説明

ゲルの製造方法

【課題】ゲルの製造方法の提供。
【解決手段】0℃乃至80℃の温度下で湿式粉砕を行う方法の適用により、低分子ゲル化剤を水又は有機溶剤又はこれらの混合溶剤に分散させてゲル化させることを特徴とする、ゲルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲルの製造方法に関し、より詳細には、0℃乃至80℃の温度下で湿式粉砕を行う方法の適用により、低分子ゲル化剤を水又は有機溶剤又はこれらの混合溶剤に分散させてゲルを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ゲル化剤を用いた組成物は、消臭剤、抗菌剤、及び食品等の各分野において用いられている。例えば、水性ゲル状組成物を用いた芳香剤は、香りの蒸散性、持続性に優れており、取り扱いも簡単であるという利点を有している。
しかしながら、ゲル化剤を用いてゲル化させる一般的な方法としては、ゲル化剤を完全に溶解させるために、ゲル化剤を添加した水や有機溶剤を一旦高温で加熱してから、冷却するという手法が採られている。そのため、生産性が低いという問題、香料等のゲル状組成物に含まれている添加剤が揮発してしまう又は熱的に劣化してしまうという問題、さらには高温で加熱するため、有機溶剤として低沸点の溶剤や引火性の溶剤を用いることは困難であるという問題などが生じている(特許文献1〜4)。
【0003】
そこで、上記問題を背景として、所定のコポリマーの混合物をゲル化剤とし、このゲル化剤と水と水溶性アルコール類とを少なくとも含むことを特徴とする水性ゲル状組成物が提案されている(特許文献5)。前記ゲル化剤を溶解する溶剤として水及び水溶性アルコール類を用いることにより、このゲル化剤を溶解させた溶剤(ゲル化剤溶解液)の流動性を室温でも維持できるため、このゲル化剤溶解液に室温の水を加えて混合することで、高温に晒すことなくゲル化することできる。しかしながら、前記ゲル化剤は良溶媒であるアルコール類(例えば、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール等)に一度溶解させてから、貧溶媒の水に添加することでゲルが形成される。そのため、前記ゲル化剤は良溶媒であるアルコール類を含有しない系ではゲル化剤として機能しないと考えられる。さらに、特許文献5に記載されたゲル化方法は、同文献に開示された所定のコポリマーの混合物をゲル化剤として用いる必要があるため、使用可能なゲル化剤が限定されてしまうという欠点を有する。
【0004】
また、加熱冷却をすることなく、多糖類を媒体に溶解又は分散させた溶液又は分散液に電極を配して通電することによって該多糖類の溶液又は分散液を増粘又はゲル化する方法も提案されている(特許文献6)。しかしながら、この方法は、水に増粘剤を溶解させた水溶液に電圧を印加することでゲルを作製するため、溶解性の高くない増粘剤を使用することが困難であり、使用可能なゲル化剤が限定されてしまうという欠点を有する。
【0005】
ところで、最近、上記ゲル化剤と全く異なった脂質ジペプチドからなる低分子ゲル化剤が報告されている(特許文献7)。しかしながら、上述同様、該低分子ゲル化剤を用いてゲル化させるためには、加熱・冷却処理を必要とする。また、ゲル化剤の種類が相違するため、特許文献5及び6に記載されたゲル化方法は、該低分子ゲル化剤には適用できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭56−57451号公報
【特許文献2】特開平10−2267749号公報
【特許文献3】特開2001−276203号公報
【特許文献4】特開2001−279119号公報
【特許文献5】特開2010−095592号公報
【特許文献6】特開2006−174789号公報
