説明

ケーブル架設用ポリエステルモノフィラメントおよびケーブル架設用部材

【課題】高い難燃性と優れた低ドリップ性を有し、且つ十分な物理特性を持つケーブル架設用モノフィラメントおよびケーブル架設用部材を提供する。
【解決手段】ポリエステル系樹脂組成物からなるモノフィラメントであって、前記ポリエステル系樹脂組成物中に特定のシリコーン系化合物を含有してなり、前記ポリエステル系樹脂組成物におけるポリエステル系樹脂とシリコーン系化合物の配合比が重量比で100:0.1以上100:10未満であるケーブル架設用ポリエステルモノフィラメント。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はケーブル架設用モノフィラメントおよびこのケーブル架設用モノフィラメントを連続螺旋状に成形した伸縮自在のコイルからなるケーブル架設用部材に関するものである。さらに詳しくは、高い難燃性と優れた低ドリップ性を有し、且つ十分な物理特性を持つケーブル架設用モノフィラメントおよびこのケーブル架設用モノフィラメントを連続螺旋状に成形した伸縮自在のコイルからなるケーブル架設用部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートを紡糸して得られるポリエステルモノフィラメントは、力学特性、加工性、価格等が汎用的であることから、工業用織物や電材用途などに多く使用されており、その有用性が益々高まっている
最近では、ポリエステルモノフィラメントを連続螺旋状に成形して伸縮自在のコイルとなし、このコイルを電柱間に架設したケーブルの架設用および固定用に使用する動きが盛んであるが、かかる電材用途に使用するコイルには、火災予防の点で難燃特性が重要視され、その改善が強く望まれている。
【0003】
例えば、複数の合成樹脂製素線の中心に金属線を配置して撚込んだ撚り線をコイル素材としたチェーンコイル(例えば、特許文献1参照)が知られており、このチェーンコイルは、このチェーンコイルは、火災時にコイルの樹脂部分が焼け落ちたとしても、金属線は焼け落ちることなくケーブルの保持固定を一定期間維持することができるため、ケーブルが地上に落下することによる人身事故を未然に防止することができるものの、合成樹脂製素線の中心に金属線を配置して撚込む場合の作業性が悪く、また撚り線のコイル加工時に金属線が撚り線から飛び出し易く、表面状態が不均一なコイルしか得られないばかりか、樹脂部分と金属線とが強固に結合していることから、架設作業時に発生する切れ端や、回収・架け替え時に発生する屑などを樹脂部分と金属部分に分割することが困難であり、それぞれの樹脂材料および金属材料を分別回収してリサイクルに供することができないため、焼却や埋め立てなどの面倒な処理を必要とするという問題を残すものであった。
【0004】
また、金属線を合成樹脂で被覆した線状体またはこの線状体を複数本撚り合わせた撚り線をコイル素材としたチェーンコイル(例えば、特許文献2参照)も知られているが、このチェーンコイルは、コイル加工が容易である反面、樹脂部分が被覆により形成されるため、その強度が低く耐久性に劣るばかりか、上記と同様に樹脂部分と金属線とが強固に結合しているため、樹脂部分と金属部分に分割することが困難であり、切れ端や屑などからそれぞれの樹脂材料および金属材料を分別回収してリサイクルに供することができないという問題を包含していた。
【0005】
そして、これら従来のチェーンコイルには、火災時などに人体に対し有害なガスを発生することがなく、しかも燃焼ドリップによる人体への危害を与えることのない優れた難燃特性および低ドリップ性が強く要求されているが、これらの特性を満たすと共に、難燃特性を付与しない場合のモノフィラメントと比較して物理特性の低下が少ないものであるとは未だにいえないものであった。
【特許文献1】特開平10−285771号公報
