説明

コンクリート床構造体の施工方法およびコンクリート床構造体

【課題】凹凸や傾斜が比較的大きいコンクリート床であっても、高い水平レベル性と優れた強度特性を有するコンクリート床構造体の施工方法と、該施工方法によって得られるコンクリート床構造体とを提供すること。
【解決手段】傾斜及び/又は凹凸を有するコンクリート床上面に、セルフレベリング材スラリー硬化体層を形成するコンクリート床構造体の施工方法であって、傾斜及び/又は凹凸を有するコンクリート床は、最も低い部分または最凹部と最も高い部分または最凸部との高さの差が10mm〜50mmであり、セルフレベリング材スラリーを流し込み施工したスラリー表面の高さは、コンクリート床の最も高い部分の上面または最凸部の上面より2mm〜50mm高い位置であり、セルフレベリング材は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分を含む、コンクリート床構造体の施工方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、傾斜や凹凸を有するコンクリート床に、セルフレベリング性に優れた水硬性スラリーを流し込み施工することによって、水平レベル性に優れたコンクリート床を形成できるコンクリート床構造体の施工方法とそれによって得られるコンクリート床構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
オフィスや事務所をはじめとして工場や倉庫などの建築物では、一般的にコンクリート床面の仕上げに各種ポリマーセメント系の塗り床材や各種素材の貼り床材が用いられる。
【0003】
これらの塗り床材や貼り床材を施工する場合、それらの下地層を形成する方法としては、コンクリート直押え工法、モルタル類やセルフレベリング材等を用いてコンクリートを打ち継いで、コンクリート床の凹凸や傾斜を手直しする方法がある。
【0004】
コンクリート床面の凹凸や傾斜が、塗り床仕上げ面に及ぼす影響を回避するコンクリート構造体の施工方法として、特許文献1には、建築物のコンクリート床上面に、セルフレベリング材モルタル用プライマー層を設け、その上面にアルミナセメントを含むセルフレベリング材と水とを混練して調製したスラリーを打設して硬化させ、セルフレベリング材スラリー硬化体層の上面に、塗り床材用プライマー層を設け、その上面に塗り床材を施工して硬化させることを特徴とするコンクリート構造体の施工方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−190315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、塗り床仕上げ又は貼り床仕上げのコンクリート床構造体を形成するにあたり、凹凸や傾斜が比較的大きいコンクリート床であっても、高い水平レベル性と優れた強度特性を有する塗り床仕上げ面や貼り床仕上げ面を効率的に形成できるコンクリート床構造体の施工方法と、該施工方法によって得られるコンクリート床構造体とを提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、傾斜及び/又は凹凸を有するコンクリート床上面に、プライマーを塗布・乾燥してプライマー層を形成し、前記プライマー層の上面にセルフレベリング材スラリーを流し込み施工して硬化させてセルフレベリング材スラリー硬化体層を形成するコンクリート床構造体の施工方法であって、傾斜及び/又は凹凸を有するコンクリート床は、最も低い部分または最凹部と最も高い部分または最凸部との高さの差が10mm〜50mmであり、セルフレベリング材スラリーを流し込み施工したスラリー表面の高さは、コンクリート床の最も高い部分の上面または最凸部の上面より2mm〜50mm高い位置であり、セルフレベリング材は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分を含むことを特徴とするコンクリート床構造体の施工方法である。
【0008】
さらに、本発明は前記のコンクリート床構造体の施工方法によって形成できるコンクリート床構造体である。
【0009】
本発明のコンクリート床構造体の好ましい態様を以下に示す。本発明では、これらの態様を適宜組み合わせることができる。
(1)アルミナセメントは、石灰系原料とアルミナ系原料とを含むアルミナセメント原料を、焼成して調製したアルミナセメントである。
(2)セルフレベリング材スラリー硬化体層の上面の最も低い部分または最凹部と最も高い部分または最凸部との高さの差が0.1mm〜5mmである。
