説明

ケイ酸カルシウム系成形体

【課題】安価で、且つ、耐熱性及び耐酸性の両者を兼ね備えたケイ酸カルシウム系成形体を提供する。
【解決手段】i)ゾノトライトを主成分とするケイ酸カルシウム水和物、ii)高炉セメント並びにiii)(a)ウォラストナイト及び/又は(b)アルミナ及び水酸化アルミニウムからなる群から選択された少なくとも1種のアルミニウム化合物を含有する原料から得られるケイ酸カルシウム系成形体に係る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、i)ゾノトライトを主成分とするケイ酸カルシウム水和物、ii)高炉セメント並びにiii)(a)ウォラストナイト及び/又は(b)アルミナ及び水酸化アルミニウムからなる群から選択された少なくとも1種であるアルミニウム化合物を含有する原料から得られるケイ酸カルシウム系成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、道路交通網の発達のなか、自動車等のトンネル火災が問題となっている。従来、1000℃を超えるトンネル火災にも対応できるようにするため、トンネルを建設する際、コンクリートセグメントの表面に軽量骨材等を混合したアルミナセメントのキャスタブル材を打設して耐火被覆層を設ける方法などが用いられている。
【0003】
しかしながら、アルミナセメントは高価であるため、例えば、トンネル等を建設するとなると多大な建設コストがかかってしまう。
【0004】
一方、近年、建築等の分野において、ゾノトライト系のケイ酸カルシウム成形体が汎用されている。ゾノトライト系のケイ酸カルシウム成形体は、軽量であること、強度が高いこと、断熱性に優れていること、耐火性の大きいこと、その他数多くの利点を有する。また、比較的に安価であるという利点も有している。
【0005】
しかしながら、従来のケイ酸カルシウム系成形体では、通常の火災による高温(約1000℃まで)には耐えることができるが、1000℃を超える熱には耐えることができず、また耐酸性にも乏しいため、さらなる改善の余地がある。
【0006】
ゾノトライト系のケイ酸カルシウム成形体の耐熱性を改善する目的で、ゾノトライトにアルミナセメントを添加する技術がある(特許文献1)。しかし、アルミナセメントを添加するものは上述したようにコストアップを招く。
【0007】
また、ゾノトライト及び/又はウォラストナイトにアルミナを添加する技術が知られている(特許文献2)。しかし、得られるケイ酸カルシウム系成形体は、耐酸性が不十分であり、満足できるものは得られていない。
【特許文献1】特表2004−510673号公報
【特許文献2】特開平1−230457号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の主な目的は、安価で、且つ、耐熱性及び耐酸性の両者を兼ね備えたケイ酸カルシウム系成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、従来技術の問題点を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定組成を有する原料から得られるケイ酸カルシウム系成形体が上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、下記のケイ酸カルシウム系成形体に係る。
1. i)ゾノトライトを主成分とするケイ酸カルシウム水和物、ii)高炉セメント並びにiii)(a)ウォラストナイト及び/又は(b)アルミナ及び水酸化アルミニウムからなる群から選択された少なくとも1種のアルミニウム化合物を含有する原料、から得られるケイ酸カルシウム系成形体。
2. 前記項1に記載のケイ酸カルシウム系成形体であって、
(1)原料中に占めるゾノトライトを主成分とするケイ酸カルシウム水和物、高炉セメント並びにウォラストナイト及び/又はアルミニウム化合物の合算重量が80〜100重量%であり、(2)ゾノトライトを主成分とするケイ酸カルシウム水和物、高炉セメント並びにウォラストナイト及び/又はアルミニウム化合物の合算重量を100重量部とした場合に、
i)その中に占めるゾノトライトを主成分とするケイ酸カルシウム水和物の割合が15〜50重量部であり、且つ
ii)高炉セメント並びにウォラストナイト及び/又はアルミニウム化合物の割合の合計が85〜50重量部である、
成形体。