【特許文献2】特開平11−178136号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、これまでにない高い難燃性と優れた低ドリップ性を有し、且つ十分な物理特性を持つケーブル架設用モノフィラメントおよびこのケーブル架設用モノフィラメントからなるケーブル架設用部材、たとえばチェーンコイルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために本発明によれば、ポリエステル系樹脂組成物からなるモノフィラメントであって、前記ポリエステル系樹脂組成物中にRSiO0.5、RSiO1.0、RSiO1.5、SiO2.0、(Rは有機基)で示される単位の少なくともいずれかから構成されるシリコーン系化合物を含有してなり、Rで示される有機基が芳香環を含み、且つ該芳香環の含有量がシリコーン系化合物を構成する全有機基に対してモル比で80%以上、シリコーン系化合物に含まれるシラノール基が重量比で2重量%以上10重量%以下であり、前記ポリエステル系樹脂組成物におけるポリエステル系樹脂とシリコーン系化合物の配合比が重量比で100:0.1以上100:10未満であることを特徴とするケーブル架設用ポリエステルモノフィラメントが提供される。
【0008】
なお、本発明のケーブル架設用ポリエステルモノフィラメントにおいては、
前記ポリエステル系樹脂が、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレートから選ばれた少なくとも1種を主成分とすること、
前記シリコーン系化合物の重量平均分子量が500以上300000以下であること、および
前記シリコーン系化合物が、RSiO1.5の単位を含み、且つRSiO1.5の含有量がモル比で87.5%以上であること
が、いずれも好ましい条件として挙げられる。
【0009】
また、本発明のケーブル架設用部材は、上記のケーブル架設用ポリエステルモノフィラメントを連続螺旋状に成形した伸縮自在のコイルからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、力学的な低下を抑えて高い難燃特性、ドリップ抑制効果に優れたケーブル架設用ポリエステルモノフィラメントを得ることができる。さらに、本発明のケーブル架設用ポリエステルモノフィラメントを使用したケーブル架設用部材によれば、従来品にない、高い難燃特性と耐久性の両立が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0012】
本発明のケーブル架設用ポリエステルモノフィラメント(以下、単にポリエステルモノフィラメントと呼ぶこともある。)は、ポリエステル系樹脂組成物からなるモノフィラメントであって、このポリエステル系樹脂組成物中にRSiO0.5、RSiO1.0、RSiO1.5、SiO2.0、(Rは有機基)で示される単位の少なくともいずれかから構成されるシリコーン系化合物を含有してなり、Rで示される有機基が芳香環を含み、且つ該芳香環の含有量がシリコーン系化合物を構成する全有機基に対してモル比で80%以上、シリコーン系化合物に含まれるシラノール基がモル比で2%以上10%以下であり、前記ポリエステル系樹脂組成物におけるポリエステル系樹脂とシリコーン系化合物の配合比が重量比で100:0.1以上100:10未満であることを特徴とするものである。
【0013】
本発明のポリエステルモノフィラメント構成するポリエステル系樹脂とは、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のジカルボン酸またはそのエステル形成誘導体およびジオールまたはそのエステル形成誘導体から合成されるポリマーである。
【0014】
本発明で使用するシリコーン系化合物は、RSiO0.5、RSiO1.0、RSiO1.5、SiO2.0、(Rは有機基)で示される単位の少なくともいずれかから構成されるシリコーン系化合物を含有してなり、Rで示される有機基が芳香環を含み、且つ該芳香環の含有量がシリコーン系化合物を構成する全有機基に対してモル比で80%以上であり、難燃特性、ドリップ抑制の観点から芳香環の含有量は好ましくは85%以上、更に好ましくは90%以上のものである。
【0015】
ここでいう芳香環とは、ベンゼン環、縮合ベンゼン環、非ベンゼン系芳香環、複素芳香環などの芳香族に属する環の総称を示す。
【0016】
この芳香環の含有量は、難燃特性、ドリップ抑制の観点から重要であり、シリコーン系化合物の全有機基に対して芳香環の含有量を高くすることで、シロキサン鎖と有機基の脱離温度が高くなり、燃焼時にシリコーン系化合物の有機基が高温で脱離することにより、ポリエステル系樹脂とポリシロキサン鎖が効率よく架橋構造を形成し、難揮発性成分の炭化成分になるため、難燃特性、ドリップ抑制の効果が高くなるものと推定している。つまり、芳香環の含有量が上記の範囲を下回ると、難燃特性、ドリップ抑制の効果が低くなり、難燃ポリエステルモノフィラメントとして有用に使用することができないため好ましくない。
