説明

コイル

【課題】電気的絶縁性の確保が容易なコイルを実現する。
【解決手段】軸第一方向L1側に導体渡り部54が配置されるセグメント導体を複数配置して構成される第一コイル群と、軸第二方向L2側に導体渡り部54が配置されるセグメント導体を複数配置して構成される第二コイル群とを用いて相コイル21が形成され、第一コイル群のセグメント導体は、周第一方向C1側の導体辺部50が周第一方向C1側に隣接するセグメント導体の周第二方向C2側の導体辺部50に対して径第一方向側に重なるように配置され、第二コイル群のセグメント導体は、周第一方向C1側の導体辺部50が周第一方向C1側に隣接するセグメント導体の周第二方向C2側の導体辺部50に対して径第二方向側に重なるように配置され、第一コイル群が配置されるスロットと第二コイル群が配置されるスロットとが、1スロットピッチ分異なる位置に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セグメント導体を複数接合して構成されるコイルであり、円筒状のコア基準面の軸方向に延びるスロットが当該コア基準面の周方向に複数分散配置されてなる電機子コアに巻装されるとともに、スロットのそれぞれにおいて導体辺部が複数層に分かれて配置されるコイルに関する。
【背景技術】
【0002】
上記のようなコイルの従来技術として、例えば特開2000−69729号公報(特許文献1)に記載された技術がある。特許文献1に記載の構成では、当該文献の図2、図3、及び図5等に示されているように、ターン部(導体渡り部)を有するU字状のセグメント導体を電機子コアのスロット内に規則的に配置し、電機子コアに対して軸方向に延出する異なるセグメント導体の延出部同士を接合することでコイルが形成される。この際、特許文献1の段落0030に記載されているように、複数のセグメント導体はターン部が軸方向の同じ側に位置するように配置されるため、当該文献の図5に示されているように、接合部が軸方向の同じ側に多数配置される。そのため、このような構成では、接合部の間隔が短くなりやすく、コイルの電気的絶縁性を確保することが容易ではない。
【0003】
上記の接合部の間隔に関して、特許文献1の段落0072には、複数のセグメント導体のターン部を電機子コアの両側に分散配置することで、接合部の間隔を広くすることに言及した記載がある。しかしながら、特許文献1にはそのような構成についての具体的な記載がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−69729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、電気的絶縁性の確保が容易なコイルの実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る、セグメント導体を複数接合して構成されるコイルであり、円筒状のコア基準面の軸方向に延びるスロットが当該コア基準面の周方向に複数分散配置されてなる電機子コアに巻装されるとともに、前記スロットのそれぞれにおいて導体辺部が複数層に分かれて配置されるコイルの特徴構成は、互いに異なる前記スロット内の互いに隣接する層にそれぞれ配置される一対の前記導体辺部と、前記電機子コアに対して軸方向外側において前記一対の導体辺部の一端同士を接続する導体渡り部と、前記一対の導体辺部のそれぞれの他端から前記電機子コアに対して軸方向外側に延出する一対の延出部と、を備えた前記セグメント導体が第一種セグメント導体であり、前記電機子コアに対して前記軸方向の一方側である軸第一方向側に前記導体渡り部が配置される前記第一種セグメント導体である第一対象セグメント導体を前記周方向に沿って複数分散配置して構成される第一コイル群と、前記電機子コアに対して前記軸第一方向とは反対側の軸第二方向側に前記導体渡り部が配置される前記第一種セグメント導体である第二対象セグメント導体を前記周方向に沿って複数分散配置して構成される第二コイル群と、を用いて各相の相コイルが形成され、前記第一コイル群を構成する複数の前記第一対象セグメント導体のそれぞれは、前記周方向の一方側である周第一方向側の前記導体辺部が、前記周第一方向側に隣接配置される他の前記第一対象セグメント導体における前記周第一方向とは反対側の周第二方向側の前記導体辺部に対して、前記コア基準面の径方向の一方側である径第一方向側に重なるように配置され、前記第二コイル群を構成する複数の前記第二対象セグメント導体のそれぞれは、前記周第一方向側の前記導体辺部が、前記周第一方向側に隣接配置される他の前記第二対象セグメント導体における前記周第二方向側の前記導体辺部に対して、前記径第一方向とは反対側の径第二方向側に重なるように配置され、各相の前記相コイルについて、前記第一コイル群が配置される前記スロットと、前記第二コイル群が配置される前記スロットとが、前記周方向に互いに1スロットピッチ分異なる位置に配置されている点にある。
【0007】
上記の特徴構成によれば、第一コイル群については、第一種セグメント導体の延出部同士の接合部が電機子コアに対して軸第二方向側に配置され、第二コイル群については、第一種セグメント導体の延出部同士の接合部が電機子コアに対して軸第一方向側に配置される。これにより、第一コイル群の接合部と第二コイル群の接合部とが電機子コアに対して軸方向の同じ側に配置される場合に比べ、接合部の間隔を確保することが容易となる。
さらに、上記の特徴構成によれば、第一コイル群が配置されるスロットと第二コイル群が配置されるスロットとが、周方向に互いに1スロットピッチ分異なる位置に配置される。これにより、第一コイル群の接合部に隣接した位置に、第二コイル群を構成する第一種セグメント導体の導体渡り部が配置され、第二コイル群の接合部に隣接した位置に、第一コイル群を構成する第一種セグメント導体の導体渡り部が配置される構成とすることができる。この結果、各相の相コイルを全て配置した場合において、隣接する同相又は異相の接合部の間に導体渡り部が配置される構成とすることが容易となり、コイル全体の電気的絶縁性の確保が容易となる。
