説明

グルタミンシンセターゼ遺伝子の発現を不活性化する方法及び組成物

本明細書には、ジンクフィンガータンパク質と開裂ドメイン又は開裂ハーフドメインとを含む融合タンパク質を用い、グルタミンシンセターゼ(GS)遺伝子を不活性化させるための方法及び組成物が開示されている。この融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドも、上述のポリヌクレオチドと融合タンパク質とを含む細胞とともに記載されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(連邦支援の研究によってなされた発明の権利に関する記載)
適用なし
【0002】
本開示は、ゲノム操作、細胞培養、細胞株の作成及びタンパク質産生の分野におけるものである。
【背景技術】
【0003】
グルタミンシンセターゼ(GS)は、L−グルタミンというアミノ酸の合成に必須の酵素である。Meister,A.in Glutamine Metabolism,Enzymology and Regulation(J.Mora及びR.Palacios編集)1−40(Academic Press,N.Y.;1980)を参照されたい。GS陰性細胞株は、従って、L−グルタミン要求株である。GSは、CHO細胞由来の組み換えタンパク質発現系における選択マーカー遺伝子として頻繁に用いられている(Wurm et al.(2004)Nature Biotechnology 22:1393−1398)が、GS陰性CHO株が存在しないので、選択を行なうために、GS阻害剤であるメチオニンスルホキシイミンを用いる必要がある。
【0004】
それに加え、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR、5,6,7,8−テトラヒドロ葉酸:NADP+酸化還元酵素)は、真核生物にとっても原核生物にとっても重要な酵素であり、ジヒドロ葉酸をテトラヒドロ葉酸に還元するNADPH依存性還元を触媒し、このテトラヒドロ葉酸は、チミジル酸、プリンヌクレオチド、グリシン及びメチル化合物の生合成における1炭素単位の重要なキャリアである。
【0005】
DHFR欠損細胞は、組み換えタンパク質を産生するために長きにわたって使用されてきた。DHFR欠損細胞は、葉酸代謝に関与する特定の因子が補給された培地内でしか増殖しないか、又は、細胞に、例えば、トランス遺伝子としてDHFRが与えられている場合にしか増殖しない。DHFRトランス遺伝子が安定に組み込まれた細胞は、補給されていない培地でこの細胞を増殖させることによって選択することができる。さらに、単一のポリヌクレオチドを用いて細胞に導入する場合には、典型的には、外来配列を一緒に組み込む。従って、DHFRトランス遺伝子が、目的のタンパク質をコードする配列も含んでいる場合には、選択された細胞は、DHFRと目的のタンパク質の両方を発現するであろう。さらに、メトトレキサート(MTX)のような阻害剤に反応して、DHFR遺伝子のコピー数を増やすことができる。従って、外来DHFRとともに組み込まれた、目的のタンパク質をコードする配列は、上述の細胞を、濃度を徐々に高めたメトトレキサートにさらすことによって増やすことができ、これによって、目的の組み換えタンパク質を過剰発現させることができる。しかし、DHFR欠損細胞系は、組み換えタンパク質の発現に広く使用されているが、現時点で利用可能なDHFR欠損細胞株は、この株の由来である親細胞DHFRコンピテント細胞と同じようには増殖しない。
【0006】
従って、1箇所及び複数箇所の遺伝子ノックアウトを含む哺乳動物細胞は、研究、薬物開発、細胞による治療に大きな有用性をもつ。しかし、研究者が目的とする遺伝子を標的として機能を失わせる従来の方法は、相同組み換え又は遺伝子ターゲティングのプロセスによるものである。Mansour et al.(1988)Nature 336:348−352;Vasquez et al.(2001)Proc Natl Acad Sci USA 98:8403−8410;Rago et al.(2007)Nature Protocols 2:2734−2746;Kohli et al.(2004)Nucleic Acids Research 32,e3。所定の両アレルをノックアウトすることは可能であるが、多くの細胞型について、この技術は、効率が悪すぎて、通常の用途ではあまりにも根気の必要な技術である。例えば、Yamane−Ohnuki et al.(2004)Biotechnol Bioeng 87:614−622。標的遺伝子を欠損させるこれらの方法は、相同組み換えし、まれに起こる望ましい事象を単離するために薬物の選択を順次繰り返す必要があり、このプロセスは、個々の遺伝子座に対する用途を制限してしまうのに十分なほど、根気が必要である。その結果、複数の標的遺伝子座で改変した哺乳動物細胞株の作成は、大部分が未開発の状態である。
【0007】
ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)は、標的開裂及び遺伝子の不活性化に使用されている。例えば、米国特許公開第20030232410号;第20050208489号;第20050026157号;第20050064474号;第20060188987号;第20060063231号;第2008/0015164号、米国特許出願第12/218,035号、国際公開第WO 07/014275号を参照されたい。なお、これらの開示内容は、あらゆる目的のためにその全体が参照により組み込まれる。所定の標的配列に特異的な操作されたジンクフィンガーDNA結合ドメインと、Fok I(Flavobacterium okeanokoites由来の制限エンドヌクレアーゼ)の触媒ドメインとの融合によって作られた場合、ZFNは、選択されたゲノム位置で二本鎖DNA切断(DSB)を起こさせる能力をもつ。この部位特異的なDSBの除去は、ドナーDNAが与えられる場合には相同性による修復プロセスによって、又は非相同末端再結合(NHEJ)によって、細胞自体のDNA修復機構によって行なわれる。例えば、Urnov et al.(2005)Nature 435:646−651(2005);Moehle et al.(2007)Proc Natl Acad Sci U S A 104:3055−3060(2007);Bibikova,et al.(2001)Mol Cell Biol 21:289−297;Bibikova et al.(2003)Science 300:764;Porteus et al.(2005)Nature Biotechnology 23:967−973;Lombardo et al.(2007)Nature Biotechnology 25:1298−1306;Perez et al.(2008)Nature Biotechnology 26:808−816;Bibikova et al.(2002)Genetics 161:1169−1175;Lloyd et al.(2005)Proc Natl Acad Sci U S A 102:2232−2237;Morton et al.(2006)Proc Natl Acad Sci U S A 103:16370−16375を参照されたい。
【0008】
相同性による修復及びNHEJプロセスによって、標的とする遺伝子座の改変が起こるが、NHEJによるアプローチは、ドナーDNAの設計および合成を必要としないが、高い頻度で破壊されたアレルが生じ、NHEJが介在するDSB修復のエラーが起こりやすい性質をうまく利用して、ZFNをコードするDNA構築物の単純な一過性導入後に、哺乳動物細胞の標的遺伝子をノックアウトすることができる。例えば、Santiago et al.(2008)Proc Natl Acad Sci U S A 105:5809−5814を参照されたい。ZFNの技術によって、1個の細胞に由来するクローンを1つの96ウェルプレートより少ない数のスクリーニングを行なうことによって、いくつかの独立したノックアウト細胞株を単離することが可能になった。ドナーDNAを用いず、選択する方法も必要としないため、得られた1箇所の遺伝子ノックアウト株は、その後に遺伝子改変するのに適した出発細胞株である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本明細書には、GS遺伝子を部分的又は完全に不活性化するための組成物が開示されている。また、本明細書には、上述の組成物(試薬)を製造する方法及び使用する方法、例えば、細胞内でGSを不活性化し、GS遺伝子が不活性化された細胞を製造する方法も開示されている。GSが破壊された細胞株は、例えば、組み換えタンパク質の産生に有用である。
【0010】
一つの態様では、GS遺伝子に結合するように操作されたジンクフィンガータンパク質が与えられる。本明細書に記載されている任意のジンクフィンガータンパク質は、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、又はそれ以上のジンクフィンガーを含んでいてもよく、それぞれのジンクフィンガーは、GS遺伝子の標的サブサイトに結合する認識ヘリックスを有している。特定の実施形態では、ジンクフィンガータンパク質は、表1に示される4つ、5つ、又は6つのフィンガー(個々のジンクフィンガーは、F1、F2、F3、F4、F5、F6と称される)と、認識ヘリックスのアミノ酸配列とを含む。
【0011】
別の態様では、DHFR遺伝子に結合するように操作されたジンクフィンガータンパク質が与えられる。本明細書に記載されている任意のジンクフィンガータンパク質は、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、又はそれ以上のジンクフィンガーを含んでいてもよく、それぞれのジンクフィンガーは、DHFR遺伝子の標的サブサイトに結合する認識ヘリックスを有している。特定の実施形態では、ジンクフィンガータンパク質は、表2に示される4つ、5つ、又は6つのフィンガー(個々のジンクフィンガーは、F1、F2、F3、F4、F5、F6と称される)と、認識ヘリックスのアミノ酸配列とを含む。
【0012】
別の態様では、本明細書に記載されているいずれかのジンクフィンガータンパク質と、少なくとも1つの開裂ドメイン又は少なくとも1つの開裂ハーフドメインとを含む融合タンパク質も与えられる。特定の実施形態では、開裂ハーフドメインは、野生型FokI開裂ハーフドメインである。他の実施形態では、開裂ハーフドメインは、操作されたFokI開裂ハーフドメインである。
【0013】
さらに別の態様では、本明細書に記載されているタンパク質のどれでもコードするポリヌクレオチドが与えられる。
【0014】
さらに別の態様では、本明細書に記載されているタンパク質及び/又はポリヌクレオチドのどれでも含む単離された細胞も与えられる。特定の実施形態では、GSは、細胞内で(部分的又は完全に)不活性化される。本明細書に記載されているどの細胞も、例えば、選択された遺伝子内の標的部位に結合するように設計されたジンクフィンガーヌクレアーゼを用いて不活性化されたさらなる遺伝子を含んでいてもよい。特定の実施形態では、本明細書で、FUT8、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)及びグルタミンシンセターゼ(GS)が不活性化した細胞又は細胞株が与えられる。
【0015】
それに加え、細胞内又は細胞株内でGSを不活性化する方法において、ジンクフィンガータンパク質及びその融合物を用いる方法が与えられる。
【0016】
従って、別の態様では、本明細書で、細胞内で細胞GS遺伝子(例えば、内在性GS遺伝子)を不活性化する方法が与えられており、この方法は、(a)第1のポリペプチドをコードする第1の核酸を細胞に導入することを含み、この第1のポリペプチドが、(i)内在性GS遺伝子の第1の標的部位に結合するように操作されたジンクフィンガーDNA結合ドメインと、(ii)開裂ドメインとを含み、その結果、上述のポリペプチドが上述の細胞内で発現し、それによって、上述のポリペプチドが上述の標的部位に結合し、上述のGS遺伝子を開裂させる。特定の実施形態では、この方法は、第2のポリペプチドをコードする核酸を導入することをさらに含み、この第2のポリペプチドが、(i)GS遺伝子の第2の標的部位に結合するように操作されたジンクフィンガーDNA結合ドメインと、(ii)開裂ドメインとを含み、その結果、上述の第2のポリペプチドが上述の細胞内で発現し、それによって、上述の第1のポリペプチド及び上述の第2のポリペプチドがそれぞれの標的部位に結合し、上述のGS遺伝子を開裂させる。第1のポリペプチド及び第2のポリペプチドは、第1の核酸によってコードされてもよいし、異なる核酸によってコードされてもよい。特定の実施形態では、1つもしくは複数のさらなるポリヌクレオチド又はポリペプチド、例えば、さらなるジンクフィンガータンパク質をコードするポリヌクレオチドが上述の細胞内に導入される。
【0017】
さらに別の態様では、本開示は、宿主細胞において目的の組み換えタンパク質を産生する方法を与え、この方法が、(a)内在性GS遺伝子を含む宿主細胞を得るステップと、(b)上述の宿主細胞の内在性GS遺伝子を、本明細書に記載されているいずれかの方法によって不活性化するステップと、(c)目的のタンパク質をコードする配列を含むトランス遺伝子を含む発現ベクターを、上述の宿主細胞に導入するステップとを含み、これによって組み換えタンパク質を産生する。特定の実施形態では、目的のタンパク質は、抗体、例えば、モノクローナル抗体を含む。
【0018】
本明細書に記載されているいずれかの細胞及び方法において、細胞又は細胞株は、例えば、以下の細胞に限定されないが、COS、CHO(例えば、CHO−S、CHO−K1、CHO−DG44、CHO−DUXB11、CHO−DUKX、CHOK1SV)、VERO、MDCK、WI38、V79、B14AF28−G3、BHK、HaK、NS0、SP2/0−Ag14、HeLa、HEK293(例えば、HEK293−F、HEK293−H、HEK293−T)、NIH3T3、perC6、Spodoptera fugiperda(Sf)のような昆虫細胞、又はSaccharomyces、Pichia、Schizosaccharomycesのような真菌細胞であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1A】図1の図A〜Eは、CHO細胞におけるZFNが介在するグルタミンシンセターゼ遺伝子の破壊と、シングルノックアウトGS-/-細胞株の作成を示している。図1Aは、活発に転写されたGS遺伝子を模式的に示しており、7個のエクソンを含んでいる。開始コドンATGは、エクソン2内にある。また、図1Aは、記載のようにZFN対ZFN9372/ZFN9075の標的配列がエクソン6にあること、ZFN対8361/8365の標的配列がエクソン2にあることも示している。エクソン6を標的とするさらなるZFN(9076、9179、7858、7889、9373)も示されている。
【図1B】図1Bは、SurveyorTMNuclease Assayで決定される場合の、CHO−K1細胞(左側のパネル)又はCHO−S細胞(右側のパネル)の中にあるFok Iの触媒ドメインの野生型又は絶対的なヘテロ二量体EL/KK改変体のいずれかに結合したZFN対9372/9075を用いた、ZFNが介在する内在性CHO GS遺伝子の破壊を示すゲルである。
【図1C】図1Cは、示されている細胞株の標的GS遺伝子座の例示的なDNA配列を、外からL−グルタミンを加えない状態での増殖特性とともに示す(「L−Glu増殖」;「+」:L−グルタミンが存在しない状態で、野生型CHOと変わらない増殖;「−」:L−グルタミンが存在しない状態で、増殖しない)。ZFN標的配列には下線が引かれている。タンパク質への翻訳は、野生型配列の下に示されている。大文字はエクソン配列を示し、小文字はイントロン配列を示し、「−」は欠損を示し、太字は挿入部を示す。
【図1D】図1Dは、抗GSモノクローナル抗体を用いた(上側のパネル)、選択されたCHO−S細胞株(左側のパネル)及びCHO−K1細胞株(右側のパネル)のウェスタンブロット分析を示す。ローディングコントロールとして、ブロットを抗DHFR抗体(下側の図)で再びプローブした。
【図1E】図1Eは、選択されたCHO−K1 GS-/-細胞株を約3ヶ月間増殖させた場合の増殖及び生存率を示すグラフを示す。これらの細胞株の生存率(グラフ上部のなめらかな線)及び生存可能な細胞の密度(ギザギザの線)を、最初の3ヶ月の後30日間示しており、ここで、細胞を、L−グルタミンを補給した培地中で増殖させ、この細胞を2〜3日ごとに分けた。L−グルタミンを断ったときを矢印で示した。
【図2A】図2のパネルA〜Fは、CHO細胞におけるZFNが介在するDHFR遺伝子の破壊と、ダブルノックアウトDHFR-/-GS-/-細胞株の作成を示している。図2Aは、CHO細胞におけるDHFR遺伝子のゲノム構成と、ZFN対9461/7844の標的部位の位置(エクソン1にある、米国特許出願第20080015164号を参照)、ZFN対9476/9477の標的部位の位置(エクソン1のZFN9461/7844開裂部位から3’方向に240bpのイントロン1にある)を示している。
