説明

ゲル組成物

【課題】互いに可逆的に結合してゲルを形成する第一及び第二のゲル形成成分を含むゲル組成物の提供。
【解決手段】本発明は、互いに可逆的に結合してゲルを形成する第一及び第二のゲル形成成分を含むゲル組成物に関する。前記成分の結合は、分析物のレベルに感受性を有し、架橋された粒状要素間の間隙がゲル−ゾル転移及びゾル−ゲル転移を行えるが、前記分析物が前記間隙を通じて拡散することができない程には小さくないように、前記ゲル形成成分の一方又は双方は架橋された粒状要素に付着される。本発明は、薬物送達システム及びこのようなゲルを用いて分析物を検出するためのセンサーも提供する。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
本発明は、互いに結合してゲルを形成するゲル形成成分を含むゲル組成物に関する。前記ゲル形成成分の結合は、特定の分析物のレベルに依存し、可逆的とすることができる。このようなゲルは、試料中の分析物のレベルをモニタリングすること、及び異常なレベルの分析物に応じて薬物を送達することに用途が見出される。
【0002】
従来技術では、WO93/13803号が、ある実施形態において、デキストランとコンカナバリンA(ConA)を含むゲルを開示している。デキストランの末端グルコース残基がConAに結合しているため、粘度が増加したゲルが形成される。遊離のグルコースが、ConAへの結合に関してデキストラングルコース残基と競合すると、この結合は解離する。このため、前記ゲルは、接触する遊離のグルコースの量に影響を受ける。このため、前記ゲルは、インシュリン等の抗高血糖薬を用いた薬物送達システムとして使用することができる。グルコースのレベルが正常な場合、デキストランはConAに結合し、インシュリンはゲルの中に保持される。しかし、グルコースのレベルが上昇すると、結合度が下落してインシュリンを放出する。生理的な条件下では、インシュリンの放出によってグルコースレベルが下落し、結合度が増加することによって更なるインシュリンの放出は抑えられるであろう。このように、前記薬物送達システムは正常に機能している膵臓と同一の効果を有する「閉鎖環(closed loop)」系を形成し、必要時にはインシュリンが放出され(グルコースによって、ゲルにゲル−ゾル遷移が引き起こされる場合)、不要時にはインシュリンが保持される(グルコースの欠如によって、ゲルにゾル−ゲル遷移が引き起こされる場合)。
【0003】
Obaidat & Park、Biomaterials 18(11 1997):801-806; Obaidat & Park, Pharmaceutical Research 12 (9 SUPPL 1995); Obaidat & Park, Pharmaceutical Research 13 (7 1996): 989-995; and Valuev, et al, Vysokomolekulyarnye Soedineniya Seriya A & Seriya B (1997): 751-754に、類似のゲルが開示されている。
【0004】
DE-A-4203466号には、このタイプのゲルをグルコースセンサーとして使用することが開示されている。可逆的なゲル−ゾル変化によってもたらされるゲルの粘度の変化が、周期変動シグナルにゲル表面を応答させるように、半透過性のチューブにゲルを入れる。反応の程度はゲルの粘度に依存し、従って、グルコースの濃度に依存する。その後の研究は、粘度そのものではなく応答の速度論を測定する表面プラズモン共鳴(SPR)によって測定したときの、このようなゲルのグルコースに対する応答について記載している(Ballerstadt & Schultz、Sensors and Actuators B Chemical, (1998), 46: 557-567)。ゲルを作製するのではなく、表面にレクチンを固定化し、蛍光標識されたレクチンの置換をレーザー光学で測定した。このように、この最近の研究では、グルコースレベルの指標として粘度の変化を用いなかった。同様に、DE-A-4034565号は、架橋されたデキストランビーズからの放射性レクチンの測定について記載している。
【0005】
最後に、WO99/48419号は、可逆的なゲル(具体的には、Ficoll-ConAゲル)の粘度の変化を測定して分析すべき試料中のグルコースのレベルを測定するために、粘度感受性のチップを使用することについて記載している。
【0006】
このタイプのゲルの問題は、水と混和するために、分散してしまいがちなことである。ゲルの成分が望ましくない免疫反応を引き起こすことがあるので、ある分析物を検出するためにインビボでこの種のゲルを使用すると、この問題が特に先鋭化する。実際に、ConAは有糸分裂促進作用を有する。このために、分析物を透過させてゲルと接触できるような半透膜にゲルを封入することがある。しかしながら、適当な時間内に、分析物のレベルの変化に対してゲルが反応するためには、分析物は半透膜をすばやく通過することができなければならない。加えて、薬物が放出されるべき状況の下では、前記膜は、素早く放出させなければならない。このような素早い通過を確保するためには、膜は、相対的に大きな開口部を有する必要があり、及び/又は比較的薄くなければならず、その結果、ゲルの成分は、半透膜から浸出することができる。例えば、WO 93/13803号に記載されているタイプのゲルは、水に対して混和性であり、とりわけグルコースレベルの上昇によって誘導されたゾル型において、ゲル形成成分の急速な分散を妨げるために、小孔膜の中にゲルを閉じ込めなければならない。しかしながら、36kDのインシュリンヘキサマーの放出にとって律速とならない孔サイズ(例えば、0.1μm)は、110kDのConAテトラマーを逸出させ、これより程度は低いが、デキストランも逸出させてしまう。
【0007】
従って、分散しにくい上記のタイプのゲルを得ることが望ましい。
【発明の概要】
【0008】
本発明によれば、互いに可逆的に結合してゲルを形成する第一及び第二のゲル形成成分を含んだゲル組成物であって、前記結合が分析物のレベルに対して感受性を有し、架橋された粒状要素間の間隙がゲルーゾル転移及びゾル−ゲル転移を行うことができるが、前記分析物が前記間隙を通じて拡散することができない程には前記間隙が小さくないように、前記ゲル形成成分の一方又は双方が前記架橋された粒状要素に付着されている、ゲル組成物が提供される。
【0009】
添付の図面を参照しながら、本発明の説明を行う。
【0010】
本発明は、相互作用するリガンド対(第一及び第二の成分)がゲル内に保持された(すなわち、前記成分を周囲に浸出されない)可逆的ゲルを提供する。さらに、ゲル−ゾルサイクルの液体段階時での成分の相分離も抑えられ、このため、前記第一及び第二の成分が近接するようになり、組成物の寿命が延びる。相分離の抑制によって、関連するリガンド間の相互作用の継続的確率が増加するので、相分離の抑制も重要である。
【0011】
好ましい粒状要素(particulate entities)は、粒状要素が粒子を形成するように局所的に架橋されたポリマーであり(「ミクロゲル」、「ミニゲル」、又は「ファズボール」と呼ばれることがある)、その中で、各粒子は、水性間隙領域によってほとんど又は完全に囲まれた離散的ハイドロゲル構造を採る。架橋度がCarbopol 941の架橋度(3300モノマーごとに1つのリンカーを有する(Carnali & Naser,1992,Colloid Polymer Sci.270:183-193))より大きければ好ましい。
【0012】
本発明のある実施形態では、前記粒状要素は、150又は100μm以下であり、好ましくは、10乃至80又は20乃至70μmの範囲の平均直径を有する。これによって、0.1mm以上の孔径を有する膜を前記組成物が通過できなくなり、且つ、分析物は容易に通過することが可能であるからであり、組成物を通り抜けなければならないことがある薬物が存在するときには、薬物も容易に通過することができる。
【0013】
好ましい実施形態では、前記架橋されたポリマーは、アクリル酸ポリマー又はコポリマーであり、架橋されたカルボマー(Carbopol(BFGoodrich(USA)、ポリカルボフィル、カルボキシビニル又はカルボキシポリメチレンポリマー)としても知られる)であることが好ましい。
【0014】
アクリル酸は、残存するイオン化可能なカルボキシル基が各モノマーから懸垂した直線的配置になるように重合することができる反応性の二重結合を有する小分子である。これによって、多価電解質として振舞うことができる親水性産物が得られる。この種の直鎖誘導体(Carbopol 907等)は、500,000の平均分子量を有し、水溶性であると報告されている。様々な程度の架橋も起こり得る。架橋の程度とタイプによって、広範なポリマーが生じ、その多くは、酸に加えて他のモノマーを取り込む。例えば、CarbopolとPemulens(BFGoodrich)の中には、長鎖アルキル残基と共重合されたアクリル酸からなり、アリルペンタエリスリトールと架橋されているものがある。ポリカルボフィル(商品名Noveon)は、ジビニルグリコールと緩く架橋されたアクリル酸のホモポリマーである。
【0015】
架橋されたカルボマーのホモポリマーは、様々な程度で、ポリアルキルポリエーテルと架橋されていることを特徴とする。重合に用いる溶媒系のために、又は分散促進因子を含有しているために、薬学的な許容性がより優れているものも存在するが、既述のように、目的の有用性は架橋特性の機能である。多くのタイプは、水の中に分散されたときにも完全性を保つ粒子を備えた乾燥粉末として製造される。各粒子は、分離不能なさらに小さい成分の凝集物であるが、実際には、一次粒子の分子量は何十億(billion)にも達し、各直鎖は、架橋剤の配列によって他の多くの直鎖に結合されて、一つの大きな分子を形成している。乾燥した集合体(aggregate)の平均直径は、概ね2乃至7μmであるが、水和及び中和によって構造が膨張すると、10倍増加する。後者の過程によって、均一にみえるが、実際には、水性間隙領域によって隔てられた個々の膨張した粒子を備えるゲル状産物が生成する。
【0016】
溶解した物質は、前記ゲルのゲル状粒子の中及び間を浸透する。網の目が細かい粒子の内部は、ビーズが小さく且つより柔らかいことを除けば、慣用されているSephadex等のビーズを用いたゲル透過システムとほぼ同様に、サイズに基づいて溶質の拡散を排除するので、カルボマーゲル分散物の中を溶質が透過する度合いは、架橋密度の関数となる。多くの物質は、従って、巨視的粘度が合致している場合でも、ヒプロメロース等の他の均一なゲルの中を通過する場合に比べて、ずっと速くカルボマーゲルの中を移動する。このため、含水層を通過する多くの溶質の輸送を調節するために、カルボマーが広く使用されており、浸食によって放出する直鎖ポリマーと比較して、しばしば、かかる用途のために多くの錠剤調合物に加えられる。さらに、カルボマーは粘液に強く接着することが判明しており、薬を長時間与えるために、腸、眼、及び鼻粘膜への薬物送達構造の結合に関して研究が行われてきた。
【0017】
好ましいカルボマーは、(アリルペンタエリスリトールと)強固に架橋した構造を有することによって、各水和粒子が比較的堅固であり、隣接する粒子から離散した状態を保っているCarbopol 974P、及び(アリルスクロースとの)架橋がこれより少ないCarbopol 934Pである。これらのカルボマーは大規模に架橋されているが、架橋が局所的であるために粒子状であり、水和された場合でも、柔軟な小ビーズ(HO中で20−70μm)を形成する。巨大分子は、これらのビーズの中を通過して拡散することができず、ビーズの周囲を拡散することができるにすぎないであろう。
【0018】
