説明

コンクリート床構造体及びその施工方法

【課題】張り床材仕上げに適した高い平面性を有するコンクリート下地層を短工期で効率的に形成でき、尚且つ張り床材と強固に一体化した高い耐久性能を有するコンクリート床構造体とその施工方法を提供する。
【解決手段】建築物のコンクリート床31上面に、セルフレベリング材スラリー用プライマー層34を設ける工程と、セルフレベリング材用プライマー層34の上面にアルミナセメントと樹脂粉末とを含むセルフレベリング材と水とを混練して調製したスラリー35を打設して硬化させる工程と、セルフレベリング材スラリー硬化体36層の上面に張り床材用プライマー層37を設ける工程と、張り床材用プライマー層37の上面に張り床材用接着剤を塗布して張り床材用接着剤層38を設ける工程と、張り床材用接着剤層38の上面に張り床材用仕上げ材39を敷設して接着させる工程とを含むコンクリート床構造体の施工方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物のコンクリート床にセルフレベリング材と張り床材とを組合せて施工するコンクリート床構造体の施工方法およびそのコンクリート床構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
オフィスや事務所をはじめとして、病院や工場や倉庫などの建築物では、一般的にコンクリート床面の仕上げに各種樹脂系張り床材が用いられることが多く、これらの張り床材をコンクリート床の仕上げ材として用いた場合、床面の耐動荷重性や耐摩耗性、耐薬品性、抗菌性、帯電防止性などが向上する効果が得られる。
これらの張り床材を施工する場合の下地層施工法としては、コンクリート直押え工法とモルタル類やセルフレベリング材等を用いる打ち継ぎ工法がある。
【0003】
特許文献1には、床下地材としてセメント、骨材、及び保水剤を主成分とし、合成樹脂として酢酸ビニル樹脂、バーサチック酸ビニル樹脂、酢酸ビニル−バーサチック酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アクリル樹脂、酢酸ビニル−アクリル酸共重合体、酢酸ビニル−バーサチック酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体、SBRの中の一、又は二以上の混合物を含有するセルフレベリング材を使用することによって、セルフレベリング材の施工後、乾燥中に合成樹脂が表面に集合し、その状態で硬化することにより、優れたセルフレベリング性と表面に鏡面に近い緻密さが得られ、合成樹脂様の表面状態を得ることができることが記載されている。さらに、コンクリート、木質或いは金属等下地の上に、このセルフレベリング材を使用して下地を形成し、その上面に張り床などを施工して供用し、張り床材が老朽化した場合には容易に除去することが可能なため、改装時等に接着剤付き床材を張りかえる作業の効率が著しく向上し、作業時間も大幅に短縮されることが開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2003−20263号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的にコンクリート床に張り床材を施工して仕上げる場合、コンクリート床の表面に張り床材用プライマー層を設け、張り床材用接着剤の塗布層、さらに張り床材用仕上げ材が敷設させる。
張り床材用仕上げ材の種類を選定することにより、耐動荷重性、耐磨耗性、耐衝撃性、耐水性、耐薬品性、抗菌性、帯電防止性、耐候性、美観性、防音性等の機能を有するコンクリート床構造体を形成できる。
張り床材を施工して得られるこれらの多様な機能は、張り床材用仕上げ材の材質、厚さなどに大きく依存する。また、この張り床材の性状は、下地を形成しているコンクリート表面の性状によっても大きく影響される。
通常、新設建築物のコンクリート床は、生コンクリートを打設・締固めを行ってある程度の平面性を持たせた後、コンクリート表面の水が引いた段階で左官鏝などを用いて表面を均し、粗い凹凸を均す作業を行って、コンクリートを養生して硬化させており、張り床材を施工する段階の硬化したコンクリート床全体の表面には多種多様な小さな凹凸や微妙な傾斜が入り組んだ状態になっている。
また、既設の建築物のコンクリート床を改修するような場合、当初施工されていた張り床材や塗り床材を除去し、コンクリート床面を研磨処理して粗い凹凸を均す作業を行った上で新たに張り床材が施工されるが、この場合もコンクリート床全体の表面には多種多様な小さな凹凸や微妙な傾斜が入り組んだ状態になっている。
図1に示すように、上記のようなコンクリート床に張り床材を施工した場合、床面は下地であるコンクリート床表面の多種多様な小さな凹凸や微妙な傾斜がそのまま反映されたものとなり、実際に供用する上で、また、美観上も好ましくない仕上りとなる。
また、図2に示すように、厚みのある張り床材用仕上げ材または硬質の張り床材用仕上げ材を施工した場合、コンクリート床表面との隙間が不均一な部分ができ、接着剤層と張り床材用仕上げ材とを隙間無く密着させることが困難なため空間ができ、コンクリート床と張り床材が一体化せず、本来の性能が得られない仕上がりとなる。
一方、張り床材を施工した床面の平面性を高め、供用性や美観の良好な仕上りを求める場合、図3のようにコンクリート床表面の多種多様な小さな凹凸や微妙な傾斜をセメント系の補修材あるいは合成樹脂系の補修材を使用して調整する必要がある。この場合、図1の場合と比較して平面性が改善された仕上りは得られ、図2の場合と比較して張り床材本来の性能が得られるものの、セメント系の補修材を使用すると、所定の強度を発現するまでの養生期間が必要となる問題があり、合成樹脂系の補修材を使用すると、経済性が著しく低下するという問題がある。また、セメント系の補修材および合成樹脂系の補修材は仕上がり面の水平性についても充分に満足が得られるものではない。
【0006】
また、コンクリート床面にセルフレベリング材を施工して張り床下地を形成した場合、コンクリート床面の凹凸や傾斜が張り床仕上げ面に及ぼす影響を回避できるが、一般的なセルフレベリング材を使用するとその施工のための工程が増えるのみならず、施工したセルフレベリング材の硬化体層が所定の強度を発現するまで養生期間が必要となる。このため、張り床材を好適に施工できる下地条件、即ちセルフレベリング材の硬化体層の含水率が5%未満(D値が690未満)に低下するまで数日から1週間の期間待機せねばならず、工事スケジュールに大きなマイナス面があった。
【0007】
本発明は、上記課題に対して、張り床材仕上げに適した高い平面性を有するコンクリート下地層を短工期で効率的に形成でき、尚且つ張り床材と強固に一体化した高い耐久性能を有するコンクリート床構造体とその施工方法を提供することを目的とした。
さらに、本発明は、優れた平面性を活かし、厚みのある張り床材用仕上げ材や硬質の張り床材用仕上げ材を用いた場合にも、張り床材用仕上げ材の下層に非接着部分である隙間が発生しない、張り床材と一体化した高い耐久性能を有するコンクリート床構造体とその施工方法を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意試行錯誤を繰り返した結果、セルフレベリング材スラリーを安定して施工するのに充分な可使時間(ハンドリングタイム)を保持しながらも、工事スケジュールの延長を最小限に留めることが可能な速硬性・速乾性を有しつつ、優れた水平レベル精度を有する張り床下地を形成できる特定のセルフレベリング材を見出した。
さらにコンクリート床にこのセルフレベリング材を施工し、その上面に張り床材、特に硬質の張り床材用仕上げ材や厚みのある張り床材用仕上げ材を施工することにより、施工効率と水平レベル精度に優れ、厳しい供用環境においても優れた耐久性を有する張り床仕上げコンクリート構造体が得られることを見出して本発明を完成させた。
【0009】
即ち、本発明の第1は、建築物のコンクリート床上面に、セルフレベリング材スラリー用プライマー層を設ける工程と、セルフレベリング材用プライマー層の上面にアルミナセメントと粉末樹脂とを含むセルフレベリング材と水とを混練して調製したスラリーを打設して硬化させる工程と、セルフレベリング材スラリー硬化体層の上面に張り床材用プライマー層を設ける工程と、張り床材用プライマー層の上面に張り床材用接着剤を塗布して張り床材用接着剤層を設ける工程と、張り床材用接着剤層の上面に張り床材用仕上げ材を敷設して接着させる工程とを含むことを特徴とするコンクリート床構造体の施工方法である。
本発明の第2は、前記本発明の第1の施工方法により得られるコンクリート床構造体である。
