説明

コイル状線材の矯正装置及び矯正方法

【課題】簡易で廉価な装置構成であっても、コイル状の線材を矯正するときの直線性の精度を従来よりも向上することができる矯正装置及び矯正方法を提供する。
【解決手段】回転台と、回転台からコイル状の線材Mを引き出す線材供給手段と、矯正平面SH内に二列に互い違いに配置されるとともに回動自由でかつ外周面に沿って線材が係入する溝を有して線材Mを両側面から交互に押圧する複数個の矯正ローラ31、32と、を備えるコイル状線材の矯正装置であって、回転台に近い先頭の矯正ローラ31の前方に矯正平面SHから変位して配置される(変位量△H)とともに回動自由で、かつ外周面に沿って線材Mが係入する溝を有して線材を側面から押圧するねじれ矯正ローラ4を備え、
矯正ローラ31及びねじれ矯正ローラ4の溝に係入する線材Mに矯正平面SHと交わる方向の矯正力FI、FJを作用させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル状に巻回された線材を直線状に矯正する矯正装置及び矯正方法に関し、より詳細には複数個の矯正ローラを用いた矯正装置及び矯正方法における直線性の精度向上に関する。
【背景技術】
【0002】
ワークを圧造成形して所定形状の部品を製造する圧造機では、前段に線材の矯正装置及び切断装置が付属され、長尺の線材を所定長のワークに切断して順次供給するのが一般的である。鋼線などの線材は通常コイル状に巻回された状態で入荷するので、矯正装置は螺旋状に巻き癖のついた線材を直線状に矯正して、切断装置に供給する役割を有している。近年、部品の寸法精度向上に対する要求が厳しくなってきており、前提条件として線材及びワークの直線性の精度向上が重要な課題となっている。特に高精度な部品を製造する場合には直線状の線材を用いる場合もあるが、線材長が限られるため線材交換作業が頻繁となり、また線材の歩留まりが悪く、コストも増加する。したがって、コイル状の線材であっても、高精度に直線状に矯正できる矯正装置が必要である。
【0003】
この種の矯正装置には、二列に互い違いに矯正ローラを配置して線材の両側面を交互に押圧する方式の装置が多用されている。さらに直線性の一層の精度向上を図るために、2組の矯正ローラ群を直列に用いて水平方向と垂直方向から別々に矯正を行う装置も実用化されている。それでも十分な直線性が得られない場合もあり、特許文献1及び2に新たな技術が提案されている。
【0004】
特許文献1に開示された「線材の曲りグセ矯正装置」は、矯正ローラ群を線材の移動方向に沿って配置すると共に、その矯正ローラ群を線材の周りに回転させる回転機構を設けたことを特徴としている。そして、線材のよじれ方向と逆方向に矯正ローラ群を回転させることにより、クセ取りを効果的に行うことができる利点を有する、とされている。また、特許文献2に開示された「線材の曲がりと直径の矯正装置」は、線状の材料の移送経路を中心軸として回転する回転保持部と、回転保持部の内部に設置された矯正ローラと、を有している。これにより、張力が加わった材料に対して、矯正に必要な荷重が材料の円周方向360度にわたって加わることになり、材料の曲がりの方向にばらつきがある場合でも矯正を行うことができる、とされている。
【0005】
また、本願出願人は、特許文献1及び2とは異なる方式の矯正装置を特許文献3に開示している。特許文献3の矯正装置は、コイル状の線材が載置される回転台と、基台に配置される複数個の矯正ローラと、回転台または基台を傾ける傾動手段とを備え、線材の円弧部分を含む平面と複数個の矯正ローラによりつくられる矯正平面とが成す変位角を小さくするように制御することを特徴としている。そして、効果を確認する矯正実験で真直度はゼロになり、ほぼ完全な直線に矯正できることが確認されている。つまり、線材の円弧の外側及び内側の真横から付勢することにより、高い直線性で矯正できることが確認されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−39466号公報
【特許文献2】特開2005−177857号公報