架橋されたカルボマー粒子は、タンパク質及びその他の生物学的に活性な成分用の担体として魅力的な多くの特質を有する。
【0019】
・カルボマー粒子は、多くが外向きに配位した懸垂状カルボキシル基を有する。これにより、カルボジイミド化学反応を含む包括的及び特異的手段によって、タンパク質、ペプチド、及びアミン基等の活性部分を有する他の物質を含む活性要素を共有接合させることが可能となる。
【0020】
・カルボマー粒子は多価電解質であり、中性pHでは高度にイオン化されており、適切な陽イオンリガンドを静電的に付着させることが可能となる。
【0021】
・タンパク質の中には、ポリアクリル酸に対して非特異的な親和性を有するものがあるので、共有接合させる必要性がない場合がある。例えば、低pH(<4)では、共有結合が不要で(溶液の混合によって沈殿物が形成される)、グルコース受容体に依存しない極めて強固な物理的付着がコンカナバリンAとカルボマーとの間に存在する。低PHが必要とされるので、ゲル形成成分の一方又は両方を粒子に共有接合することが好ましい。本発明の好ましい実施形態では、コンカナバリンA/デキストランゲル中での担体として、架橋されたカルボマーが添加物として使用される。これによって、極めて良好に反応するが、上述したように、タンパク質の浸出を効果的に抑制する透明なゲルが得られる。
【0022】
・カルボキシルが数多く存在するために、極めて多数のリガンドの共有接合と静電的接合を行うことができる。
【0023】
・カルボマーがポリ陰イオン性であることは、低pH溶媒中で脱水可能なことを意味する。このため、遠心が可能となり、カップリング操作から残存した無用の物質から分離できる。この形態で繰り返し洗浄し、回転させることができ、適切な緩衝液又はその他の水性溶媒中で中和することによって最終的に再水和することができる。
【0024】
・外部表面上に存在する同一要素又は異なる要素の他に、カルボマーは、粒子の内部に一定のタイプの溶質を担持することができる。このため、例えば、そこで結合していると否とにかかわらず、外表面上に標的誘導要素及び/又はステルス型の要素を植設可能としつつ、治療剤を粒子内に保持することができる。
【0025】
・カルボマーは、他の担体に比べて極めて大きいが、このために、ある種の治療用途には適していないが(例えば、滲出しないであろう)、その他の治療用途には、さらに有用なものとなる可能性がある。このため、さらに小さな要素を用いた場合と比べて、排出、代謝、分解の進行が遅いので、送達された後、接合体は標的部位にさらに長く留まることができる。このような担体は、例えば、サイズが同様で、実験的な薬物送達因子として長く用いられてきたリポソームと共通点が多いといえる。但し、カルボマーは、リポソームの場合と比べて、共有接合能力が大きい。リポソームと同様に、カルボマーは、(とりわけ、親水性中性ポリマーの中でも)ポリエチレングリコールを付加することによって共有結合的に修飾して、肝臓及び脾臓の大血管中のマクロファージによる取り込みを阻止する立体特性及びその他の特性を表面に付与することができる。
【0026】
・粒状であるために、架橋されたカルボマーは、排除ゲルのように機能することができ、従って、多くの溶質は、ハイドロゲルの粒子(又はビーズレット)の中を通らずに、その周囲を浸透する。従って、間隙領域中の水性溶媒の微視的粘度によって支配され、粘度が同等であるが均一に架橋されたハイドロゲルに比べて(この場合、溶質移動は巨視的粘度の関数である)、カルボマーゲルの中を通じた拡散は、多くの溶質対してずっと速い。次いで、共有結合したリガンド用の担体のように、ビーズレットの表面を修飾する場合には、リガンドは間隙領域の微視的粘度に影響を与え得る。この領域は、従って、溶質と化学的又は物理的に相互作用することができる。このように、ゲルベッドは、クロマトグラフィーによる分離、基質センサー、インテリジェント送達装置用にデザインされた溶質に対するアフィニティー基質として作用することができるであろう。
【0027】
前記第一及び第二の成分を粒子に付着させることができる方法は数多く存在する。例えば、粒子には、前記第一又は第二の成分を(共有結合又はその他の方法で)直接付着させることもできるし、前記第一及び第二の両成分を(共有結合又はその他の方法で)直接付着させることもできる。これに代えて又はこれに加えて、直接付着させるのではなく、ポリマーを介して前記第一及び/又は第二の成分を間接的に付着させることができる。適切なポリマーは当業者に公知であり、アクリル系骨格ポリマー、デキストラン、セルロース、及びその他の糖ポリマーが含まれる。一方又は他方を前記粒子に直接又は間接的に付着させつつ、(例えば、WO95/01186号に記載されている態様で)前記第一及び第二の成分を互いに付着させることができる。
【0028】
前記第一及び第二の成分は、互いに可逆的に結合してゲルを形成することができる任意の成分であり得る。前記第一の部分は互いに結合するとゲルを形成する高分子であり、前記第二の成分は前記高分子の少なくとも一部に結合してこのような結合を与える分子であることが好ましい。しかしながら、第一の成分と第二の成分の両方が等しくゲル形成に寄与してもよい。前記第二のゲル形成成分も前記分析物に結合ので、前記分析物のレベルに対して前記ゲルが感受性を生じることが好ましい。このように、分析物は前記第一のゲル形成成分と競合するので、分析物の濃度が十分に高ければ、第一及び第二のゲル形成成分の結合が抑えられ、ゲルの粘度が減少する。以下でさらに詳細に記載されているように、薬物を放出させるために又は分析物のレベルの指標を与えるために、この粘度の減少を使用することができる。
【0029】
第一及び第二の成分間の結合は、疎水性、イオン性、水素結合力等の非共有結合力によって生じる。これらの相互作用は本分野において詳しく研究されており、分子親和性と分子認識に対するその影響は、例えば、Korolkovas et al,“Essentials of Medicinal Chemistry”, pp 44-81 Wiley 1976に記載されている。このような可逆的相互作用の例として、酵素とその基質間又はその拮抗阻害剤との相互作用、及び抗体とその抗原との相互作用、又は薬物受容体部位とその薬物との相互作用が挙げられる。
【0030】
前記第二の成分は、分子認識及び小分子又は高分子の可逆的結合を生じせしめる、数多くの公知のあらゆる要素であり得る。前記第二の成分は、抗体、酵素、制御タンパク質、薬物受容体部位等の天然の結合タンパク質であり得る。化学的に修飾されたタンパク質等の合成によって修飾された結合分子を使用することも可能である。このような修飾タンパク質は、修飾が施されていない対応する天然のタンパク質に比べて、それらの基質に対する親和性が増減することがある。前記第二の成分は、インプリンティング及び類似の技術によって構築された受容体であり得る(Andersson, J Chromatogr B Biomed Sci Appl. 2000 Aug 4 : 745 (1) : 3-13; Bruggemann et al, J Chromatogr B Biomed Sci Appl. 2000 Aug 11; 889 (1-2) : 15-24; Haupt & Mosbach, Trends Biotechnol 1998 Nov; 16 [(11)] : 468-75)。
【0031】
前記第二の成分はレクチンであることが好ましい。レクチンは、炭水化物に対して様々な特性を有する植物及び動物の炭水化物結合タンパク質である(Lis et al, Ann.Review of Biochemistry, 42, 541 (1973); Goldstein & Hayes, Adv. in Carbohydrate Chemistry and Biochemistry, Vol. 35, Tipson and Horton, eds. (Academic Press, New York, 1978, pp. 128-341)。例えば、ConA(タチナタマメのレクチン)は、α−Dマンノピラノースとα−Dグルコピラノースに対して特異性を有し、大豆レクチンは、α−及びβ−D−N−アセチルガラクトサミンとα−D−ガラクトースユニットに対して、麦芽レクチンは、β−D−N−アセチルグルコサミンに対して特異的である。本発明に使用し得る別のレクチンは、エンドウマメ(Pisium sativum)のレクチンである。好ましい実施態様では、前記第二の成分はレクチンであり、前記第一の成分は該レクチンに結合するゲル形成高分子であって、炭水化物ポリマー、好ましくは、分枝したデンプン、デキストラン、マンナン、レバン等のグルコース、フルクトース、若しくはマンノース成分を含有する炭水化物ポリマー、又はフィコール−400、合成ポリスクロース、若しくは懸垂状炭水化物(pendant carbohydrate)又は糖成分を有する合成ポリマー等の合成炭水化物であり得る。
【0032】
ある実施態様では、ブルーデキストラン(Sigma)が使用される。これには、2つの分子量(40Kと2M)のものが存在し、反応性の青に共有結合されたデキストランを備える。各デキストラン分子は、該分子に結合した多くの色素成分を有しており、前記分子は青であり、カップリングに利用できる前記色素由来の遊離アミン基を有している。ブルーデキストランを用いてカップリングを行うと、産物は青になる。これによって、カップリングの成功が定性的且つ定量的に評価される。
【0033】
前記第一及び第二の成分は、コポリマーの形態で与えることもできる。前記第一及び第二の成分の調製された誘導体を重合させることによって、これを行うことができる。最も単純には、これによって、両成分を有する直鎖ポリマーが作られる。任意の適切な重合化技術によって作成された任意のタイプのポリマー骨格は、本発明の該実施形態で使用するのに適している。
【0034】
第二の側面において、本発明は、互いに可逆的に結合してゲルを形成する第一及び第二のゲル形成成分を含んだゲル組成物であって、前記結合が分析物のレベルに対して感受性を有し、前記ゲル形成成分が共重合されている、ゲル組成物を提供する。
【0035】
ある実施形態において、コンカナバリンAとデキストランのメタクリル酸誘導体(メタクリル酸無水物との反応を用いて、まず、未加工のレクチンと多糖から合成される)を重合させて、コンカナバリンAとデキストランを懸垂物(pendant)として担持するアクリル酸骨格ポリマーを作る(図1参照)。
【0036】
デキストランは、その長さ方向に沿った多数の点で、メタクリル酸誘導化(すなわち、メタクリル酸無水物を用いて前重合化段階において)を行うことができ、デキストラン鎖中の全てのグルコースユニットの各ヒドロキシル基は、メタクリル酸化に感受性を有し得るので、その数は条件に依存する。従って、デキストラン成分は直鎖コポリマーを恒久的に架橋することができ、メタクリル酸修飾を有する任意の点で、ポリマー鎖の形成を開始することができるので、広範な三次元ネットワークが作られる。架橋度が極めて高くなければ、デキストランの長さと可動性のために、得られる産物は柔軟でゲル状であろう。コンカナバリンAには、複数のメタクリル酸化を為し得るが、この分子は球状なので、産物は集合体となり、柔軟なネットワークが全体に広がったゲルにはならない可能性がある(図2参照)。
【0037】
上記したプロセス等の重合化プロセスによって作製された産物の基本的な特徴は、親水性であるが、重合産物が極めて大きく且つ複雑になりすぎ、可溶性を失う場合には、産物は水の中で単に膨張するだけで、溶液を形成しない(ソフトコンタクトレンズは、誘導化されていない様式のこのようなアクリルからできている)。恒久的な結合が、粘弾性的性質に関する前記産物の主な特徴を決定し、デキストランとコンカナバリンA(例えば)の誘導化の度合いが少ない産物は粘性のある液体となるのに対して、修飾が著しく、そのために、複雑に架橋される産物は、固形のハイドロゲルとなるであろう。
