説明

コロナ放電処理用誘電体ロール

【課題】 スパークやアーク放電が発生したり磨耗による損傷などがなく、金属基材表面との熱膨張係数の差に起因する応力による亀裂が発生することもなく、更にはコロナ放電中に発生するオゾンや窒素酸化物による充填材の酸化に伴う変質も生じることがない、コロナ放電処理用誘電体ロールを得る。
【解決手段】 金属基材であるコロナ放電処理用誘電体ロールの表面に、該金属基材と熱膨張係数が近似したガラス成分粉末を熔融溶射して下地層を形成し、更に下地層の表面に、前記ガラス成分粉末に超誘電体成分である酸化タンタル(Ta)又はチタン酸バリウム(BaTiO)を10〜50重量%好ましくは20〜30重量%添加した超誘電体ガラス成分粉末を熔融溶射して皮膜層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子フィルム,合成紙,アルミ箔等のシート材表面の印刷受容性や接着性を向上させるためのコロナ放電処理において使用する、コロナ放電処理用誘電体ロールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
高分子フィルム,合成紙,アルミ箔等のシート材は数多くの優れた特徴を有しているため、各種産業分野や一般家庭において広く利用されている。しかし、該高分子フィルム,合成紙,アルミ箔等のシート材に印刷を行おうとする場合、通常のままではインクの付着性が悪いため、表面をコロナ放電処理することにより印刷受容性を高めている。
【0003】
図2はコロナ放電処理装置の運転状態を示した一実施例の模式図であり、該コロナ放電処理装置は、高分子フィルム,合成紙,アルミ箔等のシート材3を移送支持するための絶縁皮膜2を被覆した誘電体ロール1と、該誘電体ロール1上のシート材3の表面に電極4を介して高周波高電圧を印加するための電源装置5等から構成する。なお、符号6は誘電体ロール1に付与したアース線である。
【0004】
上記コロナ放電処理装置において、電極4とシート材3を移送支持する誘電体ロール1間に高周波高電圧を電源装置5より印加してコロナ放電させ、該コロナ放電7中にシート材3を図中矢印方向のように連続的に通過させることによりコロナ放電処理が行われる。該コロナ放電処理において、コロナ放電7中で発生した電子は電界中で加速され、そのエネルギーがシート材3の表面に放射され、すなわちコロナ放電7中に発生した放電電子をシート材3の表面に衝突させることにより、シート材3の表面を原子論的な規模で粗面化することにより活性化させるものである。該コロナ放電処理によりシート材3の表面は活性化し、その結果として印刷用インキの付着性が向上すると共に、高分子フィルム,合成紙,アルミ箔等のシート材3同士の直接接着も容易となるものである。
【0005】
上記コロナ放電処理装置の電極4の形態は、一般にバー状やロール状のものが用いられる。材質は、アルミ合金やステンレスが用いられ、形状は放電面積や処理材質,処理スピード,処理強さなどにより決定される。一方、接地側となる誘電体ロール1の表面に被覆した絶縁皮膜2は、コロナ放電処理に際して当該誘電体ロール1の表面がコロナによりアーク放電状態になるのを防止するためのものである。該絶縁皮膜2の材料としては、下記のような条件が求められる。
〔1〕高電圧に耐え丈夫であること。
〔2〕できるだけ薄く皮膜できること。
〔3〕価格が安価なこと。
〔4〕耐熱性があること。
〔5〕耐オゾン性がよいこと。
〔6〕絶縁誘電率が高いこと。
【0006】
上記条件を満たすため、誘電体ロール1の表面に下記のような表面処理を行う方法が提案されている。
〔I〕シリコンゴム,ブタンゴム又はエポキシ樹脂などのゴムや高分子材料をライニングする。
〔II〕絶縁皮膜としてガラス層を被覆する。
〔III〕特公昭61−4848号公報等に記載されているように、耐火煉瓦を溶射して高分子材料を含浸する。
〔IV〕特開平10−130807号公報に記載されているように、金属基材の表面にアンダーコート金属溶射層と、その表面に形成したトップコート酸化物系セラミックス溶射層とからなり、該トップコートのセラミック溶射層の層内気孔部中に無機質微粉末を封孔充填する。
【特許文献1】特公昭61−4848
【特許文献2】特開平10−130807