【0010】
本発明のコンクリート床構造体の施工方法について好ましい様態を以下に示す。これらは複数組合せることができる。
1)セルフレベリング材は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分を含むこと。
2)セルフレベリング材は、水硬性成分と粉末樹脂とを含み、さらに無機粉末、細骨材、凝結調整剤、流動化剤、増粘剤及び消泡剤から選ばれる成分を少なくとも1種以上含むこと。
3)セルフレベリング材スラリー硬化体表面のショア硬度は、スラリーを打設(施工)したのち6時間後に50以上であること。
4)セルフレベリング材スラリー硬化体表面の水分量は、スラリー打設(施工)したのち24時間後に5%未満(D値=690未満)であること。
5)セルフレベリング材スラリー硬化体は、長さ変化率の膨張が0〜0.08%であり、長さ変化率の収縮が−0.08〜0%であること。
6)張り床材用仕上げ材は、塩化ビニル系仕上げ材であること。
7)張り床材用仕上げ材は、仕上げ材の厚さが1〜10mmであること。
8)張り床材用仕上げ材は、さらに帯電防止性を有する。
9)張り床材用仕上げ材は、JIS K 6911の電気抵抗に準拠した表面抵抗値が5×10Ω以下、体積抵抗値が1×10Ω以下であること。
10)張り床材用仕上げ材は、耐動荷重性、耐薬品性、耐摩耗性、抗菌性を有する。
本発明で用いる張り床材とは、張り床材用プライマー、張り床材用接着剤および張り床材用仕上げ材から構成され、本発明で用いる張り床材層とは、張り床材用プライマー層、張り床材用接着剤層および張り床材用仕上げ材層から構成されるものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のセルフレベリング材と張り床材とを組合せたコンクリート床構造体の施工方法によれば、多種多様の凹凸や傾斜を有するコンクリート床の上面に、セルフレベリング材スラリーを施工・硬化させて優れた水平レベルを有する下地層を形成した後に張り床材を施工するため、張り床材の仕上り面もまた優れた水平レベルを有し、良好な供用性と美観が得られる。
また、本発明ではアルミナセメントを含み、速硬性・速乾性に優れ、優れた水平レベル性を有する床面を形成できるセルフレベリング材を用いることによって、極めて効率的に且つ安定的に張り床下地を施工することが可能である。
また、従来課題となることがあったコンクリート床から離脱しようとする水分による張り床材層の膨れについても、本発明では、寸法変化率及び通気性が極めて小さいセルフレベリング材を選択して用い、緻密で高強度なセルフレベリング材の硬化体層を下地コンクリートと張り床材層の中間層に設けることによって解消することができ、床構造体として優れた耐久特性が得られるものである。
さらに、本発明では、セルフレベリング材を貯蔵するタンクを備えたセルフレベリング材スラリー調製・施工用トラック(図5)を使用することによって、前記セルフレベリング材のスラリーを連続的に調製して、施工箇所へ連続的に供給して施工でき、大面積のコンクリート床に施工する場合に特に優れた施工効率を確保できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のセルフレベリング材と張り床材とを組合せたコンクリート床構造体の施工方法およびコンクリート床構造体について、図4a〜図4d−1、図4d−2に示す図面にしたがって実施形態の一例を説明する。
【0013】
図4aは、コンクリート床31を示す部分断面図である。
本発明では、まず図4bに示すように、凹凸(小さな凹凸)32や微妙な傾斜33を有するコンクリート床31上面に、セルフレベリング材用プライマー34を施工する。
次に、セルフレベリング材用プライマー34が乾燥して造膜したのち、その上面に図4cに示すようにセルフレベリング材スラリー35を打設する。
【0014】
セルフレベリング材スラリーの調製および施工は、セルフレベリング材を袋物の形態で施工現場に搬入し、施工場所の近傍で現場設置型の混合・混練装置やハンドミキサー等の混合機を用いて、所定量の水とセルフレベリング材とを混合してスラリーを調製することができる。
【0015】
コンクリート床面に供給・施工された図4cに示すセルフレベリング材スラリー35が硬化し、スラリー硬化体表面の水分量が5%未満(D値が690未満)に低下したのち、図4d−1及び図4d−2に示すようにセルフレベリング材スラリー硬化体層36の上面に張り床材用プライマー層37を設け、その上面に張り床材接着剤を塗布して張り床材接着剤層38を設け、張り床材用接着剤の塗布層の上面に張り床材用仕上げ材を敷設して接着させる。
特に、本発明では、速硬性に優れるセルフレベリング材を用いて良好な平面性を有する張り床下地層を効率良く形成することによって、図4d−1に示すように張り床仕上げ材が薄い場合はもちろんのこと、図4d−2に示すように厚みのある張り床材用仕上げ材や硬質の張り床材用仕上げ材を施工した場合でも、図2に示したような接着剤層と張り床材用仕上げ材との間の隙間を形成することなく、欠陥のない水平レベル性に優れた張り床仕上げのコンクリート床構造体を容易に形成することができる。
【0016】
なお、前記の本発明のセルフレベリング材と張り床材とを組合せたコンクリート床構造体の施工方法およびコンクリート床構造体において、施工面積が100m以上の大面積である場合には、図5に示すようなセルフレベリング材を貯蔵するタンクを備えたセルフレベリング材スラリー調製・施工用トラックを使用することが好ましく、前記セルフレベリング材のスラリーを連続的に調製して、施工箇所へ連続的に供給して施工できることから、施工効率および施工品質の観点からさらに優れたセルフレベリング材硬化体を得ることができる。
図5に示すセルフレベリング材スラリー調製・施工用トラック51は、上部に供給口52が設けられたセルフレベリング材タンク53を有している。そして、セルフレベリング材スラリー調製・施工用トラック51は、セルフレベリング材と水とを混練してセルフレベリング材スラリー54を製造できるように、混練装置(ミキサー)55と、セルフレベリング材タンクからホッパー56を介し、混練装置55に必要量のセルフレベリング材57を供給するためのスクリューフィーダー58を有する。
さらに、セルフレベリング材スラリー調製・施工用トラック51は、混練用の水を輸送、供給するために、水タンク59を備えており、タンク内の水は、水供給ポンプ60により、水供給パイプ61を通って混練装置55に供給される。
図5に示すようなセルフレベリング材スラリー調製・施工用トラック51は、排出口を閉じた状態で、供給口52からタンク53内にセルフレベリング材57が供給される。そして、所定量のセルフレベリング材をタンク53内に入れた後、供給口52を閉じて施工現場まで移動する。施工現場に到着後、必要時にセルフレベリング材タンク53下部の排出口を開け、そこからセルフレベリング材を取り出す。
セルフレベリング材は次いで、スクリューフィーダー58により制御されて、混練装置55に導入される。この混練装置55には、ほとんど同時に混練用の水が、供給水量を調整しながら、水タンク59から供給される。混練装置55でセルフレベリング材と水とを所定の割合で混合攪拌してセルフレベリング材スラリー54を調製し、セルフレベリング材スラリータンク62に滞留させる。スラリータンク62は、実際にセルフレベリング材スラリーを施工するまで、スラリータンク内でスラリーの撹拌を続けられるようになっている。
セルフレベリング材スラリー54は、スラリーポンプ63によって、スラリータンク62から、スラリーホース64を通って施工箇所に供給し、コンクリート床面にセルフレベリング材スラリー54を施工する。
【0017】
次に、本発明で用いるセルフレベリング材用プライマー、セルフレベリング材、張り床材について説明する。
【0018】
本発明で使用するセルフレベリング材用プライマーは、セルフレベリング材スラリーを打設した際に、スラリー中の水分がコンクリート床に浸透する作用を防止するため、及び、コンクリート床とセルフレベリング材スラリー硬化体とを強固に接着するために用いる。
セルフレベリング材用プライマーとしては、アクリル−スチレン共重合樹脂やエチレン酢酸ビニル共重合体を主成分とする市販のプライマーが使用でき、特にアクリル−スチレン共重合樹脂を主成分とするものを好適に使用できる。
プライマー中の樹脂成分が45%のプライマーを用いる場合に、プライマーの塗布量は、好ましくは50〜240g/m、さらに好ましくは60〜225g/m、より好ましくは70〜200g/m、特に好ましくは80〜180g/mを塗布することが良好な接着強度を安定して得るために好ましい。