【0008】
ここで、一つの前記導体辺部と、当該導体辺部から延びて前記電機子コアから軸方向両側に突出する一対の延出部と、を備えた前記セグメント導体が第二種セグメント導体であり、前記第一コイル群と前記第二コイル群とのそれぞれは、前記周方向に一巡する波巻状の波巻コイル部を、前記周方向に互いに異なる位置関係で2つ備え、前記第一コイル群及び前記第二コイル群を構成する合計4つの前記波巻コイル部を、互いに直列或いは並列に接続することで各相の前記相コイルが形成されているとともに、当該各相の前記相コイルを構成する4つの前記波巻コイル部が、前記第二種セグメント導体を介して互いに接続されていると好適である。
【0009】
この構成によれば、導体渡り部の軸方向における配置位置が互いに異なる、第一対象セグメント導体が構成する波巻コイル部と、第二対象セグメント導体が構成する波巻コイル部とを、第二種セグメント導体を用いて適切に接続することができる。また、複数のセグメント導体を平面状に並べて配置したものを円筒状に成形してコイルを製造する場合に、当該成形前の時点で、波巻コイル部の端部に配置される第一種セグメント導体の端部側の導体辺部に対して、第二種セグメント導体の導体辺部を径方向に重ねて配置することができる。これにより、円筒状への成形を、導体辺部同士の周方向の位置合わせをすることなく行うことができ、結果、製造工程の簡素化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態に係る展開した相コイルの斜視図である。
【図2】図1の一部拡大図である。
【図3】本発明の実施形態に係る展開したコイルの斜視図である。
【図4】本発明の実施形態に係るステータの軸方向に直交する断面の形状を示す模式図である。
【図5】本発明の実施形態に係る相コイルの配線図であり、(a)は第一波巻コイル部の配線図、(b)は第三波巻コイル部の配線図、(c)は第四波巻コイル部の配線図、(d)は第二波巻コイル部の配線図を示す。
【図6】本発明の実施形態に係るコイルの製造工程を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係るコイルの実施形態について、図面を参照して説明する。以下の説明では、特に区別して明記している場合を除き、「軸方向L」、「周方向C」、「径方向R」は、スロット3の配置や構成に関して基準となる仮想面である、円筒状のコア基準面100(図4参照、本例ではステータコア2の内周面)の軸心Aを基準として定義している。コイル20及びコイル20を構成する各部材に関しては、当該コイル20がステータコア2に巻装された(セットされた)状態でのコア基準面100の軸心Aを基準として定義している。また、各部材についての方向や位置等に関する用語は、製造上許容され得る誤差による差異を有する状態も含む概念として用いている。
【0012】
1.コイルの全体構成
本実施形態に係るコイル20の全体構成について説明する。このコイル20は、セグメント導体10(図2参照)を複数接合して構成され、ステータ1が備えるステータコア2に巻装される。ステータコア2は、磁性材料を用いて形成され、図4に示すように、周方向Cに分散配置された複数のスロット3と、周方向Cに互いに隣接する2つのスロット3の間に形成された複数のティース5とを有する。複数のティース5の径方向Rの内側(本例では径第一方向R1側)の端面を含む仮想的な円筒状の面がコア内周面を構成し、本実施形態ではこのコア内周面が、コア基準面100とされている。各スロット3は、軸方向Lに延びると共に、ステータコア2の軸心Aから放射状に径方向Rに延びるように形成されている。本実施形態では、ステータコア2が本発明における「電機子コア」に相当する。
【0013】
コイル20は、スロット3のそれぞれにおいて、導体辺部50が複数層に分かれて配置される。本実施形態では、図4に示すように、導体辺部50は2層に分かれて配置されており、コイル20は2層巻構造とされている。ここで、「層」は、スロット3内における導体辺部50の径方向R位置を表す。各層の位置は、互いに隣接する層に配置される2つの導体辺部50のそれぞれが、導体辺部50の径方向R幅以上、径方向Rに互いに異なる位置に配置されるように設定されている。すなわち、互いに隣接する層に配置される2つの導体辺部50のそれぞれが占有する径方向R位置の範囲は、互いに重複する部分を有さない。
【0014】
本実施形態では、ステータ1は、多相交流(本例では三相交流)の回転電機に用いられる電機子とされている。よって、ステータコア2には、U相(第一相)用、V相(第二相)用、及びW相(第三相)用のスロット3が、周方向Cに沿って繰り返し現れるように配置され、コイル20は、図1に示すような相コイル21を、U相、V相、及びW相の各相に対応して合計3つ備えている。なお、図1は、相コイル21を周方向Cに平面状に展開して示す図であり、発明の理解を容易にすべく、後述するS字状セグメント導体40にハッチングを施して強調して示している。本明細書では、「回転電機」は、モータ(電動機)、ジェネレータ(発電機)、及び必要に応じてモータ及びジェネレータの双方の機能を果たすモータ・ジェネレータのいずれをも含む概念として用いている。
【0015】
本実施形態では、ステータコア2には、毎極毎相当たりのスロット数が「2」となるように、各相用のスロット3が周方向Cに沿って2つずつ繰り返し現れるように配置されている。これに合わせて、各相の相コイル21は、図1に示すように、1磁極ピッチに相当する周方向C間隔毎に、周方向Cに隣接する2つのスロット3に分かれて配置される複数(本例では4つ)の導体辺部50の組を備え、分布巻によりステータコア2に巻装される。そして、図3に示すように、互いに異なる周方向C位置に配置された複数(本例では3つ)の相コイル21を備えて、コイル20が形成されている。このコイル20が形成された状態では、周方向Cに隣接する2つのスロット3に分かれて配置される各相用の導体辺部50の組が、周方向Cに沿って繰り返し現れるように配置される。なお、図3は、コイル20を周方向Cに平面状に展開して示す図であり、発明の理解を容易にすべく、図1に示す相コイル21にハッチングを施して強調して示している。
