説明

ケースおよびその製造方法

【課題】金型や製造工程の簡易化を図りつつ、バリが除去されるケースおよびその製造方法、を提供する。
【解決手段】PCUケースは、金属鋳造により製造される。PCUケースは、シール部材18が重ね合わされるシール面21と、シール面21から折れ曲がった位置に配置される内側面22とが形成されるケース本体16を備える。ケース本体16は、シール面21に隣り合う位置で内側面22から突出し、その突出する先端に加工面26が形成される凸部24を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、一般的には、ケースおよびその製造方法に関し、より特定的には、金属鋳造により製造されるケースおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のケースの製造方法に関して、たとえば、実開昭63−202456号公報には、金型の見切り面の隙間を減少するようにして、バリの発生を防止することを目的としたバリなし鋳造用金型が開示されている(特許文献1)。特許文献1に開示された鋳造用金型においては、上型と下型とで構成される見切り面の隙間を減少させるように、入子が設けられている。
【0003】
また、特開平6−315736号公報には、高さのある通常の鋳物において、見切り面隅の角部の型締め性を向上させることを目的とした鋳造用金型および鋳物が開示されている(特許文献2)。特許文献2に開示された鋳造用金型においては、見切り面隅の角部の近傍に、抜き勾配に続く、2〜10°の範囲の多段抜き勾配が設けられる。
【0004】
また、特開2008−272787号公報には、ダイカスト形成における鋳造欠陥を防止し、高い空力学的性能が期待でき、安価なコンプレッサ羽根車を効率的かつ安定して形成することを目的としたコンプレッサ羽根車の製造方法が開示されている(特許文献3)。特許文献3に開示されたコンプレッサ羽根車の製造方法においては、キャビティに溶湯を注入して、羽根車形状をダイカスト形成する。キャビティには、溶湯に含まれる異物を捕えるためのトラップ部が設けられる。
【0005】
また、特開平10−288172号公報には、渦巻き加工の生産性を向上させることを目的としたスクロール型流体機械用のスクロール部材が開示されている(特許文献4)。特許文献4に開示されたスクロール部材においては、渦巻き要素の内壁面の巻き終り延長線上に面取り部が形成される。
【0006】
また、特開2009−285727号公報には、金型故障の増加および金型製作費の増加を抑えつつ、フランジ部の外周側エッジに面取り形状を追加することを目的としたフランジ部付き鋳造部品が開示されている(特許文献5)。特許文献5に開示された鋳造部品においては、フランジ部の外周面上に、フランジ部端面に接続する傾斜面を有する隆起部が形成される。
【0007】
また、特開2002−280471号公報には、ワイヤをボンディングする突起部の上端にカエリが形成されることが抑制する混成集積回路装置が開示されている(特許文献6)。特許文献6に開示された混成集積回路装置においては、筐体の突起部に、ワイヤの先端が接合される矩形状で平坦な接合面と、接合面と所定の角度をなす傾斜面とが形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実開昭63−202456号公報
【特許文献2】特開平6−315736号公報
【特許文献3】特開2008−272787号公報
【特許文献4】特開平10−288172号公報
【特許文献5】特開2009−285727号公報
【特許文献6】特開2002−280471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
複数の型を組み合わせて鋳造品を製造する場合、型同士の接触面の隙間に溶湯が侵入することによって、鋳造品にバリが形成されるという問題が生じる。この問題に対して、上述の特許文献1に開示された鋳造用金型では、上型と下型とで構成される見切り面に入子を挿入することによって、見切り面に溶湯が漏れることを防いでいる。しかしながら、このような構成では、入子を見切り面の隙間を塞ぐように押えるための部材が必要となり、金型の構造が複雑となったり、鋳造品の製造時の作業性が低下したりする懸念がある。
【0010】
そこでこの発明の目的は、上記の課題を解決することであり、金型や製造工程の簡易化を図りつつ、バリが除去されるケースおよびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明に従ったケースは、金属鋳造により製造されるケースである。ケースは、シール部材が重ね合わされるシール面と、シール面から折れ曲がった位置に配置される側面とが形成されるケース本体を備える。ケース本体は、シール面に隣り合う位置で側面から突出し、その突出する先端に加工面が形成される凸部を有する。
