説明

ケタールビスフェノール類の製造方法

【課題】ケタールビスフェノール類の純度を高くすると共に、長期安定性と重合活性に優れ、工業的に有利で安価なケタールビスフェノール類の製造方法を提供する。
【解決手段】ジヒドロキシベンゾフェノン類と、グリコール類またはアルキレンジチオール類とを原料とするケタールビスフェノール類の製造方法において、少なくとも前記ケタールビスフェノール類と前記ジヒドロキシベンゾフェノン類とを含む混合物をpH9〜13のアルカリ水溶液と処理する工程を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケタールビスフェノール類の製造方法に関し、さらに詳しくはケタールビスフェノール類を高純度で製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリエーテルケトンや芳香族ポリエーテルエーテルケトンなどの芳香族ポリケトンは、熱可塑性樹脂中最高レベルの耐熱性(連続使用温度)、耐熱変形性を有し、難燃性が優れると同時に燃焼時の発煙や腐食性ガスの発生が極めて少ないという従来にない特性を備えた結晶性樹脂である。また、機械特性、耐熱水性、耐放射線性、耐薬品性も非常に優れている。これらの性質は主として、融点が高いことと結晶性が高いことに起因する。
【0003】
しかしながら、芳香族ポリケトンの高い結晶化度は、ポリマーの重合や加工の妨げとなり、芳香族ポリケトンを製造するのに好ましい温度、例えば250℃以下の温度において典型的な有機溶媒に不溶性であり、芳香族ポリケトンの分子量を高くすることが困難であった。また、高分子量の芳香族ポリケトンが得られたとしても、高い融点と溶剤不溶性から加工方法が限定され、幅広い用途に展開することができなかった。
【0004】
このような欠点を解決するために、まず高分子量の非晶性重合体としてポリケタールケトンを合成し、その後、ケタール基の脱保護により高分子量の結晶性の芳香族ポリエーテルケトンを製造する方法が報告されている(例えば、特許文献1、特許文献2、非特許文献3参照)。
【0005】
また、特許文献1、特許文献2及び非特許文献3は、ポリケタールケトンの原料となるケタールビスフェノール類の製造方法として、4,4′−ジヒドロキシベンゾフェノンとグリコール類とをアルキルオルトエステルおよびモンモリロナイトクレーのような固体触媒の存在下に反応させる方法、あるいは酸触媒として臭化水素の存在下に反応させる方法を提案している。
【0006】
しかし、これらの方法により製造されたケタールビスフェノール類には、未反応の4,4′−ジヒドロキシベンゾフェノンが不純物として4〜5%残在するため、芳香族ポリケタールの原料として使用する場合に、長期安定性および重合活性が不十分になる原因になっていた。長期安定性の低下は、4,4′−ジヒドロキシベンゾフェノンがケタールビスフェノール類に比べて、ケトン基の電子吸引性効果により酸性度が高く、ケタールの脱保護反応を促進するためであり、また、重合活性の低下はアルカリ金属塩として芳香族ポリケタールの重合を行う場合に、求核性が低くなるためである。
【0007】
さらに、4,4′−ジヒドロキシベンゾフェノンの結晶性がより高いため、ケタールビスフェノール類を再結晶にて精製することが困難であり、カラムクロマト等により精製することは多大な時間を要し、工業的に有利な方法ではない。
【特許文献1】特公平02−14334号公報
【特許文献2】特公平02−1844号公報
【非特許文献3】Macromolecules,20,1204(1987)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、ケタールビスフェノール類の純度を高くし、長期安定性と重合活性とを向上すると共に、工業的に有利で安価なケタールビスフェノール類の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明のケタールビスフェノール類の製造方法は、下記一般式(1)で示されるジヒドロキシベンゾフェノン類と、下記一般式(2)で示されるグリコール類またはアルキレンジチオール類とを原料とするケタールビスフェノール類の製造方法において、少なくとも下記一般式(3)で示されるケタールビスフェノール類と前記ジヒドロキシベンゾフェノン類とを含む混合物を、pH9〜13のアルカリ水溶液と処理する工程を含むことを特徴とする。
【0010】
【化7】