【0016】
図示は省略するが、ステータコア2の径方向Rの一方側である径第一方向R1側には、永久磁石や電磁石等を備えた界磁としてのロータが配置される。本実施形態では、この径第一方向R1は、図4に示すように、径方向Rの内側へ向かう方向である。すなわち、本実施形態に係るコイル20は、インナロータ型の回転電機に用いられるコイルである。なお、本発明に係るコイル20を、アウタロータ型の回転電機に用いられるコイルに適用することも可能である。
【0017】
2.相コイルの構成
次に、本実施形態に係る相コイル21の構成について説明する。なお、各相の相コイル21は同様の構成を有しているため、以下の説明では、各相の相コイル21を特に区別することなく説明する。
【0018】
相コイル21は、図1及び図2に示すように、複数のセグメント導体10の端部同士を接合することで形成される。セグメント導体10は、本実施形態では、図4に示すように、延在方向(通電方向に等しい)に直交する断面の形状が矩形状の線状導体で構成され、セグメント導体10として、例えば、1本の線状導体を連続成形して製造されたものを用いることができる。この線状導体を構成する材料は、例えば、銅やアルミニウム等の金属とすることができる。また、線状導体の表面は、異なるセグメント導体10との接合部55(図1参照)等の一部を除いて、樹脂等からなる絶縁皮膜により被覆されている。
【0019】
図2に示すように、相コイル21を構成するセグメント導体10には、径方向R視で「U」字状に形成されたU字状セグメント導体30と、径方向R視で「S」字状に形成されたS字状セグメント導体40とが含まれる。U字状セグメント導体30は、互いに異なるスロット3内の互いに隣接する層にそれぞれ配置される一対の導体辺部50と、ステータコア2に対して軸方向L外側において一対の導体辺部50の一端同士を接続する導体渡り部54と、一対の導体辺部50のそれぞれの他端からステータコア2に対して軸方向L外側に延出する一対の延出部56と、を備えたセグメント導体10である。延出部56の先端部は、基本的に、接合対象のセグメント導体10の延出部56の先端部に接合される。そして、導体渡り部54と延出部56とにより、ステータコア2の軸方向L外側に突出するコイルエンド部が形成される。図示は省略するが、導体渡り部54及び延出部56の軸方向L視での形状は、コイル20がステータコア2に巻装された状態で、周方向Cに沿って円弧状に延びる形状とされる。本実施形態では、U字状セグメント導体30が本発明における「第一種セグメント導体」に相当する。
【0020】
本実施形態では、U字状セグメント導体30を構成する一対の導体辺部50は、周方向Cに互いに1磁極ピッチ分(本例では6スロットピッチ分)離れた一対のスロット3のそれぞれに配置される。そして、U字状セグメント導体30を構成する一対の導体辺部50のそれぞれは、第一屈曲部51を介して導体渡り部54に接続されているとともに、第二屈曲部52を介して延出部56に接続されている。すなわち、U字状セグメント導体30は、一対の導体辺部50のそれぞれに対応して、第一屈曲部51及び第二屈曲部52をそれぞれ2つずつ備えている。ここで、屈曲部51,52の径方向R視での屈曲角(以下単に「屈曲角」という。)を、導体辺部50の延在方向(軸方向L)に平行にステータコア2から離れる側へ延びる方向を基準(0度)として規定すると、第一屈曲部51及び第二屈曲部52のそれぞれの屈曲角は鋭角に設定されている。また、第一屈曲部51の周方向Cの屈曲方向は、対となる導体辺部50に向かう側とされ、第二屈曲部52の周方向Cの屈曲方向は、対となる導体辺部50から離れる側とされている。
【0021】
このように、本実施形態では、U字状セグメント導体30が、一対の導体辺部50のそれぞれに対応して、屈曲角が鋭角の第一屈曲部51を2つ備えている。そのため、導体渡り部54の径方向R視での形状は、図2に示すように、V字状となる。具体的には、V字の頂点に対応する位置に形成されたオフセット屈曲部54aを介して、延出元の導体辺部50から対となる導体辺部50に向かって周方向Cに延びる部分であって、径方向R位置が互いに1層分異なる部分同士が接続されている。すなわち、オフセット屈曲部54aによる径方向Rのオフセット量は、1層分に設定されている。
【0022】
本実施形態では、U字状セグメント導体30が備える2つの第一屈曲部51は、屈曲角が互いに等しく設定されており、オフセット屈曲部54aは、導体渡り部54の周方向Cの中央位置に配置される。また、U字状セグメント導体30が備える2つの第二屈曲部52も、屈曲角が互いに等しく設定されているとともに、周方向Cの屈曲方向が互いに反対方向とされている。そして、U字状セグメント導体30が備える一対の延出部56は、基本的に、周方向Cの長さが互いに同一(本例では3スロットピッチ分の長さ)に設定されている。これにより、本実施形態では、U字状セグメント導体30の径方向R視での形状は、オフセット屈曲部54aを通る軸方向Lに沿った直線を対称軸として線対称な形状となっている。
【0023】
S字状セグメント導体40は、一つの導体辺部50と、当該導体辺部50から延びてステータコア2から軸方向L両側に突出する一対の延出部56と、を備えたセグメント導体である。このS字状セグメント導体40は、本実施形態では、図1に示すように、1つの相コイル21に4つ備えられ、後に図5を参照して説明するように、S字状セグメント導体40のそれぞれは、異なる波巻コイル部60同士の接続部に配置されている。図示は省略するが、S字状セグメント導体40が備える延出部56の軸方向L視での形状は、U字状セグメント導体30が備える延出部56と同様、コイル20がステータコア2に巻装された状態で、周方向Cに沿って円弧状に延びる形状とされる。本実施形態では、S字状セグメント導体40が本発明における「第二種セグメント導体」に相当する。