【特許文献7】国際公開2010/013555号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述より、通常、ゲル化剤を用いてゲルを作るには、加熱・冷却処理を必要とする。一方、加熱・冷却処理を必要としないゲル化方法も提案されているが、使用可能なゲル化剤が制限されてしまうという弊害がある。
したがって、今までに、低分子ゲル化剤(脂質ジペプチドからなる)を用いて加熱・冷却処理を必要とせずに、ゲルを製造する方法は提案されていない。
【0008】
そこで、本発明は、上記の事情に基づきなされたものであり、その解決しようとする課題は、加熱・冷却処理を必要とせずに、脂質ジペプチドからなる低分子ゲル化剤を溶剤に分散させてゲルを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するべく鋭意研究を行なった結果、0℃乃至80℃の温度条件下で行われる湿式粉砕方法を適用することにより、加熱・冷却処理を必要としないで、低分子ゲル化剤を水又は有機溶剤又はこれらの混合溶剤に分散させてゲルを製造することが可能なことを見出し、本発明の完成に至った。
すなわち、第1観点として、0℃乃至80℃の温度下で湿式粉砕を行う方法の適用により、低分子ゲル化剤を水又は有機溶剤又はこれらの混合溶剤に分散させてゲル化させることを特徴とする、ゲルの製造方法に関する。
第2観点として、前記湿式粉砕がビーズミル粉砕、アニューラーミル粉砕、又はホモミキサー粉砕であることを特徴とする、第1観点に記載のゲルの製造方法に関する。
第3観点として、前記有機溶剤が水溶性有機溶剤であることを特徴とする、第1観点に記載のゲルの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、加熱・冷却処理を必要とせずに低分子ゲル化剤を水又は有機溶剤又はこれらの混合溶剤に分散させてゲル化させるため、生産性に優れている。したがって、本発明のゲルの製造方法は工業的生産方法に利用可能である。また、本発明は、ゲル化剤を用いたゲル状組成物に添加剤として香料等が含まれている場合であっても、加熱・冷却処理を必要としないため、香料等を高温での加熱による揮発又は熱的な劣化から防ぐことができる。すなわち、ゲル状組成物に含まれている添加剤の機能を最大限発揮させることが可能である。
【0011】
また、本発明は、加熱・冷却処理を必要としないため、低分子ゲル化剤を分散させる有機溶剤として水よりも低沸点の有機溶剤や引火性の溶剤を用いることも可能である。例えば、消毒薬としてよく用いられるエタノール等の低沸点の有機溶剤を使用した場合において、加熱による有機溶剤の蒸発を抑制することが可能である。このため、加熱処理によりゲルを作製した場合と比較して、ゲル作製前後での組成変化を抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は脂質ペプチドの自己集合化及びそれに続くゲル化の概念図を示す図である。
【図2】図2は、ビーズミルに用いられる回転翼の断面図である。
【図3】図3は、ビーズミルの断面図である。
【図4】図4は、実施例6における倒置法によるゲル形成の確認を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のゲルの製造方法は、0℃乃至80℃の温度下で湿式粉砕を行う方法の適用により、低分子ゲル化剤を水又は有機溶剤又はこれらの混合溶剤に分散させてゲル化させることにより、ゲルを製造する方法である。
前記湿式粉砕を行う温度は、通常、0℃乃至80℃の温度下であり、好ましくは0℃乃至40℃の温度下である。
【0014】
本発明のゲルの製造方法に用いる低分子ゲル化剤のゲル形成メカニズムは、該低分子ゲル化剤を構成する低分子化合物が自己集合化してファイバー状の形態を形成し、さらに該ファイバーが網目構造を形成し、この網目構造に水や各種水溶液、アルコール水、有機溶媒等を囲い込み、ゲルを形成する。ここで、「自己集合化」とは、当初ランダムな状態にある物質(分子)群において、分子が適切な外部条件下で分子間の非共有結合性相互作用等により自発的に会合することにより、マクロな機能性集合体に成長することを指す。