【0011】
(式中、X1、X2、X3およびX4はそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐状の炭化水素基またはアルコキシ基を示す。)
【0012】
【化8】

【0013】
(式中、R1、R2、R3およびR4はそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐状の炭化水素基を示し、Aは酸素原子または硫黄原子を示し、Eは単結合または無置換もしくは炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐状の炭化水素基で置換されたメチレンもしくはエチレン鎖を示す。)
【0014】
【化9】

【0015】
(式中、X1、X2、X3、X4、R1、R2、R3、R4、AおよびEは前記と同じ。)
【発明の効果】
【0016】
本発明の製造方法によれば、生成したケタールビスフェノール類と未反応のジヒドロキシベンゾフェノン類とを含む混合物をpH9〜13のアルカリ水溶液と処理することにより、フェノール性水酸基の酸性度の差を利用して、ジヒドロキシベンゾフェノン類のみをアルカリ金属塩に変換して水溶性にし、除去するものである。これにより、ケタールビスフェノール類の純度を高くし、長期安定性を付与するとともに、重合活性を大幅に向上し、工業的に有利で安価に、幅広い用途展開が可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明で用いるジヒドロキシベンゾフェノン類は、下記一般式(1)で示される。
【0018】
【化10】

【0019】
(式中、X1、X2、X3およびX4はそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐状の炭化水素基またはアルコキシ基を示す。)
【0020】
ジヒドロキシベンゾフェノン類としては、例えば、4,4′−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,4′−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチル−ベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4,4′−ジメチル−ベンゾフェノン、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチル−ベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−5,5′−ジメチル−ベンゾフェノンなどが挙げられる。
【0021】
本発明で用いるグリコール類またはジチオール類は、一般式(2)で示される。
【0022】
【化11】

【0023】
(式中、R1、R2、R3およびR4はそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐状の炭化水素基を示し、Aは酸素原子または硫黄原子を示し、Eは単結合または無置換もしくは炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐状の炭化水素基で置換されたメチレンもしくはエチレン鎖を示す。)
【0024】
一般式(2)において、炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐状の炭化水素基の具体例としてはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基などが挙げられる。グリコール類またはジチオール類としては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、2,3−ブタンジオール、2−メチル−1,2−プロパンジオール、2−メチル−2,3−ブタンジオール、2,3−ジメチル−2,3−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、2,3−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、2,3−ヘキサンジオール、3,4−ヘキサンジオール、1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−ブタンジオール、2,3−ジメチル−1,3−ブタンジオール、エチレンジチオール、1,3−プロパンジチオールなどが挙げられ、反応性および安定性の観点から、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、エチレンジチオール、1,3−プロパンジチオールがより好ましい。
【0025】
本発明の製造方法により得られるケタールビスフェノール類は、一般式(3)で示される。
【0026】
【化12】

