説明

コンクリートポールの損傷検知方法

【課題】目視以外の方法で短時間、低コストでコンクリートポールの損傷の有無を検知する方法を提供する
【解決手段】コンクリートポール1の表面に加振点2を設定し、鉄球や打突ハンマー等による打撃を用いて加振点2を加振することでコンクリートポール全体を揺らす振動を発生させ、コンクリートポール1の地際から末口の間に設置された受信センサ3によりこの振動を受信し、受信した振動データからパワースペクトルを算出し、算出したパワースペクトルから、コンクリートポールの損傷の有無により変化するコンクリートポール全体の振動モードを算出し、振動モードの変化をスペクトルの形状変化として、そのスペクトル形状の変化より、コンクリートポール1の損傷を検知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートポール弾性振動モードを利用したコンクリートポールの非破壊損傷検知方法に関するものであり、特に、目視等の確認が難しい場合において、短時間、低コストでコンクリートポールの損傷の有無を検知する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリートポールは、送電、通信等の社会基盤を支える構造物として、膨大な数が布設されている。それらの異常検知を目的とした簡易点検については、主に目視による確認が行われている。また、従来の損傷検知方法として、渦流探傷法を用いた方法(特許文献1参照)等、コンクリートポールにおける、補強鋼材の破断や劣化機構等に依存する精度の高い損傷検知方法の応用も進んでいる。
【特許文献1】特開平11−72481号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前者の目視点検においては、損傷の有無についての定量的判断が困難であり、長期供用中の損傷見落としによる倒壊を招くケースも存在する。
また、後者の渦流探傷法を用いた方法では、センサの取り付け位置をコンクリートポール全体に渡って一定間隔毎にずらして測定する必要があり、例えば、コンクリートポールの先端部では高所の作業が必要となり、作業性の面で問題がある。更に、コンクリートポール全体に及ぶ確認についての高度な専門知識、装置が必要であり、時間的、経済的制約が強く、膨大なコンクリートポールを短時間で簡易に点検する方法として応用することが困難である。
【0004】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、目視以外の方法で短時間、低コストでコンクリートポールの損傷の有無を検知する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明は、コンクリートポールの地際から末口の間に設定した振動発生装置により、コンクリートポール全体を揺らす振動を発生させ、コンクリートポールの地際から末口の間に設置された受信センサにより前記振動を受信し、受信した振動データからパワースペクトルを算出し、所定振動数帯域のパワースペクトルを用いてコンクリートポールの損傷の有無を検知することを特徴とする。
【0006】
前記所定振動数帯域は、200Hz以内の振動数帯域であることが好ましい。また、前記パワースペクトルから、コンクリートポールの損傷の有無により変化するコンクリートポール全体の振動モードを算出し、前記振動モードの変化をスペクトルの形状変化として、コンクリートポールの損傷の有無を検知することが好ましい。また、前記パワースペクトルのスペクトル明瞭度の変化を算出し、算出したスペクトル明瞭度の変化を用いて、コンクリートポールの損傷の有無を検知することが好ましい。さらに、前記受信センサを前記コンクリートポールの周囲表面に複数個設置することが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、従来の渦流探傷法を用いた方法等と比較して、コンクリートポール全長における探傷は不要であり、簡易に短時間でコンクリートポールの損傷の有無を検知することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明のコンクリートポールの損傷検知方法の概要を示す図である。図1に示すコンクリートポール1の表面に加振点2を設定し、加振点2を加振することでコンクリートポール全体を揺らす振動を発生させ、コンクリートポールの地際から末口の間に設置された受信センサによりこの振動を受信し、受信した振動データからパワースペクトルを算出し、所定振動数帯域のパワースペクトルを用いてコンクリートポールの損傷の有無を検知するものである。
【0009】
