説明

コンクリート、これに用いる人工骨材及びその製造方法

【課題】コンクリートの骨材中に含ませる、内部養生機能を有する人工骨材の形状を整え、その強度や吸水率等も調整できるようにして、コンクリート強度を更に高めながら内部養生による早強性や収縮低減効果をより安定的に得る。
【解決手段】瓦用粘土を真空土練機にて練り上げ(ステップS8)、含水量を所定範囲内に調整した後に(S10)立方体状に切断し(S11)、ペレタイザに投入して球状化する(S12)。その後、950〜1150℃の温度で焼成して(S14)、多孔質骨材を得る。粗骨材乃至細骨材の総容積のうちの10〜40%を多孔質骨材で置換し、混練時の水セメント比を15%以上40%以下として、高強度コンクリートを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質の人工骨材を用いることによって、モルタルやコンクリートの物性を改善する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より一般的に知られているように、強度を高めるために水セメント比(W/C)を小さくした高強度コンクリートは、セメントの水和反応のための反応水が不足することから、硬化の過程で骨材周辺に局所的に大きな収縮応力が発生するとともに、鉄筋等から拘束を受ける場合には、ひび割れの発生リスクが高くなる。この点、例えば特許文献1には、コンクリートの骨材の一部を吸水率の高い人工軽量骨材に置換して、内部から水を補給すること(所謂内部養生機能)が提案されている。
【0003】
すなわち、提案例の人工軽量骨材は、石炭灰粗粉にバインダを加えて造粒した後に1000〜1200℃で焼成し、この焼成品を破砕することによって得られる。こうして得られた人工軽量骨材に予め水を含ませておけば、コンクリートの硬化時に水和反応によって消費される水を補償することができ、これにより早期に強度が高まるとともに、細孔空隙中の乾燥を抑えることによって自己収縮が低減される。
【特許文献1】特開2005−22931号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、前記のように石炭灰により製造された人工軽量骨材は、その密度が比較的低く脆いもので、天然骨材に比べると強度がかなり低いことから、これを骨材中に多量に混入することはできなかった。図6(a)のグラフは、石炭灰の人工軽量骨材を混入したコンクリートの強度の低下を示したもので、人工軽量骨材による置換率の上昇に伴い強度が低下することが分かる。特に30%置換した場合は60日を超えて材齢の進行と共に強度が更に低下している。
【0005】
そうしたコンクリート強度の低下が懸念されることから、従来例のような石炭灰の人工軽量骨材は、高強度化を目指すとすれば現実には骨材の10〜20%程度を置換するのがせいぜいであり、そのため、前記のようにコンクリートの硬化過程で内部から水を補給するという内部養生機能が十分に発揮されることはなく、所期の狙い通りの収縮低減効果は得られないのが実情である。
【0006】
これに対し本願の発明者らは、前記従来例の人工軽量骨材と同じく内部養生機能を有するとともに、それよりも強度の高い代替材料として廃瓦に着目し、これを破砕してコンクリートの骨材中に混入するという手法を提案して、先に特許出願をしている(例えば特願2008−81739号等を参照)。粘土質の廃瓦は、石炭灰の人工軽量骨材よりも強度が高く、図6(b)に示すように骨材を40%くらい置換してもコンクリートの強度は低下しない。
【0007】
しかしながら、そうして破砕した廃瓦の形状は不揃いで、これを混入すると骨材の実績率がやや低くなるきらいがあり、骨材同士の間隔の不均一度合いも増すことから、廃瓦をコンクリート中に偏りなく行き渡らせて、内部養生機能を発揮させる上では不利になる。しかも、不揃いな形状の廃瓦は流動性を低下させるので、コンクリートの混練時のワーカビリティーを損なうことにもなり、これに対して水やセメントの分量を増やすとすれば、分離抵抗性を低下させるとともに反応熱によるひび割れの発生リスクを高める結果となってしまう。
