説明

コア−シェル構造を有するLEV型ゼオライトとその合成方法

【課題】コア−シェル構造を有するLEV型ゼオライトと、その合成方法を提供するものである。
【解決手段】コアとシェルを有し、コアとシェルのSi/Alモル比が異なる、コア−シェル構造を有するLEV型ゼオライトである。このゼオライトは、FAU型ゼオライトと、ナトリウムイオンと、水酸化物イオンと、LEV型ゼオライト種結晶と、水とを含有する混合物を水熱合成する方法により合成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コア−シェルの2層構造を有するLEV型ゼオライトと、その合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼオライトとしては、種々の構造のものがあり、その中にLEV型ゼオライトがある。LEV型ゼオライトは、天然ではレビナイトとして産出され、2次元8員環細孔を有するものである。この8員環細孔は、長軸4.8オングストローム、短軸3.6オングストロームの直径を有する。LEV型ゼオライトの人工的な合成は、特許文献1で初めて報告された。LEV型ゼオライトは、触媒、吸着剤として用いることができ、特にアルコールから低級オレフィンを製造する触媒として注目を集めている。
【0003】
ゼオライトは、種々の触媒反応に用いられており、より緻密な反応制御のためにゼオライト粒子の内部と外部を異なる組成、または異なる結晶で構成した、所謂コア−シェル構造のゼオライトが検討されている。
コア−シェル構造のゼオライトとしては、例えば、メタロシリケートをコアに、アルミノフォスフェートをシェルにした流動接触分解用触媒(特許文献2参照。)、12員環以下の細孔を持つゼオライトをコアに、8オングストローム以上の細孔を持つゼオライトをシェルにしたクラッキング用触媒(特許文献3)、コアがオフレタイトかオメガゼオライト、シェルがモルデナイトかオメガゼオライトで形成されるゼオライト(特許文献4)、コアとシェルでAl含有量が異なるZSM−5ゼオライト(非特許文献1)、モルデナイトをコアに、ZSM−5をシェルにしたゼオライト(非特許文献2)などが挙げられる。コア−シェル構造を採用することにより、触媒寿命の伸長や選択性の向上が確認されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第3459676号明細書
【特許文献2】米国特許第5972205号明細書
【特許文献3】米国特許第5179054号明細書
【特許文献4】特開昭63−35412号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Microporous and Mesoporous Materials,129(2010),p220
【非特許文献2】Microporous and Mesoporous Materials,119(2009),p91
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、種々のコア−シェル構造を有するゼオライトが開発されているものの、LEV型ゼオライトにおいて、コア−シェル構造を有するものはこれまで知られていなかった。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、コア−シェル構造を有するLEV型ゼオライトと、その合成方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者が上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、FAU型ゼオライトを原料とし、LEV型ゼオライトを種結晶とし、ナトリウムイオンを構造指向剤として水熱合成することにより、コア−シェル構造のLEV型ゼオライトを合成できることを見出した。
本発明のLEV型ゼオライトは、コアとシェルを有し、前記コアと前記シェルのSi/Alモル比が異なることを特徴とする。
前記コアと前記シェルのカチオン種を異ならせることもできる。
本発明のLEV型ゼオライトの合成方法は、前記コア−シェル構造のLEV型ゼオライトを合成する方法であって、FAU型ゼオライトと、ナトリウムイオンと、水酸化物イオンと、LEV型ゼオライト種結晶と、水とを含有する混合物を水熱合成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、コア−シェル構造を有するLEV型ゼオライトと、その合成方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例で合成したコア−シェル構造を有するLEV型ゼオライトのEDXによる(a)Al分布図と、(b)Si分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のLEV型ゼオライトは、コアとコアの外側のシェルとを有するコア−シェル構造のものであり、コアとシェルのSi/Alモル比が異なる。