コンクリートポール1の表面の加振点2を加振する振動発生装置は、コンクリートポール1の地際から末口の間に設置され、振動発生装置としては、図2(a)に示す鉄球6や図2(b)に示す打突ハンマー7等の打撃加振装置が用いられる。鉄球6や打突ハンマー7等による打撃を用いて、コンクリートポール全体を揺らす振動を発生させ、コンクリートポール1の地際から末口の間に設置された受信センサ3によりこの振動を受信し、受信センサ3に接続される測定装置(図示せず)において、受信した振動データからパワースペクトルを算出し、算出したパワースペクトルから、コンクリートポールの損傷の有無により変化するコンクリートポール全体の振動モードを算出し、振動モードの変化をスペクトルの形状変化として、そのスペクトル形状の変化より、コンクリートポールの損傷を検知する。ここで、振動モードとは、受信センサ3で、振動(加速度)を受信し、その振動(加速度)の周期、振幅からスペクトルに変換し、振幅の高い周波数帯を言う。図3は、振動モードを説明する図である。
【0010】
パワースペクトルより算出されたコンクリートポール1の振動モードの変化により、補強鋼材1〜3本程度の欠損、または補強鋼材1〜3本程度の欠損と同等の損傷による、パワースペクトルの形状変化をとらえることが可能である。なお、補強鋼材4本以上の欠損の場合においてもパワースペクトルの形状変化をとらえることが可能である。ただし、補強鋼材4本以上の欠損の場合は、目視による点検も可能となってくる。
【0011】
加振点2の高さは、コンクリートポール全体の振動が発生される位置である必要がある。ただし、作業効率の観点から、作業員が立位で振動発生装置を設置可能で、かつ打撃可能な地際から2m程度の位置が望ましい。
受信センサ3の受信位置の高さは、コンクリートポール全体の振動が受信される位置である必要があり、各種雑音の拾いやすい末口付近は避ける必要がある。ただし、作業効率の観点から、作業員が立位で受信センサ3を設置可能で、かつ振動を受信可能な地際から2m程度の位置が望ましい。
本発明では、作業上都合の良い高さ(地際から2m程度)に受信センサ3を設置し、作業上都合の良い高さ(地際から2m程度)で振動を与えることによって、コンクリートポール全体における損傷の有無を検知可能である。
【0012】
図4は、コンクリートポールの損傷有無による特定周波数領域における振動モードの変化の概要を示す図である。図4では、100Hzまでの損傷無しコンクリートポールと、地際補強鋼材1本欠損のコンクリートポールと、地際補強鋼材2本欠損のコンクリートポールと、地際補強鋼材3本欠損のコンクリートポールのパワースペクトルを示している。本発明では、受信センサ3からパワースペクトルの変化を検出するために、図4に示すような特定周波数領域における振動モードの変化(ピークのズレ)であるピークのシフトおよびピークの低減を算出する。
本発明は、無損傷コンクリートポールのパワースペクトルから得られた特定周波数領域における振動モード(ピーク)を算出し、次に、任意のコンクリートポールのパワースペクトルから得られた特定周波数領域における振動モード(ピーク)を算出した結果と比較することにより、損傷の有無を検知することが可能である。
【0013】
また、本発明は、パワースペクトルのスペクトル明瞭度の変化を算出し、算出したスペクトル明瞭度の変化を用いて、コンクリートポールの損傷の有無を検知するようにしても良い。
図5は、コンクリートポールの損傷有無による特定周波数領域におけるスペクトル明瞭度の概要を示す図である。図5(a)は、損傷無しコンクリートポールのスペクトル明瞭度を表しており、図5(b)は、損傷ありコンクリートポールのスペクトル明瞭度を表している。図5において、縦軸方向は、特定周波数領域におけるパワースペクトルのピーク値を1として正規化(拡大縮小変換)しており、横軸方向は、開始振動数を0、終端振動数を1として正規化(拡大縮小変換)している。
本発明は、無損傷コンクリートポールのパワースペクトルから得られた特定周波数領域におけるスペクトル明瞭度を算出し、次に、任意のコンクリートポールのパワースペクトルから得られた特定周波数領域におけるスペクトル明瞭度を算出した結果と比較することにより、損傷の有無を検知することが可能である。
【0014】
スペクトル明瞭度は、次式により求める。
【数1】

SCI:スペクトル明瞭度
F(f):パワースペクトル密度関数
fa:特定振動数領域の開始振動数
fb:特定振動数領域の終端振動数
【0015】
この発明の有効性を示すために、屋外において、モデルコンクリートポールを対象とした損傷検知を実施した。加振用打撃の位置および受信センサの位置は、地際から2.3m位置とした。図6に示す全長13mのコンクリートポール供試体を対象に、図7に示す損傷なし(健全柱、0本)、地際補強鋼材1本欠損、元口より8m補強鋼材1本欠損、地際補強鋼材2本欠損、元口より8m補強鋼材2本欠損、地際補強鋼材3本欠損、元口より8m補強鋼材3本欠損のコンクリートポール供試体のそれぞれについて、打撃加振によるコンクリートポール全体振動のパワースペクトルの変化を確認した。