【0012】
このように構成されたケースによれば、ケースを金属鋳造により製造する際にシール面と側面との角部にバリが発生した場合を想定すると、その角部に設けられた凸部を加工することによって、側面から突出する凸部の先端部とともにバリを除去することができる。これにより、ケースの金属鋳造に用いられる金型や、ケースの製造工程を簡易化しつつ、バリを除去することができる。
【0013】
また好ましくは、シール面は、金属鋳造時に形成された鋳肌面からなる。このように構成されたケースによれば、ケースの製造工程をさらに簡易化することができる。また、加工によってシール面に鋳巣が現れることを回避し、シール面に重ね合わされるシール部材によるシール性を確保することができる。
【0014】
また好ましくは、ケース本体には、加工面と側面との間に配置され、加工面に対して斜め方向に延在する傾斜面がさらに形成される。
【0015】
このように構成されたケースによれば、回転工具を用いて凸部を加工する場合を想定すると、凸部に形成される加工面には、回転工具の回転軸方向に沿った力が作用する。この場合に、ケース本体に、加工面に対して斜め方向に延在する傾斜面を形成することによって、凸部の加工に伴って加工面と傾斜面との角部にバリが形成されることを抑制できる。
【0016】
また好ましくは、ケース本体には、シール面に開口し、ケース内外を連通させる開口部が形成される。側面は、開口部を取り囲むように配置され、ケース内に向けて延在する内側面である。凸部は、開口部の開口面積を狭める方向に突出する。
【0017】
このように構成されたケースによれば、ケースの金属鋳造に用いられる金型や、ケースの製造工程を簡易化しつつ、開口部が開口するシール面と、開口部を取り囲むように配置された内側面との角部に生じたバリを除去することができる。
【0018】
この発明に従ったケースの製造方法は、上述のいずれかに記載の記載のケースを製造する方法である。ケースの製造方法は、互いに組み合わされる第1型および第2型を有する金型に、溶融金属を注入する工程を備える。第1型は、第1表面を有する。第2型は、第1型に組み合わされた状態で第1表面と接触する第2表面と、第2表面から連なり、第1表面と離れて配置される第3表面とを有する。ケースの製造方法は、第1型と第2型とを分離することによって、第1表面と第3表面との間で成形された凸部と、凸部から延出し、第1表面と第2表面との間に侵入した溶融金属から形成されるバリ部とを有する鋳物を金型から取り出す工程と、凸部を部分的に切削加工することによって、凸部に加工面を形成するとともに、バリ部を除去する工程とをさらに備える。
【0019】
このように構成されたケースの製造方法によれば、ケースの金属鋳造に用いられる金型や、ケースの製造工程を簡易化しつつ、バリを除去することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上に説明したように、この発明に従えば、金型や製造工程の簡易化を図りつつ、バリが除去されるケースおよびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明の実施の形態1におけるPCUケースを示す上面図である。
【図2】図1中のII−II線上に沿ったPCUケースを示す断面図である。
【図3】図1中のPCUケースの製造方法の第1工程を示す断面図である。
【図4】図1中のPCUケースの製造方法の第2工程を示す断面図である。
【図5】図1中のPCUケースの製造方法の第3工程を示す断面図である。
【図6】PUUケースの製造方法の工程の第1の比較例を示す断面図である。
【図7】PUUケースの製造方法の工程の第2の比較例を示す断面図である。
【図8】図7中の2点鎖線VIIIで囲まれた範囲のPUUケースを拡大して示す断面図である。
【図9】この発明の実施の形態2におけるPCUケースを示す断面図である。
【図10】図9中の2点鎖線Xで囲まれた範囲のPCUケースを拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
この発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、以下で参照する図面では、同一またはそれに相当する部材には、同じ番号が付されている。
【0023】
(実施の形態1)
