説明

ケミカルフィルタ及びその製造方法

【解決課題】濾材の強度が高く、且つ、イオン性ガス状汚染物質の除去性能が長期に亘って維持されるケミカルフィルタを提供すること。
【解決手段】ケミカルフィルタ用濾材を加工して得られたケミカルフィルタであって、該ケミカルフィルタ用濾材が、水酸基を有する有機繊維で構成されている織布又は不織布であり、該水酸基を有する有機繊維には、放射線グラフト重合によりカチオン交換基が導入されており、該ケミカルフィルタ用濾材のカチオン交換基のイオン交換容量が400meq/m以上であり、該ケミカルフィルタ用濾材の引張強度が5〜20N/15mmであること、を特徴とするケミカルフィルタ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体や液体中から悪臭物質を除去するためや、半導体、液晶、精密電子部品の製造工場のクリーンルーム又はクリーンルーム内で使用される装置に設置され、イオン性のガス状不純物を除去するため等に用いられるケミカルフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造、液晶製造等の先端産業では、製品の歩留まりや品質、信頼性を確保するため、クリーンルーム内の空気や製品表面の汚染制御が重要となっている。特に、半導体産業分野では、製品の高集積度化が進むにつれ、HEPA、ULPA等を用いた粒子状汚染物質の制御に加え、イオン性ガス状汚染物質(塩基性ガス及び酸性ガス)の制御が不可欠となっている。このうち、例えば、塩基性ガスであるアンモニアは、半導体製造時の露光工程において、露光時の解像性の悪化や、ウエハー表面の曇りの原因になるとされている。また、酸性ガスであるSOXは、半導体製造時の熱酸化膜形成工程において、基板内に積層欠陥を引き起こして、デバイス特性や信頼性を悪化させる原因となる。
【0003】
このように、イオン性ガス状汚染物質は、半導体製造等において、種々の問題を引き起こすため、半導体製造等で使用されるクリーンルーム内では、イオン性ガス状汚染物質の濃度が1ppb以下であることが望まれている。
【0004】
このような場合、イオン交換基が導入された不織布を加工して得られるケミカルフィルタが用いられる。例えば、特開平11−290702号公報(特許文献1)には、スパンボンド法の一種であるメルトブロー法によって作成された平均繊維径が10μm以下のポリオレフィン繊維よりなる不織布であり、紫外線グラフト重合によってイオン交換能が付与されたケミカルフィルタ、メルトブロー法によって平均繊維径が10μm以下のポリオレフィン繊維によりウエブが形成され、水流交絡法によって作成された不織布であり、紫外線グラフト重合によってイオン交換能が付与されたケミカルフィルタ、及びメルトブロー法によって平均繊維径が10μm以下のポリオレフィン繊維により作成されたウエブと、平均繊維径が50μm以下のスパンボンド法によって作成されたウエブあるいは短繊維のウエブとの少なくとも2層以上が熱圧着により積層一体化された不織布であり、紫外線グラフト重合によってイオン交換能が付与されたケミカルフィルタが開示されている。
【0005】
また、特開平8−199480号公報(特許文献2)には、芯鞘構造の繊維を用いて、サーマルボンド法により得られた不織布に対し、放射線グラフトを行い、不織布にイオン交換基を導入して得られるガス吸着材が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開平11−290702号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平8−199480号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
クリーンルーム等に設置されるケミカルフィルタには、イオン性ガス状汚染物質の除去性能が高いことに加えて、該除去性能が長期に亘って維持されること、すなわち、寿命が長いことも要求される。
【0008】
ところが、上記特許文献1及び2のケミカルフィルタでは、寿命が不十分であるという問題があった。また、イオン交換基の導入量を多くしようとすると、濾材の強度が低下してしまうという問題もあった。
【0009】
また、半導体製造の露光工程では、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA:CHCOOCH(CH)CHOCH)が大量に使用されているため、クリーンルームの空気は、PGMEAを含有する。そして、PGMEAは、強酸による触媒作用を受けて加水分解し、機器を腐食させる汚染物質である酢酸に変換される。そのため、ケミカルフィルタ中のカチオン交換基が、PGMEAの加水分解の触媒として作用して、酢酸が発生するという問題があった(非特許文献1)。
【0010】
【非特許文献1】「活性炭系ケミカルフィルタの性能評価と性能向上に関する研究」;清水建設研究報告、第82号(平成17年10月)、第27〜38頁(第28頁左欄第24〜32行)
【0011】
従って、本発明の課題は、濾材の強度が高く、且つ、イオン性ガス状汚染物質の除去性能が長期に亘って維持されるケミカルフィルタを提供することにある。更には、本発明の課題は、濾材の強度が高く、且つ、イオン性ガス状汚染物質の除去性能が長期に亘って維持されることに加えて、PGMEAの加水分解を低く抑えることができるケミカルフィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記従来技術における課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、(1)水酸基を有する有機繊維に対し、放射線グラフト重合を行うと、イオン交換基が多量に重合するので、グラフト率が高くなること、(2)また、水酸基を有する有機繊維は、放射線グラフト重合によるダメージが少ないので、放射線グラフト重合を行った後の濾材の強度が、水酸基を有しない有機繊維に比べ高くなること、(3)これらのことにより、濾材の強度が高く且つ寿命が長いケミカルフィルタが得られること、(4)更には、濾材の形状をプリーツ型にすることにより、カルボキシル基にも塩基性ガスの除去性能を付与できるので、強酸性イオン交換基のイオン交換容量の不足分を補うことができること、(5)そのため、強酸性イオン交換基の導入量を少なくしても、濾材の形状をプリーツ型にし、且つ、カルボキシル基を特定量以上導入すれば、濾材の寿命を長くし、且つ、PGMEAの加水分解を低く抑えることができること等を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明(1)は、ケミカルフィルタ用濾材を加工して得られたケミカルフィルタであって、
