説明

ゲル組成物およびその用途

【課題】本発明は、多量の有機液状成分を含有し十分な柔軟性を有しつつ、また保形性も有することが可能である医療材料または衛生材料用の組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、架橋反応可能な官能基を分子内に有する液状ゴム成分と、該ゴム成分100重量部に対して90重量部以上、1250重量部以下の有機有機液状成分とを含み、該ゲル組成物が架橋されている、医療材料用または衛生材料用のゲル組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療材料用または衛生材料用のゲル組成物、成形体、シート材、貼付剤および貼付製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、医療材料用または衛生材料用として、例えば、ハイドロゲル組成物、アクリル系ゲル組成物などの各種ゲル組成物のシート材が用いられている。これらのゲル組成物は、粘着性および柔軟性を有するので、皮膚への密着性および皮膚変形への追従性を有する。
【0003】
しかし、このような粘着剤組成物のうち、水分を含むハイドロゲル組成物は乾燥に弱く、水分が経時的に失われるとともに硬化する傾向があるので安定性に乏しい。また、硬化したこのような組成物は、皮膚への密着性、および皮膚変形への追従性の点で不十分である。
【0004】
一方、水分を含まないゲル材として、アクリル系粘着剤を架橋させることで、有機液状成分を保持させたアクリル系ゲル組成物が、特開平3−220120号公報(特許文献1)に開示されている。
【0005】
しかし、このようなゲル組成物は、ある程度以上の厚みを有するシート材に成形することが困難であるので、その中に薬物などの化学物質、および有機液状成分などを保持または吸収する能力は依然として限定的であって、きわめて多量のそれらを保持することは困難である。さらに、これらは厚みが大きい成形体に成形することがやや難しいことから、これらを皮膚へ接着させた場合に、外部からの衝撃等に対して、衝撃を吸収して皮膚を保護する能力の点で改良の余地がある。
【0006】
そのほかのゲル材としては、合成ゴム系ポリマーを架橋させた粘着剤層が挙げられ、このような粘着剤層としては次のようなものが提案されている。
【0007】
特開平3−127727号公報(特許文献2)には、非アクリル系化合物から主として構成されガラス転移温度が−71℃以下である粘着剤と、補強性充填剤と、薬剤とを含む粘着剤層、すなわちゲル組成物が開示されている。しかし、この文献には、ゴム成分100重量部に対して有機液状成分を90重量部以上含有させることは開示されていないばかりか、この文献ではTg低下剤として記載される有機液状成分の添加量が多すぎると、得られたゲル組成物がやわらかくなりすぎることが述べられている。このことは、この文献におけるゲル組成物は、有機液状成分を多量に添加すると、保形性が不十分となることを示唆している。事実、この文献の実施例には、人体への貼付時に3mm以内の糊はみ出しが発生したことが記載されている。
【0008】
特開平10−151185号公報(特許文献3)には、官能基を有するゴム成分30〜100重量部と、その他のゴムが0〜70重量部とを含み、ゴム成分100重量部に対し、該ゴム成分と相溶性のある有機液状成分20〜80重量部を含有し、架橋されたゲル組成物が開示されている。しかし、この文献にも、ゴム成分100重量部に対して有機液状成分を90重量部以上含有させることは開示されていないばかりか、有機液状成分の配合割合が多すぎるとゲル組成物がやわらかくなりすぎることが述べられている。このことは、この文献におけるゲル組成物は、有機液状成分を多量に添加すると、保形性が不十分となることを示唆している。
【0009】
したがって、多量の有機液状成分を含有し十分な柔軟性を有しつつ、また保形性も有することが可能である医療材料または衛生材料用の組成物の開発が望まれる。
【特許文献1】特開平3−220120号公報
【特許文献2】特開平3−127727号公報
【特許文献3】特開平10−151185号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記に鑑み本発明は、多量の有機液状成分を含有し十分な柔軟性を有しつつ、また保形性も有することが可能である医療材料または衛生材料用の組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題に基づき鋭意検討した結果、特定の液状ゴム成分と有機液状成分とを所定の比率で含むゲル組成物によって、上記課題が達成されることを見出した。また、本発明者らは、意外にも、このようなゲル組成物をある程度の厚みを有する形状に成形することが可能であり、ゲル組成物はそのような厚みによって、薬物などの化学物質、および有機液状成分等を、単位面積あたりさらに多量に含有し得るという新たな効果を奏することを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は:
(1)
架橋反応可能な官能基を分子内に有する液状ゴム成分と、該ゴム成分100重量部に対して90重量部以上、1250重量部以下の有機有機液状成分とを含み、該ゲル組成物が架橋されている、医療材料用または衛生材料用のゲル組成物;
(2)
該液状ゴム成分が、その分子内に架橋反応可能な官能基を3個以上含む、(1)記載の組成物;
(3)
該有機液状成分が、該液状ゴム成分100重量部に対して、150重量部以上、1000重量部以下含まれる、(1)または(2)記載の組成物;
(4)
該組成物が架橋剤によって架橋されており、該組成物中の該架橋剤の官能基の総数(A)の、該組成物中の液状ゴムの官能基の総数(B)に対する割合((A/B)×100)[%]が、50[%]以上である、(1)〜(3)いずれかに記載の組成物;
(5)
該液状ゴム成分が、液状イソプレンゴムである、(1)〜(4)いずれかに記載の組成物;
(6)
(1)〜(5)いずれかに記載の組成物を含むシート材を、支持体の少なくとも片面上に備える貼付剤;および
(7)
(6)記載の貼付剤における該シート材が薬物を含む、貼付製剤;
を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のゲル組成物は、十分な柔軟性を有しつつ、また保形性も有することが可能であるので、任意の形状、例えばシート状に成形することができる。
【0013】
また、本発明のゲル組成物は、多量の有機液状成分を含有することができるので、薬物などの化学物質をそこに多量に溶解または分散させて、含有することができる。それによって、そのような含有された薬物などの化学物質を効率的に哺乳動物に経皮的に投与するなどの応用を可能とする。
【0014】
また、本発明のゲル組成物は、適度な柔軟性を有するので、これを所定形状に成形された成形体として皮膚に装着した場合、皮膚の変形に容易に追従し、密着することができる。加えて、ある程度の厚みを有する成形体に成形することも可能であるので、そのような成形体を皮膚に装着した場合、皮膚にかかる応力を分散し、緩和させ、皮膚を保護することも可能である。このように、このような特性を有する本発明のゲル組成物は、医療材料または衛生材料用途に特に適する。
【0015】
前述の通り、本発明のゲル組成物をある程度の厚みを有する形状に成形することが可能であるので、本発明のゲル組成物はそのような厚みによって、単位面積あたりの多量の化学物質および有機液状成分等を含有し得るという新たな効果を奏する。
【0016】
加えて、本発明のゲル組成物は、アクリル系粘着剤を使用する必要性がないので、ある種の薬物などの化学物質をゲル組成物に含有させた場合、該物質とアクリル系粘着剤との相互作用による、該物質の変成の可能性が小さく、そのような物質の選択の自由度が高く、またそのような物質を安定的に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の医療材料用または衛生材料用のゲル組成物は、架橋反応可能な官能基を分子内に有する液状ゴム成分と、有機液状成分とを含む。該有機液状成分は、該ゴム成分100重量部に対して90重量部以上、1250重量部以下含まれる。該ゲル組成物は架橋されている。
【0018】
本発明では、液状ゴム成分は、ゲル組成物が架橋されたときに網目構造を形成し、ゲル組成物に柔軟性と保形性を付与する役割を果たす。
【0019】
液状ゴム成分としては特に限定されず、液状イソプレンゴム、液状ブタジエンゴム、液状イソブチレンゴムなどが挙げられ、これらは、1種でまたは2種以上組み合わせて用いられる。液状ゴム成分は高分子量であっても液状であって、ゲル組成物が多量の有機液状成分を容易に含有可能であり、ゲル組成物に柔軟性が容易に付与されるためには、液状イソプレンゴムが好ましい。本明細書にいう「液状」は、25℃で流動性を有することを意味する。
【0020】
液状ゴム成分の重量平均分子量は、ゴム成分が液状である限り特に限定されないが、好ましくは1,000〜60,000、より好ましくは10,000〜40,000、もっとも好ましくは20,000〜30,000である。1000に満たないと、ゲル組成物が多量に有機液状成分を含有することが困難となったり、ゲル組成物の柔軟性が低下する可能性がある。このメカニズムは不明であるが、液状ゴム成分の架橋点間の分子量が低くなるため、液状ゴム成分の網目構造の網目が小さくなることと関係するものと推測される。
【0021】
一方、60,000を超えると液状でない恐れがあるばかりか、ゲル組成物の均一性が保たれにくくなり、すなわち、ゲル組成物の他の成分に対する液状ゴム成分の相溶性を確保させるのが困難になる恐れがある。
【0022】
ここにいう重量平均分子量は、下記の条件でゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定測定される値を意味する:
(分析条件)
GPC装置:HLC8120(東ソー株式会社製)
カラム :TSKgelGMH‐H(S)(東ソー株式会社製)
標準:ポリスチレン
溶離液 :テトラヒドロフラン
流速 :0.5ml/min.
