説明

ケーシングを用いた施工方法

【課題】ケーシング圧入により孔壁保護を行う場合における、周辺地盤への悪影響等の諸問題を解決する。
【解決手段】安定液2を満たしつつ掘削を行い孔3を形成する工程と、この安定液2で満たされた孔3内に、隙間をもって筒状ケーシング5を縦向きに建込むケーシング建込み工程と、筒状ケーシング5の周囲の安定液2を固化させる第一固化工程と、筒状ケーシング5内で作業する作業工程と、筒状ケーシング5の撤去対象部分5Uを撤去する工程と、筒状ケーシング5により占有されていた部分に安定液20を満たすとともに、この安定液20を固化させる第二固化工程とを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非開削で下水管の敷設等を行う推進工法等においてケーシングを用いて立坑を構築し、作業後にこれを埋め戻す場合等に好適な施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
推進工法等の作業基地として構築される発進立坑においては、坑壁崩壊を防止して安全に作業を行うことができるように土留めが施される。従来は、親杭横矢板による土留め、鋼矢板による土留め、地下連続壁による土留め等の方法が採用されていたが、近年では、作業空間の省スペース化等の観点から、地盤に孔を掘削しつつ孔内に鋼管ケーシングを揺動圧入し、発進立坑を構築する方法が開発されている。
【0003】
しかしながら、従来のケーシング圧入は、揺動圧入を行うために周辺地盤に悪影響を及ぼすおそれがある。また、発進立坑から埋設管体を推進させるための坑口を設けるにあたり、坑口の周囲地盤を別途地盤改良する必要がある。さらに、作業後において立坑の埋め戻しを行った場合、その締め固めが困難であり、局所的に液状化するおそれがある。
【特許文献1】特開2003−328677号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明の主たる課題は、ケーシング圧入により孔壁保護を行う場合の上記問題点を解決することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決した本発明は次記のとおりである。
<請求項1記載の発明>
安定液を満たしつつ掘削を行い孔を形成する工程と、
この安定液で満たされた孔内に、隙間をもって筒状ケーシングを縦向きに建込むケーシング建込み工程と、
筒状ケーシングの周囲の安定液を固化させる第一固化工程と、
筒状ケーシング内で作業する作業工程と、
筒状ケーシングの撤去対象部分を撤去する工程と、
筒状ケーシングにより占有されていた部分に安定液を満たすとともに、この安定液を固化させる第二固化工程と、
を含むことを特徴とするケーシングを用いた施工方法。
【0006】
(作用効果)
本発明では、筒状ケーシングを圧入することなしに建込むため、周辺地盤への影響が実質的に無い。また、ケーシング内に坑口を設ける場合であっても、坑口の周囲地盤は第一固化工程の固化体となっているため、別途地盤改良する必要無く、地盤改良と同様の効果が得られる。さらに、作業後の土砂の埋め戻しに代えて、第二固化工程において安定液を満たして固化するため、地盤改良したのと同様の効果が得られる。
【0007】
<請求項2記載の発明>
前記ケーシング建込み工程において、前記筒状ケーシングの建込みに伴って余剰となる余剰安定液を回収するとともに、
前記第二固化工程で用いる安定液として、前記回収した余剰安定液を用いるようにする、請求項1記載のケーシングを用いた施工方法。
【0008】
(作用効果)
このように、余剰安定液を回収し再利用することによって、経済性に優れるようになる。
【0009】
<請求項3記載の発明>
前記筒状ケーシングとして、前記引き抜きの抵抗となるような凹凸を外周面に有しないものを用い、前記筒状ケーシングを撤去するにあたり、筒状ケーシングの撤去対象部分を一体的に引き抜くようにする、請求項1または2記載のケーシングを用いた施工方法。
【0010】
(作用効果)
筒状ケーシングは孔壁保護を目的とするものであるため、地盤との一体性が高くなる方が好ましい。よって、この点のみを考慮すると、筒状ケーシングの外面に凹凸を有する方が好ましい。しかし、このような筒状ケーシングを用いると、ケーシングを撤去するに際して一体的に引き抜くことができず、撤去作業が著しく煩雑になる。よって、ケーシングの撤去性を重視する場合には、本項記載のように、引き抜きの抵抗となるような凹凸を外周面に有しない筒状ケーシングを用い、一体的に引き抜き撤去するようにするのが好ましい。これにより、撤去作業を大幅に簡素化することができる。なお、本発明において、筒状ケーシングの撤去対象部分は一部であっても全部であっても良い。