【0024】
S字状セグメント導体40を構成する導体辺部50は、軸方向Lの両側で第三屈曲部53を介して延出部56に接続されている。すなわち、S字状セグメント導体40は、軸方向Lの両側のそれぞれに対応して合計2つの第三屈曲部53を備えている。そして、第三屈曲部53の屈曲角は、第一屈曲部51及び第二屈曲部52と同様、鋭角に設定されている。本実施形態では、S字状セグメント導体40が備える2つの第三屈曲部53は、屈曲角が互いに等しく設定されているとともに、周方向Cの屈曲方向が互いに反対方向とされている。そして、S字状セグメント導体40が備える一対の延出部56は、基本的に、周方向Cの長さが互いに同一(本例では3スロットピッチ分の長さ)に設定されている。これにより、本実施形態では、S字状セグメント導体40の径方向R視での形状は、導体辺部50を通る軸方向Lに沿った直線を対称軸として線対称な形状となっている。
【0025】
そして、本実施形態では、第一屈曲部51、第二屈曲部52、及び第三屈曲部53は、屈曲角が互いに等しく設定されている。これにより、詳しくは後述するが、図1及び図2に示すように、U字状セグメント導体30及びS字状セグメント導体40を含む複数のセグメント導体10のそれぞれを、コイルエンド部において互いに干渉させることなく、周方向Cに隣接配置することが可能となっている。
【0026】
相コイル21の構成について、更に具体的に説明する。各相の相コイル21は、第一コイル群71と第二コイル群72とを用いて形成されている(図5参照)。ここで、第一コイル群71は、ステータコア2に対して軸方向Lの一方側である軸第一方向L1側に導体渡り部54が配置されるU字状セグメント導体30を、周方向Cに沿って複数分散配置して構成されるセグメント導体10の群である。本実施形態では、ステータコア2に対して軸第一方向L1側に導体渡り部54が配置されるU字状セグメント導体30が、本発明における「第一対象セグメント導体」に相当する。
【0027】
図1に示す例では、第一U字状セグメント導体U1、第二U字状セグメント導体U2、第三U字状セグメント導体U3、第四U字状セグメント導体U4、第十二U字状セグメント導体U12、第十三U字状セグメント導体U13、及び第十四U字状セグメント導体U14が、ステータコア2に対して軸第一方向L1側に導体渡り部54が配置されるU字状セグメント導体30である。そして、第一コイル群71を構成するこれら複数のU字状セグメント導体30のそれぞれは、周方向Cの一方側である周第一方向C1側の導体辺部50が、周第一方向C1側に隣接配置される第一コイル群71の他のU字状セグメント導体30における周第一方向C1とは反対側の周第二方向C2側の導体辺部50に対して、同一の周方向C位置で径第一方向R1側に重なるように配置されている。
【0028】
すなわち、第一コイル群71を構成する複数のU字状セグメント導体30は、導体渡り部54の周方向Cの長さに相当する周方向C間隔(本例では1磁極ピッチに相当する周方向C間隔毎)に配置されている。そして、第一コイル群71を構成する複数のU字状セグメント導体30のそれぞれは、周第一方向C1側の導体辺部50が配置される層(以下、「第一層」という。)に対して径第一方向R1とは反対側の径第二方向R2側に隣接する層(以下、「第二層」という。)に、周第二方向C2側の導体辺部50が配置されている。
【0029】
これにより、第一コイル群71を構成するU字状セグメント導体30は、図1に示すように、第一層(径第一方向R1側の層)と同じ径方向R位置に配置される部分の形状が、軸第一方向L1側では導体辺部50から延出して周第二方向C2側に屈曲される形状となり、軸第一方向L1とは反対側の軸第二方向L2側では導体辺部50から延出して周第一方向C1側に屈曲される形状となる。すなわち、第一層と同じ径方向R位置に配置される部分の形状は、径第一方向R1側から見て「S」字状となる。一方、第一コイル群71を構成するU字状セグメント導体30の、第二層(径第二方向R2側の層)と同じ径方向R位置に配置される部分の形状は、軸第一方向L1側では導体辺部50から延出して周第一方向C1側に屈曲される形状となり、軸第二方向L2側では導体辺部50から延出して周第二方向C2側に屈曲される形状となる。すなわち、第二層と同じ径方向R位置に配置される部分の形状は、径第二方向R2側から見て「S」字状となる。
【0030】
また、第二コイル群72は、ステータコア2に対して軸第二方向L2側に導体渡り部54が配置されるU字状セグメント導体30を、周方向Cに沿って複数分散配置して構成されるセグメント導体10の群である。本実施形態では、ステータコア2に対して軸第二方向L2側に導体渡り部54が配置されるU字状セグメント導体30が、本発明における「第二対象セグメント導体」に相当する。
【0031】
図1に示す例では、第五U字状セグメント導体U5、第六U字状セグメント導体U6、第七U字状セグメント導体U7、第八U字状セグメント導体U8、第九U字状セグメント導体U9、第十U字状セグメント導体U10、及び第十一U字状セグメント導体U11が、ステータコア2に対して軸第二方向L2側に導体渡り部54が配置されるU字状セグメント導体30である。そして、第二コイル群72を構成する複数のU字状セグメント導体30のそれぞれは、周第一方向C1側の導体辺部50が、周第一方向C1側に隣接配置される第二コイル群72の他のU字状セグメント導体30における周第二方向C2側の導体辺部50に対して、同一の周方向C位置で径第二方向R2側に重なるように配置されている。
【0032】
すなわち、第二コイル群72を構成する複数のU字状セグメント導体30は、導体渡り部54の周方向Cの長さに相当する周方向C間隔(本例では1磁極ピッチに相当する周方向C間隔毎)に配置されている。そして、第二コイル群72を構成する複数のU字状セグメント導体30のそれぞれは、周第一方向C1側の導体辺部50が配置される第二層に対して径第一方向R1側に隣接する第一層に、周第二方向C2側の導体辺部50が配置されている。これにより、第二コイル群72を構成するU字状セグメント導体30は、第一コイル群71を構成するU字状セグメント導体30と同様、第一層(径第一方向R1側の層)と同じ径方向R位置に配置される部分の形状が径第一方向R1側から見てS字状となり、第二層(径第二方向R2側の層)と同じ径方向R位置に配置される部分の形状が径第二方向R2側から見て「S」字状となる。