測定温度 :40℃
検出手段 :示差屈折計
本発明のゲル組成物が架橋されているか否かは、次のようにして判定される。ゲル組成物の試料をトルエンに常温で6日間浸漬し、不溶分が存在することを目視で確認する。不溶分が存在するならば、ゲル組成物は架橋されている。
【0023】
液状ゴム成分の架橋反応可能な官能基の分子内の数は特に限定されないが、液状ゴム成分が3個以上の架橋反応可能な官能基を分子内に有することにより、液状ゴム成分が効率的に網目構造を形成し、本発明の効果が十分に発現される。かかる観点より、液状ゴム成分の分子内における官能基の数は、好ましくは5個以上、より好ましくは8個以上、もっとも好ましくは10個以上である。一方、あまりにそのような官能基が多いと、必要な架橋剤の量が多くなることから、分子内における官能基の数は20個以下が好ましい。
【0024】
本発明では、液状ゴム成分は、3個以上の架橋反応可能な官能基を分子内に有することで、ブランチ剤などを液状ゴム成分の主鎖に導入する必要性なくして、三次元的な網目構造を形成することができるので、ゲル組成物中に多量の有機液状成分を含有可能となるのである。
【0025】
一方、液状ゴム成分の分子内における官能基の数は、好ましくは15個以下、より好ましくは12個以下である。これは、官能基数が多すぎると、残存活性基が多くなり、薬物などのゲル組成物中の成分に影響を及ぼす可能性があり、またゲル組成物の柔軟性が低下し、皮膚変形への追従性が不良となる可能性があるからである。
【0026】
液状ゴム成分の分子内の架橋反応可能な官能基の数は、次のようにして測定される。試料中の液状ゴム成分の架橋反応可能な官能基の総数を求め、これを液状ゴム成分の数平均分子量で除して、液状ゴム成分の1分子あたりの架橋反応可能な官能基の数を求める。そのような官能基がカルボキシル基である場合は、一般的な水酸化カリウムを用いた酸価測定方法により試料中のカルボキシル基数を求める。ここにいう液状ゴム成分の数平均分子量は、上記重量平均分子量と同じ条件で求められる値を意味する。
【0027】
官能基としては特に限定されず、例えば、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、クロルスルホン基、エステル基、エポキシ基、イソシアネート基、メチロール基、スルホン酸基、メルカプト基、などが挙げられる。これらは1種でまたは2種以上組み合わせて用いられる。後述の架橋剤としてのエポキシ系化合物との架橋形成の観点から、カルボキシル基、ヒドロキシル基が好ましい。
【0028】
本発明では、ゲル組成物は、架橋されている。架橋処理は、特に限定されないが、例えば、紫外線照射や電子線照射などの放射線照射による物理的架橋処理、各種架橋剤を用いた化学的架橋処理によって達成される。
【0029】
ゲル組成物中の成分、例えば薬物に悪影響を与えないためには、ゲル組成物に架橋剤を添加することで、ゲル組成物を架橋させるのが好ましい。そのような架橋剤としては、アミン系化合物、エポキシ系化合物、三官能性イソシアネートなどのイソシアネート系化合物、有機過酸化物、有機金属塩、金属アルコラート、金属キレート化合物、多官能性化合物(多官能性外部架橋剤やジアクリレートやジメタクリレートなどの多官能性内部架橋用モノマー)などが挙げられ、これらは1種でまたは2種以上組み合わせて用いられる。架橋剤は、エポキシ系化合物が好ましい。これは、液状ゴム成分中のカルボキシル基と反応したエポキシ基がヒドロキシル基を発生し、これが別のカルボキシル基と反応可能であり、網目構造の形成において有利であるからである。
【0030】
架橋剤の配合割合は、ゲル組成物に十分な架橋構造が形成される限り特に限定されないが、ゲル組成物中の、架橋剤の官能基の総数(A)の、液状ゴム成分の官能基の総数(A)に対する割合((A/B)×100)[%]が50%以上となる割合が好ましく、80%以上がより好ましく、300%以上が最も好ましい。なお、この上限値は特に限定されないが、ゲル組成物中の成分、例えば薬物に悪影響を与えないためには、500%以下が好ましい。
【0031】