3. ゾノトライトを主成分とするケイ酸カルシウム水和物、高炉セメント及び水酸化アルミニウムを含有する原料に水を配合して混練物を調製した後、前記混練物を成形し、さらに養生することにより得られる前記項1又は2に記載のケイ酸カルシウム系成形体。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、i)ゾノトライトを主成分とするケイ酸カルシウム水和物、ii)高炉セメント並びにiii)(a)ウォラストナイト及び/又は(b)アルミナ及び水酸化アルミニウムからなる群から選択された少なくとも1種のアルミニウム化合物を含有する原料を用いることにより、安価で、且つ、耐熱性及び耐酸性の両者を兼ね備えたケイ酸カルシウム系成形体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のケイ酸カルシウム系成形体は、i)ゾノトライトを主成分とするケイ酸カルシウム水和物、ii)高炉セメント並びにiii)(a)ウォラストナイト及び/又は(b)アルミナ及び水酸化アルミニウムからなる群から選択された少なくとも1種のアルミニウム化合物を含有する原料から得られるものである。
【0013】
ゾノトライトを主成分とするケイ酸カルシウム水和物としては、特に限定されず、従来の公知の方法で得られるものが使用できる。前記ケイ酸カルシウム水和物は、ゾノトライトを主成分とすればよい。本発明の効果を損なわない限りにおいて、トバモライト等の他のケイ酸カルシウム水和物が含まれていても良い。また、一次粒子(単結晶)の状態であっても良いし、一次粒子が三次元的に絡み合った集塊物(二次粒子)の状態であっても良い。特に、成形性、強度、軽量性等の見地より、特公昭45−25771,特公昭53−12526等に示されている二次粒子からなるゾノトライトを主成分とするものが好ましい。
【0014】
高炉セメントとしては、特に限定されず、例えば乾燥した高炉水砕スラグとセメントクリンカー(珪酸質原料、鉄質原料、粘土、石灰石等の原料調合物を高温で半溶融状に焼成し、塊状焼き固めたもの)に適量の石膏を加えて混合粉砕するか、又は別々に粉砕して均一に混合することにより得ることができる。また、前記高炉セメントは公知又は市販のものであってもよい。高炉セメントの粒度は、特に限定されず、用途に応じて適宜選択すれば良い。
【0015】
アルミニウム化合物としては、アルミナ及び水酸化アルミニウムからなる群から選択された少なくとも1種を用いることができる。この中でも、コスト面及び性能面から水酸化アルミニウムが好ましい。なお、水酸化アルミニウム及びアルミナは、それぞれ単独で配合してもよいし、併用してもよい。また、これらアルミニウム化合物は公知又は市販のものを用いることができる。アルミニウム化合物の粒度は、特に限定されず、用途に応じて適宜選択すればよい。特に、最終製品の物性が向上する点で、アルミニウム化合物の粒度は、細かい方が好ましい。
【0016】
ウォラストナイトとしては、特に限定されず、天然品及び合成品のいずれも使用することができる。ウォラストナイトの粒度は、特に限定されず、用途に応じて適宜設定すれば良い。
【0017】
本発明のケイ酸カルシウム系成形体において、原料中に占めるケイ酸カルシウム水和物、高炉セメント並びにウォラストナイト及び/又はアルミニウム化合物の合算重量は、特に限定されないが、原料中、80〜100重量%であることが好ましい。
【0018】
上記原料中、ゾノトライトを主成分とするケイ酸カルシウム水和物、高炉セメント並びにウォラストナイト及び/又はアルミニウム化合物の割合は、特に限定されず、用途に応じて適宜選択できる。このとき、前記合算重量を100重量部とした場合、ゾノトライトを主成分とするケイ酸カルシウム水和物の割合が15〜50重量部、高炉セメント並びにウォラストナイト及び/又はアルミニウム化合物の割合の合計が85〜50重量部となるように配合することが好ましい。高炉セメント並びにウォラストナイト及び/又はアルミニウム化合物の混合比率は、特に限定されず、用途に応じて適宜選択すればよい。このとき、耐熱性の面では、ウォラストナイト及び/又はアルミニウム化合物の割合が多い方が好ましい。また、耐酸性の面では高炉セメントの割合が多い方が好ましい。
【0019】
例えば、1200℃程度の耐熱性と耐酸性が要求されるトンネルの耐火被覆用途において、高炉セメント及びアルミナの組合せでは、その重量比は7:3〜5:5程度が好ましい。高炉セメント及び水酸化アルミニウムの組合せでは、その重量比は6:4〜4:6程度が好ましい。高炉セメント及びウォラストナイトの組合せでは、その重量比は7:3〜3:7程度が好ましい。