【図2B】図2Bは、SurveyorTMNuclease Assayで測定される場合の、ZFN対9461/7844(左側のパネル)及びZFN対9476/9477(右側のパネル)を用いた遺伝子改変の程度を示している。
【図2C】図2Cは、両ZFN対をコードするプラスミドによる同時トランスフェクションから2日後のGS-/-クローンB3ゲノムDNAのPCR分析を示しており、DHFR遺伝子座の約240bpが欠損していた(第7レーンの小さな矢印)。コントロールとして準備したのは、空のベクター(第1レーン)、GFPコントロールベクター(第2レーン)、エクソンのZFN対のみ(ZFN9461/ZFN7844、第3レーン)、イントロンのZFN対のみ(ZFN9476/ZFN9477、第4レーン)、欠損部に対して「内側」のZFN(ZFN7844及びZFN9477、第5レーン)、欠損部に対して「外側」のZFN(ZFN9461及びZFN9476、第6レーン)でトランスフェクトした細胞であった。
【図2D】図2Dは、1個の細胞株のDHFR遺伝子タイピング分析の結果を示す。ホモ接合性クローンの場合、両アレルの共通配列を示している。複合ヘテロ接合性クローンの場合、各固有のアレルの配列が示されている。
【図2E】図2Eは、各レーンの上に示されている細胞株から得た細胞全溶解物の指定の抗体(DHFR、GS、β−チューブリン)を用いたウェスタンブロット分析を示す。細胞株1F1.6及び2B12.8(DHFR/GSノックアウト)を分析しつつ、親細胞であるGS-/-細胞株B3、野生型CHO細胞(WT)、DHFR欠損CHO細胞株DG44(Urlab et al.(1983)Cell 33:405−412)をコントロールとして使用した。
【図2F】図2Fは、1F1.6細胞株及び2B12.8細胞株の増殖と、外から与えたヒポキサンチン、チミジン及びグルタミンに対する、上述の株の依存性を示す。
【図3A】図3ののパネルA〜Dは、CHO細胞におけるZFNが介在するFUT8遺伝子の破壊と、トリプルノックアウトFUT8-/-DHFR-/-GS-/-細胞株の作成を示している。図3Aは、エクソン10に位置するFUT8 Fut motif IIをコードする重要で高度に保存された領域を標的とするZFNを模式的に示している。また、米国特許出願第12/218,0135号も参照されたい。
【図3B】図3Bは、SurveyorTMNuclease Assayを用いて測定される場合の、ZFN対12176/12172をDHFR-/-GS-/-クローン1F1.6に一過性導入してから2日後の遺伝子の改変度を示す。
【図3C】図3Cは、FACS分析による、トリプルKOクローン35F2及び14C1(パネルの左側の線)の蛍光−LCA結合活性を示す。F−LCA染色した野生型CHO−S細胞(パネルの右側の線)をポジティブコントロールとして与え、染色していない細胞(点線)をネガティブコントロールとして与えた。
【図3D】図3Dは、トリプルノックアウト細胞株35F2及び14C1について、FUT8遺伝子座の遺伝子型(両アレルについて)を示しており、示されている配列は、両アレルについてのものである。大文字はエクソン10の配列を示し、小文字はイントロン配列を示し、斜体はFut motif II配列を示し、太字は配列挿入部を示し、「−」は欠損を示す。また、タンパク質への翻訳は、野生型配列の下に示されている。下線部は、ZFN結合部位を示す。
【図4A】図4のパネルA〜Cは、例示的なZFNの設計と、CHO GS遺伝子におけるZFNの標的部位とを示す。図4Aは、CHO細胞内の、機能的なイントロンを含有するグルタミンシンセターゼ遺伝子の模式図である。この遺伝子は、7個のエクソンを含み、開始コドンATGは、エクソン2内にあり、エクソン6にあるZFN対ZFN9372/ZFN9075の標的配列も示されている。エクソン6の周囲にある目的の領域のヌクレオチド配列が示されている。大文字はエクソン6の配列を示しており、小文字はイントロン配列を示している。ZFN9372及びZFN9075の標的配列には下線が引かれている。
【図4B】図4Bは、二本鎖の標的配列(下線が引かれている)へのZFN9372及びZFN9075の結合を模式的に示している。
【図4C】図4Cは、ZFN9372及びZFN9075の標的配列及びジンクフィンガーの設計を示している。コアDNAの標的配列(大文字)及び2つのフランキング塩基(小文字)が示されている。ZFN9075は、4つのジンクフィンガーDNA結合ドメインを含んでおり、ZFN9372は、6つのジンクフィンガードメインを含んでいる。示されている標的DNAトリプレットに対する、それぞれのジンクフィンガーDNA結合ドメインの認識αヘリックスの「−1」位置〜「+6」位置にあるアミノ酸残基が示されている。
【図5】図5は、ZFNでトランスフェクトした細胞に由来するゲノムGS遺伝子座の例示的な配列決定結果を示す。「C」は、数(所定の配列が観察された回数)を指し、「G」は、遺伝子型を指す。ZFNの標的配列には下線が引かれている。太字は配列挿入部を示し、「−」は欠損を示す。
【図6】図6は、ホモ接合性GS-/-細胞株(クローンB3)のL−グルタミン依存性増殖を示すグラフである。L−グルタミン存在下で、CHO−S GS-/-クローンB3(三角)は、野生型CHO−S(ひし形)と同様に増殖する。外来性L−グルタミンが存在しない状態では、クローンB3(丸)は増殖が止まり、すべての細胞が4日以内に死滅したが、一方、野生型CHO細胞(四角)は、増殖速度は低下したが、増殖は続いた。
【図7A】図7のパネルA〜Cは、例示的なZFNの設計と、CHO DHFR遺伝子におけるZFNの標的部位とを示す。図7Aは、CHO細胞内の指定のZFN対が標的とするDHFR領域のヌクレオチド配列を示す。大文字はエクソン配列を示し、小文字はイントロン配列を示す。
【図7B】図7Bは、二本鎖の標的配列(下線が引かれている)へZFNが結合する場合に、DHFRを標的とするZFNを模式的に示している。「内側」の標的配列と記載されている2つのZFNは、欠損される領域に対して内側にあり、一方、「外側」の標的配列と記載されている2つのZFNは、予想される欠損の結合部より外側にある。
【図7C】図7Cは、標的配列と、CHO DHFR遺伝子を標的とする例示的なZFNのジンクフィンガーの設計とを示す。コアDNAの標的配列(大文字)及び2つのフランキング塩基(小文字)が示されている。すべてのZFNは、4つのジンクフィンガーDNA結合ドメインを含んでいる。示されている標的DNAのトリプレットに対する、それぞれのジンクフィンガーDNA結合ドメインの認識αヘリックスの「−1」位置〜「+6」位置にあるアミノ酸残基が示されている。
【図8】図8は、ZFNでトランスフェクションした細胞に由来するゲノムDHFR遺伝子座の例示的な配列決定結果を示す。「C」は、数(所定の配列が観察された回数)を指し、「G」は、遺伝子型を指す。ZFNの標的配列には下線が引かれている。太字は配列挿入部を示し、「−」は欠損を示す。太字は配列挿入部を示す。斜体は配列変更点を示す。大文字はエクソン配列を示し、小文字はイントロン配列を示す。
【図9A】図9のパネルA〜Cは、CHO FUT8遺伝子を標的とするZFNの標的部位と、フィンガーの設計とを示す。図9Aは、FUT8遺伝子のエクソン10内にあるZFN結合部位とともに、エクソン10内にある標的領域のヌクレオチド配列を模式的に示す。大文字はエクソン10の配列を示し、小文字はイントロン配列を示す。ZFN12176及びZFN12172の標的配列には下線が引かれている。フコシルトランスフェラーゼモチーフIIを含むヌクレオチドは斜線で示されている。
【図9B】図9Bは、二本鎖の標的配列(下線が引かれている)に結合するZFN12176及びZFN12172の模式図である。
【図9C】図9Cは、標的配列と、ZFN12176及びZFN12172のジンクフィンガーの設計とを示す。コアDNAの標的配列(大文字)及び2つのフランキング塩基(小文字)が示されている。ZFN12176は、5種類のジンクフィンガーDNA結合ドメインを含んでおり、ZFN12172は、6種類のジンクフィンガードメインを含んでいる。示されている標的DNAのトリプレットに対する、それぞれのジンクフィンガーDNA結合ドメインの認識αヘリックスの「−1」位置〜「+6」位置にあるアミノ酸残基が示されている。
【図10A】図10のパネルA〜Cは、CCR5、GR及びAAVS1の遺伝子座のZFN標的化を示す。図10Aは、C−Cケモカイン受容体5(CCR5)、グルココルチコイド受容体(GR)、アデノ随伴ウイルスの組込部位(AAVS1)の遺伝子座の中にあるZFNが標的とする部位の位置をそれぞれ模式的に示す。
【図10B】図10Bは、Fok触媒ドメインの野生型、ZFN−Fok I(wt)又は絶対的なヘテロ二量体EL/KK改変体、ZFN−Fok I(EL/KK)のいずれかに結合したZFN対をK562細胞に一過性同時トランスフェクションしてから20日後に測定した場合、SurveyorTMNuclease Assayで測定される場合の、CCR5(左側のパネル)、GR(中央のパネル)、AAVS1(右側のパネル)の遺伝子座の、ZFNが介在する同時破壊を示す。各レーンの処理は以下のとおりである。第1レーン、CCR5 ZFN−FokI(wt);第2レーン、GR ZFN−Fok I(wt);第3レーン、AAVS1 ZFN−Fok I(wt);第4レーン、CCR5 ZFN−Fok I(EL/KK);第5レーン、GR ZFN−Fok I(EL/KK);第6レーン、AAVS1 ZFN−Fok I(EL/KK);第7レーン、CCR5 ZFN−FokI(wt)+GR ZFN−FokI(wt)+AAVS1 ZFN−FokI(wt);第8レーン、CCR5 ZFN−FokI(EL/KK)+GR ZFN−FokI(EL/KK)+AAVS1 ZFN−FokI(EL/KK)。
【図10C】図10Cは、1種類のトリプルノックアウトクローンの遺伝子型を示し、指定の細胞株について、標的であるCCR5、GR、AAVS1の遺伝子座が示されている。ZFNの標的配列には下線が引かれている。「−」は欠損を示し、太字は挿入部を示す。
【図11A】図11のパネルA及びBは、示されている種と、本明細書で決定したCHO GSゲノム配列との配列アラインメントを示す。図11Aは、エクソン2配列のアラインメントを示す。ZFN8361及びZFN8365の標的部位には下線が引かれている。
【図11B】図11Bは、エクソン6配列のアラインメントを示す。ZFN9075及びZFN9372の標的部位には下線が引かれている。
【図12】図12のパネルA〜Dは、ヒト細胞及びマウス細胞における、ZFNが介在する破壊を示している。図12A及び図12Bは、CHO GSのエクソン2(図12A)及びCHO GSのエクソン6(図12B)を標的とするZFNが介在する、ヒトK562におけるGSの破壊を示す。図12C及び図12Dは、CHO GSのエクソン2(図12C)及びCHO GSのエクソン6(図12D)を標的とするZFNが介在する、マウスNeuro2a細胞におけるGSの破壊を示す。
【図13A】図13のパネルA〜Cは、CHO GS遺伝子座の完全なゲノム配列を示す(配列番号55)。イントロン及びエクソンは、示されているとおりの名称である。
【図13B】図13のパネルA〜Cは、CHO GS遺伝子座の完全なゲノム配列を示す(配列番号55)。イントロン及びエクソンは、示されているとおりの名称である。
【図13C】図13のパネルA〜Cは、CHO GS遺伝子座の完全なゲノム配列を示す(配列番号55)。イントロン及びエクソンは、示されているとおりの名称である。
【図14A】図14のパネルA〜Cは、HEK293細胞におけるGS特異的な遺伝子標的化の結果を示す。図14Aは、GFPドナー分子(GFPと記載されている)でトランスフェクトされた細胞と比較した場合の、GS特異的なZFN(GSと記載されている)で処理された細胞におけるNHEJ活性の割合を示す。
【図14B】図14Bは、GS特異的なZFNで処理された細胞プールに由来する2種類のクローンg17及びg52が、ウェスタンブロットによってアッセイされる場合、GSを発現しないことを示している。
【図14C】図14Cは、GSノックアウトクローンの7日間の増殖を示すグラフであり、増殖のためにグルタミンの補給を必要とすることを示している。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書には、GS遺伝子を部分的又は完全に不活性化するための組成物及び方法が記載されている。また、本明細書には、上述の組成物(試薬)を製造する方法及び使用する方法、例えば、標的細胞内でGSを不活性化するために、上述の組成物(試薬)を製造する方法及び使用する方法も開示されている。標的細胞において、GS単独での不活性化、又はDHFR及びFUT8のような他の遺伝子と合わせての不活性化を利用し、組み換えタンパク質を発現するための細胞株、例えば、抗体依存性細胞傷害性(ADCC)の上昇を誘発するモノクローナル抗体を作成することができる。
【0021】
(概要)
本方法の実施、及び本明細書に開示されている組成物の調製及び使用は、他の意味であると示されていない限り、分子生物学、生化学、クロマチンの構造及び分析、計算化学、細胞の培養、組み換えDNA、及び当該技術分野の技術内容に入るような関連する分野における従来の技術を利用する。これらの技術は、文献に完全に説明されている。例えば、Sambrook et al.MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL,Second edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989 and Third edition,2001;Ausubel et al.,CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY,John Wiley & Sons,New York,1987及び定期的な更新;METHODS IN ENZYMOLOGYシリーズ,Academic Press,San Diego;Wolffe,CHROMATIN STRUCTURE AND FUNCTION,Third edition, Academic Press, San Diego,1998;METHODS IN ENZYMOLOGY,Vol.304,「Chromatin」(P.M.Wassarman及びA.P.Wolffe編集),Academic Press,San Diego,1999;及びMETHODS IN MOLECULAR BIOLOGY,Vol.119,「Chromatin Protocols」(P.B. Becker編集)Humana Press,Totowa,1999を参照されたい。
(定義)
用語「核酸」、「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」は、同じ意味で用いられ、線状又は環状の形状で、一本鎖又は二本鎖の形態のデオキシリボヌクレオチド又はリボヌクレオチドのポリマーを指す。本開示の目的のために、これらの用語は、ポリマー長に関して限定があるものと解釈すべきでない。これらの用語は、天然ヌクレオチドの既知のアナログ、塩基部分、糖部分及び/又はリン酸部分で改変されたヌクレオチド(例えば、ホスホロチオエート骨格)も包含していてもよい。一般的に、特定のヌクレオチドのアナログは、同じ塩基対合特異性を有しており、すなわち、Aのアナログは、Tと塩基対合するであろう。
【0022】
用語「ポリペプチド」、「ペプチド」、「タンパク質」は、同じ意味で用いられ、アミノ酸残基のポリマーを指す。また、この用語は、1つもしくは複数のアミノ酸が、対応する天然に存在するアミノ酸の化学アナログ又は改変された誘導体であるようなアミノ酸ポリマーにも適用される。
【0023】
「結合(binding)」は、高分子間の(例えば、タンパク質と核酸との間の)、配列特異的な非共有結合による相互作用を指す。結合相互作用のすべての成分が配列特異性であることが必要なわけではなく(例えば、DNA骨格にあるリン酸残基と接触する)、全体としての相互作用が配列特異的であればよい。このような相互作用は、一般的に、解離定数(Kd)が10-6-1以下であることを特徴とする。「アフィニティ」は、結合の強さを指し、結合アフィニティが高くなると、Kdが低くなるという相関関係がある。
【0024】
「結合性タンパク質」は、非共有結合によって別の分子と結合することが可能なタンパク質である。結合性タンパク質は、例えば、DNA分子に結合してもよく(DNA結合性タンパク質)、RNA分子に結合してもよく(RNA結合性タンパク質)、及び/又はタンパク質分子に結合してもよい(タンパク質結合性タンパク質)。タンパク質結合性タンパク質の場合には、自身に結合してもよく(ホモダイマー、ホモトリマーなどを形成する)、及び/又は、異なる1つもしくは複数のタンパク質の1つもしくは複数の分子に結合してもよい。結合性タンパク質は、2種類以上の結合活性を有していてもよい。例えば、ジンクフィンガータンパク質は、DNA結合活性、RNA結合活性、タンパク質結合活性を併せ持つ。
【0025】
