説明

コンクリート下地処理面の品質管理方法

【課題】コンクリート表面に対する下地処理としての目粗しを実施するに際して、処理後の表面粗さを定量的に評価し管理するための有効適切な手法を提供する。
【解決手段】下地処理後のコンクリート表面の光沢度を光沢度計により測定し、該光沢度を指標として処理後のコンクリート表面の表面粗さを定量的に評価し、管理する。コンクリート表面の光沢度を測定するに際しては、評価対象のコンクリート表面に金属箔を押し当ててその表面状態を金属箔に型押しして写し取り、該金属箔を試験体としてその光沢度を光沢度計により測定すると良い。光沢度の閾値の設定を、ひずみ追従性試験後の接着界面破壊率と光沢度との関係に基づいて行うと良い。表面の光沢度が前記閾値以下であるように調整した限度見本を予め作製し、該限度見本の表面粗さと同等になるように処理後のコンクリート表面の表面粗さを管理することでも良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート表面にタイル張り等の仕上げ工事を実施するべくコンクリート表面に下地処理としての目粗しを行う際に適用するコンクリート下地処理面の品質管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の壁面等を対象として躯体コンクリートの表面に仕上げ工事としてタイル張りを行う場合には、たとえば特許文献1に示されるような特殊なタイル下地板を使用するか、あるいは非特許文献1に示されるようにコンクリート表面に下地処理としての目粗しを施したうえでタイルを直張りすることが一般的である。
【特許文献1】特開2005−16174号公報
【非特許文献1】日本建築学会建築工事標準仕様書・同解説 JASS19(陶磁器質タイル張り工事)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、タイル張りに際して特許文献1に示されるような特殊な下地板を用いることは施工の手間とコストの点で難があり、特に大規模建物の場合には現実的ではない。
また、非特許文献1に示されるようにコンクリート表面を目粗ししてからタイルを直張りする場合には、目粗し後の表面粗さを定量的に評価したり管理することは困難であり、その点で下地処理の精度や信頼性を確保することは必ずしも容易ではない。
【0004】
特に、最近においては下地処理としての目粗しを高圧ないし超高圧水処理工法により行うことが一般的となっているが、その場合にはコンクリートの表面強度によって処理後の目粗しの状態が影響を受け、図4に示すように吐出圧が一定の場合にはコンクリート強度が大きくなるほど表面粗さは低下してしまうので、下地処理に際してはコンクリート強度に応じた最適な処理を行う必要がある。
しかし、現場におけるコンクリートの表面強度は必ずしも一様ではなく、打ち込み後の材齢や施工条件、施工部位・箇所によっては多少のばらつきが生じるものであるし、特に高強度コンクリートの場合には目粗しを行う上では無視し得ないばらつきが生じることもあり得る。
したがって現場全体で均一で高品質の目粗しを行うためには、コンクリート強度の差異を考慮して、施工部位の現実の表面強度に応じて処理工程を微調整するといった高度な工事管理が必要とされ、そのためには処理後の表面粗さを定量的に評価し管理することが不可欠であるが、従来においてはそれを可能とする有効適切な手法は確立されていない。
【0005】
上記事情に鑑み、本発明はコンクリート表面に対する下地処理としての目粗しを実施するに際して、処理後の表面粗さを定量的に評価し管理するための有効適切な手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のコンクリート下地処理面の品質管理方法は、コンクリート表面にタイル張り等の仕上げ工事を実施するべくコンクリート表面に下地処理としての目粗しを行うに際して、処理後のコンクリート表面の表面粗さを定量的に評価して下地処理面としての品質を管理することを目的として、処理後のコンクリート表面の光沢度を光沢度計により測定して、該光沢度を指標として処理後のコンクリート表面の表面粗さを定量評価するとともに、該光沢度が予め設定した閾値未満となるように表面粗さを管理することを特徴とする。
本発明の品質管理方法においてコンクリート表面の光沢度を測定するに際しては、管理対象のコンクリート表面に金属箔を押し当ててその表面状態を金属箔に型押しして写し取り、該金属箔を試験体としてその光沢度を光沢度計により測定すると良い。
また、仕上げ工事をタイル張りとする場合においては、コンクリート表面にタイルを接着した試験体に載荷してコンクリートひずみに対してタイルひずみが追従できる限界を判定するためのひずみ追従性試験を予め実施して、該試験後の接着界面破壊率と光沢度との関係を予め求めておき、下地処理を行うに際しては、前記関係に基づいて接着界面破壊率が所望の設定値以下となるような光沢度の限界値を閾値として設定して、処理後のコンクリート表面の光沢度が前記閾値未満となるように表面粗さを管理すると良い。
なお、表面の光沢度が前記閾値以下であるように調整した限度見本を予め作製し、該限度見本の表面粗さと同等になるように処理後のコンクリート表面の表面粗さを管理することでも良い。
【発明の効果】
【0007】
