説明

ケーブル

【課題】曲げ癖のつかないケーブルを提供する。
【解決手段】少なくとも最外層にシース4を有するケーブルにおいて、シース4の内側に、曲げ癖を矯正するための縦糸5が、長手方向に沿って単数または複数本配置されているものである。前記縦糸は、前記ケーブルの中心軸と平行に配置され、前記シースの内側に配置されるケーブル構造物に対して、長手方向に所定の間隔で固定されており、前記縦糸を固定する間隔は、使用されるケーブル長さの1/2よりも短くされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のIWM(インホイールモータ)用ケーブル等、狭隘な場所に配索され、かつ繰返し屈曲が加えられるケーブルに好適なケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両のIWM(インホイールモータ)用ケーブル等、狭隘な場所に配索され、かつ繰返し屈曲が加えられるケーブルでは、ケーブルが周辺部材と干渉すると、その干渉部分のケーブルのシースが摩耗してしまい、シースの破損やケーブルの断線につながる。
【0003】
よって、このようなケーブルを配置(配索)する際には、周辺部材との干渉を避ける必要がある。
【0004】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、特許文献1,2及び3がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1−213912号公報
【特許文献2】特開昭54−143757号公報
【特許文献3】特開2010−225571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ケーブルは一般にドラムに巻かれて製造されることから曲げ癖を有している。
【0007】
しかしながら、曲げ癖を有するケーブルを上述のような用途に用いると、曲げ癖によりケーブルの軌跡がばらつき、同じケーブルを用いても取り付け方によっては周辺部材と干渉してしまうおそれが生じる。
【0008】
なお、一般的に、ケーブルの「曲げ癖」とは、ケーブルを屈曲した状態で一定時間の間保持し、屈曲した状態から解除した後もケーブルに曲げが残る状態をいう。本明細書においては、ケーブルを屈曲した状態で配線し所定時間保持し、ケーブルを曲げた状態から開放した後、屈曲時のケーブルの曲げ半径(曲率半径)に対して開放時のケーブルの曲げ半径(曲率半径)が5倍以上となる場合を、ケーブルが「曲げ癖」を有する状態と定義する。また、配線時のケーブルの曲げ半径(曲率半径)に対して開放時のケーブルの曲げ半径(曲率半径)が5倍未満である場合を、「曲げ癖がつかない」、「概略真っ直ぐ」、「曲げ癖を矯正した」等の状態と定義する。また、「縦糸」は、ケーブルの長手方向に沿って設けられる長尺の繊維状部材を意味する。
【0009】
特許文献1は、曲げ癖の矯正が可能な従来のケーブルワイヤを示す。特許文献1記載のケーブルワイヤでは、ケーブルワイヤの全長にわたり外周部に剥離紙を備えた接着剤層を設けている。この構造を採用することにより、ケーブルワイヤを配線する際に、剥離紙を接着剤層から剥がしつつ、ケーブルワイヤの曲げ癖を指又は定規等で矯正しながら固定することができる。しかしながら、特許文献1記載のケーブルワイヤでは、配線時に作業者がケーブルワイヤの曲げ癖を徐々に矯正する必要があるため、配線作業の作業性が極めて低いという欠点がある。
【0010】
特許文献2は、ケーブルの曲げ癖を矯正できる従来のケーブルベンダの一例を示す。特許文献2記載のケーブルベンダでは、折りたたみ式のパンタグラフ機構を用いてケーブルの曲げ癖を矯正する。しかしながら、特許文献2記載のケーブルベンダでは、外部から力を加えてケーブルの曲げ癖を矯正するため、細径のケーブルを損傷させる可能性がある。
【0011】
一方、特許文献3は、IWM用ハーネス等を構成する電気ケーブルにおいて、ケーブルの引張強度を高めるために、第2の緩衝層とシースとの間に複数本の繊維を交互に織り込んで形成した補強編組層を設ける構成を示す。特許文献3のケーブルに設けられた補強編組層は、第2の緩衝層の外周全体を覆うように設けられているが、ケーブルの曲げ癖を矯正することはできない。
