説明

コラーゲン水分散体、水系塗料および積層体

【課題】水系塗料に添加されたコラーゲンが凝集せず、塗装仕上げにおいて、優れた柔軟性と風合いを付与するコラーゲン水分散体、水系塗料および積層体を提供すること。
【解決手段】牛革シェービング屑よりコラーゲンパウダーを得、平均粒径が、粒径成分の指標(D50)で0.02〜5μm、かつ、大粒径成分の指標(D90)で0.05〜10μmであるコラーゲンタンパク質を含有するコラーゲン水分散体を作製する。コラーゲン水分散体は、以下の式(1)で表される可溶性度Rが90%以上である。
R=(S/T)×100 ・・・(1)
式中、Sは#120メッシュを通過したアセトン・コラーゲン水分散体溶液(g)、Tはコラーゲン水分散体中コラーゲン量の100倍アセトン量(g)とコラーゲン水分散体(g)の総量(g)である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コラーゲン水分散体、水系塗料および積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、皮革製品は、天然か合成かを問わず、塗装仕上げが施されている。塗装に使用される塗料には、天然タンパク質を改質材として添加することにより、吸放湿性などの各種特性を付与、向上させた製品を得ることができる。例えば、改質材として、コラーゲン粉末を用いた場合、柔軟性や風合いに優れた製品が得られる。
従来、粉末状のコラーゲンを有機溶剤系塗料や合成樹脂等に配合して塗布することで皮革製品の風合いを向上する方法が提案されていた(特許文献1、特許文献2)。しかしながら、有機溶剤系塗料や合成樹脂等によって塗装仕上げされたものは硬質感があり、柔軟性、風合いは満足いかないものであった。
一方、塗料は、環境、人体への影響から有機溶剤系から水系化の改良が進んでいたが、有機溶剤を水系化しただけでは、これら粉末状の天然タンパク質は凝集が生じ、塗料化できないといった問題や、ざらつきにより風合いを悪化してしまうといった問題が発生していた。
そこで、特許文献3では、水系塗料へコラーゲン水分散体を添加する方法として、イソプロピルアルコールやブチルセロソルブ等の浸透剤をパウダーに含浸させ、可溶化コラーゲンを用いる方法が提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開昭62−257973号公報
【特許文献2】特開昭62−257974号公報
【特許文献3】特開平05−059400号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献3に記載の方法でも、塗料に添加した際にコラーゲンが凝集したり、コラーゲンの添加効果が低いといった問題があった。
【0005】
本発明の目的は、水系塗料に添加されたコラーゲンが凝集せず、塗装仕上げにおいて、優れた柔軟性と風合いを付与するコラーゲン水分散体、水系塗料および積層体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、平均粒径が、粒径成分の指標(D50)で0.02〜5μm、かつ、大粒径成分の指標(D90)で0.05〜10μmであるコラーゲンタンパク質を含有することを特徴とする。
【0007】
D50とは、粉体の粒径分布において,小粒径から大粒径への粒子頻度の積算が、全体の50%を占めるときの粒径で、D90も同様に、全体の90%をしめるときの粒径を表す。すなわち、本発明では、粒径0.02〜5μmのコラーゲンタンパク質の含有量が全体の50%を占め、かつ、粒径0.05〜10μmのコラーゲンタンパク質の含有量が全体の90%を占める。
一般に、コラーゲンは、アルデヒド、ケトン、キノン類で脱水作用により凝集する特徴を有しており、従来、有機溶媒系では凝集の問題がなかったコラーゲンでも、水系塗料では塗料の樹脂の官能基や、表面張力が高いために塗装性を保持する目的で多用される濡れ剤・含浸剤が脱水作用を生じる原因となり、凝集の問題が顕在化する。
そこで、本発明のようにコラーゲン水分散体に含まれるコラーゲンを微粉化することにより、塗料への添加で生じる凝集体自体も微小化し、また凝集し得る分子鎖集合体の切断、ほぐれが生じ、塗料液としては実質凝集のないものとして扱うことができるようになる。
したがって、本発明のコラーゲン水分散体を塗料に添加しても凝集がなく、優れた柔軟性および風合いを皮革製品に付与することができる。
【0008】
一方、平均粒径(D50)が0.02μmより小さくなると、可溶性タンパク質の特性が強まり、塗装表面のベタツキ感が生じ、好ましくない。また、D50が5μmを超えると、水系塗料に添加した際に凝集が生じてしまう。
また、粉体は全ての粒子が均一な大きさであることはなく、いろいろな大きさの粒子がいろいろな割合で存在する。そのため、平均粒径(D50)が目的の範囲内だったとしても、粒径の大きい粒子が存在するため、それが凝集の原因となることもある。したがって、大粒系成分の指標(D90)を0.05〜10μmの範囲とすることで、さらに凝集を抑制することができる。
【0009】
本発明のコラーゲン水分散体は、式(1)で表される可溶性度Rが、90%以上であることが好ましい。
【0010】
R=(S/T)×100 ・・・(1)
【0011】
式中のSは#120メッシュを通過したアセトン・コラーゲン水分散体溶液(g)、Tはコラーゲン水分散体中コラーゲン量の100倍アセトン量(g)とコラーゲン水分散体(g)の総量である。
【0012】
前述のように、コラーゲンは、脱水作用により凝集を起こすので、凝集の有無を判断するために、コラーゲンの脱水作用を顕著に示すアセトンを用いて可溶性度を算出し、凝集性を評価することができる。
可溶性度は、本発明に使用できるコラーゲンであるかどうかの指標ともなる。
コラーゲンは、その由来などにより様々な種類があり、それぞれが異なる性能、効果を持っている。したがって、平均粒径を目的の範囲内で作製したとしても、塗料に添加した場合に一様に凝集が起こらないとは限らない。そこで、可溶性度を算出して、凝集が起こらないものであるかどうかを判断する指標とした。
【0013】
可溶性度を得るためには、コラーゲン水分散体におけるコラーゲン量の100倍量のアセトンにコラーゲン水分散体を添加する。この溶液を攪拌、静置後、#120メッシュにてろ過したろ液を定量して、式(1)により可溶性度が得られる。
可溶性度が90%未満の場合、塗料にした場合にゲルが認められる。ゲル化が起こらないためのより好ましい範囲は、95%以上である。
【0014】
本発明のコラーゲン水分散体は、コラーゲン含有率が2〜25%であることが好ましい。
コラーゲン含有率が2%を下回ると、塗料の希釈率が高くなり、調整しにくい。また、25%を超えると、増粘が著しく扱いにくくなる。より好ましい範囲は、コラーゲン含有率が5〜10%である。
【0015】
本発明のコラーゲン水分散体は、コラーゲンタンパク質が、牛革由来の天然タンパク質であることが好ましい。
本発明で使用されるコラーゲンは、可溶性度90%以上を満たすコラーゲンであれば特に限定されないが、特定のコラーゲンとして牛革由来のものが好ましい。
牛革由来のコラーゲンを使用することにより、凝集が起こらないコラーゲン分散体を提供することができる。
【0016】
本発明の塗料は、コラーゲン水分散体が添加された水系塗料であることが好ましい。
水系塗料は、塗膜形成に用いられる市販の水系塗料、ウレタンエマルジョン、アクリルエマルジョン、シリコーンエマルジョン、ポリブタジエンエマルジョン樹脂などの組成のものに、必要に応じて、架橋剤、顔料、滑剤、無機フィラーおよび樹脂ビーズなどと併用して使用することができる。
この発明では、これら水系塗料に前述のコラーゲン水分散体が添加されているので、前述と同様の作用効果を奏することができる。
【0017】
本発明の塗料は、塗料固形分に対するコラーゲン濃度が5〜20%であることが好ましい。
コラーゲン水分散体の添加量は、必要に応じて任意に変えることができるが、コラーゲン濃度が5%を下回ると、コラーゲン添加による風合い向上の効果がなく、20%を超えると、塗料の物性低下および調色不良の原因となる。より好ましい範囲は、10〜15%である。
【0018】
本発明の積層体は、水系塗料を塗装した積層体であることが好ましい。
ここで、積層体には、本革、レザー、合成皮革などの皮革製品が挙げられる。
この発明では、前述の水系塗料が積層体に塗装されているので、柔軟性があり、風合いの良好な積層体を提供することができる。
【0019】
以下、本発明を実施する方法を詳細に説明する。
微粉化したコラーゲン水分散体を得るには、牛革から得られたコラーゲン原料を、公知の粉砕手段を用いて粉砕することにより調製すればよいが、例えば、下記に示す第1の粉砕工程、第2の粉砕工程および第3の粉砕工程からなる、3段階の粉砕工程により粉砕することができる。
【0020】
[第1の粉砕工程]
第1の粉砕工程においては、鞣された牛革シェービング屑を解砕機でほぐし、乾式機械的粉砕手段を用いて粗粉砕する。この乾式機械的粉砕手段としては、例えば、ジョークラッシャー、カッターミル、ハンマークラッシャー等の公知の粉砕手段を使用することができる。第1の粉砕工程では、粉体対象となるコラーゲン原料を、その平均粒径が概ね20〜30μm程度となるように粉砕することが好ましい。
【0021】
[第2の粉砕工程]
第2の粉砕工程においては、第1の粉砕工程で得られた粉砕物を、乾燥、脱脂、水洗、脱水、膨潤処理、乾燥といった工程で処理を行った後、ビクトリーミル、ボールミル、コロイドミル、ジェットミル、ローラーミル、ハンマーミル等の公知の粉砕手段で平均粒径15μm程度になるまで、さらに微粉砕する。
なお、第2の粉砕工程で使用する乾式機械的粉砕手段の諸条件(圧力等)は、粉砕するコラーゲン原料の種類や、得られるコラーゲンパウダーの仕様に応じて決定すればよい。
【0022】
[第3の粉砕工程]
第3の粉砕工程においては、第2の粉砕工程で得られた粉砕物をさらに細かくするために、湿式粉砕を行う。
コラーゲン含有率が2〜25%の範囲内となるようにコラーゲンパウダーに水を加え、ミキサーで攪拌して十分に分散させる。湿式粉砕には、例えば、スギノマシン社製アルティマイザーHJP25005を用いることで、目的の微粒子を得ることができる。
【0023】
このような3段階の粉砕工程により粉砕処理を行うようにすれば、コラーゲン原料をD50が0.02〜5μm、かつ、D90が0.05〜10μmの細かい粒子に粉砕できるようになり、水系塗料への改質材としての利用に適した大きさのコラーゲン水分散体が容易に得られることとなる。
【0024】
また、第1の粉砕工程の粉砕手段は、平均粒径の比較的大きい被粉砕物の粉砕に適しており、第2の粉砕工程で用いる粉砕手段は平均粒径の比較的小さい被粉砕物の粉砕に適しており、第3の粉砕工程はさらに小さい被粉砕物の粉砕に適しているため、粉砕工程をこのような順序とすることで、コラーゲン原料の粉砕を効率よく行うことができるようになり、所望の形状および大きさを有するコラーゲン水分散体が迅速かつ容易に得られるようになる。
【0025】
[塗料の作製]
本発明のコラーゲン水分散体は、改質材として塗料に含有させて使用することができる。塗料固形分に対するコラーゲン濃度が5〜20%とすることが好ましい。
塗料の種類としては水系であれば特に限定されないが、ウレタンエマルジョンなどを使用することができる。必要に応じて、架橋剤、顔料、滑剤、無機フィラーおよび樹脂ビーズなどを添加してもよい。
塗料固形分におけるコラーゲン水分散体の濃度が5〜20%となるように、コラーゲン水分散体を添加し、塗料を作製する。
[積層体への塗布]
こうして得られた塗料は、例えば、本革、合成皮革などに公知の方法で塗布されるが、
具体的には、刷毛、スプレー、ロール、コーター等の方法を使用することができる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例等の内容に何ら限定されるものではない。
塗料を作製する手順は以下の通りである。
(1.コラーゲンの抽出)
タンニンなめしした牛革シェービング屑を水洗、加圧脱水し、乾燥させた。乾燥させたもの50gを、解砕機(ホソカワミクロン社製)でほぐし、粗粉砕機(オダテ社製ハンマーミル)で粉砕した。さらに、これをボールミル(セイシン企業社製)で粉砕した。これにより、粒径成分の指標(D50)で、15μmのコラーゲンパウダーを得た。
【0027】
(2.コラーゲンの微粉化)
1.で得られたコラーゲンパウダーを5%の濃度で水に添加し、ミキサーで攪拌し、十分に分散させた。これを、スギノマシン社製アルティマイザーHJP25005を用いて、圧力225MPa、流量0.46L/minの下、湿式粉砕処理を行った。
【0028】
(3.コラーゲンの粒径測定)
2.で得られたコラーゲン水分散体を、マイクロトラック社製MT3000を用いて粒度を測定した。なお、媒体には水を使用した。
【0029】
(4.可溶性度の評価)
2.で得られたコラーゲン水分散体5gを25gのアセトンに滴下し、攪拌した。ここでは、コラーゲンの100倍量のアセトンを使用する。
30分静置後、#120ナイロンメッシュ(目開き125μm)でろ過したろ液を定量し、可溶性度を算出した。
【0030】
(5.塗料化)
水系ウレタン樹脂エマルジョン200gとレベリング剤5gと水250gとの混合物に、コラーゲン水分散体300gを添加し、塗料固形分に対しコラーゲンとして15%配合するように調整した。これに、水50gを加えて希釈した硬化剤50gを添加した。
【0031】
上記手順を用いて、使用するコラーゲンの種類および手順2におけるアルティマイザーでの処理回数を変えて評価を行った。実施例1、実施例2および比較例1から比較例7を以下に示す。
【0032】
[実施例1]
コラーゲン:牛革由来のパウダー
手順2におけるアルティマイザーでの処理:20回
【0033】
[実施例2]
コラーゲン:牛革由来のパウダー
手順2におけるアルティマイザーでの処理:50回
【0034】
[比較例1]
コラーゲン:牛革由来のパウダー
手順2におけるアルティマイザーでの処理:なし
【0035】
[比較例2]
コラーゲン:牛革由来のパウダー
手順2におけるアルティマイザーでの処理:10回
【0036】
[比較例3]
コラーゲン:牛革由来のパウダー
手順2におけるアルティマイザーでの処理:3回
【0037】
[比較例4]
コラーゲン:シルク由来のパウダー
手順2におけるアルティマイザーでの処理:20回
【0038】
[比較例5]
コラーゲン:シルク由来のパウダー
手順2におけるアルティマイザーでの処理:50回
【0039】
[比較例6]
コラーゲン:シルク由来のパウダー
手順2におけるアルティマイザーでの処理:150回
【0040】
[比較例7]
コラーゲン:シルク由来の水溶性コラーゲンパウダー
手順2におけるアルティマイザーでの処理:20回
【0041】
<評価方法>
凝集の有無を目視で評価した。凝集の有無の評価内容は以下の通りである。
「○」:凝集がない
「△」:凝集が少し見られる
「×」:凝集がある
【0042】
また、風合いの評価は以下の通りである。
「○」:風合いがある
「×」:風合いがない
【0043】
【表1】

【0044】
実施例1では、塗料へのコラーゲン水分散体の添加による凝集もなく、塗装革の風合いも良好であった(図1)。
実施例2においては、図2に示すように塗装面に凝集が全くなく、風合いも良好で、最も優れた結果が得られた。
比較例1では、凝集が著しく、塗装できなかった。
比較例2および比較例3では、図3に示すような凝集があり、塗装革にざらつきが生じた。
比較例4から比較例6では、凝集があり、塗装革の表面は粉を噴いたようにカサカサであった。
比較例7は、凝集はないが、塗装革の表面にはテカリ、ベタツキ感があり好ましくなかった。
したがって、シルク由来のコラーゲンは微粉化されていても可溶性度が悪く、本発明には適していないことがわかる。また、水溶性のコラーゲンを使用すると、風合いが劣るという結果も得られた。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、本革製品、レザー製品および合成皮革製品等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施例における実施例1で処理を行った塗装表面の写真。
【図2】本発明の実施例における実施例2で処理を行った塗装表面の写真。
【図3】本発明の実施例における比較例2で処理を行った塗装表面の写真。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が、粒径成分の指標(D50)で0.02〜5μm、かつ、
大粒径成分の指標(D90)で0.05〜10μmであるコラーゲンタンパク質を含有することを特徴とするコラーゲン水分散体。
【請求項2】
請求項1に記載のコラーゲン水分散体において、
式(1)で表される可溶性度Rが、90%以上であることを特徴とするコラーゲン水分散体。
R=(S/T)×100 ・・・(1)
S:#120メッシュを通過したアセトン・コラーゲン水分散体溶液(g)
T:コラーゲン水分散体中コラーゲン量の100倍アセトン量(g)とコラーゲン水分散体(g)の総量(g)
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のコラーゲン水分散体において、
コラーゲン含有率が2〜25%であることを特徴とするコラーゲン水分散体。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載のコラーゲン水分散体において、
前記コラーゲンタンパク質が、牛革由来の天然タンパク質であることを特徴とするコラーゲン水分散体。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載のコラーゲン水分散体が添加された水系塗料。
【請求項6】
請求項5に記載の水系塗料において、
塗料固形分に対するコラーゲン濃度が5〜20%であることを特徴とする水系塗料。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載の水系塗料を塗装した積層体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−63494(P2008−63494A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−244554(P2006−244554)
【出願日】平成18年9月8日(2006.9.8)
【出願人】(500242384)出光テクノファイン株式会社 (55)
【Fターム(参考)】