説明

コイルの製造方法

【課題】 LIGAプロセスを応用し、電磁デバイスに適した小型コイルを作製するコイルの製造方法を提供すること。
【解決手段】 リソグラフィーにより形成された原型の巻線の間隙と同じで、かつ巻線の厚さと同等以上の深さであって、巻線の幅と同じ間隔で形成された螺旋状の溝をその外周に持つ円柱状雄型と、前記雄型と同様で、かつねじり方向が逆の螺旋状を成す溝をその内周に持ち、かつ前記雄型の最大径よりも大径でありその内部が円筒を成す雌型を用いて、絶縁体による円柱状スプールを6a形成し、そのスプール6aへの導電体のめっき8aの付与による、スプール6aを型とした電鋳と、その後の不要部分の除去によってコイルを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小型コイルの製造方法に関し、特に機械的動作を伴う様な電磁デバイス用途に供される、電鋳によって巻線部が作製されるコイルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子部品の小型化に伴い、コイルにおいても小型化が進行しつつあり、十余μm程の極細マグネットワイヤを用いた超小型巻線コイルや、半導体に用いられるフォトリソグラフィーとめっきにより平面上のパターンとして巻線を形成、積層することで製造されるチップコイルなどが実用化されている。
【0003】
マグネットワイヤを用いた巻線コイルは、比較的電磁デバイス用途に適するものの、マグネットワイヤの細径化と伴にエナメル被覆の薄膜化や極細ワイヤの巻線時の断線防止等、小型化に際しては克服すべき設備技術的課題が多く、莫大なイニシャルコストを必要とされる。
【0004】
半導体技術を応用するチップコイルは、半導体技術自体が急速に微細化を進めており、小型化に際して必要とされる独立したリソースは比較的少なくて済む。
【0005】
しかしながらチップコイルは1ターンないし数ターン程度の平面上のコイルパターンを積層し層間をビアホールで接続するという構成上、ターン数に比較して直流抵抗が高くなり、電磁デバイスとしては著しく効率が悪く、一般に高周波用としてのみ使用されている
【0006】
また、最近、微細な機械加工の方法としてLIGAプロセスが実用化されつつあるが、この方法は、X線リソグラフィと電鋳およびモールディングを組み合わせ、アスペクト比(加工幅に対する深さ(高さ)の比)の大きな形状を作る製法である。
【0007】
フォトリソグラフィーであれば深さ方向に関しては数μm程度が限度であったため、実質的に面の造形しか成し得なかったが、フォトリソグラフィーに比較して高エネルギーかつ直進性の高いX線リソグラフィーによると数十μm以上まで可能となり、微細でありながらある程度の高さを持つ立体構造の形成が可能となっている。
【0008】
LIGAプロセスは概ね次のような手順で行われる。リソグラフィー用の所要形状のマスクを作製し、感光性樹脂を塗布した基盤に、先のマスクを介してX線を照射する。X線露光部は、現像によって溶解除去され所要形状の原型が作製される。この原型を電鋳や樹脂によるモールド等で転写することにより子型や孫型を作製すると伴に量産成形が行われる。
【0009】
上記手順において、ある程度実験室レベルでも実現しうるマスク作製、樹脂塗布基板の作製、電鋳、モールド等の手順に比較して、露光の手順に用いるX線にはシンクロトロン放射光施設のような、大規模な施設を必要とする。
【0010】
しかしながら前記手順において、X線を要する手順は、原型作製時のみであり、量産時には必要がないこと、また近年においては、X線源として用いられるシンクロトロン放射光施設は、産業用として許容できる設置面積に収まる程度には小型化が進み、また、大規模な公営の研究施設も時間貸しでの利用が可能となるなど、産業への適用に対する敷居は低くなり、実際中小の企業においても活用されつつある。
【0011】
このようなLIGAプロセスを用いた立体コイルの作製が、非特許文献1に例示されている。
【0012】
以下、非特許文献1に紹介されているLIGAプロセスによる立体コイルの作製方法を図8から図11を用いて説明する。図8は、X線リソグラフィーによる原型の作製について説明する概略図である。この方法によると、図8に示すように、通常は平面である基板を円柱状の基板1とし、基板1の表面に感光樹脂2を所要膜厚塗布している。これに対し、マスク3を介したX線11を、先の円柱状を成す基板1に照射し、のちに百八十度回転させて再度照射し、円柱状基板表面の感光樹脂2に疑似螺旋を成す感光部位を生成させる。照射完了後、感光樹脂に対して現像処理を行うことで、X線が照射された部位が溶解除去され、原型4dが得られる。
【0013】
図9は、X線リソグラフィーによって作製された原型から複製された型を用いた成形工程を説明する概略図である。図9に示すように、原型4dから転写または電鋳などによって作製された型5dを用いてスプール6dを形成する。この際、型5d内面は雌ねじを成しているので、ネジを緩めるようにスプール6dを回転させながら引き抜くことで、X線リソグラフィーにて生成された凹凸形状を維持したまま離型させることができる。なお、原型から型を形成する際にも同様の手順を用いても良い。
【0014】
図10は、従来技術によるスプールに対して施すめっきによる電鋳工程の概略を示す断面図である。図10に示すように、スプール6dにはスパッタや無電解めっきなどで予備導通処理を施したのち、めっき液7dへ浸漬され、浸漬部位全面にめっき8dが施される。このめっきによって、スプール6dを型とした電鋳が成される。非特許文献1ではニッケルめっきが施されている。所要めっきが施された後、不要部位を切削除去し、図11の概略図に示すコイル10dが得られる。
【0015】
このような方法による立体コイルは、フォトリソグラフィーによって得られるパターンを積層した立体コイルに比較すると極めて効率が良く、電磁デバイス用途へ適用し得る特性を実現している。
【0016】
非特許文献1の方法によると、コイルは円柱上に疑似巻線コイルが生成されるが、マグネットワイヤを巻き付ける方法と異なり、疑似巻線は一層のみとなる。しかしながらX線リソグラフィーの特徴として、直進性が高く強力なX線を用いることで、微細でありながらアスペクト比の高い構造を生成することが可能であり、非特許文献1の方法に於いても、疑似巻線は一層のみではあるものの、その断面積を大きく確保することで、大電流を通電可能とし、必要な起磁力を得ている。
【0017】
しかしながら昨今の小型機器に於いてはここの部品の消費電力が制限されており、この方法においては大電流を要するコイルの適用は困難な場合が少なくない。
【0018】
【非特許文献1】Japanese Journal of Applied Physics、Vol.44、No.7B、2005、pp.5749-5754「Development of Three Dimensional LIGA Process to Fabricate Spiral Microcoil」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
電鋳による、特にLIGAプロセスを用いた立体コイルの製造方法は超小型コイルの作製方法として期待しうる方法ではあるが、単層の巻線しかできず、大起磁力を得るためには巻線の断面積を大きく取ることで抵抗を下げざるを得ず、大電流を必要とし、特に電磁デバイス用途に於いては実用に耐えるものとならなかった。
【0020】
この状況にあって、本発明の課題は、大電流を要せずに大起磁力を得られるコイルをLIGAプロセスによって得るコイルの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明によれば、リソグラフィーにより形成する所要コイルの原型から得られる型と電鋳を用いるコイルの製造方法であって、所要コイルの巻線間隙と同じ間隔で、巻線の厚さと同等以上の深さで、且つ巻線の幅と同じ幅で形成された螺旋状の溝をその外周に持つ柱状の雄型と、前記溝と同じ間隔、深さ及び幅でかつねじり方向が逆の螺旋状を成す溝をその内周に持ち且つ前記雄型の最大径よりも大きい径を有しその内部が筒状を成す雌型を用いて、前記雄型と前記雌型のそれぞれの溝を内周及び外外周に転写した絶縁体からなる筒状スプールを形成し、そのスプールへの導電体のめっきによる電鋳とその後の不要部分の除去によって二層のコイルを形成することを特徴とするコイルの製造方法である。
【0022】
また、本発明によれば、前記二層のコイルを、前記雌型と同じ巻線間隔、同等以上の深さ及び同じ巻線幅で、かつねじり方向が逆の螺旋状を成す溝をその内周に持ちかつ前記雌型の最大径よりも大きい径を有しその内部が円筒を成す雌型を用いて、インサート成形することによってコイルを多層化することを特徴とするコイルの製造方法である。
【0023】
また、本発明によれば、前記いずれかの製造方法であって、少なくとも一回の不要部分の除去に際し、作製コイルの抵抗を同時または交互に測定することでコイル抵抗の調整を行うことを特徴としたコイルの製造方法である。
【0024】
また、本発明によれば、前記いずれかの製造方法であって、コイルの一部を切削加工することでコイル抵抗の調整を行うことを特徴としたコイルの製造方法である。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したとおり、本発明によれば、LIGAプロセスによる微細構造生成の特長を生かしつつ多層化が可能となり、適切な抵抗を有しつつ必要な起磁力を得ることのできるコイルの製造方法が可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0027】
図1は、本発明のコイル原型の実施の形態の概略構造を示す断面図である。図1(a)と図1(b)はそれぞれ雌型と雄型の原型であり、雄型の原型4bの最大径は、雄型の原型4aの溝部分の最小径よりも小さい径とし、また螺旋の方向は逆方向としている。これらの原型の形成については、図8で説明した従来技術同様の方法で形成可能である。
【0028】
図2は、本発明の実施の形態による型と、得られる成型品であるスプールの概略説明図である。図2(a)は、型の断面図、図2(b)は、その型で得られる成形品であるスプールの断面図である。型5aは、図1に示した原型4aから転写した雌型であり、型5bは、原型4bを複製したものである。雌型である型5a内で雄型である型5bをインサート成形し、型5bとともに成型品であるスプールを図9にて説明する従来技術同様に抜き取り、後に型5bを同様の方法で抜き取るか、あるいは型5bをあらかじめ化学的に除去できる材料で作製しておき、溶解等の方法で除去しても良い。
【0029】
図3は、スプールに対して施すめっきによる電鋳工程の概略を示す断面図である。図3に示すように、前項にて得られたスプールに対してめっきを施し導通部を付与する工程を示す断面図であり、図10で説明した従来技術同様の方法である。ただし、スプール6aに対する予備導電処理は、内面にも施す必要があるため、スパッタなどではなく、液相の無電解めっきなどが好ましい。予備導通処理の後、スプール6aをめっき液7aへ浸漬し、浸漬部位全面にめっき8aが施される。このめっきによって、スプール6aを型とした電鋳が成される。めっきならびに予備導通処理等の液相処理に於いては、スプール6aに形成された微細な溝に気泡が残留しやすいので脱泡作業を併用することが好ましい。
【0030】
図4は、本発明の実施の形態によるコイルの概略構造を示す断面図である。前項で説明しためっきによる導電体の不要部位を切削し、円筒形のスプール6aの内外面に巻線9aを持つコイル10aを得ることができる。この切削加工に際しては、あらかじめスプールの溝の深さに余剰を持たせておき、スプールの一部とともに切削してもよい。また、この切削に際してはコイル両端間の抵抗値を測定しつつ切削することで、より所要特性を正確に得られるとともに、めっきのボイドなどによる欠陥などによる障害も一部救済可能となる。
【0031】
このように、本発明によると、LIGAプロセスを応用し、図4では内面上端部と外面上端部にそれぞれ巻線端部のある、二層巻線のコイル10aを得ることができる。コイル10aの内外二層の巻線は、図の下部で接続されており、内面と外面の螺旋が逆方向とすることで、円周方向の通電方向は同一となる。従来技術にて例示した図11のコイル10dに比較すると、巻線部が二層となったことで、巻線のターン数が増し、より実用的なコイルが得られる。
【0032】
図5は、本発明の他の実施の形態による型と成型品であるスプールの概略構造を示す断面図である。図5(a)は、型の断面図、図5(b)は、成型品の断面図である。この実施の形態に於いては、図2で説明したように所要のコイルの雌型用の原型をリソグラフィーで形成し、その溝を転写した雌型に先の実施の形態によるコイル10aの半製品20aを挿入し、型5c内で成形するインサート成形を実施する。ここで用いるコイル10aの半製品20aは、コイル10aの形成過程の、めっきの不要部位の除去作業を外周のみに施したものである。ここで得られるスプール6bは、挿入されたコイルの半製品20aの巻線9aの外面の端部のみが露出するようインサート成形、もしくは追加工されており、また、導通部の他の部位は樹脂によって被覆されている。
【0033】
図6は、スプールに対して施すめっきによる電鋳工程の概略を示す断面図である。図6に示すように、前項にて得られたスプールに対してめっきを施し巻線を付与する工程を示す断面図であり、図10で説明した従来技術同様の方法である。スプール6bに対する予備導電処理は、前記図3で説明した例と異なり内面へのめっきの付与を要さないため、スパッタを用いてもよい。スパッタや無電解めっきなどで予備導電処理されたスプール6bは、図6に示すようにインサートされたコイルの半製品20aの巻線9aの端部がめっき液7bに浸漬されるよう調整され、めっき8bが付与される。巻線9aの端部がめっき範囲に含まれることで、追加される巻線への接続が確保される。
【0034】
図7は、本発明の他の実施の形態によるコイルの概略構造を示す断面図である。図7に示すように、前項にて得られた製品に対して、不要部位を除去することで、円筒の内外面に巻線を持つコイルに、さらに一層巻線9bを追加したコイル10bが得られる。
【0035】
同様な処理を繰り返すことで、多層コイルを得ることも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明によるコイルの原型の概略構造を示す断面図。図1(a)は、雌型のコイルの原型、図1(b)は、雄型のコイル原型。
【図2】本発明の実施の形態によるコイルの型と、得られる成形品であるスプールの概略構造を示す断面図。 図2(a)は、型の断面図、図2(b)は、その型によって得られる成形品であるスプールの断面図。
【図3】本発明の実施の形態によるスプールに対して施すめっきによる電鋳工程の概略を示す断面図。
【図4】本発明の実施の形態によって得られるコイルの概略構造を示す断面図。
【図5】本発明の他の実施の形態によるコイルの型と、スプールの概略構造を示す断面図。図5(a)は、雌型にコイルの半製品であるスプールをインサートした型の断面図、図5(b)は、それによって得られる成形品であるスプールの断面図。
【図6】本発明の他の実施の形態によるスプールに対して施すめっきによる電鋳工程の概略を示す断面図。
【図7】本発明の他の実施の形態によって得られるコイルの概略構造を示す断面図。
【図8】X線リソグラフィーによるコイルの原型の形成について説明する概略図。
【図9】X線リソグラフィーによって作製された原型から複製された型を用いた成形工程を説明する概略図。図9(a)は、従来技術によるコイルの原型の概略構造を示す断面図、図9(b)は、コイルの型を示す断面図、図9(c)は、それによって得られるスプールの概略構造を示す断面図。
【図10】従来技術によるスプールに対して施すめっきによる電鋳工程を説明する概略断面図。
【図11】従来技術によって得られるコイルの概略構造を示す図。図11(a)は断面図、図11(b)は正面図。
【符号の説明】
【0037】
1 基板
2 感光樹脂
3 マスク
4a、4b、4d 原型
5a、5b、5c、5d 型
6a、6b、6d スプール
7a、7b、7d めっき液
8a、8b、8d めっき
9a、9b、9d 巻線
10a、10b、10d コイル
11 X線
20a コイルの半製品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リソグラフィーにより形成する所要コイルの原型から得られる型と電鋳を用いるコイルの製造方法であって、所要コイルの巻線間隙と同じ間隔で、巻線の厚さと同等以上の深さで、且つ巻線の幅と同じ幅で形成された螺旋状の溝をその外周に持つ柱状の雄型と、前記溝と同じ間隔、深さ及び幅でかつねじり方向が逆の螺旋状を成す溝をその内周に持ち且つ前記雄型の最大径よりも大きい径を有しその内部が円筒状を成す雌型を用いて、前記雄型と前記雌型のそれぞれの溝を内周及び外外周に転写した絶縁体からなる円筒状スプールを形成し、そのスプールへの導電体のめっきによる電鋳とその後の不要部分の除去によって二層のコイルを形成することを特徴とするコイルの製造方法。
【請求項2】
前記二層のコイルを、前記雌型と同じ巻線間隔、同等以上の深さ及び同じ巻線幅で、かつねじり方向が逆の螺旋状を成す溝をその内周に持ちかつ前記雌型の最大径よりも大きい径を有しその内部が円筒状を成す雌型を用いて、インサート成形することによってコイルを多層化することを特徴とする請求項1記載のコイルの製造方法。
【請求項3】
少なくとも一回の不要部分の除去に際し、前記コイルの抵抗を同時または交互に測定することで前記抵抗の調整を行うことを特徴とした請求項1又は2記載のコイルの製造方法。
【請求項4】
コイルの一部を切削加工することでコイル抵抗の調整を行うことを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載のコイルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−147231(P2008−147231A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−329364(P2006−329364)
【出願日】平成18年12月6日(2006.12.6)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】