図1は、この発明の実施の形態1におけるPCUケースを示す上面図である。図1を参照して、PCUケース10は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関と、充放電可能な2次電池(バッテリ)から電力供給されるモータとを動力源とするハイブリッド自動車に搭載されている。
【0024】
PCUケース10には、バッテリおよびモータジェネレータ間で授受される電力の制御を行なうためのパワー制御ユニット(PCU:Power Control Unit)の構成部品として、インバータや昇圧コンバータ、制御装置などが収容されている。
【0025】
PCUケース10は、金属鋳造により製造されている。本実施の形態では、PCUケース10が、アルミダイキャストにより製造されている。PCUケース10は、アッパケース16uおよびロアケース16dから構成されるケース本体16を有する。ケース本体16は、アッパケース16uおよびロアケース16dが上下から組み合わされることにより、筐体形状をなしている。
【0026】
ケース本体16には、端子台14と、その端子台14にボルトを用いて締結されるバスバー13とが収容されている。ケース本体16には、その内外を連通させる開口部12が形成されている。
【0027】
本実施の形態では、ケース本体16の上面に複数の開口部12が形成されている。開口部12は、アッパケース16uに形成されている。開口部12は、ケース本体16に収容された端子台14と向かい合う位置に形成されている。開口部12は、バスバー13を端子台14に着脱する際に、作業者がケース本体16の外側からレンチなどの工具を挿入し、ボルトにアクセス可能なように形成されている。
【0028】
図2は、図1中のII−II線上に沿ったPCUケースを示す断面図である。図1および図2を参照して、ケース本体16には、シール面21が形成されている。シール面21は、アッパケース16uに形成されている。
【0029】
シール面21は、ケース本体16の上面に配置されている。シール面21は、開口部12の開口面の外周に沿って帯状に延在している。言い換えれば、開口部12は、シール面21に開口するように形成されている。シール面21は、アッパケース16uを製造する金属鋳造時に形成される鋳肌面からなる。
【0030】
ケース本体16には、蓋体としての上蓋17が取り付けられる(なお、図1中では、上蓋17と、後述のシール部材18とが省略して描かれている)。上蓋17は、開口部12を塞ぐようにケース本体16の上面に配置されている。上蓋17とシール面21との間には、シール部材18が介挿される。シール部材18は、異物が上蓋17とシール面21との間の隙間からケース本体16の内部に侵入することを防ぐために設けられている。シール部材18は、たとえば、FIPG(Formed In Place Gasket)等の液状ガスケットである。
【0031】
ケース本体16には、内側面22がさらに形成されている。内側面22は、アッパケース16uに形成されている。内側面22は、シール面21から折れ曲がった位置に形成されている。内側面22は、開口部12を取り囲む位置に形成されている。内側面22は、開口部12がケース本体16の内部に連なる位置に形成されている。シール面21は、内側面22に略直交する方向に延在している。
【0032】
本実施の形態におけるPCUケース10においては、ケース本体16が凸部24を有する。凸部24は、アッパケース16uに設けられている。凸部24は、シール面21に隣り合う位置に設けられている。凸部24は、シール面21と内側面22との角部に設けられている。凸部24は、内側面22から突出するように設けられている。凸部24は、内側面22から、開口部12の開口面積(図2中の面積S)を狭める方向に突出している。凸部24により、開口部12は、シール面21における開口部12の開口面に向けて先すぼみの断面形状を有する。
【0033】
凸部24には、加工面26および傾斜面27が形成されている。加工面26は、凸部24が内側面22から突出する先端に形成されている。加工面26は、開口部12の開口面においてシール面21と交わっている。加工面26は、シール面21と傾斜面27との間に配置されている。加工面26は、シール面21と略直交する方向に延在している。加工面26は、金属鋳造時に形成される鋳肌面を切削加工することによって得られる切削面からなる。
【0034】
傾斜面27は、加工面26と内側面22との間に配置されている。傾斜面27は、加工面26に対して斜め方向に延在している。すなわち、傾斜面27は、加工面26と直交しない方向に延在している。傾斜面27は、加工面26と傾斜面27とがなす角度が90°よりも大きく、180°よりも小さくなるように形成されている。より好ましくは、傾斜面27は、加工面26と傾斜面27とがなす角度が120°以上150°以下となるように形成されている。傾斜面27は、凸部24を介してシール面21と距離を隔てた位置に配置されている。傾斜面27は、シール面21と傾斜面27との間の距離が、加工面26から離れるに従って大きくなるように形成されている。
