説明

ケイ素低級酸化物粒子の製造方法及び該粒子の分散液

【課題】非化学量論的化合物であるケイ素低級酸化物粒子を、安価な原料を用いて、効率よく、かつ工業的に有利に製造する方法、及びこの方法で得られたケイ素低級酸化物粒子の分散液を提供する。
【解決手段】熱プラズマ装置内で、体積比15/1〜4/1のアルゴン/水素混合ガスの熱プラズマを発生させ、該熱プラズマにより、シリカ粉末を分解処理して、一般式(1)
SiOx ・・・(1)
(式中、xは1.0<x≦1.6の関係を満たす数である。)
で表されるケイ素低級酸化物粒子を得る、ケイ素低級酸化物粒子の製造方法、及びこの方法で得られたケイ素低級酸化物粒子を、溶媒中に分散させてなる、ケイ素低級酸化物粒子の分散液である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケイ素低級酸化物粒子の製造方法及び該粒子の分散液に関し、さらに詳しくは、原料として安価なシリカ粉末を用い、アルゴン/水素混合ガスの熱プラズマにより、該シリカ粉末を分解して、ケイ素低級酸化物粒子を効率よく製造する方法、及びこの方法で得られたケイ素低級酸化物粒子を、ナノレベルで溶媒中に分散させてなる、ケイ素低級酸化物粒子の分散液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、非化学量論的化合物である、SiOx(1.0<x≦1.6)などのケイ素低級酸化物の粉末は、例えば光学レンズの反射防止用保護膜や、食品包装用のガスバリアフィルムなどの蒸着原料としての用途が知られており、また最近では、リチウムイオン電池の負極材料、透明導電膜、シリコンナノ結晶用などとしての用途が期待されている。
【0003】
このケイ素低級酸化物の粒子や粉末の製造方法については、これまで種々の報告や、技術の開示がなされている。
例えば、非特許文献1には、アルゴン−水素熱プラズマによるシリカ−アルミナ混合物の還元と分離の方法が報告されている。この方法では、SiO2−Al23混合物を、アルゴン/水素熱プラズマにより処理した際に、SiO2の熱分解反応又は還元反応が選択的に起こり、ケイ素及び一酸化ケイ素ガスが発生し、試料基板上にAl23が残ることにより、SiO2−Al23混合物を還元し、分離することが可能であるが、一酸化ケイ素粒子を合成するものではない。
【0004】
特許文献1には、SiO蒸気をノズルに通して還元窒化又は還元炭化もしくは減圧にした酸素の雰囲気下に断熱膨張で噴射する工程よりなる、少なくとも表面を窒化又は炭化もしくは酸化してなる粒径1μm以下の超微粉のアモルファス状SiOの製造方法が開示されている。また、特許文献2には、SiO2粉末と炭素含有物及び/又は金属ケイ素粉末との混合物を、0.1気圧以下に減圧した非酸化性雰囲気中の1300〜2000℃の温度域で熱処理し、SiOの蒸気を発生させ、該SiO蒸気を前記非酸化性ガスにより、凝縮させ、かつ搬送し、SiO粉末として回収する、SiO微粉末の製造方法が開示されている。
【0005】
さらに、特許文献3には、シリコン金属粉末を、雰囲気ガス中に噴出しているプラズマジェット中に投入し、蒸気としたシリコン金属粉末を酸素ガスと接触させて、一酸化ケイ素蒸気を生成し、これを急冷して得られた粗生成物を蒸留する、一酸化ケイ素の製造方法が開示されており、特許文献4には、シリカと、金属シリコン及び/又は炭素とを含む混合原料を、少なくとも8×104Pa以上の非酸化性かつ非窒化性雰囲気下で高温処理してSiO含有ガスを生成させ、それを1000℃/秒以下の冷却速度かつ0.2m/秒以上の流速で冷却し、SiOx(1.00<x≦1.40)組成を有する微粉末を析出させる低級酸化ケイ素粉末の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭59−8613号公報
【特許文献2】特開昭62−27318号公報
【特許文献3】特開昭60−215514号公報
【特許文献4】特開2001−158613号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Thin solid Film,345(1),p161−165,1999