また、プライマーは、適宜水を加えて希釈して用いることができる。
プライマー塗布後の乾燥時間は、温度条件や通風条件に応じて適宜乾燥時間をとることができ、通常夏季には3時間〜8時間、冬季には5時間〜12時間乾燥することが好ましい。
【0019】
本発明のコンクリート床構造体の施工方法に用いるセルフレベリング材は、アルミナセメントを必須成分として含むものである。
さらに本発明で好適に用いられるセルフレベリング材は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分を含むものである。
【0020】
アルミナセメントとしては、鉱物組成の異なるものが数種知られ市販されているが、何れも主成分はモノカルシウムアルミネート(CA)であり、市販品はその種類によらず使用することができる。
【0021】
ポルトランドセメントは、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメントなどのポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメントなどの混合セメントなどを用いるができる。
【0022】
石膏は、無水石膏、半水石膏、二水石膏等の各石膏がその種類を問わず、1種又は2種以上の混合物として使用できる。
石膏は、自己流動性水硬性組成物と水とを混練して得られるモルタルが硬化した後の寸法安定性を保持する成分として機能するものである。
【0023】
本発明では、水硬性成分として、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分を用いる。
水硬性成分(アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏の合計が100質量部)は、好ましくはアルミナセメント20〜80質量部、ポルトランドセメント5〜70質量部及び石膏5〜45質量部からなる組成、さらに好ましくはアルミナセメント25〜70質量部、ポルトランドセメント10〜60質量部及び石膏10〜40質量部からなる組成、より好ましくはアルミナセメント30〜60質量部、ポルトランドセメント20〜50質量部及び石膏15〜35質量部からなる組成、特に好ましくはアルミナセメント40〜50質量部、ポルトランドセメント30〜40質量部及び石膏20〜30質量部からなる組成を用いることにより、急硬性を有し、低収縮性又は低膨張性で硬化中の体積変化が少ない硬化体を得られやすいために好ましい。
【0024】
本発明のコンクリート床構造体の施工方法に用いるセルフレベリング材は、硬化体層の乾燥クラックを防止することにより硬化体の通気性を大幅に低下させる効果を有し、さらに、硬化体の引張り強度をより高めることができ、さらに張り床材との接着強度を高めることができることから粉末樹脂を使用することが好ましい。
本発明で用いるセルフレベリング材では、構成成分の配合比率を厳格に品質管理できることから構成成分をプレミックス化して供給することが好ましい。このため使用する粉末樹脂についても粉末状の再乳化形粉末樹脂であることが好ましい。
粉末樹脂は、乾燥によって発生する収縮応力がひび割れ発生に繋がる過程で、ひび割れの発生に対する抵抗性を向上させる効果及び硬化体組織を緻密化する効果がある。
粉末樹脂としては、樹脂の粉末化方法などの製法については特にその種類は限定されず、公知の製造方法で製造されたものを用いることができ、また粉末樹脂としては、ブロッキング防止剤を主に粉末樹脂の表面に付着しているものを用いることができる。
粉末樹脂は、水性ポリマーディスパーションを噴霧やフリーズドライなどの方法で、溶媒を除去し乾燥した再乳化形の粉末樹脂を用いることが好ましい。
粉末樹脂としては、ポリアクリル酸エステル樹脂系、スチレンブタジエン合成ゴム系、又は酢酸ビニルベオバアクリル共重合系のものを使用することができ、特に、酢酸ビニルベオバアクリル共重合系の再乳化形粉末樹脂やアクリル酸エステル−メタアクリル酸エステル共重合系の再乳化形粉末樹脂を好適に用いることができる。
粉末樹脂の粒子径は、315μmふるい上残分が3%以下、さらに300μmふるい上残分が3%以下、特にさらに300μmふるい上残分が2%以下のものを好ましく用いることが出来る。
粉末樹脂は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.5〜20質量部、より好ましくは1〜15質量部、さらに好ましくは2〜10質量部、特に好ましくは3〜8質量部を配合したものを用いることができる。
粉末樹脂の割合が、上記範囲より大きい場合、水を加えて得られるスラリーの粘度が高くなり施工性が低下するとともに、硬化体の圧縮強度が低下する傾向がある。また、上記範囲より小さい場合には、硬化体の引張り強度の向上効果、張り床材との接着強度向上効果及び通気性の低減効果が小さくなる傾向がある。
【0025】
本発明のコンクリート床構造体の施工方法に用いるセルフレベリング材は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分および粉末樹脂を含み、さらに無機粉末、細骨材、凝結調整剤、流動化剤、増粘剤及び消泡剤を含むことが好ましい。
【0026】
本発明で用いるセルフレベリング材は、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、シリカヒューム、炭酸カルシウム微粉末及びドロマイト微粉末から選ばれる少なくとも1種以上の無機成分を含むことが好ましく、特に高炉スラグ微粉末を含むことにより、乾燥収縮による硬化体の耐クラック性を高めることができる。
セルフレベリング材において、無機成分の添加量は、水硬性成分100質量部に対し、好ましくは10〜200質量部、より好ましくは20〜150質量部、さらに好ましくは30〜130質量部、特に好ましくは40〜100質量部とするのが好ましい。
【0027】
セルフレベリング材において、高炉スラグ微粉末の添加量は、水硬性成分100質量部に対し、好ましくは10〜200質量部、より好ましくは20〜150質量部、さらに好ましくは30〜130質量部、特に好ましくは40〜100質量部とすることが好ましい。高炉スラグ微粉末の添加量が、少なすぎると硬化体の乾燥収縮が大きくなり、多すぎると初期強度の低下を招くことがある。
高炉スラグ微粉末は、JIS A 6206に規定されるブレーン比表面積3000cm/g以上のものを用いることができる。
【0028】
セルフレベリング材は、必要に応じてさらに細骨材を含むことができる。
細骨材は、水硬性成分100質量部に対し、好ましくは30〜500質量部、より好ましくは40〜400質量部、さらに好ましくは60〜300質量部、特に好ましくは80〜150質量部の範囲が好ましい。
細骨材としては、粒径2mm以下の骨材、好ましくは粒径0.075〜1.5mmの骨材、さらに好ましくは粒径0.1〜1mmの骨材、特に好ましくは0.15〜0.6mmの骨材を主成分としていることが好ましい。
細骨材の種類は、珪砂、川砂、海砂、山砂、砕砂などの砂類、ポルトランドセメントクリンカー、アルミナセメントクリンカー、シリカ粉、石英粉末、粘土鉱物、廃FCC触媒、石灰石などの無機材料、ウレタン砕、EVAフォーム、発砲樹脂などの樹脂粉砕物などを用いることができる。
特に細骨材としては、珪砂、川砂、海砂、山砂、砕砂などの砂類、廃FCC触媒、アルミナセメントクリンカーなどが好ましく用いることが出来る。
細骨材の粒径は、JIS Z 8801に規定される呼び寸法の異なる数個のふるいを用いて測定する。
【0029】
セルフレベリング材は、材料分離を抑制しつつ好適な流動性を確保する流動化剤(高性能減水剤などの減水剤)を用いる。
水硬性成分であるアルミナセメントの発現強度は、水/セメント比の影響を大きく受けることから、減水効果を有する流動化剤を使用して水/水硬性成分比を小さくすることが特に好ましい。
流動化剤としては、減水効果を合わせ持つ、メラミンスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物、カゼイン、カゼインカルシウム、ポリエーテル系等、ポリエーテルポリカルボン酸などの市販の流動化剤が、その種類を問わず使用でき、特にポリエーテル系等、ポリエーテルポリカルボン酸などの市販の流動化剤が好ましい。