該ケミカルフィルタ用濾材が、水酸基を有する有機繊維で構成されている織布又は不織布であり、
該水酸基を有する有機繊維には、放射線グラフト重合によりカチオン交換基が導入されており、
該ケミカルフィルタ用濾材のカチオン交換基のイオン交換容量が400meq/m以上であり、
該ケミカルフィルタ用濾材の引張強度が5〜20N/15mmであること、
を特徴とするケミカルフィルタを提供するものである。
【0014】
また、本発明(2)は、ケミカルフィルタ用濾材を加工して得られたケミカルフィルタであって、
該ケミカルフィルタ用濾材が、水酸基を有する有機繊維で構成されている織布又は不織布であり、且つ、プリーツ形状に加工されており、
該水酸基を有する有機繊維には、放射線グラフト重合によりカチオン交換基が導入されており、
該カチオン交換基が、カルボキシル基及び強酸性カチオン交換基であり、該ケミカルフィルタ用濾材の該カルボキシル基のイオン交換容量が100meq/m以上であり、且つ、該ケミカルフィルタ用濾材の該強酸性カチオン交換基のイオン交換容量が300〜1000meq/mであり、
該ケミカルフィルタ用濾材の引張強度が5〜20N/15mmであること、
を特徴とするケミカルフィルタを提供するものである。
【0015】
また、本発明(3)は、水酸基を有する有機繊維を加工して、織布又は不織布を得、次いで、得られた該織布又は該不織布中の該水酸基を有する有機繊維に、イオン交換基を放射線グラフト重合により導入し、ケミカルフィルタ用濾材を得、次いで、該ケミカルフィルタ用濾材を加工して、ケミカルフィルタを得ることを特徴とするケミカルフィルタの製造方法を提供するものである。
【0016】
また、本発明(4)は、水酸基を有する有機繊維に、イオン交換基を放射線グラフト重合により導入し、次いで、得られた有機繊維を、織布又は不織布に加工して、ケミカルフィルタ用濾材を得、次いで、該ケミカルフィルタ用濾材を加工して、ケミカルフィルタを得ることを特徴とするケミカルフィルタの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、濾材の強度が高く、且つ、イオン性ガス状汚染物質の除去性能が長期に亘って維持される長寿命のケミカルフィルタを提供することができる。更には、本発明によれば、濾材の強度が高く、且つ、イオン性ガス状汚染物質の除去性能が長期に亘って維持され、且つ、PGMEAの加水分解を低く抑えることができるケミカルフィルタを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の第一の形態のケミカルフィルタ(以下、本発明のケミカルフィルタ(1)とも記載する。)は、ケミカルフィルタ用濾材を加工して得られたケミカルフィルタであって、
該ケミカルフィルタ用濾材が、水酸基を有する有機繊維で構成されている織布又は不織布であり、
該水酸基を有する有機繊維には、放射線グラフト重合によりカチオン交換基が導入されており、
該ケミカルフィルタ用濾材の該カチオン交換基のイオン交換容量400meq/m以上であり、
該ケミカルフィルタ用濾材の引張強度が5〜20N/15mmであること、
を特徴とするケミカルフィルタである。
【0019】
本発明のケミカルフィルタ(1)は、該ケミカルフィルタ用濾材を加工して得られたケミカルフィルタである。本発明のケミカルフィルタ(1)の形状としては、特に制限されないが、プリーツ型が好ましい。
【0020】
本発明のケミカルフィルタ(1)に係る該ケミカルフィルタ用濾材は、該水酸基を有する有機繊維で構成されている該織布又は該不織布である。つまり、該織布又は該不織布は、該水酸基を有する有機繊維で形成されている。
【0021】
本発明のケミカルフィルタ(1)に係る該水酸基を有する有機繊維としては、例えば、レーヨン繊維、パルプ繊維、コットン繊維、コットンリンター繊維等の天然繊維又はその再生繊維が挙げられる。該水酸基を有する有機繊維としては、レーヨン繊維、パルプ繊維、コットン繊維及びコットンリンター繊維のうちの1種又は2種以上の組合せが、水酸基の量が多いので、グラフト重合率が高くなり、イオン交換基の導入量が多くなるため、寿命が長くなり、且つ、濾材の強度が高くなる点で好ましい。更に、該水酸基を有する有機繊維としては、レーヨン繊維がイオン交換基の導入量が多くなるために寿命が長くなり、且つ、濾材の強度が高くなることに加えて、化学安定性が優れる点で、特に好ましい。該水酸基を有する有機繊維の繊維径は、特に制限されず、好ましくは5〜20μmである。
【0022】
本発明のケミカルフィルタ(1)に係る該織布又は該不織布は、該水酸基を有する有機繊維により形成されているものであれば、特に制限されない。該不織布のうち、スパンレース法により作製された不織布が、該水酸基を有する有機繊維の分布が均一なので、イオン交換基が均一に導入されるため、ケミカルフィルタの寿命が長くなる点で好ましい。
【0023】
本発明のケミカルフィルタ(1)において、該水酸基を有する有機繊維を加工して、不織布を作製する方法としては、特に制限されず、乾式であっても湿式であってもよく、例えば、レジンボンド法、スパンレース法、湿式抄造法等の方法であればよい。該不織布のうち、スパンレース法により作製された不織布が、該水酸基を有する有機繊維の分布が均一なので、イオン交換基が均一に導入されるため、ケミカルフィルタの寿命が長くなる点で好ましい。そして、該不織布のうち、レーヨン繊維を用いて作製されたスパンレース不織布が、イオン交換基の導入量が多く且つ該水酸基を有する有機繊維の分布が均一なので、イオン交換基が多量且つ均一に導入されるため、ケミカルフィルタの寿命が長くなる点で好ましい。
【0024】
該スパンレース法は、高圧水流で繊維を交絡させてスパンレース不織布を作製する方法であり、ウエブに対して、高圧の水をノズル等から噴射して、水流で繊維を交絡させる方法である。該スパンレース法では、水の圧力や、処理をする回数等は、適宜選択される。
【0025】
本発明のケミカルフィルタ(1)において、該ケミカルフィルタ用濾材を構成する該水酸基を有する有機繊維には、該放射線グラフト重合により該カチオン交換基が導入されている。
【0026】