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記の特許文献1及び2に開示されている技術は、SiO2とSi又はSiO2とCを反応させて、SiOガスを発生させる工程を経るが、この反応は固−固反応であるため、効率が悪く、収率が低下する。また、SiOガスを冷却して粒子を得るため、気流による冷却装置(特許文献1では、減圧酸素雰囲気下への噴射、特許文献2では、非活性ガス流での凝縮)が必要であり、複雑な装置が必要となる。
更に、SiO2とCを反応させる場合、SiCが生成するため、得られるSiOナノ粒子にSiCが混入し、収率が悪化し、得られるSiO粒子が高価になる。また、これらの技術においては、原料として使用する金属ケイ素は高価であり、得られるSiOナノ粒子も高価なことから、高価格が容認される分野への適用に限られてしまうなどの問題がある。
前記の特許文献3の技術においては、一度生成したSiO粉末を蒸留してSiOの酸素量を制御する工程が必要であり、新たな装置が必要になり、得られるSiO粒子が高価になるという問題がある。
前記の特許文献4の技術は、原料として、シリカと、金属シリコン及び/又は炭素とを含む混合原料を用いる上、熱プラズマを利用する技術ではない。
本発明は、このような状況下になされたもので、非化学量論的化合物であるケイ素低級酸化物粒子を、安価な原料を用いて、効率よく、かつ工業的に有利に製造する方法、及びこの方法で得られたケイ素低級酸化物粒子の分散液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、下記の知見を得た。
原料として、安価なシリカ粉末を用い、特定の体積比を有するアルゴン/水素混合ガス熱プラズマにより、該シリカ粉末を分解(還元)処理して、発生したSiO含有ガスをチャンバー壁で急冷することにより、ケイ素低級酸化物粒子が得られることを見出した。
そして、上記操作は、シリカ粉末を、アルゴン/水素混合ガス熱プラズマにより、分解(還元)処理して、SiO含有ガスを発生させるため、固−気反応となり、効率よくケイ素低級酸化物粒子を合成し得ること、また、シリカ粉末のアルゴン/水素混合ガス熱プラズマによる分解(還元)処理によって発生したSiO含有ガスを冷却(凝縮)するのに、水で冷却されているチャンバー壁を利用するために、ケイ素低級酸化物粒子を生成するための気流による冷却装置を必要としないこと、さらには、原料として市販のシリカ粉末を使用するので、高価な金属ケイ素粉末と比較して、1/10以下の価格で入手可能である上、該シリカ粉末は高純度のSiO2粉末であるので、SiCなどが生成することもなく、しかも固−気反応であって合成効率が良いために、安価で不純物の少ないシリカ低級酸化物粒子が得られること、などのメリットを有することを見出した。
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1)熱プラズマ装置内で、体積比15/1〜4/1のアルゴン/水素混合ガスの熱プラズマを発生させ、該熱プラズマにより、シリカ粉末を分解処理して、一般式(1)
SiOx ・・・(1)
(式中、xは1.0<x≦1.6の関係を満たす数である。)
で表されるケイ素低級酸化物粒子を得ることを特徴とする、ケイ素低級酸化物粒子の製造方法、
(2)熱プラズマによるシリカ粉末の分解処理後、熱プラズマ装置内に、表面処理剤ガスを導入し、表面処理してなるケイ素低級酸化物粒子を得る、上記(1)に記載のケイ素低級酸化物粒子の製造方法、
(3)表面処理剤ガスが、シラザン化合物ガス及び/又はシランカップリング剤ガスである、上記(2)に記載のケイ素低級酸化物粒子の製造方法、
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の製造方法で得られたケイ素低級酸化物粒子を、溶媒中に分散させてなることを特徴とする、ケイ素低級酸化物ナノ粒子の分散液、及び
