説明

コバルトイオン吸着材及びその製造方法

【課題】コバルトイオン吸着容量が大きいリン酸ジルコニウムイオン交換体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】リン酸ジルコニウム粉末をアルキルアミン水溶液中で処理したコバルト吸着材で基本構造が、一般式
Zr(HPOxHO・yC2n+z(NH2−z
(式中のnは4〜12の整数、xは0より大きく3未満の数、yは0より大きく3未満の数、zは0又は1である。)で表されるリン酸ジルコニウム/アルキルアミン複合体から成り、微粒子の形態を有するコバルトイオン吸着材、及びリン酸ジルコニウムに脂肪酸アミン水溶液を混合し、攪拌操作を行い、得られた沈殿物を、ろ別、乾燥処理を施すことから成る上記コバルトイオン吸着材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なコバルトイオン吸着材及びその製造方法に関するものであり、更に詳しくは、本発明は、例えば、200℃の高温水中で、本発明のコバルトイオン吸着材0.1g、0.05Mコバルトイオン水溶液10cmから2mmol/g以上のコバルトイオン吸着量を示すコバルトイオン吸着材及び該コバルトイオン吸着材を効率よく製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、原子力発電においては、原子炉の一次冷却水中に配管などの原子炉材料から微量の金属が溶出し、炉心において放射化され、54Mn,59Fe,58Co,60Coなどの放射性核種が生成することが知られている。この放射性核種を除去する目的で、イオン交換樹脂を用いた炉水浄化装置が取り付けられている。
【0003】
しかしながら、イオン交換樹脂は、耐熱性に劣るため、高温の炉水の一部を取り出し、40℃程度に冷却した後、炉水浄化装置に送り込み、浄化された水は再び加熱して炉水に戻す操作が行われている。このような方法では、熱損失を伴うことから、イオン交換樹脂に代わる、50℃以上の高温水中で使用可能な耐熱性に優れるイオン交換材料の開発が望まれている。特に、放射性核種中のコバルトイオンは、放射化エネルギーが高く、原子炉の定期点検の際に作業者の被爆の原因となることが問題となっている。
【0004】
高温水中からコバルトイオンを吸着除去する試みとしては、例えば、無機イオン交換体である結晶質チタン酸繊維を用いた例が報告されている(非特許文献1)。しかしながら、この結晶質チタン酸繊維は、コバルトイオン吸着能が100℃以上で結晶相の変化に伴い低下することから、高温水中での使用には適さない。
【0005】
また、酸化アルミニウム(Al)や酸化ジルコニウム(ZrO)を高温吸着材として150−250℃の高温水中でのCo吸着性が検討され、高温水中でコバルトイオンをCoZrOやCoAlなどの結晶中に取り込んだ化合物を生成する化学吸着能を有することが報告されている(非特許文献2)。しかしながら、この吸着材は、コバルトイオン交換容量が0.1mmol/g以下と小さく、実用化には適さないという欠点を有している。
【0006】
層状リン酸塩金属化合物は、リン酸基由来の水素イオンと金属イオンとのイオン交換特性を示し、γ型リン酸チタンでは、3.62meq/g(1.81mmol/g)のCoイオン吸着容量を示すことが報告されている(非特許文献3)。しかしながら、温度の上昇によりCo吸着容量が増加するものの、100℃以上での高温水中での吸着容量については検討されていない。
【0007】
リン酸ジルコニウムも、層状構造を有し、層間に存在する水素イオンが他の陽イオンと交換可能なこと、及びチタンと異なり酸化数が変わらないこと、化学的に安定な構造を有することから、耐熱性を有する無機イオン交換体のひとつとして注目されている。しかしながら、リン酸ジルコニウムは、イオン交換による金属イオン吸着性能を有するが、Coイオンなどの遷移金属イオンに対する選択性は高くないという問題点がある。
【0008】
【非特許文献1】Bull.Chem.Soc.Jpn.,59,49(1986)
【非特許文献2】Separation Science and Technology,35(14),pp.2327−2341(2000)
