分加温することにより乾燥させ、グルコースセンサチップとした。
また、同じ電極センサを用いて、下記組成からなる水溶液3μLから同様にグルコースセンサチップを作製した。
・各種グルコースデヒドロゲナーゼ
・200mM フェリシアン化カリウム
・0.5mM 1−メトキシ−5−フェナジンメトサルフェート
・50mM リン酸カリウムバッファー (pH7.0)
ここで、GDHとしては、アシネトバクター属由来PQQ−GDH(東洋紡製GLD−321、以下GDH−Eと称する)および麹菌由来FAD−GDH(東洋紡製GLD−351、以下GDH−Fとする)を用いた。
上記のように作製したチップをそれぞれポテンショスタットに接続し、電極上に15μlのグルコース溶液(濃度10mM)をマイクロピペットを用いて滴下し、滴下から35秒後に+300mVの電圧を印加、電流値を測定した。つづいて濃度10mMのグルコースと、さらに濃度20mMマルトース・ガラクトース・キシロースのうちいずれか一種類の糖を含む液を作製し、同様に反応させた。表2に、グルコースのみを含む液を用いた場合と、グルコースにさらに他の糖を加えた液を用いた場合との応答シグナルを比較した結果を示す。なお、表2中の数値は、他の糖を加えない場合の電気化学シグナルの強度を100とした場合の相対値として示す。GDH−D、E、Fを用いたセンサにおいては、マルトース・ガラクトース・キシロースの全てもしくはいずれかがグルコースと共存する際に、グルコースのみを含む液を用いた場合と比して明らかなシグナル値の増大がみられる。一方、GDH−A、B、Cを用いたセンサでは、マルトース・ガラクトース・キシロースの共存によるシグナル値の増大はみられなかった。
【0028】
【表2】

【実施例3】
【0029】
実施例2で用いたものと同じ電極センサを用いて、下記組成からなる水溶液3μLから実施例2と同様の要領でグルコースセンサチップを作製した。
・50mM 酸化型NAD
・GDH−A(実施例1で作製したもの)
・200mM フェリシアン化カリウム
・0.5mM 1−メトキシ−5−フェナジンメトサルフェート
・50mM リン酸カリウムバッファー (pH7.0)
続いて、濃度3mM、5mM、7mM、10mM、15mM、20mMのグルコース溶液、およびこれら各濃度のグルコース溶液にさらにマルトース・ガラクトース・キシロースのいずれかをさらに20mMの濃度で含む溶液を作製した。ポテンショスタットに接続した上記チップに、これら試料溶液15μLをマイクロピペットで滴下し、滴下から35秒後に+300mVの電圧を印加、電流値を測定した。3mM〜20mMのグルコース濃度において、グルコース以外の糖の共存による応答値の増大があるかを調べた。図2、図3、図4にはそれぞれキシロース、マルトース、ガラクトースの共存による交差試験の結果を示す。少なくとも3mM〜20mMのグルコース濃度において、本発明のグルコースセンサはマルトース・ガラクトース・キシロースのいずれの共存下においても応答値の増大がみられないことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、試料中のグルコースを定量するためのグルコースセンサとして利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性基板上に少なくとも作用極と対極からなる電極を形成し、該電極に少なくとも電子伝達物質、グルコースデヒドロゲナーゼおよび該デヒドロゲナーゼの補酵素を含む組成物を接触させてなるグルコースセンサであって、グルコースを含む試料中に混在するマルトース、ガラクトース、及びキシロースがグルコースの定量に影響しないことを特徴とするグルコースセンサ。
【請求項2】
補酵素がニコチンアミドアデニンジヌクレオチドまたはニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸である、請求項1に記載のグルコースセンサ。
【請求項3】
グルコースデヒドロゲナーゼが、サーモプロテウス属微生物由来である、請求項2に記載のグルコースセンサ。
【請求項4】
グルコースデヒドロゲナーゼが、配列番号2に記載のアミノ酸配列に1ないし数個のアミノ酸を欠失・置換・挿入または付加してなり、かつグルコースデヒドロゲナーゼ活性を有するタンパク質である、請求項2に記載のグルコースセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−50300(P2011−50300A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−201540(P2009−201540)
【出願日】平成21年9月1日(2009.9.1)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】