【0027】
(式中、X1、X2、X3およびX4はそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐状の炭化水素基またはアルコキシ基を示し、R1、R2、R3およびR4はそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐状の炭化水素基を示し、Aは酸素原子または硫黄原子を示し、Eは単結合または無置換もしくは炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐状の炭化水素基で置換されたメチレンもしくはエチレン鎖を示す。)
【0028】
ケタールビスフェノール類としては、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジオキソラン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジオキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジチオラン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジチアンが、反応性および安定性の観点から好ましく挙げられる。
【0029】
本発明のケタールビスフェノール類の製造方法は、少なくとも生成したケタールビスフェノール類と未反応のジヒドロキシベンゾフェノン類とを含む混合物をpH9〜13のアルカリ水溶液と処理する工程を含むことを特徴とするものである。ケタールビスフェノール類とジヒドロキシベンゾフェノン類を含む混合物は、有機溶媒に共存する状態にあり、これをpH9〜13のアルカリ水溶液と処理することにより、ジヒドロキシベンゾフェノン類のみを水溶性にし有機溶媒相から除去することができる。
【0030】
すなわち、混合物をpH9〜13のアルカリ水溶液と処理することにより、フェノール性水酸基の酸性度の差を利用して、ジヒドロキシベンゾフェノン類のみをアルカリ金属塩に変換して水溶性にし、除去するものである。これにより、従来法では除去することが困難で、ジヒドロキシベンゾフェノン類を含む混合物の状態で使用されていたケタールビスフェノール類と比較して、純度を大幅に高くし、長期安定性を付与することができるとともに、ジヒドロキシベンゾフェノン類を除去することで重合活性を大幅に向上し、幅広いポリマー種へ展開することが可能になる。
【0031】
本発明に用いるpH9〜13のアルカリ水溶液としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩類やアンモニア等の水溶液が挙げられる。このアルカリ水溶液は、グリコール類またはアルキレンジチオール類だけでなく、ジヒドロキシベンゾフェノン類をも効率よく水層に取り除くことができる。しかし、アルカリ水溶液がpH9未満の場合は、ジヒドロキシベンゾフェノン類の除去が不十分となってしまう場合がある。また、pH13を超える場合は、グリコール類またはアルキレンジチオール類やジヒドロキシベンゾフェノン類だけでなくケタールビスフェノール類も水層に抽出されるため収率が低下する場合がある。
【0032】
本発明の製造方法により得られたケタールビスフェノール類を含む有機溶媒を、さらに濃縮および/または晶析操作することにより、ケタールビスフェノール類の純度を一層高くすることができる。晶析操作方法としては、例えば、濃縮液をそのまま冷却してケタールビスフェノール類を晶析した後、固液分離する方法、あるいは濃縮液に貧溶媒を加え冷却晶析した後、固液分離する方法などが挙げられる。
【0033】
本発明において、少なくともケタールビスフェノール類とジヒドロキシベンゾフェノン類を含む混合物を得る方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、ジヒドロキシベンゾフェノン類とグリコール類またはアルキレンジチオール類とを有機スルホン酸類または有機カルボン酸類の存在下で反応させて得た反応液に、水を添加し、有機溶媒で抽出する方法が挙げられる。
【0034】
ケタールビスフェノール類を含む反応液を抽出する際に用いる有機溶媒としては、例えばトルエン、ベンゼン、エチルベンゼン、アミルベンゼン、イソプロピルベンゼン、キシレン、ヘプタン、ヘキサン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、クロロフォルム、クロロトルエン、ジクロロトルエン、塩化メチル、塩化メチレン、アミルアルコール、オクタノール、t−ブタノール、ベンジルアルコール、メチルターシャリーブチルエーテル、ジイソブチルケトン、ジイソプロピルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、安息香酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソブチル、酢酸アミル、酢酸ベンジル、プロピオン酸メチル等が挙げられる。また、有機溶媒は単独でも2種以上を併用することも出来る。これらのうち酢酸エチル、酢酸イソブチル、メチルイソブチルケトンが好ましい。
【0035】
このような有機溶媒の使用量は、ケタールビスフェノール類を溶解させ得る量以上であればいくらでも良いが、通常ケタールビスフェノール類に対し、1〜30倍量であり、好ましくは3〜10倍量の範囲である。1倍量以下ならケタールビスフェノール類が完全に溶解されないため抽出効率が低下する場合がある。30倍以上とすると容積効率が低下し、経済性が悪くなる場合がある。
【0036】
グリコール類またはアルキレンジチオール類の使用量は、ジヒドロキシベンゾフェノン類に対し通常、1モル倍〜30モル倍、好ましくは5モル倍〜15モル倍である。
【0037】
ケタールビスフェノール類の生成反応において、有機スルホン酸類または有機カルボン酸類を酸触媒として使用することにより反応時間が短く高い転化率が得られる。有機スルホン酸類または有機カルボン酸類の使用量はジヒドロキシベンゾフェノン類に対し0.1モル%〜50モル%であり、好ましくは0.5モル%〜5モル%である。0.1モル%未満の場合には反応時間が長くなり、高い転化率が得られない場合がある。50モル%を越えた場合には高い転化率が得られない場合がある。
【0038】