【非特許文献3】Solvent extraction and ion exchange,13(1),179−187(1995)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、コバルトイオン選択性に優れたコバルト吸着材について、鋭意研究を重ねた結果、特定の構造を有するジルコニウム、リン酸及び脂肪族アミンからなる複合化合物が耐熱性に優れ、かつコバルト吸着能を有すること、そして、このものは、リン酸ジルコニウムと特定の脂肪族アミンとを反応させることにより、容易に得られることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、従来のコバルトイオン吸着材がもつ欠点を克服し、コバルトイオン吸着能に優れ、かつ簡単な操作で容易に製造しうる経済的に有利な新規コバルトイオン吸着材及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)基本構造が、一般式
Zr(HPOxHO・yC2n+z(NH2−z
(式中のnは4〜12の整数、xは0より大きく3未満の数、yは0より大きく3未満の数、zは0又は1である。)で表されるリン酸ジルコニウム/アルキルアミン(脂肪酸アミン)複合体から成ることを特徴とするコバルトイオン吸着材。
(2)nが、4〜12の整数である、前記(1)記載のコバルトイオン吸着材。
(3)50℃以上の高温水中で使用可能な、耐熱性を有する、前記(1)記載のコバルトイオン吸着材。
(4)脂肪族アミンにおけるアルキル基が、直鎖状、枝分かれ状、環状のいずれかである、前記(1)記載のコバルトイオン吸着材。
(5)Zr(HPOxHO粉末と、一般式
2n+z(NH2−z
(式中のnは4〜12の整数、zは0又は1である。)で表される脂肪族アミンを反応させることを特徴とするコバルトイオン吸着材の製造方法。
(6)脂肪族アミンが、炭素数4〜12のアルキルアミン及びアルキレンジアミンの中から選ばれたものである、前記(4)記載のコバルトイオン吸着材の製造方法。
(7)脂肪族アミンにおけるアルキル基が、直鎖状、枝分かれ状、環状のいずれかである、前記(5)記載のコバルトイオン吸着材の製造方法。
(8)脂肪族アミンの使用量が、リン酸ジルコニウムのカチオン交換容量に対し、1倍以上2倍以下である、前記(5)記載のコバルトイオン吸着材の製造方法。
【0012】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、コバルトイオン吸着材であって、基本構造が、一般式 Zr(HPOxHO・yC2n+z(NH2−z(式中のnは4〜12の整数、xは0より大きく3未満の数、yは0より大きく3未満の数、zは0又は1である。)で表されるリン酸ジルコニウム/アルキルアミン複合体から成ることを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明は、上記コバルトイオン吸着材の製造方法であって、Zr(HPOxHO粉末と、一般式 C2n+z(NH2−z(式中のnは4〜12の整数、zは0又は1である。)で表される脂肪族アミンを反応させることを特徴とするものである。
【0014】
すなわち、本発明は、基本構造が、一般式
Zr(HPOxHO・yC2n+z(NH2−z
(式中のnは4〜12の整数、xは0より大きく3未満の数、yは0より大きく3未満の数、zは0又は1である。)で表されるコバルトイオン吸着材を提供するものである。本発明によれば、前記コバルトイオン吸着材は、リン酸ジルコニウムをアルキルアミン水溶液とともに攪拌処理し、得られたスラリーをろ別、水洗後、乾燥させることにより製造することができる。
【0015】
本発明のコバルトイオン交換体は、一般式
Zr(HPOxHO・yC2n+z(NH2−z
(式中のnは4〜12の整数、xは0より大きく3未満の数、yは0より大きく3未満の数、zは0又は1である。)で表される基本構造を有するものである。このような基本構造を有する複合体は、良好なコバルトイオン交換能を有している。
【0016】
このようなコバルトイオン吸着材は、アルキルアミンのインターカレーションを施すことによって製造することができる。アルキルアミンの添加量は、リン酸ジルコニウムの交換容量以上とする。
【0017】
脂肪族アミン複合化工程において、まず、脂肪族アミン含有溶液を調製する。この脂肪族アミン含有溶液における脂肪族アミン濃度は、特に制限されないが、通常、0.05〜2.0モル/リットル、好ましくは0.2〜0.5モル/リットルの範囲で選ばれる。また、この脂肪族アミン使用量は、目的とするコバルトイオン吸着材の脂肪族アミン含有量に応じて適宜選ばれるが、リン酸ジルコニウムのカチオン交換容量(例えば、2.0ミリモル/g)に対し、2倍以下となるように選ぶのが好適である。
【0018】
この脂肪族アミンは、一般式C2n+z(NH2−z
(式中のzは0又は1、nは4〜12の整数である。)で表されるアルキルアミン及びアルキレンジアミンの中から選ばれたものである。この脂肪族アミンにおけるアルキル基は、直鎖状、枝分かれ状、環状のいずれかであってもよく、また、アルキレンジアミンの中の2個のアミンの結合位置については特に制限はない。