【特許文献3】特開2008−110359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1と特許文献2の矯正装置は、矯正ローラ群全体を線材の周りに回転させる点では類似した方式であり、従来と比較して装置構成が複雑化・大形化する難点がある。さらに、矯正ローラ群を回転させるための動力源やその制御装置が必要になって、コストも大幅に上昇する。また、特許文献3に開示した矯正装置においては、その効果は確認されているが、やはり傾動手段により装置が複雑化し、制御も煩雑である。
【0008】
本発明は上記背景に鑑みてなされたものであり、簡易で廉価な装置構成であっても、コイル状の線材を矯正するときの直線性の精度を従来よりも向上することができる矯正装置及び矯正方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のコイル状線材の矯正装置は、コイル状の線材を戴置する回転自在な回転台と、該回転台から前記線材を引き出す線材供給手段と、矯正平面内に二列に互い違いに配置されるとともに回動自由でかつ外周面に沿って前記線材が係入する溝を有して前記線材を両側面から交互に押圧する複数個の矯正ローラと、を備えるコイル状線材の矯正装置であって、前記回転台に近い先頭の前記矯正ローラの前方または複数個の前記矯正ローラの間に前記矯正平面から変位して配置されるとともに回動自由で、かつ外周面に沿って前記線材が係入する溝を有して前記線材を側面から押圧するねじれ矯正ローラを備え、前記矯正ローラ及び前記ねじれ矯正ローラの前記溝に係入する前記線材に前記矯正平面と交わる方向の矯正力を作用させるようにしたことを特徴とする。
【0010】
回転台から引き出される線材には、元のコイル形状に起因する螺旋状の巻き癖がついている。巻き癖は、線材の円弧状の曲がり癖と線材自身のねじれによって特徴付けられている。ねじれとは、線材の長さ方向に移動したときの回転を意味する。ねじれのない線材を円弧状に曲げると一回転したときに重なるが、ねじれのある線材を円弧状に曲げると一回転したときに軸線方向に変位して螺旋状を呈する。逆に言えば、コイル状に巻回された線材は、ねじれを有している。本発明は、三次元の螺旋状の巻き癖を有する線材に対し、まずねじれ矯正ローラと矯正ローラの間で螺旋の軸線方向の矯正力を作用させることによりねじれを取り去って二次元の円弧状に矯正し、次に円弧を含む矯正平面内で複数個の矯正ローラにより直線状に高精度に矯正するようにしたことを主旨とする。
【0011】
本発明の矯正装置では、鋼線や銅線などの線材はコイル状の形態で回転台に戴置され、一端が引き出される。ここで、回転台と矯正ローラとの間に線材供給手段を配設して矯正ローラに線材を押し込む構成と、矯正ローラの後ろ側に線材供給手段を配設して矯正ローラから線材を引き出す構成とがある。いずれの場合でも、線材供給手段により、線材は回転台から引き出されて複数個の矯正ローラに供給される。
【0012】
複数個の矯正ローラは、二列に互い違いに配置され、さらに回動自由でかつ外周面に沿って前記線材が係入する溝を有している。各矯正ローラの溝の中央を結ぶ面が矯正平面である。供給された線材は、左右交互に矯正ローラの外周面の溝に係入して押圧され、供給平面内を蛇行しながら進んでゆく。一方、ねじれ矯正ローラは、回転台に近い先頭の矯正ローラの前方または複数個の矯正ローラの間に、矯正平面から変位して配置され、さらに回動自由でかつ外周面に沿って前記線材が係入する溝を有している。供給された線材は、ねじれ矯正ローラの外周面の溝にも係入して押圧される。
【0013】
ここで、ねじれ矯正ローラが矯正平面に対して変位しているので、ねじれ矯正ローラからその後ろ側の矯正ローラに向けて、線材は矯正平面外から矯正平面に徐々に接近し最終的に一致するように曲げられる。このとき、両ローラから線材に対し、矯正平面と交わる方向の矯正力が作用する。矯正力により、線材のねじれを取り去ることができて、螺旋状の巻き癖を円弧状の曲がり癖に矯正することができる。さらに、円弧状の曲がり癖は二次元であるため、矯正平面内に配置された矯正ローラの作用で高精度に矯正できる。
【0014】
本発明ではさらに、ねじれ矯正ローラが先頭の前記矯正ローラの直前に配置されている、ことが好ましい。
【0015】