本発明のケミカルフィルタ(1)に係る該カチオン交換基としては、例えば、スルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基、ホスホン酸基、スルホエチル基、ホスホメチル基、カルボメチル基等が挙げられ、これらは、1種単独又は2種以上の組合せであってもよい。これらのうち、該カチオン交換基としては、塩基性ガスの吸着速度が速い点で、スルホン酸基が好ましい。
【0027】
本発明のケミカルフィルタ(1)に係る該放射線グラフト重合(以下、グラフト重合(1)とも記載する。)としては、例えば、先ず、被重合体に対し、放射線を照射し、次いで、放射線照射後の該被重合体に、重合モノマー溶液を含浸させ又は塗布して、該被重合体に、重合モノマーを、グラフト重合させる放射線グラフト重合(1a)や、先ず、被重合体に、重合モノマー溶液を含浸させ又は塗布して、重合モノマー溶液が含浸又は塗布された被重合体を得、次いで、該被重合体に対し、放射線を照射し、該被重合体に、該重合モノマーを、グラフト重合させる放射線グラフト重合(1b)が挙げられる。該放射線グラフト重合(1a)及び該放射線グラフト重合(1b)では、放射線を照射する前に、雰囲気を窒素ガス等の不活性ガスで置換し、不活性雰囲気下で放射線グラフト重合を行う。なお、本発明において、該被重合体とは、該放射線グラフト重合が行われる対象を指し、該重合モノマーの重合鎖が導入されるものを指す。そして、該放射線グラフト重合(1)としては、該放射線グラフト重合(1b)が、該水酸基を有する有機繊維のダメージを少なくできるので、ケミカルフィルタ用濾材の強度を高くでき、且つ、重合モノマー溶液を含浸又は塗布して重合させる工程だけ窒素ガス等の不活性雰囲気にするだけでよいので、酸欠の事故、窒素ガスの使用によるコストアップ等、窒素ガスの使用によるデメリットを軽減できる点で好ましい。
【0028】
該放射線グラフト重合(1)で用いられる該重合モノマー(以下、重合モノマー(1)とも記載する。)は、例えば、スチレンスルホン酸ナトリウム、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ナトリウム、アクリル酸、メタクリル酸がある。
【0029】
なお、該重合モノマー(1)が、該カチオン交換基の塩の基を有する重合モノマー(1)の場合は、放射線グラフト重合を行った後の工程で、酸処理をすることにより、該カチオン交換基の塩の基を、該カチオン交換基(プロトン型)に変換することができる。また、該カチオン交換基の塩の基とは、例えば、スチレンスルホン酸ナトリウムのスルホン酸ナトリウム基(−SONa)のように、カチオン交換基が中和された基を指す。
【0030】
該放射線グラフト重合(1)において、照射する放射線は、紫外線、電子線、X線、α線、β線又はγ線等であり、好ましくはγ線である。該放射線グラフト重合において、該放射線の照射線量は、グラフト重合の重合度により、適宜選択されるが、γ線の場合で10〜400kGyが好ましい。
【0031】
該放射線グラフト重合(1)において、該重合モノマー(1)溶液の溶媒としては、水、アルコール等の親水性溶媒が挙げられる。該重合モノマー溶液中、該重合モノマー(1)の濃度は、適宜選択されるが、40〜70質量%が好ましい。
【0032】
本発明のケミカルフィルタ(1)では、該ケミカルフィルタ用濾材の該カチオン交換基のイオン交換容量は、400meq/m以上、好ましくは600〜1600meq/mである。該ケミカルフィルタ用濾材のイオン交換容量が、上記範囲内にあることにより、ケミカルフィルタの寿命が長くなる。
【0033】
本発明のケミカルフィルタ(1)では、該ケミカルフィルタ用濾材の引張強度は、5〜20N/15mm、好ましくは10〜15N/15mmである。
【0034】
本発明のケミカルフィルタ(1)では、該ケミカルフィルタ用濾材の目付けは、好ましくは50〜200g/m、特に好ましくは100〜160g/mである。また、該ケミカルフィルタ用濾材の厚みは、好ましくは0.3〜1.5mm、特に好ましくは0.6〜1.2mmである。
【0035】
本発明第二の形態のケミカルフィルタ(以下、本発明のケミカルフィルタ(2)とも記載する。)は、ケミカルフィルタ用濾材を加工して得られたケミカルフィルタであって、
該ケミカルフィルタ用濾材が、水酸基を有する有機繊維で構成されている織布又は不織布であり、且つ、プリーツ形状に加工されており、
該水酸基を有する有機繊維には、放射線グラフト重合によりカチオン交換基が導入されており、該カチオン交換基が、カルボキシル基及び強酸性カチオン交換基であり、該ケミカルフィルタ用濾材の該カルボキシル基のイオン交換容量が100meq/m以上であり、且つ、該ケミカルフィルタ用濾材の該強酸性カチオン交換基のイオン交換容量が300〜1000meq/mであり、
該ケミカルフィルタ用濾材の引張強度が5〜20N/15mmであること、
特徴とするケミカルフィルタである。
【0036】
本発明のケミカルフィルタ(2)は、該ケミカルフィルタ用濾材を加工して得られたケミカルフィルタである。
【0037】
本発明のケミカルフィルタ(2)に係る該ケミカルフィルタ用濾材は、該水酸基を有する有機繊維で構成されている該織布又は該不織布である。つまり、該織布又は該不織布は、該水酸基を有する有機繊維で形成されている。そして、該ケミカルフィルタ用濾材は、プリーツ型に加工されている。
【0038】
本発明のケミカルフィルタ(2)に係る該水酸基を有する有機繊維は、本発明のケミカルフィルタ(1)に係る該水酸基を有する有機繊維と同様である。
【0039】
本発明のケミカルフィルタ(2)に係る該織布又は該不織布は、本発明のケミカルフィルタ(1)に係る該織布又は該不織布と同様である。
【0040】
本発明のケミカルフィルタ(2)において、該ケミカルフィルタ用濾材を構成する該水酸基を有する有機繊維には、該放射線グラフト重合により該カチオン交換基が導入されている。そして、本発明のケミカルフィルタ(2)に係る該カチオン交換基は、カルボキシル基(−COOH)及び該強酸性カチオン交換基である。つまり、本発明のケミカルフィルタには、カルボキシル基と該強酸性カチオン交換基の両方が導入されている。
【0041】
本発明において、強酸性カチオン交換基とは、スルホン酸基(−SOH)、が挙げられる。
【0042】
本発明のケミカルフィルタ(2)に係る該放射線グラフト重合(以下、放射線グラフト重合(2)とも記載する。)は、重合モノマーとして、以下に示す重合モノマー(2)を用いる以外は、該放射線グラフト重合(1)と同様である。
