説明

コイル成形体及びリアクトル

【課題】放熱性及び強度に優れるコイル成形体、このコイル成形体を具えるリアクトルを提供する。
【解決手段】コイル成形体1Aは、巻線10wを螺旋状に巻回してなるコイル10Aと、コイル10Aの外周を覆う樹脂モールド部2Aを具える。樹脂モールド部2Aは、熱伝導率が異なる複数の樹脂で構成され、コイル10Aの設置面10dを覆う放熱部20と、コイル10Aの残部を覆う補強部21とを具える。放熱部20の構成樹脂は、補強部21の構成樹脂よりも熱伝導率が高い。補強部21は、放熱部20よりも高強度であり、コイル10Aの形状を保持する。コイル成形体1Aは、放熱部20により放熱性に優れ、補強部21により機械的特性に優れる。コイル成形体1Aを具えるリアクトルは、放熱性に優れる上に、組立作業性に優れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド自動車などの車両に搭載される車載用DC-DCコンバータといった電力変換装置の構成部品などに利用されるリアクトル、このリアクトルの構成部品に適したコイル成形体に関するものである。特に、放熱性に優れる上に、強度にも優れるコイル成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
電圧の昇圧動作や降圧動作を行う回路の部品の一つに、リアクトルがある。例えば、特許文献1は、ハイブリッド自動車などの車両に載置されるコンバータに利用されるリアクトルを開示している。このリアクトルは、巻線を螺旋状に巻回してなるコイルを絶縁性樹脂で覆ったコイル成形体と、このコイル成形体が配置される磁性コアと、コイル成形体と磁性コアとの組合体を収納するケースや組合体の外周を覆う外側樹脂部とを具える。このリアクトルは、冷却ベースといった設置対象に配置されて使用される。
【0003】
特許文献1に記載される上記リアクトルは、コイルの形状が絶縁性樹脂により保持されたコイル成形体を利用することで、(1)ハンドリング性に優れて組立作業性に優れる、(2)コイルと磁性コアとの間の絶縁性を確保できる、(3)部品点数が少ない、といった優れた効果を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-206104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通電に伴いコイルが発熱すると、この発熱によりリアクトルの損失が大きくなる。従って、リアクトルの放熱性を高めることが望まれる。リアクトルの放熱性を向上するために、例えば、上記コイル成形体を放熱性に優れるものとすることが考えられる。
【0006】
特許文献1は、コイル成形体の構成樹脂にセラミックスを含有する樹脂を利用することで放熱性を高めることを提案している。上記セラミックスの含有量を多くするほど、放熱性を高められる傾向にある。しかし、セラミックスを多量に含有する樹脂は脆くなり易く、コイル成形体の構成樹脂を全てこのような樹脂とすると、コイル成形体の搬送時やリアクトルの組立時などで、コイル成形体の樹脂部分に割れや欠けなどが生じる恐れがある。また、セラミックスを多量に含有する樹脂は、粘性が高まって流動性に劣る傾向にあり、成形型に充填するときの温度を高めたり、充填時の圧力を高めたりする必要があり、成形型の寿命の低下や作業性の低下を招く。
【0007】
そこで、本発明の目的の一つは、放熱性及び強度の双方に優れるコイル成形体を提供することにある。また、本発明の他の目的は、放熱性及び組立作業性に優れるリアクトルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、コイル成形体の構成樹脂を単一材質とするのではなく、複数の異なる材質とすると共に、コイルの特定の箇所を被覆する樹脂を放熱性に優れる材質とすることで上記目的を達成する。
【0009】
本発明のコイル成形体は、巻線を螺旋状に巻回してなるコイルを具えるものであり、上記コイルの外周の少なくとも一部を覆う樹脂モールド部を更に具える。上記樹脂モールド部は、熱伝導率が異なる複数の樹脂により構成されている。また、上記樹脂モールド部は、上記コイルの形状を保持する補強部と、上記補強部の構成樹脂よりも熱伝導率が高い樹脂により構成された放熱部とを具える。そして、上記放熱部は、上記コイルにおいて、当該コイルを設置対象に設置したときに設置側に配置される設置面に接して設けられている。
【0010】
本発明のリアクトルは、上記本発明コイル成形体と、このコイル成形体が配置される磁性コアとを具える。
【0011】
本発明コイル成形体は、熱伝導率が高い樹脂で構成された放熱部によりコイルの設置面が覆われている。従って、このコイル成形体を冷却ベースといった設置対象に直接配置したり、コイル成形体の設置面がケースの設置面(代表的には底面)に接するようにケースに収納したりしたとき、コイルの熱を当該コイルの設置面から放熱性に優れる放熱部を介して、設置対象に直接、又はケースを介して設置対象に効率よく伝えられる。従って、本発明コイル成形体は、放熱性に優れる。また、本発明コイル成形体を具える本発明リアクトルは、放熱性に優れる。
【0012】
かつ、本発明コイル成形体は、放熱部を構成する樹脂とは性質が異なる樹脂で構成された補強部を放熱部とは別に具えることで、放熱部が比較的脆弱な樹脂で構成されていたとしても、当該補強部により強度を維持することができる。従って、本発明コイル成形体は、搬送時やリアクトルの製造時などに欠けや割れが生じ難い。
【0013】
上述のように欠けなどが生じ難い本発明コイル成形体を具える本発明リアクトルは、当該コイル成形体の補強部が露出された形態でも、強度に優れる。なお、本発明コイル成形体の放熱部は、本発明リアクトルを設置したときに設置対象やケースに支持されるため、設置後において強度が問題にならない。また、本発明コイル成形体は補強部によりコイルの形状を確実に保持できるため、ハンドリング性にも優れる。従って、本発明コイル成形体を具える本発明リアクトルは、組立作業性にも優れる。