流動化剤は、使用する水硬性成分に応じて、特性を損なわない範囲で適宜添加することができ、水硬性成分100質量部に対して好ましくは0.01〜2.0質量部、さらに好ましくは0.02〜1.0質量部、特に好ましくは0.05〜0.5質量部を配合することができる。添加量が余り少ないと好適な効果(優れた流動性と高い硬化体強度)を発現せず、また添加量が多すぎても添加量に見合った効果は期待できず単に不経済であるだけでなく、場合によっては粘稠性も大きくなり所要の流動性を得るための混練水量が増大して強度性状が悪化する場合が考えられる。
【0030】
凝結調整剤は、使用する水硬性成分やセルフレベリング材の構成成分に応じて、特性を損なわない範囲で適宜添加することができ、凝結遅延剤及び凝結促進剤の成分、添加量及び混合比率を適宜選択して、セルフレベリング材の可使時間と速硬性・速乾性とを調整することができ、セルフレベリング材としての使用が非常に容易になるため好ましい。
【0031】
凝結遅延剤としては、公知の凝結遅延剤を用いることが出来る。凝結遅延剤の一例として、硫酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム類(酒石酸一ナトリウム、酒石酸二ナトリウム)、リンゴ酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム類、グルコン酸ナトリウムなどの有機酸など、無機ナトリウム塩や有機ナトリウム塩などのナトリウム塩、オキシカルボン酸類などを、それぞれの成分を単独で又は2種以上の成分を併用して用いることが出来る。
【0032】
オキシカルボン酸類は、オキシカルボン酸及びこれらの塩を含む。
オキシカルボン酸としては、例えばクエン酸、グルコン酸、酒石酸、グリコール酸、乳酸、ヒドロアクリル酸、α−オキシ酪酸、グリセリン酸、タルトロン酸、リンゴ酸などの脂肪族オキシ酸、サリチル酸、m−オキシ安息香酸、p−オキシ安息香酸、没食子酸、マンデル酸、トロパ酸等の芳香族オキシ酸等を挙げることができる。
オキシカルボン酸の塩としては、例えばオキシカルボン酸のアルカリ金属塩(具体的にはナトリウム塩、カリウム塩など)、アルカリ土類金属塩(具体的にはカルシウム塩、バリウム塩、マグネシウム塩など)などを挙げることができる。
特に重炭酸ナトリウムや酒石酸二ナトリウムは、凝結遅延効果、入手容易性、価格の面から好ましい。
【0033】
凝結遅延剤は、1種または2種類以上を用いる場合、それぞれの凝結遅延剤の添加量が水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.01〜1.5質量部であり、より好ましくは0.1〜1.2質量部、さらに好ましくは0.2〜1.0質量部、特に好ましくは0.25〜0.8質量部の範囲で用いることにより好適な流動性が得られる可使時間(ハンドリングタイム)を確保できることから好ましい。
【0034】
凝結促進剤としては、公知の凝結を促進する成分を用いることが出来、例えば、凝結促進効果を有するリチウム塩を好適に用いることが出来る。
リチウム塩の一例として、炭酸リチウム、塩化リチウム、硫酸リチウム、硝酸リチウム、水酸化リチウムなどの無機リチウム塩や、酢酸リチウム、酒石酸リチウム、リンゴ酸リチウム、クエン酸リチウムなどの有機酸有機リチウム塩などのリチウム塩を用いることが出来る。特に炭酸リチウムは、凝結促進効果、入手容易性、価格の面から好ましい。
【0035】
凝結促進剤としては、特性を妨げない粒径を用いることが好ましく、粒径は50μm以下にするのが好ましい。
特にリチウム塩を用いる場合、リチウム塩の粒径は50μm以下、さらに30μm以下、特に10μm以下が好ましく、粒径が上記範囲より大きくなるとリチウム塩の溶解度が小さくなるために好ましくなく、特に顔料添加系では微細な多数の斑点として目立ち、美観を損なう場合がある。
【0036】
凝結促進剤は、水硬性成分100質量部に対して、
好ましくは0.01〜1質量部であり、より好ましくは0.01〜0.5質量部、さらに好ましくは0.02〜0.3質量部、特に好ましくは0.02〜0.2質量部の範囲で用いることによって、セルフレベリング材の可使時間を確保したのち好適な速硬性・速乾性が得られることから好ましい。
【0037】
増粘剤は、ヒドロキシエチルメチルセルロースを含み、ヒドロキシエチルメチルセルロースを除く他のセルロース系、蛋白質系、ラテックス系、及び水溶性ポリマー系などの増粘剤を併用して用いることが出来る。
増粘剤の添加量は、本発明の特性を損なわない範囲で添加することができ、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.001〜2質量部、さらに好ましくは0.005〜1.5質量部、より好ましくは0.01〜1質量部、特に0.05〜0.8質量部含むことが好ましい。増粘剤の添加量が多くなると、モルタル粘度が増加して流動性の低下を招く恐れがあるために上記の好ましい範囲で用いることが好ましい。
【0038】
増粘剤及び消泡剤を併用して用いることは、水硬性成分や細骨材などの骨材分離の抑制、気泡発生の抑制、硬化体表面の改善に好ましい効果を与え、セルフレベリング材の硬化物の特性を向上させる上で好ましい。
【0039】
消泡剤は、シリコン系、アルコール系、ポリエーテル系などの合成物質又は植物由来の天然物質など、公知のものを1種あるいは2種以上を組み合わせて用いることが出来る。
消泡剤の添加量は、本発明の特性を損なわない範囲で添加することができ、1種類の消泡剤を用いる場合、水硬性成分100質量部に対して、
好ましくは0.001〜3.0質量部、さらに好ましくは0.005〜2.5質量部、より好ましくは0.01〜2.0質量部、特に0.02〜1.7質量部含むことが好ましい。消泡剤の添加量は、上記範囲内が、好適な消泡効果が認められるために好ましい。
また、2種類以上の消泡剤を併用する場合の消泡剤の添加量は、それぞれの消泡剤の添加量が水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.001〜2質量部、さらに好ましくは0.005〜1.5質量部、より好ましくは0.01〜1.3質量部、特に0.02〜1.1質量部含むことが好ましい。消泡剤の添加量は、上記範囲内が、好適な消泡効果が認められるために好ましい。
【0040】
セルフレベリング材を構成する場合に、特に好適な成分構成は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分、粉末樹脂、無機成分、珪砂などの細骨材、流動化剤、増粘剤、消泡剤及び凝結調整剤を含むものである。
【0041】
水硬性成分及び粉末樹脂、無機成分、細骨材、流動化剤、増粘剤、消泡剤及び凝結調整剤などを混合機で混合し、セルフレベリング材のプレミックス粉体を得ることができる。
【0042】
セルフレベリング材のプレミックス粉体は、所定量の水と混合・攪拌して、スラリー状のセルフレベリング性を有するスラリー(モルタル)を製造することができ、そのスラリーを硬化させてセルフレベリング材の硬化体を得ることができる。
施工面積が大きい現場では、図5に示すセルフレベリング材を貯蔵するタンクを備えたセルフレベリング材スラリー調製・施工用トラックを使用することが好ましく、セルフレベリング材のスラリーを連続的に調製して、施工箇所へ連続的に供給して施工できることから、施工効率および施工品質の観点からさらに優れたセルフレベリング材硬化体を得ることが出来る。
セルフレベリング材スラリー調製・施工用トラックを好適に適用できる施工面積としては、好ましくは100m以上の施工面積を有する現場、さらに好ましくは200m以上の施工面積を有する現場、より好ましくは400m以上の施工面積を有する現場、特に好ましくは500m以上の施工面積を有する現場である。このような大面積の現場にセルフレベリング材スラリーを施工する場合に、前記トラックを用いることで施工効率の高さが顕著となり、次工程である張り床材の施工への移行期間を大幅に短縮することが出来る。
【0043】
セルフレベリング材は、水と混合・攪拌してスラリー(モルタル)を製造することができ、水の添加量を調整することにより、スラリー(モルタル)の流動性、可使時間、材料分離性、スラリー(モルタル)硬化体の強度などを調整することができる。
本発明で用いるセルフレベリング材スラリーは、セルフレベリング材(S)と水(W)とを質量比(W/S)が好ましくは0.16〜0.28の範囲、さらに好ましくは0.18〜0.26の範囲、より好ましくは、0.19〜0.25の範囲、特に好ましくは0.20〜0.24の範囲になるように配合して混練することが好ましい。
【0044】
本発明で使用するセルフレベリング材は、水と混合して調製したセルフレベリング性(自己流動性)を有するスラリー(モルタル)のフロー値が、好ましくは190〜270mm、さらに好ましくは200〜260mm、特に好ましくは210〜255mmに調整されていることが、施工の容易さ及び平滑性の高い硬化体表面を得られやすいという理由により好ましい。