【0015】
上記低分子ゲル化剤としては、脂質ペプチド又はその薬学的に使用可能な塩(疎水性部位である脂質部と親水性部位であるペプチド部とを有する低分子化合物)を用いることができる。
【0016】
上記脂質ペプチド又はその薬学的に使用可能な塩としては、例えば下記式(1)で表される脂質ペプチドを挙げることができ、該脂質ペプチドは脂溶性の高い鎖を有する脂質部(アルキルカルボニル基)とペプチド部(ジペプチド、トリペプチド又はテトラペプチド)より構成される。
【0017】
【化1】

【0018】
上記式(1)において、脂質部に含まれるR1は炭素原子数9乃至23の脂肪族基を表
し、好ましくは、R1が不飽和結合を0乃至2個有し得る炭素原子数11乃至23の直鎖
状脂肪族基であることが望ましい。
1及び隣接するカルボニル基で構成される脂質部(アシル基)の具体例としては、ラ
ウロイル基、ドデシルカルボニル基、ミリストイル基、テトラデシルカルボニル基、パルミトイル基、マルガロイル基、オレオイル基、エライドイル基、リノレオイル基、ステアロイル基、バクセノイル基、オクタデシルカルボニル基、アラキドイル基、エイコシルカルボニル基、ベヘノイル基、エルカノイル基、ドコシルカルボニル基、リグノセイル基及びネルボノイル基等を挙げることができ、特に好ましいものとして、ラウロイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、マルガロイル基、ステアロイル基、オレオイル基、エライドイル基及びベヘノイル基が挙げられる。
【0019】
上記式(1)において、ペプチド部に含まれるR2は、水素原子、又は炭素原子数1若
しくは2の分枝鎖を有し得る炭素原子数1乃至4のアルキル基を表す。
上記炭素原子数1若しくは2の分岐鎖を有し得る炭素原子数1乃至4のアルキル基とは、主鎖の炭素原子数が1乃至4であり、かつ炭素原子数1若しくは2の分岐鎖を有し得るアルキル基を意味し、その具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−
プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基又はtert−ブチル基などが挙げられる。
【0020】
上記R2は好ましくは、水素原子、又は炭素原子数1の分岐鎖を有し得る炭素原子数1
乃至3のアルキル基であり、より好ましくは水素原子である。
炭素原子数1の分岐鎖を有し得る炭素原子数1乃至3のアルキル基とは、主鎖の炭素原子数が1乃至3であり、かつ炭素原子数1の分岐鎖を有し得るアルキル基を意味し、その具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、i−ブチル基又はsec−ブチル基などが挙げられ、好ましくはメチル基、i−プロピル基、i−ブチル基又はsec−ブチル基である。
【0021】
上記式(1)において、R3は−(CH2)n−X基を表す。
上記−(CH2)n−X基において、nは1乃至4の数を表し、Xはアミノ基、グアニ
ジノ基、−CONH2基、又は窒素原子を1乃至3個有し得る5員環若しくは6員環又は
5員環と6員環から構成される縮合複素環を表す。
【0022】
上記−(CH2)n−X基において、Xは好ましくはアミノ基、グアニジノ基、−CO
NH2基、ピロール基、イミダゾール基、ピラゾール基又はインドール基を表し、より好
ましくはイミダゾール基である。また、上記−(CH2)n−X基において、nは好まし
くは1又は2であり、より好ましくは1である。