【0014】
本発明コイル成形体の一形態として、上記放熱部の構成樹脂の熱伝導率が1W/m・K以上である形態が挙げられる。
【0015】
上記形態は、放熱部の構成樹脂の熱伝導率が十分に高いことで、放熱性に更に優れる。
【0016】
本発明コイル成形体の一形態として、上記放熱部の構成樹脂がセラミックスのフィラーを含有するエポキシ系樹脂である形態が挙げられる。
【0017】
上記形態は、一般に樹脂成分よりも熱伝導率が高いセラミックスからなるフィラーを含有する複合樹脂により放熱部が構成されることで、フィラーの材質や含有量を調整することにより放熱部の熱伝導率を容易に高められる。また、上記形態は、樹脂成分(ベース樹脂)がエポキシ系樹脂といった、電気絶縁性、耐熱性、強度に優れる樹脂であることで、絶縁性、耐熱性、強度に優れる。また、エポキシ系樹脂は、上記フィラーを配合し易いことから、放熱性を高め易い。
【0018】
本発明コイル成形体の一形態として、上記樹脂モールド部がエポキシ系樹脂で構成され、かつ上記放熱部と上記補強部とが一体に形成され、上記放熱部が上記補強部よりもセラミックスのフィラーを多く含有する形態が挙げられる。
【0019】
上記形態は、放熱部及び補強部の両部のベース樹脂が同一材質であるため、一体成形が可能であり、生産性に優れる。また、同一材質のベース樹脂を利用していても、フィラーの含有状態を調整することで、樹脂モールド部の熱伝導率や強度を部分的に異ならせることができ、上記形態のように、フィラーの含有量が多い箇所を放熱部とし、少ない箇所或いはフィラーを全く含有していない箇所を補強部とすることができる。フィラーの含有状態の調整方法は、後述する。更に、上記形態は、ベース樹脂がエポキシ系樹脂であるため、上述のように絶縁性、耐熱性、強度に優れる上に、フィラーを配合し易く、放熱性を高め易い。
【0020】
本発明リアクトルの一形態として、上記コイル成形体と上記磁性コアとの組合体を収納するケースを更に具え、上記コイル成形体の放熱部が上記ケースに接して配置された形態が挙げられる。
【0021】
ケースをアルミニウムなどの熱伝導性に優れる材質で構成することで、ケースを放熱経路に利用できる。そして、このようなケースに本発明コイル成形体の放熱部を接触させて収納することで、コイルの熱を、放熱部からケースを介して設置対象に効率よく放出でき、上記形態は、放熱性に優れる。また、本発明コイル成形体は、上述のように補強部を具えることで、ケースへの収納時に欠けなどが生じ難く、上記形態は、組立作業性に優れる上に、不良品を低減できる。その他、上記形態は、ケースを具えることで、コイル成形体や磁性コアの機械的保護や環境からの保護を図ることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明コイル成形体は、放熱性及び強度に優れる。本発明リアクトルは、放熱性及び組立作業性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、実施形態1のコイル成形体を示し、図1(A)は、概略斜視図、図1(B)は、図1(A)のB-B断面図を示す。
【図2】図2は、実施形態2のコイル成形体を示し、図2(A)は、概略斜視図、図2(B)は、図2(A)のB-B断面図を示す。
【図3】図3は、実施形態2のコイル成形体を具える実施形態Iのリアクトルの概略斜視図である。
【図4】図4は、実施形態Iのリアクトルに具える磁性コアの概略斜視図である。
【図5】図5は、実施形態3のコイル成形体を具える実施形態IIのリアクトルの概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(実施形態1)
以下、図1を参照して、実施形態1のコイル成形体1Aを説明する。以下、図において同一符号は同一名称物を示す。
【0025】
《全体構成》
コイル成形体1Aの基本的構成は、特許文献1に記載されるコイル成形体と同様であり、接合部の無い1本の連続する巻線10wを螺旋状に巻回してなる一対のコイル素子10a,10bを有するコイル10Aと、コイル10Aの外周を覆う樹脂モールド部2Aとを具える。
【0026】
[コイル]
各コイル素子10a,10bは、互いに同一の巻数の中空の筒状体であり、各軸方向が平行するように並列(横並び)され、巻線10wの一部がU字状に屈曲されて構成された連結部10rにより連結されて同一の巻回方向となっている。巻線10wの両端部10eは、図1(A)に示すようにターン部分から適宜引き延ばされ(引き出し方向は例示)、導電性材料からなる端子部材(図示せず)が電気的に接続される端子部として利用される。端子部材を介して、コイル10Aに電力供給を行う電源などの外部装置(図示せず)が接続される。
【0027】
巻線10wは、銅やアルミニウム、その合金といった導電性材料からなる導体の外周に、絶縁性材料からなる絶縁被覆を具える被覆線を好適に利用できる。絶縁被覆の厚さは、20μm以上100μm以下が好ましく、厚いほど電気絶縁性を高められる。導体は、断面が長方形状の平角線が代表的であり、その他、横断面が円形状、楕円形状、多角形状などの種々の形状のものを利用できる。平角線は、(1)占積率が高いコイルが得られる、(2)コイル成形体1Aを設置対象に設置したときにコイル10Aにおいて設置側に配置される設置面10dを広くできる、といった利点がある。ここでは、導体が銅製の平角線からなり、絶縁被覆がエナメル(代表的にはポリアミドイミド)からなる被覆平角線を利用し、各コイル素子10a,10bは、この被覆平角線をエッジワイズ巻きにしたエッジワイズコイルである。
【0028】
各コイル素子10a,10bの端面形状(=軸方向に直交方向の断面形状(図1(B)))は、長方形の角部を丸めた形状である。従って、各コイル素子10a,10bの外周面は、長方形状の平面と、これら平面を繋ぐ湾曲面とで形成される。ここでは、各コイル素子10a,10bの平面の一つを設置面10dとしており、設置面10dは長方形状である。