【0020】
なお、ケイ酸カルシウム系成形体を養生する場合、高炉セメントと水酸化アルミニウムの重量比は8:2〜2:8程度が好ましく、特に耐熱性、耐酸性、機械的強度等の点で6:4〜4:6程度がより好ましい。
【0021】
本発明のケイ酸カルシウム系成形体の製造方法は、上記原料を用いる限り特に限定されない。例えば、上記原料に水を配合して混練物を調製した後、前記混練物を成形し、さらに乾燥及び/又は養生することにより本発明のケイ酸カルシウム系成形体を得ることができる。このとき、前記混練物の調製方法としては、特に限定されず、既知の手段で行えばよい。前記成形方法としては、特に限定されず、例えば脱水プレス成形、抄造、流し込み成形等が挙げられる。前記乾燥方法としては、特に限定されず、状況に応じて適宜設定すればよい。前記養生方法は、特に限定されず、常温、常圧で充分であるが、加熱、加圧等をさらに行ってもよい。このとき、アルミニウム化合物として水酸化アルミニウムを用いる場合、養生することにより物性(耐熱性、耐酸性、機械的強度等)がさらに向上する。
【0022】
上記原料には、強度等の物性の向上を目的として、必要に応じて繊維質原料等の添加物が含まれていても良い。前記添加物の含有量は、限定的ではないが、通常は上記原料中0〜20重量%とすれば良い。
【0023】
繊維質原料としては、例えばパルプ、木綿、ガラス繊維、セラミックファイバー、炭素繊維、ビニロン繊維、アラミド繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、スチール繊維等の公知の有機系繊維、無機系繊維、金属繊維を使用することができる。
【0024】
また、繊維質原料以外にも用途に応じて、例えば硬化促進剤、硬化遅延剤、可塑剤、発泡剤、界面活性剤、顔料、防水剤、撥水剤、赤外線遮蔽剤(金属酸化物等)等の添加物も適宜配合することができる。
【0025】
上記添加物の種類、添加量等は、最終製品の用途及び所望の物性に応じて適宜調整すればよい。
【実施例】
【0026】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。ただし、本発明は、実施例に限定されない。
【0027】
実施例1
二次粒子よりなる合成ゾノトライト、高炉セメント、水酸化アルミニウム、アルミナ及びウォラストナイトを表1の配合割合(固形分割合)となるように秤量した。これらにビニロン繊維2重量%及びパルプ3重量%を加え、水と共に混練した。得られたスラリーを脱水プレス成形により成形した。その後、得られた成形体を1)表1の乾燥条件による乾燥又は2)表1の養生条件による養生を施した後、表1の乾燥条件による乾燥をすることにより、ケイ酸カルシウム系成形体を得た。
【0028】
比較例1
二次粒子よりなる合成ゾノトライト、高炉セメント、普通ポルトランドセメント、フライアッシュセメント、アルミナセメント、水酸化アルミニウム、アルミナ及びウォラストナイトを表2の配合割合(固形分割合)となるように秤量した。これらにビニロン繊維2重量%及びパルプ3重量%加え、水と共に混練した。得られたスラリーを脱水プレス成形により成形した。その後、得られた成形体を180℃で乾燥することによりケイ酸カルシウム系成形体を得た。
【0029】
なお、使用した原料の詳細は以下の通りである。
(1)合成ゾノトライト
生石灰48重量部、珪石52重量部及び水1200重量部とを混合して原料スラリーを調製し、このスラリーをオートクレーブ中で1.47 MPa(15 kgf/cm2)、温度197℃の条件下で4時間撹拌することにより得られた。
(2)高炉セメント:太平洋セメント(株)製 高炉セメントB種
(3)水酸化アルミニウム:昭和電工(株)製 ハイジライトH−42
(4)アルミナ 昭和電工(株)製:α−アルミナ(AL−43L)
(5)ウォラストナイト:清水工業(株)製ウォラストナイト(G−60F)
(6)ビニロン繊維:(株)クラレ製 パワロン(RMH182)
(7)パルプ:古紙パルプ
実施例1及び比較例1により得られたケイ酸カルシウム系成形体の物性を測定した結果を表3に示す。表3の曲げ強度、耐熱性及び耐酸性の試験方法は以下の通りである。
(曲げ強度)
得られた成形体から140mm×30mm×20mmの試験片を切り出し、これを三点曲げ試験して曲げ強度を算出した。
(耐熱性)