【0012】
そこで、配線時の軌跡を安定させ、配線作業の作業性を向上させるために、ケーブルを拘束する力を印加しない状態としたとき、概略真っ直ぐとなっている曲げ癖のつかないケーブルが要求されている。
【0013】
本発明は上記事情に鑑み為されたものであり、曲げ癖のつかないケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、少なくとも最外層にシースを有するケーブルにおいて、前記シースの内側に、曲げ癖を矯正するための縦糸が、長手方向に沿って単数または複数本配置されているケーブルである。
【0015】
前記縦糸は、ケーブルの中心軸と平行に配置されることが好ましい。
【0016】
前記縦糸は、前記シースの内側に配置されるケーブル構造物に対して、長手方向に所定の間隔で固定されており、前記縦糸を固定する間隔は、使用されるケーブル長さの1/2よりも短くされてもよい。
【0017】
前記シースの内側に補強編組層を有し、前記縦糸は、前記補強編組層に編み込まれて固定されてもよい。
【0018】
前記縦糸は、前記補強編組層及び前記シースの少なくとも一方に接着剤で固定されてもよい。
【0019】
前記縦糸として、綿糸を用いてもよい。
【0020】
前記縦糸として、ゴムを用いてもよい。
【0021】
前記シースは内部シースと外部シースとからなり、前記縦糸は前記内部シースと前記外部シースの間に配置されてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、曲げ癖のつかないケーブルを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は本発明の第一の実施の形態に係るケーブルを示す図であり、シースを透視した斜視図である。
【図2】図2(a)は図1のケーブルの断面図であり、図2(b)はケーブルの斜視図である。
【図3】図3は図1のケーブルの作用効果を説明する図である。
【図4】図4(a)は本発明の第二の実施の形態に係るケーブルの断面図であり、図4(b)はケーブルの斜視図である。
【図5】図5(a)は本発明の第三の実施の形態に係るケーブルの断面図であり、図5(b)はケーブルの斜視図である。
【図6】図6(a)〜(e)はそれぞれ、本発明の変形例に係るケーブルの断面図を示す。
【図7】図7は本発明におけるケーブルの「曲げ癖」の測定方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0025】
(第一の実施の形態)
図1は、本発明の第一の実施の形態に係るケーブルを示す図であり、シースを透視した斜視図である。図2(a)は図1のケーブルの断面図であり、図2(b)はケーブルの斜視図である。
【0026】
図1及び図2に示すように、ケーブル1は、中心導体2の外周に、補強編組層3、シース4を順次形成したものである。なお、ケーブル1の構造はこれに限定されるものではなく、少なくとも最外層にシース4を有していれば、どのような構造であってもよい。図1及び図2では、シース4を破線で示している。
【0027】
補強編組層3は、ケーブル1を補強するためのものであり、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)繊維からなる素線を編組して形成される。
【0028】
本実施の形態に係るケーブル1では、シース4の内側に、曲げ癖を矯正するための縦糸5を、長手方向に沿って1本配置している。
【0029】
また、縦糸5はケーブル1の長手方向に沿って、ケーブル1の中心軸Oに平行に配置されることが好ましい。
【0030】
縦糸5としては、伸びが小さく、縦糸5そのものに曲げ癖がつかない材料からなるものを用いるとよい。このような材料としては、例えば、綿糸(たこ糸)やPET(ポリエチレンテレフタレート)繊維が挙げられる。縦糸5は、シース4の内側に配置されるケーブル構造物に対して、長手方向に所定の間隔で固定される。図1では、縦糸5を補強編組層3に固定する場合を示しているが、縦糸5を中心導体2に固定するようにしてもよい。本実施の形態では、縦糸5を補強編組層3に編み込むことにより、縦糸5を補強編組層3に固定するように構成した。図1における符号6は、縦糸5を補強編組層3に固定した部分(以下、固定部6という)を示している。