【0029】
コイル素子10a,10bの端面形状は、適宜選択することができる。例えば、円形状、楕円状、レーストラック状(平行な二直線とこれら二直線を繋ぐ一対の半円弧で描かれる形状)などとすることができる。端面形状が円形状や楕円状の場合、設置面が曲面で構成され(厳密には接線で構成され)、レーストラック状の場合、設置面を平面とすることができる。各コイル素子の外形が曲面から構成される場合でも、樹脂モールド部の外形を適宜な形状(好ましくは設置面が平面である形態)とすることで、このようなコイル素子を具えるコイル成形体を設置対象やケースに安定して配置することができる。
【0030】
[樹脂モールド部]
上記コイル10Aは、巻線10wの両端部10eを除き、その外周が樹脂で覆われている。この樹脂により樹脂モールド部2Aが構成されている。
【0031】
ここでは、樹脂モールド部2Aは、コイル10Aの外形に沿って形成され、その外形は、概ね平面と湾曲面とで構成されている。コイル成形体1Aを設置対象(ケースが介在することもある)に設置したときに設置側に配置される設置面20dを平面としている。設置面20dを平面とすることで、コイル成形体1Aを設置対象やケースなどに安定して配置できる上に、設置対象やケースの底面との接触面積を大きく確保し易い。従って、コイル10Aの熱を樹脂モールド部2Aの設置面20dを介して、設置対象やケースに放出し易く、放熱性を高め易い。また、ここでは、平面からなるコイル10Aの設置面10dに沿って樹脂モールド部2Aを設けている。従って、コイル10Aの設置面10dから樹脂モールド部2Aの設置面20dまでに介在する樹脂の厚さを薄く、かつ均一的な厚さにし易い。この点からも、放熱性を高め易い。
【0032】
樹脂モールド部2Aにおいて、両コイル素子10a,10bのターン部分の外周を覆う箇所は、その厚さが実質的に均一であり、連結部10rを覆う箇所は、コイル10Aの軸方向にせり出した形状である。各コイル素子10a,10bの内周面も樹脂で覆われて、この樹脂により形成される中空孔2hを有する。樹脂モールド部2Aにおいて内周面を覆う箇所の樹脂の厚さや形状は、適宜選択することができる。コイル成形体1Aをリアクトルの構成部品に利用する場合、磁性コア(後述する内側コア部)を各コイル素子10a,10bの適切な位置に配置可能なように上記厚さや形状を選択すると、各コイル素子10a,10bの内周に存在する樹脂を磁性コアの位置決め部として利用できる。
【0033】
〔補強部と放熱部〕
そして、コイル成形体1Aでは、樹脂モールド部2Aが単一材質の樹脂ではなく、熱伝導率が異なる複数の樹脂により構成されていることを最大の特徴とする。具体的には、樹脂モールド部2Aは、コイル10Aの形状を保持する補強部21と、コイル10Aの設置面10dを覆う放熱部20とを具え、放熱部20の構成樹脂は、補強部21の構成樹脂よりも熱伝導率が高い。
【0034】
放熱部20は、横並びされた一対のコイル素子10a,10bの設置面10dに接して設けられ、かつコイル成形体1Aの設置面20dを形成する。ここでは、放熱部20は、図1(B)に示すように、両コイル素子10a,10bの設置面10dを渡るように設けられた板状の領域である。従って、放熱部20の厚さは、コイル素子10a,10bの設置面10dからコイル成形体1Aの設置面20dまでの厚さに等しく、ここでは、2mmであり、非常に薄い。
【0035】
放熱部20は、少なくともコイル10Aの設置面10dを覆うように設けられていればよく、更に大きくしてもよい。即ち、コイル10Aにおいて、熱伝導率が高い樹脂により被覆される領域をより大きくしてもよい。この被覆領域(放熱部20の存在領域)が広いほど、コイル成形体1Aの放熱性を高められるが、広過ぎると樹脂モールド部2Aの脆化を招く。そのため、この被覆領域の範囲は、コイル10Aにおいて、設置面10dからコイル10Aの高さ(設置面10dに直交方向(図1(B)では上下方向)の大きさ)の1/2以下までとすることが好ましい。このとき、放熱部20は、断面]状に設けられる。上記被覆領域の範囲は、強度を考慮すると、設置面10dからコイル10Aの高さの1/4以下まで、更に1/8以下までとすることが好ましい。上記被覆領域が上記範囲を満たすことで、コイル成形体1Aは、放熱性と高強度との両立を図ることができる。また、放熱部20においてコイル10Aの設置面10dを覆う箇所の厚さは、薄いほど放熱性に優れて好ましく、0.1mm〜4mm程度が挙げられる。
【0036】
なお、ここでは、コイル素子10a,10b間にも放熱部20を具える構成としたが、各コイル素子10a,10bの設置面10dがそれぞれ放熱部20の構成樹脂で覆われていれば、コイル素子10a,10b間に放熱部20を有していなくてもよい。
【0037】
補強部21は、ここでは、コイル素子10a,10bの設置面10d以外の箇所、即ち、コイル素子10a,10bの内周面、両側面(図1(A)では左右方向の面)、設置面10dとの対向面(図1(A)では上面)、及び側面と上面とを連結する曲面、側面と設置面10dとを連結する曲面を覆う。このように補強部21の存在領域が十分に大ききことで、コイル成形体1Aは、高強度である。
【0038】
また、ここでは、補強部21は、各コイル素子10a,10bのそれぞれを自由長よりも圧縮した状態に保持する。補強部21が各コイル素子10a,10bを圧縮状態に保持することで、形状の保持だけでなく、コイル成形体1Aの軸方向の長さを短くできる。
【0039】
補強部21の厚さは、適宜選択することができる。例えば、0.5mm〜10mm程度が挙げられる。補強部21の厚さは、厚いほど、コイル成形体1Aの強度の向上、絶縁性の向上を図ることができ、薄いほど、放熱性を高められる。補強部21の厚さは放熱部20の厚さと同じでもよいし、異ならせてもよい。
【0040】