【0043】
該放射線グラフト重合(2)で用いられる該重合モノマー(2)は、アクリル酸、メタクリル酸のような、カルボキシル基(−COOH)を有する重合モノマー(2c)と強酸性カチオン交換基を有する重合モノマー(2d)との組合せである。該重合モノマー(2d)としては、例えば、スチレンスルホン酸ナトリウム、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。なお、該重合モノマー(2)が、該カチオン交換基の塩の基を有する重合モノマーの場合は、放射線グラフト重合を行った後の工程で、酸処理をすることにより、該カチオン交換基の塩の基を、該カチオン交換基(プロトン型)に変換することができる。
【0044】
該放射線グラフト重合(2)において、照射する放射線は、紫外線、電子線、X線、α線、β線又はγ線等であり、好ましくはγ線である。該放射線グラフト重合において、該放射線の照射線量は、グラフト重合の重合度により、適宜選択されるが、γ線の場合で10〜400kGyが好ましい。
【0045】
該放射線グラフト重合(2)において、該重合モノマー溶液の溶媒としては、水、アルコール等の親水性溶媒が挙げられる。該重合モノマー溶液中、該重合モノマー(2)の濃度は、適宜選択されるが、40〜70質量%が好ましい。
【0046】
本発明のケミカルフィルタ(2)では、該ケミカルフィルタ用濾材のカルボキシル基のイオン交換容量は、100meq/m以上、好ましくは400〜900meq/mであり、且つ、該ケミカルフィルタ用濾材の該強酸性カチオン交換基のイオン交換容量は、300〜1000meq/m、好ましくは500〜800meq/mである。該ケミカルフィルタ用濾材のカルボキシル基及び該強酸性カチオン交換基のイオン交換容量が上記範囲内にあることにより、PGMEAの分解を低く抑え、且つ、ケミカルフィルタの寿命を長くすることができる。
【0047】
本発明のケミカルフィルタ(2)では、該ケミカルフィルタ用濾材の引張強度は、5〜20N/15mm、好ましくは10〜15N/15mmである。
【0048】
本発明のケミカルフィルタ(2)では、該ケミカルフィルタ用濾材の目付けは、好ましくは50〜200g/m、特に好ましくは100〜160g/mである。また、該ケミカルフィルタ用濾材の厚みは、好ましくは0.3〜1.5mm、特に好ましくは0.6〜1.2mmである。
【0049】
なお、本発明において、該ケミカルフィルタ用濾材の総イオン交換容量は、水酸化ナトリウム水溶液で中和滴定することにより測定され、また、該ケミカルフィルタ用濾材の該強酸性カチオン交換基のイオン交換容量は、塩化ナトリウム溶液を用いて強酸性カチオン交換基をナトリウムイオンで交換し、交換によって生成した塩酸を水酸化ナトリウム水溶液で中和滴定することにより測定され、また、該ケミカルフィルタ用濾材のカルボキシル基のイオン交換容量は、総イオン交換容量から、強酸性カチオン交換基のイオン交換容量を差し引くことにより算出される。
【0050】
本発明のケミカルフィルタ(1)及び(2)は、半導体、液晶、精密電子部品製造工場のクリーンルーム及び該クリーンルーム内で使用される装置に設置されるケミカルフィルタとして好適に用いられる。
【0051】
本発明の第一の形態のケミカルフィルタの製造方法(以下、本発明のケミカルフィルタの製造方法(1)とも記載する。)は、水酸基を有する有機繊維を加工して、織布又は不織布又を得、次いで、得られた該織布又は該不織布中の該水酸基を有する有機繊維に、イオン交換基を放射線グラフト重合により導入し、ケミカルフィルタ用濾材を得、次いで、該ケミカルフィルタ用濾材を加工して、ケミカルフィルタを得るケミカルフィルタの製造方法である。
【0052】
本発明のケミカルフィルタの製造方法(1)では、先ず、該水酸基を有する有機繊維を加工して、織布又は不織布を作製する。
【0053】
本発明のケミカルフィルタの製造方法(1)に係る該水酸基を有する有機繊維は、本発明のケミカルフィルタ(1)に係る該水酸基を有する有機繊維と同様である。
【0054】
本発明のケミカルフィルタの製造方法(1)において、該水酸基を有する有機繊維を加工して、不織布を作製する方法としては、特に制限されず、乾式であっても湿式であってもよく、例えば、レジンボンド法、スパンレース法、湿式抄造法等の方法であればよい。該不織布のうち、スパンレース法により作製された不織布が、該水酸基を有する有機繊維の分布が均一なので、イオン交換基が均一に導入されるため、ケミカルフィルタの寿命が長くなる点で好ましい。そして、該不織布のうち、レーヨン繊維を用いて作製されたスパンレース不織布が、イオン交換基の導入量が多く且つ該水酸基を有する有機繊維の分布が均一なので、イオン交換基が多量且つ均一に導入し易く、ケミカルフィルタの寿命が長くなる点で好ましい。
【0055】
該スパンレース法は、高圧水流で繊維を交絡させてスパンレース不織布を作製する方法であり、ウエブに対して、高圧の水をノズル等から噴射して、水流で繊維を交絡させる方法である。該スパンレース法では、水の圧力や、処理をする回数等は、適宜選択される。
【0056】
このようにして得られた該織布又は該不織布、つまり、該イオン交換基が導入される前の該織布又は該不織布の吸水率は、好ましくは50〜300質量%、特に好ましくは150〜250質量%である。該イオン交換基が導入される前の該織布又は該不織布の吸水率が、上記範囲内にあることにより、イオン交換基の導入量が多くなり、ケミカルフィルタのイオン性ガス状汚染物質の除去性能が高く且つ寿命が長くなる。
【0057】
なお、本発明において、該織布又は該不織布の吸水率は、以下の操作手順により求められる。先ず、測定対象の織布又は不織布を、水面に対して略平行になるように、水に浸漬して、織布又は不織布に水を吸水させる。次いで、水を吸水した織布又は不織布を、水面に対して略平行にしたまま、水から引き揚げ、水面より上の位置で、水ダレがしなくなるまで織布又は不織布を放置する。そして、吸水させる前の織布又は不織布の質量をA(g)、水ダレがしなくなった時の織布又は不織布の質量をB(g)として、下記式(1):
織布又は不織布の吸水率(%)={(B−A)/A}×100 (1)
により、該織布又は該不織布の吸水率を求める。
【0058】
本発明のケミカルフィルタの製造方法(1)では、次いで、得られた該織布又は該不織布中の該水酸基を有する有機繊維に、放射線グラフト重合によりイオン交換基を導入する。
