説明

コイル用絶縁電線

【課題】コイル用絶縁電線を巻回した後、絶縁層を加熱溶融し巻線相互を融着させ固化させることによりコイル形状を安定化させる際に、絶縁性が損なわれることが無いように改良する。
【解決手段】導体部(1)を被覆する絶縁層(2,3)を内外2層とし、内側をPFA(ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂)層とし、外側をPES(ポリエーテルスルフォン樹脂)層とする。
【効果】PFAの融点とPESの融点の差が大きいため、コイル形状を安定化させる際に、外側のPES層(3)は溶融するが内側のPFA層(1)は溶融しない加熱温度とすることが容易になり、導体部(1)に通電して内側から加熱する場合においても、絶縁性が損なわれることはなくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル用絶縁電線に関し、さらに詳しくは、コイル用絶縁電線を巻回した後、絶縁層を加熱溶融し、巻線相互を融着させ、固化させることにより、コイル形状を安定化させる際に、絶縁性が損なわれることが無いように改良したコイル用絶縁電線に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、導線部の外周を絶縁層で被覆した絶縁電線であって、絶縁層にポリアミド樹脂やフッ素樹脂を用いたコイル用絶縁電線が知られている。また、フッ素樹脂を用いる場合に、絶縁層を内外2層とし、内側には融点の高いフッ素樹脂であるPFAを用い、外側には融点の低いフッ素樹脂であるFEPを用いる技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2003−151754号公報([0036])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
コイルの作成に際しては、コイル用絶縁電線を巻回した後、絶縁層を加熱溶融し、巻線相互を融着させ、固化させることにより、コイル形状を安定化させている。しかし、絶縁層が1層であると、加熱溶融した際に絶縁性を損なうことがある問題点がある。
これに対して、絶縁層を内外2層とし、内側にPFAを用い、外側にFEPを用いるものは、外側のFEPは溶融するが内側のPFAは溶融しない加熱温度とすれば、絶縁性が損なわれることはない。
しかし、PFAの融点とFEPの融点の差が小さいため、実際の加熱時には、外側のFEPだけでなく内側のPFAも溶融し、絶縁性が損なわれることがある問題点がある。この問題点は、導体部に通電して内側から加熱する場合には特に顕著になる。
そこで、本発明の目的は、コイル用絶縁電線を巻回した後、絶縁層を加熱溶融し巻線相互を融着させ固化させることによりコイル形状を安定化させる際に、絶縁性が損なわれることが無いように改良したコイル用絶縁電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
第1の観点では、本発明は、導線部の外周をペルフルオロアルコキシフッ素樹脂で被覆すると共に、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂層の外周をポリエーテルスルフォン樹脂で被覆したことを特徴とするコイル用絶縁電線を提供する。
上記第1の観点によるコイル用絶縁電線では、導体部を被覆する絶縁層を内外2層とし、内側にペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)を用い、外側にポリエーテルスルフォン樹脂(PES)を用いる。PFAの融点とFEPの融点の差に比較して、PFAの融点とPESの融点の差が大きい。このため、コイル形状を安定化させる際に、外側のPESは溶融するが内側のPFAは溶融しない加熱温度とすることが容易になり、導体部に通電して内側から加熱する場合においても、絶縁性が損なわれることはなくなる。
【発明の効果】
【0005】
本発明のコイル用絶縁電線によれば、コイル用絶縁電線を巻回した後、絶縁層を加熱溶融し巻線相互を融着させ固化させることによりコイル形状を安定化させる際に、絶縁性が損なわれなくなる。特に、導体部に通電して内側から加熱する場合に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、図に示す実施の形態により本発明をさらに詳細に説明する。なお、これにより本発明が限定されるものではない。
【実施例】
【0007】
図1は、実施例に係るコイル用絶縁電線10を示す断面図である。
このコイル用絶縁電線10は、導体部1と、その導体部1の外周を被覆するPFA(ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂)層2と、そのPFA層2の外周を被覆するPES(ポリエーテルスルフォン樹脂)層3とを具備してなる。
【0008】
導体部1は、例えば導体径0.1mmのエナメル被覆銅線を7本撚り合わせた撚り線である。この他に、複数本のエナメル被覆銅線を撚り合わせずに束ねた集合線や、絶縁被覆の無い銅線を複数本撚り合わせた撚り線や撚り合わせずに束ねた集合線であってもよいし、単線であってもよい。
【0009】
図2に、PFA(例えば旭硝子社製P−62XPT)と、PES(例えば住友化学社製4100G)と、FEP(例えばダイキン社製NP101)と、ポリアミド(例えば東レ社製CM1021FS)の融点およびUL温度インデックスを示す。
PESのPFAに対する融点の差は、FEPより大きく、ポリアミドと同等である。
PESのUL温度インデックスは、FEPに比べるとやや小さいが、ポリアミドよりは大きく温度耐久性に優れている。
【0010】
図3に示す「実施例」は、実施例に係るコイル用絶縁電線10を巻回してコイルを作成し、導体部1に通電し加熱して線同士を溶着した後の状態の評価である。「比較例1」はPESの代わりにFEPを用いた場合の評価である。「比較例2」はPESの代わりにポリアミドを用いた場合の評価である。
実施例や比較例2では、PFA層2の変形はなく、絶縁性は損なわれなかった。
比較例1では、PFA層2が膨れるなどの変形が見られることがあった。
【0011】
図4に示す「実施例」は、実施例に係るコイル用絶縁電線10を巻回してコイルを作成し、導体部1に通電し加熱して線同士を溶着したコイルを220℃×168hrの耐熱試験に試験に掛けた後の状態の評価である。「比較例1」はPESの代わりにFEPを用いた場合の評価である(但し、PFA層2の変形がないもの)。「比較例2」はPESの代わりにポリアミドを用いた場合の評価である。
実施例や比較例1では、線同士の接着性に問題を生じなかった。
比較例2では、線同士の接着性が劣化し、剥がれやすくなっていた。
【0012】
実施例に係るコイル用絶縁電線10によれば、コイルに巻回した後、PES層3を加熱溶融し巻線相互を融着させ固化させることによりコイル形状を安定化させる際に、PFA層2が変形し絶縁性が損なわれることがなくなる。特に、導体部1に通電して内側から加熱する場合に有用である。また、熱的耐久性も確保できる。
【産業上の利用可能性】
【0013】
本発明のコイル用絶縁電線は、電磁誘導利用装置に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例に係るコイル用絶縁電線を示す断面図である。
【図2】PFAとPESとFEPとポリアミドの融点およびUL温度インデックスを示す図表である。
【図3】通電加熱して線同士を溶着した後の状態の評価を示す図表である。
【図4】耐熱試験後の状態の評価を示す図表である。
【符号の説明】
【0015】
1 導体部
2 PFA層
3 PES層
10 コイル用絶縁電線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導線部の外周をペルフルオロアルコキシフッ素樹脂で被覆すると共に、前記ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂層の外周をポリエーテルスルフォン樹脂で被覆したことを特徴とするコイル用絶縁電線。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−193915(P2009−193915A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−35802(P2008−35802)
【出願日】平成20年2月18日(2008.2.18)
【出願人】(000003414)東京特殊電線株式会社 (173)
【Fターム(参考)】