なお、コイル成形体1Aでは、コイル10Aの実質的に全周が樹脂モールド部2Aの構成樹脂により覆われた構成であるが、コイル素子10a,10bのうち、設置面10dを除く一部(上記内周面の一部や側面の一部、曲面の一部など)を露出させた形態とすることができる。また、放熱部20と補強部21とが連続せず(接触箇所を有さず)、完全に独立した状態となるように両部20,21を具える形態とすることができる。
【0041】
〔構成樹脂の材質〕
樹脂モールド部2Aのベース樹脂は、コイル成形体1Aをリアクトルの構成部品とし、このリアクトルを使用した際に、コイル10Aや磁性コアの最高到達温度に対して軟化しない程度の耐熱性を有し、かつ、コイル10Aに接することから、電気絶縁性に優れるものが好ましい。具体的なベース樹脂は、エポキシ系樹脂などの熱硬化性樹脂や、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、液晶ポリマー(LCP)などの熱可塑性樹脂が挙げられる。樹脂モールド部2Aが絶縁性樹脂で構成されることで、厚さを薄くしても、コイル10Aとその周辺部品(ケースや設置対象)との間の絶縁を確保できる上に、薄くすることで放熱性を高められる。
【0042】
補強部21の構成樹脂には、上記ベース樹脂を用いるとよい。特に、エポキシ系樹脂は、耐熱性、電気絶縁性、強度に優れて好ましい。高強度の樹脂を用いることで、補強部21は、コイル10Aを自由長よりも圧縮した状態など、所望の形状に保持できる。
【0043】
一方、放熱部20の構成樹脂には、上記ベース樹脂に、熱伝導率が高く、かつ電気絶縁性に優れるフィラーを含有した複合樹脂が好適に利用できる。上記フィラーの熱伝導率は、高いほど好ましく、20W/m・K以上、更に50W/m・K以上、特に100W/m・K以上が好ましい。このようなフィラーとして、非金属無機材料からなるものが挙げられる。具体的には、窒化珪素(Si3N4):20W/m・K〜150W/m・K程度、アルミナ(Al2O3):20W/m・K〜30W/m・K程度、窒化アルミニウム(AlN):200W/m・K〜250W/m・K程度、窒化ほう素(BN):50W/m・K〜65W/m・K程度、及び炭化珪素(SiC):50W/m・K〜130W/m・K程度から選択される少なくとも1種のセラミックスが挙げられる。複合樹脂は、単一の材質のフィラーのみを含有していてもよいし、複数種の材質のフィラーを組み合せて含有していてもよい。また、上記セラミックスは、平均粒径1μm〜100μm程度の粒子からなる粉末であると、ベース樹脂に均一的に混合し易く好ましい。粒径が異なる複数種の粉末(同一材質でも異なる材質でもよい)を用いると、含有量を高めても、複合樹脂の粘度が高くなり難く、流動性に優れる。
【0044】
放熱部20の熱伝導率は、上記複合樹脂のセラミックスの材質や含有量により異ならせることができ、フィラーの含有量が多いほど高くなる傾向にある。放熱部20の構成樹脂の熱伝導率が1W/m・K以上、更に2W/m・K以上となるように、ベース樹脂に応じて、上記セラミックスの材質やフィラーの含有量を調整することが好ましい。但し、フィラーが多過ぎると、放熱部20の脆化や複合樹脂の粘度の増加(流動性の低下)を招くため、上記セラミックスからなるフィラーの含有量は、複合樹脂を100質量%とするとき、50質量%〜90質量%程度が好ましい。本発明では、補強部21によりコイル10Aの形状の保持及びコイル成形体1Aの強度の維持を図る。そのため、放熱部20の構成樹脂にセラミックスのフィラーの含有量が80質量%程度といった複合樹脂を利用できる上に、放熱部20がコイルの形状保持に実質的に機能していなくても問題ない。
【0045】
放熱部20の熱伝導率は、高いほど好ましく上限は設けない。また、放熱部20の熱伝導率と補強部21の熱伝導率との差が大きいほど、放熱部20にコイル10Aの熱を伝え易くなる、即ち、コイル10Aの熱を放熱部20に集約できる。従って、放熱部20の熱伝導率は、補強部21の熱伝導率の2倍以上、更に3倍以上であることが好ましく、このような熱伝導率の差を有するように、両部20,21の構成樹脂を選択することが好ましい。
【0046】
放熱部20及び補強部21のベース樹脂は同じでも、異なっていてもよい。同じである場合、放熱部20及び補強部21の一体成形が可能であり、異なる場合、構成樹脂の選択の自由度が広がる。
【0047】
補強部21の構成樹脂も上記フィラーを含有する複合樹脂であると、放熱性を高められる。従って、補強部の脆化を招かない範囲で、上記フィラーの含有を許容する。具体的には、補強部21の熱伝導率が1W/m・K未満、更に0.5W/m・K以下を満たす範囲(補強部21の構成樹脂である複合樹脂を100質量%とするとき、20質量%〜60質量%程度(但し、放熱部20におけるフィラーの含有量よりも少ない))が好ましい。
【0048】
なお、樹脂モールド部2Aの全体が上記フィラーを含有する複合樹脂で構成される場合、少なくともコイル10Aの設置面10dを覆う箇所の樹脂の熱伝導率やフィラーの含有量を測定する。また、比較対象として、代表的には、設置面10dに対向配置される対向面(図1(A)では上面)及びその近傍を覆う箇所の樹脂の熱伝導率やフィラーの含有量を測定する。上記対向面やその近傍が樹脂で覆われていない場合、コイル10Aの設置面10d以外の箇所、例えば、コイル10Aの内周面や側面を覆う箇所の樹脂について熱伝導率などを測定する。そして、設置面10dを覆う箇所の樹脂の熱伝導率が例えば1W/m・K以上であり、上記比較対象の熱伝導率が例えば1W/m・K未満である場合、前者の樹脂は放熱部20を構成し、後者の樹脂は補強部21を構成するものとして判別できる。このように、コイル10Aの設置面10dを覆う箇所の樹脂を基準として、放熱部20と補強部21とを判別できる。フィラーの含有量の多少でも判別できる。
【0049】
《コイル成形体の製造方法》