【0035】
以上に説明した、この発明の実施の形態1におけるPCUケース10の構造についてまとめて説明すると、本実施の形態におけるPCUケース10は、金属鋳造により製造されるケースである。PCUケース10は、シール部材18が重ね合わされるシール面21と、シール面21から折れ曲がった位置に配置される側面としての内側面22とが形成されるケース本体16を備える。ケース本体16は、シール面21に隣り合う位置で内側面22から突出し、その突出する先端に加工面26が形成される凸部24を有する。
【0036】
図3から図5は、図1中のPCUケースの製造方法の工程を示す断面図である。続いて、図1および図2中のケース本体16、特にアッパケース16uを製造する工程について説明する。
【0037】
図3を参照して、本実施の形態では、アッパケース16uの金属鋳造に金型31を用いる。金型31の構造について説明すると、金型31は、固定型32および可動型33を有する。固定型32と可動型33とが上下から組み合わされることによって、溶融金属が注入されるキャビティ34が形成される。
【0038】
固定型32は、底面32aを有する。底面32aは、固定型32および可動型33が組み合わされた状態で、後述する可動型33の頂面33aと向かい合わせとなる。底面32aは、アッパケース16uのシール面21を成形する表面である。
【0039】
可動型33は、頂面33a、傾斜面33bおよび側面33cを有する。頂面33aは、固定型32および可動型33が組み合わされた状態で、固定型32の底面32aと向かい合わせとなる表面である。固定型32の底面32aと頂面33aとは、略同一平面上に延在するように形成されている。
【0040】
傾斜面33bは、固定型32および可動型33が組み合わされた状態で、固定型32の底面32aから離れた位置に配置されている。傾斜面33bは、固定型32の底面32aに対して斜め方向に延在している。傾斜面33bと固定型32の底面32aとは、90°よりも小さい角度をなすように交わっている。傾斜面33bは、頂面33aから連なり、固定型32の底面32aと傾斜面33bとの間の距離が頂面33aから離れるに従って大きくなるように形成されている。傾斜面33bは、アッパケース16uの傾斜面27を成形する表面である。
【0041】
側面33cは、側面33cと頂面33aとの間に傾斜面33bが位置するように配置されている。側面33cは、固定型32および可動型33が組み合わされた状態で、固定型32の底面32aに対して略直交する方向に延在している。側面33cは、アッパケース16uの内側面22を成形する表面である。
【0042】
図4を参照して、金型31のキャビティ34に、溶融金属としての溶融アルミニウムを加圧しながら注入する。このとき、溶融アルミニウムは、キャビティ34を満たす一方で、底面32aと頂面33aとの間の微小な隙間にも侵入する。
【0043】
図5を参照して、溶融アルミニウムが凝固したら、可動型33を移動させて固定型32から分離し、キャビティ34から鋳物成形品41と取り外す。鋳物成形品41は、その構成部位として、凸部24およびバリ部43を有する。凸部24は、底面32aと傾斜面33bとの間で成形される。凸部24は、内側面22から三角形状に突出する断面形状を有する。バリ部43は、底面32aと頂面33aとの間に侵入した溶融アルミニウムから形成される。バリ部43は、凸部24の先端から薄板状に延出するように形成される。
【0044】
次に、回転工具としてのドリル46によって、凸部24を部分的に切削加工する。具体的には、回転するドリル46を、その回転軸とシール面21とが直交する姿勢に保ちつつ、バリ部43の側方から鋳物成形品41に近接させ、開口部12の外周上を周回させる。これにより、凸部24の先端部とともにバリ部43を鋳物成形品41から除去する。この加工工程に伴って、凸部24の先端には、ドリル46の切削加工による加工面26が形成される。
【0045】