【0017】
芳香環としては、耐熱性、汎用性の点から、好ましくはベンゼン環であり、ベンゼン環を含む有機基としてはフェニル基であることが望ましい。
【0018】
また、本発明のシリコーン系化合物は、シラノール基を重量比で2重量%以上、10重量%以下含有していることが好ましく、更に好ましくは3重量%以上、8重量%以下である。
【0019】
シリコーン系化合物がシラノール基を含有することにより、燃焼時に効率よくポリエステル系樹脂と架橋構造を形成することができる。
【0020】
シラノール基が上記の範囲を上回ると、成型時にポリエステル系樹脂と反応し、ゲル化引き起こすため好ましくなく、逆に上記の範囲を下回ると、燃焼時の汎用性が低下し、難燃特性、ドリップ抑制の効果が低くなるため好ましくない。
【0021】
シリコーン系化合物の添加量が上記の範囲を上回ると、ポリエステルモノフィラメントの力学特性が低下し、逆に上記の範囲を下回ると、難燃特性、ドリップ抑制の効果が低くなるため好ましくない。
【0022】
シラノール基量は、29Si−NMRにおいてシラノール基を含有しない構造由来のSiO2.0、RSiO1.5、RSiO1.0、RSiO0.5のピークの面積(積分値)とシラノール基を含有する構造由来のSi(OH)、SiO0.5(OH)、SiO1.0(OH)、SiO1.5(OH)、RSi(OH)、RSiO0.5(OH)、RSiO1.0(OH)、RSi(OH)、RSiO0.5(OH)、RSi(OH)のピークの面積(積分値)の比から算出することが可能である。
【0023】
例えば、シリコーン系化合物がRSiO1.5とRSiO1.0(OH)のみからなる場合は、RSiO1.5とRSiO1.0(OH)の積分値の比が1.5(RSiO1.5):1.0(RSiO1.0(OH))であれば、下記式1の通り求めることができる。
【0024】
【数1】

【0025】
また、本発明におけるシリコーン系化合物の添加量は、ポリエステル系樹脂とシリコーン系化合物の配合比が重量比で100:0.1以上、100:10未満であり、好ましくは100:0.5以上、100:8.5未満であり、更に好ましくは100:1以上、100:7未満の範囲である。
【0026】
シリコーン系化合物の添加量が上記の範囲を上回ると、ポリエステルモノフィラメントの力学特性が低下し、逆に上記の範囲を下回ると、難燃特性、ドリップ抑制の効果が低くなるため好ましくない。
【0027】
なお、本発明で使用するシリコーン系化合物は、重量平均分子量が500以上、300000以下であることが望ましく、好ましくは1000以上、100000以下であり、更に好ましくは6000以上、50000以下である。
【0028】
シリコーン系化合物の分子量が上記の範囲より低いと溶融粘度が低く、ポリエステル系樹脂への分散性が悪くなり、シリコーン系化合物の分子量が上記の範囲より高くなると溶融粘度が高くなりすぎるため、分散性、操作性の点から好ましくない傾向となる。
【0029】
また、本発明で使用するシリコーン系化合物は、RSiO1.5で示される単位を含み、且つRSiO1.5の含有量がモル比で87.5%以上であることが好ましく、更に好ましくは90%以上であり、更に好ましくは100%である。
【0030】
RSiO1.5を高含有率で含むことにより、シリコーン系化合物の耐蒸熱性が向上することから、難燃特性、ドリップ抑制の観点から好ましい結果となる。
【0031】
次に、本発明のポリエステルモノフィラメントの製造方法について説明する。
【0032】
ポリエステル系樹脂の製造方法としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートでは一般的な重合方法で製造することができ、例えばアンチモン化合物、チタン化合物、ゲルマニウム化合物、アルミニウム化合物を主たる触媒として、ジカルボン酸及び/またはそのエステル形成誘導体とジオール及び/またはそのエステル形成誘導体からエステル化反応により合成することで製造することができる。
【0033】