上記コイル成形体1Aは、適宜な成形型を利用して、射出成形やトランスファー成形、注型成形により製造できる。成形型は、例えば、特許文献1に記載されるような一対の第一金型及び第二金型と、コイルをその軸方向に圧縮するための棒状材とを具えるものが利用できる。或いは、一対の]状治具によりコイルをその軸方向に圧縮した状態に保持し、この治具を具えるコイルを成形型に配置して、成形型内に樹脂を充填・硬化した後、治具を取り外す、といった手法も利用できる。
【0050】
放熱部20及び補強部21のベース樹脂が異なる場合、放熱部20及び補強部21のいずれか一方の原料樹脂を先に成形・硬化した後、残りの他方の原料樹脂を成形・硬化するとよい。例えば、補強部21を先に成形する場合、図1(A)に示す状態のコイル10Aの上下を反転させ、巻線10wの端部10eが存在する側が下方(成形型の底面側)、コイル10Aの設置面10dが上方となるように成形型に収納して、例えば、成形型の下方又は上方から樹脂を充填するとよい。この場合、樹脂の自重により、成形型の底面側に樹脂が溜まり、成形型の上方側に配置された設置面10dは、当該樹脂により覆われない。そして、補強部21の原料樹脂を成形・硬化した後、成形型の上方から放熱部20の原料樹脂を充填して設置面10dを覆って、放熱部20を成形するとよい。射出成形を利用すると、射出後、比較的短時間(代表的には1分程度)で樹脂を硬化可能であり、成形作業性に優れる。
【0051】
放熱部20及び補強部21のベース樹脂が同一である場合も上述のように二回に分けて原料樹脂を充填して成形してもよいが、連続成形してもよい。この場合、コイル成形体1Aの樹脂モールド部2Aは、界面を介することなく連続して放熱部20及び補強部21が形成される。
【0052】
例えば、射出成形やトランスファー成形を利用する場合、セラミックスの沈降を阻害するような助剤などを混合しない樹脂をベース樹脂にした複合樹脂を原料樹脂に利用することが挙げられる。このような複合樹脂を樹脂溜め容器にある程度の時間保持することで、樹脂よりも比重が大きいセラミックスがその自重により樹脂中に沈降し易くなる。このようなセラミックスが偏在した状態で上記容器から複合樹脂を射出すると、射出初期には主としてベース樹脂を排出でき、後期に複合樹脂を排出できる。従って、まず、主としてベース樹脂により補強部21を形成し、続いて複合樹脂により放熱部20を形成でき、充填作業を一回にすることができる。この場合、得られたコイル成形体1Aの樹脂モールド部2Aは、フィラーの分布ができ、フィラーが偏在する箇所、即ち、フィラーが相対的に多い箇所と、フィラーが相対的に少ない箇所、或いはフィラーを全く含有していない箇所を有する。このフィラーが多い箇所が放熱部20を構成し、フィラーが少ない箇所、或いはフィラーを全く含有していない箇所が補強部21を構成する。フィラーが多い箇所が上述したコイル10Aの特定の範囲に存在するように、射出圧力、樹脂の温度などを調整するとよい。
【0053】
或いは、注型成形を利用する場合、上述のようにセラミックスが沈降し易い複合樹脂を用意し、コイル10Aの設置面10dが下方(成形型の底面側)となるように成形型にコイル10Aを収納して複合樹脂を充填する。この成形型を恒温槽などに適宜収納して樹脂が硬化しない温度に保持し、セラミックスを成形型の底面側に十分に沈降させ、その後、樹脂を硬化することが挙げられる。この場合も、得られたコイル成形体1Aの樹脂モールド部2Aは、セラミックスのフィラーの分布を有し、フィラーが多い箇所が放熱部20を構成し、フィラーが少ない箇所、或いはフィラーを全く含有していない箇所が補強部21を構成する。
【0054】
樹脂成分とフィラーとの分離のための保持時間は、予め、樹脂及びフィラーの材質や含有量が異なる種々の組み合せのテストピースを作製して、沈降状態と保持時間との関係の相関データを作成し、この相関データを利用して設定するとよい。
【0055】
ここでは、樹脂モールド部2Aを注型成形により形成し、原料樹脂に、アルミナフィラー(平均粒径:100μm程度)を含有するエポキシ樹脂を用意した。原料樹脂を100質量%とするとき、フィラーの含有量:80質量%、エポキシ樹脂は、フィラーが十分に沈降し易いように、チクソ性物質を除去したものを利用した。
【0056】
コイル10Aの設置面10dが成形型の底面側に配置されるようにコイル10Aを成形型に収納し、上記原料樹脂を充填した成形型を恒温槽に収納して、樹脂成分が硬化しない温度(80℃)に静置した状態を保持し(60分程度)、上記フィラーを成形型の底面側に十分に沈降させた。その後、樹脂成分を硬化した。
【0057】
《効果》
上記構成を具えるコイル成形体1Aは、放熱部20を具えることで放熱性に優れ、補強部21を具えることで強度といった機械的特性にも優れる。
【0058】
(実施形態2)
実施形態1のコイル成形体1Aは、一対のコイル素子10a,10bが樹脂モールド部2Aにより一体成形された形態である。その他、図2に示す実施形態2のコイル成形体1Bのように、各コイル素子10a,10bのそれぞれが別個に樹脂で覆われた一対の分割成形体11,12を具える形態とすることができる。実施形態2は、一対の分割成形体11,12を具える点以外の構成は、実施形態1と同様であるため、ここでは、相違点を中心に説明し、その他の構成及び効果は、説明は省略する。
【0059】
コイル成形体1Bは、実施形態1のコイル成形体1Aと同様に一対のコイル素子10a,10bを具える。但し、各コイル素子10a,10bはそれぞれ別個の樹脂モールド部2Ba,2Bbを具える独立した成形体:分割成形体11,12である。
【0060】
各分割成形体11,12の樹脂モールド部2Ba,2Bbはそれぞれ、コイル素子10a,10bの設置面10dを覆う放熱部20と、コイル素子10a,10bの大半を覆う補強部21とを具える。放熱部20は、樹脂モールド部2Ba,2Bbの設置面20dも構成する。
【0061】