【0045】
セルフレベリング材スラリーの施工厚さは、コンクリート床スラブ表面の凹凸状態やスラブ面の傾斜状態によって異なり、個々の施工現場毎に適宜厚さを設定することができ、床スラブ面の最も凸部分上面を基準にして、好ましくは施工厚さ2mm〜70mmの範囲、さらに好ましくは施工厚さ2mm〜50mmの範囲、より好ましくは施工厚さ2mm〜40mmの範囲、特に好ましくは施工厚さ2mm〜30mmの範囲で流し込み施工することが好ましい。
セルフレベリング材スラリーを床スラブ面の最も凸部分上面を基準にして2mm〜5mmの高さまで薄く施工する場合は、前記スラリーを流し込み施工しながら、スパイクローラー、とんぼ、コテなどを用いてスラリーを均等に広げる操作を行い、床スラブ全体に薄層で高い水平レベルの前記スラリーを形成することが好ましい。
セルフレベリング材スラリーを床スラブ面の最も凸部分上面を基準にして5mm〜70mmの高さまで厚く施工する場合には、前記スラリーを流し込み施工しながら、とんぼなどを用いてスラリーが均等に広がるように補助的な操作を行い、床スラブ全体に厚層で高い水平レベルの前記スラリーを形成することが好ましい。
【0046】
本発明で用いるセルフレベリング材スラリーは、良好な施工性を確保するために充分な可使時間(ハンドリングタイム)を有している。
セルフレベリング材スラリーの可使時間は、スラリー調製から好ましくは60分間であり、さらに好ましくは50分間であり、特に好ましくは40分間である。
【0047】
セルフレベリング材スラリーは、施工場所の温度や湿度の条件にもよるが、施工終了後1時間〜3時間の間に硬化を開始し、硬化の進行に伴って硬化体の表面硬度が上昇し、硬化体表面の含水量が低下する。
セルフレベリング材スラリー硬化体表面のショア硬度は、スラリーの打設(施工)から好ましくは6時間後に50以上、さらに好ましくは4時間後に50以上、より好ましくは3.5時間後に50以上、特に好ましくは3時間後に50以上であり、スラリー施工が終了した後、速やかに硬化が進行することによってセルフレベリング材スラリーの施工が完了する。
また、セルフレベリング材スラリー硬化体表面の含水量は、張り床材の施工に適した含水量である5%未満(D値が690未満)に到達するまでの時間(スラリーの打設からの経過時間)が、好ましくは12時間〜24時間であり、さらに好ましくは12時間〜22時間であり、より好ましくは12時間〜20時間であり、特に好ましくは12時間〜18時間である。
本発明で用いる速硬性・速乾性に優れたセルフレベリング材を用いることによって、速やかに良好な硬化状態と表面乾燥状態を得ることができ、次工程である張り床材の施工工程への移行が翌日には可能となる。
【0048】
セルフレベリング材スラリー硬化体の長さ変化率の膨張は、好ましくは0〜0.08%、さらに好ましくは0〜0.06%、特に好ましくは0〜0.05%の範囲であり、長さ変化率の収縮が好ましくは−0.08〜0%、さらに好ましくは−0.06〜0%、特に好ましくは−0.05〜0%の範囲であり、前記の膨張または収縮の特性を有するセルフレベリング材が、硬化体自体のクラック発生を防止でき、さらに下地となるコンクリート床及び上層に施工される張り床材との間で高い接着力を保持できることから好ましい。
また、上記の長さ変化率の範囲を外れた場合には、セルフレベリング性スラリーの硬化体の硬化収縮によってクラックが生じることがあり、そのクラックを介して下地のコンクリート床の離脱水分が拡散して、上層の張り床材層に膨れが生じることがあるため好ましくない。
【0049】
本発明で用いる張り床材は、張り床材用プライマー層、張り床材用接着剤層および張り床材用仕上げ材層から構成される。
本発明で用いる張り床材用仕上げ材の種類としては、要求される特性に応じてプラスチック床、カーペット床、リノリウム床、ゴム床、木質床、石材床、セラミックス床から適宜選択して用いることができる。
【0050】
本発明で用いる張り床材用プライマー層は、張り床材の下地との付着性向上や下地表面の強化のために用いられる。
本発明で用いる張り床材用プライマーは、溶剤形エポキシ樹脂系、無溶剤形エポキシ樹脂系、水性形エポキシ樹脂系、溶剤形ウレタン樹脂系、無溶剤形ウレタン樹脂系、湿気硬化形ウレタン樹脂系、メタクリル樹脂系、溶剤形アクリル樹脂系、水性形アクリル樹脂系、水性形酢酸ビニル樹脂系、水性形エチレン酢酸ビニル樹脂系等を用いることができる。特に、本発明では、溶剤形エポキシ樹脂系、無溶剤形エポキシ樹脂系、水性形エポキシ樹脂系等のエポキシ樹脂系張り床材用プライマーを好適に用いることができる。
本発明で用いる張り床材用プライマーの施工は、各張り床材メーカーの施工要領書に準拠し、はけやローラーあるいはコテを適宜選択して使用することが出来る。
本発明で用いる張り床材用プライマーは、好ましくは5〜300g/mの範囲、さらに好ましくは10〜250g/mの範囲、より好ましくは20〜200g/mの範囲、特に好ましくは30〜100g/mの範囲で塗布施工することにより、適正に張り床材の下地との付着性向上がはかれ、また下地表面を強化できることから好ましい。
【0051】
本発明で使用する張り床材用接着剤は、張り床材用仕上げ材と張り床の下地材(張り床材用プライマー層を設けたセルフレベリング材硬化体層)を接着するために用いられる。
本発明で用いる張り床材用接着剤は、溶剤形エポキシ樹脂系、無溶剤形エポキシ樹脂系、水性形エポキシ樹脂系、溶剤形ウレタン樹脂系、無溶剤形ウレタン樹脂系、湿気硬化形ウレタン樹脂系、メタクリル樹脂系、溶剤形アクリル樹脂系、水性形アクリル樹脂系、溶剤形ゴム系、非溶剤形ゴム系、溶剤形酢酸ビニル樹脂系、無溶剤形酢酸ビニル系、水性形酢酸ビニル樹脂系、溶剤形ビニル共重合樹脂系、無溶剤形ビニル共重合樹脂系、水性形エチレン酢酸ビニル樹脂系等を用いることができる。特に、本発明では、溶剤形エポキシ樹脂系、無溶剤形エポキシ樹脂系、水性形エポキシ樹脂系等のエポキシ樹脂系張り床材用接着剤を好適に用いることができる。
本発明で用いる張り床材用接着剤の施工は各張り床材メーカーの施工要領書に準拠し、クシゴテ、ローラーあるいははけを適宜選択して使用することが出来る。
【0052】
本発明で用いる張り床材用仕上げ材は、プラスチック床、カーペット床、リノリウム床、ゴム床、木質床等の張り床材用仕上げ材を用いることができる。
また、本発明で用いる張り床材用仕上げ材は、抗菌剤を含むあるいは抗菌加工されたプラスチック床、カーペット床、リノリウム床、ゴム床、木質床等の張り床材用仕上げ材を好適に用いることができる。
プラスチック床としては、ホモジニアスビニル床タイル、半硬質コンポジションビニル床タイル、軟質コンポジションビニル床タイル、ピュアビニル床タイル、レジンテラゾータイル、ビニル床シート、織布ビニル床シート、不織布ビニル床シート、織布積層ビニル床シート、不織布積層ビニル床シート、積層ビニル床シート、織布積層発砲ビニル床シート、不織布積層発泡ビニル床シート、積層発泡ビニル床シート、不織布積層印刷発泡ビニル床シート、積層印刷発泡ビニル床シート等を用いることができ、特に耐動荷重性、耐薬品性及び耐摩耗性に優れる塩化ビニル系シートや塩化ビニル系タイルを好適に用いることができる。
また、カーペット床としては、カーペットタイル、ロールカーペット等を用いることができ、リノリウム床としては、リノリウム床タイル、リノリウム床シート等を用いることができる。さらに、ゴム床としては、ゴム床タイル、ゴム床シート等を用いることができ、木質床としては、フローリングボード、フローリングブロック等を用いることができる。
【0053】
本発明で用いる張り床材用仕上げ材の厚さは、コンクリート床の用途毎に求められる機能と、用いられる張り床材用仕上げ材の材質に応じて適宜選択され、好ましくは1〜10mmの厚さを有すること、さらに好ましくは1.2〜8mmの厚さを有すること、より好ましくは1.3〜5mmの厚さを有すること、特に好ましくは1.5〜3mmの厚さを有することが、セルフレベリング材を用いて形成した高い平面性を活かして、張り床材用仕上げ材が強固に接着した耐久性能に優れた張り床仕上げコンクリート構造体が得られることから好ましい。張り床材用仕上げ材の厚さが上記範囲より小さい場合、張り床仕上げコンクリート構造体の充分な耐久特性が得られ難くなり、上記範囲より大きくなっても耐久性能の向上ははかれず経済性の観点から好ましくない。
【0054】
本発明で用いる張り床材用仕上げ材として、特に耐荷重性が要求されるコンクリート床に施工される塩化ビニル製の耐荷重性に優れる張り床材用仕上げ材を好適に用いることができる。