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記背景技術には下記に示すような問題点があり、更なる改善が求められていた。すなわち、〔I〕ではゴムや高分子材料をライニングしたロールでは使用寿命が限られ、ゴムや高分子材料がコロナ放電中に局部的に絶縁破壊してスパークやアーク放電が発生したり、磨耗による損傷などにより使用不能となるという欠点がある。また、コロナ放電処理に付随して発生する熱,光,オゾンなどによりゴムや高分子材料が劣化することにより寿命が短くなるなどの欠点がある。
【0008】
〔II〕ではガラス層自体は良好な絶縁性を有するものの、該ガラス皮膜の形成にはガラスライニングやホーローなど何れの手段によっても、誘電体ロール1の金属基材表面にガラス成分溶液を塗布して800℃〜900℃の雰囲気炉に挿入して約15分経過したあと炉から搬出して焼付けを行うが、初めのガラス層は金属界面が泡状態のため、該状態を解消するために約5回程度前記作業を繰り返して行う。従って、ガラス皮膜が厚くなってしまう。このため、コロナ放電による温度変動が頻繁に繰り返されると、誘電体ロール1の金属基材表面との熱膨張係数の差に起因する応力によりガラス皮膜に亀裂が発生し、このため絶縁破壊が生じて使用不能になるという欠点がある。
【0009】
また、〔III〕,〔IV〕では何れも耐火煉瓦や酸化物セラミックスで代表されるアルミナを溶射した後、アルミナ溶射層内に存在する毛管気孔に高分子材料を充填したものであるが、該技術には下記のような欠点がある。
〔a〕溶射皮膜の気孔中に充填される高分子材料は無機質を主成分としているが、有機物も多少含まれることからコロナ放電中に発生するオゾンや窒素酸化物により充填材が消耗し、それに伴う酸化により変質が生じて初期の性能が発揮できなくなる。
〔b〕基材としてAlやAl−TiO複合材を用いて溶射法により皮膜を形成しているため、誘電体ロール1の金属基材表面との熱膨張係数の差に起因する応力により亀裂が発生して皮膜が剥離し易くなる。
【0010】
本発明は、以上述べたような問題点を解決するために成されたものであり、スパークやアーク放電が発生したり磨耗による損傷などがなく、金属基材表面との熱膨張係数の差に起因する応力による亀裂が発生することもなく、更にはコロナ放電中に発生するオゾンや窒素酸化物による充填材の酸化に伴う変質も生じることがない、コロナ放電処理用誘電体ロールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明のコロナ放電処理用誘電体ロールにおいては、金属基材であるコロナ放電処理用誘電体ロールの表面に、該金属基材と熱膨張係数が近似したガラス成分粉末を熔融溶射して下地層を形成し、更に下地層の表面に、前記ガラス成分粉末に超誘電体成分である酸化タンタル(Ta)又はチタン酸バリウム(BaTiO)を10〜50重量%好ましくは20〜30重量%添加した超誘電体ガラス成分粉末を熔融溶射して皮膜層を形成する。
【0012】
上記ガラス成分粉末の組成(重量%)としては、SiO(55〜65%),TiO(15%未満),ZrO(10%未満),Al+B(10%未満),NaO+KO+LiO(15〜25%),MgO+CaO+SrO+BaO(10%未満)が好適である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のコロナ放電処理用誘電体ロールにおいては、従来の皮膜層であるゴムや高分子材料,ガラスライニングやホーロー,アルミナに比べ遥かに薄い皮膜層であると共に金属基材表面との熱膨張係数の差が殆どないため亀裂が発生することがないという効果を奏する。また、ガラス成分粉末の熔融溶射は毛管気孔のない絶縁誘電体皮膜を形成することから、スパークやアーク放電が発生したり磨耗による損傷などがなく、更には充填材が不要なことから変質も生じることがなく寿命が大幅に延びるという絶大なる効果も奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明を実施するための最良の形態を図を用いて説明する。
【0015】
図1は本発明のコロナ放電処理用誘電体ロールの側面断面図である。まず、金属基材である誘電体ロール1の表面を脱脂した後、Al粒子によりブラスト処理を行い、誘電体ロール1の表面を粗面化する。その後、該誘電体ロール1を550℃〜600℃前後に加熱して温度を保持しながら、フレーム溶射法又はプラズマ溶射法等により当該金属基材と熱膨張係数が近似したガラス成分粉末を熔融溶射して絶縁誘電体ガラス皮膜である下地層8を形成する。該目的に用いるガラス成分粉末の組成(重量%)としては、SiO(55〜65%),TiO(15%未満),ZrO(10%未満),Al+B(10%未満),NaO+KO+LiO(15〜25%),MgO+CaO+SrO+BaO(10%未満)が好適である。