従って、上記−(CH2n−基は、好ましくはアミノメチル基、2−アミノエチル基、3−アミノプロピル基、4−アミノブチル基、カルバモイルメチル基、2−カルバモイルエチル基、3−カルバモイルブチル基、2−グアニジノエチル基、3−グアニジノブチル基、ピロールメチル基、イミダゾールメチル基、ピラゾールメチル基、又は3−インドールメチル基を表し、より好ましくは4−アミノブチル基、カルバモイルメチル基、2−カルバモイルエチル基、3−グアニジノブチル基、イミダゾールメチル基又は3−インドールメチル基を表し、さらに好ましくはイミダゾールメチル基である。
【0023】
上記式(1)で表される化合物において、低分子ゲル化剤として特に好適な脂質ペプチドとしては、以下の脂質部とペプチド部(アミノ酸集合部)から形成される化合物である。なお、アミノ酸の略称としては、アラニン(Ala)、アスパラギン(Asn)、グルタミン(Gln)、グリシン(Gly)、ヒスチジン(His)、イソロシン(Ile)、ロイシン(Leu)、リジン(Lys)、トリプトファン(Trp)、バリン(Val)を表す。:ラウロイル−Gly−His、ラウロイル−Gly−Gln、ラウロイル−Gly−Asn、ラウロイル−Gly−Trp、ラウロイル−Gly−Lys、ラウロイル−Ala−His、ラウロイル−Ala−Gln、ラウロイル−Ala−Asn、ラウロイル−Ala−Trp、ラウロイル−Ala−Lys;ミリストイル−Gly−His、ミリストイル−Gly−Gln、ミリストイル−Gly−Asn、ミリストイル−Gly−Trp、ミリストイル−Gly−Lys、ミリストイル−Ala−His、ミリストイル−Ala−Gln、ミリストイル−Ala−Asn、ミリストイル−Ala−Trp、ミリストイル−Ala−Lys;パルミトイル−Gly−His、パルミトイル−Gly−Gln、パルミトイル−Gly−Asn、パルミトイル−Gly−Trp、パルミトイル−Gly−Lys、パルミトイル−Ala−His、パルミトイル−Ala−Gln、パルミトイル−Ala−Asn、パルミトイル−Ala−Trp、パルミトイル−Ala−Lys;ステアロイル−Gly−His、ステアロイル−Gly−Gln、ステアロイル−Gly−Asn、ステアロイル−Gly−Trp、ステアロイル−Gly−Lys、ステアロイル−Ala−His、ステアロイル−Ala−Gln、ステアロイル−Ala−Asn、ステアロイル−Ala−Trp、ステアロイル−Ala−Lys。
【0024】
最も好ましいものとして、ラウロイル−Gly−His、ラウロイル−Ala−His
;ミリストイル−Gly−His、ミリストイル−Ala−His;パルミトイル−Gly−His、パルミトイル−Ala−His;ステアロイル−Gly−His、ステアロイル−Ala−Hisが挙げられる。
【0025】
また別の上記脂質ペプチド又はその薬学的に使用可能な塩としては、例えば下記式(2)で表される脂質ペプチドを挙げることができる。
【0026】
【化2】

【0027】
上記式(2)において、R4は炭素原子数9乃至23の脂肪族基を表し、好ましい具体
例としては、前出のR1で定義したものと同じ基が挙げられる。
5乃至R8は水素原子、又は炭素原子数1若しくは2の分枝鎖を有し得る炭素原子数1乃至4のアルキル基、又は−(CH2n−X基を表し、且つR5乃至R8のうち少なくとも一つ以上が−(CH2n−X基を表す。nは1乃至4の数を表し、Xはアミノ基、グアニジノ基、−CONH2基、又は窒素原子を1乃至3個有し得る5員環若しくは6員環又は
5員環と6員環から構成される縮合複素環を表す。ここでR5乃至R8の好ましい具体例としては、前出のR2又はR3で定義したものと同じ基が挙げられる。
上記式(2)で表される化合物において、低分子ゲル化剤として特に最も好適な脂質ペプチドとしては、ラウロイル−Gly−Gly−Gly−His、ミリストイル−Gly−Gly−Gly−His、パルミトイル−Gly−Gly−Gly−His、パルミトイル−Gly−Gly−His−Gly、パルミトイル−Gly−His−Gly−Gly、パルミトイル−His−Gly−Gly−Gly、ステアロイル−Gly−Gly−Gly−His等が挙げられる。