【0038】
しかし、相互作用性のリガンドは、重合化の間に為された任意の恒久的結合に加えて、ポリマー鎖全体に、非共有結合による一時的な結合を接続することができる(図2参照)。分析物(例えば、遊離のグルコース)と接触したときに、一時的な結合は解裂するはずなので、ゲルの可逆的結合の見地から、これらは決定的に重要である。これが起こると、産物の特性に変化が生じ、格子全体の理論上の孔が開いて、恒久的架橋のみを残すので、より透過性が高くなるであろう。誘導体化及びこれに続くゲルの恒久的架橋が適度に低ければ、恒久的な連結と一時的な連結の全てが整ったときに、粘性のある液体が得られる。分析物を付加すると、この液体は粘度を失い、反応が可逆的なので、このゲル−ゾル変化は、ゲルの中に拡散した分析物の濃度に依存し得る。
【0039】
前記第一及び第二のゲル形成要素が共重合されていない場合には、三次元ネットワーク又はマトリックスが生じるように、各成分は多価である(2つの二価反応体は直鎖配置を生成するので、少なくとも1つの成分は2を超える価数を有していなければならない)。これは、図3に示されている。
【0040】
互いに付着されていない又は他の粒子に付着されていないレクチンとデキストランを含むゲルでは、レクチンは、あるpH値において、安定な二量体へと解離し得る天然の四価形態を採っている。これらの二量体は、明らかにより小さく、ゲルから喪失するリスクがより大きい。四価のコンカナバリンAと多価の(分枝)デキストランの組合せによって、一時的結合のみによって安定化された三次元ネットワークからなるゲルが生じる。しかしながら、前記成分は、ゾル状態にあるときに、徐々に浸出することがあり、相分離は明瞭でないかもしれないが、複数のサイクルを経た後の作用の段階的な喪失に寄与する可能性がある。
【0041】
しかし、相互作用性成分が共重合されているか、又は粒子に付着(attach)されている場合には、各成分は一価であってもよく、図4に示されているように、これは、なおゲルを形成するであろう。従って、本発明のゲルは、多価である第一及び第二のゲル形成成分を必要としない。好ましい実施形態では、レクチン二量体(又は前記フレームワーク上に結合することによって安定化された四量体)を使用することができる。デキストランは、単純な懸垂状グルコースを含む他の様々なグルコース保有要素で置換してもよい。しかし、単一の懸垂状グルコースは、生じたゲルの柔軟性を減少させることがあり、実際、デキストリンを用いた恒久的架橋の中には、柔軟性を与え、ゾル相での浸出を抑えるのになお有用な場合がある。これは、図5に示されている。
【0042】
先述したように、前記第二の成分は抗体であり得る。抗体は、標準的な様式で(Eisen,H.N.”Immunology”,Harper & Row,1974)、動物から調製し精製することができ、適切な抗原性物質による誘発によって、動物内に誘導可能であるという利点を有している。この物質は、任意の化学物質群(例えば、アミノ酸、炭水化物、それらの対応するポリマー性誘導体等)から選択することができるので、得られた抗体は、広範な結合特異性と親和性を有し得る。
【0043】
ポリクローナル抗体は、適切な動物宿主(例えば、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ヒツジ、ヤギ、又はサル)の中で、それらの産生を刺激することによって生成させることができる。モノクローナル抗体は、ハイブリドーマから産生することができる。これらは、骨髄腫細胞と所望の抗体を産生して不死化細胞株を形成する脾臓細胞とを融合することによって形成することができる。これは、周知のKohler & Milstein技法である(Nature 256 52-55(1975))。現在では、あるタンパク質に結合するモノクローナル抗体及びポリクローナル抗体を製造する技術は、本分野において、目覚しい発展を遂げている。それらの技術は、標準的な免疫学の教科書(例えば、Roitt et al, Immunology second edition (1989), Churchill Livingstone, London中)に論述されている。完全な抗体に加えて、本発明は、抗体断片や合成構築物を含む抗体の誘導体を使用することもできる。抗体断片及び合成構築物の例は、Dougall et al in Tibtech 12 372-379 (September 1994)によって挙げられている。抗体断片には、例えば、Fab、F(ab’)及びF断片(Roitt et al[上記]参照)が含まれる。F断片は、一本鎖F(scF)分子として知られる合成構築物が得られるように修飾することができる。これには、該分子の安定性に寄与するVとVを共有結合で連結するペプチドリンカーが含まれる。
【0044】
他の合成構築物には、CDRペプチドが含まれる。これらは、抗原結合決定基を備える合成ペプチドである。ペプチド模倣体(peptide mimetics)も使用し得る。これらの分子は、CDRループの構造を模倣し、抗原相互作用性側鎖を含む立体構造的に制約された有機環であるのが通常である。合成構築物には、キメラ分子が含まれる。このように、例えば、ヒト化(又は霊長類化)抗体又はそれらの誘導体を使用することもできる。ヒト化抗体の例は、ヒトのフレームワーク領域を有するが、齧歯類の超可変領域を有する抗体である。
【0045】
適切な抗原及び抗体の例は、アンギオテンシン(Peeters, et al, J Immunol Methods 120 (1 1989): 133-43)と抗アンギオテンシン抗体(例えば、Sigmaから入手可能)である。これらによって形成されたゲルは、高血圧緊急症に関与する遊離のアンギオテンシンに反応性を有するであろう。このように、前記ゲルは、遊離のアンギオテンシンのレベルをモニターし、及び/又は、高血圧緊急症を治癒し、継続的な薬物療法の必要性を回避するエナラプリル等のアンギオテンシン転換酵素(ACE)阻害剤の放出を支配するために使用することができる。
【0046】
ホルモン依存性腫瘍の中には、タモキシフェンやシプロテロンのようなホルモンアンタゴニストで治療されるものがある。内在性ホルモンのピークに応じて、このような薬物を自動制御して送達することは、毒性効果と強く関連する無差別的な使用やゴセレリン等の物質(ホルモン生合成における天然のフィードバックを妨害し、それによって、皮肉にも症候を悪化させ得る)の使用に代えることができるであろう。このように、テストステロン及び抗テストステロン抗体から形成されるゲル(Miyake, et al, Chem Pharm Bull 38 (4 1990): 951-5)を用いて、前立腺癌用のシプロテロンを送達することができる。
【0047】
別の例は、依存症療法が存在しない場合に、ヘロイン等の外来モルフィン様物質の流入に応じて、モルフィンアンタゴニストを送達するために用いることができるモルフィンと抗モルフィン抗体である(Kussie, et al, J Immunol 146 (12 1991): 4248-57)。
【0048】
本発明の前記第一及び第二の側面のゲルは、半透膜又は透過性膜と組み合わせて提供してもよい。適切な膜は、例えば、10K−500Kの分子量カットオフを有する透析タイプの膜か、又はセルロース若しくはポリカーボネート製であり得る、例えば、0.025乃至0.1μmの孔径を有する精密濾過タイプの膜であり得る。本発明のゲルをセンサーとして用いる場合には前者の膜が好ましく、ゲルを薬物送達系で使用する場合には後者が好ましい。
【0049】
本発明の前記第一及び第二の側面に係る前記ゲル組成物の分析物レベルの上昇に反応するゲル−ゾル遷移は、薬物(好ましくは、前記分析物のレベルを低下させるように作用する薬物)を放出させるために使用することができる。このため、本発明の第三の側面によれば、本発明の前記第一及び第二の側面に記載したゲル組成物と薬物とを備えた薬物送達システムであって、前記薬物が、(a)前記ゲル組成物内に含有されている薬物送達システム、又は(b)貯蔵部(reservoir)の中に含有されており、前記ゲル組成物が前記貯蔵部と前記薬物が放出されるべき領域との障壁(barrier)を成している、薬物送達システムが提供される。
【0050】
第三の側面において、「薬物(drug)」とは、送達することによって所望の治療的又は予防的効果を与える任意の活性物質を意味するものとする。
【0051】
先述したように、前記第一及び第二のゲル形成成分の結合は、分析物のレベルに感受性を有し、それ故、ゲル組成物の粘度も分析物のレベルに感受性を有する。この粘度の変化は、その中の溶質の透過性を調節するために使用することができる。このため、本発明のゲル組成物は、薬物を含有する貯蔵部又は容器(container)への封鎖を形成することができる。容器からの薬物の放出は、ゲルの粘度(すなわち、分析物のレベル)によって支配されている。あるいは、前記薬物は、ゲル自体の中に含有させることもできる。ゲル組成物がグルコースに対して感受性であり(例えば、ConA/デキストランベースのゲル)、放出すべき薬物がインシュリン等の抗高血糖薬であれば好ましい。グルコース感受性ゲルは、患者へのグルコースの投与によってその放出が調節される薬物の放出を調節するために用いることも可能である。
【0052】
インシュリンを送達するために本発明の薬物送達システムを使用する場合には、該システムを皮下で用いたときに比べて、グルコースが該システムに素早く到達して、インシュリンが迅速に放出されるので、腹腔内に用いることが好ましい。さらに、腹腔液は血中グルコースレベルを反映するグルコースレベルを有する。もちろん、前記システムが皮下から、あるいは体外から使用できないという意味ではなく、治療すべき症状と放出されるべき薬物に適合するように、その位置を選択すべきである。
【0053】
本発明の別の側面によれば、分析物のレベルを検出するためのセンサーであって、本発明の前記第一又は第二の側面に記載のゲル組成物と該ゲルの粘度を検出するための手段とを備えたセンサーが提供される。
【0054】
分析物のレベルの変化に応じて、本発明のゲル組成物の粘度が変化するということは、分析物のレベルをモニターするために、本発明のゲル組成物を使用できることを意味する。
【0055】
ゲルの粘度は、DE-A-4203466号、Ballerstadt & Schultz, Sensors and Actuators B Chemical,(1998), 46:557-567、DE-A-4034565号、又はWO99/48419号に記載されているように、検出することができる。
【0056】
分析物レベルの変化がほぼリアルタイムでモニターできるためには、分析物が、ゲル組成物と(存在すれば)膜を容易に通過して拡散することができなければならない。先述したように、本発明のゲル組成物は、ゲル成分を逸出させずにこれを可能とする。反応時間をさらに早くするためには、極めて薄い(例えば、4mm以下、好ましくは0.1−2mm、但し、単一層も本発明の範囲に属する。)層のゲルの粘度を検出することが望ましい。このような例では、ゲルの喪失を防ぐことが特に重要である。
【0057】
本発明のさらなる側面によれば、本発明の第一の側面に係るゲル組成物を製造する方法であって、
第一及び/又は第二のゲル形成成分を架橋された粒状要素に付着させることを備え、前記第一及び第二のゲル形成成分は互いに可逆的に結合してゲルを形成することができ、前記結合が分析物のレベルに対して感受性を有し、前記要素間の間隙がゲルーゾル転移及びゾル−ゲル転移を行うことができるが、前記分析物が前記間隙を通じて拡散することができない程には小さくない、方法が提供される。
【0058】
