説明

コイル状成形品

【課題】内視鏡の内蔵物として、内視鏡の操作時の追従性や、繰返しの洗滌消毒に対しても耐性を有し且つ軽量である、医療用コイル状成形品を提供すること。
【解決手段】内視鏡の細長な可撓性管部からなる挿入部に、該可撓性管部の内部に配置されて用いられるためのコイル状成形品であって、コイルを形成する素線が熱可塑性樹脂の細帯1体からなるコイル状成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱可塑性樹脂のコイル状成形品に関する。さらに詳しくは、内視鏡の細長な可撓性管部からなる挿入部に、該可撓性管部の内側に配置して用いられる、医療用コイル状成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、細長の挿入部を体腔内に挿入することにより、体腔内臓器などを観察したり、必要に応じて処置具チャンネル内に挿通した処置具を用いて各種治療処置の行える医療用の内視鏡が広く利用されている。
医療分野で使用される内視鏡は、挿入部を体腔内に挿入して、臓器などを観察したり、内視鏡の処置具チャンネル内に挿入した処置具を用いて、各種治療や処置を行う。このため、挿入部の内部に配置される内蔵物には、挿入部の先端を観察や処置のために所望の方向に向けるべく湾曲部を湾曲させたときに、その湾曲に追従する追従性が求められる。また、一度使用した内視鏡や処置具を他の患者に再使用する場合には、内視鏡や処置具を介しての患者間感染を防止する必要から、検査・処理終了後に内視鏡装置の洗滌消毒を行わなければならなかった。この洗滌消毒は、繰返して行われるため、洗滌消毒の高温度と長時間の処理時間の繰返しによっても、内視鏡や処置具それ自体はもちろんのことその部品例えば挿入部の内部に配置される内蔵物にも、物性の低下や追従性の悪化に対し耐性を有することが求められる。一方、内視鏡や処置具は、それを使用する医師等が直接手で抱えて操作することが多く、その軽量化も強く求められている。軽量化により上記の如き耐性が得られないとしても、耐性を保持し得る1回あるいは数回の使用により交換すれば解決できるため、例えば部品の軽量化も重要な課題である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、内視鏡の内蔵物として、上記の如き、内視鏡の操作時の追従性や、繰返しの洗滌消毒に対しても耐性を有する、医療用コイル状成形品を提供することにある。
【0004】
本発明の他の目的は、内視鏡の内蔵物として、内視鏡の軽量化に資する、熱可塑性樹脂組成物からなる医療用コイル状成形品を提供することにある。
【0005】
本発明のさらに他の目的および利点は以下の説明から明らかとなろう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、本発明の上記目的および利点は、内視鏡の細長な可撓性管部からなる挿入部に、該可撓性管部の内部に配置されて用いられるためのコイル状成形品であって、コイルを形成する素線が熱可塑性樹脂の細帯1本からなることを特徴とする上記コイル状成形品により達成される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、内視鏡の操作時の湾曲部の動きへの追従性に優れまた繰返しの洗滌消毒例えば70℃で10時間あるいは115℃〜142℃で3〜100分と云った条件下で処理しても追従性や強度等の物性の低下が小さい、従って1回の使用はもちろん複数回の使用も可能な医療用コイル状成形品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明のコイル状成形品の概略図。
【図2】本発明のコイル状成形品を構成する素線の細帯の断面形状を示す概略図。
【図3】図2の(b)、(d)および(e)の断面形状を持つ細帯の、コイル状成形品における隣接状態を示す説明図。
【図4】実施例で用いられた細帯の断面形状およびその寸法を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に本発明の実施態様を説明する。コイル状成形品の形態としては添付図面の図1に示すように素線(細帯)が接触した状態(A)でも間隔を空けた状態(B)でもよい。(A)の状態が好ましい。コイルを形成する素線は1本の細帯からなる。細帯の長さ方向に直角方向の断面形状は、添付図面の図2に例示するように、種々の形状を採ることができる。図2の(a)は長方形であり、(b)は長方形の短辺が傾斜した平行四辺形であり、(c)は長方形の短辺が外側に湾曲した形状であり、(d)は長方形の短辺と長辺の、対角線上の2つの角に四辺形の切り欠きを設けた形状であり、(e)は(b)における対角線上の2つの鈍角の角に切り欠きを設けた形状であり、(f)は長方形の1つの長辺と2つの短辺とを1つの湾曲面とした形状であり、(g)は長方形に内接する楕円形状であり、(h)は長方形の1つの長辺に窪み(細帯上に、例えば長さ方向に沿って設けられた溝、図は窪み3ヶ所の例)が設けられた形状であり、(i)は長方形の長辺に突起(細帯上に、例えば長さ方向に沿って設けられた細状突起、図は突起3個の例)が設けられた形状であり、(j)は長方形の一方の長辺に窪み、もう一方の長辺に突起を設けた形状である。図2の断面形状は、いずれも図示された上方の長辺がコイル状成形品とした場合のコイルの外側に位置し、図示された下方の長辺がコイル状成形品とした場合のコイルの内側に位置することを想定して図示されている。
【0010】
本発明において、細帯とは、図2に図示された例から理解されるように、帯の長さ方向に直角方向の断面形状が、該直角方向の長さである帯幅(図2の断面形状では左右方向の長さ)に対しそれに垂直方向の長さである帯厚(図2の断面形状では上下方向の長さ)が短い帯のことを意味している。帯幅は、好ましくは0.5〜5.0mmの範囲、より好ましくは2.0〜4.0mmの範囲にある。この範囲おいて、コイル成形品は湾曲部の湾曲に追従して湾曲する性能に優れている。また帯厚は、好ましくは0.2〜1.2mmの範囲であり、さらに好ましくは0.4〜1.0mmである。この範囲において、コイル状成形品の製造が容易となり、上記した追従性も良好となる。
【0011】
本発明のコイル状成形品は、好ましくは内径が0.3〜3.0mmの範囲にあり、より好ましくは0.5〜1.5mmの範囲にある。また、コイル状成形品において、上記細帯の帯幅対帯厚の比は、好ましくは3:1〜5:1、より好ましくは3.5:1〜4.5:1である。コイル状成形品において、細帯は図1の(A)の接触した状態にあるとき、断面形状が図2の(b)、(d)および(e)のような重なり部(傾斜した短辺、切り欠き)を持つものでは、図3の(b’)、(d’)および(e’)に図示されているように重なり部を重ね合わせた状態を採るのが好ましい。
コイル状成形品の製造方法としては押出成形や射出成形が挙げられるが、内視鏡の内蔵物としては長さが必要とされるので押出成形が望ましい。押出成形による方法としては例えば特開昭48−20861号公報に記載された方法を挙げることができる。コイル状成形品の素材である熱可塑性樹脂としては、例えばポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリテトラメチレンテレフタレート樹脂など)、ナイロン樹脂(ナイロン6、ナイロン66など)、ポリオレフィン樹脂(ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂など)およびポリスチレン樹脂などが用いられる。これらのうち、ポリエチレンテレフタレート樹脂が好ましい。
【0012】
本発明のコイル状成形品は、内視鏡の内蔵物として、例えば、可撓性管部の内部に配置されて湾曲部を湾曲させるための複数本の湾曲ワイヤをそれぞれ遊嵌状態で被覆するための湾曲ワイヤ被覆コイルとして好適に用いることができる。この場合、湾曲ワイヤの操作により湾曲部を湾曲させる際、本発明のコイル状成形品は湾曲部の湾曲に追従して湾曲する性能に優れている。それらの性能は、例えば曲がりテストおよび加重伸びテストにより評価することができる。
本発明のコイル状成形品が用いられる内視鏡の構造は例えば特開2008−100077号公報に詳しく開示されている。その図3には、内視鏡の可撓管部(軟性部位)内に挿通配置された内蔵物が示されている。本発明のコイル状成形品は、その図の例えば湾曲ワイヤ21を遊嵌被覆するワイヤ被覆コイル22として有利に使用することができる。
本発明のコイル状成形品は、熱可塑性樹脂からなるため、ワイヤ被覆コイルの場合、従来のステンレス製に比べ、約5分の1程度の重量(ポリエチレンテレフタレート製)に軽量化される。
【0013】
以下、実施例により本発明を詳述する。
【実施例】
【0014】
実施例1
原料のポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂のペレットを130℃で4時間乾燥させた後に、押出機のホッパーに投入した。押出機は径が20mmで、L/D=25の単軸押出機を用いた。押出機はシリンダ温度280℃、ダイ温度270℃であった。コイル状成形品の成形方法は金型から押出した後に、図4に示す断面形状となった素線を、水温35〜45℃の冷却バスに素線を130mm浸けた後にバスから素線を上げて表面の冷却を行った。表面冷却された素線をコイル内径1mmと同じ径の回転軸に巻きつけていくことにより500mmの結晶化したPET樹脂からなるコイル状成形品に成形した。
上記コイル状成形品として、外径2.4mm(内径0.9mm)のコイル状成形品を製造した。これらのコイル状成形品の曲がりテスト、加重伸びテスト、耐熱性を測定した。
曲がりテストは、長さ300mmのコイル状成形品を準備し、一端を固定して水平に位置させ、その後自由な他端の水平位置からの下がり(mm)を15℃、相対湿度40%で測定した。下がりは、91mmであった。
加重伸びテストは、長さ300mmのコイル状成形品を準備し、一端を固定して垂直に位置させ、自由な他端に荷重を負荷して、15℃、相対湿度40%で長さを測定し、その長さから300mmを減じた長さ(伸び)を見るものである。荷重により、伸び(mm)は下記表1に示した値となった。
【0015】
【表1】