【0028】
本発明のゲルの製造方法に用いられる低分子ゲル化剤は、後述する水又は有機溶剤又はこれらの混合溶剤の質量に対し、例えば0.1乃至15.0質量%、または1.0乃至10.0質量%、1.5乃至5.0質量%の量添加する必要がある。低分子ゲル化剤の添加量が少ない場合、低分子ゲル化剤としての効果が生じないからである。一方、低分子ゲル化剤の添加量が多い場合、得られるゲルの粘度が高くなり過ぎるからである。
【0029】
上記水としては、例えば、清浄水、精製水、硬水、軟水、天然水、海洋深層水、電解アルカリイオン水、電解酸性イオン水、イオン水、及びクラスター水などが挙げられる。
【0030】
上記有機溶剤としては、水溶性有機溶剤及び非水溶性有機溶剤などを挙げることができる。
前記水溶性有機溶剤としては、例えば、アルコール、多価アルコール、及びその他の水に対して任意の割合で溶解する有機溶剤などを挙げることができる。
前記アルコールとは、1価のアルコールであり、好ましくは水に自由に溶解する水溶性アルコールであり、より好ましくは炭素原子数1乃至6のアルコールであり、具体的には、メタノール、エタノール、2−プロパノール、i−ブタノールなどが挙げられる。
前記多価アルコールとは、2価以上のアルコールであり、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、グリセリン、イソペンチルジオール、エチルヘキサンジオール、エリスルロース、オゾン化グリセリン、カプリリルグリコール、グリコール、(15−18)グリコール、(C20−30)グリコール、
ジエチレングリコール、ジグリセリン、ジチアウクタンジオール、DPG、チオグリセリン、1,10−デカンジオール、デシレングリコール、トリエチレングリコール、チリメチルギドロキシメチルシクロヘキサノール、フィタントリオール、フェノキシプロパンジオール、1,2−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ブチルエチルプロパンジオール、1,2−ヘキサンジオール、ヘキシレングリコール、ペンチレングリコール、メチルプロパンジオール、メタンジオール、ラウリルグリコール及びポリプロピレングリコールなどが挙げられる。
【0031】
その他の水に対して任意の割合で溶解する有機溶剤としては、例えば、アセトン、ジオキサン、及び酢酸エチルなどが挙げられる。
【0032】
前記非水溶性有機溶剤とは、アルコールを除く水に自由に溶解しない有機溶剤を意味し、例えば、油脂、シリコーン油、及びエステル系溶剤などが挙げられる。
【0033】
本発明では、前記水溶性有機溶剤は、二種以上の水溶性有機溶剤を混合してもよい。特に、ゲル形成の観点から、水溶性有機溶剤又は水溶性有機溶剤と水との混合溶剤が好ましい。水溶性有機溶剤と水との混合溶剤を用いる場合の水溶性有機溶剤と水との組成比は、低分子ゲル化剤によりゲルを形成できればよく、使用する低分子ゲル化剤により適宜選択できる。
【0034】
本発明のゲルの製造方法は、0℃乃至80℃の温度下で湿式粉砕を行う方法を適用することで、低分子ゲル化剤を水又は有機溶剤又はこれらの混合溶剤に分散させてゲル化させる。
前記湿式粉砕としては、例えば、ホモディスパー、ホモミキサー、ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、パイプミキサー、対向衝突法、ビーズミル、アニューラーミル、媒体撹拌ミルなどの湿式粉砕に適する装置を使用することができる。その中でも簡便性及び分散安定性の観点から、ホモミキサー、ビーズミル、及びアニューラーミルが好ましい。