また、シリコーン系化合物の製造方法としては、一般的な重縮合によって製造することができる。例えばRSiOCl(トリオルガノクロロシラン)、RSiOCl(ジオルガノジクロロシラン)、RSiOCl3(モノオルガノトリクロロシラン)、SiOCl4(テトラクロロシラン)、をモノマーとして用い、目的とするM、D、T、Q単位のいずれかから構成されるシリコーン系化合物をRSiOCl(M単位に相当)、RSiOCl(D単位に相当)、RSiOCl(T単位に相当)、SiOCl(Q単位に相当)、から所望のモル比で酸もしくはアルカリの触媒下で縮合せしめ、シリコーン系化合物を合成する方法で製造することができる。
【0034】
また、シリコーン系化合物に含有される芳香環の含有量は、前記したモノマーのRを芳香環で置換し、全体のRに対するモル比からの所望の量だけ芳香環を含有したシリコーン系化合物を製造することができる。
【0035】
さらに、シリコーン系化合物に含有されるシラノール基の含有量は、反応時間によって制御可能であるが、シラノール基を制御するために封鎖剤としてRSiOClやRSiOHをシラノール基と反応させることでシラノール基の含有量を制御することも可能である。
【0036】
シラノール基の含有量の測定は29Si−NMRなどにより測定可能である。
【0037】
また、シリコーン系化合物の重量平均分子量は、製造時の反応時間によって制御可能であり、分子量の測定はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定することができる。
【0038】
シリコーン系化合物をポリエステルモノフィラメントに付与する方法としては、例えばシリコーン系化合物をポリエステル系樹脂の重合時に添加する方法、ポリエステル系樹脂とシリコーン系化合物を2軸押し出し機やバンバリーミキサーなどの溶融混練機で付与する方法が挙げられるが、ポリエステルモノフィラメント中にシリコーン系化合物を付与することができればこれに限るものではない。
【0039】
また、上記特性を有する本発明のポリエステルモノフィラメントの製造方法は、一般のモノフィラメントの製造方法を使用することができ、溶融紡糸、冷却固化、ついで得られた未延伸糸を2段階以上に延伸することを骨子とするがこれらについて以下に説明する。
【0040】
まず、ジカルボン酸成分とグリコール成分とからなる、極限粘度が0.5以上のポリエステル樹脂ペレットを乾燥後、紡糸機に供給し、ギヤポンプで計量して口金ノズルから溶融押出する。次に、溶融押出された未延伸糸を、40℃以上90℃以下、好ましくは50℃以上80℃以下の冷却浴に導き急冷する。
【0041】
冷却浴の温度が上記の範囲未満では、未延伸糸が蛇行し、線径バラツキを悪化させる傾向にあるため好ましくない。一方、冷却浴の温度が上記範囲を越えると、未延伸糸の真円性が損なわれ、均一な線径を有するモノフィラメントが得られにくい傾向となるため好ましくない。
【0042】
ここで使用する冷却浴の冷媒としては、未延伸糸の表面から容易に除去できるものであって、物理的、化学的に本質な変化をポリマーに与えない物質で、上記の冷却液温度範囲において、液状を保持し得るものであれば特に制限はなく、水、パラフィン、エチレングリコール、グリセリン、アルミアルコールおよびキシレンなどが挙げられる。
【0043】
このようにして得られた未延伸糸は、引き続いてモノフィラメントとして極めて高い引掛強度を得るために2段階以上に延伸される。
【0044】
ここで、上記の2段階以上の延伸および熱処理に適する熱媒体としては、モノフィラメントの表面から容易に除去できるものであって、物理的、化学的に本質な変化をモノフィラメントに与えない物質であれば如何なるものでもよい。また、加熱装置としては、例えば高沸点の不活性液体を有する液体浴、空気炉、不活性ガス炉、赤外線炉、高周波炉および金属炉などを使用することができる。
【0045】
本発明のポリエステルモノフィラメントは、1本の単糸からなる連続糸であり、丸、三角、四角、多角形および中空形などの如何なる断面形状のものであってもよい。また、他のポリエステルおよび/またはコポリエステルとの複合モノフィラメントであってもよい。断面の直径は用途によって適宜選択できるが、通常1.00〜6.00mmの範囲が最もよく使用される。
【0046】
なお、本発明のポリエステルモノフィラメントが、ケーブル架設用ポリエステルモノフィラメント用途で、高温多湿な雰囲気中で使用される可能性のある構成素材として用いられる場合には、ポリエステルの加水分解を抑制する目的で、各種カルボジイミド化合物、エポキシ化合物およびオキサゾリン化合物などをポリエステルモノフィラメントの構成成分として添加することもでき、特に未反応のカルボジイミド化合物を含有したものは高い耐加水分解性が得られる。