【0008】
更に、廃瓦はそれを破砕するときに微細な損傷を受けることもあって、これを骨材に混入したコンクリートの強度にも悪影響を及ぼす虞れがあるとともに、その微細な損傷に起因して吸水率も変化してしまい、前記した内部養生機能の度合いや均一性にばらつきを生じることから、強度発現及び内部養生機能について本来、有する性能が発揮され難い。
【0009】
本発明は斯かる諸点に鑑みてなされたものであり、その目的は、コンクリート等の骨材の一部を置換する人工骨材の形状を整え、その強度や吸水率も狙い通り調整できるようにすることで、コンクリート強度を更に高めながら、内部養生による収縮低減効果をより安定的に得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するために、本願請求項1に係る発明は、少なくともセメント、水及び骨材を混練してなるコンクリートにおいて、前記骨材には、練り上げた粘土を切断し球状化した後に所定以上の温度で焼成してなる、内部養生機能を有する人工骨材を含むものとする。
【0011】
前記の構成により、粘土を焼成してなる人工骨材は、前記先願に係る廃瓦と同様にコンクリートの硬化時に内部養生機能を発揮し、セメントの水和反応のための水をコンクリートの細孔中に徐々に供給するようになるから、コンクリートの強度を早期に高めるとともに、その硬化時の収縮を低減してひび割れを抑制することができる。そうして供給される水によって多くの水和生成物が生成され、骨格構造が強化されることもコンクリート強度の向上に貢献する。
【0012】
また、練り上げた粘土を瓦と同様に高温焼成すれば、人工骨材は、基本的に内部養生材として好適な吸水率(少なくとも5%以上、好ましくは8〜12%以上)を保有するとともに、廃瓦と同様に石炭灰の人工軽量骨材よりも高密度で高強度なもの(破砕値で25%以下、好ましくは20%以下)となる。こうして高い強度を有することから、人工骨材は廃瓦と同様に骨材の40%くらいを置換することが可能であり、内部養生のための水分を十分に確保できる。
【0013】
しかも、前記人工骨材は、練り上げた粘土を任意の寸法の粒状に切断し、球状化した上で焼成してなるから、粉砕した廃瓦のように微細な損傷を受けている虞れはなく、この微細な損傷に起因して強度の低下や吸水率のばらつきを生じることもない。よって、内部養生による自己収縮の低減やひび割れの抑制といった効果がより安定して得られる。
【0014】
更に、前記人工骨材は、粉砕した廃瓦のように不揃いな形状ではないから、これを混入すれば実績率が高まることが期待され、球状化した人工骨材が水分を放出しても収縮し難いことも、コンクリートの強度向上及び収縮低減に有利に働く。その上、球状化した人工骨材を混入すれば、コンクリートの流動性の向上が期待され、これによりワーカビリティーが良くなる分は水セメント比を小さくしたり、単位水量を減らすことも可能であり、こうすれば一層の強度向上が図れるのみならず、セメント系材料の水和反応熱によるひび割れの発生リスクが軽減され、コストも低減できる。
【0015】
ここで、前記人工骨材の「球状化」というのは勿論、完全な球形状にすることを意味するのではなく、角部がなく丸みを帯びた形状になるよう造粒することを意味するのであるが、あまり扁平なものは好ましくないので、仮に楕円体として見た場合の骨材の長軸、中間軸及び短軸の各長さa,b,cの間には b/a>2/3 且つ c/b>2/3 という関係のあることが好ましく、少なくとも b/a>1/2 且つc/b>1/2という関係が求められる。
【0016】
前記のような人工骨材を得るために好適なのは、例えば瓦用粘土や陶磁器用粘土(陶土)のように高温焼成に耐える粘土を練り上げた後に直方体状に切断し(1次成型工程)、それをペレタイザ等により機械加工して球状化することである(2次成型工程)。一般的に造粒手法として、粉末状の材料にバインダとして水を加えながら成形することは知られており、こうすれば、粘土も容易に球状化できるものであるが、こうした手法では成形体の密度が低くなりやすく、内部に残存する空気も多くなるので、焼成の際にひび割れを生じる懸念があり、十分な強度が得られないことも多い。
