説明

グローブボックス

【課題】 作業者が所要の作業位置に容易に手が差し込めるようにして、作業の自由度を高める。
【解決手段】 内部に作業空間5が形成されるボックス1を備え、上記作業空間5は密閉されるとともに前方側から透視可能とされ、上記ボックス1の前面に設けられる前面パネル3には作業用のグローブ4が取り付けられており、上記前面パネル3が上記ボックス1の前面に沿って上下もしくは左右に変位可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、危険性を有する微生物や病原体、微小・微量の物質、大気中では不安定な物質、毒性の強い物質等の取り扱いに使用するグローブボックスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
グローブボックスは、内部に作業空間が形成されるボックスを備えており、このボックスの作業空間は密閉されるとともに前方側から透視可能となっている。ボックスの前面パネルには、作業用グローブが取り付けられており、作業者は、ボックス内の作業空間を観察しながら、作業用グローブを介して安全に、作業空間内に配置されている各種物質等を取り扱いできるようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平7−237175号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来のグローブボックスでは、ボックスの前面壁に開口や筒状の取り付け座を設けて、これにグローブを取り付けており、グローブの取り付け位置はボックスに対して固定されていた。
【0004】
そのため、作業者の体格や、ボックス内部での作業の種類、作業位置によっては、作業者に無理な姿勢を強いることになって作業が行いにくくなったり、作業位置に手が届かなくなったりする場合があり、作業の自由度が低いという問題があった。
【0005】
本発明は、上記従来の問題に対処したもので、作業者が無理な姿勢をとらずに、ボックス内の所要の作業位置に手が差し込めるようにして作業を容易にし、作業の自由度を高めることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を達成するために、ボックス前面のパネルに作業用のグローブを装着したグローブボックスにおいて、上記ボックス前面開口をシートで密封すると共に、該シートを上記密封を維持した状態で該ボックス前面に沿い所定方向に移動可能となし、かつ、該シートに上記パネルを固定してなり、シートが移動可能であることでパネルに装着した上記グローブの上記作業空間内の移動を可能としたことを特徴とするものである。
【0007】
本発明において、好ましい態様は、上記シートの移動方向が上下または左右の方向である。
【0008】
本発明において、好ましい態様は、上記シートをその移動に伴い巻き取り、巻き戻す機構を設けることである。
【0009】
上記構成のグローブボックスでは、作業者の体格に合わせて、前面パネルの位置を移動させることで、グローブ位置を作業者の体格に合った高さに合わせることができ、無理な姿勢をとらずに作業をすることが可能になる。
【0010】
また、作業の種類によってはボックス内での作業位置が変わるが、その場合は、前面パネルの位置を例えば上下もしくは左右に変更して、グローブの位置をボックス内の作業位置に合わせることができ、これにより作業の種類の変更に対処しうる。
【0011】
しかも、本発明では、前面パネルをボックス前面に沿い移動させることができるから、ボックス内作業空間を密閉状態に保つことができることになり、グローブ位置の変更のために、ボックスを開放する必要なく、ボックス内作業環境を変えずに、迅速容易にグローブ位置の調節ができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、前面パネルを移動させることで、グローブ位置を作業者の体格やボックス内作業位置に合わせることができ、作業者や作業の種類が変わっても、支障なく作業を進められる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の最良の実施の形態を、図を参照して説明する。図1ないし図3は、本発明の最良の実施の形態である第1の実施の形態を示し、図1は、本発明の第1の実施の形態に係るグローブボックスの正面図で、一部破断して内部を示している。図2は、図1のイ−イ線における縦断側面図であり、図3は、図1のロ−ロ線に沿って断面した部分の拡大断面図である。
【0014】