【0016】
また、上記コイル状成形品は、70℃、100℃および150℃の温度で各10時間処理した(垂直に懸垂して無荷重状態で)後においても、処理前と比較して、長さ、外径および曲りがいずれも全く変化が無かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内視鏡の細長な可撓性管部からなる挿入部に、該可撓性管部の内部に配置されて用いられるためのコイル状成形品であって、コイルを形成する素線が熱可塑性樹脂の細帯1本からなることを特徴とする上記コイル状成形品。
【請求項2】
上記細帯の帯幅が0.5〜5.0mmの範囲にある請求項1に記載のコイル状成形品。
【請求項3】
上記細帯の帯厚が0.2〜1.2mmの範囲にある請求項1または2に記載のコイル状成形品。
【請求項4】
上記コイル内径が0.3〜3.0mmの範囲にある請求項1〜3のいずれかに記載のコイル状成形品。
【請求項5】
熱可塑性樹脂がポリエチレンテレフタレートである請求項1〜4のいずれかに記載のコイル状成形品。
【請求項6】
上記挿入部が湾曲自在な湾曲部を有し、該湾曲部と湾曲させるための金属製ワイヤを遊嵌状態で覆うための請求項1〜5のいずれかに記載のコイル状成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−187889(P2010−187889A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−34862(P2009−34862)
【出願日】平成21年2月18日(2009.2.18)
【出願人】(597011290)幸輝プラスチック工業株式会社 (3)
【Fターム(参考)】