【0019】
アルキルアミンの例としては、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミンなどが挙げられ、また、アルキレンジアミンの例として、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジアミノシクロヘキサン、オクタメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミンなどが挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
前記脂肪族アミン含有溶液を室温〜80℃程度に加温し、これにリン酸ジルコニウム粉末を加え、上記温度を保持しながら、通常、1〜144時間、好ましくは8〜72時間程度撹拌しながら、反応させた後、生成物をろ過などの公知の手段により取り出し、洗浄後、乾燥処理する。洗浄工程は、まず、水で洗浄した後、エタノールなどの水混和性低沸点溶剤で洗浄するのが好ましい。
【0021】
乾燥には、一般的な乾燥機や乾燥剤の入ったデシケータを用い、例えば、室温ないし50℃で乾燥する。また、スプレードライ方式あるいは凍結乾燥方式によっても乾燥できる。乾燥前に任意の形状に成形した後、乾燥してもよい。得られた生成物は、微粉末状の形態を示す。
【0022】
このようにして得られたコバルト吸着材は、化学分析、X線回折、熱分析、赤外分光、走査型電子顕微鏡などの測定などによって確認できる。例えば、熱分析及び化学分析によりx,y値を得ることができる。また、コバルトイオン吸着容量は、例えば、吸着材存在下の高温熱水条件でのコバルトイオンの濃度変化を調べることにより評価することができる。リン酸ジルコウムには、層間が存在し、コバルトイオンは、水素イオンとのイオン交換又は脂肪族アミンとの交換によりインターカレートし、層間に捕捉され、吸着されるものと推察される。
【0023】
本発明のコバルトイオン吸着材の生成は、例えば、X線回折測定により容易に確認することができる。本発明のコバルト吸着材は、使用する脂肪族アミンのアルキル又はアルキレン鎖長に依存して回折線ピークが低角度側にシフトする。例えば、α型リン酸ジルコニウムに脂肪族アミンとしてブチルアミンを使用した場合には、層間隔が0.76nmから1.89nmに拡大し、層間にブチルアミンが二分子膜を形成した状態で存在するものと考えられる。また、本発明のリン酸ジルコニウムイオン交換体の形態は、走査型電子顕微鏡によって微粒子状の凝集体として観察することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、以下のような効果を奏する。
(1)本発明のコバルトイオン吸着材は、アルキルアミン複合化していないリン酸ジルコニウムイオン交換体に比べ、コバルトイオン吸着容量が大きい。
(2)本発明のコバルトイオン吸着材は、比較的低濃度(1M以下)のアルキルアミン溶液を用いて簡便な工程で製造することができる。
(3)本発明のコバルトイオン吸着材は、従来のコバルトイオン吸着材に比べ、耐熱性に優れ、コバルトイオン吸着能も良好なことから、100℃以上の高温水中での使用が可能である。
(4)吸着したコバルトイオンは、希薄な酸溶液を用いて、ほぼ定量的に溶出、回収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
次に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0026】
10gのα型リン酸ジルコニウムを0.5Mブチルアミン水溶液500mlに加え、72時間振り混ぜた。得られた複合体を固液分離により回収し、水洗、エタノールで洗浄した後、60℃で24時間乾燥を行い、本発明製品1を得た。得られた本発明製品のX線回折結果では、リン酸ジルコニウム/ブチルアミン複合体の(200),(400),(002),(−311),(202)及び(113)に相当すると考えられる2θ=4.9,9.7°,19.4°,21.5°,24.0°及び33.9°などにピークが認められた(図1(b))。化学分析から求めたxの値は1.0であり、yの値は2.0であった。
【実施例2】
【0027】
脂肪族アミンをオクチルアミンとした以外は実施例1に従って本発明製品2を得た。得られた本発明製品のX線回折結果では、リン酸ジルコニウム/ブチルアミン複合体の(200),(400),(600),(002),(202)及び(113)に相当すると考えられる2θ=4.2,8.4°,12.6°,19.4°,25.0°及び33.9°などにピークが認められた(図1(c))。化学分析から求めたxの値は1.0であり、yの値は2.0であった。
【実施例3】
【0028】
リン酸ジルコニウムをγ型リン酸ジルコニウムとした以外は実施例1に従って本発明製品3を得た。得られた本発明製品のX線回折結果では、リン酸ジルコニウム/ブチルアミン複合体の(200)に相当すると考えられる2θ=4.54°にピークが認められた(図2(b))。化学分析から求めたxの値は2.0であり、yの値は2.0であった。
【実施例4】
【0029】
脂肪族アミンをオクチルアミンとした以外は実施例3に従って本発明製品4を得た。得られた本発明製品のX線回折結果では、リン酸ジルコニウム/ヘキシルアミン複合体の(200)及び(400)に相当すると考えられる2θ=3.70°、7.50°にピークが認められた(図2(c))。化学分析から求めたxの値は2.0であり、yの値は2.0であった。
【0030】
比較例
アルキルアミンを含まないリン酸ジルコニウムのX線回折パターンは、銅管球、ニッケルフィルターを使用して測定した場合、α型リン酸ジルコニウム(比較例製品1)では2θ=11.7°,20.4°,25.0°,25.3°及び36.3°などにそれぞれα型リン酸ジルコニウム(Zr(HPOO:JCPDS33−1482)の(200),(002),(−311),(202)及び(113)回折線に対応するピークが認められる(図1(a))。
【0031】
γ型リン酸ジルコニウム(比較例製品2)の場合には、2θ=7.3°,15.2°,20.5°,23.8°,25.4°及び26.9°にZr(HPO2HO:JCPDS45−0068の(001),(011),(−102),(102),(−103)及び(020)回折線に対応するピークが認められる(図2(a))。熱分析より、xの値はα型リン酸ジルコニウムで1.0、γ型リン酸ジルコニウムの場合に2.0となる。後者の組成式は、厳密にはZr(HPO(PO)2HOとして考えられている。
【実施例5】
【0032】
得られた本発明製品1〜4及び比較例製品1、2を用いて、コバルトイオン吸着容量を反応温度100,150及び200℃で測定した。各製品0.1gと0.05M硝酸コバルト水溶液10mlをテフロン(登録商標)内筒型圧力容器に加え、高温の恒温槽中で24時間保持した。冷却後、反応容器中の溶液をろ過によりイオン交換体と固液分離し、ろ液中のコバルトイオン濃度をICP発光分析により定量し、初期濃度との差からコバルトイオン交換容量を算出した。その結果を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
アルキルアミンを添加しないα型リン酸ジルコニウム(比較例製品1)では、100℃では0.5mmol/gと低いコバルトイオン吸着容量を示し、吸着温度の上昇により200℃では、1.82mmol/gとなった。これに対し、ブチルアミンとの複合化により得られた実施例製品1及びヘキシルアミンとの複合化により得られた本発明製品2は、100℃においても2.0mmol/g以上と比較例製品1に比べ高いコバルトイオン吸着容量を示し、特に200℃では、ヘキシルアミン複合体では3.0mmol/g以上のコバルトイオン吸着量を有する。
【0035】
一方、γ型リン酸ジルコニウム(比較例製品2)の場合、100℃、150℃ではブチルアミンとの複合化により得られた本発明製品3及びヘキシルアミンとの複合化により得られた本発明製品4と同程度の吸着量を示すが、200℃では、本発明製品3及び4は、2.0mmol/g以上のコバルトイオン吸着量を示した。これは、水熱温度が200℃という高温水熱条件下でも高い吸着性能を有することから、吸着操作において、高温のまま使用することができ、しかも、高温での高い吸着速度が期待できることから、耐熱性の低いイオン交換樹脂に比べ、経済的であり、有利と考えられる。
【実施例6】
【0036】
実施例1〜4及び比較例1,2のコバルトイオン吸着材について、コバルトイオンに対する分配係数について初期pHを変化させて測定した。すなわち、23ml容量のテフロン(登録商標)内筒密封容器に0.1M硝酸溶液を用いて初期pHを調製した10−3Mコバルトイオン溶液と吸着材0.05gを入れ、200℃の恒温で24時間保持した後、固液を分離し、ろ液中のコバルトイオン濃度をICP発光分光分析により定量し、分配係数(Kd)値を算出した。その結果を図3に示す。
【0037】
比較例1の吸着材に比べ、実施例1及び実施例2の吸着材の分配係数はpH2以上でpHとともに増加し、10以上の値を示す。一方、比較例製品2の場合、本発明製品3と同程度の分配係数を示すが、ヘキシルアミンとの複合化により得られた本発明製品4では、pH1.5以上で10以上と高い分配係数を示した。中性から弱アルカリpH領域に水質管理されている原子炉冷却水への適用に際しては、pHを調整することなく使用可能と判断される。また、pHを1以下とした場合には、分配係数が極端に減少していることから、濃度が0.1M程度の希酸を用いて吸着材からコバルトイオンを回収することが可能と考えられる。
【0038】
そこで、実施例5において、各温度でコバルトイオン吸着試験を行った実施例1から実施例4について、1M硝酸によるコバルトイオンの溶離試験を実施した。すなわち、20ml容量のテフロン(登録商標)製密封容器に、コバルトを吸着した吸着材0.02gと1M硝酸溶液10mlを加え、室温で72時間保持した。固液を分離し、ろ液中のコバルトイオン濃度を分析し、溶出量を算出した。その結果を表2に示す。
【0039】
【表2】

【0040】
脂肪族アミンと複合化していない比較例製品1及び2では、1M硝酸溶液を用いても完全にCoイオンを溶出することは困難であり、溶出率は69−94%程度であった。一方、脂肪族アミンとの複合体である本発明製品1−4では、コバルトイオン溶出率は95%以上であり、ほぼ定量的に回収することができた。
【産業上の利用可能性】
【0041】
以上詳述したように、本発明は、コバルトイオン吸着材及びその製造方法に係るものであり、本発明のコバルトイオン吸着材は、アルキルアミン複合化していないリン酸ジルコニウムイオン交換体に比べ、コバルトイオン吸着容量が大きい。また、本発明のコバルトイオン吸着材は、比較的低濃度(1M以下)のアルキルアミン溶液を用いて簡便な工程で製造することができる。また、本発明のコバルトイオン吸着材は、従来のコバルトイオン吸着材に比べ、耐熱性に優れ、コバルトイオン吸着能も良好なことから、100℃以上の高温水中での使用が可能である。更に、吸着したコバルトイオンは、希薄な酸溶液を用いて、ほぼ定量的に溶出、回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明製品のX線回折結果を示す。(a)α型リン酸ジルコニウム,(b)α型リン酸ジルコニウム/ブチルアミン複合体,(c)α型リン酸ジルコニウム/ヘキシルアミン複合体。
【図2】本発明製品のX線回折結果を示す。(a)γ型リン酸ジルコニウム,(b)γ型リン酸ジルコニウム/ブチルアミン複合体,(c)γ型リン酸ジルコニウム/ヘキシルアミン複合体。
【図3】コバルトイオン濃度をICP発光分光分析により定量し、分配係数(kd)値を算出した結果を示す。(a)α型リン酸ジルコニウム,(b)γ型リン酸ジルコニウム。X:アルキルアミン無添加,△:ブチルアミン複合体,◆:ヘキシルアミン複合体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基本構造が、一般式
Zr(HPOxHO・yC2n+z(NH2−z
(式中のnは4〜12の整数、xは0より大きく3未満の数、yは0より大きく3未満の数、zは0又は1である。)で表されるリン酸ジルコニウム/アルキルアミン(脂肪酸アミン)複合体から成ることを特徴とするコバルトイオン吸着材。
【請求項2】
nが、4〜12の整数である、請求項1記載のコバルトイオン吸着材。
【請求項3】
50℃以上の高温水中で使用可能な、耐熱性を有する、請求項1記載のコバルトイオン吸着材。
【請求項4】
脂肪族アミンにおけるアルキル基が、直鎖状、枝分かれ状、環状のいずれかである、請求項1記載のコバルトイオン吸着材。
【請求項5】
Zr(HPOxHO粉末と、一般式
2n+z(NH2−z
(式中のnは4〜12の整数、zは0又は1である。)で表される脂肪族アミンを反応させることを特徴とするコバルトイオン吸着材の製造方法。
【請求項6】
脂肪族アミンが、炭素数4〜12のアルキルアミン及びアルキレンジアミンの中から選ばれたものである、請求項4記載のコバルトイオン吸着材の製造方法。
【請求項7】
脂肪族アミンにおけるアルキル基が、直鎖状、枝分かれ状、環状のいずれかである、請求項5記載のコバルトイオン吸着材の製造方法。
【請求項8】
脂肪族アミンの使用量が、リン酸ジルコニウムのカチオン交換容量に対し、1倍以上2倍以下である、請求項5記載のコバルトイオン吸着材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−56413(P2009−56413A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−227024(P2007−227024)
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、文部科学省、原子力試験研究事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】