このビーズミル、アニューラーミル等は、セラミック等の無機物質の粉砕に用いられるものであり、粉砕媒体が回転翼によって強制攪拌されて強烈に運動し、この粉砕媒体同士の摩砕作用によって粉砕するものである。無機物質は硬く靱性に乏しいので、媒体と無機物質との衝突時において媒体同士の摩砕作用で、割れ現象を来たして微細化が達成される。一方、有機物質は割れ現象はほとんど起こることはないが、ビーズミル、アニューラーミル等は、本発明に用いられる低分子ゲル化剤を極めて顕著な微細化にする。
【0035】
本発明のゲルの製造方法は、容器内に内蔵した媒体(ビーズ)を回転翼で強制的に攪拌しながら低分子ゲル化剤を溶媒に分散させてゲルを製造する。
ここで、本発明のゲルの製造方法を図2に示す回転翼(ローター)と図3に示すビーズミルを例に詳しく説明する。実際は図3に示すビーズミルの中で図2に示す回転翼が高速で回転することで微細化は実施される。粉砕媒体と低分子ゲル化剤、必要に応じて、有機溶剤、水を容器7に入れ、内蔵する回転翼を高速で回転させる。これによる攪拌によって、この粉砕媒体に強制的な運動を与え、低分子ゲル化剤を微細化し、対応するゲルを作製する。
粉砕媒体は、直径0.3乃至6.0mmのセラミックス又は金属ビーズが好ましい。ビーズの直径について、より細かく微細化することで低分子ゲル化剤の分散性が向上すると考えられるため、粉砕媒体の直径は0.3乃至0.5mmがさらに好ましい。また、粉砕媒体の材質は、特に硬度の高いアルミナビーズ、炭化ケイ素ビーズ、チッ化ケイ素ビーズ、ジルコンビーズ、ジルコニアビーズや超硬ステンレスビーズ等が好ましいが、ガラス製ビーズでも差し支えない。
回転翼の形状は、ピンタイプのものやディスクタイプのもの等、種々の形状のものが可能である。回転翼は高速で回転するが、その周速は5乃至9m/秒の範囲がより好ましく
、低分子ゲル化剤が微細化される。
このようなビーズミル容器7の中に、粉砕媒体のビーズを10乃至40%の容量、水又は有機溶剤等と低分子ゲル化剤を合せて10乃至40%の容量に充填し、空隙を10乃至40%の容量程度にする。回転翼2(又は6)を回転させることにより粉砕媒体同士が強烈に運動し、この摩砕作用によって低分子ゲル化剤が分散される。
低分子ゲル化剤は、容器内で強烈な摩砕効果を受けて微細化されるが、同時に攪拌熱も発生して温度が上昇する。従ってこの発熱を吸収して温度を上昇させない方が好ましい場合には、容器の外側には冷却水の入り口9と出口10、ビーズミル容器内壁8の内部には冷却水ジャケットが取り付けられている。連続運転の場合、1回の通過で微細化が不十分な場合は、繰り返し処理を行ってもよい。
粉砕媒体と一緒に微細化されたゲルを容器から排出し、容器外部でスクリーンにより粉砕媒体を分離し、目的とするゲルのみを得る方法もある。
【0036】
また、アニューラーミルとは、ステーターの内型とわずかなクリアランスを設けるように設計されたローターを使用し、このローターを高速回転することによってローターとステーターの比較的狭い間に存在する粉砕媒体に運動を与える方式のものである。
【0037】
本発明では低分子ゲル化剤を十分に分散させるための方法として用いる装置としては、上記ビーズミル以外では、凝集を防ぐためにホモディスパー及びホモミキサーのような高せん断力分散機を用いるのが好ましい。その中でも処理液をより強く流動させることができるホモミキサーが特に好ましい。また、低分子ゲル化剤を十分に分散させるために、ホモミキサーの回転数は好ましくは3000rpm以上、より好ましくは6000rpm以上が必要である。
【0038】
本発明のゲルの製造方法としては、好ましくは、低分子ゲル化剤と水と有機溶剤等からなる混合物に、0℃乃至80℃の温度下で湿式粉砕を行う方法を適用することにより、該混合物をゲル化させる方法が挙げられる。
また、別の好ましい製造方法としては、0℃乃至80℃の温度下で湿式粉砕を行う方法を適用することにより、低分子ゲル化剤と水溶性有機溶剤から低分子ゲル化剤の分散液を作製し、その後この分散液に水を加えて撹拌することで、該低分子ゲル化剤の分散液をゲル化させる方法である。