本明細書中、LEV型ゼオライトとは、国際ゼオライト学会で定義される構造コードLEVに属するゼオライト化合物を示す。LEV型ゼオライトのX線回折パターンは、表1に示す格子面間隔d(ナノメートル)とその回折強度で特徴付けられる。また、FAU型ゼオライトとは、同様に、国際ゼオライト学会で定義される構造コードFAUに属するゼオライト化合物を示す。
【0012】
【表1】

【0013】
本発明のコア−シェル構造のLEV型ゼオライトは、シリカ源およびアルミナ源と、構造指向剤としてのナトリウムイオンと、ゼオライトを結晶化させる成分としての水酸化物イオンと、LEV型ゼオライト種結晶と、水とからなる混合物を水熱合成することにより合成できる。
【0014】
シリカ源およびアルミナ源としては、FAU型ゼオライトを用いる。シリカ源およびアルミナ源としてFAU型ゼオライトを用いることによって、LEV型以外の結晶相を誘起することなく、速やかに、本発明のコア−シェル構造のLEV型ゼオライトを得ることができる。例えば、シリカ源として一般的に用いられる沈降法シリカを用いた場合には、反応が遅く、現実的な時間内に結晶を得ることができない。
【0015】
このように本発明のコア−シェル構造のLEV型ゼオライトを合成するにあたって、シリカ源およびアルミナ源としてFAU型ゼオライトの採用が有効である詳細な理由は、必ずしも明らかではないが、例えば、ゼオライトのループコンフィギュレーションを利用して説明することができる(ATLAS OF ZEOLITE FRAMEWORK TYPES 5th Revised Edition(2001),Elsevier,p7〜8,p76,p132参照。)。
すなわち、ゼオライト合成では、原料のSi−O結合が解離・再結合する過程で結晶相が形成されていくが、この際、目的とする骨格の一部が原料中に予め存在すれば、結晶化が促進されると期待できる。LEV型とFAU型のループコンフィギュレーションは類似しており、FAU型がLEV型の原料に適するものと理解できる。
なお、シリカ源およびアルミナ源として、FAU型ゼオライトを用いることは必須であるが、それ以外にもシリカ源やアルミナ源を併用しても構わない。
【0016】
構造指向剤として用いるナトリウムイオンの対アニオンには特に制限はなく、ナトリウムイオン源としては、塩化ナトリウム等のハロゲン化ナトリウム、水酸化ナトリウム、硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、金属ナトリウムなどを利用することができる。
LEV型ゼオライトは、一般的には有機構造指向剤を用いて合成されるが、本発明の合成方法では、後述する種結晶に含まれる有機構造指向剤以外には、有機構造指向剤をさらに添加することなく、ナトリウムイオンを構造指向剤として用いて、LEV型ゼオライトを合成することができる。有機構造指向剤を添加しない系でLEV型ゼオライトの結晶化を確認したのは、本発明が初めてである。
【0017】
ゼオライト結晶化(ゼオライトを結晶化させる成分)には、本発明では水酸化物イオンを用いる。一般にゼオライト結晶化には、水酸化物イオン以外に、フッ化物イオンが用いられる場合もあるが、フッ化物イオンには装置腐食や排水の問題があり、工業化には適さない。
本発明での水熱合成において、例えば水酸化ナトリウムを添加した場合には、この水酸化ナトリウムは、構造指向剤としての役割と、ゼオライトを結晶化させる成分としての役割とを果たす。
【0018】
LEV型ゼオライト種結晶は、例えば、有機構造指向剤を用い、シリカ源およびアルミナ源としてFAU型ゼオライトを用いた水熱合成などの公知の方法により合成できる。ここで使用される有機構造指向剤としては、例えば水酸化コリンなどが挙げられるが、使用可能な有機構造指向剤には特に制限はなく、得られたLEV型ゼオライト種結晶は、どのような有機構造指向剤を含んでいても構わない。また、LEV型ゼオライト種結晶は、焼成してカチオン交換したものでもよい。ただし、焼成した種結晶は、結晶化を促進させる効果が小さくなるため、焼成せずに用いることが望ましい。また、LEV型ゼオライト種結晶のSi/Alモル比は、4〜100が好ましい。
【0019】