本発明では、有機液状成分は、前述の液状ゴム成分により形成される網目構造と組み合わさってゲル組成物の柔軟性を増強し、ゲル組成物中に薬物などの化学物質が含有される場合にはそれを溶解または分散してゲル組成物に含有させる役割を果たす。有機液状成分としては特に限定されないが、ゲル組成物中の液状ゴム成分と相溶性を有する限り特に限定されず、オリーブ油、ヒマシ油、ラノリン等の油脂類、スクアラン、流動パラフィンのような炭化水素類、脂肪酸アルキルエステルなどの脂肪酸エステル類、オレイン酸、カプリル酸のような高級脂肪酸類、N−メチルピロリドン、N−ドデシルピロリドンのようなピロリドン類、デシルメチルスルホキシドのようなスルホキシド類等が挙げられ、これらは1種でも2種以上混合してもよい。
【0032】
後述の貼付製剤におけるように、ゲル組成物が薬物を含む場合、薬物の経皮吸収促進効果の観点からは、脂肪酸エステルが好ましく、たとえば、フタル酸ジオクチル、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジエチルなどの脂肪酸アルキルジエステル類、脂肪酸アルキルモノエステル類などが挙げられる。良好な薬物の経皮吸収促進効果の観点からは、脂肪酸アルキルモノエステルが好ましい。
【0033】
脂肪酸アルキルモノエステルにおいて、必要以上に炭素数の多い脂肪酸や少ない脂肪酸からなるものでは前記合成ゴム等との相溶性が悪くなったり、製剤を調製する際の加熱工程で揮散したりする虞がある。また、分子内に二重結合を有する脂肪酸からなるものでは酸化分解等を生じて保存安定性に問題を生じることがある。
【0034】
よって、そのような脂肪酸アルキルモノエステルとしては、好ましくは炭素数が12〜16、より好ましくは12〜14の飽和または不飽和高級脂肪酸と、炭素数が好ましくは1〜4の飽和または不飽和低級1価アルコールからなる脂肪酸アルキルエステルが好ましくは採用される。このような高級脂肪酸としては、好ましくはラウリン酸(C12)、ミリスチン酸(C14)、パルミチン酸(C16)、特にミリスチン酸およびパルミチン酸が挙げられる。また、そのような低級1価アルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコールが挙げられ、これらは直鎖アルコールに限定されず分岐アルコールであってもよく、特にイソプロピルアルコールが好ましい。したがって、最も好ましい脂肪酸アルキルエステルとしては、ミリスチン酸イソプロピルおよびパルミチン酸イソプロピルが挙げられる。
【0035】
これらの有機液状成分の配合割合は、液状ゴム成分100重量部に対して、1250重量部以下であり、好ましくは1000重量部以下、より好ましくは950重量部以下、さらに好ましくは900重量部以下、さらに好ましくは850重量部以下、さらに好ましくは800重量部以下、さらに好ましくは750重量部以下、さらに好ましくは700重量部以下、もっとも好ましくは650重量部以下である。1250重量部を超えるとゲル形成ができず、所定形状に成形することができない恐れがある。
【0036】
一方、有機液状成分の配合割合は液状ゴム成分100重量部に対して、90重量部以上であり、好ましくは150重量部以上、より好ましくは200重量部以上、さらに好ましくは250重量部以上、もっとも好ましくは300重量部以上である。90重量部に満たないとゲルが硬くなりすぎて皮膚密着性および皮膚追従性が低下する恐れがあり、また他の成分のゲル組成物中の拡散移動性、吸収性が低下する恐れがある。
【0037】
本発明のゲル組成物は、このように有機液状成分の配合量が、液状ゴム成分の配合量とほぼ同じまたは多いため、有機液状成分が、ゲル組成物が架橋されることで形成された液状ゴム成分の網目構造中に、単純に抱き込まれた構造をとっているのかもしれないが、むしろ、あたかも有機液状成分中に液状ゴム成分が抱き込まれるかのような構造をとっているものと推測される。それによって、本発明のゲル組成物は、これを所定形状に成形された成形体として皮膚に装着した場合、皮膚の変形に容易に追従し、密着することができる最適な柔軟性を有するものと推測される。
【0038】
ゲル組成物には、本発明の効果を阻害しないかぎり、任意成分として他の成分、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等の界面活性剤、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン等の高沸点有機溶剤、ピロリドンカルボン酸エステル等の吸収促進剤、アスコルビン酸などの酸化防止剤、老化防止剤、充填剤、着色剤、軟化剤などを含有していてもよい。
【0039】