(5)ケイ素低級酸化物ナノ粒子の平均粒径が、3〜100nmである、上記(4)に記載のケイ素低級酸化物粒子の分散液、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、原料として安価なシリカ粉末を用い、アルゴン/水素混合ガス熱プラズマにより、該シリカ粉末を分解して、ケイ素低級酸化物粒子を効率よく製造する方法、及びこの方法で得られたケイ素低級酸化物粒子を、ナノレベルで溶媒中に分散させてなる、ケイ素低級酸化物粒子の分散液を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のケイ素低級酸化物粒子の製造方法で用いる熱プラズマチャンバーの一例の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
まず、本発明のケイ素低級酸化物粒子の製造方法について説明する。
本発明のケイ素低級酸化物粒子(以下、SiOx粒子と称することがある。)の製造方法は、熱プラズマ装置内で、体積比15/1〜4/1のアルゴン/水素混合ガスの熱プラズマを発生させ、該熱プラズマにより、シリカ粉末を分解処理して、一般式(1)
SiOx ・・・(1)
(式中、xは1.0<x≦1.6の関係を満たす数である。)
で表されるケイ素低級酸化物粒子を得ることを特徴とする。
【0014】
[シリカ粉末]
本発明のSiOxの製造方法において、原料として用いるシリカ粉末の種類については特に制限はなく、各種の方法で得られたものを用いることができる。シリカ粉末としては、湿式法及び乾式法のいずれの方法で得られたものでもよく、例えば湿式法として、テトラアルコキシシランの加水分解−縮合反応のゾル−ゲル法や、水ガラスなどから製造される湿式シリカ粉末、乾式法として、石英粉末や、四塩化ケイ素などのハロゲン化シランを蒸気酸化により生成されるヒュームドシリカ粉末などの乾式シリカ粉末等を挙げることができる。これらは一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、当該シリカ粉末の結晶形態に特に制限はなく、結晶型、アモルファス型のいずれであってもよいが、得られるシリカ低級酸化物粒子(SiOx)の中に、ケイ素元素と酸素元素以外の他の元素の混入を避けるために、できるだけ高純度のものを用いることが好ましい。このようなシリカ粉末としては、安価な市販品を用いることができる。
また、当該シリカ粉末の粒径は合成できるSiOx粒子の粒径に依存しないため、特に規定はしないが、微粒子のほうが還元反応が進みやすいため、平均粒径3nm〜100μm程度の微粉末が望ましい。またハンドリングを容易にするために造粒してもよい。
【0015】
[熱プラズマ装置]
本発明のSiOxの製造方法においては、熱プラズマ装置内で、体積比15/1〜4/1のアルゴン/水素混合ガスの熱プラズマを発生させ、該熱プラズマにより、前述したシリカ粉末を分解(還元)処理して、一般式(1)
SiOx ・・・(1)
(式中、xは1.0<x≦1.6の関係を満たす数である。)
で表されるケイ素低級酸化物粒子を製造する。
前記熱プラズマ装置としては、図1に示すものを用いることができる。
図1は、本発明のSiOx粒子の製造方法で用いる熱プラズマ装置の一例の概略図であって、熱プラズマ発生部10は、アルゴン/水素混合ガス熱プラズマジェット7を発生させるため、該熱プラズマ発生部10内に水素ガスを導入するための水素ガス導入管1と、アルゴンガスを該熱プラズマ発生部10内に導入するためのアルゴンガス導入管2とが備えられており、また、原料のシリカ粉末を導入するための原料導入管3が備えられている。
さらに、チャンバー11の内壁9を冷却するために、冷却水導入管4及び冷却水排出管5が備えられており、また、チャンバー11内を排気するための排気管6が備えられている。符号7は熱プラズマジェットを示し、符号8は熱プラズマジェット7中の原料のシリカ粒子を示す。
【0016】
[反応操作]
図1の熱プラズマ装置の概略図を参考にしながら、本発明のSiOx粒子の製造方法における操作について説明する。
まず、チャンバー11内の圧力を、真空ポンプ(図示せず)などにより、排気管6を介して排気し、0.13〜66.5kPa程度、好ましくは13.3〜40kPaに調整する。次いで、熱プラズマ発生部10にアルゴンガス導入管2からアルゴンガスを、水素ガス導入管1から水素ガスを導入し、所定の出力の直流電力を印加して、体積比15/1〜4/1のアルゴン/水素混合ガスの温度10000℃程度の熱プラズマジェット7を発生させる。チャンバー11の内壁9は、冷却水導入管4及び冷却水排出管5を介して、冷却水を導入することにより、2000〜4000℃程度の温度に調整されている。
次いで、原料のシリカ粉末を、通常アルゴンガスと共に、原料導入管3より導入され、熱プラズマジェット7と共に、チャンバー11内に噴出させる。
なお、原料のシリカ粉末を導入の際に用いられるアルゴンガスは、アルゴン/水素混合ガスの体積比の算出においては、勿論アルゴンガスとして、体積比が算出される。
また、チャンバー11の内容積に応じて、原料のシリカ粉末、アルゴンガス及び水素ガスの導入速度、並びに熱プラズマを発生させるための直流電力の印加に用いる出力は、適宜選定される。
原料のシリカ(SiO2)粒子は、アルゴン/水素混合ガス熱プラズマによりSiO2が原子レベルまで分解され、Si、O、SiOガスが生成する。このSi、O、SiOガスは、プラズマからチャンバー内壁へ移動し、急冷されてSiOx粒子が生成する。このときアルゴン/水素体積比率を15/1〜4/1でコントロールすることにより、プラズマ中のOガス量をコントロールすることができ、SiOx(1.0<x≦1.6)粒子を得ることができる。
【0017】
[ケイ素低級酸化物粒子の性状]
本発明においては、前述したような条件で、アルゴン/水素混合ガス熱プラズマにより、シリカ粉末を分解(還元)処理することにより、一般式(1)
SiOx ・・・(1)
(式中、xは1.0<x≦1.6の関係を満たす数である。)
で表されるケイ素原子低級酸化物粒子が得られる。
前記一般式(1)で表されるSiOxのxの値は、下記の方法により算出することができる。
<SiOxにおけるxの算出>
アルゴン/水素混合ガス熱プラズマにより、シリカ粉末を分解(還元)処理して得られた、チャンバー内壁に付着した反応生成物をかき取り、試料として、酸素窒素分析装置により、酸素量(体積%)を測定する。測定した酸素量をAとすると、xは、下記の式(2)で算出することができる。
x=(A/16)/{(100−A)/28} ・・・(2)
本発明の方法においては、xが1.0以下のケイ素低級酸化物粒子や、xが1.6を超えるケイ素低級酸化物粒子は、合成が困難である。
また、原料のシリカ粉末と、該シリカ粉末を前述した方法で分解(還元)処理して得られた生成物(以下、「シリカ粉末の熱プラズマ処理物」と称することがある。)についてのXRD回折によると、原料のシリカ粉末のXRD回折パターンでは、結晶型を示すシャープなピークが見られるが、生成物のXRD回折パターンでは、結晶型のピークは存在せず、アモルファス型のパターンである。したがって、原料のSiO2は、このXRD回折パターンと前記のxの値から、実質上、アモルファス型のケイ素低級酸化物に変換されていることが分かる。
このチャンバー内壁に付着している、ケイ素低級酸化物粒子は、凝集粒子であるので、そのままでは一次粒径は分からないが、後述で説明するように、ケイ素低級酸化物ナノ粒子の分散液を調製し、該粒子の平均粒径を測定すると、通常3〜100nmの範囲である。
【0018】
[ケイ素酸化物粒子の表面処理]
前述した反応操作において、プラズマ処理後のチャンバーを減圧から大気圧に戻す際に、表面処理剤のガス又は液滴をアルゴン等の不活性ガスとともにチャンバー内に導入することで、得られたSiOx粒子を表面処理することができる。
(表面処理剤)
本発明の方法で得られたシリカ粉末の熱プラズマ処理物であるケイ素低級酸化物粒子は、水や、アセトンなどの低級ケトン系溶媒、メタノールなどの低級アルコール系溶媒等の極性溶媒に良好に分散して、分散液を調製することができるが、極性の低い溶媒や非極性溶媒には分散しにくい。したがって、表面処理剤としては、当該ケイ素低級酸化物粒子の表面を疎水化して、該粒子を前記の極性の低い溶媒や非極性溶媒に良好に分散させ得るような、疎水化表面処理剤が好ましい。
このような疎水化表面処理剤としては、例えばシリコーンワニス、各種変性シリコーンワニス、シリコーンオイル、各種変性シリコーンオイル、シラザン化合物、環状ジメチルシロキサン、シランカップリング剤などを挙げることができる。これらの中で、シリコーンオイル、シラザン化合物、環状ジメチルシロキサン、シランカップリング剤が好ましい。
【0019】
シリコーンオイルとしては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、α−メチルスチレン変性シリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイルなどが、シラザン化合物としては、例えばヘキサメチルジシラザンなどが、環状ジメチルシロキサンとしては、例えばヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサンなどが挙げられる。シランカップリング剤としては、例えばビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、n−ヘキサデシルトリメトキシシラン、n−オクタデシルトリメトキシシラン等を挙げることができる。これらは、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
次に、本発明のケイ素低級酸化物粒子の分散液について説明する。
[ケイ素低級酸化物粒子の分散液]
本発明のケイ素低級酸化物粒子の分散液は、前述で説明した本発明の製造方法で得られた一般式SiOx(1.0<x≦1.6)で表されるケイ素低級酸化物粒子を、溶媒中に分散させてなることを特徴とする。
本発明の製造方法で得られたケイ素低級酸化物粒子としては、表面処理されていないケイ素低級酸化物粒子I、又は表面処理、好ましくはシラザン化合物ガス及び/又はシランカップリング剤ガスで表面処理されてなるケイ素低級酸化物粒子IIが用いられる。
【0021】
前記のケイ素低級酸化物粒子Iは、溶媒として、主に極性溶媒が用いられることが多く、ビーズミルや超音波ホモジナイザーなどで分散処理することにより、ケイ素低級酸化物ナノ粒子Iの分散液を調製することができる。
前記極性溶媒としては、例えば水を始め、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどの低級ケトン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどの低級アルコール系溶媒等を挙げることができる。これらの溶媒は一種を単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
一方、前記のケイ素低級酸化物粒子IIは、溶媒として、主に低極性溶媒及び/又は非極性溶媒が用いられることが多く、ビーズミルや超音波ホモジナイザーなどで分散処理することにより、ケイ素低級酸化物ナノ粒子IIの分散液を調製することができる。
前記の低極性溶媒としては、例えばジエチルエーテルなどのエーテル系溶媒、非極性溶媒としては、例えばヘキサンなどの炭化水素系溶媒、キシレン、トルエンなどの芳香族系溶媒等を挙げることができる。これらの溶媒は一種を単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。
【0022】
このようにして調製されたケイ素低級酸化物ナノ粒子Iの分散液、又はケイ素低級酸化物ナノ粒子IIの分散液における濃度は、分散液の粘性の観点から、通常1〜40質量%程度、好ましくは5〜20質量%である。
また、各分散液における、ケイ素低級酸化物ナノ粒子I又はケイ素低級酸化物ナノ粒子IIの平均粒径は、通常3〜100nm程度であり、好ましくは30〜50nmである。
なお、この平均粒径は、レーザ回折・散乱方式で測定した値である。
【実施例】