【0033】
第一コイル群71と第二コイル群72とのそれぞれは、周方向Cに一巡する波巻状の波巻コイル部60を、周方向Cに互いに異なる位置関係で2つ備えている。具体的には、第一コイル群71は、図5に示すように、第一波巻コイル部61及び第二波巻コイル部62の2つの波巻コイル部60を備えている。なお、図5においては、図1に示す相コイル21が配置されるスロット3のみを示しており、各スロット3に対応する括弧内の数字は、周第一方向C1側に向かって各スロット3に対して順に付したスロット番号を示している。そして、スロット3内に示す符号は、図1に示す各セグメント導体10の導体辺部50が配置される位置を示している。また、図5においては、異なるセグメント導体10同士の接合部55を黒丸で示すとともに、軸第一方向L1側に位置する導体渡り部54及び延出部56を破線で示し、軸第二方向L2側に位置する導体渡り部54及び延出部56を実線で示している。さらに、図5において、丸で囲んだ「I」〜「IV」の各ローマ数字は、同じ数字で示す部分同士が互いに接続されることを示している。
【0034】
図5(a)に示すように、第一波巻コイル部61は、2磁極ピッチに相当する周方向C間隔毎に配置された複数のU字状セグメント導体30(具体的には、第一〜第四U字状セグメント導体U1〜U4の4つのU字状セグメント導体30)を用いて構成され、周方向Cに互いに隣接するU字状セグメント導体30の延出部56同士が順次接合されることで、周方向Cに一巡する波巻状の第一波巻コイル部61が形成されている。なお、図1に示すように、接合部55においては、径方向R位置の異なる2つの延出部56が径方向Rに対向して接合されている。
【0035】
第二波巻コイル部62は、図5(d)に示すように、第一波巻コイル部61と同様に、周方向Cに一巡する波巻状に形成されている。そして、これら第一波巻コイル部61及び第二波巻コイル部62は、周方向Cに互いに1磁極ピッチに相当する間隔だけずらして配置されている。すなわち、第一コイル群71を構成する複数のU字状セグメント導体30は、互いに異なる波巻コイル部60を構成するU字状セグメント導体30が、周方向Cに沿って1磁極ピッチに相当する間隔毎に交互に現れるように配置されている。
【0036】
第二コイル群72は、図5に示すように、第三波巻コイル部63と第四波巻コイル部64の2つの波巻コイル部60を備えている。図5(b)に示すように、第三波巻コイル部63は、2磁極ピッチに相当する周方向C間隔毎に配置された複数のU字状セグメント導体30(具体的には、第五〜第七U字状セグメント導体U5〜U7の3つのU字状セグメント導体30)を用いて構成され、周方向Cに互いに隣接するU字状セグメント導体30の延出部56同士が順次接合されることで、周方向Cに一巡する波巻状の第三波巻コイル部63が形成されている。
【0037】
第四波巻コイル部64は、図5(c)に示すように、第三波巻コイル部63と同様に、周方向Cに一巡する波巻状に形成されている。そして、これら第三波巻コイル部63及び第四波巻コイル部64は、周方向Cに互いに1磁極ピッチに相当する間隔だけずらして配置されている。すなわち、第二コイル群72を構成する複数のU字状セグメント導体30は、第一コイル群71を構成する複数のU字状セグメント導体30と同様、互いに異なる波巻コイル部60を構成するU字状セグメント導体30が周方向Cに沿って1磁極ピッチに相当する間隔毎に交互に現れるように配置されている。
【0038】
そして、図5より明らかなように、第二コイル群72が配置されるスロットは、第一コイル群71が配置されるスロットに対して周方向C(本例では周第一方向C1側)に1スロットピッチ分異なる位置に配置されている。この際、上述したように、第一コイル群71を構成するU字状セグメント導体30及び第二コイル群72を構成するU字状セグメント導体30のいずれについても、第一層(径第一方向R1側の層)と同じ径方向R位置に配置される部分の形状は、軸第一方向L1側では導体辺部50から延出して周第二方向C2側に屈曲される形状となり、軸第二方向L2側では導体辺部50から延出して周第一方向C1側に屈曲される形状となる。また、第二層(径第二方向R2側の層)と同じ径方向R位置に配置される部分の形状は、軸第一方向L1側では導体辺部50から延出して周第一方向C1側に屈曲される形状となり、軸第二方向L2側では導体辺部50から延出して周第二方向C2側に屈曲される形状となる。そして、上述したように、第一屈曲部51及び第二屈曲部52は、屈曲角が互いに等しく設定されている。
【0039】
これにより、図1に示すように、導体渡り部54が軸方向Lの互いに反対側に配置される第一コイル群71と第二コイル群72とを、コイルエンド部において互いに干渉させることなく、それぞれの導体辺部50を周方向Cに互いに隣接して配置することができるとともに、図3に示すように、各相の相コイル21を周方向Cに並べて配置することが可能となっている。そして、図3に示すコイル20が形成された状態では、第一コイル群71を構成するU字状セグメント導体30と第二コイル群72を構成するU字状セグメント導体30とが周方向Cに沿って交互に配置される。言い換えれば、ステータコア2に対して軸第一方向L1側に導体渡り部54が配置されたU字状セグメント導体30とステータコア2に対して軸第二方向L2側に導体渡り部54が配置されたU字状セグメント導体30とが周方向Cに沿って交互に配置される。これにより、延出部56の先端部同士が接合されてなる接合部55が、軸方向Lの両側に分かれて配置されるとともに、周方向Cに隣接する接合部55の間に導体渡り部54のオフセット屈曲部54aが位置することになり、接合部55の電気的絶縁性の確保、ひいてはコイル20全体の電気的絶縁性の確保が容易となっている。