ねじれ矯正ローラの配置は、回転台に近い先頭の矯正ローラの前方または複数個の矯正ローラの間とするが、先頭の前記矯正ローラの直前が好ましい。なぜならば、矯正平面内に配置された矯正ローラは矯正平面内の曲がりのみを矯正し、矯正平面と交わる方向の矯正機能を有さないので、前もって三次元の螺旋状の巻き癖を二次元の円弧状の曲がり癖に矯正しておくことが合理的だからである。
【0016】
さらに、前記ねじれ矯正ローラの前記矯正平面からの変位量を調整するローラ変位量調整手段を備える、ことが好ましい。
【0017】
ねじれ矯正ローラの矯正平面からの変位量を調整することにより、矯正平面外から矯正平面に一致するまでの線材経路が変化し、矯正力が変化する。これにより、材質や太さの異なる多種類の線材に対応できる。また、線材が芯体に複数層にわたり往復巻回されている場合、ローラ変位量調整手段は線材の巻き癖の螺旋の方向に応じて変位量を正負反転させることができ、さらには螺旋径の減少に応じて変位量を調整できる。これを行わないと、逆方向の矯正力により誤ってねじれを増加させてしまう場合や、螺旋径とねじれ矯正ローラの変位量が整合せず良好に矯正できない場合が生じ得る。
【0018】
次に、本発明のコイル状線材の矯正装置は、コイル状の線材を戴置する回転自在な回転台と、該回転台から前記線材を引き出す線材供給手段と、矯正平面内に二列に互い違いに配置されるとともに回動自由でかつ外周面に沿って前記線材が係入する溝を有して前記線材を両側面から交互に押圧する複数個の矯正ローラと、を備えるコイル状線材の矯正装置であって、前記回転台に近い先頭の前記矯正ローラの前方または複数個の前記矯正ローラの間に前記矯正平面に対し傾斜して配置されるとともに回動自由で、かつ外周面に沿って前記線材が係入する溝を有して前記線材を側面から押圧するねじれ矯正ローラを備え、 前記矯正ローラ及び前記ねじれ矯正ローラの前記溝に係入する前記線材に前記矯正平面と交わる方向の矯正力を作用させるようにしてもよい。
【0019】
ねじれ矯正ローラを矯正平面から変位して配置する代わりに、矯正平面に対し傾斜して配置するようにしてもよい。この態様でも、線材は矯正平面外から矯正平面に徐々に接近し最終的に一致するように曲げられるので、同様の効果が生じる。
【0020】
次に、本発明のコイル状線材の矯正方法は、回転自在な回転台に戴置されたコイル状の線材を引き出し、矯正平面内に二列に互い違いに配置された回動自由でかつ外周面に沿って前記線材が係入する溝を有する複数個の矯正ローラで前記線材を両側面から交互に押圧して直線状に矯正するコイル状線材の矯正方法であって、前記回転台に近い先頭の前記矯正ローラの前方または複数個の前記矯正ローラの間に前記矯正平面から変位させてまたは前記矯正平面に対し傾斜させて、回動自由でかつ外周面に沿って前記線材が係入する溝を有するねじれ矯正ローラを配置し、該ねじれ矯正ローラで前記線材を側面から押圧し、 前記矯正ローラ及び前記ねじれ矯正ローラの前記溝に係入する前記線材に前記矯正平面と交わる方向の矯正力を作用させるようにしたことを特徴とする。
【0021】
さらに、前記矯正力により前記線材が有する三次元の螺旋状の巻き癖を二次元の円弧状の曲がり癖に矯正し、複数個の前記矯正ローラにより直線状に矯正する、ようにしてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の矯正装置及び矯正方法によれば、まずねじれ矯正ローラと矯正ローラの間で線材に矯正平面と交わる方向の矯正力を作用させて螺旋状の巻き癖を円弧状の曲がり癖に矯正し、次に円弧を含む矯正平面内で複数個の矯正ローラにより直線状に高精度に矯正することができる。したがって、従来の装置、例えば2組の矯正ローラ群を用いて水平方向と垂直方向から別々に矯正を行う装置よりも、直線性の精度を向上することができる。
【0023】
また、本発明の矯正装置は、従来の複数個の矯正ローラを用いた矯正装置において、先頭の矯正ローラの高さをライナーにより変更するなどのわずかな構造変更でねじれ矯正ローラの機能を付与して実現できる。したがって、矯正ローラ群全体を回転させる装置と比較し廉価で簡易な装置構成であっても、コイル状の線材を矯正するときの直線性の精度を向上することができる。
【0024】