【0023】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、各例で得られたSiOxで表されるケイ素低級酸化物粒子のxの値の算出及び平均一次粒径の測定は、下記の方法により行った。
<SiOxのxの算出>
試料中の酸素量(体積%)を酸素窒素分析装置[LECO社製、機種名「TC436」]により測定する。測定した酸素量をAとし、xを下記の式(2)により算出する。
x=(A/16)/{(100−A)/28} ・・・(2)
<SiOx粒子の平均一次粒径の測定>
日立製作所製の走査型電子顕微鏡S−450を用いて行った。
【0024】
実施例1
(1)ケイ素低級酸化物粒子の合成
原料のシリカ粉末として、日本アエロジル社製、商品名「アエロジルOX50」を用いた。このシリカ粉末の平均粒径は30nm、SiO2純度は99.9質量%である。
また、熱プラズマ装置として、図1の概略図で示すチャンバー内容積10Lのものを使用した。
チャンバー11内の圧力を、真空ポンプにより排気管6を介して排気し、33.3kPaに調整した。次いで、熱プラズマ発生部10内にアルゴンガス導入管2から、アルゴンガスを65mL/minの速度で導入すると共に、水素ガス導入管1から、水素ガスを15mL/minの速度で導入し、直流電力を出力42kWで印加して、アルゴン/水素混合ガスの温度10000℃程度の熱プラズマジェット7を発生させた。
チャンバー11の内壁9は、冷却水導入管4及び冷却水排出管5を介して、冷却水を導入することにより、約3000℃程度の温度に調整されている。
次いで、原料のシリカ粉末を、アルゴンガス10mL/minと共に、0.886g/minの速度で原料導入管3より導入し、熱プラズマジェット7と共に、チャンバー11内に噴射させた。アルゴン/水素混合ガスの体積比は5/1であった。
このようにして、シリカ粉末をアルゴン/水素混合ガス熱プラズマにより、分解(還元)処理することにより、ケイ素低級酸化物粒子であるSiOx粒子がチャンバー内壁9に生成した。このSiOx粒子のxは1.1であり、平均一次粒径は25nmであった。
また、原料のシリカ粉末と、その熱プラズマ処理物であるSiOxのXRD回折パターンは、原料のシリカ粉末では、結晶型を示すシャープなピークが見られるが、生成物では、結晶型のピークは存在せず、アモルファス型のパターンであった。
したがって、原料のSiO2は、このXRD回折パターンと前記のxの値から、実質上、アモルファス型のケイ素低級酸化物に変換されていることが分かる。
(2)SiOx粒子の分散液の調製
上記(1)で得たSiOx粒子の分散液を、以下に示す方法に従って調製した。
ビーズミルとして、内容積100mLのジルコニア製ベッセルに、径0.1mmのジルコニアビーズ80gを収容したビーズミルを使用し、溶媒としてアセトン45gと、前記SiOx粒子5gを用い、2500rpmで4時間ビーズミル処理を行い、10質量%濃度のSiOxナノ粒子分散液を調製した。
この分散液中のSiOxナノ粒子の平均粒径を、Malvern Instruments社製、機種名「HPPS」を用いて、レーザ回折・散乱方式で測定したところ、40nmであった。
【0025】
実施例2
実施例1(1)において、原料のシリカ粉末として、関東化学社製、商品名「二酸化けい素(石英型)」(平均粒径は30μm、SiO2純度は95質量%)に変えた以外は、実施例1と同様にして、SiOx粒子を合成した。このSiOx粒子のxは、1.2であり、平均一次粒径は45nmであった。
【0026】
実施例3
実施例1(1)において、原料のシリカ粉末として、関東化学社製、商品名「二酸化けい素(石英型)」(平均粒径は30μm、SiO2純度は95質量%)を用い、かつ、アルゴンガス導入管2からのアルゴンガスの導入速度を90mL/minに変えると共に、水素ガス導入管1からの水素ガスの導入速度を10mL/minに変更した以外は、実施例1(1)と同様にして、SiOx粒子を合成した。なお、アルゴン/水素混合ガスの体積比は10/1である。
このSiOx粒子のxは1.4であり、平均一次粒径は50nmであった。
【0027】
実施例4