さらに別の側面では、本発明は、活性物質を経皮投与するための薬学的組成物であって、(a)前記活性物質を含有するか、又は(b)前記活性物質と前記活性物質が放出されるべき領域との間に障壁を形成する担体を備え、前記活性物質が前記酵素の作用によって前記組成物から放出されるように、前記担体の少なくとも一部が1以上の皮膚酵素によって消化され得る、薬学的組成物が提供される。
【0059】
本発明は、(a)医療におけるこのような組成物の使用、(b)活性物質を経皮投与するための医薬の製造におけるこのような組成物の使用、(c)活性物質を投与するための方法であって、かかる投与を必要としている患者の皮膚にかかる組成物を付与することを備えた方法も提供する。
【0060】
本発明の該側面では、多様であるが、放出を制御した態様で治療剤を放出させることができる。薬物の強度は、その時点での症状の重さに対して適切なものとし、放出増加の誘導は皮膚症状に依存する。とりわけ、前記組成物は、性状が一定せずに、既存の薬物を用いると治療過度又は治療不足となってしまうことが知られた皮膚疾患(特に、炎症性皮膚疾患)の治療に用いる薬物を放出させるのに有用である。例えば、乾癬の間には、乾癬性角質層は、肥厚したプラーク状態のときに比べて、静止状態のときの方が透過性が高いことがある(Tang, et al.(1999).Clin Pharmacokinet 37(4):273-87)。それ故、この症例では、取り込みを遅くするための治癒に依存することは、乾癬における用量を自己調節するための有用な機序ではない。このため、薬物を含む調剤からの排出に基づいた制御系が、生理的取り込み機構に依拠するものより、優れていると一般に考えられている。
【0061】
前記活性物質は前記担体に共有接合されず、前記担体は、単に、前記活性物質を含有する(すなわち、前記活性物質は前記担体内に分散される)か、拘束する(すなわち、前記担体は、前記活性物質の放出に対して障壁を形成する)ように作用する。この配置は、一般的ではないが、前記活性物質の共有修飾を何ら必要としないので、数多くの薬物候補に広く適用できるという利点を有している。
【0062】
前記担体は、各要素がポリマーの周縁(fringe)を有するように、
直鎖又は(おそらくは)分枝ポリマーが結合された上述の架橋粒状要素を備えてもよい。粒状要素間の間隙領域はポリマーによって占拠されており、薬物を拡散させるために、レオロジー的に活性な溶媒を与える。上述のように、これらの領域は、均一に網の目が形成された直鎖ポリマーで作製されたゲルに比べて、薬物の透過を比較的妨害せずに、薬物を輸送することができる。前記ポリマーは、これらの間隙領域の粘度に影響を与えるので、ポリマーのない間隙領域に比べて、遊離薬物の拡散係数を減少させる。皮膚酵素の作用によってポリマーが消化されるために、調合物中に保持された薬物の拡散係数が上昇する。酵素が存在すれば、長鎖が壊れて小断片になるように、前記ポリマーは、その構造中の多くの場所に脆弱な地点を有することが好ましい。カルボマー自体は、酵素活性に対して極めて耐性があり、その本来の状態では、タンパク質分解を受け易いタンパク質に対して実際に保護を与える(Hutton, et al. (1990). Clin Sci (COLCH) 78(3): 265-71; Luessen, et al. (1995). Pharm Res 12(9): 1293-8; Walker, et al. (1999). Pharm Res 16(7):1074-80)。酵素がポリマーに強い影響を与える場合でも、その安定性によって、非滴下式(non−drip)皮膚用調製物に適した最小限の粘度を維持することができるが、その保護効果は、表面の修飾のために低下する。
【0063】
明らかに、前記ポリマーは、これを分解して活性物質を放出させる皮膚酵素の能力に応じて選択される。当業者であれば、以下の皮膚酵素の1以上によって分解されるポリマー又は分子を選択することができる。老化過程におけるエラスチン繊維の分解に必要とされるリソゾームのプロテイナーゼであるが、乾癬中にも見出されるエラスターゼ(Chandler, et al.(1996).Biochem Biophys Res Commun 228(2):421-9)、細胞表面の脱粒(shedding)に関与することが知られており、乾癬への関与が推測されているセリンプロテアーゼであるSCCE、すなわち(stratum corneum chymotryptic enzyme)(Exholm & Egelrud(1999).Arch Dermatol Res 291(4):195-200)、LTA4から異常なロイコトリエンLTB4を生成する(乾癬でも発生することが観察されているプロセス)ことができるLTA4ヒドロラーゼ。これらの3つの酵素は、本来の生理的基質に対して必ずしも特異的でないエステラーゼ及び/又はアミダーゼ活性を有する。実験的な病変中に形成された外被(crust)は、プロテアーゼを豊富に生ずる発生源であることが示されており(Higuchi,et al.(1988).Inflammation 12(4):311-34)、汗の中にも存在する(Horie et al.(1986).Am J Physiol:R691-8)。さらに、角質層チオールプロテアーゼ(SCTP)は、角質層の上部領域中に最近見出されたシステインプロテーゼである。SCTPは、酵素電気泳動法で測定したところによると、ゼラチン溶解活性を示し、皮膚より若干酸性のpHで最もよく機能する(Watkinson,(1999).Arch Dermatol Res 291(5):260-8)。コラーゲナーゼは、とりわけ結合組織、臓器組織、骨及び軟骨中でのコラーゲンの代謝回転を調節するメタロプロネアーゼ(MMP)酵素に属する。コラーゲナーゼは、創傷の治癒など、正常な皮膚及び異常な皮膚において重要である(Simeon et al.(1999).J Invest Dermatol 112(6):957-64)。
【0064】
サブセットのIV型である、ゼラチナーゼMMP−2とMMP−9が、それらの特異的阻害剤とともに、真皮と表皮中に見出されており、ケラチン生成細胞とランゲルハンス細胞に付随しているが、皮膚機能中に、マトリックス内でのこれらの細胞移動をモジュレートする(Kobayashi, Y. (1997). Immunology 90 (4):496-501; Makela, et al. (1999). Exp Cell Res 251(1):67-78)。タンパク分解活性は、きわめてよく理解されている(Seltzer, et al.(1990). J Biol Chem 265(33):20409-13; Seltzer, et al.(1989). J Biol Chem 264(33):19583-6)が、病気におけるその役割については十分理解されているわけではない。技術文献では、その詳細に関して幾分混乱がみられるが、炎症性皮膚疾患においてはb、MMP、mRNA、及びそれらの天然阻害物質のレベルは常に上昇している(Feliciani, et al.(1997). Exp Dermatol 6(6):321-7; Buisson, et al. (2000). J Invest Dermatol 115 (2): 213-8; Fleischmajer, et al.(2000). J Invest Dermatol 115(5):771-7)。乾癬性真皮−表皮の構築の誤りが、酵素の過剰発現の原因とされており、本酵素は、表面近くの角質化された層にも見出されている。乾癬では、特に関与している皮膚領域中で、ゼラチナーゼが上昇していることがある。
【0065】
好ましくは、前記ポリマーは、アミノ酸(すなわち、合成ポリペプチド類縁体)、ムチン、コラーゲン、及びゼラチンの可溶性合成ホモポリマー及びコポリマーから選択される。標準的なカルボジイミド法を用いて、カルボマーのカルボキシレート基にポリマーを付着できるように、これらは全てアミン基を含有しているが、シッフ塩基接合体を形成してもよい。生分解性の多糖であるキトサンを使用してもよい。
【0066】
アミノ酸の可溶性合成ホモポリマー及びコポリマーが可溶性を有するためには、懸垂状アミン、ヒドロキシル、及びカルボキシレート等の親水性基を必要とする。例えば、ポリアスパラギン酸及びポリグルタミン酸等のこれらの化合物は、高分子量になると粘性を生じる場合がある。これらの中には、既に薬物送達において使用されているものもある(Singer, et al.(2000).Ann N Y Acad Sci 922(136):136-50;Yi et al.(2000).Pharm Res 17(3):314-20)が、極めて高価である。
【0067】
ムチンは、かなりの粘度を有する糖タンパク質であり、I型(12%の結合シアル酸を有する最高純度)、II型、及びIII型(徐々に精製度が低くなり、各々1%のシアル酸を有する)様々な精製度のものを購入することができる(Sigma)。
【0068】
コラーゲンとゼラチンは、上述した皮膚コラーゲナーゼに関連するものを含む、数多くの好ましい特徴を有する。コラーゲンそのものは高価なので、現在では、これより安価な誘導体であるゼラチンを用いることが好まれている。
【0069】
ゼラチンは、コラーゲンの可溶性タンパク質性誘導体である。ゼラチンは、濃度が十分に高ければ、臨界温度(幾つかの品質等級では、36℃付近である。)を超えると自由流動性で且つ粘度があるが、この温度を下回ると弾性のある固体になるという著名なレオロジー特性を有している。ゼラチンは無毒性であり、少なくとも実験及び開発研究において局所的調製物中に用いられているとともに、
重い創傷の包帯及び静脈内血漿エキスパンダとして、口、直腸用、皮膚注射用に用いれている。ゼラチンの中にはウシ由来のものがあり、理論的にはプリオンに汚染している危険性があるが、別の採取源も存在する。世界保健機構は、BSEが発生していない国からの供給品から、ゼラチンを含有する医薬品を製造すべきであると指示している(WHO/EMC/DIS/96.147)。
【0070】
親物質のコラーゲンと同様に、ゼラチンは、7つの主要なアミノ酸(さらに、少ない割合でこれ以外の幾つかのアミノ酸)を含有している。コラーゲンでの三重螺旋構造の形成を促進するプロリンツイストのために、分子配置は普通ではない。主要なアミノ酸残基のうち4つは、これに対して共有接合を行うことができる親水性の懸垂を含有している。これらの基を利用できるので、上述のような間隙のフリンジにゼラチンは適している。実際に、ゼラチンは、リシン及びヒドロキシルリシン並びにアルギニン残基中の末端アミン基を介してカルボマーに結合させることができる。ゼラチンは、コラーゲナーゼの他に、複数のキモトリプシン及びエラスターゼを含む、他の様々なプロテアーゼによって分解される。ゼラチン基質の液状化は、嚢胞性繊維症及びある種の細菌の同定用検便でキモトリプシンの指標として用いられる。
【0071】
乾癬を治療するために、本発明の該側面で使用することができる活性物質は、
・シアル酸、タール、ジスラノール(アンスラリン)
・ステロイド、ビタミンD類縁体、レチノイド(ビタミンA類縁体)
・ソラーレン、メトトレキサート、シクロスポリン
モメタゾンやフルチカゾン等のステロイドは、単独で、又はタザロテン等のレチノイド類とともに若しくはビタミンDの類縁体であるカルシポトリオールとともに処方されることが多い。ステロイド類、ビタミンDの類縁体、さらに最近では、レチノイド類は、軟膏、クリーム、及びゲルなどの直接的局所適用物として、ここ何年も販売されている。これらは、少なくとも効果があり、使い易いので、タールやジスラノールよりも、患者には、これらの治療の方が好まれる(Poyner,et al.(2000).J Eur Acad Dermatol Venereol 14(3):153-8)。以下では、下記のような利点を有すると考えられるレチノイドに焦点を当てるが、上記の3つの集団全てが、本発明の本側面である。
【0072】