得られた成形体から60mm×30mm×20mmの試験片を切り出し、これを電気炉に入れ、15分かけて1200℃まで昇温させた後、1200℃で3時間焼成した。得られた焼成体を常温(25℃)まで冷却した後、電気炉より取り出し、長さ方向の線収縮率を下記式より算出した。
線収縮率(%)=((焼成前寸法−焼成後寸法)/焼成前寸法)×100
(耐酸性)
得られた成形体から140mm×30mm×20mmの試験片を切り出し、これを5重量%希硫酸水溶液に1日浸漬させた後、湿潤状態(濡れた状態)で三点曲げ試験をして、曲げ強度を算出した。さらに、下記式より残存強度率を算出して耐酸性を評価した。
残存強度率(%)=(耐酸試験後の曲げ強度/耐酸試験前の曲げ強度)×100
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
【表3】

【0033】
表3より、実施例1の試験体番号1〜9のものは線収縮率が7.0%以下で且つ残存強度率が40%以上であり、耐熱性及び耐酸性に優れていることがわかる。特に、試験体番号3〜4、6〜7及び9は線収縮率が5.0%以下で且つ残存強度率が50%以上であり、耐熱性及び耐酸性に非常に優れていることがわかる。
【0034】
比較例1においてアルミニウム化合物を配合しなかった試験体番号10は耐熱性が低いことがわかる。また、セメントを配合しなかった試験体番号11〜12は耐酸性が低いことが表3からわかる。
【0035】
高炉セメントの代わりに、普通ポルトランドセメント又はフライアッシュセメントを用い、さらにアルミニウム化合物(水酸化アルミニウム又はアルミナ)を添加した比較例1の試験体番号13〜14及び16〜17は、同じ割合で高炉セメント及びアルミニウム化合物(水酸化アルミニウム又はアルミナ)を配合した実施例1の試験体番号1及び6に比べ耐熱性及び耐酸性が劣ることが表3からわかる。
【0036】
高炉セメントの代わりに、普通ポルトランドセメント、フライアッシュセメント及びアルミナセメントをそれぞれ用い、さらにウォラストナイトを添加した比較例1の試験体番号20〜22は、同じ割合で高炉セメント及びウォラストナイトを配合した実施例1の試験体番号7に比べ、曲げ強度が低く、特に普通ポルトランド又はフライアッシュセメントを用いた試験体番号20〜21については、耐熱性も劣ることが表3からわかる。
【0037】
ゾノトライト、高炉セメント及び水酸化アルミニウムを用い、さらに常温で24時間養生して得られた実施例1の試験体番号3は、養生処理を行わない試験体番号1に比べ、曲げ強度、耐熱性及び耐酸性に優れていることが表3からわかる。さらに、試験体番号3は、高炉セメントの代わりにアルミナセメントを用い且つ養生処理を行わない比較例1の試験体番号18と比べても、曲げ強度、耐熱性及び耐酸性が良くなることが表3からわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)ゾノトライトを主成分とするケイ酸カルシウム水和物、ii)高炉セメント並びにiii)(a)ウォラストナイト及び/又は(b)アルミナ及び水酸化アルミニウムからなる群から選択された少なくとも1種のアルミニウム化合物を含有する原料から得られるケイ酸カルシウム系成形体。
【請求項2】
請求項1に記載のケイ酸カルシウム系成形体であって、
(1)原料中に占めるゾノトライトを主成分とするケイ酸カルシウム水和物、
高炉セメント並びにウォラストナイト及び/又はアルミニウム化合物の合算重量が80〜100重量%であり、
(2)ゾノトライトを主成分とするケイ酸カルシウム水和物、高炉セメント並びにウォラストナイト及び/又はアルミニウム化合物の合算重量を100重量部とした場合に、
i)その中に占めるゾノトライトを主成分とするケイ酸カルシウム水和物の割合が15〜50重量部であり、且つ
ii)高炉セメント並びにウォラストナイト及び/又はアルミニウム化合物の割合の合計が85〜50重量部である、
成形体。
【請求項3】
ゾノトライトを主成分とするケイ酸カルシウム水和物、高炉セメント及び水酸化アルミニウムを含有する原料に水を配合して混練物を調製した後、前記混練物を成形し、さらに養生することにより得られる請求項1又は2に記載のケイ酸カルシウム系成形体。

【公開番号】特開2006−213581(P2006−213581A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−30343(P2005−30343)
【出願日】平成17年2月7日(2005.2.7)
【出願人】(000149136)日本インシュレーション株式会社 (19)
【Fターム(参考)】