【0031】
縦糸5の材料は、上記の綿糸(たこ糸)やPET繊維に限定されない。なお、綿糸(たこ糸)は綿繊維の撚り糸であって、一般に直径0.5mm〜5.5mm程度のものをいう。縦糸5の材料としては、天然繊維、半合成繊維、合成繊維等の有機繊維が好ましい。より具体的には、上記のポリエチレンテレフタレート(PET)の他に、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル、ビニロン、ナイロン、芳香族ポリアミド繊維等の合成繊維や、レーヨン等の半合成繊維、綿糸、絹糸等の天然繊維を用いることができる。
【0032】
図1に示すように、縦糸5を固定する間隔、すなわち固定部6の間隔(固定ピッチa)は、使用されるケーブル長さLの1/2よりも短くされる。つまり、固定ピッチaは、ケーブル1をどこで切断しても、その切断した長さLのケーブル1において、長手方向の少なくとも2箇所で縦糸5が固定されるピッチに設定される。これは、長手方向の少なくとも2箇所で縦糸5が固定されていれば、縦糸5による曲げ癖の抑制の効果が得られ、切断した後のケーブル1においても曲げ癖がつかないようにできるためである。なお、本明細書において、使用されるケーブル長さLとは、ケーブル1を実際に配線する際の切断後のケーブル1の長さをいい、想定される最も短いケーブル1の長さを言うこととする。
【0033】
(第一の実施の形態の作用・効果)
図3は図1のケーブルの作用・効果を説明するための図である。
【0034】
ここで、縦糸5を設けることで曲げ癖を防止できる理由を説明する。
【0035】
一般に、ケーブルを曲げると曲げの外側に引張の力が作用し、曲げの内側に圧縮の力が作用する。このような引張や圧縮の力が作用した状態で長時間放置すると、ケーブルに曲げ癖がつくことになる。
【0036】
本実施の形態に係るケーブル1では、縦糸5が外側となる方向にケーブル1を曲げると、縦糸5の伸びが小さいため、殆ど全ての引張の力が縦糸5のみに作用し、縦糸5が引張の力を引き受けるテンション・メンバのような役割を果たす。その結果、曲げの外側のシース4等の引張方向の変形が起きにくくなり、図3に示すように、曲げを解除すると、縦糸5やシース4の復元力により、ケーブル1が速やかに真っ直ぐの状態に戻るようになる。
【0037】
なお、縦糸5はケーブル1の曲げ癖を矯正する機能だけではなく、テンション・メンバのようにケーブル1の引張強度を高める機能も有するが、従来のテンション・メンバが必ずしもケーブルの曲げ癖を矯正する機能を有するものではない。
【0038】
つまり、ケーブル1では、縦糸5が外側となる方向にケーブル1を曲げた場合には、ケーブル1に曲げ癖がつかない。したがって、ケーブル1の製造時や保管時等にケーブル1をドラムに巻く際には、縦糸5が曲げの外側にくるようにしてケーブル1を巻き付ける必要がある。なお、曲げ癖がつかない曲げ方向を特定できるように、縦糸5を配置した位置のシース4の外周に目印(例えばケーブル1の長手方向に沿って形成されたライン状の目印)等を付しておくことが望ましい。
【0039】
なお、縦糸5が外側となる方向にケーブル1を曲げた場合でも、曲げ半径を非常に小さくすると、曲げの内側に大きな圧縮の力が作用し、曲げの内側の部分に曲げ癖がついてしまうことが考えられる。しかし、縦糸5を設けることにより、そもそも縦糸5が外側となる方向には非常に曲げにくくなるので、曲げ癖がつくほどの曲げ半径とすることは困難となる。
【0040】
以上説明したように、本実施の形態に係るケーブル1では、シース4の内側に、長手方向に沿って曲げ癖を矯正するための縦糸5を配置したため、縦糸5が外側にくる方向に曲げたときに、ケーブル1に曲げ癖がつかない。したがって、縦糸5が外側にくるようにケーブル1をドラムに巻きつけることによって、使用時に曲げを解除したとき、すなわちケーブルを拘束する力を印加しない状態としたときに、概略真っ直ぐとなっているケーブル1を実現できる。その結果、配線時のケーブル1の軌跡が安定し周辺部材への干渉を避けることができ、かつ、狭隘な箇所への配線が容易となるので、配線作業の作業性を向上させることができる。