本発明の管理方法によれば、下地処理後の表面粗さを光沢度により定量化することにより、従来においては困難であった表面粗さの定量的な評価とそれに基づく定量的な管理が可能となり、コンクリート表面に対する高精度かつ信頼性に優れる下地処理が可能である。
特に、コンクリート表面の凹凸を金属箔に型押しして写し取ってそれを試験体として光沢度を測定することにより、光沢度の測定を光沢度計により効率的にかつ精度良く行うことができる。
また、仕上げ工事をタイル張りとする場合においては、ひずみ追従性試験により得られる接着界面破壊率との関連において閾値を設定することにより、タイル剥離を防止するに充分な下地処理を確実に行うことができる。
さらに、光沢度が既知の限度見本を予め作製してそれとの比較により下地処理を行い、かつ限度見本との比較により処理後の目粗し状態を評価し管理することとすれば、光沢度をそのつど測定せずとも限度見本との比較による間接的な定量評価、定量管理が可能であるから、下地処理とその評価、管理をより簡易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の管理方法は、下地処理後の表面粗さを光沢度により定量化することを主眼とする。
すなわち、コンクリートの表面粗さとコンクリート表面の光沢度とは強い相関があり、表面粗さが粗いほど光沢度は低くなることから、下地処理後のコンクリート表面の光沢度を光沢度計により測定することによってその測定値で表面粗さを定量化でき、それを指標として処理後の表面粗さを定量的に評価し管理することが可能となる。
【0009】
以下、高強度コンクリートの表面に仕上げ工事としてタイル張りを行うに際し、コンクリート表面を超高水圧水処理工法により目粗しする場合に適用するための具体的な実施形態を詳述する。
なお、タイル張り仕上げ工事においては、長期的にタイルを剥離させないためには下地コンクリートとタイルとの接着界面破壊率が40%以下であることが必要とされており、したがって本実施形態では下地処理後の表面粗さを接着界面破壊率40%以下に相当するものとなるように管理するものとする。
【0010】
具体的には、まず設計仕様および実施工に即した試験体を作製してそれに対するひずみ追従試験を実施する。すなわち、コンクリートの表面にタイルを接着した試験体に載荷して、コンクリートひずみに対してタイルひずみが追従できる限界を調べ、このひずみ追従試験により得られた接着界面破壊率と光沢度との関係を求める。その関係の一例を図1に示す。
図1に示す関係から、接着界面破壊率を40%以下とするための光沢度の限界値は380であることから、本実施形態では光沢度380を閾値として採用し、実際の施工では下地処理後のコンクリート表面の光沢度が380以下となるように管理することとする。
【0011】
つまり、処理後のコンクリート表面の光沢度を測定し、それが380以下であれば、接着界面破壊率を40%以下にすることができ、したがってタイル剥離を防止するに充分な適正な目粗しがなされたと評価する。
光沢度が閾値380を越えている場合には、未だ充分な目粗しがなされていないことになるから、その場合はそのままあるいは処理条件を変更して目粗しを継続し、最終的に光沢度が閾値380以下となるようにすれば良い。
【0012】
なお、ひずみ追従試験における接着界面の光沢度の測定と、実際の施工における処理後のコンクリート表面の光沢度の測定は、適宜の光沢度計を使用して行えば良く、可能であればハンディタイプの光沢度計により現場にて直接測定を行うことでも良いが、コンクリート表面の凹凸を薄い金属箔(アルミ箔が好適に採用可能である)に型押しして写し取り、それを試験体としてその光沢度を光沢度計(たとえば村上色彩研究所製GMX−202が好適に採用可能である)により測定することでも良く、それにより光沢度を効率的にかつ精度良く測定することができる。
【0013】
図2は超高圧水処理工法による処理工程と処理後の光沢度との関係を、コンクリート強度との関連において示すものである。
吐出圧150N/mm、処理速度3分/m、ノズル穴数12カ所を標準仕様とした場合、図2の上段に示されているように標準仕様のままではコンクリート強度が増加するに伴って光沢度が閾値380を上回り、表面粗さが不足する場合が生じた。
そこで高強度コンクリートの場合には切削力を向上させる必要があり、下段に示すように吐出圧を200N/mmに変更することにより光沢度を閾値380以下とすることができた。
また、吐出圧が150N/mmのままであっても、処理速度を4分/mに変更すれば、単位時間当たりの処理時間が長くなることから光沢度を閾値380以下にすることができた。なお、ノズル穴数を12カ所から7カ所に変更した場合にはさしたる変化がない。
このように、処理対象のコンクリート強度にばらつきがある場合には、下地処理に際してはコンクリート強度との関係において処理工程を変更することにより、処理後の表面粗さ(密度、深さ)を均等にすることができ、現場全体で高度な品質管理を行うことができた。このような評価・管理は、処理後の表面粗さを光沢度という指標により定量化したことで始めた可能となったものである。
【0014】
ところで、上記のようにコンクリート表面の光沢度をそのつど測定することで表面粗さを評価し管理することに代えて、より簡易な手法として、上記の手法によって閾値を設定しかつその閾値となるように表面を目粗しした限度見本を用いることが考えられる。