第1の実施の形態に係るグローブボックスは、図1および図2に示すように、ボックス1と、シート2と、前面パネル3と、作業用のグローブ4とを備える。
【0015】
ボックス1は、内部に作業空間5を形成するもので、前面が開放された箱体となっている。ボックス1は、例えばステンレス鋼板で形成されるが、一部または全部を透明な樹脂板であるアクリル樹脂板で形成することもできる。ボックス1の内底部には、パンチングメタルからなる底板6が設置されている。
【0016】
ボックス1の前面開口の周縁部のうち、左右両側の周縁部1aには、シート2を案内するためのレール7が上下方向に取り付けられ、そのレール7の前面には、該レール7の長さ方向に沿ってシール用のパッキン8が付設されている。また、前面開口の上下の周縁部1b,1bには、それぞれ左右方向に伸びるガイド9,9が取り付けられ、これら上下のガイド9,9の前面に、各ガイド9の長さ方向に沿ってシール用のパッキン10,10が付設されている。
【0017】
シート2は、ボックス1の前面開口を覆うもので、透明素材からなり、ボックス1の前面と同程度の横幅を有し、上下方向に長尺である。シート2の上下部は、図2に示すように、巻き軸11,12に巻き取られてそれぞれロール部2a,2bを形成している。上下の各ロール部2a,2bは、ブラケット13,…によりボックス1の前面側の上面部および下面部に、シート2が上下方向(矢印αの方向)に引き出し巻き取りできる状態で支持されている。
【0018】
上下のロール部2a,2bの間で、シート2はボックス1の前面開口を覆っており、シート2の各部分のうち、ボックス1の前面開口の周縁部1a,1bに対応する部分が、左右のレール7のパッキン8と、上下のガイド9のパッキン10に圧接することにより、ボックス1の前面開口が密封されるようになっている。
【0019】
シート2の左右両側部より前面側には、シート押え14がボックス1の左右外面部に固定された状態で設けられており、このシート押え14により、図3に示すように、シート2の左右両側部が、レール7のパッキン8に圧接されている。
【0020】
前面パネル3は、ボックス1の前面側にあってグローブ4を取り付け支持する部材で、この実施の形態では、透明板からなる。この前面パネル3は、その上下幅がボックス1の前面開口の上下開口幅より狭く、かつ、横幅がシート2の横幅より狭く、シート2の前面で、シート2の左右ほぼ中間位置に、シート2の左右両側部が前面パネル3より左右外側に張り出すように張り合わされて、シート2に保持されている。
【0021】
グローブ4は、柔軟性を有する材料、例えばネオプレンゴムから形成されている。このグローブ4の取り付けのためには、前面パネル3およびシート2に開口15が形成され、前面パネル3の前面側には筒状の取り付け座16が設けられている。グローブ4は、その基部を外周側に折り返してその折り返し部分を上記取り付け座16の外周面に嵌着することで、前面パネル3に取り付けられる。
【0022】
また、図2に示すように、ボックス1の背面側には、HEPAフィルタ17とファン18とを内蔵したダクト19が設けられている。図示のダクト19は排気用で、ボックス1の上部から吸気して、下部の排気管20から排気するようになっている。排気管20にも、フィルタ21とファン22とが設けられている。
【0023】
なお、特に図示はしないが、ボックス1の背面側には他に送気ダクトもしくは送気管が連通接続され、この送気ダクトもしくは送気管を通じて、ボックス1内の作業空間に清浄なエア等、所要の雰囲気ガスが供給されるようになっている。
【0024】
上記構成において、ボックス1内の作業空間5には所要の機器、器具および物質等が用意されている状態で、作業者は、前面パネル3の開口15からグローブ4に手を差し入れ、シート2および前面パネル3を通してボックス1内部を観察しながら、グローブ4に差し入れた手により所要の作業を行う。
【0025】
この場合、ボックス1の前面を覆うシート2は、レール7や上下のガイド9のパッキン8,10に圧接しているから、作業空間5の気密状態が維持され、従来のグローブボックスにおけるのと同様に、安全に作業を行える。
【0026】
次に、作業者や作業の種類が変わり、作業者の姿勢に無理が生じたり、ボックス1内の作業位置に手が届かなくなったような場合は、シート2を上下に巻き戻し巻き取って前面パネル3を適度に上下に移動変位させればよい。これにより、グローブ4の位置、すなわち、作業者が手を差し入れる位置が変わり、無理な姿勢をとらずに、作業位置に手が届くようになり、円滑に作業が進められる。
【0027】