本発明のゲル組成物は所定形状の成形体に成形することが可能である。成形体の形状としてはシート状、ブロック状などが挙げられるが、医療用材料または衛生材料用途に適する観点から、シート状、すなわちシート材が好ましい。
【0040】
そのような成形体はある厚み、例えば0.5mm以上、1mm以上、2mm以上、3mm以上;10mm以下の厚みを有するシート状(シート材)に成形することが可能であり、このようなシート材は従来の貼付剤の粘着剤層よりも厚みがあって、多量の有機液状成分、薬物などの化学物質を含有させることが可能である点で有利である。
【0041】
医療用材料用途として、例えば、本発明の成形体を支持体の少なくとも片面に形成した貼付剤が挙げられる。このような貼付剤は皮膚面を保護するなどの用途に用いられる。支持体としては、特に限定されないが、成形体中の成分が実質的に不透過性であるもの、すなわち成形体中の成分が支持体中を通って背面から失われて含有量が低下し難いものが好ましい。所望により、別途粘着剤で成形体自体の粘着力を補強することも可能である。所望により、使用前まで成形体表面を保護するために、該表面上に自体公知の剥離ライナーを積層してもよい。
【0042】
また、前記貼付剤において、この成形体に薬物を含有させ、貼付製剤とすることができる。ここにいう薬物は特に限定されず、ヒトなどの哺乳動物にその皮膚を通して投与し得る、すなわち経皮吸収可能な薬物が好ましい。そのような薬物としては、具体的には、例えば、全身性麻酔薬、催眠・鎮静薬、抗癲癇薬、解熱鎮痛消炎薬、鎮暈薬、精神神経用薬、局所麻酔薬、骨格筋弛緩薬、自律神経用薬、鎮痙薬、抗パーキンソン薬、抗ヒスタミン薬、強心薬、不整脈用薬、利尿薬、血圧降下薬、血管収縮薬、冠血管拡張薬、末梢血管拡張薬、動脈硬化用薬、循環器用薬、呼吸促進薬、鎮咳去痰薬、ホルモン薬、化膿性疾患用外用薬、鎮痛・鎮痒・収斂・消炎用薬、寄生性皮膚疾患用薬、止血用薬、痛風治療用薬、糖尿病用薬、抗悪性腫瘍用薬、抗生物質、化学療法薬、麻薬、禁煙補助薬などが挙げられる。
【0043】
ゲル組成物における薬物の含有割合は、その経皮吸収用薬物の効果を満たし、ゲル組成物の物性を損なわない範囲であれば特に限定されないが、好ましくはゲル組成物中に0.1〜60重量%、より好ましくは0.5〜40重量%含有されることが好ましい。0.1重量%より少ないと治療効果が十分でない恐れがあり、60重量%より多いと皮膚刺激発生の可能性がありまた経済的にも不利である恐れがある。
【0044】
本発明の成形体は、具体的には、マトリクス型の貼付製剤におけるマトリクス、リザーバー型の貼付製剤におけるパッド状のリザーバーなどに用い得る。
【0045】
衛生材料用途として、所定形状、例えばシート状の成形体(シート材)を、絆創膏におけるガーゼの代替品、ゲルパッチの基材、創傷被覆ドレッシングにおける不織布代替品などに用い得る。
【0046】
本発明のゲル組成物は、例えば次のように製造し得る:液状ゴム成分を有機液状成分とを必要により溶媒存在下で混合し、そこに架橋剤を添加して所定形状の型に流し込む。これを適当な温度に付して溶媒を揮散させ、液状ゴムを架橋形成させ、必要により熟成させる。
【実施例】
【0047】
(実施例および比較例)
表1に示す配合割合で、10個の架橋反応可能な官能基を分子内に有する液状ゴム成分としてのカルボキシル化液状ポリイソプレン(重量平均分子量 25,000)と、有機液状成分としてのミリスチン酸イソプロピルとを混合し、そこに、4官能性エポキシ基含有化合物(数平均分子量 366)を、表1に示す「官能基比」となるよう配合し、攪拌、混合し、ゲル組成物形成用組成物を得た。これを所定形状の容器に所定量流し込み、120℃で3時間加熱して架橋させた後、80℃で72時間熟成させ、実施例及び比較例のゲル組成物の成形体を得た。なお、「官能基比」とは、ゲル組成物中の架橋剤の官能基の総数(A)の、ゲル組成物中の液状ゴム成分の官能基の総数(A)に対する割合((A/B)×100)[%]を意味する。
【表1】

【0048】
(試験例)
(1)ゲル形成
前述のゲル組成物形成用組成物を、内径36mm、深さ60mmのガラス瓶に、高さ約10mmとなるよう流し込み、前述のように架橋、熟成して得られた実施例および比較例の成形体が、架橋によってゲルを形成し、保形性を有するか否か、下記基準により目視で評価した。
基準
○:ゲルが形成されて一定形状を保持し、ガラス瓶を90°以上傾けても元の形状を維持している。