【0016】
図8は、上述した実施例におけるコンクリートポール供試体の損傷有無による特定周波数領域における振動モードの変化(ピークのズレ)を示す図であり、図9は、上述した実施例におけるコンクリートポール供試体の損傷有無による特定周波数領域におけるスペクトル明瞭度の変化(差異)を示す図である。図9では、開始振動数10Hz〜終端振動数20Hz、開始振動数20Hz〜終端振動数40Hz、開始振動数40Hz〜終端振動数60Hzにおける明瞭度差異を示している。この結果により、補強鋼材1〜3本程度の欠損、または補強鋼材1〜3本程度の欠損と同等の損傷による、コンクリートポールの振動モード変化に伴うパワースペクトルの変化をとらえることが可能であることが分かった。
【0017】
なお、上述した実施の形態では、100Hzまでの測定結果でコンクリートポールの損傷の有無を検知しているが、コンクリートポールの長さ、硬さ等によっては、100Hzの2倍(長さで1/4、硬さで4倍)まで拡張してモードの検討が必要であり、200Hz以内の振動数帯域のパワースペクトルが得られれば、コンクリートポールの損傷の有無の検知は可能である。
また、上述した実施の形態では、受信センサが1つの場合について説明したが、本発明は、受信センサをコンクリートポールの周囲表面上に複数個設置するようにしても良い。コンクリートポールの表面上に複数個の受信センサを設置した場合は、単一受信センサの情報による検知よりも複数の受信センサから同時に検知することにより信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のコンクリートポールの損傷検知方法の概要を示す図である。
【図2】本発明のコンクリートポールの損傷検知方法における打撃加振装置を示す図である。
【図3】振動モードを説明する図である。
【図4】コンクリートポールの損傷有無による特定周波数領域における振動モードの変化の概要を示す図である。
【図5】コンクリートポールの損傷有無による特定周波数領域におけるスペクトル明瞭度の概要を示す図である。
【図6】本発明の実施例におけるコンクリートポール供試体の概要を示す図である。
【図7】コンクリートポール供試体の損傷の組み合わせ一覧を示す図である。
【図8】本発明の実施例におけるコンクリートポール供試体の損傷有無による特定周波数領域における振動モードの変化を示す図である。
【図9】本発明の実施例におけるコンクリートポール供試体の損傷有無による特定周波数領域におけるスペクトル明瞭度の変化(差異)を示す図である。
【符号の説明】
【0019】
1 コンクリートポール
2 加振点
3 受信センサ
6 鉄球
7 打突ハンマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートポールの地際から末口の間に設定した振動発生装置により、コンクリートポール全体を揺らす振動を発生させ、コンクリートポールの地際から末口の間に設置された受信センサにより前記振動を受信し、受信した振動データからパワースペクトルを算出し、所定振動数帯域のパワースペクトルを用いてコンクリートポールの損傷の有無を検知することを特徴とするコンクリートポールの損傷検知方法。
【請求項2】
前記所定振動数帯域は、200Hz以内の振動数帯域であることを特徴とする請求項1に記載のコンクリートポールの損傷検知方法。
【請求項3】
前記パワースペクトルから、コンクリートポールの損傷の有無により変化するコンクリートポール全体の振動モードを算出し、前記振動モードの変化をスペクトルの形状変化として、コンクリートポールの損傷の有無を検知することを特徴とする請求項1または2に記載のコンクリートポールの損傷検知方法。
【請求項4】
前記パワースペクトルのスペクトル明瞭度の変化を算出し、算出したスペクトル明瞭度の変化を用いて、コンクリートポールの損傷の有無を検知することを特徴とする請求項1または2に記載のコンクリートポールの損傷検知方法。
【請求項5】
前記受信センサを前記コンクリートポールの周囲表面に複数個設置することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のコンクリートポールの損傷検知方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−71748(P2010−71748A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−238129(P2008−238129)
【出願日】平成20年9月17日(2008.9.17)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【出願人】(591280197)株式会社構造計画研究所 (59)
【Fターム(参考)】