後者の製造方法の場合、油分等をアルコールなどの有機溶剤で均一に分散した後に、水を加えて撹拌するので、化粧品等の水性製品の製造において適している。また、添加する水の量により、化粧品等の水性製品の濃度設計を行えるため、適切な濃度を有する化粧品等の水性製品を製造できる。
【0039】
[ゲル形成メカニズム]
本発明に用いる低分子ゲル化剤である、上記式(1)(又は式(2))で表される低分子化合物(脂質ペプチド)は、水又は有機溶剤に投入されると、式(1)におけるペプチド部が水素結合により分子間非共有結合を形成し、一方、式(1)における脂質部が疎水的にパッキングするように自己集合化(或いは自己組織化ともいう)し、ファイバーが形成される。ファイバーの形状は限定されないが、筒状又は板状の形状が挙げられる。
参考として図1に脂質ペプチドの自己集合化及びゲル化の概念図の一例を示す(但し、本発明のゲルの製造方法において、全ての脂質ペプチドが図1に示す自己集合化及びゲル化の形態をとっているとは限らない)。該脂質ペプチド分子(a)は疎水性部位である脂質部を中心として集合し(b)、自己集合化によりファイバー(c)を形成する。
ファイバ−形成には、前記低分子ゲル化剤を1種類用いても良いし2種類以上を組み合わせて用いても良い。好ましくは、1種類又は2種類を用い、さらに好ましくは、1種類を用いる。ただし、2種類用いる場合は、1種類の場合と異なる性質を得ることが期待できる。
【0040】
そして、上記ファイバーが水又は有機溶剤の中で形成されると、このファイバーが三次元網目構造を形成し(例えば、図1における(d)参照)、さらに、ファイバー表面の親水性部分(ペプチド部)と水性溶媒間で非共有結合を形成して膨潤することにより、水溶系又はアルコール水溶液全体がゲル化し、水性媒体がゲル化される。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を挙げて、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
なお、実施例で用いる略記号の意味及びビーズミルの条件は、次の通りである。
Gly:グリシン
His:ヒスチジン
[ビーズミル条件]
使用機器:バッチ式レディーミル(アイメックス株式会社製)
使用ベッセル:950cc(08型ジルコニアベッセル)(内側の容積:820cc)
粉砕条件
回転速度:2760rpm
ビーズ:ジルコニアビーズ(φ500μm)(ジルコニア粉砕ボールYTZ[登録商標]:東ソー株式会社製)
使用量:256cc
【0042】
[脂質ペプチドの合成]
<合成例1:N−パルミトイル−Gly−Hisの合成>
500mLの四つ口フラスコに、ヒスチジン14.2g(91.6mmol)、N−パルミトイル−Gly−メチル30.0g(91.6mmol)、トルエン300gを投入し、塩基であるナトリウムメトキシド 28%メタノール溶液35.3g(183.2mmol)を加え、湯浴で60℃で加熱し1時間撹拌を続けた。その後、湯浴を外し、25℃まで放冷し、この溶液をアセトン600gで再沈殿し、濾取した。ここで得られた個体を、水600gとメタノール750gの混合溶液に溶解し、ここに6規定の塩酸30.5mL(183.2mmol)を加えて中和し固体を析出させ、濾過した。次に、得られた固体をテトラヒドロフラン120gと水30gの混合液に60℃で溶解させ、酢酸エチル150gを加え、60℃から30℃まで冷却した。その後、析出した固体を濾過した。さらに得られた固体をテトラヒドロフラン120gとアセトニトリル60g溶剤中60℃に加熱し、1時間撹拌した後に冷却し、濾過した。ここで得られた固体を水120gで洗浄し、濾過後に減圧乾燥を行いN−パルミトイル−Gly−Hisの白色の結晶、26.9g(収率65%)を得た。
【0043】
上記合成で得た脂質ペプチドであるN−パルミトイル−Gly−Hisを低分子ゲル化剤として用いて、以下の実施例を行った。
【0044】
<実施例1:ゲルAの作製>