「ジンクフィンガーDNA結合性タンパク質」(又は結合ドメイン)は、1つもしくは複数のジンクフィンガーを介して、配列特異的な様式でDNAに結合するタンパク質であるか、又は大きなタンパク質の中にあるドメインであり、ジンクフィンガーは、この構造が亜鉛イオンの配位によって安定化するような、結合ドメイン内にあるアミノ酸配列の領域である。ジンクフィンガーDNA結合性タンパク質との用語は、ジンクフィンガータンパク質又はZFPと略されることが多い。
【0026】
ジンクフィンガー結合ドメインは、所定のヌクレオチド配列に結合するように「操作されて」いてもよい。ジンクフィンガータンパク質を操作する非限定的な方法の例は、設計及び選択である。設計されたジンクフィンガータンパク質は、天然には存在しないタンパク質であり、主に、合理的な基準によって設計/組成がなされているタンパク質である。設計するための合理的な基準は、既存のZFP設計及び結合データに関するデータベースに格納されている情報に、置換則及び処理情報のためのコンピュータ化されたアルゴリズムを適用することを含む。例えば、米国特許第6,140,081号;第6,453,242号;第6,534,261号;また、WO98/53058号;WO98/53059号;WO98/53060号;WO02/016536号、WO03/016496号も参照されたい。
【0027】
「選択された」ジンクフィンガータンパク質は、天然には存在しないタンパク質であり、このタンパク質は、主に、ファージディスプレイ、相互作用トラップ又はハイブリッド選択のような経験的なプロセスによって産生する。例えば、US5,789,538号;US5,925,523号;US6,007,988号;US6,013,453号;US6,200,759号;WO95/19431号;WO96/06166号;WO98/53057号;WO98/54311号;WO00/27878号;WO01/60970号;WO01/88197号、WO02/099084号を参照されたい。
【0028】
用語「配列」は、任意の長さのヌクレオチド配列を指し、DNAであってもRNAであってもよく、線状でも環状でもよく、分岐していてもよく、一本鎖であっても二本鎖であってもよい。用語「ドナー配列」は、ゲノムに挿入されるヌクレオチド配列を指す。ドナー配列は、任意の長さを有していてもよく、例えば、2〜10,000ヌクレオチド長(又は、この範囲内の任意の整数値又はこれより大きな任意の整数値)であってもよく、好ましくは、約100〜約1,000ヌクレオチド長(又は、この範囲内の任意の整数値)、さらに好ましくは、約200〜約500ヌクレオチド長であってもよい。
【0029】
「相同性があり、同一ではない配列」は、第1の配列が、第2の配列とある程度同一の配列を共有しているが、その配列が第2の配列と同一ではないような配列を指す。例えば、変異遺伝子の中で野生型配列を含むポリヌクレオチドは、その変異遺伝子の配列とは相同性があり、同一ではない。特定の実施形態では、2つの配列間の相同性の程度は、相互に相同組み換えし、通常の細胞機能で利用することが可能なほど十分に相同性がある。相同性があり、同一ではない2つの配列は、任意の長さを有していてもよく、ヌクレオチド1個程度なら(例えば、標的の相同組み換えによってゲノム点変異を修正するため)、相同性がなくてもよく、10キロベース又はそれを少し超える程度なら(例えば、染色体内の所定の転位部位に遺伝子を挿入するため)、相同性がなくてもよい。相同性があり、同一ではない配列を含む2つのポリヌクレオチドは、同じ長さである必要はない。例えば、20〜10,000ヌクレオチド又はヌクレオチド対をもつ外来性ポリヌクレオチド(すなわち、ドナーポリヌクレオチド)を用いてもよい。
【0030】
核酸及びアミノ酸配列の同一性を決定する技術は、当該技術分野で知られている。典型的には、このような技術は、ある遺伝子のためのmRNAのヌクレオチド配列を決定すること、及び/又はこのヌクレオチド配列によってコードされるアミノ酸配列を決定することと、これらの配列を、第2のヌクレオチド又はアミノ酸配列と比較することとを含む。また、この様式で、ゲノム配列を決定し、比較することもできる。一般的に、同一性とは、ヌクレオチド同士又はアミノ酸同士で、それぞれ、2種類のポリヌクレオチド配列又はポリペプチド配列の対応が厳密に取れていることを指す。2種類以上の配列(ポリヌクレオチド又はアミノ酸)を、同一性の割合を決定することによって比較することができる。2つの配列(核酸であってもアミノ酸配列であってもよい)の同一性の割合は、2つのアラインメントした配列の中で、正確に一致している個数を、短い方の配列の長さで割り、100を掛けたものである。核酸配列の大まかなアラインメントは、Smith及びWaterman、Advances in Applied Mathematics 2:482−489(1981)の局部的な相同性アルゴリズムによって与えられる。このアルゴリズムを、Dayhoff,Atlas of Protein Sequences and Structure,M.O.Dayhoff編,5 suppl.3:353−358,National Biomedical Research Foundation,Washington,D.C.,USAによって開発されたスコア行列を用い、Gribskov,Nucl.Acids Res.14(6):6745−6763(1986)によって正規化することによって、アミノ酸配列に適用してもよい。ある配列の同一性の割合を決定するために、このアルゴリズムを行なう例は、Genetics Computer Group(ウィスコンシン州マディソン)によって、「BestFit」という実用的なアプリケーションで与えられている。配列間の同一性の割合又は類似性を算出するのに適した他のプログラムも一般的に当該技術分野で知られており、例えば、別のアラインメントプログラムは、デフォルトパラメータで使用されるBLASTである。例えば、以下のデフォルトパラメータを用い、BLASTN及びBLASTPを使用してもよい。遺伝暗号=standard;フィルタ=なし;ストランド=both;カットオフ値=60;期待値=10;行列=BLOSUM62;Descriptions=50配列;ソート=HIGH SCOREによる;データベース=重複なし、GenBank+EMBL+DDBJ+PDB+GenBank CDS translations+Swiss protein+Spupdate+PIR。これらのプログラムの詳細は、GenBankのウェブサイトで見つけることができる。本明細書に記載されている配列に関し、所定の配列同一性の範囲は、約80%〜100%であり、この範囲内の任意の整数値である。典型的には、配列間の同一性の割合は、少なくとも70〜75%であり、好ましくは、80〜82%、さらに好ましくは85〜90%、さらにもっと好ましくは92%、さらになお好ましくは95%、最も好ましくは98%の配列同一性である。
【0031】
又は、ポリヌクレオチド間の配列類似性の割合は、相同性領域の間で安定な二本鎖を生成するような条件下でポリヌクレオチドをハイブリダイゼーションし、次いで、一本鎖に特異的なヌクレアーゼで消化し、消化したフラグメントの大きさを決定することによって決定することができる。2つの核酸又は2つのポリペプチド配列は、その配列が、分子の所定の長さ範囲において、上述の方法を用いて決定された場合に少なくとも約70%〜75%、好ましくは80%〜82%、さらに好ましくは85%〜90%、さらにもっと好ましくは92%、さらになお好ましくは95%、最も好ましくは98%の配列同一性を示す場合に、互いに実質的に相同性である。また、本明細書で使用される場合、実質的に相同性であるとは、特定のDNA又はポリペプチド配列に対し、完全に同一性を示す配列も指している。実質的に相同性のDNA配列は、例えば、特定の系で定義されているようなストリンジェントな条件で、サザンハイブリダイゼーション実験で同定することができる。適切なハイブリダイゼーション条件を定義することは、当該技術分野の技術常識の範囲内である。例えば、Sambrook et al.(前出);Nucleic Acid Hybridization:A Practical Approach,編集者B.D.Hames及びS.J.Higgins,(1985)Oxford;Washington,DC;IRL Press)を参照されたい。
【0032】
2つの核酸フラグメントの選択的なハイブリダイゼーションを、以下のように決定することができる。2つの核酸分子間の配列同一性の割合は、この分子間のハイブリダイゼーション事象の効率及び強度に影響を与える。部分的に同一の核酸配列は、標的分子に対する、完全に同一の配列のハイブリダイゼーションを少なくとも部分的に阻害するであろう。完全に同一な配列のハイブリダイゼーションの阻害は、当該技術分野でよく知られているハイブリダイゼーションアッセイを用いて評価することができる(例えば、サザン(DNA)ブロット、ノーザン(RNA)ブロット、溶液ハイブリダイゼーションなど、Sambrook,et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Second Edition,(1989)Cold Spring Harbor,N.Y.を参照)。このようなアッセイを、種々の選択性を用いて行ってもよく、例えば、低ストリンジェントな条件から高ストリンジェントな条件までのさまざまな条件を用いて行ってもよい。低ストリンジェントな条件が用いられる場合、部分的にすら配列同一性がない第2のプローブ(例えば、標的分子との配列同一性が約30%未満のプローブ)を用いて、非特異的な結合が存在しないことを評価することができ、その場合、非特異的な結合事象が存在しない場合には、この第2のプローブは、標的とハイブリダイズしないであろう。
【0033】
ハイブリダイゼーションによる検出システムを利用する場合、リファレンスとなる核酸配列と相補性の核酸プローブが選択され、次いで、適切な条件を選択することによって、プローブとリファレンス配列とが、互いに選択的にハイブリダイズつまり結合し、二本鎖分子を形成する。中程度にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でリファレンス配列と選択的にハイブリダイズさせることが可能な核酸分子は、典型的には、選択された核酸プローブの配列と少なくとも約70%の配列同一性を有する少なくとも約10〜14ヌクレオチド長の標的核酸配列を検出することが可能な条件でハイブリダイズする。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件では、典型的には、選択された核酸プローブの配列と約90〜95%を超える配列同一性を有する少なくとも約10〜14ヌクレオチド長の標的核酸配列を検出することができる。プローブとリファレンス配列とが特定の配列同一性を有するようなプローブ/リファレンス配列のハイブリダイゼーションに有用なハイブリダイゼーション条件は、当該技術分野で知られているように決定することができる(例えば、Nucleic Acid Hybridization:A Practical Approach,編集者B.D.Hames and S.J.Higgins,(1985)Oxford;Washington,DC;IRL Pressを参照)。
【0034】
ハイブリダイゼーション条件は、当業者にはよく知られている。ハイブリダイゼーションの厳密さは、ハイブリダイゼーション条件が、ミスマッチしたヌクレオチドを含むハイブリッドをどれほど形成しづらいかという程度を指し、厳密さが高くなると、ミスマッチしたハイブリッドの許容性が低くなるという相関関係にある。ハイブリダイゼーションの厳密性に影響を与える因子は、当業者には十分に知られており、温度、pH、イオン強度、例えば、ホルムアミド及びジメチルスルホキシドのような有機溶媒の濃度が挙げられるが、これらに限定されない。当業者には知られているように、ハイブリダイゼーションの厳密さは、温度を高くし、イオン強度を下げ、溶媒濃度を下げることによって高くなる。
【0035】
ハイブリダイゼーション条件の厳密さに関し、例えば、配列の長さ及び性質、種々の配列の塩基組成、塩及び他のハイブリダイゼーション溶液成分の濃度、ハイブリダイゼーション溶液中のブロッキング剤の有無(例えば、硫酸デキストラン、ポリエチレングリコール)、ハイブリダイゼーション反応の温度及び時間のパラメータ、並びに種々の洗浄条件のような因子を変えることによって、特定の厳密さを確立するのに多くの等価な条件を利用してもよいことは、当該技術分野でよく知られている。特定の一連のハイブリダイゼーション条件の選択は、当該技術分野で標準的な方法に従って選択される(例えば、Sambrook,et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Second Edition,(1989)Cold Spring Harbor,N.Y.を参照)。
【0036】
「組み換え」は、2つのポリヌクレオチド間で遺伝情報を交換するプロセスを指す。本開示の目的のために、「相同組み換え(HR)」は、例えば、細胞の二本鎖の破壊を修復しているときに起こる変化の特殊な形態を指す。このプロセスは、ヌクレオチドの配列相同性を必要とし、「標的」分子(すなわち、二本鎖の破壊を受けた分子)を修復するテンプレートとして「ドナー」分子を用い、ドナーから標的に遺伝情報を移動するため、「非乗換え型遺伝子変換」又は「短路遺伝子変換(short tract gene conversion)」としてさまざまなものが知られている。任意の特定の理論によって束縛されることを望まないが、このような移動は、破壊した標的とドナーとの間で形成するヘテロ二本鎖DNAのミスマッチを修復すること、及び/又はドナーが、標的の一部分になり得る遺伝情報を再合成するのに使用されるような「合成に依存する鎖アニーリング」、及び/又は関連するプロセスを含んでいてもよい。このような特殊なHRによって、標的分子の配列が変わってしまい、ドナーポリヌクレオチドの配列の一部分又はすべてが、標的ポリヌクレオチドに組み込まれることが多い。
【0037】
「開裂」は、DNA分子の共有結合性骨格が破損することを指す。開裂は、ホスホジエステル結合の酵素又は化学物質による加水分解を含む種々の方法(ただし、これらに限定されない)によって開始される場合がある。一本鎖の開裂及び二本鎖の開裂の両方の可能性があり、二本鎖の開裂は、2つの別個の一本鎖開裂事象の結果として生じる場合がある。DNAが開裂すると、平滑末端又は付着末端が生じる場合がある。特定の実施形態では、融合ポリペプチドが、標的である二本鎖DNAを開裂させるために用いられる。
【0038】
「開裂ハーフドメイン」は、あるポリペプチド配列が、第2のポリペプチド(同じか、又は異なる)とともに、開裂活性(好ましくは、二本鎖の開裂活性)を有する複合体を形成するようなポリペプチド配列である。用語「第1の開裂ハーフドメイン及び第2の開裂ハーフドメイン」、「+及び−の開裂ハーフドメイン」、「右側及び左側の開裂ハーフドメイン」は、同じ意味で用いられ、二量化する開裂ハーフドメインの対を指す。
【0039】
「操作された開裂ハーフドメイン」は、ある開裂ハーフドメインが、別の開裂ハーフドメイン(例えば、別の操作された開裂ハーフドメイン)と必須ヘテロ二量体を形成するように改変されているような開裂ハーフドメインを指す。また、本明細書に参照により組み込まれる米国特許公開第2005/0064474号;第2007/0218528号、第2008/0131962号を参照されたい。
【0040】
「クロマチン」は、細胞内のゲノムを含む核タンパク質の構造である。細胞クロマチンは、核酸と、主にDNAと、タンパク質とを含んでおり、ヒストン染色体タンパク質と非ヒストン染色体タンパク質とが挙げられる。真核細胞の大部分のクロマチンは、ヌクレオソームの形態で存在し、ヌクレオソームのコアは、ヒストンH2A、H2B、H3、H4のうち2つを含む八量体に会合する約150塩基対のDNAと、ヌクレオソームのコアに向かって延びているリンカーDNA(有機体によって長さは可変)とを含む。ヒストンH1分子は、一般にリンカーDNAに結合している。本開示の目的のために、用語「クロマチン」は、原核細胞及び真核細胞の両方で、あらゆる種類の細胞内核タンパク質を包含するという意味がある。細胞内クロマチンは、染色体のクロマチン及びエピソームのクロマチンを含む。
【0041】
「染色体」は、細胞のすべてのゲノム又は一部分のゲノムを含むクロマチン複合体である。細胞のゲノムは、核型によって特徴づけられることが多く、細胞のゲノムを含むすべての染色体の集合である。細胞のゲノムは、1つもしくは複数の染色体を含んでもよい。
【0042】
「エピソーム」は、複製核酸、核タンパク質の複合体、又は細胞の染色体核型の一部分ではない核酸を含む他の構造である。エピソームの例としては、プラスミド及び特定のウイルスゲノムが挙げられる。
【0043】
「到達可能な領域」は、核酸に存在する標的部位に、この標的部位を認識する外来分子が結合することが可能な、細胞内クロマチンの中の部位である。任意の特定の理論によって束縛されることを望まないが、到達可能な領域は、ヌクレオソーム構造の中にはない領域であると考えられている。到達可能な領域の独特の構造は、化学物質及び酵素によるプローブ、例えば、ヌクレアーゼに対する感度によって検出可能であることが多い。