【0041】
また、シース4の内側に縦糸5を配置することにより、ケーブル1の周方向における曲げ特性を変化させることができる。つまり、縦糸5を配置した側を外側として曲げた場合のみ曲げ難いケーブル1を作製することができ、その曲げ硬さは、縦糸5の伸び特性で制御することができる。よって、縦糸5の配置や伸び特性を制御することで、ケーブル配線時のケーブル形状(ケーブル1の軌跡)を所望の形状に設計することも可能となる。
【0042】
さらに、ケーブル1では、縦糸5を、シース4の内側に配置されるケーブル構造物に対して固定しているため、ケーブル1の両端でケーブル1に対して縦糸5を固定していない状態(ケーブル1の両端を加締めていない状態)であっても、縦糸5がずれない。そのため、ケーブル1をドラム等に巻いて保管・移動させることができ、必要に応じて切断して端子付きケーブルに加工することが可能である。
【0043】
さらにまた、ケーブル1では、縦糸5の固定ピッチaを使用されるケーブル長さLの1/2よりも短く設定しているため、切断したケーブル1においても、ケーブル1に対して少なくとも2箇所で固定した縦糸5が外側にくるようにケーブル1を曲げた際の曲げ癖を抑制できるようになる。
【0044】
(第二の実施の形態)
図4(a)は本発明の第二の実施の形態に係るケーブル1の断面図であり、図4(b)はケーブル1の斜視図である。第二の実施の形態に係るケーブル1は、縦糸5が、ケーブル構造物に対して固定部6で固定されていると共に、接着機能を有する材料を用いてケーブル構造物に対して固定されているものである。以下、第二の実施の形態において第一の実施の形態と同一又は同様の構成及び機能を有する要素は第一の実施の形態と同様の参照数字を付し、詳細な説明は省略する。
【0045】
上記の通り、第一の実施の形態では、縦糸5を補強編組層3に編み込むことにより、縦糸5を補強編組層3の固定部6に固定するように構成したが、本実施の形態では、更に、縦糸5をケーブル構造物、特に補強編組層3及びシース4の少なくとも一方に接着剤7で固定することを特徴とする。
【0046】
例えば、接着剤7を含ませた縦糸5を補強編組層3とシース4との間に配置することで、補強編組層3及びシース4の少なくとも一方に縦糸5を固定することができる。また、補強編組層3に接着剤7を塗布し、縦糸5を固定してもよい。
接着剤7としては、レゾルシン・フォルマリン・ラテックス(RFL)を使用することが好ましいが、これに限定されず、有機系接着剤、合成系接着剤等を使用することができる。
【0047】
(第二の実施の形態の作用・効果)
第一の実施の形態のケーブル1では、縦糸5が補強編組層3に部分的に編みこまれて固定される。すなわち、縦糸5は補強編組層3の固定部6において点接触で固定されるため、ケーブル1を屈曲させた際に縦糸5がケーブル1の内部でずれる可能性がある。その結果、ケーブル1の剛性やレイアウトが変化するおそれがある。
一方、第二の実施の形態のケーブル1によれば、縦糸5を固定するために更に接着剤7を使用することにより、縦糸5は補強編組層3の固定部6の部分では点接触で固定され、更に、固定部6以外の部分では面接触で固定される。したがって、ケーブル1を屈曲させた際に、縦糸5がケーブル1の内部でずれることによってケーブル1の剛性やレイアウトが変化することを低減することができる。
【0048】
(第三の実施の形態)
図5(a)は本発明の第三の実施の形態に係るケーブル1の断面図であり、図5(b)はケーブル1の斜視図である。第三の実施の形態に係るケーブル1は、縦糸5が、ケーブル構造物に対して接着機能を有する材料のみで固定されているものである。以下、第三の実施の形態において第二の実施の形態と同一又は同様の構成及び機能を有する要素は第二の実施の形態と同様の参照数字を付し、詳細な説明は省略する。
【0049】
上記の通り、本実施の形態では、固定部6での固定は行わず、縦糸5をケーブル構造物、特に補強編組層3及びシース4の少なくとも一方に接着剤7で固定することを特徴とする。
【0050】
(第三の実施の形態の作用・効果)