本発明において有機スルホン酸類または有機カルボン酸類は酸触媒として単独で用いられる。他の酸触媒と併用した場合、例えば、臭化水素と併用した場合には転化率が著しく低下する。本反応において用いられる有機スルホン酸類または有機カルボン酸類は例えば、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、キシレンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、蟻酸などが挙げられる。好ましくはp−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸が用いられる。また、用いる酸は結晶水を含んでいてもよい。
【0039】
本発明において、ケタールビスフェノール類の生成反応は、アルキルオルトエステル類の存在下で行なうと、反応が速くて転化率が高くなる傾向があり好ましい。アルキルオルトエステル類としては、オルトギ酸トリメチル、オルトギ酸トリエチル、オルト酢酸トリメチル、オルト酢酸トリエチル、オルトけい酸テトラメチル、オルトけい酸テトラエチル、2,2−ジメトキシプロパン及び2,2−ジメチル−1,3−ジオキソランなどが挙げられる。アルキルオルトエステル類の使用量はジヒドロキシベンゾフェノン類に対し通常、1モル倍〜10モル倍、好ましくは2モル倍〜5モル倍である。
【0040】
ケタールビスフェノール類の生成反応は、必要に応じ溶媒中で行なわれる。溶媒としては、例えば、トルエン、キシレンなどの炭化水素類などが挙げられ、それぞれ単独でまたは2種以上を組合せて用いられる。
【0041】
ジヒドロキシベンゾフェノン類とグリコール類またはアルキレンジチオール類とを混合するには、例えば窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下、溶媒中、あるいは溶媒の不存在下でジヒドロキシベンゾフェノン類とグリコール類またはアルキレンジチオール類、有機スルホン酸類または有機カルボン酸類、必要に応じ用いるアルキルオルトエステル類を任意の順に加えればよい。
【0042】
反応温度は通常、20〜150℃の範囲で行われる。好ましくは、25℃から用いられるアルキルオルトエステル類の沸点附近までの温度で行われ、より好ましくはアルキルオルトエステル類から副生する該アルコールを留去する温度で行われる。
【0043】
反応時間は通常、0.1時間以上、10時間以下であり、0.5〜8時間で反応は終了する。反応後は、反応混合物に有機溶媒を混合して中和後、水洗処理などを行ってもよい。
【0044】
本発明のケタールビスフェノール類の精製方法は、少なくとも前記一般式(3)で示されるケタールビスフェノール類と、前記一般式(1)で示されるジヒドロキシベンゾフェノン類を含む混合物をpH9〜13のアルカリ水溶液と処理する。本発明の精製方法は、ケタールビスフェノール類とジヒドロキシベンゾフェノン類とを含む混合物を、ジヒドロキシベンゾフェノン類と、グリコール類またはアルキレンジチオール類とを原料とするケタールビスフェノール類の製造により得られる混合物に限定することなく使用することが可能である。その具体例としては、例えば、長期保存等によって純度の低下したケタールビスフェノール類に対して、不純物として含有するジヒドロキシベンゾフェノン類を除去する際の精製方法として好適である。
【0045】
本発明のケタールビスフェノール類は、前記一般式(3)で示され、ジヒドロキシベンゾフェノン類の含有量が1重量%以下である。ジヒドロキシベンゾフェノン類が1重量%を超えると純度が不十分になり、長期安定性や重合活性の改善効果が十分に得られない。また、ジヒドロキシベンゾフェノン類の含有量の下限は好ましくは0.001重量%であり、これより削減するには、精製コストが多大になる場合がある。このようなケタールビスフェノール類は、本発明の製造方法または精製方法により得ることができる。
【0046】
本発明によって得られる高純度のケタールビスフェノール類の用途は、たとえば各種モノマー、酸化防止剤や老化防止剤等の添加剤およびそれらの前駆体、医薬品原料等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。なかでも、モノマー用途が好ましく、芳香族ポリケタール系重合体を製造するためのモノマーとしての用途がさらに好適である。
【0047】
かかる芳香族ポリケタール系重合体とは、主として芳香環から構成される重合体において、ケタール部位が含まれているものをいう。ケタール部位以外に、直接結合、エーテル、ケトン、スルホン、スルフィド、各種アルキレン、イミド、アミド、エステル、ウレタン等、芳香族系ポリマーの形成に一般的に使用される結合様式が存在していても良い。芳香環は炭化水素系芳香環だけでなく、ヘテロ環などを含んでいても良い。また、芳香環ユニットと共に一部脂肪族系ユニットがポリマーを構成していてもかまわない。芳香族ユニットは、アルキル基、アルコキシ基、芳香族基、アリーロキシ基等の炭化水素系基、ハロゲン基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、ハロゲン化アルキル基、カルボキシル基、ホスホン酸基、水酸基等、任意の置換基を有していても良い。
【0048】
芳香族ポリケタール系重合体の合成方法としては、例えばケタールビスフェノール類と芳香族ジハライドの芳香族求核置換反応を利用して合成することができる。なお、必要に応じて、ケタールビスフェノール類以外のビスフェノールを併用しても構わない。
【0049】
また、芳香族ジハライドとしては、ケタールビスフェノール類との芳香族求核置換反応により高分子量化が可能なものであれば、特に限定されるものではなく、2種以上の芳香族ジハライドを併用することも可能である。また、これらの芳香族ジヒドロキシ化合物にイオン性基が導入されたものをモノマーとして用いることもできる。
【0050】
芳香族求核置換反応による重合は、上記モノマー混合物を塩基性化合物の存在下で反応させることで重合体を得ることができる。重合反応は、0〜350℃の温度範囲で行うことができるが、50〜250℃の温度であることが好ましい。0℃より低い場合には、十分に反応が進まない傾向にあり、350℃より高い場合には、ポリマーの分解も起こり始める傾向がある。
【0051】
かかる重合反応は、無溶媒下で行うこともできるが、溶媒中で行うことが好ましい。溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホン、スルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンなどを使用することができるが、これらに限定されることはなく、芳香族求核置換反応において安定な溶媒として使用することができるものであればよい。これらの有機溶媒は、単独でも2種以上の混合物として使用されても良い。