【0011】
<請求項4記載の発明>
前記筒状ケーシングの建込みに先立って、筒状ケーシングの外面に剥離剤を塗布しておくか又は剥離シートを貼り付けておくようにする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のケーシングを用いた施工方法。
【0012】
(作用効果)
筒状ケーシングの外面は第一固化工程による固化体と密着しているため、予め、このような剥離を容易にする手段を講じておくことにより、筒状ケーシングの撤去がより容易になる。
【0013】
<請求項5記載の発明>
前記作業工程において、筒状ケーシング下部および第一固化工程による安定液の固化体の下部を貫通する坑口を形成する工程と、この坑口を介して筒状ケーシング内外に埋設管体を延在させる工程と、筒状ケーシング内に人孔を設置するとともに人孔と前記埋設管体を連結する工程とを行う、請求項1〜4のいずれか1項に記載のケーシングを用いた施工方法。
【0014】
(作用効果)
本発明は、本項記載のような埋設管および人孔の敷設に好適である。すなわち、ケーシング下部に設けられる坑口の周囲地盤は第一固化工程により固化されているため、別途地盤改良する必要無く、地盤改良と同様の効果を維持しつつも、大幅な作業の簡素化を図ることができる。さらに、作業後の埋め戻しに代えて、第二固化工程において安定液を満たして固化するため、地盤改良したのと同様の効果、例えば、大地震による地盤の液状化により人孔が周囲地盤から浮き出るような事態の発生を抑止できる等の効果が得られる。なお、この利点は、人孔や埋設管に限られず、他の埋設物を埋設する際にももたらされることはいうまでもない。
【発明の効果】
【0015】
以上のとおり、本発明によれば、周辺地盤への影響が実質的に無くなる、ケーシング内に坑口を設ける場合であっても別途地盤改良する必要が無くなり、作業の大幅な簡素化を図ることができる、さらに作業後の埋め戻しに際して、地盤改良と同様の効果が得られる等の利点がもたらされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態について添付図面を参照しながら詳説する。
(削孔工程)
先ず、図1に示すように、対象地盤1において安定液2を満たしつつ所定深度まで掘削を行い、後述の筒状ケーシング5の外径よりも大きい(例えば筒状ケーシングを余裕をもって挿入しうる程度の)内径を有する孔3を形成する。掘削にはバックホウ等の掘削機械4を用いることができる。また、安定液2は孔壁保護を行いうるものであれば特に限定されず、泥水等、公知のものを使用できる。また、孔3の形状は特に限定されるものではなく、円状、楕円状、矩形状、溝状等あらゆる横断面形状を採用できる。
【0017】
(ケーシング建込み工程)
掘削が完了したならば、図2に示すように、安定液2で満たされた孔3内に、隙間をもって筒状ケーシング5を縦向きに建込む。建込みに際しては、クレーン等の吊り降ろし機械6を用いることができる。
【0018】
筒状ケーシング5の形状は特に限定されるものではなく、円形断面、楕円断面、多角形断面等、適宜の断面形状を有するものを用いることができる。また筒状ケーシング5の材質も特に限定されるものではなく、鋼管等のように孔壁保護を十分に行いうるものであれば良い。
【0019】
筒状ケーシング5の底は、図示するように底板5bを溶接する等により予め塞いでおき、建込み時には上部開口から内部に水7等の錘を注ぎながら安定液2中に沈めるのが好ましいが、筒状ケーシング5の底を塞がずに安定液2中に沈めて、筒状ケーシング5の底縁を孔3の底面3bに当接させて塞ぐようにすることもできる。いずれにせよ、次述の第一固化工程に先立って、筒状ケーシング5内外の液の流通を遮断しておく。
【0020】
また、建込みに際しては、筒状ケーシング5の底を孔底3bに載置しても良いが、ケーシング5の下側をも固化体で覆う場合には、図3に示すように、筒状ケーシング5の底を塞ぐとともに、筒状ケーシング5を孔3内に吊り支持するのが好ましい。図示例では、予め筒状ケーシング5の上端部にナット部材8を溶接等により固設しておき、筒状ケーシング5の吊り降ろし後に、孔2の縁部間にH鋼等からなる台座9を掛け渡すとともに、この台座9の挿通孔にゲビン鋼棒等のネジ棒材10を挿通させて、その下端部を筒状ケーシング5に固設したナット部材8に螺合するとともに、台座9の上側に延在する上端部に座金部材11を介してナット部材12を螺合させている。これにより、筒状ケーシング5はネジ棒材10および台座9を介して孔2の縁部に対して吊り支持される。