レチノイド類は、ビタミンA化合物が下位集団を形成する一群の化合物群を形成し、レチノールというアルコールによって代表される生物活性を有する。レチノール(1)自身は、レチナルデヒド(レチナール)(2)へと可逆的に代謝された後、ビタミンAではないが、治療的な活性を有するレチノイン酸へと代謝される。
【化1】

【0073】
レチノイドの命名法は、生物学的に類縁のアロチノイド類(このうち、最近導入された物質であるタザロテンは、乾癬の治療に用いられる、さらに修飾を施された類縁体である)のような他の物質を含むように拡張されることが多い。アダパレンは、薬学的に類似しているが、構造的には全く異なる。
【化2】

【0074】
レチノイド類は、視覚信号の伝達、並びに細胞の増殖及び分化において重要である。これらの化合物の立体化学には、オールトランスとなるか、あるいは、様々なシス異性化を示すポリプレノイド側鎖の関与が重要である。キラル中心は、1及び3位の環の中にも存在する。立体化学は、レチノイド類の幾つかの生物活性にとって重要である。哺乳類の網膜では、例えば、タンパク質ロドプシンは、そのアルデヒド色素体であるレチナールが、オールトランスと11−シス型の間を変換するにつれて、光によって可逆的に転換される。
【0075】
皮膚では、レチノイン酸の異性体(Vahlquist,(1999).Dermatology 1(3):3-11)及びそれらの近縁体を含む幾つかのレチノイド類が、ケラチン生成細胞中のあるタイプの核受容体(この中には、立体感受性のものもあり得る)を活性化し、遺伝子発現を誘発する。これは、受容体の誘導に適したmRNAとタンパク質の産生、表皮の増殖、及び角質化プロセスの変化を含む少なくとも3つの効果を有している(Didierjean, et al.(1999).Exp Dermatol 8(3):199-203)。しかしながら、乾癬の治療におけるこれらの化合物及び類縁化合物の作用機序は明らかでなく(Saurat,(1999).J Am Acad Dermatol:S2-6)、証拠も若干矛盾している。第一に、アセトレチン(acetretin)は結合せずに受容体を活性化するのに対して、タザロテンは3つの受容体サブタイプへの結合が異なるように、観察される受容体への結合と治療活性との間には相関がないことが明らかである。これは、3つの受容体サブセット内での変動に起因する一時的な混乱なのかもしれない。第二の謎は、病変が、既にレチノイン酸(イソトレチノイン)の形成(Arechalde & Saurat(2000).Biodrugs 13:327-333)の増加を示すが、本化合物とアシトレチン(エステル)は極めて効果があり、細胞の分化と連続的な化生性(metaplastic)変化を調節することが示されている。最近の研究は、受容体の活性化の後に、病変皮膚中でmRNAの発現が減少することを指摘しているが(Torma, et al.Acta Derm Venereol 80(1):4-9)、この発見に対する1つの説明となろう。乾癬を治療するために、経口イソトレチノインとアシトレチン(最近のエトレチネート代替物)が20年以上も用いられてきたが、かなりの禁忌と注意が存在する。レチノイン酸の局所適用はニキビの治療に用いられ、抗乾癬活性についてはBNFに収載されていない。しかしながら、タザロテンがこの適応症に収載された(Tang, et al. (1999). Clin Pharmacokinet 37(4):273-87)ことは、優れた安全特性も有する(Marks, R. (1998). J Am Acad Dermatol : S134-8)タザロテンに対して受容体サブセットの特異性が主張されるにもかかわらず、乾癬に他のレチノイド類を局所的に使用できる可能性があることを示している。しかしながら、おそらく経口イソトレチノインの粘膜皮膚に対する対抗手段として、受容体サブセット特異的な新しいレチノイド類が開発中であると報告されている(Nagpal & Chandraratna (2000). Curr Pharm Des 6 (9): 919-31)。酒さ(rosacea)(Vienne, et al. (1999). Dermatology 1(53): 53-6)及び光損傷(Katsambas & Katoulis (1999). Adv Exp Med Biol 455(477): 477-82; Sorg, et al. (1999). Dermatology 1(13): 13-7)も、局所レチノイド類に反応するかもしれないが、局所的に運ばれたレチノイド類は、局所ステロイドの萎縮性効果から皮膚を保護する可能性がある。McMichael, et al. (1996). Br J Dermatol 135(1) : 60-4)。
【0076】
タザロテンが、アダパレンのように、にきびに用いられているので、この用途は拡張される。局所的に与えられたレチノイン酸は、経口レチノイド類より毒性は弱いが、なお炎症と紅斑を引き起こす。しかし、副作用が弱く、ケラチン生成細胞中で活性種に転換されて効果を発揮し、その後に受容体相互作用が起こるので、アルデヒド型のプロドラッグレチナールを用いるのが、特に興味深いと報告されている(Didierjean, et al. (1999). Exp Dermatol 8(3): 199-203; Sorg, et al. (1999). Dermatology 1(13): 13-7)。多くはエステル化されており、貯蔵用リザーバとして働く。残りは、少量の生物活性アルコールと酸の形態へ代謝される。後者は、細胞の酸化能(それ自体、細胞集団の分化に関連しており、そのため、おそらく、明白な発病状態に関連している)に依存した速度で起こる(Sorg, et al. (1999). Dermatology 1(13): 13-7)。生物的な結果の見地からすれば、オールトランスレチナール(オールトランスレチノイン酸(トレチノイン)に代謝される)は、9−シス類縁体(対応するレチノイン酸異性体を形成したものと思われる)より優勢であることが見出された(Didierjean, et al. (1999). Exp Dermatol 8(3): 199-203)。
【0077】
レチノイド類は、催奇形性であることが知られている。レチノイド類は、遍在的なシグナル伝達分子であり、レチノイド類の欠乏及び利用の異常は、ともに発育不全の原因となる(Kubota, et al. (2000). Eur J Pediatr Surg 10(4): 248-51)。頭蓋顔面、肢、及び神経系の異常を含む様々な効果が文献に記載されている(Kubota, et al. (2000). Eur J Pediatr Surg 10(4): 248-51)。主なリスクは、経口調製物にあるが、局所調製物のリスクも無視できない。但し、動物モデルを用いたテストでは、胎児に害を与えることなく、局所濃度の何倍ものイソトレチノインを使用している。
【0078】
レチノイド類は、以下のように調合された産物中に含まれる。
【0079】
チガソン(Roche) エトレチナート 製造中止
ネオチガソン(Roche) アシトレチン 10mg経口
ロアキュテイン(Roche) イソトレチノイン(13−シスレチノイン酸) 5mg経口
イソトレックス(Stiefel) イソトレチノイン 0.05%ゲル(にきび用)
レチン A(Janssen Cilag) トレチノイン(オールトランスレチノイン酸)
0.01%ゲル(にきび用)
0.025%クリーム(にきび用)
0.025%ローション(にきび用)
レチノーバ(Janssen Cilag) 0.05%クリーム(にきび用)
ゾラック(Bioglan) タザロテン
0.05%ゲル(にきびと乾癬用)
0.1%
ダイフェリン(Galderma) アダパレン 0.1%ゲル(にきび用)
レチノイド類は、極めて疎水性の化合物である。室温及びpH7.3の緩衝液中(抗酸化剤あり)での水への溶解度は、以下のように文献に記載されている(Szuts & Harosi (1991). Arch Biochem Biophys 287(2):297-304)。
【0080】
レチノール 0.06μM
レチナール 0.11μM
レチノイン酸 0.21μM
すなわち、0.000002と0.000006%w/vの間である。
【0081】
本発明の該側面で使用するときには、有効量を送達可能とするために、薬物の水溶性は十分でなければならない。上記の溶解特性は、例えば、前記リスト中の0.01%w/vのトレチノインゲルは、混合溶剤(cosolvent)を含有していなければならないことを示唆している。何れも、ヒドロキシプロピルセルロースやカルボマーなどのゲル化ポリマーに加えて、イソトレックス(Isotrex)やアクチシン(Acticin)などのレチノイド調製物はエタノールを含有しているが、ダイフェリン(Differin)等の他のレチノイド調製物はポリエチレングリコールとポロキソマー(poloxomer)を含有している。別の方法としては、Zorac中のポリソルベート40などの界面活性剤とともにゲルを調合することであり、静脈内投与やその他の用途のために、レチノイン酸をシクロデキストリンと錯化させることが技術文献に示されている(Botella, et al. (1996). Journal Of Pharmaceutical And Biomedical Analysis 14:909-915; Lin, et al.(2000). J Clin Pharm Ther 25(4):265-9)。リポソーム又は類似の脂質集合体成分は、ゲル中でも機能して、コロイド状に分散された濃度を上昇させることができる(Li, et al. (1999).Photochemistry And Photobiology 69:500- 504)。
【0082】
このように、本発明の本側面の一実施形態によれば、皮膚酵素依存的にレチノイドを送達するために、カルボマー−ゼラチン接合体を使用することができる。レチノイドは、インシチュで変換される不活性なプロドラッグである旧来のトレチノイン、タザロテン、又はレチナールであり得る。これらは全て溶解度が低いが、混合溶剤、界面活性剤、又はリポソーム中に可溶化することができる。
【0083】
レチナールとレチノイン酸(イソトレチノインとトレチノイン)は、接合体への転換を可能とする基を有している。これによって、水での溶解度が増大するのみならず、酵素依存的な放出(それ自体で使用してもよいし、あるいは、上述の活性物質を経皮投与するための薬学的組成物とともに使用してもよい)を与える。
【0084】
本発明のさらなる側面では、活性物質に共有結合した担体を含む、医薬に用いるための、とくに、前記活性物質を経皮投与するための組成物であって、前記担体と前記活性物質との結合が、1以上に皮膚酵素によって消化され得る組成物が提供される。本発明は、活性物質を投与する方法であって、活性物質に共有結合された担体を含む組成物を、このような投与を必要とする患者の皮膚に与えることを備え、前記担体と前記活性物質との結合が1以上の皮膚酵素によって消化され得る方法、も提供する。
【0085】
本発明の本側面では、前記活性物質は、前記担体に(直接又は間接に)共有結合されている。前記組成物に接触させ、混合される酵素は、物質−担体接合体を切断して、薬剤を放出することが可能でなければならない。この接合体は、皮膚内ではなく、皮膚外で代謝を活性化させるプロドラックと考えることができる。前記担体は、皮膚用調合物に現在用いられている様々なポリマーのうちの1つであり得、前記組成物は単一相且つ水性であることが好ましい。カルボマー、ポリビニルピロリドン、又はセルロース誘導体等の、例えば、直鎖構造又はより複雑な構造を有するポリマーは、水性溶媒中に溶けて、適切な特性を与える。薬物とポリマーの接続は、直接であってもよいし、間接であってもよい。後者の場合には、架橋分子を介して接続させてもよい。該分子もポリマーであってもよく、その場合には、酵素は、架橋中の結合を攻撃することによって薬物を放出させ得る。前記分子は、ペプチド又はポリペプチドであり得る。ポリマー架橋は、全身的に用いられる接合体中に酵素特異性を導入するために使用することができる。何れの場合にも、もちろん、コンジュゲーションと切断によって薬物が損傷を受けなければ、ポリマー構造の様々な部分に多くの薬物分子を付着させることができる。