【0052】
芳香族求核置換反応による重合に用いる塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等があげられるが、芳香族ジオール類を活性なフェノキシド構造にしうるものであれば、これらに限定されず使用することができる。かかる塩基性化合物の存在下で反応させる芳香族求核置換反応においては、副生物として水が生成する場合がある。この際はトルエンなどを反応系に共存させて、共沸物として水を系外に除去することもできる。水を系外に除去する方法としては、モレキュラーシーブなどの吸水剤を使用することもできる。
【0053】
かかる芳香族求核置換反応を溶媒中で行う場合、得られるポリマー濃度として5〜50重量%となるように、モノマーを仕込むことが好ましい。かかるポリマー濃度が、5重量%よりも少ない場合は、重合度が上がりにくい傾向があり、一方、50重量%よりも多い場合には、反応系の粘性が高くなりすぎ、反応物の後処理が困難になる傾向がある。重合反応終了後は、反応溶液より蒸発によって溶媒を除去し、必要に応じて残留物を洗浄することによって、所望のポリマーが得られる。また、反応溶液を、ポリマーの溶解度が低い溶媒中に加えることによって、ポリマーを固体として沈殿させ、沈殿物の濾取によりポリマーを得ることもできる。
【0054】
芳香族ポリケタール系重合体のGPC法による重量平均分子量は、好ましくは1万から100万、さらに好ましくは10万から60万である。かかる重量平均分子量が、1万未満では機械特性が不十分な場合があり、一方、100万を越えると加工性に劣る場合がある。
【0055】
本発明によって得られるケタールビスフェノール類、ならびに併用するビスフェノール、芳香族ジハライド等の原料モノマーの純度は、本発明の目的を損なわない程度に高純度であれば問題ないが、98%以上であることが好ましく、さらに好ましくは99%以上である。ケタールビスフェノール類の純度を分析する方法は特に限定されないが、ガスクロマトグラフィー(GC)、液体クロマトグラフィー(LC)、赤外吸収スペクトル(IR)、核磁気共鳴スペクトル(NMR)等が例示できる。
【0056】
また、本発明によって得られるケタールビスフェノール類を用いて得た芳香族ポリケタール系重合体は、溶解性や加工性に優れることから、各種成型品を製造する上で、その可溶性前駆体として特に好ましく使用することができる。具体的には、芳香族ポリケタール系重合体として、膜状の他、板状、繊維状、中空糸状、粒子状、塊状など使用用途によって様々な形態に加工した後、必要に応じて高結晶性と高融点を有する芳香族ポリケトン系重合体に変換して使用することができる。
【0057】
また、芳香族ポリケタール系重合体および芳香族ポリケトン系重合体にイオン性基を含有させて使用することも好適であり、種々の用途に適用可能である。例えば、体外循環カラム、人工皮膚などの医療用途、ろ過用用途、イオン交換樹脂用途、各種構造材用途、電気化学用途に適用可能である。中でも種々の電気化学用途により好ましく利用することができる。かかる電気化学用途としては、例えば、燃料電池、レドックスフロー電池、水電解装置、クロロアルカリ電解装置等が挙げられるが、中でも燃料電池が最も好ましい用途である。さらに燃料電池のなかでも高分子電解質型燃料電池用の高分子電解質材料に好適であり、これには水素を燃料とするものとメタノールなどの有機化合物を燃料とするものがあるが、炭素数1〜6の有機化合物およびこれらと水の混合物から選ばれた少なくとも1種を燃料とする直接型燃料電池に特に好ましく用いられる。かかる炭素数1〜6の有機化合物としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどの炭素数1〜3のアルコール、ジメチルエーテルが好ましく、メタノールが最も好ましく使用される。
【0058】
本発明によって得られるケタールビスフェノール類を用いて得た芳香族ポリケタール系重合体および芳香族ポリケトン系重合体を燃料電池用として使用する際には、通常膜の状態で使用される。
【0059】
また、本発明によって得られるケタールビスフェノール類を用いて得た芳香族ポリケタール系重合体および芳香族ポリケトン系重合体には、通常の高分子化合物に使用される可塑剤、安定剤あるいは離型剤等の添加剤を、本発明の目的に反しない範囲内で添加することができる。また、諸特性に悪影響をおよぼさない範囲内で、機械的強度、熱安定性、加工性などの向上を目的に、各種ポリマー、エラストマー、フィラー、微粒子、各種添加剤などを含有させてもよい。
【実施例】
【0060】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお、アルカリ水溶液のpH、ケタールビスフェノール類の純度及び安定性は、以下に示す方法により測定した。
【0061】
<pHの測定方法>
ガラス電極式水素イオン濃度計[東亜電波工業(株)製]を用い、調整直後の試料のpHを25℃にて測定した。
【0062】
<純度の測定方法>
反応混合物をガスクロマトグラフィー(GC)により下記の条件で分析し、ケタールビスフェノール類、4,4′−ジヒドロキシベンゾフェノン及び分解化合物等のガスクロマトグラフィーの面積値総和で、各含有成分の面積値を割り百分率に換算した。
【0063】
GC装置:島津製作所社製GC−17A
カラム:DB−5(J&W社製) L=30m、Φ=0.53mm、D=1.50μm
キャリヤー:ヘリウム(線速度=35.0cm/sec)
分析条件:
注入口温度;300℃
検出器温度;320℃
温度プログラム;Oven 50℃×1min、
Rate 10℃/min、
Final 300℃×15min
SP比 50:1
【0064】
<安定性の評価方法>
試料を密閉したサンプル缶に入れ−22℃及び25℃の温度条件で10日間及び50日間保存後、これら4つの試料を、ガスクロマトグラフィー(GC)により上記の方法で定量分析し、純度の低下の有無を評価した。
【0065】
実施例1
攪拌器、温度計及び留出管を備えた500mlフラスコに、4,4′−ジヒドロキシベンゾフエノン49.5g、エチレングリコール134g、オルトギ酸トリメチル96.9g及びp−トルエンスルホン酸1水和物0.50gを仕込み溶解する。その後78〜82℃で2時間保温攪拌した。更に、内温を120℃まで徐々に昇温、ギ酸メチル、メタノール、オルトギ酸トリメチルの留出が完全に止まるまで加熱した後、室温まで冷却し反応液1を得た。