【0021】
また、筒状ケーシング5の建込みに伴ってその体積分の安定液が余剰となるため、これを孔2外へ排出する必要がある。この余剰安定液は廃棄物としても良いが、好適には、この余剰安定液を回収し、後述の第二固化工程で再利用できるように保管しておく。
【0022】
(第一固化工程)
ケーシングの建込みが完了したならば、図4に示すように、筒状ケーシング5の周囲、すなわち筒状ケーシング5外面と孔2内面との間にセメントミルク等の固化材を注入して、安定液2を固化させる。これにより、筒状ケーシング5の外面(図示形態ではケーシング5の周側面および底面)は、ケーシング5外面と孔2内面との隙間に応じた厚さの固化体21を介して地盤1と一体化する。
【0023】
安定液2が固化した後、好ましくは更に所定期間養生した後、台座9等を使用した場合にはこれを撤去し、また筒状ケーシング5内に水7等の液体を入れた場合にはこれを排出する。かくして、筒状ケーシング5をライナーとする、安定液の固化体21からなる立坑が形成される。
【0024】
(作業工程)
しかる後、立坑内で施工作業を行う。この施工作業としては、構築した立坑を利用するものであれば特に限定されるものではない。一例としては、推進工法による埋設管及び人孔の敷設を挙げることができ、図示例もこれを想定している。すなわち、詳細は図示しないが、作業前を示す図4および作業完了後を示す図5から判るように、先ず筒状ケーシング5内下部に推進装置を搬入・設置するとともに、埋設管30を挿通させる部分に筒状ケーシング5下部および第一固化工程による安定液の固化体21の下部を貫通する坑口21Xを形成する。坑口21Xの周囲地盤は第一固化工程により固化されているため、別途地盤改良する必要は無い(もちろん必要に応じて実施することを制限するものではない)。しかる後、この坑口21Xを介して筒状ケーシング5外に埋設管体30を推進させ、筒状ケーシング5内から外部の所定位置まで埋設管30を延在させるとともに、筒状ケーシング5内に人孔31を設置し、人孔31と埋設管体30の端部とを連結する。かくして、埋め戻しの準備が整う。
【0025】
(ケーシング撤去工程)
立坑内の作業が完了したならば、図5に示すように、筒状ケーシング5の撤去対象部分5Uを撤去回収する。図示例では、埋設管30が貫通する下端部5Lを除いた上側部分5Uを分割し撤去するようになっているが、場合によっては全体を撤去しても良い。またこのように筒状ケーシング5を分割撤去する場合、撤去に際して切断しても良いが、予め上側部分5Uと下側部分5Lとをボルト等により分割可能に連結しておき、撤去時にボルト連結を解いて上側部分5Uのみを撤去するようにすることもできる。
【0026】
また、撤去に際しては、撤去対象部分5Uを周方向に分割して撤去することもできるが、作業をより簡素化するために、クレーン等の吊り上げ機械6を用い、筒状ケーシングの撤去対象部分5Uを筒状のまま一体的に引き抜くようにするのも好ましい形態である。この場合、鋼管のように、引き抜きの抵抗となるような凹凸を外周面に有しない筒状ケーシング5を用いるのが好ましい。
【0027】
さらに、筒状ケーシング5の建込みに先立って、筒状ケーシング5の外面の一部または全部、例えば周側面および底面に剥離剤を塗布しておくか又は剥離シートを貼り付けておき、撤去を容易にするのも好ましい。この場合の剥離剤としては、油性、水性または両性のコンクリート剥離剤を用いることができ、鋼材を錆びさせない点で油性コンクリート剥離剤が好適である。市販品としては、アオイ化学工業(株)の「AOIマジックコート」や(株)日本触媒の「フリクションカッター」を用いることができる。また、剥離シートとしては、塩化ビニルシートや、ポリエチレン製シートを用いることができる。特に、このような剥離剤等は撤去対象部分を筒状のままで引き抜く場合に適用すると、ケーシングと固化体との摩擦を軽減することができ、より引抜が容易になるため好ましい。
【0028】
(第二固化工程)