【0047】
このようにして得られたポリエステルモノフィラメントは、高い難燃性と優れた低ドリップ性を有し、燃焼時の有毒ガスの発生や力学特性の低下の問題を解決したものであって、従来のポリエステルモノフィラメントには見られない安定的な品質を備えている。
【0048】
したがって、本発明のケーブル架設用ポリエステルモノフィラメントを連続螺旋状に成形した伸縮自在のコイルからなるケーブル架設用部材(チェーンコイル)は、これまでにない高い難燃性能と十分な物理特性を持ち、安全性と耐久性を兼備したものであり、ケーブルの架設作業性を著しく改善し、架設後のケーブルを安定に保持固定することができると共に、リサイクル性に優れ、しかも火災時等におけるケーブルの落下を防止するという優れた性能を発揮する。
【実施例】
【0049】
以下、実施例を用いて本発明を具体的に説明する。
【0050】
まず、実施例及び比較例におけるシリコーン系化合物の調製を下記の通り行い、得られたシリコーン系化合物の内容を表1、2に示す。また、表1に示すシリコーン系化合物は実施例で使用するシリコーン系化合物を示しており、表2は比較例で使用するシリコーン系化合物を示している。
【0051】
<M、D、T、Q単位の割合の調製>
SiOCl(M単位に相当)、RSiOCl(D単位に相当)、RSiOCl(T単位に相当)、SiOCl(Q単位に相当)を所望のモル比にて縮合し、M、D、T、Q単位の割合が異なるシリコーン系化合物を製造した。
【0052】
<フェニル基、メチル基の割合>
前記したR部分をそれぞれフェニル基、メチル基で置換し、モル比でフェニル基、メチル基の割合の異なるシリコーン系化合物を調製した。
【0053】
<シラノール基の含有量>
シリコーン系化合物を縮合する際の反応時間を各々調整し、得られたシリコーン系化合物を29Si−NMRにより溶媒としてCDCl、標準物質としてTMS(テトラメチルシラン)用いて、積算回数256回で測定した。シラノール基を含有しない構造由来のSiO.0、RSiO1.5、RSiO1.0、RSiO0.5のピークの面積(積分値)とシラノール基を含有する構造由来のSi(OH)、SiO0.5(OH)、SiO1.0(OH)、SiO1.5(OH)、RSi(OH)、RSiO0.5(OH)、RSiO1.0(OH)、RSi(OH)、RSiO0.5(OH)、RSi(OH)のピークの面積(積分値)の比からシラノール基量(wt%)を算出した。また、シラノール基の含有量が0%の場合はシラノール基の封鎖剤としてRSiOClを過剰に添加し、シラノール基の含有量を0%とした。
【0054】
<分子量>
シリコーン系化合物を縮合する際の反応時間を各々調整し、得られたシリコーン系化合物をゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて、離溶液としてクロロホルム、サンプル濃度1重量%、検出器RIで測定し、ポリスチレン換算で重量平均分子量を測定した。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【0057】
また、各実施例における燃焼評価、物理特性評価については下記の通り行った。
【0058】
<難燃性>
ポリエステルモノフィラメント1本を試験片として作製し、JIS L1091 D法−1992に準じて接炎回数をカウントした。
【0059】
<ドリップ性の評価>
上記難燃性評価における、接炎後のドリップの有無を評価した。
【0060】
<直径(mm)>
ポリエステルモノフィラメントの任意の場所から試料長50cmに10本採取する。ここら10本のサンプルを、MITUTOYO製デジタルマイクロメーターでそれぞれのサンプルの長径と短径を1点ずつ測定し、その平均値で示した。
【0061】
<引張強度(CN/dtex)>
JIS L1013−1999の8.5および8.7に準じて引張強さを測定し、繊度で割返した値を引張強度(単位:cN/dtex)とした。
【0062】
[実施例1〜35、比較例1]