【0086】
このような接合体は公知であるが、これまでは、経皮投与用には用いられていなかったようである。光によって活性化される神経伝達物質としてロドプシンがどのように作用するかを解明する目的で、レチナールとのシッフ塩基接合体が研究されてきた。このため、デキストラン、ポリリジン、ポリエチレングリコールと接合したレチナールが水溶性接合体として記載されていたが、ホスファチジルエタノールアミン及びアルキルアミンとのレチナールのシッフ塩基接合体は、ミセル化した集合体を与えた(De Pont, et al. (1969). Exp Eye Res 8(2): 250-1; Adams, et al.(1974). Exp Eye Res 18(1) :13-7; Pitha, et al. (1980). J Natl Cancer Inst 65(5):1011-5; Freedman, et al. (1986). Photochem Photobiol 43(3):291-5; Singh, et al.(1990). Biochim Biophys Acta 1036(1): 34-40; Viguera, et al. (1990). J Biol Chem 265(5): 2527-32)。従って、このような接合体は、有用な水への溶解度を与えるかもしれない。
【0087】
本発明の本側面の好ましい特徴は、上述した活性物質を経皮投与するための薬学的組成物と同様である。本発明の各側面の好ましい特徴は、相互に、別の各側面について当てはまる。本明細書に記載した従来技術の文献は、法によって許容される最大限まで、本明細書に組み込まれる。ここで、以下の非限定的な実施例において、本発明をさらに説明する。
【実施例】
【0088】
序論
コンカナバリンA(conA)とデキストランの調合物は、グルコース感受性であることが以前に示されている。ConAは、構造に寄与する各サブユニット中にグルコース受容体を有するタンパク質である。本タンパク質は、pH5.8を下回ると二量体となるが、pH5.8と7.0の間では四量体であり、これを超えるとさらに大きな集合体を形成し始める。前記受容体は遊離のグルコースのみならず、デキストランのような多糖上の末端グルコースユニットも収容する。このような末端の相補物の中で、デキストランは多価なので、レクチンとの混合によって、沈殿物かゼラチン状の何れかとなり得る複雑な構造が生成される。受容体部位の占有を競合する遊離のグルコースを添加することによって、前記構造は不安定化される。前記混合物のゼラチン状調合物にグルコースを加えた環境下では、粘度が鋭く減少するが、グルコースを透析除去すると、元に戻る。この機序は、周囲のグルコースレベルが低ければゲルを通じた拡散が遅いが、グルコースとの接触によって、粘度が減少すれば、送達速度の増加を誘発することができる、インシュリン等の低血糖剤用送達装置の基礎を成す。
【0089】
このデザインに伴う問題は、ゲルから成分が浸出する傾向があることである。ゲルが破壊されると前記成分は水に分散されるので、ゾル型を安定化させて調合物からの喪失を妨げるが、前記デザインが依存する粘度変化は妨げない何らかの手段が必要とされる。以下では、工業生産されているタイプのカルボマーであるCarbopol 974と934(C974及びC934と称される)に共有結合させる操作を、レクチンに対して行った。これらの物質は、三次元的に架橋されて、ゼラチン状であるが、粒状の要素(それぞれ、数十億の分子量を有する)を与えるポリアクリル酸誘導体である。EDACとカルボキシル成分(本ケースでは、カルボマー部位に由来する(図6参照))との間に一時的な中間構造を与えるように作用する1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩化水素物(EDAC)を用いて、結合を行った。続いて、この中間体は、conAを含むタンパク質の末端及びリシン部位に存在するアミン基と結合することができる。これによって、アミド結合の形成とEDAC残基の喪失とがもたらされる。ConAは、カルボマー粒子の表面がレクチンによって恒常的に被覆された状態になるように、カルボマーと効果的に接合され得る。
【0090】
カルボマーC934とC974は、ともに架橋されているが、何れも完全な(integral)構造でないという点で多くのポリマー性ゲルとは異なる。水和された各粒子は、実際には、分画されたハイドロゲルであり、間隙の水性領域は各粒子を隣接粒子から隔てる。このことは、直鎖ポリマー(直鎖カルボマータイプを含む)から作製されたゲルや普通のハイドロゲルに比べて、この種のカルボマーゲルを通じて、インシュリンのような巨大分子が素早く拡散できることを意味している(図7a)。後者は何れも、構造全体にわたって、それぞれ物理的及び化学的なもつれ(entanglement)が生じ、インスリンの輸送に対して十分律速となり得るので、障害がより大きい。
【0091】
試薬
カルボポール974(C974)、カルボポール934(C934) BF Goodrich
EDAC[1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩化水素]、Sigma
MES[2−(N−モルフォリノ)エタンスルホン酸]、Sigma
PBS(リン酸緩衝生理食塩水、pH7.4及び5.9)
NaOH(粒及び1M溶液)、Fisher Scientific
デキストラン(RMM 2,000,000)、Sigma
アジ化ナトリウム、Sigma
コンカナバリンA、Sigma
蒸留水
1M HCl(塩化水素酸)、BDH。
【0092】
実施例1−ゲルの作製と粘度の測定
0.1M MES緩衝液中に1%w/wのカルボマー分散液を作製し、中性になるように調整し、透明になるまで撹拌した。次いで、最終濃度も約1%w/wで、pHが中性に保たれるように、これにConAを添加した。続いて、50mM EDACを用いて、この系を接合させ、室温で3時間撹拌した後にpH5.9のPBSで希釈し且つさらなるconAが洗浄物から上清中に現れなくなるまで、一部脱水されたカルボマー接合体から得られた洗浄物を遠心することによって反応を停止させた。除去された総タンパク質は、全洗浄物と濾過された洗浄物とを276nmでアッセイすることによって求めた。カップリング効率は、90%を上回った。続いて、中和されたカルボマー−conA接合体にPBS(pH7.4、0.01%のアジ化ナトリウムを加えて保存)中の20%w/wデキストラン D2M(分子量二百万)溶液1gを加え、十分に混合した。従って、最終産物には、それぞれ200mgのカルボマーとデキストランD2Mが含有されている。次いで、1MNaOHとスティブ(stiff)を用いて、ゲルのpHを7.4に調整し、グルコース反応性のゲルを得る。最終のpH調整に応じて最終重量は若干変化し、含量はこれに従って計算する。
【0093】
C974とC934の両者をこのように接合し、様々な濃度のグルコースの存在下での粘度試験に供した。粘度の測定値は、Haake Rheostress RS75 cone and plate viscometerを用いて、連続回転モードで得た(剪断(shear)の速度は、0乃至5s−1に増減した)。5s−1の剪断速度値に対応する粘度の値を用いて、0乃至5%w/vのグルコース濃度でゲルを比較した。ゲルは20℃で比較し、C934産物も37℃で測定した。
【0094】
粒状カルボマーC974及びC934から産生された接合体は、以下の組成を有すると計算された。
【表1】

【0095】
調合物は、元のカルボマーゲルが極めて透明であるのに比べると、若干不透明であった。過剰のEDACの存在下でconAを加えるプロトコールは、様々な産物(カルボマーに加えられたレクチンの繊維(strings)を含むことがある)を生じるものと思われる。これは、conAがEDACの作用に対して脆弱なカルボキシル基も有しているからである。しかしながら、この方法では、conAが高い割合で結合した結果が得られ、この段階では、conAを添加する前にカルボマー−EDAC反応を停止させる方法より優先的に用いられた。
【0096】
前記調合物の性能を評価する見地からは、これらの生成物を、カルボマーを加えないデキストラン2DMとconAのみの水性混合液と比較することが有用である。しかしながら、カルボマーを含まない水性混合液中で低濃度のデキストランを用いると、2.5%のconAは沈殿物のみを形成するので、直接的な類推は不可能であった。このため、2.5%のconAを10%w/wのD2Mと組み合わせて、低粘度のゲルを形成させた。カルボマーの存在下におけるこの濃度のデキストランは、極めて粘度の高い生成物を与え、本研究に用いることができなかったので、それらの中のデキストラン含量は約3%w/wである。
【0097】
図8は、グルコースの添加によって、主に、糖尿病の抑制において有用な製品をデザインするのに適した範囲である0−0.5%w/wのグルコース濃度にわたって(グラフ上で強調表示されている)、水性調合物の粘度が段階的に下落することを示している。この反応は、上述した置換機序の化学量論に依存しており、従って、デキストラン及びグルコースの相対濃度の関数である。保持に重要なのはこの反応である。
【0098】
図9の結果は、前記水性調合物と同様のグルコース範囲にわたる粘度の下落を示しており、カルボマー粒子に対してグルコース感受性が負荷されたことを実証している。しかしながら、レクチン−デキストリン結合がグルコースによって元に戻るベースライン粘度レベルは、このポリマーの粘度故に、カルボマーが存在するときにはずっと高くなる。
【0099】
図9は、カルボマー含有調合物中に用いられているデキストラン含量がさらに低いにもかかわらず、デキストランとconAの付加によって、単なる水系よりも、カルボマー系の方が、無グルコース産物の粘度がずっと多量に上昇することも示している。図9にも示されているように、このことは、グルコース応答の規模が、粘度変化に関しては、水性調合物に比べてカルボマー調合物の方が大きいことを意味している。カルボマーへのレクチンの共有結合が存在しなくても、これは起こるので(図示せず)、デキストラン−conA系上のカルボマーの存在の機能である。これに対する説明は、上述したカルボマー分散物の不均一性である。デキストランとconAは、そのサイズ(それぞれ、2百万と100,000)がC974及びC934粒子内部からそれらを排除するはずなので、間隙に拘束される。間隙は、全容量の一部なので、それらの局所濃度は、それ故、総濃度よりずっと高くなければならない。先述したように、完全な水系と比べて、カルボマー系で用いた極めて低濃度のデキストランとconAの間で形成される複合体の物理特性の差は、これによって説明される。カルボマー系では、間隙領域の微視的粘度が、調合物のグルコース感受性に対して、明らかにずっと大きな寄与をする。しかしながら、グルコースによって誘発された巨視的粘度の変化は、均一な水系よりずっと大きいので、本実験で判明したように、グルコースによって引き起こされたマクロ粘度の変化は、活性な間隙と不活性な粒状区画に対する単純な平均ではないようである。このことは、間隙の粘度が本系のグルコース感受性の増加の唯一の理由ではなく、その存在がゲル中に存在する粒子の動きの自由度に全体として影響を与え、このため、その巨視的粘度に対してさらに効果を有することを示唆しているように思われる。