図5に示すように、筒状ケーシング5の撤去に伴って(あるいは筒状ケーシング5の撤去後であっても良い)、立坑内における筒状ケーシング5の占有部分に安定液20を満たすとともに、この安定液20をセメントミルク等の固化材の添加混合により固化させる。この固化材は、坑内へ供給する前の安定液20に対して地上プラント等で添加混合することも可能である。また、施工の短期化を目的として、ソーダ灰、水ガラス、重曹等の硬化促進剤を添加することも可能である。
【0029】
かくして、図6に示すように、人孔31および埋設管30における人孔側の端部は、第二固化工程による固化体22を介して、その外側の第一固化工程による固化体21ならびに更にその外側の地盤1と一体化される。このように、埋設物30,31が固化体21,22を介して地盤1と一体化されていると、大地震による地盤の液状化により埋設物が浮上するような事態を抑制できる。
【0030】
ケーシング建込み工程において余剰安定液を回収した場合には、この回収した余剰安定液を本第二固化工程で用いることができる。余剰安定液の量が不足する場合には、新規の安定液を追加することができる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、推進による下水管、水道管、ガス管、人孔の敷設の他、基礎杭等にも適用できるものであり、筒状ケーシングを用いて孔壁保護を行いつつ施工を行う工法全般に適用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】削孔工程を示す概略断面図である。
【図2】ケーシング建込み工程を示す概略断面図である。
【図3】ケーシング建込み工程を示す概略断面図である。
【図4】第一固化工程を示す概略断面図である。
【図5】ケーシング撤去から第二固化工程を示す概略断面図である。
【図6】第二固化工程を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0033】
1…地盤、2…安定液、3…孔、4…掘削機械、5…筒状ケーシング、5U…撤去対象部分、20,21…固化体、30…埋設管、31…人孔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
安定液を満たしつつ掘削を行い孔を形成する工程と、
この安定液で満たされた孔内に、隙間をもって筒状ケーシングを縦向きに建込むケーシング建込み工程と、
筒状ケーシングの周囲の安定液を固化させる第一固化工程と、
筒状ケーシング内で作業する作業工程と、
筒状ケーシングの撤去対象部分を撤去する工程と、
筒状ケーシングにより占有されていた部分に安定液を満たすとともに、この安定液を固化させる第二固化工程と、
を含むことを特徴とするケーシングを用いた施工方法。
【請求項2】
前記ケーシング建込み工程において、前記筒状ケーシングの建込みに伴って余剰となる余剰安定液を回収するとともに、
前記第二固化工程で用いる安定液として、前記回収した余剰安定液を用いるようにする、請求項1記載のケーシングを用いた施工方法。
【請求項3】
前記筒状ケーシングを撤去するにあたり、筒状ケーシングの撤去対象部分を一体的に引き抜くようにするとともに、前記筒状ケーシングとして、前記引き抜きの抵抗となるような凹凸を外周面に有しないものを用いる、請求項1または2記載のケーシングを用いた施工方法。
【請求項4】
前記筒状ケーシングの建込みに先立って、筒状ケーシングの外面に剥離剤を塗布しておくか又は剥離シートを貼り付けておくようにする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のケーシングを用いた施工方法。
【請求項5】
前記作業工程において、筒状ケーシング下部および第一固化工程による安定液の固化体の下部を貫通する坑口を形成する工程と、この坑口を介して筒状ケーシング内外に埋設管体を延在させる工程と、筒状ケーシング内に人孔を設置するとともに人孔と前記埋設管体を連結する工程とを行う、請求項1〜4のいずれか1項に記載のケーシングを用いた施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−265941(P2006−265941A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−85852(P2005−85852)
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(000115463)ライト工業株式会社 (137)
【Fターム(参考)】