(3)セルフレベリング材は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分を含み、さらに無機粉末、細骨材、流動化剤、凝結促進剤、凝結遅延剤、増粘剤、消泡剤、樹脂粉末から選択される少なくとも1種以上を含む。
(4)セルフレベリング材スラリー硬化体層の表面のショア硬度が、セルフレベリング材のスラリーの施工の完了から2時間後に10以上である。
(5)セルフレベリング材スラリー硬化体層の表面のショア硬度が、セルフレベリング材のスラリーの打設の完了から6時間後に50以上である。
【0010】
また、本発明は、上述の施工方法によって得られるコンクリート床構造体である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、セルフレベリング材スラリーを用いて強度と水平レベル性とに優れたコンクリート床構造体を形成する場合に、アルミナセメントを用いた速硬性に優れたセルフレベリング材を使用することによって、比較的大きな凹凸や傾斜を有するコンクリート床であっても、優れた流動特性と潜在的に有している速硬性とを充分に引き出して、より優れた圧縮強度と表面硬度とを有するスラリー硬化体を形成するものであり、より荷重負荷がかかる条件下で供用されるコンクリート床構造体として、優れた耐久性能を発揮するものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】傾斜を有するコンクリート床にセルフレベリング材を施工したコンクリート床構造体の部分断面図の一例である。
【図2】凹凸を有するコンクリート床にセルフレベリング材を施工したコンクリート床構造体の部分断面図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、凹凸や傾斜が比較的大きいコンクリート床であっても、高い水平レベル性と優れた強度発現性を有するコンクリート床構造体を形成することができ、塗り床仕上げや貼り床仕上げに適したコンクリート床構造体が得られる施工方法と、該施工方法によって得られるコンクリート床構造体に関する。
【0014】
本発明では、まず、傾斜及び/又は凹凸を有するコンクリート床上面に、セルフレベリング材用プライマーを施工する。傾斜及び/又は凹凸を有するコンクリート床は、最も低い部分または最凹部と、最も高い部分または最凸部との高さの差が10mm〜50mmである。
【0015】
次に、セルフレベリング材用プライマーが乾燥して造膜したのち、その上面にセルフレベリング材スラリーを流し込み施工する。セルフレベリング材スラリーを流し込み施工したスラリー表面の高さは、傾斜及び/又は凹凸を有するコンクリート床の最も高い部分の上面または最凸部の上面より2mm〜50mm高い位置までセルフレベリング材スラリーを流し込み施工する。
【0016】
コンクリート床面にセルフレベリング材スラリーを供給・施工してから、好ましくは30分〜90分経過するとスラリー表面から水が引いて光沢が消失し、スラリー成形体の状態となるが、このスラリー成形体は強度を有していない。
【0017】
セルフレベリング材スラリーを供給・施工して2時間を経過すると、水硬性成分の水和反応の進行によってスラリー成形体は硬化してスラリー硬化体層が形成され、優れた初期強度発現性と高い表面硬度とを有するコンクリート床構造体が得られる。
【0018】
本発明では、セルフレベリング材スラリー硬化体層が極めて優れた水平レベル性を有しており、セルフレベリング材スラリー硬化体層の上面の最も低い部分または最凹部と、最も高い部分または最凸部との高さの差が0.1mm〜5mmの範囲である。
【0019】
前記コンクリート床構造体は、塗り床仕上げコンクリート床構造体や貼り床仕上げコンクリート床構造体を形成する場合の下地コンクリート構造体として優れた初期強度発現性と高い表面硬度とを有している。
【0020】
次に、本発明のコンクリート床構造体の施工方法で使用するセルフレベリング材用プライマーについて説明する。
【0021】
本発明のコンクリート床構造体の施工方法では、傾斜及び/又は凹凸を有するコンクリート床上面と、セルフレベリング材スラリー硬化体層との接着・接合を強固にするため、さらに、セルフレベリング材施工後のコンクリートからの気泡発生を防止するために、セルフレベリング材用プライマーを使用する。
【0022】
セルフレベリング材用プライマーとしては、一般に市販されている建築用プライマーを用いることができ、アクリル系プライマーやエポキシ系プライマーを好適に用いることができる。