【0059】
該織布又は該不織布中の該水酸基を有する有機繊維に導入される該イオン交換基は、カチオン交換基又はアニオン交換基のいずれかである。該カチオン交換基としては、例えば、スルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基、ホスホン酸基、スルホエチル基、ホスホメチル基、カルボメチル基等が挙げられ、これらは、1種単独又は2種以上の組合せであってもよい。これらのうち、カチオン交換基としては、塩基性ガスの吸着速度が速い点で、スルホン酸基が好ましい。該アニオン交換基としては、例えば、4級アンモニウム基、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、メチルアミノ基等が挙げられ、これらは、1種単独又は2種以上の組合せであってもよい。これらのうち、該アニオン交換基としては、酸性ガスの吸着速度が速い点で、4級アンモニウム基が好ましい。
【0060】
本発明のケミカルフィルタの製造方法(1)に係る該放射線グラフト重合(以下、放射線グラフト重合(3)とも記載する。)としては、先ず、被重合体に対し、放射線を照射し、次いで、放射線照射後の該被重合体に、重合モノマー溶液を含浸させ又は塗布して、該被重合体に、重合モノマーを、グラフト重合させる放射線グラフト重合(3a)や、先ず、被重合体に、重合モノマー溶液を含浸させ又は塗布して、重合モノマー溶液が含浸又は塗布された被重合体を得、次いで、該被重合体に対し、放射線を照射し、該被重合体に、該重合モノマーを、グラフト重合させる放射線グラフト重合(3b)が挙げられる。該放射線グラフト重合(3a)及び該放射線グラフト重合(3b)では、放射線を照射する前に、雰囲気を窒素ガス等の不活性ガスで置換し、不活性雰囲気下で放射線グラフト重合を行う。そして、該放射線グラフト重合としては、該放射線グラフト重合(3b)が、該水酸基を有する有機繊維のダメージを少なくできるので、ケミカルフィルタ用濾材の強度を高くすることができ、且つ、重合モノマー溶液を含浸又は塗布して重合させる工程だけ窒素ガス等の不活性雰囲気にするだけでよいので、酸欠の事故、窒素ガスの使用によるコストアップ等、窒素ガスの使用によるデメリットを軽減できる点で好ましい。
【0061】
該放射線グラフト重合(3)に係る該重合モノマー(以下、重合モノマー(3)とも記載する。)は、カチオン交換基を有する重合モノマー、カチオン交換基の塩の基を有する重合モノマー、アニオン交換基を有する重合モノマー又はアニオン交換基の塩の基を有する重合モノマー、あるいは、該イオン交換基に適宜の方法で官能基変換可能な置換基を有する重合モノマーである。
【0062】
該織布又は該不織布に導入される該イオン交換基がカチオン交換基の場合、該重合モノマー(3)としては、例えば、スチレンスルホン酸ナトリウム、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ナトリウム、アクリル酸、メタクリル酸、アリルスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。なお、該重合モノマー(3)が、該カチオン交換基の塩の基を有する重合モノマー(3)の場合は、放射線グラフト重合を行った後の工程で、酸処理をすることにより、該カチオン交換基の塩の基を、該カチオン交換基(プロトン型)に変換することができる。
【0063】
また、該織布又は該不織布に導入される該イオン交換基が、カルボキシル基及び強酸性カチオン交換基の両方である場合、該重合モノマー(3)は、アクリル酸、メタクリル酸のような、カルボキシル基を有する重合モノマー(3c)及び該強酸性カチオン交換基を有する重合モノマー(3d)との組合せである。該重合モノマー(3c)としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸等が挙げられ、また、該重合モノマー(3d)としては、例えば、スチレンスルホン酸ナトリウム、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。このとき、該重合モノマー(3c)及び該重合モノマー(3d)のモル比を選択することにより、該ケミカルフィルタ用濾材のカルボキシル基と該強酸性カチオン交換基とのイオン交換容量の比を調節することができる。
【0064】
また、該織布又は該不織布に導入される該イオン交換基がアニオン交換基の場合、該重合モノマー(3)としては、例えば、ビニルベンジルトリメチルアンモニウム塩、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルアクルリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート等が挙げられる。これらは1種単独又は2種以上の組合せであってもよい。なお、該重合モノマーが、該アニオン交換基の塩の基を有する重合モノマーの場合は、放射線グラフト重合を行った後の工程で、アルカリ処理をすることにより、該アニオン交換基の塩の基を、該アニオン交換基(水酸基型)に変換することができる。
【0065】
該放射線グラフト重合(3)において、照射する放射線は、紫外線、電子線、X線、α線、β線又はγ線等であり、好ましくはγ線である。該放射線グラフト重合において、該放射線の照射線量は、グラフト重合の重合度により、適宜選択されるが、γ線の場合で10〜400kGyが好ましい。
【0066】
該放射線グラフト重合(3)において、該重合モノマー溶液の溶媒としては、水、アルコール等の親水性溶媒が挙げられる。該重合モノマー溶液中、該重合モノマー(3)の濃度は、適宜選択されるが、40〜70質量%が好ましい。
【0067】
また、該放射線グラフト重合(3)が、該放射線グラフト重合(3b)の場合、つまり、先ず、該織布又は該不織布に、重合モノマー溶液を含浸させ又は塗布して、重合モノマー溶液が含浸又は塗布された該織布又は該不織布を得、次いで、該織布又は該不織布に対し、放射線を照射し、該織布又は該不織布に、該重合モノマーを、グラフト重合させる放射線グラフト重合の場合、該織布又は該不織布への該重合モノマー溶液の添着率を、50〜300質量%とすることが好ましく、150〜250質量%とすることが特に好ましい。該織布又は該不織布への該重合モノマー溶液の添着率が、上記範囲内にあることにより、イオン交換基の導入量が多くなり、ケミカルフィルタのイオン性ガス状汚染物質の除去性能が高く且つ寿命が長くなる。本発明のケミカルフィルタの製造方法(1)では、該重合モノマーを含浸又は塗布する織布又は不織布が、該水酸基を有する有機繊維なので、該重合モノマー溶液の添着率を高くすることができ、そのため、ケミカルフィルタ用濾材のイオン交換容量を多くすることができる。なお、本発明において、該織布又は該不織布への該重合モノマー溶液の添着率は、重合モノマー溶液を含浸又は塗布前の織布又は不織布の質量をC(g)、重合モノマー溶液を含浸又は塗布後の織布又は不織布の質量をD(g)として、下記式(2):