各コイル素子10a,10bの一方の端部10e1は、端子部として利用され、他方の端部10e2は、各コイル素子10a,10bを構成する巻線(ここでは、実施形態1と同様に被覆平角線)と同様な導電性材料で構成された板状の連結部材10jが接合され、両コイル素子10a,10bを電気的に直列接続する接続箇所として利用される。連結部材10jの連結には、溶接、圧着、半田付けなど適宜な方法が利用できる。
【0062】
その他、連結部材10jを用いず、他方の端部10e2を適宜屈曲して、両端部10e2同士を溶接、圧着、半田付けなど適宜な方法により直接接合してもよい。
【0063】
各分割成形体11,12は、実施形態1のコイル10AのようにU字状の連結部が存在しないため、(1)成形型の形状を簡単にできる、(2)成形型への収納が容易である、(3)コイルを圧縮し易い、といった利点を有する。これらの点から、実施形態2のコイル成形体1Bは、製造性に優れる。
【0064】
(実施形態3)
実施形態1,2のコイル成形体1A,1Bは、一対のコイル素子10a,10bを具える形態である。その他、図5に示すコイル成形体1Cのように、コイル(図示せず)を一つのみ具える形態とすることができる。コイル成形体1Cは、実施形態2で説明した分割成形体12と同様の構成であり、樹脂モールド部2Cは、コイルの設置面(図示せず)を覆う放熱部20と、コイルの大半を覆う補強部21とを具える。コイル成形体1Cでは、巻線の各端部10eが端子部として利用される。その他の構成及び効果は実施形態1,2と同様であるため、説明を省略する。
【0065】
(実施形態I)
上述した実施形態1〜実施形態3のコイル成形体1A〜1Cは、リアクトルの構成部品に好適に利用することができる。図3に示すリアクトル100は、実施形態2のコイル成形体1Bと、コイル成形体1Bが配置される磁性コア3とを具える。このリアクトル100は、代表的には、内部に冷媒の循環路を有する金属製(代表的にはアルミニウム製)の冷却ベース(図示せず)に設置されて利用される。
【0066】
ここでは、磁性コア3、及びその他のリアクトル部品(ケース、外側樹脂部、封止樹脂)を中心に説明し、コイル成形体の説明は省略する。
【0067】
[磁性コア]
磁性コア3は、図4を参照して説明する。磁性コア3は、コイル成形体1Bの各コイル素子10a,10b(図2)に覆われる一対の柱状の内側コア部31と、コイル成形体1Bが配置されず、コイル成形体1Bから露出された一対の外側コア部32とを有する。各内側コア部31はそれぞれ、コイル成形体1Bが有する中空孔2h(図2)の内周形状に沿った外形を有する柱状体(ここでは直方体)であり、各外側コア部32も柱状体(ここでは一対の台形状面を有する柱状体)である。磁性コア3は、離間して配置される内側コア部31を挟むように外側コア部32が配置され、内側コア部31の端面と外側コア部32の内端面とを接触させて環状に形成される。これら内側コア部31及び外側コア部32により、コイルを励磁したとき、閉磁路を形成する。
【0068】
内側コア部31は、磁性材料からなるコア片30mと、代表的には非磁性材料からなるギャップ材30gとを交互に積層して構成された積層体であり、外側コア部32は、磁性材料からなるコア片30mである。
【0069】
各コア片は、磁性粉末を用いた成形体や、絶縁被膜を有する磁性薄板(例えば、電磁鋼板)を複数積層した積層体を利用できる。上記成形体は、例えば、Fe,Co,Niといった鉄族金属、Fe-Si,Fe-Ni,Fe-Al,Fe-Co,Fe-Cr,Fe-Si-AlなどのFe基合金、希土類金属やアモルファス磁性体といった軟磁性材料からなる粉末を用いた圧粉成形体、上記粉末をプレス成形後に焼結した焼結体、上記粉末と樹脂との混合体を射出成形や注型成形などした成形硬化体が挙げられる。その他、コア片は、金属酸化物の焼結体であるフェライトコアなどが挙げられる。成形体は、複雑な立体形状のコア片や磁性コアでも容易に形成できる。ここでは、各コア片30mは、鉄や鋼などの鉄を含有する軟磁性粉末(特に、シリコーン樹脂やリン酸塩からなる絶縁被膜を具えた被覆粉末)の圧粉成形体としている。
【0070】
ギャップ材30gは、インダクタンスの調整のために配置される板状材である。ギャップ材30gの構成材料は、アルミナやガラスエポキシ樹脂、不飽和ポリエステルなど、コア片30mよりも透磁率が低い材料、代表的には非磁性材料が挙げられる。或いは、ギャップ材30gとして、セラミックスやフェノール樹脂などの非磁性材料に磁性粉末(例えば、フェライト、Fe、Fe-Si、センダストなど)が分散した混合材料からなるものを用いると、ギャップ部分の漏れ磁束を低減できる。エアギャップとすることもできる。
【0071】
コア片30mやギャップ材30gの個数は、リアクトル100が所望のインダクタンスとなるように適宜選択することができる。また、コア片30mやギャップ材30gの形状は適宜選択することができる。ギャップレス形態とすることもできる。
【0072】
コア片30m同士の一体化やコア片30mとギャップ材30gとは、例えば、接着剤や接着テープなどで一体化してもよいし、内側コア部31の形成に接着剤や接着テープを用い、内側コア部31と外側コア部32との接合に接着剤を用いなくてもよい。コイル成形体1Bを用いる場合、中空孔2hの構成樹脂によりコア片30m及びギャップ材30gを保持できるため、内側コア部31の構成部材を接着剤などで一体化せず、ばらばらの状態としてもよい。
【0073】
その他、この例に示す磁性コア3は、リアクトル100を設置したとき、内側コア部31において設置側に配置される面(図4において下面)と外側コア部32において設置側に配置される面(図4において下面。以下コア設置面と呼ぶ)とが面一になっておらず、外側コア部32のコア設置面が内側コア部31よりも突出し、かつコイル成形体1Bの設置面20d(図2)と面一である。従って、コイル成形体1Bの設置面20dを構成する放熱部20及び磁性コア3のコア設置面の双方が設置対象や後述するケースの底面に接触できるため、リアクトル100は、放熱性に優れる。また、リアクトル100は、設置対象やケースの底面との接触面積が十分に大きく、設置したときの安定性にも優れる。更に、コア片が圧粉成形体で構成されることで、外側コア部32において内側コア部31よりも突出した箇所は磁束の通路に利用できる。