【0017】
これに対し、瓦の製造工程で行われているように真空土練機によって練り上げれば、残存する空気が少なく密実で且つ均質度合いの高い粘土が得られるので、これを切断した後に例えばペレタイザに投入して球状化すれば、高温の焼成に耐えて十分な強度の骨材が得られるものである。そうして機械的な加工によって球状化できるようになれば、量産も可能になる。
【0018】
但し、そうして練り上げた粘土は、含水量が多くて柔らかい場合にはくっつきやすく、反対に含水量が少ないと硬くなってしまい、いずれの場合も機械的な加工によって成型するのは容易でない。そこで、真空土練した粘土が柔らかすぎず、硬すぎないものとなるようにその含水量を所定範囲内に調整するものである(含水量調整工程)。
【0019】
尚、前記1次成型工程で粘土を切断する場合の直方体状というのは、前記した球状化の意味合いに関連して、概略直方体状の粘土粒の長辺、中間辺及び短辺の各長さa,b,cの間に b/a>1/2 且つ c/b>1/2 という関係があればよく、b/a>2/3且つ c/b>2/3 であれば、より好ましい。
【0020】
そうして球状化した粘土を瓦と同様に高温焼成すれば、前記のように練り上げられた密実な粘土がより緻密なものとなり、所要の強度及び吸水率が得られる。すなわち、焼成体の吸水率はその内部の空隙率と密接に関連し、焼成温度を高くすれば空隙率が低くなって、吸水率も低くなる一方、強度は向上すると考えられる。本発明者の実験によれば、焼成温度が950〜1150℃の範囲にあるときに所要の内部養生機能が得られる吸水率と、骨材として好適な強度とを両立できることが分かった。
【0021】
そのように骨材としての強度と内部養生のための吸水率とを同時に満たすためには、前記したように粘土を真空土練機(真空押し出し装置ともいう)によって練り上げて、残存空気の少ない密実で均質なものを得るのが好ましく、特に、瓦の製造工程で得られる粗地を取得するようにすれば、良質な粘土が低コストで得られる。
【発明の効果】
【0022】
以上、説明したように本発明に係る人工骨材は、例えば瓦用等の練り上げた粘土を切断し、球状化した後に所定温度で焼成したものであり、廃瓦と同等以上に代替骨材として十分な強度を有し、内部養生のための水分を十分に確保できるとともに、球状化したことで内部養生機能がより効果的且つ安定的に得られるようになり、その上更に、焼成温度等の調整によって、強度や吸水率等を使用目的に応じて適宜、変更することも可能である。
【0023】
よって、前記の人工骨材を用いれば、コンクリートの強度を更に高めながら、内部養生によってコンクリートの早強性を高めるとともに、その収縮を低減し、ひび割れを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0025】
−コンクリート−
本発明の一実施形態に係るコンクリートは、セメント、水、骨材及び混和材料等を混練してなり、その概要は、本発明者らの先願(特願2008−81739号)に係る廃瓦を利用したものと同様である。このコンクリートは、混練時の水セメント比を例えば15〜40%くらいにすることで、材齢28日の圧縮強度が60N/mm以上になる高強度コンクリートである。
【0026】
前記先願の明細書に記載されているように、セメントとしては、自己収縮の小さい低熱ポルトランドセメントが好ましいが、普通ポルトランドセメントや中庸熱ポルトランドセメント、さらには早強ポルトランドセメント、高炉セメントB種等、種々のものを用いることができる。セメントの流動性を高めてより強度を高めるためにシリカフュームを添加してもよい。
【0027】
混和材料は必要に応じて加えることができる。混和剤としては減水剤やAE剤、消泡剤、収縮低減剤等がある。セメント粒子を良好に分散させる観点からは高性能減水剤或いは高性能AE減水剤(例えばポリカルボン酸エーテル系の高性能減水剤等)を加えればよく、コンクリートの自己収縮を低減する観点からは収縮低減剤(例えば低級アルコール系収縮低減剤等)を加えればよい。