織布又は不織布への重合モノマー溶液の添着率(%)={(D−C)/C}×100 (2)
により求められる。なお、該織布又は該不織布が吸収できる量以上の該重合モノマー溶液を含浸又は塗布した場合、該重合モノマー溶液を含浸又は塗布後の該織布又は該不織布を、略水平に放置しておくと、該織布又は該不織布から液ダレが起こるので、この場合は、液ダレが起こらなくなった時の織布又は不織布の質量を、該重合モノマー溶液を含浸又は塗布後の織布又は不織布の質量D(g)とする。
【0068】
そして、該織布又は該不織布中の該水酸基を有する有機繊維に、該イオン交換基を放射線グラフト重合により導入することにより、イオン交換基が導入されている該ケミカルフィルタ用濾材を得る。
【0069】
本発明のケミカルフィルタの製造方法(1)では、次いで、該ケミカルフィルタ用濾材を、加工して、ケミカルフィルタを得る。
【0070】
本発明のケミカルフィルタの製造方法(1)において、該ケミカルフィルタ用濾材を加工する方法、及び該加工後のケミカルフィルタの形状は、特に制限されず、適宜選択され、例えば、プリーツ加工によりプリーツ型のケミカルフィルタを得る方法、段加工によりハニカム状のフィルタを得る方法等が挙げられる。
【0071】
該ケミカルフィルタ用濾材を加工する方法の形態例として、該ケミカルフィルタ用濾材をプリーツ加工する方法を説明する。図1に、本発明のケミカルフィルタの製造方法(1)において、プリーツ加工して得られたケミカルフィルタの形態例の模式図な斜視図を示す。図1中、ケミカルフィルタ1では、ケミカルフィルタ用濾材2は、3枚重ね合わせられ、山部4で折りたたまれて、プリーツ加工されている。この時、該ケミカルフィルタ用濾材2のひだの間に、折り返された該ケミカルフィルタ用濾材2同士が接触しないように、スペーサー3が付設されている。そして、該ケミカルフィルタ1では、該ケミカルフィルタ用濾材2の該山部4に対して垂直な方向(符号5a、5bの矢印の方向)に、被処理空気を通過させる。なお、図1では、該ケミカルフィルタ用濾材2を重ね合わせる枚数は、3枚であるが、特に制限されず、通常1〜4枚、好ましくは2〜3枚である。
【0072】
本発明の第二の形態のケミカルフィルタの製造方法(以下、本発明のケミカルフィルタの製造方法(2)とも記載する。)は、水酸基を有する有機繊維に、イオン交換基を放射線グラフト重合により導入し、次いで、得られた有機繊維を、織布又は不織布に加工し、ケミカルフィルタ用濾材を得、次いで、該イオン交換基が導入されているケミカルフィルタ用濾材を加工して、ケミカルフィルタを得るケミカルフィルタの製造方法である。
【0073】
本発明のケミカルフィルタの製造方法(2)と、本発明のケミカルフィルタの製造方法(1)とは、先に、該水酸基を有する有機繊維に、該イオン交換基を導入して、後で、織布又は不織布に加工するか、先に、該水酸基を有する有機繊維を、織布又は不織布に加工してから、後で、該イオン交換基を導入するか、の違いである。
【0074】
本発明のケミカルフィルタの製造方法(2)では、先ず、該水酸基を有する有機繊維に、該イオン交換基を放射線グラフト重合により導入する。
【0075】
本発明のケミカルフィルタの製造方法(2)に係る該水酸基を有する有機繊維は、本発明のケミカルフィルタの製造方法(1)に係る該水酸基を有する有機繊維と同様である。
【0076】
本発明のケミカルフィルタの製造方法(2)に係る該イオン交換基は、本発明のケミカルフィルタの製造方法(1)に係る該イオン交換基と同様である。
【0077】
本発明のケミカルフィルタの製造方法(2)に係る該放射線グラフト重合と、本発明のケミカルフィルタの製造方法(1)に係る該放射線グラフト重合とでは、被重合体が、前者は、織布又は不織布に加工される前の該水酸基を有する有機繊維であるのに対し、後者は、該水酸基を有する有機繊維を用いて作製された織布又は不織布である点が異なる以外は、同様である。
【0078】
そして、該水酸基を有する有機繊維に、放射線グラフト重合により該イオン交換基を導入することにより、該イオン交換基が導入されている水酸基を有する有機繊維を得る。
【0079】
本発明のケミカルフィルタの製造方法(2)では、次いで、得られた該イオン交換基が導入されている水酸基を有する有機繊維を、織布又は不織布に加工する。
【0080】
本発明のケミカルフィルタの製造方法(2)において、該イオン交換基が導入されている水酸基を有する有機繊維を加工して、織布を作製する方法及び不織布を作成する方法と、本発明のケミカルフィルタの製造方法(1)において、該水酸基を有する有機繊維を加工して、織布を作製する方法及び不織布を作成する方法とでは、加工される繊維が、前者は、該イオン交換基が導入されている水酸基を有する有機繊維であるのに対し、後者は、該水酸基を有する有機繊維である点が異なる以外は、同様である。
【0081】
そして、該イオン交換基が導入されている水酸基を有する有機繊維を、織布又は不織布に加工することにより、イオン交換基が導入されている該ケミカルフィルタ用濾材を得る。
【0082】
本発明のケミカルフィルタの製造方法(2)に係る該ケミカルフィルタ用濾材は、本発明のケミカルフィルタの製造方法(1)に係る該ケミカルフィルタ用濾材と同様である。
【0083】
本発明のケミカルフィルタの製造方法(2)では、次いで、該ケミカルフィルタ用濾材を、加工して、ケミカルフィルタを得るが、該ケミカルフィルタ用濾材を、加工して、ケミカルフィルタを得る方法については、本発明のケミカルフィルタの製造方法(1)と同様である。
【0084】
本発明のケミカルフィルタの製造方法(1)及び(2)により得られるケミカルフィルタは、半導体、液晶、精密電子部品製造工場のクリーンルーム及び該クリーンルーム内で使用される装置に設置されるケミカルフィルタとして好適に用いられる。
【0085】