【0044】
「標的部位」又は「標的配列」は、結合が存在するのに十分な条件であれば結合分子が結合するような核酸の一部分を規定する核酸配列である。例えば、5’−GAATTC−3’配列は、EcoRI制限エンドヌクレアーゼの標的部位である。
【0045】
「外来」分子は、細胞内に通常は存在しないが、1つもしくは複数の遺伝的な方法、生化学的な方法、又は他の方法によって細胞に導入することが可能な分子である。「細胞内に通常は存在する」は、細胞の特定の進化段階及び環境条件について決定される。従って、例えば、筋肉の胚期の成長中にのみ存在する分子は、成人の筋肉細胞に関しては外来分子である。同様に、熱ショックによって誘発される分子は、熱ショックを受けていない細胞に関しては外来分子である。外来分子は、例えば、機能不全の外来分子のうち、正常に機能するもの、又は正常に機能する外来分子のうち、機能不全のものを含んでもよい。
【0046】
外来分子は、特に、コンビナトリアル化学プロセスによって作られるような低分子分子であってもよく、タンパク質、核酸、炭水化物、脂質、糖タンパク質、リポタンパク質、多糖類のような高分子、上述の分子の任意の改変された誘導体、又は上述の1つもしくは複数の分子を含む任意の複合体であってもよい。DNA及びRNAを含む核酸は、一本鎖であっても二本鎖であってもよく、線状でもよく、分岐していてもよく、又は環状であってもよく、任意の長さを有していてもよい。核酸は、二本鎖を形成可能なもの、及び三本鎖を形成する核酸を含む。例えば、米国特許第5,176,996号及び第5,422,251号を参照されたい。タンパク質としては、DNA結合性タンパク質、転写因子、クロマチンリモデリング因子、メチル化DNA結合性タンパク質、ポリメラーゼ、メチラーゼ、デメチラーゼ、アセチラーゼ、デアセチラーゼ、キナーゼ、ホスファターゼ、インテグラーゼ、リコンビナーゼ、リガーゼ、トポイソメラーゼ、ギラーゼ、ヘリカーゼが挙げられるが、これらに限定されない。また、外来分子は、その細胞の由来である種とは異なる種から誘導された、内在性分子と同じ種類の分子であってもよい。例えば、配列決定されたヒト核酸を、元来はマウス又はハムスターに由来する細胞株に導入してもよい。
【0047】
外来分子は、内在性分子と同じ種類の分子であってもよく、例えば、外来タンパク質又は核酸であってもよい。例えば、外来核酸は、細胞に導入された感染ウイルスのゲノム、プラスミド又はエピソームを含んでいてもよく、又は、細胞に通常は存在しない染色体を含んでいてもよい。外来分子を細胞に導入する方法は、当業者には知られており、脂質による移動(すなわち、中性脂質及びカチオン性脂質を含むリポゾーム)、エレクトロポレーション、直接注入、細胞融合、粒子衝突、リン酸カルシウムによる共沈、DEAE−デキストランによる移動、ウイルスベクターによる移動が挙げられるが、これらに限定されない。また、外来分子は、異なる種に由来する核酸を指すことができ、例えば、ハムスターゲノムに挿入されたヒト遺伝子を指すことができる。
【0048】
対照的に、「内在性」分子は、特定の環境条件で、特定の進化段階にある特定の細胞に通常に存在する分子である。例えば、内在性核酸は、染色体、ミトコンドリアのゲノム、葉緑体又は他のオルガネラ、又は天然に存在するエピソームの核酸を含んでもよい。さらなる内在性分子としては、タンパク質、例えば、転写因子及び酵素が挙げられる。
【0049】
「融合」分子は、2つ以上のサブユニット分子が接続している分子であり、好ましくは共有結合している分子である。サブユニット分子は、同じ化学種の分子であってもよく、又は、異なる化学種の分子であってもよい。第1の種類の融合分子の例としては、融合タンパク質(例えば、ZFP DNA結合ドメインと開裂ドメインとが融合したもの)、融合核酸(例えば、上に記載した融合タンパク質をコードする核酸)が挙げられるが、これらに限定されない。第2の種類の融合分子の例としては、三本鎖を形成する核酸とポリペプチドとが融合したもの、副溝バインダーと核酸とが融合したものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0050】
細胞内での融合タンパク質の発現は、融合タンパク質を細胞に送達することによって生じてもよく、又は、融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを細胞に送達することによって生じてもよく、このとき、ポリヌクレオチドが転写され、転写物が翻訳され、融合タンパク質が生成する。トランススプライシング、ポリペプチド開裂及びポリペプチドのライゲーションは、細胞内でのタンパク質の発現に関与している場合もある。ポリヌクレオチド及びポリペプチドを細胞に送達する方法は、本開示の他の箇所で示されている。
【0051】
「遺伝子」は、本開示の目的のために、遺伝子産物をコードするDNA領域(以下参照)と、遺伝子産物の産生を制御するすべてのDNA領域とを含み、このような制御配列がコード配列及び/又は転写配列に隣接していてもよく、隣接していなくてもよい。従って、遺伝子は、必ずしも以下のものに限定するわけではなく、プロモーター配列、ターミネーター、翻訳制御配列、例えば、リボソーム結合部位及び内部リボソーム侵入部位、エンハンサー、サイレンサー、インスレーター、境界要素、複製起点、マトリックス付着部位、遺伝子座調節領域を含む。
【0052】
「遺伝子発現」は、ある遺伝子に含まれる情報を遺伝子産物へと変換することを指す。遺伝子産物は、遺伝子を直接転写した産物(例えば、mRNA、tRNA、rRNA、アンチセンスRNA、shRNA、ミクロRNA(miRNA)リボザイム、構造RNA又は任意の他の種類のRNA)、又はmRNAの翻訳によって産生されるタンパク質であってもよい。また、遺伝子産物としては、キャッピング、ポリアデニル化、メチル化、エディティングのようなプロセスによって改変されたRNA、および、例えば、メチル化、アセチル化、リン酸化、ユビキチン化、ADP−リボシル化、ミリスチル化、グリコシル化によって改変されたタンパク質が挙げられる。
【0053】
遺伝子発現の「調節」は、遺伝子の活性を変えることを指す。発現の調節としては、遺伝子の活性化及び遺伝子の発現が挙げられるが、これらに限定されない。遺伝子の不活性化は、本明細書に記載されているZFPを含まない細胞と比較して、遺伝子の発現が何らかの形で低下することを指す。従って、遺伝子の不活性化は、完全なものであってもよく(ノックアウト)、又は部分的なものであってもよい(例えば、遺伝子が、通常の発現レベルよりも低い低次形態、又は、影響を与える活性が部分的に低下した、変異遺伝子の産物)。
【0054】
「真核」細胞としては、真菌細胞(例えば酵母)、植物細胞、動物細胞、哺乳動物細胞、ヒト細胞(例えば、、T細胞)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0055】
「目的の領域」は、細胞内クロマチンの任意の領域であり、例えば、遺伝子、又は遺伝子内にあるか、又は遺伝子に隣接する非コード領域であり、外来分子に結合することが望ましい。結合は、標的DNAを開裂させるため、及び/又は標的とする組み換えのためであってもよい。目的の領域は、染色体、エピソーム、オルガネラのゲノム(例えば、ミトコンドリア、葉緑体)の中に存在していてもよく、又は、例えば感染ウイルスのゲノムの中に存在していてもよい。目的の領域は、遺伝子のコード領域内にあってもよく、コード領域の上流又は下流の、転写された非コード領域内、例えば、リーダー配列、トレーラー配列又はイントロンの中にあってもよく、又は、転写されていない領域の中にあってもよい。目的の領域は、1個のヌクレオチド対と同等の大きさであってもよく、2,000ヌクレオチド対の長さであってもよく、又は任意の整数値のヌクレオチド対であってもよい。
【0056】
用語「動作可能な接続」及び「動作可能に接続する」(又は「操作可能に接続する」)は、同じ意味で用いられ、2つ以上の成分(例えば、配列の要素)を併用することを指す場合に、両方の成分が正常に機能し、少なくとも1つの成分が、他の少なくとも1つの成分に影響を及ぼす機能に関与する可能性をもつように整列している。実例として、転写制御配列、例えばプロモーターは、転写制御配列が、1つもしくは複数の転写制御因子の有無に反応して、コード配列の転写レベルを制御する場合、コード配列に動作可能に接続する。転写制御配列は、一般的に、コード配列に対してcisになるように、動作可能に接続するが、コード配列に直接隣接している必要はない。例えば、エンハンサーは、コード配列に近接してはいないが、コード配列に動作可能に接続している転写制御配列である。
【0057】
融合ポリペプチドに関し、用語「動作可能に接続する」は、それぞれの成分が、他の成分と接続している場合に、接続していない場合と同じ機能を発揮するという事実を指す場合がある。例えば、ZFP DNA結合ドメインが開裂ドメインに融合している融合ポリペプチドに関し、ZFP DNA結合ドメイン及び開裂ドメインは、融合ポリペプチドにおいて、ZFP DNA結合ドメイン部分が、その標的部位及び/又は結合部位に結合することが可能であり、一方、開裂ドメインが、標的部位の近くにあるDNAを開裂させることが可能である場合に、動作可能な接続である。
【0058】
タンパク質、ポリペプチド又は核酸の「融合フラグメント」は、配列が、全長タンパク質、ポリペプチド又は核酸と同一ではないが、全長タンパク質、ポリペプチド又は核酸と同じ機能を保持しているタンパク質、ポリペプチド又は核酸である。機能性フラグメントは、対応する天然の分子より多い数の残基を含んでいてもよく、天然の分子より少ない数の残基を含んでいてもよく、又は天然の分子と同じ数の残基を含んでいてもよく、及び/又は1つもしくは複数のアミノ酸又はヌクレオチドの置換を含んでいてもよい。核酸の機能(例えば、コード機能、別の核酸にハイブリダイズする能力)を決定する方法は、当該技術分野で十分に知られている。同様に、タンパク質の機能を決定する方法も十分に知られている。例えば、フィルタ結合アッセイ、電気泳動による移動度シフトアッセイ、又は免疫沈降アッセイによって、例えば、ポリペプチドがDNAに結合する機能も決定することができる。DNAの開裂は、ゲル電気泳動によってアッセイすることができる。Ausubel et al.(前出)を参照。例えば、共免疫沈降法、ツーハイブリッドアッセイ、又は相補性によって、遺伝的かつ生化学的に、あるタンパク質が別のタンパク質と相互作用する能力を決定することができる。例えば、Fields et al.(1989)Nature 340:245−246;米国特許第5,585,245号、PCT WO 98/44350号を参照されたい。
【0059】
用語「抗体」は、本明細書で使用される場合、ポリクローナル及びモノクローナルの調製から得られる抗体を含み、さらに、以下のものを含む。ハイブリッド(キメラ)抗体分子(例えば、Winter et al.,Nature(1991)349:293−299;及び米国特許第4,816,567号を参照);F(ab’)2フラグメント及びF(ab)フラグメント;Fv分子(非共有結合によるヘテロ二量体、例えば、Inbar et al.,Proc Natl Acad Sci USA(1972)69:2659−2662;及びEhrlich et al.,Biochem(1980)19:4091−4096を参照);一本鎖Fv分子(sFv)(例えば、Huston et al.,Proc Natl Acad Sci USA(1988)85:5879−5883を参照);ダイマー及びトリマーの抗体フラグメント構築物;ミニボディ(例えば、Pack et al.,Biochem(1992)31:1579−1584;Cumber et al.,J Immunology(1992)149B:120−126を参照);ヒト化抗体分子(例えば、Riechmann et al.,Nature(1988)332:323−327;Verhoeyan et al.,Science(1988)239:1534−1536;及び英国特許公開第GB 2,276,169号、1994年9月21日公開を参照);このような分子から得られる任意の機能性フラグメント、ここで、このようなフラグメントは、親である抗体分子の免疫結合特性を保持している。
【0060】
本明細書で使用される場合、用語「モノクローナル抗体」は、均一な抗体の集合を含む抗体組成物を指す。この用語は、抗体の種類又は起源に関する限定はなく、製造される様式によっても限定されないことが意図されている。この用語は、免疫グロブリン全体だけではなく、Fab、F(ab’)2、Fvのようなフラグメント、他のフラグメント、及び親であるモノクローナル抗体分子の免疫結合特性を示す、キメラ抗体及びヒト化抗体の均一な抗体の集合を包含する。
【0061】
ジンクフィンガーヌクレアーゼ
本明細書では、GS遺伝子を不活性化するために使用可能なジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)が記載されている。ZFNは、ジンクフィンガータンパク質(ZFP)と、ヌクレアーゼ(開裂)ドメインとを含む。
【0062】
A.ジンクフィンガータンパク質
ジンクフィンガー結合ドメインは、選択した配列に結合するように操作されてもよい。例えば、Beerli et al.(2002)Nature Biotechnol.20:135−141;Pabo et al.(2001)Ann.Rev.Biochem.70:313−340;Isalan et al.(2001)Nature Biotechnol.19:656−660;Segal et al.(2001)Curr.Opin.Biotechnol.12:632−637;Choo et al.(2000)Curr.Opin.Struct.Biol.10:411−416を参照されたい。操作されたジンクフィンガー結合ドメインは、天然に存在するジンクフィンガータンパク質と比較して、新しい結合特性を有していてもよい。操作方法としては、合理的な設計及び種々の選択が挙げられるが、これらに限定されない。合理的な設計は、例えば、3個(又は4個の)ヌクレオチドの配列及び個々のジンクフィンガーアミノ酸配列を含むデータベースを用いることを含み、それぞれの3個又は4個のヌクレオチドの配列は、特定の3個又は4個の配列に結合するジンクフィンガーの1つもしくは複数のアミノ酸配列と結合する。例えば、その全体が参照により組み込まれる、共同所有されている米国特許6,453,242号及び第6,534,261号を参照されたい。
【0063】
ファージディスプレイ及びツーハイブリッドシステムを含む例示的な選択方法は、米国特許第5,789,538号;第5,925,523号;第6,007,988号;第6,013,453号;第6,410,248号;第6,140,466号;第6,200,759号;第6,242,568;さらに、WO98/37186号;WO98/53057号;WO00/27878号;WO01/88197号、第GB2,338,237号に開示されている。それに加え、ジンクフィンガー結合ドメインに対する結合特異性を高めることが、例えば、共同所有されているWO02/077227に記載されている。
【0064】
標的部位の選択;ZFP、及び融合タンパク質(及び、これをコードするポリヌクレオチド)を設計し、構築する方法は、当業者に知られており、米国特許公開第20050064474号及び第20060188987号に詳細に記載されており、その全体が本明細書に参照により組み込まれる。
【0065】
それに加え、これらの参考文献及び他の参考文献に開示されているように、ジンクフィンガードメイン及び/又は複数のフィンガーを有するジンクフィンガータンパク質は、任意の適切なリンカー配列、例えば、5アミノ酸長以上のリンカーを用いて接続されていてもよい。また、例示的な6アミノ酸長以上のリンカー配列については、米国特許第6,479,626号;第6,903,185号;第7,153,949号も参照されたい。本明細書に記載されているタンパク質は、タンパク質の個々のジンクフィンガーの間に任意の適切なリンカーの組み合わせを含んでいてもよい。さらなるリンカー構造の例は、Compositions For Linking DNAーBinding Domains And Cleavage Domainsという名称で2008年5月28日に出願した米国仮出願第61/130,099号の中にみいだされる。
【0066】
表1は、GS遺伝子内のヌクレオチド配列に結合するように操作されたいくつかのジンクフィンガー結合ドメインを記載している。また、図1及び図3も参照されたい。それぞれの行は、別個のジンクフィンガーDNA結合ドメインを記載している。各ドメインのDNA標的配列は、第1列に示されており、第2列〜第5列は、タンパク質中の各ジンクフィンガー(F1〜F4、F5又はF6)の認識領域のアミノ酸(ヘリックスの開始点からアミノ酸−1〜+6)の配列を示す。大文字で示されているヌクレオチドは、ジンクフィンガーが直接標的としているトリプレットを示し、小文字で示されているヌクレオチドは、ジンクフィンガーが直接標的にはしていない塩基を示す(例えば、フィンガー間のリンカーが長いため、塩基が「飛ばされる」場合がある)。また、第1列には、タンパク質の識別番号が与えられている。
【表1】