すなわち、コンクリート面やモルタルブロック面の表面に、実際の現場で実施する下地処理と同様の処理によって目粗しを行ってその光沢度を閾値380未満に調整した限度見本を予め作製し、現場ではその限度見本と比較しながらそれと同等の目粗しを行い、かつ限度見本との比較により処理後の表面状態を評価し管理することとする。
図3は光沢度を閾値前後に調整した2種の見本(図示例では閾値380に対して、319に調整した合格見本と、420に調整した不合格見本の2種)の例を示すものであり、そのような表面粗さが既知の限度見本を用いてそれとの目視および指触による比較を行いながら目粗しを行い、かつ下地処理後の表面状態を検査し管理することにより、光沢度の測定をそのつど行わずとも間接的に測定したことと等価であって、これによっても所望の下地処理を行うことが可能であるし、処理後の表面状態を簡易に検査し管理することができる。
特に、下地処理直後のコンクリート表面が濡れた状態と乾燥した状態では指触した時の感触が異なるので、限度見本との比較による定量管理は、品質管理精度の向上に大いに寄与することができる。
【0015】
以上で本発明の一実施形態を説明したが、上記実施形態はあくまで好適な一例であって本発明は上記実施形態に限定されるものでは勿論なく、本発明の要旨を逸脱しない範囲であれば適宜の設計的変形や応用が可能である。
たとえば、上記実施形態はタイル仕上げ工事を行う場合への適用例であるので、光沢度の閾値の設定をコンクリートとタイルとの接着界面破壊率との関係において設定したが、本発明はタイル工事に限らず石張り工事をはじめとして他の仕上げ工事を行う場合、あるいはコンクリートの打ち継ぎ等の他の目的でコンクリート表面を目粗しする場合にも同様に適用可能であるし、いずれにしても設計仕様や施工条件等を考慮して所望の目粗し状態が得られるような最適な閾値を設定すれば良く、必要であれば実施工に即して予め試験や実験を行って最適な閾値を決定すれば良い。
また、下地処理としての目粗しは必ずしも高圧ないし超高圧水処理工法によることに限らず他の適宜の下地処理工法や目粗し工法を任意に採用可能であるし、下地としてのコンクリートの強度も任意であって高強度コンクリートを対象とすることに限るものでもなく、いずれにしても処理後の光沢度が閾値未満となるように下地処理を行ってそれを評価し管理することによって、高精度かつ信頼性に優れる下地処理が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】接着界面破壊率と光沢度との関係を示す図である。
【図2】コンクリート強度と光沢度との関係を示す図である。
【図3】超高圧水処理による下地処理の際に使用する限度見本の例を示す図である。
【図4】コンクリートの圧縮強度と表面粗さとの関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート表面にタイル張り等の仕上げ工事を実施するべくコンクリート表面に下地処理としての目粗しを行うに際して、処理後のコンクリート表面の表面粗さを定量的に評価して下地処理面としての品質を管理するための品質管理方法であって、
処理後のコンクリート表面の光沢度を光沢度計により測定して、該光沢度を指標として処理後のコンクリート表面の表面粗さを定量評価するとともに、該光沢度が予め設定した閾値未満となるように表面粗さを管理することを特徴とするコンクリート下地処理面の品質管理方法。
【請求項2】
請求項1記載のコンクリート下地処理面の品質管理方法であって、
コンクリート表面の光沢度を測定するに際しては、管理対象のコンクリート表面に金属箔を押し当ててその表面状態を金属箔に型押しして写し取り、該金属箔を試験体としてその光沢度を光沢度計により測定することを特徴とするコンクリート下地処理面の品質管理方法。
【請求項3】
請求項1または2記載のコンクリート下地処理面の品質管理方法であって、
コンクリート表面にタイルを接着した試験体に載荷してコンクリートひずみに対してタイルひずみが追従できる限界を判定するためのひずみ追従性試験を予め実施して、該試験後の接着界面破壊率と光沢度との関係を予め求めておき、
下地処理を行うに際しては、前記関係に基づいて接着界面破壊率が所望の設定値以下となるような光沢度の限界値を閾値として設定して、処理後のコンクリート表面の光沢度が前記閾値未満となるように表面粗さを管理することを特徴とするコンクリート下地処理面の品質管理方法。
【請求項4】
請求項3記載のコンクリート下地処理面の品質管理方法であって、
表面の光沢度が前記閾値以下であるように調整した限度見本を予め作製し、該限度見本の表面粗さと同等になるように処理後のコンクリート表面の表面粗さを管理することを特徴とするコンクリート下地処理面の品質管理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−24468(P2009−24468A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−191790(P2007−191790)
【出願日】平成19年7月24日(2007.7.24)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】