本発明のケミカルフィルタの製造方法(1)及び(2)は、本発明のケミカルフィルタ(1)及び(2)の製造に、好適に用いられる。例えば、重合モノマーの種類又は組合せや、被重合体への重合モノマー溶液の添着量を調節して、イオン交換基の導入量を調節することにより、本発明のケミカルフィルタ(1)を製造することができる。また、例えば、重合モノマーとして、該重合モノマー(3c)と該重合モノマー(3d)とを組み合わせ、それらのモル比を調節し、且つ、被重合体への重合モノマー溶液の添着量を調節して、カルボキシル基及び強酸性イオン交換基の導入量を調節することにより、本発明のケミカルフィルタ(2)を製造することができる。
【0086】
よって、本発明のケミカルフィルタ(1)及び(2)並びに本発明のケミカルフィルタの製造方法(1)及び(2)により得られるケミカルフィルタは、濾材の強度が高く且つ寿命が長いケミカルフィルタとなる。
【0087】
更に、本発明のケミカルフィルタ(2)は、ケミカルフィルタ用濾材の形状がプリーツ型であるため、被処理空気とケミカルフィルタの接触面積を多くすることができる。そのため、塩基性ガスとの反応速度が強酸性カチオン交換基と比べて遅いカルボキシル基が、被処理空気中の塩基性ガスを除去するためのカチオン交換基として機能する。
【0088】
よって、本発明のケミカルフィルタ(2)では、カルボキシル基のイオン交換容量を多くすることによって、強酸性カチオン交換基のイオン交換容量を多くし過ぎることなく、ケミカルフィルタの寿命を長くすることができる。これらのことから、本発明のケミカルフィルタ(2)では、カルボキシル基のイオン交換容量及び強酸性カチオン交換基のイオン交換容量を特定範囲とすることにより、ケミカルフィルタの寿命を長くすることができ、且つ、PGMEAの加水分解の触媒作用がある強酸性カチオン交換基のイオン交換容量を少なくすることができるので、PGMEAの加水分解を低く抑えることができる。
【0089】
次に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。
【実施例】
【0090】
(実施例1)
(ケミカルフィルタ用濾材の作製)
スパンレース法によって、目付け160g/m、厚み1.1mm、繊維径約20μmのレーヨン製スパンレース不織布を作製した。次いで、得られたレーヨン製スパンレース不織布に、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸50質量%、アクリル酸10質量%を含有する重合モノマー水溶液を、320g/mの割合で塗布した。このとき、該レーヨン製スパンレース不織布への該重合モノマー溶液の添着率は、200%であった。
次いで、重合モノマー水溶液が塗布された不織布に、窒素雰囲気下で、γ線を照射した。この時の照射強度は、100kGyであった。該ケミカルフィルタ用濾材のイオン交換容量は1095meq/mであり、カルボキシル基のイオン交換容量は400meq/mであり、強酸性イオン交換基のイオン交換容量は695meq/mであった。また、該ケミカルフィルタ用濾材の引張強度を測定したところ、13N/15mmであった。なお、ケミカルフィルタ用濾材の引張強度については、「JIS P8113:1998」に準拠して測定した。
【0091】
(ケミカルフィルタの製造)
上記のようにして得られたケミカルフィルタ用濾材を、下記の仕様でプリーツ加工し、ケミカルフィルタを製造した。
<仕様>
・ケミカルフィルタの寸法:厚さ150mm×幅130mm×高さ130mm(厚さ:図1中符号6、幅:図1中符号7、高さ:図1中符号8)
・折ピッチ:85山/m
【0092】
(ケミカルフィルタの寿命試験)
上記のようにして得られたケミカルフィルタを、除去対象ガスをアンモニアとして、下記の試験条件で、寿命試験を行った。除去率が90%まで低下した時点を、ケミカルフィルタの寿命とした。その結果、ケミカルフィルタの寿命は、350時間であった。
なお、実際のクリーンルーム等で問題となるアンモニアの濃度は、数体積ppbであるが、加速試験として、2000体積ppbの濃度条件で行った。
<試験条件>
・対象ガス:アンモニア 2000体積ppb
・通気風量:0.5m/秒
【0093】
(比較例1)
(ケミカルフィルタ用濾材の作製)
サーマルボンド法によって、目付け160g/m、厚み1.1mm、繊維径20μmの芯部がポリエチレンテレフタレート、鞘部がポリエチレンの芯鞘構造の繊維製サーマルボンド不織布を作製した。次いで、得られたサーマルボンド不織布に、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸50質量%、アクリル酸10質量%を含有する重合モノマー水溶液を、320g/mの割合で塗布しようとしたが、重合モノマー水溶液がはじかれてしまい、液ダレが生じ、220g/mしか塗布できなかった。このとき、該サーマルボンド不織布への該重合モノマー溶液の添着率は、138%であった。
次いで、重合モノマー水溶液が塗布された不織布に、窒素雰囲気下で、γ線を照射した。この時の照射強度は、100kGyであった。該ケミカルフィルタ用濾材のイオン交換容量は753meq/mであり、カルボキシル基のイオン交換容量は275meq/mであり、強酸性イオン交換基のイオン交換容量は478meq/mであった。
また、該ケミカルフィルタ用濾材の引張強度を測定したところ、9N/15mmであった。
【0094】
(ケミカルフィルタの製造)
上記のようにして得られたケミカルフィルタ用濾材を用いる以外は、実施例1と同様の方法で行い、ケミカルフィルタを製造した。
【0095】
(ケミカルフィルタの寿命試験)
上記のようにして得られたケミカルフィルタを用いる以外は、実施例1と同様の方法で行った。その結果、ケミカルフィルタの寿命は、241時間であった。
【0096】
(実施例2)
(ケミカルフィルタ用濾材の作製)
スパンレース法によって、目付け160g/m、厚み1.1mm、繊維径約20μmのレーヨン製スパンレース不織布を作製した。次いで、得られたレーヨン製スパンレース不織布に、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸40質量%、アクリル酸20質量%を含有する重合モノマー水溶液を、320g/mの割合で塗布した。このとき、該レーヨン製スパンレース不織布への該重合モノマー溶液の添着率は、200%であった。