第三の実施の形態のケーブル1によれば、第二の実施の形態のケーブル1と同様に、接着剤7を使用することにより、縦糸5は補強編組層3に面接触で固定される。したがって、ケーブル1を屈曲させた際に、縦糸5がケーブル1の内部でずれることによってケーブル1の剛性やレイアウトが変化することを低減することができる。更に、縦糸5を固定部6で編みこみにより固定しないため、第二の実施の形態のケーブル1に比べて作業工程の数を減らすことができる。
【0051】
(変形例)
なお、上記実施の形態では、縦糸5を1本用いた場合を説明したが、縦糸5を複数本用いるようにしてもよい。縦糸5を複数にする場合、縦糸5を周方向に等間隔に配置するようにしてもよいし、周方向に不均等に配置して、任意の方向に曲げにくいケーブルとしてもよい。
【0052】
また、上記実施の形態では、縦糸5として伸びの小さい綿糸等を用いる場合を説明したが、これに限らず、例えば、復元力の大きいゴム等の材料を用いるようにしてもよい。この場合、ケーブル1を曲げたときに縦糸5が引き受ける引張の力は小さくなるものの、曲げを解除したときに大きな復元力を付与することができ、ケーブル1の曲げ癖を抑制できる。
【0053】
図6(a)〜(e)はそれぞれ、本発明の変形例に係るケーブルの断面図を示す。
図6(a)に示す変形例において、ケーブル1は、複数の中心導体2の外周に、絶縁体8、シールド9、補強編組層3、及びシース4を順次形成して構成される。縦糸5の本数は1本であり、補強編組層3の外側で、かつシース4の内側に、ケーブル1の長手方向に沿ってケーブル1の中心軸Oと平行に配置される。
図6(b)に示す変形例において、ケーブル1は、図6(a)に示すケーブル1と同様の構成を有するが、縦糸5の本数は2本であり、2本の縦糸5は、ケーブル1の中心軸Oに対して平行で、かつ周方向に均等に配置される。すなわち、2本の縦糸5は180度の間隔で配置される。
図6(c)に示す変形例において、ケーブル1は、図6(b)に示すケーブル1と同様の構成を有するが、縦糸5の本数は4本であり、4本の縦糸5は周方向に均等に配置される。すなわち、4本の縦糸5は90度の間隔で配置される。
図6(d)に示す変形例において、ケーブル1は、図6(c)に示すケーブル1と同様の構成を有するが、4本の縦糸5はシールド9の外側で、かつ補強編組層3の内側に配置される。
図6(e)に示す変形例では、ケーブル1は、図6(c)に示すケーブル1と同様の構成を有するが、シース4は内部シース4Aと外部シース4Bからなる2層構造を有し、4本の縦糸5は内部シース4Aの外側で、かつ外部シース4Bの内側、すなわち、内部シース4Aと外部シース4Bの間に配置される。すなわち、4本の縦糸5は2層構造のシース4の内部に埋め込まれる。
【0054】
本発明の変形例は上記のものに限定されず、これらの組み合わせや縦糸5の本数が異なるもの、縦糸5が不均等に配置されるものも含む。また、シールド9や補強編組層3が無い構成も本発明の範囲に含まれる。
【0055】
(実施例)
(実施例1)
実施例1として、複数の中心導体2として複数の銅線(断面積5.5mm2相当)の外周に、絶縁体8としてポリエチレン層(厚さ0.6mm)、シールド9として銅編組シールド、補強編組層3としてPET繊維編組層、及びシース4としてEPDM(エチレン・プロピレン・ジエンゴム)層(厚さ0.6mm)を順次形成し、図6(a)の構成を有するケーブル1(外径8.5mm)を作製した。縦糸5として150dtx(デシテックス)のPET繊維を用い、1本の縦糸5を均一のピッチ(100mm)で補強編組層3に編みこみ固定した。
なお、本実施例においては、シース4としてEPDMを用いたが、その他に、ブチルゴム、クロロプレンゴム、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、珪素ゴム、天然ゴム、フッ素系樹脂、ポリエチレン、各種ビニル、四フッ化エチレン、ポリウレタン等を用いることも可能である。
(比較例1)
比較例1として、実施例1と同様の構成を有し、縦糸5を用いないケーブルを作製した。
【0056】
(曲げ癖の評価)
ケーブルの曲げ癖の評価は、実施例1及び比較例1のケーブル(長さ1000mm)をドラム(直径300mm)に巻きつけて、拘束状態(曲げ半径150mm)で1日放置し、その後拘束を開放した場合のケーブルの曲率半径を測定することで行った。なお、縦糸5を含む実施例1のケーブルは、縦糸が入っている方を外側にして曲げた。