塩化ビニル製の耐荷重性張り床材用仕上げ材の厚さは、好ましくは1〜10mmの厚さを有すること、さらに好ましくは1.2〜8mmの厚さを有すること、より好ましくは1.3〜5mmの厚さを有すること、特に好ましくは1.5〜3mmの厚さを有することが、セルフレベリング材を用いて形成した高い平面性を活かして、張り床材用仕上げ材が強固に接着した耐久性能に優れた張り床仕上げコンクリート構造体が得られることから好ましい。耐荷重性張り床材用仕上げ材の厚さが上記範囲より小さい場合、張り床仕上げコンクリート構造体の充分な耐久特性が得られ難くなり、上記範囲より大きくなっても耐久性能の向上ははかれず経済性の観点から好ましくない。
【0055】
また、本発明で用いる張り床材用仕上げ材としては、床面に静電気が帯電して精密電気機器などの誤動作を回避できることから帯電防止性を有する張り床材用仕上げ材を好ましく用いることができる。
帯電防止性を有する張り床材用仕上げ材としては、JIS K 6911の電気抵抗に準拠して測定した張り床材用仕上げ材の表面抵抗値が、好ましくは5×10Ω以下、さらに好ましくは3×10Ω以下、より好ましくは1.5×10Ω以下、特に好ましくは1×10Ω以下のものを好適に使用でき、張り床材用仕上げ材の体積抵抗値は、好ましくは1×10Ω以下、さらに好ましくは8×10Ω以下、より好ましくは6×10Ω以下、特に好ましくは5×10Ω以下のものを好適に使用することができる。帯電防止性を有する張り床材用仕上げ材の表面抵抗値および体積抵抗値が前記範囲である場合、病院や工場などで精密電気機器や精密測定器を配置して業務を行った場合にも、床面に静電気が滞留しないため静電気による計測事故や装置の誤動作などを回避することができる。
本発明で用いる張り床材用仕上げ材の施工は、各張り床材メーカーの施工要領書に準拠し、ローラーあるいは転圧ローラー等を適宜選択して使用することが出来る。
【0056】
本発明のコンクリート床構造体の施工方法において、特に好ましい組合せとしては、アルミナセメントを含む水硬性成分と粉末樹脂とを含む、水平レベル形成性に優れたセルフレベリング材を用いて張り床仕上げの下地層を構成し、張り床仕上げ材として、耐荷重性および耐薬品に優れる塩化ビニル製で、さらに帯電防止性と抗菌性とを有する張り床材用仕上げ材を用いることが好ましい。
上記の組合せにより得られる張り床仕上げコンクリート床構造体は、優れた水平レベル性による良好な供用性と、卓越した耐久性とを有するのみならず、床面が帯電することによる静電気に起因する事故を回避できる特性を有しており、病院床や工場床などに求められる機能を不足なく提供することができる。
【実施例】
【0057】
以下、本発明について実施例に基づいて詳細に説明する。但し、本発明は下記の実施例により制限されるものでない。
【0058】
(特性の評価方法)
(1)セルフレベリング材スラリーの流動性評価:
・フロー値の測定法:
JASS・15M−103に準拠して測定する。厚さ5mmのみがき板ガラスの上に内径50mm、高さ51mmの樹脂製パイプ(内容積100ml)を設置し、練り混ぜたセルフレベリング材スラリーを樹脂製パイプの上端まで充填した後、パイプを鉛直方向に引き上げる。スラリーの広がりが静止した後、直角2方向の直径を測定し、その平均値をフロー値とし、スラリーの流動性を評価する。
・SL値の測定方法:
SL値は、図6に示すSL測定器を使用し、幅30mm×高さ30mm×長さ750mmのレールに、先端より長さ150mmのところに堰板を設け、混練直後のスラリーを所定量満たして成形する。成形直後に堰板を引き上げて、スラリーの流れの停止後に、標点(堰板の設置部)からスラリー流れの最短部までの距離を測定し、その値(SL値)をL0とし、堰板より200mm流れる時間を測定し、その測定時間をSL流動速度(L0)(秒/200mm)とする。
同様に成形後20分又は30分後に堰板を引き上げて、スラリーの流れの停止後に、標点(堰板の設置部)からスラリー流れの最短部までの距離を測定し、その値(SL値)をL20又はL30とし、堰板より200mm流れる時間を測定してその測定時間をそれぞれSL流動速度(L20、L30)(秒/200mm)とする。
・評価条件は、温度20℃、湿度65%の環境下で行う。
【0059】
(2)セルフレベリング材スラリー硬化体の長さ変化の評価:
・長さ変化率の測定は、図7に示す装置を用いる。長さ変化率の測定は、混練直後のスラリーを型内部の型枠の高さまで打設し、打設直後より長さ変化の測定を開始し、測定間隔は5分毎で行い、材齢28日まで測定する。測定条件は、20℃、RH65%の気中で行う。
セルフレベリング材スラリーの硬化時の長さ変化率は、図7(a)に示すSUS製円盤75bと変位センサー74の端部(SUS製円盤75b側の端部)との間隔の変化量(mm)を、SUS製円盤75aとSUS製円盤75cとの間隔(480mm)で除した値とする。
図8、図9及び図10は、セルフレベリング材スラリーが硬化する過程の試料の長さ変化の一例を模式的に表した図である。
図8では、測定試料の材齢0日(a点)を基長として、硬化と共に膨張し、b点で最も膨張し、その後次第に収縮し、材齢28日(c点)の長さとなる。数式(1)〜数式(3)において、Bはa点の試料の長さであり、Cはb点の試料の長さであり、Aはc点の試料の長さである。
図9では、測定試料の材齢0日(a点)を基長として、硬化と共に膨張することなく、次第に収縮し、材齢28日(c点)の長さとなる。数式(1)〜(3)において、BとCはa点の試料の長さであり、Aはc点の試料の長さである。
図10では、測定試料の材齢0日(a点)を基長として、硬化と共に収縮することなく、次第に膨張し、材齢28日(c点)の長さとなる。数式(1)〜(3)において、Bはa点の試料の長さであり、AとCはc点の試料の長さである。
【0060】
・長さ変化率の測定法:図7に示す装置を用いて測定し、下記数式(1)に従い、長さ変化率を算出する。
測定試料は、セルフレベリング材スラリーを型詰めし、打設直後を材齢0日とする。測定条件は、20℃、RH65%の気中で行う。
長さ変化率の(−)は収縮を意味し、(+)は膨張を意味する。
【0061】
【数1】

・長さ変化率の収縮の測定法:図7に示す装置を用いて、長さ変化率の測定法で作製した測定試料を用いて測定する。長さ変化率の膨張は、試料の最も膨張したときの試料の長さ(C)であり、数式(2)に従い、算出する。
【0062】
【数2】

・長さ変化率の収縮の測定法:図7に示す装置を用いて、長さ変化率の測定法で作製した測定試料を用いて測定する。長さ変化率の収縮は、試料の最も膨張したときの長さを基長として、数式(3)に従い、算出する。
【0063】
【数3】

【0064】
(3)セルフレベリング材スラリー硬化体の表面特性の評価:
・ショア硬度の測定法:セルフレベリング材スラリー流し込み後から所定の経過時間において、硬化した表面にスプリング式硬度計タイプD型(上島製作所製)を用いて任意の3〜5カ所に垂直に押し付ける。その時のスプリング式硬度計タイプD型のゲージの読み取り値の平均値をその時間のショア硬度とし表面硬度を評価する。
・引っかき強さの測定法:セルフレベリング材スラリー流し込み後から所定の経過時間において、硬化した表面を引っかき試験器(日本建築仕上学会式日本塗り床工業会認定品)を用いて任意の3〜5カ所に、定規に沿って2cm/秒の速さで約10cmの長さの引っかき傷をつける。荷重1.0kgでの引っかき傷幅をクラックスケールおよびルーペを用いて測定し、その時間の引っかき強さとし表面硬度を評価する。
・硬化体表面の水分量
セルフレベリング材スラリー流し込み後から所定の経過時間において、コンクリート・モルタル水分計(ケット科学研究所社製)を用いて、硬化した表面の水分量(D値)を測定する。日本床施工技術研究協議会の「コンクリート床下地表層部の諸品質の測定方法、グレード」に基づき、測定値D値(HI−500)が690未満となった場合に、5%未満の水分量であると判定する。
・硬化体表面の性状:
スラリー硬化体表面の性状は、セルフレベリング材スラリーを、13cm×19cmの樹脂製の型枠へ厚さ10mmで流し込んで硬化させ、材齢24時間時点で、粉化及び微細な凹凸の有無を目視で観察することで評価した。評価は以下の通りとする。
評価条件は、温度20℃、湿度65%の環境下で行う。
○:無し、×:有り。
【0065】
(4)セルフレベリング材スラリー硬化体の圧縮強度(N/mm)および曲げ強度(N/mm)の評価:
・JIS・R−5201に示される4×4×16cmの型枠に生成モルタルを型詰めして、温度20℃、湿度65%で24時間気中養生した後、脱型し、さらに気中で所定期間(7日、28日)追加養生して成型体を得る。成型体は、JIS・R−5201記載の方法に従い測定する。