さらに、ローラ変位量調整手段を備える態様では、材質や太さの異なる多種類の線材に対応でき、線材が芯体に複数層にわたり往復巻回されている場合にも、良好に矯正できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態のコイル状線材の矯正装置を説明する図であり、(A)は平面図、(B)は正面図である。
【図2】図1の実施形態におけるねじれ矯正ローラの構造を説明する断面図である。
【図3】図1の実施形態において、螺旋状の巻き癖を有する線材に対する矯正作用を説明する部分拡大図である。
【図4】図3とは螺旋状の巻き癖の方向が異なる線材に対する矯正作用を説明する部分拡大図である。
【図5】3種類の確認実験を行った別の実施形態の矯正装置の構成を説明する図であり、(A)は高い角度からの斜視図、(B)は低い角度からの斜視図である。
【図6】図5の実施形態の矯正装置を用いたねじれ発生確認実験の結果を示す図である。
【図7】図5の実施形態の矯正装置を用いたねじれ矯正確認実験の結果を示す図である。
【図8】図5の実施形態の矯正装置を用いたコイル材矯正確認実験の結果を説明する図であり、(A)は実験結果のグラフを示し、(B)は真直度の定義を示している。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明を実施するための形態を、図1〜図4を参考にして説明する。図1は本発明の実施形態のコイル状線材の矯正装置1を説明する図であり、(A)は平面図、(B)は正面図である。実施形態の矯正装置1は、図略の回転台及び線材供給手段、基台2、4個の矯正ローラ31〜34、ねじれ矯正ローラ4などで構成されている。回転台には、コイル状の線材を消費しても常に繰り出し元の高さを一定に保つことができる装置を用いる。線材供給手段は線材を供給する部位であり、回転台に隣接して基台2との間(図1では右方)、あるいは基台2の後ろ側(図1では左方)に配置されている。線材供給手段には、例えば、一対の対向するローラを回転駆動することにより線材を挟持して繰り出す方式の送りローラ装置を用いる。
【0027】
基台2は、図1(A)に示されるように、同一高さで水平に配置されたメイン基台21及びサブ基台22により構成されている。サブ基台22は、図中左側の一端23が回動可能に支持され、右寄り下側の押圧固定部24がメイン基台21から延設された支持ロッド25に貫通支持されている。押圧固定部24は、バネ部材により常時メイン基台21から遠ざかるように、図1(A)の下方に向けて付勢されている。一方、支持ロッド25の先端には、回動可能で押圧固定部24に当接する操作レバー26が設けられている。図1(A)において、操作レバー26の大径部261が押圧固定部24に当接しており、サブ基台22はメイン基台21に向けて圧接固定されている。操作レバー26を図中反時計回りに回動させて手前側に引くと、その狭幅部262が押圧固定部24に当接し、狭幅部262と大径部261との寸法差だけ押圧固定部24が図中下方に移動するようになっている。これにより、サブ基台22は手前側に回動する。上述のようにサブ基台22を回動式としたのは、最初に線材Mをセットする作業を容易とするためである。
【0028】
また、メイン基台21の上面側の図中右端には、線材Mを通してねじれ矯正ローラ4へ案内するガイド筒27が設けられている。さらに、メイン基台21の図中左側に離隔して線材端検出センサ28が配設されている。線材端検出センサ28は、回動可能な筒状のセンサ本体部281、センサ本体部281から径方向外向きに突設された棒状のアーム部282、およびアーム部282の外周で回転自在な筒体283により構成されている。アーム部282は線材Mの上側に載置され、線材Mが移動すると筒体283が遊転するようになっている。そして、線材Mがなくなるとアーム部282は重力に引かれて下方に動き、センサ本体部281が回動して線材端を検出するようになっている。線材端検出センサ28のさらに図中左側には線材切断装置が配置され、直線状に矯正された線材を切断してワークを製作するようになっている。
【0029】