【0067】
以下に示すように、特定の実施形態では、表1に示されている4つ、5つ又は6つのフィンガー結合ドメインが、例えば、FokIのようなII型の制限エンドヌクレアーゼの開裂ドメインの開裂ハーフドメインに融合する。例えば、米国特許公開第20050064474号及び第20070218528号に開示されているように、標的を開裂するために、このようなジンクフィンガー/ヌクレアーゼハーフドメイン融合物の1つもしくは複数の対を用いる。
【0068】
標的を開裂する場合、結合部位の近傍で5個以上のヌクレオチド対によって分けることができ、それぞれの融合タンパク質は、DNA標的の反対側の鎖に結合することができる。GS遺伝子の標的開裂に、表1に示されているタンパク質のすべての対の組み合わせを用いてもよい。本開示に従って、ZFNは、GS遺伝子の任意の配列を標的にしていてもよい。
【0069】
B.開裂ドメイン
ZFNは、ヌクレアーゼ(開裂ドメイン、開裂ハーフドメイン)も含んでいる。本明細書に開示されている融合タンパク質の開裂ドメイン部分は、任意のエンドヌクレアーゼ又はエキソヌクレアーゼから得ることができる。エンドヌクレアーゼから開裂ドメインを得ることが可能な例示的なエンドヌクレアーゼとしては、制限エンドヌクレアーゼ、ホーミングエンドヌクレアーゼが挙げられるが、これらに限定されない。例えば、2002−2003 Catalogue,New England Biolabs,Beverly,MA;及びBelfort et al.(1997)Nucleic Acids Res.25:3379−3388を参照されたい。DNAを開裂するさらなる酵素が知られている(例えば、S1ヌクレアーゼ;マングビーンヌクレアーゼ;膵臓DNase I;ミクロコッカスヌクレアーゼ;酵母HOエンドヌクレアーゼ;また、Linn et al.(編集)Nuclease,Cold Spring Harbor Laboratory Press,1993も参照)。これらの酵素のうち、1つもしくは複数の酵素(又はこれらの機能性フラグメント)を、開裂ドメイン及び開裂ハーフドメインの原料として用いてもよい。
【0070】
同様に、開裂ハーフドメインは、上述のように、開裂活性のために二量化が必要な任意のヌクレアーゼ又はこれらの一部分から誘導してもよい。一般的に、融合タンパク質が開裂ハーフドメインを含む場合には、開裂のために2つの融合タンパク質が必要である。又は、2つの開裂ハーフドメインを含む1つのタンパク質を用いてもよい。この2つの開裂ハーフドメインは、同じエンドヌクレアーゼ(又はその機能性フラグメント)から誘導されてもよく、それぞれの開裂ハーフドメインは、異なるエンドヌクレアーゼ(又はその機能性フラグメント)から誘導されてもよい。それに加え、2つの融合タンパク質の標的部位は、好ましくは、それぞれの標的部位に2つの融合タンパク質が結合することによって、例えば、開裂ハーフドメインが二量化によって機能的な開裂ドメインを形成することが可能なような空間位置に、開裂ハーフドメインが位置するように、お互いに配置されている。従って、特定の実施形態では、標的部位の近傍で、5〜8ヌクレオチド又は15〜18ヌクレオチドに分けることができる。しかし、任意の整数のヌクレオチド又はヌクレオチド対が、2つの標的部位の間にはさまっていてもよい(例えば、2〜50ヌクレオチド対又はそれ以上)。一般的に、開裂部位は、標的部位と標的部位の間にある。
【0071】
制限エンドヌクレアーゼ(制限酵素)は、多くの種に存在しており、配列特異的にDNAに結合することができ(認識部位で)、結合部位で、又は結合部位周辺でDNAを開裂する。特定の制限酵素(例えば、IIS型)は、認識部位から離れた部位でDNAを開裂し、分離可能な結合ドメインと開裂ドメインとを有している。例えば、IIS型酵素FokIは、片方の鎖の認識部位から9ヌクレオチド離れた部位で、他方の鎖の認識部位から13ヌクレオチド離れた部位でDNAの二本鎖の開裂を触媒する。例えば、米国特許第5,356,802号;第5,436,150号、第5,487,994号;及びLi et al.(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:4275−4279;Li et al.(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:2764−2768;Kim et al.(1994a)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:883−887;Kim et al.(1994b)J.Biol.Chem.269:31,978−31,982を参照されたい。このように、ある実施形態では、融合タンパク質は、少なくとも1つのIIS型制限酵素に由来する開裂ドメイン(又は開裂ハーフドメイン)と、1つもしくは複数のジンクフィンガー結合ドメインとを含み、ジンクフィンガー結合ドメインは操作されていても、操作されていなくてもよい。
【0072】
開裂ドメインを結合ドメインから分離することが可能なIIS型制限酵素の例は、FokIである。この特定の酵素は、二量体として活性である。Bitinaite et al.(1998)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95:10,570−10,575。従って、本開示の目的のために、開示されている融合タンパク質で使用するFokI酵素の一部分は、開裂ハーフドメインであると考えられる。従って、ジンクフィンガー−FokI融合物を用いて、標的の二本鎖を開裂し、及び/又は標的の細胞内配列を交換する場合、触媒的に活性な開裂ドメインを再構築するために、それぞれFokI開裂ハーフドメインを含む2つの融合タンパク質を用いてもよい。又は、1個のジンクフィンガー結合ドメインと2個のFokI開裂ハーフドメインとを含む、1個のポリペプチド分子を用いてもよい。ジンクフィンガー−FokI融合物を用いた、標的の開裂及び標的配列の交換に関するパラメータは、本開示の別の部分に記載されている。
【0073】
開裂ドメイン又は開裂ハーフドメインは、開裂活性を保持するタンパク質の任意の部分であってもよく、又は、多量体化(例えば、二量化)して機能性開裂ドメインを形成する能力を保持している部分であってもよい。
【0074】
例示的なIIS型制限酵素は、国際公開第WO07/014275号に記載されており、その全体が本明細書に参照により組み込まれる。また、さらなる制限酵素は、分離可能な結合ドメインと開裂ドメインとを有しており、これらの制限酵素は、本開示によって想定されている。例えば、Roberts et al.(2003)Nucleic Acids Res.31:418−420を参照されたい。
【0075】
特定の実施形態では、開裂ドメインは、例えば、その全体が本明細書に参照により組み込まれている米国特許公開第20050064474号;第20060188987号、第20080131962号に記載されているように、ホモ二量化が最小限になっているか、又は抑制されている1つもしくは複数の操作された開裂ハーフドメイン(二量化ドメイン変異体とも呼ばれる)を含む。FokIの位置446、位置447、位置479、位置483、位置484、位置486、位置487、位置490、位置491、位置496、位置498、位置499、位置500、位置531、位置534、位置537、位置538にあるアミノ酸残基は、すべて、FokI開裂ハーフドメインの二量化に影響を与える標的である。
【0076】
必須ヘテロ二量体を形成するFokIの操作された開裂ハーフドメインの例としては、FokIの位置490及び538にあるアミノ酸残基に変異を含む第1の開裂ハーフドメインと、アミノ酸残基486及び499に変異を含む第2の開裂ハーフドメインとの対が挙げられる。
【0077】
従って、ある実施形態では、490での変異によって、Glu(E)がLys(K)と置き換わっており;538での変異によって、Iso(I)がLys(K)に置き換わっており;486での変異によって、Gln(Q)がGlu(E)に置き換わっており;位置499での変異によって、Iso(I)がLys(K)に置き換わっている。特定的には、本明細書に記載されているような操作された開裂ハーフドメインは、ある開裂ハーフドメインで位置490(E→K)及び538(I→K)で変異させ、「E490K:I538K」と呼ばれる操作された開裂ハーフドメインを作り、別の開裂ハーフドメインで486(Q→E)及び499(I→L)で変異させ、「Q486E:I499L」と呼ばれる操作された開裂ハーフドメインを作ることによって調製された。この例で記載されているように、あるZFNが「E490K:I538K」開裂ドメインを含み、他のZFNが「Q486E:I499L」開裂ドメインを含むZFN対は、「EL/KK」ZFN対とも呼ばれる。本明細書に記載されているような操作された開裂ハーフドメインは、これらの開裂ハーフドメインを含む1つもしくは複数のヌクレアーゼ対を開裂に使用する場合、異常な開裂が最小限になっているか、又はまったく起こらない、必須ヘテロ二量体の変異体である。例えば、あらゆる目的のために、その全体が本明細書に参照により組み込まれる米国特許公開第20080131962号を参照されたい。
【0078】
本明細書に記載されているような操作された開裂ハーフドメインは、任意の適切な方法によって、例えば、米国特許公開第20050064474号(実施例5)及び第20070134796号(実施例38)に記載されているような野生型開裂ハーフドメイン(Fok I)の部位特異的突然変異誘発によって、調製することができる。
【0079】
C.GSにおいて標的を開裂するためのさらなる方法
本明細書に開示されている方法で、GS遺伝子に標的部位を有する任意のヌクレアーゼを用いてもよい。例えば、ホーミングエンドヌクレアーゼ及びメガヌクレアーゼは、非常に長い認識配列を有しており、そのうちいくつかは、統計的基礎に従って、ヒトと同じくらいの長さのゲノムに1つ存在すると思われている。GS遺伝子において標的を開裂するために、GS遺伝子内に固有の標的部位を有する任意のこのようなヌクレアーゼを、ジンクフィンガーヌクレアーゼの代わりに用いてもよく、又はジンクフィンガーヌクレアーゼに加えて用いてもよい。
【0080】
例示的なホーミングエンドヌクレアーゼとしては、I−SceI、I−CeuI、PI−PspI、PI−Sce、I−SceIV、I−CsmI、I−PanI、I−SceII、I−PpoI、I−SceIII、I−CreI、I−TevI、I−TevII、I−TevIIIが挙げられる。これらの認識配列は知られている。また、米国特許第5,420,032号;米国特許第6,833,252号;Belfort et al.(1997)Nucleic Acids Res.25:3379−3388;Dujon et al.(1989)Gene 82:115−118;Perler et al.(1994)Nucleic Acids Res.22,1125−1127;Jasin(1996)Trends Genet.12:224−228;Gimble et al.(1996)J.Mol.Biol.263:163−180;Argast et al.(1998)J.Mol.Biol.280:345−353、New England Biolabsのカタログも参照されたい。
【0081】
ほとんどのホーミングエンドヌクレアーゼの開裂特異性は、それらの認識部位に関して絶対的ではないが、それらの部位は、認識部位の1個のコピーを有する細胞内でホーミングエンドヌクレアーゼを発現することによって、哺乳動物と同じくらいの長さのゲノムあたり1回の開裂事象を得るのに十分な長さを有する。また、ホーミングエンドヌクレアーゼ及びメガヌクレアーゼの特異性を、天然にはない標的部位に結合するように操作することができることも報告されている。例えば、Chevalier et al.(2002)Molec.Cell 10:895−905;Epinat et al.(2003)Nucleic Acids Res.31:2952−2962;Ashworth et al.(2006)Nature 441:656−659;Paques et al.(2007)Current Gene Therapy 7:49−66を参照されたい。従って、所望の標的遺伝子座、例えば、GSに特異的に結合するように設計された、操作されたホーミングエンドヌクレアーゼ及び/又はメガヌクレアーゼを用いてもよい。
【0082】
送達
本明細書に記載されているZFNは、任意の適切な手段によって標的細胞に送達されてもよい。適切な細胞としては、真核細胞及び原核細胞及び/又はこれらの細胞株が挙げられるが、これらに限定されない。このような細胞又は細胞株の非限定的な例としては、COS、CHO(例えば、CHO−S、CHO−K1、CHO−DG44、CHO−DUXB11、CHO−DUKX、CHOK1SV)、VERO、MDCK、WI38、V79、B14AF28−G3、BHK、HaK、NS0、SP2/0−Ag14、HeLa、HEK293(例えば、HEK293−F、HEK293−H、HEK293−T)、perC6細胞、及び、Spodoptera fugiperda(Sf)のような昆虫細胞、又は、Saccharomyces、Pichia、およびSchizosaccharomycesのような真菌細胞が挙げられる。
【0083】
ジンクフィンガーを含むタンパク質を送達する方法は、例えば、米国特許第6,453,242号;第6,503,717号;第6,534,261号;第6,599,692号;第6,607,882号;第6,689,558号;第6,824,978号;第6,933,113号;第6,979,539号;第7,013,219号;第7,163,824号に記載されており、これらの開示はすべて、その全体が本明細書に参照により組み込まれる。
【0084】
また、本明細書に記載されているようなZFNは、1つもしくは複数のZFNをコードする配列を含むベクターを用いて送達されてもよい。プラスミドベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、ポックスウイルスベクター;ヘルペスウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター(だだし、これらに限定されない)などを含む任意のベクター系を用いてもよい。また、その全体が本明細書に参照により組み込まれる、米国特許第6,534,261号;第6,607,882号;第6,824,978号;第6,933,113号;第6,979,539号;第7,013,219号;第7,163,824号を参照されたい。さらに、これらの任意のベクターが、1つもしくは複数のZFNをコードする配列を含んでいてもよいことも明らかであろう。従って、1つもしくは複数のZFN対が細胞に導入される場合、ZFNは、同じベクター又は異なるベクターに保持されていてもよい。複数のベクターを用いる場合、それぞれのベクターは、1個又は複数個のZFNをコードする配列を含んでいてもよい。
【0085】
従来のウイルスに由来する遺伝子及び非ウイルスに由来する遺伝子を移動する方法を用い、細胞(例えば、哺乳動物の細胞)及び標的組織に、操作されたZFPをコードする核酸を導入してもよい。また、このような方法を用い、in vitroで細胞にZFPをコードする核酸を投与してもよい。特定の実施形態では、ZFPをコードする核酸を、in vivo遺伝子治療用途で、又はex vivoでの遺伝子治療用途で投与する。非ウイルスベクター送達系としては、DNAプラスミド、ネイキッドDNA、リポゾーム又はポロキサマーのような送達ビヒクルと複合体化した核酸が挙げられる。ウイルスベクター送達系は、DNA及びRNAのウイルスを含み、細胞に送達した後に、エピソームのゲノム又は組み込まれたゲノムを有していてもよい。遺伝子治療手順の総説としては、Anderson,Science 256:808−813(1992);Nabel & Felgner,TIBTECH 11:211−217(1993);Mitani & Caskey,TIBTECH 11:162−166(1993);Dillon,TIBTECH 11:167−175(1993);Miller,Nature 357:455−460(1992);Van Brunt,Biotechnology 6(10):1149−1154(1988);Vigne,Restorative Neurology and Neuroscience 8:35−36(1995);Kremer & Perricaudet,British Medical Bulletin 51(1):31−44(1995);Haddada et al.,Current Topics in Microbiology and Immunology Doerfler and Bohm(編集)(1995);Yu et al.,Gene Therapy 1:13−26(1994)を参照されたい。
【0086】
操作されたZFPをコードする核酸の非ウイルス送達方法としては、エレクトロポレーション、リポフェクション、マイクロインジェクション、遺伝子銃、ビロゾーム、リポゾーム、免疫リポゾーム、ポリカチオン又は脂質:核酸接合体、ネイキッドDNA、人工ビリオン、薬剤によって高められたDNAの取り込みが挙げられる。例えば、Sonitron 2000システム(Rich−Mar)を用いたソノポレーションを核酸の送達に用いてもよい。
【0087】
さらなる例示的な核酸送達系としては、Amaxa Biosystems(ドイツ、ケルン)、Maxcyte,Inc.(メリーランド州ロックビル)、BTX Molecular Delivery Systems(マサチューセッツ州ホリストン)、Copernicus Therapeutics Inc.(例えば、米国特許第6,008,336を参照)によって提供されるものが挙げられる。
【0088】
リポフェクションは、例えば、US5,049,386号、US4,946,787号;US4,897,355号に記載されており、リポフェクション試薬(例えば、TransfectamTM及びLipofectinTM)は、市販されている。ポリヌクレオチドの効果的な受容体認識リポフェクションに適したカチオン性脂質及び中性脂質としては、Felgner,WO91/17424、WO91/16024のものが挙げられる。細胞に送達されてもよく(ex vivo投与)、又は標的組織に送達されてもよい(in vivo投与)。
【0089】
標的とするリポゾームを含む脂質:核酸複合体、例えば、免疫脂質複合体の調製は、当業者にはよく知られている(例えば、Crystal,Science 270:404−410(1995);Blaese et al.,Cancer Gene Ther.2:291−297(1995);Behr et al.,Bioconjugate Chem.5:382−389(1994);Remy et al.,Bioconjugate Chem.5:647−654(1994);Gao et al.,Gene Therapy 2:710−722(1995);Ahmad et al.,Cancer Res.52:4817−4820(1992);米国特許第4,186,183号、第4,217,344号、第4,235,871号、第4,261,975号、第4,485,054号、第4,501,728号、第4,774,085号、第4,837,028号、第4,946,787号を参照)。
【0090】
操作されたZFPをコードする核酸を送達するためのRNAウイルス又はDNAウイルスに基づく系の使用は、ウイルスを、体内の特定の細胞に標的化し、ウイルスのペイロードを核に導入させるために非常に発達したプロセスを活用する。ウイルスベクターを、患者に直接投与してもよく(in vivo)、又は、細胞をin vitroで治療するためにウイルスベクターを用いてもよく、その改変された細胞を患者に投与してもよい(ex vivo)。従来のウイルスに基づくZFP送達系としては、遺伝子導入のためのレトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター及びヘルペス単純ウイルスベクターが挙げられるが、これらに、限定されない。宿主ゲノムの組み込みは、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノ随伴ウイルスの遺伝子導入方法を用いて可能であり、多くは、挿入されたトランス遺伝子が長期間にわたって発現する。さらに、多くの異なる細胞種及び標的組織で高い導入効率が観察されている。
【0091】
レトロウイルスの親和性は、外来エンベロープタンパク質を取り入れ、標的細胞の有望な標的の集合を増やすことによって変えることができる。レンチウイルスベクターは、分割していない細胞に形質導入するか、又は感染させることが可能なレトロウイルスベクターであり、典型的には、ウイルス力価が高い。レトロウイルス遺伝子導入系の選択は、標的組織によって変わる。レトロウイルスベクターは、外来配列のパッケージング能が6〜10kbまでのシス作用性の長端末反復で構成されている。最小のシス作用性LTRは、ベクターを複製し、パッケージングするのに十分であり、次いで、標的細胞に治療用遺伝子を組み込むために用いられ、永久的にトランス遺伝子を発現する。広範囲に使用されるレトロウイルスベクターとしては、マウス白血病ウイルス(MuLV)、テナガザル白血病ウイルス(GaLV)、サル免疫不全ウイルス(SIV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、及びこれらの組み合わせに由来するものが挙げられる(例えば、Buchscher et al.,J.Virol.66:2731−2739(1992);Johann et al.,J.Virol.66:1635−1640(1992);Sommerfelt et al.,Virol.176:58−59(1990);Wilson et al.,J.Virol.63:2374−2378(1989);Miller et al.,J.Virol.65:2220−2224(1991);PCT/US94/05700を参照)。
【0092】
ZFP融合タンパク質の一過性発現が好ましい用途では、アデノウイルスに由来する系を用いてもよい。アデノウイルスに由来するベクターは、多くの細胞種において、きわめて高い導入効率を可能にしており、細胞分割を必要としない。このようなベクターを用い、力価が高く、高レベルの発現が得られている。このベクターは、比較的単純な系で大量に産生させることができる。また、細胞に標的核酸を形質導入するために、例えば、in vitroでの核酸及びペプチドの産生において、また、in vivo及びex vivoの遺伝子治療手順のために、アデノ随伴ウイルス(「AAV」)ベクターを用いる(例えば、West et al.,Virology 160:38−47(1987);米国特許第4,797,368号;WO93/24641号;Kotin,Human Gene Therapy 5:793−801(1994);Muzyczka,J.Clin.Invest.94:1351(1994)を参照)。組み換えAAVベクターの構築は、米国特許第5,173,414号;Tratschin et al.,Mol.Cell.Biol.5:3251−3260(1985);Tratschin,et al.,Mol.Cell.Biol.4:2072−2081(1984);Hermonat & Muzyczka,PNAS 81:6466−6470(1984);及びSamulski et al.,J.Virol.63:03822−3828(1989)を含む、いくつかの刊行物に記載されている。
【0093】
臨床試験で遺伝子導入するために、少なくとも6種類のウイルスベクターによるアプローチが現時点で利用可能であり、これらは、ヘルパー細胞株に挿入された遺伝子によって欠損ベクターを補完し、形質導入剤を作成することを含むアプローチを利用している。
【0094】
pLASN及びMFG−Sは、臨床試験で使用されているレトロウイルスベクターの例である(Dunbar et al.,Blood 85:3048−305(1995);Kohn et al.,Nat.Med.1:1017−102(1995);Malech et al.,PNAS 94:22 12133−12138(1997))。PA317/pLASNは、遺伝子治療の治験で初めて使用された治療用ベクターであった(Blaese et al.,Science 270:475−480(1995))。MFG−Sをパッケージングしたベクターで、50%以上の導入効率が観察された(Ellem et al.,Immunol Immunother.44(1):10−20(1997);Dranoff et al.,Hum.Gene Ther.1:111−2(1997)。
【0095】
組み換えアデノ随伴ウイルスベクター(rAAV)は、欠損型の非病原性パルボウイルスアデノ随伴2型ウイルスに由来する、代替法として有望な遺伝子送達系である。すべてのベクターは、トランス遺伝子発現カセットに隣接するAAV145末端逆位配列のみが保持されているプラスミドから誘導される。形質導入された細胞のゲノムに取り込まれることによる、有効な遺伝子導入及び安定なトランス遺伝子送達は、このベクター系の重要な特徴である(Wagner et al.,Lancet 351:9117 1702−3(1998),Kearns et al.,Gene Ther. 9:748−55(1996))。
【0096】
複製能が欠損した組み換えアデノウイルスベクター(Ad)は、高い力価で産生され、いくつかの異なる細胞種を容易に感染させることができる。ほとんどのアデノウイルスベクターは、トランス遺伝子が、Ad E1a、E1b、及び/又はE3遺伝子を置き換えるように操作されており、次いで、複製能が欠損したベクターをヒト293細胞内で増殖させ、欠損した遺伝子機能をトランスに供給する。Adベクターを、in vivoで、肝臓、腎臓、筋肉にみられるような分割せず、分化しない細胞を含めた複数の種類の組織に形質導入することができる。従来のAdベクターは、大きな輸送能力を有する。Adベクターを臨床試験で使用する例は、筋肉内注射による抗腫瘍免疫療法のためのポリヌクレオチド治療を含んでいた(Sterman et al.,Hum.Gene Ther.7:1083−9(1998))。臨床試験で遺伝子導入のためにアデノウイルスベクターを用いるさらなる例としては、Rosenecker et al.,Infection 24:1 5−10(1996);Sterman et al.,Hum.Gene Ther.9:7 1083−1089(1998);Welsh et al.,Hum.Gene Ther.2:205−18(1995);Alvarez et al.,Hum.Gene Ther.5:597−613(1997);Topf et al.,Gene Ther.5:507−513(1998);Sterman et al.,Hum.Gene Ther.7:1083−1089(1998)が挙げられる。
【0097】
パッケージング細胞を用い、宿主細胞を感染させることが可能なウイルス粒子を作る。このような細胞としては、アデノウイルスをパッケージングする293細胞、レトロウイルスをパッケージングするψ2細胞又はPA317細胞が挙げられる。遺伝子治療で用いられるウイルスベクターは、通常は、核酸ベクターをウイルス粒子内にパッケージングするプロデューサー細胞株によって作られる。ベクターは、典型的には、パッケージングし、宿主に組み込む(適用可能な場合)のに必要な最小ウイルス配列を含んでおり、他のウイルス配列は、発現させたいタンパク質をコードする発現カセットと置き換わっている。失われたウイルス機能は、パッケージング細胞株によってトランスで供給される。例えば、遺伝子治療で用いられるAAVベクターは、典型的には、パッケージングし、宿主ゲノムに組み込むのに必要な、AAVゲノム由来の逆方向末端反復(ITR)配列のみを有している。ウイルスDNAは、細胞株にパッケージングされ、他のAAV遺伝子をコードするヘルパープラスミド、すなわちrep及びcapを含んでいるが、ITR配列は含んでいない。また、この細胞株は、ヘルパーとしてアデノウイルスで感染している。ヘルパーウイルスは、AAVベクターの複製と、ヘルパープラスミドに由来するAAV遺伝子の発現を促進する。このヘルパープラスミドは、ITR配列を含んでいないため、それほど多い量はパッケージングされない。アデノウイルスの混入は、例えば、アデノウイルスがAAVよりも感度が高い処理、例えば熱処理によって減らすことができる。
【0098】
多くの遺伝子治療用途では、遺伝子治療ベクターが、特定の種類の組織に対して特異性が高い状態で送達されることが望ましい。従って、ウイルスの外側表面に、ウイルスコーティングタンパク質を含む融合タンパク質としてリガンドを発現させることによって、ウイルスベクターが所与の細胞型に対する特異性を有するように改変してもよい。このリガンドは、目的の細胞型に存在することが知られている受容体に対するアフィニティを有するように選択される。例えば、Han et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92:9747−9751(1995)は、Moloneyマウス白血病ウイルスを、gp70に融合したヒトヘレグリンを発現するように改変することができ、この組み換えウイルスに、ヒト上皮成長因子受容体を発現する特定のヒト乳癌細胞が感染することを報告した。この原理を他のウイルス−標的細胞の対に拡張することができ、このとき、標的細胞は受容体を発現し、ウイルスは、細胞表面にある受容体に対するリガンドを含む融合タンパク質を発現する。例えば、糸状ファージは、実際に選んだ任意の細胞内受容体に対し、特異的な結合アフィニティを有する抗体フラグメント(例えば、FAB又はFv)を示すように操作することができる。上述の記載は、主にウイルスベクターに適用されるが、同じ原理を非ウイルスベクターに適用することもできる。このようなベクターは、特定の標的細胞によって取り込まれやすい、特定の取り込み配列を含むように操作することができる。
【0099】
遺伝子治療ベクターを、個々の患者に投与することによってin vivoで、典型的には、以下に示すように、全身投与(例えば、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、又は頭蓋内への注入)又は局所適用によって送達してもよい。又は、ベクターをex vivoで、細胞、例えば、個々の患者から取り出した細胞(例えば、リンパ球、骨髄穿刺液、組織生検)又は万能供血者の造血幹細胞に送達し、次いで、通常は、ベクターが組み込まれた細胞を選択した後に、その細胞を患者に再び移植してもよい。
【0100】
診断、研究又は遺伝子治療のためのex vivoでの細胞トランスフェクション(例えば、トランスフェクトした細胞を宿主である生物に再び注入することによる)は、当業者に十分に知られている。好ましい実施形態では、被検体である生物から細胞を単離し、ZFP核酸(遺伝子又はcDNA)でトランスフェクトし、被検体である生物(例えば、患者)に再び注入する。ex vivoでトランスフェクトするのに適した種々の細胞型は、当業者に十分に知られている(例えば、Freshney et al.,Culture of Animal Cells,A Manual of Basic Technique(第3版、1994))、及び患者由来の細胞を単離し、培養する方法に関する記載について、この文献に引用されている参考文献を参照)。
【0101】
一つの実施形態では、細胞トランスフェクション及び遺伝子治療のためのex vivo手順で、幹細胞を使用する。幹細胞を用いる利点は、幹細胞を、in vitroで他の細胞型に分化させることが可能なことであり、又は、骨髄に移植し、哺乳動物(例えば、細胞のドナー)に導入することができることである。GM−CSF、IFN−γ、TNF−αのようなサイトカインを用い、CD34+細胞をin vitroで臨床的に重要な免疫細胞型に分化させる方法が知られている(Inaba et al.,J.Exp.Med.176:1693−1702(1992)を参照)。
【0102】
幹細胞は、既知の方法を用い、形質導入及び分化のために単離される。例えば、幹細胞は、望ましくない細胞、例えば、CD4+及びCD8+(T細胞)、CD45+(panB細胞)、GR−1(顆粒球)、Iad(分化した抗原提示細胞)に結合する抗体を用い、骨髄細胞のパニングによって骨髄細胞から単離される(Inaba et al.,J.Exp.Med.176:1693−1702(1992)を参照)。
【0103】
また、in vivoで細胞に形質導入するために、治療用ZFP核酸を含むベクター(例えば、レトロウイルス、アデノウイルス、リポゾームなど)を生物に直接投与してもよい。又は、ネイキッドDNAを投与してもよい。分子を導入し、最終的に血液又は組織細胞と接触させるのに通常使用されるよ投与法は、以下のものに限定されないが、注射、注入、局所適用、エレクトロポレーションを含む任意の経路で投与する。このような核酸を投与するのに適切な方法が利用可能であり、当業者には十分に知られており、特定の組成物を投与するのに二種類以上の経路を用いてもよいが、しばしば、特定の経路が、別の経路よりも迅速で効率のよい反応を引き起こすことができる。
【0104】
DNAを造血幹細胞に導入する方法は、例えば、米国特許第5,928,638号に開示されている。トランス遺伝子を造血幹細胞に、例えば、CD34+細胞に導入するのに有用なベクターとしては、35型アデノウイルスが挙げられる。
【0105】
トランス遺伝子を免疫細胞(例えば、T細胞)に導入するのに適したベクターとしては、組み込みが起こらないレンチウイルスベクターが挙げられる。例えば、Ory et al.(1996)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93:11382−11388;Dull et al.(1998)J.Virol.72:8463−8471;Zuffery et al.(1998)J.Virol.72:9873−9880;Follenzi et al.(2000)Nature Genetics 25:217−222を参照。
【0106】
医薬的に許容されるキャリアは、一部は、投与される特定の組成物によって決定され、一部は、組成物を投与するのに用いる特定の方法によって決定される。従って、以下に示すような、利用可能な医薬組成物の広範囲の適切な配合物が存在する(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,第17版、1989を参照)。
【0107】
上述のように、原核細胞、真菌細胞、古細菌細胞、植物細胞、昆虫細胞、動物細胞、脊椎動物細胞、哺乳動物細胞、ヒト細胞(ただし、これらの細胞に限定されない)を含む任意の種類の細胞内で、開示されている方法及び組成物を用いてもよい。タンパク質を発現するのに適した細胞株は、当業者に知られており、COS、CHO(例えば、CHO−S、CHO−K1、CHO−DG44、CHO−DUXB11)、VERO、MDCK、WI38、V79、B14AF28−G3、BHK、HaK、NS0、SP2/0−Ag14、HeLa、HEK293(例えば、HEK293−F、HEK293−H、HEK293−T)、perC6、Spodoptera fugiperda(Sf)のような昆虫細胞、Saccharomyces、Pichia、およびSchizosaccharomycesのような真菌細胞が挙げられるが、これらに限定されない。これらの細胞の子孫細胞、改変体及び誘導体を用いてもよい。
【0108】
適用
GSゲノム配列を不活性化するために、開示されている方法及び組成物を用いてもよい。上述のように、不活性化は、細胞内でGS遺伝子の発現を部分的又は完全に抑制することを含む。GS遺伝子の不活性化は、例えば、1回の開裂事象によって、又は開裂した後、非相同末端結合によって、又は2箇所で開裂した後、この2つの開裂部位の間の配列を除去するように結合することによって、又はコード領域内にミスセンスコドン又はナンセンスコドンを標的として組み換えることによって、又は無関係な配列(すなわち、「スタッファー」配列)を標的として、遺伝子又はその制御領域を破壊するように、遺伝子又はその制御領域に組み換えることによって、又はスプライスアクセプター配列を標的として、イントロンに組み換え、転写物のミススプライシングを引き起こすことによって、達成することができる。
【0109】
従って、本明細書に記載されている方法及び組成物によって、組み換えタンパク質の産生、例えば、α1−抗トリプシン抗体及び/又はモノクローナル抗体の産生に用いるためのGS欠損細胞株を作成することができる。FUT8が不活性化されている細胞が、大きなエフェクター機能を示す抗体、特にADCCの誘発において大きなエフェクター機能を示す抗体を産生するため、さらなる遺伝子、例えば、FUT8を不活性化してもよい。
【0110】
実施例
実施例1:ZFNの設計及び構築
A.グルタミンシンセターゼ(GS)のZFN
CHOゲノムの全配列は入手できないため、CHO GS遺伝子をクローン化し、配列を決定し、ZFN設計のための標的DNA配列を作成した。完全なCHO GS 配列が図13に示されており、イントロン及びエクソンも示されている。
【0111】
CHO GS遺伝子のエクソン6にあるZFN標的部位が、入手可能な結晶構造に基づくGSタンパク質の触媒機能に必須のアミノ酸をコードしているため、この領域が選択され(例えば、Almassy et al.(1986)Nature 323:304−309;Gill et al.(2002)Biochem.41:9863−9872;Liaw et al.(1994)Biochem.33:675−681を参照)、この部位がZFNによって変異すると、GSの機能の活性が失われると予想された。CHO GSのエクソン6の部分的な配列を以下に示す。大文字はエクソン配列を示し、小文字はイントロン配列を示し、ZFN標的部位9372/9075(表1、図1A及び図4A)には下線が引かれている。
【表2】