本発明のコア−シェル構造のLEV型ゼオライトは、上述の各成分を含む混合物を水の存在下、自生圧力下において、例えば100〜200℃の温度で結晶化させる水熱合成により、合成することができる。
水熱合成時のアルカリ強度、HO/Siモル比、結晶化温度などは特に制限されず、コアとシェルの体積割合を調整するためなどに任意に設定できる。ただし、シリカの溶解度が高い条件で結晶化すると、LEV型ゼオライト種結晶が全て溶解してしまい、コア−シェル構造のLEV型ゼオライトが得られない場合がある。
【0020】
このような点などを考慮すると、各成分の比率は以下の範囲が好ましい。なお、ここでの各成分の比率の算出にあたって、SiおよびAlの量には、LEV型ゼオライト種結晶に由来するSiおよびAlは含めない。すなわち、種結晶以外のSiおよびAlの量(例えば、シリカ源およびアルミナ源として、FAU型ゼオライトのみを用いるときには、このFAU型ゼオライトのSi量およびAl量)を用いて算出する。
【0021】
Si/Alモル比=4〜100
Na(ナトリウムイオン)/Siモル比=0.2〜2、より好ましくは0.5〜1.0
OH(水酸化物イオン)/Siモル比=0.2〜2、より好ましくは0.5〜1.0
O(水熱合成に用いる水)/Siモル比=5〜20
混合物中の種結晶の質量割合=1〜70wt%、より好ましくは10〜50wt%
【0022】
Si/Alモル比が上記範囲未満の場合や、上記範囲を超える場合には、LEV型構造の結晶化が認められにくい。
Na/Siモル比が上記範囲未満では結晶化が進行しにくく、上記範囲を超えると、結晶化しないか、または別の結晶相が誘起される可能性がある。
OH/Siモル比が上記範囲未満では、結晶化が進行しにくく、上記範囲を超えると、LEV型ゼオライト種結晶が全て溶解してしまい、コア−シェル構造が形成されなくなる可能性がある。
O/Siモル比が上記範囲未満の場合には、原料の混合物の粘度が高くなり、一方、上記範囲を超えるとバッチ収量が低くなり、いずれも工業化には適さない。
混合物中の種結晶の質量割合が上記範囲未満では、LEV型構造が誘起されず、一方、上記範囲を超えると、シリカ源およびアルミナ源の量は少なくなるため、収量が低下し、工業的に不利である。
【0023】
なお、混合物中の種結晶の質量割合は、下記式により求められる。下記式中、原料質量とは、LEV型ゼオライト種結晶以外のシリカ源、アルミナ源の合計のドライ質量である。
【0024】
種結晶の質量割合(wt%)=[種結晶質量/(種結晶質量+原料質量)]×100
【0025】
結晶化終了後、固液分離、洗浄、乾燥を経て、本発明のコア−シェル構造を有するLEV型ゼオライトを得ることができる。
結晶がコア−シェル型構造を有していることは、種々の解析方法で確認することができる。例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)では、コア(種結晶)とシェルの境界が観察される。コアとシェルの組成が異なる場合は、X線分光(EDX)によって組成の明確な境界を観察することができる。
【0026】
以上のような合成方法により、本発明のコア−シェル構造のLEV型ゼオライトを製造できる。本発明のLEV型ゼオライトは、コアとシェルとでSi/Alモル比が異なることが特徴であり、コアとシェルのSi/Alモル比が2割以上異なる結晶を得ることができる。なお、「コアとシェルのSi/Alモル比が2割以上異なる。」とは、コアとシェルのうち、Si/Alモル比が小さい方のSi/Alモル比を100とした時に、大きい方のSi/Alモル比が120以上であることを意味する。コアとシェルでSi/Alモル比の異なるLEV型ゼオライトは、コアとシェルが異なる性質を示すため、触媒や吸着剤などとして特徴的な活性を示すものと考えられる。
なお、本発明のLEV型ゼオライトのSi/Alモル比は、コアとシェルの平均値で4〜100である。
【0027】
また、本発明のLEV型ゼオライトのシェルは、ナトリウムイオンで結晶化され、電荷補償されているため、LEV型ゼオライト種結晶として、ナトリウムイオン以外のカチオンで電荷補償されたものを用いた場合には、コアとシェルとでカチオン種が異なるゼオライトとすることも可能である。
例えば、ナトリウムイオンを使わずに調製したLEV型ゼオライト種結晶を用い、上述した合成方法で本発明のコア−シェル構造のLEV型ゼオライトを合成した場合、イオン交換前は、コアのナトリウム量はほぼゼロであり、シェルには(シェルに存在するナトリウム/シェルに存在するAl)≧1(モル比)のナトリウムが含まれる。カチオン種やその濃度差などは、EDXなどにより組成分析できる。
【0028】
このようにコアとシェルでカチオン種が異なる特徴を利用することで、コアとシェルで異なる特性を有する触媒、吸着剤が調製できる。例えば、シェルはナトリウムイオンで電荷補償されており、任意のカチオンで交換可能である。一方、コアは有機構造指向剤の焼成除去によってプロトン型にすることができ、コアだけに酸点を有するLEV型ゼオライトを調製することができる。ゼオライトの外表面の酸点を不活性化することでコーキング耐性が高くなることは広く知られており、本発明のゼオライトもコーキング耐性の高い触媒として利用可能である。
【実施例】
【0029】
以下、本発明について、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0030】
[実施例]
(LEV型ゼオライト種結晶の合成)
50wt%コリン水酸化物水溶液と水を混合し5分間攪拌し、そこに、塩化ナトリウム(NaCl)とFAU型ゼオライト(Si/Alモル比=50)を混合し、15分間攪拌し、コリン/SiOモル比=0.5、HO/SiOモル比=5.0、NaCl/SiOモル比=0.20とした。
この混合物をオートクレーブ中125℃で7日間加熱し、得られた生成物を蒸留水で洗浄した後、粉末X線回折で分析した。粉末X線回折分析ではLEV型構造のみが観察された。これを以下の合成において、種結晶として用いた。
【0031】
(コア−シェル構造LEV型ゼオライトの合成)
FAU型ゼオライト(Si/Alモル比=50)と、水酸化ナトリウム(NaOH)と、上記で得られたLEV型ゼオライト種結晶と、蒸留水とを混合し、混合物を調製した。
混合物中の各成分の比率は、NaOH/Siモル比=0.6、HO/Siモル比=15、混合物中の種結晶の質量割合=16.7wt%とした。
この混合物を、オートクレーブ中125℃で3日間加熱し、水熱合成した。
得られた生成物を蒸留水で洗浄した後、粉末X線回折で分析した。粉末X線回折分析ではLEV型構造のみが確認された。
また、EDXによる分析も行った。図1にEDXの(a)Alの分布図、(b)Siの分布図を示す。
図1において、コアとシェルの境界を観察することができ、得られたLEV型ゼオライトはコア−シェル構造を有することが確認できた。組成は、コアの平均Si/Alモル比は12で、シェルの平均Si/Alモル比は8.5で、ゼオライト粒子全体ではSi/Alモル比は10であった。ナトリウム量はSi/Alモル比が高いために存在量が少なく、定量分析はできなかった。
【0032】
[比較例1]
NaOHをLiOHに変えた以外は、実施例と同様の操作を行った。得られた生成物の粉末X線回折分析では、LEV型構造が観察されたが、その収量は種結晶添加量より増えておらず、結晶成長は確認できない。
【0033】
[比較例2]
NaOHをKOHに変えた以外は、実施例と同様の操作を行った。得られた生成物の粉末X線回折分析では、OFF構造とERI構造のゼオライトが観察され、LEV型ゼオライトは得られなかった。
【0034】
[比較例3]
シリカ源を沈降法シリカ(Cabosil)、アルミ源を水酸化アルミナにした以外は、実施例と同様の操作を行った。得られた生成物の粉末X線回折分析では、LEV構造とMOR構造が観察された。
【産業上の利用の可能性】
【0035】
本発明のLEV型ゼオライトは、コアとシェルのSi/Alモル比が異なるため、コアとシェルで異なる触媒活性、吸着特性を発現でき、特異な触媒、吸着特性を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアとシェルを有し、前記コアと前記シェルのSi/Alモル比が異なることを特徴とするコア−シェル構造を有するLEV型ゼオライト。
【請求項2】
前記コアのカチオン種と、前記シェルのカチオン種とが異なることを特徴とする請求項1のコア−シェル構造を有するLEV型ゼオライト。
【請求項3】
請求項1または2に記載のコア−シェル構造を有するLEV型ゼオライトの合成方法であって、
FAU型ゼオライトと、ナトリウムイオンと、水酸化物イオンと、LEV型ゼオライト種結晶と、水とを含有する混合物を水熱合成することを特徴とするLEV型ゼオライトの合成方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−116723(P2012−116723A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−269708(P2010−269708)
【出願日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】