図示されるように、サブ基台22の上面側には、図中右側から順番にねじれ矯正ローラ4、第2矯正ローラ32、及び第4矯正ローラ34が配設されている。一方、メイン基台21の上面側には、図中右側に第1矯正ローラ31、左側に第3矯正ローラ33が配設されている。これらのローラ4、31〜34は、二列に互い違いに配置されている。そして、図中右側から供給される線材Mは、ガイド筒27を通った後、まずねじれ矯正ローラ4に当接し、続いて第1〜第4矯正ローラ31〜34の順番に当接して蛇行するようになっている。メイン基台21の第1及び第3矯正ローラ31、33は、押込み調整部39により図1(A)の上下方向に移動可能とされ、押込み量を調整できるようになっている。一方、サブ基台22のねじれ矯正ローラ4、第2及び第4矯正ローラ32、34の位置は固定されている。押込み量は線材の蛇行の程度を示す量であり、押込み量のゼロは真直な線材がちょうど両側で接して通過する状態を示し、押込み量の正値はその分だけ線材Mを蛇行させることを示している。
【0030】
また、図1(B)に示されるように、第1〜第4矯正ローラ31〜34は同一高さに配置され、外周面の溝の中央高さに矯正平面SHが定められている。これらに対し、ねじれ矯正ローラ4は、変位量△Hだけ高く配置されている。
【0031】
図2は、ねじれ矯正ローラ4の構造を説明する断面図である。ねじれ矯正ローラ4は、ライナー41、軸受け42、ローラ体43、オサエ44、貫通ボルト45、及び2個のナット46、46で構成されている。ライナー41は、外径の異なる段差を有する筒状の部材であり、大径部411の高さHを変更できるように複数準備されている。ライナー41の大径部411は、サブ基台22に設けられた固定孔221の真上に配置されている。ライナー41の小径部412の外周側には軸受け42が嵌入されている。軸受け42の外側の回転部422には、ローラ体43が水平に固定されている。ローラ体43は略円板状で、外周面に沿って断面V字状の溝を有しており、この溝に線材Mが係入するようになっている。軸受け42の内側の固定部421の上側には、略環状のオサエ44が配置されている。オサエ44とライナー41の大径部411との間で、軸受け42の固定部421を挟持するようになっている。貫通ボルト45は、サブ基台22の固定孔221、ライナー41、及びオサエ44を貫通し、両側がナット46、46により締め付けられることで、ねじれ矯正ローラ4全体が固定されている。
【0032】
なお、断面V字状の溝は、矯正平面SHから線材Mが逸脱しないように安定保持する構造の一例であり、断面U字状やその他の構造としてもよい。
【0033】
ねじれ矯正ローラ4は、大径部411の高さHが異なるライナー41を交換することで、矯正平面SHからの変位量△Hを調整できるようになっている。つまり、ライナー41の交換がローラ変位量調整手段に相当する。一方、第1〜第4矯正ローラ31〜34は、ねじれ矯正ローラ4と類似の構造を有し、ライナー41の大径部411の高さHが一定値で共通している点が異なる。
【0034】
次に、実施形態の矯正装置1の作用について、図3及び図4を参考にして説明する。図3は、螺旋状の巻き癖を有する線材Mに対する矯正作用を説明する部分拡大図である。また図4は、図3とは螺旋状の巻き癖の方向が異なる線材MRに対する矯正作用を説明する部分拡大図である。なお、図中の線材M、MRの巻き癖は模式的なものであり、巻き癖の直径は実際にはローラ4、31、32の直径よりも桁違いに大きい。
【0035】
図3において、ねじれ矯正ローラ4は第1矯正ローラ31よりも変位量△Hだけ高く配置されている。一方、コイル状の線材Mは、長さ方向に進むにつれて下方に向かう螺旋状の巻き癖を有している。つまり、線材Mの一端M1は、外力が作用しない状態では螺旋状の巻き癖に沿って斜め上方を向いている。線材供給手段が線材Mを供給すると、一端M1は、ガイド筒27を通り抜けた後、ねじれ矯正ローラ4の溝に係入して紙面奥側の当接点Iに当接し、次にはわずかに下降しながら矯正平面SHに徐々に接近し、第1矯正ローラ31の溝に係入して紙面手前側の当接点Jに当接して矯正平面SHに一致し、以降は水平に矯正平面SHを通過する。つまり、線材Mは、ねじれ矯正ローラ4から第1矯正ローラ31に向けて、斜め上方に向かう代わりに強制的に斜め下方に向かって供給される。
【0036】