【0028】
また、混和材としては高炉スラグの微粉末や膨張材等が挙げられるが、コンクリートの自己収縮を低減する観点からは膨張材(例えばエトリンガイト石灰複合系膨張材等)を加えればよい。尚、以下に述べるようにこの実施形態では、特徴的な多孔質骨材の利用によってコンクリートの収縮を低減でき、前記高炉スラグ微粉末が自己収縮を増大させることも相俟って、膨張材が少なくて済み或いは不要になり、コストの低減に有利になる。
【0029】
骨材は、一般的に粒径5mm未満の細骨材と粒径5mm以上の粗骨材とに分類される。細骨材は砂等の天然骨材を含み、粗骨材は砂利や砕石等の天然骨材を含むが、本実施形態では瓦用粘土を焼成した多孔体からなる人工骨材(以下、多孔質骨材ともいう)を含んでいる。この多孔質骨材の空隙(細孔)内に予め水を含ませておけば、コンクリートの硬化過程において、多孔質骨材の空隙内からコンクリート細孔内に適度に水が供給されるようになり(内部養生機能)、比較的早期に水和を促進し強度が高まるとともに、セメントの水和反応のための反応水が少ない状態であっても、コンクリートの収縮ひいてはひび割れを抑制することができる。
【0030】
すなわち、本発明の特徴は前記の多孔質骨材にあり、詳しくは以下に述べるが、これは瓦用粘土を例えば立方体のような形状に切断し、成形して球状化した後に焼成したものである。この多孔質骨材の強度や吸水率、空隙径(細孔径)といった特性は焼成温度によって適宜、調整することができ、本実施形態ではそれらの特性について、前記先願に係る高強度コンクリート中の廃瓦と概略同じになるように調整している。
【0031】
すなわち、多孔質骨材の吸水率は、十分な内部養生機能を発揮するために、少なくとも5%以上であることが好ましい。尚、吸水率は、湿潤状態(骨材の表面に水が付着している状態)の骨材の表面水を完全に拭い去って表面乾燥飽水状態とし、更に100〜110℃で定質量となるまで乾燥して絶対乾燥状態として、この絶対乾燥状態の質量Aと前記表面乾燥飽和水状態の質量Bとを用いて、 吸水率=(B−A)/A×100(%) として表される。
【0032】
また、多孔質骨材の細孔径分布は、JIS R1655に準拠する水銀圧入法により調べて、全細孔のうち90%以上(好ましくは95%以上)について細孔径が0.1μm〜10μmにあるのが好ましい。こうすれば、空隙(細孔)内に水を保有してそれを適宜、コンクリート中に供給するのに適したものとなり、しかも、そうして水を放出した多孔質骨材が収縮し難くなる。
【0033】
更に、多孔質骨材の強度は破砕値(BS(イギリス規格)812 part110)によって表し、この値が小さいほど強度は高いと言えるが、一般的には破砕値が小さいほど多孔体の空隙率は低下し、吸水率も低くなるので、前記吸水率とのバランスを考慮すれば破砕値は25%以下が好ましく、20%以下であれば申し分ない。
【0034】
そのような特性の多孔質骨材は、前記先願に係る廃瓦と同等以上にコンクリートの硬化時に内部養生機能を発揮するので、水セメント比の小さな高強度コンクリートの硬化時の収縮を低減して、ひび割れを抑制することができる。しかも、水和反応の生成物によってコンクリートの骨格構造が強化されることになり、多孔質骨材の強度が廃瓦と同様に比較的高いことも相俟って、コンクリート強度はより高くなる。
【0035】
そうして比較的強度が高いことから多孔質骨材は、廃瓦と同様に骨材中に40%くらい含ませることが可能で、内部養生のための水分を十分に確保することができる。尚、内部養生機能を得るためには骨材の総容積のうち少なくとも10%を置換するのが好ましく(20%以上がより好ましい)、粗骨材及び細骨材のいずれと置換してもよいが、細骨材は、同じ容積であれば粗骨材と比較して粒子数が多くなるので、分散性が高くなり、セメントとの接触面積が増大して内部養生機能はより一層、高くなる。
【0036】
更に、本発明の多孔質骨材は、粉砕した廃瓦のような不揃いな形状でなく、球状化していることから、複数サイズの多孔質骨材を粒度調整して実績率を高め、コンクリート中に行き渡らせるようにすれば、コンクリート内において偏りなく内部養生機能を発揮させることができ、このコンクリートの強度向上及びその収縮低減の双方に有利なものとなる。
【0037】
また、そうして球状化している多孔質骨材を混入してもフレッシュコンクリートの流動性は損なわれず、むしろ流動性が高まってワーカビリティーも向上することが期待される。その分、水セメント比を小さくすれば、コンクリート強度をより一層、高めることができるし、水及びセメントの双方を減らせばコストダウンになるばかりか、水和反応に伴う発熱が少なくなってひび割れの発生リスクも軽減される。球状化された多孔質骨材が水分を放出しても収縮し難いことも、コンクリートの強度向上及び収縮低減に貢献する。
【0038】
−多孔質骨材の製造−
次に、前記多孔質骨材の製造方法について説明すると、図1の流れ図に模式的に示すように、まず、原料となる粘土を採取し(ステップS1)、それを暫く寝かせた後に(ステップS2:養生)水と共に処理タンクに投入して攪拌し(ステップS3)、不純物を除去した後に(ステップS4)フィルターに濾して処理タンクから押し出し(ステップS5:フィルタープレス)、骨材の材料となる粘土塊を得る(ステップS6)。
【0039】
前記ステップS1〜S6の処理を複数種類の粘土について繰り返し実行し、それらを所定の割合でブレンドして(ステップS7:配合)真空土練機により練り上げ(ステップS8)、押し出し成型により平板状の粘土板を得る(ステップS9)。こうして、残存空気が少なく密実で且つ均質度合いの高い良質な粘土が得られる。このステップS9までの処理は、一般的な瓦の粗地を製造するためのものであり、この粗地を瓦の製造工程から取得するようにすれば、コストメリットは大きい。
【0040】
そうして得られた粘土板(瓦の粗地)を養生して、その含水量を所定範囲内に調整する(ステップS10:含水量調整工程に相当)。すなわち、前記のように練り上げた瓦用粘土は、含水量が多いと柔らかくてくっつきやすくなる一方で、含水量が少ないと硬くなってしまい、機械的な成型加工が難しい。そこで、粘土を暫く寝かして含水率が20±5%の範囲になるように水分調整する。これは、熟練の作業者であれば粘土の表面に触って判断することができる。
【0041】
そうして水分調整した粘土板(粗地)は柔らかすぎず硬すぎず、機械的な成型に適したものであり、これを切断機によって多孔質骨材の直径よりもやや小さな立方体状に切断し(ステップS11:1次成型)、この立方体状の粘土粒を例えばパン型ペレタイザに投入して球状化する(ステップS12:2次成型)。前記のように水分調整された粘土粒は、それ同士がくっついたり、また、ペレタイザの回転容器内壁にくっついたりすることなく、次第に角が潰れて球状化される。こうして球状化した粘土粒の量産が可能になる。尚、手間は掛かるが、ペレタイザに投入する前に粘土粒の角を削除するようにしてもよい。
【0042】
そして、前記のように球状化した粘土粒を50〜100℃くらいで恒温養生して(ステップS13)ひび割れが生じないように乾燥させた後に、電気炉で高温焼成する(ステップS14)。この焼成温度は、多孔質骨材への強度や吸水率等の要求に応じて950〜1150℃の範囲で適宜設定するのが好ましい。また、焼成の際には温度を前記設定温度まで所定の速度で徐々に上昇させた後、例えば60分くらい設定温度に維持し、その後に炉の中で徐冷する。
【0043】
最後に、前記のように焼成した粘土粒をふるい分け(粒度調整)して、互いに異なる複数サイズの多孔質骨材を所定割合で混合する(ステップS15)。すなわち、ステップS11において粘土板を切断する際には、そのサイズを互いに異なる複数種類(例えば10mm、15mm等)に設定しておき、球状化及び焼成の後に配合設計に合わせて、必要な粒度の骨材を必要量だけ混合する。
【0044】
ここで、前記多孔質骨材の焼成温度と吸水率及び破砕値との関係については、後述する図3(b)に相関が現れている。この図は、異なる種類の粘土を用いた供試体a,bについての試験結果を纏めて示しており、多孔質骨材の化学組成が多少、異なっていても、基本的な関係は変わらないと言える。すなわち、多孔質骨材の吸水率及び破砕値はいずれも焼成温度との間に相関があり、吸水率については焼成温度の上昇と共に低下している。同図から焼成温度が1200℃以下であれば或る程度以上の吸水率が得られ、材料のばらつき等を考慮しても1150℃以下であれば、吸水率5%以上を確保できると考えられる。
【0045】
また、破砕値については焼成温度1000〜1100℃では略同等とみなすことができ、この温度範囲を含めて破砕値は21%以下であるから、十分な強度を得られることが分かる。尚、図の例では1050℃付近に破砕値のピークがあるとも言え、それよりも低い焼成温度では破砕値がやや低下する傾向が見られるが、高温焼成によって高い結合力を得るという観点からは焼成温度を少なくとも950℃以上とするのがよいと考えられる。
【0046】
以上より、本実施形態の多孔質骨材は、上述の如く十分に練り上げられた粘土を球状化した後に、約950〜1150℃の温度で焼成することにより、廃瓦と同様に所要の強度及び吸水率等を有するものとなる。しかも、所要のサイズに切断し球状化しているので粘土粒の形状が整っており、破砕した廃瓦のように流動性が低下したり、骨材の実績率が低くなったりする心配がなく、より高い効果を期待できる。
【0047】
また、主に焼成温度の設定によって多孔質骨材の強度や吸水率等の特性を調整することができるので、その科学的組成、即ち粘土の種類に依らず、必要な特性が安定的に得られる。例えば前記の例において、より高い強度を得るために破砕値を20%以下にするのであれば、焼成温度は950〜1025℃若しくは1075〜1150℃とすればよく、要は図示のような特性を予め調べて、必要な特性が得られるように焼成温度を設定すればよいのである。
【0048】
−実施例−
次に、実際に行った試験の結果について、より具体的に説明する。供試体は、強度や吸水率、細孔径等の特性が石州瓦の廃瓦を破砕したものと概ね同じになるように、A,B二社製の瓦用粘土を用いて製造した多孔質骨材a,bであり、その吸水率は5%以上、細孔径分布は0.1〜10μmが95%以上、破砕値は25%以下となることを目標とした。
【0049】
まず、A社製の焼成前の粘土板(粗地)を前記図1のステップS10のように水分調整し、これを15mm角の立方体に切断した後に球状化して、電気炉で焼成した。この際、焼成温度は1000〜1200℃の間で50℃ずつ変化させて、それぞれ供試体を得た。同様にB社製の粘土板も水分調整し、20mm角の立方体に切断してその角部を削除した後に、球状化して電気炉で焼成した。焼成温度は1000、1100、1200℃の3通りとした。
【0050】
そうして得られた供試体の化学組成について図2(a)の一覧表に示す。符号cは、参考のために供試体a,b以外の瓦用粘土(大田市水上町産)の化学組成を示している。成分割合をプロットした同図(b)のグラフから、いずれも1200℃の高温焼成に耐える化学組成であり、瓦用粘土の品質はメーカーによらず大きな差はないことが伺える。
【0051】
以上の供試体a,bについて、それぞれ、吸水率、破砕値及び細孔径分布を試験により求めた。上述したように、吸水率は表乾状態と絶乾状態との質量を用いて求め、破砕値はBS(イギリス規格)812 part110によった。供試体aの試験結果は図3(a)に示すようになり、吸水率と焼成温度との間には顕著な因果関係が認められる。吸水率は二次曲線で近似され、それが5%以上になるのは1175℃以下である。図示は省略するが、供試体bについても同様の試験結果が得られており、それらを纏めると同図(b)のグラフになる。
【0052】
前記図3によると、破砕値は焼成温度1100℃まではあまり変わらず、それ以上では温度上昇と共に顕著に低下しており、これは、焼成温度が高いほど粘土の結合が強くなることによると考えられる。詳細には、図の例では1050℃以上で破砕値が低下し始めると言うこともでき、一方、1050℃未満では焼成温度の低下と共に破砕値がやや低下する傾向も見られる。この傾向は1000℃未満まで緩やかに続くと思われる。
【0053】
また、細孔径分布は水銀圧入法(JIS R1655に準拠)により、供試体a,bのそれぞれで焼成温度1100℃のものを調べた結果、細孔径と細孔容積(単位質量あたりの細孔の容積)との関係は図4(a)に示すようになった。尚、接触角は130°とし、表面張力は485N/mとしており、圧力範囲は0.44〜29986.86psiaであった。
【0054】
図示のように、供試体aについては全細孔のうち0.1〜10μmの細孔径のものが95.1%あり、供試体bについてはそれが92.8%である。グラフa,bを比較すると有意差があるようにも見えるが、同図(b)の累積細孔容積のグラフを見ると、供試体a,bの細孔径分布は略一致していると言える。
【0055】
更に、供試体bについて細孔径分布と焼成温度との関係を調べると図5のようになり、この両者の間にも因果関係が認められる。同図(a)に示すように細粒側の細孔は焼成温度が高くなるに連れて減少し、粗粒側の細孔は7μm程度を限度に増大している。一方、同図(b)に示すように、累積細孔容積は焼成温度が高くなるに連れて減少している。
【0056】
このような細孔径分布の変化は、焼成による粘土の結合に伴い細孔が細径化し或いは消失しする一方で、その一部が合体することによると考えられる。焼成温度が高いほど全細孔容積が減少するのは前記した吸水率の変化に対応しており、また、密実になって強度が増大することは破砕値の低下に対応している。但し、細孔の一部が合体して一時的に孔径の大きなものが増えることは強度の低下に繋がるとも考えられ、このことによって前記の如く1000〜1100℃の破砕値のピークが生じていると思われる。
【0057】
尚、上述したように1100℃で焼成した供試体bの0.1〜10μmの細孔径分布は92.8%で95%には達していないが、図3から吸水率は十分にあり、本発明の多孔質骨材に必要な特性は得られていると考える。
【0058】
以上の試験結果から、本発明に係る多孔質骨材は主に焼成温度の設定によって強度や吸水率等の特性を調整することができ、その科学的組成、即ち粘土の種類に依らず、概略950〜1150℃の範囲で焼成することにより、先願(特願2008−81739号等)に記載の廃瓦と同様にコンクリートの内部養生に適した強度、吸水率及び細孔径分布等を有するものになると言える。
【0059】
−他の実施形態−
尚、本発明に係る多孔質骨材は、前記実施形態のものに限定されず、例えば瓦用粘土以外にも陶器や磁器のための粘土を用いることができ、1200℃くらいまでの高温焼成に耐えるものであればよい。
【0060】
また、多孔質骨材の製造において粘土は、残存空気が少なく密実で均質度合が高くなるよう十分に練り上げればよく、必ずしも真空土練機を用いる必要はないし、そうして練り上げた粘土は立方体状でなく、直方体状に切断してもよい。
【0061】
また、そうして切断した粘土粒を球状化するためにペレタイザ以外の機械装置を用いることも可能である。一例を挙げれば小池鉄工株式会社製の高性能製丸機が、特に粒径の小さな骨材の製造に好適であり、これによれば、練り上げた粘土の切断(1次成型工程)とその球状化(2次成型工程)とを連続的に行うことができるから、より低コストで量産が可能になる。
【0062】
更に、そうして球状化した粘土粒の焼成条件も多孔質骨材への要求に応じて種々、変更することが可能であり、要するに図3に例示するような強度及び吸水率に係る特性を予め調べて、要求を満足するものとなるように焼成温度を設定すればよい。
【0063】
また、本発明の多孔質骨材を適用するコンクリートの配合は前記実施形態に記載のものに限定されない。上述したように十分な内部養生機能が得られ、所謂噴霧養生、散水養生、被膜養生等の必要性が低下するので、高強度コンクリート以外にも好適であることは言うまでもない。一例として湿潤養生を比較的長く要する高炉セメントB種等を用いたコンクリートに特に好適なものと言える。
【0064】
更にまた、本発明の多孔質骨材をコンクリート以外にモルタルにも適用できることは勿論であり、それ以外にも例えば農業土、園芸土の給水材、水質改善材(窒素、リン等)の吸着材、河川底泥改質材等々、種々の用途が考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、コンクリートの水和反応促進により例えば高強度化に有用であり、比較的低いコストで硬化時の収縮を低減し、ひび割れを抑制できるものなので、産業上の利用性は高い。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の実施形態に係る多孔質骨材の製造方法を示す流れ図である。
【図2】実施例における供試体の化学組成を表す一覧表及びグラフである。
【図3】多孔質骨材の焼成温度と吸水率及び破砕値との関係を示すグラフである。
【図4】供試体a,bを対比して細孔径分布を示すグラフである。
【図5】焼成温度による細孔径分布の変化を示す図4相当図である。
【図6】従来例の人工軽量骨材や廃瓦を用いたコンクリートの強度を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともセメント、水及び骨材を混練してなるコンクリートであって、
前記骨材は、練り上げた粘土を切断し球状化した後に所定以上の温度で焼成してなる、内部養生機能を有する人工骨材を含んでいる、ことを特徴とするコンクリート。
【請求項2】
前記人工骨材の吸水率が5%以上で、その破砕値が25%以下である、ことを特徴とする請求項1に記載のコンクリート。
【請求項3】
前記人工骨材は、瓦用粘土を真空土練機にて練り上げ、球状化した後に950〜1150℃の温度で焼成したものである、ことを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載のコンクリート。
【請求項4】
骨材の総容積のうちの10%以上が前記人工骨材で構成されている、ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載のコンクリート。
【請求項5】
モルタルやコンクリートに用いられる人工骨材であって、
練り上げた粘土を切断し球状化した後に所定以上の温度で焼成してなる、ことを特徴とする人工骨材。
【請求項6】
請求項5に記載の人工骨材の製造方法であって、
練り上げた粘土を直方体状に切断する1次成型工程と、
前記切断の前後少なくとも一方で粘土の含水量を所定範囲内に調整する含水量調整工程と、
前記切断し且つ含水量を調整した粘土を機械的に成型加工して球状化する2次成型工程と、
を有する、人工骨材の製造方法。
【請求項7】
前記球状化した粘土を約950〜1150℃の温度で所定時間以上焼成する焼成工程を更に有する、ことを特徴とする請求項5に記載の人工骨材の製造方法。
【請求項8】
前記粘土は、瓦用粘土を真空土練機で練り上げてなる、ことを特徴とする請求項6又は7のいずれかに記載の人工骨材の製造方法。
【請求項9】
前記粘土は瓦の製造工程から取得する、ことを特徴とする請求項8に記載の人工骨材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−89982(P2010−89982A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−260360(P2008−260360)
【出願日】平成20年10月7日(2008.10.7)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【出願人】(594127330)中国高圧コンクリート工業株式会社 (37)
【出願人】(000103769)オリエンタル白石株式会社 (136)
【出願人】(000174943)三井住友建設株式会社 (346)
【出願人】(000112196)株式会社ピーエス三菱 (181)
【Fターム(参考)】