【0074】
[その他の構成]
〔ケース〕
リアクトル100は、そのままでも利用することができるが、コイル成形体1Bと磁性コア3との組合体を収納するケース(図示せず)を具える形態とすることができる。ケースは、非磁性材料であり、軽量で、熱伝導性にも優れる金属材料、例えば、アルミニウム(熱伝導率:237W/m・K)やその合金、マグネシウム(156W/m・K)やその合金が好適に利用できる。アルミニウムやその合金は、耐食性に優れ、マグネシウムやその合金は制振性に優れるため、車載部品に好適に利用できる。また、上記金属材料は、導電性を有することから、金属製ケースは、磁気シールドとしても機能できる。
【0075】
ケースに上記組合体を収納する場合、コイル成形体1Bの放熱部20をケースの底面に接触させて収納することで、コイルの熱を放熱部20からケースの底面を介して設置対象に効率よく放出できる。ケースには、設置対象に固定するためのボルトといった固定部材が挿通されるボルト孔を設けておき、ケースを設置対象に密着固定すると、上記コイルの熱を更に設置対象に伝え易い。
【0076】
〔外側樹脂部〕
或いは、コイル成形体1Bと磁性コア3との組合体の外周を外側樹脂部(図示せず)により覆った形態とすることができる。外側樹脂部を具えることで、このリアクトルは、コイル成形体1Bと磁性コア3との一体化や、磁性コア3の保護などを図ることができる。特に、外側樹脂部を形成する場合、コイル成形体1Bの放熱部20を露出させると、放熱部20を設置対象に接触することができるため、コイルの熱を設置対象に伝え易い。この形態は、ケースを具えていないことで、部品点数が少なく、軽量である。外側樹脂部の形成には、射出成形やトランスファー成形、注型成形などが利用できる。この形態も設置対象に密着固定できるように、外側樹脂部などにボルト孔を適宜設けておくことが好ましい。
【0077】
〔封止樹脂〕
或いは、上記ケースを具える形態において、ケースに収納した上記組合体を封止する封止樹脂を具える形態とすることができる。ケースに加えて封止樹脂を具えることで、上記組合体の保護の強化、及び封止樹脂の構成樹脂によっては放熱性の向上、制振性の向上などを図ることができる。
【0078】
〔外側樹脂部及び封止樹脂の材質〕
上記外側樹脂部の構成樹脂には、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル、ウレタン樹脂、PPS樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂などが利用できる。封止樹脂には、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂などが挙げられる。外側樹脂部や封止樹脂の構成樹脂は、コイル成形体1Bの樹脂モールド部2Ba,2Bbの構成樹脂と同じでも異なっていてもよい。また、外側樹脂部や封止樹脂の構成樹脂も、上述したセラミックスからなるフィラーを含有した複合樹脂を利用すると、放熱性を高められる。この場合、樹脂モールド部2Ba,2Bbと同様に、外側樹脂部や封止樹脂もフィラーの含有状態を異ならせて、設置側領域にフィラーが多く存在した形態とすると、放熱性をより高められる。
【0079】
《リアクトルの組み立て手順》
上記構成を具えるリアクトル100は、以下のようにして組み立てられる。
【0080】
まず、上述のようにしてコイル成形体1Bを用意し、コイル成形体1Bの中空孔2hに内側コア部31を構成するコア片30mとギャップ材30gとを交互に積層した積層物を挿入する。上記積層物を接着剤や接着テープを用いて一体化しておくと、挿入作業を行い易い。中空孔2hは、上述のようにコイル成形体1Bの樹脂モールド部2Ba,2Bbの構成樹脂(ここでは補強部21の構成樹脂)により所定の厚さ、形状に成形されているため、中空孔2hに挿入された内側コア部31はそれぞれ、各コイル素子10a,10b(図2)に対して適切な位置に配置される。
【0081】
次に、コイル成形体1Bの両端面と内側コア部31の端面とを外側コア部32で挟むように外側コア部32を配置して、接着剤などで両コア部31,32を接合する。この工程により、リアクトル100が得られる。
【0082】
ケースを具えるリアクトルとする場合、コイル成形体1Bと磁性コア3との組合体をケースに収納するとよい。更に、封止樹脂を具える場合、上記組合体をケースに収納後、ケース内に適宜な樹脂を充填して適宜硬化するとよい。一方、外側樹脂部を具えるリアクトルとする場合、適宜な樹脂を用意して、成形型に収納した上記組合体の外周を当該樹脂により覆うとよい。
【0083】
[用途]
上記構成を具えるリアクトル100は、通電条件が、例えば、最大電流(直流):100A〜1000A程度、平均電圧:100V〜1000V程度、使用周波数:5kHz〜100kHz程度である用途、代表的には電気自動車やハイブリッド自動車などの車載用電力変換装置の構成部品に好適に利用することができる。
【0084】
[効果]
上記構成を具えるリアクトル100は、コイル成形体1Bを利用することで、組み立て時、コイルが伸縮せずハンドリング性に優れるため、組立作業性に優れる。かつ、リアクトル100は、冷却ベースといった設置対象に載置したとき、コイル成形体1Bの放熱部20が設置対象に接触することでコイルの熱を効率よく設置対象に伝えられるため、放熱性に優れる。また、コイル成形体1Bは、補強部21を具えることで、補強部21が露出された状態でも欠けなどが生じ難く、リアクトル100は、高強度である。
【0085】
なお、ここでは、実施形態2のコイル成形体1Bを具える形態を説明したが、実施形態1のコイル成形体1Aを具えるリアクトルとすることができる。
【0086】
(実施形態II)