【0100】
C934接合体について図10に示されているように、同様の粘度の下落が37℃で生じる。カルボマーとデキストラン及びconAの水性無カルボマー調合物とがともに類似の挙動を示すことから予想され得るように(何れも図示せず)、37℃での粘度値と変化は何れも、20℃のものを下回る。しかしながら、この系は、生理的な温度で明らかに鋭敏なグルコースセンサーとなる。
【0101】
20℃で調べた本系では、初期値に対する割合として表示すると、図11に示されているように、絶対値が高いにもかかわらず、水系よりカルボマー系の方が、粘度変化が小さい。
【0102】
レクチンをカルボマーに共有結合させたい主な理由は、活性を損なわずに、レクチンが調合物から失われるのを防ぐことである。グルコースによって誘発された粘度変化は、そこから得られた上清を遠心することによってカルボマーを数回洗浄した後でも、グルコース感受性を有することを示している。このことは、EDACを結合剤として用いて、カルボマー粒子の表面にレクチンを繋着できることを示唆している。カルボマーとレクチンを単に混合したものは、このように洗浄すると、活性を保持しない(図示せず)。
【0103】
実施例2−インシュリンの拡散
実施例1に記載されているゲルを、37℃でのインシュリン拡散試験にも供した。これらの実験では、各々が0.5mLのインシュリン溶液又は緩衝対照溶液を保有することができる6つの小さな送達細胞を使用した。10mLの緩衝液を有し、且つ10分間隔で250乃至500nmの間で各受容体溶液を順次スキャンようにプログラムされたPerkin Elmer Lambda 40分光光度計に各フロースルーシステムによって接続された、温度制御を行った受容体容器の中に、それぞれの細胞を空の状態で載せた。所定の時点でシリンジによって細胞を充填した後、タップアレンジメントを用いて密封し、水が漏れないようにした。各細胞の中では、インシュリンが貯蔵部からゲルを通過して拡散し、受容体溶液に到達するように、ゲルの薄層を2つのフィルター膜の間に挟んだ。実験中の任意の時点で、必要な濃度でグルコースを各受容体溶液に加えることができた。グルコースを除去するためには、測定の間に、受容体液を37℃の新しい緩衝液と入れ替え、フロースルー回路に水を流し、次の測定が行われるまでに、再度緩衝液を入れ替えた。
【0104】
インシュリンを含有する拡散細胞の場合には、図12aに示されている時点でグルコースを添加すると、0.5%のグルコースを加えてから約60分以内に排出が増加した。図12bは、緩衝液を含有する細胞から得られた結果を示しており、グルコースによって誘発されたconAの放出を表している。水性分散液の中では、インシュリンと同様のグルコース誘発性遊離が起こったと思われるので(図示せず)、このことは、ゲル層からのconAの喪失が最小化されたことを示している。従って、conAの喪失はほとんど無視できることが示されたが、図12aの結果は、さらにこの効果に関して補正されている。加えて、460nmで測定した光学密度に関して、インシュリン系と対照系の両者に補正を行った。光学密度は、原繊維の産生を含むタンパク質沈殿の指標である。本実験では、conAに比べてインシュリンの場合に、原繊維の形成がずっと大きな問題となる。これは、蠕動式ポンプの中を溶液が循環することによって起こる剪断力が加えられることによって生じる。この問題を小さくするために、装置からの放出過程を律速段階に保ちながら、本実験では、受容体から分光光度計への循環系中の流速を可能な限り小さく保った(装置からの放出プロセスを律速段階として維持することと同じ)。液体の入れ替えによってグルコースが除去されるため実験を通じて一定ではないし、タンパク質濃度の不定関数なので、この効果は、276nmのプロフィールから差し引くことによって補正する必要がある。
従って、カルボマーC934とC974にレクチンを共有結合し、これをデキストランと連結した結果、グルコース含量の関数としてのインシュリンの拡散制御に関して、グルコース依存性のデキストランとconAの混合物の活性が維持された。これは、かなり重い糖尿病の状態に相当するグルコースの濃度で作用した。この方法は、ゲル層中にカルボマーを保持する孔より小さな孔を通じてconAが滲出することができない調合物も与えた。C934やC974のようなカルボマーは10億単位の分子量(及びμm程度の粒子サイズ)を有するので、これによって、本実施例に記載した状況下で、極めて巨大な孔の拘束膜を用いることが効果的に可能となる。この利点は、ゲル自体がインシュリンに関して律速になり、その間にゲルを挟んだセルロース膜は律速とはならないということである。レクチンを保持するために、インシュリンのサイズに近い分子カットオフを有する有孔膜を必要とする、接合されていない混合物では、これが課題となっていた。
【0105】
実施例1と実施例2に示されたデータは、C974又はC934等の粒子状カルボマーとタンパク質等の第二の成分との間に、タンパク質の化学的特性の一部を維持することが可能な、一般的でない接合体を作製することが可能であることを示している。この場合には、その中で調合物の間隙領域がグルコース感受性になる系を与えるように、ConAは架橋されたカルボマーに結合されてきた。EDAC法が用いられたが、代替法も可能である。この接合体にデキストランを加えれば、レクチンとデキストラン上の分枝末端との間に形成された一時的な連結のために、系は粘性になる。レクチン中のグルコース受容体を競合するために、次いで、この系の粘度は、遊離グルコース含量の関数となる。この機序は、conAとデキストランの単純な混合物中で有効に機能するが、共有結合で接合された調合物の中では、さらに有効に作用する。この増強は、粒子間に存在する前記系の画分中にレクチン−デキストラン複合体が形成され、高い局所濃度のグルコース感受性成分が作り出される粒子状カルボマーゲルの不均一な構造に関係しているようである。これらの接合された調合物は、グルコース依存的な巨視的粘度の減少をもたらすことが示された。遊離のレクチンを喪失させずに、グルコースが関与した態様で、インシュリンを伝達することもできた。後者はカルボマー粒子に共有結合した状態を保つので、カルボマー粒子を保持できるのに十分且つ必要な膜孔径によって制約される。
【0106】
実施例3−共重合されたゲル
方法
コンカナバリンAのメタクリル酸化
7.4のリン酸緩衝生理食塩水中のメタクリル酸無水物とともに、コンカナバリンAを2−3時間、50℃で還流した。50mLの丸底フラスコに入れた10mLのリン酸緩衝生理食塩水中に、500mgのConAを溶かし、これに、0.05mLの蒸留したメタクリル酸無水物を加えた。還流後、蒸留水(20mL)を用いて反応を停止させ、分子量が12−14,000未満の産物を除去するために、溶液全部を蒸留水に対して2時間透析した。この工程によって、未結合のconAを除去することはできない。
【0107】
デキストランのメタクリル酸化
10g量のD500(分子量500,000のデキストラン)を秤量し、五酸化リン上で乾燥させた。別個に、ジメチルスルホキシド(DMSO)を水素化カルシウム上で乾燥させた後、蒸留した。次いで、乾燥させたデキストランに100mLの量の蒸留したDMSOを加え、油槽上、50℃で、得られた混合物を攪拌して溶解させた。これに、200mgのジメチルアミノピリジン(DMAP)と2.77mLの蒸留したメタクリル酸無水物を加えた。次いで、24時間還流しながら、油槽上、50℃で、この混合物を攪拌した。1Lのアセトン中に滴下させることによって沈殿させて、メタクリル酸デキストランの白片を得た。次いで、500mLの蒸留水中にこの産物を溶かし、蒸留水に対して透析し、DMSO、DMAP、メタクリル酸無水物等の小分子量の生成物を除去した。
【0108】
メタクリル酸誘導体のuv架橋
イニシエータであるIrgacure(フォトイニシエータ、Ciba Speciality Chemicals)を用いて、uv硬化プロセスを開始した。40mg/5mLのIrgacureの水溶液20μLを加えた。次いで、365nm、10mW/cmで、所定の時間、サンプルを照射し、間隔を置いたフィルムの両面が等しく照射されるように、ガラスプレートの間に分配した。
【0109】
この系における変数は、
成分の濃度
イニシエータの濃度
デキストラン及びconA置換の程度
照射時間
である。
【0110】
これらの変数によって、様々なゲルを作製することが可能となる。以下のケースでは、照射時間は、2乃至50分の間を変化させた。
【0111】
拡散試験
次いで、実施例2と同一の拡散試験に上述のように作製したゲルを供した。結果は以下のとおりであった。
【0112】
結果
図13aには、グルコースによる誘発前と誘発後における、タンパク質conAの重合可能なメタクリル酸化誘導体からの浸出がプロットされている(実験は、0.2μmの孔径のフィルター、及び1%w/vのグルコース誘発濃度を用いて、37℃で行った)。ゲルがグルコースと接触すると柔らかくなるにつれて、uvにゲルを当てる照射時間と適切なイニシエータの増加によって、ゲルとして生成されるタンパク質のピークが減少する。短い照射時間(例えば、5分−三角)ではこのようなことが起こらないのに対して、20分の硬化時間(菱形)は、僅かな浸出のみをもたらす。従って、重合によって、これらのより長時間照射したが、なお硬直していないゲルの中にタンパク質を閉じ込めるという目的が達成された。しかし、ゲルなしの対照(黒四角)との比較は、20分の照射によって、僅かではあるが、何らかのタンパク質の放出が全体に起こることを示している。
【0113】
図13bは、照射時間をずっと長くすることによってこの問題が解決され、50分の照射によって、グルコース添加前、添加中、添加後の何れの場合にも、タンパク質をほとんど失わない産物が得られるようである。これも硬直していないので、前記の目的に適している。
【0114】
図14は、成分の浸出を最少に抑えたこれらの条件下では、正確に相似した設定で、ゲルの層の後ろに保持された貯蔵物からグルコースがインシュリンの放出を誘発できることを示している。従って、インシュリンが放出されるが、成分タンパク質conAを浸出させないように、ゲルは反応することができる。グルコースを除去すると、ゲルは矯正され、インシュリンの流入が前グルコースレベルまで復活する。このことは、それが真に可逆的であり、何れのゲル成分も失われていないことを示唆している。
【0115】
結論
重合化は、単純な混合物と同程度の反応性を示すが、成分を失う傾向がないゲルを製造する有効な方法である。
【0116】
実施例4−EDACを用いたゼラチン:カルボマー接合体
ゼラチンとカルボマーの接合は、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩化水素物(EDAC)を用いて行い、EDAとカルボマーのカルボキシル部分との間に一時的な中間構造を与える。前記中間体は、とりわけ、ゼラチンの末端及びヒドロキシリジン部位に存在するようなアミン基と結合する。カルボマー粒子の表面がゼラチンで恒久的にコートされる一方、EDAC残基が恒久的結合部位を離すように、ゼラチンはカルボマーと効果的に接合される。ゼラチンの中にはカルボキシルとアミンがともに存在するので、この方法では、カルボマー−ゼラチン結合に加えて、ゼラチン−ゼラチン結合が幾分発生する。極めて高濃度になった場合でも、加えたゼラチンは、たとえ遠くであってもカルボマー担体に全て結合するので(単純な単層ではなく、各ミクロ(又はミニ)ゲルの水和されたカルボマー粒子に結合した複層を有するかもしれない)、これは不利益ではない。
【0117】
しかしながら、(カルボマーとEDACとの)中間体を産生し、過剰なEDACを除去するために洗浄した後、ゼラチンを結合するように本方法を改変してもよく、この場合には、ゼラチン含量が最少となるであろう(単層のみ)。
【0118】