これにより、ねじれ矯正ローラ4の当接点Iから線材Mに対し、矯正平面SHに概ね直交する上向きの矯正力FIが作用し、第1矯正ローラ31の当接点Jから線材Mに対し、矯正平面SHに概ね直交する下向きの矯正力FJが作用する。これらの矯正力FI、FJは、線材Mからねじれを取り除き、線材Mの螺旋状の巻き癖を矯正するように作用する。このとき、線材Mには長さ方向の引張応力または圧縮応力も作用している。したがって、長さ方向の力及び矯正力FI、FJをベクトル的に加えた合成力がミーゼスの降伏条件を満たすと塑性変形が生じ、螺旋のピッチPを減少させる方向に矯正する。この矯正の度合いは、矯正ローラ4の変位量△H及び線材Mに加わる長さ方向の力に依存して変化する。したがって、線材Mの材質、太さ、及び巻き癖の性状に合わせてねじれ矯正ローラ4の変位量△H及び材料供給手段の繰り出し力または引張力を調整することにより、ピッチP=0の円弧状の曲がり癖に矯正できる。
【0037】
なお、図4に示されるように、長さ方向に進むにつれて上方に向かう螺旋状の巻き癖の方向が異なる線材MRに対して、ねじれ矯正ローラ4を第1矯正ローラ31よりも変位量−△HRだけ低く配置するのは当然である。これにより、線材MRに作用する矯正力FIR、FJRの向きは図3の場合と反転し、やはり円弧状の曲がり癖に矯正できる。
【0038】
図3及び図4のいずれの場合も、二次元の円弧状の曲がり癖に矯正された後の線材M、MRは、矯正平面SH内で第1〜第4矯正ローラ31〜34により高精度に矯正される。
【0039】
実施形態の矯正装置1によれば、まずねじれ矯正ローラ4と第1矯正ローラ31の間で矯正平面SHに概ね直交する矯正力FI、FJ、FIR、FJRを線材M、MRに作用させて螺旋状の巻き癖を円弧状の曲がり癖に矯正し、次に円弧を含む矯正平面SH内で4個の矯正ローラ31〜34により直線状に高精度に矯正することができる。
【0040】
また、実施形態の矯正装置1は、従来の5個の矯正ローラを用いた矯正装置において、先頭の矯正ローラの変位量△Hをライナー41交換により調整することで実現できる。したがって、廉価で簡易な装置構成であっても、コイル状の線材M、MRを矯正するときの直線性の精度を向上することができる。
【0041】
さらに、ねじれ矯正ローラ4のローラ変位量調整手段として、高さHが異なるライナー41を交換するようにしたので、材質や太さの異なる多種類の線材に対応できる。
【0042】
なお、ローラ変位量調整手段として、例えば、ねじ送り機構を用いた高さ調整部を設け、手動操作あるいは電動操作によりねじれ矯正ローラ4の高さを調整できるようにしてもよい。すると、線材の巻き癖の螺旋の方向や螺旋径の減少に応じて、ねじれ矯正ローラ4の変位量△Hを容易に調整できる。したがって、線材Mが芯体に複数層にわたり往復巻回されている場合に好適である。
【0043】
次に、別の実施形態の矯正装置10を用いた確認実験結果について説明する。図5は、3種類の確認実験を行った別の実施形態の矯正装置10の構成を説明する図であり、(A)は高い角度からの斜視図。(B)は低い角度からの斜視図である。この矯正装置10は、ねじれ矯正部7と水平矯正部6とを直列に配置して構成されている。ねじれ矯正部7は、3個の第1〜第3ねじれ矯正ローラ71〜73を水平な基台52上に配置して構成されている。また、水平矯正部6は、5個の第5〜第9矯正ローラ65〜69を水平な基台51上に配置して構成されている。2つの基台51、52は連結されており、水平で共通な矯正平面が形成されている。線材M2は図中左方から供給され、まずねじれ矯正部7で矯正され、次に水平矯正部6で矯正されて図中右方へ抜け出るようになっている。
【0044】
3個の第1〜第3ねじれ矯正ローラ71〜73及び5個の第5〜第9矯正ローラ65〜69は同一構造であり、ロール直径D=55mm、相互間のロールピッチL=70mmで、第3ねじれ矯正ローラ73と第5矯正ローラ65との間だけはロールピッチを拡げてある。また、第2ねじれ矯正ローラ72、第6矯正ローラ66、及び第8矯正ローラ68は線材M2と直交する方向に移動可能で、それぞれ押込み量h2、h6、h8を調整できるようになっている。さらに、3個の第1〜第3ねじれ矯正ローラ71〜73は、基台52との間にライナー59を挿入することで、高さt1〜t3=2mmだけ高く変位させて設置できるようになっている。なお、以降の実験に用いた線材M2の材質は鋼材S45Cで直径6mm、巻き癖の螺旋径または円弧径は1000mmである。