【0016】
次に、上記下地層8の表面に、上記ガラス成分粉末に超誘電体成分である酸化タンタル(Ta)又はチタン酸バリウム(BaTiO)を10〜50重量%好ましくは20〜30重量%添加した超誘電体ガラス成分粉末をフレーム溶射法又はプラズマ溶射法等により熔融溶射して超絶縁誘電体ガラス皮膜である皮膜層9を形成する。
【0017】
上記超誘電体ガラス成分粉末を熔融溶射したガラス皮膜は、他の酸化物皮膜層に比べて絶縁抵抗が遥かに高く、該溶射皮膜に限定することで厚さに対する絶縁抵抗が一番高い超絶縁誘電体ガラス皮膜となる。
【0018】
また、上記下地層8や皮膜層9はセラミックス溶射皮膜の中で唯一熔融溶射層であるため、他の酸化物皮膜層に見られる毛管気孔がなく、封孔処理が不要となる。更には、従来のガラスライニングやホーローに見られる金属界面の泡状態もないため、密着性に優れると共に薄く形成することができる。
【実施例】
【0019】
本発明の実施例として、直径50mm,長さ600mmの鋼鉄製ロールの表面を機械加工した後、脱脂処理及びAl粒子によりブラスト処理してロール表面の粗面化を行った。その後、該ロール表面にフレーム溶射法により上述のガラス成分粉末を100μ程度に熔融溶射し、下地層8を形成した。その後、該鋼鉄製ロールを550℃〜600℃に加熱保持した後、前記ガラス粉末に30重量%のチタン酸バリウムを添加した超誘電体ガラス成分粉末をフレーム溶射法により熔融溶射し、皮膜層9を形成した。
【0020】
比較のため、上記皮膜層9の厚さを250μ,500μ,1000μ,1500μ,2000μとした5種類のロールを作り、絶縁試験を行った。
【0021】
図3は従来のガラス皮膜及び本発明による超誘電体ガラス皮膜を行った誘電体ロールの絶縁試験の結果一覧表である。該表より、印加電圧5KVでは全ての厚みのガラス皮膜及び超誘電体ガラス皮膜で絶縁が良好であった。10KVでは250μ及び500μのガラス皮膜で絶縁不良となったが、超誘電体ガラス皮膜では問題なかった。15KVでは更に1000μのガラス皮膜で絶縁不良となったが、超誘電体ガラス皮膜では250μのみが絶縁不良となった。20KVでは更に1500μのガラス皮膜で絶縁不良となったが、超誘電体ガラス皮膜では変わらなかった。従って、従来のガラス皮膜だけでは厚さ1000μで10KVまでしか絶縁が取れないのに対して、本発明による超誘電体ガラス皮膜では厚さ500μで20KVまで絶縁が良好であり、薄い層でも高電圧に耐えることが実証された。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明のコロナ放電処理用誘電体ロールの側面断面図である。
【図2】コロナ放電処理装置の運転状態を示した一実施例の模式図である。
【図3】従来のガラス皮膜及び本発明の超誘電体ガラス皮膜を行った誘電体ロールの絶縁試験の結果一覧表である。
【符号の説明】
【0023】
1 誘電体ロール
2 絶縁皮膜
3 シート材
4 電極
5 電源装置
6 アース線
7 コロナ放電
8 下地層
9 皮膜層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材であるコロナ放電処理用誘電体ロールの表面に、該金属基材と熱膨張係数が近似したガラス成分粉末を熔融溶射して下地層を形成し、更に下地層の表面に、前記ガラス成分粉末に超誘電体成分である酸化タンタル(Ta)又はチタン酸バリウム(BaTiO)を10〜50重量%好ましくは20〜30重量%添加した超誘電体ガラス成分粉末を熔融溶射して皮膜層を形成することを特徴とした、コロナ放電処理用誘電体ロール。
【請求項2】
上記ガラス成分粉末の組成(重量%)として、SiO(55〜65%),TiO(15%未満),ZrO(10%未満),Al+B(10%未満),NaO+KO+LiO(15〜25%),MgO+CaO+SrO+BaO(10%未満)であることを特徴とした、請求項1に記載のコロナ放電処理用誘電体ロール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−2992(P2007−2992A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−210575(P2005−210575)
【出願日】平成17年6月21日(2005.6.21)
【出願人】(394009588)大阪ウエルデイング工業株式会社 (2)
【Fターム(参考)】