【0023】
次に、本発明のコンクリート床構造体の施工方法で使用するセルフレベリング材について説明する。
【0024】
本発明のコンクリート床構造体の施工方法では、施工効率が高く、優れた作業性と良好な硬化体強度が得られることから、速効性・速乾性を有する水硬性成分を含むセルフレベリング材を好適に用いることができる。
【0025】
本発明で用いるセルフレベリング材は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分を含むものである。
【0026】
アルミナセメントとしては、鉱物組成の異なるものが数種知られ市販されており、何れも主成分はモノカルシウムアルミネート(CA)であって、石灰系原料とアルミナ系原料とを主原料として溶融法や焼成法によって製造され、本発明では、これらのアルミナセメントを好適に用いることができる。
【0027】

【0028】
ポルトランドセメントは、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメントなどのポルトランドセメントを用いることができる。
【0029】
石膏は、無水石膏、半水石膏、二水石膏等の各石膏がその種類を問わず、1種又は2種以上の混合物として使用できる。
石膏は、セルフレベリング材と水とを混練して得られるモルタルが硬化した後の寸法安定性を保持する成分として機能するものである。
【0030】
本発明で用いるセルフレベリング材は、水硬性成分として、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分を用いることにより、速硬性・速乾性を有し、低収縮性又は低膨張性で硬化中の体積変化が少なく、クラックの発生を抑制した硬化体が得られる。
【0031】
本発明で用いるセルフレベリング材は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分を含み、無機粉末、細骨材、流動化剤、凝結促進剤、凝結遅延剤、増粘剤、消泡剤、樹脂粉末から選択される少なくとも1種以上を含むことが好ましい。
【0032】
本発明で用いるセルフレベリング材は、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、シリカヒューム、炭酸カルシウム微粉末及びドロマイト微粉末から選ばれる少なくとも1種以上の無機成分を含むことが好ましく、特に高炉スラグ微粉末を含むことにより、乾燥収縮による硬化体の耐クラック性を高めることができる。
【0033】
セルフレベリング材は、細骨材を含むことができる。
細骨材は、水硬性成分100質量部に対し、好ましくは30〜500質量部、特に好ましくは80〜300質量部の範囲が好ましい。
【0034】
細骨材としては、粒径2mm以下の骨材、特に好ましくは0.15〜0.6mmの骨材を主成分としていることが好ましい。
【0035】
セルフレベリング材は、材料分離を抑制しつつ好適な流動性を確保する流動化剤(高性能減水剤などの減水剤)を用いることができる。
水硬性成分であるアルミナセメントの発現強度は、水/セメント比の影響を大きく受けることから、減水効果を有する流動化剤を使用して水/水硬性成分比を小さくすることが特に好ましい。
【0036】
凝結遅延剤及び凝結促進剤は、使用する水硬性成分やセルフレベリング材の構成成分に応じて、特性を損なわない範囲で適宜添加することができ、凝結遅延剤及び凝結促進剤の成分、添加量及び混合比率を適宜選択して、セルフレベリング材の可使時間と速硬性・速乾性とを調整することができ、セルフレベリング材としての使用が非常に容易になるため好ましい。
【0037】
増粘剤は、セルロース系、化工澱粉系、蛋白質系、ラテックス系、及び水溶性ポリマー系などの増粘剤を併用して用いることが出来る。
【0038】
消泡剤は、シリコーン系、アルコール系、ポリエーテル系などの合成物質又は鉱物油系、植物由来の天然物質など、公知のものを1種あるいは2種以上を組み合わせて用いることが出来る。
【0039】
本発明のコンクリート床構造体の施工方法に用いるセルフレベリング材は、硬化体の引張り強度がより高まることから樹脂粉末を使用することが好ましい。
【0040】
本発明で用いるセルフレベリング材は、水硬性成分と、無機粉末、細骨材、凝結調整剤、流動化剤、増粘剤、消泡剤及び樹脂粉末から選択される1種以上の成分とを、混合機で混合して調製したセルフレベリング材のプレミックス粉体を好ましく用いることができる。
【0041】