【0045】
まず、第1のねじれ発生確認実験では、ねじれを有さない円弧状の線材M2を用い、第1〜第3ねじれ矯正ローラ71〜73のいずれかを矯正平面から変位させたときに発生するねじれ角θを測定した。なお、実験時の押込み量h2、h6、h8は全てゼロとした。図6は、図5の実施形態の矯正装置10を用いたねじれ発生確認実験の結果を示す図である。図中の横軸は線材M2の長さ方向の位置Xを示し、縦軸はねじれ角θを示している。図中のグラフ(1)は、第1ねじれ矯正ローラ71のみをt1=2mmだけ高く変位させた場合を示している。同様に、グラフ(2)は第2ねじれ矯正ローラ72のみt2=2mm高く変位させ、グラフ(3)は第3ねじれ矯正ローラ73のみt3=2mm高く変位させた場合を示している。
【0046】
図示されるように、グラフ(1)では、ねじれ角θは線材M2の長さ方向の位置Xに概ね比例している。グラフ(2)では、ねじれ角θはグラフ(1)と比較すると逆回転方向で、値はやや小さめである。また、グラフ(3)では、ねじれ角θはわずかである。これにより、矯正平面に対して変位したねじれ矯正ローラは線材M2にねじれを発生させる機能を有することと、先頭の第1ねじれ矯正ローラ71の変位がねじれ角θに最も寄与することが判明した。
【0047】
次に、第2のねじれ矯正確認実験では、上述のねじれを発生させる機能を線材M2のねじれの逆回転方向に作用させることにより、線材M2のねじれを矯正できないかの確認を行った。この実験では、ねじれを有して螺旋状になっている線材M2を用い、第1ねじれ矯正ローラ71の高さt1を変更して、ねじれ角θを測定した。なお、実験時の押込み量h2、h6、h8は全てゼロとした。
【0048】
図7は、図5の実施形態の矯正装置10を用いたねじれ矯正確認実験の結果を示す図である。図中の横軸は線材M2の長さ方向の位置Xを示し、縦軸はねじれ角θを示している。図中のグラフ(4)は、第1ねじれ矯正ローラ71を矯正平面に対してt1=2mmだけ高く変位させた場合を示し、グラフ(5)は第1ねじれ矯正ローラ71をt1=0mmで矯正平面内に設置した場合を示している。図示されるように、グラフ(4)では、ねじれ角θは概ねゼロとなり、ねじれを矯正できた。また、グラフ(5)では、長さ方向の位置Xに概ね比例したねじれ角θが残り、ねじれを矯正できなかった。
【0049】
次に、第3のコイル材矯正確認実験では、コイル状の線材M2を矯正したとき最終的に得られる真直度Kの確認を行った。この実験では、ねじれを有して螺旋状になっている線材M2を用い、第1ねじれ矯正ローラ71の高さt1を変更したねじれ角θの矯正の有無の2ケースについて、水平矯正部6による矯正後の最終的な真直度Kを測定した。実験時の押込み量は、第2ねじれ矯正ローラ72の押込み量h2=0、第6矯正ローラ66の押込み量h6=5mmとし、第8矯正ローラ68の押込み量h8を実験パラメータとして可変調整した。なお、真直度Kは下式及び図8(B)により求められ、Lは線材M2の基準長さ、Qは線材M2の姿勢を上下で変えたときの最大変歪量である。
【0050】
真直度K=4×Q/(L×L)
図8は、図5の実施形態の矯正装置10を用いたコイル材矯正確認実験の結果を説明する図であり、(A)は実験結果のグラフを示し、(B)は真直度Kの定義を示している。図8(A)の横軸は第8矯正ローラ68の押込み量h8を示し、縦軸は真直度Kを示している。図中のグラフ(6)は、第1ねじれ矯正ローラ71を矯正平面に対してt1=2mm変位させ、図7で示されたように線材M2のねじれ角θを矯正した場合である。また、グラフ(7)は、第1ねじれ矯正ローラ71をt1=0mmで矯正平面内に設置し、ねじれ角θを残した場合である。
【0051】
図示されるように、グラフ(6)では、押込み量h8=h(best)程度において、真直度Kの誤差幅K1、すなわち矯正限界は最小となっている。一方、グラフ(7)では、真直度Kの誤差幅K2はグラフ(6)の2倍以上となっている。つまり、変位させた第1ねじれ矯正ローラ71で線材M2のねじれ角θを矯正したことにより、直線性の精度を2倍以上向上できた。