ポリエステル系ポリマーとして固有粘度(IV)が0.70のポリエチレンテレフタレートを用い、シリコーン系化合物として前記した製法によって得られる表1のシリコーン1〜35を用い、ポリエチレンテレフタレート:シリコーン系化合物=95重量%:5重量%の配合比で混練温度:275℃、L/D:30、スクリュー回転数:300rpmの条件で2軸押し出し機を用いて混練を行い、ポリエチレンテレフタレート中にシリコーン系化合物を混合した。
【0063】
上記樹脂組成物をエクストルーダー型の紡糸機を用いて、紡糸温度280℃で溶融混練し、紡糸口金から溶融ポリマーを押し出した後、直ちに70℃の温水浴中で冷却固化させた未延伸糸を得た。
【0064】
引き続き未延伸糸を93℃の温水中で3.0倍に一次延伸し、さらに200℃の熱風雰囲気下で二次延伸を行ってトータル延伸倍率を4.0倍とし、次いで230℃の熱風雰囲気下で0.90倍にて熱セットを行い、平均直径4.2mmのポリエステルモノフィラメントを得た。
【0065】
得られたポリエステルモノフィラメントの引張強度を測定し、さらにこのポリエステルモノフィラメント1本を用いてJIS L1091 D法により接炎回数、ドリップ回数から難燃性、ドリップ性の評価を行った。なお、比較例1はシリコーン系化合物を含まないので、混練は行わずに直接紡糸して、接炎回数、ドリップ性の評価を行った。
【0066】
その結果、表3に示すとおり、比較例1、つまりポリエチレンテレフタレート単独の繊維では接炎回数1回、ドリップ回数10回であり、難燃性が低く、ドリップも多いのに対し、実施例36では接炎回数6回、ドリップ回数0回であり、優れた難燃性、ドリップ抑制の効果を有していた。また、物理特性においても本発明のポリエステルモノフィラメントはポリエチレンテレフタレート単独組成のモノフィラメントと比べて物理特性の低下は認められず、力学的にも安定していた。
【0067】
【表3】

【0068】
[比較例2〜7]
比較例2〜7により、シリコーン系化合物中のフェニル基含有量の影響を本実施例と比較する。シリコーン系化合物として表2のシリコーン36〜41を用いた以外は、上記した実施例と同様にしてポリエステルモノフィラメントを得て、接炎回数、ドリップ性の評価を行った。
【0069】
その結果を表4に示す。表4に示すとおり、比較例1と比較すると、ドリップ抑制の効果は多少改善されているが、実施例1〜24と比較すると本実施例とM、D、T、Q単位の組成比率、シラノール基量、分子量が同じでもフェニル基含有量が本発明で規定した範囲外では難燃性、ドリップ抑制の効果が低い結果となった。
【0070】
【表4】

【0071】
[比較例8〜13]
比較例8〜13により、シリコーン系化合物中のシラノール基量の影響を本実施例と比較する。シリコーン系化合物として表2のシリコーン42〜47を用いた以外は、上記した実施例と同様にして樹脂組成物を得て、接炎回数、ドリップ性の評価を行った。
【0072】
その結果を表5に示す。表5に示すとおり、比較例1と比較すると、ドリップ抑制の効果は多少改善されているが、実施例1〜24と比較すると本実施例とM、D、T、Q単位の組成比率、フェニル基含有量、分子量が同じでもシラノール基含有量が本発明で規定した範囲外では難燃性、ドリップ抑制の効果が低い結果となった。
【0073】
【表5】

【0074】
[実施例36、比較例14]
ポリエステル系ポリマーとしてIV:0.65であるポリプロピレンテレフタレートを用いた以外は、実施例1〜35と同様の方法で得たポリエステルモノフィラメントの評価結果を表5に示す。なお、比較例14はシリコーン系化合物を含まないので、混練は行わずに直接紡糸して、接炎回数、ドリップ性の評価を行った。
【0075】
その結果、表6に示すとおり、比較例14、つまりポリプロピレンテレフタレート単独では接炎回数:1回、ドリップ:11回であり難燃性が低く、ドリップが多いのに対し、本発明で規定した範囲であるシリコーン1を用いた場合では接炎回数:6回でドリップ回数0回と大幅に改善され、難燃性、ドリップ抑制の効果に優れている結果が得られた。
【0076】
【表6】

【0077】
[実施例37、比較例15]
ポリエステル系ポリマーとしてIV:2.00であるポリブチレンテレフタレートを用いた以外は、実施例1〜35と同様の方法で得たポリエステルモノフィラメントの評価結果を表5に示す。なお、比較例15はシリコーン系化合物を含まないので、混練は行わずに直接紡糸して、接炎回数、ドリップ性の評価を行った。
【0078】