【0040】
本実施形態では、図5に示すように、第一コイル群71及び第二コイル群72を構成する合計4つの波巻コイル部60が互いに直列に接続されることで、相コイル21が形成されている。図5に示す例では、第一U字状セグメント導体U1の周第二方向C2側の延出部56に電源が接続され、第十四U字状セグメント導体U14の周第二方向C2側の延出部56に中性点が接続されている。そして、以下に説明するように、相コイル21を構成する4つの波巻コイル部60は、S字状セグメント導体40を介して互いに接続されている。
【0041】
図1及び図5に示すように、本実施形態では、相コイル21は、第一S字状セグメント導体S1、第二S字状セグメント導体S2、第三S字状セグメント導体S3、及び第四S字状セグメント導体S4の4つのS字状セグメント導体40を備えている。第一S字状セグメント導体S1及び第四S字状セグメント導体S4は、周方向Cに関して互いに同じ向きで第二層に配置され、軸第一方向L1側の延出部56が延出元の導体辺部50に対して周第一方向C1側に延びるとともに、軸第二方向L2側の延出部56が延出元の導体辺部50に対して周第二方向C2側に延びるように配置される。すなわち、第一S字状セグメント導体S1及び第四S字状セグメント導体S4の形状は、軸第一方向L1側では導体辺部50から延出して周第一方向C1側に屈曲される形状となり、軸第二方向L2側では導体辺部50から延出して周第二方向C2側に屈曲される形状となる。そして、上述したように、第三屈曲部53は、第一屈曲部51及び第二屈曲部52と、屈曲角が互いに等しく設定されている。これにより、図1に示すように、第一S字状セグメント導体S1及び第四S字状セグメント導体S4を、U字状セグメント導体30とコイルエンド部において干渉させることなく第二層に配置することが可能となっている。
【0042】
また、第二S字状セグメント導体S2及び第三S字状セグメント導体S3は、周方向Cに関して互いに同じ向きで第一層に配置され、軸第一方向L1側の延出部56が延出元の導体辺部50に対して周第二方向C2側に延びるとともに、軸第二方向L2側の延出部56が延出元の導体辺部50に対して周第一方向C1側に延びるように配置される。このように、第一S字状セグメント導体S1及び第四S字状セグメント導体S4と、第二S字状セグメント導体S2及び第三S字状セグメント導体S3とは、周方向Cの向きが互いに反対方向とされている。そして、第二S字状セグメント導体S2及び第三S字状セグメント導体S3の形状は、軸第一方向L1側では導体辺部50から延出して周第二方向C2側に屈曲される形状となり、軸第二方向L2側では導体辺部50から延出して周第一方向C1側に屈曲される形状となる。そして、上述したように、第三屈曲部53は、第一屈曲部51及び第二屈曲部52と、屈曲角が互いに等しく設定されている。これにより、図1に示すように、第二S字状セグメント導体S2及び第三S字状セグメント導体S3を、U字状セグメント導体30とコイルエンド部において干渉させることなく第一層に配置することが可能となっている。
【0043】
図5に示すように、第一S字状セグメント導体S1及び第四S字状セグメント導体S4のそれぞれは、互いに異なるコイル群71,72を構成する波巻コイル部60同士を接続している。すなわち、第一S字状セグメント導体S1及び第四S字状セグメント導体S4のそれぞれは、ステータコア2に対して軸第一方向L1側に導体渡り部54が配置されたU字状セグメント導体30と、ステータコア2に対して軸第二方向L2側に導体渡り部54が配置されたU字状セグメント導体30とを接続している。
【0044】
一方、第二S字状セグメント導体S2及び第三S字状セグメント導体S3は、同じコイル群71,72(本例では第二コイル群72)を構成する波巻コイル部60同士を接続している。具体的には、第二S字状セグメント導体S2及び第三S字状セグメント導体S3は、軸第二方向L2側の延出部56同士が互いに接続される。そして、第二S字状セグメント導体S2及び第三S字状セグメント導体S3のそれぞれは、軸第一方向L1側において延出元の導体辺部50から周第二方向C2側に延びる延出部56が、波巻コイル部60の端部を構成する延出部56に接続される。これにより、第二S字状セグメント導体S2及び第三S字状セグメント導体S3の配置位置において、相コイル21を流れる電流の周方向Cの向きが入れ替わり、コイルを適切に形成することが可能となっている。
【0045】
ところで、第四U字状セグメント導体U4と第一S字状セグメント導体S1との接合部55、第二S字状セグメント導体S2と第三S字状セグメント導体S3との接合部55、第三S字状セグメント導体S3と第八U字状セグメント導体U8との接合部55、第十一U字状セグメント導体U11と第四S字状セグメント導体S4との接合部55は、互いに接合される導体辺部50同士の周方向Cの間隔が、他の接合部55の場合の6スロットピッチとは異なり、5スロットピッチ或いは7スロットピッチとなる。そのため、詳細な説明は省略するが、これらの接合部55については、異形セグメント導体(図示せず)等を介して接合対象の延出部56同士が接合(接続)される。
【0046】
3.コイルの製造方法
次に、本実施形態に係るコイル20の製造方法について図6を参照して説明する。図6に示すように、本実施形態では、セグメント導体供給工程と、セグメント導体搬送工程と、セグメント導体配置工程と、セグメント導体接合工程とを備えている。以下、各工程について順に説明する。
【0047】
セグメント導体供給工程は、セグメント導体10を搬送する搬送装置90(例えばベルトコンベア等)に対して、セグメント導体10を順次供給する工程である。なお、本実施形態では、セグメント導体供給工程より前の時点で、第一屈曲部51、第二屈曲部52、及び第三屈曲部53を形成するための屈曲部形成工程が実行されている。
【0048】