【0066】
(5)剥離接着強さの評価:
・剥離接着強さの測定法:
JIS K 6854の接着剤−剥離接着強さ試験方法に準拠して測定する。セルフレベリング材スラリー流し込み後から材齢14日後のセルフレベリング材スラリー硬化体層の上に、張り床材用プライマー層を設け、その上面に張り床剤用接着剤を施工し、張り床材用接着剤の塗布層の上面に幅25mm、長さ200mmの張り床材用仕上げ材を5枚敷設してハトメ鋲の無い端から160mmの部分を接着させ、仕上げ材層を設ける。材齢7日後に張り床材用仕上げ材の周囲に沿ってカッターナイフ等でセルフレベリング材スラリー硬化体層に達するまで切り込みを入れて縁を切る。接着剤層の無い張り床用仕上げ材のハトメ鋲部分をデジタルフォースゲージ(イマダ製)のジグに取り付けて、張り床用仕上げ材が1分間に100mm剥離するように垂直方向へ引っ張り荷重を加え、張り床用仕上げ材が160mm剥離するまで引っ張りを行なう。測定データは1秒間に1000個記録され、図11に示す引っ張り荷重曲線が得られる。最初の25mmおよび最後の20mmのデータを除き、25mmから140mmまでの記録された引っ張り荷重データを平均し、1回の剥離接着強さ(N/25mm幅)とし5回繰り返した平均値を剥離接着強さとして評価する。
【0067】
(使用材料):以下の材料を使用した。
1)セルフレベリング材用プライマー : 宇部興産社製、UプライマーG、プライマー中の樹脂成分(固形分)=45%。
2)セルフレベリング材 : 下記の原材料を表1に示す配合割合で混合したセルフレベリング材を使用した。
・アルミナセメント : フォンジュ、ケルネオス社製、ブレーン比表面積3100cm/g。
・ポルトランドセメント : 早強セメント、宇部三菱セメント社製、ブレーン比表面積4500cm/g。
・石膏 : II型無水石膏、セントラル硝子社製、ブレーン比表面積3460cm/g。
・細骨材 : 珪砂:6号珪砂。
・無機成分 : 高炉スラグ微粉末、リバーメント、千葉リバーメント社製、ブレーン比表面積4400cm/g。
・粉末樹脂 : 酢酸ビニル/バーサチック酸ビニルエステル/アクリル酸エステルの共重合体、ニチゴー・モビニール社製、DM2071P。
・凝結調整剤a : 重炭酸ナトリウム、東ソー社製。
・凝結調整剤b : L−酒石酸二ナトリウム、扶桑化学工業社製。
・凝結調整剤c : 炭酸リチウム、本荘ケミカル社製。
・流動化剤 : ポリカルボン酸系流動化剤、花王社製。
・増粘剤 : ヒドロキシエチルメチルセルロース系増粘剤、マーポローズMX−30000、松本油脂社製。
・消泡剤a : ポリエーテル系消泡剤、サンノプコ社製。
・消泡剤b : ポリエーテル系消泡剤、ADEKA社製。
3)張り床材用プライマー : エポキシ系、荷重床プライマー、タジマ社製。
4)張り床材用接着剤 : エポキシ系、セメントEP30、タジマ社製。
5)張り床材用仕上げ材 : ビニル床シート(抗菌性・塩化ビニル系耐荷重性塩ビシート)、表面抵抗値:7.2×10Ω以下、体積抵抗値:1.9×10Ω以下、厚さ=2mm、抗菌移動荷重用フロア KD−170、タジマ社製。
【0068】
(セルフレベリング材のスラリー調製)
室温20℃、相対湿度65%の条件下で、表1に示す配合割合で調製したセルフレベリング材と水とを、実施例1及び参考例2についてはセルフレベリング材100質量部に対して水22質量部の割合でそれぞれ配合し、参考例1についてはセルフレベリング材100質量部に対して水26質量部の割合で配合し、回転数650rpmのケミスターラーを用いて3分間混練して、セルフレベリング材スラリーを調製した。
【0069】
(張り床材用プライマーの調製)
室温20℃、相対湿度65%の条件下で、張り床材用エポキシ系プライマーのA液100質量部に対してB液50質量部の割合で配合し、回転数650rpmのケミスターラーを用いて3分間混練して、張り床材用エポキシ系プライマーを調製した。
(張り床材用接着剤の調製)
室温20℃、相対湿度65%の条件下で、張り床材用エポキシ系接着剤のA剤100質量部に対してB剤100質量部の割合で配合し、回転数650rpmのケミスターラーを用いて3分間混練して、張り床材用エポキシ系接着剤を調製した。
(張り床材用仕上げ材の調製)
室温20℃、相対湿度65%の条件下で、張り床材用仕上げ材を幅25mm、長さ200mmの短冊状に切り出し、長手方向の片側端から15mmの部分にハトメ鋲を取り付け、張り床材用仕上げ材を調製した。
【0070】
[実施例1、参考例1〜2]
表1に示す成分を配合したセルフレベリング材を用いてセルフレベリング材スラリーを調製した。スラリーの流動性(フロー値、SL値)の測定結果を表2に示す。
【0071】
室温20℃、相対湿度65%の条件下で、JIS・A5304舗装用コンクリート平板に規定する300mm×300mm×60mmのコンクリート平板にセルフレベリング材用プライマーの3倍液(原液150gに水300gを加えて調製)を450g/m塗布して乾燥した。プライマー造膜後、セルフレベリング材スラリーを施工厚さが10mmになるよう流し込んで硬化させ、セルフレベリング材スラリー硬化体層を得た。スラリー硬化体の表面硬度(ショア硬度)、引っかき強さ、表面水分量及び表面性状を評価した結果を表3に示す。
【0072】
また、参考例1および実施例1の配合のセルフレベリング材スラリーを、JIS・R−5201に示される4×4×16cmの型枠に型詰めして、長さ変化率、圧縮強度及び曲げ強度測定のための供試体を得た。スラリー硬化体の長さ変化率、圧縮強度及び曲げ強度を評価した結果を表3に示す。
【0073】
[実施例2〜3、参考例3〜4、比較例1]
JIS・A5304舗装用コンクリート平板にセルフレベリング材用プライマーを塗布・乾燥してプライマー層が造膜した後、セルフレベリング材スラリーを施工厚さが10mmになるよう流し込んで硬化させ、JASS 15 M−103(セルフレベリング材の品質基準)に記載の表面接着試験用供試体の規定にしたがって、材齢14日間養生してセルフレベリング材スラリー硬化体層を得た。次に、セルフレベリング材スラリー硬化体層の上に張り床材を施工し、7日間養生して剥離接着試験用の張り床仕上げコンクリート構造体の供試体を得た。
【0074】
タジマ社製のビニル系張り床材の施工は以下に示す方法で行った。
[実施例2、参考例3〜4]
張り床材用プライマーを200g/mになるよう刷毛を用いて塗布・乾燥してプライマー層を造膜後、張り床材用接着剤を360g/mになるようクシゴテを用いて施工して接着剤層を設けた。張り床材用接着剤層の上に張り床材用仕上げ材を敷設して転圧ローラーを用いて接着させ、仕上げ材を設けた。
【0075】
[実施例3]
張り床材用プライマーを65g/mになるよう刷毛を用いて塗布・乾燥してプライマー層を造膜後、張り床材用接着剤を360g/mになるようクシゴテを用いて施工して接着剤層を設けた。張り床材用接着剤層の上に張り床材用仕上げ材を敷設して転圧ローラーを用いて接着させ、仕上げ材を設けた。
【0076】
[比較例1]
張り床材用プライマーを施工せず、張り床材用接着剤を360g/mになるようクシゴテを用いて施工して接着剤層を設けた。張り床材用接着剤層の上に張り床材用仕上げ材を敷設して転圧ローラーを用いて接着させ、仕上げ材を設けた。
【0077】
張り床仕上げコンクリート構造体の供試体について、剥離接着強さ試験を行った結果を表4に示す。
【0078】
【表1】

【0079】
【表2】

【0080】
【表3】

【0081】
【表4】

【0082】
(1)参考例1および参考例2のセルフレベリング材は、スラリーの流動特性が優れるとともに、水硬性成分100質量%中にアルミナセメントを44質量%含むことから良好な速硬性を示し、スラリー施工後6時間でそれぞれショア硬度66およびショア硬度76が得られている。(ショア硬度45以上の場合、硬化体層の上に作業者が乗ることが可能)
(2)実施例1のセルフレベリング材は、スラリーの流動特性において、フロー値、SL値ともに参考例1および参考例2とほぼ同等の流動性を示し、スラリー流動速度については参考例1および参考例2以上に良好な特性が得られている。さらに、硬化体表面の引っかき強さについても参考例1および参考例2を上回る強さを示している。また、硬化体表面の水分量については、スラリー施工後24時間で、張り床材を好適に施工できるとされる水分量5%未満を満足し、極めて優れた速硬性・速乾性を示している。
スラリー硬化体の収縮率についても参考例1よりも小さい値を示し、硬化体表面の仕上りについても参考例1および参考例2と同等の良好な性状が得られている。