【0066】
この反応液1を酢酸エチルで希釈し、有機層を5%炭酸カリウム水溶液(pH11.6)100mlで洗浄し分液後、溶媒を留去した。残留物にジクロロメタン80mlを加え結晶を析出させ、濾過し、乾燥して2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジオキソラン52.0gを得た。この結晶をGC分析したところ99.8%の2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジオキソランと0.2%の4,4′−ジヒドロキシベンゾフエノンであった。また、安定性の評価結果、いずれの評価方法においても純度の低下は認められなかった。
【0067】
実施例2
実施例1と同様にして得られた反応液1を酢酸エチルで希釈し、有機層を5%炭酸ナトリウム水溶液(pH11.0)100mlで洗浄し分液後、溶媒を留去した。残留物を実施例1と同様に処理し、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジオキソラン52.6gを得た。この結晶をGC分析したところ99.7%の2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジオキソランと0.3%の4,4′−ジヒドロキシベンゾフエノンであった。また、安定性の評価結果、いずれの評価方法においても純度の低下は認められなかった。
【0068】
実施例3
実施例1と同様にして得られた反応液1を酢酸エチルで希釈し、有機層を2.8%アンモニア水(pH11.4)100mlで洗浄し分液後、溶媒を留去した。残留物を実施例1と同様に処理し、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジオキソラン51.6gを得た。この結晶をGC分析したところ99.8%の2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジオキソランと0.2%の4,4′−ジヒドロキシベンゾフエノンであった。また、安定性の評価結果、いずれの評価方法においても純度の低下は認められなかった。
【0069】
実施例4
実施例1と同様にして得られた反応液1を酢酸イソブチルで希釈し、有機層を5%炭酸カリウム溶液(pH11.6)100mlで洗浄し分液後、溶媒を留去した。残留物を実施例1と同様に処理し、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジオキソラン52.7gを得た。この結晶をGC分析したところ99.8%の2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジオキソランと0.2%の4,4′−ジヒドロキシベンゾフエノンであった。また、安定性の評価結果、いずれの評価方法においても純度の低下は認められなかった。
【0070】
実施例5
攪拌器、温度計及び留出管を備えた500mlフラスコに、4,4′−ジヒドロキシベンゾフエノン49.5g、1,2−プロパンジオール164g、オルトギ酸トリメチル96.9g及びp−トルエンスルホン酸1水和物0.50gを仕込み溶解する。その後78〜82℃で2時間保温攪拌した。更に、内温を120℃まで徐々に昇温、ギ酸メチル、メタノール、オルトギ酸トリメチルの留出が完全に止まるまで加熱した後、室温まで冷却し反応液2を得た。
【0071】
この反応液2を酢酸イソブチルで希釈し、有機層を5%炭酸カリウム溶液(pH11.6)100mlで洗浄し分液後、溶媒を留去した。残留物を実施例1と同様に処理し、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチル−1,3−ジオキソラン55.0gを得た。この結晶をGC分析したところ99.6%の2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチル−1,3−ジオキソランと0.4%の4,4′−ジヒドロキシベンゾフエノンであった。また、安定性の評価結果、いずれの評価方法においても純度の低下は認められなかった。
【0072】
比較例1
実施例1と同様にして得られた反応液1を酢酸エチルで希釈し、有機層を5%炭酸水素ナトリウム水溶液(pH8.4)100mlで洗浄し分液後、溶媒を留去した。残留物にジクロロメタン80mlを加え結晶を析出させ、濾過し、乾燥して2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジオキソラン53.5gを得た。この結晶をGC分析したところ96.8%の2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジオキソランと3.1%の4,4′−ジヒドロキシベンゾフエノンであった。また、安定性の評価結果、下記のとおりの純度の低下を認めた。
【0073】
25℃、10日間保存後の純度は54.6%であり、25℃、50日間保存後の純度2.7%であった。また、−22℃、10日間保存後の純度は94.6%であり、−22℃、50日間保存後の純度は88.7%であった。なお、分解物として4,4′−ジヒドロキシベンゾフエノンとエチレングリコールが確認された。
【0074】
比較例2
実施例1と同様にして得られた反応液1を酢酸エチルで希釈し、有機層を5%水酸化ナトリウム水溶液(pH13.5)100mlで洗浄し分液後、溶媒を留去したが、残留物はほとんどなかった。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の精製方法により得られるケタールビスフェノール類は、芳香族ポリケタールのモノマーとして有用である。さらに、芳香族ポリケタールは芳香族ポリケトンの可溶性前駆体として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されるジヒドロキシベンゾフェノン類と、下記一般式(2)で示されるグリコール類またはアルキレンジチオール類とを原料とするケタールビスフェノール類の製造方法において、少なくとも下記一般式(3)で示されるケタールビスフェノール類と前記ジヒドロキシベンゾフェノン類とを含む混合物を、pH9〜13のアルカリ水溶液と処理する工程を含むケタールビスフェノール類の製造方法。
【化1】