ここで、本実施形態に係るコイル20は、図3に示すように、軸第一方向L1側に導体渡り部54が配置されるU字状セグメント導体30と、軸第二方向L2側に導体渡り部54が配置されるU字状セグメント導体30とが、周方向Cに沿って交互に配置される。そして、軸第一方向L1側に導体渡り部54が配置されるU字状セグメント導体30は、オフセット屈曲部54aに対して周第一方向C1側部分に対して周第二方向C2側部分が径第二方向R2側(本例では径方向Rの外側)に配置されるのに対し、軸第二方向L2側に導体渡り部54が配置されるU字状セグメント導体30は、オフセット屈曲部54aに対して周第二方向C2側部分に対して周第一方向C1側部分が径第二方向R2側に配置される。このような配置構成を実現すべく、セグメント導体供給工程では、図6に示すように、導体渡り部54が供給方向後方側となる向きで、軸第一方向L1側に導体渡り部54が配置されるU字状セグメント導体30と軸第二方向L2側に導体渡り部54が配置されるU字状セグメント導体30とを交互に、搬送装置90に対して軸方向Lに供給する。
【0049】
セグメント導体搬送工程は、セグメント導体供給工程により順次供給されるセグメント導体10を、搬送装置90により搬送する工程である。搬送装置90は、セグメント導体10を搬送方向に沿って所定間隔で保持する保持部を備え、当該保持部により導体辺部50を保持されたセグメント導体10が、搬送方向下流側に向けて順に搬送される。
【0050】
セグメント導体配置工程は、セグメント導体搬送工程により搬送されたセグメント導体10を、円筒状に配置する工程である。本例では、搬送装置90の搬送方向下流側には巻き取り装置91が備えられており、当該巻き取り装置91によりセグメント導体配置工程が実行されて、円筒状のコイル20が形成される。巻き取り装置91は、例えば、ボビン(図示せず)等を備えて構成される。なお、本実施形態では、セグメント導体配置工程より前の時点で、導体渡り部54や延出部56の軸方向L視での形状を円弧状とするための円弧加工工程が実行されており、セグメント導体配置工程を実行することで、接合対象の延出部56同士が、互いに接合可能な位置関係で配置された状態となる。この円弧加工工程は、例えば、上記のセグメント導体供給工程より前の時点で実行される構成とすることができる。
【0051】
セグメント導体接合工程は、セグメント導体配置工程により円筒状に配置されたセグメント導体10に対して、接合対象の延出部56同士を接合する工程である。このセグメント導体接合工程による接合は、例えば、超音波接合、摩擦圧接、或いはカシメ等で行う構成とすることができ、絶縁被膜の剥離工程を前工程として行わない構成とすることもできる。
【0052】
なお、本例のように、ステータコア2への巻装前に円筒状のコイル20を形成する構成では、例えば、ステータコア2として、コアを周方向に分割してなる分割コアで構成されたものを採用して、コイル20に対して分割コアを径方向Rに挿入(例えば径方向Rの外側から挿入)することで、ステータ1が製造される構成とすることができる。
【0053】
4.その他の実施形態
最後に、本発明に係るコイルの、その他の実施形態について説明する。なお、以下のそれぞれの実施形態で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能である。
【0054】
(1)上記の実施形態では、第一コイル群71及び第二コイル群72を構成する合計4つの波巻コイル部60が、互いに直列に接続された構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、当該4つの波巻コイル部60が、全て互いに並列に接続された構成や、当該4つの波巻コイル部60の一部のみが直列に接続された構成とすることもできる。
【0055】
(2)上記の実施形態では、図2に示すU字状セグメント導体30が本発明における「第一種セグメント導体」に相当し、図2に示すS字状セグメント導体40が本発明における「第二種セグメント導体」に相当する構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、第一種セグメント導体として、周方向Cのいずれか一方側の導体辺部50と延出部56との間にのみ第二屈曲部52が形成され、他方側の延出部56が軸方向Lに平行に延びるようなセグメント導体10を用いることもできる。この場合、第二種セグメント導体としては、軸方向Lのいずれか一方側にのみ第三屈曲部53が形成された「J」字状のセグメント導体10を用いることができる。
【0056】
(3)上記の実施形態では、延出部56の延在方向が一様である構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、延出部56における導体辺部50とは反対側の先端部側に屈曲部が形成され、延出部56の先端部が軸方向Lに沿って延びるように形成された構成とすることもできる。
【0057】
(4)上記の実施形態では、コイル20が、スロット3のそれぞれにおいて、導体辺部50が2層に分かれて配置された構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、スロット3に配置される導体辺部50の層数が3以上である構成とすることもできる。この場合、図1で示す相コイル21を互いに異なる径方向R位置に複数(例えば2つ)備えて、各相のコイルが形成された構成とすることができる。また、図1で示す相コイル21に加えて当該相コイル21とは異なる構成のコイル部(例えば、1層巻構造のコイル部)を備えて、各相のコイルが形成された構成とすることもできる。
【0058】
(5)上記の実施形態では、相コイル21が、1磁極ピッチに相当する周方向C間隔毎に、周方向Cに隣接する2つのスロット3に分かれて配置される導体辺部50の組を備えた構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、相コイル21が、1磁極ピッチに相当する周方向C間隔毎に、周方向Cに隣接する3つ以上のスロット3に分かれて配置される導体辺部50の組を備えた構成とすることもできる。