この場合、シート2は、常時、レール7や上下のガイド9のパッキン8,10に圧接していて、これにより、作業空間5の気密状態が維持される。グローブ4の上下位置の変更のためにボックス1を開放する必要がない。
【0028】
なお、第1の実施の形態では、シート2を上下に巻き取り巻き戻し可能に設け、このシート2に前面パネル3を保持させることで、前面パネル3を上下方向に変位可能としたが、シートを左右横方向に巻き取り巻き戻し可能に設け、このシートに前面パネル3を保持させることで、前面パネル3を左右に変位可能とすることもできる。
【0029】
上記の場合、前面パネルは、図4の第2の実施の形態に示すような構成により、上下に変位可能にしてもよい。図4は、本発明の第2の実施の形態に係るグローブボックスの側面図で、一部破断して内部を示している。
【0030】
第2の実施の形態では、前面パネル31がボックス1の前面部よりも上下に広幅となっている。また、この第2の実施の形態では、ボックス1の前面開口の周縁部のうち、左右両側の周縁部1aは、シートを案内するためのレールとして利用され、その前面には、上下方向に沿ってシール用のパッキン81が付設されている。さらに、ボックス1の前面開口の上下の周縁部1bは、それぞれ上下のガイドとして利用され、その前面には、左右方向に沿ってシール用のパッキン101が付設されている。
【0031】
前面パネル31は、その前面側に設けたローラ23により、上下に変位しうる状態で、上下方向のパッキン81および左右方向のパッキン101に圧接している。なお、上記ローラ23は、ブラケット24によりボックス1の側面部に支持されている。符号25は、前面パネル31の上下の変位距離を規制するストッパーである。その他の部分は、第1の実施の形態と変わりがなく、共通する部分は、第1の実施の形態と同一の番号で示している。
【0032】
上記構成によれば、前面パネル31の上下位置を変更することで、作業者や作業の種類に応じて、グローブ4の位置、すなわち、作業者が手を差し入れる位置を調整することができる。
【0033】
以上説明したように本実施の形態では、ボックスの前面開口をシートで密封すると共に、このシートを、上記密封を維持した状態でボックス前面に沿い上下等の所定方向に移動可能としたうえで、シートに前面パネルを固定したので、シートを移動させることでパネルと共に作業用のグローブを上記作業空間内を移動させることが可能となり、結果、作業者の体格に合わせて、前面パネルの位置を移動させることで、グローブ位置を作業者の体格に合った高さに合わせることができ、無理な姿勢をとらずに作業をすることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は本発明の最良の形態である第1の実施の形態に係るグローブボックスの一部破断正面図である。
【図2】図2は図1のイ−イ線における縦断側面図である。
【図3】図3は図1のロ−ロ線に沿って断面した部分の拡大断面図である。
【図4】図4は本発明の第2の実施の形態に係るグローブボックスの一部破断側面図である。
【符号の説明】
【0035】
1 ボックス
1a 左右の周縁部
1b 上下の周縁部
2 シート
2a 上部のロール部
2b 下部のロール部
3 前面パネル
4 グローブ
5 作業空間
7 レール
8 パッキン
9 ガイド
10 パッキン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボックス前面のパネルに作業用のグローブを装着したグローブボックスにおいて、上記ボックス前面開口をシートで密封すると共に、該シートを上記密封を維持した状態で該ボックス前面に沿い所定方向に移動可能となし、かつ、該シートに上記パネルを固定してなり、シートが移動可能であることでパネルに装着した上記グローブの上記作業空間内の移動を可能とした、ことを特徴とするグローブボックス。
【請求項2】
上記シートの移動方向が上下または左右の方向である、ことを特徴とする請求項1に記載のグローブボックス。
【請求項3】
上記シートをその移動に伴い巻き取り、巻き戻す機構を設けた、ことを特徴とする請求項1または2に記載のグローブボックス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−131713(P2010−131713A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−310627(P2008−310627)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(505044451)ソナック株式会社 (107)
【Fターム(参考)】