実施例1(1)において、原料のシリカ粉末として、関東化学社製、商品名「二酸化けい素(石英型)」(平均粒径は30μm、SiO2純度は95質量%)を用い、かつ、水素ガス導入管1からの水素ガスの導入速度を5mL/minに変更した以外は、実施例1(1)と同様にして、SiOx粒子を合成した。なお、アルゴン/水素混合ガスの体積比は15/1である。
このSiOx粒子のxは1.6であり、平均一次粒径は50nmであった。
【0028】
実施例5
(1)疎水化処理SiOxの合成
SiOx粒子の合成は、実施例1(1)と同様にして行ったのち、アルゴン/水素混合ガス熱プラズマ処理後の減圧状態のチャンバー10内に、ヘキサメチルジシラザンを気化させたガスとアルゴンとの混合ガスを、原料導入管3より導入し、SiOx粒子表面をヘキサメチルジシラザンで疎水化処理した。導入したヘキサメチルジシラザンの量は、熱プラズマ処理後のSiOx粒子1gに対して0.1molである。
(2)疎水化処理SiOx粒子の分散液の調製
実施例1(2)において、SiOx粒子の代わりに、上記(1)で得た疎水化処理SiOx粒子を用い、かつ溶媒として、アセトンの代わりにキシレンを用いた以外は、実施例1(2)と同様にして、疎水化処理SiOxナノ粒子の分散液を調製した。
この分散液における疎水化処理SiOxナノ粒子の平均粒径は50nmであった。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明のケイ素低級酸化物粒子の製造方法は、原料として安価なシリカ粉末を用い、アルゴン/水素混合ガス熱プラズマにより、該シリカ粉末を分解して、ケイ素低級酸化物粒子を効率よく製造する方法であり、この方法で得られたケイ素低級酸化物粒子は、ナノレベルで溶媒中に分散させることができる。
本発明の方法で得られたケイ素低級酸化物粉末は、例えば光学レンズの反射防止用保護膜や、食品包装用のガスバリアフィルムなどの蒸着原料としての用途が知られており、また最近では、リチウムイオン電池の負極材料、透明導電膜、シリコンナノ結晶用などとしての用途が期待されている。
【符号の説明】
【0030】
1 水素ガス導入管
2 アルゴンガス導入管
3 原料導入管
4 冷却水導入管
5 冷却水排出管
6 排気管
7 熱プラズマジェット
8 原料のシリカ粒子
9 チャンバー内壁
10 熱プラズマ発生部
11 チャンバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱プラズマ装置内で、体積比15/1〜4/1のアルゴン/水素混合ガスの熱プラズマを発生させ、該熱プラズマにより、シリカ粉末を分解処理して、一般式(1)
SiOx ・・・(1)
(式中、xは1.0<x≦1.6の関係を満たす数である。)
で表されるケイ素低級酸化物粒子を得ることを特徴とする、ケイ素低級酸化物粒子の製造方法。
【請求項2】
熱プラズマによるシリカ粉末の分解処理後、熱プラズマ装置内に、表面処理剤ガスを導入し、表面処理してなるケイ素低級酸化物粒子を得る、請求項1に記載のケイ素低級酸化物粒子の製造方法。
【請求項3】
表面処理剤ガスが、シラザン化合物ガス及び/又はシランカップリング剤ガスである、請求項2に記載のケイ素低級酸化物粒子の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法で得られたケイ素低級酸化物粒子を、溶媒中に分散させてなることを特徴とする、ケイ素低級酸化物ナノ粒子の分散液。
【請求項5】
ケイ素低級酸化物粒子の平均粒径が、3〜100nmである、請求項4に記載のケイ素低級酸化物ナノ粒子の分散液。

【図1】
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【公開番号】特開2011−79695(P2011−79695A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−232474(P2009−232474)
【出願日】平成21年10月6日(2009.10.6)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】