(式中、X1、X2、X3およびX4はそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐状の炭化水素基またはアルコキシ基を示す。)
【化2】

(式中、R1、R2、R3およびR4はそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐状の炭化水素基を示し、Aは酸素原子または硫黄原子を示し、Eは単結合または無置換もしくは炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐状の炭化水素基で置換されたメチレンもしくはエチレン鎖を示す。)
【化3】

(式中、X1、X2、X3、X4、R1、R2、R3、R4、AおよびEは前記と同じ。)
【請求項2】
さらに、前記ジヒドロキシベンゾフェノン類に対して0.1モル%から50モル%の有機スルホン酸類または有機カルボン酸類の存在下に、前記ジヒドロキシベンゾフェノン類と、グリコール類またはアルキレンジチオール類とを、反応させる工程を含む請求項1に記載のケタールビスフェノール類の製造方法。
【請求項3】
前記ケタールビスフェノール類が、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジオキソラン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジオキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジチオラン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジチアンから選ばれるいずれかである請求項1または2に記載のケタールビスフェノール類の製造方法。
【請求項4】
少なくとも一般式(1)で示されるジヒドロキシベンゾフェノン類と、一般式(3)で示されるケタールビスフェノール類とを含む混合物を、pH9〜13のアルカリ水溶液と処理するケタールビスフェノール類の精製方法。
【化4】