【符号の説明】
【0052】
1、10:コイル状線材の矯正装置
2:基台
21:メイン基台 22:サブ基台 27:ガイド筒 28:線材端検出センサ
31〜34:第1〜第4矯正ローラ
4:ねじれ矯正ローラ
41:ライナー 42:軸受け 43:ローラ体
44:オサエ 45:貫通ボルト 46:ナット
51、52:基台
6:水平矯正部
65〜69:第5〜第9矯正ローラ
7:ねじれ矯正部
71〜73:第1〜第3ねじれ矯正ローラ
M、MR、M2:線材
SH:矯正平面 △H:変位量 FI、FJ、FIR、FJR:矯正力
θ:ねじれ角 K:真直度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイル状の線材を戴置する回転自在な回転台と、該回転台から前記線材を引き出す線材供給手段と、矯正平面内に二列に互い違いに配置されるとともに回動自由でかつ外周面に沿って前記線材が係入する溝を有して前記線材を両側面から交互に押圧する複数個の矯正ローラと、を備えるコイル状線材の矯正装置であって、
前記回転台に近い先頭の前記矯正ローラの前方または複数個の前記矯正ローラの間に前記矯正平面から変位して配置されるとともに回動自由で、かつ外周面に沿って前記線材が係入する溝を有して前記線材を側面から押圧するねじれ矯正ローラを備え、
前記矯正ローラ及び前記ねじれ矯正ローラの前記溝に係入する前記線材に前記矯正平面と交わる方向の矯正力を作用させるようにしたことを特徴とするコイル状線材の矯正装置。
【請求項2】
前記ねじれ矯正ローラが先頭の前記矯正ローラの直前に配置されている請求項1に記載のコイル状線材の矯正装置。
【請求項3】
前記ねじれ矯正ローラの前記矯正平面からの変位量を調整するローラ変位量調整手段を備える請求項1または2に記載のコイル状線材の矯正装置。
【請求項4】
コイル状の線材を戴置する回転自在な回転台と、該回転台から前記線材を引き出す線材供給手段と、矯正平面内に二列に互い違いに配置されるとともに回動自由でかつ外周面に沿って前記線材が係入する溝を有して前記線材を両側面から交互に押圧する複数個の矯正ローラと、を備えるコイル状線材の矯正装置であって、
前記回転台に近い先頭の前記矯正ローラの前方または複数個の前記矯正ローラの間に前記矯正平面に対し傾斜して配置されるとともに回動自由で、かつ外周面に沿って前記線材が係入する溝を有して前記線材を側面から押圧するねじれ矯正ローラを備え、
前記矯正ローラ及び前記ねじれ矯正ローラの前記溝に係入する前記線材に前記矯正平面と交わる方向の矯正力を作用させるようにしたことを特徴とするコイル状線材の矯正装置。
【請求項5】
回転自在な回転台に戴置されたコイル状の線材を引き出し、矯正平面内に二列に互い違いに配置された回動自由でかつ外周面に沿って前記線材が係入する溝を有する複数個の矯正ローラで前記線材を両側面から交互に押圧して直線状に矯正するコイル状線材の矯正方法であって、
前記回転台に近い先頭の前記矯正ローラの前方または複数個の前記矯正ローラの間に前記矯正平面から変位させてまたは前記矯正平面に対し傾斜させて、回動自由でかつ外周面に沿って前記線材が係入する溝を有するねじれ矯正ローラを配置し、該ねじれ矯正ローラで前記線材を側面から押圧し、
前記矯正ローラ及び前記ねじれ矯正ローラの前記溝に係入する前記線材に前記矯正平面と交わる方向の矯正力を作用させるようにしたことを特徴とするコイル状線材の矯正方法。
【請求項6】
前記矯正力により前記線材が有する三次元の螺旋状の巻き癖を二次元の円弧状の曲がり癖に矯正し、複数個の前記矯正ローラにより直線状に矯正する請求項5に記載のコイル状線材の矯正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−110569(P2011−110569A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−268292(P2009−268292)
【出願日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【出願人】(000117009)旭サナック株式会社 (194)
【Fターム(参考)】