ビーズミル専用の容器に低分子ゲル化剤5.1g、グリセリン7.8g、水69.1g、及びエタノール179.2gを投入した。さらに、この混合物に対して、ジルコニアビーズ(φ0.5mm)を256cc投入後、25℃、2760rpmで30分間撹拌後、ジルコニアビーズと内容物を分離することで、ゲルA(回収量161.9g、回収率62%)を取り出した。
【0045】
<実施例2:ゲルBの作製>
ビーズミル専用の容器に低分子ゲル化剤5.1g、水76.8g、及びエタノール179.2gを投入した。その後の操作は実施例1と同様に行い、ゲルB(回収量164.5
g、回収率63%)を取り出した。
【0046】
<実施例3:低分子ゲル化剤の分散液Cの作製>
ビーズミル専用の容器に低分子ゲル化剤10.7g、グリセリン10.7g、及びエタノール245.3を投入した。その後の操作は実施例1と同様に行い、低分子ゲル化剤の分散液C(回収量154.7g、回収率58%)を取り出した。
【0047】
<実施例4:低分子ゲル化剤の分散液Dの作製>
ビーズミル専用の容器に低分子ゲル化剤10.2g及びエタノール245.8gを投入した。その後の操作は実施例1と同様に行い、低分子ゲル化剤の分散液D(回収量150.0g、回収率58%)を取り出した。
【0048】
<実施例5:低分子ゲル化剤の分散液Eの作製>
500mLビーカーに低分子ゲル化剤10.7g、グリセリン10.7g、及びエタノール245gを投入した。その後、ホモミキサー(プライミクス株式会社製)を用いて、25℃、6500rpmで20分間処理を行った。そして、低分子ゲル化剤の分散液E(回収量202.5g、回収率76%)を取り出した。
【0049】
<実施例6:ゲルの作製>
300mLビーカーに実施例3で作成した低分子ゲル化剤の分散液C 78g及び純水22gを入れ、IKA[登録商標]RW20digitalを用いて、25℃、300rpmで10分間攪拌を行った。攪拌後、25℃にて10分間静置を行ったところゲル化が見られた。
【0050】
<実施例7:ゲルの作製>
マルエムサンプル管No.2に、実施例4で作製した低分子ゲル化剤の分散液D 1.6g及び純水0.4gを入れ、ボルテックス(AS ONE automatic lab−mixer HM−10)を用いて25℃で攪拌したところ、ゲル化が見られた。
【0051】
<実施例8:ゲルの作製>
マルエムサンプル管No.2に、実施例5で作製した低分子ゲル化剤の分散液E 1.6g及び純水0.4gを入れ、ボルテックス(AS ONE automatic lab−mixer HM−10)を用いて25℃で攪拌したところ、ゲル化が見られた。実施例6における倒置法によるゲル形成を図4に示す。
【符号の説明】
【0052】
1:シャフト
2:ディスク(4枚)
3:ディスクカラー
4:エンドディスク押え
5:キャップボルト
6:ディスク(4枚)
7:ビーズミル容器
8:ビーズミル容器内壁
9:冷却水入り口
10:冷却水出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
0℃乃至80℃の温度下で湿式粉砕を行う方法の適用により、低分子ゲル化剤を水又は有機溶剤又はこれらの混合溶剤に分散させてゲル化させることを特徴とする、ゲルの製造方法。
【請求項2】
前記湿式粉砕がビーズミル粉砕、アニューラーミル粉砕、又はホモミキサー粉砕であることを特徴とする、請求項1に記載のゲルの製造方法。
【請求項3】
前記有機溶剤が水溶性有機溶剤であることを特徴とする、請求項1に記載のゲルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−30221(P2012−30221A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−144422(P2011−144422)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】