【0112】
ZFN9372及びZFN9075への結合部位は図4Bに示されており、一方、図4Cは、これらのZFNの標的及びフィンガーの設計を示している。
【0113】
それに加え、エクソン2の部位を標的とするZFNも設計された。CHOのエクソン2の部分的な配列を以下に示す。大文字はエクソン配列を示し、小文字はイントロン配列を示し、ZFN標的部位8365/8361(表1及び図1A)には下線が引かれている。
【表3】

【0114】
CHO GS配列(例えば、表1に示されているような)を標的とするZFNを、米国特許出願第12/218,035号に記載されているように哺乳動物の発現ベクター内でアセンブルし、CHO細胞に一過性導入することによって試験した。
【0115】
B.DHFRのZFN
DHFRを標的とするZFNを、米国特許公開第2008/0015164号に記載されているように設計し、製造した。本明細書に記載されている実験では、9461/7844及び9476/9477と称されるDHFR ZFN対(個々のZFNは表2に示されている)を用いた。
【表4】

【0116】
C.FUT8のZFN
FUT8を標的とするZFNを、米国特許出願第12/218,035号に記載されているように設計し、製造した。本明細書に記載されている実験では、12176及び12172と称され、表3に記載されているFUT8のZFNを使用した。
【表5】

【0117】
上述のZFNをコードする配列を含むプラスミドを、本質的には、Urnov et al.(2005)Nature 435(7042):646−651に記載されているように、米国特許公開第2008/0131962号及びMiller et al.(2007)Nature Biotech.25:778−785に記載されているような野生型FokI開裂ドメイン又は必須ヘテロ二量体であるFokI開裂ドメインへの融合によって構築した。
【0118】
実施例2:内在性GSのGS−ZFN改変
GSを標的とするZFNが、内在性GSの遺伝子座を予想どおりに改変するか否かを決定するために、本質的には製造業者の使用説明書に従って、CEL−1ミスマッチアッセイを行なった(Trangenomic SURVEYORTM)。簡単に説明すると、適切なZFNプラスミド対を、血清を含有する培地で付着しながら増殖するCHO K−I細胞に、又は血清を含まない既知組成培地の懸濁物中で増殖するCHO−S細胞にトランスフェクトした。
【0119】
CHO K−I細胞をAmerican Type Culture Collectionから得て、推奨されているように、この用途に適した10%ウシ胎児血清(FCS,Hyclone)を補給したF−12培地(Invitrogen)中で増殖させた。CHO−S細胞をInvitrogen(カリフォルニア州カールズバッドCA)から購入し、湿度を制御したインキュベーターシェーカー(ATR,inc.(メリーランド州ローレル))中、37℃、5%CO2、125rpmで、必要な場合、8mM L−グルタミン及びHTサプリメント(100μMヒポキサンチンナトリウム及び16μMチミジン)(すべて、Invitrogen(カリフォルニア州カールズバッド)製)を追加した、タンパク質を含まず、動物成分を含まない既知組成のCD−CHO培地中で増殖させ、懸濁培養物として維持した。
【0120】
TrypLE SelectTMプロテアーゼ(Invitrogen)を用い、プラスチック容器から付着細胞を剥離した。トランスフェクションのために、100万個のCHO K−I細胞を、1μgの各ジンクフィンガーヌクレアーゼ及び100μL Amaxa Solution Tと混合した。Amaxa Nucleofector IITM中、プログラムU−23を用いて細胞をトランスフェクトし、1.4mLの加温したF−12培地+10%FCSに回収した。
【0121】
Qiagen DNeasyTMキット(Qiagen,Inc.)を用いて、ZFN処理された細胞からゲノムDNAを抽出し、ZFNが標的とするGS遺伝子座の領域に適切なプライマーを用いたPCRによって標的遺伝子座を増幅し、PCR産物に溶融/アニーリング工程を行ない、変異DNA及び野生型DNAのランダムな再アニーリングによって、変形した二本鎖DNAが生成した。次いで、CEL−I酵素(SurveyorTM変異検出キット、Transgenomic,Inc.)を加え、ミスマッチ部位でDNA二本鎖を特異的に開裂させた。CEL−Iによって開裂したサンプルを10%TBEポリアクリルアミドゲルで分離し、臭化エチジウムで染色し、濃度測定器でDNAバンドを定量した。前記のMiller et al.(2007)に本質的に記載されているように、NHEJの頻度を算出した。
【0122】
図1A及び図1Bに示されるように、GS ZFNは、内在性GSの遺伝子座を改変した。特に、ZFN9372及びZFN9075を含むZFN対は、改変が、CHO−KI細胞の染色体の26%(野生型開裂ドメインの場合)、24%(操作された必須ヘテロ二量体を形成する開裂ドメイン)、CHO−S細胞の染色体の25%であった(図1B)。同様に、ZFN8361及び8365を含むZFN対(エクソン2を標的とする)は、染色体の7%を改変した。
【0123】
SurveyorTMNuclease Assay(図1A)の結果と一致して、直接的な配列決定から、アレルの34%(91/266)が、NHEJが介在するDNA修復に典型的なZFN標的部位に変異を有していることを確認した(例えば、Weterings et al.(2004)DNA repair(Amst)3:1425−1435を参照)。重要なことに、その配列決定した変異の81%が、リーディングフレームのシフトを生じていた(図5)。
【0124】
実施例3:GS陰性細胞株の作成
GSが欠損したCHO細胞株を作成するために、実施例2に記載したCHO−K1をトランスフェクトしたプールと、CHO−Sをトランスフェクトしたプールとを限界希釈することによって、1個の細胞から誘導した株を単離した。ZFN標的領域の配列決定から、CHO−Sに由来する細胞株54個のうち17個(31%)が、少なくとも1つの破壊されたGS遺伝子を有しており、54個のうち8個(15%)が、変異アレルについてホモ接合体であり、2個が複合ヘテロ接合体であり、残りの7個がヘテロ接合体であった(1つは野生型アレルを含む)。CHO−K1に由来する細胞株では、配列分析によって、50個のうち18個(36%)が、少なくとも1つの破壊されたGSアレルを有しており、5個(10%)が所与の変異についてホモ接合体である。また、ホモ接合変異株の遺伝子型を示す図1Cを参照されたい。
【0125】
すべてのホモ接合性変異株は、GSに変異があり、オープンリーディングフレームのシフトが起こっているか、又は重要なアミノ酸がフレーム内で欠損しており(例えば、B4株、KA2株、KA4株)、従って、活性なGS酵素を産生しないと予想された。予想どおり、ホモ接合変異株は、野生型CHO細胞とは対照的に、いずれも外来L−グルタミンが存在しない状態では増殖しなかった(図1)。
【0126】
抗GSモノクローナル抗体(BD Biosciences)を用いたウェスタンブロット分析から、フレームのシフト又は大きな欠損があるすべての細胞株は、検出可能なGSタンパク質を発現しないことが確認された(例えば、クローンB3、図1D)。小さなフレーム内欠損を有する株(B4及びKA2)は、ウェスタンブロットで検出可能なGSタンパク質を発現したが、GS触媒活性に必須のアミノ酸がないことは同様であり、L−グルタミンが存在しない状態では、細胞は増殖しなかった(図1C)。また、細胞株B3の増殖は、グルタミン補給に依存していることも示された(図6を参照)。
【0127】
これらのGS-/-表現型をさらに確認するために、既知組成の無血清培地の懸濁物で3ヶ月間増殖させるために、CHO−K1に由来するクローンのうちの3つのクローンを順応させた。この細胞の増殖及び生存率を、さらに4ヶ月間集中してモニタリングした(図1E)。
【0128】
ZFNによって作成したGS-/-株は、無血清懸濁培地中、L−グルタミン存在下で普通に増殖した(同様の条件で増殖した業界標準CHOK1SVと同様に、倍加時間24〜27時間)。次いで、L−グルタミンを除去すると、細胞の増殖がすぐに止まり、すぐに生存能力が失われた(図1Eの矢印を参照)。ヒトIgG抗体発現構築物の一過性トランスフェクションから、3種類すべてのGS-/-株が、CHOK1SV株で得られるトランス遺伝子発現レベルに匹敵する発現レベルでを支持したことが確認された。
【0129】
以上をまとめると、これらのデータは、遺伝型及び表現型が確認されたGSノックアウトCHO細胞株を首尾よく作成できていることを裏付けている。
【0130】
実施例4:GS−DHFRダブルノックアウト細胞株の作成
ダブルノックアウト細胞株を作成するために、CHO−S GS-/-細胞株B3の背景に、DHFR遺伝子を標的とするZFNを用いた。上述のGSについて記載されている方法を用いたZFNが介在するDHFRのノックアウトは、米国特許公開第2008/0015164号に記載されている。
【0131】
この実施例では、NHEJによって開裂した染色体末端の修復によって、その間にあるゲノムフラグメントを除去するという目標のもとに、DHFR遺伝子の2つの別個の領域を標的とする2つのZFN対を、同時に送達した。ZFN特異的な遺伝子間配列が失われると、例えば、図1Dのタンパク質の発現を回復させる小さなフレーム内変異の可能性を除外した、より大きく、より良好な規定された変異が生じると予想された(「B4」と記載されている左側のパネル)。
【0132】
CHO DHFR遺伝子のエクソン1を標的とする、既に記載したZFN対9461/7844(米国特許公開第2008/0015164号)に加え、エクソン1のすぐ後のイントロンのうち、約240bp離れた部位を標的とする第2のZFN対を作成した(図2A及び図7A)。
【0133】
実施例3に記載されるように一過性トランスフェクションを行ない、エクソン1を標的とするZFN9461/ZFN7844対、又はイントロン部位のみを標的とするZFN9476/ZFN9477(図7B及び7Cを参照)対のいずれかを用いたトランスフェクションによって、GS-/-細胞株B3における内在性DHFR遺伝子座のアレル変異の頻度は、それぞれ15%、18%であった(図2B)。両方のZFN対をGS-/-細胞株B3に一緒にトランスフェクションすると、ZFN結合部位間の配列である約240bpが欠損したと予想されるものと一致する短めのPCR増幅産物が現れた(図2C)。この欠損事象の頻度は、全アレルの約8%であると概算され、両方のZFN対が細胞に導入された場合にのみ観察された(図2C)。
【0134】
推定欠損PCRフラグメントのクローニング及び配列決定から、ZFN標的部位の間の配列が予想どおり除去されていることがわかった(図8)。再結合した染色体末端の接合部で、配列内に軽微な変異が観察され、これは、NHEJ修復プロセスに特徴的な、予想される小さな挿入及び除去と一致している。
【0135】
1個の細胞に由来する株は、図2Cの第7レーンで、限界希釈によって、ZFNで処理されたプールから単離された。PCR増幅及び配列決定から、細胞株の9%(200のうち18)で、予想どおり約240bpの欠損があることが明らかになった。これらの細胞株のうち4つ(スクリーニングしたすべての株の2%、欠損部があったすべての株の22%)は、DHFR遺伝子に両アレル変異があることがわかった(図2D)。細胞株2B12.8は、エクソン1とイントロン1のZFN開裂部位の間にある244bpの領域が欠損したホモ接合体である。残りの株は、片方のアレルのみに240bpの欠損があり、他方は、エクソンのZFN標的部位及び/又はイントロンのZFN標的部位で、NHEJによって起こる従来のもっと小さな変異が存在した。例えば、細胞株1F1.6は、片方のアレルに約240bpの欠損があった(2回のZFN開裂及び除去事象に一致する)が、他方のアレルは、エクソン1において4bpが欠損し、フレームシフトを生じていた。
【0136】
1F1.6細胞株及び2B12.8細胞株は、遺伝子を完全にノックアウトしたものと一致する遺伝子型を有しており、さらなる特性決定のためにこれらを選択した。ウェスタンブロット分析から、これらの1個の細胞に由来する株のいずれにも、全長DHFRもGSタンパク質も存在しないことがわかった(図2E)。さらに、どちらの株も、親細胞であるGS-/-株B3又は野生型CHO細胞とは対照的に、DHFRタンパク質の活性部位に結合するフルオレセイン標識されたメトトレキサートでは染色されなかった。最も重要なことに、1F1.6細胞株及び2B12.8細胞株の増殖は、外来のヒポキサンチン及びチミジン(HT)及びL−グルタミンを培地に加えることに依存していた。対照的に、親細胞であるGS-/-株B3は、L−グルタミンを必要とするが、HTは必要とせず、一方、DHFR陰性CHO細胞株DG44(GSWT)は、HTのみを必要とし、L−グルタミンを必要とせず、野生型CHO−Sは、増殖するのにどちらの補給も必要なかった(図2F)。
【0137】
外来HT及びL−グルタミンに依存していることは、1F1.6細胞株及び2B12.8細胞株において、GS活性とDHFR活性の両方が機能的に失われていることを裏付けている。
【0138】
従って、以上をまとめると、これらのデータは、遺伝型及び表現型が確認されたGS-/-/DHFR-/-ダブルノックアウトCHO細胞株を首尾よく作成できていることを示している。
【0139】
実施例5:GS−DHFR−FUT8トリプルノックアウト細胞株の作成
GS-/-DHFR-/-CHO細胞株IF1.6を用い、GS、DHFR、FUT8のトリプルノックアウトも作成した。米国特許出願第12/218、035号に記載されているように、タンパク質治療薬の発現において、非ヒト細胞、例えばCHOを用いて生じる異常なグリコシル化は、タンパク質産物の効能、半減期を変えることがあり、免疫原性さえも変えてしまうことがある。故に、非ヒト発現系において、タンパク質のグリコシル化をヒトに適用する方法が特に望ましい。CHO FUT8遺伝子は、GDP−フコースから、N結合したオリゴ糖のGlcNAcコアへのフコースの移動を触媒するα1,6−フコシルトランスフェラーゼをコードする標的である。エクソン10においてコードされる高度に保存されたFut motif IIにおけるアミノ酸残基の点変異によって、FUT8酵素が不活性化する。
【0140】
このように、本願発明者らは、FUT8のエクソン10に広がり、CHO−K1ゲノムに由来するイントロンに隣接する領域をクローン化し、配列決定し、エクソン10を標的にするようにZFNを設計した(米国特許出願第12/218,035号;図3A及び図9)。ZFN12172/ZFN12176を細胞株1F1.6に一過性送達すると、FUT8アレルの7.5%が改変し(図3B)、1個の細胞に由来する株を、このプールからの限界希釈によって得た。
【0141】
市販の抗体を用いて、C.griseus FUT8は、検出されなかったため、本願発明者らは、Yamane−Ohnuki et al.(2004)Biotechnol Bioeng 87:614−622に記載されているように、FACSによるfluorescent Lens culinaris agglutin(F−LCA)結合アッセイを用い、α1,6−フコシルトランスフェラーゼ活性をさらにアッセイした。LCAは、細胞表面にフコシル化したオリゴ糖コアが存在するような細胞に選択的に結合する。FUT8活性が完全に失われているため、コアのフコシル化が起こらない細胞は、LCAに結合しない。ZFNによって作成した細胞株を、F−LCAに結合する能力についてスクリーニングすると、株の2%(200のうち4)で、まったくF−LCAに結合せず、このことは、FUT8酵素活性がまったくないことを示す(図3C)。
【0142】
ゲノムDNAのPCR単位複製配列の配列決定から、両クローンとも、FUT8標的遺伝子座に両アレル複合ヘテロ接合変異を有していることが確認され(図3D)、FUT8の機能に必須の領域におけるリーディングフレームのシフトをコードしている。このように、両細胞株の遺伝子型は、F−LCA結合がないという観察結果と一致しており(図3C)、35F2細胞株及び14C1細胞株において、FUT8がZFNによって遺伝的にも機能的にもノックアウトされていることを示す。また、FUT8-/-クローンは、両方とも、ZFNによるトランスフェクション及び1個の細胞のクローニングを複数回繰り返しても、GS-/-及びDHFR-/-の遺伝子型及び表現型を安定に維持していた。実際に、トリプルノックアウト細胞株の作成は、HT及びL−グルタミンを補給した血清含有培地中で増殖速度試験によって測定した場合、十分に耐え得るものであり、クローン35F2及び14C1において、集団の平均倍加時間はそれぞれ21.8時間及び21.6時間であった。以上をまとめると、これらのデータは、操作されたZFNを用い、CHO細胞において、シングル遺伝子ノックアウト、ダブル遺伝子ノックアウト、トリプル遺伝子ノックアウトを首尾よく作成できていることを示している。
【0143】
実施例6:GR−CCR5−PPP1R12Cトリプルノックアウト細胞株の作成
また、不活性化したZFNを一緒に投与することによって、トリプルノックアウト細胞株を作成した。特に、CCR5、糖質コルチコイド受容体(GR)、PPP1R12C(アデノ随伴ウイルス組込部位又は「AAVS1」としても知られる)が不活性化しているK562細胞株も、これらの遺伝子座を標的にするZFNを同時に適用することによって作成した。
【0144】
米国特許公開第20080159996号(CCR5);第20080188000号(GR)、米国特許出願第12/150,103号(PPP1R12C/AAVS1)に記載されているように、CCR5、GR、AAVS1を標的とするZFNを作成した。これらの遺伝子の一部にあるZFN結合部位を示す図を図10Aに示す。CCR5遺伝子は、3つのエクソンを含有し、コード配列(CDS)は、エクソン3内にあり、CCR5 ZFNの標的配列は、示されているとおり、CDS内にある。GR遺伝子は、9つのエクソンを含有し、GR ZFNの標的配列は、エクソン3内にある。AAVS1 ZFNの標的配列は、AAVS1領域の中ほどに位置している。
【0145】
Fok Iの触媒ドメインの野生型、ZFN−Fok I(wt)又は必須ヘテロ二量体EL/KK改変体、ZFN−Fok I(EL/KK)のいずれかに結合する、ZFN対をコードするプラスミドを、K562細胞に一緒に一過性トランスフェクションし、CCR5(左)、GR(中央)、AAVS1(右)の遺伝子座での改変頻度を、トランスフェクションから10日後にSurveyorTMNuclease Assayによってそれぞれ決定した。図10Bに示されているように、標的遺伝子に、ZFN処理後にNHEJを行なった。
【0146】
これらのトリプルノックアウト細胞の1個の細胞に由来する細胞株も、上述のゲノムDNAのPCR及び配列決定によって評価した。特に、CCR5 ZFN−Fok I(EL/KK)+GR ZFN−Fok I(EL/KK)+AAVS1 ZFN−Fok I(EL/KK)で処理した、図10Bの第8レーンのサンプルを試験した。欠損のある配列ではなく、改変されていない野生型(wt)配列を特異的に増幅させるようにPCRプライマーを設計した。
【0147】
結果を以下の表4に示す。wt配列を含むすべてのクローン(wt又はヘテロ接合体)は、示した大きさの目視できるPCRバンドを有しており、一方、ノックアウト(KO)クローンには、目視できるPCRバンドがなかった。CCR5 PCRによってスクリーニングした、単細胞クローン144個のうち、5個のクローンがCCR5 KOを含んでいた。9個のクローンは、GR PCRによってGR KOであると同定された。これらのクローンのうち2個は、CCR5 KOとGR KOを両方含んでいる。CCR5 PCR又はGR PCRのいずれかに基づくKOクローンである12クローンを、すべてAAVS1 PCRによってスクリーニングした。スクリーニングした144個のクローンの中で、1個のCCR5シングルKOクローンを同定し、7個のGRシングルKOクローンを同定したが、AAVS1シングルKOクローンは同定する試みは実施しなかった。1個のCCR5/GR二重KOクローンを同定した。2個のCCR5/AAVS1二重KOクローンを同定した。144個のクローンの中で、GR/AAVS1二重KOクローンは同定されなかったが、GR/AAVS1二重KOクローンは、もっと多くのクローンをスクリーニングすれば同定された可能性が高い。1個のCCR5/GR/AAVS1トリプルKOクローン(B17)を同定した。
【表6】