開放直後、実施例1のケーブルは最小曲率半径Rが約1800mmとなり、ほぼ直線状態となった。一方、比較例1のケーブルは最小曲率半径Rが350mmとなり、曲げ癖が残った。
【0057】
(実施例2)
実施例2として、図6(c)の構成と同様に4本の縦糸5を使用した点を除き実施例1と同様の構成を有するケーブル1(外径8.5mm)を作製した。更に、縦糸5としてシリコンゴム紐(直径0.6mm)を用いた。ケーブル1の長手方向の中間点でシリコンゴム紐からなる縦糸5を補強編組層3に固定した。本実施例において、縦糸5の固定はシリコンゴム紐からなる縦糸5と補強編組層3をPET繊維で括りつけることで実施したが、接着剤で固定する方法を用いてもよい。また、ケーブル1の両端を固定金具でかしめることにより、シリコンゴム紐からなる縦糸5をケーブル1の両端及び中間点の計3箇所で固定した。
(比較例2)
比較例2として、実施例2と同様の構成を有し、縦糸5を用いないケーブルを作製した。
【0058】
(曲げ癖の評価)
図7は本発明におけるケーブルの「曲げ癖」の測定方法を説明するための図である。ケーブルの曲げ癖の評価には長さ400mmのケーブルを使用した。図7に示すように、ケーブルをケーブル長Lの半分の回転半径L/2でL字形状に曲げて固定した後、1日放置し、その後開放した場合の曲率半径を測定することで行った。L字形状に曲げた際の最小曲率半径Rは75mmであった。
開放直後、実施例2のケーブルは最小曲率半径Rが400mmとなり、ほぼ直線状態となった。一方、比較例2のケーブルは最小曲率半径Rが85mmとなり、曲げ癖が残った。
なお、縦糸5として使用したシリコンゴムはショアA硬さで30〜90の範囲のものが使用できるが、ゴムの復元力やケーブルの曲げ易さを考慮すると、外径が5〜15mmのケーブルの場合、ショアA硬さで50〜70程度の範囲のシリコンゴムを使用することが望ましい。
【0059】
このように、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0060】
1 ケーブル
2 中心導体
3 補強編組層
4 シース
5 縦糸
6 固定部
7 接着剤
8 絶縁体
9 シールド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも最外層にシースを有するケーブルにおいて、
前記シースの内側に、曲げ癖を矯正するための縦糸が、長手方向に沿って単数または複数本配置されている
ことを特徴とするケーブル。
【請求項2】
前記縦糸は、前記ケーブルの中心軸と平行に配置される請求項1記載のケーブル。
【請求項3】
前記縦糸は、前記シースの内側に配置されるケーブル構造物に対して、長手方向に所定の間隔で固定されており、
前記縦糸を固定する間隔は、使用されるケーブル長さの1/2よりも短くされる請求項1又は2記載のケーブル。
【請求項4】
前記シースの内側に補強編組層を有し、前記縦糸は、前記補強編組層に編み込まれて固定される請求項1〜3のいずれか1項に記載のケーブル。
【請求項5】
前記縦糸は、前記補強編組層及び前記シースの少なくとも一方に接着剤で固定される請求項4に記載のケーブル。
【請求項6】
前記縦糸として、綿糸を用いる請求項1〜5のいずれか1項に記載のケーブル。
【請求項7】
前記縦糸として、ゴムを用いる請求項1〜5のいずれか1項に記載のケーブル。
【請求項8】
前記シースは内部シースと外部シースとからなり、前記縦糸は前記内部シースと前記外部シースの間に配置される請求項1〜7のいずれか1項に記載のケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−156126(P2012−156126A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−282574(P2011−282574)
【出願日】平成23年12月26日(2011.12.26)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】