その結果、表7に示すとおり、比較例15、つまりポリプロピレンテレフタレート単独では接炎回数:1回、ドリップ:11回であり難燃性が低く、ドリップが多いのに対し、本発明で規定した範囲であるシリコーン1を用いた場合では接炎回数:6回でドリップ回数0回と大幅に改善され、難燃性、ドリップ抑制の効果に優れている結果が得られた。
【0079】
【表7】

【0080】
[実施例38]
実施例1のポリエステルモノフィラメントを用いて連続螺旋状のコイルを成形した。成形方法としては、一般には単線または撚線を素材の融点付近の温度に予熱し、これを所望のコイル直径と等しい外径を有するマンドレルに螺旋状に巻き付けて熱固定した。次いで、マンドレルから離型した長尺のコイルを所定の長さに切断し、必要によりその両端部にスリーブを連結固定することにより、本発明のケーブル架設用部材(チェーンコイル)を得て、その実用評価を行った。
【0081】
このコイル一部を試験片として作製し、JIS L1091 D法により、燃焼までの接炎回数をカウントした。接炎回数6回でドリップは0回で良好な結果を得た。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明のケーブル架設用ポリエステルモノフィラメントは、高い難燃性と優れた低ドリップ性を有し、燃焼時の有毒ガスの発生や力学特性の低下の問題を解決しており、従来のポリエステルモノフィラメントには見られない安定的な品質を備えている。
【0083】
したがって、本発明のケーブル架設用ポリエステルモノフィラメントを連続螺旋状に成形した伸縮自在のコイルからなるケーブル架設用部材(チェーンコイル)は、これまでにない高い難燃性能と十分な物理特性を持ち、安全性と耐久性を兼備したものであり、ケーブルの架設作業性を著しく改善し、架設後のケーブルを安定に保持固定することができると共に、リサイクル性に優れ、しかも火災時等におけるケーブルの落下を防止するという優れた性能を発揮することから、電材用途に極めて有利に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル系樹脂組成物からなるモノフィラメントであって、前記ポリエステル系樹脂組成物中にRSiO0.5、RSiO1.0、RSiO1.5、SiO2.0、(Rは有機基)で示される単位の少なくともいずれかから構成されるシリコーン系化合物を含有してなり、Rで示される有機基が芳香環を含み、且つ該芳香環の含有量がシリコーン系化合物を構成する全有機基に対してモル比で80%以上、シリコーン系化合物に含まれるシラノール基が重量比で2重量%以上10重量%以下であり、前記ポリエステル系樹脂組成物におけるポリエステル系樹脂とシリコーン系化合物の配合比が重量比で100:0.1以上100:10未満であることを特徴とするケーブル架設用ポリエステルモノフィラメント。
【請求項2】
前記ポリエステル系樹脂が、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレートから選ばれた少なくとも1種を主成分とすることを特徴とする請求項1に記載のケーブル架設用ポリエステルモノフィラメント。
【請求項3】
前記シリコーン系化合物の重量平均分子量が500以上300000以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のケーブル架設用ポリエステルモノフィラメント。
【請求項4】
前記シリコーン系化合物が、RSiO1.5の単位を含み、且つRSiO1.5の含有量がモル比で87.5%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のケーブル架設用ポリエステルモノフィラメント。
【請求項5】
請求項1〜4項いずれか1項に記載のケーブル架設用ポリエステルモノフィラメントを連続螺旋状に成形した伸縮自在のコイルからなることを特徴とするケーブル架設用部材。

【公開番号】特開2007−291579(P2007−291579A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−123620(P2006−123620)
【出願日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【出願人】(000219288)東レ・モノフィラメント株式会社 (239)
【Fターム(参考)】