次いで、重合モノマー水溶液が塗布された不織布に、窒素雰囲気下で、γ線を照射した。この時の照射強度は、100kGyであった。該ケミカルフィルタ用濾材のイオン交換容量は1356meq/mであり、カルボキシル基のイオン交換容量は800meq/mであり、強酸性イオン交換基のイオン交換容量は556meq/mであった。また、該ケミカルフィルタ用濾材の引張強度を測定したところ、13N/15mmであった。
(ケミカルフィルタの製造)
上記のようにして得られたケミカルフィルタ用濾材を用いる以外は、実施例1と同様の方法で行い、ケミカルフィルタを製造した。
【0097】
(ケミカルフィルタの寿命試験)
上記のようにして得られたケミカルフィルタを用いる以外は、実施例1と同様の方法で行った。その結果、ケミカルフィルタの寿命は、280時間であった。
【0098】
(PGMEA通気による酢酸の発生量)
濃度2000μg/mのPGMEAを通気風量0.5m/秒でケミカルフィルタに通風したところ、フィルタ出口で酢酸の発生は認められなかった。
【0099】
(実施例3)
スパンレース法によって、目付け160g/m、厚み1.1mm、繊維径約20μmのレーヨン製スパンレース不織布を作製した。次いで、得られたレーヨン製スパンレース不織布に、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸70質量%を含有する重合モノマー水溶液を、400g/mの割合で塗布した。このとき、該レーヨン製スパンレース不織布への該重合モノマー溶液の添着率は、250%であった。
次いで、重合モノマー水溶液が塗布された不織布に、窒素雰囲気下で、γ線を照射した。この時の照射強度は、100kGyであった。強酸性イオン交換基のイオン交換容量は1218meq/mであった。また、該ケミカルフィルタ用濾材の引張強度を測定したところ、13N/15mmであった。
(ケミカルフィルタの製造)
上記のようにして得られたケミカルフィルタ用濾材を用いる以外は、実施例1と同様の方法で行い、ケミカルフィルタを製造した。
【0100】
(ケミカルフィルタの寿命試験)
上記のようにして得られたケミカルフィルタを用いる以外は、実施例1と同様の方法で行った。その結果、ケミカルフィルタの寿命は、612時間であった。
【0101】
(PGMEA通気による酢酸の発生量)
濃度2000μg/mのPGMEAを通気風量0.5m/秒でケミカルフィルタに通気したところ、フィルタ出口において酢酸の発生が認められ、その濃度は150μg/mであった。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明によれば、濾材の強度が高く、イオン性ガス状汚染物質の除去性能が高く、寿命が長いケミカルフィルタを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明のケミカルフィルタの製造方法(1)において、プリーツ加工して得られたケミカルフィルタの形態例の模式図な斜視図を示す。
【符号の説明】
【0104】
1 ケミカルフィルタ
2 ケミカルフィルタ用濾材
3 スペーサー
4 山部
5 被処理空気の通気方向
6 厚み
7 幅
8 高さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケミカルフィルタ用濾材を加工して得られたケミカルフィルタであって、
該ケミカルフィルタ用濾材が、水酸基を有する有機繊維で構成されている織布又は不織布であり、
該水酸基を有する有機繊維には、放射線グラフト重合によりカチオン交換基が導入されており、
該ケミカルフィルタ用濾材のカチオン交換基のイオン交換容量が400meq/m以上であり、
該ケミカルフィルタ用濾材の引張強度が5〜20N/15mmであること、
を特徴とするケミカルフィルタ。
【請求項2】
ケミカルフィルタ用濾材を加工して得られたケミカルフィルタであって、
該ケミカルフィルタ用濾材が、水酸基を有する有機繊維で構成されている織布又は不織布であり、且つ、プリーツ形状に加工されており、
該水酸基を有する有機繊維には、放射線グラフト重合によりカチオン交換基が導入されており、
該カチオン交換基が、カルボキシル基及び強酸性カチオン交換基であり、該ケミカルフィルタ用濾材の該カルボキシル基のイオン交換容量が100meq/m以上であり、且つ、該ケミカルフィルタ用濾材の該強酸性カチオン交換基のイオン交換容量が300〜1000meq/mであり、
該ケミカルフィルタ用濾材の引張強度が5〜20N/15mmであること、
を特徴とするケミカルフィルタ。
【請求項3】
前記強酸性カチオン交換基が、スルホン酸基であることを特徴とする請求項2記載のケミカルフィルタ。
【請求項4】
前記有機繊維が、レーヨン繊維、パルプ繊維、コットン繊維及びコットンリンター繊維のうちの1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載のケミカルフィルタ。
【請求項5】
水酸基を有する有機繊維を加工して、織布又は不織布を得、次いで、得られた該織布又は該不織布中の該水酸基を有する有機繊維に、イオン交換基を放射線グラフト重合により導入し、ケミカルフィルタ用濾材を得、次いで、該ケミカルフィルタ用濾材を加工して、ケミカルフィルタを得ることを特徴とするケミカルフィルタの製造方法。
【請求項6】
水酸基を有する有機繊維に、イオン交換基を放射線グラフト重合により導入し、次いで、得られた有機繊維を、織布又は不織布に加工して、ケミカルフィルタ用濾材を得、次いで、該ケミカルフィルタ用濾材を加工して、ケミカルフィルタを得ることを特徴とするケミカルフィルタの製造方法。
【請求項7】
前記有機繊維が、レーヨン繊維、パルプ繊維、コットン繊維及びコットンリンター繊維のうちの1種又は2種以上であることを特徴とする請求項5又は6いずれか1項記載のケミカルフィルタの製造方法。
【請求項8】
前記放射線グラフト重合において、イオン交換基が導入される前の織布又は不織布への重合モノマー溶液の添着率が、50〜300質量%であることを特徴とする請求項7記載のケミカルフィルタ。

【図1】
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【公開番号】特開2010−63959(P2010−63959A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−230694(P2008−230694)
【出願日】平成20年9月9日(2008.9.9)
【出願人】(000110804)ニチアス株式会社 (432)
【Fターム(参考)】