セルフレベリング材のプレミックス粉体は、所定量の水と混合・攪拌して、スラリー状のセルフレベリング性を有するスラリーを製造することができ、そのスラリーを硬化させてセルフレベリング材の硬化体を得ることができる。
【0042】
セルフレベリング材は、水と混合・攪拌してスラリーを製造することができ、水の添加量を調整することにより、スラリーの流動性、可使時間、材料分離性、スラリー硬化体の強度などを調整することができる。
【0043】
本発明で使用するセルフレベリング材は、水と混合して調製したセルフレベリング性(高流動・平滑性)を有するスラリーのフロー値が、好ましくは150〜270mm、特に好ましくは180〜250mmに調整されていることが、施工の容易さ及び平滑性の高い硬化体表面を得られやすいという理由により好ましい。
【0044】
セルフレベリング材スラリーは、施工場所の温度や湿度の条件にもよるが、施工終了後1時間を過ぎると硬化を開始し、硬化の進行に伴って硬化体の表面硬度が上昇し、硬化体表面の含水量が低下する。
【0045】
セルフレベリング材スラリーの硬化体表面のショア硬度はスラリーを施工してから、好ましくは2時間後に10以上であり、さらに好ましくは6時間後に50以上であり、スラリー施工(打設)が終了した後、速やかに硬化が進行することによって、水平レベル性に優れたコンクリート床構造体を短期間に形成させることができる。
【符号の説明】
【0046】
11 : 傾斜及び/又は凹凸を有するコンクリート床
12 : 壁面
13 : プライマー層
14 : セルフレベリング材スラリー硬化体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
傾斜及び/又は凹凸を有するコンクリート床上面に、
プライマーを塗布・乾燥してプライマー層を形成し、
前記プライマー層の上面にセルフレベリング材スラリーを流し込み施工して硬化させてセルフレベリング材スラリー硬化体層を形成する
コンクリート床構造体の施工方法であって、
傾斜及び/又は凹凸を有するコンクリート床は、最も低い部分または最凹部と最も高い部分または最凸部との高さの差が10mm〜50mmであり、
セルフレベリング材スラリーを流し込み施工したスラリー表面の高さは、コンクリート床の最も高い部分の上面または最凸部の上面より2mm〜50mm高い位置であり、
セルフレベリング材は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分を含むこと、
を特徴とするコンクリート床構造体の施工方法。
【請求項2】
アルミナセメントは、石灰系原料とアルミナ系原料とを含むアルミナセメント原料を、焼成して調製したアルミナセメントであること
を特徴とする請求項1に記載のコンクリート床構造体の施工方法。
【請求項3】
セルフレベリング材スラリー硬化体層の上面の最も低い部分または最凹部と最も高い部分または最凸部との高さの差が0.1mm〜5mmであること
を特徴とする請求項1または請求項2に記載のコンクリート床構造体の施工方法。
【請求項4】
セルフレベリング材は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分を含み、さらに無機粉末、細骨材、流動化剤、凝結促進剤、凝結遅延剤、増粘剤、消泡剤、樹脂粉末から選択される少なくとも1種以上を含むこと
を特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のコンクリート床構造体の施工方法。
【請求項5】
セルフレベリング材スラリー硬化体層の表面のショア硬度が、セルフレベリング材のスラリーの施工の完了から2時間後に10以上であること
を特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のコンクリート床構造体の施工方法。
【請求項6】
セルフレベリング材スラリー硬化体層の表面のショア硬度が、セルフレベリング材のスラリーの打設の完了から6時間後に50以上であること
を特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のコンクリート床構造体の施工方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のコンクリート床構造体の施工方法によって得られるコンクリート床構造体。

【図1】
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【図2】
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