水和されたカルボマー974又は934各粒子は、分断されたハイドロゲルであり、間隙の水性領域によって他から分離されている。これは、表面に結合されたゼラチンが、酵素又は化学作用によって水和されるまで、間隙の粘度を上昇させ得ることを意味している。
【0119】
試薬
カルボポール974(C974)、カルボポール934(C934) BF Goodrich
EDAC[1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩化水素]、Sigma
MES[2−(N−モルフォリノ)エタンスルホン酸]、Sigma
PBS(リン酸緩衝生理食塩水、pH7.4及び5.9)
NaOH(粒及び1M溶液)、Fisher Scientific
デキストラン(RMM 2,000,000)、Sigma
アジ化ナトリウム、Sigma
ゼラチン、Sigma
蒸留水
1M HCl(塩化水素酸)、BDH
方法
0.1MのMES緩衝液中で、1%w/wのカルボマー分散液を作製し、中性に調整し、透明になるまで攪拌した。望む産物に応じて最終濃度が0乃至8%w/wとなるようにこれにゼラチンを加え、pHは中性に保った。次いで、50mMのEDACを用いて、この系を接合し、pH5.9のPBSで希釈し、洗浄しても上清中にさらなるconAが現れないようになるまで、一部脱水したカルボマー接合体から得られた洗浄物を遠心することによって、室温で3時間攪拌した後に反応を停止させた。除去された総タンパク質は、総洗浄物と濾過した洗浄物を276nmでアッセイすることによって算出した。次いで、1MのNaOHを用いて、ゲルのpHを調整し、ゼラチンの影響のために、著しく柔らかくさせることによって、37℃を上回る温度に対して応答する硬化されたゲルが得られる。
【0120】
レオロージ試験
8%のゼラチン含量と2%のカルボマー974のゲルに対して、レオロジー試験を行った。適切な試験は、本明細書に、tanデルタ又はロスタンジェントとして報告されている、振動する(oscillatory)非破壊的な試験である。このパラメータは、粘性及び弾性係数の比であり、従って、1の値は、これらの各々からの寄与が等しいことを示す。1より大きな値は、物質の特性がより液状となったことを意味する。従って、tanデルタプロフィールを評価する目的で、圧力(stress)及び周波数掃引を行う。
【0121】
図15a−fに結果が示されている。これらのグラフでは、圧力と周波数の両方にわたってプロフィールが測定されており、tanデルタの上昇に照らすと、特に高い圧力値におけるキモトリプシン活性を明らかに示す3次元プロットが得られ、これらは、酵素含量がないとずっと低くなる。これに対する例外は、温度を37℃より上げたとき(ゼラチンが融解する温度)である。このため、37℃では、酵素なしでも、物質が既に極めて柔らかくなっているので、この系は有効でない。幸運にも、皮膚の温度は32℃前後であり、この場合、その効果は20℃と同程度に明白である。
【0122】
乾癬プラーク中に過剰発現されることが明らかとなっている角質層キモトリプシン酵素(SCCE)と極めて類似した酵素を用いたこの試験によって、これらの人工的な条件におけるとほぼ同様に、本物質は、プラーク上で選択的に粘性を失うが、正常な組織上では粘性を失わないことが示唆される。ゼラチンに富む相(すなわち、前記物質の間隙領域)を通じた薬物の分散可能性は、相の粘性に環レしており、異常な皮膚上の領域において、薬物の輸送が上昇すると結論付けられる。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】図1は、デキストランとconAのメタクリル酸誘導体の重合を示している。
【図2】図2は、デキストランとconAのメタクリル酸誘導体の重合から得られるデキストラン−conAコポリマーの模式図である。
【図3】図3は、マトリックスの成分のうち少なくとも1つが少なくとも三価である場合に、マトリックスがどのように形成され得るかを示している。
【図4】図4は、本発明のゲルの模式図である。
【図5】図5は、本発明に係る別のゲルの模式図である。
【図6】図6は、アミン含有要素(conA等)のカルボキシル保有担体へのカルボジイミド(カルボマー等)付加を表している。
【図7】図7は、カルボマー粒子表面にconAを植設する前後の構造とインシュリン拡散経路を示している。
【図8】図8は、デキストランとconAを用いて調合された水性ゲルにグルコースを付加することによって、粘度が喪失することを示すグラフである。
【図9】図9は、デキストランとconAを用いて調合されたカルボマー含有ゲルにグルコースを付加することによって、水性製剤と同じグルコース濃度域で粘度が喪失することを示すグラフである。
【図10】図10は、デキストランとconAを用いて調合されたカルボマー含有ゲルにグルコースを付加することによって、20℃と37℃の何れにおいても、粘度が喪失することを示すグラフである。
【図11】図11は、デキストランとconAを用いて調合されたカルボマー含有ゲル、及びデキストランとconAを用いて調合された水性ゲルにグルコースを付加したときの粘度の減少を表すグラフである(最初の粘度に対するパーセントとして示されている)。
【図12】図12aと12bは、本発明のゲルからのタンパク質の放出を表すグラフである。
【図13a】図13aと13bは、様々な程度の重合を施したConAの重合可能なメタクリル酸化誘導体からのConAの放出を表すグラフである。
【図13b】図13aと13bは、様々な程度の重合を施したConAの重合可能なメタクリル酸化誘導体からのConAの放出を表すグラフである。
【図14】図14は、グルコースの存在下又は不存在下における、本発明のコポリマー化されたゲルによるインシュリンの放出を表すグラフである。
【図15−1】図15a−cは、キモトリプシンの不存在下において、それぞれ、20℃、32℃、及び37℃で、本発明の組成物の正接値(tangent value)が喪失されることを示すグラフである。
【図15−2】図15d−fは、キモトリプシンの存在下において、それぞれ、20℃、32℃、及び37℃で、前記組成物の正接値が喪失されることを示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに可逆的に結合してゲルを形成する第一及び第二のゲル形成成分を含んだゲル組成物であって、前記結合が分析物のレベルに対して感受性を有し、架橋された粒状要素間の間隙がゲルーゾル転移及びゾル−ゲル転移を行うことができるが、前記分析物が前記間隙を通じて拡散することができない程には小さくないように、架橋された粒状要素に前記ゲル形成成分の一方又は双方が付着されている、ゲル組成物。
【請求項2】
前記粒状要素が局所的に架橋されたポリマーである、請求項1に記載のゲル組成物。
【請求項3】
前記ポリマーがアクリル酸ポリマー又はコポリマーである、請求項2に記載のゲル組成物。
【請求項4】
前記ポリマーが架橋されたカルボマーである、請求項3に記載のゲル組成物。
【請求項5】
前記カルボマーがカルボポール974P又はカルボポール934Pである、請求項4に記載のゲル組成物。
【請求項6】
前記第一及び/又は前記第二の成分が前記粒状要素に直接的に付着されている、先行する請求項の何れか1項に記載のゲル組成物。
【請求項7】
前記第一及び/又は前記第二の成分がポリマーを介して前記粒状要素に間接的に付着されている、先行する請求項の何れか1項に記載のゲル組成物。
【請求項8】
前記第一の部分が互いに結合するとゲルを形成する高分子であり、前記第二の成分が前記高分子の少なくとも一部に結合してこのような結合を与える分子である、先行する請求項の何れか1項に記載のゲル組成物。
【請求項9】
前記第二の成分がレクチンであり、前記第一の成分が前記レクチンに結合するゲル形成高分子である、先行する請求項の何れか1項に記載のゲル組成物。
【請求項10】
前記第一の成分がデキストランであり、前記第二の成分がコンカナバリンAである、請求項9に記載のゲル組成物。
【請求項11】
前記第二の成分が抗体である、請求項8に記載のゲル組成物。
【請求項12】
前記第一及び前記第二の成分がコポリマーの形態である、先行する請求項の何れか1項に記載のゲル組成物。
【請求項13】
互いに可逆的に結合してゲルを形成する第一及び第二のゲル形成成分を含んだゲル組成物であって、前記結合が分析物のレベルに対して感受性を有し、前記ゲル形成成分が共重合されている、ゲル組成物。
【請求項14】
請求項1乃至11の何れか1項の特徴によって修飾を受けた、請求項13に記載のゲル組成物。
【請求項15】
半透膜又は透過膜と組み合わされた、先行する請求項の何れか1項に記載のゲル組成物。
【請求項16】
先行する請求項の何れか1項に記載のゲル組成物と薬物とを備えた薬物送達システムであって、前記薬物が、(a)前記ゲル組成物の中に含有されているか、又は(b)貯蔵部の中に含有され、前記ゲル組成物が前記貯蔵物と前記薬物が放出されるべき領域との間の境界を成している、薬物送達システム。
【請求項17】
分析物のレベルを検出するためのセンサーであって、請求項1乃至15の何れか1項に記載のゲル組成物と該ゲルの粘度を検出するための手段とを備えたセンサー。
【請求項18】
ゲル組成物を製造する方法であって、第一及び/又は第二のゲル形成成分を架橋された粒状要素に付着させることを備え、前記第一及び第二のゲル形成成分は互いに可逆的に結合してゲルを形成することができ、前記結合が分析物のレベルに対して感受性を有し、架橋された粒状要素間の間隙がゲルーゾル転移及びゾル−ゲル転移を行うことができるが、前記間隙を通じて前記分析物が拡散することができない程には小さくない、方法。
【請求項19】
請求項1乃至12の何れか1項の特徴によって修飾を受けた、請求項18に記載のゲル組成物。
【請求項20】
活性物質を経皮投与するための薬学的組成物であって、(a)前記活性物質を含有する担体か、又は(b)前記活性物質と前記活性物質が放出されるべき領域との間に障壁を形成する担体を備え、前記活性物質が前記酵素の作用によって前記組成物から放出されるように、前記担体の少なくとも一部が1以上の皮膚酵素によって消化され得る、薬学的組成物。
【請求項21】
活性物質に共有結合した担体を含む、医薬に用いるための、とくに、前記活性物質を経皮投与するための組成物であって、前記担体と前記活性物質との結合が、1以上に皮膚酵素によって消化され得る、組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13a】
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【図13b】
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【図14】
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【図15−1】
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【図15−2】
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【公開番号】特開2011−144197(P2011−144197A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−58397(P2011−58397)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【分割の表示】特願2003−512710(P2003−512710)の分割
【原出願日】平成14年7月10日(2002.7.10)
【出願人】(504014750)デ・モントフォート・ユニバーシティ (1)
【Fターム(参考)】