(式中、X1、X2、X3およびX4はそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐状の炭化水素基またはアルコキシ基を示す。)
【化5】

(式中、X1、X2、X3およびX4は前記と同じであり、R1、R2、R3およびR4はそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐状の炭化水素基を示し、Aは酸素原子または硫黄原子を示し、Eは単結合または無置換もしくは炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐状の炭化水素基で置換されたメチレンもしくはエチレン鎖を示す。)
【請求項5】
ジヒドロキシベンゾフェノン類の含有量が1重量%以下である下記一般式(3)で示されるケタールビスフェノール類。

【化6】

(式中、X1、X2、X3およびX4はそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐状の炭化水素基またはアルコキシ基を示し、R1、R2、R3およびR4はそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐状の炭化水素基を示し、Aは酸素原子または硫黄原子を示し、Eは単結合または無置換もしくは炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐状の炭化水素基で置換されたメチレンもしくはエチレン鎖を示す。)

【公開番号】特開2008−37827(P2008−37827A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−216441(P2006−216441)
【出願日】平成18年8月9日(2006.8.9)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、燃料電池・水素技術開発部委託研究、「固体高分子形燃料電池実用化戦略技術開発 要素技術開発高性能炭化水素系電解質膜の研究開発」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【出願人】(000216243)田岡化学工業株式会社 (115)