以上に説明した、この発明の実施の形態1におけるPCUケース10の製造方法の工程についてまとめて説明すると、本実施の形態におけるPCUケース10の製造方法は、互いに組み合わされる第1型としての固定型32および第2型としての可動型33を有する金型31に、溶融金属を注入する工程を備える。固定型32は、第1表面としての底面32aを有する。可動型33は、固定型32に組み合わされた状態で底面32aと接触する第2表面としての頂面33aと、頂面33aから連なり、底面32aと離れて配置される第3表面としての傾斜面27とを有する。ケースの製造方法は、固定型32と可動型33とを分離することによって、底面32aと傾斜面27との間で成形された凸部24と、凸部24から延出し、底面32aと頂面33aとの間に侵入した溶融金属から形成されるバリ部43とを有する鋳物としての鋳物成形品41を金型31から取り出す工程と、凸部24を部分的に切削加工することによって、凸部24に加工面26を形成するとともに、バリ部43を除去する工程とをさらに備える。
【0046】
図6は、PUUケースの製造方法の工程の第1の比較例を示す断面図である。図中には、図5に示す工程に対応する比較例が示されている。
【0047】
図6を参照して、本比較例においては、金型鋳造により、図5中の凸部24を有しない鋳物成形品141を製造する。固定型32と可動型33との間の微小な隙間に溶融アルミニウムが侵入することによって、バリ部43が、内側面22の表面から直接、突出するように形成される。この場合に、図5中に示す工程と同様に、ドリル46を用いてバリ部43を切削加工しようとすると、バリ部43は、鋳物成形品141から除去されることなく、その根元部分から折れ曲がって返りバリとなってしまう。結果、このような返りバリを手作業によって除去する必要が生じる。
【0048】
図7は、PUUケースの製造方法の工程の第2の比較例を示す断面図である。図中には、図5に示す工程に対応する比較例が示されている。図8は、図7中の2点鎖線VIIIで囲まれた範囲のPUUケースを拡大して示す断面図である。
【0049】
図7および図8を参照して、本比較例においても、金型鋳造により、図5中の凸部24を有しない鋳物成形品141を製造する。そして、回転工具としてのエンドミル47によって、シール面21を面加工する。これにより、シール面21の表層とともにバリ部43を鋳物成形品141から除去する。
【0050】
しかしながら、この場合、バリ部43は除去されるものの、シール面21の切削加工によって、加工の手間が大幅に増大する。また、図8中に示すように、面加工によって新たに形成されたシール面101には、金型鋳造時に鋳物成形品141の内部に発生した鋳巣56が現れる。このようなシール面101にシール部材18が押圧されると、シール部材18が鋳巣56に嵌まり込み、期待するシール性が確保されない懸念が生じる。
【0051】
これに対して、本実施の形態では、シール面21と内側面22との角部に凸部24を設けることによって、凸部24の先端部を対象とする切削加工によってバリ部43が除去される。これにより、シール面21を加工レスとし、製造工程を簡易化したり、シール面21から異物が侵入する懸念を解消したりできる。
【0052】
また、図5中に示す切削加工時、凸部24とドリル46との接触面には、ドリル46の回転軸方向の力、特に右ねじ方向の刃を有するドリル46においては、矢印110に示すシール面21から傾斜面27に向かう方向の力が作用する。この場合、ドリル46による加工面26と傾斜面27との角部に、新たなバリが形成される懸念が生じる。これに対して、本実施の形態では、傾斜面27が加工面26に対して斜め方向に延在するため、バリの発生を防ぐことができる。
【0053】
このように構成された、この発明の実施の形態1におけるPCUケース10およびその製造方法によれば、シール面21の加工レスを実現しつつ、簡易な金型形状の変更によってバリ部43を除去できるため、PCUケース10の製造コストを削減することができる。また、シール面21に鋳巣が現れる懸念を解消してシール性が確保されるため、PCUケース10の品質を向上させることができる。
【0054】
なお、本発明を、燃料電池と2次電池とを動力源とする燃料電池ハイブリッド車(FCHV:Fuel Cell Hybrid Vehicle)または電気自動車(EV:Electric Vehicle)に搭載される電力制御ユニットのケースに適用することもできる。本実施の形態におけるハイブリッド自動車では、燃費最適動作点で内燃機関を駆動するのに対して、燃料電池ハイブリッド車では、発電効率最適動作点で燃料電池を駆動する。また、2次電池の使用に関しては、両方のハイブリッド自動車で基本的に変わらない。
【0055】
さらに、本発明は、電力制御ユニットのケースに限られず、金属鋳造により製造される様々なケースに適用される。
【0056】
(実施の形態2)
図9は、この発明の実施の形態2におけるPCUケースを示す断面図である。図9中には、図1中のIX−IX線上に沿ったPCUケースの断面が示されている。図10は、図9中の2点鎖線Xで囲まれた範囲のPCUケースを拡大して示す断面図である。
【0057】