△:ゲルが形成されたが、有機液状成分が、ゲル表面に染み出している。
×:ゲルが形成されておらず、一定の形状を維持することができず、流動体の状態である。ゲル形成の評価結果を表2に示す。
【表2】

【0049】
(2)柔軟性
前述のゲル組成物形成用組成物を、内径90mm、深さ18mmのガラスシャーレに高さ10mmとなるように流し込み、前述のように架橋、熟成させた後、直径30mmの円形に打ち抜いて、円筒状の試料を得た。
【0050】
試料中央部に直径10mmの鋼球を毎分20mmの速度で3mm進入させたときの試験力をレオメーターで測定した。試験力が小さいほど柔軟であることを示す。ヒト皮膚において同様の測定を実施したところ、下記表3の「ヒト皮膚による試験力の測定結果」のような結果が得られたことから、下記のような基準を設定して、ゲル組成物の柔軟性について評価した。
【表3】

【0051】
(基準)
◎:試験力が0.2以上8未満を示す。すなわち、ヒト皮膚の多くの部位と同等の柔軟性を有し、皮膚変形への追従性がきわめて高いと判断される。
○:試験力が8以上10未満を示す。すなわち、ヒト皮膚のやや硬い部位と同等の柔軟性を有し、皮膚変形への追従性が高いと判断される。
△:試験力が10以上14未満を示す。すなわち、ヒト皮膚に比べてやや硬く、皮膚変形への追従性がやや低いがヒト皮膚に近く、許容範囲内であると判断される。
×:試験力が14以上を示す。すなわち、ヒト皮膚に比べて硬く、皮膚変形への追従性が低いと判断される。
柔軟性の評価結果を表4に示した。
【0052】
【表4】

【0053】
表2から明らかなように、液状ゴム成分100重量部に対して、有機液状成分が80〜1000重量部であるいずれの実施例も、ゲルが形成されており、十分な保形性を有していた。液状ゴム成分100重量部に対して、有機液状成分がそれぞれ800および1000重量部配合されたそれぞれ実施例25および実施例8のように、官能基比によっては有機液状成分がゲル表面に染み出すものがあり、有機液状成分が1500重量部配合された比較例2は、ゲルを形成することができなかった。このことは、有機液状成分の配合割合によっては、架橋剤の配合割合を多くして、官能基比を高めることが好ましいことを示している。
【0054】
表4から明らかなように、液状ゴム成分100重量部に対して、有機液状成分が100〜1000重量部である実施例は、ヒト皮膚に近い柔軟性を示し、皮膚への追従性が高かった。特に、同200〜600重量部である試料は、ヒト皮膚と同等の柔軟性を示し、皮膚への追従性がきわめて高いと判断された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋反応可能な官能基を分子内に有する液状ゴム成分と、該ゴム成分100重量部に対して90重量部以上、1250重量部以下の有機有機液状成分とを含み、該ゲル組成物が架橋されている、医療材料用または衛生材料用のゲル組成物。
【請求項2】
該液状ゴム成分が、その分子内に架橋反応可能な官能基を3個以上含む、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
該有機液状成分が、該液状ゴム成分100重量部に対して、150重量部以上、1000重量部以下含まれる、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
該組成物が架橋剤によって架橋されており、該組成物中の該架橋剤の官能基の総数(A)の、該組成物中の液状ゴムの官能基の総数(B)に対する割合((A/B)×100)[%]が、50[%]以上である、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
該液状ゴム成分が、液状イソプレンゴムである、請求項1記載の組成物。
【請求項6】
請求項1記載の組成物を含むシート材を、支持体の少なくとも片面上に備える貼付剤。
【請求項7】
請求項6記載の貼付剤における該シート材が薬物を含む、貼付製剤。

【公開番号】特開2008−308453(P2008−308453A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−158669(P2007−158669)
【出願日】平成19年6月15日(2007.6.15)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】