【0059】
(6)上記の実施形態では、セグメント導体配置工程より前の時点で、導体渡り部54や延出部56の軸方向L視での形状を円弧状とするための円弧加工工程が実行される場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、例えば、セグメント導体配置工程と同時に屈曲加工工程が実行される構成とすることもできる。また、上記の実施形態では、セグメント導体供給工程より前の時点で、第一屈曲部51、第二屈曲部52、及び第三屈曲部53を形成するための屈曲部形成工程が実行される場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、例えば、セグメント導体供給工程と同時に屈曲部形成工程が実行される構成とすることもできる。
【0060】
(7)上記の実施形態では、ステータコア2への巻装前に円筒状のコイル20が形成される構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、複数のセグメント導体10を順次或いは同時にスロット3に対して軸方向L或いは径方向Rに沿って挿入することにより、円筒状のコイル20が形成される構成とすることもできる。
【0061】
(8)上記の実施形態では、ステータコア2のコア内周面がコア基準面100とされた構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではなく、ステータコア2の外周面等をコア基準面100とすることもできる。
【0062】
(9)その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、本願の特許請求の範囲に記載されていない構成に関しては、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、セグメント導体を複数接合して構成されるコイルであり、円筒状のコア基準面の軸方向に延びるスロットが当該コア基準面の周方向に複数分散配置されてなる電機子コアに巻装されるとともに、スロットのそれぞれにおいて導体辺部が複数層に分かれて配置されるコイルに好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0064】
2:ステータコア(電機子コア)
3:スロット
10:セグメント導体
20:コイル
21:相コイル
30:U字状セグメント導体(第一種セグメント導体)
40:S字状セグメント導体(第二種セグメント導体)
50:導体辺部
54:導体渡り部
56:延出部
60:波巻コイル部
71:第一コイル群
72:第二コイル群
100:コア基準面
C:周方向
C1:周第一方向
C2:周第二方向
L:軸方向
L1:軸第一方向
L2:軸第二方向
R:径方向
R1:径第一方向
R2:径第二方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セグメント導体を複数接合して構成されるコイルであり、円筒状のコア基準面の軸方向に延びるスロットが当該コア基準面の周方向に複数分散配置されてなる電機子コアに巻装されるとともに、前記スロットのそれぞれにおいて導体辺部が複数層に分かれて配置されるコイルであって、
互いに異なる前記スロット内の互いに隣接する層にそれぞれ配置される一対の前記導体辺部と、前記電機子コアに対して軸方向外側において前記一対の導体辺部の一端同士を接続する導体渡り部と、前記一対の導体辺部のそれぞれの他端から前記電機子コアに対して軸方向外側に延出する一対の延出部と、を備えた前記セグメント導体が第一種セグメント導体であり、
前記電機子コアに対して前記軸方向の一方側である軸第一方向側に前記導体渡り部が配置される前記第一種セグメント導体である第一対象セグメント導体を前記周方向に沿って複数分散配置して構成される第一コイル群と、前記電機子コアに対して前記軸第一方向とは反対側の軸第二方向側に前記導体渡り部が配置される前記第一種セグメント導体である第二対象セグメント導体を前記周方向に沿って複数分散配置して構成される第二コイル群と、を用いて各相の相コイルが形成され、
前記第一コイル群を構成する複数の前記第一対象セグメント導体のそれぞれは、前記周方向の一方側である周第一方向側の前記導体辺部が、前記周第一方向側に隣接配置される他の前記第一対象セグメント導体における前記周第一方向とは反対側の周第二方向側の前記導体辺部に対して、前記コア基準面の径方向の一方側である径第一方向側に重なるように配置され、
前記第二コイル群を構成する複数の前記第二対象セグメント導体のそれぞれは、前記周第一方向側の前記導体辺部が、前記周第一方向側に隣接配置される他の前記第二対象セグメント導体における前記周第二方向側の前記導体辺部に対して、前記径第一方向とは反対側の径第二方向側に重なるように配置され、
各相の前記相コイルについて、前記第一コイル群が配置される前記スロットと、前記第二コイル群が配置される前記スロットとが、前記周方向に互いに1スロットピッチ分異なる位置に配置されているコイル。
【請求項2】
一つの前記導体辺部と、当該導体辺部から延びて前記電機子コアから軸方向両側に突出する一対の延出部と、を備えた前記セグメント導体が第二種セグメント導体であり、
前記第一コイル群と前記第二コイル群とのそれぞれは、前記周方向に一巡する波巻状の波巻コイル部を、前記周方向に互いに異なる位置関係で2つ備え、
前記第一コイル群及び前記第二コイル群を構成する合計4つの前記波巻コイル部を、互いに直列或いは並列に接続することで各相の前記相コイルが形成されているとともに、当該各相の前記相コイルを構成する4つの前記波巻コイル部が、前記第二種セグメント導体を介して互いに接続されている請求項1に記載のコイル。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate