説明

コロイダルシリカおよびその製造方法

【課題】印刷紙用のインク吸収性フィラー、塗料の展着性改善剤、各種材料表面の親水性コーティング材、高強度バインダー、触媒用バインダー、電子材料用研磨材等に有用なコロイダルシリカを提供すること。
【解決手段】カテコールの存在下で活性珪酸を原料として製造されるコロイダルシリカであって、カテコールを含有し、透過型電子顕微鏡観察による長径/短径比が1.2〜10である非球状の異形シリカ粒子群を含有するコロイダルシリカである。これは、珪酸アルカリ水溶液とカチオン交換樹脂とを接触させて、活性珪酸水溶液を調製した後、この活性珪酸水溶液にカテコールおよびアルカリ剤を添加した後、加熱してシリカ粒子を形成し、ビルドアップの手法でシリカ粒子を成長させることにより製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷紙用のインク吸収性フィラー、塗料の展着性改善剤、各種材料表面の親水性コーティング材、高強度バインダー、触媒用バインダー、電子材料用研磨材等に有用なコロイダルシリカおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非球状のシリカ粒子からなるコロイダルシリカは、数多く提案されている。特許文献1には、電子顕微鏡観察による5〜40ミリミクロンの範囲内の一様な太さで一平面内のみの伸長を有する細長い形状の非晶質コロイダルシリカ粒子が液状媒体中に分散されてなる安定なシリカゾルが記載されている。特許文献2には、珪酸液添加工程の前、添加工程中または添加工程後に、アルミニウム塩などの金属化合物を添加する製法によって得られる細長い形状のシリカ粒子からなるシリカゾルが記載されている。特許文献3には、アルコキシシランの加水分解により得られる長径/短径比が1.4〜2.2の繭型のシリカ粒子から成るコロイダルシリカが記載されている。特許文献4には、水ガラス法の活性珪酸水溶液に代替して、アルコキシシランの加水分解液を使用し、アルカリには水酸化テトラアルキルアンモニウムを使用して、非球状のシリカ粒子を含有するコロイダルシリカが得られることが記載されている。特許文献5には、カテコール、エチレンジアミンおよびコロイダルシリカからなるシリコンウエハ用研磨剤が記載されている。
また、カテコールは半導体ウエハのレジスト剥離剤、洗浄剤、エッチング剤等の一成分として配合され、金属表面との反応により金属表面の防食剤として機能することが、特許文献6〜8に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平1−317115号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平4−187512号公報
【特許文献3】特開平11−60232号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開2001−48520号公報(特許請求の範囲および実施例)
【特許文献5】特開平8−339980号公報(特許請求の範囲)
【特許文献6】特開平7−325404号公報(特許請求の範囲)
【特許文献7】特開2002−296804号公報(特許請求の範囲および実施例)
【特許文献8】特開2007−503115号公報(特許請求の範囲および実施例)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のコロイダルシリカは、その製造過程において、水溶性のカルシウム塩、マグネシウム塩またはこれらの混合物を添加する工程があるので、製品にはそれらが不純物として残存している。特許文献2に記載のコロイダルシリカは、その製造過程において、水溶性のアルミニウム塩を添加する工程があり、製品にはそれらが不純物として残存している。特許文献3および4に記載のコロイダルシリカは、アルコキシシランをシリカ源とするので、製品は高純度であるが、副生するアルコールの回収工程が必要となる上に、アルコキシシラン自体の価格が高いという問題がある。特許文献5〜8に記載のように、半導体関連ではカテコールの使用が多数提案されているが、コロイダルシリカの製造に関する記載はない。
【0005】
従って、本発明の目的は、カルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩等の珪素以外の金属化合物を用いることなく、非球状の異形シリカ粒子群を含有するコロイダルシリカを製造する方法およびその製造方法により得られるコロイダルシリカを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、上記の課題を解決することができた。
すなわち本発明は、カテコールの存在下で活性珪酸を原料として製造されるコロイダルシリカであって、カテコールを含有し、透過型電子顕微鏡観察による長径/短径比が1.2〜10である非球状の異形シリカ粒子群を含有するコロイダルシリカである。このコロイダルシリカは、シリカ/カテコールのモル比が20〜700であることが好ましい。
【0007】
また、このコロイダルシリカは、透過型電子顕微鏡観察によるシリカ粒子の平均短径が5〜30nmであり、かつシリカの濃度が10〜50重量%であることが好ましい。
【0008】
このコロイダルシリカの製造方法は、以下の工程
(a)珪酸アルカリ水溶液をカチオン交換樹脂に接触させて活性珪酸水溶液を調製する工程、
(b)この活性珪酸水溶液にカテコールとアルカリ剤とを添加してアルカリ性にした後、加熱してシリカ粒子を形成させる工程、および
(c)続いて加熱条件下に、アルカリ性を維持しながら、活性珪酸水溶液とアルカリ剤とを添加するか、または活性珪酸水溶液とアルカリ剤とカテコールとを添加してシリカ粒子を成長させる工程
を有する。
また、このコロイダルシリカの製造方法は、(c)工程の後、(d)シリカを濃縮する工程を更に有することが好ましい。
【0009】
上記コロイダルシリカの製造方法は、常法である水酸化アルカリ金属や珪酸アルカリをアルカリ剤に用いたコロイダルシリカの製造方法と概略同一である。すなわち、上記コロイダルシリカの製造方法は、珪酸ソーダより活性珪酸水溶液を製造する工程は常法と同一であるが、シリカ粒子の形成工程において、カテコールとアルカリ剤とを使用する点が異なる。また、シリカ粒子の成長工程では、カテコールは添加してもよいし、添加しなくてもよい。得られたコロイダルシリカを濃縮する工程は常法と同一である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、印刷紙用のインク吸収性フィラー、塗料の展着性改善剤、各種材料表面の親水性コーティング材、高強度バインダー、触媒用バインダー、電子材料用研磨材等に有用なコロイダルシリカを安価に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1のシリカ粒子形成工程を経たコロイダルシリカのTEM写真である。
【図2】実施例1で得られたコロイダルシリカのTEM写真である。
【図3】実施例2で得られたコロイダルシリカのTEM写真である。
【図4】比較例1でカテコール添加をせずに得られたコロイダルシリカのTEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明をさらに説明する。
本発明のコロイダルシリカは、カテコールの存在下で活性珪酸を原料として製造される。カテコールとシリカの結合は強いため、カテコールは、シリカ粒子の形成および成長の過程を経て、シリカ粒子の内部および/または表面に固定された形態と、液相に溶解した形態との2形態で存在している。
また、本発明のコロイダルシリカは、透過型電子顕微鏡観察による長径/短径比が1.2〜10である非球状の異形シリカ粒子群を含有している。本発明における長径/短径比とは、得られたコロイダルシリカの透過型電子顕微鏡写真にスケールをあてて、ランダムに選択したシリカ粒子100個について、シリカ粒子の最も長い辺aと最も短い辺bとを測定し、この値(a1、a2、・・・、a100およびb1、b2、・・・、b100)を用いてそれぞれの粒子の長径/短径比(a1/b1、a2/b2、・・・、a100/b100)を算出し、最大値側および最小値側の5点の値を除いた90点の値の算術平均値である。
【0013】
カテコール(catechol、C662)はフェノール類の一種で、ベンゼン環上のオルト位に2個のヒドロキシ基を有する有機化合物であり、別名はピロカテコール、ピロカテキン、o−ジヒドロキシベンゼンである。
カテコールはシリカと強い結合を形成する特異な有機化合物であり、シリカの分析などに利用されたこともあった。そのカテコールの特異的な性質が、シリカ粒子の形成や成長に影響を及ぼしていると推測される。また、シリカとカテコールの反応物は暗褐色の色相に発色する。主にコロイド液の液相部分が発色し、これはシリカ分子とカテコールとの反応生成物がコロイド液に溶解していることに起因する。さらに、機器分析の結果から、本発明のコロイダルシリカでは、シリカ粒子の内部および/または表面に一部のカテコールが固定化されているものと推測される。
【0014】
本発明のコロイダルシリカはカテコールを含有しており、シリカ/カテコールの好ましいモル比は20〜60である。カテコールの1%水溶液はpHが4.8程度であって、アルカリではないので粒子成長自体には寄与しない。しかしながら、粒子成長時の粒子形状に影響を及ぼす。カテコールは成長中のシリカ粒子表面に結合して、結合部位の粒子成長を阻害し、球状成長をできないようにしているようである。シリカ/カテコールのモル比が20より小さいと、粒子成長が過度に阻害されてシリカのゲルが発生する場合がある。また、シリカ/カテコールのモル比が60より大きいと、カテコール添加の効果が十分に得られず球状粒子となる場合がある。ただし、ここでいうシリカ/カテコールのモル比は、シリカ粒子の粒子形成工程および成長工程におけるカテコールの量を基準としている。カテコールは、限外濾過による濃縮工程で水とともに排出されて減量するので、最終的に得られるコロイダルシリカのカテコール量は、シリカ/カテコールのモル比で20〜700である。+
【0015】
なお、本発明におけるシリカ/カテコールのモル比とは、活性珪酸水溶液のシリカ濃度より求めたSiO2のモル数と、活性珪酸水溶液に添加するカテコールのモル数とから算出したものである。
【0016】
ただし、有機物の存在は排水処理などで二次的な弊害を発生することもある。そのような場合を考慮するとカテコールを除去した製品も必要となる。限外濾過を有効に活用してカテコールの量を極力減らす方法も本発明の製造方法のひとつとして範疇に含まれる。
【0017】
本発明における非球状の異形シリカ粒子群を含有するコロイダルシリカとは、卵形、落花生型、繭形、棒状、屈曲した棒状など様々な形状を有し、且つその形状が個々に異なるシリカ粒子を含有するコロイダルシリカである。具体的には図1〜3に示されるような形状のシリカ粒子を含有するコロイダルシリカである。このシリカ粒子の長径/短径比は、1.2〜10の範囲にある。このシリカ粒子は、非球状のシリカ粒子が大半を占めており、一部には球状のシリカ粒子も存在する。図1〜3に示したシリカ粒子は一例であって、製造条件によってその形状はさまざまとなるが、本発明のコロイダルシリカでは、真球状でないシリカ粒子が大半を占めている。
【0018】
本発明のコロイダルシリカの製造方法は、水ガラス法の活性珪酸水溶液をシリカ源とし、粒子形成工程において、カテコールとアルカリ剤とを使用することを特徴とする。粒子成長工程においては、活性珪酸水溶液とアルカリ剤とカテコールとを添加するか、または活性珪酸水溶液とアルカリ剤とを添加することを特徴とする。
【0019】
アルカリ剤としては、水酸化ナトリウムのようなアルカリ金属水酸化物が最も好適な材料である。アルカリ金属を好まないときには、アミン類や水酸化第4アンモニウムなどの含窒素有機アルカリ化合物を用いることができる。水酸化第4アンモニウムとしては、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化トリメチル−2−ヒドロキシエチルアンモニウム(別名、水酸化コリン)が挙げられる。また、アミン類としてはトリエタノールアミンなどの揮発性の低い3級アミン、ピペラジンなどの2級アミン、エチレンジアミンなどの脂肪族アミンを用いることができる。
【0020】
上記の含窒素有機アルカリ化合物を使用することで、シリカ当たりのアルカリ金属含有率は50ppm以下とすることができる。セラミック、触媒用バインダー、電子材料用研磨材などの用途ではこの程度のアルカリ金属含有率とすることが必要である。より好ましくは30ppm以下である。
【0021】
原料として用いる珪酸アルカリ水溶液としては、通常、水ガラス(水ガラス1号〜4号等)と呼ばれる珪酸ナトリウム水溶液が好適に用いられる。このような珪酸ナトリウム水溶液は比較的安価であり、容易に手に入れることができる。また、Naイオンを嫌う半導体用途では珪酸ナトリウム水溶液の代わりに珪酸カリウム水溶液を原料として用いられることが好ましい。固体状のメタ珪酸アルカリを水に溶かして珪酸アルカリ水溶液を調製する方法もある。メタ珪酸アルカリは晶析工程を経て製造されるため、不純物の少ないものがある。珪酸アルカリ水溶液は、必要に応じて水で希釈して使用する。
【0022】
本発明で使用するカチオン交換樹脂は、公知のものを適宜選択して使用することができ、とくに制限されない。珪酸アルカリ水溶液とカチオン交換樹脂との接触工程は、例えば、珪酸アルカリ水溶液をシリカ濃度3〜10重量%に水希釈し、次いでH型強酸性カチオン交換樹脂に接触させて脱アルカリし、必要に応じてOH型強塩基性アニオン交換樹脂に接触させて脱アニオンすることによって行うことができる。この工程により、活性珪酸水溶液が調製される。接触条件の詳細は、従来から既に様々な提案があり、本発明ではそれら公知のいかなる条件も採用することができる。
【0023】
次いで、シリカ粒子の形成を行う。この粒子形成工程では、カテコールの添加を行う以外は常法の操作が行われる。例えば、活性珪酸水溶液にpHが8以上となるようにカテコールとアルカリ剤とを添加し、60〜240℃に加熱することで、シリカ粒子を形成させることができる。
【0024】
次いで、上記で形成されたシリカ粒子を種ゾルとするビルドアップの方法を用いた粒子成長を行う。この粒子成長工程では、pHが8以上の種ゾルを60〜240℃に加熱し、pHを8〜11に維持しながら、活性珪酸水溶液とカテコールとアルカリ剤とを添加するか、あるいは活性珪酸水溶液とアルカリ剤とを添加してシリカ粒子を成長させる。このようにして、シリカの粒子を成長させて平均短径が好ましくは5〜30nm、より好ましくは10〜20nmの粒子とすることができる。
【0025】
上記粒子形成工程及び粒子成長工程を経て得られたコロイダルシリカは、必要に応じて、コロイダルシリカの濃縮を行うことができる。シリカの濃縮は、水分の蒸発濃縮でもよいが、エネルギー的には限外濾過の方が有利である。
【0026】
限外濾過によりシリカを濃縮するときに使用される限外濾過膜について説明する。限外濾過膜が適用される分離は、1nmから数ミクロンの粒子を対象とするが、溶解した高分子物質をも対象とするため、ナノメータ域では濾過精度を分画分子量で表現している。本発明では、分画分子量15,000以下の限外濾過膜を好適に使用することができる。この範囲の膜を使用すると1nm以上の粒子は分離することが出来る。更に好ましくは分画分子量3,000〜15,000の限外濾過膜を使用する。3,000未満の膜では濾過抵抗が大きすぎて処理時間が長くなり不経済であり、15,000を超えると、精製度が低くなる。膜の材質は、ポリスルホン、ポリアクリルニトリル、焼結金属、セラミック、カーボンなどあり、いずれも使用できる。耐熱性や濾過速度などの点からポリスルホン製の膜が使用しやすい。膜の形状は、スパイラル型、チューブラー型、中空糸型などあり、いずれも使用できる。中空糸型膜がコンパクトで使用しやすい。また、限外濾過工程が、余剰のカテコールの洗い出し除去をかねている場合、必要に応じて、目標シリカ濃度に達した後も純水を加えるなどして、更に洗い出し除去を行って、カテコールの除去率を高める作業を行うこともできる。この工程でシリカの濃度が10〜50重量%となるように濃縮するのがよい。
【0027】
また、本発明では、必要に応じて、粒子成長工程後または限外濾過工程後に、得られたコロイダルシリカをイオン交換樹脂により精製してもよい。例えば、コロイダルシリカをH型強酸性カチオン交換樹脂に接触させてアルカリ剤を除去したり、コロイダルシリカをOH型強塩基性アニオン交換樹脂に接触させて脱アニオンすることで、一層の高純度化を図ることができる。
【0028】
以上のようにして、カテコールの存在下で活性珪酸を原料としてコロイダルシリカを製造することにより、カテコールを含有し、透過型電子顕微鏡観察による長径/短径比が1.2〜10の非球状の異形シリカ粒子群を含有するコロイダルシリカを得ることができる。このようにして得られたコロイダルシリカは、カルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩等の珪素以外の金属化合物を含有しないので、印刷紙用のインク吸収性フィラーや、塗料の展着性改善剤、各種材料表面の親水性コーティング材、高強度バインダー、触媒用バインダー、電子材料用研磨材等に有用である。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。実施例での測定は以下の装置を使用した。
(1)TEM観察:(株)日立製作所、透過型電子顕微鏡H−7500型を使用した。
(2)全カテコール分析:(株)島津製作所、全有機体炭素計TOC−5000Aおよび固体試料燃焼装置SSM−5000Aを使用し、求めた全有機体炭素量よりカテコールに換算した。具体的には、全有機体炭素量(TOC)は、全炭素量(TC)と無機体炭素量(IC)とを測定後、TOC=TC−ICにより求めた。TC測定の標準として炭素量1重量%のグルコース水溶液を用い、IC測定の標準として炭素量1重量%の炭酸ナトリウムを用いた。超純水を炭素量0重量%の標準とし、それぞれ先に示した標準を用い、TCは150μlと300μl、またICは250μlで検量線を作成した。サンプルのTC測定ではサンプルを約100mg採取し、900℃燃焼炉で燃焼させた。また、IC測定ではサンプルを約20mg採取し、(1+1)燐酸を約10ml添加し200℃燃焼炉で反応を促進した。
(3)液相カテコール分析:限外濾過によりサンプルから液相を取り出し、上記(2)と同じ方法で測定した。
(4)固定化されたカテコールの算出:全カテコール量から液相カテコール量を減じて、固定化されたカテコール量を算出した。
【0030】
〔実施例1〕
(a)活性珪酸水溶液の調製
脱イオン水13kgに3号珪酸ソーダ(SiO2:28.8重量%、Na2O:9.7重量%、H2O:61.5重量%)2.1kgを加えて均一に混合しシリカ濃度4.0重量%の希釈珪酸ソーダを作成した。この希釈珪酸ソーダを予め塩酸によって再生したH型強酸性カチオン交換樹脂(オルガノ(株)製アンバーライト(登録商標)IR120B)4000mlのカラムに通して脱アルカリし、シリカ濃度3.5重量%でpH2.9の活性珪酸水溶液15kgを得た。
【0031】
(b)シリカ粒子の形成
次いで、得られた活性珪酸水溶液にカテコールを添加した後、アルカリ剤を加えてアルカリ性にして加熱し、シリカ粒子を形成させた。すなわち、得られた活性珪酸水溶液の一部500gに、攪拌下で、カテコールをシリカ/カテコールのモル比が20になるように添加した後、5重量%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH8とし、加熱して100℃に1時間保持した後、放冷した。
【0032】
得られたコロイダルシリカは、水の蒸発で減量しており、シリカ濃度は約4重量%であった。シリカ粒子の長径/短径比は、透過型電子顕微鏡(TEM)観察により測定し、1.2〜10である非球状の異形シリカ粒子群よりなるコロイダルシリカであることを確認した。TEM写真を図1に示した。また、シリカ粒子の平均短径は5〜6nmであった。コロイダルシリカの全カテコール濃度は0.343重量%であり、液相カテコール濃度は0.291重量%であったので、固定化されているカテコール濃度は0.064重量%と算出された。添加したカテコールの一部がシリカに固定されていることが確認できた。
【0033】
(c)シリカ粒子の成長
続いて、得られたコロイダルシリカを再度加熱して100℃とし、ビルドアップの方法をとり、1,800gの活性珪酸水溶液を3時間かけて添加した。活性珪酸水溶液の添加中、カテコールと5重量%水酸化ナトリウム水溶液を同時添加した。カテコールは、シリカ/カテコールのモル比が20となるように添加し、5重量%水酸化ナトリウム水溶液は、pHが9.5〜10.5の範囲になるように添加した。同時添加終了後、100℃に1時間保持して、熟成を行った後、放冷した。
【0034】
(d)コロイダルシリカの濃縮
最後に、分画分子量6,000の中空糸型限外濾過膜(旭化成(株)製マイクローザ(登録商標)UFモジュールSIP−1013)を用いてポンプ循環送液による加圧濾過を行い、シリカ濃度が29重量%になるまで濃縮した。得られたコロイダルシリカのpHは9.1であった。
【0035】
シリカ粒子の平均短径および長径/短径比は透過型電子顕微鏡(TEM)観察により測定し、平均短径は14nmであり、長径/短径比は2〜4である非球状の異形シリカ粒子群よりなるコロイダルシリカであることを確認した。TEM写真を図2に示した。
また、コロイダルシリカの全カテコール濃度は0.334重量%であり、液相カテコール濃度は0.296重量%であった。このことから、添加したカテコールの一部はシリカに固定されていることが確認でき、その量は0.124重量%と算出された。また、限外濾過によりカテコールの一部が除去されているため、シリカ/カテコールのモル比は159であった。
【0036】
〔実施例2〕
シリカ粒子の成長工程においてカテコールを添加しないこと以外は実施例1と同じ方法でコロイダルシリカを作製した。最後に、分画分子量6,000の中空糸型限外濾過膜(旭化成(株)製マイクローザ(登録商標)UFモジュールSIP−1013)を用いてポンプ循環送液による加圧濾過を行い、シリカ濃度が17.5重量%になるまで濃縮した。得られたコロイダルシリカのpHは9.2であった。
【0037】
シリカ粒子の平均短径および長径/短径比は透過型電子顕微鏡(TEM)観察により測定し、平均短径は15nmであり、長径/短径比は1.2〜2.0である非球状の異形シリカ粒子群を含有するコロイダルシリカであることを確認した。TEM写真を図3に示した。
また、コロイダルシリカの全カテコール濃度は0.0497重量%であり、液相カテコールは0.0345重量%であった。このことから、添加したカテコールの一部はシリカに固定されていることが確認でき、その量は0.0235重量%と算出された。また、限外濾過によりカテコールの一部が除去されているため、シリカ/カテコールのモル比は646であった。
【0038】
〔比較例1〕
実施例1で用いたものと同じ活性珪酸水溶液500gに、攪拌下で、5重量%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH8とし、加熱して100℃に1時間保持した後、放冷した。
透過型電子顕微鏡(TEM)によりシリカ粒子を観察したところ、平均粒子径7nmの球状シリカ粒子よりなるコロイダルシリカであることを確認した。続いて、得られたコロイダルシリカを再度加熱して100℃とし、ビルドアップの方法をとり、1,800gの活性珪酸水溶液を3時間かけて添加した。活性珪酸水溶液の添加中、pHが9.5〜10.5の範囲になるように5重量%水酸化ナトリウム水溶液を同時添加した。同時添加終了後、100℃に1時間保持し、熟成を行った後、放冷した。最後に、分画分子量6,000の中空糸型限外濾過膜(旭化成(株)製マイクローザ(登録商標)UFモジュールSIP−1013)を用いてポンプ循環送液による加圧濾過を行い、シリカ濃度が20重量%となるまで濃縮した。得られたコロイダルシリカのpHは9.1であった。
【0039】
透過型電子顕微鏡(TEM)によりシリカ粒子を観察したところ、平均粒子径15nmの球状シリカ粒子よりなるコロイダルシリカであることを確認した。TEM写真を図4に示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カテコールの存在下で活性珪酸を原料として製造されるコロイダルシリカであって、カテコールを含有し、透過型電子顕微鏡観察による長径/短径比が1.2〜10である非球状の異形シリカ粒子群を含有することを特徴とするコロイダルシリカ。
【請求項2】
シリカ/カテコールのモル比が20〜700であることを特徴とする請求項1に記載のコロイダルシリカ。
【請求項3】
透過型電子顕微鏡観察によるシリカ粒子の平均短径が5〜30nmであり、かつシリカの濃度が10〜50重量%であることを特徴とする請求項1に記載のコロイダルシリカ。
【請求項4】
以下の工程
(a)珪酸アルカリ水溶液をカチオン交換樹脂に接触させて活性珪酸水溶液を調製する工程、
(b)この活性珪酸水溶液にカテコールとアルカリ剤とを添加して、アルカリ性にした後、加熱してシリカ粒子を形成させる工程、および
(c)続いて加熱条件下で、アルカリ性を維持しながら、活性珪酸水溶液とアルカリ剤とを添加するか、または活性珪酸水溶液とアルカリ剤とカテコールとを添加してシリカ粒子を成長させる工程
を有することを特徴とする請求項1に記載のコロイダルシリカの製造方法。
【請求項5】
(c)工程の後、(d)シリカを濃縮する工程を更に有することを特徴とする請求項4に記載のコロイダルシリカの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−265140(P2010−265140A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−117720(P2009−117720)
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(000230593)日本化学工業株式会社 (296)
【Fターム(参考)】