実施形態Iのリアクトル100は、一対のコイル素子10a,10bを具え、かつ磁性コア3が一様な材質からなる形態である。その他、図5に示すリアクトル110のように、コイルを一つのみ具える形態としたり、磁性コア3の内側コア部31と外側コア部33とが異なる材質からなる形態とすることができる。例えば、内側コア部31を上述の圧粉成形体や積層体とし、外側コア部33を成形硬化体とすると、内側コア部31の飽和磁束密度を外側コア部33よりも高めたリアクトルとすることができる。
【0087】
リアクトル110は、ケース4(実施形態Iで説明した材質のものが好ましい)を具える形態であり、ケース4内には、コイル成形体1Cの放熱部20がケース4の底面4dに接触するように収納されている。より具体的には、ケース4の底面4dに対して、コイルの軸(内側コア部31の軸)が平行するように、コイル成形体1Cが収納されている。また、コイル成形体1Cの設置面20d(図2)を除く外周面、及び内側コア部31の端面を覆うように外側コア部33が形成されている。
【0088】
このリアクトル110は、コイル成形体1Cと内側コア部31との組物をケース4に収納した後、軟磁性材料からなる粉末と樹脂との混合体をケース4内に充填して硬化し、外側コア部33を形成することで製造できる。この形態では、コイル成形体1Cに具える巻線において樹脂モールド部2Cから露出して外側コア部33と接触する箇所の外周に、絶縁性チューブを配置したり、絶縁テープなどを巻回したりすると、外側コア部33との間の絶縁性を高められ、好ましい。
【0089】
リアクトル110は、コイル成形体1Cの放熱部20がケース4の底面4dに接することで、コイルの熱を放熱部20からケース4を介して、設置対象に効率よく放出することができる。また、コイル成形体1Cの設置面20dの近傍に対応した形状の溝をケース4の底面4dに形成すると、コイル成形体1Cとケース4との接触面積が大きくなることで、このリアクトルは、放熱性を更に高められる。この溝は、コイル成形体1Cの位置決めにも利用できるため、このリアクトルは組立作業性にも優れる。
【0090】
なお、コイル成形体1Cは、上述のように中空孔2h(図2)を有しており、内側コア部31と別部材とすることができるが、コイル成形体1Cの形成時に内側コア部31を中子としてコイルと一緒に成形型に収納してインサート成形し、コイル成形体1Cと内側コア部31とを一体物としてもよい。この場合、コイル成形体1Cと内側コア部31とがばらばらにならず、両者を一度にケース4に収納できるため、組立作業性に更に優れる。
【0091】
また、実施形態1,2で説明したような一対のコイル素子を具えるコイル成形体においても、樹脂モールド部の構成樹脂により内側コア部を一体に成形した形態とすることができる。
【0092】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明リアクトルは、ハイブリッド自動車や電気自動車、燃料電池自動車などの車両に搭載される車載用コンバータといった電力変換装置の構成部品に好適に利用することができる。本発明コイル成形体は、上記リアクトルの構成部品などに好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0094】
1A,1B,1C コイル成形体 11,12 分割成形体
10A コイル 10a,10b コイル素子 10w 巻線 10e,10e1,10e2 巻線の端部
10r 連結部 10j 連結部材 10d 設置面
2A,2Ba,2Bb,2C 樹脂モールド部 2h 中空孔 20d 設置面
20 放熱部 21 補強部
3 磁性コア 30m コア片 30g ギャップ材
31 内側コア部 32,33 外側コア部
4 ケース 4d 底面
100,110 リアクトル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻線を螺旋状に巻回してなるコイルを具えるコイル成形体であって、
前記コイルの外周の少なくとも一部を覆う樹脂モールド部を具え、
前記樹脂モールド部は、
熱伝導率が異なる複数の樹脂により構成され、
前記コイルの形状を保持する補強部と、
前記補強部の構成樹脂よりも熱伝導率が高い樹脂により構成された放熱部とを具え、
前記放熱部は、前記コイルにおいて、当該コイルを設置対象に設置したときに設置側に配置される設置面に接して設けられていることを特徴とするコイル成形体。
【請求項2】
前記放熱部の構成樹脂の熱伝導率が1W/m・K以上であることを特徴とする請求項1に記載のコイル成形体。
【請求項3】
前記放熱部の構成樹脂は、セラミックスのフィラーを含有するエポキシ系樹脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載のコイル成形体。
【請求項4】
前記樹脂モールド部は、エポキシ系樹脂で構成され、前記放熱部と前記補強部とが一体に成形されており、
前記放熱部は、前記補強部よりもセラミックスのフィラーを多く含有することを特徴とする請求項3に記載のコイル成形体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のコイル成形体と、
前記コイル成形体が配置される磁性コアとを具えることを特徴とするリアクトル。
【請求項6】
前記コイル成形体と前記磁性コアとの組合体を収納するケースを更に具え、
前記コイル成形体の放熱部は、前記ケースに接して配置されることを特徴とする請求項5に記載のリアクトル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−238634(P2012−238634A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−104925(P2011−104925)
【出願日】平成23年5月10日(2011.5.10)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】