【0148】
トリプルノックアウトクローンB17に由来する細胞の例示的な配列データを図10Cに示している。ZFN標的配列には下線が引かれている。「−」は欠損を示し、太字は挿入部を示す。
【0149】
実施例7:GSを標的とするZFNは、複数の種及び細胞型で活性である
本明細書に記載したGS特異的なZFN(ヒトCHO細胞GS配列に対して設計されている)を、マウス細胞でも評価した。図11A及び図11Bに示されるように、GS内のZFN標的部位は、種族間でもよく保存されていた。
【0150】
ZFN対8361/8365(エクソン2を標的とする)及び9075/9372(エクソン6を標的とする)を、上の実施例2で記載したように、ヒトK562細胞及びマウスNeuro2a細胞内でGSを開裂する能力について評価した。
【0151】
図12に示されているように、CHO GS配列に対して設計されたZFNは、他のヒト細胞種及び他の種族でも機能を発揮した。
【0152】
ヒト胎児腎臓HEK293細胞において、実施例2に記載されているように、GS特異的なZFN(ZFN9075及びZFN9372)も試験した。図14Aに示されているように、CEL−I酵素(SurveyorTM変異検出キット、Transgenomic,Inc.)は、NHEJ発生率が21%であることを示していた。
【0153】
GSノックアウト細胞株を、同じGS ZFNを用いたCHO細胞(実施例3を参照)と同じアプローチを用い、バックグラウンドのHEK293細胞を用いて作成した。2つのノックアウトクローンg17及びg52をさらに特性決定した。クローンg52は、GS遺伝子座に11bpの欠損があるホモ接合体である。クローン17は、片方のGSアレルに169bpの欠損があり、他のアレルに4bpの挿入がある。図14Bに示されるように、ウェスタンブロッティングによって決定されるように、どちらのクローンもGSタンパク質を発現しない。重要なことに、両方のクローンが、増殖のために外からL−グルタミンを補給する必要があった(図14Cを参照)。
【0154】
従って、1個の哺乳動物細胞株において、標的遺伝子を連続的に又は同時に不活性化することによって複数の遺伝子を迅速にノックアウトするために、ZFNを使用してもよい。本明細書に示されている結果は、細胞株又はZFNの選択には依存しない。個々の遺伝子で起こるZFNによる両アレルノックアウト事象の頻度(>1%)を、選択マーカーに依存しないことと組み合わせると、このような遺伝子病変を迅速に「積み重ね」、以前には現実的ではないと考えられていた複雑な複数遺伝子をノックアウトした細胞株を作成する能力が得られる。真核細胞において、一過性のZFN発現後のみの遺伝子ノックアウトの高い効率、及び複数の特質を積み重ねる能力は、本質的にいかなる細胞型であってもカスタム遺伝子操作を調節しやすくする。
【0155】
本明細書で述べられているあらゆる特許、特許明細書、刊行物は、その全体が参照により組み込まれる。
【0156】
明確に理解してもらうことを目的として、説明及び実施例によってある程度詳細に開示されているが、本開示の趣旨又は範囲に逸脱することなく、種々の変更及び改変を行なうことができることは当業者には明らかであろう。従って、上の記載及び実施例は、限定するものと解釈されるべきではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表1に示されるような4つ、5つ又は6つのジンクフィンガー認識領域を含む、ジンクフィンガーDNA結合ドメイン。
【請求項2】
請求項1に記載のジンクフィンガーDNA結合ドメインと、少なくとも1つの開裂ドメイン又は少なくとも1つの開裂ハーフドメインとを含む、融合タンパク質。
【請求項3】
前記開裂ハーフドメインが、野生型FokI開裂ハーフドメイン又は操作されたFokI開裂ハーフドメインである、請求項2に記載の融合タンパク質。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のジンクフィンガーDNA結合ドメイン又は融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のタンパク質又は請求項4に記載のポリヌクレオチドを含む、単離された細胞。
【請求項6】
グルタミンシンセターゼ(GS)が、ヌクレアーゼによって部分的又は完全に不活性化されている、細胞株。
【請求項7】
細胞において、細胞内在性GS遺伝子を不活性化する方法であって、この方法が、
(a)第1のポリペプチドをコードする第1の核酸を細胞に導入することを含み、この第1のポリペプチドが、
(i)内在性GS遺伝子の第1の標的部位に結合するように操作されたジンクフィンガーDNA結合ドメインと、
(ii)開裂ドメインとを含み、その結果、前記ポリペプチドが前記細胞内で発現し、それによって、前記ポリペプチドが前記標的部位に結合し、前記GS遺伝子を開裂させる、方法。
【請求項8】
第2のポリペプチドをコードする核酸を導入することをさらに含み、この第2のポリペプチドが、
(i)前記GS遺伝子の第2の標的部位に結合するように操作されたジンクフィンガーDNA結合ドメインと、
(ii)開裂ドメインとを含み、その結果、前記第2のポリペプチドが前記細胞内で発現し、それによって、前記第1のポリペプチド及び前記第2のポリペプチドがそれぞれの標的部位に結合し、前記GS遺伝子を開裂させる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記第1のポリペプチド及び前記第2のポリペプチドが、同じ核酸又は異なる核酸によってコードされる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記細胞においてDHFR遺伝子を不活性化することをさらに含む、請求項7〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記細胞においてFUT8遺伝子を不活性化することをさらに含む、請求項7〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
宿主細胞において目的の組み換えタンパク質を産生する方法であって、この方法が、
(a)内在性GS遺伝子を含む宿主細胞を得るステップと;
(b)前記宿主細胞の内在性GS遺伝子を、請求項7〜10のいずれか一項に記載の方法によって不活性化するステップと;
(c)目的のタンパク質をコードする配列を含むトランス遺伝子を含む発現ベクターを、前記宿主細胞に導入するステップとを含み、これによって前記組み換えタンパク質を産生する方法。
【請求項13】
前記目的のタンパク質が、α1−抗トリプシン抗体又はモノクローナル抗体を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
GS遺伝子が部分的又は完全に不活性化されている細胞株であって、この細胞株が、
(a)請求項7〜10のいずれか一項に記載の方法によって、細胞内でGS遺伝子を不活性化することと;
(b)GS遺伝子が部分的又は完全に不活性化されている細胞株を作成するのに適した条件下で、前記細胞を培養することとによって産生される、細胞株。
【請求項15】
前記細胞が、COS細胞、CHO細胞、VERO細胞、MDCK細胞、WI38細胞、V79細胞、B14AF28−G3細胞、BHK細胞、HaK細胞、NS0細胞、SP2/0−Ag14細胞、HeLa細胞、HEK293細胞、perC6細胞からなる群から選択される哺乳動物細胞である、請求項14に記載の細胞株。

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図1C】
image rotate

【図1D】
image rotate

【図1E】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate

【図2C】
image rotate

【図2D】
image rotate

【図2E】
image rotate

【図2F】
image rotate

【図3A】
image rotate

【図3B】
image rotate

【図3C】
image rotate

【図3D】
image rotate

【図4A】
image rotate

【図4B】
image rotate

【図4C】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7A】
image rotate

【図7B】
image rotate

【図7C】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9A】
image rotate

【図9B】
image rotate

【図9C】
image rotate

【図10A】
image rotate

【図10B】
image rotate

【図10C】
image rotate

【図11A】
image rotate

【図11B】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13A】
image rotate

【図13B】
image rotate

【図13C】
image rotate

【図14A】
image rotate

【図14B】
image rotate

【図14C】
image rotate


【公表番号】特表2012−507282(P2012−507282A)
【公表日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−534508(P2011−534508)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際出願番号】PCT/US2009/005865
【国際公開番号】WO2010/053518
【国際公開日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(508241200)サンガモ バイオサイエンシーズ, インコーポレイテッド (28)
【Fターム(参考)】