さらに、スラリー硬化体の圧縮強度および曲げ強度についても参考例1を凌ぐ強度特性が得られている。
(3)セルフレベリング材スラリー硬化体の上面に張り床材を施工した供試体に関する剥離接着強さ試験結果では、実施例2は参考例3および参考例4を上回る剥離接着強さが得られている。さらに、張り床材用プライマー塗布量を減らした(65g/m)実施例3は実施例2を上回る剥離接着強さが得られ、より優れた特性を示している。また、張り床材用プライマーを施工しない(0g/m)比較例1は実施例および参考例を下回る剥離接着強さを示した。
【0083】
本発明のセルフレベリング材と張り床材とを組合せたコンクリート床構造体の施工方法によれば、多種多様の凹凸や傾斜を有するコンクリート床の上面に、セルフレベリング材スラリーを施工・硬化させて優れた水平レベルを有する下地層を形成した後に張り床材を施工するため、張り床材の仕上り面もまた優れた水平レベルを有し、良好な供用性と美観が得られる。
また、本発明ではアルミナセメントを適正量含むことで速硬性・速乾性に優れ、優れた水平レベル性を有する床面を形成できるセルフレベリング材を用いることによって、従来セルフレベリング材の硬化体層の含水率が5%未満(D値が690未満)に低下するまで数日から1週間の期間かかっていたが、極めて効率的に且つ安定的に張り床下地を施工することが可能である。
さらに、本発明のセルフレベリング材と張り床材とを組合せた高い水平レベル性を有するコンクリート構造体は、高強度の特性を有することから床構造体として優れた耐久特性が得られるものである。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】コンクリート床に張り床材を施工した床構造体の部分断面図の一例である。
【図2】コンクリート床に張り床材を施工した床構造体の部分断面図の一例である。
【図3】コンクリート床に張り床材を施工した床構造体の部分断面図の一例である。
【図4】コンクリート床にセルフレベリング材を施工し、張り床材を施工した床構造体の部分断面図の一例である。
【図5】セルフレベリング材の貯蔵タンクを搭載し、セルフレベリング材スラリーを調製・施工できるトラックの一例を示す模式図である。
【図6】SL測定器を用いて水硬性スラリーのセルフレベリング性を評価する概略を示す模式図である。
【図7】セルフレベリング材が硬化する過程の長さ変化を測定する装置の模式図である。
【図8】セルフレベリング材の硬化時の長さ変化の一例を示す模式図である。
【図9】別のセルフレベリング材の硬化時の長さ変化の一例を示す模式図である。
【図10】別のセルフレベリング材の硬化時の長さ変化の一例を示す模式図である。
【図11】剥離接着強さ試験の引っ張り荷重曲線の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0085】
10 : コンクリートスラブ
11 : コンクリート床
12 : 張り床材
13 : 張り床材用プライマー層
14 : 張り床材用接着剤層
15 : 張り床材用仕上げ材
16 : 張り床仕上げを施した床表面
17 : 小さな凹凸
18 : (微妙な)傾斜
19 : 接着剤層と仕上げ材との隙間
20 : 合成樹脂系補修材
30 : コンクリートスラブ
31 : コンクリート床
32 : 小さな凹凸
33 : (微妙な)傾斜
34 : セルフレベリング材用プライマー
35 : セルフレベリング材スラリー
36 : セルフレベリング材スラリー硬化体
37 : 張り床材用プライマー層
38 : 張り床材用接着剤層
39 : 張り床材用仕上げ材
40 : 張り床仕上げを施した床表面
51 : セルフレベリング材スラリー調製・施工用トラック
52 : セルフレベリング材の供給口
53 : セルフレベリング材タンク
54 : セルフレベリング材スラリー
55 : 混練装置(ミキサー)
56 : ホッパー
57 : セルフレベリング材
58 : スクリューフィーダー
59 : 水タンク
60 : 水供給ポンプ
61 : 水供給パイプ
62 : セルフレベリング材スラリータンク
63 : スラリーポンプ
64 : スラリーホース
71 : 長さ変化測定装置
72 : 型枠
73 : 緩衝材
74 : 渦電流式変位センサー
75 : SUS製円盤(75a,75b,75c)
76 : SUS棒(76a,76b)
77 : フッ素樹脂シート
80 : 引っ張り荷重曲線
81 : 平均引っ張り荷重(剥離接着強さ)
82 : 評価範囲

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物のコンクリート床上面に、セルフレベリング材スラリー用プライマー層を設ける工程と、セルフレベリング材用プライマー層の上面にアルミナセメントと粉末樹脂とを含むセルフレベリング材と水とを混練して調製したスラリーを打設して硬化させる工程と、セルフレベリング材スラリー硬化体層の上面に張り床材用プライマー層を設ける工程と、張り床材用プライマー層の上面に張り床材用接着剤を塗布して張り床材用接着剤層を設ける工程と、張り床材用接着剤層の上面に張り床材用仕上げ材を敷設して接着させる工程とを含むことを特徴とするコンクリート床構造体の施工方法。
【請求項2】
セルフレベリング材は、アルミナセメント、ポルトランドセメント及び石膏からなる水硬性成分を含むことを特徴とする請求項1に記載のコンクリート床構造体の施工方法。
【請求項3】
セルフレベリング材は、水硬性成分と粉末樹脂とを含み、さらに無機粉末、細骨材、凝結調整剤、流動化剤、増粘剤及び消泡剤から選ばれる成分を少なくとも1種以上含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のコンクリート床構造体の施工方法。
【請求項4】
セルフレベリング材スラリー硬化体表面のショア硬度は、スラリーを打設(施工)したのち6時間後に50以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のコンクリート床構造体の施工方法。
【請求項5】
セルフレベリング材スラリー硬化体表面の水分量は、スラリー打設(施工)したのち24時間後に5%未満(D値=690未満)であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のコンクリート床構造体の施工方法。
【請求項6】
セルフレベリング材スラリー硬化体は、長さ変化率の膨張が0〜0.08%であり、長さ変化率の収縮が−0.08〜0%であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のコンクリート床構造体の施工方法。
【請求項7】
張り床材用仕上げ材は、塩化ビニル系張り床材であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のコンクリート床構造体の施工方法。
【請求項8】
張り床材用仕上げ材は、仕上げ材の厚さが1〜10mmであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のコンクリート床構造体の施工方法。
【請求項9】
張り床材用仕上げ材は、さらに帯電防止性を有することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のコンクリート床構造体の施工方法。
【請求項10】
張り床材用仕上げ材は、JIS K 6911の電気抵抗に準拠した表面抵抗値が5×10Ω以下、体積抵抗値が1×10Ω以下であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のコンクリート床構造体の施工方法。
【請求項11】
張り床材用仕上げ材は、耐動荷重性、耐薬品性、耐摩耗性、抗菌性を有することを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載のコンクリート床構造体の施工方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の施工方法により得られるコンクリート床構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−203790(P2009−203790A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−185183(P2008−185183)
【出願日】平成20年7月16日(2008.7.16)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】