図9および図10を参照して、アッパケース16uおよびロアケース16dは、鍔部62を有する。鍔部62は、各ケースの開口面の外周上に沿って、額縁状に形成されている。アッパケース16uおよびロアケース16dが組み合わされた状態で、アッパケース16uの鍔部62とロアケース16dの鍔部62とが、シール部材61を介して互いに重ね合わされる。
【0058】
アッパケース16uの鍔部62とロアケース16dの鍔部62とは、互いに同じ構造を有する。代表的にロアケース16dの鍔部62の構造について説明すると、鍔部62には、シール部材61が重ね合わされるシール面21と、シール面21から折れ曲がった位置に配置される側面としての端辺63とが形成される。鍔部62は、シール面21に隣り合う位置で端辺63から突出し、その突出する先端に加工面26が形成される凸部24を有する。
【0059】
シール面21は、ロアケース16dを製造する金属鋳造時に形成される鋳肌面からなる。加工面26は、金属鋳造時に形成される鋳肌面を切削加工することによって得られる切削面からなる。加工面26と端辺63との間には、加工面26に対して斜め方向に延在する傾斜面27が形成されている。
【0060】
アッパケース16uおよびロアケース16dの鍔部62は、実施の形態1において説明した製造方法と同じ工程により製造される。
【0061】
このように構成された、この発明の実施の形態2におけるPCUケース10およびその製造方法によれば、実施の形態1に記載の効果を同様に得ることができる。
【0062】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0063】
この発明は、主に、金属鋳造により製造されるケースに適用される。
【符号の説明】
【0064】
10 ケース、12 開口部、13 バスバー、14 端子台、16 ケース本体、16d ロアケース、16u アッパケース、17 上蓋、18 シール部材、21,61 シール面、22 内側面、24 凸部、26 加工面、27 傾斜面、31 金型、32 固定型、32a 底面、33 可動型、33a 頂面、33b 傾斜面、33c 側面、34 キャビティ、41 鋳物成形品、43 バリ部、46 ドリル、47 エンドミル、56 鋳巣、62 鍔部、63 端辺。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属鋳造により製造されるケースであって、
シール部材が重ね合わされるシール面と、前記シール面から折れ曲がった位置に配置される側面とが形成されるケース本体を備え、
前記ケース本体は、前記シール面に隣り合う位置で前記側面から突出し、その突出する先端に加工面が形成される凸部を有する、ケース。
【請求項2】
前記シール面は、金属鋳造時に形成された鋳肌面からなる、請求項1に記載のケース。
【請求項3】
前記ケース本体には、前記加工面と前記側面との間に配置され、前記加工面に対して斜め方向に延在する傾斜面がさらに形成される、請求項1または2に記載のケース。
【請求項4】
前記ケース本体には、前記シール面に開口し、ケース内外を連通させる開口部が形成され、
前記側面は、前記開口部を取り囲むように配置され、ケース内に向けて延在する内側面であり、
前記凸部は、前記開口部の開口面積を狭める方向に突出する、請求項1から3のいずれか1項に記載のケース。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載のケースを製造する方法であって、
互いに組み合わされる第1型および第2型を有する金型に、溶融金属を注入する工程を備え、
前記第1型は、第1表面を有し、
前記第2型は、前記第1型に組み合わされた状態で前記第1表面と接触する第2表面と、前記第2表面から連なり、前記第1表面と離れて配置される第3表面とを有し、さらに、
前記第1型と前記第2型とを分離することによって、前記第1表面と前記第3表面との間で成形された凸部と、前記凸部から延出し、前記第1表面と前記第2表面との間に侵入した溶融金属から形成されるバリ部とを有する鋳物を前記金型から取り出す工程と、
前記凸部を部分的に切削加工することによって、前記凸部に前記加工面を形成するとともに、前記バリ部を除去する工程とを備える、ケースの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−218021(P2012−218021A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−85405(P2011−85405)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)